説明

急性胸痛を伴い、心筋梗塞を伴わない患者において、心虚血を診断およびモニターするための方法

本発明は、急性冠動脈症候群に罹患しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断するための方法に関する。さらに本発明は、心臓介入を受ける可能性のある対象を同定するための方法に関するものであり、その際、対象は急性冠動脈症候群に罹患しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない。本発明方法は、対象の試料中のfms様チロシンキナーゼ−1 1(sFLT−1)および任意選択的に肝細胞増殖因子(HGF)の量を測定し、そしてsFLT−1および任意選択的にHGFの量を基準量と比較することに基づく。本発明には、本発明の方法を実施するためのキットまたはデバイスも含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的な急性胸痛または急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが(非ST上昇型)心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断するための方法および虚血状態の重症度の経過をモニターするための方法に関する。さらに本発明は、心臓介入を受ける可能性のある対象を同定するための方法および心臓介入を決断するための方法に関する。本発明の方法を実施するためのキットまたはデバイスも含まれる。本発明方法は、対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)および任意選択的に肝細胞増殖因子(HGF)の量を測定し、そしてsFLT−1および任意選択的にHGFの量を少なくとも1つの基準量と比較することに基づく。本発明の方法を実施するためのキットまたはデバイスも本発明に含まれる。
【背景技術】
【0002】
近代医学の目的は、個別化または個体化された治療計画を提供することである。それらは患者の個々の要件またはリスクを考慮に入れた治療計画である。特に重要なリスクは、心血管合併症、特に急性心血管事象の存在である。心血管合併症は西半球における罹患率および死亡率の主因に属する。心血管合併症に罹患している者の個別治療のためには、信頼性のある診断がその者の治療の成功に重大な影響をもつ。これは、特に急性冠動脈症候群(ACS)の徴候および症状を示している患者にとって重要である。
【0003】
急性冠動脈症候群の臨床症状は、急性心筋梗塞により起きると考えられる。胸痛を伴うかあるいは不安定狭心症または急性冠動脈症候群(ACS)の徴候および症状を伴う患者がしばしば急患として彼らの医師を訪れ、あるいは救急室に到着する。これらの患者の臨床評価には、特に既存の心血管疾患または彼らのリスク因子の証拠に関する病歴、上記症状のタイプの分析、ならびに急性冠動脈症候群に関連する臨床徴候、たとえば肺水腫、低血圧および/または頻脈もしくは徐脈の証拠が含まれる(Circulation 106: 1893, 2002 / Task force on Practice guidelines of the American Heart Association)。さらに、ECGおよび検査室試験が行われる。
【0004】
急性胸痛はACSの主症状である。しかし、胸痛は心血管疾患またはACSに特異的ではない。胸痛の症状は、血管障害、たとえば肺塞栓症、大動脈剥離もしくは肺性高血圧症、または肺疾患、たとえば胸膜炎、肺炎、気管気管支炎および自然気胸に由来する可能性がある。急性胸痛の症状は胃腸疾患、たとえば食道逆流、消化性潰瘍、胆嚢疾患および膵炎に由来する可能性もあり、急性疼痛の筋骨格性原因には肋軟骨炎、頚部椎間板疾患、外傷または挫傷が含まれる。帯状疱疹も急性胸痛を引き起こす。さらに、パニック障害を鑑別診断とみなす必要がある。
【0005】
臨床的に、心臓性の急性胸痛は、胸骨後胸部圧迫感、または首、顎、上腹部、肩もしくは左腕へ不定期的に放射状に広がる灼熱感もしくは倦怠感などの臨床的特徴により同定できる。急性胸痛の重症度は、しばしば狭心症から不安定狭心症および心筋梗塞へと増大する。促進性の原因には身体的および情動的ストレスまたは感冒が含まれる。重症度は、狭心症における2分未満から心筋梗塞における30分以上までの範囲にわたる胸痛持続時間にも関連する。これらの症状は重度の症例ではかなり特徴的であるが、軽度の心臓性胸痛の症例を非心臓性原因から区別するのは困難な場合がある(Braunwald Heart Disease, Chapter 49, page 1196)。
【0006】
急性冠動脈症候群の徴候を伴う患者は不可逆性心臓傷害が起きるかまたは心臓死すら起きるリスクが著しく高くなり、したがって非外傷性胸部症状を伴う患者内で同定する必要がある(Morrow et al., National academy of clinical biochemistry guidelines: Clinical characteristics and utilization of biochemical markers in acute coronary syndrome, 2007, Circulation; 115; 356-375)。急性冠動脈症候群は突発的な冠動脈閉塞により起き、連結した心筋(myocardium, heart muscle)領域への血液供給が著しく抑制または遮断され、虚血(血液供給の欠如)に至る。
【0007】
著しいおよび/または持続的な虚血の場合には心臓組織は壊死状態になる。心筋梗塞(MI)(心臓発作とも言われる)は、下記により記載されるように虚血による心筋(心臓組織)の細胞壊死としても知られる:The Joint ESC/ACCF/AHA/WHF Task Force for the Redefinition of Myocardial Infarction (The Joint European Society of Cardiology / American College of Cardiology Committee: Universal definition of myocardial infarction, European Heart Journal (2007), 28, 2525 - 2538)。
【0008】
血栓は、一般に既にアテロームによって部分的に狭まっていた冠動脈が閉塞する最も一般的な原因である。アテロームは破裂また断裂して、血小板をより粘稠にする物質を放出し、血栓形成を増進する可能性がある。多くの場合、血栓は1日程度で自然に溶解する。しかし、この時点までに若干の心臓損傷が既に起きている可能性がある。
【0009】
病歴(冠動脈疾患CADの病歴)の評価は、ACSの症状(たとえば、20分を超える胸痛)を示している患者の診断のための1基準である。これらの患者を心電図(ECG)およびトロポニン検査でさらに診断する。到着時点で初期ECGが診断不能である場合およびトロポニン検査結果が非ST上昇型心筋梗塞の診断基準を満たさない場合、4〜8時間後にこの手順を繰り返す。ECGおよびトロポニン測定値が依然として心筋梗塞の診断基準を満たさない場合、心筋梗塞を除外するという診断で患者を退院させる。
【0010】
心電図(ECG)は診断のための重要な情報を提供する。特に、ECGがST部分の上昇を示す場合、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)と診断される。ECGがST部分の上昇を示さなければ、各患者の試料中に心臓性トロポニンが検出された場合には非ST上昇型MI(NSTEMl)と診断される。ECGが診断可能でなく、かつ心臓性トロポニンレベルが心筋梗塞の指標となる量より少ない患者は、不安定狭心症(UAP)を伴う疑いがある。不安定狭心症とNSTEMlは近縁状態であって類似の臨床症状を共有すると考えられる。しかし、それらはそれらの重症度において異なる。NSTEMlは、心筋壊死のバイオマーカーにより検出できる不可逆的な心筋損傷を引き起こす虚血によって、不安定狭心症と区別される(Morrow et al., 上記に引用)。上記のすべての場合、すなわちSTEMI、NSTEMIおよびUAPにおいて、患者をその診断に従って治療する。
【0011】
ECG(心電図)がST上昇を示す場合はST上昇型心筋梗塞と診断し、その患者を再潅流療法の評価につき考慮する。ECGのSTまたはT波の変化を含めて含ECGが依然として診断不能であれば、非ST上昇型心筋梗塞と診断できるトロポニンTまたはIの結果により最終診断が明らかになる。胸痛または急性冠動脈症候群の徴候もしくは症状を伴う大部分の患者は、診断不能なECGおよび現在の推奨に従ったNon STEMIの基準を満たさないトロポニン結果を呈する(The Joint European Society of Cardiology / American College of Cardiology Committee: Universal definition of myocardial infarction, European Heart Journal (2007), 28, 2525 - 2538)。そのような患者は、心筋梗塞を伴うけれども、しばしば徴候/症状の発生後の最初の4〜6時間以内、すなわち心臓特異的壊死マーカーが心筋から放出され始めて血清/血漿中を循環する量が増加する前の状態である可能性がある。他のグループの患者は心臓障害とは全く無関係の胸痛を伴う可能性があり、したがって特徴的なECG変化またはトロポニン量の増加により示されるような心臓壊死を発現しないであろう。そのような患者は非心臓性胸痛と最終診断されるであろう。サブグループの患者において、ミオグロビン(ミオグロブリン)および/または心臓脂肪酸結合タンパク質(H−FABP)の検査が、おそらく後にECGの変化と関連するトロポニン増加により診断される心筋梗塞の証拠を示すであろう。
【0012】
上記のように、胸痛を伴うかまたは症状を呈している患者における現在の努力は、心筋梗塞の同定またはそれの除外を目標としている。これまでは、心電図およびトロポニンが心筋梗塞の陽性診断またはそれの除外の鍵となるポイントであった。
【0013】
トロポニンは心筋の構造タンパク質であり、心筋組織の壊死またはアポトーシスに際して放出される。さらに、トロポニンは心筋組織に特異的であると考えられ、したがって循環中のトロポニンレベルの上昇は心筋梗塞の指標であるとみなされる。残念ながらトロポニンレベルは心筋梗塞が起きて4〜6時間後にようやく上昇するので、診断が遅れる結果となる。この心筋梗塞の認識の遅れは、たとえばPCIによる治療が遅れる結果となる可能性があり、したがってより早期の介入によれば救助できた可能性のある心筋が壊死する場合がある。
【0014】
この心筋梗塞の認識の遅れを克服する試みには、ミオグロビンまたは心臓脂肪酸結合タンパク質の採用が含まれていた。心臓脂肪酸結合タンパク質(H−FABP)は低分子量の細胞質タンパク質であり、心筋に多量に存在する。H−FABPは、心筋がそれの機能を失った時点で、すなわち心筋が壊死状態になるはるか以前に、既に心筋から放出されることが認められている。5700pg/mlを上回るH−FABPレベルが将来のトロポニン上昇および心筋梗塞の指標であることは明らかに証明されており、2500pg/ml未満のH−FABPレベルはMIとは無関係であることが認められた;参照:WO 2008/145689。
【0015】
同様に、ミオグロビンは心筋梗塞後に早期に循環に入るもうひとつの分子である。77ng/mlを超えるミオグロビン濃度は将来のトロポニン上昇、したがって心筋梗塞の指標であることが示された。これに対し、ミオグロビン濃度55ng/ml未満では将来のトロポニン上昇の発現、したがって梗塞の発症の可能性はないものとなる;参照:WO 2009/033831。
【0016】
したがって、血清または血漿中のミオグロビンおよび/またはH−FABPの測定はトロポニン測定の限界のうちの若干、すなわちトロポニンが循環中に現われるのが遅い(4〜6時間後)ことを補うのに有用であり、ミオグロビンまたは心臓脂肪酸結合タンパク質によりトロポニンの出現が予想されればMIの早期診断の補助となり、したがって介入が可能になる。
【0017】
胸痛または急性冠動脈症候群の症状を伴う患者は、症状が消散した場合および彼らがMIの基準を満たさない場合には通常は退院する。しかし、そのような患者は、連続ECG記録によって最近示されたように、なお高い心筋梗塞のリスクをもつ可能性がある(Tvivoni et al J. Am Coll Cardiol 53, 2009, 1422-24、Scirica Am Coll Cardiol 53, 2009, 1411-1421)。この研究では、1分程度の短い、また1/2mm程度の小さなST降下が一時性虚血および予後不良を示した。しかし、この方法は容易には適用できず、コンピューター支援技術を必要とし、かつ見込みとして実施できるにすぎない。これは虚血、すなわち壊死および代謝性心筋異常に先立つ事象を認識することの重症性を強調する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO 2008/145689
【特許文献2】WO 2009/033831
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Circulation 106: 1893, 2002 / Task force on Practice guidelines of the American Heart Association
【非特許文献2】Braunwald Heart Disease, Chapter 49, page 1196
【非特許文献3】Morrow et al., National academy of clinical biochemistry guidelines: Clinical characteristics and utilization of biochemical markers in acute coronary syndrome, 2007, Circulation; 115; 356-375
【非特許文献4】The Joint ESC/ACCF/AHA/WHF Task Force for the Redefinition of Myocardial Infarction (The Joint European Society of Cardiology / American College of Cardiology Committee: Universal definition of myocardial infarction, European Heart Journal (2007), 28, 2525 - 2538)
【非特許文献5】Tvivoni et al J. Am Coll Cardiol 53, 2009, 1422-24
【非特許文献6】Scirica Am Coll Cardiol 53, 2009, 1411-1421
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
以上をまとめると、胸痛または急性冠動脈症候群の徴候もしくは症状を伴う患者において虚血を同定し、虚血の程度、それの持続時間、および虚血と関連する機能異常を判定する方法が緊急に要望されている。これらの方法はまた、虚血を除外でき、さらに胸痛または急性冠動脈症候群の徴候もしくは症状を伴う患者を分類でき、これによって改善された診断および治療ワークアップを提供できるべきである。
【0021】
したがって、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示し、かつ心筋梗塞の指標となるレベルより少ない心臓性トロポニン量をもつ対象において、信頼性のある迅速な虚血の診断ができる診断および予後の手段および方法を求める明らかな要望がある。好ましくは、その個体は診断不能なECG、好ましくはST上昇を示していないECGをも伴うであろう。これらの手段および方法は、虚血を診断できるだけでなく、虚血の程度およびそれの変化の評価もできるべきであり、かつ胸痛の心臓性原因と非心臓性原因を識別する際の補助となるべきである。さらに、この方法は、心臓性胸痛を伴う患者であって、虚血に特徴的な診断基準量より低いレベルの他の心臓性バイオマーカー、たとえばトロポニン(ただし、場合によってはミオグロビンまたはH−FABPも)を示す患者のサブグループの同定を補助すべきである。さらに、持続的または連続的期間の虚血の症例および再発性虚血エピソードの事象では、虚血の定量化ができるであろう。これらの方法および手段はさらに、心臓介入を受ける可能性のある対象を同定して、その対象の心臓介入が適切であるかどうか、また肯定的であればどの療法を選択すべきかを判断できるべきである。これらの方法および手段は、前記に示した現在の技術の欠点のうち少なくとも若干を避けるべきである。
【0022】
したがって、本発明の基礎となる技術的問題は以上の要望を満たす手段および方法を提供することであるとみるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
技術的問題は、特許請求の範囲および以下に示す態様により解決される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断するための方法であって、その対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較することに基づく方法を提供する。この方法は下記の段階のうち少なくとも1つを含むことができる:a)その対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を測定し、b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そしてc)段階b)で得た情報に基づいて、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、虚血状態を診断する。
【0025】
したがって本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断するための方法であって、
a)その対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を測定し、
b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そして
c)段階b)で得た情報に基づいて、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、虚血状態を診断する
ことを含む方法に関する。
【0026】
さらに本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断するための方法であって、
a)その対象の試料において測定した可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を、少なくとも1つの基準量と比較し、そして
b)段階a)で得た情報に基づいて虚血状態を診断する
ことを含む方法に関する。
【0027】
さらに本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断するための方法であって、
a)その対象の試料において測定した可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量と、少なくとも1つの基準量との比較に基づいて、虚血状態を診断する
ことを含む方法に関する。
【0028】
本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態をモニターするための方法であって、少なくとも2つの異なる時点でその対象の試料において測定した可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較することに基づく方法を提供する。この方法は下記の段階のうち少なくとも1つを含むことができる:a)少なくとも2つの異なる時点でその対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を測定し、b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そしてc)段階b)で得た情報に基づいて、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、それらの少なくとも2つの異なる時点での虚血状態を診断する。
【0029】
したがって本発明はまた、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態をモニターするための方法であって、
a)少なくとも2つの異なる時点でその対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を測定し、そして
b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そして
c)段階b)で得た情報に基づいて、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、それらの少なくとも2つの異なる時点での虚血状態を診断し、これにより虚血状態をモニターする
段階を含む方法に関する。
【0030】
さらに本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態をモニターするための方法であって、
a)少なくとも2つの異なる時点で測定したその対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を、少なくとも1つの基準量と比較し、そして
b)段階a)で得た情報に基づいて虚血状態を診断し、これにより虚血状態をモニターする
ことを含む方法に関する。
【0031】
さらに本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態をモニターするための方法であって、
a)少なくとも2つの異なる時点で測定したその対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量と、少なくとも1つの基準量との比較に基づいて、虚血状態をモニターする
ことを含む方法に関する。
【0032】
前記の本発明方法の態様において、さらに追加段階aa)でその対象の試料中の肝細胞増殖因子(HGF)またはそのバリアントの量を測定し、そして段階bb)でHGFに関する少なくとも1つの基準量と比較する。したがって、段階c)で、sFLT−1またはそのバリアントおよびHGFまたはそのバリアントの測定量、ならびにsFLT−1の量とsFLT−1に関する少なくとも1つの基準量との比較、およびHGFの量とHGFに関する少なくとも1つの基準量との比較に基づいて、虚血状態を診断する。好ましくは、まずsFLT−1の量、次いでHGFの量を測定するが、sFLT−1およびHGFの量をいかなる順序で測定することも考慮される;すなわち、同時に、またはまずsFLT−1、次いでHGFの量を、またはまずHGF、次いでsFLT−1を測定する。
【0033】
本発明のさらに他の態様において、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、その対象の試料中の肝細胞増殖因子HGFまたはそのバリアントのレベルを測定することにより虚血状態を診断する。同様に本発明のさらに他の態様において、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、少なくとも2つの異なる時点でその対象の試料中の肝細胞増殖因子HGFまたはそのバリアントのレベルを測定することにより虚血状態をモニターする。HGFは虚血に関する情報を伝達する独立した虚血マーカーであり、多くの場合、それはsFLT−1により得られる情報と同程度に良好であることが明らかになった。したがって、場合によってはsFLT−1がより良好な情報を提供する;場合によってはHGFがより良好な情報を提供する;また場合によっては両マーカーの情報が同等であると言うことができる。
【0034】
前記の本発明方法の態様において、さらに追加段階aa)でその対象の試料中のfms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を測定し、そして段階bb)でfms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)に関する少なくとも1つの基準量と比較する。したがって、段階c)で、sFLT−1またはそのバリアントおよびHGFまたはそのバリアントの測定量、ならびにsFLT−1の量とsFLT−1に関する少なくとも1つの基準量との比較およびHGFの量とHGFに関する少なくとも1つの基準量との比較に基づいて、虚血状態を診断する。好ましくは、まずHGFの量、次いでsFLT−1の量を測定するが、sFLT−1およびHGFの量をいかなる順序で測定することも考慮される;すなわち、同時に、またはまずsFLT−1、次いでHGFの量を、またはまずHGF、次いでsFLT−1を測定する。
【0035】
したがって本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断するための方法であって、
a)その対象の試料中の肝細胞増殖因子HGFまたはそのバリアントの量を測定し、
b)段階a)で測定したHGFまたはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そして
c)段階b)で得た情報に基づいて、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、虚血状態を診断する
ことを含む方法に関する。
【0036】
さらに本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断するための方法であって、
a)その対象の試料において測定したHGFまたはそのバリアントの量を、少なくとも1つの基準量と比較し、そして
b)段階a)で得た情報に基づいて虚血状態を診断する
ことを含む方法に関する。
【0037】
さらに本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断するための方法であって、
a)その対象の試料において測定したHGFまたはそのバリアントの量と、少なくとも1つの基準量との比較に基づいて、虚血状態を診断する
ことを含む方法に関する。
【0038】
本発明はまた、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態をモニターするための方法であって、
a)少なくとも2つの異なる時点でその対象の試料中の肝細胞増殖因子HGFまたはそのバリアントの量を測定し、そして
b)段階a)で測定したHGFまたはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そして
c)段階b)で得た情報に基づいて、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、それらの少なくとも2つの異なる時点での虚血状態を診断し、これにより虚血状態をモニターする
段階を含む方法に関する。
【0039】
さらに本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態をモニターするための方法であって、
a)少なくとも2つの異なる時点で測定したその対象の試料中のHGFまたはそのバリアントの量を、少なくとも1つの基準量と比較し、そして
b)段階a)で得た情報に基づいて虚血状態を診断し、これにより虚血状態をモニターする
ことを含む方法に関する。
【0040】
さらに本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態をモニターするための方法であって、
a)少なくとも2つの異なる時点で測定したその対象の試料中のHGFまたはそのバリアントの量と、少なくとも1つの基準量との比較に基づいて、虚血状態をモニターする
ことを含む方法に関する。
【0041】
好ましい態様において、sFLT−1の測定および/またはHGFの測定と同時に心臓性トロポニンの量を測定する;心臓性トロポニンの量の測定がsFLT−1の測定および/またはHGFの測定より先であってもよい。したがって個体の虚血状態は、好ましくはトロポニンの測定と同時に、またはその後に、sFLT−1および/またはHGF、または任意選択的にさらに他のマーカーの量の測定により判定される。したがって、心臓性トロポニンの量をsFLT−1および/またはHGFの測定より前に測定するならば、心臓性トロポニンの量が分かるまでsFLT−1および/またはHGFの量の測定を延期し、心筋梗塞MI、特にNSTEMIの指標になると当技術分野で一般に認識されている量よりトロポニン量が少ない場合にのみsFLT−1および/またはHGFの量を測定する。心臓性トロポニンの量は、ゼロ、すなわち現在利用できる検査法で検出できない場合すらありうる。
【0042】
さらに他の好ましい態様において、各対象のECGをsFLT−1の測定および/またはHGFの測定と同時に測定する;ECGの測定をsFLT−1の測定および/またはHGFの測定より先に行なってもよい。したがってその個体の虚血状態は、好ましくはECG測定と同時に、またはその後に、sFLT−1および任意選択的にHGFの量を測定することにより判定される。したがって、ECG測定をsFLT−1および/またはHGFの測定の前に実施する場合、sFLT−1および/またはHGFの量の測定をECGが記録されるまで延期してもよい。好ましくは、対象のECGがST上昇を示さない場合にのみsFLT−1および/またはHGFの量を測定する。好ましくは、ECGがST上昇を示す場合、対象はSTEMIに罹患しているとみなされるであろう;これは、本発明の方法 −MIに先立つ虚血状態の診断を目的とする− を一般に実施しないことを意味する。
【0043】
以上に関して、さらに、前記に述べたsFLT−1および/またはHGFの測定を含めて、心臓性トロポニンの量の測定および/またはECGの測定を同時または逐次に実施できる。
【0044】
病歴(冠動脈疾患CADの病歴)の評価は、ACSの症状(たとえば、20分を超える胸痛)を示している患者の診断のための1診断基準である。これらの患者をさらに他の診断基準の充足につき、すなわち一方では心電図(ECG)、他方ではトロポニン検査を用いて、さらに診断する。到着時点で初期ECGが非ST上昇型心筋梗塞の診断基準を満たしていない場合、およびトロポニン検査結果が心筋梗塞の診断基準を満たしていない場合、4〜8時間後にこの手順を繰り返す。ECGおよびトロポニン測定が依然として心筋梗塞の診断基準を満たさない場合、心筋梗塞を除外するという診断で患者を退院させる。心筋梗塞MIの診断のための最新基準は、The Joint ESC/ACCF/AHA/WHF Task Force for the Redefinition of Myocardial Infarction (The Joint European Society of Cardiology / American College of Cardiology Committee: Universal definition of myocardial infarction, 上記に引用)により記載されている。
【0045】
本発明の方法は、好ましくはインビトロ法である。さらに、それは前記に明記したもののほかの段階を含むことができる。たとえば、さらに他の段階は、試料の前処理、または本方法により得られた結果の評価に関するものであってもよい。本発明の方法は、診断のモニタリング、確認および下位分類にも使用できる。本方法は、手動で、または自動操作により補助して実施できる。好ましくは、段階(a)、(b)および/または(c)の全体または一部を自動操作により、たとえば段階(a)で測定に適したロボット装置および感知装置、または段階(b)でコンピューター処理比較により支援してもよい。
【0046】
本明細書中で用いる用語“急性冠動脈症候群の徴候および症状”は、一方ではACSの指標となりうる徴候に関するが、それらはACS以外の疾患で起きる可能性もある。したがってこの用語は、明白にACSの発生に関係づけることはできないけれどもACS発生の確率の指標となる徴候であって、これにより確認(包含/除外(rule in / rule out))のためのさらに他の試験が指令されるものを含む。そのような徴候の一例は胸痛である。もちろん、胸痛は血管障害、たとえば肺塞栓症、大動脈剥離もしくは肺性高血圧症、または肺疾患、たとえば胸膜炎、肺炎、気管気管支炎および自然気胸;胃腸疾患、たとえば食道逆流、消化性潰瘍、胆嚢疾患および膵炎に由来する可能性もあり、急性疼痛の筋骨格性原因には肋軟骨炎、頚部椎間板疾患、外傷または挫傷が含まれる。帯状疱疹も急性胸痛を引き起こす。これらの形の胸痛は、しばしば“非心臓性胸痛”と呼ばれる。他方、この用語は、胸骨後胸部圧迫感、または首、顎、上腹部、肩もしくは左腕へ不定期的に放射状に広がる灼熱感もしくは倦怠感などの症状を発生する、心臓性の急性胸痛に関する。急性胸痛の重症度は、しばしば狭心症から不安定狭心症および心筋梗塞へと増大する。促進性の原因には身体的および情動的ストレスまたは感冒が含まれる。重症度は、狭心症の2分未満から心筋梗塞の30分以上までの範囲にわたる胸痛の持続時間にも関連する。これらの症状は重度の症例ではかなり特徴的であるが、軽度の心臓性胸痛の症例を非心臓性原因から区別するのは困難な場合がある。ACSのさらに他の既知の症状は、上腹部、腕、手首または顎の不快感または痛み、説明のつかない吐き気または嘔吐、持続的な息切れ、脱力感、めまい感、めまい、または失神、ならびにそのいずれかの組合わせである。
【0047】
しかし、前記の症状は多くの症例でACSの確実かつ適正な診断ができる(または誤診を避ける)ほど十分に特異的には現われない可能性がある。たとえば胸痛は明確な位置に存在しない場合がある。他のグループの患者は心臓障害とは全く無関係な胸痛を伴う場合があり、したがって特徴的なECG変化、またはトロポニン量の増加が指標となる心臓壊死を発現しないであろう。そのような患者は、非心臓性胸痛と最終診断されるであろう。心臓医は、ACSに典型的な症状の同定に基づいてACSの発生を包含または除外し、ACSに典型的でない症状を無視することができる場合がある。しかし、この方法は誤りを生じやすく、近代的な心臓医学は各個体についての症状の解釈(および病歴の評価)のほかに心臓性トロポニンおよびECGの測定を要求する。したがって、本発明の方法はACSの徴候および症状、特に胸痛を伴う個体を含み、その際、それらの徴候/症状、特に胸痛はACSに関係する可能性はあるがACS以外の障害にも関係する可能性があるためACSの明確な診断ができない;しかし、それらの症状、特に胸痛は、ACSを包含または除外するために原疾患をさらに診断/評価する必要がある。場合によっては、本発明の方法を適用する個体がACSについて明確な症状、たとえば腕または肩へ放射状に広がる強い胸痛を示す可能性もある。
【0048】
本明細書中で用いる用語“診断する”は、冠動脈症候群の徴候および症状を示しかつMIの指標となる量より少ない心臓性トロポニン量をもつ対象の虚血状態を、特にその対象が可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害をもたらす虚血状態に罹患しているかどうかにつき査定、同定、評価または分類することを意味する。用語“診断する”は、冠動脈症候群の徴候および症状を示しかつ好ましくはMIの指標となる量より少ない心臓性トロポニン量をもつ対象において、生理的に健康な対象と、場合によっては可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害をもたらすであろう虚血に罹患している対象とを識別することをも表わす。
【0049】
ACSの診断およびその診断のために適用される基準は当技術分野で一般に知られており、特に病歴(冠動脈疾患CADの病歴)および約20分を超える胸痛の評価を含む。
本明細書中で用いる用語“急性冠動脈症候群の徴候および症状を示し、心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象”には、心筋梗塞の発症または診断と関連する可能性があるかまたは可能性がない急性冠動脈症候群の徴候および症状を示す対象が含まれる;ただし、示されたそれらの徴候および症状は、診断結果について疑いを残すことなく心筋梗塞と診断するには不十分である。心筋梗塞の診断基準は、The Joint ESC/ACCF/AHA/WHF Task Force for the Redefinition of Myocardial Infarction (The Joint European Society of Cardiology / American College of Cardiology Committee: Universal definition of myocardial infarction, 上記に引用)により記載されており、既に先に要約されている。
【0050】
好ましくは、心臓性トロポニン量を測定し、その対象は心筋梗塞の指標となる量より少ない心臓性トロポニン量を示す。あるいは、心電図(ECG)を対象において記録し、そのECGが心筋梗塞の基準を満たさず、好ましくはその患者は非ST上昇型MIの基準を満たさない。よりさらに好ましくは、心臓性トロポニンのレベルを測定し、かつECGを記録し、これら2パラメーターが心筋梗塞の基準を満たさない;すなわち、トロポニンの測定量は心筋梗塞の指標となる量より少なく、および/またはECG。到着時点でECGが心筋梗塞の基準を満たさない場合および到着時点でトロポニン検査結果が(非ST上昇型)心筋梗塞の診断基準を満たさない場合は、この手順を好ましくは約4〜約8時間後に繰り返す。ECGおよびトロポニン測定値が依然として心筋梗塞の診断基準を満たさない場合、心筋梗塞を除外するという診断で患者を退院させることができる。
【0051】
本明細書中で用いる用語“虚血状態”は、罹患組織への代謝要求に対して十分でない、特に酸素供給のために十分でない、血液供給障害の状態に関する。虚血は、虚血心筋の程度および虚血持続時間に応じて、心筋機能の変化と関連し、変化をもたらし、または変化の原因となる可能性がある。2分未満持続する単一エピソードの虚血後には、心筋機能は速やかに正常化する。虚血の持続時間および/または重症度が増すのに伴って、一次的に機能回復の遅れが生じ、これは血流が回復したという事実にもかかわらず起きる。血管が15分間閉塞すると、血流が回復してもたとえば6時間の心筋機能変化が生じる。この可逆性事象は心筋壊死を伴わず、好ましくは用語“虚血”または“虚血状態”は、可逆性心機能不全および不可逆性心臓傷害、ならびに可逆性心機能不全および不可逆性心臓傷害をもたらす、それらに関連する、またはそれらの原因となるプロセスを含む。虚血または虚血状態は、心筋梗塞に関連する、それをもたらす、またはその原因となる心臓傷害をも含む。
【0052】
本明細書中で用いる用語“可逆性心機能不全”は、心臓のポンピング能または活動力の障害であって、完全に可逆性であり、好ましくは有意数の心筋細胞の壊死を含めた何らかの有意の構造劣化を心臓に残すことなく起きるものに関する。好ましくは、ポンピング能または活動力の障害は対象の身体に何ら有意の傷害を引き起こさない。可逆性心機能不全は、ごく短い虚血期間の場合のように、即時、たとえば数秒または数分以内に復帰する可能性がある。可逆性心機能不全の他の例には心機能停止(cardiac stunning)が含まれる。これらの場合は復帰が数時間または数日間遅れる場合がある。
【0053】
有意割合の心筋が虚血状態である場合、これは壁の伸展およびナトリウム排泄増加ペプチドの急激な増加を生じる可能性がある。
本発明のさらに好ましい態様において、ナトリウム排泄増加ペプチド、すなわちグループBNPおよびNT−proBNPに属するBNP型ペプチド、またはグループANPおよびNT−proANPに属するANP型ペプチドの量を測定する。対象の循環障害の可能性を診断するために、好ましくはANP型ペプチド、よりさらに好ましくはNT−proANPを測定する。
【0054】
したがって、原因としては虚血と関係がないけれども基準量と比較したANP型ナトリウム排泄増加ペプチドの量の増加は、虚血状態が心筋の特定領域にあることの指標であり、これは非虚血心筋に対するポンピング要求の増大および結果的に循環障害をもたらす。
【0055】
本発明においては、ANP型ナトリウム排泄増加ペプチド、好ましくはNT−proANPの測定が、BNP型ナトリウム排泄増加ペプチド、たとえばNT−proBNPの測定より好ましい。これは、ANP型ペプチドが急速に放出されるためである。心臓の圧力および体積の増加(壁の伸展)後、NT−proANPの量は15〜60分以内に増加し、これにより循環機能不全を速やかに診断できる。これは、本発明に関して、虚血に罹患しているがまだ壊死していない心筋の救助を可能にする処置を開始できるために必須である。
【0056】
これに対し、BNP型ナトリウム排泄増加ペプチド、特にNT−proBNPは、心臓の圧力および体積の増加(壁の伸展)後4〜6時間でようやく増加し、これは多くの場合に本発明の目的にとって不十分である。
【0057】
本発明において、循環障害は、代謝を維持していた心筋に虚血領域が形成されることまたは機能停止状態の心筋領域(完全に機能性である心筋より低い代謝をもち、機能停止した心筋の長期ポンピング性能を超えることがない、より低い性能でポンピングする)と関連し、またはそれが原因であると仮定される。虚血および/または機能停止した心筋のポンピング能または活動力が低下した結果、障害のない残りの心筋は血液供給に対する身体要求を保証しなければならず、過剰に作業しなければならない可能性がある。
【0058】
本発明の好ましい態様において、機能停止した心筋をもつ対象および/またはSTEMIに罹患している対象は、H−FABPおよび/またはミオグロビンの量を測定することにより除外できる。一般にこの態様は、その対象が心筋梗塞、特にNSTEMIに罹患しているかどうかを判定するために、心臓性トロポニン測定および/またはECG測定の後に、かつ本発明方法の段階a)およびb)でsFLT−1および任意選択的にHGFの量を測定する前に、H−FABPおよび/またはミオグロビンを測定することを含む。
【0059】
機能停止した心筋では心筋の機能が静止状態に抑えられているが、心筋細胞は生存状態を維持している。機能停止状態でLV機能不全は可逆性である可能性がある。機能停止した心筋は、虚血に続く再潅流への移行期後に最もよくみられる(機能が静止状態に抑えられているが、潅流は保存されている)。虚血エピソードは単回または複数回、短期間または長期間の可能性があるが、傷害を生じるのに十分なほど重篤なことは決してない。
【0060】
“不可逆性心臓傷害”はこの分野で一般に知られており、細胞死、好ましくはたとえば壊死プロセスによる心筋細胞の壊死が付随する心臓傷害に関する。
本発明で定める対象の試料において、MIの発生を包含する基準量より多いH−FABPおよび/またはミオグロビンの量は、その対象における最近のMI発生の指標となる。本発明で定める対象において、MIの発生を除外する基準量より少ないミオグロビンおよび任意選択的にH−FABPの量は、MI梗塞が最近発生していないことの指標となるはずである;後者の場合、対象はUAPに罹患する可能性がある。本発明に関して、本発明に定める対象であってそのミオグロビン量が上記の基準量(最近のMI発生を包含する基準量と最近のMI発生を除外する基準量)の間にある対象は再診断が必要な可能性があることを理解すべきである。好ましくは、これはミオグロビンとH−FABPの両方の量を測定し、その際、両方の量が対応しない対象、たとえば一方の量が各基準量より多く(または少なく)、これに対し他方の量が各基準量より多く(または少なく)ない対象についても行なうことができる。特に、本発明で定める対象において、約77ng/mlより多いミオグロビン量は最近のMI発生の指標となり(包含)、これに対し約55ng/mlより少ない量はMIが最近発生していないことの指標となる(除外)。さらに、本発明で定める対象の試料中のミオグロビンの測定に基づく診断の感度および特異性は、ミオグロビン量のほかにその対象の試料中のH−FABPの量を測定してH−FABPに関する少なくとも1つの基準量と比較した場合、よりさらに増大する。特に、本発明で定める対象において、約5700pg/mlより多いH−FABP量は最近のMI発生の指標となり(包含)、これに対し約2500pg/mlより少ない量はMIが最近発生していないことの指標となる(除外)。
【0061】
用語“循環障害を診断する”は、本発明で定める対象、すなわちACSに罹患してはおらず、かつ健康な対象の指標であるとみなされる量より多量のANP型ペプチド、好ましくはNT−proANPをもつ対象において、循環障害が起きているか否かを評価することに関する。用語“循環障害”は、心臓(心筋)またはその領域が組織に代謝要求に十分な血液を供給するのを保証するために必要な量の血液を循環中にポンピングする能力または活動力の障害に関する。能力障害を代償するために、心筋はより激しく作動しなければならず、その結果、壁のストレス(およびNT−proANPの放出)が増大する。たとえば、心筋のある領域が虚血に罹患すると、その患部のポンピング能が損なわれる。十分な血液供給を保証するために、特に罹患しておらずそれらの完全なポンピング能を維持している領域の心筋のポンピング作業が増強される。しかし、過剰作業しなければならないためNT−proANP発現が刺激される。
【0062】
血液供給の欠如を代償するために、心臓は通常要求されるより激しく作業しなければならず、その結果、一般に心臓壁に対するストレスが増大する(心臓がより激しくポンピングしなければならないので)。そのような障害は、不可逆性心臓傷害が起きる前に根底にある原因が除かれる限り、有害ではない。循環障害にはさまざまな理由がある。
【0063】
本明細書中で用いる用語“対象”は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに関する。
本明細書中で用いる用語“同時に”は、ある活動、好ましくは本発明に関して用いるマーカーの測定を、同じ時点で行なうことに関する。これは、好ましくは1マーカーの測定が他のマーカーの測定とわずかに、たとえば数秒または数分、たとえば1分、2、3、4、5、6、7、8、9または10分、遅れた測定を含む。後者のマーカーの測定は、異なる診断結果になるほどそれの量が変化する可能性があるようには遅れないことが必須である。“マーカーを測定する”は、その中のマーカーの量を測定する体液試料を採取すること、またはマーカー量の測定および検知、または両方に関する。
【0064】
本明細書中で用いる用語“少なくとも2つの異なる時点で(マーカーの量を)測定する”は、間隔をおいたマーカー量の測定を含むものとし、その際、第2およびそれ以後の各試料は、虚血状態の効果的なモニタリングを保証する間隔をおいて採取されるであろう。一般に、各試料間の間隔は約15分、約30分、約45分、約1時間、約90分、約2時間、約3、4、5または6時間である。たとえば、最初の試料を急性冠動脈症候群の症状が発生して約1時間後、または対象が医師に提示された直後に採取し、それ以後の各試料を最初の試料の約1時間後に採取する。採取する試料の数は虚血の評価に依存するであろう。
【0065】
用語“急性冠動脈症候群”(ACS)およびACSの診断基準は、当業者に理解されており、既知である。この用語は急性心筋梗塞により起きる一群の臨床症状に関する。虚血自体は冠動脈内のアテローム斑の崩壊から生じる。ACSに上腹部、腕、手首または顎の不快感または痛み、特に胸痛などの症状が付随する可能性があることは技術分野で知られており、その際、特に胸痛は20分より長く持続し、腕、背または肩へ放射状に広がる場合がある。急性心血管事象のさらに他の症状は、説明のつかない吐き気または嘔吐、息切れ、脱力感、めまい感、めまい、発汗または失神、ならびにそのいずれかの組合わせの可能性がある。一般にこれらの臨床症状、特に胸痛は突然起きる;それらは安静時またはわずかな労作後に出現する場合がある。さらに本発明に関して、用語“急性冠動脈症候群”は、ACSの疑い、推定または可能性に関する場合もある;これらの用語は、ACSと一致する徴候および症状を示すけれどもそれに対する診断が確実に確立してはいない患者についてもしばしば用いられるからである(参照:Morrow et al., 上記に引用)。ACS患者は不安定狭心症(UAP)を示す可能性があり、あるいはこれらの個体は心筋梗塞(MI)に罹患している可能性がある。MIはST上昇型MI(STEMI)または非ST上昇型MI(NSTEMI)の可能性がある。MIは冠動脈性心疾患CHDに属するものとして分類され、これに先立って同様にCHDに属するものとして分類される他の事象、たとえば不安定狭心症UAPが起きる。UAPの症状は胸痛であり、これはニトログリセリンの舌下投与によって軽減する。UAPは冠動脈の部分的閉塞により起き、低酸素血症および心筋梗塞をもたらす。場合により閉塞は著しく重篤または完全であり、不可逆性心筋壊死(これは心筋梗塞の原因となる病理状態である)が生じる。一般に、STEMIは心電図測定により、心電図(ECG)がST部の上昇を示す場合に診断される。ACSの症状が発生した後、少なくとも6時間の心臓性トロポニン量の測定により、UAPとNSTEMIを識別できる。トロポニン量が増加しているならば(心筋損傷の指標となる)、NSTEMIが推定される。MIは明らかな症状なしに起きる場合がある;すなわち、対象は何ら不快感を示さず、MIに先立って安定または不安定狭心症が起きない。MIの発症に続いて左心室機能不全(LVD)が起きる可能性がある。
【0066】
用語“心臓性トロポニン”は、心臓の細胞、好ましくは心内膜下細胞に発現するすべてのトロポニンイソ型を表わす。これらのイソ型は、たとえばAnderson 1995, Circulation Research, vol. 76, no. 4: 681-686およびFerrieres 1998, Clinical Chemistry, 44: 487-493に記載されるように、当技術分野で十分に特性解明されている。好ましくは、心臓性トロポニンはトロポニンTおよび/またはトロポニンI、最も好ましくはトロポニンTを表わす。本発明の方法ではトロポニンのイソ型を一緒に、すなわち同時もしくは逐次に測定してもよく、あるいは個別に、すなわち他のイソ型を全く測定せずに測定してもよいことを理解すべきである。ヒトトロポニンTおよびヒトトロポニンIのアミノ酸配列は、Anderson, 上記に引用、およびFerrieres 1998, Clinical Chemistry, 44: 487-493に示されている。
【0067】
用語“心臓性トロポニン”には、上記の特定のトロポニンの、すなわち好ましくはトロポニンIの、より好ましくはトロポニンTの、バリアントも含まれる。そのようなバリアントは、特定の心臓性トロポニンと少なくとも同じ本質的な生物学的および免疫学的特性をもつ。特にそれらは、本明細書中に述べる同じ特異的アッセイ法、たとえばそれらの心臓性トロポニンを特異的に認識するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いるELISAアッセイ法によりそれらを検出できるならば、同じ本質的な生物学的および免疫学的特性を共有する。さらに、本発明に従って述べるバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失および/または付加のため異なるアミノ酸配列をもつはずであり、その際、バリアントのアミノ酸配列はなお、好ましくは特定のトロポニンの全長にわたって、その特定のトロポニンのアミノ酸配列と、好ましくは少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%、同一であることを理解すべきである。バリアントは、対立遺伝子バリアント、または他のいずれかの種特異的なホモログ、パラログもしくはオルソログであってもよい。さらに、本明細書中で述べるバリアントには、特定の心臓性トロポニンまたは上記タイプのバリアントのフラグメントが含まれる;ただし、これらのフラグメントは上記に述べた本質的な免疫学的および生物学的特性をもつ。好ましくは、心臓性トロポニンのバリアントはヒトのトロポニンTまたはトロポニンIのものに匹敵する免疫学的特性(すなわち、エピトープ組成)をもつ。したがってバリアントは、心臓性トロポニンの量の測定に用いる前記の手段またはリガンドにより認識されるはずである。そのようなフラグメントは、たとえばトロポニンの分解生成物であってもよい。さらに、翻訳後修飾、たとえばリン酸化またはミリスチル化のため異なるバリアントが含まれる。好ましくは、トロポニンIおよびそれのバリアントの生物学的特性は、インビボおよびインビトロでアクトミオシンATPアーゼを阻害する能力または血管新生を阻害する能力であり、それらは、たとえばMoses et al. 1999 PNAS USA 96 (6): 2645-2650)により記載されたアッセイ法に基づいて検出できる。好ましくは、トロポニンTおよびそれのバリアントの生物学的特性は、好ましくはトロポニンC、IおよびTの複合体、またはトロポニンC、トロポニンIおよびトロポニンTバリアントにより形成された複合体が存在するならば、トロポニンCおよびIと複合体を形成する能力、カルシウムイオンを結合する能力、またはトロポミオシンに結合する能力である。
【0068】
本明細書中で用いる用語“心臓性トロポニン量”は、心臓性トロポニン、好ましくはトロポニンTの濃度に関する。好ましくは、この用語は対象の血清または血漿中の心臓性トロポニンの濃度に関する。“心筋梗塞の指標となる量より少ない心臓性トロポニン”は、ゼロから始まりゼロを含むいずれかの心臓性トロポニン量であって、当技術分野で既知の手段および方法により、たとえば市販の心臓性トロポニンアッセイ法により検出できる量に関するものであってよい。好ましくは、“検出できる心臓性トロポニン量”は、トロポニン量の測定に用いるアッセイ法の最小検出限界以上の濃度に関する。好ましくは、検出できるトロポニン量は、0.001ng/ml、0.002ng/ml、0.005ng/ml、0.0075ng/ml、または0.01ng/ml以上のいずれの濃度に関するものであってもよい。より好ましくは、検出できる心臓性トロポニン量は、0.002ng/ml以上のいずれの濃度に関するものであってもよい。“心筋梗塞の指標となるトロポニン量”は、一般に受け入れられている心筋梗塞の指標となるトロポニン濃度に関する。
【0069】
トロポニンTはELECSYS 2010分析計(Roche Diagnostics,ドイツ、マンハイム)を用いる高感度トロポニンT検査法で検査された。この検査は製造業者の指示に従って実施された。この検査法は3〜10.000ng/mlまたはpg/mlの測定範囲をもつ。この検査法の精度は、試料中のトロポニン濃度に応じて0.8〜2.6パーセントであることが認められた。
【0070】
好ましくは、試料中で測定される、心筋梗塞の指標になるとみなされるバイオマーカーの量、好ましくは心臓性トロポニンの量は、適切な基準集団の95thパーセント点濃度を超える、好ましくは99thパーセント点濃度を超える濃度に関する(カットオフ評点)。この量は、The Joint ESC/ACCF/AHA/WHF Task Force for the Redefinition of Myocardial Infarction (The Joint European Society of Cardiology / American College of Cardiology Committee: Universal definition of myocardial infarction, 上記に引用)によりなされた推奨に基づく。適切な基準集団を選択する方法、ならびに95thおよび99thパーセント点濃度を決定する方法は当業者に既知である。この濃度は心臓性トロポニン濃度の測定に用いるアッセイ法に基づいて、また選択する基準集団に基づいて、異なる可能性があることを理解すべきである。本発明に関するMIの指標となる好ましい心臓性トロポニン量は、少なくとも約0.05ng/ml、少なくとも約0.075ng/ml、少なくとも約0.099ng/ml、少なくとも約0.1ng/ml、少なくとも約0.2ng/ml、および少なくとも約0.3ng/mlの量である可能性があるが、これらに限定されない。
【0071】
本発明方法の好ましい態様において、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しかつ心筋梗塞の指標となるとみなされる量(本発明において定めたもの)より少ない心臓性トロポニン量をもつ対象におけるトロポニン量、特にトロポニンT量は、約0.002ng/ml以上で約0.1ng/mlより少ない。上記に引用したThe Joint ESC/ACCF/AHA/WHF Task Force for the Redefinition of Myocardial Infarctionの要件に従って計算した99thパーセント点は0.14ng/mlであり、これはMIの指標となる最も好ましい量である。
【0072】
本明細書中で用いる用語“可溶性(s)FLT−1”は、VEGF受容体FLT1の可溶性形態であるポリペプチドを表わす。それはヒト臍帯静脈内皮細胞のならし培地中で同定された。内在性の可溶性FLT1(sFLT1)受容体はクロマトグラフィー的および免疫学的に組換えヒトsFLT−1に類似し、それに匹敵する高い親和性で[125I]VEGFを結合する。ヒトsFLT−1は、インビトロでKDR/Flk−1の細胞外ドメインとVEGF安定化型複合体を形成することが示されている。好ましくは、sFLT1はヒトsFLT1を表わす。より好ましくは、ヒトsFLT1はGenebank寄託番号P17948,GI:125361に示されるFlt−1のアミノ酸配列から演繹できる。マウスFLT1のアミノ酸配列は、Genebank寄託番号BAA24499.1,GI:2809071に示されている。さらに、本発明に従って述べるバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失および/または付加のため異なるアミノ酸配列をもつはずであり、その際、バリアントのアミノ酸配列はなお、特定のsFLT1のアミノ酸配列と、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%同一であることを理解すべきである。バリアントは、対立遺伝子バリアント、スプライスバリアント、または他のいずれかの種特異的なホモログ、パラログもしくはオルソログであってもよい。さらに、本明細書中で述べるバリアントには、特定のsFLT1または上記タイプのバリアントのフラグメントが含まれる;ただし、これらのフラグメントは上記に述べた本質的な免疫学的および生物学的特性をもつ。好ましくは、sFLT−1バリアントはヒトsFLT−1のものに匹敵する免疫学的特性(すなわち、エピトープ組成)および/または生物学的特性をもつ。したがってバリアントは、sFLT−1の量の測定に用いる前記の手段またはリガンドにより認識されるはずである。そのようなフラグメントは、たとえばsFLT1の分解生成物であってもよい。さらに、翻訳後修飾、たとえばグリコシル化、リン酸化またはミリスチル化のため異なるバリアントが含まれる。好ましくは、sFLT−1の生物学的特性は、VEGFに高い親和性で結合する能力、および/またはKDR/Flk−1の細胞外ドメインとVEGF安定化型複合体を形成する能力である。
【0073】
本発明のさらに他の1態様では、対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量と少なくとも1つの基準量との比較に基づいて心筋梗塞を診断するために、個体において測定したsFLT−1の量を用いる。この方法は下記の段階のうち少なくとも1つを含むことができる:a)その対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を測定し、b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そしてc)段階b)で得た情報に基づいて、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断する。これは、個体を長期間、好ましくは6時間より長く、より好ましくは8時間より長く、よりさらに好ましくは12時間より長く、特に24時間より長く観察できる場合に特に有利である。
【0074】
したがって本発明はまた、急性冠動脈症候群ACSの徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断するための方法であって、
a)その対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を測定し、
b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そして
c)段階b)で得た情報に基づいて、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断する
段階を含む方法に関する。
【0075】
さらに本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断するための方法であって、
a)その対象の試料において測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を、少なくとも1つの基準量と比較し、そして
b)段階a)で得た情報に基づいて心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断する
ことを含む方法に関する。
【0076】
さらに本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断するための方法であって、
a)その対象の試料において測定したsFLT−1またはそのバリアントの量と、少なくとも1つの基準量との比較に基づいて、心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断する
ことを含む方法に関する。
【0077】
肝細胞増殖因子(HGF)は最初に1984および1985年に初代培養肝細胞の有効なマイトジェンとして同定され、精製された。HGFは一本鎖前駆体の形態であり、さらにセリンプロテアーゼによる二本鎖形態へのプロセシングがそれの活性化につながる。HGFの活性化に関与するセリンプロテアーゼには、HGFアクチベーターまたはHGF変換酵素およびウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)が含まれる。HGFの受容体はc−met癌原遺伝子産物として同定された。c−Met受容体は50−kDaのa−鎖および145−kDaのh−鎖からなる。HGFがc−Met受容体に結合すると、チロシンキナーゼの活性化が誘導され、続いてC末端クラスター形成チロシン残基のリン酸化が起きる。HGFは、肝臓、肺、胃、膵臓、心臓、脳、および腎臓を含めた種々の臓器の再生および保護に際して臓器栄養性(organotrophic)の役割をもつ。肝細胞増殖因子は、癌原遺伝子c−Met受容体に結合した後にチロシンキナーゼシグナル伝達カスケードを活性化することにより、細胞増殖、細胞運動性、および形態形成を調節する。肝細胞増殖因子は間葉細胞により分泌され、多機能性サイトカインとして主に上皮由来の細胞に作用する。それが有糸分裂誘発、細胞運動性、およびマトリックス侵入を刺激する能力は、それに血管新生、腫瘍形成、および組織再生における中枢的役割を与える。それは単一の不活性ポリペプチドとして分泌され、セリンプロテアーゼにより69−kDaのアルファ鎖と34−kDaのベータ鎖に開裂する。アルファ鎖とベータ鎖の間のジスルフィド結合によって、活性ヘテロ二量体分子が生成する。このタンパク質はプラスミノーゲンサブファミリーのS1ペプチダーゼに属するが、検出できるプロテアーゼ活性はもたない。この遺伝子のオルタナティブスプライシングにより、異なるイソ型をコードする多数の転写バリアントが生成する。マウスHGFのアミノ酸配列は、Genebank寄託番号NP034557.2,GI:46048249に示されている。ヒトHGFのアミノ酸配列は、Genebank寄託番号NP000592.3 GT33859835に示されている。好ましくは、HGFはヒトHGFを表わす。さらに、本発明に従って述べるバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失および/または付加のため異なるアミノ酸配列をもつはずであり、その際、バリアントのアミノ酸配列はなお、特定のHGFのアミノ酸配列と、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%同一であることを理解すべきである。バリアントは、対立遺伝子バリアント、スプライスバリアント、または他のいずれかの種特異的なホモログ、パラログもしくはオルソログであってもよい。さらに、本明細書中で述べるバリアントには、特定のHGFまたは上記タイプのバリアントのフラグメントが含まれる;ただし、これらのフラグメントは上記に述べた本質的な免疫学的および生物学的特性をもつ。好ましくは、HGFのバリアントはヒトHGFのものに匹敵する免疫学的特性(すなわち、エピトープ組成)および/または生物学的特性をもつ。したがってバリアントは、心臓性トロポニンの量の測定に用いる前記の手段またはリガンドにより認識されるはずである。そのようなフラグメントは、たとえばHGFの分解生成物であってもよい。さらに、翻訳後修飾、たとえばグリコシル化、リン酸化またはミリスチル化のため異なるバリアントが含まれる。好ましくは、HGFの生物学的特性は、癌原遺伝子c−Met受容体に結合する能力である。
【0078】
本発明のさらに他の1態様では、対象の試料中の肝細胞増殖因子(HGF)またはそのバリアントの量と少なくとも1つの基準量との比較に基づいて心筋梗塞を診断するために、個体において測定したHGFの量を用いる。この方法は下記の段階のうち少なくとも1つを含むことができる:a)その対象の試料中の肝細胞増殖因子(HGF)またはそのバリアントの量を測定し、b)段階a)で測定したHGFまたはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そしてc)段階b)で得た情報に基づいて、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断する。これは、個体を長期間、好ましくは6時間より長く、より好ましくは8時間より長く、よりさらに好ましくは12時間より長く、特に24時間より長く観察できる場合に特に有利である。
【0079】
したがって本発明はまた、急性冠動脈症候群ACSの徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断するための方法であって、
a)その対象の試料中の可溶性HGFまたはそのバリアントの量を測定し、
b)段階a)で測定したHGFまたはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そして
c)段階b)で得た情報に基づいて、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断する
段階を含む方法に関する。
【0080】
さらに本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断するための方法であって、
a)その対象の試料において測定したHGFまたはそのバリアントの量を、少なくとも1つの基準量と比較し、そして
b)段階a)で得た情報に基づいて心筋梗塞を診断する
ことを含む方法に関する。
【0081】
さらに本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断するための方法であって、
a)その対象の試料において測定したHGFまたはそのバリアントの量と、少なくとも1つの基準量との比較に基づいて、心筋梗塞、特に非ST上昇型心筋梗塞を診断する
ことを含む方法に関する。
【0082】
用語“ANT型ペプチド”には、pre−proANP、proANP、NT−proANP、そのANPバリアントが含まれる(たとえば、Bonow, 1996, Circulation 93: 1946-1950を参照)。プレ-プロペプチドには短いシグナルペプチドが含まれ、これが酵素により開裂してプロペプチドを放出する。プロペプチドはさらに開裂してN末端プロペプチド(NT−proANP)および28アミノ酸の活性ホルモンANPになる。ANPは血管拡張作用をもち、尿管を経て水およびナトリウムを排出させる。
【0083】
ANPは、それの不活性な対応するNT−proANPより短い半減期をもつ。ANPは専ら心房で産生され、そこから放出される。したがって、ANPの量は主に心房の機能を反映する可能性がある。これに関して用語“バリアント”は、ANPおよびNT−proANPに実質的に類似するペプチドに関する。用語“実質的に類似する”は、当業者に十分理解されている。特に、バリアントは、ヒト集団において最も普遍的なペプチドイソ型のアミノ酸配列と比較してアミノ酸交換を示すイソ型または対立因子であってもよい。さらに、本発明に従って述べるバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失および/または付加のため異なるアミノ酸配列をもつはずであり、その際、バリアントのアミノ酸配列はなお、ANPまたはNT−proANPのアミノ酸配列と、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%同一であることを理解すべきである。バリアントは、対立遺伝子バリアント、スプライスバリアント、または他のいずれかの種特異的なホモログ、パラログもしくはオルソログであってもよい。各全長ペプチドに対する診断手段またはリガンドによってなお認識されるタンパク質分解生成物も、実質的に類似する;ただし、これらのフラグメントは上記に述べた本質的な免疫学的および生物学的特性をもつ。好ましくは、ANP型ペプチドのバリアントは、それぞれのヒトANP型ペプチドのものに匹敵する免疫学的特性(すなわち、エピトープ組成)および生物学的特性をもつ。したがってバリアントは、ANP型ペプチドの量の測定に用いる前記の手段またはリガンドにより認識されるはずである。そのようなフラグメントは、たとえばNT−proANPの分解生成物であってもよい。さらに、翻訳後修飾、たとえばグリコシル化、リン酸化またはミリスチル化のため異なるバリアントが含まれる。好ましくは、ANPの生物学的特性は、血管拡張能ならびに/あるいは水およびナトリウムを排出させる能力である。
【0084】
用語“バリアント”は、翻訳後修飾されたペプチド、たとえばグリコシル化されたペプチドをも表わす。“バリアント”は、試料の採集後に、たとえば標識、特に放射性標識または蛍光標識をペプチドに共有結合または非共有結合させることにより修飾されたペプチドでもある。試料の採集後に修飾されたペプチドの量の測定は、修飾されていない元のペプチドの量の測定であると理解される。
【0085】
本発明に関して、ANP型ペプチドは好ましくはNT−proANPである。
用語“試料”は、体液の試料、分離した細胞の試料、または組織もしくは臓器からの試料を表わす。体液の試料は周知の手法により得ることができ、これには好ましくは血液、血漿、血清または尿の試料、より好ましくは血液、血漿または血清の試料が含まれる。組織または臓器の試料は、いずれかの組織または臓器から、たとえば生検により得ることができる。分離した細胞は、体液または組織もしくは臓器から、遠心分離または細胞選別などの分離法により得ることができる。好ましくは、細胞、組織または臓器の試料は、本明細書に述べるペプチドを発現または産生する細胞、組織または臓器から得られる。好ましくは、用語“試料”は血漿または血清の試料、より好ましくは血清試料を表わす。
【0086】
本発明において、試料は当業者に既知の適宜な時点で採取される。検査を受ける対象は迅速な診断および適切な処置についての迅速な決断が要求される急性病態生理学的状態(ACS)に罹患していることを考慮に入れるべきである。好ましくは、試料は本発明による対象から、急性冠動脈症候群の症状の発生後、短時間で、たとえば約1時間後、約2時間を超えず、約3時間を超えず、約4時間を超えず、約5時間を超えず、または約6時間を超えずに採取される。好ましくは、試料は対象が医師に提示された直後(すなわち、数分以内、すなわち約5分、約10分、約15分、約30分、約45分、または約l時間以内)に採取されるであろう。
【0087】
虚血の重症度をモニターするために、sFLT1および/または任意選択的にHGFおよび/または任意選択的にANP型ペプチドの量を、反復して、好ましくは少なくとも2回測定する場合には、2回目およびそれ以後の各試料は、虚血状態の効果的なモニタリングを保証する間隔で採取されるであろう。一般に、各試料間の間隔は約15分、約30分、約45分、約1時間、約90分、約2時間、約3、4、5、または6時間である。たとえば、最初の試料を急性冠動脈症候群の徴候および/または症状の発生の約1時間後、あるいは対象が医師に提示された直後に採取し、それ以後の各試料を最初の試料の約1時間後に採取する。採取する試料の数は虚血の評価に依存するであろう。
【0088】
心臓性トロポニン、好ましくはトロポニンTの量、またはsFLT−1の量、またはHGFの量、または本明細書に述べる他のいずれかのペプチドもしくはポリペプチドもしくはタンパク質の量の測定は、量または濃度を、好ましくは定量的または半定量的に測定することに関する。用語ポリペプチドとタンパク質は、本出願全体において互換性をもって用いられる。測定は直接または間接的に行なうことができる。直接測定は、ペプチドまたはポリペプチドの量をそのペプチドまたはポリペプチド自体から得られる信号に基づいて測定することに関するものであり、信号の強度が試料中のそのペプチドまたはポリペプチドの分子の数と直接相関する。そのような信号 −本明細書中で時には強度信号と呼ぶ− は、たとえばそのペプチドまたはポリペプチドの特定の物理的または化学的特性の強度値を測定することにより得ることができる。間接測定には、二次成分(すなわち、そのペプチドまたはポリペプチド自体ではない成分)または生物学的読出し系、たとえば測定可能な細胞応答、リガンド、標識、または酵素反応生成物から得られる信号を測定することが含まれる。
【0089】
本発明によれば、ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は、試料中のペプチドの量を測定するための既知のあらゆる手段により達成できる。それらの手段にはイムノアッセイデバイスおよび方法が含まれ、それらは多様なサンドイッチ、競合または他のアッセイ様式で標識分子を使用できる。それらのアッセイは、ペプチドまたはポリペプチドの存在または不存在の指標となる信号を発生するであろう。さらに、信号強度を、好ましくは試料中に存在するポリペプチドの量に直接または間接的に(たとえば反比例)相関させることができる。さらに他の適切な方法は、そのペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性、たとえばそれの厳密な分子質量またはNMRスペクトルを測定することを含む。そのような方法は、好ましくはバイオセンサー、イムノアッセイに連携した光学装置、バイオチップ、分析装置、たとえば質量分析計、NMR分析計、またはクロマトグラフィー装置を含む。さらに、方法にはマイクロプレートELISAベースの方法、完全自動化またはロボット式イムノアッセイ(たとえば、Elecsys(商標)分析計で実施できる)、CBA(酵素型のコバルト結合アッセイ(Cobalt Binding Assay)、たとえばRoche−Hitachi(商標)分析計で実施できる)、およびラテックス凝集アッセイ(たとえばRoche−Hitachi(商標)分析計で実施できる)が含まれる。
【0090】
好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は下記の段階を含む:(a)その強度がそのペプチドまたはポリペプチドの量の指標となる細胞応答を誘発できる細胞を、適切な期間そのペプチドまたはポリペプチドと接触させ、(b)その細胞応答を測定する。細胞応答を測定するために、試料または処理した試料を、好ましくは細胞培養物に添加し、内部または外部細胞応答を測定する。細胞応答には、測定可能なレポーター遺伝子発現、または物質、たとえばペプチド、ポリペプチドもしくは小分子の分泌を含めることができる。この発現または物質は、ペプチドまたはポリペプチドの量に相関する強度信号を発生すべきである。
【0091】
同様に好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は試料中のペプチドまたはポリペプチドから得られる特異的強度信号を測定する段階を含む。前記のように、そのような信号は、そのペプチドまたはポリペプチドに特異的な質量スペクトルまたはNMRスペクトル中にみられる、そのペプチドまたはポリペプチドに特異的なm/z変数で観察される信号強度であってもよい。
【0092】
ペプチドまたはポリペプチドの量の測定は、好ましくは下記の段階を含む:(a)ペプチドを特異的リガンドと接触させ、(b)(任意選択的に)結合していないリガンドを除去し、(c)結合したリガンドの量を測定する。結合したリガンドは強度信号を発生するであろう。本発明による結合には、共有結合および非共有結合の両方が含まれる。本発明によるリガンドは、本明細書に記載するペプチドまたはポリペプチドに結合するいずれかの化合物、たとえばペプチド、ポリペプチド、核酸、または小分子であってもよい。好ましいリガンドには、抗体、核酸、ペプチドまたはポリペプチド、たとえば前記ペプチドまたはポリペプチドの受容体または結合パートナー、およびそれらのペプチドの結合ドメインを含むそのフラグメント、ならびにアプタマー、たとえば核酸アプタマーまたはペプチドアプタマーが含まれる。そのようなリガンドを調製する方法は当技術分野で周知である。たとえば、適切な抗体またはアプタマーの同定および調製は業者により提供されてもいる。当業者は、より高い親和性または特異性を備えたリガンドの誘導体を開発する方法を承知している。たとえば、ランダム変異を核酸、ペプチドまたはポリペプチドに導入することができる。これらの誘導体を、次いで当技術分野で既知のスクリーニング法、たとえばファージディスプレーに従って、結合につき試験することができる。本明細書に述べる抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方、ならびにそのフラグメントであって抗原またはハプテンを結合できるもの、たとえばFv、FabおよびF(ab)フラグメントが含まれる。本発明には、一本鎖抗体、および目的とする抗原特異性を示す非ヒト−ドナー抗体のアミノ酸配列をヒト−アクセプター抗体の配列と組み合わせたヒト化ハイブリッド抗体も含まれる。ドナー配列は通常は少なくともドナーの抗原結合性アミノ酸残基を含むであろうが、ドナー抗体の他の構造関係および/または機能関係アミノ酸残基を含んでもよい。そのようなハイブリッドは、当技術分野で周知である幾つかの方法により調製できる。好ましくは、リガンドまたは作用物質は前記のペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合する。本発明による特異的結合は、リガンドまたは作用物質が、分析される試料中に存在する他のペプチド、ポリペプチドまたは物質に実質的に結合(それらと“交差反応”)すべきでないことを意味する。好ましくは、特異的に結合するペプチドまたはポリペプチドは、他のいずれかの関連するペプチドまたはポリペプチドより少なくとも3倍高い、好ましくは少なくとも10倍高い、よりさらに好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合すべきである。非特異的結合は、たとえばウェスタンブロット法でそれのサイズに従って、または試料中にそれが相対的に多量に存在することによって、それをなお識別して確実に測定できるならば許容できる。リガンドの結合は、当技術分野で既知であるいずれかの方法により測定できる。好ましくは、その方法は半定量的または定量的である。適切な方法を以下に記載する。
【0093】
第1に、リガンドの結合を直接に、たとえばNMRまたは表面プラズモン共鳴により測定できる。
第2に、リガンドが目的ペプチドまたはポリペプチドの酵素活性の基質としても作用するならば、酵素反応生成物を測定することができる(たとえば、プロテアーゼの量は、開裂した基質の量を、たとえばウェスタンブロット法で測定することにより測定できる)。あるいはリガンドが酵素特性そのものを示してもよく、“リガンド/ペプチドまたはポリペプチド”複合体、すなわちペプチドまたはポリペプチドそれぞれが結合したリガンドを、強度信号の発生により検出できる適切な基質と接触させることができる。酵素反応生成物の測定のためには、好ましくは基質の量は飽和状態である。反応前に基質を検出可能な標識で標識してもよい。好ましくは、試料を適切な期間、基質と接触させる。適切な期間は、検出可能な、好ましくは測定可能な量の生成物を生成させるのに必要な時間を表わす。生成物の量を測定する代わりに、特定した(たとえば検出可能な)量の生成物が出現するのに必要な時間を測定することもできる。
【0094】
第3に、リガンドをリガンドの検出および測定が可能になる標識に共有結合または非共有結合させることができる。標識付けは直接法または間接法により行なうことができる。直接標識法は標識をリガンドに直接に結合(共有結合または非共有結合)させることを伴う。間接標識法は一次リガンドに二次リガンドを結合(共有結合または非共有結合)させることを伴う。二次リガンドは一次リガンドに特異的に結合すべきである。二次リガンドは適切な標識と結合し、および/または二次リガンドに結合する三次リガンドの標的(受容体)であってもよい。二次、三次、またはさらに高次のリガンドの使用は、信号を増強するためにしばしば採用される。適切な二次およびより高次のリガンドには、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン−ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)を含めることができる。リガンドまたは基質は、当技術分野で既知である1以上のタグで“タグ付け”することもできる。次いでそのようなタグをより高次のリガンドでターゲティングすることができる。適切なタグには、ビオチン、ジゴキシゲニン、His−タグ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc−タグ、インフルエンザAウイルスヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質などが含まれる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは好ましくはN末端および/またはC末端にある。適切な標識は、適宜な検出法で検出できるいずれかの標識である。代表的な標識には、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダン(acridan)エステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁性標識(“たとえば磁性ビーズ”、これには常磁性および超常磁性標識が含まれる)、および蛍光標識が含まれる。酵素活性標識には、たとえば西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびその誘導体が含まれる。検出に適した基質には、ジ−アミノ−ベンジジン(DAB)、3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン、NBT−BCIP(4-nitro blue tetrazolium chloride and 5-bromo-4-chloro-3-indolyl-phosphate(4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェート)、Roche Diagnosticsから既製原液として入手できる)、CDP−Star(商標)(Amersham Biosciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が含まれる。適切な酵素−基質の組合わせは、着色反応生成物、蛍光または化学発光を生じることができ、それを当技術分野で既知の方法に従って測定することができる(たとえば、感光性フィルムまたは適切なカメラシステムの使用)。酵素反応の測定についても、上記に挙げた基準が同様に適用される。代表的な蛍光標識には、蛍光タンパク質(たとえば、GFPおよびそれの誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド(Texas Red)、フルオレセイン、およびAlexa色素(たとえば、Alexa 568)が含まれる。さらに他の蛍光標識を、たとえばMolecular Probes(オレゴン)から入手できる。蛍光標識としての量子ドットの使用も考慮される。代表的な放射性標識には、35S、125I、32P、33Pなどが含まれる。放射性標識は既知のいずれかの方法、たとえば感光性フィルムまたはホスフォイメージャー(phosphor imager)により検出できる。本発明による適切な測定法には、下記のものも含まれる:沈降法(特に免疫沈降法)、電気化学発光(電気的に発生する化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ)、サンドイッチ酵素免疫検定、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強型ランタニド蛍光イムノアッセイ(dissociation-enhanced lanthanide fluoro immuno assay)(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、濁度測定法(turbidimetry)、比濁分析法(nephelometry)、ラテックス増強型の濁度測定法もしくは比濁分析法、または固相免疫検定。当技術分野で既知であるさらに他の方法(たとえば、ゲル電気泳動、2Dゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、ウェスタンブロット法、および質量分析)を、単独で、または前記の標識法もしくは他の検出法と組み合わせて使用できる。
【0095】
ペプチドまたはポリペプチドの量は、同様に好ましくは下記に従って測定することもできる:(a)前記のペプチドまたはポリペプチドに対するリガンドを含む固体支持体を、ペプチドまたはポリペプチドを含む試料と接触させ、そして(b)支持体に結合したペプチドまたはポリペプチドの量を測定する。好ましくは核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体およびアプタマーからなる群より選択されるリガンドは、好ましくは固体支持体上に固定化した形で存在する。固体支持体を作成するための材料は当技術分野で周知であり、特に市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンのチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレーのウェルおよび壁、プラスチックチューブなどを含む。リガンドまたは作用物質を多種多様なキャリヤーに結合させることができる。周知のキャリヤーの例には、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然および化工セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、および磁鉄鉱が含まれる。キャリヤーの性質は、本発明の目的にとって可溶性または不溶性のいずれであってもよい。前記リガンドを固定/固定化するのに適した方法は周知であり、イオン性、疎水性、共有結合性の相互作用などを含むが、これらに限定されない。“懸濁アレイ”の使用も、本発明によるアレイとして考慮される(Nolan 2002, Trends Biotechnol. 20(1): 9-12)。そのような懸濁アレイでは、キャリヤー、たとえばマイクロビーズまたはマイクロスフェアが懸濁状態で存在する。アレイは、種々のリガンドを保有する種々のマイクロビーズまたはマイクロスフェア(標識されていてもよい)からなる。そのようなアレイを作成する方法、たとえば固相化学および光不安定性保護基に基づくものは、一般に知られている(US 5,744,305)。
【0096】
好ましくは、本発明に関して測定するsFLT−1の量およびHGFの量(HGFを測定する場合)およびANP型ペプチドの量、ならびに場合により他のペプチドの量を、本発明において定める対象から得た血液試料、たとえば血清または血漿試料中において測定する。好ましくは、そのような測定はELISAにより行なわれる。ELISAによるそのような測定は、たとえば下記を用いて実施できる:QuantikineヒトHGFイムノアッセイ,R&D Systems,Inc.,米国ミネソタ州ミネアポリス、および/またはQuantikineヒト可溶性VEGF Rl/Flt−1イムノアッセイ(sFLT−1について)、R&D Systems,Inc.,米国ミネソタ州ミネアポリス、およびNT−proANPイムノアッセイ,Biomedica Medizinprodukteによる,オーストリア、ウィーン。場合により、本明細書の他の個所に詳述したsFLT−1および/またはHGFそれぞれの量は、H−FABPの量を測定するためのヒト心臓型脂肪酸結合タンパク質用のHBT ELISA試験キット(HyCult Biotechnology,オランダ、ウーデン(Uden))を用いて、およびミオグロビンの量を測定するためのTina−Quant(登録商標)ミオグロビン試験システム(Roche Diagnostics)を用いて、それぞれ測定できる。
【0097】
本明細書中で用いる用語“量”は、絶対量(たとえば、sFLT−1またはHGFの)、相対量または濃度(たとえば、sFLT−1またはHGFの)、およびそれらと相関するいずれかの数値またはパラメーターを含む。そのような数値またはパラメーターには、前記のペプチドから直接測定により得られるすべての特異的な物理的または化学的特性に由来する強度信号値、たとえば質量スペクトルまたはNMRスペクトルにおける強度値が含まれる。さらに、本明細書の他の箇所に詳述した間接測定により得られるすべての数値またはパラメーター、たとえば前記のペプチドに応答した生物学的読出し系から測定された発現量、または特異的に結合したリガンドから得られる強度信号が含まれる。上記の量またはパラメーターに相関する数値はすべての標準的算術操作により得ることもできるのを理解すべきである。
【0098】
本明細書中で用いる用語“比較する”は、分析される試料が含むペプチド、ポリペプチド、タンパク質の量を、本明細書の他の箇所に詳述した適切な基準源と比較することを含む。本明細書中で用いる比較は対応するパラメーターまたは数値の比較を表わすことを理解すべきである;たとえば、絶対量を絶対基準量と比較し、一方、濃度を基準濃度と比較し、あるいは被験試料から得られる強度信号を基準試料の同タイプの強度信号と比較する。本発明方法の段階(b)で述べる比較は、手動で、またはコンピューター支援により実施できる。コンピューター支援による比較については、測定量の数値を、データベースに蓄積された適切な基準に対応する数値とコンピュータープログラムにより比較することができる。コンピュータープログラムはその比較の結果をさらに評価することができ、すなわち希望する評価を適切な出力フォーマットで自動的に提供する。段階a)で測定した量(単数または複数)と適切な基準量(単数または複数)の比較に基づいて、その対象におけるMIを診断することができる。本発明方法の段階(a)で測定したsFLT−1の量を段階(b)で本出願の他の箇所に詳述したsFLT−1に関する基準量と比較すること、およびHGFの量をHGFに関する基準量と比較することを理解すべきである。
【0099】
したがって、本明細書中で用いる用語“基準量”はいずれも、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しかつ心筋梗塞の指標になるとみなされる量より少ない心臓性トロポニン量をもつ対象において(したがって、本発明で定める対象において)虚血状態(本発明に関して“虚血の程度”とも呼ぶことができる)を判定できる量を表わす。基準量との比較により、その虚血が心機能不全/心臓傷害をもたらすかどうかを診断できる。そのACSの症状の発生は最近起きたものである。これに関して最近の発症とは、その対象から試料を採取する前の、好ましくは6時間以内、より好ましくは4時間以内、最も好ましくは2時間以内に発症が起きたことを意味する。好ましくは、虚血の重症度についての基準量は、試料を採取する前の、好ましくは6時間以内、より好ましくは4時間以内、最も好ましくは2時間以内であることが示されたACSの症状をもつと診断された、本発明に定める対象であって、その対象の予後、すなわちMI、特にNSTEMI、UAP、心筋機能停止、循環機能不全、またはCAD(ACSの徴候がない)の発症が判定された対象に由来するものであってもよい。
【0100】
本発明のこの態様において、本明細書中で用いる用語“基準量”は、個体においてその虚血状態を、生理的に健康な対象、または可逆性心筋梗塞もしくは不可逆性心臓傷害をもたらす虚血状態を伴う対象のものであると診断できるポリペプチドの量を表わす。
【0101】
したがって、基準量は一般に生理的に健康であることが分かっている対象、または可逆性心筋梗塞もしくは不可逆性心臓傷害をもたらす虚血状態を伴う対象に由来するものであろう。
【0102】
本発明のすべての態様において、個体の虚血状態の指標となる、本発明に用いる各マーカー(心臓性トロポニン、特にトロポニンT;sFLT−1;HGF;およびある態様においてはNT−proANP)の量/量は、当業者に既知の方法により測定される。
【0103】
一般に、本発明の各態様に従って目的とする診断を確立できる各量/量または量比(“閾値”、“基準量”)を決定するために、各ペプチドまたはペプチド類の量(単数または複数)/量(単数または複数)または量比を適宜な患者グループにおいて決定する。確立すべき診断に従って、患者グループは、たとえば健康な個体のみを含むことができ、あるいは健康な個体と診断すべき病態生理学的状態に罹患している個体を含むことができ、あるいは診断すべき病態生理学的状態に罹患している個体のみを含むことができ、あるいは確証された分析法を用いて各マーカー(単数または複数)により識別すべき種々の病態生理学的状態に罹患している個体を含むことができる。得られた結果を収集し、当業者に既知の統計的方法により分析する。得られた閾値を次いで目的とするその疾患に罹患する確率に従って確立し、特定の閾値と関連付ける。閾値(単数または複数)、基準値(単数または複数)または量比を確立するために、たとえば健康集団および/または不健康患者集団の中央値、60th、70th、80th、90th、95th、またはさらには99thパーセント点を選択することが有用であろう。
【0104】
診断マーカーの基準値を確立して、患者試料中のそのマーカーの量をこの基準値と簡単に比較することができる。診断および/または予後検査の感度および特異性は、検査法の分析の“質”に依存するだけでなく、それらは異常な結果を構成するものの定義にも依存する。実際に、受容者操作特性曲線(Receiver Operating Characteristic curves)、すなわち“ROC”曲線は、一般に“正常”集団と“疾患”集団において変数の数値をそれの相対頻度に対してプロットすることにより計算される。本発明のいずれか特定のマーカーについて、疾患を伴う対象と疾患を伴わない対象のマーカー量の分布はオーバーラップする可能性がある。そのような条件下では、検査は正常を疾患から100%の正診率で絶対的に識別することはできず、オーバーラップ領域はその検査が正常を疾患から識別できない領域を示す。それより上では(またはマーカーがその疾患に伴ってどのように変化するかに応じて、それより下では)その検査が異常であるとみなされ、それより下では検査が正常であるとみなされる閾値を選択する。ROC曲線下面積は、その感知された測定が状態を適正に同定できる確率の尺度である。ROC曲線は検査結果が必ずしも正確な数値を与えない場合ですら使用できる。結果をランク付けできる限り、ROC曲線を作成できる。たとえば、“疾患”試料に関する検査結果を程度に従ってランク付けすることができる(たとえば、1=低、2=正常、および3=高)。このランク付けを“正常”集団における結果と相関させて、ROC曲線を作成することができる。これらの方法は当技術分野で周知である。たとえば、Hanley et al, Radiology 143 : 29-36 (1982)を参照。
【0105】
特定の態様において、少なくとも約70%の感度、より好ましくは少なくとも約80%の感度、よりさらに好ましくは少なくとも約85%の感度、よりいっそう好ましくは少なくとも約90%の感度、最も好ましくは少なくとも約95%の感度を、少なくとも約70%の特異性、より好ましくは少なくとも約80%の特異性、よりさらに好ましくは少なくとも約85%の特異性、よりいっそう好ましくは少なくとも約90%の特異性、最も好ましくは少なくとも約95%の特異性と合わせて示すマーカーおよび/またはマーカーパネルを選択する。特に好ましい態様において、感度および特異性は共に少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約80%、よりさらに好ましくは少なくとも約85%、よりいっそう好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%である。これに関して用語“約”は、示した測定値の±5%を表わす。
【0106】
他の態様において、肯定的尤度比(positive likelihood ratio)、否定的尤度比(negative likelihood ratio)、オッズ比、または危険比(hazard ratio)を、検査が疾患のリスクを推定し、または疾患を診断する能力の尺度として用いる。肯定的尤度比の場合、数値1は“疾患”グループと“対照”グループの両方の対象間で同等に肯定的結果の可能性があることを示す;1より大きい数値は疾患グループで肯定的結果の可能性がより高いことを示す;1より小さい数値は対照グループで肯定的結果の可能性がより高いことを示す。否定的尤度比の場合、数値1は“疾患”グループと“対照”グループの両方の対象間で同等に否定的結果の可能性があることを示す;1より大きい数値は被験グループで否定的結果の可能性がより高いことを示す;1より小さい数値は対照グループで否定的結果の可能性がより高いことを示す。特定の好ましい態様において、マーカーおよび/またはマーカーパネルは、好ましくは少なくとも約1.5以上、または約0.67以下、より好ましくは少なくとも約2以上、または約0.5以下、よりさらに好ましくは少なくとも約5以上、または約0.2以下、よりいっそう好ましくは少なくとも約10以上、または約0.1以下、最も好ましくは少なくとも約20以上、または約0.05以下の肯定的尤度比または否定的尤度比を示すように選択される。これに関して用語“約”は、示した測定値の±5%を表わす。
【0107】
オッズ比の場合、数値1は“疾患”グループと“対照”グループの両方の対象間で同等に肯定的結果の可能性があることを示す;1より大きい数値は疾患グループで肯定的結果の可能性がより高いことを示す;1より小さい数値は対照グループで肯定的結果の可能性がより高いことを示す。特定の好ましい態様において、マーカーおよび/またはマーカーパネルは、好ましくは少なくとも約2以上、または約0.5以下、より好ましくは少なくとも約3以上、または約0.33以下、よりさらに好ましくは少なくとも約4以上、または約0.25以下、よりいっそう好ましくは少なくとも約5以上、または約0.2以下、最も好ましくは少なくとも約10以上、または約0.1以下のオッズ比を示すように選択される。これに関して用語“約”は、示した測定値の±5%を表わす。
【0108】
危険比の場合、数値1は“疾患”グループと“対照”グループの両方の対象間でエンドポイント(たとえば死亡)の相対リスクが同等であることを示す;1より大きい数値は疾患グループでそのリスクがより大きいことを示す;1より小さい数値は対照グループでそのリスクがより大きいことを示す。特定の好ましい態様において、マーカーおよび/またはマーカーパネルは、好ましくは少なくとも約1.1以上、または約0.91以下、より好ましくは少なくとも約1.25以上、または約0.8以下、よりさらに好ましくは少なくとも約1.5以上、または約0.67以下、よりいっそう好ましくは少なくとも約2以上、または約0.5以下、最も好ましくは少なくとも約2.5以上、または約0.4以下の危険比を示すように選択される。これに関して用語“約”は、示した測定値の±5%を表わす。
【0109】
例示パネルを本明細書に記載するが、これらの例示パネルの1以上のマーカーを交換、追加または削除してもなおかつ臨床的に有用な結果を得ることができる。パネルは疾患の特異的マーカー(たとえば、細菌感染に際して増加または減少するが、他の疾患状態では増加または減少しないマーカー)および/または非特異的マーカー(たとえば、原因とは無関係に炎症のため増加または減少するマーカー;原因とは無関係に血流遮断の変化のため増加または減少するマーカーなど)の両方を含むことができる。あるマーカーは個々には本明細書に記載する方法において決定的ではない可能性があるが、変化の特定の“フィンガープリン”パターンが実際に疾患状態の特異的指標として作用する場合がある。前記に述べたように、その変化のパターンを単一試料から得ることができ、あるいは任意選択的にそのパネルの1以上のメンバーにおける一時的変化(またはパネル応答値の一時的変化)を考慮に入れることができる。
【0110】
選択した基準値によって目的疾患に罹患している患者が十分に確実に診断されるかどうかを調べるために、たとえば次式を用いてその基準値につき本発明方法の有効性(E)を判定することができる:
E=(TP/TO)×100;
式中、TP=真の陽性、およびTO=検査の総数=TP+FP+FN+TNであり、ここでFP=は偽陽性;FN=偽陰性、TN=真の陰性である。Eは下記の範囲の数値をもつ:0<E<100)。好ましくは、Eの数値が少なくとも約50、より好ましくは少なくとも約60、より好ましくは少なくとも約70、より好ましくは少なくとも約80、より好ましくは少なくとも約90、より好ましくは少なくとも約95、より好ましくは少なくとも約98であれば、調べた基準値は十分に確実な診断を与える。
【0111】
個体が健康であるか、あるいは特定の病態生理学的状態に罹患しているかの診断は、当業者に既知である確立された方法により行なうことができる。それらの方法は、個体の病態生理学的状態に応じて異なる。
【0112】
目的とする診断を確立するためのアルゴリズムを、本出願において、参照する各態様に言及する過程で示す。
したがって本発明には、生理学的状態および/または病理学的状態および/または特定の病理学的状態の指標となる閾値量を決定する方法であって、適切な患者グループにおいて適切なマーカー(単数または複数)の量を測定し、データを収集し、データを統計的方法により分析して閾値を確立する段階を含む方法も含まれる。
【0113】
本明細書中で用いる用語“約”は、示した測定値または数値の±20%、好ましくは±10%、好ましくは±5%を表わす。
本発明に定める虚血状態の指標となるsFLT−1に関する基準量(閾値量)は下記のものである:約92pg/ml、より好ましくは約109pg/ml。上記に示した数値未満の量のsFLT−1は、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害と関連しない、またはそれらをもたらさない、非虚血状態の指標となる。上記に示した基準量以上の量のsFLT−1は、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害と関連する、またはそれらをもたらす、虚血状態の指標となる。
【0114】
本発明に定める虚血状態の指標となるHGFに関する基準量(閾値量)は下記のものである:約0,62pg/ml、より好ましくは約0,73pg/ml。上記に示した数値未満の量のHGFは、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害と関連しない、またはそれらをもたらさない、非虚血状態の指標となる。上記に示した基準量以上の量のHGFは、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害と関連する、またはそれらをもたらす、虚血状態の指標となる。
【0115】
好ましくは、測定したsFLT−1、および任意選択的にHGFの数値が虚血状態を示さない場合、その個体は心疾患に関して何らそれ以上の検査を必要としない。一般に、そのような個体は自宅へ戻ることができる。
【0116】
虚血状態と診断された場合、各個体を心疾患または心血管疾患に関してさらに検査する必要があろう。したがって好ましい態様において、本発明は、sFLT−1および/またはHGFの量を測定した個体をさらに診断する段階を含む。本発明に関してさらに他の適切な診断方法には、さまざまな種類の負荷試験、たとえば運動負荷ECG、運動負荷心エコー検査、運動負荷コンピュータ断層撮影、運動負荷タリウムスキャン;および血管造影(侵襲的または仮想的、たとえば、スパイラルコンピュータ断層撮影(spiral computer tomography))が含まれる。
【0117】
好ましくは、本発明に定める循環障害についてのNT−proANPに関する基準量(閾値量)は下記のものである:約1320pg/ml、より好ましくは約1674pg/ml。上記に示した数値以上の量のNT−proANPは循環障害の指標となる。
【0118】
HGFおよびNT−proANPに関する数値は個体の慢性疾患、たとえば心不全、腎機能障害または腎不全、および −HGFの場合は− 急性または慢性肝疾患の発生のため変化する可能性があることを留意すべきである。慢性疾患の場合、上記に示した数値は、慢性疾患を伴わない、特に慢性心疾患ではない個体、さらに急性冠動脈症候群に適用される、予め示された数値より有意に高い(たとえば、2 5、7、8または10倍高い)可能性がある。
【0119】
用語“少なくとも1つの基準量”は、1または1より多い基準量、たとえば2つの基準量を意味する。
本発明の好ましい態様において、前記に示したマーカーの測定は、マーカー量の評価を判定するために間隔をおいて実施される。これは、急性事象が起きる/起きたか否かを評価する際に有用であろう。
【0120】
マーカーsFLT−1、HGFおよび/またはNT−proANPのうち少なくとも1つの測定量が予め示された基準量より多ければ、急性事象が推定される。好ましくは、その偏差は少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約50%、または少なくとも約100%、より好ましくは少なくとも約200%、よりさらに好ましくは少なくとも約500%、特に少なくとも約1000%である。
【0121】
特定のマーカー(またはマーカー類)の2つの測定の間隔は、少なくとも約15分、少なくとも約30分、少なくとも約45分、少なくとも約1時間、少なくとも約90分、少なくとも約2時間、少なくとも約3時間、少なくとも約4時間、少なくとも約5時間、少なくとも約6時間である。当業者はこの間隔およびずれが個体の状態、各マーカーの変化量の傾向(すなわち、虚血および/または循環障害の発症)などに従って変動する可能性があることを承知している。
【0122】
本発明の他の態様は、対象が心筋梗塞、特にNSTEMIに罹患しているかどうかを判定するために、心臓性トロポニンの測定および/またはECGの測定の後、かつ本発明方法の段階a)およびb)におけるsFLT−1および任意選択的なHGFの量の測定の前に、H−FABPおよび/またはミオグロビンを測定することを含む。
【0123】
本発明に定める対象における、MIの発症を包含するための基準量より多いミオグロビンおよび任意選択的なH−FABPの量は、その対象における最近のMI発症の指標となるはずである。本発明に定める対象における、MIの発症を除外するための基準量より少ないミオグロビンおよび任意選択的なH−FABPの量は、MI心筋梗塞が最近発症しておらず、したがってその対象はUAPに罹患している可能性があることの指標となるはずである。本発明に関して、本発明に定める対象であってそのミオグロビン量が上記の基準量(MIの最近の発症を包含するための基準量とMIの最近の発症を除外するための基準量)の間にある対象は再診断の必要があることを理解すべきである。好ましくは、これは、ミオグロビンとH−FABPの両方の量を測定し、その際、両方の量が一致しない対象、たとえば一方の量が各基準量より多く(または少なく)、これに対し他方の量が各基準量より多く(または少なく)ない対象についても行なうことができる。特に、本発明に定める対象において77ng/mlより多いミオグロビン量はMIの最近の発症の指標となり(包含)、これに対し55ng/mlより少ない量はMIが最近起きていないことの指標となる(除外)。さらに、本発明に定める対象の試料中のミオグロビンの測定に基づく診断の感度および特異性は、ミオグロビンの量のほかにその対象の試料中のH−FABPの量を測定してH−FABPに関する少なくとも1つの基準量と比較した場合、よりさらに増大する。特に、本発明に定める対象において5700pg/mlより多いH−FABP量はMIの最近の発症の指標となり(包含)、これに対し2500pg/mlより少ない量はMIが最近起きていないことの指標となる(除外)。
【0124】
ミオグロビンは154アミノ酸のポリペプチド一本鎖からなる細胞質ヘムタンパク質であり、ほぼ例外なく心筋細胞および酸化的骨格筋繊維にのみ発現する。ヘモグロビンと同様に、ミオグロビンは酸素を可逆的に結合し、したがって代謝活性が亢進している期間は赤血球からミトコンドリアへの酸素輸送を促進し、あるいは低酸素または無酸素状態に際しては酸素溜めとして作用することができる;Ordway G. and Garry D. J., Myoglobin: an essential hemoprotein in striated muscle. 2004. Journal of Experimental Biology 207, 3441-3446 (2004)。
【0125】
心臓型脂肪酸結合タンパク質(本明細書中ではH−FABPまたは心臓脂肪酸結合タンパク質とも呼ぶ)は小型の細胞質ゾルタンパク質であり、心筋中の長鎖脂肪酸を細胞膜からミトコンドリア内のそれらの細胞内代謝部位(そこで長鎖脂肪酸はクエン酸回路に入る)へ運ぶ主要な輸送体として機能する。H−FABPは心筋に存在し、心筋傷害に応答して速やかに循環内へ放出されると一般に考えられている。幾つかの研究がH−FABPは心筋梗塞の早期生化学マーカーであることを示している;たとえばOkamoto et al, Clin Chem Lab Med 38(3): 231-8 (2000) Human heart-type cytoplasmic fatty acid-binding protein (H-FABP) for the diagnosis of acute myocardial infarction. Clinical evaluation of H-FABP in comparison with myoglobin and creatine kinase isoenzyme MB; O'Donoghue et al., Circulation, 114; 550-557 (2006) Prognostic Utility of Heart-Type Fatty Acid Binding Protein in patients with acute coronary syndrome;またはRuzgar et al, Heart Vessels, 21; 209-314 (2006) The use of human heart-type fatty acid-binding protein as an early diagnostic marker of myocardial necrosis in patients with acute coronary syndrome, and its comparison with troponin T and its creatine kinase-myocardial band)。
【0126】
本明細書中で用いるミオグロビンおよびH−FABPには、ミオグロビンおよびH−FABPのポリペプチドそれぞれのバリアントも含まれる。そのようなバリアントは、特異的ミオグロビンおよびH−FABPのポリペプチドと少なくとも同じ本質的な生物学的および免疫学的特性をもつ。特にそれらは、本明細書に述べる同じ特異的アッセイ法、たとえばそれらのミオグロビンおよびH−FABPのポリペプチドをそれぞれ特異的に認識するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いるELISAアッセイ法によりそれらを検出できるならば、同じ本質的な生物学的および免疫学的特性を共有する。さらに、本発明に従って述べるバリアントは、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失および/または付加のため異なるアミノ酸配列をもつはずであり、その際、バリアントのアミノ酸配列はなお、好ましくは特定のH−FABPおよびミオグロビンのポリペプチドそれぞれのアミノ酸配列と、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%、同一であることを理解すべきである。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、当技術分野で周知のアルゴリズムにより判定できる。好ましくは、同一性の程度は、比較ウインドウ全体にわたって最適状態にアラインさせた2つの配列を比較することにより判定され、その際、比較ウインドウ内のアミノ酸配列のフラグメントは、最適アラインメントのために基準配列(付加または欠失を含まない)と比較して付加または欠失(たとえば、ギャップまたはオーバーハング)を含むことができる。両配列中に同一アミノ酸残基が出現する位置の数を決定して一致位置の数を求め、一致位置の数を比較ウインドウ内の総数で割り、そしてその商に100を掛けて配列同一性のパーセントを求めることにより、パーセントを計算する。比較のための配列の最適アラインメントは、Smith and Waterman Add. APL. Math. 2:482 (1981)の局所相同性アルゴリズム(local homology algorithm)により、Needleman and Wunsch J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性アラインメントアルゴリズム(homology alignment algorithm)により、Pearson and Lipman Proc. Natl. Acad Sci. (USA) 85: 2444 (1988)の類似性検索法(search for similarity method)により、これらのアルゴリズムのコンピューター化処理(GAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、およびTFASTA,Wisconsin Genetics Software Package中, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WI)により、または視覚検査により実施できる。比較のために2つの配列が同定されると、好ましくはGAPおよびBESTFITを用いてそれらの最適アラインメント、したがって同一性の程度を決定する。好ましくは、ギャップ重みについて5.00、ギャップ重み長さについて0.30のデフォルト値を用いる。前記に述べたバリアントは、対立遺伝子バリアント、または他のいずれかの種特異的なホモログ、パラログもしくはオルソログであってもよい。さらに、本明細書中で述べるバリアントには、特定のミオグロビンおよびH−FABPのポリペプチドまたは上記タイプのバリアントのフラグメントが含まれる;ただし、これらのフラグメントは上記に述べた本質的な免疫学的および生物学的特性をもつ。そのようなフラグメントは、たとえばミオグロビンおよびH−FABPのポリペプチドの分解生成物であってもよい。さらに、翻訳後修飾、たとえばリン酸化またはミリスチル化のため異なるバリアントが含まれる。好ましくはミオグロビンの生物学的特性は、酸素を可逆的に結合する能力である。好ましくはH−FABPの生物学的特性は、長鎖脂肪酸を細胞膜からミトコンドリア内のそれらの細胞内代謝部位(そこで長鎖脂肪酸はクエン酸回路に入る)へ輸送することである。
【0127】
前記および後期に述べる本発明方法によれば、sFLT−1の抗体、および好ましくはさらにHGFの抗体、またはそれらを測定するための手段は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示し、かつ心筋梗塞の指標とみなされる量より少ない心筋トロポニン量をもつ対象において、虚血および虚血の重症度の経過を診断するための診断用組成物の調製に使用できることを理解すべきである。
【0128】
本発明はまた、急性冠動脈症候群ACSの徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象が心筋梗塞に罹患するリスクを層別化または評価するための方法であって、その対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較することに基づく方法に関する。この方法は下記の段階のうち少なくとも1つを含むことができる:a)その対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を測定し、b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、c)段階b、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、虚血状態を診断し、d)c)で得た情報に基づいて心筋梗塞に罹患するリスクを評価する。
【0129】
したがって本発明はまた、急性冠動脈症候群ACSの徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象が心筋梗塞に罹患するリスクを層別化または評価するための方法であって、
a)その対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を測定し、
b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、
c)段階b、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、虚血状態を診断し、そして
d)c)で得た情報に基づいて心筋梗塞に罹患するリスクを評価する
ことを含む方法に関する。
【0130】
本発明はまた、心臓介入を受ける可能性がある対象(急性冠動脈症候群ACSの徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない)を同定するための方法であって、その対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較することに基づく方法に関する。この方法は下記の段階のうち少なくとも1つを含むことができる:a)その対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を測定し、b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、c)段階b、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、虚血状態を診断し、d)c)で得た情報に基づいて心筋梗塞に罹患するリスクを評価する。
【0131】
したがって本発明はさらに、心臓介入を受ける可能性がある対象(その際、対象は急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない)を同定するための方法であって、
a)その対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を測定し、
b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、
c)段階b)、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、虚血状態を診断し、そして
d)c)で得た情報に基づいて対象を同定する
ことを含む方法に関する。
【0132】
さらに本発明はまた、急性冠動脈症候群ACSの徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、可能性のある心臓介入を推奨もしくは決断し、または可能性のある心臓介入を開始するための方法であって、その対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較することに基づく方法に関する。この方法は下記の段階のうち少なくとも1つを含むことができる:a)その対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を測定し、b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、c)c)で得た情報に基づいて心臓介入の開始を推奨もしくは決断し、心臓介入を開始し、または心臓介入を避ける。
【0133】
したがって本発明は、急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、可能性のある心臓介入を推奨もしくは決断し、または可能性のある心臓介入を開始するための方法であって、
a)その対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を測定し、
b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、
c)段階b)、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、虚血状態を診断し、そして
d)c)で得た情報に基づいて心臓介入の開始を推奨もしくは決断し、心臓介入を開始し、または心臓介入を避ける
ことを含む方法に関する。
【0134】
以上に示したすべての態様、すなわち対象が心筋梗塞に罹患するリスクを層別化または評価するための方法、心臓介入を受ける可能性がある対象を同定するための方法、および対象において可能性のある心臓介入を推奨もしくは決断し、または可能性のある心臓介入を開始するための方法(対象は急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない)で、各方法は下記の段階を用いて実施することもできる:
a)その対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を測定し、そしてsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較することに基づいて、虚血状態を診断し;そして
b)段階a)で得た情報に基づいて、
bi)その対象が心筋梗塞に罹患するリスクを評価する;および/または
bii)心臓介入を受ける可能性がある対象を同定する;および/または
biii)対象において可能性のある心臓介入を推奨もしくは決断し、または可能性のある心臓介入を開始する。
【0135】
さらに本発明は、以上に示したすべての態様、すなわち対象が心筋梗塞に罹患するリスクを層別化または評価するための方法、心臓介入を受ける可能性がある対象を同定するための方法、および対象において可能性のある心臓介入を推奨もしくは決断し、または可能性のある心臓介入を開始するための方法(対象は急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない)で、各方法につき下記の段階を用いる態様を含む:
ai)その対象が心筋梗塞に罹患するリスクを評価する;および/または
aii)心臓介入を受ける可能性がある対象を同定する;および/または
aiii)対象において可能性のある心臓介入を推奨もしくは決断し、または可能性のある心臓介入を開始する;
その際、すべての段階ai)、aii)および/またはaiii)は、その対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を測定し、そしてsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較することにより、対象の虚血状態を診断することに基づく。
【0136】
前記の本発明方法の対象において、追加段階aa)でさらにその対象の試料中の肝細胞増殖因子(HGF)またはそのバリアントの量を測定し、そして段階bb)でHGFに関する少なくとも1つの基準量と比較する。したがって、段階c)で、sFLT−1またはそのバリアントおよびHGFまたはそのバリアントの測定量、ならびにsFLT−1の量とsFLT−1に関する少なくとも1つの基準量との比較、およびHGFの量とHGFに関する少なくとも1つの基準量との比較に基づいて、虚血状態を診断する。好ましくは、まずsFLT−1の量、次いでHGFの量を測定するが、sFLT−1およびHGFの量を任意の順序で、すなわち同時に、またはまずsFLT−1、次いでHGF、またはまずHGF、次いでsFLT−1を測定することも考慮される。
【0137】
本発明のさらに他の態様では、以上に示したすべての態様、すなわち対象が心筋梗塞に罹患するリスクを層別化または評価するための方法、心臓介入を受ける可能性がある対象を同定するための方法、および対象において可能性のある心臓介入を推奨もしくは決断し、または可能性のある心臓介入を開始するための方法(対象は急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない)で、sFLT−1の代わりに肝細胞増殖因子(HGF)またはそのバリアントの量を測定する。本発明のこの方法の対象においては、追加段階でさらにその対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を測定し、そして虚血状態を診断するためにsFLT−1に関する少なくとも1つの基準量と比較する。
【0138】
好ましい態様において、sFLT−1の測定および/またはHGFの測定と同時に心臓性トロポニンの量を測定する;心臓性トロポニンの量の測定がsFLT−1の測定および/またはHGFの測定より先であってもよい。したがって個体の虚血状態は、好ましくはトロポニンの測定と同時に、またはその後に、sFLT−1および/またはHGF、または任意選択的にさらに他のマーカーの量の測定により判定される。したがって、心臓性トロポニンの量をsFLT−1および/またはHGFの測定より前に測定するならば、心臓性トロポニンの量が分かるまでsFLT−1および/またはHGFの量の測定を延期し、心筋梗塞MI、特にNSTEMIの指標になると当技術分野で一般に認識されている量よりトロポニン量が少ない場合にのみsFLT−1および/またはHGFの量を測定する。心臓性トロポニンの量は、ゼロ、すなわち現在利用できる検査法で検出できない場合すらありうる。
【0139】
さらに他の好ましい態様において、各対象のECGをsFLT−1の測定および/またはHGFの測定と同時に測定する;ECGの測定をsFLT−1の測定および/またはHGFの測定より先に行なってもよい。したがってその個体の虚血状態は、好ましくはECG測定と同時に、またはその後に、sFLT−1および任意選択的にHGFの量を測定することにより判定される。したがって、ECG測定をsFLT−1および/またはHGFの測定の前に実施する場合、sFLT−1および/またはHGFの量の測定をECGが記録されるまで延期してもよい。好ましくは、対象のECGがST上昇を示さない場合にのみsFLT−1および/またはHGFの量を測定する。好ましくは、ECGがST上昇を示す場合、対象はSTEMIに罹患しているとみなされるであろう;これは、本発明の方法 −MIに先立つ虚血状態の診断を目的とする− を一般に実施しないことを意味する。
【0140】
本発明方法の前記の好ましい態様は、心臓性トロポニンのレベルのみを測定するか、またはECGのみを測定するように実施することができる;あるいは、本発明の方法は心臓性トロポニンのレベルの測定とECGの測定を両方とも含む。
【0141】
sFLT−1およびHGFの基準量は、個体の虚血状態の指標とするために予め示されたものである。
本発明において定める虚血状態の指標となるsFLT−1に関する基準量(閾値量)は下記のものである:約92pg/ml、より好ましくは約109pg/ml。上記に示した値より少ないsFLT−1量は、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害と関連しない、またはそれらをもたらさない、非虚血状態の指標となる。上記に示した基準量以上のsFLT−1またはそのバリアントの量は、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害と関連する、またはそれらをもたらす、虚血状態の指標となる。
【0142】
本発明において定める虚血状態につきHGFに関する基準量(閾値量)は下記のものである:約0,62pg/ml、より好ましくは約0,73pg/ml。上記に示した値より少ないHGF量は、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害と関連しない、またはそれらをもたらさない、非虚血状態の指標となる。上記に示した基準量以上のHGFまたはそのバリアントの量は、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害と関連する、またはそれらをもたらす、虚血状態の指標となる。
【0143】
sFLT−1、および任意選択的にHGFの数値が虚血状態を示さない場合、その個体は心疾患に関して何らそれ以上の検査を必要としない。一般に、そのような個体は自宅へ戻ることができる。
【0144】
sFLT−1、および任意選択的にHGFの量により虚血状態と診断された場合、本発明の好ましい態様において、各個体は後記に詳述する“心臓介入”とも呼ばれる治療計画を受ける。
【0145】
sFLT−1、および任意選択的にHGFの量により虚血状態と診断された場合、各個体を心疾患または心血管疾患に関してさらに検査する必要があろう。好ましい態様において、本発明に関してこれらのさらに他の診断方法には、さまざまな種類の負荷試験、たとえば運動負荷、たとえば運動負荷心エコー検査、運動負荷コンピュータ断層撮影、運動負荷タリウムスキャン;および血管造影(侵襲的または仮想的、たとえば、スパイラルコンピュータ断層撮影)が含まれる。このさらに他の検査の結果に応じて、各個体は後記に詳述する“心臓介入”とも呼ばれる治療計画を受ける。
【0146】
本発明のさらに他の好ましい態様において、対象の可能性のある循環障害を診断するためにNT−proANPの量を測定する。
ANP型ペプチド、特にNT−proANPに関する基準量は、本発明において定める循環障害につきNT−proANPに関する基準量(閾値量)に関連して予め示されたものであり、下記のものである:約1320pg/ml、より好ましくは約1674pg/ml。上記に示した数値以上の量のNT−proANPは循環障害の指標となる。
【0147】
本発明の他の態様は、その対象が既に心筋梗塞、特にNSTEMIに罹患しているかどうかを判定するために、心臓性トロポニン測定および/またはECG測定の後、かつ本発明方法の段階a)およびb)でのsFLT−1および任意選択的なHGFのレベルの測定の前に、H−FABPおよび/またはミオグロビンを測定することを含む。
【0148】
本発明に定める対象における、MIの発症を包含するための基準量より多いミオグロビンおよび任意選択的なH−FABPの量は、その対象における最近のMI発症の指標となるはずである。本発明に定める対象における、MIの発症を除外するための基準量より少ないミオグロビンおよび任意選択的なH−FABPの量は、MI心筋梗塞が最近発症しておらず、したがってその対象はUAPに罹患している可能性があることの指標となるはずである。本発明に関して、本発明に定める対象であってそのミオグロビン量が上記の基準量(MIの最近の発症を包含するための基準量とMIの最近の発症を除外するための基準量)の間にある対象は再診断の必要があることを理解すべきである。好ましくは、これは、ミオグロビンとH−FABPの両方の量を測定し、その際、両方の量が一致しない対象、たとえば一方の量が各基準量より多く(または少なく)、これに対し他方の量が各基準量より多く(または少なく)ない対象についても行なうことができる。
【0149】
前記方法のおかげで、患者に心臓介入を施す前にリスク/成功の層別化を容易に実施できる。患者が心臓介入を受ける可能性がないと分かった場合、その危険な、時間および/または経費のかかる療法を避けることができる。したがって本発明の方法は、対象を心臓介入に付随する有害で重篤な副作用から阻止するほか、資源が節約されるという点で保健システムに有益となるであろう。
【0150】
前記の本発明方法に関して、MIに罹患していないが、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害をもたらすと予想される虚血状態を伴うかまたはその虚血状態が発症すると診断された対象は、心臓介入を受ける可能性があることを理解すべきである。
【0151】
本明細書中で用いる用語“同定する”は、対象が心臓介入を受ける可能性があるか否かを評価することを意味する。当業者に理解されるように、そのような評価は通常は同定すべきすべて(すなわち100%)の対象について正確であることを意図しない。しかしこの用語は、統計的に有意部分の対象を同定できることを要求する(たとえば、コホート研究におけるコホート)。ある部分が統計的に有意であるかどうかは、当業者がさまざまな周知の統計的評価ツール、たとえば信頼区間の決定、p値決定、スチューデントのt検定、マン−ホイットニー検定などを用いてさらに苦労することなく判定できる。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983中にある。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。より好ましくは、ある集団の対象のうち少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%を本発明の方法によって適正に同定できる。
【0152】
用語“心臓介入”は、当業者が適切であるとみなす治療計画を含む。この用語は、心血管系および好ましくは心臓に影響を及ぼす外科処置、顕微外科処置、他の侵襲療法による介入、ならびに保存的(非外科的)治療方法を含む。保存的方法は当技術分野で既知であり、非薬理学的方法および薬理学的方法を含む。薬理学的方法は、医薬の投与に関する。適切な医薬には下記のものが含まれる:ACE阻害薬、特にエナラプリル(Enalapril)、カプトプリル(Captopril)、ラミプリル(Ramipril)、トランドラプリル(Trandolapril);アンギオテンシン受容体アンタゴニストおよびアルドステロンアンタゴニスト、特にロサルタン(Losartan)、バルサルタン(Valsartan)、イルベサルタン(Irbesartan)、カンデサルタン、(Candesartan)、テルミサルタン(Telmisartan)、エプロサルタン(Eprosartan)、スピロノラクトン(Spironolactone);スタチン類、特にアトルバスタチン(Atorvastatin)、フルバスタチン(Fluvastatin)、ロバスタチン(Lovastatin)、プラバスタチン(Pravastatin)、ロスバスタチン(Rosuvastatin)、シンバスタチン(Simvastatin);ベータ遮断薬、たとえばプロプレノロール(proprenolol)、メトプロロール(metoprolol)、ビソプロロール(bisoprolol)、カルベジロール(carvedilol)、ブシンドロール(bucindolol)、ネビボロール(nebivolol);ナイトレート類;アドレナリンアゴニスト、たとえばドブタミン(dobutamine)、ドーパミン(dopamine)、エピネフリン(epinephrine)、イソプロテネロール(isoprotenerol)、ノルエピネフリン(norepinephrine)、フェニレフリン(phenylephrine);抗血小板薬、特にアスピリンおよびクロピドグレル(clopidrogel);抗凝固薬、特にワルファリン、ヘパリン、トロンビン阻害薬、血栓溶解薬。好ましくは、本明細書中で用いる心臓介入は、心臓の適正な酸素供給の回復を目的とする治療計画である。これは、好ましくは心臓を支持する血管、すなわち冠動脈血管全体における血流を回復させることにより達成される。それらの血管は、たとえば血栓性またはアテローム性の斑のため損なわれる可能性がある。したがって心臓介入は、好ましくはそのような斑の破壊および/または除去、ならびに必要であれば血管の修復を含むはずである。本発明による好ましい心臓介入は、血流回復、血管開存、斑安定化、および/または冠動脈内血栓負荷の軽減を目的とする、経皮冠動脈血管形成術、経皮経腔的冠動脈バルーン血管形成術、レーザー血管形成術、冠動脈ステント埋込み、バイパス移植または腔内手法からなる群より選択される。
【0153】
個体が循環障害に罹患している場合(ANP型ナトリウム排泄増加ペプチドのレベル上昇が指標となる)、その循環障害は一般に虚血の根底にある原因が治療されると消散する。
【0154】
さらに他の態様は、対象における心筋梗塞の診断に関する。対象において心筋梗塞を診断するためのこの方法は、下記の段階のうち少なくとも1つを含む:
a)その対象の試料中のナトリウム排泄増加ペプチドおよび/またはトロポニンTの量を測定し;
b)段階a)で測定した量を基準量と比較し;そして
c)好ましくは段階d)で得た情報に基づいて、好ましくは段階a)およびb)で得た情報に基づいて、心筋梗塞を診断する。
【0155】
心臓性トロポニン(トロポニンTまたはそのバリアント、およびトロポニンIまたはそのバリアント)、NT−proANPまたはそのバリアント、および −程度はより低いが− sFLT−1またはそのバリアント、HGFまたはそのバリアント、H−FABPまたはそのバリアント、ならびにミオグロビンまたはそのバリアントに関して本出願に示した濃度は、腎機能障害に罹患している患者、好ましくは腎不全に罹患している患者、特に慢性および末期腎不全に罹患している患者には適用できないことを、当業者は承知している。本発明の好ましい態様において、腎機能障害に罹患している患者、好ましくは腎不全に罹患している患者、特に慢性および末期腎不全に罹患している患者は、本発明の方法に含まれない(除外される)。他の好ましい態様において、腎性高血圧症を伴う患者は本発明の方法に含まれない(除外される)。好ましくは、本明細書中で用いる“対象”は、腎機能障害に罹患している患者、好ましくは腎不全に罹患している患者、特に慢性および末期腎不全に罹患している患者、より好ましくは腎性高血圧症を伴う患者、最も好ましくはこの文に述べる疾患または状態のうちのいずれかに罹患しているすべての患者を除外する。これに関して“腎不全”は、糸球体濾過速度(GFR)が60〜120ml/分の通常範囲より低い、好ましくは60ml/分未満であるものとみなされる。慢性腎不全は持続する進行性の腎機能衰退であり、これは結果的にしばしば末期腎不全になる。末期腎不全はGFRが約30ml/分の速度に達した際に診断される。GFRはクレアチニンクリアランスにより測定され、これは当業者に既知である。腎機能が損なわれている対象は、前記に示したものより高いレベルのトロポニンIおよびトロポニンTを伴う;これはこのペプチドのクリアランスが損なわれているためである。このレベルは腎障害の重症度に伴って変動する。
【0156】
腎障害の重症度は以下に示すように種々のグレードに分けられる:
0:≧90ml/分
1:≧90ml/分;タンパク尿症を伴う
2:≧60〜<90ml/分
3:≧30〜<60ml/分
4:≧15〜<30ml/分
5:<15ml/分
(出典: National Kidney Foundation,: Am J. Kidney Dis 39 suppl 1 , 2002; Clinical Practice Guidelines for chronic kidney diseaseに公表)。
【0157】
さらに本発明には、対象の試料中のsFLT−1および任意選択的にHGFの量を測定するための手段、ならびにその量を少なくとも1つの基準量と比較するための手段を含む、本発明の方法を実施するためのキットまたはデバイスが含まれる。
【0158】
本明細書中で用いる用語“キット”は、前記手段の集合体を表わし、これらは好ましくは個別に、または単一容器内において提供される。キットはさらに心臓性トロポニンの量を測定するための手段を含むことができる。任意選択的に、キットはさらに、本発明に定める対象の虚血状態の診断に関していずれかの測定(単数または複数)の結果を解釈するための利用者マニュアルを含むことができる。特にそのようなマニュアルは、どの測定量がどの種類の診断に対応するかについての情報を含むことができる。これは本明細書の他の箇所に詳述されている。さらに、そのような利用者マニュアルは、キットの構成要素を各バイオマーカーの量の測定のために適正に使用することについての指示を提供することができる。
【0159】
本明細書中で用いる用語“デバイス”は、虚血状態の診断または心臓介入を受ける可能性のある対象の同定ができるように、少なくとも前記の手段が互いに連結したものを含む、一系統の手段に関する。本発明のデバイスは、さらに心臓性トロポニンの量を測定するための手段を含むことができる。sFLT−1およびHGFの量を測定するための好ましい手段、ならびに比較を実施するための手段は、本発明の方法に関連して前記に開示されている。これらの手段を作動するように連結させる方法は、そのデバイスに含まれる手段のタイプに依存するであろう。たとえば、ペプチドの量を自動的に測定する手段を適用する場合、それらの自動的に作動する手段により得られるデータは、目的とする結果を得るためにたとえばコンピュータープログラムにより処理することができる。好ましくは、そのような場合、これらの手段は単一デバイスにより構成される。したがってそのデバイスは、適用した試料中のペプチドまたはポリペプチドの量を測定するための分析ユニット、および得られたデータを評価のために処理するためのコンピューターユニットを含む。あるいは、ペプチドまたはポリペプチドの量を測定するために試験ストリップなどの手段を用いる場合、比較のための手段は測定量を基準量に割り当てる対照ストリップまたは表を含むことができる。試験ストリップは、好ましくは本明細書中で述べるペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合するリガンドに結合している。ストリップまたはデバイスは、好ましくはそのリガンドへのペプチドまたはポリペプチドの結合を検出するための手段を含む。検出のための好ましい手段は、前記の本発明方法に関する態様に関連して開示されている。そのような場合、それらの手段は、そのシステムの利用者がマニュアルに示された指示および解釈によってその量の測定結果とその診断値または予後値を結びつけるという点で、作動可能な状態で連結する。そのような態様において、これらの手段は個別のデバイスとして提供することができ、好ましくは一緒にキットとしてパッケージされる。当業者には苦労せずにこれらの手段を連結させる方法が分かるであろう。好ましいデバイスは、専門医の特別な知識なしに適用できるもの、たとえば試料を装填するだけでよい試験ストリップまたは電子デバイスである。結果は、医師が解釈する必要のある生データの出力として得られてもよい。しかし、デバイスの出力は生データを処理したもの、すなわち評価したものであり、その解釈に医師を必要としない。さらに他の好ましいデバイスは、本発明方法に従って前記に述べた分析ユニット/デバイス(たとえば、sFLT−1またはHGFを特異的に認識するリガンドに結合したバイオセンサー、アレイ、固体支持体、プラズモン表面共鳴装置、NMR分光計、質量分析計など)または評価ユニット/デバイスを含む。
【0160】
本発明はまた、対象の試料中のsFLT−1および任意選択的にHGFの量を測定するためのキットまたはデバイス、ならびに/あるいはsFLT−1および任意選択的にHGFの量を測定するための手段、ならびに/あるいはsFLT−1および任意選択的にHGFの量を少なくとも1つの基準量と比較するための手段を、下記の目的で使用することに関する:急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断する;および/またはその対象において虚血状態の重症度をモニターする;および/またはその対象が心筋梗塞に罹患するリスクを層別化/評価する;および/または心臓介入を受ける可能性のある対象を同定する;および/またはその対象において可能性のある心臓介入を決断する。
【0161】
本発明はまた、sFLT−1および任意選択的にHGFに対する少なくとも1種類の抗体、ならびに/あるいはsFLT−1および任意選択的にHGFの量を測定するための手段、ならびに/あるいはsFLT−1および任意選択的にHGFの量を少なくとも1つの基準量と比較するための手段を、下記のための診断用組成物の調製に使用することに関する:急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断する;および/またはその対象において虚血状態の重症度をモニターする;および/またはその対象が心筋梗塞に罹患するリスクを層別化/評価する;および/または心臓介入を受ける可能性のある対象を同定する;および/またはその対象において可能性のある心臓介入を決断する。
【0162】
本明細書に引用したすべての参考文献を、それらの開示内容全体および具体的に本明細書中に述べた開示内容に関して援用する。
以下の実施例は本発明を説明するものにすぎない。それらを本発明の範囲を限定するものとは決して解釈すべきでない。
【実施例】
【0163】
以下の実施例において、各ペプチドの量の測定のために下記の試験法を用いた:
トロポニンTは、Roche Diagnosticsによる高感度hsトロポニンTイムノアッセイ試験法でELECSYS 2010分析計を用いて測定された。第1インキュベーション:50μの試料、ビオチニル化モノクローナル抗心臓性トロポニンT特異的抗体、およびルテニウム錯体(Ru(bpy)2+)で標識したモノクローナル抗心臓性トロポニンT特異的抗体が反応して、サンドイッチ複合体を形成する。第2インキュベーション:ストレプトアビジンコートしたマイクロ粒子の添加後、複合体はビオチンとストレプトアビジンの相互作用により固相に結合した状態になる。反応混合物を測定用セル内へ吸引し、ここでマイクロ粒子は磁気により電極の表面に捕獲される。結合していない物質を次いで除去する。電極に電圧を印加することにより化学発光の発生を誘導し、光電子増倍管により測定する。結果を検量曲線により判定する。
【0164】
HGF(肝細胞増殖因子)は、酵素結合イムノアッセイ(RD Systems,ミネアポリス,カタログNr.HG00)により、HGFに特異的なモノクローナル抗体およびプレコートしたマイクロプレートを用いて試験された。標準品および試料をピペットでウェルに入れ、存在するHGFを固定化抗体により結合させる。結合していない物質を洗浄除去した後、HGFに特異的な酵素結合ポリクローナル抗体をウェルに添加する。結合していない抗体−酵素試薬を洗浄除去した後、基質溶液をウェルに添加すると、最初の段階で結合したHGFの量に比例して発色する。発色を停止し、色の強度を測定する。
【0165】
NT−proANPは、Biomedica,オースリア、ウィーンから求めたproANP ELISAアッセイ(B1−20892)で測定された。このサンドイッチアッセイは、マイクロタイターストリップに結合したポリクローナルヒツジNT−proANP特異的抗体を含む。試料をproANPが抗体に結合できる状態でマイクロタイターストリップに添加する。proANPがこの第1抗体に結合した後、第2のproANP特異的抗体を容器に添加する。この第2抗体は西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)とコンジュゲートしている。インキュベーション後、結合していない酵素コンジュゲート抗体をマイクロタイターストリップの洗浄により除去する。最後に、テトラメチルベンジジン(TMB)をHRPに対する基質として添加する。試料がより多量のproANPを含有するほど、より多量のコンジュゲート抗体が結合する。したがって、容器内に存在するHRPの総活性は試料中のproANPの量に依存し、初期TMB変換率は試料中のNT−proANPの量の尺度である。
【0166】
sFlt−1は、Roche Diagnostics,ドイツ、マンハイムからのElecsysおよびCOB AS分析計と共に用いるsFlt−1イムノアッセイで測定された。このアッセイはサンドイッチ原理に基づき、2種類のモノクローナルsFlt−1特異的抗体を含む。これらのうち第1のものはビオチニル化されており、第2のものはトリス(2,2’−ヒピリジル)ルテニウム(TT)錯体で標識されている。最初のインキュベーション段階で、両抗体を試料と共にインキュベートする。sFlt−1と2種類の異なる抗体を含むサンドイッチ複合体が形成される。次のインキュベーション段階で、ストレプトアビジンコートしたビーズをこの複合体に添加する。ビーズはサンドイッチ複合体に結合する。反応混合物を次いで測定用セル内へ吸引し、ここでビーズは磁気により電極の表面に捕獲される。次いで電極に電圧を印加することによりルテニウム錯体からの化学発光の発生を誘導し、これを光電子増倍管により測定する。この光の量は電極上のサンドイッチ複合体の量に依存する。
【0167】
以上に挙げた試験法を、好ましくは各ペプチドの測定のために本発明全般に関しても採用する。
実施例1.基準値の測定
149人(平均年齢42,8歳)をsFlT1、proANPおよびHGFの存在について検査した;彼らは検査の時点およびそれ以前の2週間以内に無症状であり、特に彼らは胸痛をもたず、NT−proBNP試験により示される心機能不全の証拠もなかった。
【0168】
検査結果(表1を参照):
【0169】
【表1】

【0170】
本発明に関して、好ましくは95thパーセント点が適切な基準値であると考えられる:これらを上回るマーカー値を示す個体は虚血状態に罹患しているとみなされる。より好ましくは、99thパーセント点が虚血状態の指標となる基準値を規定する。NT−proANPに関して、好ましくは95thパーセント点、より好ましくは99thパーセント点が、同様に循環障害の指標となる数値を規定する基準値とみなされる。
【0171】
実施例2:胸痛を伴いかつ急性冠動脈症候群が疑われる患者におけるsFlT−1、HGFおよびNT−proANP
救急室で発症後2時間以内の急性冠動脈症候群の徴候および症状を示している合計33人の患者(平均年齢62、47〜72)、21人の男性、12人の女性を試験に含めた。14/33人は冠動脈疾患の家族歴をもち、21/33人は確立した冠動脈疾患をもち、5/33人は以前の心筋梗塞を報告した。すべての患者が血清クレアチニンにより測定して正常な腎機能をもち、H−FABPおよびミオグロビンは将来の心筋梗塞(MI)に関するカットオフ値未満であった(参照:WO 2008/145689, WO 2009/033831)。分析に含めた患者は、経過観察終了時にNON−STEMIの基準を満たさなかった患者であった。トロポニン量は測定したすべての試料において測定したすべての時点および推奨された時間間隔で(到着時点、および到着後(少なくとも)6〜9時間)99パーセント点未満であった(0.14ng/ml,平均0.079ng/ml)という点で、すべての患者がthe Joint ESC/ACCF/AHA/WHF Task Force for the Redefinition of Myocardial Infarction (The Joint European Society of Cardiology/ American College of Cardiology Committee: Universal definition of myocardial infarction, European Heart Journal (2007),前記に引用)の基準を満たしていた。
【0172】
すべての患者が観察期間の経過中にミオグロビン、H−FABPまたはNT−proBNPの上昇(±20%)を示さなかった。したがって、この試験のために選択したいずれの患者においても、現在のガイドラインに従った心筋梗塞は示されなかった。sFlT1/HGFのレベルの変化が27人の患者にみられ、6人の患者には変化が起きず、これは、27人の患者が虚血の生化学的証拠をもち、6人の患者にはそのような徴候がなかったことを示す。NT−proANP濃度の変化に示される循環機能の急性変化が11人の患者にみられた。循環機能の急性変化は虚血の検査室証拠を伴う患者のみにみられた。
【0173】
血清試料を静脈穿刺により採取し、30分以内に遠心し、血清上清を分析まで−20℃に保存した。
試験は製造業者の指示に従って実施された。
【0174】
表2は、急性冠動脈症候群を伴い、心筋梗塞を発症していない33人の患者にみられたsFlT1および/またはHGFの変化を示す。
表3は、選択した患者の個々の結果を表わす。
【0175】
患者No.14は、HGFおよびsFlT1の濃度上昇が示すように、虚血の生化学的証拠を呈していた。観察経過中にsFlT1およびHGFのレベルは低下し、これは虚血の生化学的証拠が反転したことの指標であり、この患者において以後の投薬なしに疼痛が寛解したのと一致した(患者は救急室に到着する前に救急医によりニトログリセリンスプレーを投与された)。観察期間中のproANPレベルの上昇はわずかであり、これはこの事象により起きた有意の急性機能変化がなかったことを示した。
【0176】
患者No.21はACSの徴候および症状を呈し、それは救急室を訪れている際に約5分間回復し、sFlT1は到着時点でわずかに増加しており、次いで減少し、再び増加し、これは観察期間中にみられた胸痛と一致した。到着直後のproANPレベルの有意の上昇により示されるように、初期胸痛には有意の機能変化が伴った。これは救急室へ搬送される際の救急車内でみられた心室性頻脈(約30秒間)と一致した。
【0177】
患者No.40は、前記に定めた基準量と比較して上昇したかつ上昇しつつあるsFlT1およびHGFレベルにより確認されるように重篤な虚血のエピソードを呈し、この患者は救急室に到着した1時間後のproANPレベルの有意の上昇により示されるように急性機能変化の証拠も示していた。ニトログリセリンスプレーを用いると虚血の症状は消失し、虚血の生化学的証拠が消失し、この患者は心筋梗塞を発症しなかった。
【0178】
患者No.42はACSの徴候および症状を伴って入院し、到着時点で前記に定めた基準量と比較して有意に上昇したsFlT1およびHGFレベルがみられた。経過観察中にsFlT1およびHGFは徐々に減少し、これは初期の重篤な虚血に続いて中等度の虚血があり、最終的には消散したことを示した。到着時点および経過観察中24時間目にわずかなproANP増加がみられた。
【0179】
患者No.43はACSの徴候および症状を呈し、それは救急室に到着した時点ではもはや存在しなかった。彼は前記に定めた基準量と比較してわずかに上昇したsFlT1およびHGFレベルを伴っていたが、虚血の確実な生化学的徴候はなかった。彼のproANPレベルは観察期間全体を通して変化しなかった。この患者には冠動脈疾患があることは分かっていたが、臨床症状に基づいて彼は最終的に非心臓性症状に罹患しているとみなされた。
【0180】
患者No.52は救急室に到着した時点でなお存在するACSを呈していた。彼をニトログリセリンスプレーで処置すると症状は消失した。救急室でのECGモニタリングに際して、有意の不整脈は認められなかった。sFlT1およびHGF測定により証明されるように、虚血の生化学的証拠は可逆性であった(マーカーレベルは虚血の程度に応じて増減した)。救急室に到着する間にproANPレベルのわずかな変化がみられた。
【0181】
これらの患者は心筋梗塞を発症しなかった。
【0182】
【表2−1】

【0183】
【表2−2】

【0184】
【表3】

【0185】
比較例1:MIを伴う患者におけるsFlT−1、HGFおよびNT−proANP
心筋梗塞を発症した22人の患者は、the Joint ESC/ACCF/AHA/WHF Task Force for the Redefinition of Myocardial Infarction (The Joint European Society of Cardiology/ American College of Cardiology Committee: Universal definition of myocardial infarction, European Heart Journal (2007),前記に引用)の基準を満たさないトロポニンT濃度を伴っていたが、4人の患者(患者2を含む,表4)は正常基準集団の99%パーセント点を上回るトロポニンT濃度を伴っていた。MIを発症している基準集団は、MIを発症しているすべての患者が表1に概説した健康な基準集団と比較して増加したsFlT1およびHGFを伴うことを、この試験で単純に説明している(これにより、“陽性対照”として用いられる)。
【0186】
すべての患者において、sFlT1、HGFおよびproANPが試験参加時点で前記に定めた基準量と比較して増加しており、そのような2人の患者を表4に示す。6人の患者がSTEMIと診断された(すなわち、彼らは経過観察の終了時に、the Joint ESC/ACCF/AHA/WHF Task Force for the Redefinition of Myocardial Infarction (The Joint European Society of Cardiology/ American College of Cardiology Committee: Universal definition of myocardial infarction, European Heart Journal (2007),前記に引用)の基準に従ったNON−STEMIの基準を満たしていた)。他のすべての患者はthe Joint ESC/ACCF/AHA/WHF Task Force for the Redefinition of Myocardial Infarctionに従ったNON−STEMIを伴っていた。
【0187】
患者No.1:ACSの徴候および症状を呈し、彼は到着時点で前記に定めた基準量と比較して上昇したsFlT1およびHGFレベルを伴っており、それは経過観察中に低下し、その後、虚血の徴候は消散した。病院到着後4時間目にトロポニンTレベルが上昇し、急性機能変化の徴候としてのNT−proANPが上昇した。トロポニンTレベルが上昇しているので、冠動脈血管造影を受けさせ、患者にステントを埋め込んだ。
【0188】
患者No.2:ACSの徴候および症状を呈し、それは救急室に到着した時点でなお存在していた。ECGで彼はII、IIIおよびaVFにST上昇があり、これは左心室の後壁の心筋梗塞を示していた。彼は前記に定めた基準量と比較して著しく上昇したsFlT1およびHGFレベルをもち、トロポニンTは前記に定めた基準量と比較して増加していたが、この時点ではnon−STEMIと診断されなかった。彼を直ちに血管造影する計画を立て、介入直前に2回目の試料を採取し、これは前記に定めた基準量と比較してNT−proANPおよびトロポニンTの増加ならびに連続的に上昇するHGFおよびsFlT1のレベルを示した。血管造影に際してステントを埋め込み、冠動脈流を再確立した。
【0189】
結果を下記の表4に示す。
【0190】
【表4】

【0191】
これらのデータは、より重篤な虚血ではsFlT1およびHGFの量がより増加することを示す(STEMI対NSTEMI)。sFLT−1およびHGFは、それらの各量がSTEMI患者においてすら数時間後に減少するという事実から分かるように、虚血状態について短期情報を与える。これらのデータはさらに、上昇したNT−proANPレベルにより示されるように虚血は循環機能不全を引き起こす可能性があることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断するための方法であって、
a)その対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を測定し、
b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そして
c)段階b)で得た情報に基づいて虚血状態を診断する
ことを含む方法。
【請求項2】
さらに、肝細胞増殖因子(HGF)またはそのバリアントの量を測定し、そしてHGFの基準値と比較する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
虚血状態の指標となるsFLT−1またはそのバリアントの基準量が約92pg/ml、より好ましくは約109pg/mlであり、その際、基準量以下のsFLT−1またはそのバリアントの量は、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害と関連しない、またはそれらをもたらさない、非虚血状態の指標であり、基準量より多いsFLT−1またはそのバリアントの量は、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害と関連する、またはそれらをもたらす、虚血状態の指標である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
HGFまたはそのバリアントの基準量が約0,62pg/ml、より好ましくは約0,73pg/mlであり、その際、基準量以下のHGFまたはそのバリアントの量は、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害と関連しない、またはそれらをもたらさない、非虚血状態の指標であり、基準量より多いHGFまたはそのバリアントの量は、可逆性心機能不全または不可逆性心臓傷害と関連する、またはそれらをもたらす、虚血状態の指標である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
方法がさらに、対象において循環障害を判定するために、試料中のANP型ペプチド、好ましくはNT−proANPまたはそのバリアントの量を測定することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
約1320pg/ml、より好ましくは約1674pg/ml以上のNT−proANPまたはそのバリアントの量は循環障害の指標である、請求項7に記載の方法。
【請求項7】
方法がさらに、各対象の心臓性トロポニンの測定および/またはECGの測定を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
sFLT−1またはそのバリアントを心筋梗塞の診断に使用する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
方法がさらに、試料中のミオグロビンもしくはそのバリアントおよび/または心臓脂肪酸結合タンパク質(HFABP)もしくはそのバリアントを測定することを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態をモニターするための方法であって、
a)少なくとも2つの異なる時点でその対象の試料中の可溶性fms様チロシンキナーゼ−1(sFLT−1)またはそのバリアントの量を測定し、そして
b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そして
c)段階b)で得た情報に基づいて、それらの少なくとも2つの異なる時点での虚血状態を診断し、これにより虚血状態をモニターする
段階を含む方法。
【請求項11】
心臓介入を受ける可能性のある対象を同定するための方法であって、その際、対象は急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしておらず、
a)その対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を測定し、そして
b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、
c)段階b)で得た情報に基づいて虚血状態を診断し、そして
d)段階b)で得た情報に基づいてその対象を同定する
ことを含む方法。
【請求項12】
急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、可能性のある心臓介入を推奨もしくは決断し、または可能性のある心臓介入を開始する方法であって、
a)その対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を測定し、そして
b)段階a)で測定したsFLT−1またはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、
c)段階b)で得た情報に基づいて虚血状態を診断し、そして
d)段階b)で得た情報に基づいて、心臓介入の開始を推奨もしくは決断し、心臓介入を開始し、または心臓介入を避ける
ことを含む方法。
【請求項13】
心臓介入が、血流回復、血管開存、斑安定化、および/または冠動脈内血栓負荷の軽減を目的とする、医薬の投与;経皮冠動脈血管形成術;経皮経腔的冠動脈バルーン血管形成術;レーザー血管形成術;冠動脈ステント埋込み;バイパス移植または腔内手法の群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
対象の試料中のsFLT−1またはそのバリアントの量を測定するための手段、および任意選択的に対象の試料中のHGFまたはそのバリアントの量を測定するための手段、ならびにsFLT−1および任意選択的にHGFの量を少なくとも1つの基準量と比較するための手段を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法を実施するためのキットまたはデバイス。
【請求項15】
急性冠動脈症候群の徴候および症状を示しているが心筋梗塞の診断基準を満たしていない対象において、虚血状態を診断するための方法であって、
a)その対象の試料中の可溶性HGFまたはそのバリアントの量を測定し、
b)段階a)で測定したHGFまたはそのバリアントの量を少なくとも1つの基準量と比較し、そして
c)段階b)で得た情報に基づいて虚血状態を診断する
ことを含む方法。

【公表番号】特表2013−512426(P2013−512426A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540452(P2012−540452)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068391
【国際公開番号】WO2011/064358
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】