説明

恒温装置

【課題】反応容器の外径が多少異なっていても反応容器外周面と反応容器挿入穴の内周面との間に大きな隙間を発生させずに、液体試料の温度制御を確実に行えるとともに、霜による反応容器の破損も回避することができる恒温装置を提供する。
【解決手段】円筒状反応容器の外周面を抱持する容器抱持部13を有する金属製ブロック(アルミブロック14)を二つ割りした一対のブロック半体15,16を備え、該一対のブロック半体同士は、該ブロック半体の二つ割り面15a,16a同士が近接する方向に付勢する付勢手段と、前記容器抱持部を拡縮可能に連結する連結手段とによって連結されるとともに、各ブロック半体に冷却手段及び加熱手段をそれぞれ設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、恒温装置に関し、詳しくは、合成反応を行う合成反応用容器等の反応容器をあらかじめ設定された温度に保持するための恒温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料の反応、蒸留、濃縮、抽出等の操作を行う際には、反応容器内の液体試料をあらかじめ設定された温度に制御するようにしている。円筒状のガラス製反応容器、例えば、試験管を使用する場合、温度調整機能を有するアルミブロックに設けた反応容器挿入穴に試験管を挿入することにより、試験管内の液体試料を所定温度に制御することが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開平2−47542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
試験管のようなガラス製の反応容器は、市販のガラス管(素管)を材料として製作するが、一般に、素管の外径公差は粗く、真円度も十分ではない。このような素管によって製作された反応容器を挿入する反応容器挿入穴は、反応容器の外径公差を考慮して設計する必要がある。例えば、外径60mmの素管の外径公差は、通常、±1.1mmであるから、アルミブロックに形成する反応容器挿入穴の内径は、反応容器の最大外径である61.1mmとする必要がある。さらに、アルミブロックと反応容器との熱膨張率の違いを考慮すると、ある程度の隙間を設けておく必要がある。
【0004】
反応容器挿入穴の内径を反応容器の最大外径に合わせて61.1mmとした場合、反応容器の外径が最小外径の58.9mmの場合、反応容器挿入穴の内周面と容器外周面と間に2.2mmの隙間が生じることになる。このような隙間が生じると、反応容器挿入穴内周面と容器外周面と間の熱伝導性が低下するため、温度制御における追従性が悪化し、反応容器内の液体試料を所定温度に制御することができなくなるおそれがあった。また、氷点下で反応させる場合、アルミブロックの表面が霜で覆われるが、反応容器挿入穴の内周面に霜が生じて成長すると、ガラス製の反応容器が破損するおそれもあった。
【0005】
そこで本発明は、反応容器の外径が多少異なっていても反応容器外周面と反応容器挿入穴の内周面との間に大きな隙間を発生させずに、液体試料の温度制御を確実に行えるとともに、霜による反応容器の破損も回避することができる恒温装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の恒温装置は、円筒状反応容器の外周面を抱持する容器抱持部を有する金属製ブロックを二つ割りした一対のブロック半体を備え、該一対のブロック半体同士は、該ブロック半体の二つ割り面同士が近接する方向に付勢する付勢手段と、前記容器抱持部を拡縮可能に連結する連結手段とによって連結されるとともに、各ブロック半体に冷却手段及び加熱手段をそれぞれ設けたことを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明の恒温装置は、前記一対のブロック半体同士があらかじめ設定された距離まで離れたことを検出する検出手段を備えていること、前記一対のブロック半体の一方のブロック半体は、温度検出手段を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の恒温装置によれば、一対のブロック半体同士が容器抱持部を拡縮可能かつ二つ割り面同士が近接する方向に付勢された状態で連結されているので、容器抱持部の直径(内径)を、使用する反応容器の外径に対応させて設定することにより、容器抱持部が反応容器の外径に応じて拡縮し、付勢手段によって各ブロック半体に設けた半円形の容器抱持部半体の内周面が反応容器外周面に線接触した状態になる。したがって、反応容器の外径が公差の範囲内で異なっていても、大きな隙間が発生して熱伝導が損なわれることがなく、霜が成長しても容器抱持部が拡開することによって反応容器が破損することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図は本発明の恒温装置の一形態例を示すもので、図1は斜視図、図2は正面図、図3は図2のIII−III断面図、図4は平面図、図5は底面図、図6は容器抱持部が拡開した状態を示す平面図、図7は本発明の恒温装置を使用した反応装置の一例を示す斜視図である。
【0010】
この恒温装置11は、ガラス製で円筒状の反応容器12における胴部外周面を抱持する断面円形の容器抱持部13を有するアルミブロック14を、反応容器12の軸線を通る面で二つ割りした一対のブロック半体15,16により形成されている。各ブロック半体15,16の二つ割り面15a,16aには、容器抱持部13を二分した状態の断面半円形の容器抱持部半体13aが対向した状態でそれぞれ開口している。また、容器抱持部13の上部開口縁には、上方が拡開した円錐面13bが設けられており、容器抱持部13内への反応容器12の挿入を容易に行えるようにしている。また、二つ割り面15a,16aの上下方向中央部には、切欠き15b,16bをそれぞれ設け、二つ割り面15a,16a間に、容器抱持部13に通じる長円形状の開口13cを形成することにより、該開口13cを通して反応容器12内の状態を外部から確認できるようにしている。
【0011】
一方のブロック半体15の底面には、容器抱持部13の下部開口を覆う底板17が設けられるとともに、底板17から下方に突出した複数の支持脚18により、図7に示すような反応装置50の基板に固定される。他方のブロック半体16は、反応装置50に固定された固定側のブロック半体15に対して、二つ割り面15a,16aの正面側に設けたヒンジ部19を介して回動可能に取り付けられている。
【0012】
ヒンジ部19は、上部ヒンジ板19aの基部側が2個のネジ19bによって固定側のブロック半体15の上面に固定されるとともに、ヒンジ板19aの先端部及び前記底板17の所定位置にそれぞれ設けた雌ねじ孔(図示せず)にネジ19cを螺着し、ネジ19cの先端をブロック半体16の上面及び下面にそれぞれ設けた挿入穴に上下からそれぞれ挿入することにより、ブロック半体16がネジ19cをヒンジ軸として回動するように形成されている。このようなヒンジ部19でブロック半体15,16の正面側を連結することにより、二つ割り面15a,16aの背面側が開閉可能な状態、すなわち、二つ割り面15a,16aの背面側が開閉することによって容器抱持部13が拡縮可能な状態になるように形成されている。回動側のブロック半体16の底面には、支持脚18を固定するネジ18aのネジ頭を収容する窪み16cが設けられており、ネジ18aのネジ頭に対する窪み16cの開口寸法を適宜に設定することにより、固定側のブロック半体15に対する回動側のブロック半体16の開閉角度を規制することができる。
【0013】
また、ブロック半体15,16の背面には、ブロック半体15,16の二つ割り面15a,16a同士を近接する方向に付勢する付勢手段としてのコイルスプリング20が設けられている。さらに、回動側のブロック半体16の開閉側先端部には、回動側のブロック半体16が所定角度以上開いたこと、すなわち、ブロック半体半体15,16同士があらかじめ設定された距離まで離れたことを検出する検出手段であるリミットスイッチ21が反応装置50の基板等に固定されており、ブロック半体16の底面には、リミットスイッチ作動片21aが設けられている。
【0014】
また、ブロック半体15,16の内部には、冷却手段として、図3に示すような冷却水流路22が設けられており、冷却水流路22の各接続口には、シリコンゴムやバイトン等からなる柔軟性を有する材料からなる流入管22a,連通管22b,流出管22cが接続されている。また、図5に示すように、冷却水流路22を避けた位置には、加熱手段であるヒータ23がブロック半体15,16のそれぞれに挿入され、固定側のブロック半体15には、温度検出手段である温度センサ24と温度の異常上昇を防止するための温度ヒューズ25とが挿入されている。なお、各ブロック半体15,16毎に独立して冷却水を供給するように形成することもできる。
【0015】
このように形成したブロック半体15,16は、前記二つ割り面15a,16aにおけるヒンジ部19側が僅かに開いた状態で連結され、二つ割り面15a,16aの開閉端はコイルスプリング20により引き付けられて密着した状態に組み付けられる。したがって、二つ割り面15a,16a同士の間は、二つ割り面15a,16aのヒンジ側から開閉端に向かって徐々に近接する状態になっており、容器抱持部13内に上方から反応容器12を挿入したときに、二つ割り面15a,16a同士が僅かに開き、コイルスプリング20の作用で容器抱持部半体13aの内周面が反応容器12の外周面に当接する状態となる。
【0016】
例えば、使用する反応容器12の外径が70mmの場合、容器抱持部13の内径を70.5mmとし、前記反応容器12を容器抱持部13内に挿入したときに二つ割り面15a,16a同士が平行になり、反応容器12を取り除いたときに二つ割り面15a,16aの開口端同士が密着し、ヒンジ側から開閉端に向かって約1.5度の角度で二つ割り面15a,16a同士が近接する状態に設定する。また、反応容器12の外径が大きい場合や霜の成長によって二つ割り面15a,16aが開いたときの最大角度を約3度に設定する。二つ割り面15a,16aの閉じ方向は開閉端同士の接触により自動的に規制されるが、開き方向の最大角度は、前記窪み16cの開口幅を適切に設定することで規制することができる。
【0017】
したがって、二つ割り面15a,16a同士は、外径が70mmの反応容器12を容器抱持部13内に挿入したときに開き角度が0度となり、反応容器12を取り除いたときに開き角度が−1.5度、最大開き角度が3度となる。そして、リミットスイッチ作動片21aがリミットスイッチ21を作動させる開き角度は、最大開き角度より小さい角度で、公差範囲における最大外径の反応容器12を挿入可能な角度、例えば、開き角度が約2度になったときにリミットスイッチ21が作動するように設定する。
【0018】
このように各部の寸法や角度を設定した容器抱持部13は、開閉端同士が接触したときの容器抱持部半体13a同士の間隔から、最小外径が69mm、最大外径が容器抱持部13の内径に対応した70.5mmの反応容器12を装着することができ、この範囲内の反応容器12を使用することにより、反応容器12の外径が異なっていたり、真円度が不十分な場合でも、容器抱持部半体13aの内周面と反応容器12の外周面とが2箇所で線接触する状態にすることができる。これにより、容器抱持部半体13aの内周面と反応容器12の外周面との間に大きな隙間を生じることがなく、容器抱持部13と反応容器12との間の熱伝導を良好に保ち、反応容器12内の液体試料の温度制御を確実に行うことができる。
【0019】
また、氷点下での低温反応を行う際に、容器抱持部13の内周面や反応容器12の外周面に霜が付着して成長した場合でも、霜の成長に伴ってブロック半体15,16の間隔が開いていくので、霜の成長によって反応容器12が短時間で破損することを防止でき、さらに、ブロック半体15,16の開閉端があらかじめ設定された距離まで離れたことをリミットスイッチ21で検出し、警報を出力したり、冷却水の供給を停止したりすることにより、反応容器12が破損するような事態になる前に反応操作を中断することができる。さらに、温度変化によるアルミブロック14や反応容器12の膨張や収縮にもブロック半体15,16の開閉によって対応できる。
【0020】
このように形成した恒温装置11は、図7に示すように、複数台を並列にして1台の反応装置50に組み込むことができる。前記冷却水流路22に冷却水を供給する経路には電磁弁が、前記ヒータ23に接続する電気回路にはスイッチ又は調節器がそれぞれ設けられ、温度センサ24で検出した温度に応じて電磁弁及びスイッチ等を制御することにより、反応容器12内の液体試料の温度を設定温度とする。また、反応装置50における温度制御は、反応容器12の液体試料内に挿入した温度センサの検出温度に基づいて、さらに、両温度センサの検出温度に基づいて行うこともでき、液体試料の温度とアルミブロック14の温度とに基づいてカスケード制御を行うことで、より精密な温度制御が可能となる。また、反応装置50における恒温装置11の周囲は、透明な材料、例えばポリカーボネート製の二重構造の断熱カバー51で覆い、前記開口13cを通しての視認性を確保しながら、アルミブロック14部分への空気の流れを抑えて断熱効果を得るようにしている。
【0021】
反応容器12を容器抱持部13内に挿入することにより、反応容器12の外径に応じてブロック半体15,16が開くとともに、コイルスプリング20の作用でブロック半体15,16が閉じ方向に付勢されることにより、前述のように、容器抱持部半体13aの内周面と反応容器12の外周面とが2箇所で線接触する状態になる。また、コイルスプリング20の作用によって両側の容器抱持部半体13aの間に反応容器12を抱持するので、操作中の反応容器12を確実に保持、固定しておくことができる。
【0022】
さらに、複数の恒温装置11にそれぞれ反応容器12を装着して同一条件で反応操作を行う場合、反応容器12の外径がそれぞれ異なっていたとしても、反応容器12を確実に加熱又は冷却することができるので、各反応容器12内の液体試料をあらかじめ設定された温度に確実に制御することができ、反応操作における信頼性の向上も図れる。
【0023】
なお、本形態例では、容器抱持部13の形状を断面円形としたが、断面正方形等の多角形で形成することも可能であり、例えば、容器抱持部13の形状を断面正方形とした場合には、容器抱持部半体13aを二等辺直角三角形とすればよい。また、ブロック半体15,16の一側方をヒンジ結合し、開閉端側にコイルスプリング20を設けた構造としたが、ブロック半体15,16の両側にコイルスプリングを配置し、付勢手段と連結手段を兼ねるようにして容器抱持部13を拡縮可能な状態にすることもでき、コイルスプリングの一端を着脱可能にして容器抱持部13を全開状態にできるように形成することもできる。さらに、冷却手段や加熱手段、温度制御手段は、任意の構造、構成のものを採用することが可能である。また、恒温装置11の容器抱持部13内への反応容器12の挿入は、反応容器12を上から押し込むだけで行うことが可能であるが、必要に応じて把手等を設けておくこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の恒温装置の一形態例を示す斜視図である。
【図2】同じく正面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】同じく平面図である。
【図5】同じく底面図である。
【図6】容器抱持部が拡開した状態を示す平面図である。
【図7】本発明の恒温装置を使用した反応装置の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0025】
11…恒温装置、12…反応容器、13…容器抱持部、13a…容器抱持部半体、13b…円錐面、13c…開口、14…アルミブロック、15,16…ブロック半体、15a,16a…二つ割り面、15b,16b…切欠き、16c…窪み、17…底板、18…支持脚、18a…ネジ、19…ヒンジ部、19a…上部ヒンジ板、19b,19c…ネジ、20…コイルスプリング、21…リミットスイッチ、21a…リミットスイッチ作動片、22…冷却水流路、22a…流入管、22b…連通管、22c…流出管、23…ヒータ、24…温度センサ、25…温度ヒューズ、50…反応装置、51…断熱カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状反応容器の外周面を抱持する容器抱持部を有する金属製ブロックを二つ割りした一対のブロック半体を備え、該一対のブロック半体同士は、該ブロック半体の二つ割り面同士が近接する方向に付勢する付勢手段と、前記容器抱持部を拡縮可能に連結する連結手段とによって連結されるとともに、各ブロック半体に冷却手段及び加熱手段をそれぞれ設けたことを特徴とする恒温装置。
【請求項2】
前記一対のブロック半体同士があらかじめ設定された距離まで離れたことを検出する検出手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の恒温装置。
【請求項3】
前記一対のブロック半体の一方のブロック半体は、温度検出手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の恒温装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−149023(P2010−149023A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328216(P2008−328216)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(591245543)東京理化器械株式会社 (36)
【Fターム(参考)】