急性腎不全を診断するためのプロセス及びマーカー

本発明は、急性腎不全の診断方法であって、サンプル中の少なくとも3つのポリペプチドマーカーの有無又は振幅を決定する工程を含み、ポリペプチドマーカーが表1中で分子量及び移動時間の値により特徴付けられているマーカーに含まれる、前記方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は急性腎不全の診断に関する。
【背景技術】
【0002】
急性腎不全は腎機能の急激な低下を特徴とする。腎機能が急激に失われる原因としては、腎組織への酸素供給の異常、傷害又は手術による液体の減少、敗血症の存在、又は薬物過敏症が含まれる(非特許文献1〜3)。これらの全ての場合において、近位尿細管細胞にダメージがあり、その過程で細胞がムコタンパク質の円柱を形成する。次いで、これらの円柱による閉塞により、腎機能が失われる(非特許文献4)。
【0003】
非特許文献5では、集中治療室の患者の30%が直接的又は間接的に急性腎不全に冒されることを証明するデータが得られている。腎機能の回復についての予後が良好であっても、患者が容積置換(volume substitution)及び薬物療法の併用に反応すると、急性腎不全により、集中治療室で発生する全事例の28〜90%が、重症感染症若しくは敗血症の発症又は多臓器不全の結果、死亡する(非特許文献6)。
【0004】
急性腎不全は血清クレアチニンの増加を介して後期にしか検出できない(非特許文献7及び8)。予防介入の利点を利用できるようにするために、近年、臨床症状が現れる前でも急性腎不全の信頼できる診断を可能にする診断マーカーを同定しようとする努力がなされてきた(非特許文献9)。最も有望なバイオマーカー候補には以下のものが含まれる:好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、kidney−injury molecule−1、N−アセチル−ベータ−D−グルコアミニダーゼ、インターロイキン−18、及びシスタチンC(非特許文献10)。しかし、急性腎不全は多くの異なる症状を発現するため、これらのマーカーによる疾患のマッピングも十分ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lameire et al., Lancet, 2005, Vol. 365, pages 417-430
【非特許文献2】Schrier and Wang, N Engl J Med, 2004, Vol. 351, pages 159-169
【非特許文献3】Thadhani et al., N Engl J Med, 1996, Vol. 334, pages 1448-1460
【非特許文献4】Patel et al., Lancet, 1964, Vol. 29, pages 457-461
【非特許文献5】Alkhunaizi et al., Am J Kidney Dis, 1996, Vol. 28, pages 315-328
【非特許文献6】Metnitz et al., Crit Care Med, 2002, Vol. 30, pages 2051-2058
【非特許文献7】Herget-Rosenthal, Lancet, 2005, Vol. 365, pages 1205-1206
【非特許文献8】Mehta et al., Crit Care, 2007, Vol. 11, R31
【非特許文献9】Vaidya et al., Clin Transl Sci, 2008, Vol. 1, pages 200-208
【非特許文献10】Nguyen, Pediatr Nephrol, 2008, Vol. 23, pages 2151-2157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、急性腎不全の早期診断のためのプロセス及び手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、尿サンプル中の少なくとも3つのポリペプチドマーカーの有無又は振幅を決定する工程を含む急性腎不全の診断プロセスであって、ポリペプチドマーカーが、表1中で分子量及び移動時間の値により特徴付けられているマーカーから選択される、前記プロセスにより達成される。
【0008】
【表1】

【0009】
【表2】

【0010】
これらのペプチドのほとんどのアミノ酸配列は公知であり、関連する前駆体タンパク質と共に表2に示されている。
【0011】
【表3】

【0012】
【表4】

【0013】
測定されたマーカーの有無の評価は表3に示した参照値に基づいて行うことができる。
【0014】
【表5】

【0015】
【表6】

【0016】
測定されたポリペプチドの評価は、以下の制限事項を考慮してマーカーの有無又は振幅(amplitude)に基づいて行うことができる。
【0017】
特異性は、真陰性サンプルの数を真陰性サンプルと擬陽性サンプルの数の和で割ったものとして定義される。特異性100%とは、試験が全健常者を健常であると認識すること、すなわち健常対象者が一人も病気であると判定されないことを意味する。このことは、試験が病気患者をどれだけ確実に認識するかについては何も示さない。
【0018】
感度は、真陽性サンプルの数を真陽性サンプルと偽陰性サンプルの数の和で割ったものとして定義される。感度100%とは、試験が全ての病人を認識することを意味する。このことは、試験が健常患者をどれだけ確実に認識するかについては何も示さない。
【0019】
本発明に係るマーカーにより、急性腎不全について少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%の特異性を実現することができる。
【0020】
本発明に係るマーカーにより、急性腎不全について少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%の感度を実現することができる。
【0021】
移動時間は、例えば実施例の第2項に記載されているように、キャピラリー電気泳動(CE)により決定される。本実施例では、長さ90cm、内径(ID)50μm、外径(OD)360μmのガラスキャピラリーを30kVの印加電圧で使用している。移動相溶媒(mobile solvent)として、例えば、30%メタノール、0.5%ギ酸の水溶液を使用する。
【0022】
CEの移動時間は変わり得ることが知られている。しかし、使用する各CEシステムについて記載の条件下でポリペプチドマーカーが溶出される順番は通常同じである。それでも起こり得る移動時間の差のバランスをとるために、移動時間が正確に分かっている標準を用いてシステムを正規化することができる。これらの標準は、例えば実施例中に記載されているポリペプチドであり得る(実施例の第3項参照)。CE時間の変動は、個々の測定間では比較的小さく、通常、±2分以内、好ましくは±1分以内、より好ましくは±0.5分、更により好ましくは±0.2分、又は0.1分である。
【0023】
表1〜4に示したポリペプチドの特徴は、例えばNeuhoff et al.(Rapid communications in mass spectrometry, 2004, Vol. 20, pages 149-156)に詳細が記載されているキャピラリー電気泳動−質量分析法(CE−MS)を用いて決定した。個々の測定間又は異なる質量分析装置間の分子量の変動は、較正が正確である場合、比較的小さく、通常±0.1%以内、好ましくは±0.05%以内、より好ましくは±0.03%、更により好ましくは±0.01%、又は±0.005%である。
【0024】
本発明に係るポリペプチドマーカーは、タンパク質若しくはペプチド又はタンパク質若しくはペプチドの分解産物である。これらは、例えばグリコシル化、リン酸化、アルキル化、ジスルフィドブリッジ等の翻訳後修飾により、あるいは例えば分解の範疇にある他の反応により、化学的に修飾され得る。更に、ポリペプチドマーカーは、サンプル精製過程で、例えば酸化される等により、化学的に変化させられてもよい。
【0025】
ポリペプチドマーカーを決定するパラメーター(分子量及び移動時間)から進めて、先行技術で公知の方法により対応するポリペプチドの配列を同定することができる。
【0026】
本発明に係るポリペプチドは急性腎不全の診断に使用される。
【0027】
「診断」とは、症状又は現象を疾患又は傷害に対応付けることにより情報を得る(knowledge gaining)プロセスを意味する。本発明では、特定のポリペプチドマーカーの有無は鑑別診断(differential diagnosis)にも使用される。ポリペプチドマーカーの有無は先行技術で公知の任意の方法により測定することができる。使用され得る方法を以下に例示する。
【0028】
ポリペプチドマーカーは、その測定値が少なくともその閾値と同じ大きさである場合に、存在すると見なされる。測定値がそれよりも低い場合、ポリペプチドマーカーは存在しないと見なされる。閾値は、測定方法の感度(検出限界)により決定するか経験から定義することができる。
【0029】
本発明では、好ましくは、特定の分子量についてサンプルの測定値がブランクサンプル(例えばバッファー又は溶媒のみ)の測定値の少なくとも2倍の大きさである場合に閾値を超えたと見なす。
【0030】
ポリペプチドマーカーは、その有無が測定されるように使用され、この有無が急性腎不全の早期診断の指標となる。したがって、慢性腎疾患患者の体内には通常存在するが、急性腎不全を有さない対象の体内では発生しない又は発生頻度が少ないポリペプチドマーカーがある。更に、急性腎不全を有する対象の体内には存在するが、慢性腎疾患を有する対象の体内では発生しない又は発生頻度が低いポリペプチドマーカーがある。
【0031】
頻度マーカー(有無の決定)に加えて、又はその代わりに、振幅マーカー(amplitude marker)も診断に使用され得る。振幅マーカーは、有無が重要ではなく、シグナルが両方の群に存在する場合にシグナルの高さ(振幅)が決定的な意味をもつように使用される。測定した全サンプルに対して平均化した(質量及び移動時間により特徴付けられている)対応するシグナルの平均振幅を表中に記載した。濃縮のされ方が異なるサンプル間又は異なる測定法間での比較可能性を得るためには、2つの正規化方法が可能である。第1のアプローチでは、サンプルの全ペプチドシグナルを、100万回分の計測の合計振幅に対して正規化する。したがって、個々のマーカーのそれぞれの平均振幅は100万分率(parts per million:ppm)として表される。
【0032】
更に、別の正規化方法により更なる振幅マーカーを定義することができる。この場合、共通する正規化因子を用いて1サンプルの全ペプチドシグナルを評価する。したがって、個々のサンプルのペプチド振幅と既知の全ポリペプチドの参照値との間で線形回帰が形成される。この回帰直線の勾配はちょうど相対濃度に相当し、このサンプルの正規化因子として使用される。
【0033】
診断の決定は、患者サンプル中の各ポリペプチドマーカーの振幅が対照群又は「病気」群の平均振幅と比較してどれだけ大きいかによってなされる。値が「病気」群の平均振幅に近ければ、急性腎不全が存在すると見なされ、どちらかというと対照群の平均振幅に相当する場合、急性腎不全が存在しないと見なされる。平均振幅からの距離をサンプルが特定の群に属する確率(probability)と解釈することができる。
【0034】
頻度マーカーは、一部のサンプル中で振幅が低い振幅マーカーのバリアントである。マーカーが見出されない対応するサンプルを検出限界とほぼ同程度の非常に小さい振幅で振幅の計算に含めることでそのような頻度マーカーを振幅マーカーに変換することができる。
【0035】
1又は複数のポリペプチドマーカーの有無を決定するサンプルが由来する対象は、急性腎不全に罹り得る任意の対象であり得る。好ましくは、対象は哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、3つのポリペプチドマーカーだけでなく、より大きな、マーカーの組合せが使用される。複数のポリペプチドマーカーを比較することにより、その個体での典型的な存在確率からの少数の個々の逸脱による全体的結果におけるバイアスを低減又は回避することができる。
【0037】
本発明に係るペプチドマーカーの有無を測定するサンプルは、対象の体から得られる任意のサンプルであり得る。サンプルは、対象の状態についての情報を提供するのに適したポリペプチド組成物を有するサンプルであり、例えば、血液、尿、滑液、組織液、身体分泌物、汗、脳脊髄液、リンパ液、腸液、胃液、膵液、胆汁、涙液、組織サンプル、精液、膣液、又は排泄物サンプルであり得る。好ましくは、サンプルは液体サンプルである。
【0038】
好ましい実施形態では、サンプルは尿サンプルである。
【0039】
尿サンプルは先行技術で選好される形で採取することができる。好ましくは、本発明では中間尿サンプルが使用される。例えば、尿サンプルは、カテーテルを用いて採取されてもよく、国際公開第01/74275号に記載されているように排尿装置を用いて採取されてもよい。
【0040】
サンプル中のポリペプチドマーカーの有無は、ポリペプチドマーカーの測定に適した先行技術中に公知の任意の方法により決定され得る。そのような方法は当業者に公知である。原則的に、ポリペプチドマーカーの有無は、質量分析法等の直接的方法又は例えばリガンドの利用等の間接的方法により決定することができる。
【0041】
必要であれば、又は所望であれば、対象由来のサンプル、例えば尿サンプルは、ポリペプチドマーカーの有無を測定する前に、任意の好適な手段で前処理されてよく、例えば精製又は分離されてよい。処理には、例えば精製、分離、希釈、又は濃縮が含まれ得る。方法は、例えば、遠心、ろ過、限外ろ過、透析、沈殿、又はクロマトグラフィー的方法、例えばアフィニティー分離若しくはイオン交換クロマトグラフィーを用いた分離、又は電気泳動的分離であり得る。その特定の例として、ゲル電気泳動、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D−PAGE)、キャピラリー電気泳動、金属アフィニティークロマトグラフィー、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、レクチンに基づくアフィニティークロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、順相及び逆相HPLC、陽イオン交換クロマトグラフィー、並びに表面への選択的結合が挙げられる。これらの方法は全て当業者に周知であり、当業者は、使用するサンプル及びポリペプチドマーカーの有無を決定する方法に応じた方法を選択することができる。
【0042】
サブサンプルとは、互いに異なる複数の部分にサンプルが分離されたことを意味する。簡単な形態では、これは例えば、サンプルの大きい成分と小さい成分を2つのサブサンプルに分離する膜ろ過であり得る。
【0043】
別の実施形態では、これはサンプルを複数のサブサンプル(「画分」)に分離するクロマトグラフィー的分離であり得る。
【0044】
本発明の一実施形態では、サンプルは測定前に、電気泳動による分離、超遠心による精製、及び/又は限外ろ過により、特定の分子サイズのポリペプチドマーカーを含む画分に分けられる。
【0045】
好ましくは、質量分析法を用いてポリペプチドマーカーの有無が決定され、サンプルの精製又は分離はそのような方法の上流(upstream)で行われ得る。現行の方法と比べて、質量分析は1回の分析でサンプル中の多数(>100)のポリペプチドの濃度を決定できるという利点がある。任意の種類の質量分析装置が使用され得る。質量分析法を用いて、通例、複合混合物中で約±0.01%の測定精度で10fmolのポリペプチドマーカー、すなわち10kDのタンパク質0.1ngを測定することができる。質量分析装置中、イオン源(ion−forming unit)は好適な分析デバイスに連結されている。例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)インターフェースは主に液体サンプル中のイオンを測定するために使用され、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化)技術はマトリックス中で結晶化したサンプルからのイオンを測定するために使用される。形成されたイオンを分析するために、例えば、四重極、イオントラップ、又は飛行時間型(TOF)分析装置が使用され得る。
【0046】
エレクトロスプレーイオン化(ESI)では、溶液中に存在する分子は、とりわけ、高電圧の影響下(例えば1〜8kV)で、噴霧化され、帯電液滴を形成し、溶媒の蒸発により更に小さくなる。最後に、いわゆるクーロン爆発により自由イオンが形成され、これを分析及び検出することができる。
【0047】
TOFを用いたイオン分析では、特定の加速電圧が印加されて等量の運動エネルギーがイオンに付与される。その後、各イオンが飛行チューブ(flying tube)を通って特定のドリフト距離を移動するのにかかる時間を非常に正確に測定する。等量の運動エネルギーではイオンの速度は質量に依存するので、質量を決定することができる。TOF分析装置は非常に走査速度が速いので、良好な解像度が得られる。
【0048】
ポリペプチドマーカーの有無の決定に好ましい方法としては、気相イオンスペクトロメトリー(gas−phase ion spectrometry)、例えばレーザー脱離/イオン化質量分析法、MALDI−TOF MS、SELDI−TOF MS(表面増強レーザー脱離/イオン化)、LC MS(液体クロマトグラフィー/質量分析法)、2D−PAGE/MS、及びキャピラリー電気泳動−質量分析法(CE−MS)が含まれる。記載の方法は全て当業者に公知である。
【0049】
特に好ましい方法は、キャピラリー電気泳動が質量分析法と連結されたCE−MSである。この方法は、例えば独国特許出願第10021737号、Kaiser et al.(J. Chromatogr A, 2003, Vol. 1013: 157-171及びElectrophoresis, 2004, 25: 2044-2055)、及びWittke et al.(J. Chromatogr. A, 2003, 1013: 173-181)に幾分詳細に記載されている。CE−MS技術を用いることで、サンプルの数百個のポリペプチドマーカーの存在を少ない体積で同時に短時間且つ高感度で決定することができる。サンプルを測定した後、測定されたポリペプチドマーカーのパターンを作製し、このパターンを病気対象者又は健常対象者の参照パターンと比較することができる。ほとんどの場合、UASの診断には限られた数のポリペプチドマーカーを使用すれば十分である。ESI−TOF MSにオンラインで連結されたCEを含むCE−MS法が更に好ましい。
【0050】
CE−MSでは、揮発性溶媒の使用が好ましく、本質的に塩を含まない条件下で行われるのが最も好ましい。好適な溶媒の例としてはアセトニトリル、メタノール等が挙げられる。分析物、好ましくはポリペプチドをプロトン化するために、溶媒を水又は酸(例えば0.1〜1%のギ酸)で希釈してもよい。
【0051】
キャピラリー電気泳動を用いることで、分子の電荷及びサイズに従って分子を分離することができる。電流を印加すると中性粒子は電気浸透流と同じ速度で移動し、一方、陽イオンは陰極に向かって加速され、陰イオンは遅れる。電気泳動におけるキャピラリーの利点は、表面と体積の比率が好ましいことであり、これにより、電流フロー中に発生するジュール熱の良好な放散が可能になる。そのため、高電圧(通常30kVまで)を印加することが可能になるので、高い分離性能及び短時間の分析が可能になる。
【0052】
キャピラリー電気泳動では通常、内径が典型的には50〜75μmの石英ガラスキャピラリーが使用される。長さは30〜100cmのものが使用される。更に、キャピラリーは通常、プラスチックコートされた石英ガラス製である。キャピラリーは、未処理、すなわち内面に親水性基が露出していてもよく、内面がコートされていてもよい。疎水性コーティングを用いて分解能を向上させてもよい。電圧に加えて、圧力も印加され得、圧力は通常0〜1psiの範囲内である。圧力は、分離の間だけ印加されてもよく、その間に変化させてもよい。
【0053】
ポリペプチドマーカーの好ましい測定方法では、サンプルのマーカーは、キャピラリー電気泳動により分離された後、直接イオン化され、連結された質量分析装置にオンラインで送られて検出される。
【0054】
本発明に係る方法では、複数のポリペプチドマーカーを診断に使用することが有益である。
【0055】
少なくとも5、6、8、又は10個のマーカーの使用が好ましい。
【0056】
一実施形態では、20〜50個のマーカーが使用される。
【0057】
好ましくは、前記マーカーは、表1による以下のタンパク質IDのマーカーから選択される:
5913、7406、16832、17792、18168、20749、21203、22282、26042、26891、27517、27796、28702、30733、38879、41833、43686、53216、56884、57531、61573、64256、70413、74187、89325、92698、97301、98089、100537、102392、106195、115491、130747、159954、160628。
【0058】
更により好ましくは、前記マーカーは、表1による以下のタンパク質IDのマーカーから選択される:
5913、7406、16832、17792、18168、20749、21203、22282、26042、26891、27796、28702、41833、43686、56884、61573、82094、89325、130747、159954、160628。
【0059】
一実施形態では、前記マーカー又はマーカーのサブグループは、以下の数字により特定されるように選択される:
2505、5913、14906、16832、20749、27517、28561、30174、30733、38879、40864、41833、42594、46880、50008、51120、52100、53216、53957、55143、56884、57531、58954、61573、63877、64087、64256、67632、70413、74187、82094、84192、87724、89325、90840、92698、96370、97301、98089、100537、101888、102392、103493、106195、115491、121775、122400、123671、124886、130747、159954、160628。
【0060】
別の実施形態では、以下のタンパク質IDのマーカーを使用する:
5913、16832、20749、27517、30733、38879、41833、53216、56884、57531、61573、64256、70413、74187、89325、92698、97301、98089、100537、102392、106195、115491、130747、159954、160628。
【0061】
別の実施形態では、マーカーは、以下のタンパク質IDのマーカーから選択される:
5913、16832、20749、41833、56884、61573、82094、89325、130747、159954、160628。
【0062】
複数のマーカーを使用した場合に疾患が存在する確率を決定するために、当業者に公知の統計方法が使用され得る。例えば、Weissinger et al.(Kidney Int., 2004, 65: 2426-2434)に記載されているRandom Forests法が、同文献に記載されているように、S−Plus等のコンピュータプログラム又はサポートベクターマシーンを用いて使用され得る。
【実施例】
【0063】
1.サンプル調製
診断用のポリペプチドマーカーを検出するために、尿を使用した。尿は健常ドナー(対照群)及び腎疾患に罹患している患者から採取した。
【0064】
その後のCE−MS測定に、これも患者の尿に高濃度で含まれるタンパク質であるアルブミン、免疫グロブリン等を限外ろ過により分離する必要があった。そのため、700μlの尿を採取し、700μlのろ過バッファー(2M尿素、10mMアンモニア、0.02%SDS)と混合した。この体積1.4mlのサンプルを限外ろ過した(ドイツ、ゲッティンゲンのザルトリウス社(Sartorius)、20kDa)。限外ろ過は遠心機を用いて3000rpmで行い、1.1mlの限外ろ液を得た。
【0065】
次いで、得られた1.1mlのろ液をPD10カラム(スウェーデン、ウプサラのアマシャム・バイオサイエンス社製)にアプライし、0.01%のNHOH2.5mlに対して脱塩し、凍結乾燥した。CE−MS測定のために、その後、ポリペプチドを20μlの水(HPLCグレード、メルク社製)に再懸濁した。
【0066】
2.CE−MS測定
ベックマン・コールター社製のキャピラリー電気泳動システム(P/ACE MDQ System;米国カリフォルニア州フラートンのベックマン・コールター社製)及びブルカー社製ESI−TOF質量分析装置(マイクロ−TOF MS;ドイツ、ブレーメンのブルカー・ダルトニク社(Bruker Daltonik)製)を用いて、CE−MS測定を行った。
【0067】
CEキャピラリーはベックマン・コールター社により供給されたものであり、ID/ODが50/360μm、長さが90cmであった。CE分離用の移動相は20%アセトニトリル及び0.25%ギ酸の水溶液からなる。MS上での「シースフロー(sheath flow)」には、0.5%ギ酸を含む30%イソプロパノールを用い、流量は2μl/minとした。CEとMSの連結は、CE−ESI−MS Sprayer Kit(ドイツ、ワルドブロン(Waldbronn)のアジレント・テクノロジー社(Agilent Technologies)製)によりなされた。
【0068】
サンプルの注入には、1psiから最大6psiの圧力を印加し、注入期間は99秒とした。これらのパラメータを用いて、約150nlのサンプルをキャピラリーに注入した。これはキャピラリー容積の約10%に相当する。スタッキング技術を用いてキャピラリー中でサンプルを濃縮した。そのため、サンプルを注入する前に、1MのNH溶液を7秒間(1psiで)注入し、サンプル注入後に2Mのギ酸溶液を5秒間注入した。分離電圧(30kV)を印加した時、分析物はこれらの溶液の間で自動的に濃縮された。
【0069】
その後のCE分離は、圧力法(0psiで40分、0.1psiで2分、0.2psiで2分、0.3psiで2分、0.4psiで2分、最後に0.5psiで32分)を用いて行った。したがって、分離ランの合計時間は80分間であった。
【0070】
MS側で可能な限り良好なシグナル強度を得るために、噴霧ガスを可能な最も低い値にした。エレクトロスプレーを生成するためにスプレーニードルに印加した電圧は3700〜4100Vであった。質量分析装置の残りの設定はメーカーの取扱説明書に従いペプチド検出に最適化した。スペクトルをm/z400〜m/z3000の質量範囲で記録し、3秒ごとに蓄積した。
【0071】
3.CE測定用の標準
CE測定のチェック及び標準化のために、選択した条件下での記載のCE移動時間により特徴付けられる以下のタンパク質又はポリペプチドを使用した。
【0072】
【表7】

【0073】
タンパク質/ポリペプチドはそれぞれの水中濃度10pmol/μlで使用した。「REV」、「ELM」、「KINCON」、及び「GIVLY」は合成ペプチドである。
【0074】
原則的に、キャピラリー電気泳動による分離において移動時間にわずかなばらつきが生じ得ることは当業者に公知である。しかし、記載の条件下では、移動の順番は変わらない。記載の質量及びCE時間を知っている当業者であれば、自身の測定値を本発明に係るポリペプチドマーカーに問題なく帰属(assign)させることができる。例えば以下のように進められ得る:最初に、測定中に見つかったポリペプチドの1つを選択し(ペプチド1)、記載のCE時間の時間枠内(例えば±5分)に1又は複数の同じ質量を見つけることを試みる。この間隔中に同じ質量が1つだけが見つかれば、帰属は完了する。一致する質量が複数見つかる場合、まだ帰属(assignment)についての決定をなす必要がある。したがって、測定から別のペプチド(ペプチド2)を選択し、再度対応する時間枠を考慮して適切なポリペプチドマーカーを同定することを試みる。
【0075】
ここでも、対応する質量で複数のマーカーが見つけられる場合、最も可能性の高い帰属は、ペプチド1のシフトとペプチド2のシフトの間に実質的に線形な関係がある帰属である。
【0076】
帰属問題の複雑さに応じて、当業者には、帰属のためにサンプルから更なるタンパク質(例えば10個のタンパク質)を必要に応じて使用することが示唆される。典型的には、移動時間が特定の絶対値分だけ長くなるか短くなり、あるいは過程全体が短縮又は延長される。しかし、一緒に移動するペプチドはそのような条件下でも一緒に移動する(comigrate)。
【0077】
更に、当業者は、Zuerbig et al.(Electrophoresis 27 (2006), pp. 2111-2125)に記載されている移動パターンを利用することができる。簡単なダイアグラムを用いて(例えばMS Excelを用いて)m/z対移動時間の形で測定値をプロットすることにより、記載されている線パターンを可視化することもできる。これにより、線を数えることで個々のポリペプチドを容易に帰属することができる。
【0078】
その他の帰属方法も可能である。基本的に、当業者は、CE測定値を帰属するための内部標準として上記のペプチドを使用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性腎不全の診断プロセスであって、サンプル中の少なくとも3つのポリペプチドマーカーの有無又は振幅を決定する工程を含み、前記ポリペプチドマーカーが、表1中で分子量及び移動時間の値により特徴付けられているポリペプチドマーカーから選択される、前記プロセス。
【請求項2】
決定された前記マーカーの有無又は振幅の評価が以下の表3に記載の参照値を用いてなされることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
少なくとも5、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも20、又は少なくとも50個の請求項1に記載のポリペプチドマーカーが使用される、請求項1〜2の少なくとも1項に記載のプロセス。
【請求項4】
対象に由来する前記サンプルが中間尿サンプルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ポリペプチドマーカーの有無又は振幅の検出にキャピラリー電気泳動、HPLC、気相イオンスペクトロメトリー、及び/又は質量分析法が用いられる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記ポリペプチドマーカーの分子量を測定する前にキャピラリー電気泳動が行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記ポリペプチドマーカーの有無の検出に質量分析法が使用される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
分子量及び移動時間の値によって特徴付けられる表1に記載のマーカーから選択される少なくとも3つのペプチドマーカーの、急性腎不全を診断するための使用。
【請求項9】
(a)サンプルを少なくとも5個、好ましくは10個のサブサンプルに分ける工程;
(b)少なくとも5個の前記サブサンプルを分析して前記サンプル中の少なくとも1つのポリペプチドマーカーの有無又は振幅を決定する工程であって、前記ポリペプチドマーカーが、分子量及び移動時間(CE時間)により特徴付けられる表1のマーカーから選択される、工程
を含む急性腎不全の診断プロセス。
【請求項10】
少なくとも10個のサブサンプルを測定する、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記CE時間が、20%アセトニトリル、0.25%ギ酸の水溶液を移動相溶液として用い、25kVの印加電圧、長さ90cm、内径(ID)50μmのガラスキャピラリーに基づくことを特徴とする、請求項1〜10の少なくとも1項に記載のプロセス。
【請求項12】
感度が少なくとも60%であり且つ特異性が少なくとも40%である、請求項1〜7又は9〜11の少なくとも1項に記載のプロセス。

【公表番号】特表2012−531615(P2012−531615A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518921(P2012−518921)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059444
【国際公開番号】WO2011/000938
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(510252449)モザイクス ダイアグノスティクス アンド セラピューティクス アーゲー (3)
【Fターム(参考)】