説明

急性音響外傷の治療方法

本発明は、急性音響外傷(AAT)を含むがそれに限定されない感音難聴を治療するための方法および組成物を提供する。組成物、2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンおよび N-アセチルシステイン(NAC)。好ましくは、AATを治療するための組成物は、経口投与される。しかし、AATを治療するための組成物を全身に送達する他の方法は、同様に良好に作用するはずである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2009年8月24日に出願された米国仮特許出願第61/274,118号に基づく利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
急性音響外傷(AAT)は永続的な難聴の原因となることが知られている。AATによる難聴はまた、低濃度の一酸化炭素またはアクリロニトリルのような他の毒物への同時暴露によっても増強される。最近の研究は、フリーラジカル作用がAAT誘発性の難聴に関与することを示唆する。現時点では、AAT、または感音難聴(SNHL)の他の原因を治療するためのFDAに認可された治療法は存在しない。従って、AAT事象の被害者の治療に適した治療方法および化合物について、大きな必要性が存在する。更に、すべての種類のSNHLの治療法について、必要性が存在する。
【0003】
PCT出願、公開番号第2008/013866号として既に公開されている、2009年1月23日に出願された同時係属出願、米国特許出願番号第12/374,970号において、本発明者らは、4-ヒドロキシ-α-フェニルブチルニトロンとN-アセチルシステインとの好ましい組合せによりAAT誘発性の難聴を治療することができることを記載する。2006年7月25日に出願された米国仮特許出願第60/833,114号および2006年7月26日に出願された米国仮特許出願第60/833,452号の開示全体は、参照により本明細書に組み入れられる。加えて、係属中の米国特許出願番号第12/374,970号および公開されているPCT出願、公開番号第2008/013866号の開示全体は、参照により本明細書に組み入れられる。
【発明の概要】
【0004】
1つの実施形態では、本発明は、難聴を治療するための方法を提供する。本発明の方法では、2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンを含有する医薬上有効な量の組成物が、AAT誘発性の難聴を治療するために特に有用である。
【0005】
別の実施形態では、本発明は、難聴を治療するための方法を提供する。本発明の方法では、2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンおよびN-アセチルシステインを含有する医薬上有効な量の組成物が、AAT誘発性の難聴を治療するために特に有用である。
【0006】
加えて、本発明は、2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンおよびN-アセチルシステイン(NAC)を含有する医薬上有効な量の組成物を経口投与することによって、AAT誘発性の難聴を治療する方法を対象とする。
【0007】
更に別の実施形態では、本発明は、AATによって誘発されうるような酸化ストレスから生じる難聴の治療に適した組成物を提供する。その組成物は、医薬上有効な量の2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンを含有する。好ましくは、その組成物は、患者への経口投与に適している。
【0008】
更に、本発明は、AATによって誘発されうるような酸化ストレスから生じる難聴の治療に適した組成物を提供する。その組成物は、医薬上有効な量の2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンおよびN-アセチルシステインを含有する。好ましくは、その組成物は、患者への経口投与に適している。
【0009】
別の実施形態では、本発明は、2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンおよびN-アセチルシステインを含有する組成物を提供する。この組成物の個々の成分は、医薬上有効な量未満であってよいが、その組合せは感音難聴を治療するために医薬上有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例1に対応し、対照および2,4-ジスルホニルPBN(HPN-07)で処理された被験体における、試験されたすべての周波数(2、4、6、および8 kHz)での総合平均閾値変動を示す。
【図2】図2は、実施例1に対応し、対照および2,4-ジスルホニルPBN(HPN-07)で処理された被験体における、個々の周波数(0.5、1、2、4、6、および8 kHz)での平均閾値変動を示す。
【図3】図3は、実施例2に対応し、示された用量およびAAT後の時点での、NACによって処理された被験体における、2、4、8、および16 kHzでの平均閾値変動を示す。
【図4A】図4Aは、実施例3に対応し、対照、2,4-ジスルホニルPBN(HPN-07)、および2,4-ジスルホニルPBN(HPN-07)+NACで処理された被験体における、個々の周波数(0.5、1、2、4、6、および8 kHz)での平均閾値変動を示す。
【図4B】図4Bは、実施例3に対応し、対照、2,4-ジスルホニルPBN(HPN-07)、および2,4-ジスルホニルPBN(HPN-07)+NACで処理された被験体における、試験されたすべての周波数(2、4、6、および8 kHz)での総合平均閾値変動を示す。
【図5A】図5Aは、実施例3に対応し、2,4-ジスルホニルPBN(HPN-07)+NACで処理された被験体における、示されたAAT後の時点での2kHzでの平均閾値変動を示す。
【図5B】図5Bは、実施例3に対応し、2,4-ジスルホニルPBN(HPN-07)+NACで処理された被験体における、示されたAAT後の時点での4kHzでの平均閾値変動を示す。
【図5C】図5Cは、実施例3に対応し、2,4-ジスルホニルPBN(HPN-07)+NACで処理された被験体における、示されたAAT後の時点での8kHzでの平均閾値変動を示す。
【図5D】図5Dは、実施例3に対応し、2,4-ジスルホニルPBN(HPN-07)+NACで処理された被験体における、示されたAAT後の時点での16kHzでの平均閾値変動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、AAT、および酸化ストレス、プログラム細胞死、または炎症過程に関連する他の考えられる難聴の原因によって生じる、感音難聴の治療方法を提供する。SNHLの他の原因の例は、加齢に伴う難聴すなわち老人性難聴、毒物による難聴、外傷による難聴、難聴を引き起こすウイルス感染または細菌感染、未成熟による難聴、蝸牛虚血による難聴、先天性難聴、遺伝的難聴、メニエール病、突発性難聴、および甲状腺疾患または糖尿病に関連する難聴を含むが、それらに限定されない。本発明は、AATの治療における、フリーラジカル捕捉剤としての2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンの機能性、および2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンのN-アセチルシステイン(NAC)との組合せの相乗効果を実証する。本開示の以下において、2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンは、2,4-ジスルホニルPBNまたはHPN-07と称される。
【0012】
2,4-ジスルホニルPBNは、下記の構造を有する。
【化1】

【0013】
酸の形態の化合物は、下記の構造を有する。
【化2】

【0014】
酸の形態は固体であるか、または低pH溶液で見られうる。イオン化塩の形態の化合物はより高いpHで存在し、下記の構造のいずれかによって表されうる。
【化3】

【0015】
塩の形態では、Xは、医薬上許容されうる陽イオンである。通常、この陽イオンは、ナトリウム、カリウム、またはアンモニウムなどの一価の物質であるが、また、多価の物質単独であり得るものであり、または、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、スルホン酸イオン、酢酸イオン、酒石酸イオン、シュウ酸イオン、コハク酸イオン、パルモ酸イオン(palmoate)などの陰イオンを伴うカルシウム;このような陰イオンを伴うマグネシウム;このような陰イオンを伴う亜鉛などの、医薬上許容されうる一価の陰イオンと組み合わせた陽イオンであり得る。これらの物質の中では、遊離酸、およびナトリウム単純塩、カリウム単純塩、またはアンモニウム単純塩が最も好ましく、カルシウム塩およびマグネシウム塩もまた好ましいがいくぶん劣っている。2,4-ジスルホニルPBN化合物は、米国特許第5,488,145号に詳細に記載される。米国特許第5,488,145号の全開示は、参照により本明細書に組み入れられる。2,4-ジスルホニルPBNの塩もまた、下記に記載されるような2,4-ジスルホニルPBNの使用と同様の方法で、AATの治療のために使用されうる。
【0016】
加えて、ミトコンドリアを標的とする抗酸化ペプチドは、本発明において有用であり、AATを治療するための組成物の一部として含有されうる。これらの化合物は、酸化ストレスおよびミトコンドリアの損傷を引き起こす細胞内の活性酸素種(ROS)の生成を妨げる。ミトコンドリアの酸化的損傷は、細胞死を引き起こすアポトーシスおよび壊死の原因となることが知られている。好ましい抗酸化ペプチドは、Szeto-Schiller(SS)ペプチドおよびそれらの機能的類似体である。これらの化合物は、交互に並ぶ芳香族残基および塩基性アミノ酸を有する。詳細には、チロシン(Tyr)またはジメチルチロシン(Dmt)類似体を有するペプチドは、オキシラジカルを除去し得る。これらの化合物は、低密度リポタンパク質の酸化を阻害する。SS-ペプチドは、SS-31(D-Arg-Dmt-Lys-Phe-NH2)およびSS-02(Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2)などの化合物を含む。TyrおよびDmtを含むSS-ペプチドに加えて、トリプトファンを含むSS-ペプチドもまた、本発明において有用である。最後に、SS-ペプチドに見いだされるアミノ酸はLまたはDであってよく、天然型アミノ酸、非天然型アミノ酸、および天然型アミノ酸の誘導体でありうる。詳細には、PCT 公開された出願WO 2005/072295に開示されるSS-ペプチドが、本発明での使用に適している。2005年8月11日に公開されたWO 2005/072295の全開示は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0017】
従って、本発明は、言及された聴覚疾患の治療に適した方法および組成物を提供する。好ましい実施形態では、本発明は、AATを治療するために、2,4-ジスルホニルPBNおよびN-アセチルシステインを用いる。本発明の組成物は、任意選択で、アセチル-L-カルニチン(ALCAR)、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D-メチオニンを含むがそれらに限定されない更なる抗酸化化合物を含有しうる。
【0018】
本発明の組成物は、好ましくは経口投与されるが、静脈内、皮下(subcutaneously)、吸入、舌下、皮下(subdermally)、または耳内への局所投与を含むがそれに限定されない他の送達方法もまた適切である。更に、活性組成物は、ナノ粒子またはデンドリマー製剤として投与されうる。ナノ粒子は多機能性であってよく、ポリマーと常磁性酸化鉄粒子から構成されることにより、内耳のような所望の標的への薬物の送達を補助するために外部から磁力を適用できるようにし得る。加えて、組成物は、経口吸収を向上させるために、および、生体利用性動態を変化させるために、当業者に知られている添加剤とともに製剤化されうる。
【0019】
理論により制限されることを望まないが、本発明者らは、2,4-ジスルホニルPBNの機能性の少なくとも一部は、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の活性または増加を阻害するその能力に起因すると確信する。iNOSは、内耳組織に対する酸化ストレスまたは他の損傷の影響を増加させうる神経炎症の活性化に関与する。
【0020】
本発明者らは、AATに曝されたチンチラに経口投与として与えられた2,4-ジスルホニルPBNが、チンチラをAATによる難聴から有意に保護することを発見した。この機能性を実証するデータは、図1〜2、4Aおよび4Bに示される。更に、本発明者らは、NACなどの抗酸化剤もまたAAT誘発性の難聴からの保護に効果的であり、2,4-ジスルホニルPBNと組み合わせた場合に、相乗効果をもたらすことを発見した。この機能性を実証するデータは、図3、4A〜Bおよび5A〜Dに示される。
【0021】
本明細書に記載される実験および実施例に関しては、図5について記載された方法を除いて、下記の方法が通常用いられた。体重500〜850グラムのメスの成体チンチラ(chinchilla laniger)(Mouton Chinchilla Ranch, Rochester, MN)を、2匹同時に、木製板上の2つの小さい金網拘束ケージに入れ、隔離防音室[Industrial Acoustics Company (IAC), New York, NY]における6時間の4 kHzを中心とする105 dB SPLオクターブ帯域騒音によってAATを誘発した。騒音は、Tucker Davis Technologies (TDT, Alachua, FL)装置によってデジタル的に発生され、リアルタイム減衰器(TDT, RP 2)を通過し、フィルターをかけられ、前置増幅器(QSC audio power, Costa Mesa, CA)によって増幅され、防音室の天井から吊るされ金網ケージの上に直接設置された高周波アコースティックドライバーおよびアコースティックスピーカー(JBL 2350, Northridge, CA)によって変換された。騒音暴露の前に、システムの音響スペクトル出力を、4 kHzのオクターブ帯域幅を中心とする騒音計によって測定した。前置増幅器と接続されたコンデンサーマイクロホン(B&K 2804, Norcross, GA)を、2つの金網ケージの間の動物の頭の高さに設置し、騒音レベルを測定した。騒音暴露の間、FFT Analysis Type 7770およびCPB Analysis 7771を含むPULSEソフトウェアシステム[B&K, Sound & Vibration Measurement (version 10.0), Norcross, GA]を用いて、騒音レベルを連続的および視覚的に測定した。
【0022】
被験体に、下記の処理のうちの1つを行った(「mg/kg」は体重1 kgあたりの化合物のmgを表す):すなわち、
(1)300 mg/kg 2,4-ジスルホニルPBN(HPN-07;図1〜2、4A〜B);
(2)50 mg/kgのNAC(NAC-50;図3)
(3)100 mg/kgのNAC(NAC-100;図3)
(4)200 mg/kgのNAC(NAC-200;図3)
(4)300 mg/kg 2,4-ジスルホニルPBN+300 mg/kgのNAC(HPN-07+NAC;図4A〜Bおよび5);または、
(5)対照‐10%ショ糖溶液(経口)もしくは生理食塩水(腹腔内)(図1〜5)。
【0023】
処理は、AAT後4時間目に1回、ならびにAAT後1日目および2日目に毎日2回を含む、合計5回行われた。
【0024】
聴力は、聴性脳幹反応(ABR)として評価され、AATの1〜3日前、およびAAT後の下記の1以上の時点:すなわち、1時間、8時間、24時間、7日目、および21日目に測定された。21日目の試験点を、永続的な閾値変動(PTS)と考えた。少量のケタミン(20 mg/kg)およびキシラジン(1 mg/kg)麻酔下で、ABR記録を行った。必要に応じて、少量の追加用量(初期用量の1/3)が投与された。ABR閾値は、頭部の皮膚下に設置された皮下針電極から記録された。活性針電極および参照電極は、それぞれ右耳および左耳に隣接して設置され、一方、接地電極は頭頂部に設置された。高周波変換器に接続されたコンピューター支援システム(Intelligent Hearing Systems, Miami, FL)を用いて、聴覚刺激を発生させた。音刺激は、0.5、1、2、4、6、8、および16 kHzの周波数でのトーンピップ音(5 ms継続および1 ms Blackman増減(Blackman rise and fall))であった。すべての音刺激は、コンピューター制御の減衰器を介して、鼓膜から約5 mmに取り付けられた3 Aインサートイヤホン[Etymotic Research (ER)-3A, Etymotic Research Inc., Elk Grove Village, IL]に変換された。インサートイヤホンは、その配置位置に隣接している騒音計に取り付けられたカプラーによって調整された。電極から得られた電気的反応は、増幅され(×100,000)、フィルターをかけられ(100〜3,000 Hz)、信号処理ボード上のA/D コンバーターを介してデジタル化された。それらは、各レベルに対して1024のサンプルレートで平均化された。
【0025】
聴力閾値は、閾値付近までは10 dB刻みで減少させて検査され、その後、閾値を決定するために5 dB刻みで増加させて検査された。閾値は、明確な反応の最低レベルと反応が観察されなかった次のレベルとの中間点として定義された。閾値変動は、AAT前後での閾値の差を指す。ABR測定を行った検査官は、動物群の識別に関する情報を与えられなかった。
【実施例1】
【0026】
本実施例の目的は、2,4-ジスルホニルPBN(HPN-07)がAATによって誘発される難聴を治療するために有効であることを実証することである。
【0027】
図1および2のすべてのデータ値は、平均値±SEMとして表される。閾値変動における統計的有意差は、分散分析(ANOVA)(SPSS 14.0 for Windows(登録商標))によって検定された。周波数は被験体内要因として扱われた一方、処理は被験体間要因であった。主効果が見られた場合に、異なる群間の平均比較のために、LSDおよびTukeyなどのポストホック検定を行った。0.05未満のp値は、統計的有意差を意味する。
【0028】
図1は、AAT後21日目に試験されたすべての周波数にわたる平均閾値変動を表す。その中で実証されるように、HPN-07を投与された成体チンチラ(n=5)は、化合物を投与されていない対照動物(n=6)と比較して、有意に減少した平均閾値変動を示した。図2において実証されるように、最も顕著なHPN-07の効果は、0.5、1、6および8 kHzで現れたが、その効果は2および4 kHzではより目立たなかった。これは、HPN-07を投与された動物が、対照動物より低いデシベル値で試験音を感知できたことを示唆する。有効な結果は、2,4-ジスルホニルPBNに関して5 mg/kg〜約300 mg/kgの用量で実現されるはずである。加えて、結果として得られたABRデータを考慮すると、対照動物群と比較した場合に、2,4-ジスルホニルPBNで処理された動物での外有毛細胞喪失の統計的に有意な減少を、誰もが予期するであろう。要約すると、図1および2は、2,4-ジスルホニルPBNがAATに暴露された動物における聴力を改善することを実証する。
【実施例2】
【0029】
本実施例の目的は、動物モデルでの難聴の治療におけるNAC の有効性を実証することである。
【0030】
実験群あたり6匹のチンチラに、生理食塩水(対照)、50、100、または200 mg/kgのNACのいずれかを腹腔内(i.p.)注射によってAAT暴露の4時間後に投与した。二元配置分散分析およびポストホック検定を用いて、統計解析を行った。「*」はp<0.05を表す。
【0031】
図3に示されるように、NACは、処理直後の閾値変動に対して穏やかな作用を示す。しかし、AAT暴露後21日目には、100 mg/kgおよび200 mg/kgのNACを投与された動物において閾値変動の著しい減少がある。これらの結果は、NACのような抗酸化剤がAATに関連した難聴の治療に有効であることを実証する。
【実施例3】
【0032】
本実施例の目的は、動物モデルでの難聴の治療におけるNAC と組み合わせた2,4-ジスルホニルPBNの有効性を実証することである。
【0033】
図4Aおよび4Bは、NACおよび2,4-ジスルホニルPBNを含む併用処理の相乗効果を示す。本実施例では、チンチラに、対照(10%ショ糖)(n=6)、HPN-07(n=5)、またはHPN-07+NAC(n=3)のいずれかを経口投与した。AAT後21日目に閾値を測定した。図4Aのデータは、試験されたそれぞれの個別の周波数に対する平均閾値変動を示す。図4Bのデータは、2 kHz〜8 kHzの総合平均閾値変動データを示す。データを二元配置分散分析、ボンフェローニ検定によって解析した。「**」は0.01未満のp値を表し、「***」は0.001未満のp値を表す。
【0034】
閾値変動は、高い周波数においてより大きな変動を伴い(2〜8 kHz)、対照群および処理群においてすべての周波数で見られた。図4Aを参照されたい。図4Aにおいて実証されるように、HPN-07単独での処理は、0,5、1、4、および6 kHzで閾値変動の有意な減少をもたらした。HPN-07処理組成物へのNACの追加は、試験されたすべての周波数にわたって閾値変動の有意な減少をもたらした。更に、図4Bにおける総合データは、被験体がHPN-07を単独でまたはNACと組み合わせて投与された際に、全体として閾値変動が有意に減少することを示す。更に、図4Aおよび4Bは、HPN-07と組み合わせたNACの投与が、HPN-07単独での処理と比較して、より確実な閾値変動の減少をもたらすことを明示する。総合すると、これらの結果は、難聴を治療するための併用療法における2,4-ジスルホニルPBNおよびNACの使用を裏付ける。
【0035】
図5A〜Dは、AATのラットモデルにおける、時間の関数としての、難聴(閾値変動)に対するHPN-07+NACの効果を示す。AAT後の時点(8時間、24時間、7日目、および21日目)あたり6匹のラットからなる処理群または対照群のいずれかに、ラットを無作為に割り振った。AATを引き起こすために、ラットをケタミン/キシラジンで麻酔し、1時間、14 kHzを中心とする115 dB SPL 1オクターブ帯域騒音に暴露した。騒音暴露の1時間後にi.p.注射によってNAC(300 mg/kg)と組み合わせたHPN-07(300 mg/kg)を投与し、その後、AAT後1日目および2日目に1日2回投与した。対照には、同じ時点で同じ容量の生理食塩水を投与した。図は、各時点での平均ABR閾値変動をエラーバーとともに示す。データを二元配置分散分析、ボンフェローニ検定によって解析した(* p<0.05、** p<0.01)。
【0036】
まず、ラットモデルで引き起こされた難聴は、チンチラモデルで観察されたものよりかなり重篤であったことに注意しなければならない(それぞれ、約35 dBに対して50〜70 dBの閾値変動)。図5Aおよび5Bにおいて実証されるように、HPN-07+NAC併用処理は、早くもAAT後24時間(処理の投与後23時間)で閾値変動の有意な減少に成功した。更に、HPN-07+NAC処理は、AAT後7日目および21日目にはすべての周波数で閾値変動の有意な減少をもたらした。ラットモデルで示された難聴の重症度を考慮すると、図5A〜Dの結果は、2,4-ジスルホニルPBNのNACとの組合せが永続的難聴の減少に非常に有効であることを実証する。
【0037】
一般的に、AATによる難聴の治療はできるだけ早く始めるべきであると予想される。他の種類の感音難聴の治療については、本明細書に記載された方法および組成物を用いる治療は、難聴の原因によって異なるであろう。例えば、加齢による難聴は、難聴の性質に応じて毎日、隔日、または毎週など定期的な治療スケジュールで、上述の組成物の1つの送達を必要としうる。毒物または放射線による難聴に関する場合には、治療はできるだけ早く始めるべきであり、聴力の回復時に終了するであろう。
【0038】
本開示は、AATを受けた被験体の治療における2,4-ジスルホニルPBNの有効性を実証する。詳細には、AATの治療としての2,4-ジスルホニルPBNの使用は、AATを受けた被験体において難聴を少なくとも軽減することが示された。加えて、2,4-ジスルホニルPBNのNACとの組合せは、相乗的な結果をもたらし、難聴を更に軽減する。
【0039】
本明細書において用いられる場合、「医薬上有効な量」は、難聴に対して治療に関連のある効果を有する医薬化合物または医薬組成物の量である。治療に関連のある効果は、聴力の何らかの改善に関連するか、あるいは、加齢に伴う難聴すなわち老人性難聴、毒物による難聴、外傷による難聴、難聴を引き起こすウイルス感染もしくは細菌感染、未成熟による難聴、蝸牛虚血による難聴、先天性難聴、遺伝的難聴、メニエール病、突発性難聴、および甲状腺疾患または糖尿病に関連する難聴を含むがそれらに限定されない感音難聴の任意の原因に関連する細胞性、生理学的、または生化学的パラメーターの変化に関連する。2,4-ジスルホニルPBNおよびNACは、それぞれの化合物について医薬上有効な用量で投与されてもよく、または、併用量が医薬上有効であれば、亜臨床的な、すなわち、それぞれもしくはその組合せについて医薬上有効な量に満たない用量で投与されてもよい。
【0040】
通常、2,4-ジスルホニルPBNをNACとともに含有する組成物は、2,4-ジスルホニルPBNに対して2倍のNACを有するものであり、すなわち、NAC対2,4-ジスルホニルPBNは2:1の比率を有する。従って、2,4-ジスルホニルPBNを含むNACの組成物において用いられるNACの濃度は、NAC単独での患者の治療より実質的に少ない。本明細書において提供された実施例に基づき、組成物は、約70 mg〜約1200 mgの2,4-ジスルホニルPBNおよび約700 mg〜約4000 mgのNACを含有しうる。更に、2,4-ジスルホニルPBNを含有する組成物は、約1 mg/kg体重〜約400 mg/kg体重、より適切には約300 mg/kg体重の用量で投与されうる。NACを含有する組成物は、約5 mg/kg体重〜約300 mg/kg体重の用量で投与されうる。これらの範囲は本明細書に含まれる実施例に基づくものであって、他の生物の医薬上有効な量の範囲を限定しない。
【0041】
本開示を読むことにより当業者は、満足できる結果を同様にもたらす関連化合物を認識するであろう。更に、上述の実施例ではAATの4時間後に被験体を治療したが、より短い期間内に投与される治療は同様に有効であり、好ましいと思われる。加えて、AAT、ストレス、または損傷の48時間後以上で投与される治療もまた、有効でありうる。このように、上述の開示は、単に本発明の例示であると考えられ、本発明の正確な範囲は、特許請求の範囲によって定義されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感音難聴を患っている生物に、2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンを含有する医薬上有効な量の組成物を送達するステップを含む、感音難聴を治療するための方法。
【請求項2】
送達するステップが、経口、静脈内、皮下(subcutaneously)、吸入、舌下、皮下(subdermally)、または耳内への局所注入からなる群より選択される方法によって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が抗酸化剤を更に含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、N-アセチルシステイン、アセチル-L-カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D-メチオニン、カルバマチオン、およびSzeto-Schillerペプチド、ならびにそれらの機能的類似体からなる群より選択される1つ以上の化合物を更に含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、少なくともN-アセチルシステインを更に含有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が急性音響外傷事象の4時間以内に最初に投与される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が急性音響外傷事象の24時間以内に少なくとも2回送達される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、約1 mg/kg生物体重〜約400 mg/kg生物体重の2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンを含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が、約1 mg/kg生物体重〜約400 mg/kg生物体重の2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンおよび約5 mg/kg生物体重〜約300 mg/kg生物体重のN-アセチルシステインを含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
医薬上有効な量の2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンを含有する、感音難聴を治療するための組成物。
【請求項11】
前記組成物が、約70 mg〜約1200 mgの2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンを含有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が抗酸化剤を更に含有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記抗酸化剤が、医薬上有効な量のN-アセチルシステインである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、約70 mg〜約1200 mgの2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンおよび約700 mg〜約000 mgのN-アセチルシステインを含有する、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
医薬上有効な量の2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンおよび医薬上有効な量のN-アセチルシステインを含有する、感音難聴を治療するための組成物。
【請求項16】
前記組成物が、約70 mg〜約1200 mgの2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンおよび約700 mg〜約4000 mgのN-アセチルシステインを含有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、約70 mg〜約1200 mgのアセチル-L-カルニチンを更に含有する、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
医薬上有効な量の2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンを含む第一成分と、
N-アセチルシステイン、アセチル-L-カルニチン、グルタチオンモノエチルエステル、エブセレン、D-メチオニン、カルバマチオン、およびSzeto-Schillerペプチド、ならびにそれらの機能的類似体からなる群より選択される医薬上有効な量の1つ以上の化合物を含む第二成分
とを含有する、感音難聴を治療するための組成物。
【請求項19】
第二成分が少なくともN-アセチルシステインである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
2,4-ジスルホニルα-フェニルtert-ブチルニトロンおよびN-アセチルシステインを含有する組成物であって、その組合せが感音難聴を治療するために医薬上有効である組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【公表番号】特表2013−502461(P2013−502461A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526892(P2012−526892)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/046420
【国際公開番号】WO2011/028503
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(509024112)ハフ イヤ インスティテュート (2)
【出願人】(594003676)オクラホマ メディカル リサーチ ファウンデーション (14)
【氏名又は名称原語表記】OKLAHOMA MEDICAL RESEARCH FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】825 N.E. 13th Street,Oklahoma City,Oklahoma 73104,United States of America
【Fターム(参考)】