説明

急性心臓同種移植拒絶反応を診断する方法

本発明は、ゲノム発現プロファイリング、プロテオミクス発現プロファイリング、代謝産物プロファイリング、またはアロ反応性T細胞ゲノム発現プロファイリングを用いる心臓同種移植の急性拒絶反応を診断する方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2008年4月9日出願の米国仮出願第61/071,038号、2008年4月9日出願のUS/071,037号、2008年4月10日出願のUS61/071,07号、および2009年3月3日出願のUS61/157,161号の優先権の恩典を主張し、それらのすべてを、本明細書に参照により組み入れる。
【0002】
発明の分野
本発明は、ゲノム発現プロファイリング、プロテオミクス発現プロファイリング、代謝産物プロファイリング、またはアロ反応性T細胞ゲノム発現プロファイリングを用いる、心臓同種移植の急性拒絶反応を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
移植は、末期の致命的な臓器不全を有する患者のための主要な療法と考えられる。シクロスポリンおよびタクロリムスなどの免疫抑制薬の利用可能性が同種移植レシピエントの生存率および福祉を改善した一方、できるだけ早期かつ正確な同種移植片拒絶反応の同定、ならびに免疫抑制性薬物の用量の効果的なモニタリングおよび調整は、依然として、同種移植レシピエントの継続的な生存において一義的に重要なことである。
【0004】
同種移植片拒絶反応は、概して、ドナー組織によって発現される非自己抗原へのレシピエントの免疫反応の結果として説明することができる。急性拒絶反応は移植の数日または数週間内に起こるが、慢性拒絶反応はより一層遅いプロセスであり、移植の後に数ヶ月または数年で起こる。
【0005】
目下のところ、侵襲的な生検、たとえば、心内膜心筋、肝臓コア、および腎臓の細針吸引生検は、同種移植片拒絶反応のモニタリングおよび診断のための最も基準になる検査と広く考えられているが、それ自体リスクをともなう侵襲的な手法である(例えば、Mehra MRら、Curr.Opin.Cardiol. 2002年3月;17(2):131-136(非特許文献1)))。生検結果はまた、サンプリングエラーおよび観察者間のばらつきのために、肝臓同種移植片拒絶反応を等級分けするためのBanff schema(バンフ・スキーマ)などの国際的なガイドラインの有効性にもかかわらず、再現性および解釈の問題の対象となることがある〔Ormonde(オーモンド)ら、1999年、Liver Transplantation 5:261-268(非特許文献2)〕または改訂されたISHLT移植スケール〔Stewart(スチュワート)ほか、2005年、J Heart Lung Transplant(心肺移植)、2005年;24:1710-20(非特許文献3))〕。慢性心臓拒絶反応をモニタリングするために血管造影法およびIVUSなどの侵襲性の低い画像化(イメージング)技術が開発されたが、これらの選択肢はまた生検に付随するものと同様の制限の影響を受けやすい。
【0006】
生検によって決定された同種移植拒絶反応の重症度は、標準化された参照指標を提供するために等級分けされうる。The International Society for Heart and Lung Transplantation scale(心肺移植のための国際学会)スケール(ISHLT)は、心臓移植対象体のために生検サンプルを等級分けする手段を提供する(表1)。
【0007】
(表1)組織病理学的生検分析のための、心肺移植のための国際学会の心臓移植拒絶反応の等級分け

【0008】
同種移植拒絶反応の指標は、限局性または全身性の炎症、組織損傷、免疫細胞の同種移植浸潤、組織および血液由来タンパク質の変化した組成および濃度、同種移植組織の異なる酸素付加、浮腫、内皮の肥厚、増加したコラーゲン含量、変化した心筋内血流、感染、同種移植および/または周囲組織の壊死などのうちの1つまたは複数によって指し示されるような、増大した、および限局性の免疫反応を含みうる。
【0009】
同種移植拒絶反応は、「急性」または「慢性」であると説明することができる。急性拒絶反応は概して、同種移植を受けている対象体の、組織または器官の約6月以内の同種移植の拒絶反応であると考えられる。急性拒絶反応はドナー組織に対する細胞および体液性の傷害によって特徴付けることができ、急速な移植片機能不全および組織または器官の不全をもたらす。慢性拒絶反応は通常、6ヵ月を超えた組織または器官の同種移植の拒絶であると考えられ、同種移植を受けた後の数年でありうる。慢性拒絶反応は同種免疫反応によって引き金を引かれた進行性の組織再構築によって特徴付けることができ、動脈内で段階的な新生内膜形成をもたらす場合があり、閉塞性の脈管障害、実質性線維症およびその結果として、移植の失敗および喪失の一因となる。拒絶反応の性質および重症度に応じて、慢性または急性のいずれかの同種移植拒絶反応を経験している、または経験する疑いがある対象において観察される指標、または臨床的変数において重複が存在しうる。
【0010】
患者当たりの生検の数を減らす試みが成されているが、拒絶反応が始まるまたは進行する部位を正確に特定することの難しさ、さらには実際の生検を実行することなく組織を評価することの難しさに一部起因して、通常不成功となる可能性がある。非侵襲性のサーベイランス技術が研究されており、同種移植拒絶反応の妥当な陰性予測を提供しうるが、臨床現場における実際的な有用性が低いものである場合がある(Mehraほか、上記)。
【0011】
科学文献および特許文献は、挙げられうるあらゆる病状の識別/診断/予測/処置にとって重要であるマーカーの報告に恵まれている。同種移植拒絶反応の分野でも無数のマーカーが記載されており(多くの場合単独で)、矛盾する結果が提示される可能性がある。文献におけるこの対立は、ヒトの体においてゲノム(転写単位30,000以上の範囲と推定される)、多様な細胞タイプ(200以上の範囲と推定される)、器官および組織、および発現したタンパク質またはポリペプチド(80,000以上の範囲と推定される)を複雑にし、急性器官拒絶反応を診断するために有用な多数の可能性がある核酸配列、遺伝子、タンパク質、代謝産物またはその組合せを食い違わせる。個人間の変動は、更なる障害、ならびに血漿中のタンパク質濃度のダイナミックレンジ(10-6から103μg/mLまでにわたる、非常に低い濃度で存在する多くの潜在的関心対象のタンパク質を伴う)および少数の最も豊富な血漿タンパク質の圧倒的な量(合計タンパク質質量のおよそ99%を構成する)を提示する。
【0012】
CARGOの研究(Cardiac Allograft Rejection Gene Expression Observation)〔Deng(トン)ほか、2006. Am J. Transplantation 6:150-160(非特許文献4)〕は、約7300の遺伝子のカスタムマイクロアレイ分析およびRT-PCRを用い、移植から6ヵ月またはそれ以上後に採取されたサンプルで3Aまたはそれよりも大きなISHLTスコアを示す対象体における遺伝子発現プロファイルを試験した。
【0013】
代謝産物プロファイリングが、器官機能、疾患状態などを評価するための道具として提案されている〔Wishart(ウィシャート)2005。5:2814-2820(非特許文献5)〕。概してこの分野に関する多数の出版物が見られ、最近、ヒトの「メタボローム」のデータベースが発表されたが(ウィシャートほか、2007。Nucleic Acids Research 35:D521-D526(非特許文献6))、特定の代謝産物プロファイルの識別、または同種移植拒絶反応を評価または診断するのに役立つサインは、いまだ決定されていない。
【0014】
認識において役割をもつ免疫細胞は、同種移植拒絶反応の指標として有用でありうる。国際公開第2005/05721号(特許文献1)はドナー抗原提示細胞と特異的に結合する免疫反応性Tリンパ球を区別するための方法を記載しており、ドナー抗原に対して特異的に免疫反応性であるTリンパ球の集団を提供している。しかし、繰り返すが、同種移植拒絶反応の評価または診断に有用でありうる特定のマーカーは、いまだ決定されていない。
【0015】
Traum(トラウム)ほか、2005(Pediatr. Transplant 9(6):700-711(非特許文献7))は、移植プロテオミクスの一般的な概要を提供している。直接的な、血漿プロテオームでのバイオマーカーの探索は、2つの主な課題を示している - タンパク質濃度のダイナミックレンジは、10-6から103μg/mLに及び〔Anderson(アンダーソン)ほか、2004。Mol Cell Proteomics 3:311-326(非特許文献8)〕、潜在的に関心のあるタンパク質の多くが非常に低い濃度で存在し、かつ最も豊富な血漿タンパク質が全タンパク質質量の99%を構成する。
【0016】
長期の免疫抑制療法を管理するのに役立つことから、心臓移植患者のB2M血清濃度の維持または測定が提案された〔Erez(エレツ)ほか、1998。J Heart Lung Transplant 17:538-541(非特許文献9)〕。PCT国際公開第2009/003142号(特許文献2)は、B2Mが別のタンパク質と一緒に末梢血管疾患のバイオマーカーとして有用でありうることを開示している。
【0017】
Borozdenkovaほか、2004(J. Proteome Research 3:282-288)(非特許文献10)は、アルファB-クリスタリンおよびトロポミオシン(tropmyosin)が一組の心臓移植対象体において上昇したことを開示している。
【0018】
Ishihara(イシハラ)(2008)(J. Mol Cell Cardiology 45:S33)(非特許文献11)はADIPOQは心臓移植においてある役割を有しうることを開示しており、Nakano(ナカノ)(Transplant Immunology、2007 17:130-136)(非特許文献12)は、ADIPOQの上方制御が肝移植対象体の拒絶反応を克服するために必要でありうると提案している。
【0019】
SHBG(PCT国際公開第2007/024715号(特許文献3))およびF10(PCT国際公開第2005/020927号(特許文献4))に結合する抗体が、移植片拒絶反応を防止することに有用であることが提案されている。
【0020】
SERPINF1およびC1Qが、心血管事象の増加したリスクと関係したバイオマーカーとして開示されている;これらのバイオマーカーは、対象体由来のアテローム動脈硬化性プラークサンプルで検出することができ(PCT国際公開第2009/017405号(特許文献5));SERPINF1の配列はまた、最適な血管移植片を選ぶために、アッセイにおいて役立ちうる(米国特許出願公開第2006/0003338号(特許文献6))。
【0021】
補体はまた、同種移植の拒絶反応において役割を有することが知られている - Csencitsほか、2008(Am. J. Transplantation 8:1622-1630)(非特許文献13)は様々な補体成分に対する過去の研究をまとめ、かつC1Q-/-マウス同種移植レシピエントにおける加速された体液性免疫応答を観察している。
【0022】
PCT国際公開WO2006/083986号(特許文献7)、PCT国際公開第206/122407号(特許文献8)、米国特許出願公開第2008/0153092号(特許文献9)、第2006/0141493号(特許文献10)および米国特許第7235358号(特許文献11)は、ガンから臓器移植までにわたる種々の病気の状態を診断または検出するためにバイオマーカー(プロテオミクスまたはゲノム)のパネルを使う方法を開示している。
【0023】
Alakulppiほか、2007(Transplantation 83:791-798)(非特許文献14)は8つのマーカーについてRT-PCRを使う急性腎臓同種移植拒絶反応の診断を開示している。
【0024】
Fildes(フィルデス)ほか2008(Transplant Immunology 19:1-11)(非特許文献15)は、肺移植の後の免疫プロセスでの細胞タイプの役割を考察し、そしてNK細胞タンパク質とAICL(CLEC2B)との相互作用が急性および慢性の拒絶反応での役割をもつかもしれないことを明らかにする。
【0025】
複数のプラットホーム(プロテオミクス、ゲノミクス)の統合は、種々のがんの診断およびモニタリングのために提案されたが、しかし、タンパク質およびmRNAの発現の間の不一致がこの分野で確認された〔Chen(チェン)ほか、2002、Mol Cell Proteomics1:304-313(非特許文献16);Nishizuka(ニシズカ)ほか、2003、Cancer Research、63:5243-5250(非特許文献17))〕。以前の研究では、ゲノミクスおよびプロテオミクスのデータ間の低い相関関係が報告された〔Gygi(ギジ)SPほか、1999、Mol Cell Biol.、19:1720-1730(非特許文献18);Huber(ヒューバー)ほか、2004、Mol Cell Proteomics、3:43-55(非特許文献19)〕。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】国際公開第2005/05721号
【特許文献2】PCT国際公開第2009/003142号
【特許文献3】PCT国際公開第2007/024715号
【特許文献4】PCT国際公開第2005/020927号
【特許文献5】PCT国際公開第2009/017405号
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0003338号
【特許文献7】PCT国際公開WO2006/083986号
【特許文献8】PCT国際公開第206/122407号
【特許文献9】米国特許出願公開第2008/0153092号
【特許文献10】米国特許出願公開第2006/0141493号
【特許文献11】米国特許第7235358号
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Mehra MRら、Curr.Opin.Cardiol. 2002年3月;17(2):131-136
【非特許文献2】Ormonde(オーモンド)ら、1999年、Liver Transplantation 5:261-268
【特許文献3】Stewart(スチュワート)ほか、2005年、J Heart Lung Transplant(心肺移植)、2005年;24:1710-20
【非特許文献4】Deng(トン)ほか、2006. Am J. Transplantation 6:150-160
【非特許文献5】Wishart(ウィシャート)2005。5:2814-2820
【非特許文献6】ウィシャートほか、2007。Nucleic Acids Research 35:D521-D526
【非特許文献7】Traum(トラウム)ほか、2005(Pediatr. Transplant 9(6):700-711
【非特許文献8】Anderson(アンダーソン)ほか、2004。Mol Cell Proteomics 3:311-326
【非特許文献9】Erez(エレツ)ほか、1998。J Heart Lung Transplant 17:538-541
【非特許文献10】Borozdenkovaほか、2004(J. Proteome Research 3:282-288)
【非特許文献11】Ishihara(イシハラ)(2008)(J. Mol Cell Cardiology 45:S33)
【非特許文献12】Nakano(ナカノ)(Transplant Immunology、2007 17:130-136)
【非特許文献13】Csencitsほか、2008(Am. J. Transplantation 8:1622-1630)
【非特許文献14】Alakulppiほか、2007(Transplantation 83:791-798)
【非特許文献15】Fildes(フィルデス)ほか2008(Transplant Immunology 19:1-11)
【非特許文献16】Chen(チェン)ほか、2002、Mol Cell Proteomics1:304-313
【非特許文献17】Nishizuka(ニシズカ)ほか、2003、Cancer Research、63:5243-5250
【非特許文献18】Gygi(ギジ)SPほか、1999、Mol Cell Biol.、19:1720-1730
【非特許文献19】Huber(ヒューバー)ほか、2004、Mol Cell Proteomics、3:43-55
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
侵襲性が低く、再現可能で、そしてロバストな(サンプリングおよび解釈エラーによる影響が低い)、慢性拒絶反応を含む同種移植片拒絶反応を評価または診断する方法が、大いに望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の概略
本発明は1つまたはそれよりも多いゲノム発現プロファイリング、プロテオミクス発現プロファイリング、代謝産物プロファイリングまたはアロ反応性T細胞ゲノム発現プロファイリングを使用する心臓同種移植の急性拒絶反応を診断する方法に関する。
【0030】
急性心臓同種移植拒絶反応の複雑な病理生物学は、本明細書において特定されるマーカーの異質性に反映される。本明細書において特定されるマーカーは、次の生物学的プロセスの範囲にわたって分布する:細胞および体液性免疫反応、急性期炎症性経路(acute phase inflammatory pathways)、マトリクスリモデリング効果(matrix remodeling effects)、脂質代謝、ストレス反応および同様の他のもの。
【0031】
本発明の1つの局面に従い、ゲノム発現プロファイリングを使用して、対象体において急性同種移植拒絶反応を診断する方法が提供され、その方法には、次の段階、すなわち、a)対象体からの生物学的サンプルにおいて、1つまたは1つよりも多くのゲノムマーカーの発現プロファイルを決定する段階であって、該マーカーが、TRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2、MBD4を包含するグループより選ばれる、段階;b)1つまたは1つよりも多くのマーカーの発現プロファイルをコントロールプロファイルと比較する段階;およびc)1つまたは1つよりも多くのゲノムマーカーの発現レベルがコントロールプロファイルと比較して増加または減少するかどうかを決定する段階が含まれ、少なくとも9つのマーカーの増加または減少は、急性拒絶反応の状態を示す。
【0032】
本発明のもう一つの局面に従って、本方法はさらに一つ以上の臨床的変数についての値を得る段階、および一つ以上の臨床的変数をコントロールと比較する段階を含む。
【0033】
本発明のもう一つの局面に従い、本方法はさらに、表6に列挙される一つ以上のマーカーのゲノム発現プロファイルを決定する段階を含むことができる。
【0034】
本発明のもう一つの面に従い、TRF2およびFGFR1OP2はコントロールと比較して増加し得、およびSRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、MBD4はコントロールと比較して減少し得る。
【0035】
本発明のもう一つの局面に従って、コントロールは非拒絶反応、同種移植レシピエント対象体または非同種移植レシピエント対象体である。
【0036】
本発明のもう一つの局面に従い、コントロールは自己コントロールである。
【0037】
本発明のもう一つの面に従い、ゲノム発現プロファイリングを用いて、対象体において、急性同種移植拒絶反応を評価、予測または診断するためのキットが提供され、キットは、TRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2、MBD4のうちの1つまたは複数の特異的および定量的な検出のための試薬を、そのような試薬および結果として生じるデータを分析する方法の使用のための指示とともに含む。キットはさらに、TRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2、MBD4をコードしている1つまたは複数の遺伝子または転写物に対する選択的なハイブリダイゼーションのための一つ以上のオリゴヌクレオチドを含むことができる。対象体の拒絶反応の状態の診断ための非拒絶反応カットオフインデックスまたはコントロールを提供するためにキットの結果を他のアッセイのものと組み合わせるのに役に立つ指示または他の情報を、キットにおいて提供することもできる。
【0038】
本発明の1つの局面に従って、対象体で急性同種移植拒絶反応を診断する方法が提供される。この方法は次の段階、すなわち、a)対象体からの生物学的サンプルで5または5より多くのマーカーの発現プロファイルを決定する段階であって、該マーカーが、B2M、F10、CP、CST3、ECMP1、CFH、C1QC、CFI、APCS、C1R、SERPINF1、PLTP、ADIPOQおよびSHBGによってコードされるポリペプチドを包含するグループから選ばれる、段階;b)1つまたは複数のマーカーの発現プロファイルをコントロールプロファイルと比較する段階;およびc)1つまたは複数のマーカーの発現レベルがコントロールプロファイルと比較して増加または減少するかどうかを決定する段階を含み、1つまたは複数のマーカーの増加または減少は、急性拒絶反応の状態を示す。
【0039】
本発明のもう一つの局面に従い、5または5よりも多くのマーカーは、PLTP、ADIPOQ、B2M、F10およびCPを含む。
【0040】
本発明のもう一つの局面に従って、5または5よりも多くのマーカーは、PLTP、ADIPOQ、B2M、F10およびCP、ならびに1つまたは1つより多くのECMP1、C1QC、C1RおよびSERPINF1を含む。
【0041】
本発明のもう一つの局面に従って、本方法はさらに、一つ以上の臨床的変数についての値を得る段階、および一つ以上の臨床変数をコントロールと比較する段階を含む。
【0042】
本発明のもう一つの局面に従い、B2M、F10、CP、CST3、ECMP1、CFH、C1QC、CFI、APCS、C1Rおよび/またはSERPINF1は、コントロールと比較して増加し得、およびPLTP、ADIPOQおよび/またはSHBGはコントロールと比較して減少し得る。
【0043】
本発明のもう一つの局面に従い、コントロールは、非拒絶反応、同種移植レシピエント対象体または非同種移植レシピエント対象体である。
【0044】
本発明のもう一つの局面に従い、コントロールは自己コントロールである。
【0045】
本発明のもう一つの局面に従って、対象体において、急性同種移植拒絶反応を評価、予測または診断するためのキットが提供され、このキットは、B2M、F10、CP、CST3、ECMP1、CFH、C1QC、CFI、APCS、C1R、SERPINF1、PLTP、ADIPOQおよびSHBGによってコードされるポリペプチドを包含する、5または5よりも多くの特異的および定量的な検出のための試薬を、そのような試薬の使用および結果として生じるデータを分析する方法のための指示とともに含む。対象体の拒絶反応の状態の診断のための非拒絶反応カットオフインデックスまたはコントロールを提供するためにキットの結果を他のアッセイのものと組み合わせるのに役に立つ指示または他の情報を、キットにおいて提供することもできる。
【0046】
本発明のもう一つの局面に従って、5または5よりも多くのマーカーは、PLTP、ADIPOQ、B2M、F10およびCPによってコードされるポリペプチドを含む。
【0047】
本発明のもう一つの局面に従って、5または5よりも多くのマーカーは、PLTP、ADIPOQ、B2M、F10およびCP、ならびに1つまたは複数のECMP1、C1QC、C1RおよびSERPINF1を含む。
【0048】
本発明の1つの局面に従って、対象体において、急性同種移植拒絶反応を診断する方法が提供され、この方法は、次の段階、すなわち、a)対象体からのアロ反応性T細胞を含む、対象体からの生物学的サンプルにおける1つまたは1つよりも多くのマーカーの発現プロファイルを決定する段階であって、1つまたは1つよりも多くの該マーカーが、KLF12、TTLL5、239901_at、241732_at、OFD1、MIRH1、WDR21A、EFCAB2、TNRC15、LENG10、MYSM1、237060_at、C19orf59、MCL1、ANKRD25、MYL4を包含するグループより選ばれる、段階;b)1つまたは1つよりも多くのマーカーの発現プロファイルを、非拒絶体のアロ反応性T細胞コントロールプロファイルと比較する段階;およびc)マーカーの発現レベルがコントロールプロファイルと比較して増加または減少するかどうかを決定する段階を含み、マーカーの上方制御または下方制御は、急性拒絶反応の状態を示す。
【0049】
本発明のもう一つの局面に従って、KLF12、TTLL5、239901_at、241732_at、OFD1、MIRH1、WDR21A、EFCAB2、TNRC15、LENG10およびMYSM1はコントロールと比較して減少し得、237060_at、C19orf59、MCL1、ANKRD25およびMYL4はコントロールと比較して増加し得る。
【0050】
本発明のもう一つの局面に従い、対象体において、急性同種移植拒絶反応を診断するためのキットが提供され、このキットは、アロ反応性T細胞の単離のための試薬、KLF12、TTLL5、239901_at、241732_at、OFD1、MIRH1、WDR21A、EFCAB2、TNRC15、LENG10、MYSM1、237060_at、C19orf59、MCL1、ANKRD25、MYL4の特異的および定量的な検出のための試薬を、そのような試薬の使用および結果として生じるデータを分析する方法のための指示とともに含む。さらに、キットは、KLF12、TTLL5、239901_at、241732_at、OFD1、MIRH1、WDR21A、EFCAB2、TNRC15、LENG10、MYSM1、237060_at、C19orf59、MCL1、ANKRD25、MYL4のいくつかまたは一部をコードしている1つまたは複数の遺伝子または転写物に対する選択的なハイブリダイゼーションのための一つ以上のオリゴヌクレオチドを含むことができる。対象体の拒絶反応の状態の診断のための非拒絶反応カットオフインデックスまたはコントロールを提供するためにキットの結果を他のアッセイのものと組み合わせるのに役に立つ指示または他の情報を、キットにおいて提供することもできる。
【0051】
本発明の1つの局面に従って、対象体において急性同種移植拒絶反応を診断する方法が提供され、この方法は以下の段階、すなわち、a)対象からの生物学的サンプルにおいて、1つまたは1つより多くのマーカーの発現プロファイルを決定する段階であって、1つまたは1つより多くの該マーカーが、KLF12、TTLL5、239901_at、241732_at、OFD1、MIRH1、WDR21A、EFCAB2、TNRC15、LENG10、MYSM1、237060_at、C19orf59、MCL1、ANKRD25、MYL4を包含するグループより選ばれる、段階;b)1つまたは1つより多くのマーカーの発現プロファイルをコントロールプロファイルと比較する段階;およびc)マーカーの発現レベルがコントロールプロファイルと比較して増加または減少するかどうかを決定する段階を含み、マーカーの増加または減少は、急性拒絶反応の状態を示す。
【0052】
本発明のもう一つの局面に従い、本方法はさらに、一つ以上の臨床的変数についての値を得る段階、および一つ以上の臨床変数をコントロールと比較する段階を含む。
【0053】
本発明のもう一つの局面に従い、コントロールは非拒絶反応、同種移植レシピエント対象体または非同種移植レシピエント対象体である。
【0054】
本発明のもう一つの局面に従い、コントロールは自己コントロールである。
【0055】
本発明のもう一つの局面に従い、対象体において、代謝産物プロファイルを用いて、心臓同種移植拒絶反応を診断する方法が提供され、この方法は、次の段階、すなわち、対象体からの生物学的サンプルにおいて少なくとも3つのマーカーの濃度を測る段階であって、該マーカーが、クレアチン、タウリン、セリン、カルニチンおよびグリシンを包含するグループから選ばれる、段階、少なくとも3つのマーカーの各々の濃度を、非拒絶体代謝産物プロファイルカットオフインデックスと比較する段階、および対象体の拒絶反応状態を決定する段階を含み、それによって、対象体の拒絶反応状態が、コントロール代謝産物プロファイルカットオフインデックスを上回るまたは下回る少なくとも3つのマーカーの各々の濃度によって指し示される。
【0056】
本発明のもう一つの局面に従って、少なくとも3つのマーカーは、タウリン、セリンおよびグリシンであり、マーカーの濃度は絶対比較であり、タウリン、セリンおよびグリシンマーカーの各々は非拒絶反応代謝産物カットオフインデックスと比較して減少する。
【0057】
本発明のもう一つの局面に従い、少なくとも3つのマーカーは、グリシン、クレアチンおよびカルニチンであり、該マーカーの濃度は、代謝産物ベースライン比較に関連し;かつ、クレアチンおよびカルニチンのマーカーの各々は非拒絶反応代謝産物プロファイルカットオフインデックスと比較して増加し、グリシンマーカーは非拒絶反応代謝産物プロファイルカットオフインデックスと比較して減少する。
【0058】
本発明のもう一つの局面に従い、代謝産物プロファイルを使う心臓同種移植拒絶反応を診断する方法は、一つ以上の臨床変数についての値を得る段階を更に含む。
【0059】
したがって、移植された組織または器官の生検を伴わずに、急性同種移植片拒絶反応を診断する方法を提供することが、本発明のいくつかの局面における利益である。
【0060】
本発明のこの概要は、必ずしも本発明のすべての特長を説明するというわけではない。本発明の他の局面、特長および利益は、本発明の具体的態様の以下の説明を概観することにより、当業者にとって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
これらのおよび他の本発明の特長は、添付の図面を参照して以下の説明からより一層明らかになる。
【0062】
【図1】研究における対象体のサンプルマップを示す。正方形は、マイクロアレイデータのサンプルを得た時点を示す。円は≧2R拒絶反応を有する関連した組織生検の診断を示し、対して、三角形は関連した組織生検における1R拒絶反応を示す。Xは、拒絶反応の無い組織生検と関連があるサンプルである。
【図2】12の遺伝子のバイオマーカーパネルを用いた対象体分類の結果を示す。対象体は、以前、急性拒絶反応(>2R)を持つか、または拒絶反応を持たない(0R)と判断された。このバイオマーカーパネルのための遺伝子のリストは以下を含む:トランスフェリン受容体2(TFR2)、SLIT-ROBO Rho GTPase活性化タンパク質2偽遺伝子1(SRGAP2P1)、クルッペル様因子4(KLF4)、YLPモチーフ含有1(YLPM1)、BH3相互作用ドメインデスアゴニスト(BID)、ミリストイル化されたアラニンリッチプロテインキナーゼC基質(MARCKS)、C-タイプレクチンドメインファミリー2、メンバーB(CLEC2B)、Rhoグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)7、(ARHGEF7/BETA-PIX)、リゾホスホリパーゼ様1(LYPLAL1)、トリプトファンリッチ塩基性タンパク質(WRB)、FGFR1オンコジーンパートナー2(FGR1OP2)、メチルCpG結合ドメインタンパク質4(MBD4)。ダイヤモンド - 急性拒絶体(AR);円 - 非拒絶体(NR)。
【図3】バイオマーカーARHGEF7、TRF2、BID、MARCKS、KLF4、CLEC2BおよびMBD4の間の提案された関係を示す。
【図4】臨床的に変動するプロファイリングを使用する対象体分類の概略を示す。ダイヤモンド - 急性拒絶体(AR);円 - 非拒絶体(NR)。
【図5】異なるペプチド計数(p)を使用して特定したタンパク質グループコード(PGC)の割合である。iTRAQの実行における平均ペプチド計数が、複数の実行での確認されたPGCに使われた。「合計」(水平スラッシュバー)、「分析済」(斜めのスラッシュバー)、および「パネル」(垂直スラッシュバー)は、それぞれ、本発見に含まれる18のサンプルのうちの少なくとも1つで見つけられた、AR(急性拒絶反応)およびNR(非拒絶反応)グループの少なくとも2/3で見つけられた、ならびに有意に異なる相対的濃度により特定されたPGCのセットを表す。
【図6】血漿タンパク質パネルAプロテオミクスマーカーである。Aは、各時点での、すべての入手できるARサンプル(実線)およびNRサンプル(点線または破線)についての、パネルAに基づいてLDAによって作成したスコアの平均である。Bは、患者がNR事象とAR事象との間を移行した場合のスコアである。第1の連続的なAR時点は、AR患者から検討および平均された(AR(実線))。ARの前のNR(AR前NR)、および後(AR後NR)の連続的な時点は、同じ患者から検討および平均された。コントロール曲線(点線または破線)は、入手できる時点毎にAR患者にできるだけ密接に合致したNR患者について構築された。各々のグループ内の標準偏差を、垂直バーを使って示す。
【図7】プロテオミクスマーカーの内部検証である。パネルA(FDR<25%)およびパネルB(SDAによって選択)を用いた13の新しい対象体サンプルの分類である。双方の分類子によって作成したスコアは、双方に分類用のカットオフラインをゼロに設定するために、再度中心に置いた。トレーニングセットにおけるAR(白抜きの星)およびNR(塗りつぶした星)サンプルの各々についての平均スコアは、それぞれ、赤および黒の色の星印を使って示す。試験セットにおけるAR(塗りつぶした三角)およびNR(塗りつぶした四角)サンプルの各々についてのスコアを示す。LDAにより、正の値を有するサンプルを、ARと分類し、負の値を有するものはNRと分類した。
【図8】プロテオミクスマーカーの技術的な検証である。本発見において使われた18の対象体サンプルからの5つの検証されたタンパク質の、iTRAQ対ELISAの相対タンパク質レベル(プールされたコントロールと比較)。ARサンプル=白抜き円;NRサンプル=塗りつぶし円。正の相関の試験からのスピアマンの相関係数(Cor)およびp値を、各タンパク質について各々のプロットの右下に示す。
【図9】サンプルがメタボロミクス研究に含まれた対象体のサンプルマップを示す。四角は、メタボロミックなデータのサンプルが入手できた時点を示す。円は、≧2R拒絶反応を有する関連した組織生検の診断を指し示し、対して、三角は関連した組織生検での1R拒絶反応を示す。Xは、拒絶反応の無い組織生検に関連したサンプルである。
【図10】メタボロミクスの研究における対象体のグループ分けを示し、モデレートt検定(moderated t-test)を使って代謝産物濃度が分析された際の、心臓同種移植の拒絶反応0Rまたは>2Rを示す。移植後サンプルの絶対濃度を分析した場合、3つの代謝産物はモデレートt検定を使用して統計的に有意であった。水平線は、各々のグループでの平均を示す。全サンプル集団は、急性拒絶体(AR)対象体からの6つのサンプルと、非拒絶体(NR)対象体からの21のサンプルを含んだ。ダイヤモンド - 急性拒絶体(AR);円-非拒絶体(NR)。
【図11】モデレートt検定を使って代謝産物濃度を分析した場合に拒絶反応0Rまたは>2Rを示す対象体のグループ分けを示す。移植後サンプルの濃度をベースライン濃度と比較した場合、3つの代謝産物はモデレートt検定を使用して統計的に有意であった。線は各々のグループの平均を示す。全サンプル集団は、AR対象体からの6つのサンプルと、NR対象体からの21のサンプルを含んだ。ダイヤモンド - 急性拒絶体(AR);円 - 非拒絶体(NR)。
【図12】アロ反応性T細胞対象体集団での対象体のサンプルマップを示す。四角は、マイクロアレイデータのためのサンプルが入手できた時点を示す。円は、拒絶反応≧2Rを有する関連した組織生検の診断を示し、対して、三角形は関連した組織生検における拒絶反応1Rを示す。Xは、拒絶反応の無い組織生検に関連したサンプルである。
【図13】アロ反応性T細胞遺伝子バイオマーカーは、全血遺伝子バイオマーカーの、拒絶反応のないものから急性拒絶反応を区別する分類能力を高める。全血からの遺伝子のパネルは、バイオマーカーパネル(A)として、拒絶反応のないものから急性拒絶反応を区別するために用いる。アロ反応性T細胞リストからの2つの遺伝子を追加した場合、分類はさらに分けられる(B)。ダイヤモンド - 急性拒絶体(AR);円 - 非拒絶体(NR)。
【図14】iTRAQ実験のためにパネルAとB(表10)におけるタンパク質についてタンパク質範囲マップの例を示す(この実行は、B-314-W12、B-314-W6およびB-415-W12を処理するのに用いた)。各々のグループ〔共通のタンパク質グループコード(PGC)を有する〕のタンパク質が示され、そして整列され、そこで2つ以上のタンパク質はPGCを共有する。二重下線、太字でない=信頼区間(確認の信頼度)≧95%で確認したペプチド;単一下線、太字でない=50%≦CI<95%;下線がなく、太字=0%≦CI<50%;および、プレーンテキスト(下線なし、太字でない)は未検出のペプチドに関する。A:PGC 151:リン脂質輸送タンパク質前駆体-リン脂質輸送タンパク質前駆体のIPI00643034.2(PLTP)アイソフォーム1(SEQ ID NO:1);リン脂質輸送タンパク質前駆体のIPI00217778.1(PLTP)アイソフォーム2(SEQ ID NO:2);IPI00022733.3(PLTP)45kDaのタンパク質(SEQ ID NO:3)。B:B:PGC 92:アディポネクチン前駆体IPI00020019.1(SEQ ID NO:4)。C:PGC 61:色素上皮由来因子前駆体IPI00006114.4(SEQ ID NO:14)。D:PGC 188:ベータ-2-ミクログロブリン-IPI00868938.1(-)ベータ-2-ミクログロブリン(SEQ ID NO:5);IPI00796379.1(B2M)B2Mタンパク質(SEQ ID NO:6);IPI00004656.2(B2M)ベータ-2-ミクログロブリン(SEQ ID NO:7)。E:PGC 84:凝固因子X前駆体IPI00019576.1(SEQ ID NO:8)。F:PGC 6:セルロプラスミン(IPI00017601.1(SEQ ID NO:9)。G:PGC 76:補体C1qサブコンポーネントサブユニットC前駆体IPI00022394.2(SEQ ID NO:12)。H:PGC 26:補体C1rサブコンポーネント前駆体IPI00296165.5(SEQ ID NO:13)。I:PGC 62:細胞外マトリクスタンパク質-IPI00645849.1細胞外マトリクスタンパク質1(SEQ ID NO:10);IPI00003351.2細胞外マトリクスタンパク質1前駆体(SEQ ID NO:11)。iTRAQ実験で特定されたペプチドを図17に列挙する。
【図15】iTRAQ実験のための追加的な特定されたプロテオミクスマーカー(表10)についてタンパク質範囲マップの例を示す(この実行は、B-314-W12、B-314-W6およびB-415-W12を処理するのに用いた。各々のグループ(共通のタンパク質グループコード(PGC)を有する)におけるタンパク質が示され、そして整列され、そこで2つ以上のタンパク質はPGCを共有する。二重下線、太字でない=信頼区間(確認の信頼度)≧95%で確認したペプチド;単一下線、太字でない=50%≦CI<95%;下線なし、太字=0%≦CI<50%;および、プレーンテキスト(下線なし、太字でない)は未検出ペプチドに関する。これらのタンパク質はパネルAとBの外にあったが、しかし、ARおよびNRの対象体間の異なる発現を示した(P値<0.05)。A: PGC 110:シスタチン-C前駆体(CST3)IPI00032293.1(SEQ ID NO:15)。B:PGC138:性ホルモン結合グロブリン(SHBG)アイソフォーム2 IPI00219583.1(SEQ ID NO:16);SHBGアイソフォーム1 IPI00023019.1(SEQ ID NO:17)。C:PGC 8:CFHアイソフォーム1 IPI00029739.5(SEQ ID NO:18)。D:PGC 50:補体第I因子(CFI)前駆体IPI00291867.3(SEQ ID NO:19);IPI00872555.2(cDNA FLJ76262によってコードされる)(SEQ ID NO:20)。E:PGC 48:血清アミロイドP-成分前駆体IPI00022391.1(SEQ ID NO:21)。
【図16】図16A〜Lは、表6に列挙する、急性心臓同種移植拒絶反応の診断に役立つ12の核酸マーカーの標的配列を示す(SEQ ID NO:25〜36)。
【図17】本発明のいくつかの態様にしたがいiTRAQアッセイにおいて特定された代表的なペプチドを示す。リストはさらに、それらの割り当てられたタンパク質グループコードとSEQ ID NO:37〜307を含む。
【図18】図18A〜Pは、アロ反応性T細胞での、急性心臓同種移植拒絶反応の診断に役立つ16の核酸マーカーの標的配列を示す(表9に列挙)(SEQ ID NO:345〜360)。
【図19】図19A〜Z、AA〜KKは急性心臓同種移植拒絶反応の診断に役立つ37の核酸マーカーの標的配列を示す(表10に列挙)(SEQ ID NO:361〜397)。
【発明を実施するための形態】
【0063】
詳細な説明
次に続く説明では、いくつかの用語が、広範囲に使われ、以下の定義が本発明のいろいろな面の理解を容易にするために提供される。用語の例を含めた本明細書の例の使用は、例示の目的のためだけであり、ここでの本発明の態様の範囲および意味を制限することを意図しない。数値範囲は、その範囲を定める数を含む。本明細書において、「含む(備える)(comprising)」という語がオープンエンドの(制限のない)用語として使われ、「包含し、しかし限定されない」という表現と実質的に等価であり、そして語「含む(comprises)」は同等の意味をもつ。
【0064】
本発明は、組織または器官同種移植、特に心臓同種移植を受けた対象体における拒絶反応を診断する方法を提供する。
【0065】
本発明は、対象体において、同種移植片拒絶反応の評価、予測または診断に関連するゲノム、T細胞、核酸、プロテオミクス発現プロファイルまたは代謝産物プロファイルを提供する。ゲノムまたはT細胞発現プロファイル、プロテオミクス発現プロファイルまたは代謝産物プロファイルの要素のいくつかは既存の技術において単独では既知であることもある一方、ゲノム、T細胞、またはプロテオミクス、または代謝産物マーカーの特定のセットの発現レベルの変化(コントロールと比較した増加または減少)の特定の組合せは、対象体において評価、予測または診断または同種移植片拒絶反応に役立つ新しい組合せを含む。
【0066】
同種移植片は、同じ種の2つの遺伝的に異なる対象体の間で移植される器官または組織である。同種移植片を受ける対象体は「レシピエント(受け取り手)」である一方、同種移植片を提供する対象体は「ドナー(供与体)」である。組織または器官同種移植片は、あるいはまた「移植片(transplant)」、「移植片(graft)」、「同種移植片」、「ドナー組織」または「ドナー器官」または類似した用語として称することができる。異なる種の2つの対象体の間の移植は、異種移植片である。
【0067】
対象体は文献で周知であるさまざまな症状または臨床的変数を呈することがあるが、それら自体はいずれも同種移植片拒絶反応を予測するまたは診断するものではない。同種移植片の生検に加えて、無数の臨床的変数が、同種移植片拒絶反応があるか、あるいはその疑いがある対象体を評価する際に使われうる。対象体の免疫抑制性薬物治療を改変するために、これらの臨床変数から得られる情報は、次いで拒絶反応が起こっているかどうか、そしてそれがどれくらい速く進行するかを決定する試みにおいて臨床フィールドで臨床医、医者、獣医または他の施術者によって使われる。臨床的変数の例は、表2に示す。
【0068】
主流な医療において臨床医が現在利用できる唯一の実用的なツールである臨床的変数(任意で、生検を伴う)は、図4に示すAR(急性拒絶体)対象体およびNR(非拒絶体)対象体の間を明確に区別することが必ずしもできない。極端な左および右の対象体はARまたはNRとして正しく分類されるが、対象体の大半は中間域に示され、そしてそれらの状態は不明である。このことは同種移植片拒絶反応の評価における臨床的変数の値を否定するものではないが、他の方法がなくて使われるときのそれらの限界を示す。
【0069】
(表2)同種移植片拒絶反応の評価における可能性のある使用のための臨床的変数





【0070】
同種移植片拒絶反応の予測、診断および評価の多因子性は、同種移植片拒絶反応の予測、診断または評価の必要性のちょうど1つを満たす単一のバイオマーカーの可能性を排除すると見なされる。複数のマーカーを含む戦略は、この多因子の性質を考慮することができる。あるいはまた、複数のマーカーは、対象体で同種移植片拒絶反応の予測、診断および/または評価を手直しするために、より一層侵襲性でない(例えば、生検が不要)臨床的変数と組み合わせて評価されうる。
【0071】
同種移植片拒絶反応の予測、診断および評価のために使われる方法にかかわらず、器官または組織機能を維持し、より全身的な有害事象を防ぐ視点から、早期であることが好ましい。拒絶反応があまりに速く進行したか、または免疫抑制薬の干渉療法で修正するにはあまりに重度である場合、同種移植片拒絶反応の「治癒」はなく、適切に免疫抑制された状態に対象体を保つのみ、または場合によっては、臓器移植するのみである。
【0072】
タンパク質またはポリペプチドデータセット、代謝産物濃度データセット、または核酸発現データセットへの複数の数学的および/または統計的分析の適用は、重要なマーカーの変動するサブセットを示し、どの方法が「最適」または「より一層正確」かについて不確実性を導くことがある。数学に関係なく、根底にある生物学はデータセットにおいて同じである。複数の数学的および/または統計的方法をマイクロアレイデータセットに適用し、そして共通のマーカーの各々についての統計的に有意なサブセットを評価することによって、不確実性を低減し、そして臨床的に妥当な、マーカーの中心的な群を特定することができる。
【0073】
「マーカー」、「生物学的マーカー」または「バイオマーカー」は、互換的に使うことができ、そして概して生物学的サンプル中の検出可能な(そして、場合によっては定量可能な)分子または化合物を意味する。マーカーは同種移植片の移植の後、対象体において下方制御(低減)されるか、上方制御(増加)されるか、事実上不変である場合がある。マーカーは、「ゲノミクス」マーカー(代替的に「核酸マーカー」とも称される)に関しては、核酸(DNAまたはRNA)、遺伝子または転写物、あるいは転写物の部分または断片を含むことができ、「プロテオミクス」マーカーに関しては、ポリペプチド、ペプチド、タンパク質、アイソフォーム、またはそれらの断片または部分を含むことができ、あるいは選ばれた分子、それらの前駆体、中間体または分解生成物(例えば、その脂肪酸、アミノ酸、糖類、ホルモン、またはその断片またはサブユニット)(「代謝産物マーカー」または「メタボロミクスなマーカー」)を含むことができる。いくつかの使用法では、これらの用語は、対象体の生体試料での、特定のタンパク質、ペプチド、核酸またはポリヌクレオチド、または代謝産物のレベルまたは量(絶対的な用語において、または別のサンプルまたは標準的な値と比較して)または2つのタンパク質、ポリヌクレオチド、ペプチドまたは代謝産物のレベルの間の比率のレベルまたは量を意味する。レベルは、濃度、たとえば、ミリリットルあたりのマイクログラムとして;比色強度、たとえば、特定の光波長で透明を0.0不透明を1.0として、それに従って実験サンプルをランク付けして、特定の波長での光の伝送または吸収に基づく数的なスコアを受領することで;または、当該技術分野において既知の、マーカーを定量するための他の手段と関連して、表すことができる。いくつかの例では、比率は単位のない値として表されうる。「マーカー」はまた、ベースライン値を減算した後の比率または正味の値を意味することもできる。指向性(増加または減少/上または下)の指標の有無にかかわらず、マーカーは「倍率変化」としても表されうる。マーカーの発現の増加または減少は、「下方制御」もしくは「上方制御」、または刺激、生理的事象、対象体の条件に応じた増加または減少の類似した指標として称されうる。マーカーは最初の生体試料で存在し、そして第2の生体試料で不在である場合があり、あるいはまた、マーカーは2つの間で統計的に有意な違いを有して両方に存在しうる。生体試料におけるマーカーの存在、欠如または相対的なレベルの発現は、マーカーを定量または評価するのに用いられるアッセイの性質に依存し、そしてそのような発現の様式は当業者に精通されている。
【0074】
同種移植片に拒絶反応を示している対象体の発現のレベルが、ある対象体のもの、または拒絶反応を示していない対象体から採取されたサンプルのものと有意に異なるとき、マーカーは示差的に発現されるとして説明できる。示差的に発現されたマーカーは、正常またはコントロールサンプルの発現レベルと比較して過剰発現するかまたは過小発現しうる。
【0075】
「プロファイル」は、1つまたはそれよりも多くのマーカー、およびそれらの存在、不在、相対的なレベルまたは豊富さ(一つ以上のコントロールと比較して)のセットである。たとえば、代謝産物プロファイルは、代謝産物マーカーの存在、不在、相対的なレベルまたは豊富さのデータセットである。プロテオミクスプロファイルは、プロテオミクスマーカーの存在、不在、相対的なレベルまたは豊富さのデータセットである。ゲノムプロファイルまたは核酸プロファイルは、発現された核酸(例えば、転写物、mRNA、ESTなど)の存在、不在、相対的なレベルまたは豊富さのデータセットである。プロファイルは、代替的に発現プロファイルと呼ばれる場合がある。
【0076】
生体試料でのマーカーの増加または減少、または定量は、遺伝子産物または転写物、または特定の配列を含む核酸分子、ポリペプチドもしくはタンパク質、代謝産物、または同様のものの存在および/または相対的な豊富さを測定するために当該技術分野で既知の任意のいくつかの方法でも決定されうる。マーカーのレベルは、絶対値として、またはベースライン値との相対値として、およびカットオフインデックス(例えば、拒絶反応を示さないカットオフインデックス)と比較した対象体のマーカーのレベルとして、決定することができる。あるいはまた、マーカーまたはマーカー群の相対的な豊富さは、コントロールと比較して決定することができる。コントロールは、臨床的に正常な対象体(例えば、同種移植を受けなかったもの)であってよく、または拒絶反応を以前に示さなかった同種移植レシピエントであってよい。
【0077】
いくつかの態様において、コントロールは自家のコントロール、たとえば、同種移植片移植を受ける前に対象体から得られるサンプルまたはプロファイルであってもよい。いくつかの態様において、一つ以上の時点(移植前、移植後、または移植前後)に得られるプロファイルは、以前に同じ対象体から得られたもの、または1つまたは複数のプロファイルと比較されうる。時間をかけて同じ対象体から同じ生体試料を繰り返しサンプリングすることによって、経時的なマーカーレベルまたは発現を示す複合プロファイルを提供することができる。連続したサンプルはまた対象体から、および、各々について得られたプロファイルから得られ、それにより、一つ以上のマーカーの経時的な増加または減少の過程を追うことができる。たとえば、最初のサンプルまたはサンプル群を、移植の前に採取し、次のサンプルを、毎週、隔週、毎月、隔月で、または適切な別の規則正しい間隔で採取してもよく、そして先に採取したサンプルからのプロファイルと比較することができる。サンプルはまた、薬物、たとえば、免疫抑制薬の一連の投与の前、その間、そしてその後にも採取することができる。
【0078】
技術、方法、ツール、アルゴリズム、試薬および特定のマーカーまたはマーカー群のセットを検出および/または定量するために使用することができるアッセイの他の必要な局面は変動する。重要なのは、マーカーまたはマーカー群のセットを検出するのに用いる特定の方法でなく、検出するマーカーが何かである。文献に反映されているように、無数のバリエーションが可能である。検出されるか、定量されるマーカーまたはマーカー群のセットが一旦特定されると、適切な試薬に従って、いくつかの技術のうち任意のものがより適切でありうる。特定されるマーカーのセットが提供されているとき、当業者は本明細書に開示された方法を実行するのに適切なアッセイを選ぶことができる(たとえば、核酸マーカーに関して、PCRに基づくまたはマイクロアレイに基づくアッセイ、ELISA、タンパク質または抗体マイクロアレイまたは類似した免疫学的アッセイ、またはいくつかの例において、iTRAQ、iCATまたはSELDIプロテオミクス質量分析に基づく方法の使用)。
【0079】
本発明は、対象体における同種移植片拒絶反応の評価、予測または診断に関連した核酸発現プロファイル(ゲノムおよびT細胞の両方)とプロテオミクス発現プロファイルおよび代謝産物プロファイルを提供する。ゲノムまたはT細胞発現プロファイル、プロテオミクス発現プロファイル、または代謝産物プロファイルの要素のいくつかが既存の技術で個々に公知であることがあるものの、ゲノム、またはT細胞、プロテオミクス、または代謝産物マーカーの特定のセットの発現レベルの変化(コントロールと比較した増加または減少)の特定の組合せは、対象体における同種移植片拒絶反応の評価、予測または診断に役立つ新しい組合せを含む。
【0080】
たとえば、核酸の検出または決定、そして、場合によっては定量は、制限されないが、配列特異的ハイブリダイゼーション、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、RT-PCR、マイクロアレイおよび同様の他ものなどを含む当該技術分野において既知の組換えDNA技術を用いるいくつかの方法またはアッセイのうちの任意の1つによって成し遂げることができる。そのようなアッセイには、配列特異的ハイブリダイゼーション、プライマー伸長法、または侵襲性開裂(invasive cleavage)が含まれる。さらにまた、各々のタイプの反応の生成物を分析し/検出するための多数の方法がある(たとえば、蛍光、ルミネセンス(発光)、質量測定、電気泳動、その他)。さらにまた、反応は、溶液中で、または、ガラススライド、チップ、ビーズなどの固体支持体上で起こりうる。
【0081】
マイクロアレイまたはバイオチップで使用するための、または、PCRに基づくアッセイでの使用のためにプライマーを選ぶまたは設計するためのプローブを設計および選定する方法は、当該技術分野において公知である。一旦、マーカーまたはマーカー群が特定されると、および、核酸の配列がたとえば当該配列を含むデータベースと照合するか提供された適切な配列(たとえば、本明細書に提供される配列表)を有することによって決定されると、当業者はそのような情報を用いて、適切なプローブまたはプライマーを選び、選ばれたアッセイを実行する。
【0082】
当業者に既知の組換えDNA技術の一般原則を述べる標準的参考資料は、たとえば、以下のものを含む。すなわち、Ausubel(オースベル)ほか、Current Protocols In Molecular Biology、John Wiley & Sons(ジョン・ワイリー・アンド・サン社)、ニューヨーク(1998および2001の補遺)、Sambrookほか、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press(コールドスプリングハーバー研究所プレス)、Plainview, New York (1989)、Kaufman(コーフマン)ほか、編、Handbook Of Molecular And Cellular Methods In Biology And Medicine、CRC Press(CRCプレス社)、Boca Raton(ボカラトン)(1995)、McPherson(マクファーソン)編、Directed Mutagenesis:A Practical Approach、IRLプレス、Oxford(オックスフォード)(1991)。
【0083】
タンパク質、タンパク質複合体またはプロテオミクスマーカーは、当該技術分野で公知であるいろいろな方法によって、特異的に特定および/または定量することができ、単独あるいは組み合わせて使われうる。免疫学的すなわち抗体に基づく技術には、酵素結合抗体免疫測定法(ELISA)、標識免疫検定法(RIA)、ウエスタンブロッティング、免疫蛍光、マイクロアレイ、いくつかのクロマトグラフィー技術(すなわち、免疫親和性クロマトグラフィー)、フローサイトメトリー、免疫沈降および同様の他のものなどを含む。そのような方法は、関心対象のタンパク質またはタンパク質複合体と関係した特定のエピトープまたはエピトープ群の組合せのために抗体または抗体群の特異性に基づく。非免疫性の方法には、タンパク質またはタンパク質複合体それ自体の物理的な特徴に基づくものが含まれる。そのような方法の例には、電気泳動、いくつかのクロマトグラフィー技術(たとえば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、迅速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)、アフィニティ(親和性)クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ除外クロマトグラフィーなど)、質量分析、配列決定、プロテアーゼダイジェスト(消化)、などが含まれる。そのような方法は、質量、電荷、疎水性または親水性に基づき、それはタンパク質またはタンパク質複合体のアミノ酸補足物(complement)、およびアミノ酸の特定の配列に由来する。質量分析を使用する方法の例には、たとえば、PCT国際公開WO 2004/019000、WO 2000/00208、米国特許第6670194号明細書において記述されるものが含まれる。免疫学的および非免疫性の方法は、タンパク質またはタンパク質複合体を特定するか、特徴づけるために組み合わされてもよい。さらにまた、各々のタイプの反応の生成物を分析/検出するための多数の方法がある(たとえば、蛍光、発光、質量測定、電気泳動、その他)。さらにまた、反応は、溶液中で、またはガラスのスライド、チップ、ビーズなどの固体支持体上で起こすことができる。
【0084】
タンパク質アレイまたは抗体アレイまたは他の免疫学に基づくアッセイで使用するために抗体を生産する方法は、当該技術分野で公知である。一旦、マーカーまたはマーカー群が特定され、そしてタンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列が、データベースと照合することによって、または提供された適切な配列(たとえば、本明細書に提供する配列表)を有することによって特定されると、当業者は、そのような情報を使って、一つ以上の適切な抗体を調製し、そして選ばれたアッセイを実行することができる。
【0085】
バイオマーカーを対象とするモノクローナル抗体の調製のために、培養物において連続細胞系によって抗体分子を生産するために提供される任意の技術を使うことができる。そのような技術には、制限されないが、Kohler(コーラー)およびMilstein(ミルスタイン)によって最初に開発されたハイブリドーマ技術〔1975、Nature(ネイチャー)256:495-497〕、トリオーマ(trioma)技術〔Gustafsson(グスタファソン)ほか、1991、Hum. Antibodies Hybridomas 2:26-32)、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborほか、1983、Immunology Today 4:72)、およびヒトモノクローナル抗体を生産するEBVハイブリドーマ技術〔Cole(コール)ほか、1985、In:Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R. Liss, Inc.(アランR.リース社)、pp. 77-96〕が含まれる。ヒト抗体は、ヒトハイブリドーマを用いることによって〔Cote(コート)ほか、1983、Proc. Natl. Acad. Sci. USA(米国科学アカデミー会報)80:2026-2030〕、またはインビトロでEBVウイルスでヒトB細胞を形質転換すること〔Cole(コール)ほか、1985、In:Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R. Liss, Inc.(アランR.リース社)、pp. 77-96〕によって得ることができる。適切な生物活性のヒト抗体分子由来の遺伝子と一緒に、バイオマーカーに対し特異的なマウス抗体分子由来の遺伝子をスプライシングすることによって行われる、「キメラ抗体」の生産のために開発された技術〔Morrison(モリソン)ほか、1984、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855;Neuberger(ニューベルガー)ほか、1984、Nature 312:604-608;Takeda(タケダ)ほか、1985、Nature 314:452-454〕を用いることができ、そのような抗体は、本発明の範囲内である。単鎖抗体の生産のために記述される技術(米国特許第4,946,778号明細書)は、バイオマーカー-特異的抗体を生産するのに適合させることができる。本発明の追加的な態様は、バイオマーカータンパク質に対する望ましい特異性を有する単クローンFab断片の迅速で簡単な識別を可能にするFab発現ライブラリーの構築のために記述される技術を利用する〔Huse(ヒューズ)ほか、1989、Science 246:1275-1281〕。非ヒト抗体は、既知の方法(例えば、米国特許第5,225,539号明細書)によって「ヒト化する」ことができる。
【0086】
バイオマーカーのイディオタイプを含む抗体断片は、当該技術分野で公知である技術によって作製することができる。たとえば、そのような断片は、制限されないが、抗体分子のペプシン消化によって作製することができるF(ab’)2断片、F(ab’)2断片のジスルフィド架橋を減らすことによって作製することができるFab’断片、抗体分子をパパインと還元剤で処理することによって作製することができるFab断片、およびFv断片を含む。合成抗体、例えば、化学合成によって作製される抗体は、本発明において有用である。
【0087】
本明細書に記述され、そして関連した技術において当業者に公知である標準的な参考資料は、免疫学的および非免疫性の技術の両方を記述し、特定のサンプルタイプ、抗体、タンパク質または分析に対するそれらの適合性を記述する。たとえば、免疫学および当業者に公知である免疫学的方法を採用するアッセイの一般原則を述べる標準的な参考資料には、以下が含まれる:たとえば、Harlow(ハーロー)およびLane(レーン)、Antibodies(抗体):A Laboratory Manual(研究所マニュアル)、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press(コールドスプリングハーバー研究所プレス社)、コールドスプリングハーバー、N. Y.(1999);ハーローおよびレーンは、Using Antibodies(抗体の使用):研究所マニュアル。コールドスプリングハーバー研究所プレス社、ニューヨーク;Coliganほか、編、Current Protocols in Immunology、ジョン・ワイリー・アンド・サン、ニューヨーク、NY(1992-2006);およびRoitt(ロアット)ほか、Immunology、第3版、Mosby-Year Book Europe Limited、ロンドン(1993)。
【0088】
たとえば、ペプチド合成技術の一般原則および当業者に公知である方法を述べる標準的な参考資料は以下を含む:たとえば、Chan(チャン)ほか、Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis (Fmoc固相ペプチド合成)、Oxford University Press(オックスフォード大学出版部)、オックスフォード、イギリス、2005;Peptide and Protein Drug Analysis(ペプチドおよびタンパク質の薬物分析)、編Reid, R,(リード,R.)、Marcel Dekker, Inc.(マルセル・デカー社)、2000;Epitope Mapping(エピトープ・マッピング)、編Westwood(ウェストウッド)ほか、オックスフォード大学出版部、オックスフォードで、英国、2000;Sambrookほか、分子クローニング:研究所マニュアル、第3版、コールドスプリングハーバー・プレス社、コールドスプリングハーバー、NY 2001;およびAusubel(オースベル)ほか、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons、NY、1994年)。
【0089】
対象体の拒絶反応の状態は、「急性拒絶体」(AR)として、または「非拒絶体」(NR)として記載することができ、そして非拒絶体のカットオフインデックスに対するマーカーの濃度の比較によって決定される。「非拒絶体カットオフインデックス」は、対象体がAR拒絶反応の状態を有するとして分類されるものを超える、またはその外側の、数値またはスコアである。非拒絶体カットオフインデックスは、代替的に、「コントロール値」、「コントロールインデックス」として、または単に「コントロール」と呼ぶことができる。非拒絶体カットオフインデックスは、コントロール対象体集団の個々のマーカーの濃度であり、そして測られる各々のマーカーについて個別に考慮されてもよく;あるいはまた、非拒絶体カットオフインデックスは、マーカーの濃度の組合せであることができ、そして診断用に提供される対象体のサンプルにおけるマーカーの濃度の組み合わせと比較されうる。コントロール対象体集団は、正常または健康なコントロール集団であることができ、あるいは同種移植レシピエント集団で、同種移植片に拒絶反応を示さなかったか、または示していないものでありうる。コントロールは単一の対象体であることができ、いくつかの態様では、自家コントロールであることができる。コントロールまたはコントロールのプールは、一定、例えば、静的値によって表されることができ、または累積的、すなわちそれを得るのに用いられサンプル集団がサイトごとにもしくは時間とともに変わる可能性があり、そして追加的なデータポイントを組み込みうる。たとえば、中央データ貯蔵所、たとえば、集約したヘルスケア情報システムなどは、種々のサイト(病院、臨床検査室など)で得られたデータを受け取って保存することができ、単一の病院、コミュニティクリニックで、エンドユーザー(すなわち個々の開業医、医学クリニックまたはセンターなど)が本発明の方法を用いるために、この累積的なデータセットを提供することができる。
【0090】
非拒絶体カットオフインデックスは、代替的に「コントロール値」、「コントロールインデックス」、あるいは単に「コントロール」と呼ぶことができる。いくつかの態様において、カットオフインデックスは、代謝産物カットオフインデックス(対象体の代謝産物プロファイリングのために)、ゲノムカットオフインデックス(対象体のゲノム発現プロファイリングのために)、プロテオミクスカットオフインデックス(対象体のプロテオミクスプロファイリングのために)などであるとしてさらに特徴付けられるかもしれない。
【0091】
「生体試料」は概して、対象体由来の体液または組織または器官のサンプルを意味する。たとえば、生体試料は、体液で、たとえば、血液、血漿、リンパ液、血清、尿または唾液などでよい。組織または器官のサンプル、たとえば、非液体組織サンプルなどは、消化され、抽出され、またはさもなければ液状形態にすることができ - そのような組織または器官の例には、培養細胞、血球、皮膚、肝臓、心臓、腎臓、すい臓、ランゲルハンス島、骨髄、血液、血管、心臓弁、肺、腸、腸、脾臓、膀胱、ペニス、顔、手、骨、筋肉、脂肪、角膜などが含まれる。複数の生体試料は任意の単一の時点に収集することができる。生体試料または試料群は、同種移植の前、移植時、または移植後を含む任意の時点に対象体から採取することができる。生体試料は、核酸、たとえば、デオキシリボ核酸またはリボ核酸、またはそれらの組合せなどを単鎖か二本鎖形のいずれかで含むことができる。臓器がドナー(提供者)から摘出されるとき、提供者の脾臓またはそれの一部分は提供者T細胞を得るために生体試料として保持されてもよい。臓器が生きている提供者から摘出されるとき、血液サンプルが採取され、そこから提供者T細胞が得られうる。アロ反応性T細胞は、同種移植片の抗原(MHC複合体を含む)とのそれらの特異的相互作用を利用することによって単離することができる。アロ反応性T細胞の特異的な単離を可能にする方法は、参照により本明細書に組み込まれる、たとえば、PCT国際公開WO2005/05721号において、記述される。
【0092】
リンパ球は、リンパ幹細胞起源の有核の白血球である。リンパ球はT細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞およびその他など、そして他の免疫調整細胞を含む。「T細胞」は、細胞媒介性免疫およびB細胞の刺激に関与するリンパ球のクラスである。刺激されたB細胞は、特異的抗原のために抗体を生産する。B細胞およびT細胞は双方とも、対象体において非自己抗原を認識するために機能する。非自己抗原は、同種移植片の他、ウイルス、細菌および他の感染性物質を含む。
【0093】
アロ反応性T細胞は、同種抗原に反応して活性化するT細胞である。異物抗原に反応性であるT細胞は、異物反応性T細胞である。異物抗原は、もう一つの種または種群の組織、たとえば、異種移植片など由来の抗原である。アロ反応性T細胞は、移植片拒絶免疫反応の前線である。それらは、外来性の移植片上に存在する同種間の抗原を認識する末梢血単核細胞(PBMC)のサブセット(およそ0.1〜1%)である。それらは、抑制されなければ移植片の拒絶反応および不全につながる抗移植片免疫反応のカスケードを始めるために、外来性の移植片を浸潤しうる。アロ反応性T細胞はしたがって、マーカーの他の供給源と比較して特異性を提供するか、または器官拒絶反応の段階の間を区別するマーカーの補完的な供給源として機能することができる。
【0094】
「対象体」または「患者」という語は概して、ヒトおよび他の霊長類、コンパニオンアニマル(ペット)、動物園および家畜の動物を含む哺乳類および他の動物を意味し、制限されないが、ネコ、イヌ、齧歯動物、ネズミ、マウス、ハムスター、ウサギ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、家禽、その他が含まれる。対象体は、同種移植片拒絶反応の予測、評価または診断のために試験されるもの、または試験されたものを含む。対象体は、他の方法、本明細書に記述される方法、または現在の臨床診療の方法などを用いて以前に評価または診断されてもよく、または一般的な集団(コントロール対象体)の一部分として選ばれてもよい。
【0095】
対象体におけるマーカーの倍率変化は、コントロールと比較して少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0またはそれよりも多くであってよく、またはそれらの間の任意の量でもあってよい。倍率変化は、コントロール値と比較した減少または増加を表わしうる。
【0096】
1以上とは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16またはそれ以上を含む。
【0097】
「下方制御」または「下方制御される」は、互換的に使うことができ、たとえば、遺伝子、核酸、代謝産物、転写物、タンパク質またはポリペプチドなどのマーカーのレベルの減少を意味しうる。「上方制御」、あるいは、「上方制御される」は互換的に使うことができ、たとえば、遺伝子、核酸、代謝産物、転写物、タンパク質またはポリペプチドなどのマーカーのレベルの増加を意味しうる。また、たとえば、シグナル伝達経路または代謝経路などの経路は、上方制御または下方制御されうる。
【0098】
一旦対象体が任意の方法(ゲノム、プロテオミクス、代謝産物または組合せ)によって、急性拒絶体として、または急性拒絶体になる危険があると識別されると、治療的処置が、同種移植に対する対象体の免疫反応を変えるために履行されうる。対象体は、より頻繁に臨床的値を追加的にモニタリングするか、より一層感度の高いモニタリング方法を使用してもよい。その上、対象体には、対象体の免疫反応を減少させるか、または増やすために、免疫抑制薬剤を投与することができる。たとえ、同種移植片拒絶反応を妨げるために対象体の免疫反応を抑える必要があるとしても、日和見性感染に対して保護するために免疫機能の適切なレベルも必要である。対象体に投与されうる種々の薬剤が既知である。たとえば以下を参照:Goodman(グッドマン)とGilman(ギルマン)の、The Pharmacological Basis of Therapeutics、11版。Ch 52、pp 1405-1431およびその中の引用;LL Brunton、JS Lazo(ラゾー)、KL Parker(パーカー)編。当業者に既知の医学生理学および薬理学の一般原則を示す標準的な参考資料は、以下のものを含む。すなわち、Fauciほか、編、Harrison 's(ハリソンの)Principles Of Internal Medicine、第14版、McGraw-Hill Companies, Inc.(1998)である。他の予防的および治療上の戦略は医学文献において概説される - たとえば、Kobashigawa(コバシガワ)ほか、2006。Nature Clinical Practice。Cardiovascular Medicine 3:203-21。
【0099】
ゲノム核酸発現プロファイリング
本発明によって提供される、対象体における急性同種移植拒絶反応を診断する方法は、1)対象体からの生物学的サンプルにおいて1つまたは1つより多くの核酸マーカーの発現プロファイルを決定する段階であって、該核酸マーカーが、TRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2、MBD4を包含する群から選ばれる、段階;2)1つまたは1つより多くの核酸マーカーの発現プロファイルを非拒絶体プロファイルと比較する段階;および3)1つまたは1つより多くの核酸マーカーの発現レベルがコントロールプロファイルと比較して上方制御または下方制御されるかどうかを決定する段階を含み、1つまたは1つより多くの核酸マーカーの上方制御または下方制御は、拒絶反応の状態を示す。
【0100】
したがって、本発明はさらに、対象体における同種移植片拒絶反応を予測し、評価し、または診断する方法を提供し、当該方法は、本発明に示されるとおり、1) TRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2、MBD4を包含する群から選ばれる1つまたは複数の核酸マーカーの増加または減少を測定する工程;および2)対象体の「拒絶反応の状態」を決定する工程を含み、ここで、対象体の「拒絶反応の状態」の決定は、コントロール核酸マーカー発現プロファイルに対する対象体の核酸マーカー発現プロファイルの比較に基づく。
【0101】
本明細書で用いられる「遺伝子発現データ」、「遺伝子発現プロファイル」、「核酸発現プロファイル」または「マーカー発現プロファイル」という語句は、生物学的サンプルにおける遺伝子または遺伝子群のセットの発現の相対的または絶対的なレベルに関する情報に言及している。遺伝子の発現のレベルは、遺伝子から転写される、またはそれによってコードされる、mRNAを含むRNAなどの核酸のレベルに基づいて決定されうる。
【0102】
本明細書で用いられる「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」または「ヌクレオチドポリマー」は、当業者に容易に理解されるように、RNA、DNA、またはRNAおよびDNAの両方、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含む、核酸の合成または混合されたポリマーを含むことができ、かつ化学的または生化学的に修飾されうるか、または非天然の、または誘導体化されたヌクレオチド塩基を含みうる。そのような修飾には、たとえば、類似体、ヌクレオチド間修飾、たとえば、非荷電連結(例えば、メチルホスホナート、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメート等)、荷電連結(例えば、ホスホロチオアート、ホスホロジチオアート等)、ペンダント部分(例えば、ポリペプチド)、および修飾された連結(例えば、アルファアノマーポリヌクレオチド等)を有する一つ以上の天然に存在するヌクレオチドの標識、メチル化、置換が含まれる。また、水素結合および他の化学的相互作用により指定された配列に結合するそれらの能力に関してポリヌクレオチドに似た合成分子が含まれる。
【0103】
オリゴヌクレオチドは、可変的な長さの核酸を含み、それは特定の核酸の検出および/または増幅のための、プローブ、プライマーとして、およびマイクロアレイ(アレイ)の製造において、役に立ちうる。オリゴヌクレオチドは、DNA、RNA、PNA、またはたとえば米国特許第5,948,902号明細書に記載されるような他のポリヌクレオチド部分を含むことができる。そのようなDNA、RNAまたはオリゴヌクレオチドの鎖は、活性化されたモノマーの、不溶性の支持体と連結されうる伸長鎖への連続した付加(5'から3'または3'から5')によって合成されうる。多数の方法が、以降の個々の使用のためのオリゴヌクレオチドの合成について、またはたとえばアレイ内の不溶性の支持体の一部として、当技術分野において公知である(BERNFIELD MR.およびROTTMAN FM. J. Biol. Chem.(1967)242(18):4134-43;SULSTON J.ほか、PNAS(1968)60(2):409-415;GILLAM(ジラン)S.ほか、Nucleic Acid Res.(1975)2(5):613-624;BONORA GM.ほか、Nucleic Acid Res.(1990)18(11):3155-9;LASHKARI DA.ほか、PNAS(1995)92(17):7912-5;MCGALL G.ほか、PNAS(1996)93(24):13555-60;ALBERT TJ.ほか、Nucleic Acid Res.(2003)31(7):e35;GAO X.ほか、Biopolymers(2004)73(5):579-96;およびMOORCROFT(モーアクロフト)MJ.ほか、Nucleic Acid Res.(2005) 33(8):e75)。概して、オリゴヌクレオチドは使われている方法に応じてさまざまな状況の下で、活性化および保護されたモノマーの段階的添加を通して合成される。その後、特定の保護基は更なる伸長を可能にするために除去することができ、その後および一旦合成が完了したならば、望ましいければ、すべての保護基を除去し、オリゴヌクレオチドを、完全な鎖の精製のためにそれらの固体支持体からを取り出してもよい。
【0104】
「遺伝子」は、特定の機能的な産物をコードし、かつ翻訳されずかつ転写されない配列をコード領域(コードに対して5’および3’)の近くに含みうる、特定の染色体の特定の位置にあるヌクレオチドの規則正しい配列である。そのような非コード配列は、配列の転写および翻訳、または、たとえばイントロンのスプライシングに必要とされる、調節配列を含むことができ、あるいは関心対象の突然変異が発生する以外は、それらに起因するいかなる機能も持たない可能性がある。遺伝子はまた、1以上のプロモーター、エンハンサー、転写因子結合部位、終結シグナルまたは他の調節エレメントも含みうる。遺伝子は概して、‘核酸’として言及されうる。
【0105】
「マイクロアレイ」、「アレイ」または「チップ」という用語は、規定の場所で基材の表面に結合された、複数の規定された核酸プローブに言及している。基材は、好ましくは固体でありうる。マイクロアレイ、それらの製造方法、使用および分析は概して、当技術分野において、たとえば、米国特許第5,143,854号〔Pirrung(ピラング)、5,424,186〔Fodor(フォーダー)〕、5,445,934(フォーダー)、5,677,195〔Winkler(ウィンクラー)〕、5,744,305(フォーダー)、5,800,992(フォーダー)、6,040,193(ウィンクラー)そして、フォーダーほか1991、Science、251:767-777において記述されている。
【0106】
「ハイブリダイゼーション」は、一つ以上のポリヌクレオチドおよび/またはオリゴヌクレオチドが順序づけられた様式(配列特異的)で相互に作用して、水素結合によって安定化される複合体を形成する反応 - ‘Watson-Crick(ワトソン-クリック)’塩基対合とも呼ばれる - を含む。変形塩基対合はまた、非標準水素結合を通して起こることがあり、Hoogsteen(フーグスティーン)塩基対合を含む。一部の熱力学的、イオン性またはpHの条件下で、特にリボ核酸の三重らせんが起こる場合がある。これらおよび他の変形水素結合または塩基対合が当技術分野において公知であり、たとえば、Lehninger(レーニンジャー)-Principles of Biochemistry、第3版〔Nelson(ネルソン)およびCox(コックス)、編、Worth Publishers(ワース・パブリッシャーズ)、ニューヨーク。〕に見出すことができる。
【0107】
ハイブリダイゼーション反応は、異なる「ストリンジェンシー」の条件下で実行することができる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーは、任意の2つの核酸分子がお互いにハイブリダイズする難しさを含む。ストリンジェンシーは、たとえば、ハイブリダイゼーションが起こる温度を上げることによって、ハイブリダイゼーションが起こるイオン濃度を減少させることによって、またはそれらの組合せによって、増大させることができる。ストリンジェントな条件下では、互いに少なくとも60%、65%、70%、75%またはそれ以上同一な核酸分子は互いにハイブリダイズしたまま残るが、同一性の割合が低い分子はハイブリダイズしたまま残ることができない。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、0.2×SSC、0.1%のSDSにおける、50℃、55℃、60℃、65℃、またはその間の温度での一回以上の洗浄があとに続く、およそ44〜45℃での6倍の塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)におけるハイブリダイゼーションである。
【0108】
2つの核酸間のハイブリダイゼーションは、逆平行構成で起こり得 - これは‘アニーリング’と呼ばれる -、対合した核酸は相補的であると言われる。ハイブリダイゼーションが鎖のうちの1本である第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドとの間で起こることが可能である場合、二本鎖ポリヌクレオチドは「相補的」でありうる。一般に認められた塩基対合則に従って、1つのポリヌクレオチドがもう一つと相補的である程度は相同性と呼ばれ、互いに水素結合すると予想される対向する鎖における塩基の割合に関して定量化可能である。
【0109】
概して、配列特異的ハイブリダイゼーションにはハイブリダイゼーションプローブが関与し、それは定義された配列に特異的にハイブリダイズすることができる。そのようなプローブはわずか1個または数個のヌクレオチドで異なっている配列を区別するように設計してもよく、このようにして、高度な特異性を提供する。検出および配列の判別をつなげる戦略は、「分子ビーコン」の使用であり、それによって、ハイブリダイゼーションプローブ(分子ビーコン)は、3’および5’にレポーターおよびクエンチャー分子、ならびに、介在配列の適した結合標的の不在によりプローブがヘアピンループを形成するように、3’および5’に相補的である配列をもつ。このヘアピンループは、密接に接近するようリポーターおよびクェンチャーを保ち、蛍光放出を減らす、フルオロフォア(リポーター)のクエンチングをもたらす。しかし、分子ビーコンが標的にハイブリダイズした場合、フルオロフォアおよびクェンチャーは十分に離れて、蛍光がフルオロフォアから発せられることを可能にする。
【0110】
ハイブリダイゼーションで使われるプローブは、二本鎖DNA、一本鎖DNAおよびRNAオリゴヌクレオチドおよびペプチド核酸を含むことができる。ハイブリダイゼーション条件および特異的なプローブにハイブリダイズするマーカーを特定する方法は、当技術分野で記述されている - 例えば、Brown(ブラウン)T.「Hybridization Analysis of DNA Blots 」Current Protocols in Molecular Biology. FM Ausubel(オースベル)ほか、編、Wiley & Sons(ワイリー・アンド・サン社)(2003). doi: 10.1002/0471142727.mb0210s21参照。本発明にしたがって使用のために適するハイブリダイゼーションプローブは、約10〜約400ヌクレオチド、あるいは約20〜約200ヌクレオチド、または約30〜約100ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは修飾された核酸を含む。
【0111】
特異的な配列は、プライマーまたはプローブを用いてハイブリダイゼーションを行い、このハイブリダイゼーションをその後検出することにより確認されうる。
【0112】
「プライマー」は、短いポリヌクレオチドを含み、通常、標的を用いたハイブリダイズによって関心対象のサンプル中に存在する標的または「テンプレート」と結合して、その後標的と相補的なポリヌクレオチドの重合を進める、遊離3'-OH基を含む。「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)は、「上流」および「下流」のプライマーからなる「プライマーの対」または「プライマーのセット」、およびDNAポリメラーゼ、および典型的には熱的に安定なポリメラーゼ酵素などの重合の触媒を使用して、複製されたコピーが標的ポリヌクレオチドから作られる反応である。PCRのための方法は、当技術分野において周知であり、たとえば、Beverly(ベヴァリー)SM. Enzymatic Amplification of RNA by PCR (RT-PCR) in Current Protocols in Molecular Biology〔分子生物学の現在のプロトコルのPCR(RT-PCR)によるRNAの酵素の増幅〕。FMオースベルほか、編、ワイリー・アンド・サン社(2003)。doi: 10.1002/0471142727.mb1505s56において教示されている。複製されたコピーの合成は、標識またはタグ、たとえば、蛍光分子、ビオチンまたは放射性分子をもつヌクレオチドの組み込みを含むことができる。複製されたコピーはその後、従来の方法を用いてこれらのタグによって検出することができる。
【0113】
プライマーを、サザンまたはノーザンブロット分析などのハイブリダイゼーション反応において、プローブとして使うこともできる〔たとえば、Sambrook、J.、Fritsh、E. F.およびManiatis、T. Molecular Cloning(分子クローニング):研究所マニュアル 第2版、コールドスプリングハーバー研究所、コールドスプリングハーバー研究所プレス、コールドスプリングハーバー、N.Y.、1989参照〕。
【0114】
本明細書で用いられる「プローブセット」(または‘プライマーセット’)は、一つ以上の発現された核酸または発現された遺伝子を検出するのに用いることができる一群のオリゴヌクレオチドに言及している。検出は、たとえば、PCRおよびRT-PCRにおけるような増幅を通して、またはマイクロアレイ上でのハイブリダイゼーションを通して、または一本鎖または二重鎖核酸の選択的な酵素分解に基づくアッセイにおけるような選択的な破壊および保護を通して行われうる。プローブセット中のプローブは、一つ以上の蛍光性、放射性、または他の検出可能な部分(酵素を含む)を用いて標識することができる。プローブが所望の遺伝子を選択的に検出するのに十分に大きい限り、プローブは任意のサイズで良い - 一般に、約15から約25ヌクレオチドまで、または約30ヌクレオチドまでのサイズ範囲が十分なサイズである。プローブセットは、溶液中にあってよく、例えば、多重PCRに用いられるものである。あるいは、アレイまたはマイクロアレイにおける場合のように、プローブセットは固体表面に付着することができる。
【0115】
本発明の一部の態様において、TRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2、およびMBD4のうちの一つ以上が包含される一組のゲノムマーカーによって表される核酸の検出のためのプローブセットが提供される。そのようなプローブセットは、対象体の拒絶反応状態を決定することに役立ちうる。プローブセットは、TRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2、およびMBD4のうちの一つ以上に対応する核酸配列の特異的増幅(例えば、PCRまたはRT-PCR)用の、一つ以上のプライマー対を包含しうる。本発明の別の態様において、プローブセットは、マイクロアレイの一部である。
【0116】
配列の区別および検出のための多数の他の方法が当技術分野において既知であることが理解され、その一部はさらに詳細に以下で記述される。アレイ化したプライマー伸長ミニ配列決定、タグマイクロアレイおよび配列特異的伸長のような反応がマイクロアレイ上で実行することができることも理解される。そのようなアレイベースの遺伝子型解析プラットホームの1つは、マイクロスフェアベースのタグイット(tag-it)ハイスループットアレイである(BORTOLIN S.ほか、2004、Clinical Chemistry 50:2028-36)。この方法は、広くタグを付けられたプライマーを用いた配列特異的プライマー伸長が続くPCRによって、ゲノムDNAを増幅する。産物を次いで、タグイットアレイ上で選別し、Luminex(ルミネックス)xMAPシステムを使用して検出する。
【0117】
配列内のヌクレオチドまたはアミノ酸の、任意の数字表示が特定の配列に関するものであることは、当業者に理解される。また、同じ位置は、配列に番号付けする方法および選択される配列に応じて異なる数字表示が割り当てられうる。さらに、挿入または欠失のような配列の変化は、変異部位またはその周辺の特定のヌクレオチドまたはアミノ酸の相対的な位置、次いで数字表示を変更しうる。たとえば、アクセッション番号AC006825.13、AC016026.15、AY309933.2、AY4771193.1、CQ786436.1、AF042083.1、AF087891.1、AK094795.1、AY005151.1、BC009197.2、BM842561.1、BQ068464.1、CR407603.1、CR600736.1、NM_00196.2によって表わされる配列は、すべてヒトBIDヌクレオチド配列を表わすが、一部の配列の違い、およびそれらの間の番号付けの違いを有しうる。もう一つの例として、アクセッション番号NP_932070.1、NP_932071.1、NP_001187.1、EAW57770.1、CAG17894.1、AAC34365.1、AAP97190.1、AAQ15216.1、AAH36364.1、CAG28531.1、P55957.1によって表わされる配列は、すべてヒトBIDポリペプチド配列を表すが、それらの間で、一部の配列の違いおよび番号付けの違いを有しうる。
【0118】
関心対象の遺伝子の一つ以上の核酸配列が提供された場合、上記の遺伝子の任意のものを含む関心対象の任意の遺伝子の発現の特異的検出のためのプローブ、プライマーまたはプローブセットの選定および/またはデザインは関連した技術分野の当業者の能力の範囲内である。さらに、いくつかのプローブ、プライマーまたはプローブセットのうちの任意のもの、あるいは複数のプローブ、プライマーまたはプローブセットは、関心対象の遺伝子を検出するのに用いられ、たとえば、アレイは単一の遺伝子転写物のために複数のプローブを含むことができる - 本明細書に記載される本発明の局面は、例示されたいかなる特定のプローブにも限定されない。
【0119】
配列同一性または配列類似性は、DNASISの中で提供されるような、ヌクレオチド配列比較プログラム(DNAもしくはRNA配列、またはその断片もしくは部分用)またはアミノ酸配列比較プログラム(タンパク質、ポリペプチドもしくはペプチド配列、またはその断片もしくは部分用)を使用して決定されうる(たとえば、しかし限定されるものではないが、以下のパラメータを使用する:GAPペナルティ5、トップ斜線の数5、固定されたGAPペナルティ10、k-ダブル(tuple)2、フローティングギャップ10およびウィンドゥサイズ5)。しかしながら、比較のための配列整列の他の方法は、当技術分野において周知である。たとえば、Smith(スミス)およびWaterman(ウォーターマン)のアルゴリズム(1981、Adv. Appl. Math. 2:482)、Needleman(ニードルマン)およびWunsch(ブンシュ)(J. Mol. Biol. 48:443、1970)、Pearson(ピアソン)& Lipman(リップマン)(1988、Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 85:2444)、およびこれらのアルゴリズム(例は、GAP、BESTFIT、FASTA、およびBLAST)のコンピューター化された実施、または手動の整列および視覚による検査。
【0120】
関心対象の核酸または遺伝子、ポリペプチドまたは配列が同定され、および配列(または遺伝子ポリペプチドの配列もしくは同様のもの)の部分または断片が提供された場合、類似または実質的に類似である他の配列は、上記で説明したプログラムを使用して同定されうる。たとえば、マイクロアレイまたはプローブ配列を構築する場合、マイクロアレイ実験により‘ヒット’が確認された場合に(特定の場所でのプローブが、サンプル中の一つ以上の核酸とハイブリダイズする)、プローブの配列が明らかとなるような、配列および場所が公知である(マイクロアレイの製造者または生産者のいずれかにより、または製造者により提供されるデータベース - たとえばHuman Genome U133 Plus 2.0 Arrayの製造者であるAffymetrixのNetAffxデータベース - から)。配列供給源の同一性が提供されない場合、それは一つ以上のデータベースの配列ベース検索においてプローブの配列を用いて決定されうる。プロテオミクスアッセイ、たとえばiTRAQによって特定されるペプチドまたはペプチド断片に関して、このペプチドまたは断片の配列を、上述のアミノ酸配列のデータベースに問い合わせを行うために用いることができる。そのようなデータベースの例はNational Centre for Biotechnology Information(国立バイオテクノロジー情報センター)によって維持されるもの、あるいはEuropean Bioinformatics Institute(欧州バイオインフォマティクス研究所)によって維持されるものを含む。
【0121】
タンパク質またはポリペプチド、核酸またはその断片または部分は、その配列が同じ系統的種、属、科または目で見つかる他のものと区別することができる場合に、特異的に特定されると考えることができる。そのような区別は、配列の比較によって特定することができる。配列または配列群の比較は、BLASTアルゴリズムを使用して行われうる〔Altschul(アルチュール)ほか、1009. J. Mol. Biol 215:403-410〕。BLAST検索は、問合わせ配列と特定の配列または配列の群との、または配列のより大きなライブラリーまたはデータベース(例えば、GenBankまたはGenPept)との比較を可能にし、そして100%の同一性を示す配列だけでなく、より低い程度の同一性を有する配列も同定する。たとえば、複数のアイソフォーム(たとえば、別々の遺伝子、もしくは遺伝子由来核酸転写物の異なるスプライシング、または翻訳後プロセシングのいずれかから生じる)を有するタンパク質に関し、1つのアイソフォームに存在し、かつ一つ以上の他のアイソフォームには存在しないまたは検出されない構造、配列またはモチーフの特異的な検出によって、アイソフォームが同じまたは異なる種に由来する他のアイソフォームから区別される場合、アイソフォームは特異的に同定することができる。
【0122】
本発明の方法へのアクセスは、たとえば、個々のマーカー試験を実施する臨床検査室または他の試験施設によってエンドユーザーに提供されうる - 生物学的サンプルが個々の試験および分析が実施される施設に提供されて、予測方法が適用される;あるいは、開業医が臨床検査室からのマーカー値を受け取って、地元での実行またはインターネットに基づく実行を用いて本発明の予測方法にアクセスしうる。
【0123】
たとえば、複数の中央値、標準誤差、標準偏差などの統計的パラメータの決定、ならびに本明細書に記述する他の統計分析が公知であり、かつ当業者の技術の範囲内である。本明細書に明らかにされるように、特定の係数、値または指数の使用は単に例示であり、本発明の種々の局面の限定を束縛することを意図しない。
【0124】
たとえば、マイクロアレイ実験、または複合的なRT-PCR実験から得られた遺伝子発現データの多数のものの解釈は、膨大な仕事である場合があるが、体系的な特長に光を当てる方法でデータを系統立てるように設計されたアルゴリズムおよび統計ツールを用いることにより、大いに容易化される。視覚化ツールも、たとえば、異なる発現を色の様々な強さおよび色相によって表すために、価値あるものである〔Eisen(アイゼン)ほか、1998、Proc Natl Acad Sci 95:14863-14868)。利用できるアルゴリズムおよび統計ツールは、アレイおよび結果として生じるデータセットの複雑さの増加、および処理速度、コンピュータメモリの増加、およびこれらのコストの相対的減少とともに、高度化されてきている。
【0125】
核酸またはタンパク質発現プロファイル、または代謝産物プロファイルの数学的および統計的な分析は、いくつかのもの - 経路または生体系ドメインにおける同調的な調節を示す遺伝子グループの識別、2つ以上の生物学的サンプル間の類似点および違いの識別、対象体における特定の事象間またはプロセス間を区別する遺伝子発現プロファイルの特徴の特定、または同様のもの - を成し遂げうる。これは、治療レジメンの有効性または治療レジメンにおける変更を評価すること、特定の病状の発達をモニタリングまたは検出すること、2つの病状間、そうでなければ臨床的に類似した(またはほとんど同一の)病状間を区別すること、または同様のことを含みうる。
【0126】
クラスタリング法が既知であり、マイクロアレイデータセット、たとえば、階層的クラスタリング、自己組織化マップ、k-平均法または確定的アニーリングに適用されている。〔アイゼンほか、1998、Proc Natl Acad Sci USA 95:14863-14868;Tamayo(タマヨ)、P.ほか1999. Proc Natl Acad Sci USA 96:2907-2912;Tavazoie、S.ほか1999. Nat Genet 22:281-285;Alon、U.ほか1999. Proc Natl Acad Sci USA 96:6745-6750)。そのような方法は、同調的な調節を示す、遺伝子発現プロファイルにおける遺伝子の群を特定するために役立つ可能性があり、また、他は機能が不明な、同調的な調節を示す他の遺伝子と同じ経路またはシステムに関与すると思われる新規な遺伝子の同定に役立つ可能性もある。
【0127】
生物学的サンプルにおける核酸またはタンパク質の発現のパターンは、その機能的な状態および同一性の特徴的かつ入手可能な分子像も提供することができる〔DeRisi(デリシ)1997;Cho 1998;Chu 1998;Holstege 1998;Spellman(スペルマン)1998〕。関連した遺伝子発現パターンを有する2つの異なるサンプルは従って、互いに生物学的および機能的に類似している可能性が高く、逆に有意な違いを示す2つのサンプルは、示された複雑な発現パターンによって区別されうるだけでなく、例えば同種移植拒絶反応などの特定の病理学的状態または他の生理的状態の指標である遺伝子産物または転写物の診断サブセットを示しうる。
【0128】
マイクロアレイデータセットに対する複数の数学的および/または統計的分析法の適用は、重要なマーカーの変動するサブセットを示す可能性があり、どの方法が‘最良’または‘より正確’であるかについて、不確実性がもたらされる。数学に関係なく、根底にある生物学はデータセットにおいて同じものである。複数の数学的および/または統計的方法をマイクロアレイデータセットに適用し、全体と比較して共通のマーカーについて各々の統計的に有意なサブセットを評価することによって、不確実性は低下し、そして臨床的に関連した中心的なマーカーグループが特定される。
【0129】
ゲノム発現プロファイリングマーカー(「ゲノムマーカー」)
本発明は、急性同種移植拒絶反応を含む、同種移植拒絶反応の評価、予測または診断に役立つマーカーの中心的なグループを提供し、それには、TRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2、MBD4が含まれる。
【0130】
検出され、定量化され、かつ適用された3回の変更したt検定のうちの少なくとも1回について、非拒絶反応移植(NR)コントロールと比較してARサンプルにおいて統計的に有意な倍率変化を示すことが見いだされた39の遺伝子または転写物(表6)のうち、12のマーカーはユニオンセットにある(3回の試験全てについて統計的に有意である)。39のより大きなセットにおける各々のマーカーについての倍率変化は少なくとも2倍であり、問題の遺伝子または転写物の増加/上方制御または減少/下方制御を意味しうる。
【0131】
トランスフェリンレセプター2(TFR2)遺伝子の産物は、非鉄依存様式でトランスフェリン結合鉄の細胞取り込みを媒介する。TFR2は、鉄の代謝、肝細胞機能ならびに赤血球の発達および分化に関与しうる。ヒトTFR2のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号AF053356、AK022002、AK000421)。
【0132】
SLIT-ROBO Rho GTPas活性化タンパク質2偽遺伝子1(SRGAP2P1)はSRGAP2に対する配列類似性を示す偽遺伝子である。ヒトSRGAP2P1のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号AL358175.18、BC017972.1、BC036880.1、BC112927.1、DQ786311.1)。
【0133】
クルッペル様因子4(KLF4)遺伝子の産物は転写のアクチベーターまたはリプレッサーとして機能しうる。ヒトKLF4のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号CH410015.1、DQ658241.1、AF022184.1、AK095134.1)。
【0134】
YLPモチーフ含有1(YLPM1)遺伝子の産物は、テロメレート活性および細胞分裂の調節における役割を有しうる。ヒトYLPM1のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号AK095760.1、AC006530.4、AC007956.5、AL832365.1、BC007792.1)。
【0135】
BH3相互作用ドメインデスアゴニスト(BID)遺伝子は、アゴニストBAXまたはアンタゴニストBCL2のいずれかとヘテロ二量体化するデスアゴニストをコードする。コードされたタンパク質は、細胞死制御因子のBCL-2ファミリーのメンバーである。それは、カスパーゼ-8によって誘導されるミトコンドリア損傷のメディエーターである。ヒトのBIDヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号AC006825.13、AF042083.1、AF087891.1、AK094795.1)。
【0136】
ミリストイル化されたアラニンリッチプロテインキナーゼC基質(MARCKS)遺伝子の産物は、タンパク質とプロテインキナーゼCのための基質をクロスリンクするアクチンフィラメントである。プロテインキナーゼCによるリン酸化またはカルシウム-カルモジュリンへの結合は、アクチンとの、および原形質膜とのその関係を妨げ、そして、細胞質におけるその存在をもたらす。タンパク質は、細胞運動性、食作用、膜輸送および有糸分裂誘発に関係していると考えられる。ヒトMARCKSのヌクレオチド配列は既知である(例えば、GenBankアクセッション番号AL132660.14、CH471051.2、AI142997.1,BC013004.2)。
【0137】
C-タイプレクチンドメインファミリー2、メンバーB(CLEC2B、CLECSF2)遺伝子は、C-タイプレクチン/C-タイプレクチン様ドメイン(CTL/CTLD)スーパーファミリーのメンバーをコードする。このファミリーのメンバーは、共通のタンパク質倍率を有し、細胞接着、細胞-細胞シグナル伝達、グリコプロテインターンオーバー、および炎症および免疫反応での役割などの多様な機能をもつ。コードされたタイプ2膜貫通タンパク質は、細胞活性化抗原として機能することができる。ヒトのCLEC2Bのヌクレオチド配列は公知である(例えば、GenBank、アクセッション番号CH471094.1、AC007068.17、AY142147.1、BC005254.1)。
【0138】
Rhoグアニンヌクレオチド交換因子(GEF、ARHGEF7、BETA-PIX)遺伝子は、Rhoグアニンヌクレオチド交換因子ファミリーのメンバーをコードする。ヒトベータ-PIXのヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号BC050521.1、NM_003899.3)。
【0139】
リゾホスホリパーゼ様1(LYPLAL1)-ヒトLYPLAL1のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号CH471100.2、AK291542.1、AY341430.1、BC016711.1)。
【0140】
トリプトファンリッチ塩基性タンパク質(WRB)遺伝子は未知の機能の塩基性核タンパク質をコードし、成体および胎仔の組織で広く発現される。ヒトWRBのヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号AL163279.2、CH471079.2、AK293113.1、BC012415.1)。
【0141】
FGFR1ガン遺伝子パートナー2(FGFR1OP2)は12番染色体x8転位に関与する融合遺伝子であり、8;11骨髄増殖性症候群患者において確認された。ヒトFGR1OP2のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号CH471094.1、AF161472.1、AK001534.1、AL117608.1)。
【0142】
メチルCpG結合ドメインタンパク質4(MBD4)遺伝子の産物は、メチルCpG結合ドメインをもち、かつメチル化されたDNAと特異的に結合することができる核タンパク質をコードする。配列の類似性は、DNA修復における役割を示唆する。ヒトMBD4のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号AF120999.1、CH471052.2、AF072250.1、AF532602.1)。
【0143】
本発明のゲノムバイオマーカーと関係する生物学的経路
本発明のバイオマーカーは、免疫プロセスおよび同種移植拒絶反応に対する対象体の反応に特に影響を受けうる生物学的経路と関係している。図3は、バイオマーカーARHGEF7、TRF2、BID、MARCKS、KLF4、CLEC2BおよびMBD4の間の経路ベースの関係を示す。経路の例は、以下を含む。
1. BETAPIX→Rac1→STAT1→KLF4
2. KLF4→(c-MYC→CREB1)→CLECSF2
3. STAT1→BID
4. KLF→ベータカテニン→HDAC1→MBD4
5. BETA-PIX→CDC42→PKC-ゼータ→MARCKS
6. KLF4→SP1→HLA-H→TfR2
【0144】
ARHGEF7、TRF2、BID、MARCKS、KLF4、CLEC2BおよびMBD4は、したがって、同種移植拒絶反応プロセスにおける生物学的役割をもち得、結果として治療標的を意味しうる。
【0145】
大規模遺伝子発現分析法、例えばマイクロアレイは、相互作用(しばしば2以上の程度の分離を有する)をもつ遺伝子のグループが一緒に発現され、そして共通の調節要素をもつことがあることを示した。そのような協調的な調節の他の例は、当該技術分野で公知である。例えば、酵母のジオーキシーなシフト(DiRisiほか、1997、Science 278:680-686;アイゼンほか、1998。Proc Natl Acad Sci 95:14863-14868)を参照。
【0146】
BIDは、その転写物がAR対象体とNRの対象体との間で統計的に有意な違いを示す遺伝子産物のうちの1つである。BIDが動物モデルで虚血/再灌流の間、活性な断片に裂かれることが知られている〔Chen(チェン)ほか、2001。 J. Biol Chem 276:30724-8〕。NR対象体と比較してAR対象体で観察されるBID転写物の減少は、BIDが器官拒絶反応中に起こる細胞事象において重要な影響をもつかもしれないことを示唆するが、BIDがその効果を及ぼす経路は予想外でありうる。BIDと相互作用するか、またはBIDの相互作用物質と相互に作用し、このようにして同種移植拒絶反応によって引き起こされる経路に参加しうる、AR対象体とNR対象体との間で異なる発現を示す他のマーカーは、限定されるものではないが、FasR(CD95)、FLASH、カスパーゼ-8、HGK(MAP4K4)、MEKK1(MAP3K1)およびミオシンVaを含む。BIDは、したがって、同種移植拒絶反応プロセスにおける生物学的役割をもち得、結果として治療標的を意味しうる。
【0147】
BETA-PIXは、その転写物がAR対象体とNR対象体との間に統計的に有意な違いを示す遺伝子産物のもう一つのものである。中間代謝、イオンチャネル伝導率、および転写を含む細胞の挙動を調節するために、いろいろなシグナル伝達分子がサイクリックAMP依存的なプロテインキナーゼ(PKA)経路に影響を受けるか、影響を及ぼすことが公知である。PKAは、細胞骨格調節と細胞遊走において中心的な役割を演ずる。BETA-PIXと相互作用し、またはBETA-PIXの相互作用物質と相互作用し、このようにして、同種移植拒絶反応によって引き起こされる経路に参加しうる他のマーカーは、ITGA4(インテグリン・アルファ4)、ITGB1(インテグリンβ1)、ADCY7(アデニル酸シクラーゼ)、PRKACB(PKA触媒サブユニット)、PRKAR1A(PKA調節サブユニット)、RAC1、RhoA、PPP1R12A(MLCP(調節サブユニット))、MYL4(MELC)を含むが、これらに限定されない。BETA-PIXは、したがって、同種移植拒絶反応プロセスにおける生物学的役割をもち得、結果として治療標的を意味しうる。
【0148】
本明細書に記述される理論、他の遺伝子または転写物に束縛されることを望まないが、たとえば、TRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2またはMBD4は、同種移植拒絶反応プロセスにおける生物学的役割をもち得、結果として治療標的を意味しうる。
【0149】
本発明はまた、対象体の拒絶反応の状態の予測または診断における使用のためのキットを提供する。キットは、TRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2、MBD4の特異的および定量的な検出のための試薬を、そのような試薬の使用および結果として生じるデータを分析する方法のための指示とともに含むことができる。キットは、対象体の拒絶反応の状態を予測または診断するために単独で用いることができ、あるいは臨床的変数を決定するための他の方法または適切であると考えられうる他のアッセイと併せて使うことができる。キットは、たとえば、マーカーに選択的にハイブリダイズすることができる1以上の標識されたオリゴヌクレオチドを含むかもしれない。キットは、たとえば、マーカーの領域を増幅するよう機能する(例えばPCRによって)、1以上のオリゴヌクレオチドを更に含むことができる。対象体の拒絶反応の状態の予測または診断のための非拒絶反応カットオフのインデックスを提供するために、キットの結果を他のアッセイのものと組み合わせるのに役に立つ指示または他の情報を提供することもできる。
【0150】
アロ反応性T細胞プロファイリング
アロ反応性リンパ球、例えばT細胞またはTリンパ球で発現される核酸のプロファイリング(「アロ反応性T細胞プロファイリング」)はまた、同種移植片拒絶反応を診断するために使われうる。アロ反応性T細胞プロファイリングは、単独で、またはゲノム発現プロファイリング、プロテオミクスプロファイリングまたはメタボロミクスプロファイリングと組み合わせて用いることができる。
【0151】
アロ反応性T細胞は、移植片拒絶免疫反応の前線である。それらは、外来性の移植片の上で存在する同種異型抗原を認識する末梢血単核細胞(PBMC)のサブセット(およそ0.1〜1%)である。それらは、外来性の移植片を浸潤して、抗移植片免疫反応のカスケードを始める可能性があり、抑制されない場合それは移植片の拒絶反応および不全につながる。アロ反応性T細胞は従って、マーカーの他の供給源と比較して特異性を提供するか、器官拒絶反応の段階同士を区別するマーカーの補完的な供給源として機能することができる。アロ反応性T細胞集団からの遺伝子発現プロファイルはさらに、様々な臓器移植片にわたって用いることができ、また他の理由(アレルギー、ウイルス感染など)による器官拒絶反応および免疫活性化と区別するのに役立ちうる。
【0152】
アロ反応性T細胞プロファイリングはまた、代謝物質(「メタボロミクス」)、ゲノムまたはプロテオミクスプロファイリングと組み合わせて用いることができる。対象体のゲノムにおける、単一塩基の変化または多形性などのマイナーな変更またはそのゲノムの発現(例えば、示差的な遺伝子発現)は、対象体の小分子代謝物質プロファイルでの急速な反応をもたらす場合がある。小分子代謝物質はまた、環境変化に迅速に反応性でありえ、環境変化の数秒から数分以内に有意な代謝物質変化が明らかになるが、対照的に、タンパク質または遺伝子発現変化は、明らかになるのに数時間あるいは数日がかかる場合がある。臨床的変数のリストは、たとえば、心血管疾患、肥満またはメタボリックシンドロームをモニタリングするのに用いられうる、いくつかの代謝物質を示し−例えば、コレステロール、ホモシステイン、ブドウ糖、尿酸、マロンジアルデヒドおよびケトン体を含む。小分子代謝物質の他の非限定的な例は、表3にリストされる。
【0153】
アロ反応性T細胞からのマーカーは、同種移植片拒絶反応の診断のために単独で使ってもよく、または全血からのマーカーと組み合わせて使ってもよい。
【0154】
本発明はまた、急性同種移植拒絶反応を含む同種移植拒絶反応の評価、予測または診断に役立つマーカーの中心的なグループを提供し、それには、KLF12、TTLL5、239901_at、241732_at、OFD1、MIRH1、WDR21A、EFCAB2、TNRC15、LENG10、MYSM1、237060_at、C19orf59、MCL1、ANKRD25、MYL4が含まれる。
【0155】
検出され、定量され、非拒絶反応移植(NR)コントロールと比較してAR対象体のアロ反応性T細胞において統計的に有意な倍率変化を示すことが見いだされた16の遺伝子または転写物(表9)は、適用されたモデレートt検定の各々において統計的に有意であった。各々のマーカーについての倍率変化は少なくとも1.6倍であり、そして問題の遺伝子または転写物の増加/上方制御または減少/下方制御を表わしうる。
【0156】
本発明の方法によって提供される、対象体において急性同種移植拒絶反応を診断する方法は、1)対象体からの生物学的サンプルで1つまたは1つより多くのマーカーの発現プロファイルを決定する段階であって、1つまたは1つより多くの該マーカーが、KLF12、TTLL5、239901_at、241732_at、OFD1、MIRH1、WDR21A、EFCAB2、TNRC15、LENG10、MYSM1、237060_at、C19orf59、MCL1、ANKRD25、MYL4を包含するグループより選ばれる、段階;2) 1つまたは1つより多くのマーカーの発現プロファイルを非拒絶体同種移植T細胞コントロールプロファイルと比較する段階;および3) 1つまたは1つより多くのマーカーの発現レベルがコントロールプロファイルと比較して上方制御または下方制御されるかどうか決定する段階を含み、マーカーの上方制御または下方制御は拒絶反応の状態を示す。
【0157】
アロ反応性T-細胞ゲノム発現プロファイリングマーカー(「アロ反応性T細胞マーカー」)
クルッペル様因子12(KLF12)遺伝子は、発生的に調節された転写因子をコードし、そして脊椎動物の発生および発癌において役割をもつ。ヒトKLF12のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号CH471093.1、CQ834616,1、AJ243274.1、AK291397.1)。
【0158】
チューブリンチロシンリガーゼ様ファミリー、メンバー5(TTLL5)遺伝子は、アルファチューブリンのATP依存性翻訳後修飾の触媒作用において役割をもちうるタンパク質をコードする。ヒトTTLL5のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号AC009399.5、AB023215.1、AK024259.1、AY237126.1)。
【0159】
OFD1(口-顔面-指症候群1、71-7A;SGBS2;CXorf5;MGC117039;MGC117040)遺伝子はX染色体に位置し、中心体タンパク質をコードする。ヒトOFD1のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号NT_011757、NM_003611)。
【0160】
MIRH1(マイクロRNAホスト遺伝子(非タンパク・コーディング)1、MIRH1、C13orf25、FLJ14178、MGC126270)はマイクロRNAをコードする。ヒトMIRH1のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号BC109081、NW_001838084)。
【0161】
WDR21A(WD繰り返しドメイン21A、DKFZp434K114、MGC20547、MGC46524、WDR21)遺伝子は、WD反復を含有するタンパク質をコードする。ヒトWDR21Aのヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号NW_001838113、NW_925561n NM_181340、NM_181341)。
【0162】
EFCAB2遺伝子(EF-ハンドカルシウム結合ドメイン2、FLJ33608、MGC12458、RP11-290P14.1)は、カルシウムイオン結合タンパク質をコードする。ヒトEFCAB2のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号NM_032328およびBC005357)。
【0163】
TNRC15(GIGYF2、GRB10相互作用GYFタンパク質2(PERQ2);PERQ3;FLJ23368;KIAA0642;DKFZp686I15154;DKFZp686J17223)遺伝子はGrb10と相互作用しうる産物をコードする。ヒトTNRC15のヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号NW_001838867、NW_921618およびNT_005403)。
【0164】
LENG10は、白血球受容体クラスター(LRC)、メンバー10である。ヒトLENG10のヌクレオチド配列は既知であり、例えばGenBankアクセッション番号AF211977である。
【0165】
MYSM1の遺伝子(myb様、SWIRMおよびMPNドメイン1、2A-DUB;KIAA1915;RP4-592A1.1;DKFZp779J1554;DKFZp779J1721)は、ヒストンアセチル化と脱ユビキチン化の調整を通して転写調節における役割を有する脱ユビキチン化酵素をコードする。ヒトMYSM1のヌクレオチド配列は既知であり、たとえばGenBankアクセッション番号NM_001085487およびNW_001838579である。
【0166】
C19orf59(19番染色体読み枠59、MCEMP1、MGC132456)は一回膜貫通タンパク質をコードし、肥満細胞分化または免疫反応の調節において役割を有しうる。ヒトC19orf59のヌクレオチド配列は既知であり、たとえば、GenBankアクセッション番号:NC_000019.8およびNM_174918である。この遺伝子はコードする。
【0167】
MCL1(骨髄性細胞白血病配列1(BCL2に関連)、EAT、MCL1L、MCL1S、MGC104264、MGC1839、TM)。この遺伝子によってコードされる産物は、アポトーシスの調節に関与している。ヒトMCL1のヌクレオチド配列は既知であり、たとえば、GenBankアクセッション番号:NM_021960およびNM_182763である。
【0168】
ANKRD25は、KANK2(KNモチーフおよびアンキリン反復ドメイン2)、DKFZp434N161、FLJ20004、KIAA1518、MGC119707、MXRA3、SIPとしても公知である。ヒトMCL1ヌクレオチド配列は既知であり、たとえば、GenBankアクセッション番号:NM_015493、AB284125およびDJ053242である。ANKRD25遺伝子の産物はSRC相互作用タンパク質(SIP)でありえ、かつ細胞質内でのSRC活性化補助因子の隔離における役割を有し、これらの活性化補助因子の利用可能性を緩衝し、このようにメカニズムを転写因子の調節のために提供する。
【0169】
MYL4(ミオシン、軽鎖4、アルカリ;心房性、胚性)は、ALC1、AMLC、GT1およびPRO1957としても公知である。たとえば、ヒトMYL4のヌクレオチド配列は、既知であり、たとえば、GenBankアクセッション番号:NM_000258、NW_001838448、NW_926883、NM_001002841とNM_002476である。この遺伝子によってコードされる産物は、胚筋肉および成体の心房で見つかるミオシンアルカリ軽鎖をコードする。
【0170】
本発明はまた、対象体の拒絶反応の状態を予測または診断するためのキットを提供する。キットは、KLF12、TTLL5、239901_at、241732_at、OFD1、MIRH1、WDR21A、EFCAB2、TNRC15、LENG10、MYSM1、237060_at、C19orf59、MCL1、ANKRD25、MYL4の特異的かつ定量的な検出のための試薬を、そのような試薬の使用および結果として生じるデータを分析する方法のための指示とともに含むことができる。キットは、対象体の拒絶反応の状態を予測または診断するために単独で使ってもよく、あるいは、臨床変数を測定する他の方法または適切であると考えることができる他のアッセイと組み合わせて使ってもよい。キットは、たとえば、マーカーに選択的にハイブリダイズすることができる標識オリゴヌクレオチドを一つ以上含むことができる。キットは、たとえば、マーカーの領域を(例えばPCRによって)増幅するために、使用可能な一つ以上のオリゴヌクレオチドを更に含んでもよい。対象体の拒絶反応の状態を予測または診断するための非拒絶反応カットオフインデックスを提供するためにキットの結果を他のアッセイのものと組み合わせるのに役に立つ指示または他の情報を提供してもよい。そのようなオリゴヌクレオチドを選択および製造する方法、および「チップ」またはアレイ上にそれらを含めること、ならびにそのようなチップまたはアレイを使う方法は、参照されるか本明細書に記述される。
【0171】
同種移植片拒絶反応を診断するためのプロテオミクスプロファイリング
プロテオミクスプロファイリングもまた、同種移植片拒絶反応を診断するために使うことができる。プロテオミクスプロファイリングは、単独で、またはゲノム発現プロファイリング、代謝物質プロファイリングまたはアロ反応性T細胞プロファイリングと組み合わせて使うことができる。
【0172】
いくつかの態様において、本発明は、対象体における急性同種移植片拒絶反応を診断する方法を提供し、該方法は、1)対象体からの生体試料において1または複数のプロテオミクスマーカーの発現プロファイルを決定する工程であって、該プロテオミクスマーカーが、B2M、F10、CP、CST3、ECMP1、CFH、C1QC、CFI、APCS、C1R、SERPINF1、PLTP、ADIPOQおよびSHBGによってコードされるポリペプチドを包含するグループから選ばれる、工程;2)1または複数のプロテオミクスマーカーの発現プロファイルを非拒絶反応体プロファイルと比較する工程;および3)1または複数のプロテオミクスマーカーの発現レベルがコントロールプロファイルと比較して増加するか、または減少するかどうか決定する工程を含み、ここで、増加または減少により1または複数のプロテオミクスマーカーが急性拒絶反応の状態であることが示される。
【0173】
本発明はまた、本発明によって提供されるように、対象体で同種移植片拒絶反応を予測、評価または診断する方法を提供し、該方法は、1) B2M、F10、CP、CST3、ECMP1、CFH、C1QC、CFI、APCS、C1R、SERPINF1、PLTP、ADIPOQおよびSHBGによってコードされるポリペプチドを包含する群から選ばれる5または5より多くのプロテオミクスマーカーの増加または減少を測定する工程;および2)対象体の慢性「拒絶反応状態」を決定する工程を含み、ここで、対象体の「拒絶反応状態」の決定は、コントロールプロテオミクスマーカー発現プロファイルに対する対象体のプロテオミクスマーカー発現プロファイルの比較に基づく。5つまたは5つより多くのマーカーは、PLTP、ADIPOQ、B2M、F10とCPによってコードされるポリペプチドを含みうる。本発明の一部の態様では、5つまたは5つより多くのマーカーは、PLTP、ADIPOQ、B2M、F10およびCP、ならびに1つまたは1つより多くのECMP1、C1QC、C1RおよびSERPINF1によってコードされたポリペプチドを含む。
【0174】
タンパク質の識別と定量のための数々の方法が目下利用でき、たとえば、グリコペプチド捕獲〔Zhang(チャン)ほか、2005。Mol Cell Proteomics 4:144-155〕、多次元的タンパク質同定技術(Mud-PIT)Washburn(ウォッシュバーン)ほか、2001 Nature Biotechnology(19:242-247)、そして表面強化されたレーザー脱離イオン化(SELDI-TOF)〔Hutches(ハッチズ)ほか、1993。Rapid Commun Mass Spec 7:576-580〕である。さらに、複数のタンパク質サンプルの定量を可能にするいくつかの同位元素標識化法で、例えば相対的および絶対的なタンパク質定量のためのアイソバリックタグ(iTRAQ)〔Ross(ロス)ほか、2004、Mol Cell Proteomics 3:1154-1169);同位元素コード化アフィニティタグ(ICAT)〔Gygi(ギジ)ほか、1999、Nature Biotecnology 17:994-999〕、同位元素コード化タンパク質標識化(ICPL)〔Schmidt(シュミット)ほか、2004。Proteomics(プロテオミクス)5:4-15)、そしてN末端同位元素タグ付け(NIT)(Fedjaevほか、2007、Rapid Commun Mass Spectrom 21:2671-2679;Namほか、2005。J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci. 826:91-107)などは、それらの高い処理性能、バイオマーカースクリーニング/識別研究に特に役立つ特色のためにますます一般的になった。
【0175】
多重の(multiplexed)iTRAQ方法論は、同種移植レシピエントで血漿プロテオミクスマーカーの同定のために使用された。iTRAQは、Ross(ロス)ほか、2004(Mol Cell Proteomics 3:1154-1169)によって最初に記述された。手短に言うと、対象体の血漿サンプル(コントロールおよび同種移植レシピエント)は、14種の最も豊富なタンパク質を枯渇させ、iTRAQ-MALDI-TOF/TOFによって、定量分析した。結果として、1回のiTRAQ実施あたりおよそ200種の中程度〜少ない量のタンパク質、累積的に1000種のタンパク質を同定した。これらのうち、129種のタンパク質が、ARおよびNRグループ内でのサンプルの少なくとも2/3で検出され、統計分析のために検討された。ARとNRとの間で差次的な相対濃度を有する14種の候補血漿タンパク質を特定した。2つの分類指標は、双方のグループを最も識別するマーカーの直線的相関を捜す多変量解析であるLDAを使って構築した。結果は、拡張した患者のコホートから更なるサンプル(試験セット)を使って、さらに確認した。ELISAを使用した技術的な検証も実行され、iTRAQからの結果を裏付けた。ELISA結果自体が、AR対NRサンプルにおける差次的タンパク質濃度を実証した。
【0176】
したがって、単独の候補バイオマーカー群はグループを明確に区別しないかもしれないが(一部の変化倍率は比較的小さい)、一緒にすると、同定されたマーカー群は満足な分類を成し遂げた(100%の感度および>91%の特異性)。
【0177】
サンプル内で検出される一つ以上のプロテオミクスマーカーを含む模範的ペプチド配列を、図17に示す。これらのペプチドは、トリプシン消化(ここに記述されるように)によって生産され、iTRAQ実験で識別した。サンプル中の1つまたは1つより多いペプチドの検出は、サンプルに存在するプロテオミクスマーカーの指標となる。iTRAQはペプチドを検出するのに用いられる1つの模範的な方法であるが、本明細書に記述される他の方法、たとえばELISAのような免疫学的ベースの方法が役に立つ場合もある。あるいは、特異抗体を一つ以上のタンパク質、アイソフォーム、前駆体、ポリペプチド、ペプチド、それらの一部またはその断片(フラグメント)に対して産生してもよく、そして、特異抗体を、サンプル中の一つ以上のプロテオミクスマーカーの存在を検出するのに用いた。適切なペプチドを選び、抗血清の産生のために動物(例えばマウスまたはウサギなど)を免疫化し、かつ/またはモノクローナル抗体の産生のためにハイブリドーマを産生してスクリーニングする方法は、当技術分野で公知であり、本明細書に明らかにされる引用文献に記述される。
【0178】
プロテオミクス発現プロファイリングマーカー(「プロテオミクスマーカー」)
1つまたは複数の前駆体、スプライスバリアント、アイソフォームは単一の遺伝子によってコードされうる。遺伝子、ならびにコードされるアイソフォーム、前駆体およびバリアントの例は、それぞれのProtein Group Code(PGC)の下で、表8に提供する。
【0179】
PLTP(アイソフォーム1)によってコードされるポリペプチド(リン脂質輸送タンパク質;あるいは脂質輸送タンパク質II(HDLCQ9)と呼ばれる)は、ヒト血清中の脂質輸送タンパク質であり、高密度リポタンパク質(HDL)リモデリングおよびコレステロール代謝において役割を果たす。PLTPをコードしているヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号AY509570、NM_006227、NM_182676)。PLTPのアミノ酸配列は既知である(例えばAAA36443 GenPeptアクセッション番号NP_872617、NP_006218、P55058)。
【0180】
ADIPOQによってコードされるポリペプチド(アディポネクチン;あるいはAPM1、ADPN、脂肪細胞、C1q-、およびコラーゲンドメイン含有、ACRP30と呼ばれる)はエネルギー・ホメオスタシスならびにグルコースおよび脂質の代謝を調節する、脂肪細胞から分泌されるホルモンである。ADIPOQをコードしているヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号EU420013、BC096308、NM_004797)。ADOPOQのアミノ酸配列は既知である(例えばGenPeptアクセッション番号NP_004788、CAB52413、Q60994、Q15848、BAA08227)。
【0181】
B2M(β-2-ミクログロブリン)によってコードされるポリペプチドは、大部分の有核細胞の表面で主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラス1重鎖に関連して見つかる血清タンパク質である。B2Mをコードしているヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号NM_004048、BU658737.1、BC032589.1およびAI686916.1.)。B2Mのアミノ酸配列は既知である(例えばGenPeptアクセッション番号P61769、AAA51811、CAA23830)。
【0182】
F10(凝固第X因子、第X因子)によってコードされたポリペプチドは第Xa因子(凝固プロセスにおいて重要な位置を占めるセリンプロテアーゼ)のチモーゲンである。これは、接触によって活性化される(固有の)経路により、または組織因子(外因性の)経路によって活性化される。第Xa因子は第V因子と結合して、次いでプロトロンビンを活性化させ、凝固カスケードのエフェクター酵素を形成する。F10をコードするヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号NG_009258、NM_000504、CB158437.1、CR607773.1およびBC046125.1.)。F10のアミノ酸配列は既知である(例えばAAA52490、AAA527644、AAA52486、P00742)。
【0183】
CPによってコードされるポリペプチド(セルロプラスミン(別名フェロキシダーゼ);鉄(II):酸素、酸化還元酵素(EC 1.16.3.1))は、青色のアルファ-2-グリコプロテインであり、血漿銅の90〜95%と結合し、1分子につき6つまたは7つの第二銅イオンをもつ。これは、Fe(III)トランスフェリンを形成するためのFe(II)トランスフェリンの過酸化に関係している。CPは、血漿金属タンパク質である。CPをコードしているヌクレオチド配列は、既知である(例えばGenBankアクセッション番号NG_001106、NM_000096、DC334592.1、BC142714.1およびBC146801.1)。CPのアミノ酸配列は既知である(例えばGenPeptアクセッション番号NP_000087、DC334592.1、BC142714.1およびBC146801.1)。
【0184】
ECMP1(ECM1、細胞外マトリクスタンパク質1)によってコードされるポリペプチドは、多くの組織タイプで発現され、結合組織タンパク質と結合し、かつ血管形成を促進すること、ならびに、内皮細胞増殖、損傷修復、およびマトリックスリモデリングにおいて役割を果たすことが実証されている。ECM1は、wnt/β-カテニンシグナル伝達経路に関係している。ECMP1をコードしているヌクレオチド配列は既知である(例えば、GenBankはNM_022664、NM_004425、DA963826.1、U68186.1、CR593353.1およびCA413352.1)。ECMP1のアミノ酸配列は既知である(例えばGenPeptアクセッション番号NP_073155、NP_004416、AAB88082、AAB88081)。
【0185】
C1QC(補体成分C1q、C鎖)によってコードされたポリペプチドは、補体C1(古典補体経路のイニシエータ)の構成要素である。CIQCをコードしているヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号NM_172369、NM_001114101、CB995661.1、DA849505.1、BC009016.1およびBG060138.1)。C1QCのアミノ酸配列は既知である(例えばGenPeptアクセッション番号NP_001107573、NP_758957、P02747)。
【0186】
C1R(補体成分1、rサブコンポーネント)によってコードされるポリペプチドは、補体タンパク質C1を形成するためのC1q、C1rおよびC1sを含む複合体の一部である。C1Rをコードしているヌクレオチド配列は公知である(例えばGenBankアクセッション番号NM_001733、BC035220.1.)。C1Rのアミノ酸配列は公知である(例えばGenPeptアクセッション番号P00736、NP_001724、AAA58151、CAA28407)。
【0187】
SERPINF1(PEDF、色素上皮由来因子)によってコードされるポリペプチドは、セリンプロテアーゼインヒビターである。SERPINF1をコードしているヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号NM_002615、AA351026.1、CA405781.1、BU154385.1、BM981180.1、BQ773314.1,W22661.1およびAA658568.1.)。SERPINF1のアミノ酸配列は既知である(例えばGenPeptアクセッション番号NP_002606、P36955、AAA60058)。
【0188】
CST3(シスタチン3、シスタチンC、ガンマトレース(Gamma-trace))によってコードされるポリペプチドは、リソソームプロテイナーゼインヒビターである。CST3をコードしているヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号NM_000099、BC13083.1)。CST3のアミノ酸配列は既知である(例えばGenPeptアクセッション番号NP_000090、CAG46785.1、CAA29096.1)。
【0189】
SHBG(性ホルモン結合グロブリン、アンドロゲン結合タンパク質、ABP、試験ステロン結合β-グロブリン、TEBG)によってコードされるポリペプチドは、性ステロイドを結合させる血漿グリコプロテインである。SHBGをコードしているヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBank継承番号AK302603.1、NM_001040.2)。SHBGのアミノ酸配列は既知である(例えばGenPept継承番号P04728.2、CAA34400.1、NP001031.2)。
【0190】
CFH(補体H因子、FH)によってコードされるポリペプチドは、血流に分泌され、補体活性化の調節において必須の役割をもつ。CFHをコードしているヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号NM_000186.3、NM001014975.2、BM842566.1、Y00716.1,AL049744.8、BP324193.1およびBC142699.1.)。CFHのアミノ酸配列は既知である(例えばGenPept継承番号NP_000177.2、NP_001014975.1、P08603.4、Q14006、Q5TFM2)。
【0191】
CFI(補体成分I(「アイ」)、補体I因子、C3b不活化因子)によってコードされるポリペプチドは、C4bおよびC3bの切断およびそれらの活性の不活化の原因となる補体経路の中のセリンプロテイナーゼである。CFIをコードしているヌクレオチド配列は既知である(例えばGenBankアクセッション番号NM_000204、DC392360.1、J02770.1、AK290625.1、N63668.1およびBM955734.1.)。CFIのアミノ酸配列は既知である(例えばGenPeptアクセッション番号NP_000195、P05156、AAA52466)。
【0192】
APCS(アミロイドP成分、血清;血清アミロイドP(SAP))によってコードされるポリペプチドはペントラキシンファミリーのメンバーであり、アミロイドタンパク質沈着の構成要素である。APCSをコードするヌクレオチド配列は公知である(例えばGenBankアクセッション番号NM_001639、CR450313、BC070178)。APCSのアミノ酸配列は既知である(例えばGenPeptアクセッション番号NP_001630、P02743、AAA60302、BAA00060)。
【0193】
たとえば、iTRAQタンパク質またはプロテオミクス実験から得られる大量の発現データの解釈は、系統的特徴をハイライトする方法でデータを整理するように設計されたアルゴリズムおよび統計ツールを用いることにより大いに容易にされる。視覚化ツールも、たとえば、色の様々な強さと色合いによって差次的発現を示すために価値がある。利用可能なアルゴリズムおよび統計ツールの精巧さが増してきており、アレイおよび得られるデータセットの複雑さが増し、処理速度が向上し、コンピュータメモリが増加し、これらのコストが相対的に減少している。
【0194】
タンパク質またはポリペプチド発現のプロファイルの数学的および統計学的分析は、以下のいくつかの事項を成し遂げうる - 生体系の経路またはドメインにおける協調的調節を示す遺伝子群の同定、2つ以上の生物学的サンプル間の類似点と相違点の特定、対象体における特定のイベントまたはプロセスの間で異なる遺伝子発現プロファイルの特徴の特定など。これは、治療レジメンの有効性または治療レジメンにおける変化を評価すること、特定の病態の進行をモニターまたは検出すること、それ以外は臨床的に類似した(またはほとんど同一の)2つの病態を識別すること、などを含みうる。
【0195】
生物学的サンプルにおけるタンパク質またはポリペプチドの発現パターンによって、その機能的な状態およびアイデンティティの示差的かつアクセス可能な分子像を提供することもできる〔DeRisi(デリシ)1997;Cho 1998;Chu 1998;Holstege 1998;Spellman(スペルマン)1998〕。関連する遺伝子発現パターンを有する2つの異なるサンプルは、したがって、お互いと生物学的にかつ機能的に類似している可能性があり、裏を返せば、有意差を示す2つのサンプルは、示される複雑な発現パターンによって区別されうるだけでなく、特定の病理学的状態または他の生理的状態(例えば同種移植拒絶反応)の指標となる遺伝子産物または転写物の診断サブセットも示しうる。
【0196】
本発明は、急性同種移植拒絶反応を含む同種移植拒絶反応の評価、予測または診断に役立つマーカーの核となるグループを提供し、それには、B2M、F10、CP、CST3、ECMP1、CFH、C1QC、CFI、APCS、C1R、SERPINF1、PLTP、ADIPOQおよびSHBGのうちの5つまたは5つよりも多くのものが含まれる。
【0197】
本発明はまた、対象体の拒絶反応の状態を予測または診断するためのキットを提供する。キットは、B2M、F10、CP、CST3、ECMP1、CFH、C1QC、CFI、APCS、C1R、SERPINF1、PLTP、ADIPOQおよびSHBGのうちの5つまたは5つよりも多くの特異的かつ定量的な検出のための試薬を、そのような試薬の使用のためおよび結果として生じるデータを分析する方法のための指示とともに含みうる。キットはたとえば、プロテオミクスマーカー(一次抗体)に特異的な抗体またはその断片を、検出可能な標識が組み込まれうる一つ以上の二次抗体とともに含むことができ、そのような抗体は、ELISAのようなアッセイにおいて使われうる。あるいは、抗体またはその断片は、固体表面(例えば抗体アレイ)に固定することができる。キットは、対象体の拒絶反応の状態を予測または診断するために単独で使うことができ、あるいは臨床的変数を測定するための他の方法、または適切であると考えられうる他のアッセイと組み合わせて使うことができる。対象体の拒絶反応の状態を予測または診断するための、拒絶反応を示さないカットオフインデックスを提供するために、キットの結果を他のアッセイの結果と組み合わせるのに役に立つ説明または他の情報を提供することができる。
【0198】
そのような抗体を選択および製造するための方法、およびそれらを「チップ」またはアレイ上、またはアッセイに含めること、およびそのようなチップ、アレイまたはアッセイを使用する方法は本明細書において参照または記載される。
【0199】
同種移植拒絶反応を診断するための代謝産物プロファイリング
代謝産物プロファイリング(「メタボロミクス」または「メタボロミクスプロファイリング」)も、同種移植拒絶反応を診断するために使用可能である。代謝産物プロファイリングは、単独でも、ゲノム発現プロファイリング、プロテオミクスプロファイリングまたはアロ反応性T細胞プロファイリングと組み合わせても使われうる。対象体のゲノムにおける、一塩基変化または多形性などのマイナーな変更、またはそのゲノムの発現(例えば示差的な遺伝子発現)は、対象体の小分子代謝産物プロファイルで、急速な反応をもたらすことがある。小分子代謝産物はまた、環境変化に迅速に反応することができ、環境変化の数秒から数分以内に有意な代謝産物変化が明らかになるが、 - 対照的に、タンパク質または遺伝子発現の変化が明らかになるのに数時間あるいは数日がかかる場合がある。臨床的変数のリストには、たとえば、心血管疾患、肥満またはメタボリックシンドロームをモニタリングするのに用いられうるいくつかの代謝産物が示され - 例には、コレステロール、ホモシステイン、ブドウ糖、尿酸、マロンジアルデヒドおよびケトン体が含まれる。
【0200】
AR対象体およびNR対象体の集団で検出され定量された一連の33種の代謝産物(表3)のうち、5つが、NR対象体と比較してAR対象体において統計的に有意な変化を示した。倍率変化はマーカーおよび使用した比較方法に応じて変化した - 倍率変化は、絶対濃度に基づく分析を使って、タウリンについて少なくとも0.44(減少)、セリンについて0.59(減少)そしてグリシンについて0.75(減少)であり;または倍率変化は、グリシンについて少なくとも0.65(減少)、クレアチンについて2.9(増加)そしてカルニチンについて1.89(増加)であった。代謝産物のバランスは、NR対象体集団と比較して統計的に有意な変化を示さなかった。
【0201】
メタボロミクス発現プロファイリングマーカー(「メタボロミクスマーカー」または「代謝マーカー」)
クレアチン(2-(カルバミミドイル-メチル-アミノ)酢酸;CAS登録番号57-00-1)は、いろいろな組織で見つかるアミノ酸である - 筋組織において、それはリン酸化形態(ホスホクレアチン)で見つかる。クレアチンは細胞エネルギーのためのATP代謝に関係しており、クレアチニンとして尿中に排出される。ATPの高エネルギーリン酸基は、クレアチンへ移動してホスホクレアチンを形成する - これは、クレアチンキナーゼによって可逆的に触媒される。
【0202】
タウリン(2-アミノ-エタンスルホン酸;CAS登録番号107-35-7)は、イオウを含有するアミノ酸である。これは、ヒトおよび他の種の未熟児および新生児における必須アミノ酸である。タウリンは体内で、神経伝達物質、細胞膜安定化およびイオン輸送を含む複数の役割をもつ。心筋タウリン濃度の低下は、虚血性心不全と関係することが以前に見出されている〔Kramer(クレイマー)ほか、1981、Am. J. Physiol、240:H238-46〕。
【0203】
カルニチン((L-)カルニチン;(3R)-3-ヒドロキシ-4-トリメチルアンモニオ-ブタノエート;CAS登録番号541-15-1)は窒素を含有するアミノ酸であり、大部分の健康な生物により合成され得る。これは、筋肉におけるエネルギー代謝(特にミトコンドリアでの脂肪酸輸送)において重要な役割をもつ。
【0204】
グリシン(2-アミノ酢酸;CAS登録番号56-40-6)は、非必須アミノ酸であり、いろいろな重要な生体高分子(タンパク質、核酸、コラーゲン、リン脂質)の産生に、およびエネルギー放出に関係している。
【0205】
セリン((L-)セリン;2-アミノ-3-ヒドロキシ-プロパン酸;CAS登録番号56-45-1)は、非必須アミノ酸であり、グリシンから誘導される。セリンは細胞膜で濃縮を示し得、その代謝の産物は、細胞増殖のためおよびCNSにおける特定の機能のために不可欠であり得る - L-セリンは、プリンヌクレオチドとデオキシチミジンモノホスフェートの新規の合成のための炭素源である。近年、L-セリンとその代謝産物は、細胞増殖にとって不可欠であるだけでなく、中枢神経系での特定の機能のためにも必要であると認められている(例えばDe Konigほか、2003。Biochem J. 371:653-61)。理論に束縛されることを望むわけではないが、セリンがグリシンから誘導されうるとすると、AR患者で観察されるセリンの相対濃度の低さはグリシンについて観察される実験結果と一致している場合がある。
【0206】
(表3)対象体の集団から得られた血清サンプルのNMRスペクトルで同定されかつ定量された代謝産物

【0207】
したがって、本発明により提供される、対象体における同種移植拒絶反応を診断する方法は、1)セリン、グリシン、タウリン、クレアチンまたはカルニチンからなる群より選ばれる少なくとも3つのマーカーの濃度を測定する段階;2) 少なくとも3つのマーカーの各々の濃度を非拒絶体カットオフインデックスと比較する段階、および3)対象体の「拒絶反応の状態」を決定する段階、を含み、それによって、対象体の拒絶反応状態が、非拒絶体カットオフインデックスを上回るまたは下回る少なくとも3つのマーカーの各々の濃度によって示される。
【0208】
種々の技術と方法を、対象体の代謝産物プロファイルを得るために使うことができる。サンプル調製の細目は、使われる方法によって異なり、そのうえ、関心対象の代謝産物によっても異なる - たとえば、サンプル中のアミノ酸と概して水溶性の小分子の代謝産物のプロファイルを得る場合、低分子量のカットオフ値2〜10kDaであるサンプルのろ過を含みうる一方、脂質、脂肪酸および他の概して水溶性の乏しい分子の代謝産物プロファイルを得る場合は、有機溶媒での抽出および/または残留物の乾燥および再可溶化の一つ以上のステップを含みうる。マーカーを検出および/または定量するいくつかの例示的な方法が本明細書中に示されるが、他のものは当業者に公知であり、そしてこの出願で記述される方法と用途ですぐに使用可能である。
【0209】
対象体の代謝産物プロファイルを得るために(単独でか、または組合せで)用いることができる技術および方法のいくつかの例は、制限されないが、核磁気共鳴(NMR)、ガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析と組み合わせたガスクロマトグラフィー(GC-MS)、質量分析、フーリエ変換MS(FT-MS)、高速液体クロマトグラフィーまたは類似の他のものが含まれる。サンプル調製のための例示的な方法と代謝産物プロファイルを得るための技術は、たとえば、Human Metabolome Projectのウェブサイトで見つけることができる〔Wishart(ウィシャート)DSほか、2007。Nucleic Acids Research 35:D521-6)。
【0210】
当業者に公知である代謝産物プロファイリングに役立つそのような方法の一般原理を述べている標準的な参照文献は、たとえば、Pharmaceutical Biotechnology、〔編SC Gad(ガド)ジョン・ワイリー&ソンス社、Hoboken(ホーボーケ)、NJ、(2007)のHandbook of Pharmaceutical Biotechnology、Chromatographic Methods in Clinical Chemistry and Toxicology〔R BertholfとR. Winecker(編)〕ジョン・ワイリー&ソンス社、ホーボーケ、NJ、(2007)、H. Friebolinによる、Basic One- and Two-Dimensional NMR Spectroscopy、ワイリー-VCH第4版(2005)を含む。
【0211】
ある例では、少なくとも3つのマーカーは、クレアチン、タウリン、セリン、カルニチン、グリシンからなる群より選ばれる。生物学的サンプルにおけるマーカーの定量は、当業者に公知であるいくつかの方法のいずれでも明らかにすることができる。マーカーの濃度は絶対値として、またはベースライン値に対する相対値として決定してもよく、対象体のマーカーの濃度は、カットオフインデックス(例えば非拒絶反応カットオフインデックス)と比較される。
【0212】
本発明の方法へのアクセスは、例えば個別のマーカー試験を実行している臨床検査室または他の試験施設によってエンドユーザーに提供され得る - 生物学的サンプルが個別の試験および分析が実行される施設に提供されて、予測法が適用される;あるいは、医療従事者が、臨床検査室からマーカー値を受け取り、ローカルのインプリメンテーションまたはインターネットベースのインプリメンテーションを使って本発明の予測法にアクセスしてもよい。
【0213】
本発明はまた、対象体の拒絶反応の状態の予測または診断に用いるためのキットを提供する。キットは、タウリン、グリシン、カルニチン、クレアチンまたはセリンの特異的かつ定量的な検出のための試薬を、そのような試薬の使用のためおよび結果として生じるデータを分析する方法のための指示とともに含むことができる。キットは、対象体の拒絶反応の状態を予測または診断するために単独で用いてもよく、あるいは臨床変数を測定するための他の方法または適切とみなされうる他のアッセイと組み合わせて用いてもよい。キットの結果を他のアッセイの結果と組み合わせて、対象体の拒絶反応の状態の予測または診断用の非拒絶反応カットオフインデックスを提供するのに役に立つ指示または他の情報も、提供することができる。
【0214】
方法
ゲノム、メタボロミクス、およびアロ反応性T細胞ゲノム研究のための対象体および検体
移植でのバイオマーカー標準操作手順に従って対象体を登録した。研究コーディネーターが、St. Paul’s Hospital(バンクーバー、BC)で腎臓移植を待っている対象体にはたらきかけ、同意した39名の対象体が研究に参加した。すべての心臓移植はブリティッシュ・コロンビア・トランスプラント(British Columbia Transplant)(BCT)によって監督され、そしてすべての対象体は標準的な免疫抑制療法を受ける。対象体の年齢、性別、民族性および原疾患を、以下の表4にまとめる。同意を得た対象体からの血液サンプルは、移植前(ベースライン)に、ならびに、移植後1、2、3、4、8、12、26週間、および6ヵ月ごとに最長3年間採取した。血液は、PAXGene(商標)チューブに集め、輸送のために氷浴に置いて、1日間-20℃で凍らせ、その後、RNA抽出まで-80℃で保存した。
【0215】
(表4)心臓移植対象体個体群統計

【0216】
心臓移植対象体データを調査し、重篤な合併症のない25名の対象体を選んだ。ベースラインおよび移植後1、2、3、4、8、および12週間の時系列サンプルからのPAXGene(商標)血液を、RNA抽出とマイクロアレイ分析のために選んだ(図1)。
【0217】
プロテオミクス発現研究のための対象体および方法
患者
ブリティッシュコロンビア大学のHuman Research Ethics Boardの承認を得た縦断的研究を、2005年3月〜2008年2月の間にセントポール病院、バンクーバー、ブリティッシュコロンビア州で心臓移植を受けた一連の対象体に対して、書面による同意を得た上で実行した。移植対象体は、シクロスポリン、プレドニゾンおよびミコフェノール酸モフェチルからなる標準的なトリプル免疫抑制療法を受けた。シクロスポリンは、女性についてはタクロリムスと、腎臓障害の場合にはシロリムスと交換した。バシリマックス(Basilimax)誘導を標準的なプロトコルとして使った。血液サンプルは、移植前、ならびに移植後最長3年間にわたり連続的に、および拒絶反応が疑われる時点で、採血した。移植前とプロトコルの心臓組織生検を採取し、直接RNAlater(商標)Tissue Protect Tubeに入れ、-80℃で保存した。生検は、複数の経験豊かな心臓病理学者によって盲検的に調査し、現在のISHLT評価尺度によって分類した。本調査目的のために、拒絶反応グレード≧2Rの患者をARを有すると同定した。そのような患者は、急性拒絶反応に対する適切な処置を受けた。
【0218】
本プロテオミクス研究は、26歳から70歳(男性77%)にわたる、23名の成人心臓移植患者に基づいた。これらの患者の大多数はカフカス人(92%)であった;52%が、移植前の原疾患として虚血性心疾患を呈した。7名の患者は、移植後の最初の5ヵ月間にISHLTグレード≧2Rの急性拒絶反応(AR)を少なくとも1回起こした(AR患者)。その他の16名の患者は、同じ期間内にAR発生が認められなかった(NR患者)。様々な時点でこれら23名の患者から集めたサンプルは、AR患者からのARサンプル10例とNRサンプル10例(ISHLTグレード=0R)およびNR患者からのNRサンプル40例からなる調査コホートとなった。
【0219】
心臓急性拒絶反応の血漿プロテオミクスマーカーの潜在的パネルは、6名のAR患者由来のARの最初の時点および、12名のNR患者由来の同一時点を使って特定した。内部検証において、試験セットのサンプルは、患者あたり、セットのサンプルの残りからランダムに選択された一つのサンプルを使って構築し、NR患者由来の11例のNRサンプルおよび2例のARサンプルを含む試験セットを得た。さらなる時点で利用できるサンプルは、プロテオミクス分類パネルの特性を視覚化するのに用いた。
【0220】
サンプル処理
血液サンプルはEDTAチューブに集め、すばやく氷上に保存した。遠心分離によって各全血サンプルから2時間以内に血漿を得て、分注し、-80℃で保存した。16名の健康な個人から得られる末梢血漿をプールし、等分し、-70℃で保存した。心臓移植患者サンプルはすぐに氷上に保存し、その後2時間以内に処理して-70℃で保管した。すべての血液を、抗凝固剤としてEDTAを入れたチューブに採血した(BD Biosciences;フランクリンレーク、NJ)。その後、各血漿サンプルを解凍して室温にし、pH 7.6の10mMリン酸緩衝生理食塩水で希釈し、spin-X遠心チューブフィルタ(ミリポア)でろ過した。希釈した血漿を、5mLのトリ抗体アフィニティカラム(Genway Biotech;サンディエゴ、CA)上に、325μLサンプルループを通して注射し、14種の最も豊富な血漿タンパク質を除去した:アルブミン、フィブリノーゲン、トランスフェリン、IgG、IgA、IgM、ハプトグロビン、α2-マクログロブリン、α1-酸グリコプロテイン、α1-アンチトリプシン、アポリプロテイン(Apoliprotein)-I、アポリプロテイン-II、補体C3およびアポリプロテインB)。フロースルー画分を回収し、TCAを最終濃度10%まで加えることによって沈降させ、4℃で16〜18時間インキュベートした。タンパク質沈殿物は4℃で1時間、3200gの遠心分離によって回収し、氷冷アセトン(EMD;Gibbstown、NJ)で3回洗浄し、45:45:10の飽和尿素(J. T. Baker(ベーカー);Phillipsburg、NJ)、0.05MのTEABバッファ(シグマアルドリッチ;セントルイス、MO)、および0.5% SDS(シグマアルドリッチ;セントルイス、MO)からなる200〜300μLのiTRAQバッファで再水和させた。各々のサンプルは、その後-70℃で保存した。血漿タンパク質欠乏試料(100mg)は、シーケンスグレード修飾化(sequence grade modified)トリプシン(プロメガ;マディソン、WI)で消化し、製造元のプロトコルに従ってiTRAQ試薬で標識した(アプライドバイオシステム;フォスターシティー、CA)。異なる実施にわたる結果を確実に解釈可能とするために、一般的な参照サンプルを、すべての実施における3例の患者サンプルと共に処理した。参照サンプルは16名の健康な個人由来の血漿のプールからなり、一貫してiTRAQ試薬114で標識した。患者サンプルは、ランダムにiTRAQ試薬115、116および117で標識した。その後iTRAQ標識ペプチドをプールし、酸性化してpH 2.5〜3.0にした。そしてまず強陽イオン交換クロマトグラフィー(PolyLC社、コロンビア、MD USA)によって、次に逆相クロマトグラフィー(Michrom Bioresources社、オーバーン、CA USA)によって分離し、Probotマイクロフラクションコレクタ(LC Packings、アムステルダム、オランダ)を使用して384枚のspot MALDI ABI 4800プレート(実験あたりプレート4枚)の上へ、直接スポットした。
【0221】
トリプシン消化およびiTRAQ標識
総タンパク質濃度はビシンコニン酸アッセイ(BCA)(シグマアルドリッチ、セントルイス、MO USA)を使って決定し、各々のサンプル由来の総タンパク質100μgを、-20℃でのHPLCグレードのアセトン(シグマアルドリッチ、Seelze、ドイツ)10容量の添加によって沈降させ、-20℃で16〜18時間インキュベートした。タンパク質沈殿物を10分間16 110xgの遠心分離によって回収し、50mMのTEABバッファ(シグマアルドリッチ;セントルイス、MO)、0.2%の電気泳動グレードSDS(Fisher Scientific;Fair Lawn、NJ)中で可溶化した。各々のサンプル中のタンパク質を、3.3mMのTCEP(シグマアルドリッチ;セントルイス(MO))で還元し、60℃で60分間インキュベートした。システインは最終濃度6.7mMのメタンチオスルホン酸メチルでブロッキングし、10分間室温でインキュベートした。
【0222】
還元してブロッキングしたサンプルを、シーケンスグレード修飾化トリプシン(プロメガ;マディソン、WI)で消化し、16〜18時間37℃でインキュベートした。トリプシン消化されたペプチドサンプルを、急速減圧器(ThermoSavant;ホルブルック、NY)で乾燥させ、製造元のプロトコルに従ってiTRAQ試薬で標識した(アプライドバイオシステム;フォスターシティー、CA)。標識サンプルをプールし、濃リン酸(ACP Chemicals Inc;モントリオール、QC、カナダ)で酸性化してpH 2.5〜3.0とした。
【0223】
2D-LCクロマトグラフィー
300Åの孔を有する5μmビーズ(PolyLC社、コロンビア、MD USA)を充填した内径(ID)4.6mm、長さ100mmのポリスルホエチル(Polysulphoethyl)Aカラムを用いる強陽イオン交換クロマトグラフィー(SCX)によって、VISIONワークステーション(アプライドバイオシステム;フォスターシティー、CA)にて、iTRAQ標識ペプチドを分離した。用いた移動相は、10mMのリン酸二水素カリウム(シグマアルドリッチ;セントルイス、MO)および25%アセトニトリル(EMD Chemicals;Gibbstown、NJ)pH 2.7から成るバッファA、ならびに0.5M塩化カリウム(シグマアルドリッチ・セントルイス、MO、USA)を添加した以外はAと同一であるバッファBであった。500μLの画分を、2つの線形プロファイルに分けられる80分間の勾配にわたって回収した:1) 0〜30分はバッファBを5%から35%とする;2)30〜80分はバッファBを35%から100%とした。UV追跡によって検出したペプチドの濃度が最高であった20〜30画分を選択し、画分あたりの量を150μLまで減らした。画分をC18 PepMapガードカラム(300μm ID x 5mm、5μm、100Å、LC Packings、アムステルダム)にロードし、98:2:0.1(v/v)の水/アセトニトリル/TFAからなる移動相Aで15分間50μL/分で洗浄することによってペプチドを脱塩した。次にトラップカラムを200nL/分のナノフロー流に切り替えて、ペプチドを高解像度クロマトグラフィー用のMagic C18 nano LCカラム(15cm、孔サイズ5μm、100Å、Michrom Bioresources社、オーバーンCA、USA)にロードした。ペプチドは、以下の勾配によって溶出させた:0〜45分は5%から15%のB(98:2:0.1(v/v)のアセトニトリル/水/TFA);45〜100分は15%から40%のB;および100〜105分は40%から75%のB。溶出物は、Probotマイクロフラクションコレクタ(LC Packings、アムステルダム、オランダ)を使用して96 spot MALDI ABI 4800プレート(実験あたりプレート4枚)上に直接スポットした。次に、マトリックス溶液、50% ACN中の3mg/mL α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(シグマアルドリッチ、セントルイス、MO USA)、0.1% TFAを、スポットあたり0.75μLで加えた。
【0224】
質量分析とデータ処理
MALDIプレート上へスポットしたペプチドを、4000シリーズExplorerバージョン3.5ソフトウェアを用いて制御する4800 MALDI TOF/TOFアナライザー(アプライドバイオシステム;フォスターシティー、CA)で分析した。この質量分析計は、MS/MS衝突エネルギー1keVの陽イオンモードに設定した。各MS/MS実施につき最高1400ショット/スペクトルが集められ、これにより総時間量(total time mass)は35〜40時間にわたった。ペプチドの同定および定量は、新規Paragon(商標)検索アルゴリズム(アプライドバイオシステム)(Shilov et al., 2007)およびPro Group(商標)アルゴリズムを組み込んだProteinPilot(商標)ソフトウェアv2.0(アプライドバイオシステム/MDS Sciex、フォスターシティー、CA USA)によって行われた。データベース検索は、国際的なタンパク質インデックス(IPI HUMAN v3.39)(Kersey et al., 2004)に対して実行した。前駆体トレランス(precursor tolerance)は150ppmに設定し、iTRAQ断片トレランスは0.2Daに設定した。トリプシン切断(MMTSによるシステインアルキル化)について同一性パラメータを設定し、生物学的改変に対して、特定の要因を尿素変性およびIDフォーカスで設定した。検出したタンパク質閾値は、85%信頼区間で設定した。
【0225】
Pro Group(商標)Algorithm(アプライドバイオシステム)により、Paragon(商標)Algorithm由来のペプチドの痕跡(evidence)をアセンブルして試料中のタンパク質の包括的な概要を作成し、各iTRAQ実施においてタンパク質同一性のリストが最小限維持されるように、同定された一連のタンパク質をタンパク質グループへと整理した。相対的なタンパク質濃度(標識114に対する標識115、116、および117のタンパク質濃度比)は、対応するペプチド比(単集合ピークを含む)を使ったProtein Pilotによって推定された。平均タンパク質比は、タンパク質ごとの各ペプチドの対数比の加重平均に基づくProteinPilotによって算出された。各対数比のウェートは、Pro Group Algorithmによって算出されたエラーファクター(計量におけるエラーの推定)の逆数であった。次にこの加重平均を再び線形空間に変換し、Pro Group AlgorithmのAuto Bias補正オプションを用いて実験的な偏りについて補正した。次の場合に由来するペプチド比は、対応する平均タンパク質比の算出から除外した:共通ペプチド(すなわち、同一のペプチド配列が、複数のタンパク質によって要求された)、前駆体が重複したペプチド(すなわち、同定されたペプチドをもたらすスペクトルが、無関係のペプチド配列をもつ別のタンパク質によっても要求された)、信頼度の低いペプチド(すなわち、ペプチドID信頼度<1.0%)、iTRAQ修正を受けなかったペプチド、試薬対のメンバー1つだけと同定されたペプチド、およびピーク対の全てについて信号対雑音比の合計が9未満だったペプチド比率。各タンパク質に割り当てられるこれらおよび他の定量基準に関するならびにバイアス補正に関するさらなる情報は、ProteinPilot Softwareマニュアルで提供される。
【0226】
この研究において、心臓急性拒絶反応の血漿プロテオミクスマーカーを同定するために、14種の最も豊富なタンパク質を欠乏させ、総血漿タンパク質質量の5%未満を構成する血漿タンパク質を分析した。他のショットガンプロテオミクス法のように、iTRAQ方法論におけるペプチドおよびタンパク質の同定は、MS/MSペプチドスペクトルおよびデータベース検索に基づく。タンパク質同定プロセスでは通常曖昧さに遭遇するため、多くのソフトウェアツール(ProteinPilotのような)は、各々の実験実施において類似の配列を持つタンパク質を含んでいるタンパク質グループ別に、データを整理する(NesvizhiskiiとAebersold(2005))。一般に、個々の参照名(識別子)は最も存在可能性の高いタンパク質として選ばれ、各々のグループを表しかつ対応する平均iTRAQ比率と共にタンパク質概要テーブルに移される。しかし、場合によっては、グループ内の異なるタンパク質を区別する方法がなく、かつ一般に、グループ内に非トップ・タンパク質(non-top protein)が存在しないことの決定的証拠は無い。あるタンパク質として異なる複製物がマッチすることが、実際には存在しているがそのグループの別のメンバーによって表される場合に一部の複製において検出されないように見える場合、この問題はいくつかの挑戦を要する。この問題に対処して分析されるタンパク質の数を最大にするために、新しいアルゴリズム(Protein Group Code Algorithm(PGCA)と呼ばれている)が開発された。PGCAは、一回の実施において同一タンパク質グループの中のすべてのタンパク質に識別コードを割り当て、実施間の「類似した」タンパク質グループへ共通コードを割り当てる。その後、割り当てられたタンパク質グループコード(PGC)を用いて、実験の別々の複製間でタンパク質をマッチさせた。この手順では、すべての実験実施間の関連するタンパク質とタンパク質ファミリーについて共通の識別子命名法を維持する。
【0227】
統計分析
PGCAによって割り当てられたタンパク質グループコードによって指定され、6例のARサンプルのうち少なくとも4例および12例のNRサンプルのうち8例(すなわち、各々の分析されたグループ内で少なくとも2/3が検出)で検出された一組のタンパク質について、1タンパク質ごとの差次的相対レベルの評価を、ロバストモデレートt検定(robust moderated t-test)(eBayes - Smyth GK線形モデルおよびマイクロアレイ実験の区別的な表現を評価する経験的なBayes方法。Stat Appl Genet Mol Biol. 2004;3:Article3(バークレーElectronic Press))を使って実行した。eBayes(元々は遺伝子発現分析のために設計された)は、研究のサンプルサイズが小さい場合に、人工的に低いサンプル分散推定値に起因する偽陽性の数を減少させる。さらに、ロバストバージョンのeBayesは、古典的な非ロバスト(non-robust)試験よりも、大半のデータから離れた知見に対して感度が低い。(プールされた対照レベルに対する)平均相対濃度がARとNRとの間で有意に(p値<0.05)異なるタンパク質グループコードについて、更なる分析のために考察した。異なる基準を用いて、2枚の潜在的血漿タンパク質パネルを同定した:A)25%未満の偽発見率(FDR)および、B)変数増加段階的判別分析(SDA)、これによりARとNRグループを分離する能力を最大にしている(RパッケージklaRを使う。R:統計コンピューティングのための言語および環境。統計コンピューティングのためのR財団、ウィーン、オーストリア)。
【0228】
線形判別分析(LDA)は、プロテオミクスパネルの能力を推定して新しいサンプルを分類するために実行された。2つの分類指標はそれぞれ、パネルAとBを使って確立した。同じトレーニング(18例の対象サンプル)セットおよび試験(13例の新規対象サンプル)セットを、両方の場合について用いた(「患者」の項を参照のこと)。SDAとLDAでは、患者サンプルおよび/またはプールされた対照タンパク質の相対濃度は、各グループのトレーニングサンプルから算出される平均相対濃度(ARおよびNR平均)を入力した。統計分析の全ては、Rバージョン2.6.0を使ってインプリメントされた。
【0229】
14種のマーカーのパネルから、市販のキットを使用しかつ製造元の指示に従ったEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)によって、5種のタンパク質が確認された:アディポネクチン、ベータ-2ミクログロブリン、シスタチンC(全てR&D Systems、ミネアポリス、MN)、第X因子(Diapharma、ウェスト・チェスター、OH)、および性ホルモン結合グロブリン(Alpco、セイラム、NH)。患者サンプルおよびiTRAQ実験で使用したのと同一のプールされた対照を、ELISAによって2つ組で分析し、VersaMax Tunable Microplate Reader(Molecular Devices、サニーヴェール、CA)上で解析した。
【0230】
アロ反応性T細胞単離
(表5)アロ反応性T細胞遺伝子発現プロファイリングについての心臓移植対象体個体群統計

【0231】
急性全血RNA抽出およびマイクロアレイ分析のために、心臓移植対象体データを調査し、重篤な合併症のない25名の対象体を選んだ。ベースラインならびに移植後1、2、3、4、8および12週間の時系列サンプルからのPAXGene(商標)血液を、RNA抽出およびマイクロアレイ分析のために選んだ(図1)。アロ反応性T細胞単離、RNA抽出およびマイクロアレイ分析のために、移植の前、最中、または直後に、同意を得たドナーから血液または脾臓のサンプルを採取した。9名の心臓移植対象体を、ドナーからの同意に基づく研究のために選んだ。この対象分布とサンプリングスケジュールは図12に図示され、対象対の個体群統計は表5で示される。
【0232】
APC膜のビオチン化
ビオチンで被覆した抗原提示細胞(APC)膜を作製するため、白血球をまずドナーの脾臓かドナーのヘパリンナトリウム血から単離した。次に細胞を、5分間1500RPMで遠心分離してペレット化した。PBS中にNHS-ビオチン(ビオチン)0.2mg/mLを含むバッファを、次に調製した。上清を除去し、ビオチン溶液中に再懸濁したAPCを細胞3000個につきバッファ1μLの比率で加えた。良好な混合のためにチューブを数回反転させ、30分間4℃でインキュベートした。次にチューブをFACSバッファで満たし、細胞をペレット化するために、5分間1500RPMで遠心分離した。細胞はFACSバッファ内に再懸濁し、SA-PEを用いた染色によりビオチン化の程度を測定するために、アリコートを取り出した。残りのAPCは、以下の通りに膜に調製した。APC懸濁物を、5分間1500RPMで15mLチューブ内で遠心分離し、細胞をペレット化した。上清を吸引した後、ペレットを細胞2×107個あたり1mLの溶解バッファに再懸濁した。最少2mLの溶解バッファは、以降の均質化ステップをより効率的にするのに用いた。溶解物を、5分間氷上に置いた。次に細胞を、Polytron PT 3000自動ホモジナイザー(ブリンクマン)を用いて溶解させた。発振器が確実にチューブに全て挿入されるよう注意を払った。大して多くの泡が発生しないスピードに達するまで(>10,000RPM)ホモジナイザーのRPMを徐々に増大させ、サンプルをこのスピードで2分間均質化させた。チューブの内容物を次に4℃で5分間2000RPMで遠心分離し、残留する非均質化細胞と不必要な破片をペレット化した。上清の1mLアリコートを次に別々の1.5mLマイクロ遠心チューブに移した。その後これらのチューブを4℃で15分間14,000RPMで遠心分離し、原形質膜をペレット化した。上清を吸引した後、ペレットを再懸濁バッファ100μL中に再懸濁した。次に、溶液中の膜の量を定量するためにタンパク質測定を実施した - 参照として1% BSAを用いる分光光度計を使ってA280で吸収度を読み取った。次に再懸濁バッファを用いて、1μLあたりタンパク質2μgを含んでいる細胞膜懸濁物の100μLアリコートを作製した。
【0233】
十分なビオチン化を確実にするために、FACSバッファ100μL中に100,000個の細胞を含んでいるアリコートを取り出して、5μLの SA-PEを加えた。ピペッティングにより混合した後に、細胞を暗条件下で30分間4℃でニューテーター(nutator)上に置いた。次にチューブをFACSバッファで満たし、5分間1500RPMで遠心分離して細胞をペレット化した。上清をその後除去し、過剰なSA-PEを全て取り除くために、この洗浄ステップをさらに二回繰り返した。最後に、細胞はフローサイトメトリー分析のためにFACSバッファ300μL中に再懸濁した。
【0234】
応答細胞に対するビオチン化APC膜の結合
ビオチン化された膜10μgを、> 1.5×105個の細胞(PBMC、抗CD3抗体と接合した蛍光色素で染色したPBMC、または精製CD3+ T細胞)を含む各ウェルに加えた。調製物は通常FACSバッファ100μL中の200μgアリコートで保存し、加える膜の量は通常5μLであった。細胞は、暗条件下4℃で60分間ニューテーター上でインキュベートした。ウェルを次に、FACSバッファで満たし、サンプルを5分間1500RPMで遠心分離した。上清を除去し、さらにFACSバッファを加えた。この洗浄ステップは、合計3回、実行した。再度上清を除去し、細胞をFACSバッファの100μL中に再懸濁した。蛍光色素に結合させたSA 2μLを次に加えた(PBMCが先に抗CD3抗体と結合した蛍光色素で染色されている場合、本発明者らはSA結合蛍光色素が独特であることを確実にした)。サンプルは、暗条件下4℃で60分間ニューテーター上でインキュベートした。次にウェルをFACSバッファで満たし、サンプルを5分間1500RPMで遠心分離した。上清を除去し、さらにFACSバッファを加えた。この洗浄ステップは、合計3回実行した。サンプルを、FACSバッファ300μL中の状態で、フローサイトメトリー分析のために適当なチューブへ移した。
【0235】
アロ反応性T細胞(ビオチン化されたAPC膜が結合した細胞)の抽出
同種異系ビオチン化APC膜と結合した応答PBMCは、、EasySep(登録商標)ビオチン選択キット(StemCell Technologies、バンクーバー)を使用して単離することができる。これにより、応答細胞の3つの異なる部分集団の研究が可能になった:操作していないPBMC、同種異系APC膜に結合したPBMC(すなわちアロ反応性T細胞)、および同種異系APC膜と結合していないPBMC(すなわち、アロ反応性T細胞が枯渇した全PBMC)。15mLのFalcon(商標)ポリスチレン丸底チューブにおいて、1×106のPBMCは、5μMのMg2+を添加した3mLの染色バッファ中で、APC膜[同系(対照)または同種異系(実験)供給源のいずれかに由来]300μgと共に、4℃で1時間ニューテーター上でインキュベートした。次にチューブをFACSバッファで満たし、5分間1500RPMで遠心分離し、上清を吸引した。その後この洗浄ステップを再び繰り返し、細胞ペレットを1mLのFACSバッファに再懸濁し、5mLのFalcon(商標)ポリスチレン丸底チューブへ移した。EasySep(登録商標)Biotin Selection Cocktail(四量体抗体複合体を含む)100μLを次に加え、細胞を15分間室温でインキュベートした。その後十分混合したEasySep(登録商標)磁性ナノ粒子50μLを細胞に加え、チューブを10分間室温でインキュベートした。次にチューブを、FACSバッファで2.5mLまで満たし、5分間EasySep(登録商標)磁性内に置いた。チューブおよび磁石を一緒に持ち上げ、チューブの内容物(ビオチン化されたAPC膜と結合していないPBMC)を反転させて新しい5mLチューブに移した - この反転したチューブ3分間保った。このネガティブ画分は、ビオチン化されたAPC膜に結合していないPBMCを含む。ビーズに結合した細胞は、アロ反応性T細胞に富む生物学的サンプルの部分から成り、これを次にRNA抽出に供した。
【0236】
RNA抽出およびマイクロアレイ分析
全RNAを単離するために、PAXgene(商標)血液RNAキット[Cat#762134]を使用して、解凍されたサンプルに対してRNA抽出を行った。4〜10μgのRNAを2.5mlの全血から慣例的に単離し、そしてRNA品質をAgilent BioAnalyzer(アジレント・バイオアナライザー)を使って確かめた。RIN値>5、とA240/A280>1.9のRNA 1.5μgを有するサンプルを、ドライアイスの上でパックし、Affymetrix(アフィメトリクス)マイクロアレイ分析のためにMicroarray Core(MAC)Laboratory、Children’s Hospital、ロサンゼルス、CAにフェデラル・エクスプレスによって輸送した。マイクロアレイ分析は、CAP/CLIA公認のMAC研究所で、一人の技術者によって行った。発生期のRNAを、二重鎖cDNA合成のために用いた。続いてcDNAをビオチンで標識し、断片化し、ハイブリダイゼーションカクテルと混ぜて、GeneChip Human Genome U133 Plus 2.0アレイの上にハイブリダイズした。アレイは、プールされた正常な全血から作られた妥当性RNAコントロールと共に、48のバッチで、Affymetrixシステムでスキャンした。マイクロアレイは、アフィメトリクス1.16.0版とaffyPLM1.14.0版BioConductor(バイオコンダクター)パッケージを用いて品質についてチェックされた〔Bolstad(ボルスタット)、B.、Low Level Analysis of High-density Oligonucleotide Array Data: Background, Normalization and Summarization。2004、カリフォルニア大学バークレー校;Irizarryほか、2003。Biostatistics 4(2):249-64〕。より一層低い品質を有するアレイは、同じ時点からの異なるRNAアリコートを用いて繰り返された。Affymetrix(商標)NetAffx(商標)Annotationデータベースアップデートリリース25(2008年3月)を、マイクロアレイ結果の同定と分析のために使用した。
【0237】
NMR化合物の同定(代謝産物研究用)
より高分子量の構成要素を関心対象の代謝産物から分離すために、選ばれた血清サンプルの限外濾過をMW 3kDaの500μL最大量カットオフフィルタ(Pall Life Sciences)を使用して行なった。NMRの準備ができた血清サンプルは、限外濾過された流体の300μLアリコートを1.5mLのエッペンドルフチューブへ移した後に35μLのD2Oおよび15μLの標準液(H2O中、3.73mMのDSS(2,2-ジメチル-2-シラペンタン-5-スルホン酸ジナトリウム)、233mMのイミダゾール、および0.47%のNaN3、シグマアルドリッチ、ミシソーガ、ON)を加えることによって調製した。このように調製した各血清サンプルは、7.3〜7.7のpHで、0.16mMのDSS、10mMのイミダゾールおよび0.02% NaN3を含んだ。サンプル(350μL)を次に、NMRスペクトル分析用の標準的なSHIGEMIマイクロセルNMRチューブへ移した。
【0238】
全ての1H-NMRスペクトルは、5mm HCN Z勾配パルスフィールド勾配(PFG)室温プローブまたはZ勾配PFG Varianコールドプローブを備えた500MHzのInova(バリアン社、パロアルト、CA)分光計で集めた。1H-NMRスペクトルはtnnoesy-前飽和パルス・シーケンス(tnnoesy-presaturation pulse sequence)のトランジエントを用いて25℃で得られ、これは高い定量精度の高い程度について選ばれた(E.J。Saude、C.M.。Slupsky、B.D.サイクス Metabolomics 2 (2006) 113)。スペクトルを、4sの取得時間と1sのリサイクル遅れを用いて64のトランジエントにより集めた。特定の確証実験については、より高いフィールド(800MHzのVarian Inova)の器具およびより大きな数のトランジエント(256)を用いた。
【0239】
スペクトル分析の前に、すべてのFIDを64kのデータ・ポイントにゼロ充填し、0.5Hzの線幅拡大を行った。緩衝成分DSSのメチル一重線は、化学シフト参照(0ppmに設定)および定量のための内部標準として用いた。すべての1H-NMRスペクトルは、Chenomx NMR Suite Professionalソフトウェア・パッケージ・バージョン4.6(Chenomx社、エドモントン、AB)を使って処理し、分析した。Chenomx NMR Suiteソフトウェアは、スペクトルの特徴を参照スペクトルの内部データベースから完全なNMRスペクトルまで「フィットさせる」ことによって、NMRスペクトルの定性的かつ定量的な分析を可能にする(A.M. Weljie、J.ニュートン、P.メルシェ、E.カールソン、C.M.。Slupsky Anal Chem. 78 (2006) 4430)。各代謝産物についてのスペクトルフィッティングは、標準Chenomx 500MHz(pH 6-8)代謝産物ライプラリを使って行った。濃度データは、前述のとおり、帯域通過フィルタ減衰に関して補正した(E.J。Saude、B.D.サイクス Metabolomics 3 (2007) 19)。これらのチェックに加えて、サンプルスパイク(sample spiking)を用いて、NMRスペクトルで見られる多くのスペクトルの特徴のアイデンティティを確認した。サンプルスパイクは、推定化合物の20〜200μMを選択した血清サンプルに加え、対応する1H NMRシグナルが予想通りに変化するかどうか確認することによって実行した。
【0240】
統計分析
統計分析は、SAS 9.1版、R 2.6.1版とBioConductor 2.1版を使って実行した〔Gentleman(ゼントルマン)、R.、ほか、Genome Biology、2004。5:p. R80〕。
【0241】
ゲノムおよびT細胞マイクロアレイデータ(豊富なマルチ配列平均(RMA))の分析のために、Affymetrix BioConductorパッケージで利用可能なように、ロバストマルチアレイアベレージ(RMA)〔Bolstad(ボルスタット)、ほか、Bioinformatics、2003。19(2):p. 185−93〕技術を、バックグラウンド補正、規格化、および集計のために用いた。続いて、ノイズ最小化を実行し;少なくとも3つのサンプルにわたって一貫して50より低い発現値を有するプローブセットをノイズと見なして更なる分析から除いた。残りのプローブセットを、3つの異なるモデレートT-検定を使って分析した。方法のうちの2つは、Microarrayデータ(limma)BioConductorパッケージについて、Linear Models(線形モデル)で利用でき-ロバスト適合をeBayes(イーベイズ)と組み合わせ、そして最小二乗適合(least square fit)をeBayesと組み合わせた。第3の統計分析法は、マイクロアレイ統計分析(SAM)であり、同じBioConductorパッケージで利用できる。遺伝子は、3つの方法すべてで偽発見率(FDR)< 0.05を有し、かつ3つすべてのt検定で倍率変化> 2 を有する場合、統計的に有意であると見なされた〔Smyth(スマイス)、G.、Limma:linear models for microarray data, in Bioinformatics and Computational Biology Solutions using R and Bioconductor、R. Gentleman、ほか編。2005、Springer:ニューヨーク)。バイオマーカーパネル遺伝子を、統計的に有意なプローブセットを予め選別した上で段階的判別分析(Stepwise Discriminant Analysis)(SDA)を適用することによって特定した。線形判別分析(LDA)は、バイオマーカーパネルを分類子として操作し、テストするのに用いた。
【0242】
代謝産物データは、2つの異なる方式で分析した。最初に、急性拒絶反応(AR)サンプル(ISHLTグレード≧2R)の絶対濃度を、非拒絶反応(NR)サンプル(ISHLTグレード0R)と比較した。次に、ARサンプルのベースライン濃度に対する相対値を、NRサンプルのベースライン濃度に対する相対値と比較した。相対濃度は、ベースライン・サンプル濃度レベルで移植後サンプル濃度値を割ることによって、各々の対象体について算出する。分析ごとに、2つの異なるモデレートT検定を用い、両方の分析法において、FDR(過誤発見率)<0.05の代謝産物を統計的有意とみなした。2つの異なるt検定とは、マイクロアレイ有意性解析(SAM)とロバストeBayesであった。代謝産物は、どちらのt検定からも有意であると考えられた。SAMはベースライン濃度データに対する相対値に関して有意な代謝産物を特定し、ロバストeBayes t検定は濃度データ相対値に関して有意な代謝産物を特定した。
【0243】
実施例1 ゲノム発現プロファイリング
39の異なって発現したプローブセットを特定した。これらのそれぞれは、急性拒絶反応患者(AR)からのサンプルと非拒絶反応患者(NR)(表6)からのサンプルとの間で少なくとも2倍の違いを示した。12のマーカーのサブセットを特定した。これは、一貫して、ARおよびNR対象(表6において「++」で示される)を区別した。図2の通り、TRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2およびMBD4のマーカーの増加または減少は、ARまたはNRとしての各々のサンプルの分類を可能にした。
【0244】
(表6)AR対象体およびNR対象体との間で少なくとも2倍の違いを示す、異なって発現したプローブセット
標的配列は、プローブ配列が選ばれたコンセンサスまたは原型配列の一部である。コンセンサスまたは原型配列は、GeneChip(ジーンチップ)U133 2.0プローブセットにより評価する、転写物を表わすアレイの設計時に用いる配列である。コンセンサス配列は、配列データを整列しグループに組合せるベースコールアルゴリズムから得られる。例示的な配列は、各遺伝子についての代表的なcDNA配列である。






【0245】
実施例2-ゲノム発現プロファイリングに基づく生物学的経路
バイオインフォマティクスと文献ベースのアプローチの組合せを用いて、様々な経路を、選ばれた異なって発現した遺伝子に基づいて特定した。それらの間の相互作用は、本発明者らの本結果でも明らかとなった。図3は、バイオマーカーARHGEF7、TRF2、BID、MARCKS、KLF4、CLEC2BおよびMBD4の間の経路ベースの関係を例示する。
【0246】
バイオマーカー遺伝子間および/または遺伝子産物間の相互作用:
1. BETAPIX→Rac1→STAT1→KLF4
BETA-PIX→Rac 1 (Park et al, 2004. Mol Cell Biol 24:4384-94)
Rac1→STAT1→KLF4 (Uddin et al, 2000 J.Biol Chem 275:27634-40;Feinberg et al 2005. J. Biol.Chem 280:38247-58 )
2. KLF4→(c-MYC→CREB1)→CLECSF2
KLF4→c-MYC (Kharas et al 2007. Blood. 109:747-55)
c-MYC→CREB1 (Tamura et al 2005 EMBO J. 24:2590-601)
CREB1→CLECSF2 (Zhang et al 2005. Proc Natl Acad Sci. 102:4459-64)
3. STAT1→BID
STAT1→KLF4 (Uddin et al, 2000 J.Biol Chem 275:27634-40;Feinberg et al 2005. J. Biol.Chem 280:38247-58 )
STAT1→BID (Hartmann et al 2005. Genes & Development 19:2953-2968)
4. KLF→ベータ-カテニン→HDAC1→MBD4
KLF→ベータ-カテニン (Zhang et al, 2006. Mol. Cell Biol. 26:2055-64)
ベータ-カテニン→HDAC1 (Baek et al 2003. Proc Natl Acad Sci 100:3245-50)
HDAC1→MBD4 (Kondo et al 2005. mo. Cell Biol 25:4388-96)
5. BETA-PIX→CDC42→PKC-zeta→MARCKS
BETA-PIX→CDC42 (Feng et al 2002. J Biol Chem 277:5644-50)
CDC42→PKC-zeta (Slater et al 2001. Biochemistry 40:4437-45)
PKC-zeta→MARCKS (Hartwig et al 1992. Nature 356:618-22)
6. KLF4→SP1→HLA-H→TfR2
KLF4→SP1 (Kanai et al 2006. Clin Cancer Res 12:6395-402)
SP1→HLA-H (Mura et al 2004. FASEB J. 18:1922-4)
HLA-H→TFR2 (Goswami et al 2006. J. Biol Chem. 281:28494-8)
【0247】
実施例3:代謝産物プロファイリング
記述されるように、対象体の代謝産物プロファイルが得られた。33の代謝産物(表3)を、対象集団から得られた53の血清サンプルにおいて特定し、定量した。AR対象サンプルとNR対象サンプルとの間の比較。対象サンプルは、ISHLT生検スコア(ARは≧2R、NRは0R)に基づいてARまたはNRとして特定した。ISHLT生検スコアは、心内膜心筋生検の病理学者の評価で決定される(上記、スチュワートほか、2005)。
【0248】
統計的に有意な変化を示している代謝産物を表7a〜dに列挙する。
【0249】
図10に図示されるように、タウリン、セリンおよびグリシンの各々についての絶対濃度は、検査した集団内での対象体の各々の拒絶反応状態の決定を可能にした。代謝産物プロファイリングにより、ISHLT生検スコア≧2Rを有するすべての対象体は、拒絶反応状態ARを正しく割り当てられた;一方ISHLT生検スコア0Rを有するすべての対象体は、拒絶反応状態NRを正しく割り当てられた。
【0250】
移植後サンプルの濃度をベースライン濃度と比較したとき、3つの代謝産物はモデレートt検定を使用した場合統計的に有意であった。線は、各々のグループの平均を例示する。総サンプル集団は、AR対象体由来の6つのサンプル、およびNR対象体由来の21のサンプルを含んだ。
【0251】
(表7a)AR対象体およびNR対象体におけるタウリン、セリンおよびグリシンについての絶対濃度値

【0252】
(表7b)心臓代謝産物マーカー-絶対濃度:表7aのAR対象体およびNR対象体のデータについての平均、標準偏差

【0253】
(表7c)AR対象体およびNR対象体におけるグリシン、クレアチンおよびカルニチンについてのベースライン濃度と比較した値

【0254】
図11に例示するように、グリシン、クレアチンおよびカルニチンの各々についてのベースライン濃度との比較は、検査した集団内での各々の対象体の拒絶反応状態の決定を可能にした。ISHLT生検スコア≧2Rを有するすべての対象体は、拒絶反応状態ARを正しく割り当てられた;一方ISHLT生検スコア0Rを有するすべての対象は、拒絶反応状態NRを正しく割り当てられた。
【0255】
(表7d)心臓代謝産物マーカー-ベースライン濃度と比較:表7cのAR対象体およびNR対象体データについての平均、標準偏差

【0256】
(表8)倍率変化の大きさおよび方向

【0257】
「絶対濃度」は、ARサンプルとNRサンプルとの間の比較である。「ベースラインとの比較」は、濃度はAR/BLまたはNR/BLの比率であり、結果として生じた比率の比較が続く。絶対濃度の方法を使用して評価するとき、クレアチンとカルニチンは有意な変化(データ非提示)を示さない。代謝産物をベースラインと比較する方法を利用して評価するとき、タウリンとセリンは有意な変化(データ非提示)を示さない。
【0258】
NRと比較して、クレアチンのより高い濃度がARで見いだされた(表8) - これは、AR患者のクレアチンキナーゼ(CK)濃度の反映でありうる。CKの上方制御は、臨床的に、骨格または心臓の筋肉(すなわち心筋梗塞で)の傷害を示すのに用いられてきた。急性拒絶反応が移植臓器に対する免疫介在性傷害を含むので、CKの様に、クレアチンが同種移植損傷のもう一つの徴候としてARでも増加(NRと比較)する可能性がある。
【0259】
タウリンレベルが、AR対象体においてでより低いことが見いだされた(NRと比較)(表8)。タウリンの低いレベルが高血圧のような状態で見つかったならば、タウリンは、むしろ心臓における増加した圧力の特定の指標として、ストレスの下で心臓の一般的なバイオマーカーに役立つ可能性がある。
【0260】
拒絶反応患者の中に認められるカルニチンの増加したレベルが同種移植の(補償的な)反応に部分的に起因する可能性がある -脂肪利用を上方制御、したがって、良くない影響である虚血/再灌流を打ち消すための、心臓のためのより多くのエネルギーを発生させるために、活性酸素生成および同種免疫反応は、心筋エネルギー代謝を脅かす可能性がある。
【0261】
上記の結果は、タウリンの異なって表れた濃度が同種移植拒絶反応のバイオマーカーとして役立ちうる(特に、本発明者らのデータにおいて、タウリンのより高い濃度がNRで観察されたことを考慮すれば)という更なる証拠を提供する。ラシキーほかによる前記の研究に基づくと、PMNによって誘発された再灌流障害および酸化ストレスから最終的に心臓を保護するタウリンの増加した濃度からNRが利益を得たことは、生物学的にもっともらしい。
【0262】
理論に束縛されることを望まないが、上記の結果は、生体高分子の生産におけるグリシンの役割を考えると、同種移植拒絶反応に関係する免疫細胞(例えばCD4+および8+細胞、NK細胞等)の要件を満たすために、グリシンによるDNAおよびリン脂質(例えば細胞膜のため)の生産の支持または上方制御に対するさらなる要求を、対象が示しうることを示唆しうる。あるいは、おそらく同種移植拒絶反応および同種移植片に対する損傷が周囲のレシピエント細胞および組織の正常な細胞代謝およびエネルギー生産を妨害したために、グリシン濃度はARにおいてNRよりも低い。
【0263】
実施例4:アロ反応性T細胞プロファイリング
196の遺伝子に対応する200のプローブセットは、ARおよびNRサンプル(p > 0.01)に属しているアロ反応性T細胞サンプルの間で、異なって発現した。これらのプローブセットの発現値に基づいて、AR対象サンプルは、NR対象サンプルとは別にクラスター化された(データ非提示)。239901_at 241732_atおよび237060_atは以前に確認されていない転写物、あるいはアロ反応性T細胞に特有であるか、そうでなければ従来の技術を使用した場合に遮蔽されるような十分に低いコピー数で存在する遺伝子を表す場合がある。
【0264】
上記を検討したように、異なって発現するプローブセットの各々は急性拒絶反応患者(AR)からのサンプルと非拒絶反応患者(NR)からのサンプルとの間に少なくとも1.6倍の違いを示し、かつ、12のゲノムマーカーのサブセットが特定された。それらは一貫してAR対象とNR対象を区別した。アロ反応性T細胞が対象のサンプルから分離されて、アロ反応性T細胞ゲノムマーカーの特定のためにマイクロアレイ分析を受けた際。表9は、少なくとも1.6倍の変化を示しているマーカーを列挙している。KLF12、TTLL5、239901_at、241732_at、OFD1、MIRH1、WDR21A、EFCAB2、TNRC15、LENG10、MYSM1、237060_at、C19orf59、MCL1、ANKRD25、MYL4の増加または減少は、各々のサンプルのARまたはNRとしての分類を可能にした(図13Aに図示される)。図13bは、ゲノムマーカーTRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2およびMBD4マーカーの増加または減少と組み合わせて考えた場合の、アロ反応性T細胞マーカーKLF12、TTLL5、239901_at、241732_at、OFD1、MIRH1、WDR21A、EFCAB2、TNRC15、LENG10、MYSM1、237060_at、C19orf59、MCL1、ANKRD25、MYL4の増加または減少が、ARまたはNRとしての、各々のサンプルのより優れた描写およびより良好に定義された分類を可能にすることを示す。
【0265】
上記の結果は、ゲノムマーカーまたはアロ反応性T細胞ゲノムマーカーの特定のセットが単独で、または一緒になって、急性拒絶体または非拒絶体である対象間の有用かつ一貫した区別を提供することを示す。
【0266】
(表9)急性拒絶反応のアロ反応性T細胞バイオマーカー
「239901_at」、「241732_at」および「237060_at」は前に特定した転写物、遺伝子または遺伝子産物に対応しないが、AR対象体およびNR対象体との間で統計的に有意な変化を示す転写物のマーカーである。


【0267】
実施例5:プロテオミクスプロファイリング
合計で906のタンパク質グループコード(PGC)が、発見分析(discovery analysis)に含まれ、かつ17の異なるiTRAQ実験で処理された18のサンプルのうちの少なくとも1つで認められた。これらのPGCのうち、129は6つのARおよび12のNRサンプルの少なくとも2/3で認められた。PGCのこれらの2セットから、56%および2%は、単独のペプチド識別子に基づいて確認した(図5)。このように、1つのペプチドのみに基づいて特定された大部分のタンパク質は、大部分のiTRAQ実行で特定されず、さらなる分析は行わなかった。さらに、129の分析されたPGCの57%および40%は、それぞれ、>5と>10の別個のペプチドに基づいて確認された(図5)。
【0268】
発見分析:血漿タンパク質マーカーの識別
統計分析は、相対的な集中がARサンプルとNRサンプルとの間で有意に異なった(p値<0.05)129の分析されたPGCのうちの14を識別した(表10)。14の識別されたPGCのうち、次の11はNRサンプルと比べてARサンプルにおいて上方制御された:B2M、F10、CP、CST3、ECMP1、CFH、C1QC、CFI、APCS、C1RおよびSERPINF1。他の3つのPGCであるPLTP、ADIPOQおよびSHBGは、下方制御された。すべてのPGCは、>2の別個のペプチド配列(2007年4月現在のジャーナル「分子細胞プロテオミクス(Molecular and Cellular Proteomics)」のための出版ガイドラインによる、パリ・コンセンサスに基づく)に基づいて確認した。iTRAQ実験で特定された典型的なペプチド、割り当てられたタンパク質グループコードおよびSEQ ID NO:を図17に列挙する。
【0269】
ARサンプルおよびNRサンプル間の異なる関連レベルを有する血漿タンパク質のパネル(p < 0.05)
「PGC」は、PGCAによって割り当てられたタンパク質グループコードを含む。各々のグループのアクセッション番号およびタンパク質名、対応する遺伝子、ロバストモデレートt検定(eBayes)によって計算されたp値、NRに対するARの方向(それぞれ、上方制御または下方制御について、プラスまたはマイナスの記号)の倍率変化が、次の5つの列に与えられる。2つのパネルは過誤発見率(FDR)基準(A)およびSDA(B)によって選ばれ、これらは最後の列に示す。パネルAはPGCに対し25%FDRカットオフ(p < 0.01と等価)を適用することによって選ばれ、そしてパネルBはSDAによって急性拒絶反応サンプルと非拒絶反応サンプルとの間の最高の分離を提供するPGCのセットとして特定した(表10)。
【0270】
変数増加(forward selection)SDAアルゴリズムは、潜在的マーカーのリストから、一度に1つのタンパク質グループ・コードを取り入れる。第一の段階において、それは、最高のパフォーマンスを有するタンパク質グループ・コードをリーブ-ワン-アウト(leave-one-out)交差検定に基づいて特定する。第二の段階では、前に特定されたコードと一緒に、リーブワンアウト交差検定において最高のパフォーマンスを有する第2のタンパク質グループ・コードを特定する。この手順は、パフォーマンスの改善が有意に向上することができなくなるまで繰り返す。各々の交差検定において、パフォーマンスは、モデルの、急性拒絶反応および非拒絶反応グループの間を分ける能力により測られる。
【0271】
(表10)タンパク質マーカー

【0272】
2つの潜在的タンパク質のパネルを、過誤発見率閾値(パネルA)とSDA(パネルB)に基づいて確認した。時間にわたって結果を視覚化するために、単独のスコアを、LDAを使用するパネルAに基づいて確立した分類子によって作成した(図6-A)。各時点で入手できるすべてのAR(実線)およびNR(点線)サンプルについてのこのスコアの中央値が示され、標準偏差が垂直バーを用いて示す(図6A、B)。パネルAは、移植の4週間後に、より強い分離ですべての時点でARをNRから明確に区別した。図6-Bは、患者がNR事象およびAR事象の間を移行した場合のスコアを示す。ARの最初の連続的な時点を検討し、AR患者(実線)から平均した。同様に、ARの前後のNRの連続的な時点を検討し、同じ患者から平均した。コントロール曲線を、入手できる時点(破線)毎にAR患者にできるだけ密接に合致するNR患者について作成した。面白いことに、AR患者についてのスコアは、急性拒絶反応事象の前または後に非拒絶反応状態と比較してARの時点で異なって上昇した。一方、NR患者は、照合した時点全体で極めて一定のパターンを示した。類似した結果が、パネルBを使用して確立した分類子について得られた。
【0273】
内部検証
分類子A(パネルAを使用してLDAにより確立)および分類子B(パネルBを使用して確立)を用いた、さらに13の患者サンプルを使用した内部検証(internal validation)の結果を、図7に図示する。視覚化のために、両方の分類子により作成したスコアを、分類子についてのカットオフラインをゼロに設定するために、再度中心に置いた。トレーニングセットにおけるARおよびNRサンプルの各々についての平均スコアを、それぞれ、赤および黒の星印を使用して示す。試験セットにおける各ARおよびNRサンプルについてのスコアは、それぞれ赤い三角形および黒い点を使用して示し、ARグループとNRグループとの間の明確な区別を示す。LDAにより、正の値を有するサンプルはARとして分類され、そして、負の値を有するサンプルはNRとして分類された。分類子Aは、すべてのサンプルを正しく分類した(100%の感度および特定性)。分類子Bはグループ間を分ける能力を改善したが、1つのNRサンプルを誤って分類した(100%の感度および91%の特定性)。
【0274】
実施例6:プロテオミクス発現プロファイルのELISAによる確認
表10でのタンパク質のパネルから、次の5つをELISAによって確認した:アディポネクチン、ベータ-2ミクログロブリン、シスタチンC、第X因子、および性ホルモン結合グロブリン。ELISA値は基本的にタンパク質濃度の絶対的な計測であるが、iTRAQ結果との比較を容易にするために、タンパク質濃度をプールしたコントロールの濃度と比較して報告した(図8)。2つの重要な点が、取得したデータから観察された。第一に、ARグループとNRグループとの間で、異なるタンパク質レベルが確認された。ロバストモデレートt検定(eBayes)を、データにおける技術的な繰り返しの有効性のために相関関係構造を調節して、再び使用した。第二に、ELISAとiTRAQの相対的タンパク質濃度間の相関関係を調べた。データのアウトライアーが強い相関関係の推定を下げるか、弱い相関関係の推定を誇張する可能性があるため、スピアマン相関係数をピアソン相関係数の代わりに使用した。
【0275】
5つの確認されたマーカーのうち合計4つは、p値<0.055で、AR 対 NRにおいて、異なるタンパク質濃度を示した(表11)。さらに、すべての確認されたタンパク質の濃度がiTRAQとELISAの両方においてAR対NRサンプルに関して同じ方向(上方制御および下方制御)にあることが見いだされた。このように、iTRAQによって見いだされた結果を補強した。図8は、発見分析において使用された18のサンプルについてiTRAQ(x軸)とELISA(y軸)で測定されたタンパク質濃度の相関関係を示す。結果は、両方のプラットフォーム(確認したタンパク質5つ中4つについての、0.6を上回る相関係数、および正の相関の試験からの0.006未満のp値)の測定間の強い相関関係の証拠を提供した。一緒に、これらの結果は、両方のプラットホームからの測定が良好に相関していることを示す。
【0276】
(表11)ELISA技術的な確認
NRと比較したARにおける、ロバストモデレートt検定(eBayes)、倍率変化、およびそれらの方向(上方制御または下方制御について、それぞれプラスおよびマイナスの記号)によって計算されるp値が、確認された各タンパク質に与えられる。

【0277】
すべての引用は、個々の出版物が本明細書に参照により組み入れられるよう具体的かつ個別に示され、かつ、あたかもそれが明細書に完全に明記されているように、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書中の引用文献の参照は、そのような引用文献が本発明に対する先行技術であるという承認として解釈されるべきでも、見なされるべきでもない。
【0278】
1つまたはより多くの、本発明の現在の好ましい態様を、例として説明した。本発明は、実質的に本明細書において説明し、実施例および図を参照したすべての態様、変更、および変形を含む。複数の変形および変更が特許請求の範囲において定められる発明の範囲を逸脱することなく成されうることは、当業者とって明らかである。そのような変更の例は、同じ方法で実質的に同じ結果を成し遂げるための、本発明の任意の局面における、既知の等価物の代用を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象体の急性同種移植拒絶反応状態を決定する方法であって、
a.対象体からの生物学的サンプルにおける1つまたは1つよりも多くの核酸マーカーの核酸発現プロファイルを決定する段階であって、該核酸マーカーが、TRF2、SRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、FGFR1OP2およびMBD4を包含するグループより選ばれる、段階;
b.1つまたは1つよりも多くの核酸マーカーの発現プロファイルを、コントロールプロファイルと比較する段階;および
c.1つまたは1つよりも多くの核酸マーカーの発現レベルが、コントロールプロファイルと比較して増加するか、または減少するかどうかを決定する段階
を含み、1つまたは1つよりも多くの核酸マーカーの増加または減少が、対象体の急性拒絶反応状態を示す、方法。
【請求項2】
TRF2およびFGFR1OP2が、非拒絶体プロファイルと比較して増加し、およびSRGAP2P1、KLF4、YLPM1、BID、MARCKS、CLEC2B、ARHGEF7、LYPLAL1、WRB、MBD4が、コントロールプロファイルと比較して減少する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
コントロールプロファイルが、非拒絶性の、同種移植レシピエント対象体または非同種移植レシピエント対象体から得られる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
1つまたはそれよりも多くの臨床的変数についての値を得る段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
a)表6から選ばれる1つまたはそれよりも多くのマーカーの発現プロファイルを決定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
1つまたは1つよりも多くの核酸マーカーの核酸発現プロファイルが、1つまたは1つよりも多くのマーカーに対応するRNA配列を検出することによって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
1つまたは1つよりも多くの核酸マーカーの核酸発現プロファイルが、PCRによって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
1つまたは1つよりも多くの核酸マーカーの核酸発現プロファイルが、ハイブリダイゼーションによって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ハイブリダイゼーションが、オリゴヌクレオチドに対するものである、請求項9記載の方法。
【請求項10】
対象体の急性同種移植拒絶反応の状態を決定する方法であって、
a.対象体からの生物学的サンプルにおいて、5または5よりも多くのプロテオミクスマーカーのプロテオミクス発現プロファイルを決定する段階であって、該プロテオミクスマーカーが、B2M、F10、CP、CST3、ECMP1、CFH、C1QC、CFI、APCS、C1R、SERPINF1、PLTP、ADIPOQおよびSHBGによってコードされるポリペプチドを包含する群より選ばれる、段階;
b.5または5よりも多くのプロテオミクスマーカーの発現プロファイルを、コントロールプロファイルと比較する段階;および
c.1つまたは1つよりも多くのプロテオミクスマーカーの発現レベルが、コントロールプロファイルと比べて増加するか、または減少するかどうかを決定する段階
を含み、5またはそれよりも多くのプロテオミクスマーカーの増加または減少が、対象体の急性拒絶反応の状態を示す、方法。
【請求項11】
PLTP、ADIPOQおよびSHBGによってコードされるポリペプチドのレベルが、コントロールと比べて減少し、およびB2M、F10、CP、CST3、ECMP1、CFH、C1QC、CFI、APCS、C1RおよびSERPINF1によってコードされるポリペプチドのレベルが、コントロールプロファイルと比較して増加する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
コントロールプロファイルが、非拒絶性の、同種移植レシピエント対象体または非同種移植レシピエント対象体から得られる、請求項10記載の方法。
【請求項13】
1つまたはそれより多くの臨床的変数についての値を得る段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項14】
プロテオミクス発現プロファイルが免疫学的アッセイによって決定される、請求項10記載の方法。
【請求項15】
プロテオミクス発現プロファイルがELISAによって決定される、請求項10記載の方法。
【請求項16】
プロテオミクス発現プロファイルが質量分析によって決定される、請求項10記載の方法。
【請求項17】
プロテオミクス発現プロファイルが同重体または同位元素標識法(タグ付け法)によって決定される、請求項10記載の方法。
【請求項18】
5または5よりも多くのマーカーが、PLTP、ADIPOQ、B2M、F10およびCPによってコードされるポリペプチドを含む、請求項10記載の方法。
【請求項19】
5または5よりも多くのマーカーが、PLTP、ADIPOQ、B2M、F10およびCP、ならびに1つまたは1つよりも多くのECMP1、C1QC、C1RおよびSERPINF1によってコードされるポリペプチドを含む、請求項10記載の方法。
【請求項20】
コントロールが自己コントロールである、請求項1記載の方法。
【請求項21】
コントロールが自己コントロールである、請求項10記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図14−3】
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【図14−4】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図15−3】
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【図15−4】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図16−3】
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【図16−4】
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【図17−1】
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【図17−2】
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【図17−3】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【図18−3】
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【図18−4】
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【図19−1】
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【図19−2】
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【図19−3】
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【図19−4】
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【図19−5】
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【図19−6】
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【図19−7】
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【図19−8】
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【公表番号】特表2011−517939(P2011−517939A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503321(P2011−503321)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/CA2009/000516
【国際公開番号】WO2009/124404
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(300066874)ザ・ユニバーシティ・オブ・ブリティッシュ・コロンビア (24)
【Fターム(参考)】