急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療反応性予測用マーカー遺伝子の使用

【課題】急性骨髄性白血病(AML)患者の抗癌治療反応性を予測することが可能なマーカー遺伝子の使用を提供する。
【解決手段】急性骨髄性白血病患者から得られた生物学的試料を、AML患者の抗癌剤治療反応性を予測するためのマーカー遺伝子を使用することにより、その遺伝子発現パターンを測定し、AML患者の抗癌剤治療に対する反応性を予め予測する。よって、AML患者に適切な抗癌剤処方を提供することにより、抗癌剤治療効果を倍加させ且つ患者の苦痛および費用を軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療反応性を予測することが可能なマーカー遺伝子の使用に関する。さらに具体的には、本発明は、前記マーカーの発現を測定する製剤を含む抗癌剤治療反応性予測用キット、および前記マーカーの発現値から急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療以後の反応性を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白血病(leukemia)は進行速度によって急性白血病と慢性白血病に分類される。 白血病の臨床様相は疾患の類型と侵犯された細胞の性質によって多様である。リンパ球性白血病はリンパ系血液細胞が、骨髄性白血病は骨髄系血液細胞が、慢性骨髄性白血病は成熟期にある細胞が変異して発生する。
急性骨髄性白血病(AML)は、骨髄性血液細胞分化の特定段階で芽細胞(blast)の分化が抑えられ、無限に成長する特徴を示す血液癌の一種である。AMLは多様な遺伝的変異を示し、これらの変異は抗癌治療に対する反応性および治療予後と密接な関係があると知られている。
【0003】
このような理由で、細胞遺伝学的方法を用いて染色体変異を検査しAMLを分類する方法が広く使用されている。例えば、t(8;21)染色体変異(8番染色体と21番染色体間の相互転位)、t(15;17)染色体変異(15番染色体と17番染色体間の相互転位)、またはinv(16)染色体変異(16番染色体の逆位)を持つAML患者は良い抗癌剤反応性と治療予後を示すと知られている(Lowenberg et al., N. Engl. J. Med. 1999, 341:1051-1062; Slovak et al., Blood 2000, 96:4075-4083; Byrd et al., Blood 2002, 100: 4325-4336; Grimwade et al., Blood 1998, 92:2322-2333; Grimwade et al., Blood 2001, 98:1312-1320)。
【0004】
細胞遺伝学的方法の他にも、分子的分析による遺伝子突然変異または発現変化が治療予後に関連していると知られている。FLT3(fms-like tyrosine kinase 3)遺伝子の内部直列重複が存在し、或いはEV1(ectotropic viral integration 1 site)遺伝子の発現が増加している患者は予後が良くない。それに反し、CEBPA(CCAAT/enhancer binding protein alpha)遺伝子の突然変異がある患者は予後が良いと知られている(Kiyo et al., Blood 1999, 93:3074-3080; Gilliland and Griffin Blood 2002, 100:1532-1542; Barjesteh et al., Blood 2003, 101:837-845; Barjesteh et al., Hematol. J. 4:31-40; Preudhomme et al., Blood 2002, 100:2717-2723)。
【0005】
このような報告以外にも、遺伝子発現情報または特定タンパク質の発現水準と抗癌剤反応性との連関性を解明しようとする努力が行われてきた(Broxterman et al., Leukemia 2000, 14:1018-1024; Kanda et al., Cancer 2000, 88:2529-2533; Legrand et al., Blood 2000, 96: 870-877; Christiansen et al., J. Clin. Oncol. 2001, 19: 1405-1413; Okutsu et al., Mol. Cancer. Ther. 2002, 1:1035-1042)。また、DNAチップ分析技術の発達に伴い、1回の実験で数千〜数万の遺伝子発現を分析することが可能となり、DNAチップによって急性白血病患者の遺伝子発現分析による分子的次元の分析が行われてきた(Virtaneva et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2001, 98: 1124-1129; Armstrong et al., Nat. Genet. 2002, 30:41-47; Yeoh et al., Cancer Cell. 2002, 1:133-143; Schoch et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2002, 99:10008-10013; Kohlmann et al., Genes Chromosomes Cancer 2003, 37:396-405; Yagi et al., Blood 2003 102:1849-1856)。
【0006】
このような既存の研究結果にも拘らず、急性骨髄性白血病患者が抗癌治療に対してどのように反応するかを予測することが可能な方法は未だない実情である。特に、染色体変異または前述した遺伝子突然変異を持たないAML患者の場合、抗癌治療の反応性を予測することが可能な方法は知られていない。
【0007】
白血病の治療方法は非常に複雑であり、白血病の形態に依存的であるが、治療に抵抗性を示す患者は一般に生存期間が非常に短い。したがって、癌を治療するための多様な方法、例えば放射線療法、手術療法、化学療法などから癌患者のための適切な治療処方計画を選択して樹立し、適用することは、患者の精神的、肉体的苦痛および高価の治療費用を減らすことができるという点において非常に重要な意味を持つ。例えば、同じ種類の癌と診断を受けた患者でも、同一薬物の投与に対する反応性は患者によって異なるが、当該薬物に対して反応性があるとしてもその度合いが患者によって異なるため、薬物の投与前に患者の反応性を予測することができれば、無駄な治療を前もって排除して治療の的中性と効率性を高めることができる。
【0008】
本発明者は、急性骨髄性白血病患者の遺伝子発現様相を調査した結果、抗癌剤反応性に関連している67個のマーカー遺伝子を発掘し、これらのマーカー遺伝子の遺伝子発現程度から抗癌治療に対する反応性を予測することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Lowenberg et al., N. Engl. J. Med. 1999, 341:1051-1062
【非特許文献2】Slovak et al., Blood 2000, 96:4075-4083
【非特許文献3】Byrd et al., Blood 2002, 100: 4325-4336
【非特許文献4】Grimwade et al., Blood 1998, 92:2322-2333
【非特許文献5】Grimwade et al., Blood 2001, 98:1312-1320
【非特許文献6】Kiyo et al., Blood 1999, 93:3074-3080
【非特許文献7】Gilliland and Griffin Blood 2002, 100:1532-1542
【非特許文献8】Barjesteh et al., Blood 2003, 101:837-845
【非特許文献9】Barjesteh et al., Hematol. J. 4:31-40
【非特許文献10】Preudhomme et al., Blood 2002, 100:2717-2723
【非特許文献11】Broxterman et al., Leukemia 2000, 14:1018-1024
【非特許文献12】Kanda et al., Cancer 2000, 88:2529-2533
【非特許文献13】Legrand et al., Blood 2000, 96: 870-877
【非特許文献14】Christiansen et al., J. Clin. Oncol. 2001, 19: 1405-1413
【非特許文献15】Okutsu et al., Mol. Cancer. Ther. 2002, 1:1035-1042
【非特許文献16】Virtaneva et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2001, 98: 1124-1129
【非特許文献17】Armstrong et al., Nat. Genet. 2002, 30:41-47
【非特許文献18】Yeoh et al., Cancer Cell. 2002, 1:133-143
【非特許文献19】Schoch et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2002, 99:10008-10013
【非特許文献20】Kohlmann et al., Genes Chromosomes Cancer 2003, 37:396-405
【非特許文献21】Yagi et al., Blood 2003 102:1849-1856
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療反応性を予測することが可能なマーカー遺伝子の発現を測定する製剤を含む抗癌剤治療反応性予測用キットを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療反応性を予測する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一つの様態として、本発明は、急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療反応性予測用マーカーに関する。
他の様態として、本発明は、急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療反応性を予測することが可能なマーカー遺伝子の発現を測定する製剤を含む抗癌剤治療反応性予測用キットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は急性骨髄性白血病患者の危険度を求めた後、危険度によって患者を低危険集団と高危険集団に分けたとき、2集団を分類する危険度の基準に基づいて両集団間の再発率差異の有意性をログランクテスト(log rank test)で検証して得たp値を示すグラフである。
【図2】図2は55名の急性骨髄性白血病患者のうち33名の患者が低危険集団に含まれた図1の場合において2集団の再発程度をカプランマイヤープロット(Kaplan-Meier plot)で示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
抗癌剤に対する反応性は、特定の一時点で区分するには困難さがある。例えば、ある患者は抗癌治療を行っても最初から抵抗性を示す反面、ある患者は最初には完全寛解状態に到達したが、数ヶ月後には再発することもある。したがって、特定の時点で完全寛解状態の患者と不完全寛解状態の患者を区分して発現の差異を示す遺伝子を選別することは誤りを犯すおそれがある。
【0014】
そこで、本発明者は、薬物投薬に先立ち、急性骨髄性白血病患者の骨髄からRNAを分離してcDNAを製造し、これを16KヒトcDNAチップにハイブリダイゼーションして正常群とは発現量の差異を示す遺伝子を確認した。次いで、抗癌治療過程中のどの時点に抗癌治療に対して抵抗性を示すかを考慮し、中途打ち切り(疾病以外の原因で患者の状態をそれ以上把握することができない場合、或いは最後の追跡時点まで再発していない場合)のデータを利用するために、統計的方法によってコクスの比例ハザードモデル(Cox's proportional hazard model)からp=0.001の有意水準で抗癌剤反応に関連した下記67個の抗癌治療反応性関連遺伝子を選別した(Cox D. R. J. Royal Stat. Soc. B. 1972 34:187-202):GENX−3414、SPINK2、PECAM1、AQP5、LAPTM5、DDX48、F2RL3、SLC3A2、GPR51、ZC3HDC8、WASF1、PSCD4、CDKN1A、AIF1、ADFP、CD164、RAB8A、ID2、ITGB2、MGC3047、MYST3、MT3、MGAT1、BC002942、EVI2B、CPVL、MX1、LGALS1、MX2、KRT1、MICA、GABBR1、TINF2、MPV17、RXRA、JARID1D、C2orf22、DPT、NDUFS2、CCIN、MADH3、NAG、E2F5、SMC6L1、CASP1、LILRB1、TCF4、TNPO3、DNCI1、TIE、ADM、SMUG1、PPP1CA、SALL3、IRF2、KIAA1223、NCOA3、CKS2、ZNF226、CTBS、MetRS、MGC5395、FLJ10349、CD4、EHD4、ARL4A、およびDANJC10。この中でも、PECAM1、LAPTM5、AIF1、ITGB2の4つの遺伝子は、独立的な探針で2回選別された。これは選別された遺伝子が偶然選別されたのではなく、実際遺伝子発現が抗癌剤反応性と連関があることを裏付ける。
【0015】
また、「リーブ−ワン−アウト(Leave-one-out)」交差検証によって、前記選別されたマーカー遺伝子は、急性骨髄性白血病患者における抗癌剤投薬前治療可能性を予測するのに使用することができることを確認した。
したがって、具体的様態において、本発明は、前記マーカー遺伝子の中から選択される抗癌剤治療反応性予測マーカー遺伝子の発現を測定する製剤を含む、急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療反応性予測用キットに関する。
本発明において、用語「急性骨髄性白血病(AML:Acute Myeloid Leukemia)は、非リンパ球系統の白血球前駆細胞の癌性増殖によるもので、骨髄内の平衡が破れると、正常血球が減少し、白血病細胞が臓器に浸潤して抹消血液またはその他の臓器を侵襲する悪性血液疾患を呼ぶ。
【0016】
本発明において、用語「抗癌剤反応性予測用マーカー」とは、抗癌剤投薬が癌の治療に有用であるか否かを投薬前に予測することに使用するための物質であって、その発現量を測定して抗癌剤に対する反応性を予測することに用いられる。このようなマーカーは、核酸、ポリペプチド、タンパク質、脂質または糖などの有機生体分子などを含む。本発明の目的上、抗癌剤治療反応性予測用マーカーは、急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療反応性を予測することが可能な核酸またはポリペプチドマーカーである。
前記マーカー遺伝子の発現は、mRNAの量またはタンパク質の量を測定して確認することができ、好ましくはmRNAの量を測定することにより、マーカー遺伝子の発現水準を測定する。
【0017】
mRNAの発現水準を測定する方法は、例えばDNAチップ、RT−PCR、競争的RT−PCR(Competitive RT-PCR)、実時間RT−PCR(Real-time RT-PCR)、RNase保護分析法(RPA:RNase protection assay)、ノーザンブロット法などがあるが、これに限定されない。
好ましくは、前述したマーカー遺伝子またはその断片に該当する遺伝子が例えばガラスなどの基板に高密度で付着しているDNAチップを用いてmRNA発現水準を測定することができる。このようなDNAチップは、試料からmRNAを分離し、その末端またはその内部が蛍光物質などで標識されたcDNAを製造し、DNAチップにハイブリダイゼーションさせた後、読み取ってその発現程度を確認することができる。
【0018】
また、好ましくはRT−PCR法を用いてmRNA発現水準を測定することができる。RT−PCR法は、試料から分離されたmRNAを逆転写して得られたcDNAをPCRで増幅させて分析する。RT−PCRの後、電気泳動してバンドパターンとバンドの厚さを測定することにより、前記マーカー遺伝子の発現程度を確認することができる。
前記マーカー遺伝子の発現は、タンパク質水準でその量を測定して確認する場合、前記遺伝子のタンパク質に対して特異的に結合する抗体を用いてタンパク質の量を確認することができる。抗体を用いてタンパク質水準を測定するための分析方法としては、ウエスタンブロット法、ELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay)、放射線免疫分析(RIA:Radioimmunoassay)、放射免疫拡散(Radioimmunodiffusion)、ロケット免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈澱分析、補体固定分析、FACS、タンパク質チップなどがあるが、これに限定されない。
【0019】
前記マーカー遺伝子の発現を測定するキットは、分析方法に適した追加構成要素を含む。DNAチップキットは、遺伝子またはその断片に該当するcDNAが付着している基板および蛍光標識のための試薬、酵素などを含むことができる。RT−PCRキットは、マーカー遺伝子に対して特異的なそれぞれのプライマー対を含む。プライマーは、各マーカー遺伝子の核酸配列に特異的な配列を持つヌクレオチドであって、約7〜50bpの長さを持つ。RT−PCRキットは、コンテナ、反応緩衝液、デオキシヌクレオチド(dNTPs)、Taq−ポリメラーゼ、逆転写酵素、DNAse、またはRNAse抑制剤などを含むことができる。
【0020】
本発明に係るキットを使用することが可能な反応性予測の必要な抗癌剤としては、急性骨髄性白血病患者の治療に用いられる抗癌剤があり、化学療法で一般に使われる有機合成物だけでなく、天然物由来の天然抽出物、これから分離された純粋化合物または有機合成物を例示することができる。前記抗癌剤は、併用投与できる。このような場合としては、イダルビシン(Idarubicin、IDA)と4N−ビヘノイル−1−β−D−アラビノフラノシルシトシン(4N-bihenoyl-1-beta-D-arabino-furanosylcytosine、BHAC)の併用、ダウノルビシンとBHACの併用、シタラビンとドキソルビシン、ダウノルビシン、ミトキサントロンおよびチオグアニンの中から選ばれたいずれか一つとの併用、メルカプトプリンとメトトレキサートの併用、ミトキサントロンとエトポシドの併用、アスパラギナーゼとビンクリスチン、ダウノルビシンおよびプレドニゾンとの併用、シクロホスファミドとビンクリスチン、ダウノルビシンおよびプレドニゾンとの併用、シクロホスファミドとビンクリスチン、シタラビンおよびプレドニゾンとの併用、シクロホスファミドとビンクリスチンおよびプレドニゾンとの併用、ダウノルビシンとシタラビンおよびチオグアニンとの併用、ダウノルビシンとビンクリスチンおよびプレドニゾンとの併用を例示することができる。これらの中でも、イダルビシンとBHACの併用、またはダウノルビシンとBHACの併用が好ましい。
【0021】
別の様態において、本発明は、急性骨髄性白血病患者の生物学的試料から、GENX−3414、SPINK2、PECAM1、AQP5、LAPTM5、DDX48、F2RL3、SLC3A2、GPR51、ZC3HDC8、WASF1、PSCD4、CDKN1A、AIF1、ADFP、CD164、RAB8A、ID2、ITGB2、MGC3047、MYST3、MT3、MGAT1、BC002942、EVI2B、CPVL、MX1、LGALS1、MX2、KRT1、MICA、GABBR1、TINF2、MPV17、RXRA、JARID1D、C2orf22、DPT、NDUFS2、CCIN、MADH3、NAG、E2F5、SMC6L1、CASP1、LILRB1、TCF4、TNPO3、DNCI1、TIE、ADM、SMUG1、PPP1CA、SALL3、IRF2、KIAA1223、NCOA3、CKS2、ZNF226、CTBS、MetRS、MGC5395、FLJ10349、CD4、EHD4、ARL4AおよびDANJC10よりなる群から選ばれる抗癌剤治療反応性予測マーカー遺伝子の発現を測定する段階と、前記遺伝子の発現度を統計的方法に適用して危険度Rを求める段階とを含む、急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療反応性を予測する方法を含む。
【0022】
前記方法の段階1)で抗癌剤治療反応性予測マーカー遺伝子の発現を測定する生物学的試料は、骨髄、リンパ節、脾臓、血液またはリンパ液などを含み、好ましくは骨髄を使用する。
前記方法は、段階2)の統計的方法で得られた急性骨髄性白血病患者の危険度(R)を蓄積したデータベースから危険度を確認する段階をさらに含むことができる。
危険度(R)は、コクスの比例ハザードモデルから誘導されるHR(Hazard ratio)またはβ係数を用いて計算できる。本発明において、「HR」とは、変数の値が1だけ増加するときに現れる危険度の増加比率を意味し、eβと同じ値である。p=0.001の有意水準で選別した67個の遺伝子に対するHRが下記表1に示されている。
患者の危険度は、各遺伝子の発現値とβ係数との積を求めた後、これらの和で表される下記数式から求めることができる。
【0023】
【数1】

式中、危険度はRで表示し、βはi遺伝子のベータ係数、Gはi遺伝子の発現値である。
【0024】
下記表1は、コクスの比例ハザードモデルから得られた抗癌剤治療反応性マーカー遺伝子それぞれに対するHR(Hazard ratio)値を示す。
【0025】
【表1】


【0026】
a:重複して選別された4つの遺伝子は重複表示した。b:危険率(Hazard ratio)、遺伝子発現が2倍増加するときに現れる危険増加の比率。HRが2の場合は、遺伝子発現が2倍増加するときに危険が2倍増加するという意味である。c:遺伝子発現の標準偏差。d:GenBank受託番号。e:UniGene Cluster ID。
急性骨髄性白血病患者の危険度(R)のデータベースが下記表4に例示されている。
前述した本発明の抗癌剤治療反応性予測方法において、マーカー遺伝子の発現率の測定方法および反応性を予測しようとする抗癌剤は、上述した通りである。
本発明は下記実施例によってより具体的に例示されるであろう。ところが、これらの実施例は本発明の具現例に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0027】
実施例1:DNAチップ技術を用いたAML患者骨髄サンプルの遺伝子発現様相の調査
<1−1>骨髄細胞のRNA分離
AML患者55名の骨髄試料からRNAを分離して実験に用いた。保管された骨髄試料からRNAを分離するために、1mLの骨髄試料に5mLのTriZol試薬(Invitrogen、Cat.No.15596−018)を添加し、組織ホモジナイザーで1分間細胞を破壊させた。以後のRNA分離過程は、TriZol試薬の製造社から提供した実験方法によって行った。RNAの分離後に純度をさらに高めるために、RNeasyキット(Qiagen、Cat.No.74106)を用いて、製造社から提供した実験方法によってRNAを追加精製した。
【0028】
<1−2>分離されたRNAの定量分析
分離されたRNAは、スペクトロフォトメーターを用いて260nmの波長で吸光度を測定してRNAを定量した。
【0029】
<1−3>リファレンスRNAの製造
DNAチップとハイブリダイゼーションするとき、骨髄細胞から分離されたRNAと共にハイブリダイザーションするリファレンス(reference)RNAは、血液細胞に起因した細胞株からRNAを分離して使用した。リファレンスRNAを製造するために、HL−60、K−562、CCRF−CEM、CCRF−HSB−2、CEM−CM3、Molt−4、THP−1の7つの細胞株から、前記実施例<1−1>と同様の方法でRNAを分離した。分離されたRNAは<1−2>と同様の方法で定量した後、同量を混ぜてリファレンスRNAとして使用した。
【0030】
<1−4>実験に使用されたDNAチップ
DNAチップは、15,972個のcDNAプローブを含む16KヒトcDNAチップ(16KヒトcDNAチップ、デジタルゲノミクス、韓国)を用いた。簡単に製作過程を説明すると、cDNAがクローニングされているプラスミドを含むバクテリアスタックからプラスミドを分離し、PCRを行ってプローブ配列を増幅した。増幅されたcDNAはPCRクリーンアップキットを用いて不純物を除去した後、50%DMSOの含まれたスポッティング領域に100〜200ng/μLの濃度で溶かしてGAPSIIスライド(Corning、Cat.No.40006)にスポットした後、適量の紫外線を照射して固定させて製造した。
【0031】
<1−5>DNAチップ実験および遺伝子発現定量
10μgの骨髄試料から分離されたRNAとリファレンス試料RNAをアミノアリル−dUTP存在下に逆転写してcDNAを製造した後、それぞれモノエステル−Cy5、モノエステル−Cy3と反応させてCy5とCy3を標識した。標識された試料はPCRクリーンアップキットを用いて精製した後、DNAチップに16時間以上ハイブリダイゼーションした。ハイブリダイゼーションした後、非特異的ハイブリダイゼーションを除去するために、SSCを含む洗浄溶液を用いてDNAチップを洗浄した。洗浄されたDNAチップは、共焦点(confocal)レーザースキャナ(Perkin Elmer、Scanarray Lite)を用いてスキャニングし、各スポットに存在する蛍光のデータを得てTIFF形態のイメージファイルとして格納した。TIFFイメージファイルをGenePix3.0(Axon Instruments)で定量して各スポットの蛍光値を定量した。GenePix3.0から得られた定量結果は、Yang等(Nucleic Acids Res 2002、30:e15)が提案した方法によって、S−Plus統計パッケージ(InSightful)で提供する「lowess」機能を用いて補正した。
補正された値の各遺伝子発現量をコクスの比例ハザードモデルに適用し、計算されたHRから急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療反応性を予測することが可能なマーカー遺伝子を67個選別し、その結果を前記表1に示した。
【0032】
実施例2:AML患者の遺伝子発現結果と抗癌剤反応性データの収集
<2−1>分析対象患者の遺伝子発現結果
55名のAML患者から骨髄サンプルを採取した。採取された骨髄サンプルに対して前記実施例1と同様の方法でDNAチップを用いて表1に記載の抗癌治療反応性マーカー遺伝子67個の発現量を測定した。
【0033】
<2−2>分析対象患者の臨床情報
55名のAML患者にBHACを7日または10日間投与し、イダルビシンを3日または5日間投与する方法によって寛解誘導抗癌療法を行った。一部の患者にはBHACを3日または5日間投与し、ダウノルビシン(daunorubicin)を3日または5日間投与する寛解誘導抗癌療法を行った。患者の重要臨床情報を表2にまとめた。
【0034】
【表2】


a:女性はF、男性はMで表示した。b:疾病以外の原因で患者の状態をそれ以上把握することができない、或いは最後追跡時点まで再発していない患者は0、再発した患者は1で表示した。c:抗癌治療後から再発するまでの期間を個月で表示した。d:French−American−British分類によるAMLの分類型を表示した。
【0035】
<2−3>患者の危険度(Risk score)の計算
AML55患者の骨髄試料を採取し、この試料から抗癌剤治療反応性予測マーカー遺伝子それぞれの発現値を測定した。コクスの比例ハザードモデルから得られたHRまたはβ係数と前記マーカー遺伝子の発現値を用いてAML55患者の危険度Rを計算した。HR(Hazard ratio)とは、変数の値が1だけ増加するときに現れる危険度の増加比率を意味し、eβと同じ値である。患者の危険度は、下記数式1によって各遺伝子の発現値とβ係数との積を求めた後、これらの和で計算された。
【0036】
【数2】

式中、危険度はRで表示し、βはi遺伝子のベータ係数、Gはi遺伝子の発現値である。
【0037】
AML55患者の危険度計算値を表3に例示した。表3に示すように、抗癌剤治療反応性予測マーカー遺伝子67個から計算されたAML55患者の危険度は−23.29であった。AML55患者に対して得られた前記67個のマーカー遺伝子の発現量から危険度を計算し、その結果を表3に示す。
【0038】
【表3】


【0039】
実施例3:マーカー遺伝子の発現を用いた抗癌剤治療反応性の予測検証
<3−1>抗癌治療反応性の予測有意性検証方法
実施例2の方法で選別されたマーカー遺伝子の発現を用いてAML患者の抗癌剤反応性を予測し、これを検証するためにリーブ−ワン−アウト交差検証を行った。「リーブ−ワン−アウト」交差検証とは、全体データから1患者のデータを除外させてマーカー遺伝子を選別した後、除外させた1患者においてマーカー遺伝子の発現を用いて抗癌剤反応性を予測する方法である。このような過程を全体患者数だけ反復すると、個別患者に対して全ての独立的な予測が可能である。このような独立的予測によって得られた患者の危険度を用いて患者を高危険群と低危険群に分けて生存曲線を比較すると、選別されたマーカー遺伝子による独立的な患者の抗癌治療反応性予測の有意性を判断することができる。
【0040】
<3−2>p=0.001水準で選別されたマーカー遺伝子を用いた抗癌治療反応性の予測
抗癌治療反応性予測の1番目の段階であって、実施例2と同様の方法でp=0.001の有意水準で「リーブ−ワン−アウト」交差検証によってAML患者の抗癌治療反応性を有意に予測することができるかを検証した。
患者55名の試料に対して1名の患者試料データを除いた遺伝子選別を55回行い、この際、選別された遺伝子の発現を用いて、除外された1名の危険度を計算した。計算された危険度と各患者の中途打ち切り結果を比較して表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
表4に示すように計算された危険度を用いて、危険度の高い患者は高危険集団に、危険度の低い患者は低危険集団に入れて分類することができる。但し、危険度値のみではどの程度の危険度が高危険集団に分類できるか基準を定めることが難しいため、高危険集団と低危険集団をどのように分けるのが最も有意に2集団を区分することができるかを確認するために、危険度の順序通りに低危険集団の数を一つずつ増加させながら、2集団の再発曲線であるカプランマイヤープロット(Kaplan-Meier plot)を描き、2集団の再発曲線が有意に相異するかをログランクテスト(log rank test)によって確認した。
【0043】
図1は前述したログランクテストから得られたp値をグラフで表示したものである。このような分析において危険度の低い33名を低危険度集団に含ませ、危険度がこれより高い22名の患者を高危険度集団に含ませる場合に2集団のカプランマイヤープロットが最も有意な差異を示した(p=0.0002)。この際のカプランマイヤープロットを図2に示した。
前述した結果は、遺伝子発現によって患者を抗癌剤治療反応性危険度グループに分けたとき、高危険群と低危険群が相当(p=0.0002)有意に予測されることを立証した。
【0044】
<3−3>遺伝子選定の有意水準による抗癌剤治療反応性予測結果
実施例3−2における抗癌剤治療反応性予測のためには、p=0.001の有意水準で選別された抗癌剤治療反応性関連遺伝子を使用した。この際、別のp値を選択すると(有意水準を変化させると)、選別される遺伝子の数は変化する。すなわち、p値が小さくなると、さらに少ない数の遺伝子が選別され、p値が大きくなると、さらに多い数の遺伝子が選別される。どの程度のp値から選別される遺伝子が抗癌治療反応性予測のために適するかを調べるために、遺伝子選別時のp値を0.001、0.0005、0.0001、0.00001に変化させながら、実施例3−3と同様の抗癌治療反応性予測検証を行った。その結果は図5にまとめられている。
【0045】
【表5】

【0046】
表5に示すように、遺伝子選別時のp値を減少させたとき、すなわちさらに高い有意水準で遺伝子を選別したとき、2つの危険度集団のカプランマイヤープロットがさらに大きい差異を示す。すなわち、p=0.001で選別された全ての遺伝子が抗癌治療反応性予測に有用であるが、これらの遺伝子の一部のみを用いても、有意な抗癌治療反応性予測が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によって急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療反応性を予測することが可能なマーカー遺伝子を選別することにより、急性骨髄性白血病患者から得られた生物学的試料を、本発明に係るAML患者の抗癌剤治療反応性を予測するためのマーカー遺伝子の発現を測定する製剤を含むキットに適用させてその遺伝子発現パターンを測定し、AML患者の抗癌剤治療に対する反応性を予め予測することができる。
したがって、AML患者に適切な抗癌剤処方を提供することにより、抗癌剤治療効果を倍加させ且つ患者の苦痛および費用を軽減することができる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性骨髄性白血病患者の抗癌剤治療反応性予測用マーカー遺伝子の使用であって、
上記マーカー遺伝子が、GENX−3414、SPINK2、PECAM1、AQP5、LAPTM5、DDX48、F2RL3、SLC3A2、GPR51、ZC3HDC8、WASF1、PSCD4、CDKN1A、AIF1、ADFP、CD164、RAB8A、ID2、ITGB2、MGC3047、MYST3、MT3、MGAT1、BC002942、EVI2B、CPVL、MX1、LGALS1、MX2、KRT1、MICA、GABBR1、TINF2、MPV17、RXRA、JARID1D、C2orf22、DPT、NDUFS2、CCIN、MADH3、NAG、E2F5、SMC6L1、CASP1、LILRB1、TCF4、TNPO3、DNCI1、TIE、ADM、SMUG1、PPP1CA、SALL3、IRF2、KIAA1223、NCOA3、CKS2、ZNF226、CTBS、MetRS、MGC5395、FLJ10349、CD4、EHD4、ARL4AおよびDANJC10よりなる群から選ばれる、前記使用。





【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−231798(P2012−231798A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−171888(P2012−171888)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【分割の表示】特願2008−533238(P2008−533238)の分割
【原出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(507256418)ディジタルジェノミクスインコーポレーション (3)
【出願人】(508076668)ダエウーン カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】