説明

急性骨髄性白血病幹細胞のマーカー

急性骨髄性白血病幹細胞(AMLSC)のマーカーが同定される。これらのマーカーは、正常な対応細胞と比べて差次的に発現され、診断標的および治療標的として有用である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
基本的な癌研究は、癌をもたらす遺伝的変化を特定することに焦点をあわせてきた。これにより、腫瘍形成および悪性転換に関与している分子経路および生化学的経路に関する我々の理解は大きく前進した。しかしながら、細胞生物学に関する我々の理解は遅れている。線維芽細胞または細胞株などのモデル細胞の増殖および生存に対する特定の変異の影響は予測できるものの、個々の癌に関与している実際の細胞に対するこのような変異の影響はほとんど当て推量である。
【0002】
腫瘍は、蓄積した変異を介して無限増殖能力を獲得した腫瘍形成性癌細胞によって開始される異常器官と考えることができる。腫瘍を異常器官とするこの観点から考えると、腫瘍が発生する方法をより良く理解するために正常幹細胞生物学の原理を適用することができる。多くの観察結果から、正常幹細胞と腫瘍形成性細胞の類似性が適切であることが示唆されている。正常幹細胞および腫瘍形成性細胞の両方とも、豊かな増殖能力および新しい(正常または異常)組織を生じる能力を有する。腫瘍および正常組織の両方とも、表現型特徴が異なり増殖能力が異なる細胞の異種性組合せから構成される。
【0003】
大半の腫瘍はクローン起源であるため、元の腫瘍形成性癌細胞は、無限増殖能力を有する癌細胞、ならびに増殖能力が限られた癌細胞または増殖能力の無い癌細胞を含む、表現型的に多様な子孫を生じる。このことから、腫瘍形成性癌細胞が、正常幹細胞の自己複製および分化に類似したプロセスを経ることが示唆される。腫瘍形成性細胞は、正常幹細胞が受けるものに類似した器官形成の異常かつ十分に調節されないプロセスを経る癌幹細胞と考えることができる。腫瘍の異種性の一部は、引き続き存在する変異誘発が原因で生じるが、異種性はまた、癌細胞の異常分化によって生じる可能性も高い。
【0004】
多くのタイプの腫瘍が異種表現型の癌細胞を含み、腫瘍が発生する元の組織において通常起こる分化の様相を反映していることが十分に実証されている。腫瘍中の癌細胞による正常分化マーカーの多様な発現から、腫瘍の異種性の一部は、腫瘍細胞の異常分化の結果として起こることが示唆される。この例には、慢性骨髄性白血病における骨髄系マーカーの多様な発現、末梢神経外胚葉性腫瘍内での神経細胞マーカーの多様な発現、および乳癌内での乳タンパク質またはエストロゲン受容体の多様な発現が含まれる。
【0005】
癌細胞のごく一部しか大規模に増殖できないことが、白血病および多発性骨髄腫に関して最初に大々的に実証された。白血病細胞間のクローン形成能の差は、正常造血細胞間のクローン形成能の差を反映するため、クローン原性白血病細胞が白血病性幹細胞として説明された。また、これらの細胞の表現型が異種性であること、ならびに培養状態およびインビボでクローン原性である細胞はわずかな割合であることも、固形癌に関して示されている。白血病性幹細胞の状況とちょうど同じように、これらの観察結果は、ごく少数の癌細胞のみが実際に腫瘍形成性であること、およびこれらの腫瘍形成性細胞が癌幹細胞の役割を果たすという仮説につながった。
【0006】
この仮説を裏付けるように、最近の研究では、白血病および他の血液学的悪性腫瘍と同様に、乳癌細胞の腫瘍形成性集団および非腫瘍形成性集団を細胞表面マーカーの発現に基づいて単離できることが示されている。乳癌の多くの症例において、ごく一部の細胞集団だけが、新しい腫瘍を形成する能力を有した。この研究は、乳癌におけるCSCの存在を強く裏付ける。固形腫瘍中に存在する癌幹細胞の存在に関するさらなる証拠が、中枢神経系(CNS)悪性腫瘍において見出されている。正常神経幹細胞を培養するために使用されるものと類似した培養技術を用いたところ、神経細胞CNS悪性腫瘍はインビトロでクローン原性であり、インビボで腫瘍を開始させる癌細胞の小集団を含むが、腫瘍中の残りの細胞はこれらの特性を有さないことが示された。
【0007】
幹細胞は、自己複製によって自身を永続化させ、分化によって特定の組織の成熟細胞を生成する能力を有する細胞と定義される。大半の組織では、幹細胞はまれである。結果として、幹細胞の特性を研究するには、幹細胞をプロスペクティブに同定し、慎重に精製しなければならない。おそらく、幹細胞の最も重要かつ有用な特性は、自己複製という特性である。この特性を通じて、幹細胞と癌細胞との著しい類似点を見出すことができる:腫瘍はしばしば正常幹細胞の形質転換から生じ得、類似したシグナル伝達経路が幹細胞および癌細胞の自己複製を調節し得、癌は、腫瘍形成を推進する自己複製能力が無限である珍しい細胞を含み得る。
【0008】
癌幹細胞の存在は、癌療法に強く関連する。現在のところ、腫瘍中の表現型的に多様な癌細胞のすべてが、あたかも無制限の増殖能力を有し、転移能力を獲得できるかのように扱われている。しかしながら、長年に渡って、少数の播種性癌細胞が、転移性疾患を決して発症しない患者の原発腫瘍から離れた部位で検出され得ることが認識されている。1つの可能性は、播種性癌細胞が検出可能な腫瘍を形成できるよりも前に播種性癌細胞を死滅させる免疫監視が著しく効果的であるというものである。別の可能性は、大半の癌細胞は新しい腫瘍を形成する能力を欠き、希少な癌幹細胞の播種のみが転移性疾患をもたらし得るというものである。そうであれば、治療法の目標は、この癌幹細胞集団を特定し死滅させることでなければならない。
【0009】
癌幹細胞のプロスペクティブな同定および単離により、幹細胞によって発現される診断マーカーおよび治療標的のより効率的な同定が可能になると考えられる。治療法は腫瘍塊を縮小する能力によって確認されるため、既存の治療法のほとんどは腫瘍細胞の大集団に対して開発されている。しかしながら、癌内部の大半の細胞の増殖能力は限定されているため、腫瘍を縮小する能力は主に、これらの細胞を死滅させる能力を反映している。癌幹細胞をより特異的に対象とする治療法は、より長持ちする応答および転移性腫瘍の治癒をもたらす可能性がある。
【0010】
造血は、拘束度の高い前駆細胞を徐々に生じ、最終分化を遂げた血液細胞を最終的に生じる造血幹細胞(HSC)によって開始される、組織化された発生的階層制を経る(Bryder et al., 2006)。HSCの概念は新しいものではなかったが、1988年に初めて、蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いて、細胞表面マーカーに基づいてマウス骨髄からこの集団をプロスペクティブに単離できることが示された(Spangrude et al., 1988)。その時以来、マウスHSCの表面免疫表現型は次第に改良され、その結果、非常に優れた感度で機能的HSCを単離して、細胞1.3個中1個という精度を得ることができる(Kiel et al., 2005)。マウスHSCをプロスペクティブに単離する我々の能力は過去20年間で劇的に向上したものの、ヒト造血系の最初期の事象に関する我々の理解は遥かに遅れている。
【0011】
癌幹細胞は、例えば、Pardal et al. (2003) Nat Rev Cancer 3, 895-902; Reya et al. (2001) Nature 414, 105-11; Bonnet & Dick (1997) Nat Med 3, 730-7; Al-Hajj et al. (2003) Proc Natl Acad Sci U S A 100, 3983-8; Dontu et al. (2004) Breast Cancer Res 6, R605-15; Singh et al. (2004) Nature 432, 396-401において考察されている。
【0012】
多分化能前駆細胞を含むヒト臍帯血中の多分化能造血前駆細胞の階層の同定は、特に、多分化能前駆細胞を同定するマーカーの教示に関して、参照により本明細書に具体的に組み入れられるMajeti et al. (2007) Cell Stem Cell1(6):635-45において見出すことができる。
【発明の概要】
【0013】
急性骨髄性白血病幹細胞(AMLSC)のマーカーが本明細書において提供される。これらのマーカーは、正常な対応細胞と比べてAMLSCにおいて差次的に発現されるポリヌクレオチドまたはポリペプチドである。マーカーの使用には、治療的抗体またはリガンドに対する標的としての使用、薬物開発のための標的としての使用、およびAMLSC細胞集団の同定または選択のための使用が含まれる。
【0014】
AMLSCマーカーは、新規の急性骨髄性白血病、再発した急性骨髄性白血病、または難治性急性骨髄性白血病の患者を治療するための治療的モノクローナル抗体の標的として有用である。このようなモノクローナル抗体はまた、慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症、本態性血小板増加症、ならびに特発性の骨髄線維症および骨髄化生などを含む、骨髄異形成症候群(MDS)および骨髄増殖性障害(MPD)などの前白血病状態の治療において有用である。抗体には、遊離抗体およびそれに由来する抗原結合断片、ならびに結合体、例えば、ペグ化抗体、薬物結合体、放射性同位体結合体、または毒素結合体などが含まれる。
【0015】
いくつかの態様において、モノクローナル抗体の組合せが、ヒトAMLまたは前白血病状態の治療において使用される。1つの態様において、CD47に対するモノクローナル抗体、例えば、CD47とSIRPαの相互作用をブロックする抗体は、1種または複数種のその他のAMLSCマーカー、例えば、CD96、CD97、CD99、CD180、PTHR2、およびHAVCR2(TIM3とも呼ばれる)などに対するモノクローナル抗体と組み合わせられ、この組成物は、単一の抗体の使用と比べると、AML LSCの食作用および排除を強化する際に相乗的であり得る。
【0016】
これらのAMLSCマーカーは、急性骨髄性白血病患者または上記に概説した前白血病状態の患者に自家移植するにあたって使用するための自己由来幹細胞産物(動員された末梢血または骨髄)をエクスビボで浄化する際に使用するためのモノクローナル抗体の標的として有用である。前述したように、AML LSCに特異的な細胞表面分子に対するモノクローナル抗体の組合せは、LSCを排除する際に相乗的であり得る。
【0017】
AMLSCマーカーは、限定されるわけではないが、血液標本および/または骨髄標本からのAMLまたは前白血病状態の一次診断、脳脊髄液および他の体液の白血病転移(involvement)の評価、間欠期の疾患進行のモニタリング、ならびに微小残存病変状態のモニタリングを含む、臨床的診断用途において有用である。
【0018】
モノクローナル抗体の代替物として、AMLSCマーカーのリガンドを、単一の作用物質としてまたは組み合わせて使用して、AMLまたは上記に概説した前白血病状態においてそれらをターゲティングすることができる。患者に直接投与するためまたは自己由来幹細胞産物をエクスビボで浄化するために、リガンドは、遊離でもよく、または結合されていてもよい。いくつかの特異的分子およびそれらのリガンドには、限定されるわけではないが、CD96に結合するCD155-Fc融合タンパク質;PTHR2に結合するTIP39;HAVCR2に結合するガレクチン-9が含まれる。
【0019】
AMLSC細胞は、原発腫瘍試料からプロスペクティブに単離または同定され得、癌幹細胞の自己複製および分化に関する機能的アッセイ法において癌幹細胞の独特な特性を有する。
【0020】
本発明のいくつかの態様において、白血病中に存在する幹細胞に基づいて、急性骨髄性白血病を検出、分類、または臨床的病期分類するための方法が提供され、その際、幹細胞の数が多いほど、より侵攻性の高い癌表現型を示す。病期分類は予後および治療のために有用である。いくつかの態様において、腫瘍試料は、免疫組織化学およびインサイチューハイブリダイゼーションなどを含む組織化学によって、本明細書において提供される1種または複数種のAMLSCマーカーを発現するCD34+CD38-細胞の存在について解析される。このような細胞の存在は、AMLSCの存在を示唆する。
【0021】
本発明の別の態様において、AMLSCを単離するための方法であって、候補細胞集団を本明細書において提供される1種または複数種のAMLSCマーカーに特異的な結合反応物と接触させる段階、およびそれらの反応物に結合した細胞を選択する段階を含む方法が提供される。これらの細胞は、CD34+CD38-としてさらに選択してもよい。これらの細胞は、実験的評価のため、ならびにこれらの細胞で特異的に発現される遺伝子を同定する際に有用なmRNA種を含む系統および細胞に特異的な産生物の供給源として、ならびにそれらに影響を及ぼし得る因子または分子を発見するための標的として、有用である。AMLSCは、例えば、細胞に対する影響に基づいて化合物をスクリーニングする方法において使用され得る。これは、その化合物を本発明の細胞集団と組み合わせること、次いで、その化合物に起因する任意の調節的効果を測定することを含む。これは、生存力、毒性、代謝変化、または細胞機能に対する影響に関する細胞の検査を含んでよい。本明細書において説明するAMLSCの表現型により、疾患の進行、再発、および薬物耐性の発達を予測する手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】AML LSCと正常骨髄のHSCおよびMPPとの差次的な遺伝子発現。(A)骨髄HSC(n=4)とAML LSC(n=9)または骨髄MPP(n=4)とAML LSC(n=9)とで少なくとも2倍差次的に発現されることが判明した遺伝子を示すヒートマップ。遺伝子の中央値に対する発現を示す(p<0.05、FDR 5%)。(B)MPPまたはHSCよりもAML LSCにおいて少なくとも2倍高発現されることが判明した膜貫通型タンパク質の選抜リスト。NS:有意ではない。
【図2】CD47はAML LSCにおいての方が高発現される。動員された末梢血(MPB)HSCおよびAML LSCのCD47発現をフローサイトメトリーによって検査した。(A)アイソタイプ対照と比べたCD47発現を示す代表的なフローサイトメトリープロット。(B)分析した全試料におけるCD47発現の要約。平均値を表示している。
【図3】抗CD47抗体は、初代ヒトAML LSCのインビトロでのマクロファージ食作用を刺激する。2つの初代ヒトAML試料からFACSによってAML LSCを精製し、蛍光色素CFSEで標識し、アイソタイプ対照抗体(A)または抗CD47抗体(B)の存在下でマウス骨髄由来マクロファージと共にインキュベートした。免疫蛍光顕微鏡検査法により、蛍光標識したLSCがマクロファージ内部に存在するかどうかこれらの細胞を評価した。(C)マクロファージ100個当たりの摂取された細胞の数を算出することによって、各条件における食作用指数を決定した。
【図4】抗CD47抗体は、初代ヒトAML LSCのインビトロでのマクロファージ食作用を刺激する。初代ヒトAML試料2つからFACSによってAML LSCを精製し、蛍光色素CFSEで標識した。アイソタイプを一致させた対照抗体(左)または抗CD47抗体(右)の存在下で、これらの細胞をマウス骨髄由来マクロファージと共にインキュベートした。マクロファージを回収し、蛍光標識した抗マウスマクロファージ抗体で染色し、フローサイトメトリーによって解析した。mMac+CFSE+という二重陽性事象によって、CFSEで標識したLSCを貪食したマクロファージが確認される。(A、B)2つの独立した初代AML LSC試料。
【図5】抗CD47抗体は、初代ヒトAMLのインビボでの生着を阻害する。新生仔NOGマウスに移植する前に、2つの初代ヒトAML試料を、処理しないか(対照、n=3)、または抗ヒトCD47抗体(抗CD47、n=6)でコーティングした。13週後、マウスを屠殺し、ヒトCD45+CD33+骨髄性白血病細胞の存在についてフローサイトメトリーによって骨髄を解析した。
【図6】図6A〜B。正常HSCと比べた、AML LSCにおけるCD99発現。正常ヒト骨髄HSC(n=3)および新規なヒトAML LSC(n=7)のいくつかの試料においてCD99発現を検査した。HSCおよびLSCにおけるCD99発現の代表的なヒストグラム(左)および全標本の正規化した平均蛍光強度(MFI)の要約(右)を示す。AML LSCにおける平均CD99発現はHSCと比べて5.6倍に増大していた(p=0.05)。
【図7】図7A〜B。正常HSCと比べた、AML LSCにおけるCD97発現。正常ヒト骨髄HSC(n=3)および新規なヒトAML LSC(n=7)のいくつかの試料においてCD97発現を検査した。HSCおよびLSCにおけるCD97発現の代表的なヒストグラム(左)および全標本の正規化した平均蛍光強度(MFI)の要約(右)を示す。AML LSCにおける平均CD97発現はHSCと比べて7.9 倍に増大していた (p=0.03)。
【図8】図8A〜B。正常HSCと比べた、AML LSCにおけるCD180発現。正常ヒト骨髄HSC(n=3)および新規なヒトAML LSC(n=7)のいくつかの試料においてCD180発現を検査した。HSCおよびLSCにおけるCD180発現の代表的なヒストグラム(左)および全標本の正規化した平均蛍光強度(MFI)の要約(右)を示す。AML LSCにおける平均CD180発現はHSCと比べて60倍に増大していた(p=0.20)。
【図9】図9A〜B。正常HSCと比べた、AML LSCにおけるTIM3発現。正常ヒト骨髄HSC(n=3)および新規なヒトAML LSC(n=14)のいくつかの試料においてTIM3発現を検査した。HSCおよびLSCにおけるTIM3発現の代表的なヒストグラム(左)および全標本の正規化した平均蛍光強度(MFI)の要約(右)を示す。AML LSCにおける平均TIM3発現はHSCと比べて9倍に増大していた (p=0.01)。
【図10】正常HSCと比べた、AML LSCにおけるPTH2R発現。正常ヒト骨髄HSC(n=3)および新規なヒトAML LSC(n=9)のいくつかの試料においてPTH2R発現を検査した。qRT-PCRによって発現を測定し、対照としてのβ-アクチンを基準として表す。AML LSCにおける平均PTH2R発現はHSCと比べて21倍に増大していた(p<0.001)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
態様の詳細な説明
本発明は、急性骨髄性白血病幹細胞(AMLSC)において差次的に発現されるポリヌクレオチド、ならびにそれにコードされるポリペプチドを同定する。ひとまとめにしてAMLSCマーカーと呼ぶことができるこれらのポリヌクレオチドおよびポリペプチドが、癌細胞の増殖を検出、評価、および低減するために使用される方法が提供される。方法は、1つのマーカーまたはマーカーの組合せを使用してよく、その際、組合せは、2つ、3つ、またはそれ以上のマーカーを含んでよく、いくつかの態様において、1つ、2つ、またはそれ以上のマーカーと組み合わせてCD47を含む。本発明は、白血病状態および前白血病状態の予防、治療、検出、または調査に使用される。
【0024】
いくつかの態様において、本発明のマーカーはAMLSC細胞表面で発現される。いくつかの態様において、マーカーは、対応物である非形質転換細胞、例えば、ヒト造血幹細胞、および/またはヒト造血性多分化能前駆細胞の発現レベルの少なくとも2倍のレベルで発現され、その際、発現は、転写、mRNA蓄積、および/またはタンパク質蓄積のレベルとして測定され得る。他の態様において、マーカーは、対応物である非形質転換細胞の発現レベルより少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍またはそれ以上のレベルで発現される。
【0025】
本発明は、発現プロファイルに基づいて癌を診断し、白血病状態および前白血病状態を分類および治療する際に、本明細書において説明するマーカーを使用する方法を提供する。これらの方法は、AMLSCを検出するため、対象におけるAMLおよび癌の重症度(例えば、腫瘍グレードおよび腫瘍量など)の診断を容易にするため、対象の予後の判定を容易にするため、ならびに治療法に対する対象の応答性を評価するために有用である。本発明の検出方法は、インビトロもしくはインビボで、単離した細胞において、または組織全体もしくは体液、例えば、血液試料およびリンパ節生検試料などにおいて実施することができる。
【0026】
本明細書において使用される場合、「癌幹細胞において差次的に発現される遺伝子」および「癌幹細胞において差次的に発現されるポリヌクレオチド」という用語は本明細書において同義的に使用され、一般に、癌性ではない同じ細胞型の細胞と比べた場合、癌幹細胞において差次的に発現される遺伝子に相当または対応するポリヌクレオチドを意味し、例えば、mRNAは、少なくとも約25%、少なくとも約50%〜約75%、少なくとも約90%、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、または少なくとも約50倍もしくはそれ以上異なる(例えば、高いまたは低い)レベルで存在する。AMLSCと正常対応細胞であるヒト造血幹細胞(HSC)(限定されるわけではないが、表現型Lin-CD34+CD38-CD90+または表現型Lin-CD34+CD38-CD90+CD45RA-を有する細胞が含まれる)およびヒト造血性多分化能前駆細胞(MPP)(限定されるわけではないが、表現型Lin-CD34+CD38-CD90-または表現型Lin-CD34+CD38-CD90-CD45RA-を有する細胞が含まれる)とを比較することができる。「癌幹細胞のポリペプチドマーカー」という用語は、癌幹細胞において差次的に発現されるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドを意味する。
【0027】
本発明のいくつかの態様において、上記に定義したように、これらのマーカーはヒトHSCまたはMPPと比べた場合、AMLSCの大多数に存在することがフローサイトメトリーによって実証されている。このようなマーカーにはCD47、CD96、CD97、およびCD99が非限定的に含まれる。
【0028】
本発明の他の態様において、マーカーはヒトHSCにもヒトMPPにも存在しないが、AMLSCで高発現される。このようなマーカーには、表1に示すものが非限定的に含まれる。
【0029】
他の態様において、これらのマーカーは、ヒトHSCまたはMPPと比べた場合、AMLSCにおいて差次的に発現される。このようなマーカーには、表1に示すものが非限定的に含まれる。
【0030】
遺伝子に対応または相当するポリヌクレオチドまたは配列とは、そのポリヌクレオチドの配列の少なくとも一部分がその遺伝子または核酸遺伝子産物(例えば、mRNAもしくはcDNA)中に存在することを意味する。対象核酸はまた、ポリヌクレオチドが遺伝子に対応または相当する場合には、そのポリヌクレオチドに基づいて「同定」され得る。ポリヌクレオチドに基づいて同定される遺伝子は、その遺伝子のゲノム配列のエキソン内に全体が存在する同定(identifying)配列の全体もしくは一部分を有してよく、または、ポリヌクレオチド配列の別の部分が別のエキソン中に(例えば、連続したポリヌクレオチド配列が、スプライシングの前または後のいずれかに、遺伝子の発現産物であるmRNA中に存在するように)存在してもよい。「同定配列」とは、ポリヌクレオチド配列またはその相補物を一意的に同定するかまたは定める、連続したヌクレオチドからなる配列の最小断片である。
【0031】
ポリヌクレオチドは、正常細胞と比べて癌幹細胞(CSC)において改変されている遺伝子に相当または対応し得る。CSC中の遺伝子は、ポリヌクレオチドに対する欠失、置換、または転位を含んでよく、かつ、改変された調節配列を有してよく、または、例えばスプライス変異遺伝子産物をコードしてよい。CSC中の遺伝子は、内在性レトロウイルス、転位因子、または他の天然もしくは非天然の核酸の挿入によって改変され得る。
【0032】
関心対象の配列には、表1に示すものが含まれ、これらは正常対応細胞と比べてAMLSCにおいて差次的に発現される。
【0033】
また、第一の分類によって、かつその情報に基づいて治療法を最適化して、望ましくない毒性を最小限に抑えつつ、望ましくない標的細胞への抗増殖治療薬の送達の差を最適化する適切な治療法、用量、治療様式などを選択するための方法も提供される。治療は、有効な抗増殖活性を提供しつつ望ましくない毒性を最小限に抑える治療薬を選択することによって最適化される。
【0034】
本発明は、急性骨髄性白血病の予防、治療、検出、または調査に使用される。急性白血病は、造血幹細胞の悪性転換の結果として現れるクローンの芽細胞による正常骨髄の置換を特徴とする、急速に進行する白血病である。急性白血病には、急性リンパ芽球性白血病(ALL)および急性骨髄性白血病(AML)が含まれる。ALLはCNSにしばしば影響を与えるのに対し、急性単芽球性白血病は歯肉に影響を与え、AMLは任意の部位に局在した集団に影響を与える(顆粒球性肉腫または緑色腫)。AMLは成人を襲う最も一般的な急性白血病であり、その発病率は年齢とともに高まる。AMLは全体としては比較的珍しい疾患であり、米国における癌による死亡の約1.2%を占めるが、その発病率は人口が高齢化するにつれて上昇すると予想されている。
【0035】
通常、主症状は非特異的であり(例えば、疲労、発熱、倦怠感、体重減少)、正常な造血の失敗を反映する。貧血および血小板減少症が非常によく起こる(75〜90%)。WBC計数値は減少するか、正常であるか、または増加し得る。WBC計数値が著しく減少していなければ、芽細胞は通常、血液塗抹標本中に存在する。ALLの芽球は、組織化学的研究、細胞遺伝学、免疫表現型検査、および分子生物学的研究によってAMLの芽球と区別することができる。通常の染色剤、ターミナルトランスフェラーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、Sudan black B、ならびに特異的エステラーゼおよび非特異的エステラーゼを用いたスメア検査に加えられる。
【0036】
「診断」とは、本明細書において使用される場合、疾患または障害に対する対象の罹病性の判定、対象が疾患または障害に現在冒されているかどうかの判定、疾患または障害に冒された対象の予後(例えば、癌状態、癌の病期、または治療法に対する癌の応答性の特定)、および治療測定学(therametrics)の使用(例えば、治療法の効果または有効性に関する情報を提供するための対象の状態のモニタリング)を一般に含む。
【0037】
「生物試料」という用語は、生物から得られる様々な試料タイプを包含し、診断的アッセイ法またはモニタリングアッセイ法において使用することができる。この用語は、血液試料および生物に由来する他の液体試料、固形組織試料、例えば、生検標本もしくは組織培養物またはそれに由来する細胞およびその子孫を包含する。この用語は、調達後に任意の方法で、例えば、試薬による処理、可溶化、または特定の成分の濃縮によって操作された試料を包含する。この用語は臨床試料を包含し、また、細胞培養中の細胞、細胞上清、細胞溶解物、血清、血漿、生物学的流体、および組織試料も含む。
【0038】
「治療」、「治療すること」、および「治療する」などの用語は、所望の薬理学的効果および/または生理的効果を得ることを一般に意味するために本明細書において使用される。この効果は、疾患もしくはその症状を完全もしくは部分的に予防するという点で予防的であってよく、かつ/または、疾患および/もしくは疾患に起因しうる有害作用に対する部分的もしくは完全な安定化もしくは治癒という点で治療的であってよい。本明細書において使用される「治療」は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の治療を包含し、(a)疾患もしくは症状に罹患しやすい可能性があるが、それを有するとまだ診断されていない対象において疾患もしくは症状が起こるのを防止すること;(b)疾患症状を抑制すること、すなわち、その発達を阻止すること;または(c)疾患症状を緩和すること、すなわち、疾患もしくは症状の退行を引き起こすこと、を含む。
【0039】
「個体」、「対象」、「宿主」、および「患者」という用語は、本明細書において同義的に使用され、診断、治療、または治療法が望まれる任意の哺乳動物対象、特にヒトを意味する。
【0040】
「宿主細胞」は、本明細書において使用される場合、組換えベクターまたは他の移入ポリヌクレオチドのレシピエントとして使用され得るか、または使用された、単細胞実体として培養される微生物または真核細胞もしくは真核細胞株を意味し、トランスフェクトされた元の細胞の子孫を含む。天然、偶発的、または意図的な変異が原因で、単一の細胞の子孫の形態またはゲノム相補物もしくは全DNA相補物が元の親と必ずしも完全に同一ではない場合があることが理解されよう。
【0041】
「癌」、「新生物」、「腫瘍」、および「癌腫」という用語は、本明細書において同義的に使用され、比較的自律的な増殖を示し、その結果、細胞増殖制御の著しい低下を特徴する異常増殖表現型を示す細胞を意味する。一般に、本出願における検出または治療のための関心対象の細胞には、前癌性(例えば良性)細胞、悪性細胞、前転移性細胞、転移性細胞、および非転移性細胞が含まれる。癌性細胞の検出は、特に関心対象である。「正常細胞」の文脈で使用される「正常」という用語は、形質転換されていない表現型の細胞、または検査される組織型の非形質転換細胞の形態を示す細胞を意味することを意図している。「癌性表現型」とは、一般に、癌のタイプによって変化し得る、癌性細胞に特徴的である様々な生物学的現象のいずれかを意味する。一般に、癌性表現型は、例えば、細胞の成長もしくは増殖の異常(例えば、制御不能な成長もしくは増殖)、細胞周期の調節の異常、細胞運動性の異常、細胞間相互作用の異常、または転移などに基づいて確認される。
【0042】
「治療的標的」とは、(例えば、発現および生物活性などの調整によって)その活性を調整すると、癌性表現型が調整され得る遺伝子または遺伝子産物を意味する。全体を通して使用されるように、「調整」とは、指定された現象の増加または減少を意味することを意図している(例えば、生物活性の調整とは、生物活性の増加または生物活性の減少を意味する)。
【0043】
急性骨髄性白血病
急性骨髄性白血病(Acute Myelocytic Leukemia)(AML、Acute Myelogenous Leukemia; Acute Myeloid Leukemia)。AMLでは、異常に分化した長命の骨髄系前駆細胞の悪性転換および制御不能な増殖の結果、未熟な血液形態の数が循環血中で多くなり、正常骨髄が悪性細胞によって置換される。症状には、疲労、蒼白、挫傷および出血しやすくなること、発熱、ならびに感染が含まれ;白血病浸潤の症状(多くの場合、皮膚症状として)は患者の約5%にしか存在しない。末梢血塗抹標本および骨髄の検査は診断的である。治療には、寛解を実現するための導入化学療法および再発を回避するための寛解後化学療法(幹細胞移植を併用または併用しない)が含まれる。
【0044】
AMLにはいくつかの亜型があり、これらは、形態、免疫表現型、および細胞化学の点で互いから区別される。顕著な細胞型に基づいて5つのクラスが説明されており、骨髄性、骨髄性単球性、単球性、赤血球性、および巨核球性が含まれる。急性前骨髄球性白血病は、特に重要な亜型であり、AMLの全症例の10〜15%を占め、若年齢群(年齢中央値31歳)および特定の民族性(ラテンアメリカ系)を襲い、患者は一般に凝血障害を示す。
【0045】
寛解導入率は50〜85%に及ぶ。報告によれば、長期の無病生存は、患者の20〜40%で起こり、幹細胞移植で治療した若年患者では40〜50%に上昇する。
【0046】
予後因子は、治療のプロトコールおよび強さを決定するのを助ける;予後特徴が著しく不良である(negative)患者には、潜在的利益が治療毒性の増大を正当化すると考えられるため、より強い形態の治療法が通常施される。最も重要な予後因子は白血病細胞核型である;好ましい核型には、t(15;17)、t(8;21)、およびinv16(p13;q22)が含まれる。負の因子には、加齢、先行する脊髄形成異常段階、二次性白血病、高いWBC計数値、およびアウエル小体の欠如が含まれる。FAB分類またはWHO分類は単独では応答を予測していない。
【0047】
初期療法は、寛解を導入しようとするが、AMLは応答する薬物が少ないため、ALLとは大きく異なる。基本的な導入治療プログラムは、5〜7日間の持続的IV輸注または高用量によるシタラビンを含む;この期間中、ダウノルビシンまたはイダルビシンが3日間IV投与される。いくつかの治療プログラムは、6-チオグアニン、エトポシド、ビンクリスチン、およびプレドニゾンを含むが、それらの寄与は不明である。通常、治療により、感染症または出血を伴う顕著な骨髄抑制が起こる;骨髄回復の前にかなりの潜伏期がある。この期間中、注意深い予防的かつ支持的な治療が不可欠である。
【0048】
ポリペプチド配列およびポリヌクレオチド配列ならびに抗体
本発明は、ヒトAMLSCにおいて差次的に発現される遺伝子に相当するポリヌクレオチドおよびポリペプチドを提供する。これらのポリヌクレオチド、ポリペプチドおよびそれらの断片には、限定されるわけではないが、診断用のプローブおよびプライマー、プローブおよびプライマーの出発原料、癌の診断および治療法において有用な抗体に対する免疫原、ならびに本明細書において説明する同種のものが含まれる用途がある。
【0049】
核酸組成物には断片およびプライマーが含まれ、これらは、少なくとも約15bp長、少なくとも約30bp長、少なくとも約50bp長、少なくとも約100bp、少なくとも約200bp長、少なくとも約300bp長、少なくとも約500bp長、少なくとも約800bp長、少なくとも約1kb長、少なくとも約2.0kb長、少なくとも約3.0kb長、少なくとも約5kb長、少なくとも約10kb長、少なくとも約50kb長であり、通常、約200kb長未満である。いくつかの態様において、ポリヌクレオチドの断片は、ポリヌクレオチドのコード配列である。また、本明細書において提供される配列の変異体または縮重変異体も含まれる。一般に、本明細書において提供されるポリヌクレオチドの変異体は、スミス-ウォーターマンホモロジー検索アルゴリズムをMPSRCHプログラム(Oxford Molecular)で実施して測定した場合に、提供される配列の同一サイズの断片と比べて、少なくとも約65%を上回る、少なくとも約70%を上回る、少なくとも約75%を上回る、少なくとも約80%を上回る、少なくとも約85%を上回る、もしくは少なくとも約90%、95%、96%、97%、98%、99%を上回る、またはそれ以上(すなわち100%)である配列同一性の断片を有する。配列類似性を有する核酸は、低ストリンジェンシー条件下、例えば、50℃、10×SSC(0.9M生理食塩水/0.09Mクエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーションによって検出することができ、これらは、1×SSC中55℃での洗浄に供した場合に、結合されたままである。配列同一性は、高ストリンジェンシー条件下、例えば、50℃またはそれ以上、0.1×SSC(9mM生理食塩水/0.9mMクエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーションによって測定することができる。ハイブリダイゼーションの方法および条件は当技術分野において周知であり、例えば、米国特許第5,707,829号を参照されたい。提供されるポリヌクレオチド配列と実質的に同一である核酸、例えば、対立遺伝子変異体、遺伝子の遺伝的に改変された変種などは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、提供されるポリヌクレオチド配列に結合する。
【0050】
本明細書において説明するポリヌクレオチドに特異的なプローブは、本明細書において開示するポリヌクレオチド配列を用いて作製することができる。これらのプローブは通常、本明細書において提供されるポリヌクレオチド配列の断片である。これらのプローブは化学合成することができるか、または制限酵素を用いて、より長いポリヌクレオチドから作製することができる。プローブは、例えば、放射性タグ、ビオチン標識タグ、または蛍光タグで標識することができる。好ましくは、プローブは、本明細書において提供されるポリヌクレオチド配列のいずれか一つの同定配列に基づいて設計される。
【0051】
本明細書において説明する核酸組成物は、例えば、ポリペプチドを作製するために、生物試料(例えば、ヒト細胞の抽出物)中のmRNAまたはそのような試料から作製されたcDNAを検出するためのプローブとして、ポリヌクレオチドのさらなるコピーを生成させるために、リボザイムまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドを作製するために、および一本鎖DNAプローブとして、または三重鎖を形成するオリゴヌクレオチドとして、使用することができる。
【0052】
本明細書において説明するプローブは、例えば、試料中の本明細書において提供されるポリヌクレオチドまたはその変異体のいずれか一つの存在または不在を判定するために使用することができる。これらの用途および他の用途を下記により詳細に説明する。1つの態様において、リアルタイムPCR解析を用いて遺伝子発現を解析する。
【0053】
本発明によって企図されるポリペプチドには、開示されるポリヌクレオチドおよびこれらのポリヌクレオチドが対応する遺伝子、ならびに、遺伝コードの縮重が原因で、開示されるポリヌクレオチドと配列が同一ではない核酸にコードされるものが含まれる。本発明によって企図されるその他のポリペプチドには、配列リストのポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドが含まれる。したがって、本発明は、本明細書において提供されるポリヌクレオチド配列のいずれか一つの配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異体にコードされるポリペプチドをその範囲内に含む。
【0054】
概して、本明細書において使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、列挙されたポリヌクレオチドにコードされる完全長ポリペプチドと列挙されたポリヌクレオチドによって表される遺伝子にコードされるポリペプチドの両方、ならびにそれらの一部分または断片を意味する。また、「ポリペプチド」は、天然タンパク質の変異体も含み、このような変異体は、天然タンパク質と相同または実質的に同様であり、天然タンパク質と同じまたは異なる種に由来してよい。一般に、変異体ポリペプチドは、本明細書において説明する差次的に発現されるポリペプチドと少なくとも約80%、通常、少なくとも約90%、およびさらに普通には少なくとも約98%の配列同一性を有する配列を有する。変異体ポリペプチドは、天然にまたは非天然にグリコシル化されていてよい。すなわち、ポリペプチドは、天然に存在する対応するタンパク質において見出されるグリコシル化パターンとは異なるグリコシル化パターンを有する。
【0055】
本明細書において開示するポリペプチドの断片、特に生物学的に活性な断片、および/または機能的ドメインに対応する断片が、関心対象である。関心対象の断片は、典型的には、少なくとも約10アミノ酸長〜少なくとも約15アミノ酸長であり、通常、少なくとも約50アミノ酸長であり、300アミノ酸長ほどの長さまたはそれより長くてもよいが、本明細書において提供されるポリヌクレオチド配列のいずれか一つの配列を有するポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドまたはそのホモログに同一であるアミノ酸ストレッチを断片が有すると考えられる約1000アミノ酸長を通常は超えない。例えば、「少なくとも20アミノ酸長」の断片は、例えば、寄託ライブラリーに含まれるcDNAクローン中のcDNAまたはその相補鎖にコードされるポリペプチドに由来する20個またはそれ以上の連続したアミノ酸を含むと意図される。この文脈において、「約」は、具体的に挙げた値またはアミノ酸数個(5個、4個、3個、2個、もしくは1個)分大きいもしくは小さい値を含む。本明細書において説明するタンパク質変異体は、本発明の範囲内のポリヌクレオチドにコードされる。遺伝コードを用いて、対応する変異体を構築するのに適切なコドンを選択することができる。これらのポリヌクレオチドを用いてポリペプチドを作製することができ、前述および後述の公知の方法により、これらのポリペプチドを用いて抗体を作製することができる。
【0056】
本発明のポリペプチドは、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン交換クロマトグラフィーまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィーを含む周知の方法によって、組換え細胞培養物から回収および精製することができる。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)を精製のために使用する。
【0057】
ポリペプチドはまた、直接単離されたか培養されたかを問わず、体液、組織、および細胞を含む天然供給源から精製された産生物;化学合成手順による生成物;ならびに、例えば、細菌細胞、酵母高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む原核性宿主または真核性宿主から組換え技術によって産生させた産生物、から回収することができる。
【0058】
ポリペプチド、mRNA(特に、独特の二次構造および/または三次構造を有するmRNA)、cDNA、または完全な遺伝子を含む遺伝子産物を調製し、実験目的、診断目的、および治療目的のための抗体を産生させるために使用することができる。AMLSC細胞または亜型を同定するために抗体を使用することができる。本明細書において説明するようにして、ポリヌクレオチドまたは関連cDNAを発現させ、抗体を調製する。これらの抗体は、そのポリヌクレオチドにコードされるポリペプチド上のエピトープに特異的であり、細胞調製物もしくは組織調製物中、またはインビトロ発現系の無細胞抽出物中の対応する未変性タンパク質を沈殿させるか、またはそれに結合することができる。
【0059】
抗体は、細胞および生物試料の免疫表現型検査のために使用することができる。差次的に発現された遺伝子の翻訳産物はマーカーとして有用である場合がある。特異的エピトープまたはエピトープの組合せに対するモノクローナル抗体により、マーカーを発現する細胞集団のスクリーニングが可能になる。モノクローナル抗体を用いて様々な技術を利用して、マーカーを発現する細胞集団をスクリーニングすることができ、これらの技術には、抗体でコーティングした磁性ビーズを用いた磁気分離、固体マトリックス(すなわちプレート)に結合させた抗体を用いた「パンニング」、およびフローサイトメトリーが含まれる(例えば、米国特許第5,985,660号およびMorrison et al. Cell, 96:737-49 (1999)を参照されたい)。これらの技術により、生検標本の免疫組織化学において;ならびに、癌細胞によって血液および他の生物学的流体中に放出されるマーカーの存在を検出する際に、細胞の特定の集団をスクリーニングすることが可能になる。
【0060】
多くの態様において、対象の遺伝子または遺伝子産物のレベルが測定される。測定するとは、直接的(例えば、遺伝子産物の絶対的レベルを決定もしくは推定することによって)または第2の対照生物試料にレベルを比較することによって相対的に、第1の生物試料中の遺伝子産物のレベルを定性的または定量的に推定することを意味する。多くの態様において、第2の対照生物試料は、癌に罹患していない個体から得られる。当技術分野において理解されるように、遺伝子発現の標準的な対照レベルが一度公知になると、比較用の標準としてそれを繰り返し使用することができる。他の対照試料には癌組織の試料が含まれる。
【0061】
これらの方法を用いて、癌細胞において差次的に発現される遺伝子のmRNAレベルを検出および/または測定することができる。いくつかの態様において、これらの方法は、ハイブリダイゼーションを可能にする条件下で、本明細書において説明する差次的に発現される遺伝子に対応するポリヌクレオチドと試料を接触させる段階;および、もしあればハイブリダイゼーションを検出する段階を含む。適切な対照と比べた場合に差次的なハイブリダイゼーションの検出は、癌細胞において差次的に発現されるポリヌクレオチドが試料中に存在することを暗示する。適切な対照には、例えば、癌細胞において差次的に発現されるポリヌクレオチドを含まないことが公知である試料が含まれる。ハイブリダイゼーションを可能にする条件は当技術分野において公知であり、上記でより詳細に説明した。
【0062】
また、適切に標識したポリヌクレオチドを用いて、限定されるわけではないが、インサイチューハイブリダイゼーション、PCR(polymerase chain reaction)、RT-PCR(reverse transcription-PCR)、および「ノーザン」ブロット法もしくはRNAブロット法、アレイ、マイクロアレイなど、またはこのような技術の組合せを含む任意の公知の方法によって検出を遂行することもできる。ポリヌクレオチドに対する様々な標識および標識方法が当技術分野において公知であり、本発明のアッセイ方法において使用することができる。特異的ハイブリダイゼーションは、適切な対照と比較することによって判定することができる。
【0063】
例えば、マイクロアレイ形式、ノーザンブロットなどにおいて、標識された核酸プローブを用いて、提供されるポリヌクレオチドに対応する遺伝子の発現を検出することができる。ハイブリダイゼーションの量を定量して、例えば特定の条件下での発現の相対量を決定することができる。プローブは、発現を検出するための細胞へのインサイチューハイブリダイゼーションのために使用される。また、プローブは、ハイブリダイズする配列を診断用に検出するためにインビボで使用することもできる。プローブは放射性同位体で標識してよい。発色団、蛍光体、および酵素など他のタイプの検出可能標識を使用することもできる。
【0064】
ポリヌクレオチドアレイは、試料中の多数のポリヌクレオチドまたはポリペプチドを分析できるハイスループットな技術を提供する。この技術は、差次的な発現を試験するための道具として使用することができる。アレイを作製する様々な方法、ならびにこれらの方法の変形法が当技術分野において公知であり、本発明で使用するために企図される。例えば、結合されたプローブを有する二次元のマトリックスまたはアレイ中の基板(例えば、ガラス、ニトロセルロースなど)上にポリヌクレオチドプローブをスポットすることによってアレイを作り出すことができる。プローブは、共有結合または非特異的な相互作用、例えば疎水性相互作用のいずれかによって基板に結合され得る。
【0065】
急性骨髄性白血病幹細胞の特徴付け
急性骨髄性白血病において、癌幹細胞の特徴付けにより、この決定的に重要な細胞集団、特にそれらの自己複製能力を特異的にターゲティングする新しい治療薬の開発が可能になって、より有効な治療法が得られる。
【0066】
ヒト急性骨髄性白血病において、自己複製能力と分化能力の両方を備えた腫瘍形成性癌細胞の部分集団が存在することが本明細書において示される。これらの腫瘍形成性細胞は腫瘍維持を担っており、また、腫瘍形成性ではない異常に分化する子孫を多数生じ、したがって、癌幹細胞の基準を満たす。腫瘍形成能力は、本発明のマーカーを差次的に発現する癌細胞の部分集団に含まれる。
【0067】
本発明のいくつかの態様において、AML癌細胞の総数と比べて患者試料中のAMLSCの数を測定し、その際、AMLSCの比率が高いことは、癌表現型を有する細胞の継続的な自己複製能力を示す。患者試料中のAMLSCの定量は、参照集団、例えば、血液試料、寛解患者試料などの患者試料と比較することができる。いくつかの態様において、AMLSCの定量は、治療過程の間に実施され、AML癌細胞の数およびAMLSCであるそのような細胞の百分率が、治療法の過程の前、間、およびその追跡検査として定量される。望ましくは、癌幹細胞をターゲティングする治療法により、患者試料中のAMLSCの総数および/または百分率が減少する。
【0068】
本発明の他の態様において、抗癌剤は、本発明のマーカーまたはマーカーの組合せに特異的に結合することによってAMLSCをターゲティングする。このような態様において、抗癌剤には、本発明のマーカーまたはマーカーの組合せに特異的な抗体およびその抗原結合派生物が含まれ、これらは細胞障害性部分に結合されていてもよい。AMLSCの枯渇は、AML治療において有用である。枯渇により、最大約30%、または最大約40%、または最大約50%、または最大約75%もしくはそれ以上の循環血中AMLSCの減少が達成される。枯渇は、インビボまたはエクスビボのいずれかでAMLSCを枯渇させる作用物質を用いることによって達成することができる。
【0069】
AMLSCは、特定のマーカーに関する表現型に基づいて、かつ/またはそれらの機能的表現型に基づいて同定される。いくつかの態様において、AMLSCは、関心対象のマーカーに特異的な反応物を細胞に結合させることによって、同定および/または単離される。解析しようとする細胞は生細胞でよく、または固定もしくは包埋された細胞でよい。
【0070】
いくつかの態様において、関心対象のマーカーに特異的な反応物は、直接的または間接的に標識されていてよい抗体である。このような抗体には、通常、本発明のマーカーまたはマーカーの組合せに特異的な抗体が含まれる。
【0071】
癌治療
本発明はさらに、癌細胞の増殖を低減させる方法も提供する。これらの方法は、本明細書において提供される特異的マーカーもしくはマーカーの組合せを有する癌細胞の数を減少させるか、癌細胞において差次的に発現される遺伝子の発現を低減させるか、または癌関連ポリペプチドのレベルを低下させるか、かつ/もしくはその活性を低下させることを提供する。一般に、これらの方法は、癌細胞を結合物質、例えば、本明細書において提供されるマーカーまたはマーカーの組合せに特異的な抗体またはリガンドに接触させる段階を含む。
【0072】
「癌細胞の増殖を低減させること」には、癌細胞の増殖を低減させること、および非癌細胞が癌細胞になる発生率を低下させることが含まれるが、それらに限定されるわけではない。癌細胞増殖の低減が実現されたかどうかは、限定されるわけではないが、[3H]-チミジン取込み、ある期間に渡る細胞数の計数、AML関連マーカーの検出および/または測定などを含む、任意の公知のアッセイ法を用いて容易に判定することができる。
【0073】
本発明は、癌細胞増殖を低減させ、かつ癌を治療するのに十分な量で、癌細胞増殖を低減させる物質をそれを必要とする個体に投与する段階を一般に含む、癌を治療するための方法を提供する。ある物質、または特定の量のその物質が、癌を治療する上で有効であるかどうかは、限定されるわけではないが、生検、造影X線撮影による研究、CATスキャン、および個体の血液中の癌関連腫瘍マーカーの検出を含む、様々な公知の癌診断アッセイ法のいずれかを用いて評価することができる。物質は、全身的または局所的、通常は全身的に投与することができる。
【0074】
物質、例えば、癌細胞増殖を低減させる化学療法薬は、癌細胞にターゲティングすることができる。したがって、いくつかの態様において、本発明は、薬物-抗体複合体を対象に投与する段階を含む、癌細胞に薬物を送達する方法を提供し、本方法において、抗体は癌関連ポリペプチドに特異的であり、薬物は癌細胞増殖を低減させる薬物であり、様々なこれらの薬物が当技術分野において公知である。ターゲティングは、癌関連ポリペプチドに特異的な抗体に薬物を結合する(例えば、薬物-抗体複合体を形成するように、直接またはリンカー分子を介して、共有結合的または非共有結合的に連結する)ことによって達成することができる。薬物を抗体に結合する方法は当技術分野において周知であり、本明細書において詳述する必要はない。
【0075】
病期分類および診断
急性骨髄性白血病は、癌幹細胞の存在の解析によって病期分類される。病期分類は予後診断および治療のために有用である。本発明の1つの態様において、急性骨髄性白血病患者由来の試料は、本発明のマーカーまたはマーカーの組合せに特異的な反応物で染色される。染色パターンの解析により、AMLSCの相対的分布が提供され、この分布から白血病の病期が予測される。いくつかの態様において、試料は、免疫組織化学およびインサイチューハイブリダイゼーションなどを含む組織化学によって、本発明のマーカーまたはマーカーの組合せを発現するCD34+CD38-細胞の存在について解析される。このような細胞の存在は、AMLSCの存在を示唆する。
【0076】
1つの態様において、患者試料は、対照または標準的な試験値と比較される。別の態様において、患者試料は、前白血病試料と、または疾患の過程の1つもしくは複数の時点と比較される。
【0077】
組織切片、スライドなどを含む、急性骨髄性白血病組織を含む試料は、癌幹細胞の存在を示すマーカーに特異的な反応物で染色される。試料は、凍結したもの、包埋したもの、および組織マイクロアレイ中に存在するものなどでよい。これらの反応物、例えば抗体、ポリヌクレオチドプローブなどは、検出可能に標識されてもよく、または染色手順において間接的に標識されてもよい。本明細書において提供されるデータから、前駆細胞の数および分布が、白血病の病期の指標となることが実証される。
【0078】
このようにして導き出された情報は、疾患の加速に対する感受性、罹病状態の状況、および時間経過、薬物治療、または他の様式などの環境変化に対する応答を含む、予後および診断の際に有用である。これらの細胞はまた、治療物質および治療薬に応答する能力に関して分類すること、調査目的のために単離すること、ならびに遺伝子発現についてスクリーニングすることなどができる。分類に有用なマーカーの存在を判定するために、遺伝的解析、プロテオミクス、細胞表面染色、または他の手段によって臨床試料をさらに特徴付けることができる。例えば、遺伝的異常は、疾患への罹病性もしくは薬物応答性の原因であり得、またはこのような表現型に関係し得る。
【0079】
差次的な細胞解析
患者試料中のAMLSCの存在は、白血病の病期を示し得る。さらに、AMLSCの検出を用いて、治療法に対する応答をモニターし、予後を助けることができる。AMLSCの存在は、幹細胞の表現型を有する細胞を定量することによって判定することができる。細胞表面表現型解析のほかに、「幹細胞」特徴を有する試料中の細胞を定量することも有用である場合があり、この特徴は、機能的基準、例えば、自己複製する能力およびインビボで(例えば異種移植モデルにおいて)腫瘍を生じる能力などによって判定することができる。
【0080】
本発明の方法で使用するための臨床試料は、様々な供給源、特に血液から得ることができるが、場合によっては、骨髄、リンパ、脳脊髄液、および滑液などの試料を使用してもよい。このような試料は、解析に先立って、遠心分離、水ひ、密度勾配分離、アフェレーシス、親和性選択、パンニング法、FACS、ヒパク(Hypaque)を用いた遠心分離などによって分離することができ、普通は、単核画分(PBMC)が使用される。試料が一度得られると、それは、直接使用するか、凍結するか、または適切な培地中で短期間維持してよい。様々な培地が、細胞を維持するために使用され得る。これらの試料は、血液の抜き取り、静脈穿刺、または生検など任意の簡便な手順によって得ることができる。普通、試料は、少なくとも約102個の細胞、より普通には、少なくとも約103個の細胞、および好ましくは104個、105個またはそれ以上の細胞を含む。典型的には、これらの試料はヒト患者に由来するが、動物モデル、例えば、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、げっ歯動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、霊長類なども使用され得る。
【0081】
細胞試料を分散または懸濁するために、適切な溶液を使用してよい。一般に、このような溶液は、便宜的にウシ胎児血清または他の天然に存在する因子を補充され、低濃度(一般に5〜25mM)の許容される緩衝液と組み合わせた、平衡塩類溶液、例えば、生理食塩水、PBS、ハンクス平衡塩類溶液などである。簡便な緩衝液には、HEPES、リン酸緩衝液、乳酸緩衝液などが含まれる。
【0082】
細胞染色の解析では、従来の方法を使用する。正確な計数を与える技術には、様々な程度の精巧さ、例えば、複数のカラーチャンネル、小角および鈍角の光散乱検出チャンネル、インピーダンスチャンネルなどを有することができる蛍光標示式細胞分取器が含まれる。死細胞に関連した色素(例えばヨウ化プロピジウム)を使用することによって、死細胞からこれらの細胞を選別することができる。
【0083】
親和性反応物は、上記に示した細胞表面分子に対して特異的な受容体またはリガンドでよい。抗体反応物のほかに、ペプチド-MHC抗原およびT細胞受容体のペアを使用することができる;ペプチドリガンドおよび受容体;ならびにエフェクター分子および受容体分子など。抗体およびT細胞受容体はモノクローナルまたはポリクローナルでよく、トランスジェニック動物、免疫化した動物、不死化したヒトB細胞または動物B細胞、抗体またはT細胞受容体をコードするDNAベクターをトランスフェクトした細胞などによって産生され得る。抗体の調製および特異的結合メンバーとして使用するためのそれらの適性に関する詳細は、当業者に周知である。
【0084】
親和性反応物としての抗体の使用が、特に関心対象である。便宜的に、これらの抗体は、分離する際に使用するための標識と結合される。標識には、直接的な分離を可能にする磁性ビーズ、支持体に結合されたアビジンもしくはストレプトアビジンを用いて除去できるビオチン、蛍光標示式細胞分取器と共に使用できる蛍光色素、または特定の細胞型の分離を容易にする同種のものが含まれる。使用される蛍光色素には、フィコビリンタンパク質、例えば、フィコエリトリンおよびアロフィコシアニン、フルオレセイン、ならびにテキサスレッドが含まれる。しばしば、各抗体を異なる蛍光色素で標識して、各マーカーに対する個別の選別を可能にする。
【0085】
細胞懸濁液にこれらの抗体を添加し、利用可能な細胞表面抗原に結合するのに十分な一定期間、インキュベートする。インキュベーションは通常少なくとも約5分であり、通常、約30分未満である。分離効率が抗体の不足によって制限されないように、反応混合物中の抗体濃度が十分であることが望ましい。適切な濃度は、滴定によって決定される。細胞を分離する場となる培地は、細胞の生存能力を維持する任意の培地である。好ましい培地は、0.1〜0.5%のBSAを含むリン酸緩衝化生理食塩水である。ウシ胎児血清、BSA、HSAなどをしばしば添加された、ダルベッコ改変イーグル培地(dMEM)、ハンクス塩基性塩溶液(Hank's Basic Salt Solution)(HBSS)、ダルベッコリン酸緩衝化生理食塩水(dPBS)、RPMI、イスコフの培地、5mM EDTAを含むPBSなどを含む様々な培地が市販されており、細胞の性質に応じて使用してよい。
【0086】
次いで、以前に説明されているようにして、細胞表面マーカーの発現に関して、標識した細胞を定量する。
【0087】
患者試料から得た差次的な前駆細胞解析と参照用の差次的な前駆細胞解析の比較は、適切な演繹プロトコール、AIシステム、統計学的比較などを用いることによって遂行する。正常細胞および類似した罹病組織に由来する細胞など参照用の差次的な前駆細胞解析と比較することにより、疾患病期分類の指標が提供され得る。参照用の差次的な前駆細胞解析のデータベースをまとめることができる。特に関心対象の解析では、例えば、疾患の慢性病期および前白血病病期の患者を追跡し、その結果、疾患の加速が早期に観察される。本発明の方法は、臨床症状の発現に先立つ加速の検出を提供し、したがって、早期の治療的介入、例えば、化学療法の開始、化学療法用量の増加、および化学療法薬の選択の変更などを可能にする。
【0088】
AMLSC組成物
AMLSCは、本発明のマーカーまたはマーカーの組合せを差次的に発現する細胞を濃縮する技術によって、細胞の複合混合物から分離することができる。組織から細胞を単離するために、分散または懸濁用に適切な溶液を使用してよい。一般に、このような溶液は、便宜的にウシ胎児血清または他の天然に存在する因子を添加され、低濃度(一般に5〜25mM)の許容される緩衝液と組み合わせた、平衡塩類溶液、例えば、生理食塩水、PBS、ハンクス平衡塩類溶液などである。簡便な緩衝液には、HEPES、リン酸緩衝液、乳酸緩衝液などが含まれる。
【0089】
分離した細胞は、細胞の生存能力を維持し、通常、採集チューブの底に血清のクッションを有する任意の適切な培地中に採取してよい。ウシ胎児血清をしばしば添加された、dMEM、HBSS、dPBS、RPMI、イスコフの培地などを含む様々な培地が市販されており、細胞の性質に応じて使用してよい。
【0090】
AMLSCを著しく濃縮した組成物が、この様式で実現される。対象集団は、細胞組成物の50%または約50%もしくはそれ以上でよく、好ましくは、細胞組成物の75%または約75%もしくはそれ以上でよく、90%またはそれ以上でよい。所望の細胞は、表面の表現型に基づいて、自己複製能力、腫瘍形成能力などに基づいて、同定される。濃縮した細胞集団は、直ちに使用してもよく、または、液体窒素温度で凍結し、長期間保存して、解凍し再利用できるようにしてもよい。細胞は、10%DMSO、90%FCS培地中で保存してよい。AMLSCを濃縮した細胞集団は、後述するように、様々なスクリーニングアッセイ法および培養において使用することができる。
【0091】
濃縮したAMLSC集団は、様々な培養条件下、インビトロで増殖させることができる。培地は、液体または半固体、例えば、寒天、メチルセルロースなどを含むものでよい。細胞集団は、ウシ胎児血清(約5〜10%)、L-グルタミン、チオール、特に2-メルカプトエタノール、ならびに抗生物質、例えば、ペニシリンおよびストレプトマイシンを通常は添加された、イスコフ改変DMEMまたはRPMI-1640などの適切な栄養培地中に便宜的に懸濁することができる。
【0092】
培養物は、細胞が応答性である増殖因子を含んでよい。本明細書において定義されるように、増殖因子とは、膜貫通型受容体への特異的作用を介して、培養状態または無傷の組織中の細胞の生存、増殖、および/または分化を促進できる分子である。増殖因子には、ポリペプチドおよび非ポリペプチド因子が含まれる。細胞を培養する際に、多種多様の増殖因子を使用してよい。例えば、LIF、スチール因子(c-kitリガンド)、EGF、インスリン、IGF、Flk-2リガンド、IL-11、IL-3、GM-CSF、エリスロポエチン、トロンボポエチンなどである。
【0093】
増殖因子に加えて、またはその代わりに、線維芽細胞、間質細胞、または他のフィーダー層細胞との同時培養で対照細胞を増殖させてもよい。造血細胞の増殖に使用するのに適した間質細胞は、当技術分野において公知である。これらには、「ホイットロック-ウィッティ(Whitlock-Witte)」(Whitlock et al. [1985] Annu Rev Immunol 3:213-235)培養条件または「デクスター(Dexter)」培養条件(Dexter et al. [1977] J Exp Med 145:1612-1616)において使用される骨髄間質;および異種性胸腺間質細胞が含まれる。
【0094】
スクリーニングアッセイ法
本発明のマーカーまたはマーカーの組合せを発現するAMLSCはまた、癌幹細胞において活性である因子および化学療法剤を検出するためのインビトロのアッセイ法およびスクリーニングのためにも有用である。ヒト細胞において活性である作用物質を求めるスクリーニングアッセイ法が特に関心対象である。タンパク質結合に関するイムノアッセイ法;細胞増殖、分化、および機能的活性の測定;ならびに因子の産生などを含む多種多様のアッセイ法をこの目的のために使用することができる。他の態様において、本発明のマーカーまたはマーカーの組合せに対応する単離されたポリペプチドは、薬物スクリーニングアッセイ法において有用である。
【0095】
生物学的に活性な作用物質、抗増殖性薬物などを求めるスクリーニングアッセイ法において、マーカーまたはAMLSC組成物を、関心対象の作用物質と接触させ、細胞において生じるパラメーター、例えば、マーカーの発現および細胞生存能力など;またはポリペプチドの酵素活性もしくは受容体活性に対する結合の有効性もしくは影響をモニタリングすることによって、作用物質の効果を評価する。細胞は、新しく単離したもの、培養したもの、および遺伝的に改変したものなどでよい。これらの細胞は、クローン培養物の環境的に誘導された変異体でよい:例えば、独立した培養物に分割し、異なる条件下、例えば、薬物を併用または併用せずに、サイトカインまたはその組合せの存在下または不在下で、増殖させてよい。応答のタイミングを含む、細胞が作用物質、特に薬理学的作用物質に応答する様式は、細胞の生理的状態の重要な反映物である。
【0096】
パラメーターは、細胞の定量可能な構成要素、特に、望ましくはハイスループットな系において正確に測定できる構成要素である。パラメーターは、細胞表面決定基、受容体、タンパク質またはその立体構造的改変物もしくは翻訳後修飾物、脂質、炭水化物、有機分子もしくは無機分子、核酸、例えば、mRNA、DNAなど、もしくはそのような細胞構成要素に由来する一部分、またはそれらの組合せを含む、任意の細胞構成要素または細胞産生物でよい。大半のパラメーターは定量的な読み出し情報を提供するが、場合によっては、半定量的または定性的な結果が許容される。読み出し情報には、単一の測定値が含まれてよく、または、平均、中央値、もしくは分散などが含まれてよい。特徴として、同じアッセイ法の多様性が原因で、各パラメーターに対してある範囲のパラメーター読み出し値が得られる。ばらつきが予想され、試験パラメーターの各セットに対するある範囲の値は、単一の値を与えるために使用される一般的な統計学的方法と共に標準的な統計学的方法を用いて得られる。
【0097】
スクリーニングするための関心対象の作用物質には、有機金属分子、無機分子、遺伝子配列などを含んでよい、多数の化学的クラス、主として有機分子を包含する公知および未知の化合物が含まれる。本発明の重要な局面は、毒性試験などを含む、候補薬物を評価することである。
【0098】
複合生物学的物質のほかに、候補作用物質には、構造的相互作用、特に水素結合のために必要な官能基を含む有機低分子が含まれ、典型的には、少なくとも1つのアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基、しばしば少なくとも2つの化学官能基を含む。候補作用物質は、1つまたは複数の上記の官能基で置換された、環式炭素構造体もしくは複素環系構造体、および/または芳香族構造体もしくは多環芳香族構造体をしばしば含む。また、候補作用物質は、ペプチド、ポリヌクレオチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造的類似体、またはそれらの組合せを含む生体分子の中にも存在する。
【0099】
薬理学的に活性な薬物、遺伝学的に活性な分子などが含まれる。関心対象の化合物には、化学療法剤、ホルモン、またはホルモン拮抗物質などが含まれる。本発明のために適切な薬学的物質の例は、「The Pharmacological Basis of Therapeutics」、GoodmanおよびGilman, McGraw-Hill, New York, New York, (1996)、第9版の以下のセクション: Water, Salts and Ions; Drugs Affecting Renal Function and Electrolyte Metabolism; Drugs Affecting Gastrointestinal Function;Chemotherapy of Microbial Diseases; Chemotherapy of Neoplastic Diseases; Drugs Acting on Blood-Forming organs; Hormones and Hormone Antagonists; Vitamins, Dermatology;およびToxicology(すべて参照により本明細書に組み入れられる)において説明されているものである。また、毒素、ならびに生物兵器および化学兵器も含まれる。例えば、Somani, S.M. (編)、「Chemical Warfare Agents」、Academic Press, New York, 1992)を参照されたい。
【0100】
試験化合物には前述の分子のクラスすべてが含まれ、内容物が未知である試料をさらに含んでよい。植物のような天然供給源に由来する天然化合物の複合混合物は、関心対象である。多くの試料は溶液中に化合物を含むものの、適切な溶媒中に溶解され得る固形試料も分析することができる。関心対象の試料には、環境試料、例えば、地下水、海水、鉱業廃棄物など;生物試料、例えば、作物から調製された溶解物、組織試料など;製造試料、例えば、薬剤を調製する間の経時変化;ならびに解析のために調製された化合物ライブラリーなどが含まれる。関心対象の試料には、潜在的な治療価値に関して評価される化合物、すなわち薬物候補が含まれる。
【0101】
また、「試料」という用語は、付加的な成分、例えば、イオン強度、pH、タンパク質の総濃度などに影響を及ぼす成分が添加された、前述の流体も含む。さらに、少なくとも部分的な分画または濃縮を達成するように試料を処理してもよい。生物試料は、化合物の分解を低減させるよう注意が払われるならば、例えば窒素雰囲気下で保存してよく、凍結してよく、またはそれを組み合わせてよい。使用される試料の体積は、測定可能な検出を可能にするのに十分であり、通常、約0.1〜1mlの生物試料が十分である。
【0102】
候補作用物質を含む化合物は、合成化合物または天然化合物のライブラリーを含む多種多様の供給源から得られる。例えば、多数の手段が、ランダム化されたオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む、生体分子を含む多種多様な有機化合物のランダム合成および指向性(directed)合成のために利用可能である。あるいは、細菌抽出物、真菌抽出物、植物抽出物、および動物抽出物の形態の天然化合物ライブラリーも利用可能であるか、または容易に作製される。さらに、天然または合成によって作製されたライブラリーおよび化合物は、従来の化学的手段、物理的手段、および生化学的手段によって容易に改変され、コンビナトリアルライブラリーを作製するために使用され得る。公知の薬理学的作用物質を指向性の化学的改変またはランダムな化学的改変、例えば、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化(amidification)などに供して、構造的類似体を作製することができる。
【0103】
作用物質を欠く細胞と通常は組み合わせて、少なくとも1つの細胞試料、通常は複数の細胞試料に作用物質を添加することによって、作用物質を生物活性についてスクリーニングする。作用物質に応じたパラメーターの変化を測定し、例えば、作用物質の存在下および不在下で、他の作用物質を用いて得られる参照培養物などと比較することによって、結果を評価する。
【0104】
便宜的に、作用物質は溶液として、または容易に溶解できる形態で、培養中の細胞の培地へ添加される。作用物質は、フロースルー系で、ストリームとして、間欠的もしくは連続的に添加してよく、または代替として、化合物の大きな塊を個々にもしくは追加的に、そうでなければ静的な溶液に添加してよい。フロースルー系では、2種の流体が使用され、一方は生理学的に中性の溶液であり、他方は、添加される試験化合物を含む同じ溶液である。第1の流体が細胞の上を通り過ぎ、第2の流体がそれに続く。単一の溶液を用いる方法では、試験化合物の大きな塊を、細胞を取り囲む体積の培地に添加する。培地の成分の総濃度は、大きな塊の添加によっても、フロースルー方法における2種の溶液の合間にも、顕著に変化するべきではない。
【0105】
好ましい作用物質製剤は、製剤全体に顕著な影響を与える可能性がある、保存剤のような付加的な成分を含まない。したがって、好ましい製剤は、生物学的に活性な化合物および生理学的に許容される担体、例えば、水、エタノール、DMSOなどから本質的になる。しかしながら、化合物が溶媒を含まない液体である場合には、製剤は化合物それ自体から本質的になり得る。
【0106】
様々な濃度に対する差次的な応答を得るために、様々な作用物質濃度を用いて複数のアッセイ法を並行して実行してよい。当技術分野において公知であるように、典型的には、作用物質の有効濃度を決定するために、1:10または他の対数スケールの希釈から得られる濃度範囲を使用する。必要であれば、2回目の一連の希釈によってこれらの濃度をさらに精密にしてよい。典型的には、これらの濃度の内の1つが陰性対照としての機能を果たす。すなわち、濃度ゼロもしくは作用物質の検出レベル未満、または表現型に検出可能な変化を与えない作用物質濃度以下の濃度である。
【0107】
選択されたマーカーの存在を定量するために、様々な方法が利用され得る。存在している分子の量を測定するために、簡便な方法は、蛍光性、発光性、放射性、酵素的に活性などでよい検出可能な部分、特に、高い親和性でのパラメーターへの結合に関して特異的な分子で、分子を標識することである。蛍光性部分は、事実上任意の生体分子、構造体、または細胞型を標識するために容易に入手可能である。免疫蛍光性部分は、特異的タンパク質だけでなく、特異的立体構造、切断産物、またはリン酸化に似た部位修飾物にも結合するように指定することができる。個々のペプチドおよびタンパク質は、例えば、細胞内部の緑色蛍光タンパク質キメラとしてそれらを発現させることによって、自己蛍光を発するように操作することができる(総説については、Jones et al. (1999) Trends Biotechnol. 17(12):477-81を参照されたい)。したがって、抗体は、その構造体の一部分として蛍光色素を提供するように遺伝的に改変することができる。選択した標識に応じて、蛍光標識以外を用いて、ラジオイムノアッセイ法(RIA)または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ホモジニアス酵素免疫測定法、および関連する非酵素的技術などのイムノアッセイ技術を用いて、パラメーターを測定することができる。核酸、特にメッセンジャーRNAの定量もまた、パラメーターとして関心対象である。これらは、核酸ヌクレオチドの配列に依存するハイブリダイゼーション技術によって測定することができる。技術には、ポリメラーゼ連鎖反応法ならびに遺伝子アレイ技術が含まれる。例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel et al.編、John Wiley & Sons, New York, NY, 2000; Freeman et al. (1999) Biotechniques 26(1):112-225; Kawamoto et al. (1999) Genome Res 9(12):1305-12;およびChen et al. (1998) Genomics 51(3):313-24を参照されたい。
【0108】
AMLSCの枯渇
AMLSCの枯渇は、AML治療において有用である。枯渇はいくつかの方法によって実現することができる。枯渇は、最大約30%、または最大約40%、または最大約50%、または最大約75%もしくはそれ以上の標的集団減少と定義される。通常、有効な枯渇は、標的集団のレベルに対する特定の疾患状態の感受性に基づいて決定される。したがって、ある種の状態の治療では、約20%の枯渇でさえ有益となり得る。
【0109】
ターゲティングされたAMLSCを特異的に枯渇させるマーカー特異的作用物質は、インビトロまたはインビボで患者血液に接触させるために使用され、接触段階の後、ターゲティングされた集団中の生存能力があるAMLSCの数に減少が認められる。このような目的のための例示的な作用物質は、ターゲティングされたAMLSCの表面の本発明のマーカーまたはマーカーの組合せに特異的に結合する抗体である。このような目的のための抗体の有効量は、例えば前述したような所望のレベルまで、ターゲティングされた集団を減少させるのに十分である。このような目的のための抗体は、ヒトにおいて低い抗原性を有してもよく、またはヒト化抗体でよい。
【0110】
本発明の1つの態様において、標的集団を枯渇させるための抗体は、インビボで患者血液に添加される。別の態様において、抗体はエクスビボで患者血液に添加される。関心対象の抗体でコーティングされたビーズを血液に添加してよく、次いで、当技術分野において一般的な手順を用いて、これらのビーズに結合された標的細胞を血液から除去することができる。1つの態様において、これらのビーズは磁性であり、磁石を用いて除去される。あるいは、抗体がビオチン標識される場合、アビジンまたはストレプトアビジンなどを吸着させた固相上に抗体を間接的に固定化することも可能である。固相、通常はアガロースビーズまたはセファロースビーズは、短時間の遠心分離によって血液から分離される。抗体をタグ化し、そのような抗体およびそれらの抗体に結合された任意の細胞を除去するための多数の方法が、当技術分野においてごく普通である。一度、所望の程度の枯渇が実現されたら、血液は患者に戻される。エクスビボで標的細胞を枯渇させると、静脈内投与に付随する注入反応のような副作用が減少する。さらなる利点は、この手順は、ヒトにおいて抗原性が低い抗体またはヒト化抗体に限定される必要がないため、利用可能な抗体のレパートリーがかなり拡大することである。
【0111】
いくつかの態様において、枯渇のための抗体は二重特異性抗体である。二機能性抗体としても公知の「二重特異性抗体(bispecific antibody)」および「二重特異性抗体(bispecific antibodies)」は、第1の抗原またはハプテンに特異的な少なくとも1つの第1の抗原結合部位および第2の抗原またはハプテンに特異的な少なくとも1つの第2の抗原結合部位を有するおかげで、2つの異なる抗原を認識する抗体を意味する。このような抗体は、組換えDNA法によって作製することができ、または、当技術分野において公知の方法によって化学的に作製された抗体が含まれるが、それらに限定されるわけではない。二重特異性抗体には、2つの異なる抗原を認識できるすべての抗体もしくは抗体の結合体、またはポリマー型の抗体が含まれる。二重特異性抗体には、二価の特徴を保持するように還元および再編成された抗体、ならびに各抗原に対していくつかの抗原認識部位を有し得るように化学的に結合された抗体が含まれる。
【0112】
本発明の方法において使用するための二重特異性抗体は、本明細書において説明する少なくとも1つのAMLSC抗原に結合し、本明細書において説明する2つまたはそれ以上のAMLSC抗原に結合し得る。関心対象の抗原組合せには、非限定的に、CD47+CD96、CD47+CD99、CD47+Tim3、CD47+CD97が含まれる。いくつかの態様において、抗体の1つの特異性は低い親和性、例えば、約10-9未満の結合定数、通常、約10-8未満の結合定数を有し、約10-7を超える結合定数でよい。
【0113】
本発明の方法を実践するのに適した抗体は、好ましくはモノクローナル抗体および多価抗体であり、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体でよく、単鎖抗体、Fab断片、F(ab')断片、Fab発現ライブラリーによって作製された断片、および/または上記のいずれかの結合断片が含まれる。本発明の一定の態様において、抗体は、本発明のヒト抗原結合抗体断片であり、Fab、Fab'およびF(ab')2、Fd、単鎖Fv(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合されたFv(sdFv)、およびVLドメインまたはVHドメインのいずれかを含む断片が含まれるが、それらに限定されるわけではない。単鎖抗体を含む抗原結合抗体断片は、単独で、または次のものの全体もしくは一部分と組み合わせて、可変領域を含んでよい:ヒンジ領域、CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、およびCLドメイン。また、可変領域とヒンジ領域、CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、およびCLドメインとの任意の組合せを含む抗原結合断片も本発明に含まれる。好ましくは、抗体は、ヒト、ネズミ(例えば、マウスおよびラット)、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ科動物、ウマ、またはニワトリに由来する。本明細書において使用される場合、「ヒト」抗体には、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体が含まれ、ヒト免疫グロブリンライブラリーから、ヒトB細胞から、または1つもしくは複数のヒト免疫グロブリンについてトランスジェニックな動物から単離された抗体が含まれる。
【0114】
本発明の方法を実践するのに適した抗体は、二重特異性、三重特異性、またはより多くの多重特異性のものでよい。さらに、本発明の抗体は、バイスタンダー細胞としての顆粒球(好中球)、NK細胞、およびCD4+細胞に対する毒性を低リスクで有し得る。
【0115】
二重特異性抗体を作製するための方法は、当技術分野において公知である。全長二重特異性抗体の従来の作製は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(2つの鎖は異なる特異性を有する)の同時発現に基づいている(Millstein et al., Nature, 305:537-539 (1983))。免疫グロブリンの重鎖および軽鎖のランダムな組合せにより、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は、10種の異なる抗体分子の潜在的な混合物を生じ、このうち1種のみが、正確な二重特異性構造を有する。通常はアフィニティクロマトグラフィーステップによって実施される正確な分子の精製は、かなり厄介であり、産生物の収率は低い。同様の手順がWO 93/08829およびTraunecker et al, EMBO J., 10:3655-3659 (1991)に開示されている。
【0116】
WO96/27011に記載されている別のアプローチによれば、抗体分子のペアの接触面を操作して、組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体の百分率を最大化することができる。このような接触面は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部分を含んでよい。この方法では、第1の抗体分子の境界に由来する1つまたは複数の小型のアミノ酸側鎖が、より大型の側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置き換えられる。大型アミノ酸側鎖をより小型のもの(例えば、アラニンまたはトレオニン)で置換することによって、大型側鎖に同一または類似したサイズの代償的な「空洞」が、第2の抗体分子の境界上に作り出される。これにより、ホモ二量体など他の望まれない最終産物よりもヘテロ二量体の収量を増加させるためのメカニズムが提供される。代替の方法では、2つの異なる単鎖可変領域を熱安定性抗原(HSA)に連結する。HSAをリンカーとして使用すると、血清半減期が長くなり、免疫原性が低いという利点がある。
【0117】
二重特異性抗体には、架橋された抗体または「ヘテロ結合体」抗体が含まれる。例えば、ヘテロ結合体中の抗体のうち一方をアビジンに結合し、他方をビオチンに結合させることができる。このような抗体は、例えば、望まれない細胞に対して免疫系細胞をターゲティングするために(米国特許第4,676,980号)、および、HIV感染症を治療するために(WO 91/00360、WO 92/200373、およびEP 03089)提案されている。ヘテロ結合体抗体は、任意の簡便な架橋方法を用いて作製することができる。適切な架橋剤は、当技術分野において周知であり、いくつかの架橋技術と共に、米国特許第4,676,980号において開示されている。
【0118】
また、抗体断片から二重特異性抗体を作製するための技術も文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は、化学的連結によって調製することができる。Brennan et al., Science, 229:81 (1985)では、無傷の抗体をタンパク質分解によって切断してF(ab')2断片を生成させる手順が説明されている。これらの断片をジチオール錯化剤亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元して、隣接するジチオールを安定化し、分子間ジスルフィド形成を妨害する。次いで、生成したFab'断片をチオニトロ安息香酸(thionitrobenzoate)(TNB)誘導体に変換する。次いで、メルカプトエチルアミン(mercaptoet-hylamine)で還元することによって、Fab'-TNB誘導体のうちの一方をFab’-チオールに再変換し、等モル量の他方のFab'-TNB誘導体と混合して二重特異性抗体を形成させる。作製された二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化のための作用物質として使用され得る。
【0119】
組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作製し単離するための様々な技術もまた、説明されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを用いて作製された。Kos-telny et al., J. Immunol, 148(5):1547-1553 (1992)。Fosタンパク質およびJunタンパク質に由来するロイシンジッパーペプチドは、遺伝子融合によって、2つの異なる抗体のFab'部分に連結されている。抗体ホモ二量体のヒンジ領域を還元して単量体を形成させ、次いで、再度酸化して抗体ヘテロ二量体を形成させた。この方法もまた、抗体ホモ二量体を作製するために使用され得る。Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)によって説明された「ダイアボディ」技術により、二重特異性抗体断片を作製するための代替メカニズムが提供された。これらの断片は、短いため同じ鎖の2つのドメイン間の対合は起こさせないリンカーによって、軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。したがって、1つの断片のVHドメインおよびVLドメインは、別の断片の相補的なVLドメインおよびVHドメインと対になることを余儀なくされ、それによって、2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)二量体を用いることによって二重特異性抗体断片を作製するための別の戦略もまた、報告されている。Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994)を参照されたい。あるいは、抗体は、Zapata et al. Protein Eng. 8(10): 1057-1062 (1995)において説明されている「直鎖抗体」でもよい。手短に言えば、これらの抗体は、一対の抗原結合領域を形成する、一対の直列型Fdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。直鎖抗体は、二重特異性または単特異性でよい。
【0120】
本発明の文脈において、抗体には、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、抗体断片(例えば、FabおよびF(ab')2)、キメラ抗体、二機能性抗体または二重特異性抗体、および四量体抗体複合体が含まれると理解される。抗体は、T細胞表面の選択された抗原に、例えば107M-1以上の適切な親和性(結合定数)で結合する場合、それらの抗原に対して反応性であると理解される。さらに、本発明の方法において使用され得る抗体はまた、結合親和性の観点から説明または指定することができ、5×10-2M、10-2M、5×10-3M、10-3M、5×10-4M、10-4M、5×10-5M、10-5M、5×10-6M、10-6M、5×10-7M、10-7M、5×10-8M、10-8M、5×10-9M、10-9M、5×10-10M、10-9M、5×10-11M、10-11M、5×10-12M、10-12M、5×10-13M、10-13M、5×10-14M、10-14M、5×10-15M、10-15M未満の解離定数またはKdを有するものが含まれる。
【0121】
抗体は従来の技術を用いて断片化することができ、全長抗体について前述したのと同じ様式で、有用性について断片をスクリーニングすることができる。例えば、F(ab')2断片は、抗体をペプシンで処理することによって生成させることができる。得られたF(ab')2断片を、ジスルフィド架橋を還元するように処理して、Fab'断片を作製することができる。
【0122】
本発明はまた、キメラ抗体誘導体、すなわち、非ヒト動物可変領域およびヒト定常領域を組み合わせた抗体分子も企図する。キメラ抗体分子は、例えば、マウス、ラット、または他の種の抗体に由来する抗原結合ドメインをヒト定常領域と共に含んでよい。キメラ抗体を作製するための様々なアプローチが説明されており、分化細胞または腫瘍細胞の表面の選択された抗原を認識する免疫グロブリン可変領域を含むキメラ抗体を作製するために使用することができる。例えば、Morrison et al., 1985; Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81,6851; Takeda et al., 1985, Nature 314:452; Cabilly et al.、米国特許第4,816,567号; Boss et al.、米国特許第4,816,397号; Tanaguchi et al.、欧州特許公報EP171496; 欧州特許公報第 0173494号、英国特許GB 2177096Bを参照されたい。
【0123】
化学的結合は、E-アミノ基またはヒンジ領域チオール基を有するホモ2官能性反応物およびヘテロ2官能性反応物の使用に基づいている。5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DNTB)のようなホモ2官能性反応物は、2つのFabの間にジスルフィド結合を生じさせ、O-フェニレンジマレイミド(O-PDM)は、2つのFabの間にチオエーテル結合を生じさせる(Brenner et al., 1985, Glennie et al., 1987)。N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ(pyridylditio))プロピオナート(SPDP)のようなヘテロ2官能性反応物は、クラスもアイソタイプも問わずに、抗体およびFab断片の露出したアミノ基と結合する(Van Dijk et al., 1989)。
【0124】
本発明の抗体、すなわち、表1に示す抗原を発現する癌幹細胞を含む他の癌と同様に癌を治療するのに有用である抗体には、修飾された、すなわち、抗体が抗原に結合するのを共有結合が妨げないように、任意のタイプの分子を抗体に共有結合することによる、誘導体が含まれる。例えば、限定されるわけではないが、抗体誘導体には、例えば、公知の保護基/ブロック基、タンパク質分解切断、細胞性リガンドまたは他のタンパク質への連結などによるグリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、誘導体化によって修飾された抗体が含まれる。限定されるわけではないが、特異的化学的切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの代謝的合成などを含む公知の技術によって、多数の化学修飾のいずれかを実施することができる。さらに、誘導体は、1つまたは複数の非古典的なアミノ酸を含んでよい。
【0125】
本明細書において説明するAMLSCを差次的に同定するのに十分な染色試薬を含むキットが提供され得る。関心対象の組合せは、本発明のマーカーまたはマーカーの組合せに特異的な1種または複数種の試薬を含んでよく、さらに、CD96、CD34、およびCD38に特異的な抗体を含んでよい。染色試薬は、好ましくは抗体であり、検出可能に標識されてもよい。また、キットは、試験管、緩衝剤など、および使用取扱い説明書も含んでよい。
【0126】
本明細書で引用する各刊行物は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0127】
本発明は、説明される特定の方法論、プロトコール、細胞株、動物の種または属、および試薬に限定されず、したがって、様々であり得ることを理解すべきである。また、本明細書において使用される専門用語は、特定の態様を説明することだけを目的とし、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図しないことも理解すべきである。
【0128】
本明細書において使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈において特に規定がない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「細胞(a cell)」への言及は、複数のそのような細胞を含み、「培養物(the culture)」への言及は、1つまたは複数の培養物および当業者に公知であるその等価物への言及を含み、以下同様である。特に指示がない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【実施例】
【0129】
実施例1
正常な対応物と比べてヒト急性骨髄性白血病幹細胞において優先的に発現される細胞表面分子の同定
ヒト多分化能前駆細胞、すなわちAML LSCの起源細胞のプロスペクティブな同定。AML LSCにおいて優先的に発現される細胞表面分子の同定は、AML LSCになるための形質転換を経る正常造血階層内の細胞を決定することによって、非常に容易になる。両方の幹細胞集団でLin-CD34+CD38-細胞が豊富であることから、AML LSCは造血幹細胞(HSC)から生じるというのがこの分野での有力な見解であった。しかしながら、ヒトHSCはCD90を発現することが示されているが、AML LSCはCD90-である。さらに、長期寛解状態のt(8;21)AML患者に由来するHSCはAML1-ETO転位産生物を含むことが判明したことから、HSCは前白血病性であること、およびAML LSCへの完全な形質転換はもっと後の(downstream)前駆細胞において起こることが示唆された。
【0130】
HSCが実際にAML LSCの起源細胞であること、およびこれらの細胞が形質転換の結果としてCD90発現を失うことは確かに起こり得るが、AML LSCがもっと後のLin-CD34+CD38-CD90-細胞から生ずることもまた、起こり得る。本発明者らは、NOD/SCID/IL-2R γ欠損(NOG)新生仔異種移植モデルを使用して、CD90およびCD45RAの発現に基づいて同定されたLin-CD34+CD38-臍帯血の部分集団の機能を分析した。Lin-CD34+CD38-CD90+細胞は、長期の多系列生着を起こし、二次的移植物を形成するのに成功し、したがってHSCを含んだ。精製したLin-CD34+CD38-CD90-CD45RA-細胞を移植すると、一次レシピエントにおける多系列生着のレベルは低下し、長期の二次的移植物を形成する能力は統計学的に有意に低下した。実際に、精製細胞50個を移植すると、これらの細胞はLin-CD34+CD38-CD90+HSCとは違って長期の生着に失敗した。したがって、Lin-CD34+CD38-CD90-CD45RA-細胞は多分化能であり、限定された自己複製能力を有する。これらの細胞は多分化能前駆細胞(MPP)と呼ばれ、AML LSCの存在し得る起源細胞に相当する。
【0131】
正常な対応物、すなわちHSCおよびMPPと比べてAML LSCにおいて優先的に発現される細胞表面分子を同定するための、遺伝子発現プロファイリングの使用。正常な対応物と比べてヒト急性骨髄性白血病幹細胞(AML LSC)において優先的に発現される細胞表面分子には、下記に概説する治療的用途がある。このような分子を同定するための1つの戦略は、AML LSCならびに正常なHSCおよびMPPの遺伝子発現プロファイルを作製し、差次的に発現される遺伝子を得るためにそれらを比較することであった。
【0132】
正常骨髄のHSCおよびMPP(n=4)ならびにAML LSC(n=9)をFACSによって精製した。全RNAを調製し、増幅し、AffymetrixヒトDNAマイクロアレイにハイブリダイズさせた。統計学的解析により、HSCとLSCとでは差次的に発現される4037個の遺伝子、およびMPPとLSCとでは差次的に発現される4208個の遺伝子が同定された(p<0.05、誤発見率5%)(図1A)。これらの差次的に発現される遺伝子の調査により、HSCおよびMPPと比べて少なくとも2倍優先的にAML LSCで発現される288個および318個の細胞表面分子がそれぞれ同定された。AML LSCにおける優先的発現が最大である多くのメンバーを含む、このリストの選択されたメンバーを示す(図1B、表1)。
【0133】
【表1】







【0134】
【表2】

【0135】
【表3】








【0136】
CD47は生着を容易にし、食作用を阻害し、AML LSCにおいて、より高発現される。ナチュラルキラー(NK)エフェクター細胞を介した先天性免疫系が、非自己細胞および異常細胞を排除する際に機能することが長い間認識されている。NK細胞は、多くの正常細胞上に存在するリガンドに結合する様々なNK細胞活性化受容体によって認識された標的細胞を排除する;しかしながら、自己主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子発現は、NK阻害性受容体に結合することによって細胞を保護することができる。
【0137】
これらの阻害性受容体は、SHP-1チロシンホスファターゼおよびSHP-2チロシンホスファターゼを動員および活性化する免疫受容体チロシンベース抑制(ITIM)モチーフをしばしば含み、その結果、活性化受容体からのシグナル伝達を阻害する。マクロファージおよび樹状細胞などの単球由来エフェクター細胞もまた、いくつかの活性化受容体によって媒介される、非自己細胞および異常細胞の排除に関与していることを示唆する証拠が蓄積されつつある。これらのエフェクター細胞はまた、SHP-1ホスファターゼおよびSHP-2ホスファターゼを動員および活性化して、食作用を阻害することができるITIMモチーフを含む阻害性受容体であるシグナル調節タンパク質α(SIRPα)を発現する。いくつかの研究で、CD47がSIRPαのリガンドであることが確認された。CD47は広範囲で発現される膜貫通型タンパク質であり、いくつかのインテグリンと物理的に結合するため、インテグリン関連タンパク質(IAP)として最初は同定された。
【0138】
CD47は、血小板活性化、細胞の運動性および接着、ならびに白血球の接着、遊走、および食作用を含むいくつかのプロセスに関係があるとされている。CD47-SIRPα相互作用は、いくつかの研究の結果から、食作用阻害に関係があるとされている。第1に、野生型ではないCD47欠損マウスの赤血球(RBC)は、野生型マウスに輸血した場合、脾臓マクロファージによって血流から迅速に除かれ、この作用はCD47-SIRPα相互作用に依存していた。野生型ではないCD47欠損リンパ球および骨髄細胞もまた、類遺伝子性野生型レシピエントに移植すると、マクロファージおよび樹状細胞を介した食作用によって迅速に除かれた。さらなる証拠から、CD47-SIRPα相互作用が、IgGまたは補体でオプソニン化した細胞を認識することによって刺激された食作用を阻害できることが示唆された。したがって、CD47は、SIRPαに結合し、優性な阻害シグナルを送達することによって、マクロファージおよび樹状細胞の食作用の決定的に重要な調節因子として機能する。
【0139】
本発明者らは、ヒトAML LSCおよび正常HSCにおけるCD47発現をフローサイトメトリーによって測定した。正常な動員されたヒト末梢血の試料3つに由来するHSC(Lin-CD34+CD38-CD90+)およびヒトAMLの試料7つに由来するAML LSC(Lin-CD34+CD38-CD90-)を、CD47の表面発現に関して解析した(図2)。CD47は、正常HSCの表面では低レベルで発現された;しかしながら、AML LSCならびにバルク白血病芽球においては、CD47は平均で約5倍に高発現された。
【0140】
抗ヒトCD47モノクローナル抗体は食作用を刺激し、AML LSCの生着を阻害する。AML LSCにおけるCD47過剰発現が、エフェクター細胞上のSIRPαとの相互作用を介してこれらの細胞の食作用を妨げるモデルを試験するために、本発明者らは、CD47-SIRPα相互作用を混乱させることが公知であるCD47に対するモノクローナル抗体を使用した。B6H12と呼ばれるマウス抗ヒトCD47モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをATCCから取得し、精製抗体を作製するために用いた。最初に、本発明者らは、インビトロの食作用アッセイ法を実施した。ヒトAMLの試料2つから、初代ヒトAML LSCをFACSによって精製し、次いで、蛍光色素CFSEを添加した。これらの細胞をマウス骨髄由来マクロファージと共にインキュベートし、免疫蛍光顕微鏡検査法(図2)およびフローサイトメトリー(図3)を用いてモニターして、貪食された細胞を確認した。どちらの場合も、アイソタイプ対照抗体の存在下では食作用は観察されなかった;しかしながら、抗CD47抗体を添加した場合は、顕著な食作用が検出された。したがって、モノクローナル抗体によるヒトCD47の遮断により、マウスマクロファージによるこれらの細胞の食作用を刺激することができる。
【0141】
次に、本発明者らは、抗CD47抗体がインビボでAML LSC生着を阻害する能力を調査した。NOG新生仔マウスに移植する前に、2つの初代ヒトAML試料を処理しないか、または抗CD47抗体でコーティングした。13週後、これらのマウスを屠殺し、フローサイトメトリーによってヒト白血病の骨髄生着について解析した(図5)。対照マウスは、白血病の生着を示したのに対し、抗CD47でコーティングした細胞を移植したマウスは、生着をほとんど〜全く示さなかった。これらのデータから、モノクローナル抗体によるヒトCD47の遮断により、AML LSC生着を阻害できることが示唆される。
【0142】
CD96は、ヒト急性骨髄性白血病幹細胞に特異的な細胞表面分子である。最初はTactileと呼ばれたCD96は、T細胞活性化の際に著しく上方調節されるT細胞表面分子として最初に同定された。CD96は、休止中のT細胞およびNK細胞では低レベルで発現され、両方の細胞型において刺激されると強く上方調節される。これは、他の造血細胞では発現されず、その発現パターンの調査により、それ以外では一部の腸上皮に存在するだけであることが示された。CD96の細胞質内ドメインは、推定上のITIMモチーフを含むが、これがシグナル伝達において機能するかは公知ではない。CD96は、CD155を発現する標的細胞へのNK細胞の接着を促進して、活性化NK細胞の細胞障害性を刺激する。
【0143】
遺伝子発現解析によって確認された分子の優先的細胞表面発現。CD47およびCD96以外に、CD123、CD44、およびCD33を含む、図2Bに挙げた分子の内のいくつかが、AML LSC上で発現されることが公知である。残りの分子は、ヒトAML LSCにおいての方が正常な対応物と比べて優先的に発現されることが以前に報告も確認もされていない。本発明者らは、これらの分子の内の2つの細胞表面発現をフローサイトメトリーによって検査して、正常HSCと比べてAML LSCにおける優先的発現が存在するか判定した。
【0144】
図1Bの他の候補遺伝子を評価するために、本発明者らは、未処理のアレイ発現値に基づいて、正常HSC上で発現される可能性が低い分子を求めてこのリストをスクリーニングした。次に、公開されている報告書を用いて、本発明者らは、モノクローナル抗体が白血病細胞の他にはほとんど標的を持たないと思われる極めて限定された発現パターンを有する遺伝子を同定するために、これらの遺伝子の組織発現パターンを調査した。これらの方法に基づいて、2つの有望な遺伝子を同定した:副甲状腺ホルモン受容体2およびA型肝炎ウイルス細胞受容体2(TIM-3:T細胞免疫グロブリンムチン3としても公知)。副甲状腺ホルモン受容体2(PTHR2)は通常、膵臓および中枢神経系のいくつかの領域で発現される。その主なリガンドは、隆起漏斗系ペプチド39(TIP39)と呼ばれるペプチドである。A型肝炎ウイルス細胞受容体2(HAVCR2)は通常、Tリンパ球の部分集団で発現される。その主なリガンドは、ガレクチン-9と名付けられた分子である。
【0145】
その他の配列の検証では、特異的抗体およびフローサイトメトリーによる試験を利用し、正常な多分化能前駆細胞と比較する。
【0146】
実施例2
CD99は、T細胞上で最も高発現される表面糖タンパク質であり、T細胞において細胞接着の際に機能し得る。正常なヒト臍帯血の試料3つに由来するHSC(Lin-CD34+CD38-CD90+)およびヒトAMLの試料7つに由来するAML LSC(Lin-CD34+CD38-CD90-)におけるCD99発現をフローサイトメトリーによって測定した(図6)。CD99は、正常HSCの表面では低レベルで発現された;しかしながら、AML LSCにおいては、CD99は平均で約5倍に高発現された。CD97は通常、最も成熟した造血細胞で発現され、活性化されたリンパ球上で上方調節され、そこで細胞の遊走および接着の際に機能し得る。遺伝子発現プロファイリングにより、HSCおよびMPPではCD97の発現が低い〜無く、AML LSCにおいては約10倍に高発現されることが示されている。正常臍帯血HSCおよびAML LSCにおけるCD97発現をフローサイトメトリーによって検査したところ、HSC試料では発現が無く、AML LSC試料7個中5個で高発現であることが判明した(図 7)。
【0147】
本発明者らは、(正常な骨髄および臍帯血の両方に由来する)HSCのいくつかの試料および新規のヒトAMLの複数の試料におけるCD97、CD99、CD180、およびTIM3(HAVCR2)の表面発現をフローサイトメトリーによって検査した。本発明者らは、AML LSCにおけるこれらの各分子の発現が増大しており、HSCにおける発現は低い〜無いことを見出した(図8〜10)。本発明者らはまた、骨髄HSCおよびAML LSC中のPTH2Rの発現を、フローサイトメトリー用に有効なモノクローナル抗体がこの抗原に関しては入手できないため、定量的リアルタイムPCRによって調査した。本発明者らは、HSCではPTHR2が発現されず、AML LSCでは発現が増大していることを見出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表1に示す差次的に発現されるマーカーまたはマーカーの組合せに対して特異的な反応物に、患者試料を接触させる段階;
マーカーを発現する癌細胞の数を定量する段階
を含む、患者に由来する急性骨髄性白血病を特徴付けるための方法であって、
マーカーを発現する癌細胞の存在によりAML癌幹細胞の存在が示される、方法。
【請求項2】
定量する段階がフローサイトメトリーによって実施される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
定量する段階が免疫組織化学によって実施される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
試料が血液試料である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
患者がAMLに罹患していると診断されている、請求項1記載の方法。
【請求項6】
患者がAMLの治療を受けている、請求項7記載の方法。
【請求項7】
患者がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7記載の方法のいずれかにおいて使用するためのキット。
【請求項9】
AMLSCに対する有効性について化学療法候補作用物質をスクリーニングする方法であって、
該作用物質を、請求項1記載の細胞組成物または表1に示すポリペプチドと接触させる段階、および
AMLSCに対する該作用物質の有効性を判定する段階
を含む、方法。
【請求項10】
AML癌幹細胞をターゲティングするかまたは枯渇させる方法であって、
AMLSCをターゲティングするかまたは枯渇させるために、表1に示すマーカーまたはマーカーの組合せに特異的に結合する作用物質に、反応物血液細胞を接触させる段階を含む、方法。
【請求項11】
作用物質が抗体である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
作用物質が、表1に示す2種のマーカーに結合する二重特異性抗体である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
AMLを診断または病期分類するための方法であって、
表1に挙げたものより選択される遺伝子配列の発現の上方調節を測定する段階を含む、方法。
【請求項14】
測定する段階が、子宮頸部細胞の試料中のmRNAまたはポリペプチドの量の増加または減少を検出することを含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
アレイへのハイブリダイゼーションによって発現が測定される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
表1に示す2つまたはそれ以上の配列をアレイが含む、請求項15記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−518313(P2011−518313A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543128(P2010−543128)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/000224
【国際公開番号】WO2009/091547
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(503115205)ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (69)
【Fターム(参考)】