説明

恒温撹拌装置および恒温液槽

【課題】容器内の溶液の温度制御を高精度に行いながらもマグネチックスターラーの長寿命化を図り、かつ、液槽の形状を工夫して液槽内にいれる容器に浮き上がりを発生させない。
【解決手段】底壁16に高低差を設けて浅底部16bと深底部16cとを形成していると共に、少なくとも浅底部16aの底壁16が透磁性材からなる恒温液槽12と、恒温液槽12の深底部16c内に収容され、恒温液槽12内に貯留される水Wの温度制御手段14と、恒温液槽12の浅底部16bの底壁下方の外部空間に配置され、恒温液槽12の浅底部16bの底壁上面に載置されるビーカー4内に溶液Yと共に投入されるマグネット撹拌子5の回転用磁界を発生するマグネチックスターラー13とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、恒温撹拌装置および恒温液槽に関し、特に、化学実験において、ビーカー等の容器を恒温液槽に浸漬し、該容器内の溶液を恒温条件下で撹拌する際に好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の化学実験等においてビーカ内の溶液を恒温状態に保ちながら撹拌するための装置が種々提供されている。
例えば、図10に示すホットスターラー1は、モータで回転駆動するマグネット(図示せず)をケース2に内蔵し、ケース2の上面にホットプレート3を配置している。マグネット撹拌子5が溶液Y中に浸漬しているビーカー4をホットプレート3上に載置し、マグネットの回転で発生する回転磁界によりマグネット撹拌子5が非接触で回転することで、ビーカー4内の溶液Yが所定温度で撹拌される。
前記ホットスターラー1では、熱源がビーカー4の底部のみに位置するため、ビーカー4の側面を含めた加熱が不可能で、ビーカー4内の溶液Yの温度が不均一となりやすく温度制御が難しい問題がある。
【0003】
一方、図11に示す装置は、コントローラ6に接続された水中マグネチックスターラー7を高さ調節台9に載せた状態で恒温液槽8に浸漬して使用するもので、水温調節器10で水温Wが一定に保たれた恒温液槽8によりビーカー4の全周が加熱されるので、ビーカー4内の溶液Yの温度分布が均一化されやすい利点がある。
しかしながら、マグネチックスターラー7自体が恒温液槽8の水中に晒されるので、水中マグネチックスターラー7の故障防止のために水温の上限温度に限界があると共に、装置の耐久性が水中マグネチックスターラー7の外壁材質や防水パッキン等の耐熱性、耐久性に依存することになり、寿命が短くなるという問題がある。
【0004】
さらに、恒温液槽8中に水温調節器10を浸漬するため、液槽8を深くして、ある程度の液面高さとする必要があるが、液槽8を深くするとビーカー4が浮き上がる問題がある。そのため、図11の装置では液槽中に高さ調節台9を配置し、該高さ調節台9上に水中マグネチックスターラー7を搭載し、この水中マグネチックスターラー7上にビーカー4を載置している。しかしながら、水中マグネチックスターラー7上のビーカー4を単に乗せるだけではビーカーの浮き上がりを確実に防止できず、ビーカー4を水中マグネチックスターラー7上に固定する手段を付設する必要がある。
【0005】
なお、特開平5−161839号公報や特開平7−260671号公報等には、モータで回転駆動されるマグネットにより溶液中に浸漬された撹拌子を非接触で回転させて溶液を撹拌する装置が開示されているが、温度制御の精度向上と長寿命化とを両立させたものは未だ開発されていないのが現状である。
【特許文献1】特開平5−161839号公報
【特許文献2】特開平7−260671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、容器内の溶液の温度制御を高精度に行いながらもマグネチックスターラーの長寿命化を図り、かつ、液槽の形状を工夫して液槽内にいれる容器に浮き上がりを発生させないことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、底壁に高低差を設けて浅底部と深底部とを形成していると共に、少なくとも前記浅底部の底壁が透磁性材からなる恒温液槽と、
前記恒温液槽の深底部内に収容され、該恒温液槽内に貯留される液体の温度制御手段と、
前記恒温液槽の浅底部の底壁下方の外部空間に配置され、該恒温液槽の浅底部の底壁上面に載置される容器内に溶液と共に投入されるマグネット撹拌子の回転用磁界を発生するマグネチックスターラーとを備えていることを特徴とする恒温撹拌装置を提供している。
【0008】
前記構成とすると、溶液が入った容器を恒温液槽中に浸漬するので容器全周で熱伝達が行われ、溶液の温度制御を高精度に行うことができる。また、マグネチックスターラーを液槽の外部に配置して、水中に設置していないため、マグネチックスターラーの長寿命化を図ることができると共に、マグネチックスターラー自体に防水処理を施す必要もなくなる。
特に、恒温液槽の形状を改良し、単なるボックス形状とせず、底壁に高低差を設けて浅底部と深底部とを形成し、浅底部では水量が少ない低水位部としているため、該浅底部の底壁上面に載置するビーカーが浮き上がることを確実に防止できる。一方、高さが大となる温度制御手段は水量が多い高水位部とした深底部に収容するため、温度制御手段に対して所要の液面高さを確保することができる。このように、液槽の底壁に高低差を設けることで、温度制御手段を収容する部分は高水位とし、容器を載置する部分は低水位とする両方の要望を達成することができる。
【0009】
前記マグネチックスターラーとは、モータにより回転するマグネットが内蔵されて回転磁界の発生を可能とする機器である。該マグネチックスターラで発生させる回転磁界を液槽の浅底部を透過させて、該浅底部上に定置されるビーカー等の前記容器中のマグネット撹拌子を回転させて、容器中の溶液を撹拌している。よって、液槽の構成材としては、マグネチックスターラと容器の間に介在させる浅底部となる底壁部分は少なくとも透磁性材で形成する必要がある。特に、下方に配置するマグネチックスターラーが複数台を組み合わせて構成、例えば、4台を組み合わせて4点式スターラとしているものであれば、各マグネチックスターラーの上方部位にそれぞれビーカー等の容器定置部であることが一目で目視できるように、透磁材からなる定置部を他の底壁部分と境界を設けて形成してもよい。
なお、液槽全体を透磁性材からなる同一材で形成すると、液漕を簡単に作製することができる点で好ましい。更に、浅底部に複数の容器定置部があれば、浅底部の底面にマーク等を施しておくことが好ましい。
恒温液槽に貯留される液体としては水が好適に用いられるが、熱伝導性のよい熱媒体となりうる液体であれば水に限定されない。
【0010】
前記恒温液槽は底壁の形状は、具体的には、段差部を有する断面倒L型として、一側部に前記浅底部を設けていると共に他側部に前記深底部を設け、該深底部と浅底部の高低差は前記マグネチックスターラーの高さと略同一とし、該マグネチックスターラーと恒温液槽とは一体化して設け、あるいは別体として組み合わせ、前記マグネチックスターラー上に搭載される前記浅底部の底壁を水平に支持している。
【0011】
前記構成とすれば、深底部と浅底部との高低差はマグネチックスターラーの高さと略同一としているので、マグネチックスターラーが浅底部の下部空間に収まりよく配置でき、恒温液槽とマグネチックスターラーとの両方を安定して地面に設置することができると共に、浅底部の底壁も水平に保たれるので容器の転倒等を防止することができる。また、容器載置用に設けた浅底部の下方の上げ底空間をマグネチックスターラーの配置箇所として利用することで、設置効率が向上して装置全体の小型化および省スペース化を実現することができる。
【0012】
前記恒温液槽はステンレス、チタン、ニッケル等からなる金属材で形成し、かつ、該金属材からなる液槽内面に保温材を積層していると好ましい。
【0013】
即ち、不燃性のステンレス、チタン、ニッケル等からなる金属材で形成すると、異常加熱時にも恒温液槽が破壊・変質しないため安全性を向上することができる。
また、恒温液槽の内表面に発泡スチロールやガラスウール等の保温材を被覆積層することで、断熱効果が高まり液温の安定化に貢献する。さらに、恒温液槽の前記金属材厚さは、1〜3mm、ステンレスの場合は約2mmとすることが、強度確保と軽量化の両立を図りながらも透磁性を確保する観点より好ましい。
なお、恒温液槽内の液温の仕様があまり高温でない場合には、恒温液槽を樹脂やガラス等の別の材質で形成しても好適に使用することができる。しかしながら、透磁材で形成する場合には、浅底部のスターラー上面側の浅底部の容器載置部分は透磁材で形成する必要がある。
さらにまた、恒温液槽の外周面には断熱材を被覆積層しても良いし、さらに、恒温液槽
の上面開口に蓋を取り付けてもよい。
【0014】
前記恒温液槽の深底部に収容する温度制御手段は、加熱用あるいは/および冷却用の熱源と、温度センサーと、液面レベル計と、設定した液面高さに達しない場合及び異常温度時に熱源の動作を自動停止する安全手段とを内蔵したボックス状ユニットからなり、
前記ボックス状ユニットの前記液面レベル計は前記恒温液槽の上面開口に近接した位置に配置している。
【0015】
前記構成とすると、恒温液槽の液量が蒸発等により少なくなった場合には、液面レベル計で検知して安全手段により熱源の加熱等が自動停止するので、空焚きが防止されて安全性を向上させることが可能となる。かつ、恒温液槽内の液体が異常温度に過昇温等されたことが温度センサーにより検知された場合も安全手段により熱源の加熱等が自動停止するので、より安全性が高まる。
具体的には、前記温度制御手段は、ボックス状ユニットの上端からフックを突設し、深底部側の側壁上端に係止して、液中に垂下浸漬する構成とすることが好ましい。該構成とすると、温度制御手段の浮き上がりによる不安定性を無くすことができる。
【0016】
本発明は、さらに、容器中の溶液を撹拌する場合だけでなく、容器中の溶液を所定時間
、所定温度に保持する必要がある場合にも好適に用いることができる恒温液槽として、前記した形状の恒温液槽を提供している。
即ち、容器内の溶液を所定温度に保持するために該容器を入れる恒温液槽として、
底壁に高低差を有する断面倒L字型として、一側部に浅底部を設けていると共に他側部に深底部を設け、前記浅底部は容器を載置する反応部とする一方、前記深底部は温度制御手段収容部としていることを特徴とする恒温液槽を提供している。
【0017】
前記構成とすると、溶液を入れた容器を恒温液槽の浅底部に載置することで容器が浮いてしまうのを防止することができ、容器の設置安定性が向上する。かつ、温度制御手段を深底部に収容することで温度制御手段の高さが大きくても正しく設置することが可能となる。
其の際、深底部の底面を基台上に定置すると、浅底部は基台上より浮いた状態となるため、浅底部と基台との間に高さ調節台や、他の所要の機能を有するボックスを介在させると、恒温液槽を安定保持することができる。
前記恒温液槽の底壁における浅底部と深底部との高低差は、深底部に収容する温度制御手段の高さによって相違し、高さが大の場合は前記高低差は大となり、高さが低い場合には高低差を小さくしている。
例えば、恒温液槽中の液体を加温保持するため、汎用の水中浸漬型ヒータおよび温度センサー、液面レベル計等を付設した温度制御手段を使用する場合には、浅底部の高さは深底部の高さの2/3〜1/2とし、よって、高低差は深底部の高さの1/3〜1/2とすることが好ましい。
一方、前記恒温液槽中の液温を常温よりも低温として、溶液中の溶液を冷却する場合には、温度制御手段としてはチラー、冷媒発生源と循環させた冷媒循環部を設けた冷却部品が用いられる。
また、前記恒温液槽は、前記恒温撹拌装置の恒温液槽と同様に内面側に保温材、外面側に断熱材を配置しても良いし、必要に応じて蓋を付設してもよい。
さらに、冷却の場合には冷媒を循環させるジャケットを液槽の内周面あるいは外周面に付設してもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明より明らかなように、本発明の恒温撹拌装置によれば、恒温液槽中にビーカー等の容器を載置しているため、容器全周に熱伝達がされ、容器中の溶液の温度分布を高精度に均一化することができる。かつ、液槽中に温度制御手段を収容する場合には、液面を高く設定する必要があり、その場合には容器が浮き上がる問題もあったが、本発明では、液槽の底面に高低差を設けて容器載置部は浅底としているため、容器の浮き上がり問題を解消することができる。
しかも、この浅底部とすることにより発生する浅底部の下部外部空間にマグネットスターラを配置しているため、該マグネットスターラを液槽中に配置する場合に必要であった防水処理を不要とできると共に、長寿命化を図ることができる。
【0019】
また、本発明の恒温液槽は、化学実験において、溶液を所定の高温あるいは低温に所定時間保持した状態とすることが必要な種々の実験工程においても好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図5は本発明の恒温撹拌装置11を示し、水Wを貯留する恒温液槽12と、恒温液槽12に貯留された水Wを恒温状態に温度調節を行う温度制御手段14と、恒温液槽12の反応部Aにおける底壁16の下部に配置するマグネチックスターラー13とを備えている。
【0021】
恒温液槽12は、ステンレスやチタンやニッケル等の透磁性を有する金属板により、底壁16と、4辺の側壁17〜20とで上面開口15を有する略ボックス状に形成している。本実施形態では厚み2mmのステンレスを用い、恒温液槽12の縦横寸法を240mm×400mmとしている。
前記底壁16は、段差部16aを境界として一側に反応部Aとする浅底部16bと、他側に温度制御手段収容部Bとする深底部16cとを設け、段差部16aは傾斜面としている。底壁16を前記形状とすることで、液槽12を側面視で倒L型としている。
【0022】
恒温液槽12の反応部A側の側壁17の高さL1は、ビーカー4(容器)が水Wに浮かない程度の高さでL1=30〜500mmとしている。温度制御手段収容部B側の側壁18の内槽の高さL2は、温度制御手段14が浸漬できるだけの高さを確保してL2=50〜1000mmとしている。段差部16aの高さL3、即ち、浅底部16bと深底部16cとの高低差L3は、後述するマグネチックスターラー13の高さL9と略同一としておりL3=20〜970mmとしている。浅底部16bの幅L4もマグネチックスターラー13の幅L8以上の長さでL4=100〜1000mmとしている。
深底部16cの幅L5は、温度制御手段14の熱源29の幅以上の長さとしておりL5=50〜300mmとしている。段差部16aと平行な方向の側壁17、18の幅L6は、マグネチックスターラー13の奥行きL10以上の長さとしL6=100〜1000mmとしている。段差部16aと直交する方向の側壁19、20の幅L7は、前記各条件を満たす範囲で大型化しすぎないように適宜設定している。
本実施形態では、浅底側の側壁17の外槽の高さL1を65mm、深底側の側壁18の外槽の高さL2を80mmとし、底壁の段差部16aの高さL3を115mmとしている。さらに、浅底部16bの幅L4は220mm、深底部16cの幅L5は150mm、側壁17、18の幅L6は240mmとしている。
なお、本実施形態では恒温水槽12には蓋を設けていないが、必要に応じて蓋を着脱自在に取り付けられるようにして付設してもよい。
【0023】
マグネチックスターラー13は、図4に示すように、ケース21の側面に電源スイッチ22などを設けていると共にケース21の上面23を磁界発生面とし、幅をL8、高さをL9、奥行きをL10としている。
本実施形態では、前記L8を200mm、L9を115mm、L10を200mmとし
ている。即ち、マグネチックスターラー13の高さL9を恒温液槽12の底壁の高低差と一致させている。
【0024】
前記マグネチックスターラー13は、4台のスターラーを組み合わせた多連式のスターラをケース21内に収容している。よって、恒温液槽12の浅底の反応部Aには4つのビーカーを同時に載置し撹拌可能としている。
各マグネチックスターラー自体の構成は周知の構成で、図5に概略的に示すように、電源27で駆動されるモータMの回転軸に水平片26の中心を固定し、該水平片26の端部にマグネット24、25を固定し、該水平片26と対向するケース上面23に4枚の回転磁界伝導部28A〜28Dを露出させて設けている。
前記回転磁界伝導部28A〜28Dと対応する浅底部16bの底壁内面には、ビーカー(容器)4を夫々定置させるために、図2に示すように、底壁内面に定置部マークMを付けておくことがこのましい。
ビーカー4内には、前記マグネチックスターラーにより回転されるマグネット撹拌子5を、撹拌対象物である溶液Yを入れたビーカー4(容器)には投入している。
よって、モータMの駆動によりマグネット24、25を旋回させると、ビーカー4内の
マグネット撹拌子5を回転させて、溶液を撹拌することができる。
【0025】
なお、マグネチックスターラー13と恒温液槽12とは別体として、液槽12の浅底部16bの下部空間に使用時に配置しているが、予め液槽12の浅底部の下部外側に一体型に組みつけた構成としてもよい。
【0026】
本実施形態のマグネチックスターラ13では、回転速度は20〜1000rpm、出力
電圧は4V以下、制御方式はIC回路定電圧可変制御とし、4台のスターラーの回転速度を同一に設定できると共に相違させることもできるようにしている。
なお、本実施形態では4点式として4台のスターラを設けているが、ケース内に1台のスターラーを収容してもよく、台数は制限されない。
【0027】
温度制御手段14は、図1に示すように、縦長のボックス状ユニットで、恒温液槽12の深底側の側壁18の上端縁に引っ掛けるフック部28と、下部に設けられた水中浸漬型の加熱ヒータからなる熱源29と、温度センサー30と、恒温液槽12の上面開口15に近接した位置に配置される液面レベル計31と、安全手段32とを備えている。安全手段32は、液面レベル計31で検出された恒温液槽12の水位が所定値未満になった場合、および、温度センサー30で検出された水温が設定温度を超えた場合に、熱源29の加熱を停止する構成としている。
なお、温度制御手段14は恒温液槽12の側壁に予め固定して一体型として構成してもよい。
本実施形態で用いる温度制御ボックスの高さは150mmであり、かつ、その縦横幅に
応じて恒温液槽12の温度制御手段収容部Bの前記寸法を設定している。
【0028】
次に、恒温撹拌システム11の使用手順について説明する。
図1に示すように、基台の設置面Gに設置したマグネチックスターラー13の上に恒温液槽12の浅底部16bを載置し、恒温液槽12の深底部16cが設置面Gに当接するように配置する。
次いで、恒温液槽12に所定水位まで注水し、温度制御手段14のフック部28を恒温液槽12の側壁18の上端縁に引っ掛けて、熱源29を温度制御手段収容部Bの液中に浸漬する。
その後、温度制御手段14を操作して恒温液槽12の水温を目的とする一定温度に設定した上で、溶液Yおよびマグネット撹拌子5が入ったビーカー4を恒温液槽12の反応部Aに浸漬し、浅底部16bの上面に付されたマークM上に定置する。
【0029】
この状態で、マグネチックスターラー13の電源スイッチ22をオンして、電源27によりモータMを回転駆動してマグネット24、25を回転させる。このマグネット24、25の回転により発生した回転磁界が、マグネチックスターラー13のケース上面23および恒温液槽12の底壁16を透過してビーカー4内のマグネット撹拌子5を非接触で回転させ、溶液Yが撹拌される。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、溶液Yが入ったビーカー4を恒温液槽12の水中に載置するため、ビーカー4内の溶液Yの温度分布が均一となり恒温状態に保ちやすい。かつ、マグネチックスターラー13を水Wに晒す必要がないため、マグネチックスターラー13の使用寿命が長くなると共に、防水処理も不要とすることができる。
また、ビーカー4は恒温液槽12の反応部Aに浸漬するようにしているのでビーカー4が水Wに浮くのを防止できる一方、温度制御手段14の熱源29は温度制御手段収容部Bに浸漬するので、高背な温度制御手段14であっても正しく設置することが可能となる。
さらに、恒温水槽12は側面倒L字型としているので、浅底部16bの下方空間にマグネチックスターラー13を収めることができ、安定した設置姿勢を保ちながらも省スペース化を図ることができる。
【0031】
図6は本発明の第2実施形態を示す。
第2実施形態は、マグネチックスターラーからなる撹拌装置を付設したものではなく、温度制御手段14を付設した恒温液槽12からなるものである。
恒温液槽12は第1実施形態と同様な構成で、底壁に高低差を設けて側面視倒L型とし、浅底部16bをビーカー等の容器を収容する反応部Aとし、深底部16cを温度制御手段収容部Bとしている。
前記恒温液槽12の浅底部16bの下部空間には、使用時に高さ調節台40を配置し、恒温液槽12を基台上に安定支持している。
【0032】
上記したマグネチックスターラーを付設していない恒温液槽では、撹拌する必要がなく、
所定温度で所定時間、容器内の溶液を留置したい化学実験において好適に用いられる。
他の構成および作用効果は第1実施形態と同様であるため、同一部品に同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
図7は本発明の第3実施形態を示し、恒温液槽12に付設する温度制御手段14は冷却用チラーとしているものである。
温度制御手段14には、冷却機本体50にコード51を介して冷却コイル52を設けており、前述した実施形態と同様に温度センサー30と液面レベル計31と安全手段32とを備えている。安全手段32は、液面レベル計31で検出された恒温液槽12の水位が所定値未満になった場合、および、温度センサー30で検出された水温が設定温度を下回った場合に、冷却コイル52の冷却を停止する構成としている。前記冷却コイル52を恒温液槽12の深底部16cに浸漬することで恒温液槽12内の水を室温以下の設定保持している。
なお、恒温液槽12内に水に代えて0℃以下で固化しない溶液を貯留すると、−0℃以下の所定温度まで冷却させることができる。
該第3実施形態の恒温液槽は、撹拌装置付きの第1実施形態、撹拌装置なしの第2実施形態のいずれの恒温液槽にも適用できる。
【0034】
図8、図9(A)〜(D)は、恒温液槽の変形例を示す。
図8(A)(B)では、恒温液槽12の浅底部16bの容器載置部M’のみをステンレスで形成し、他の部分は樹脂製とし、ステンレスをモールドして一体成形している。
図9(A)では、恒温液槽12の全体をステンレスで形成し、かつ、液槽の内表面に発泡スチロールあるいはガラスウールからなる保温材55を貼着して積層構造としている。
図9(B)では、恒温液槽12の内表面を前記保温材55を貼着する一方、外表面を断熱材熱伝導率が低い断熱材56で被覆して積層構造としている。
図9(C)では、恒温液槽12の上部開口を閉鎖する蓋57を取り外し自在に取り付けている。
図9(D)では、恒温液槽12を冷却用とする場合で、恒温液槽12の外表面に、冷媒を循環させる冷却ジャケット58を付設している。
前記図8、図9(A)〜(D)で示す恒温液槽は、撹拌装置付きの第1実施形態、撹拌装置なしの第2実施形態のいずれの恒温液槽にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の撹拌手段を付設した撹拌恒温装置および恒温液槽は、化学実験用として好適に用いることができるが、例えば、食品を所定温度で加熱、冷却する調理時あるいは調理後に所定温度で保持する必要がある場合の調理用器具、医薬品の調合、血液製剤の調製等としても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態の恒温撹拌装置を示す断面図である。
【図2】恒温液槽を示す概略平面図である。
【図3】恒温液槽の斜視図である。
【図4】マグネチックスターラーの斜視図である。
【図5】マグネチックスターラーの駆動機構の概略図である。
【図6】第2実施形態の断面図である。
【図7】第3実施形態の要部説明図である。
【図8】恒温液槽の変形例を示し、(A)は断面図、(B)は平面図である。
【図9】(A)〜(D)は恒温液槽の変形例を示す概略図である。
【図10】従来例を示す斜視図である。
【図11】別の従来例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
4 ビーカー(容器)
5 マグネット撹拌子
11 恒温撹拌装置
12 恒温液槽
13 マグネチックスターラー
14 温度制御手段
15 上面開口
16 底壁
16a 段差部
16b 浅底部
16c 深底部
17〜20 側壁
21 ケース
22 電源スイッチ
23 上面
24、25 マグネット
26 水平片
27 電源
28 フック部
29 熱源
30 温度センサー
31 液面レベル計
32 安全手段
A 反応部
B 温度制御手段収容部
G 設置面
M モータ
W 水
Y 溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁に高低差を設けて浅底部と深底部とを形成していると共に、少なくとも前記浅底部の底壁が透磁性材からなる恒温液槽と、
前記恒温液槽の深底部内に収容される恒温液漕の温度制御手段と、
前記恒温液槽の浅底部の底壁下方の外部空間に配置され、回転用磁界を発生するマグネチックスターラーとを備え、該恒温液槽の浅底部の底壁上面に載置される容器内に溶液と共に投入されるマグネット攪拌子を回転して容器内の溶液を攪拌することを特徴とする恒温撹拌装置。
【請求項2】
前記恒温液槽は底壁に段差部を有する断面倒L型として、一側部に前記浅底部を設けていると共に他側部に前記深底部を設け、該深底部と浅底部の高低差は前記マグネチックスターラーの高さと略同一とし、
前記マグネチックスターラーと前記恒温液槽とは一体化して設け、あるいは別体として組み合わせ、前記マグネチックスターラー上に搭載される前記浅底部の底壁を水平に支持している請求項1に記載の恒温撹拌装置。
【請求項3】
前記恒温液槽はステンレス、チタン、ニッケル等からなる金属材で形成する請求項1または請求項2に記載の恒温撹拌装置。
【請求項4】
前記恒温液漕の内面又は外面に保温材を積層している請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の恒温撹拌装置。
【請求項5】
前記恒温液槽の深底部に収容する温度制御手段は、加熱用あるいは/および冷却用の熱源と、温度センサーと、液面レベル計と、設定した液面高さに達しない場合及び異常温度時に熱源の動作を自動停止する安全手段とを内蔵したボックス状ユニットからなり、
前記ボックス状ユニットの前記液面レベル計は前記恒温液槽の上面開口に近接した位置に配置している請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の恒温撹拌装置。
【請求項6】
容器内の溶液を所定温度に保持するために該容器を入れる恒温液槽であって、
底壁に高低差を有する断面倒L字型として、一側部に浅底部を設けていると共に他側部に深底部を設け、前記浅底部は容器を載置する反応部とする一方、前記深底部は温度制御手段収容部としていることを特徴とする恒温液槽。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−116392(P2006−116392A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305269(P2004−305269)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】