説明

恒温装置

【課題】 照明効率を高めて省電力化、低コスト化を図れる恒温装置を提供する。
【解決手段】 試料を収容可能な複数の小室4を多段に有し、各小室4を個別に独立した温度設定が可能な恒温装置1において、前記各小室4には、該室内を照明し室温に影響を与えない発光体が、設置されており、この発光体として、冷陰極蛍光ランプ17や発光ダイオード32としたり、発光体から得られる照明光として、小室4の水平方向で変化するように構成したりした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば発芽試験や、昆虫を含めた動物や植物などの生物時計の研究、藻類の培養、微生物の培養、植物の培養、昆虫や小動物の飼育などの光を要する生物の試験に最適な恒温装置に関し、これらの対象に対して上方などからの直接照明を可能にしたものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、所定の環境条件下における試験対象(以降、試料と称する)の変化や挙動を把握するために、各種の試験用装置が提案されている。たとえば環境試験として、所定の温度条件下での試料の変化を把握する温度環境試験があり、この試験に用いる機器の一種として、恒温装置がある。
【0003】
すなわち、図10(a),(b)に示すように、この恒温装置51は、断熱材料を用いて外形状を直立した直方体形状の断熱密閉槽53を形成し、この密閉槽53内の下部に、第1の温度制御手段として図示しない冷却器と送風ファンからなる空調部56を配設し、この空調部56の上方に、上下方向に多段に積層配置され試料を収容可能な小室54を配設し、これらの各小室54は、それぞれに専用の第2の温度制御手段として図示しない加温ヒータを設けた構成とされている。そして、この恒温装置51では、送風ファンによって、密閉槽53内の空気を循環通流させるとともに、この送給する空気を冷却器によって、所定のベース温度に調整する。そして、各小室54は、送給されてくる空気を吸入し該室内を通過させて空調部56側に戻すとともに、この吸入空気を、それぞれの加温ヒータによって所定に加温して、この空気温度がそれぞれの設定温度となるように補償し、各室54を個別に独立した設定温度に調節している。
【0004】
このように構成された恒温器は、温度勾配恒温器と呼称され、各種の実験に活用されている。この温度勾配恒温器は、主に植物の発芽試験、藻類の培養、微生物の培養、微生物の培養、昆虫、小動物の飼育や、昆虫を含めた動物や植物などの生物時計の研究などに使用されており、高さ方向に縦長のコンパクトな構成で設置スペースをとらず、多段に形成した各室で、一度に複数の温度条件を設定した実験ができることが大きな特長となっている。
【0005】
他方、生物の実験には、温度のみでなく、日光が必要な場合が多い。すなわち、恒温器では、照明灯による光が必要となる。また実際の屋外環境と同様に、各小室内の上部より照明することが最善となる。
【0006】
しかし、これまでの熱陰極蛍光灯などを照明器具として用いた構成の恒温器では、多くの問題点があった。すなわち、照明器具から生じる熱が室内の微妙な温度設定を乱すことに加えて、熱によって試料を痛めたり、照明ランプの大きさによって室内スペースが取られ過ぎて、試料が室内に収まらなかったりするなどの問題が生じていた。
【0007】
そこで、熱陰極蛍光灯を、槽の外部に配置して、横からの変形照明をしていた。すなわち、図10(b)に示すように、各小室54を形成した壁状部材のうち、小室54を構成した裏側の面または表側の面(内側)の部材61をペア(断熱、複層ガラス)による断熱厚質ガラスで形成するとともに、この槽53に対して裏側や表側(扉側)となる箇所に、熱陰極蛍光灯60を取り付けた構成としていた。この熱陰極蛍光灯60は、最下段の小室54から最上段の小室54まで到達する長さの長尺状の蛍光灯とされ、略垂直方向に直立させて所定数、配列して設置されている。また、各小室54間を区切った棚板62に、断熱厚質ガラスを用いて、室内に透過させた灯光をその小室54だけでなく、上下段の小室54,54に到達できるようにしていた。他方、槽53内に収容された試料に対して横からも斜めからも照明光を照射できるように、熱陰極蛍光灯60を槽53の周囲に配置し、照度のバラツキを少なくする工夫をしていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の構成では、試料を収容した小室の外部に照明装置を設置しているので、照明効率が低くなりこの低い分を補うために電力消費が増大してこの面で好ましくなく、装置全体が大型化して製作コスト面でも不利であるという不都合が生じていた。
【0009】
すなわち、室内への入射光の方向が、水平な横向きや斜めの向きであるということ、ガラス透過による光の吸収などが含まれること、一般的な照明灯の生の直接照射に比べて照度のバラツキや照明としてのムダが生じることなどの面から、照明効率が低くなっていた。このため、一方向型の直接照明による効率的な照明を待望していた。
【0010】
そこでこの発明は、従来の装置の問題点を解決し、照明効率を高めて省電力化、低コスト化を図れる恒温装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、試料を収容可能な複数の小室を多段に有し、各小室を個別に独立した温度設定が可能な恒温装置において、前記各小室には、該室内を照明し室温に影響を与えない発光体が、設置されている。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記発光体は、冷陰極蛍光ランプである。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1において、前記発光体は、発光ダイオードである。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記発光体からの照明光は、該小室の水平方向で変化するように構成されている。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記各小室の天井面は、着脱可能な部材によって構成されて該天井面に発光体が設置されているか、前記各小室の天井面と着脱可能な照明ユニットとして発光体が設置されているかのいずれか、または両方である。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記請求項1ないし5のいずれかにおいて、前記各小室の照明は、個別に制御され、各小室は、互いに所定の温度差か照明時間差のいずれか、または両方の差を有するように制御されている。
【0017】
請求項7に記載の発明は、前記請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記各小室は、密閉構造に形成した槽内に配置されており、前記槽内の空気を所定の温度に調整し循環通流させる第1温度制御手段と、前記循環空気の調整温度に基づき、各小室の室温をそれぞれの設定温度に補償する第2温度制御手段とを有している。
【0018】
請求項8に記載の発明は、前記請求項7において、前記第1温度制御手段の調整温度は、前記各小室の設定温度のうちの最低温度以下に設定され、前記各小室の第2温度制御手段が、前記調整温度と各小室の設定温度との温度差を補償して、各室温をそれぞれの設定温度に調節する。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、各室内に直接、各室温に影響を与えない発光体を設置して、各室内を照明しているので、照明効率の向上が図れるとともに、装置全体のコンパクト化や省電力化、低コスト化を図れる。すなわち、各室温に影響を与えずに済ませながら、試料に対して直接的に照明できる。このため、照明効率の向上が図れて、消費電力を削減できるとともに、室外に照明具を配置した構成に比べて、装置全体をコンパクトにできる。これらの結果、製作コストや運用コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明の第1の実施形態を図面により説明する。図1は、この恒温装置の正面図、図2は、側面図、図3は、平断面図であり、図4(a)〜(c)は、照明構成の詳細を示した概略図、同図4(d)〜(h)は、それぞれ異なる種類の照明状態を示した概略説明図であり、図5(a)〜(c)は、所定の環境条件に設定した動作例での各室の温度変化を示すグラフである。この恒温装置は、上下方向に5段重ねて配置した小室を有しており、これらの小室に試料を収容し、各小室を個別に所定の環境条件に設定した各種の実験ができるようにしている。
【0021】
すなわち、この恒温装置1は、図1〜図3に示すように、装置本体部2に、装置外部との熱遮蔽性を所定に確保した断熱密閉構造の槽3を形成し、この槽3内に、多段に配置した試料を収容する複数個の小室4を、該小室4外に槽内空気を循環させるための循環通路5A,5Bを確保しながら、該槽3内を所定に区画して形成しており、この装置本体部2の下部に、基準となる温度を規定した媒体としての槽内空気を所定温度に調整して送給し循環通流させる第1温度制御手段である空調部6を設ける一方、この装置本体部2の上部に、各小室4の環境条件を入力して設定しかつ現状の環境状態を表示する操作パネル7と、入力された設定条件に従って各部の動作を制御する図示しない制御部とを有した設定入力部8を設けた構成とされ、これらの小室4,4は、循環空気の温度に基づき、各小室4の室温をそれぞれの所定温度に調節する第2温度制御手段としての加温ヒータ9を有しており、上段になるほど室温が高くなり、各小室4を個別に独立した温度設定を可能にしている。すなわち、この恒温装置1は、上段に向うに伴って各小室4の温度が、互いに所定の温度差を確保して、段階的に上昇する温度勾配を得られるようにしている。
【0022】
装置本体部2は、薄板状のステンレス板および鋼板を用いて、その外形状を直立した直方体形状の断熱密閉槽3を形成しており、この密閉槽3を構成した前面部は、図1中の右端の縦方向周縁を縦軸のヒンジ軸にして横開き開閉可能に設けられた図2に示す外扉部3aとされている。また、密閉槽3の内面としての垂直な側壁面および上下の水平な壁面には、軽量安価な断熱材である板状の発泡スチロール11が、それぞれの面にほぼ全面的に接するように設けられており、断熱密閉槽3として断熱性を確保している。
【0023】
各小室4は、それぞれが密閉性を有した略箱形状に形成され、横幅が約40cmで、奥行きが50cm程度の床面を確保している。すなわち、各小室4は、これらの各室の左右の側壁面および奥側の壁面となる垂直板12によって、密閉槽3内を左右方向に仕切って、および奥側を仕切って、略密閉槽3の中央部の上下方向に長い空間部を確保したうえで、この空間部を水平な棚板13によって、上下方向に均等に区切って形成され、これらの小室4は、上下方向に揃えて多段に積み重ねた構成とされており、各小室4の左右の両脇には、最下段の小室4から最上段の小室4にまで到達した空気循環通路5A,5Bが、それぞれ形成され確保されている。したがって、図中の右側の空気循環通路5Aによって、空調部6から、上方に空気を送給して、各小室4を通過させ、これらの各小室4を通過した空気を、左側の空気循環通路5Bによって、下方の空調部6に復帰させる循環経路が形成されている。
【0024】
また、これらの小室4の前面となる図1中の開口は、この開口周縁における右側の縦方向周縁を縦軸のヒンジ軸にして横開き開閉可能に設けられた図2に示す板状で不透明の内扉部4aによって、それぞれ閉止可能にしており、これらの内扉部4aは、その上下の小室4の内扉部4aと互いに干渉させることなく、個別に開閉できるようになっている。したがって、ある小室4に試料を収容したり取り出したりする場合には、その小室4の内扉部4aだけを開閉操作すればよいので、その他の小室4の設定温度を乱さずに済む。また、これらの小室の右側開口周縁には、マグネット14が設置され、このマグネット14の磁力によって内扉部4aの開閉端側を吸着して、内扉部4aを閉止状態にロックするようにしている。なお、内扉部4aがプラスチック板などの非磁性材料で形成されている場合には、マグネット14に対応した内扉部4aの箇所に鉄片などの磁力吸着可能な部材を設ければよい。
【0025】
したがって、このように密閉槽3の外扉部3aと、各小室4の内扉部4aとからなる2重扉の構成としたので、各小室4を各室ごとに単体の扉部だけで閉止した構成に比べて、熱遮蔽効果つまり断熱効果をより高めることができる。また、この2重扉の構成によって、装置外部から室内へ入射する光の遮蔽効果を高めることができる。このため、室内の明暗環境を、外部環境に依存させずに済み、任意に制御できる。他方、これに加えて、このように2重扉の構成とした場合には、この内扉部4aと外扉部3aとの間に間隙を形成し、この間隙に循環空気を通流させたエアジャケットを形成してもよい。したがって、この構成によれば、固定部材としての外扉部3aによる断熱作用に加えて、エアジャケットによる空気流を常時介在させて伝熱された空気を運び去ることによる遮熱作用が得られるので、より高い熱遮断効果が期待できる。
【0026】
さらに、各小室4ごとの右側の側壁面の略下部には、水平方向に配列された縦長スリット状の吸込み口4bが形成され、この吸込み口4bは、送給用の空気循環通路5Aに開口して室内を連通している。この側壁面に対向した左側の側壁面には、概略が同様に形成された図示しない排出口が設けられ、この排出口は、復帰用の空気循環通路5Bに開口して室内を連通している。また、最下段となる小室4に設けられた吸込み口4b以外の各吸込み口4bには、送気方向を室内側に向けた小型の送風ファンである庫内ファン15が設置され、この庫内ファン15によって、空気循環通路5Aから空気を室内に吸入するようにしている。なお、最下段の小室4には、その吸込み口4bに庫内ファン15を設けていない。すなわち、この小室4は空調部6の近傍に位置しており、この小室4の吸込み口4b位置に到達した循環空気はその送風力が充分に強いままなので、同小室4内に循環空気を確実に取り込めるためである。したがって、右側の空気循環通路5Aからそれぞれの吸込み口4bを介して室内に吸込んだ空気は、これらの各小室4内を通過して、左側の空気循環通路5Bに排出される。
【0027】
各小室4内には、図示しない温度検出手段としての室温センサが設置され、これらの室温センサは、その検知信号の出力線が制御部に接続され、各小室4の室温を個別かつ常時、検出して制御部が把握できるようにしている。なお、吸込み口4b付近に循環空気を室内に吸引する庫内ファン15を設ける代わりに、排出口に室内から排気する排気ファンを設けた構成や、これらの庫内ファン15と排気ファンとの2つのファンを設けた構成としてもよい。
【0028】
また小室4の吸込み口4b付近には、それぞれの第2温度制御手段としての加温ヒータ9が設けられている。すなわち、この加温ヒータ9は、小室4外に配置された送給用の循環通路5A内で、この循環通路5Aに開口された小室4の吸込み口4bに対して、該循環通路5Aを送流される空気の上流側となる箇所に設けられ、この箇所には、循環通路5Aを横断する方向に向けて延在された長棒状の電熱体が設置されている。これらの加温ヒータ9は、少なくともその吸込み口4bに吸入される循環空気を、各小室4ごとの設定温度に加温できる程度の発熱能力を有しており、各加温ヒータ9による加温動作は、制御部によって制御されている。なお、最下段の小室4は、空調部6によって調整された循環空気の温度が、そのまま室温となるので、この小室4用の加温ヒータ9は設けていない。
【0029】
また、図4(a)〜(c)に示すように、各小室4の天井面を形成した部材としての棚板13は、その天井面となる下面に、細径直管状に形成された複数の冷陰極蛍光ランプ17が、所定に配列されて設置されている。すなわち、これらの冷陰極蛍光ランプ17は、管径が3.0mm(1.6〜3.0mmの範囲で選択可能)の細径直管で同一の長さに形成されており、天井面における一方の手前側から他方の奥側までの長さよりも僅かに短い長さを有している。各冷陰極蛍光ランプ17は、該小室4の左右幅方向に、互いに所定間隔をおいて、平行に配列されている。したがって、小室4の天井面を面照明にして、上方から、この小室4に収容された試料を照明できるようにしている。なお、この場合の棚板13とは、上下の各小室4間に介在したそれぞれの小室を区画した棚板13に加えて、最上段の小室4の天井面を構成した部材を棚板13として含むものとする。
【0030】
この冷陰極蛍光ランプ17は、CCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)と略称され、2端子構造で水銀を封入した蛍光ランプであり、熱陰極に比べ構造が簡単で寿命が長く、寿命末期の異常電圧上昇(加熱)などの問題も生じないとされている。また、冷陰極蛍光ランプ17は、各小室4の室温に影響を与えない発光体とされている。すなわち、少なくとも、該小室4の室温に影響を与えるものして、上記加温ヒータ9による小室4の温度調節能力の大きさや、この調節能力によって温度調節されて該室内を通過する空気流量の大きさに対して、天井面に配列された複数の冷陰極蛍光ランプ17から生じる発熱総量の大きさが、該小室4の室温に影響を与えない程度に極小の比率となっている。
【0031】
さらに、各冷陰極蛍光ランプ17が有した図示しないスイッチやその照明強度を調整可能にした図示しないランプ駆動回路は、図示しない配線を介して制御部に接続されている。したがって、この制御部が、各冷陰極蛍光ランプ17のスイッチのオン・オフを制御しつまり冷陰極蛍光ランプ17の点灯状態を制御し、この点灯した状態での照明強度を制御できるようにしている。なお、17Aは、発光源となる蛍光管本体、17aは各蛍光ランプ用の安定器、17bは、蛍光管本体17Aと天井面の間に設けられ下方に向けた反射湾曲面を形成した反射板であり、この反射板17bによって、ランプから小室4の天井面側に向かった照明光を反射して床面側(試料側)に向わせて照明効率を高めるようにしている。また、蛍光管本体17Aの下方に、この蛍光管本体17Aからの照明光を均等化する光拡散板を設けてもよい。
【0032】
また、この恒温装置1では、このように配列した複数の冷陰極蛍光ランプ17から得られる各室の照明が、小室4の水平方向で変化する照明光となるように構成されている。すなわち、図4(d)〜(h)に示す照明パターンのいずれかの照明パターンを得るように構成されている。なお、これらの各図4(d)〜(h)において、それぞれに示した下向き矢印の長さが、照明強度(光量)の強さ(量)を表わしている。
【0033】
まず、図4(d)の照明パターンでは、無勾配型の照明として、小室4内の水平な平面方向において、すべて均一な照明強度(光量)が得られるように構成されている。すなわち、すべての冷陰極蛍光ランプ17が同一光量で発光した状態となるように制御されている。したがって、小室4内の照度分布を片寄らせることなく、室内全域で照度がほぼ均一になる。
【0034】
また、図4(e)の照明パターンでは、段階的な勾配型の照明として、小室4の手前から奥側方向では同一だが、同小室4の左右幅方向において、右方向に向うに伴い段階的に照度が低下するように構成されている。すなわち、高い光量から低い光量までそれぞれが固有に有した冷陰極蛍光ランプ17が、各段階の光量ごとにグループ化されて配列され、または光量可変型の冷陰極蛍光ランプ17を用いて、各光量段階のグループごとに順次、高い光量から低い光量の発光状態となるように制御されている。
【0035】
また、図4(f)の照明パターンでは、連続的な勾配型の照明として、小室4の手前から奥側方向では同一だが、同小室4の左右幅方向において、右方向に向うに伴い連続的に照度が低下するように構成されている。すなわち、高い光量から低い光量までの光量をそれぞれが固有に有した冷陰極蛍光ランプ17が、所定間隔で配列され、または光量可変型の冷陰極蛍光ランプ17を用いて、各ランプごとに順次、高い光量から低い光量の発光状態となるように制御されている。
【0036】
また、図4(g)の照明パターンでは、発光種類別の照明として、同左右幅方向における所定範囲で区画されて発光種別ごとに照明するように構成されている。すなわち、たとえば、天井面における同図(g)中の左区画には、3波長を有した白色発光の冷陰極蛍光ランプ17が配設され、中央区画には、冷陰極蛍光ランプとしてビタライト(ハリソン東芝ライティング社製品)が配設され、右区画には、その他の種類の冷陰極蛍光ランプが配設され、それぞれ各区画ごとに異なる種類の照明光が得られるようにしている。
【0037】
また、図4(h)の照明パターンでは、上記の(d)〜(g)のいずれかの照明パターンにおいて、さらに間欠的な照明として、所定の点灯時間または消灯時間を設定した点灯および消灯を繰り返すように構成されている。すなわち、点滅点灯照射として、すべての冷陰極蛍光ランプ17が、所定の時間、一斉に点灯し、所定の時間、一斉に消灯することを繰り返すように制御されている。
【0038】
したがって、これらの照明パターンを有した構成によれば、各種の試験条件や要請に応じた照明環境を、各室に個別に整備することができる。すなわち、試験装置として多種多様な照明パターンを形成した照明環境を整備できるので、各種の試験用に最適な恒温装置となる。
【0039】
なお、上記の図4(d)〜(g)の各照明パターンでは、小室4の左右幅方向に照明光が変化するように構成したが、当然、小室4の手前から奥側方向に変化するように構成してもよい。
【0040】
さらに、この恒温装置1では、上記の照明パターンを、使用者が任意に選択して変更可能に構成されている。すなわち、これらの棚板13は、簡易にそれぞれの小室4から着脱して交換可能に構成され、上記の照明パターンが異なった棚板13に交換できるようにしている。これに加えて、冷陰極蛍光ランプ17の個数を、各室に必要な照度に応じて増減できるようにしている。すなわち、この棚板13は、棚板13に設置された冷陰極蛍光ランプ17が、少数の図示しないソケットやコネクタを介して、装置本体部2側に電気的に接続可能に、かつ棚板13自体が、簡易に着脱可能に構成されている。
【0041】
したがって、上記の各照明パターンを形成した構成による効果に加えて、このように棚板13を交換可能にした構成によれば、各室における照明の修理交換が容易化されるとともに、その小室4に必要な照度に応じた個数の冷陰極蛍光ランプ17を有した棚板13に交換できる。このため、消耗部品として最少個数の冷陰極蛍光ランプ17を用いて、必要な照度を確保できるので、運用コストを低減できるとともに、電力消費を効率化して削減できる。
【0042】
なお、所定に配列した冷陰極蛍光ランプ17を一括して棚板13と分離可能にユニット化し、この照明ユニットを、異なる照度の照明ユニットに交換可能に構成してもよく、さらにこれらを組合わせてもよい。したがって、所定数が配列された冷陰極蛍光ランプ17を棚板13に簡易に着脱して交換可能な照明ユニットとした構成によれば、上記の効果に加えて、照明が不要な小室4からはその照明ユニットを取り外せるので、該小室4内のスペースを拡大できる。また、棚板13に冷陰極蛍光ランプ17を一体化した構成に比べて、冷陰極蛍光ランプ17を主体にした照明ユニット単体を取り扱えば済むので、交換部品として取り扱い性の向上を図れ、必要な保管スペースを削減できる。
【0043】
なお、小室4内に撹拌用の小型ファンを設け、この小型ファンによって小室4内の空気を撹拌することにより、小室4内の温度分布を片寄らせることなく、室内全域で温度を速やかに均一にするようにしてもよい。
【0044】
設定入力部8は、各小室4の環境条件としての温度や照明状態を設定入力し室温を表示する操作パネル7と、この操作パネル7から設定入力された環境条件に基づき、各部の動作を所定に制御する制御回路からなる制御部とを有している。
【0045】
すなわち、操作パネル7は、メインパネル21と、照明設定パネル22とを有し、このメインパネル21には、装置全体の電源をオンオフする1つのメインスイッチと、水平方向に配列され各小室4の設定温度を入力して設定する5個の入力スイッチ群とが配置されている。また照明設定パネル22には、冷陰極蛍光ランプ17の照明時間帯を入力して設定する時計表示式のランプタイマと、上下方向に配列された5個のランプスイッチ群とが配置され、ランプスイッチのオンオフによって、各室の冷陰極蛍光ランプ17を動作可能状態に切換え、該ランプの現状態を発光表示する。したがって、使用者は、操作パネル7から各種の条件を入力して設定することにより、各室の温度や照明を、すべての小室4で同一に変化させる共通設定と、個々の小室4の時間を調節して個別に変化させる個別設定と、を任意に選択できるようにしている。
【0046】
空調部6は、槽内の空気を所定の温度に調整する冷却器25と、この調整した空気を循環通路5Aに送給して槽内に循環通流させる循環送風ファン26とを主体に構成され、この冷却器25は、その冷却動作が制御部によって制御されている。すなわち、空調部6は、両方の空気循環通路5A,5Bの下端同士を連通した通路27に、冷却器25と、循環送風ファン26とを順次、配置した構成とされている。この通路27は、比較的に大きな通路断面積で形成され、通路27内の空気流速を低下させて、冷却器25による冷却性を充分に得られるようにしている。また、この空気循環方向における冷却器25よりも下流側には、比較的に大径の循環送風ファン26が、その送給方向を斜め上方の空気循環通路5Aの下端側に向けて設置されており、この循環送風ファン26によって、充分な空気送給流量を得るようにしている。なお、28は、空調部6内に外気を導入して排出した際にこの排気とともに冷却器25からの熱を装置外に排熱するための熱交換器、29は、冷却器25と熱交換器28との間に熱交換媒体を所定の圧縮膨張サイクルで循環させるための圧縮機であり、冷却器25から熱輸送して外部に排出することによって冷却器25を冷却動作させている。
【0047】
なお、循環空気が通過する適宜箇所には、この循環空気の温度測定が可能な図示しない測定手段が設けられ、この測定手段が検出した実際の循環空気の測定温度に基づき、制御部が冷却器の冷却動作を制御して、循環空気の温度を所定の目標温度に保つようにしている。
【0048】
したがって、この恒温装置1において、温度環境を設定する場合には、操作パネル7の入力スイッチを操作して、各室の設定温度を入力する。すなわち、この最下段の小室4の温度が最低設定温度となり、上段に昇るに伴い各段小室4ごとに順次、室温が段階的に上昇する温度差勾配を形成する。この温度差は、最低2℃から5段階に各段を温度勾配的に調節できる。たとえば、この5段式の場合において、2℃、4℃、6℃、8℃、10℃のように、各段小室4の温度差調節ができる。また、たとえば図5(a)に示すように、任意の時点で、ベースとなる最低設定温度を変更するとともに、各室間の温度差も変更することができる。このように、この恒温装置1では、上下に隣接した小室4間の温度差を、均等やランダムに設定でき、または各小室4を同温度にも設定できる。
【0049】
すなわち、冷却器25を通過した循環空気の温度は、空調部6の冷却器25によって、各小室4に設定された設定温度のうち、最も低い温度に設定される。つまり、制御部は、各小室4毎に設定した所望の設定温度のうち、最も低い温度を選択し、この選択した温度が制御目標としての目標温度となり、この目標温度に、循環空気の温度がなるように、冷却器25の冷却動作を制御する。
【0050】
このように構成された恒温装置1では、槽3内を循環して復帰した空気が、冷却器25を通過し、この冷却器25によって所定の目標温度に調整され、循環送風ファン26によって図中の斜め右上方向に送出され、この目標温度に調整された空気が循環通路5A内をその上方に向けて送給される。なお、この際に、各小室4を形成した部材の外壁面と密閉槽3の内壁面との間に形成された間隙に介在した空気は、その箇所に滞留せずに、最終的に循環送風ファン26に近づく方向に移動して、その大部分が冷却器25を通過することになるので、固定された断熱部材による受動的な熱遮蔽効果に加えて、この空気流による能動的な熱遮蔽効果が得られる。
【0051】
そして、送給された循環空気は、その一部が各段の小室4に吸入されながら、循環通路5A内を上昇し、各小室4を通過した循環空気は、循環通路5Bに排出され、この循環通路5Bを下降して、空調部6に戻る。したがって、各小室4の温度は、各小室4に吸入された循環空気の温度によって規定される。そして、これらの各小室4の実際の温度は、各小室4の設定温度と循環空気が有した目標温度との温度差を補償するように加温動作した加温ヒータ9によって、それぞれ個別に制御される。すなわち、制御部は、前記の温度差を補償するように、加温ヒータ9の発熱動作を制御する。また、制御部は、常時、各小室4の室温を把握しているので、該室温の変動に応じて加温ヒータ9の発熱量を微調整する。
【0052】
したがって、この恒温装置1によれば、各小室4は、それぞれの小室4内を、高精度に所望の設定温度の恒温状態を確保して維持できる。すなわち、小室4内における熱エネルギーの収支をバランスさせて、小室4内の温度を精密に設定できる。しかも、基準とした循環空気の温度に対して、比較的に小容量の容積を有して区切られた小室としての各小室4内に流入する空気を、それぞれ専用の加温ヒータ9で加温して温度補償しているので、小室4内の温度制御がしやすくなる。このため、各小室4内の温度は、小室4,4同士の互いの温度的な干渉を排除してそれぞれの小室4を独立させながら、高精度に所要の温度に設定できる。
【0053】
このため、各小室4は、これらの全周を包囲した部材として、分厚い断熱層を設けなくて済むので、各小室4の内部スペースをそれだけ広くとれる。他方、このように断熱層を形成する断熱部材の役割が軽減され、薄型化を図れるので、装置としての内部空間の利用効率が高くなり、装置全体の外形状をスリム化できる。このため、装置を製作する材料の節減や省スペース化が図れる。これらの結果、ローコストな恒温装置1とすることができる。
【0054】
さらに、各室の試料が、微小量でも発熱や吸熱する場合でも、制御部が室温を常時、把握して、各室に吸入する空気温度を規定した加温ヒータ9の加温動作を制御しているので、所定の設定温度に維持することができる。特に、試料が、生物などのようにその生命現象に伴って、発熱や吸熱し、しかも、その照明状態や成長段階によっては、発熱量や吸熱量が変動しても、室温を所定に維持することができる。
【0055】
また、この恒温装置1において、上記した温度環境の設定に加えて、昼夜サイクルの環境を設定する場合には、操作パネル7のランプタイマを操作して、冷陰極蛍光ランプ17を点灯した昼間時間または消灯した夜間時間を入力し、昼夜の時間帯を設定する。したがって、この場合には、たとえば図5(b)に示すように、所定時間で昼夜が切換わることが繰り返され、この昼夜切換えに応じて各小室4は、それぞれの間の温度差を保持したまま、昼間用または夜間用の設定温度に切換わる。
【0056】
さらに、この恒温装置1によれば、昼夜サイクルにおいて、図5(c)に示すように、各小室4の昼夜サイクルを同一に設定することなく、それぞれ各小室4ごとに個別に設定し、これらの個別に設定された昼夜時間帯に関連付けて、それぞれ各小室4の温度が個別に変化するように設定することができる。すなわち、各小室4単位で、各小室4の温度と光(明暗照度)とを自由に組合わせたその小室4に固有のある室内環境設定から、温度と光(明暗照度)とを自由に組合わせた他の室内環境設定に、任意の時点で変化させることができる。
【0057】
したがって、生物の発芽、長時間の培養、飼育などのように、試験開始から終了までに長時間が必要な研究の場合にも、異なる温度条件や昼夜時間を様々に組合わせた環境下での比較評価する研究を効率的に行なえ、しかもこのような対照試験を同時に並列的に行なうことができる。このため、試験回数として1回の試験で、様々な環境条件に配置した試料を比較評価した研究結果を得ることができ、研究成果としての信頼度も高くなる。すなわち、複数の試験回数に分けて試験を行なう場合には、各回で微妙に環境条件が異なってしまい、試験結果に影響を与えることが予想されるのに対して、この構成によれば、1回の試験で済むので、前記の影響をまったく回避することができる。この結果、試験の信頼度を高めながら、試験研究を実施するスピードアップを達成できる。
【0058】
以上のように、この第1の実施形態の恒温装置によれば、冷陰極蛍光ランプは、照明時の発熱量が少ないので、各室内に配置できる。すなわち、この恒温装置は、各小室の天井面に複数の冷陰極蛍光ランプを所定に配列して設置した構成なので、近接照明による直下照明で効率よく照射ができ、照明のバラツキ、ムダをなくせる。他方、冷陰極蛍光ランプは、細径に形成できるので、密に並べた配列が可能であり、かつ長い棒状で光分布が均一である。したがって、一様な面照明として天井面から、試料を照射することができる。このため、試料に対する照明の質を向上できる。
【0059】
また、冷陰極蛍光ランプと試料との間に何も介在させることなく、しかも試料の直上で該試料に近接させた照明が可能となる。すなわち、光源と被照明物との距離を短縮させて、直上からの照明が可能となる。したがって、照度を高めなくても、充分な照明が得られることになる。このように照明効率を向上できるので、この効率の上昇分だけ、照明に必要な電力消費量が削減されることになり、結果として省電力化を図れる。特に、屋外環境の光の影響を受ける生物などの試料は、屋外環境と同様な上方向からの光を受けることになるので、この試料実験用の照明として最適となる。
【0060】
さらに、狭い場所、各段の小室を形成するための棚間隔に生じた狭いスペースを有効に活用できる。特に、植物などの育成において、冷陰極蛍光ランプの直下まで成長しても、熱による影響が少なくなる。したがって、このように熱による影響を受けやすい試料に対して、室内スペースをより広く有効的に利用することができる。
【0061】
他方、このように室内に照明を配置できるので、断熱性を確保しながら、外部からの照明を室内に透過させる構造が不要となり、製作コストを低廉化できる。すなわち、断熱ガラス棚、断熱複層ガラスなど高価な材料を選ばなくても、安い材料を選べるので、廉価にすることができる。他方、直下近接照明ができるので、これまでの各室外に照明具を配置した外部照明に比べ、恒温装置をコンパクト化できる。
【0062】
また、各室の照明に伴う発熱が少なくなるので、冷却負荷を少なくできる。また小電力消費の省エネルギー化が図れる。さらに、冷陰極蛍光ランプは、耐用寿命が長いので、メンテナンスの手間が掛からずに済み、使い勝手を向上できる。すなわち、従来の熱陰極蛍光灯に比べ、4〜10倍の寿命があることになる。たとえば、耐久時間が50000時間なので、一般的な恒温装置の使用では、最低5年は交換が不要となる。このため、恒温装置として、全体のランニングコストを低減できる。これらの結果、省エネルギー、省コストの地球環境にやさしい多段式恒温器となる。
【0063】
また、冷陰極蛍光ランプは、発光色を自由に選択でき、また明暗度の細かい調光が可能となる。このため、試料が必要とする、または試験条件として要請する照明環境を、適宜得ることができる。この結果、恒温装置によれば、種々の条件に応じた試験環境を整備できる。他方、温度、照度によるこれまでより多種の環境条件を組合わせて各室内の精密な環境制御ができる。
【0064】
特に、この恒温装置では、各小室を、互いに所定の照明時間差を有するように制御でき、しかもこの照明時間差に加えて、該照明時間に連動して変化する温度差との両方の差を有するように制御できるので、生物時計(biological clock:体内時計)に関する研究に最適な恒温装置となる。すなわち、任意に所定の昼間温度および昼間照度に設定した昼間環境と、任意に所定の夜間温度とゼロを含めた夜間照度に設定した夜間環境とを、任意に所定に設定した昼間時間および夜間時間で繰り返すことからなる昼夜サイクルを、各小室ごとに、これらの各温度、照度、時間のうちのいずれか、またはいくつかを異なる設定にした昼夜サイクルとして割当てて、1度の試験回数で一挙に互いに異なる複数の昼夜サイクル下での試料の挙動変化などを追跡調査でき、効率的に精細な研究が可能となる。
【0065】
また、小室外部で周囲に照明装置を配置した従来の構成では、照明装置の発光箇所に使用者が正対した位置関係を占めるので、小室内への試料の設置作業や、設置した試料の観察作業が、妨げられやすいのに対して、この構成によれば、天井面から照明が行なわれるので、このような事態を未然に防止できる。すなわち、試料の設置作業や観察作業を確実かつ簡便にできる。
【0066】
次に、この発明の第2の実施形態を説明する。図6は、この第2の実施形態の恒温装置の正面図、図7は側面図、図8は平断面図であり、図9(a)は、照明構成の詳細を示した概略図、同図9(b)は、天井面の照明配置を示した概略図である。なお、この第2の実施形態において、第1の実施形態と同様な部分については同一の符号を附して説明を簡略化または省略し、主として異なる部分について説明する。
【0067】
この第2の実施形態の恒温装置31では、上記の第1の実施形態の冷陰極蛍光ランプに代替して、発光ダイオードを用いている。すなわち、この恒温装置31では、図6〜図8、および図9(a)に示すように、小室4の必要な照度を確保した所定個数の発光ダイオード(LED)32を、該小室4の天井面に配列して設置している。この発光ダイオード32は、LED(Light Emittinng Diode)と略称され、上記の冷陰極蛍光ランプと同様に、各小室4の室温に影響を与えない発光体とされている。なお、これらの発光ダイオード32は、ダイオード単位の個別にまたはいくつかの所定数がグループ化された回路構成とされ、これらの個別単位またはグループ単位で、その発光状態が制御部によって制御可能に構成されている。
【0068】
したがって、この第2の実施形態によれば、上記の第1の実施形態の効果がすべて得られるのに加えて、天井面からの突出量が少なくこの天井面に密着した構造の冷光照明となることから、熱による影響を受けやすい試料に対して、室内スペースをより一層広く有効的に利用させることができ、しかも発光体用の発光素子として固体素子である発光ダイオードを用いているので、耐衝撃性に優れており、天井面を形成した棚板13を交換作業する際には、棚板13の取り扱い性を向上できる。また特に発光ダイオードは、調光しても色温度が変化しないので、照明対象である試料の見え方が変わらずに済み、室内に収容したまま、試料の確認や正確で細かく精密な観察が可能となる。
【0069】
また、この第2の実施形態の恒温装置31では、発光量を所定に可変に制御可能な発光ダイオードを用い、しかも発光体としての最小単位が小さい発光ダイオードを多数、面状に配列した構成なので、スポット的な照明を組合わせた構成にできる。すなわち、発光ダイオードによる照明は、小さい照明スポットを数多くできるため、それぞれのスポットを個別に、また直列に、またランダムに、またブロック別に区別してきめ細かい制御が行なえることが特徴となる。
【0070】
すなわち、恒温装置31では、室内照明を、上記の第1の実施形態の図4(d)〜(h)に示したように一方向に変化した照明パターンとできるのに加えて、図9(b)に示すように、平面方向として2方向や斜めの方向に応じて変化した照明パターンとできる。また特に、各区切って形成したスポット・ブロックごとに、それぞれ上記の図4(d)〜(h)のいずれかの照明パターンを割り当てることもできる。
【0071】
したがって、発光ダイオードを個別に、またはブロック別に、該発光ダイオードに印加する電圧や、時間を比例制御することなどによって、室内の平面方向における照度(光量)勾配を所定に形成した室内照明とすることができる。すなわち、一室内においても、きめ細かい照明制御が可能となる。このため、室内に収容したそれぞれの試料に対する照明の質を向上できる。この結果、照明に関して試験環境のより高度化および最適化を図れる。
【0072】
なお、上記の第1,第2の実施形態では、各室の天井面にだけ、発光体を設置した例を説明したが、これに限られることなく、各室の内壁面を形成した面であれば、必要に応じて適宜、1つの面、または複数の面を選択して、この選択した面に発光体を設置してよい。すなわち、たとえば各室の床面にだけ発光体を設置したり、天井面と床面との両方に発光体を設置したりしてもよく、さらには床面以外の5面に設置して照明した構成としてもよい。
【0073】
また、各第1,第2の実施形態では、温度勾配型恒温装置に適用した例を説明したが、これに限られることなく、試料を収容可能な複数の小室を有して各小室を個別に独立した温度設定が可能な恒温装置であれば、この種の恒温装置に、第1,第2の実施形態のいずれか、または両方を組合わせて適用してよい。すなわち、たとえば、上下段に2室を有した卓上型の恒温装置や、上下方向に多段かつ左右方向に多列に小室を配列した構成の恒温装置、各小室の温度に加えて湿度を任意に設定が可能な人工気象器として知られている恒温装置、エアジャケット式の断熱かつベース温度に管理した構成の多槽型のバイオマルチインキュベータとして知られている恒温装置に適用することができる。すなわち、この多槽型の恒温装置は、試料の出し入れ可能な経路を確保した密閉構造の各室を、それぞれ各室の周囲に所定の間隙を確保しながら槽内に収納し、各室内にベース温度の循環空気を通過させずに、各室の周囲を通過させて周囲の温度環境をベース温度に安定して保持するとともに、各室内に設置したそれぞれの室内温度調整手段の温度調整動作によって、ベース温度から該小室の設定温度に補償する構成とされている。他方、たとえば、1つの恒温装置に冷陰極蛍光ランプを設置した小室と発光ダイオードを設置した小室とを混在させたり、1つの小室の天井面に冷陰極蛍光ランプと発光ダイオードとを所定に配列して設置させたり、さらには、これらの2つを適宜、組合わせたりしてもよい。
【0074】
さらに、各小室は、外部から完全に遮光された暗室型の構成でも、任意の遮光が可能でその内部の試料を外部から観察できる観察窓を該小室に設けた構成でもよい。さらに各小室の内形状や内部容積は、同一でも、異なっていてもよい。
【0075】
また、各実施形態では、生物試料の例を中心に説明したが、これに限られることなく、当然、この恒温装置は無生物にも使用できる。特にこの無生物が、たとえば野外環境に設置される人工物などのように、温度だけではなく、光の影響を受けたりこの影響に配慮する必要があるものであれば、このような影響度を調査するために最適な恒温装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】この発明の第1の実施形態の恒温装置の全体構成を示し、装置前面の一部を破断してその内部の主要な構成を示す正面図である。
【図2】この第1の実施形態の恒温装置の全体構成を示し、装置側面の一部を破断してその内部構成としての小室を主体に示す右側面図である。
【図3】この第1の実施形態の恒温装置の内部構成を示した平断面図である。
【図4】この第1の実施形態の恒温装置の照明構成を示し、(a)は、室内の照明配置を示した小室の概略横断面図、(b)は、天井面の照明配置を示した(a)中におけるb−b矢視方向の平面図、(c)は、冷陰極蛍光ランプを示す概略外形図、(d)〜(h)は、それぞれ異なる種類の照明状態を示した概略説明図である。
【図5】この実施形態の恒温装置の動作例を示し、(a)は各小室の室温変化を示したグラフ、(b)は、昼夜サイクルとともに変化する各小室の室温変化を示したグラフであり、(c)は、各小室で昼夜サイクルも互いに異ならせた設定をした室温変化のグラフである。
【図6】この発明の第2の実施形態の恒温装置の全体構成を示し、装置前面の一部を破断して示す正面図である。
【図7】この第2の実施形態の恒温装置の全体構成を示し、その内部構成としての小室を主体に示す右側面図である
【図8】この恒温装置の内部構成を示した平断面図である。
【図9】この第2の実施形態の恒温装置の照明構成を示し、(a)は、室内の照明配置を示した小室の概略横断面図、(b)は天井面の照明配置を示した(a)中におけるb−b矢視方向の平面図である。
【図10】従来の照明を外付けにした恒温装置の全体構成を示し、(a)は正面図、(b)は右側面図である。
【符号の説明】
【0077】
1,31 恒温装置 2 装置本体部
3 密閉槽 3a 外扉部
4 小室 4a 内扉部
4b 吸込み口 5A 循環通路(送給用)
5B 循環通路(復帰用) 6 空調部
7 操作パネル 8 設定入力部
9 加温ヒータ 11 発泡スチロール
12 垂直板 13 棚板
15 庫内ファン 17 冷陰極蛍光ランプ
21 メインパネル 22 照明設定用パネル
25 冷却器 26 循環送風ファン
32 発光ダイオード(LED)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収容可能な複数の小室を多段に有し、各小室を個別に独立した温度設定が可能な恒温装置において、
前記各小室には、該室内を照明し室温に影響を与えない発光体が、設置されていることを特徴とする恒温装置。
【請求項2】
前記発光体は、冷陰極蛍光ランプであることを特徴とする請求項1の恒温装置。
【請求項3】
前記発光体は、発光ダイオードであることを特徴とする請求項1の恒温装置。
【請求項4】
前記発光体からの照明光は、該小室の水平方向で変化するように構成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の恒温装置。
【請求項5】
前記各小室の天井面は、着脱可能な部材によって構成されて該天井面に発光体が設置されているか、前記各小室の天井面と着脱可能な照明ユニットとして発光体が設置されているかのいずれか、または両方である請求項1ないし4のいずれかに記載の恒温装置。
【請求項6】
前記各小室の照明は、個別に制御され、各小室は、互いに所定の温度差か照明時間差のいずれか、または両方の差を有するように制御されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の恒温装置。
【請求項7】
前記各小室は、密閉構造に形成した槽内に配置されており、
前記槽内の空気を所定の温度に調整し循環通流させる第1温度制御手段と、前記循環空気の調整温度に基づき、各小室の室温をそれぞれの設定温度に補償する第2温度制御手段とを有していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の恒温装置。
【請求項8】
前記第1温度制御手段の調整温度は、前記各小室の設定温度のうちの最低温度以下に設定され、前記各小室の第2温度制御手段が、前記調整温度と各小室の設定温度との温度差を補償して、各室温をそれぞれの設定温度に調節することを特徴とする請求項7に記載の恒温装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−61126(P2006−61126A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250681(P2004−250681)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(591221134)株式会社日本医化器械製作所 (9)
【Fターム(参考)】