説明

急性冠状動脈症候群のリスクを有する個体の識別のためのMRP8/14レベルの使用

本発明は、進行中の急性冠状動脈症候群(ACS)の少なくとも1つの症状を示す個体が急性冠状動脈症候群に罹患しているかどうかのリスクを判定するための方法であって、以下の工程:(a)MRP 8/14のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、(b)MRP 8/14のレベルが少なくとも上昇している場合には、該個体が、急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有する、を含む方法に関する。本発明は更に、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体がACSに罹患しているかどうかを排除する方法、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体が、ACSに罹患しているリスクを有しないかどうかを評価するための方法、ならびに進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体が、ACSに罹患しているリスクを有するおよび/またはACSを有しないかどうかを識別するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性冠状動脈症候群を診断するためのおよび/または進行中の急性冠状動脈症候群の少なくとも1つの症状を示す個体が急性冠状動脈症候群に罹患している可能性を排除するための、マーカーの新規使用に関する。さらに、本発明は、胸痛および/またはいずれかの関連臨床症状に罹患しているどの個体が急性冠状動脈症候群を有するのかを、心筋壊死のマーカーが検出可能となる前に医師が迅速に識別するのを助けるための、診断マーカーの新規使用を記載する。この診断マーカーの新規使用により、これらの個体は、転帰の改善につながる迅速かつ早期の治療により優先的に恩恵を受けるであろう。
【背景技術】
【0002】
冠状動脈心疾患(coronary heart disease)(CHD)は依然として西洋における最主要死亡原因である。
【0003】
冠状動脈心疾患は冠状動脈疾患(coronary artery disease)(CAD)およびアテローム硬化性心疾患とも呼ばれ、異なる治療および検査中の個体のそれぞれ異なる程度の監督を要する患者に関して異なるリスク率を示す幾つかの冠状動脈心臓事象を含む一般用語である。冠状動脈心疾患に罹患している個体は、臨床症状を示さない個体ならびに胸痛および他の症状、例えば息切れを示す個体に分類されうる。後者のグループは、安定型狭心症(SAP)を有する個体および急性冠状動脈症候群(ACS)を有する個体に分類されうる。ACS患者は不安定型狭心症(UAP)または心筋梗塞(MI)を示しうる。
【0004】
心筋血管供給を妨げる血管内および管腔内過程がCHDの広範な臨床的スペクトルに関連している。アテローム硬化性プラークの急性破裂はCADの重篤な合併症である。なぜなら、全冠状動脈閉塞ならびに死亡およびMIを含むACSのような主要臨床事象のリスクを伴う冠状動脈内血栓形成が生じうるからである(Fusterら, 1999)。最近、プラーク破裂の、考えられうる原因として、炎症が示唆された。これは、炎症マーカーが、心血管疾患の証拠を有しない患者における心血管事象の、独立した予測因子であるという観察により裏付けられている(Ridkerら, 2000; Cesariら, 2003)。さらに、急性冠状動脈症候群においては種々の炎症マーカーのレベルが上昇する(De Lemosら, 2003; Liuzzoら, 1994; Liuzzoら, 1999)。
【0005】
約20年前に臨床実施に導入された血清トロポニンの測定は、破裂プラークを有する患者の検出における大きな改善をもたらした(Cumminsら, 1987; Katusら, 1989)。トロポニンは心筋壊死の高感度かつ特異的なマーカーである。したがって、トロポニンレベルの測定は心筋梗塞の分析のための貴重な手段として確立されており、医師の常套手段となっている。
【0006】
しかし、きわめて重要であるが未解決の問題点は、非心臓性の胸痛または安定型CADによる症状をACSまたは切迫MIから識別するための診断の欠如であり、したがって、救急処置室に来た患者を、安定型CADを有する患者と、プラークびらん、プラーク破裂、冠状動脈血栓症およびそれらの結果として生じる重大な心血管事象、例えばMIのリスクを有する不安定型CADを有する患者とに分離することができない。
【0007】
トロポニン自体はアテローム硬化性病変に由来するものではない。血清中のその検出は心臓微小循環内への病変内容物および血栓物質の塞栓形成による顕微鏡的梗塞を反映しうるものであり、したがって、トロポニンはプラーク破裂の指標ともなりうる。しかし、トロポニンは、破裂冠状動脈病変ではなく既に進行中の心筋壊死を反映するプラーク破裂の間接的指標であるに過ぎない。実際、最初は胸痛および反復的に陰性のトロポニンを示した多数の患者が、その後30日以内の死亡または心筋梗塞のような重大な心臓事象を有する(Hammら, 1997)。
【0008】
ACSのマーカーとしての心筋壊死の指標は、検出可能となり更には心筋損傷を表すためにはそれが症状発現開始から少なくとも2〜3時間を要するという欠点をも有し、このことは予後に負の影響を及ぼす(Newbyら, 2001; Alpertら, 2000)。
【0009】
ACSまたは切迫MIの早期診断、および非心臓性の胸痛または安定型CADによる症状を有する救急処置室へ来た患者の分離を可能にする、局所炎症過程の早期かつより特異的なマーカーが、臨床において緊急に必要とされている。実際、ACSおよびMIの優れた文句なしの療法として即時(immediate)冠状動脈造影法および一次経皮的冠状動脈介入(primary percutaneous coronary intervention)が確立されているが(Widimskyら, 2003)、安定型CADおよび非定型胸痛を有する患者に対してまでそれを拡張することは高価な緊急用手段の不適切な適用となる。
【0010】
WO 2004/057341は、心血管疾患の症状の発現前の(すなわち、無症状患者における)心血管疾患の可能性または傾向の有用なマーカーまたは指標としての、タンパク質であるカルプロテクチン(calprotectin)を開示している。カルプロテクチンは骨髄関連タンパク質8/14複合体(MRP 8/14)、白血球タンパク質L1複合体、遊走阻止因子(MIF)関連タンパク質または嚢胞性線維症抗原とも称され、2つのカルシウム結合タンパク質S100A8およびS100A9(MRP8およびMRP14またはカルクラヌリン(calcranulin)AおよびBとも称される)のヘテロ二量体である。それは、カルシウム依存性シグナリング、細胞分化、細胞周期進行および細胞骨格-膜相互作用を含む種々の機能を有する(Schaferら, 1996)、食細胞活性化のマーカーである(Muraoら, 1994; Hansson, 2005)。MRP8およびMRP14は主として骨髄由来の細胞において発現され、単球内の全ての細胞質ゾルタンパク質の1%および好中球内の30〜60%までを占める(Hessianら, 1993)。しかし、細胞内カルシウムの増加およびプロテインキナーゼCの活性化を招く、これらの食細胞の活性化に際して、既存の細胞質MRP8およびMRP14がMRP 8/14を急速に形成し、これが細胞骨格および細胞膜に移動し、そして最終的に分泌される(Teigelkampら, 1991; Rammesら, 1997; Stroncekら, 2005)。これは典型的には、MRP 8/14発現食細胞、例えば循環好中球および初期分化段階の単球(静止組織マクロファージは除く)の経内皮遊走中、および該食細胞と活性化内皮との相互作用中に生じる(Odinkら, 1987; Bhardwajら, 1992; Eueら, 2000; Froschら, 2000)。その結果、MRP 8/14は、他の炎症マーカーによっては入手できない追加的な情報を提供する、最小炎症活性の指標であることが判明している(Foellら, 2004)。非感染性炎症疾患、例えば関節炎、慢性炎症性肺および腸疾患ならびに急性腎同種移植拒絶においては特に、MRP 8/14は疾患活性および治療応答のモニターのための非常に高感度なパラメーターである(De Ryckeら, 2005; Rothら, 1992; Rugveitら, 1994; Burkhardtら, 2001)。WO 2004/057341によれば、種々の体液中の異常に高いMRP 8/14レベルは、心血管疾患の症状の発現開始が患者または第三者(例えば、医師)に明らかとなる前に心血管疾患の罹りやすさを示すことが判明している。
【0011】
Healyら (2006)は、急性ST部上昇心筋梗塞(STEMI)または安定型冠状動脈疾患を有する患者からの血小板mRNAの発現プロファイリングを記載している。該著者らは、ヘテロ二量体MRP 8/14以外のもう1つの生化学的因子に相当するMRP14の発現がSTEMI前に増加することを見出した。そして、見掛け上健常な女性における前向きネステッドケースコントロール研究(n = 255ケースコントロールペア)を考慮して、彼らは、健常個体における(今や二量体である)MRP 8/14の血漿中濃度の増加が将来の心血管事象のリスクを予測することを見出した。しかし、本発明に最も近い先行技術とみなされうるWO 2004/057341もHealyら, (2006)も、胸痛を示す個体がACSに既に罹患しており、その結果、近い将来、心血管事象を発生するかどうかを判定するためのマーカーとしてのMRP 8/14を開示していない。むしろ、両著者は一般的リスク層別を提示しているのであり、心筋梗塞へと進行中の急性冠状動脈症候群の症状を示す患者を、安定型冠状動脈疾患を有する患者または冠状動脈病変を有しない患者から識別することを立証するデータを示してはいない。
【0012】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、不可逆的な臨床事象が生じて心筋壊死の血清マーカーが検出可能となる前に、またはそのような事象が既に生じている場合に、任意の公知マーカーより高い感度でおよびより初期にそれを検出するために、CHDの初期症状を示す個体における、ACSを特定する可能性を有する局所血管過程(すなわち、例えばプラーク不安定性)の初期および高感度マーカーを使用する方法を提供することである。そのような初期および高感度マーカーを使用する方法は、進行中の冠状動脈症候群の少なくとも1つの症状を示す個体が急性冠状動脈症候群に罹患しているかどうかのそれぞれ可能性およびリスクを排除することを可能にするはずである。したがって、該個体は、必要な限り早い適切な治療による恩恵を受けるであろう。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、進行中の急性冠状動脈症候群の少なくとも1つの症状を示す個体が急性冠状動脈症候群に罹患しているかどうかのリスクを判定するための方法であって、以下の工程:(a)MRP 8/14のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、(b)MRP 8/14のレベルが少なくとも上昇している場合には、該個体は、急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有する、を含む方法である。また、進行中の急性冠状動脈症候群の少なくとも1つの症状を示す個体が冠状動脈症候群に罹患しているかどうかの可能性を排除する方法も、本発明の範囲内である。本発明のもう1つの目的は、進行中の急性冠状動脈症候群の少なくとも1つの症状を示す個体が、急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有しないかどうかを評価するための方法、ならびに進行中の急性冠状動脈症候群の少なくとも1つの症状を示す個体が、急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有するかおよび/または急性冠状動脈症候群を有しないかを識別するための方法である。
【0014】
また、急性冠状動脈症候群に罹患している個体のリスクの判定に関する、いずれかの測定の結果を解釈するための使用説明書を含む、MRP 8/14を測定するための手段または物質を含んでなるキット、および個体が急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクの判定のための、MRP 8/14を測定するための手段または物質を含むキットの使用も、本発明の範囲内である。本発明は、胸痛および/またはいずれかの関連臨床症状に罹患しているどの個体が急性冠状動脈症候群を有するのかを、心筋壊死のマーカーが検出可能となる前に、医師が迅速に識別するのを助ける。この診断マーカーの新規使用により、これらの個体は、転帰の改善につながる迅速かつ早期の治療により選択的に恩恵を受けるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ACS患者における一過性閉塞および吸引系を用いた全身および局所サンプリング。
【図2】大動脈から得た全身の値と比較した、責任病変部位におけるMRP 8/14の血清濃度。局所レベルが有意に上昇している(n=7; p<0.05)。責任病変は、ACSを引き起こす主要病変である。責任病変は、プラーク破裂、プラークびらんおよび/または血栓形成の結果として生じる。
【図3】冠状動脈造影法により分類された3つの異なる患者群におけるMRP 8/14の全身濃度(大動脈)。左:冠状動脈疾患の証拠を有しない患者(CADなし)。中央:安定冠状動脈疾患を有する患者(安定型CAD)。右:冠状動脈疾患を有し、かつ形態学的観点、冠状動脈内血栓形成の徴候および局所血流障害により定められる少なくとも1つの明らかに識別可能な責任病変を有する患者(不安定型CAD)。不安定型冠状動脈疾患を有する患者は、その他の2つの群と比べて有意に上昇したレベルのMRP 8/14を示している。
【図4】急性冠状動脈症候群のリスクを有する患者を検出するためのMRP 8/14に関する受信者動作特性(ROC)。ROC曲線は、医学的試験の精度を定量するための一般的方法である。それは全ての可能な閾値に関する偽陽性結果の確率の関数としての真陽性結果の確率を示す。ROC曲線は、試験の精度の2つの重要な指標、すなわち、カットオフ値(最高感度および特異度の両方を伴う閾値)および曲線下面積(AUC)を提供する。MRP 8/14の場合、カットオフレベルは、95%の感度および92%の特異度で8.0mg/Lである。AUCは0.97である。
【図5】症状発現開始から採血までの時間(h; 時間)に対する、MRP 8/14および心筋壊死の古典的マーカーのレベルの上昇を示すACS患者の比率(%)。3つの異なる時間間隔についての患者の数はそれぞれ4、11および9である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
驚くべきことに、進行中の急性冠状動脈症候群(ACS)のいずれかの症状を示す個体から、ACSに罹患している可能性を有する患者を特定し、それによりACSを有しない個体を除外するために、骨髄関連タンパク質8/14複合体(MRP 8/14)が利用可能であることが見出された。これは、例えば、救急処置室へ来た患者を、正常な冠状動脈を有し非心臓性胸痛または安定型冠状動脈疾患(CAD)を有する患者と、ACSに罹患しており重大な心血管事象(例えば、MI)をさらに抱えている可能性のある患者とに分けることを可能にする。
【0017】
本発明の目的は、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体がACSに罹患しているかどうかのリスクを判定するための方法であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが少なくとも上昇している場合には、該個体が、ACSに罹患しているリスクを有する、
を含む方法により達成される。
【0018】
さらに、本発明の目的は、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体がACSに罹患しているかどうかのリスクを判定するための方法であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、
aa.心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
ba.心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼとMRP 8/14とのまたはそれらのそれぞれの変異体の、両方のレベルが少なくとも上昇している場合には、該個体が少なくとも、ACSに罹患しているリスクを有する、
を含む方法により達成される。
【0019】
本発明の1つの実施形態は、進行中の急性冠状動脈症候群の少なくとも1つの症状を示す個体が急性冠状動脈症候群に罹患しているかどうかのリスクを判定するための方法であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが少なくとも8.0mg/Lの血清レベルに相当する場合には、該個体が、急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有する、
を含む方法を含む。
【0020】
「進行中の(evolving)ACSの症状」なる語は当業者に公知である。「進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す」個体とは、例えば、時には消化不良(Messerliら, 2005)、悪心、嘔吐、衰弱、眩暈、動悸、冷汗、息切れの症状との組み合わせで、安静時に持続性のまたは波状の(収縮性、圧搾性、圧迫性、窒息性、締めつけられるような)胸痛を示す個体だけでなく、むしろ一般に非定型とされている胸痛兆候(鋭いまたは刃物で刺されたような疼痛、1本の指の先端に局在しうる疼痛、胸部の運動と共に再発する疼痛、長時間持続する一定の疼痛、数秒以下で持続する非常に短い疼痛エピソード、下肢に広がる疼痛)を示す個体も意味する。後者の疼痛状態は、定型的疼痛と同様に注意深く評価される必要がある。患者は個人診療医または救急処置室へ来る可能性がある。「症状を示す」、「症状に罹患している」および症状を有することに関する他の同義語は本発明の範囲内であることが意図される。
【0021】
本発明の1つの実施形態は、息切れおよび/または胸痛を示す個体がACSに罹患しているかどうかのリスクを判定するための方法であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが少なくとも上昇している場合には、該個体が、ACSに罹患しているリスクを有する、
を含む方法に関する。
【0022】
本発明においては、個体において測定されたMRP 8/14のレベルは、個体がACSに罹患している可能性があるかどうかのリスクを判定することを可能にする。より詳しくは、MRP 8/14のレベルの上昇は、当該個体が、ACSに罹患しているリスクを有することを示す。一方、上昇していないMRP 8/14のレベルは、当該個体が、ACSに罹患しているリスクを有しないこと、すなわち、当該個体が、それぞれ、ACSに罹患していない、またはACSを有していないことを示す。
【0023】
したがって、MRP 8/14のレベルを測定することにより、個体は、所定のリスク群、例えば、ACSに罹患しているリスクを有する個体およびACSに罹患していない個体の群に割り当てられうる。
【0024】
したがって、本発明のもう1つの態様は、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体がACSに罹患している可能性を排除するための方法であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが上昇していない場合には、該個体がACSに罹患していない、
を含む方法である。
【0025】
さらに、本発明の目的は、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体が、ACSに罹患しているリスクを有しないかどうかを評価するための方法であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが上昇していない場合には、該個体が、ACSに罹患しているリスクを有しない、
を含む方法により達成される。
【0026】
また、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体が、ACSに罹患しているリスクを有するおよび/またはACSを有しないかどうかを識別するための方法であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが少なくとも上昇している場合には、該個体が、ACSに罹患しているリスクを有し、
c.MRP 8/14またはその変異体のレベルが上昇していない場合には、該個体がACSを有していない、
を含む方法も、本発明の範囲内である。
【0027】
本発明の1つの実施形態は、MRP 8/14の上昇していないレベルが8.0mg/L未満の血清レベルに相当する、前述の方法のいずれかに関する。
【0028】
本発明のもう1つの態様は、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体がACSに罹患しているかどうかのリスクを判定するための、MRP 8/14またはその変異体の使用であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが上昇している場合には、該個体が、ACSに罹患しているリスクを有する、
を含む使用である。
【0029】
本発明のもう1つの態様は、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体がACSに罹患している可能性を排除するための、MRP 8/14またはその変異体の使用であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが上昇していない場合には、該個体が急性冠状動脈症候群に罹患していない、
を含む使用である。
【0030】
また、該リスクが少なくとも上昇していることを該方法が示した場合、それは過度の遅延なしにおよび/または病院内で集中冠状動脈ケアを行うべきであることを示す、前述の方法の1つまたはMRP 8/14の使用も、本発明の範囲内である。
【0031】
集中冠状動脈ケアには、例えば、適当な場合には、冠状動脈モニター、ECGおよび生化学的パラメーターの連続的評価、標準的な投薬(例えば、アスピリン、ニトラート、鎮痛薬、クロピドグレルなど)、冠状動脈造影法および経皮的冠状動脈介入が含まれる。
【0032】
また、個体がACSを有しないと該方法が示した場合、該個体は別の処置がなされうること、例えば、おそらくは彼の地元の一般医において胸痛の選択的非侵襲的鑑別診断(例えば、運動負荷試験)に割り当てられうることをそれが示す、前述の方法の1つまたはMRP 8/14の使用も、本発明の範囲内である。すなわち、該個体は集中冠状動脈ケアを受けることはなく、例えば、該個体は、可能な限り早く、更なる選択的な非心臓または心臓検査に付されうる。したがって、該個体は、必要な限り早い適切な治療の利益を受けるであろう。これは医療における経済的な資源活用に寄与するであろう。
【0033】
本発明においては、MRP 8/14のレベルは、ACSに罹患しているリスクを示す情報を提供すると認識されている。特に、MRP 8/14のレベルが上昇していない場合、個体がACSに罹患しているリスクが排除されうると認識されている。
【0034】
心筋壊死の指標(例えば、トロポニン)のレベルとは対照的に、MRP 8/14のレベルは、プラーク破裂および初期血栓形成に先行し随伴する局所過程に依存性であると認識されている。アテローム性動脈硬化症においては、そして特に、脆弱病変へと進行する安定アテローム硬化性プラークの病原性鎖においては、炎症細胞、特に、MRP 8/14を発現する食細胞のリクルートメントが決定的に重要である。したがって、MRP 8/14のレベルは、全体的アテローム硬化性負荷(global atherosclerotic burden)に無関係な活性血管炎症過程が個体において存在することを示すと思われる。本発明は、MRP 8/14レベルにより提供される情報をリスク予測にうまく利用することが可能であると認識している。
【0035】
これとは対照的に、トロポニンのような心筋壊死の指標のレベルは、破裂した冠状動脈病変ではなく既に進行中の心筋壊死を反映するプラーク破裂の間接的指標であるに過ぎない。また、最初は胸痛および反復的に陰性のトロポニンを示し、その後30日以内の死亡または心筋梗塞のような重大な心臓事象を有する多数の患者が存在すること(Hammら, 1997)にも注目すべきである。さらに、ACSのマーカーとしての心筋壊死の指標は、検出可能となり更に心筋損傷を表すためにはそれが症状発現開始から少なくとも2〜3時間を要するという欠点をも有し、このことは予後に負の影響を及ぼす(Newbyら, 2001; Alpertら, 2000)。したがって、トロポニンのような心筋壊死の指標のレベルの測定だけでは、ACSのリスクに関する多数の偽陰性結果が生じうる。しかし、本発明の場合には、個体がACSに罹患しているかどうかのリスクを判定するために、MRP 8/14と心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼのレベルとを、組合せて、同時に、または非同時に測定しうると認識されている。MRP 8/14と心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼとにより提供される情報は互いに有利に補完することが可能であり、したがって、改善されたリスク判定をもたらしうると認識されている。
【0036】
有利には、本発明は、更なる別の治療環境(すなわち、集中冠状動脈ケア)に個体を割当てることを可能にする。例えば、本発明がリスクの増加を示している個体は、好ましくは、ACSの場合の介入のための改善された予防措置をもたらす環境において、更に治療されるであろう。そのような個体は、例えば、ACSに罹患しているリスクを軽減するために適当な場合には、心臓モニター、ECGおよび生化学的パラメーターの連続的評価、標準的な投薬(例えば、アスピリン、ニトラート、鎮痛薬、クロピドグレルなど)、冠状動脈造影法および経皮的冠状動脈介入によっても処置されうる。これとは対照的に、ACSに罹患しているリスクを有しないと本発明の方法が示した個体には別の処置を施すことが可能であり、例えば、おそらくは彼の地元の一般医において胸痛の選択的非侵襲的鑑別診断(例えば、運動負荷試験)に割り当てられうる。したがって、該個体は、必要な限り早い適切な治療で利益を受けるであろう。これは医療における経済的な資源活用に寄与し、そして、最後に挙げるが重要なこととして、医療システムにおける有意なコスト削減につながるであろう。
【0037】
本発明は、所定のバイオマーカー、特に、「生化学マーカー」または「分子マーカー」を利用するものである。バイオマーカーは当業者に公知である。この用語は、所定の状態、疾患または合併症の存在または非存在に応じて示差的に存在する(すなわち、上昇または低下したレベルで存在する)、個体中の分子に関係する。「バイオマーカー」および「分子マーカー」なる語は当業者に公知である。特に、生化学マーカーまたは分子マーカーは、所定の状態、疾患または合併症の存在下または非存在下で(例えば、発現またはターンオーバーの上昇または低下したレベルにより)示差的に存在する遺伝子発現産物である。通常、分子マーカーは核酸(例えば、mRNA)と定義され、一方、生化学マーカーはタンパク質またはペプチドである。適当なバイオマーカーのレベルは特定の状態、疾患またはリスクの存在または非存在を示すことが可能であり、したがって、該状態、疾患またはリスクの診断または判定を可能にする。
【0038】
本発明は特に、生化学マーカーとして、MRP 8/14ならびに心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼを利用する。
【0039】
骨髄関連タンパク質8/14複合体(MRP 8/14)は当業者によく知られている。MRP 8/14はカルプロテクチン(calprotectin)、白血球タンパク質L1複合体、遊走阻止因子(MIF)関連タンパク質または嚢胞性線維症抗原としても公知であり、二量体形態および多量体形態の両方で存在する。二量体としては、MRP 8/14はポリペプチド鎖S100A8およびS100A9(MRP8およびMRP14またはカルクラヌリン(calcranulin)AおよびBとも称される)を含む。三量体としては、MRP 8/14は、非共有結合により連結された、2本の重鎖(14kD)と1本の軽鎖(8kD)とを有する、36kDaのヘテロ三量体タンパク質である。MRP 8/14は、カルシウム依存性シグナリング、細胞分化、細胞周期進行および細胞骨格-膜相互作用を含む種々の機能を有する、食細胞活性化のマーカーである(Schaferら, 1996)。MRP8およびMRP14は主として骨髄由来の細胞において発現され、単球内の全ての細胞質ゾルタンパク質の1%および好中球内の30〜60%までを占める(Hessianら, 1993)。
【0040】
本発明の心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼには、ミオグロビン、クレアチンキナーゼ、クレアチンキナーゼ-MB(CK-MB)、トロポニンTおよびI、C反応性タンパク質(CRP)、インターロイキン6(IL-6)、血清アミロイドA(SAA)、ミエロペルオキシダーゼ、可溶性CD40リガンド(sCD40L)および妊娠関連血漿タンパク質A(PAPP-A)が含まれる。本発明の最も好ましいマーカーはミオグロビン、クレアチンキナーゼ、CK-MB、トロポニンTおよびトロポニンIである。
【0041】
本発明における「変異体」なる語は、当該タンパク質またはペプチドに実質的に類似したタンパク質またはペプチドに関する。「実質的に類似」なる語は当業者に十分に理解されている。特に、変異体は、ヒト集団における最も優勢なペプチドアイソフォームのアミノ酸配列と比較した場合にアミノ酸交換を示すアイソフォームまたは対立遺伝子でありうる。好ましくは、そのような実質的に類似したペプチドは該タンパク質またはペプチドの最も優勢なアイソフォームに対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列類似性を有する。該診断手段によりまたはそれぞれの完全長タンパク質もしくはペプチドに対するリガンドにより尚も認識される分解産物、例えばタンパク質分解産物も実質的に類似している。「変異体」なる語はスプライス変異体をも意味する。「変異体」なる語は、翻訳後修飾ペプチド、例えばグリコシル化ペプチドをも意味する。「変異体」はまた、サンプルの収集後に、例えばペプチドへの標識(特に放射性または蛍光標識)の共有結合または非共有結合により修飾されたペプチドである。
【0042】
本発明はまた、異なるマーカーを、組合せて、同時に、または非同時に測定することを含む。特に、本発明は、心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼ、特にミオグロビン、クレアチンキナーゼ、CK-MB、トロポニンTおよびトロポニンIと組合せてMRP 8/14を測定することを含む。本発明においては、任意のさらなるマーカーを、MRP 8/14と組合せて測定することが可能である。そのようなマーカーの具体例には、ミオグロビン、クレアチンキナーゼ、CK-MB、トロポニンTおよびI、CRP、IL-6、SAA、ミエロペルオキシダーゼ、sCD40LならびにPAPP-Aが含まれる。
【0043】
本発明は、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体がACSに罹患しているかどうかのリスクを判定(または予測)することを可能にする。ACS(「急性冠状動脈症候群(acute coronary syndrome)」)なる語は当業者に公知である。本発明においては、ACSなる語は、不安定型狭心症、非STEMIおよびSTEMIを含む。
【0044】
本発明の1つの実施形態は、ACSが、アテローム硬化性プラーク破裂、アテローム硬化性プラークびらんおよび/または血栓形成のような血管事象の結果として生じるACSである、前述の方法またはMRP 8/14の使用に関する。
【0045】
「アテローム硬化性プラーク破裂」(これは、本発明においては、単に「プラーク破裂」とも称される)なる語ならびに「アテローム硬化性プラークびらん」および「血栓形成」なる語は当業者に公知である。アテローム硬化性プラークは、動脈壁内にマクロファージおよび他の白血球の異常炎症蓄積を本質的部分として含有する。これらの解剖学的病変は、典型的には、10歳よりずっと前の小児後期に始まり、時間と共に進行する。静脈は、バイパス手術の場合のように動脈として機能するよう外科的に移動させられた場合以外は、アテロームを発生しない。該蓄積は常に、動脈管の平滑筋壁と内皮裏打ち層との間に存在する。全体的外観に基づいて、初期段階は伝統的には脂肪線条と病理学者により呼ばれていたが、それは脂肪、すなわち脂肪細胞から構成されるものではない。心臓または動脈に関する文脈においては、アテローム硬化性プラークは一般には「プラーク」と称される。病理学的には、アテローム硬化性プラークは3つの異なる成分に分類される:1.アテローム(ギリシャ語のAthera(粥)から「粥の塊」)は、動脈の内腔に最も近いマクロファージから構成される、大きなプラークの中央部の軟弱で薄片状で黄色の物質の結節状蓄積物であり、時には、2.コレステロール結晶の下層領域、そして恐らくはまた、3.より古い/より進行した病変の外部基部の石灰化を伴う。血管造影研究は、顕著な狭窄を引き起こさない責任病変を特定しており、狭窄ではなく重層血栓の形成を伴うプラークの活性化が梗塞を突然引き起こすことが現在明らかとなっている。大多数の場合には、プラークのコアからの血栓物質(リン脂質、組織因子および血小板接着マトリックス分子)を血液に露出させるプラーク破裂により、閉塞性血栓の形成が生じる。冠状動脈血栓のもう1つの原因は、内皮びらん、プラーク亀裂であり、そして場合によっては、冠状動脈痙攣が関与することがある。プラーク破裂は主として、アテロームの線維性キャップが薄く、免疫系の活性化細胞が豊富に存在する場合に生じる。そのような部位では、活性化免疫細胞からの炎症メディエーターおよびタンパク質分解酵素の合併遊離が該繊維状キャップを脆弱化し、安定プラークを、傷つきやすい不安定プラークへと変化させ、それが破裂し、冠状動脈血栓を誘導し、ACSを誘発しうる。本発明はまた、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体がACSに罹患している可能性を排除することを可能にし、あるいは進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体がACSに罹患しているリスクを有するかまたはACSを有しないかどうかを識別することを可能にする。
【0046】
ACSを有しない個体は、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す、ならびに特に、根本的な急性炎症疾患を伴わない、例えば心膜、筋骨格、胃腸、肺、自律神経および精神の症候群を有する個体でありうる。そのような個体は関連診断(例えば、胃鏡検査またはCTスキャン)、および当業者に公知の適切な治療(例えば、自律神経症状の場合には元気付けおよび薬理学的鎮静)を受けるであろう。MRP 8/14のレベルが上昇していない場合には、患者は集中冠状動脈ケアを受けるのではなく、それらの症状に応じた更なる選択的な非心臓または心臓検査に付されうる。
【0047】
ACSを有しない個体はまた、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す、およびいずれの病態にも罹患していない個体、すなわち、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す健常個体でありうる。
【0048】
「ACSを有しない個体」なる語の前記定義は、ACSに罹患していない個体、およびACSのリスクを有しない個体にも適用される。また、本発明はそのようなものとしての診断情報を提供することも判明している。例えば、本発明の方法がACSのリスクの上昇を示している場合には、該個体は更なる集中冠状動脈ケアに付されうる。一方、本発明の方法がACSのリスクの非存在を示している場合には、該個体は、前記のとおりに治療されうる。本発明における個体は、心血管機能不全、例えば胸痛(狭心症)、息切れ(呼吸困難)、動悸の症状を経験したことのある(または現在経験している)任意の個体または患者でありうる。特に、患者は、Canadian Cardiovascular Society (CCS)の安定型狭心症の分類(Campeau, 1976)ならびに/またはBraunwaldおよびHammの不安定型狭心症の分類(Braunwald, 1989; Hamm andおよびBraunwald, 2000)に従い、狭心症を有するものとして分類される症状を示す個体でありうる。
【0049】
CCSの分類は、詳細には以下のとおりに4つのクラスに分類する。クラスI:日常的な身体活動、例えば歩行、階段昇りは、狭心症を引き起こさない。仕事中またはレクリエーション時の激しい、迅速な、または持続的な活動で、狭心症が生じる。クラスII:日常的な活動が若干制限される。迅速な歩行もしくは階段昇りの際、坂を上る歩行の際、食事後の歩行もしくは階段昇りの際、または寒冷時、または強風時、または情緒的ストレス下、または起床後数時間のみにおいて、または通常の速さおよび通常の条件における一続きを超える通常の踊場間階段の昇りおよび平坦な2ブロックを超える歩行の際に、狭心症が生じる。クラスIII:日常的な身体活動の著しい制限。通常の条件および通常の速さにおける一続きの踊場間階段の昇りおよび平坦な1〜2ブロックの歩行の際に、狭心症が生じる。クラスIV:不快感を伴わずにはいずれの身体活動も行うことができない。安静時に狭心症の症状が生じうる。ACSを有する患者は通常、CCSクラスIVの症状を示す。BraunwaldおよびHammの不安定狭心症の分類は、詳細には以下のとおりに3つのクラスおよび3つの関連臨床状況に分類する。クラスI:新たに発症した重度または促進性の狭心症。重度または頻繁(> 3エピソード/日)である新たに発症(< 2ヶ月の持続)した労作狭心症を伴う患者、または促進性狭心症(すなわち、より頻繁であり、重度であり、より長く持続し、または従来より顕著に低い度合の活動により突然生じる狭心症)を発症するが、過去2ヶ月間に安静時疼痛を経験していない、慢性安定型狭心症を有する患者。クラスII:亜急性の安静時狭心症。過去1ヶ月間に安静時狭心症の1以上のエピソードを有するが、過去48時間にはそれを有しない患者。クラスIII:急性の安静時狭心症。過去48時間に安静時狭心症の1以上のエピソードを有する患者。クラスIIおよびIIIにおいては、クラスIに記載の症状も生じうる。患者が無症状であるか、または2ヶ月以上安定である狭心症に患者が罹患している場合には、不安定型狭心症が存在するとはもはやみなされない。不安定型狭心症が生じる関連臨床状況は、詳細には以下のとおりにクラスA〜Cに分類される。クラスA:続発性不安定型狭心症。心筋虚血を促進している冠状動脈血管床に固有でない明らかに特定された状態に続発して不安定型狭心症を発症する患者。そのような状態は心筋酸素供給を減少させ、または心筋酸素需要を増加させ、貧血、発熱、感染、低血圧、制御されない高血圧、頻脈性不整脈、異常な情緒的ストレス、甲状腺中毒、および呼吸不全に続発する低酸素血症を含む。クラスB:原発性不安定型狭心症。クラスAの場合のような虚血を促進する心臓外病態の非存在下に不安定型狭心症を発症する患者。クラスC:梗塞後不安定型狭心症。立証された急性心筋梗塞の後の最初の2週間以内に不安定型狭心症を発症する患者。
【0050】
BraunwaldおよびHamm分類に従う症状を示しACSを有する患者を更なる診断および療法に組み入れること、ならびにBraunwaldおよびHamm分類で誤解されやすい症状を示しACSを有しない患者を除外することが、特に必要とされている。
【0051】
有利には、本発明は、これらの患者集団において、リスクを有する患者を検出することを可能にする。好ましくは、そのような患者から得たサンプルにおいて、ACSに関するリスクを判定するために、MRP 8/14を測定すべきである。
【0052】
それぞれのペプチドのレベルを測定するために使用されうる方法および診断手段は当業者に公知である。これらの方法には、マイクロプレートELISAに基づく方法、完全自動化またはロボット化イムノアッセイ(例えばElecsys(商標)分析装置上で利用可能)、CBA(例えばRoche-Hitachi(商標)分析装置上で利用可能な酵素コバルト結合アッセイ)およびラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-Hitachi(商標)分析装置上で利用可能)が含まれる。
【0053】
さらに、ペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定する種々の方法が当業者によく知られている。「レベル」なる語は、個体または個体から採取したサンプルにおけるペプチドまたはポリペプチドの量または濃度を意味する。
【0054】
本発明における「測定」なる語、関心のあるタンパク質、ペプチド、ポリペプチドまたは他の物質の量または濃度を、好ましくは半定量的または定量的に判定することを意味する。本発明の場合に特に関心のあるタンパク質またはペプチドは、骨髄関連タンパク質8/14複合体(MRP 8/14)ならびに心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼである。MRP 8/14ならびに心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼのレベルは、定量的、半定量的および定性的方法により、ならびにMRP 8/14ならびに心筋壊死マーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼを測定するための全ての他の方法により測定されうる。例えば、MRP 8/14ならびに心筋壊死マーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼを含有する疑いのあるサンプルにおけるMRP 8/14ならびに心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼの存在または非存在を単に検出する方法が、本発明の範囲内に含まれるとみなされる。「検出」、「モニター」および「判定」なる語ならびに測定に関する他の一般的な同義語が本発明の範囲内に含まれる。
【0055】
測定は直接的または間接的に行われうる。間接的測定は、細胞応答、結合リガンド、標識または酵素反応産物の測定を含む。本発明においては、量は濃度をも意味する。既知サイズのサンプル中の関心のある物質の全量から該物質の濃度が計算可能であること、およびその逆も成立することは明らかである。測定は、当技術分野で公知の任意の方法により行われうる。好ましい方法を以下に説明する。
【0056】
好ましい実施形態においては、関心のあるタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定するための方法は、(a)該タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに対する細胞応答をもたらしうる細胞を適当な時間にわたり該タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドと接触させる工程、(b)該細胞応答を測定する工程を含む。
【0057】
もう1つの好ましい実施形態においては、関心のあるタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定するための方法は、(a)タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドを適当な時間にわたり適当な基質と接触させる工程、(b)産物の量を測定する工程を含む。
【0058】
もう1つの実施形態においては、関心のあるペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定するための方法は、(a)タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドを特異的結合性リガンドと接触させる工程、(b)(場合により)非結合リガンドを除去する工程、(c)結合リガンドの量を測定する工程を含む。
【0059】
好ましくは、該タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドは、サンプル、特に体液または組織サンプル中に含まれ、該サンプル中の該タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドの量を測定する。
【0060】
タンパク質、ペプチドおよびポリペプチドは、組織、細胞および体液サンプル中で、すなわち、好ましくはin vitroで測定されうる。好ましくは、関心のあるタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドは体液サンプル中で測定される。
【0061】
本発明における組織サンプルは、死んだまたは生きたヒトまたは動物の体から得られる任意の種類の組織を意味する。組織サンプルは、当業者に公知の任意の方法、例えば生検または掻爬術により得られうる。
【0062】
本発明における体液には、血液、血清、血漿、リンパ液、脳液、唾液および尿が含まれうる。特に、体液には、血液、血清、血漿および尿が含まれる。本発明の1つの実施形態は、血液、好ましくは血清および/または血漿中のMRP 8/14の測定に関する。該サンプルは、所望により前処理されることが可能であり、該測定を妨げない任意の簡便な媒体(培地)中で調製されうる。体液のサンプルは、当技術分野で公知の任意の方法により得られうる。
【0063】
もう1つの実施形態は、個体がACSに罹患しているかどうかのリスクを判定するための方法であって、以下の工程:
a.血清および/または血漿(好ましくは、末梢循環の血液から抽出されたもの)中のMRP 8/14またはその変異体のレベルを測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが少なくとも上昇している場合には、該個体は少なくとも、ACSに罹患しているリスクを有する、
を含む方法に関する。
【0064】
細胞サンプルを得るための方法は、単一の細胞または小さな細胞群を直接的に調製し、組織を解離させ(例えば、トリプシンまたはコラゲナーゼを使用して行う)、例えば濾過または遠心分離により体液から細胞を分離することを含む。本発明における細胞は、血小板および他の無核細胞、例えば赤血球をも含む。必要に応じて、該サンプルは更に加工されうる。特に、タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドは、濾過、遠心分離または抽出方法、例えばクロロホルム/フェノール抽出を含む当技術分野で公知の方法に従い該サンプルから精製されうる。
【0065】
細胞応答を測定するためには、該サンプルまたは加工されたサンプルを細胞培養に加え、内部または外部細胞応答を測定する。該細胞応答にはレポーター遺伝子の発現または物質(例えば、タンパク質、ペプチド、ポリペプチドまたは小分子)の分泌が含まれうる。
【0066】
測定のための他の好ましい方法は、関心のあるタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合するリガンドの量を測定することを含みうる。本発明における結合は共有結合および非共有結合の両方を含む。本発明におけるリガンドは、関心のあるタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに結合する任意のタンパク質、ペプチド、ポリペプチド、核酸または他の物質でありうる。タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドは、ヒトまたは動物の身体から入手または精製された場合、例えばグリコシル化により修飾されうることが、よく知られている。本発明における安定なリガンドは、そのような部位を介することによって排他的または付加的に該タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに結合しうる。
【0067】
好ましくは、該リガンドは、測定するタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合すべきである。本発明における「特異的(に)結合」は、該リガンドが、被検サンプル中に存在する別のタンパク質、ペプチド、ポリペプチドまたは物質に実質的に結合しない(それらと交差反応しない)ことを意味する。好ましくは、該特異的結合タンパク質またはアイソフォームは、任意の他の関連タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドより少なくとも3倍高い、より好ましくは少なくとも10倍高い、より一層好ましくは少なくとも50倍高いアフィニティで結合すべきである。
【0068】
被検タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドが、例えばそのサイズにより(例えば、ウエスタンブロットの場合)またはサンプル中のその相対的に高い含有量により、尚も明らかに識別され測定できる場合には特に、非特異的結合も許容されうる。
【0069】
リガンドの結合は、当技術分野で公知の任意の方法により測定されうる。好ましくは、該方法は半定量的または定量的である。適当な方法を以下に説明する。
【0070】
第1に、リガンドの結合は例えばNMRまたは表面プラズモン共鳴により直接的に測定されうる。
【0071】
第2に、リガンドが、関心のあるペプチドまたはポリペプチドの酵素活性の基質としても機能する場合には、酵素反応産物が測定されうる(例えば、切断された基質の量を例えばウエスタンブロット上で測定することにより、プロテアーゼの量を測定することが可能である)。
【0072】
酵素反応産物の測定のためには、基質の量は飽和していることが好ましい。また、基質は、反応前に、検出可能な標識で標識されうる。好ましくは、サンプルを適当な時間にわたり基質と接触させる。適当な時間は、検出可能な、好ましくは測定可能な量の産物が産生されるのに必要な時間を意味する。産物の量を測定する代わりに、産物の所定の(例えば検出可能な)量の出現に必要な時間を測定することが可能である。
【0073】
第3に、リガンドは、リガンドの検出および測定を可能にする標識に共有結合または非共有結合されうる。
【0074】
標識化は直接的または間接的な方法により行われうる。直接的な標識化は、標識をリガンドへ直接的に結合(共有結合または非共有結合)させることを含む。間接的な標識化は、一次リガンドへ二次リガンドを結合(共有結合または非共有結合)させることを含む。二次リガンドは一次リガンドへ特異的に結合すべきである。二次リガンドは適当な標識に結合されることが可能であり、および/または二次リガンドへ結合する三次リガンドの標的(受容体)でありうる。シグナルを増強するために、二次、三次または更にはより高次のリガンドが使用されることが多い。適当な二次およびより高次のリガンドには、抗体、二次抗体、およびよく知られたストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)が含まれうる。
【0075】
リガンドまたは基質はまた、当技術分野で公知の1以上のタグで「タグ付け」されうる。そして、そのようなタグはより高次のリガンドに対する標的でありうる。適当なタグには、ビオチン、ジゴキシゲニン、His-Tag、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合性タンパク質などが含まれる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは好ましくはN末端および/またはC末端に存在する。
【0076】
適当な標識は、適当な検出方法により検出可能な任意の標識である。典型的な標識には、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁性標識(例えば、常磁性および超磁性標識を含む「磁性ビーズ」)および蛍光標識が含まれる。
【0077】
酵素活性標識には、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼおよびそれらの誘導体が含まれる。検出のための適当な基質には、ジ-アミノ-ベンジジン(DAB)、3,3'-5,5'-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnosticsの既製ストック溶液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスファート)、CDP-Star(商標)(Amersham Biosciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が含まれる。適当な酵素-基質の組合せは発色反応産物、蛍光または化学発光をもたらすことが可能であり、これは、当技術分野で公知の方法により(例えば、感光フィルムまたは適当なカメラシステムを使用して)測定されうる。酵素反応を測定する場合と同様、前記の基準が同様に適用される。
【0078】
典型的な蛍光標識には、蛍光性タンパク質(例えば、GFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセインおよびAlexa(アレキサ)色素(例えば、Alexa 568)が含まれる。他の蛍光標識は例えばMolcular Probes(Oregon)から入手可能である。蛍光標識としての量子ドットの使用も意図される。
【0079】
典型的な放射性標識には、35S、125I、32P、33Pなどが含まれる。放射性標識は、公知であり適当な任意の方法(例えば、感光フィルムまたは蛍光体撮像装置)により検出されうる。
【0080】
本発明の適当な測定方法には、沈降(特に免疫沈降)、電気化学発光(電気的に生成する化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、タービジメトリー(turbidimetry;比濁法)、ネフェロメトリー、ラテックス増強タービジメトリーまたはネフェロメトリー、固相免疫試験、および質量分析、例えばSELDI-TOF、MALDI-TOFまたはキャピラリー電気泳動-質量分析(CE-MS)も含まれる。当技術分野で公知の他の方法(例えば、ゲル電気泳動、2Dゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ウエスタンブロット法)を単独でまたは標識化もしくは前記の他の検出方法と組合せて用いることが可能である。
【0081】
好ましいリガンドには、抗体、核酸、タンパク質、ペプチドまたはポリペプチド、およびアプタマー、例えば核酸またはペプチドアプタマーが含まれる。そのようなリガンドに関する方法は当技術分野でよく知られている。例えば、適当な抗体またはアプタマーの特定および製造は商業的供給業者によっても行われうる。より高いアフィニティーまたは特異性を有するそのようなリガンドの誘導体を開発するための方法は当業者によく知られている。例えば、ランダム突然変異を核酸、タンパク質、ペプチドまたはポリペプチド内に導入することが可能である。ついでこれらの誘導体を、当技術分野で公知のスクリーニング法(例えば、ファージ提示法)に従い、結合に関して試験することが可能である。
【0082】
本明細書中で用いる「抗体」なる語は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方、ならびに抗原またはハプテンに結合しうるFv、FabおよびF(ab)2フラグメントのような、それらの任意の修飾体またはフラグメントを含む。
【0083】
もう1つの実施形態においては、好ましくは、核酸、タンパク質、ペプチド、ポリペプチドよりなる群、より好ましくは、核酸、抗体またはアプタマーよりなる群から選ばれるリガンドが、アレイ上に存在する。
【0084】
該アレイは、関心のあるタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに対するものでありうる少なくとも1つの追加的なリガンドを含有する。その追加的なリガンドは、本発明においては特に関心のないタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに対するものであってもよい。好ましくは、少なくとも3個、好ましくは少なくとも5個、より好ましくは少なくとも8個の本発明において関心のあるタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに対するリガンドが該アレイ上に含有される。
【0085】
本発明においては、「アレイ」なる語は、少なくとも2つの化合物が一次元、二次元または三次元の配置で付着または結合している固相またはゲル様担体を意味する。そのようなアレイ(「遺伝子チップ」、「タンパク質チップ」、抗体アレイなどを含む)は当業者に一般に公知であり、典型的には、ガラス顕微鏡スライド、特別にコーティングされたガラススライド、例えばポリカチオン-、ニトロセルロース-またはビオチン-コートスライド、カバーガラス、および膜、例えば、ニトロセルロースまたはナイロンに基づく膜上で作製される。該アレイは結合リガンドまたは少なくとも2つの細胞(それらのそれぞれは少なくとも1つのリガンドを発現する)を含みうる。
【0086】
また、本発明におけるアレイとして「懸濁アレイ」を使用することも意図される(NolanおよびSklar, 2002)。そのような懸濁アレイにおいては、担体、例えばマイクロビーズまたはミクロスフェアが懸濁状態で存在する。該アレイは、種々のリガンドを担持する恐らくは標識された種々のマイクロビーズまたはミクロスフェアよりなる。
【0087】
本発明はまた、測定のための手段または物質ならびに心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼまたは本明細書に記載の任意の他のバイオマーカー(例えば、ミオグロビン、クレアチンキナーゼ、CK-MB、トロポニンTおよびトロポニンIなど)を含むキットに関する。そのような手段または物質は、当業者に公知の任意の適当な手段または物質でありうる。そのような手段または物質およびそれらの使用のための方法の具体例は本明細書に記載されている。例えば、適当な物質は、それぞれ、MRP 8/14または心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼの測定に特異的な任意の種類のリガンドまたは抗体でありうる。該キットは、それぞれのバイオマーカーのレベルの測定において適当であるとみなされる任意の他の成分、例えば適当なバッファー、フィルターなどをも含みうる。所望により、該キットは更に、ACSに罹患している個体のリスクの判定に関する任意の測定の結果を解釈するための使用説明書を含みうる。特に、そのような説明書は、どの測定レベルがどの種類のリスク群に対応するのかに関する情報を含みうる。これは本明細書に詳細に記載されている。本発明の1つの実施形態においては、該キットは、MRP 8/14の上昇レベルが少なくとも8.0mg/Lの血清レベルに相当する場合に該個体がACSに罹患しているリスクを有すること、およびMRP 8/14の非上昇レベルが8.0mg/L未満の血清レベルに相当する場合に該個体がACSに罹患しないことを開示する使用説明書を含む。さらに、そのような使用説明書は、それぞれのバイオマーカーのレベルを測定するための該キットの成分の適切な使用に関する指示を与えるものでありうる。
【0088】
本発明は、個体がACSに罹患しているかどうかのリスクを判定するための、該キットの使用に関する。本発明は更に、前記の方法のいずれかにおける該キットの使用に関する。好ましい実施形態は、ACSに罹患している個体のリスクを判定するための、MRP 8/14を測定するための手段または物質を含むキットの使用に関する。本発明のもう1つの好ましい実施形態は、進行中のACSの少なくとも1つの症状を示す個体がACSに罹患している可能性を排除するための、MRP 8/14を測定するための手段または物質を含むキットの使用に関する。本発明においては、MRP 8/14の測定レベルは、個体がACSに罹患しているかどうかを示す。MRP 8/14ならびに心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼのレベルを組合せて測定する場合にも、同じことが同様に当てはまる。この場合に用いるこれらの用語、すなわち、「非増加レベル(レベル非増加)」、「非上昇レベル(レベル非上昇)」および「上昇レベル(レベル上昇)」は当業者に公知である。
【0089】
例えば、MRP 8/14は通常、全ての個体に存在し、それぞれの組織における該タンパク質の機能目的に応じた濃度の生物学的変動を伴って、人体のあらゆる部分の細胞、組織および体液中に見出されうる。当業者は、関連マーカーの実際の値を決定し、「非増加レベル」、「非上昇レベル」および「増加レベル」を定義することが可能であり、それらは通常、サンプル採取位置、加工方法および適用されるアッセイの技術に関する或る変動を受けうる。例えば、該レベルは、60歳未満の見掛け上健常な個体の代表的サンプルにおいて観察されるレベルのパーセンタイルに従い割当てられうる(好ましくは、該サンプルは、少なくとも100、より好ましくは少なくとも500、最も好ましくは少なくとも1000の個体を含む)。例えば、非上昇レベルは、97.5%パーセンタイルにおいて観察される最大レベルに対応しうる。あるいは、該レベルは、当技術分野で公知の「正常範囲」として定められうる。
【0090】
また、該レベルは、ACSの少なくとも1つの症状を示す個体に関して行われる研究により、そして該個体において観察されたレベルといずれかの心臓血管事象とを相関させることにより、決定または更には改善されうる。また、そのような研究は、ある患者亜群(例えば、既知冠状動脈疾患を有する患者、高齢患者、または胸痛に罹患しているだけの個体)に応じて該レベルを適合させることを可能にしうる。そのような研究がどのように行われうるかの指針は、本明細書に含まれる実施例からも入手可能である。
【0091】
また、「上昇(増加)」したとみなされるレベルの値は、所望の感度または排除(除外)特異性(ストリンジェンシー)に応じて選択されうる。所望の感度が高くなればなるほど、排除の特異性は低くなり、その逆も成立する。前記の例では、各レベルを決定するために選択されるパーセンタイルが高くなればなるほど、排除基準はよりストリンジェント(厳密)になる、すなわち、より少数の個体が「リスク個体」とみなされるであろう。本発明の方法はまた、ACSに罹患している個体ののそれぞれリスクまたは可能性を判定することを可能にする。本発明においては、「リスク」または「可能性」なる語は、ある特定の出来事の確率、より詳しくはACSの確率を意味する。リスクの等級は上昇しない(非上昇)、上昇する、または非常に(大きく)上昇することが可能である。「非上昇リスク(リスク非上昇)」または「無可能性」は、ACSに罹患しているリスクが見掛け上存在しないことを意味する。
【0092】
リスクの度合はMRP 8/14(またはMRP 8/14ならびに心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼ)に関連づけられる。MRP 8/14の非上昇レベル(レベル非上昇)は非上昇リスク(リスク非上昇)を示し、MRP 8/14の上昇レベル(レベル上昇)は上昇リスク(リスク上昇)を示し、MRP 8/14の大きな上昇レベル(レベルの大きな上昇)は大きな上昇リスク(リスクの大きな上昇)を示す。MRP 8/14ならびに心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼの組合せ測定の場合にも、リスクは同様に計算される。しかし、それらのマーカーの1つだけ(すなわち、MRP 8/14または心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼのいずれか)が大きく上昇しているが、それぞれのその他のマーカーは単に上昇しているに過ぎない場合には、それは大きく上昇したリスクを示すに十分とされうる。
【0093】
前記のとおり、MRP 8/14のレベルが非上昇である(上昇していない)場合には、患者は緊急集中冠状動脈ケアを必要とせず、彼らの症状に応じて更なる選択的な非心臓または心臓検査に付されうる。MRP 8/14ならびに心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼの両方のレベルが非上昇である(上昇していない)場合の組合せ測定の場合にも、同じことが言える。
【0094】
前記のとおり、本発明の方法がリスクの上昇またはリスクの大きな上昇を示す場合には、それは好ましくは該個体の更なる治療に影響を及ぼすであろう。
【0095】
つぎに、以下の実施例または図面により本発明を更に詳しく説明するが、もちろん、それらは本発明を限定するものではない。
【0096】
つぎに、以下の実施例または図面により本発明を更に詳しく説明するが、もちろん、それらは本発明を限定するものではない。
【0097】
(実施例)
【実施例1】
【0098】
患者および方法
該研究は合計116人の患者を含むものであった。すべての患者は冠状動脈造影法を受けた。ACSを有する41人の患者におけるプラーク破裂の部位から集めた血栓の免疫組織化学染色の結果から、仮説を生成した。それに続く一連の75人の研究患者を、臨床所見、血管造影検査所見および評価される標的物質に応じて層別した。
【実施例2】
【0099】
冠状動脈閉塞部位からの血栓およびプラーク物質の仮説生成解析のための研究集団
ST部上昇心筋梗塞(STEMI; 急性持続性胸痛およびECG ST部上昇 > 0.2mV(2つの連続誘導におけるもの))または非ST部上昇心筋梗塞(NSTEMI; 最終エピソードが入院前の24時間以内に生じた安静時の典型的胸痛、および上昇心臓トロポニンTレベル > 0.03μg/L)についてそれぞれ一次または緊急冠状動脈経皮介入を受ける41人の患者から、既に記載されているとおりに(Maierら, 2005)一過性閉塞および吸引系を用いて冠状動脈血栓を除去した。
【実施例3】
【0100】
炎症マーカーの評価のための研究集団
University Hospital of Zurichにおいて冠状動脈造影法を受ける患者を、臨床所見(選択的/緊急)および血管造影所見に基づいて3つの群に分類した。
【0101】
A)正常冠状動脈(n=14):この群は、冠状動脈疾患の血管造影証拠を有しない患者よりなる。冠状動脈疾患は、いずれかの主要心外膜冠状動脈における50%以上の直径狭窄(diameter stenosis)の血管造影的立証により定められた。該群は、弁膜手術前に診断用冠状動脈造影法を受ける患者、および胸痛を有する患者を含んでいた。
【0102】
B)安定型冠状動脈疾患(CAD, n=22):いずれかの主要心外膜冠状動脈における50%以上の直径狭窄を少なくとも1以上有し、かつ安定型CADと合致する血管造影所見を有する患者。これは、冠状動脈病変のいずれもが、プラーク破裂または冠状動脈内血栓形成を示唆する後述の形態学的徴候を示さなかった場合にそうであるとみなされた。
【0103】
C)不安定型CADを有する患者(n=39)。この群は、ACSと、以下の5つの血管造影態様のうち少なくとも2つを有する明らかに識別可能な責任病変(culprit lesion)とを示す患者を含んでいた:a)アンブローズ(Ambrose)病変II型(Ambroseら, 1985a; Ambroseら, 1985b);b)潰瘍形成または不整構造を有する病変;c)血栓形成の徴候(すなわち、急性全閉塞、陰影欠損、石灰化の非存在下のもやもや像、不均一な不透明化、対照的染色);d)病変から遠位の血管区画における流動障害;またはe)対応する壁区画における壁運動の障害。STEMI、NSTEMIおよび不安定型狭心症(入院前の24時間以内に最終エピソードが生じ、典型的には安静時に胸痛があり、かつ冠状動脈疾患の確認された病歴または > 0.05mVのST部低下、0.05mVを超える一過性ST部上昇または> 0.2mVのT波逆転(2つの連続誘導におけるもの)として定められる虚血ECG変化のいずれかがある)を有する、ACSが認められた患者。排除基準は、C反応性タンパク質(CRP)> 10mg/Lの血清レベル、心筋および心膜の炎症状態(すなわち、心筋炎、心膜炎、一過性心尖バルーン化(transient apical ballooning))、< 35%の左室駆出分画率または明白なうっ血性心不全であった。
【実施例4】
【0104】
局所および全身評価の研究集団の亜群
不安定型CADを有する個体のうち7人において、冠状動脈閉塞部位において局所的におよび全身的に炎症マーカーを評価した。
【実施例5】
【0105】
血液、プラークおよび血栓の局所的採取
血栓吸引が行われる41人の患者、ならびに局所および全身採血が行われる7人の患者において、責任(culprit)動脈に7Fガイディング(guiding)カテーテルを挿管し、0.014インチのPercuSurge(商標)GuardWire(商標)(Maierら, 2005)を用いてワイヤ結紮した。簡潔に説明すると、責任病変を横断した後、責任血管の遠位閉塞に対して遠位保護バルーンを膨張させた。Export(商標)吸引カテーテルをガイドワイヤの上に挿入し、ついで該閉塞バルーンの部位で遠位末端から責任病変の上縁までシリンジで1通過分の吸引を行って、冠状動脈閉塞部位から血液、血栓およびプラーク物質を確実に収集した(図1)。ついでPCIを行った。
【実施例6】
【0106】
手順
すべての患者は標準的な技術により冠状動脈造影法を受けた。大腿動脈の穿刺の直後に動脈鞘から末梢血サンプルを採取した。CADを有しない患者および安定型CADを有する患者を現行ガイドライン(Gibbonsら, 1999; Gibbonsら, 2003)に従って管理し、保存的、介入的または外科的治療のいずれかを行った。不安定型CADを有する患者は経皮的冠状動脈介入(PCI)を受けた。
【実施例7】
【0107】
パラメーターおよび生化学的アッセイ
末梢血において以下のマーカーを評価した:MRP 8/14、CK、CK-MB、トロポニンTおよびCRP。
【0108】
7.2%のアッセイ間変動および3.0μg/lの検出限界を有するサンドイッチELISA(Buhlmann Laboratories, Schonenbuch, Switzerland)を用いて、血清中でMRP 8/14を検出した。MRP 8/14ヘテロ二量体に対する特異的モノクローナル抗体(mAb 27E10)を一次抗体として使用し、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合したポリクローナル抗体を二次抗体として使用した。該抗体はMRP 8/14へテロ二量体またはより高次の複合体に特異的であり、MRP-8単量体にもMRP-9単量体にも結合しない(HessianおよびFisher, 2001; Zwadloら, 1986)。アルブミン、ミオグロビン、CKおよびトロポニンTを、それぞれ2.8%、4.4%、1.0%および3.7%の最大アッセイ間変動を有する、Roche Diagnostics(Rotkreuz, Switzerland)の業務用アッセイを用いるRoche Modular Analytics System上で分析した。6.3%の最大アッセイ間変動および0.1mg/Lの検出限界を有する、Diagnostic Products Corporation(Los Angeles, USA)の市販試薬を使用するImmulite 2000化学発光分析装置で、CRPを測定した。
【実施例8】
【0109】
免疫組織化学
固体物質を緩衝化パラホルムアルデヒド4%中で4〜6時間および50%エタノール中で24時間維持した後、パラフィン包埋(Leica EG1160)およびキシロール/エタノール固定(Hypercenter XP, Shandon)を行い、ミクロトーム(Leica RM2035)で切断した。スライドをトリプシンで1時間処理し、Tris-HCl(pH7.6)中の4%無脂肪乳で30分間ブロッキングした。ヒトMRP 8/14に対するモノクローナルマウス抗体(IgG1, クローン27E10, Acris Antibodies GmbH, Hiddenhausen, Germany)(Zwadloら, 1986)を1μg/mlの濃度で使用し、該スライドと共に4℃で18時間インキュベートした。マウスIgG1を陰性対照として使用した。2回洗浄した後、5%ウマ血清および1%BSA中のビオチン化AffinityPure F(ab')2フラグメントヤギ抗マウスIgG(H+L)(Jackson ImmunoResearch Lab., Cambridgeshire, UK)を該スライドに加え、22〜24℃で30分間インキュベートした。再び洗浄した後、アルカリホスファターゼ結合ストレプトアビジン(Jackson ImmunoResearch Lab.)を加え、22〜24℃で30分間インキュベートした。染色は、Dako Fast Red Substrate System (DakoCytomation, Glostrup, Denmark)を使用して発色させた。
【実施例9】
【0110】
データ解析および統計
データは、コルモゴロフ-スミルノフ検定により評価されたその分布に基づいて平均±標準偏差または中央値 [四分位範囲, IQR]として示されている。炎症マーカーのレベルは正規分布していないことが確認された。したがって、クルスカル-ワリス検定を用いて群を比較し、有意差が存在する場合には、更なるペアワイズ(pairwise)群比較のためにウィルコクソン順位和検定を適用した。MRP 8/14およびCRPならびに他の連続変数(例えば、白血球数など)の全身動脈内レベル間の相関を見出すために、スピアマン順位相関検定を用いた。rs > 0.7の相関係数を、良好な相関とし、一方、rs < 0.5を、弱い相関とした。比率における差を評価するために、χ2検定による二元クロス集計を用いた。責任病変の検出におけるMRP 8/14の精度を調べるために、受信者動作特性(ROC)解析を行った。カットオフ値(最良感度および特異度を示すMRP 8/14血清レベル)および曲線下面積により、ROC曲線を作成した。統計解析は、jmp(商標)statistical discovery(商標)(version 6.0; SAS institute, Inc.)を使用して行った。P値 < 0.05を有意とした。
【実施例10】
【0111】
患者の特徴
血栓の仮説生成型免疫組織化学解析に含めるACSを有する41人の一連の患者の特徴を表1にまとめる(以下を参照されたい)。
【表1】


【実施例11】
【0112】
所見に関して層別された75人の一連の患者の特徴を表2にまとめる。
【表2】

【実施例12】
【0113】
冠状動脈閉塞部位からの吸引物質および血栓の免疫組織化学染色
分析した41例の一連の血栓のうちの31例(76%)が、MRP 8/14に関して陽性の免疫組織化学染色を示した。MRP 8/14+細胞の形態学的特徴は、それらが食細胞の集団に属することを示唆した。特に、MRP 8/14+細胞の浸潤性集団化(infiltrative clustering)が観察された。連続切片は、MRP 8/14に関して染色された領域においてマクロファージ(CD68+)および顆粒球(CD66b+)の両方が存在することを証明した。血栓においてはリンパ球はほとんど検出されておらず、リンパ球(CD3)においても血小板(CD42a/b)においてもMRP 8/14染色は全く見出されていない(データ示さず)。この系列においては、全身および/または局所血液サンプルをMRP 8/14に関して分析しなかった。MRP 8/14の病態生理学的役割、および該タンパク質の豊富な存在を示すこれらの局所免疫組織化学的知見に基づいて、このマーカーが不安定型冠状動脈病変の指標となりうるという仮説を生成した。
【実施例13】
【0114】
ACS患者におけるMRP 8/14の局所 対 全身レベル
冠状動脈閉塞部位におけるMRP 8/14の血清レベルは、全身循環に比べて上昇した(22.0 [16.2-41.5] 対 13.4 [8.1-14.7] mg/L, p < 0.05; 図2)。
【実施例14】
【0115】
3つの識別用臨床状態(冠状動脈病変の非存在、安定型CADおよび急性冠状動脈症候群)におけるMRP 8/14の全身血清レベル
ACS患者は、正常冠状動脈を有する被験者および重度のCADを有する患者と比べて非常に上昇したMRP 8/14血清レベルを示した(15.1[12.1-21.8] 対 4.8[4.0-6.3] 対 4.6[3.5-7.1] mg/L, p<0.0001; 図3)。95%の感度、92%の特異度および0.97のAOCで急性冠状動脈症候群を識別する8.0mg/Lのカットオフ値がROC分析から決定された。
【0116】
これとは対照的に、CRPの血清レベルは群間で差を示さなかった(データ示さず)。
【実施例15】
【0117】
MRP 8/14の血清レベルの、他のパラメーターの例との相関
CRPレベルとのMRP 8/14の相関は存在しなかった。白血球数とのMRP 8/14の弱い相関が認められた(rs = 0.5, p < 0.0001)。動脈MRP 8/14血清レベルと静脈MRP 8/14血清レベルとは良好な相関を示した(rs = 0.7, p < 0.01)。
【実施例16】
【0118】
ミオグロビン、CK-MBおよびトロポニンとの比較における最初の症状からのMRP 8/14の出現
MIを示す患者では、MRP 8/14は最初の症状から0〜3時間以内で既に100%で陽性であった。これは、古典的マーカーであるミオグロビン、トロポニンTおよびCK-MBのいずれよりも早かった(図5)。
【実施例17】
【0119】
臨床例
急性胸痛でUniversity Hospital of Zurichに来た以下の2人の患者(患者Aおよび患者B)を代表例として選択した。なぜなら、類似した臨床所見にもかかわらず、一方の患者は基礎ACSを有していたが、もう一方の患者は、CADの証拠がなく正常冠状動脈を有していたからである。どちらの患者も56歳の女性であり、高血圧の病歴を有し、安静時の胸痛の2時間後に現れた。どちらの症例でも該疼痛は圧迫性であり、胸骨後に位置していたが、胸を手で押さえても強制吸息によっても該疼痛を誘発することはできなかった。臨床検査は、患者Aが高血圧(204/105mmHg)(一方、患者Bでは118/86)を示す以外はいずれの他の所見をも示さなかった。入院時の心電図(ECG)は、どちらの症例でも、誘導V2-V5においてST部低下(> 0.05mV)を示した。心筋壊死の初期血漿レベル、すなわち、ミオグロビン、CK-MBおよびトロポニンTの該レベルは全て、どちらの患者においても陰性であった。
【0120】
これらの初期所見から、ACSを除外することはできなかったため、それらの2人の患者をACSと同様に治療した。これは連続的ECGモニター、および心筋壊死のマーカーの連続的評価を含むものであった。さらに、患者にアスピリン、ヘパリン、ベータブロッカーおよびニトラートを投与した。
【0121】
入院の5時間後に採取した、患者Bからの第2の血液サンプルは、上昇したレベルのミオグロビン(188μg/L)、CK-MB(70 U/L)およびトロポニンT(1.69μg/L)を示し、これは、この患者におけるACSを明らかに示すものであった。これとは対照的に、患者Aの第2の血液分析は再び陰性であった。しかし、この患者は継続的に胸痛に苦しんでおり、さらに、強力なST部変化を示し、このことは、進行中の冠状動脈過程を示唆するものであった。したがって、どちらの患者にも冠状動脈造影法を行い、これは、患者Aにおいては正常冠状動脈を示し、患者Bにおいては、明らかに識別可能な責任病変(回旋動脈の急性閉塞)を伴うACSを示した。本発明に合致して、血管造影時に採取したMRP 8/14の血清レベルは、ACSを有する患者(患者B)ではカットオフ値を上回り(15.1mg/L)、一方、不安定型または安定型CADのいずれの血管造影徴候をも有しない患者Aは上昇していないMRP 8/14値(4.3mg/L)を示した。
【0122】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行中の急性冠状動脈症候群の少なくとも1つの症状を示す個体が急性冠状動脈症候群に罹患しているかどうかのリスクを判定するための方法であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが少なくとも上昇している場合には、該個体が、急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有する、
を含む方法。
【請求項2】
aa.心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼまたはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定するさらなる工程を含み、さらに改変工程として、
ba.心筋壊死のマーカーおよび/または炎症マーカーおよび/またはメタロプロテイナーゼとMRP 8/14とのまたはそれらのそれぞれの変異体の、両方のレベルが少なくとも上昇している場合には、該個体が、急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有する、
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該個体が胸痛および/または息切れを示している、請求項1または2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
MRP 8/14のレベルを血清および/または血漿において測定する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
MRP 8/14の上昇したレベルが少なくとも8.0mg/Lの血清レベルに相当する、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
さらに、以下のバイオマーカー:
a)ミオグロビン、
b)クレアチンキナーゼ、
c)クレアチンキナーゼ-MB、
d)トロポニンT、
e)トロポニンI
のうち1以上についてのレベルを測定する、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
進行中の急性冠状動脈症候群の少なくとも1つの症状を示す個体が急性冠状動脈症候群に罹患しているかどうかの可能性を排除するための方法であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが上昇していない場合には、該個体が急性冠状動脈症候群に罹患していない、
を含む方法。
【請求項8】
進行中の急性冠状動脈症候群の少なくとも1つの症状を示す個体が、急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有しないかどうかを評価するための方法であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが上昇していない場合には、該個体が、急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有しない、
を含む方法。
【請求項9】
進行中の急性冠状動脈症候群の少なくとも1つの症状を示す個体が、急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有するかまたは急性冠状動脈症候群を有しないかを識別するための方法であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが少なくとも上昇している場合には、該個体が、急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有し、
c.MRP 8/14またはその変異体のレベルが上昇していない場合には、該個体が急性冠状動脈症候群を有しない、
を含む方法。
【請求項10】
MRP 8/14の上昇していないレベルが8.0mg/L未満の血清レベルに相当する、請求項7〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
進行中の急性冠状動脈症候群の少なくとも1つの症状を示す個体が急性冠状動脈症候群に罹患しているかどうかのリスクを判定するための、MRP 8/14またはその変異体の使用であって、以下の工程:
a.MRP 8/14またはその変異体のレベルを、好ましくはin vitroで、測定すること、ここで、
b.MRP 8/14またはその変異体のレベルが少なくとも上昇している場合には、該個体が、急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有する、
を含む使用。
【請求項12】
個体が急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクの判定に関する、いずれかの測定の結果を解釈するための使用説明書を含む、MRP 8/14を測定するための手段または物質を含んでなるキット。
【請求項13】
使用説明書が、MRP 8/14の上昇したレベルが少なくとも8.0mg/Lの血清レベルに相当する場合には該個体が急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクを有することを開示している、請求項12記載のキット。
【請求項14】
個体が急性冠状動脈症候群に罹患しているリスクの判定のための、MRP 8/14を測定するための手段または物質を含むキットの使用。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか1項記載の方法における、MRP 8/14を測定するための手段または物質を含むキットの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−539080(P2009−539080A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512500(P2009−512500)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004872
【国際公開番号】WO2007/137865
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(504022504)ユニバーシティー オブ チューリッヒ (7)
【Fターム(参考)】