説明

恐怖症治療システム及び恐怖症治療装置

【課題】従来に比して各患者毎に高い治療効果を得ることができる恐怖症治療システム及び恐怖症治療装置を提供することを目的とする。
【解決手段】この恐怖症治療システム1では、3次元仮想空間映像、3次元仮想空間音響及び体感刺激の混雑設定や、視点高さ設定、イベント設定を、治療者Hが治療者用操作部49によって、治療中の患者Pの状態に応じて自由に変更可能にしたことにより、各患者P毎に恐怖場面を細かく設定でき、かくして各患者P毎に適した治療を行え、従来よりも一段と患者Pの治療効果を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は恐怖症治療システム及び恐怖症治療装置に関し、例えば地下鉄利用の際に発するパニック障害を治療する際に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バーチャルリアリティ技術を応用したものとしては、患者にヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD(Head Mounted Display)と呼ぶ)を装着させ、当該HMDを通してCG(コンピュータグラフィックス)映像とサウンドとからなる恐怖刺激(恐怖場面)を呈示する行動療法の治療がある。実際上、このような行動療法の治療においては、固定された振動椅子等に患者を着座させ、約10〜60分位の間、頭部に装着させたHMDを介して患者に人工的な恐怖場面を呈示し、かつその恐怖場面に適した振動をウーハにより与える恐怖症治療システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−217935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、かかる構成の恐怖症治療システムでは、予め複数の患者に対しそれぞれ恐怖場面を見せ、その恐怖場面から感じる恐怖の程度を各患者から個別に聞いて、一般的に恐怖場面として適したものになるように編集され、この編集した恐怖場面を治療開始時から治療終了時までの間、患者に呈示している。
【0004】
しかしながら、このような恐怖症治療システムでは、患者に対して一旦所定の恐怖場面がセッティングされると、恐怖症の治療が終了するまでの間、当該恐怖場面の条件変更が行えないことから、常に変化し続ける患者の身体状態に適した恐怖場面を呈示することが困難であるという問題があった。
【0005】
また、恐怖症治療システムを用いて恐怖症の治療を行う際には、各患者によって恐怖を感じる場所や条件等が異なるため、各患者毎に治療に最適な恐怖場面を呈示し難く、高い治療成果が得られない虞がある。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、従来に比して各患者毎に高い治療効果を得ることができる恐怖症治療システム及び恐怖症治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1記載の恐怖症治療システムは、患者が恐怖感覚を抱く特定状況を再現した3次元仮想空間を呈示して前記患者の恐怖症を治療する恐怖症治療システムにおいて、映像信号に基づいて前記特定状況の3次元仮想空間映像を表示するヘッドマウントディスプレイと音響信号に基づいて前記3次元空間映像に対応した3次元仮想空間音響を出力する音響出力手段と、刺激制御信号に基づいて前記3次元空間映像及び前記3次元空間音響に対応した体感刺激を前記患者に与えるボディソニック装置と、前記ヘッドマウントディスプレイに前記映像信号を送出し、前記音響出力手段に前記音響信号を送出し、前記ボディソニック装置に前記刺激制御信号を送出する情報処理装置とを備え、前記情報処理装置は、前記3次元仮想空間映像、前記3次元仮想空間音響及び前記体感刺激のうち少なくともいずれか1つの設定を、治療者が治療中の前記患者の状態に応じて変更可能な操作部を有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項2記載の恐怖症治療システムは、前記情報処理装置は、前記患者自身が操作可能な患者用コントローラを備え、前記患者用コントローラの操作に応じて、前記患者自身が前記3次元仮想空間内を移動しているような前記3次元仮想空間映像を前記ヘッドマウントディスプレイに表示させることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項3記載の恐怖症治療システムは、前記情報処理装置は生理情報計測器を備え、前記生理情報計測器から送出される前記患者の生理情報をリアルタイムに表示部に表示することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項4記載の恐怖症治療システムは、前記ボディソニック装置は、前記3次元空間映像及び前記3次元空間音響に対応して前記患者の特定の部位のみに所定の体感刺激を与える刺激付与手段を備えることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項5記載の恐怖症治療装置は、患者が恐怖感覚を抱く特定状況を再現した3次元仮想空間を呈示して前記患者の恐怖症を治療する恐怖症治療装置において、
前記特定状況の3次元仮想空間映像をヘッドマウントディスプレイに表示させる映像信号を生成する映像信号生成手段と、前記3次元空間映像に対応した前記3次元仮想空間音響を音響出力手段から出力させる音響信号を生成する音響信号生成手段と、ボディソニック装置を駆動させ、前記3次元空間映像及び前記3次元空間音響に対応した体感刺激を前記患者に与える刺激制御信号を生成する刺激制御信号生成手段と、前記3次元仮想空間映像、前記3次元仮想空間音響及び前記体感刺激のうち少なくともいずれか1つの設定を、治療者が治療中の前記患者の状態に応じて変更可能な操作部とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項6記載の恐怖症治療装置は前記患者自身が操作可能な患者用コントローラと有線又は無線で接続するコントローラ接続手段を備え、前記患者用コントローラからの操作命令に基づいて、前記患者自身が前記3次元仮想空間内を移動しているような前記3次元仮想空間映像を前記ヘッドマウントディスプレイに表示させることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項7記載の恐怖症治療装置は生理情報計測器と有線又は無線で接続する生理計測器接続手段と、前記生理計測器接続手段に接続された前記生理情報計測器から前記患者の生理情報を受け取りリアルタイムに表示する表示部とを備えることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項8記載の恐怖症治療装置は、前記3次元空間映像及び前記3次元空間音響に対応して前記患者の特定の部位のみに所定の体感刺激を与えるように前記ボディソニック装置を制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1記載の恐怖症治療システム及び請求項5記載の恐怖症治療装置によれば、前記3次元仮想空間映像、前記3次元仮想空間音響及び前記体感刺激のうち少なくともいずれか1つの設定を、治療者が治療者用操作部によって、治療中の患者の状態に応じて自由に変更可能にしたことにより、特定状況を再現した3次元仮想空間を各患者毎に細かく設定でき、かくして各患者毎に適した治療を行え、患者の治療効果を高めることができる。
【0016】
本発明の請求項2記載の恐怖症治療システム及び請求項6記載の恐怖症治療装置によれば、患者自身が自ら患者用コントローラの操作によって、3次元仮想空間内を移動しているような3次元仮想空間映像をヘッドマウントディスプレイに表示させるようにしたことにより、従来よりも一段と高い現実感を患者に与えることができると共に、患者の積極的な治療参加を誘導し、集中して治療を受けさせて治療効果を高めることができる。
【0017】
本発明の請求項3記載の恐怖症治療システム及び請求項7記載の恐怖症治療装置によれば、生理計測器から送出される患者の生理情報をリアルタイムに表示部に表示するようにしたことにより、生理情報を基に容易に、かつ正確に治療者に対して患者の状態を把握させることができ、かくして患者の身体変化による生体情報をリアルタイムで分析しながら、適切な恐怖場面を設定することができる。
【0018】
本発明の請求項4記載の恐怖症治療システム及び請求項8記載の恐怖症治療装置によれば、ボディソニック装置の刺激付与手段を個別に制御し独立して動作させ、3次元空間映像及び3次元空間音響に対応して患者の特定の部位のみに所定の体感刺激を与えるようにしたことにより、従来よりも一段と現実感を与え、集中して治療を受けさせて治療効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0020】
(1)恐怖症治療システムの全体構成
図1において、1は全体として本発明による恐怖症治療システムを示し、この恐怖治療システム1は例えば地下鉄に乗車する際に恐怖を感じる患者Pに対する治療システムである。
【0021】
実際上、恐怖症治療システム1は、患者Pの頭部に装着する3次元仮想空間視聴手段2と、患者P自身が操作する患者用コントローラ3と、患者Pを着座させて所定の体感刺激を与えるボディソニック装置4と、これら3次元仮想空間視聴手段2、患者用コントローラ3及びボディソニック装置4と各種信号を送受する情報処理装置としてのパーソナルコンピュータ5と、交感神経皮膚反応(以下、単にSSR(sympathetic skin response)と呼ぶ)に基づいて患者Pの不安や身体症状をパーソナルコンピュータ5の表示部6でリアルタイムにモニタリングさせる生理情報計測器としてのSSR計測器7とから構成されている。
【0022】
3次元仮想空間視聴手段2は、患者Pの頭部の角度や動きによって視線方向の変化を測定するジャイロセンサ10と、3次元仮想空間映像を患者Pに目視させるHMD11(ヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display))と、3次元仮想空間映像に対応した3次元仮想空間音響を患者Pに聴かせる音響出力手段としてのヘッドホン12とからなり、患者Pの視覚及び聴覚を介して恐怖場面を呈示し、あたかも患者P自身が3次元仮想空間内に存在しているかのような感覚を与えるようになされている。
【0023】
かかる構成に加えて、パーソナルコンピュータ5は、患者Pが患者用コントローラ3を操作した時に当該患者用コントローラ3から送出される操作信号に基づいて3次元仮想空間内での移動後の座標を算出し、当該座標に応じた新たな3次元仮想空間映像をHMD11に表示させ、かくして移動方向に応じて3次元仮想空間映像を変化させる。
【0024】
ここで、HMD11は、例えば液晶やブラウン管(CRT)等が用いられ、患者Pの顔面に装着する小型の映像呈示装置であり、患者Pの両眼にそれぞれ異なる映像を呈示することで、当該患者Pに3次元の3次元立体映像を呈示し得るようになされている。
【0025】
この実施の形態の場合、患者用コントローラ3は、図示しない操作ボタンが上下左右斜め方向等8方向に指定できることにより、当該指定した方向に患者P自身があたかも3次元仮想空間内を360度自由に歩いているような3次元仮想空間映像をHMD11に表示させ得るようになされている。
【0026】
また、ジャイロセンサ10は、患者Pが頭部を動かすことで患者Pが向いている方向の変化を角速度(1秒間あたりの動作角度)により検出し、これを角度信号としてパーソナルコンピュータ5に送出する。これによりパーソナルコンピュータ5は、ジャイロセンサ10からの角度信号に基づいて患者Pの視線方向を算出し、当該視線方向に応じた映像信号をHMD11に送出する。これによりHMD11では、患者Pの視線方向を推測した3次元仮想空間映像が表示され得る。
【0027】
ボディソニック装置4は、図2に示すように、座部15と、背もたれ16と、レッグレスト17とから構成され、当該背もたれ16及びレッグレスト17がパーソナルコンピュータ5からの駆動信号に基づいて鉛直状態から水平状態に図示しないモータを介して回動し得るようになされている。なお、ボディソニック装置4はパーソナルコンピュータ5からの駆動信号に基づいて360度回動し得るようにしても良い。
【0028】
図1に示したように、背もたれ16には、右背部刺激部20と中央背部刺激部21と左背部刺激部22とからなる背部刺激付与手段23が患者Pの背部を支持する領域に設けられていると共に、右腰部刺激部24と中央腰部刺激部25と左腰部刺激部26とからなる腰部刺激付与手段27が患者Pの腰部を支持する領域に設けられている。
【0029】
また、この背もたれ16の側部には、患者Pの上腕を側部から支持ように上腕支持部28が設けられ、当該上腕支持部28には患者Pの上腕を刺激するように右上腕刺激部29及び左上腕刺激部30からなる上腕刺激付与手段31が設けられている。
【0030】
座部15には、右殿部刺激部32と中央殿部刺激部33と左殿部刺激部34とからなる殿部刺激付与手段35が、患者Pの殿部を支持する領域に設けられている。かかる構成に加えて座部15には、断面C状の湾曲状に形成された前腕支持部37が設けられ、患者Pが座部15に着座した際に当該患者Pの前腕を当該前腕支持部40によって支持し得るようになされている。また、この前腕支持部37には、患者Pの左右前腕を刺激する前腕刺激付与手段38の右前腕刺激部39及び左前腕刺激部40がそれぞれ設けられている。
【0031】
また、レッグレスト17には、下腿刺激付与手段41の右下腿刺激部42及び左下腿刺激部43がそれぞれ患者Pの左右下腿に刺激を付与するように設けられている。
【0032】
これら右背部刺激部20、中央背部刺激部21、左背部刺激部22、右腰部刺激部24、中央腰部刺激部25、左腰部刺激部26右上腕刺激部29、左上腕刺激部30、右殿部刺激部32、中央殿部刺激部33、左殿部刺激部34、前腕刺激付与手段38、右前腕刺激部39、下腿刺激部42及び左下腿刺激部43は、例えばエアクッションからなり、臨場感を高めるため3次元仮想空間映像や3次元仮想空間音響に合わせて衝突感や圧迫感、振動感等の各種体感刺激の微調整が部位的又は全体的に行え、あたかも患者Pが3次元仮想空間内に存在しているかのような感覚を一段と与えるようになされている。
【0033】
パーソナルコンピュータ5は、図3に示すように、パーソナルコンピュータ5を統括的に制御する映像信号生成手段、刺激制御信号生成手段及び音響信号生成手段としてのCPU(Central Processing Unit)45と、RAM(Random Access Memory)46と、ROM(Read Only Memory)47と、ハードディスク(HDD)48と、治療者用操作部49と、表示部6と、3次元仮想空間視聴手段2が接続された視聴手段用インターフェース50と、患者用コントローラ3が接続されたコントローラ接続手段としてのコントローラインターフェース51と、ボディソニック装置4が接続されたボディソニック装置インターフェース52と、SSR計測器7が接続されたSSR計測器インターフェース53と、スピーカ(図示せず)とがバス55を介して接続されている。
【0034】
なお、ROM47には基本プログラムや3Dバーチャルプログラム等の各種プログラムが格納されており、CPU45は各種命令に応じてROM47に格納された各種プログラムを適宜RAM46に読み出すことにより所定の処理を実行するようになされている。
【0035】
実際上、CPU45は、3Dバーチャルプログラムに基づいて映像信号を生成し、これを3次元仮想空間視聴手段2のHMD11に送出することにより、当該映像信号に基づいて3次元仮想空間映像をHMD11及び表示部6に表示させる。なお、表示部6にはHMD11と同じ3次元仮想空間映像が常に表示されることにより治療者Hが患者Pの現在目視している3次元仮想空間映像を確認し得るようになされている。
【0036】
また、CPU45は、3Dバーチャルプログラムに基づいて3次元仮想空間映像に対応した音響信号を生成し、これを3次元仮想空間視聴手段2のヘッドホン12に送出することにより、現在HMD11に表示されている3次元仮想空間映像に適した騒音や電車走行音等の各種3次元仮想空間音響をヘッドホン12及びスピーカから出力させる。なお、スピーカにはヘッドホン12と同じ3次元仮想空間音響が常に出力されることにより治療者Hが患者Pの現在聞いている3次元仮想空間音響を確認し得るようになされている。
【0037】
因みに、3次元仮想空間音響は、実際の現場で立体音響として収録したものであって、3次元仮想空間内での位置と方向から計算された適切なものがヘッドホン12を介してリアルタイムで患者Pに提供される。
【0038】
さらに、CPU45は、3Dバーチャルプログラムに基づいて音響信号や映像信号に対応付けて刺激制御信号を生成し、これをボディソニック装置4に送出することにより、現在ヘッドホン12から出力されている3次元仮想空間音響に適した振動感や、3次元仮想空間映像に適した衝突感及び圧迫感等の各種体感刺激をボディソニック装置4を介して患者Pに与えるようになされている。
【0039】
なお、CPU45は、治療者H(図1)により治療者用操作部49を介して与えられる操作信号に基づいて、3次元仮想空間映像や3次元仮想空間音響にかかわらず任意のタイミングでボディソニック装置4を振動等させ得るようになされている。
【0040】
ここでボディソニック装置4は、図4に示すように、CPU60と、モータ等からなる背もたれ駆動部61と、同じくモータ等からなるレッグレスト駆動部62と、パーソナルコンピュータ5と接続可能な外部インターフィース63と、それぞれレベル制御部64を介して前腕刺激手段38、上腕刺激手段31、背部刺激手段23、腰部刺激手段27、殿部刺激手段35及び下腿刺激手段41とがバス65を介して接続されている。
【0041】
ボディソニック装置4のCPU60は、外部インターフェース63を介してパーソナルコンピュータ5から受け取った刺激制御信号を基に、前腕刺激手段38、上腕刺激手段31、背部刺激手段23、腰部刺激手段27、殿部刺激手段35及び下腿刺激手段41のうち必要な箇所を振動又は膨張等させると共に、レベル制御部64で振動レベルや膨張レベル等の微調整を行い、患者Pに最適な体感刺激を与え得る。
【0042】
この実施の形態の場合、図1に示したように、右前腕刺激部39及び左前腕刺激部40と、右上腕刺激部29及び左上腕刺激部30とは、必要に応じて患者Pの腕部分の所定部位にのみ刺激を与えられ得るようになされている。
【0043】
また、この実施の形態の場合、右背部刺激部20、中央背部刺激部21及び左背部刺激部22と、右腰部刺激部24、中央腰部刺激部25及び左腰部刺激部26と、右殿部刺激部32、中央殿部刺激部33及び左殿部刺激部34とは、患者Pの背部から殿部にかけて必要な所定部位にのみ刺激を与えられ得るようになされている。すなわち、ボディソニック装置4は、患者Pの左右横側、腕、足、背部から殿部の付近に対し独立して圧迫等の体感刺激を与え、また患者Pの体を締め付けたり緩めたり揺さぶることができ、さらに背もたれ駆動部61及びレッグレスト駆動部62を介して背もたれ16及びレッグレスト17を前後左右に傾けることも可能である。
【0044】
さらに、この実施の形態の場合、右下腿刺激部42及び左下腿刺激部43は、必要に応じて患者Pの下腿部分の所定部位にのみ刺激を与えられるようになされている。
パーソナルコンピュータ5のCPU45は、患者用コントローラ3からからの操作信号やジャイロセンサ10からの角度信号を基にHMD11及び表示部6へ映像信号を送出すると、それに応じた音響信号をヘッドホン12及びスピーカに送出し、当該3次元仮想空間映像や3次元仮想空間音響に応じた刺激制御信号をボディソニック装置4に送出し、患者用コンロトーラからの操作信号やジャイロセンサ10からの角度変化によって移り変わる3次元仮想空間映像に応じて3次元仮想空間音響及び体感刺激をも変化させ得るようになされている。
【0045】
このようにして恐怖症治療システムでは、患者Pの視覚、聴覚及び触覚を介して恐怖場面たる地下鉄利用場面を呈示し、あたかも患者P自身が現実の地下鉄使用場面に直面しているかのような感覚を与えるようになされている。
【0046】
実際上、この実施の形態の場合、恐怖症治療システム1は、地下鉄を利用する際に恐怖を感じる地下鉄恐怖症の患者Pのために、図5に示すように、始発駅である西通り駅から始まり、途中通過駅である桜一丁目駅、桜二丁目駅、30号ビル前駅、南通り駅、南通り3番街駅、緑交差点駅及び50号ホール前駅を順次介して終着駅である中央街駅まで到達する経路の3次元仮想空間を呈示し得るようになされている。
【0047】
この場合、先ず始めに恐怖症治療システム1では、患者Pの頭部に3次元仮想空間視聴手段2を装着させた状態でボディソニック装置4に着座させ、患者Pの腕にSSR計測器7を取り付けさせると共に、患者Pの手に患者用コントローラ3を持たせる。
【0048】
因みに、SSR(交感神経皮膚反応)とは、精神性発汗により変化する皮膚電位に出現する生体信号であり、判断や注意、情動に関係する交感神経系の反応として報告されており、記録の簡便さや特別な訓練を必要としない等の利点を有し、患者Pの身体変化を正確に捉えることができるものである。
【0049】
そして、この状態でCPU45は、治療者Hの治療者用操作部49の操作によって地下鉄恐怖症治療開始の開始命令が与えられると、始発駅である西通り駅の出入口に立っているときの3次元仮想空間映像となる映像信号をHMD11及び表示部6に送出する。
これによりHMD11及び表示部6には、図6(A)に示すような始発駅である西通り駅の出入口に立っているときの映像画面100が表示される。
【0050】
ここで、映像画面100には、実写静止画による人物がまばらに配置された3次元仮想空間映像が初期設定として設定されており、このような混雑設定がされていることで患者Pがあたかも現実に地下鉄駅の出入口に立っているような感覚を与えるようになされている。
【0051】
かかる構成に加えてCPU45は、治療者Hの治療者用操作部49の操作によって映像画面100において表示される人物の人数を調節して混雑設定を行え、各患者P一人一人に対応した最適な恐怖場面を作り上げることができるようになされている。
【0052】
この実施の形態の場合、映像画面は、患者Pの状態に合わせて治療者Hが混雑の程度を、無人の状態、人がまばらにいる程度(図6(A))、中程度の混雑、大混雑の4段階に変更し得るようになされている。因みに、図6(B)は無人の状態に設定したときの西通り駅の出入口の映像画面101を示すものである。
【0053】
恐怖症治療システム1では、患者P自ら患者用コントローラ3を操作することにより、始発駅の地下鉄出入口(西通り駅の出入口)から駅構内に入り、当該駅構内を通って駅ホーム内に移動するまでの3次元仮想空間映像、3次元仮想空間音響及び体感刺激をHMD11、ヘッドホン12及びボディソニック装置4をそれぞれ介して患者Pに与えるようになされている。
【0054】
なお、図7(A)は、混雑設定として人がまばらにいる程度の駅構内の3次元仮想空間映像を示す映像画面102であり、図7(B)は、混雑設定として中程度に混雑している駅構内の3次元仮想空間映像を示す映像画面103であり、患者用コントローラ3により3次元仮想空間内をそのまま直進方向へ移動させることで駅ホームの3次元仮想空間に移行し得る。
【0055】
この実施の形態の場合、患者Pは、患者用コントローラ3を介して3次元仮想空間内を移動する移動速度を例えば4段階に変更することができ、当該患者P自身が移動速度を直接コントロール可能にすることで恐怖場面で受ける負担を自ら調整し得るようになされている。
【0056】
因みに、この場合、第1移動速度として3次元仮想空間内において一般的な女性の歩行速度よりやや遅めになるように3次元仮想空間映像が変化し、第2移動速度として3次元仮想空間内において一般的な女性の歩行速度となるように3次元仮想空間映像が変化し、第3移動速度として3次元仮想空間内において女性の歩行速度よりもやや速めになるように3次元仮想空間映像が変化し、第4移動速度として3次元仮想空間内において軽く走る際の速度となるように3次元仮想空間映像が変化するように設定される。
【0057】
恐怖症治療システム1では、その後、駅ホームで電車の到着を待ち受け、患者P自身で電車に乗車させたり、電車を乗り換えさせる等の各種イベント設定を経て終着駅の地下鉄出入口に出るまでの一連の3次元仮想空間映像、3次元仮想空間音響及び体感刺激をHMD11、ヘッドホン12及びボディソニック装置4を介して呈示し得るようになされている。
【0058】
また、この恐怖症治療システム1では、電車に乗車中に当該電車を急停車させるイベント設定を、治療者Hが治療者用操作部49の操作に応じて発生させ、最適なタイミングで最も適した恐怖場面を各患者P毎に呈示し得るようになされている。
【0059】
(2)駅ホーム待機処理
実際上、パーソナルコンピュータ5のCPU45は、患者Pが患者用コントローラ3を介して駅構内の3次元仮想空間映像から駅ホームの3次元仮想空間映像に移行させると、駅ホーム待機処理プログラムに従って、図8に示すように、ルーチンRT1の開始ステップから入ってステップSP1に移る。
【0060】
ステップSP1において、CPU45は、駅ホーム待機用の映像信号をHMD11に送出することにより駅ホームの3次元仮想空間映像をHMD11に表示させると共に、駅ホーム待機用の音響信号をヘッドホン12に送出することにより当該3次元仮想空間映像に対応した雑音や構内到着アナウンス等の3次元仮想空間音響をヘッドホン12から出力させ、さらに駅ホーム待機用の刺激制御信号をボディソニック装置4に送出することにより3次元仮想空間映像及び3次元仮想音響に対応した体感刺激をボディソニック装置4を介して患者Pに与え、次のステップSP2へ移る。
【0061】
ステップSP2において、CPU45は、イベント設定の変更として治療者Hにより治療者用操作部49を介して駅ホーム電車到着命令が与えられたか否かを判断する。
【0062】
ステップSP2で否定結果が得られると、このことは治療者用操作部49を介して駅ホーム電車到着命令が与えられていないこと、すなわち、イベント設定を変更せずに治療者Hが3次元仮想空間内において駅ホームで電車の到着を待っている状態を強制的に患者Pに体験させたいことを表しており、このときCPU45は再びステップSP1に戻る。
【0063】
これに対してステップSP2で肯定結果が得られると、このことは治療者用操作部49を介して駅ホーム電車到着命令が与えられたこと、すなわち、イベント設定の変更として治療者Hが3次元仮想空間内において電車の到着時の状態を患者Pに体験させようとしていることを表しており、このときCPU45は、次のステップSP3へ移る。
【0064】
ステップSP3においてCPU45は、電車到着時用の映像信号をHMD11に送出することにより駅ホームに電車が到着するときの3次元仮想空間映像をHMD11に表示させると共に、電車到着時用の音響信号をヘッドホン12に送出することにより当該3次元仮想空間映像に対応した電車の走行音やブレーキ音等からなる3次元仮想空間音響をヘッドホン12から出力させ、さらに電車到着時用の刺激制御信号をボディソニック装置4に送出することにより3次元仮想空間映像及び3次元仮想音響に対応した電車到着時の振動等の体感刺激をボディソニック装置4を介して患者Pに与え、次のステップSP4へ移る。
【0065】
例えば、3次元仮想空間内において駅ホーム端に患者Pが位置しているときに、遠方から走行してきた電車が次第に速度を落としながら駅ホームに進入してきた場合には、図9に示すような3次元仮想空間映像の映像画面104がHMD11に表示される。
【0066】
また、3次元仮想空間内において駅ホーム中ほどに患者Pが位置しているときに、駅ホームに停車した電車のドアが開き当該電車に乗車可能な状態となった場合には、図10に示すような映像画面105がHMD11に表示される。このようにHMD11には、図9及び図10のような電車が到着する一連の3次元仮想空間映像が表示される。
【0067】
ステップSP4においてCPU45は、患者用コントローラ3からの操作命令に基づいて得られた座標を基に、3次元仮想空間内において駅ホームに到着した電車のドアから患者Pが電車に乗車したか否かを判断する。
【0068】
ステップSP4で否定結果が得られると、このことは患者用コントローラ3からの操作命令で得られた座標が、電車内の座標と一致していないこと、すなわち患者Pが3次元仮想空間映像においてそのまま駅ホームに留まっていることを表しており、このときCPU45は、次のステップSP5に移る。
【0069】
ステップSP5においてCPU45は、イベント設定の変更として治療者用操作部49からドア閉扉命令が与えられたか否かを判断する。
【0070】
ステップSP5で否定結果が得られると、このことは治療者用操作部49からドア閉扉命令が与えられていないこと、すなわち、イベント設定を変更させずに治療者Hが電車のドアを開かせた状態のままの3次元仮想空間映像をHMD11に表示させていることを表しており、このときCPU45は、再びステップSP4に戻る。
【0071】
このとき治療者Hは、駅ホームに到着した電車のドアを所定時間以上開きっぱなしにした3次元仮想空間映像をHMD11に表示させた状態で、治療者用操作部49によって、例えば車両故障である旨や、急病人による緊急停車である旨の構内アナウンスを3次元仮想空間音響としてヘッドホン12から出力させることにより、緊急事態による運行中止のイベント設定に変更させることができる。
【0072】
これに対してステップSP5で肯定結果が得られると、このことは治療者用操作部49からドア閉扉命令が与えられたこと、すなわち、治療者Hが治療者用操作部49を操作したことによりドア閉扉命令が与えられ、イベント設定の変更として電車のドアが閉まる一連の3次元仮想空間映像をHMD11に表示させる必要があることを表しており、このときCPU45は、次のステップSP6に移る。
【0073】
ステップSP6においてCPU45は、電車発車時用の映像信号をHMD11に送出することにより駅ホームから電車が発車するときの3次元仮想空間映像をHMD11に表示させると共に、電車発車時用の音響信号をヘッドホン12に送出することにより当該3次元仮想空間映像に対応した電車の発車走行音等からなる3次元仮想空間音響をヘッドホン12から出力させ、さらに電車発車時用の刺激制御信号をボディソニック装置4に送出することにより3次元仮想空間映像及び3次元仮想音響に対応した電車到着時の振動等の体感刺激をボディソニック装置4を介して患者Pに与え、再びステップSP1へ戻って上述した処理を繰り返す。
【0074】
一方、ステップSP4で肯定結果が得られると、このことは患者用コントローラ3からの操作命令で得られた座標が、電車内の座標と一致していること、すなわち患者Pが患者用コントローラ3を操作して3次元仮想空間映像において電車のドアを通過してして電車に乗車したことを表しており、このときCPU45は、次のステップSP7に移り、駅ホーム待機処理を終了して次の乗車処理に移行する。
【0075】
(3)乗車処理
次に、パーソナルコンピュータ5のCPU45は、患者用コントローラ3を介して3次元仮想空間内において駅ホームから停車中の電車のドアを通って電車に乗車すると、乗車処理プログラムに従って、図11に示すように、ルーチンRT2の開始ステップから入ってステップSP21に移る。
【0076】
ステップSP21においてCPU45は、電車乗車時用の映像信号をHMD11に送出することにより、電車に乗車したときの3次元仮想空間映像をHMD11に表示させると共に、電車乗車時用の音響信号をヘッドホン12に送出することにより当該3次元仮想空間映像に対応したドア閉扉音や電車の走行音、発車アナウンス等からなる3次元仮想空間音響をヘッドホン12から出力させ、さらに電車乗車時用の刺激制御信号をボディソニック装置4に送出することにより3次元仮想空間映像及び3次元仮想音響に対応した電車走行時の振動や人物との接触感、衝突感等の体感刺激をボディソニック装置4を介して患者Pに与え、次のステップSP22へ移る。
【0077】
このとき3次元仮想空間では、ドアが閉じた後、駅ホームを電車が発車する一連のイベントが行なわれる。
【0078】
このときHMD11には、3次元仮想空間内における電車内での座標やジャイロセンサ10からの角度信号に基づいて、電車が未だに駅ホームにあるとき、図12に示すような電車の窓から駅ホームを目視できる3次元仮想空間映像の映像画面106が表示される。また、HMD11には、3次元仮想空間内における電車内での座標やジャイロセンサ10からの角度信号に基づいて、図13に示すような電車内を目視できる3次元仮想空間映像の映像画面107が表示される。
【0079】
また、この実施の形態の場合、例えば映像画面107は、混雑設定を、無人の状態、人がまばらにいる状態、中程度の混雑、大混雑の4段階に、患者Pの状態に合わせて治療者Hが治療者用操作部49を介して変更し得るようになされている。
【0080】
なお、図13に示した映像画面107は、治療者Hが治療者用操作部49を介して電車内の混雑設定を、中程度の混雑に変更したときの3次元仮想空間映像を示すものである。因みに、図14(A)は無人の状態に設定された電車内の3次元仮想空間映像を示す映像画面108であり、図14(B)は大混雑している電車内の3次元仮想空間映像を示す映像画面109である。
【0081】
また、このとき、治療者Hは、治療者用操作部49を介して3次元仮想空間内で患者Pが目視する視点高さ設定を変更し得、各患者P一人一人に応じた電車内での3次元仮想空間を呈示し得るようになされている。この実施の形態の場合、視点高さ設定は、3段階に変更し得、例えば初期の視点高さ設定としてデフォルト(プログラムで予めに設定した既定値)の位置に設定された3次元仮想空間映像を呈示し得る。そして、この視点高さ設定は、治療者用操作部49からの操作命令に基づいて、座っている状態の3次元仮想空間映像、立っている状態の3次元仮想空間映像に順次変更し得るようになされている。
【0082】
なお、上述した実施の形態のおいては、視点高さ設定の変更を治療者用操作部49により治療者が強制的に行うようにしたが、本発明はこれに限らず、視点高さ設定の変更を患者者用コントローラ3においても行えるようにして良く、この場合、患者P自らが視点高さ設定を変更できることから、自らが所望する恐怖場面を容易に呈示させることができる。
【0083】
ステップSP22においてCPU45は、イベント設定の変更として治療者用操作部49の操作により次駅到着命令が与えられたか否かを判断する。
【0084】
ステップSP22で肯定結果が得られると、このことは治療者用操作部49を介して次駅到着命令が与えられたこと、すなわち、治療者Hがイベント設定を変更して3次元仮想空間内において走行中の電車を次駅ホームに到着させた時の状態を患者Pに体験させようとしていることを表しており、このときCPU45は、次のステップSP23へ移る。
【0085】
ステップSP23においてCPU45は、次駅到着時用の映像信号をHMD11に送出することにより次駅に電車が到着したときの3次元仮想空間映像をHMD11に表示させると共に、次駅到着時用の音響信号をヘッドホン12に送出することにより当該3次元仮想空間映像に対応した電車の停車音やドア開扉音、到着アナウンス等からなる次駅到着時の3次元仮想空間音響をヘッドホン12から出力させ、さらに次駅到着時用の刺激制御信号をボディソニック装置4に送出することにより3次元仮想空間映像及び3次元仮想音響に対応した電車停止時の振動や人物との接触感等の体感刺激をボディソニック装置4を介して患者Pに与え、次のステップSP24へ移る。
【0086】
ステップSP24においてCPU45は、患者用コントローラ3からの操作命令に基づいて得られた座標を基に、3次元仮想空間内において停車した電車の開いたドアから駅ホームに降りたか否かを判断する。
【0087】
ステップSP24で肯定結果が得られると、このことは患者用コントローラ3から与えられる操作命令により得た座標が、3次元仮想空間内の駅ホームにおける座標と一致すること、すなわち患者Pが患者用コントローラ3を操作して3次元仮想空間映像において電車のドアを通過して電車から駅ホームに降りたことを表しており、このときCPU45は、次のステップSP25に移り、上述した乗車処理を終了して駅ホーム待機処理に移行する。
【0088】
これに対してステップSP24で否定結果が得られると、このことは患者用コントローラ3から与えられる操作命令により得た座標が、3次元仮想空間内の駅ホームにおける座標と一致してないこと、すなわち3次元仮想空間映像において電車内に留まっていることを表しており、このときCPU45は、次のステップSP26に移る。
【0089】
ステップSP26においCPU45は、イベント設定の変更として治療者用操作部49からドア閉扉命令が与えられたか否かを判断する。
【0090】
ステップSP26で否定結果が得られると、このことは治療者用操作部49からドア閉扉命令が与えられていないこと、すなわち、イベント設定が変更されずに電車のドアが開いた状態のままの3次元仮想空間映像をHMD11に表示させていることを表しており、このときCPU45は、再びステップSP24に戻る。
【0091】
このときパーソナルコンピュータ5は、駅ホームに停車した電車のドアを所定時間以上開きっぱなしにした3次元仮想空間映像をHMD11に表示させた状態で、治療者Hが治療者用操作部49によって、例えば車両故障である旨や、急病人による緊急停車である旨の構内アナウンスを3次元仮想空間音響としてヘッドホン12から出力させることにより、運行中止のイベント設定に変更させることができる。
【0092】
これに対してステップSP26で肯定結果が得られると、このことは治療者用操作部49からドア閉扉命令が与えられたこと、すなわち、治療者Hにより治療者用操作部49が操作されることによりドア閉扉命令が与えられ、イベント設定の変更として電車のドアが閉まる一連の3次元仮想空間映像をHMD11に表示させる必要があることを表しており、このときCPU45は、再びステップSP21に戻り上述した処理を繰り返す。
【0093】
一方、ステップSP22で否定結果が得られると、このことは治療者用操作部49を介して次駅到着命令が与えられていないこと、すなわち、治療者Hが3次元仮想空間内において電車を走行し続けた時の状態を患者Pに体験させようとしていることを表しており、このときCPU45は、次のステップSP27へ移る。
【0094】
ステップSP27においてCPU45は、イベント設定の変更として治療者用操作部49から緊急停車命令が与えられたか否かを判断する。
【0095】
ステップSP27で否定結果が得られると、このことは治療者用操作部49から緊急停車命令が与えられていないこと、すなわちイベント設定を変更せずに治療者Hが3次元仮想空間内において電車が走行継続中の状態を患者Pに体験させたいことを表しており、このときCPU45は再びステップSP22に移り、上述した処理を繰り返す。
【0096】
これに対してステップSP27で肯定結果が得られると、このことは治療者用操作部49から緊急停車命令が与えられたこと、すなわちイベント設定を変更として治療者Hが3次元仮想空間内において電車を緊急停車させたときの状態を強制的に患者Pに体験させたいことを表しており、このときCPU45は次のステップSP28へ移る。
【0097】
ステップSP28においてCPU45は、緊急停車時用の映像信号をHMD11に送出することによりトンネル内で電車が緊急停車したときの3次元仮想空間映像をHMD11に表示させると共に、緊急停止時用の音響信号をヘッドホン12に送出することにより当該3次元仮想空間映像に対応した電車の急停車音や緊急停止である旨のアナウンス等の3次元仮想空間音響をヘッドホン12から出力させ、さらに次駅到着時用の刺激制御信号をボディソニック装置4に送出することにより3次元仮想空間映像及び3次元仮想音響に対応した緊急停止時の振動や他の人物からの圧迫感等の体感刺激をボディソニック装置4を介して患者Pに与え、次のステップSP29へ移る。
【0098】
ステップSP29においてCPU45は、イベント設定の変更として治療者用操作部49から運転再開命令が与えられたか否かを判断する。
【0099】
ステップSP29で否定結果が得られると、このことは治療者用操作部49から運転再開命令が与えられていないこと、すなわち、イベント設定を変更せずに治療者Hが3次元仮想空間内において電車を緊急停車させた状態を患者Pに体験させたいことを表しており、このときCPU45はステップSP29で肯定結果を受けるまで待ち受ける。
【0100】
これに対してステップSP29で肯定結果が得られると、このことは治療者用操作部49から運転再開命令が与えられたこと、すなわちイベント設定の変更として治療者Hが3次元仮想空間内において電車が運転再開したときを患者Pに体験させたいことを表しており、このときCPU45は次のステップSP30へ移る。
【0101】
ステップSP30においてCPU45は、運転再開時用の映像信号をHMD11に送出することによりトンネル内で電車が運転再開するときの3次元仮想空間映像をHMD11に表示させると共に、運転再開時用の音響信号をヘッドホン12に送出することにより当該3次元仮想空間映像に対応した電車の発進音や運行再開した旨のアナウンス等からなる3次元仮想空間音響をヘッドホン12から出力させ、さらに運転再開時用の刺激制御信号をボディソニック装置4に送出することにより3次元仮想空間映像及び3次元仮想音響に対応した発進時の振動等の体感刺激をボディソニック装置4を介して患者Pに与え、再びステップSP22へ戻り上述した処理を繰り返す。
【0102】
このようにして、恐怖症治療システム1は、途中通過駅である桜一丁目駅、桜二丁目駅、30号ビル前駅、南通り駅、南通り3番街駅、緑交差点駅及び50号ホール前駅までの各種3次元仮想空間映像、3次元仮想空間音響及び体感刺激を呈示し、終着駅である中央街駅まで到達させ、最終的には図16に示すような地下鉄駅の出入口の3次元仮想空間映像を呈示し得る。
【0103】
因みに、この恐怖症治療システム1では、地下鉄走行中等の各種3次元仮想空間映像を呈示中に、患者Pの状態に応じて治療者Hが治療者用操作部49を介して図16に示すような最終駅の地下鉄駅出入口の3次元仮想空間映像に強制的に切り替えるようなイベント設定の変更を行え、治療している際に何時でも治療者Hにより患者Pにかかる負担を容易に軽減させることができる。
【0104】
(4)動作及び効果
以上の構成において、恐怖症治療システム1では、特定状況としての地下鉄利用状況に恐怖感覚を抱く患者Pに対して、当該地下鉄利用状況を再現した3次元仮想空間をHMD11を介して呈示すると共に、当該3次元空間映像に対応した3次元仮想空間音響をヘッドホン12から出力し、これら3次元空間映像及び3次元空間音響に対応した体感刺激をボディソニック装置4を介して患者Pに与えるようにしたことにより、患者Pの視覚、聴覚及び触覚を介して恐怖場面たる地下鉄利用場面を呈示し、あたかも患者P自身が現実の地下鉄利用場面に直面しているかのような感覚を与えることができる。
【0105】
この恐怖症治療システム1では、3次元仮想空間映像、3次元仮想空間音響及び体感刺激の設定(すなわち混雑設定、視点高さ設定及びイベント設定)を、治療者Hが治療者用操作部49によって、治療中の患者Pの状態に応じて自由に変更可能にしたことにより、各患者P毎に恐怖場面を細かく設定でき、かくして各患者P毎に適した治療を行え、患者Pの治療効果を高めることができる。
【0106】
すなわち、恐怖症治療システム1が呈示する地下鉄利用場面の3次元仮想空間では、治療者Hが治療者用操作部49によって、始発駅である西通り駅から途中通過駅である桜一丁目駅、桜二丁目駅、30号ビル前駅、南通り駅、南通り3番街駅、緑交差点駅及び50号ホール前駅を順次介して終着駅である中央街駅に到達するまでの各経路において、無人の状態、人がまばらにいる程度、中程度の混雑及び大混雑の4段階に人の混雑設定を変更できるようにしたことにより、3次元仮想空間映像、3次元仮想空間音響及び体感刺激を各患者P毎に細かく設定でき、かくして地下鉄利用場面において人混みに対して恐怖感覚を抱く患者Pの治療を行うことができる。
【0107】
また、恐怖症治療システム1が呈示する地下鉄利用場面の3次元仮想空間では、治療者Hが治療者用操作部49によって、電車の到着、ドアの開閉、電車の発車、乗車中の電車の次駅への到着、緊急停車、強制終了等の各種イベント設定に変更できるようにしたことにより、3次元仮想空間映像、3次元仮想空間音響及び体感刺激を各患者P毎に恐怖感覚を抱く恐怖場面に細かく設定でき、かくして地下鉄利用場面において各種特定状況を創り出し各患者P毎に最適な治療を行うことができる。
【0108】
さらに恐怖症治療システム1が呈示する地下鉄利用場面の3次元仮想空間では、治療者Hが治療者用操作部49によって、3次元仮想空間内での患者Pの目視する視点高さ設定を変更できるようにしたことにより、3次元仮想空間映像、3次元仮想空間音響及び体感刺激を各患者P毎に恐怖感覚を抱く恐怖場面に細かく設定でき、かくして地下鉄利用場面において着座した状態や立った状態に対して恐怖感覚を抱く患者Pに最適な治療を行うことができる。
【0109】
そして、この恐怖症治療システム1では、患者P自身が自ら患者用コントローラ3の操作によって、3次元仮想空間内を移動しているような3次元仮想空間映像をHMD11に表示させるようにした。これにより、従来、治療者Hのみが主導権をもって一方的に行なわれていたバーチャル空間を利用した恐怖症治療において、従来よりも一段と高い現実感を患者Pに与えることができると共に、患者Pの積極的な治療参加を誘導し、集中して治療を受けさせて治療効果を高めることができる。
【0110】
また、この恐怖症治療システム1では、SSR計測器7から送出される患者Pの生理情報をリアルタイムに表示部6に表示するようにしたことにより、従来、治療の評価に対し患者Pの身体変化を目による観察と、言語報告と、治療後の質問紙によるデータとで行なわれていた各患者Pの身体的変化を、生理情報としてのSSRを基に容易に、かつ正確に治療者Hに対して把握させることができ、かくして患者Pの身体変化による情報をリアルタイムで分析しながら、適切な恐怖場面を設定することができる。
【0111】
さらに、恐怖症治療システム1では、ボディソニック装置4の刺激付与手段としての背部刺激付与手段23、腰部刺激付与手段27、上腕刺激付与手段31、殿部刺激付与手段35、前腕刺激付与手段38及び下腿刺激付与手段41を個別に制御し独立して動作させ、3次元空間映像及び3次元空間音響に対応して患者Pの特定の部位のみに所定の体感刺激を与えるようにしたことにより、従来よりも一段と現実感を与え、集中して治療を受けさせて治療効果を高めることができる。
【0112】
(5)他の実施の形態
本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えばSSR計測器7、患者用コントローラ3、ボディソニック装置4及び3次元仮想空間視聴手段2を有線でなく無線でパーソナルコンピュータ5に接続したり、ボディソニック装置4の刺激付与手段を患者Pの腹部や胸郭等の各種部位に設けるようにしたり、生理情報計測器としてSSR計測器7以外を用いたり、音響出力手段としてのヘッドホン12を用いずに単にパーソナルコンピュータ5のスピーカを用いても良い。
【0113】
上述した実施の形態においては、治療者Hが治療者用操作部49によって、3次元仮想空間映像、3次元仮想空間音響及び体感刺激全ての設定を、患者Pの状態に応じて一度に変更可能にした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、治療者Hが治療者用操作部49によって、3次元仮想空間映像、3次元仮想空間音響及び体感刺激のうち少なくともいずれか1つの設定を、患者Pの状態に応じて変更可能にしても良い。
【0114】
また、上述した実施の形態においては、特定状況の3次元仮想空間として、地下鉄恐怖症の治療に用いる3次元仮想空間を呈示するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、飛行機恐怖、高所恐怖、社会恐怖(スピーチ不安)、閉所恐怖、パニック障害(広場恐怖)及びクモ恐怖等の各種恐怖症の治療に用いるため各恐怖症にあった3次元仮想空間を呈示する等各種恐怖症治療システムに用いるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明による恐怖症治療システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】ボディソニック装置の可動の様子を示す概略図である。
【図3】恐怖症治療システムの回路構成を示すブロック図である。
【図4】ボディソニック装置の回路構成を示すブロック図である。
【図5】3次元仮想空間が呈示される地下鉄の経路を示す概略図である。
【図6】地下鉄出入口の3次元仮想空間映像を示す概略図である。
【図7】地下鉄の駅構内の3次元仮想空間映像を示す概略図である。
【図8】駅ホーム待機処理手順を示すフローチャート図である。
【図9】駅ホームに電車が停車するとき3次元仮想空間映像を示す概略図である。
【図10】停車した電車のドアが開いたときの3次元仮想空間映像を示す概略図である。
【図11】乗車処理手順を示すフローチャート図である。
【図12】電車に乗車したときの3次元仮想空間映像(1)を示す概略図である。
【図13】電車に乗車したときの3次元仮想空間映像(2)を示す概略図である。
【図14】電車内を無人にしたとき及び混雑させたときの3次元仮想空間映像を示す概略図である。
【図15】視点高さ設定を変更したときの3次元仮想空間映像を示す概略図である。
【図16】終着駅の地下鉄出入口の3次元仮想空間映像を示す概略図である。
【符号の説明】
【0116】
1 恐怖症治療システム
2 ヘッドマウントディスプレイ
3 患者用コントローラ
4 ボディソニック装置
5 パーソナルコンピュータ(情報処理装置、恐怖症治療装置)
7 SSR計測器(生理情報計測器)
12 ヘッドホン(音響出力手段)
45 CPU(映像信号生成手段、刺激制御信号生成手段、音響信号生成手段)
49 治療者用操作部(操作部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者が恐怖感覚を抱く特定状況を再現した3次元仮想空間を呈示して前記患者の恐怖症を治療する恐怖症治療システムにおいて、
映像信号に基づいて前記特定状況の3次元仮想空間映像を表示するヘッドマウントディスプレイと
音響信号に基づいて前記3次元空間映像に対応した3次元仮想空間音響を出力する音響出力手段と、
刺激制御信号に基づいて前記3次元空間映像及び前記3次元空間音響に対応した体感刺激を前記患者に与えるボディソニック装置と、
前記ヘッドマウントディスプレイに前記映像信号を送出し、前記音響出力手段に前記音響信号を送出し、前記ボディソニック装置に前記刺激制御信号を送出する情報処理装置とを備え、
前記情報処理装置は、前記3次元仮想空間映像、前記3次元仮想空間音響及び前記体感刺激のうち少なくともいずれか1つの設定を、治療者が治療中の前記患者の状態に応じて変更可能な操作部を有する
ことを特徴とする恐怖症治療システム。
【請求項2】
前記情報処理装置は、前記患者自身が操作可能な患者用コントローラを備え、
前記患者用コントローラの操作に応じて、前記患者自身が前記3次元仮想空間内を移動しているような前記3次元仮想空間映像を前記ヘッドマウントディスプレイに表示させる
ことを特徴とする請求項1記載の恐怖症治療システム。
【請求項3】
前記情報処理装置は生理情報計測器を備え、
前記生理情報計測器から送出される前記患者の生理情報をリアルタイムに表示部に表示する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の恐怖症治療システム。
【請求項4】
前記ボディソニック装置は、前記3次元空間映像及び前記3次元空間音響に対応して前記患者の特定の部位のみに所定の体感刺激を与える刺激付与手段を備える
ことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項記載の恐怖症治療システム。
【請求項5】
患者が恐怖感覚を抱く特定状況を再現した3次元仮想空間を呈示して前記患者の恐怖症を治療する恐怖症治療装置において、
前記特定状況の3次元仮想空間映像をヘッドマウントディスプレイに表示させる映像信号を生成する映像信号生成手段と、
前記3次元空間映像に対応した前記3次元仮想空間音響を音響出力手段から出力させる音響信号を生成する音響信号生成手段と、
ボディソニック装置を駆動させ、前記3次元空間映像及び前記3次元空間音響に対応した体感刺激を前記患者に与える刺激制御信号を生成する刺激制御信号生成手段と、
前記3次元仮想空間映像、前記3次元仮想空間音響及び前記体感刺激のうち少なくともいずれか1つの設定を、治療者が治療中の前記患者の状態に応じて変更可能な操作部と
を備えることを特徴とする恐怖症治療装置。
【請求項6】
前記患者自身が操作可能な患者用コントローラと有線又は無線で接続するコントローラ接続手段を備え、
前記患者用コントローラからの操作命令に基づいて、前記患者自身が前記3次元仮想空間内を移動しているような前記3次元仮想空間映像を前記ヘッドマウントディスプレイに表示させる
ことを特徴とする請求項5記載の恐怖症治療装置。
【請求項7】
生理情報計測器と有線又は無線で接続する生理計測器接続手段と、
前記生理計測器接続手段に接続された前記生理情報計測器から前記患者の生理情報を受け取りリアルタイムに表示する表示部と
を備えることを特徴とする請求項5又は6記載の恐怖症治療装置。
【請求項8】
前記3次元空間映像及び前記3次元空間音響に対応して前記患者の特定の部位のみに所定の体感刺激を与えるように前記ボディソニック装置を制御する
ことを特徴とする請求項5乃至7のうちいずれか1項記載の恐怖症治療装置。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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