説明

恒温装置

【課題】本発明は、恒温装置内の温度分布を均一に制御しつつ、省エネルギーを図ることができる恒温装置を提供する。
【解決手段】恒温装置1は、発熱試料体Wが配置される試料配置部2の温度を設定値近傍に維持可能なもので、送風機12と加熱手段13とダンパ部21とを有している。恒温装置1の内部には、空気の流れ方向上流側に上流側温度センサ16,17が配され、下流側に下流側温度センサ18,20が配されている。試料配置部2の温度を設定値に制御する際には、上流側温度センサ16,17が検知した上流側温度Aと下流側温度センサ18,20が検知した下流側温度Bとの間に、下限温度差以上であって上限温度差以下の所定範囲の温度差が存在するように、送風機12の送風量が増減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の庫内や室内を目標とする温度に調節可能な恒温装置に関するもので、特にはバーンイン試験装置や環境試験装置として好適で、庫内や室内の温度分布を実用上充分に均一化することができ、且つ省エネルギーである恒温装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスなどの電子機器は、製造における最終工程で、バーンイン試験を行って不良品が除かれる。ここで、バーンイン試験とは、半導体デバイスなどの電子機器を、通常の温度環境よりも高い温度に晒した状態で、通常の使用電圧よりも高い電圧を掛けて、不良品を見分ける検査である。特許文献1には、このようなバーンイン試験を行うための温度制御装置が開示されている。なお、バーンイン試験においては、半導体デバイスに対して給電するため、半導体デバイスが発熱する。
【0003】
ところで、バーンイン試験では、複数の同種の半導体デバイス等が同じ恒温装置(バーンイン試験装置)に載置されるため、それぞれの半導体デバイス等に対してほぼ同じ環境で試験が行えるように、各半導体デバイス等に供給する電力や、恒温装置の内部の温度分布をほぼ均一に維持する制御を実行することが望ましい。このように制御することで、バーンイン試験において、高い試験精度を確保することができる。
【0004】
しかしながら、恒温装置内は、半導体デバイス等が通電によって発熱するため、内部を循環する空気は、半導体デバイス等を通過する前後で温度差が拡大し、全体の温度分布が不均一となる場合があった。
そこで、この種の恒温装置では、強力な送風機を用いて恒温装置内を強く攪拌して、内部に高速の空気の流れを形成することで、温度差を小さくして温度分布の均一化を図っている。
具体的には、送風機は、恒温装置内部の設定温度や半導体デバイス等の予測し得る最大発熱量を基に、予め設定された一定の送風量を確保することができる強力なものが選定される。また、従来技術においては、バーンイン試験の間、送風機は一定の風量となるように一定の回転数で回転される。
多くの場合、バーンイン試験の間、送風機はフル回転で回転される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−214933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、半導体デバイスの高機能・高性能化に伴い、その個々の容量が増大しているため、半導体デバイスに対する通電量が増加し、その発熱量も年々増加の傾向を辿っている。一方、バーンイン試験を行う恒温装置に対しては、要求される性能に変わりはない。そのため、最近では、恒温装置内部の温度分布の均一性を維持するために、恒温装置に採用される送風機のモータが大容量化している。即ち、恒温装置内における攪拌量を増大させて温度分布の均一化を図っている。
【0007】
かかる構成を備えた従来の恒温装置は、発熱量が高い半導体デバイスをバーンイン試験することが可能であるが、送風機の制御は試料体としての半導体デバイスの種類や搭載量などの条件が変化したとしても、前記したように一定の送風量に制御されるため、試験によっては必要以上に温度分布が均一化される場合があった。
また、モータの容量が増強された送風機は、空気を攪拌する仕事量も大幅に増加されているため、攪拌熱によって恒温装置内の温度を昇温させてしまう。そしてこの熱量は、冷却装置で吸収する必要がある。
従来の恒温装置では、このような送風機を、恒温装置の運転初期から試験終了まで一貫して、一定の送風量で作動させるため、恒温装置内部の温度状況によっては送風量が過大である場合もあり、空気の攪拌と冷却の仕事量分だけ無駄な電力消費を生じていた。
【0008】
即ち、従来技術の恒温装置では、試験条件や恒温装置内部の温度、試料体の発熱量の相違等に応じることなく、恒温装置の運転開始から停止までほぼ一貫して、送風機の送風量が一定に制御されるため、大容量のモータを備えた送風機が採用された場合、電力消費量が必要以上に大きくなり、省エネルギーを図ることが困難であった。
また送風機が空気を攪拌するエネルギーが過大となり、恒温装置内の温度が昇温してしまい、恒温装置の温度上昇を抑えるために冷凍機を運転しなければならないという無駄が生じ、この点からも省エネルギーを図ることが困難であった。
【0009】
そこで、本発明では、上記した従来技術の問題に鑑み、恒温装置内の温度分布を適正に制御しつつ、省エネルギーを図ることができる恒温装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、発熱する発熱試料体が配置される試料配置部と、試料配置部において空気を一定方向に流動させることが可能な送風機と、試料配置部の温度を上昇させることが可能な加熱手段と、試料配置部の温度を降下させることが可能な温度降下手段とを有し、試料配置部内の温度を設定値に維持可能な恒温装置であって、恒温装置内部には、試料配置部に対して空気の流れ方向上流側の温度を検知する上流側温度検知手段と、試料配置部に対して空気の流れ方向下流側の温度を検知する下流側温度検知手段とを有し、試料配置部の温度を設定値に制御する際には、上流側温度検知手段が検知する上流側温度と下流側温度検知手段が検知する下流側温度との間に所定の適正温度差が存在するように、送風機の送風量を増減させることを特徴とする恒温装置である。
【0011】
ここで適正温度差は、摂氏4度とか摂氏6度と言うような特定の温度差であってもよく、摂氏4度から摂氏6度という様な幅をもった温度差であってもよい。
実際上は、摂氏4度とか摂氏6度と言うような特定の温度差を目標としてインバータによる比例制御やオンオフ制御を行うが、その場合であっても制御上その温度差に正確に一致させることが困難であれば、ある程度の温度差の範囲を保つ様に制御されることとなる。
【0012】
本発明の恒温装置は、試料配置部に対して空気の流れ方向上流側と下流側にそれぞれ温度検知手段が設けられ、試料配置部の温度を設定値に制御する際に、上流側の温度と下流側の温度との間の温度差が適正温度差となる様に送風機の送風量を増減させる制御が実行される。
【0013】
例えば、下流側温度が上流側温度より高温である温度条件下で、両者の温度差が適正温度差を超えて外れている場合には、送風機の送風量を増加する制御を実行する。これにより、試料配置部を流動する空気の流速が増加するため、流動空気が発熱試料体により加熱され得る時間(滞留時間)が短縮されて、前記温度差が適正温度差に近づく。
【0014】
逆に、下流側温度と上流側温度との温度差が適正温度差未満である場合には、送風機の送風量を減少する制御を実行する。
これにより、試料配置部を流動する空気の流速が減少するため、流動空気が発熱試料体により加熱され得る時間(滞留時間)が増加されて、前記温度差が適正温度差に近づく。
【0015】
従って本発明によると試料配置部の温度分布を一定にしつつ、送風機の消費電力を抑制することができる。
【0016】
即ち、本発明の恒温装置によれば、試料配置部の上流側と下流側に設けた温度検知手段により、試料配置部における上流側から下流側に渡る温度分布が所定の上下限の範囲内にあるか否かで送風機の送風量を制御できるため、試料配置部に載置された全発熱試料体の温度環境を適正な範囲にしつつ、消費電力を低減して温度制御を行うことができる。これにより、大容量のモータを備えた送風機を採用した場合であっても、過大な電力消費が抑制されるため、従来の恒温装置と比較すると省エネルギーの恒温装置を提供することができる。
【0017】
送風機の送風量を増減させる方策としては、送風機の回転数を変化させる構成が推奨される。
かかる構成によれば、送風機の送風量を回転数により増減させるため、目的の風量に制御しやすい。例えば、この手段としては、送風機のモータとして直流モータを採用した場合は、当該直流モータを電圧制御する方策がある。また、送風機のモータとして交流モータを採用した場合は、当該交流モータをインバータ制御するなどの方策が挙げられる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、上流側温度と下流側温度との間の温度差が適正温度差未満である場合は、送風機の送風量を減少させ、前記温度差が適正温度差を超える場合は、送風機の送風量を増大させることを特徴とする請求項1に記載の恒温装置である。
【0019】
かかる構成によれば、下流側温度と上流側温度との温度差が所定の適正温度差となる様に送風機の送風量が増減されるため、試料配置部の温度差が試験に悪影響を与えない範囲であり且つ省エネルギーが可能な範囲に安定させることができる。
即ち、本発明では、下流側温度と上流側温度との温度差が適正温度差未満である場合は前記所定範囲にある場合に比べて送風機の送風量を減少させ、前記温度差が適正温度差を超える場合は適正温度差にある場合に比べて送風機の送風量を増大させる。そのため前記温度差が試験に悪影響を与える範囲にまで拡がることなく、且つ過剰なまでに温度差がなくなることもない。そのため本発明によれば、送風機の電力消費をより低減することができる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、上流側温度検知手段と下流側温度検知手段の内の少なくとも一方は、複数設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の恒温装置である。
【0021】
かかる構成によれば、上流側温度検知手段又は下流側温度検知手段が複数設けられているため、誤検知が排除でき、温度検知手段を1つしか設けない場合よりも高い性能で制御を行うことができる。また、複数ある温度検知手段のいずれか1つが故障しても、別の温度検知手段で対応できるため、本発明においては制御が実行できないという不具合が生じることがない。
【0022】
発熱試料体を載置した試料配置部では、恒温装置を作動すると共に発熱試料体に通電するため、一定時間が経過すると発熱試料体の発熱により、下流側温度が上流側温度より高くなる。逆に発熱が無い場合には上流側温度が下流側温度より高くなる。また上流側温度についても、空気の流れ方によって位置によるバラツキが生じる。同様に下流側温度についても、位置によるバラツキがある。
そこで請求項4に記載の発明は、上流側温度検知手段及び下流側温度検知手段のうち、複数設けられた温度検知手段はそれぞれ離れた位置に配置され、下流側温度検知手段が検知する検知温度の中の最高温度または最低温度と、上流側温度検知手段が検知する検知温度の中の最低温度または最高温度との温度差に基づいて送風機の送風量が制御されることを特徴とする請求項3に記載の恒温装置である。
【0023】
かかる構成によれば、上流側温度検知手段が複数ある場合は上流側温度検知手段がそれぞれ間隔を空けて配置され、下流側温度検知手段が複数ある場合は下流側温度検知手段がそれぞれ間隔を空けて配置されているため、温度検知領域の温度ムラを検知することができる。即ち、本発明の恒温装置は、下流側温度の最高温度または最低温度と上流側温度の最低温度又は最高温度との温度差に基づいて送風機の送風量を制御することで、試料配置部全体を確実に設定温度近傍に近づけることができる。
なお下流側温度及び上流側温度の組み合わせは任意であり、下流側温度の最高温度と上流側温度の最低温度を採用する方策、下流側温度の最高温度と上流側温度の最高温度を採用する方策、下流側温度の最低温度と上流側温度の最低温度を採用する方策、下流側温度の最低温度と上流側温度の最高温度を採用する方策を採用可能である。ただしより下流側温度と上流側温度との温度差をより正確に制御するという観点から、下流側温度の最高温度と上流側温度の最低温度を採用する方策を採用することが推奨される。
【0024】
請求項5に記載の発明は、上流側温度検知手段及び下流側温度検知手段のうち、複数設けられた温度検知手段はそれぞれ離れた位置に配置され、上流側温度検知手段が複数設けられている場合は複数の上流側温度検知手段が検知する検知温度の平均値を上流側温度とし、上流側温度検知手段の数が単数である場合は当該一つの上流側温度検知手段が検知する検知温度を上流側温度とし、下流側温度検知手段が複数設けられている場合は複数の下流側温度検知手段が検知する検知温度の平均値を下流側温度とし、下流側温度検知手段の数が単数である場合は当該一つの下流側温度検知手段が検知する検知温度を下流側温度とし、上流側温度と下流側温度との間に所定の適正温度差が存在するように、送風機の送風量を増減させることを特徴とする請求項3に記載の恒温装置である。
【0025】
かかる構成によれば、上流側温度検知手段が複数ある場合は上流側温度検知手段がそれぞれ間隔を空けて配置され、下流側温度検知手段が複数ある場合は下流側温度検知手段がそれぞれ間隔を空けて配置されているため、温度検知領域の温度ムラを検知することができる。そして、上流側及び下流側の内の複数ある側の平均温度を用いて算出された温度差に基づいて送風機の送風量を制御することで、温度検知手段の不具合等により検知温度に異常値があった場合であっても、平均値を演算することで異常値が緩和されるため、異常値による制御の不具合を抑制できる。
【0026】
請求項6に記載の発明は、複数の上流側温度検知手段と複数の下流側温度検知手段とを有し、試料配置部を通過する空気の流れは大まかに複数の層に分かれ、複数の層の上流側に前記上流側温度検知手段があり、当該層の下流側に前記上流側温度検知手段と対応する下流側温度検知手段が設置され、上流側温度検知手段が検知する上流側温度とこれに対応する下流側温度検知手段が検知する下流側温度の差の内で最大である温度差を基準温度差とし、この基準温度差が適正温度差となる様に送風機の送風量を増減させることを特徴とする請求項3に記載の恒温装置である。
【0027】
恒温装置の試料配置部には、棚等が設けられることが多く、当該棚によって実質的に空気流路が形成される場合が多い。即ち試料配置部の棚は、空気の流通を厳密に遮断するものではないが、棚の存在によって試料配置部を通過する空気の流れは大まかに複数の層に分かれる。また試料の配置も棚単位に行われるため、棚ごとに試料の有無が決まるといっても過言ではない。
そして本発明は、複数の層の上流側に前記上流側温度検知手段があり、当該層の下流側に前記上流側温度検知手段と対応する下流側温度検知手段が設置されている。従って上流側温度検知手段とこれに対応する下流側温度検知手段が一対となり、当該層を流れる空気の温度差を測定することとなり、複数の層の温度差が個別に検知される。
そして本発明では、複数の層の温度差の内、最も温度差が大きいものを基準とし、この温度差に基づいて送風機の送風量を増減させる。
またさらにこれを発展させ、試料配置部を通過する空気の流れを複数の層に分けるための仕切等を設けてもよい。
【0028】
前記温度降下手段は、試料配置部内の空気を外気と置換して、試料配置部内の温度を降下させるものであることが望ましい。
【0029】
かかる構成によれば、温度降下手段は、試料配置部内の空気を置換して温度を降下させるものであるため、冷凍機などを用いて温度を低下させるよりも電力消費が低い。実施形態としては、例えば、温度降下手段には、試料配置部を通過した空気の一部又は全部が排気される排気部と、外部の空気を給気する給気部と、当該排気部と給気部を通過する空気の通過量を調整可能な開閉手段とで構成されるダンパ装置が考えられる。
【0030】
また下流側温度が上流側温度より低い温度条件下の場合には、上流側温度に基づいて送風機の送風量が制御されることが推奨される。
【0031】
かかる構成によれば、下流側温度が上流側温度より低い場合は、上流側温度に基づいて送風機の送風量が制御されるため、試料配置部の温度を効率的に昇温させることが可能である。ここで、送風機の送風量が増大されると、送風機による空気を攪拌する仕事量が増加するため、昇温効率が上がる。即ち、下流側温度が上流側温度より低いような、急な昇温が求められるような状況においては、高温側の上流側温度を基準として、送風量を増大させることで、短期間で試料配置部を昇温させることができる。
【0032】
また試料配置部内の温度自体は設定値に維持されるが、本発明の恒温装置は、試料配置部の上流側と下流側に温度差があることが前提であるから、いずれの部位の温度を基準とするかによって全体の温度が変わってしまう。
試料配置部内の温度自体を設定値に維持する際における基準となる温度は、上流側温度、下流側温度あるいはこれらの平均を利用することができる。
【0033】
即ち請求項7に記載の発明は、試料配置部内の温度は、上流側温度検知手段の検知温度に基づいて設定値に維持されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の恒温装置である。
【0034】
請求項8に記載の発明は、試料配置部内の温度は、下流側温度検知手段の検知温度に基づいて設定値に維持されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の恒温装置である。
【0035】
請求項9に記載の発明は、試料配置部内の温度は、上流側温度検知手段の検知温度と下流側温度検知手段の検知温度の平均に基づいて設定値に維持されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の恒温装置である。
【発明の効果】
【0036】
本発明の恒温装置は、発熱試料体が配置される試料配置部における空気の流れ方向上流側と下流側に温度検知手段が設けられており、試料配置部の温度を設定値に制御する際に、試料配置部の上流側と下流側の温度差が一定の範囲内に存在するように送風機の送風量を増減することができる。これにより、大容量のモータを備えた送風機で試料配置部の温度分布を所定の試験環境に維持する場合であっても、省エネルギーを図った制御が実行される恒温装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る恒温装置を概念的に示す断面図である。
【図2】図1の恒温装置の制御部とその他の機器との関係を示すブロック図である。
【図3】比較例を説明するものであり、恒温装置の試料配置部における上流側温度Aと下流側温度Bと、時間との一般的関係を簡易的に示すグラフである。
【図4】比較例を説明するものであり、恒温装置の試料配置部における上流側温度Aと下流側温度Bと、時間との関係を簡易的に示すグラフであって送風機の送風量が少ない場合を示す。
【図5】比較例を説明するものであり、恒温装置の試料配置部における上流側温度Aと下流側温度Bと、時間との関係を簡易的に示すグラフであって送風機の送風量が多い場合を示す。
【図6】本発明の実施形態を説明するものであり、図1の恒温装置の試料配置部における上流側温度Aと下流側温度Bと、時間との関係を及び送風量の関係を簡易的に示すグラフである。
【図7】上段は図1の恒温装置の試料配置部における温度差C(下流側温度B−上流側温度A)と、時間との関係を簡易的に示すグラフであり、下段は送風機の送風量の状態を示すグラフである。
【図8】別の実施形態の恒温装置を図1の恒温装置の試料配置部における上流側温度Aと下流側温度Bと、時間との関係を簡易的に示すグラフである。
【図9】図8と同一の実施例に関し、上段は恒温装置の試料配置部における温度差C(下流側温度B−上流側温度A)と、時間との関係を簡易的に示すグラフであり、下段は送風機の送風量の状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態に係る恒温装置1ついて説明する。
なお、本実施形態の恒温装置1は、半導体デバイス(発熱試料体W)をバーンイン試験するバーンイン試験装置であり、発熱試料体Wの発熱量が年々増加傾向を辿っている背景を踏まえて、高発熱の発熱試料体Wを検査できる構成とされいる。具体的には、発熱試料体Wの合計発熱量が、7〜8kwh程度までが対象とされている。
【0039】
恒温装置1は、図1に示すように、外部の温度変化の影響を受けないように外枠が断熱壁3で形成されており、図示しない扉を閉じることによって、内部を密閉状態とすることができる。また、前記扉を開くことによって、発熱試料体Wたる半導体デバイス等の出し入れを行うことができる。また、恒温装置1の内部においては、発熱試料体Wを配置する試料配置部2と、空気が流れる通路部5とに分けられた構成である。なお、バーンイン試験は、先にも説明したように、通電すると発熱する発熱試料体Wに対して、通常の温度環境よりも高い温度に晒した状態で、通常の使用電圧よりも高い電圧を掛けて、不良品を見分ける検査である。
【0040】
試料配置部2は、図1に示すように、恒温装置1のほぼ中央に位置し、空気の流れ方向上流側と下流側に通路部5が隣接している。また、試料配置部2は、バーンインボードと称される試料載置棚6が鉛直方向に複数並べられ、さらに各試料載置棚6には発熱試料体Wに通電するための図示しない端子が設けられて構成されている。即ち、試料配置部2を通過する空気は、試料載置棚6に沿ってほぼ平行に流れる。即ち試料配置部2を通過する空気は、試料載置棚6によって大まかに5層に分かれて並行に流れる。より具体的には図1の様にa層からe層に分かれて流れることとなる。
そして、試料配置部2を通過する空気は、通電されて発熱した発熱試料体Wと熱交換する。
【0041】
通路部5は、図1に示すように、試料配置部2を囲繞するように位置している。具体的には、通路部5は、断熱壁3と試料配置部2との間にあり、試料配置部2における空気の流れ方向上流側(右側)と隣接した送風通路10と、試料配置部2における空気の流れ方向下流側(左側)と隣接した排気通路11と、送風通路10と排気通路11とに挟まれ送風機12及びヒータ(加熱手段)13が配される循環通路15とにより構成されている。なお、試料配置部2と、送風通路10及び排気通路11との間には仕切はなく、試料配置部2と循環通路15との間にのみ仕切板29が設けられている。
【0042】
また、通路部5には、排気通路11を通過した空気の一部又は全部が外部に排気される排気部22と、外部から循環通路15に空気を給気する給気部23と、排気部22と給気部23を通過する空気の通過流量を調整可能な開閉板24とが設けられ、ダンパ部21が形成されている。具体的には、排気部22は、排気通路11における空気の流れ方向下流側に位置し、給気部23は、循環通路15における空気の流れ方向上流側に位置している。そして、排気部22と給気部23は、それぞれ排気ダクト34又は給気ダクト35と接続されている。
【0043】
ダンパ部21は、開閉板(開閉手段)24が、図示しないモータによって開度調整され、当該開閉板24によって排気部22と給気部23を通過する空気の通過流量を同時に調整することができる。より具体的には、開閉板24は、排気部22と給気部23を同時に覆うことができる程度の大きさを備えた1枚の金属板である。また、開閉板24にはヒンジ25が配されている。即ち、開閉板24は、ヒンジ25を基準に回動させることで、排気部22と給気部23の開度を同時に調整することができる。即ち、ダンパ部21の開度調整は、後述する制御部30から生成される信号に基づいて、前記モータが駆動されてヒンジ25を基準に開閉板24が回動して行われる。従って、ダンパ部21は、排気部22と給気部23との開度を調節することで、恒温装置1内部の加熱された空気を排気しつつ、外部の低温空気を給気できるため、試料配置部2の温度を降下させることができる(温度降下手段)。即ち、ダンパ部21により、恒温装置1内部の空気を外気と置換させることができる。なお、上記開閉板24は、所謂バタフライ式であるが、ゲート式でもよい。
【0044】
さらに、本実施形態に採用されたダンパ部21は、開閉板24の開閉速度が制御可能な構成である。これにより、試料配置部2の温度調整をより円滑に行うことが可能となる。なお、この開閉板24の開閉速度制御は、本発明に直接的に関わらないため、簡単に説明する。即ち、試料配置部2の温度を急激に下げたい場合には開閉板24の開速度を増加し、試料配置部2の温度を急激に上げたい場合には開閉板24の閉速度を増加する。
【0045】
送風通路10は、鉛直方向に延びた通路で、2つの温度センサ(上流側温度検知手段)16,17が配されている。具体的には、通路の鉛直方向上部側に上流側上部温度センサ(上流側温度検知手段)16が配され、通路の鉛直方向下部側に上流側下部温度センサ(上流側温度検知手段)17が配されている。
前記した様に試料配置部2を通過する空気は、a層からe層に分かれて流れることとなるから、上流側上部温度センサ16はa層に導入される空気の温度を測定することとなり、上流側下部温度センサ17はe層に導入される空気の温度を測定することとなる。
これにより、送風通路10において鉛直方向に温度ムラがあっても、温度センサ16,17の平均温度や、最低、最高温度を基準とすることで制御性能を高めることができる。また、複数の温度センサを設けることで、いずれかの温度センサが故障した場合であっても、試料配置部2の温度制御を確実に実行することができる。
なお本実施形態では、2つの温度センサ(上流側温度検知手段)16,17の検知温度の平均値を上流側温度Aとして制御が行われる。
【0046】
また、送風通路10には、空気を一定方向に円滑に流すことができる規制板36が鉛直方向に4つ並べて設けられている。
【0047】
排気通路11は、通路の延伸方向が送風通路10と同じであり、2つの温度センサ(下流側温度検知手段)18,20が配されている。具体的には、通路の鉛直方向下部側に下流側下部温度センサ(下流側温度検知手段)18が配され、通路の鉛直方向上部側に下流側上部温度センサ(下流側温度検知手段)20が配されている。前記した様に試料配置部2を通過する空気は、a層からe層に分かれて流れることとなるから、下流側上部温度センサ20はa層から排出される空気の温度を測定することとなり、下流側下部温度センサ18はe層から排出される空気の温度を測定することとなる。
これにより、排気通路11において鉛直方向に温度ムラがあっても、温度センサ18,20の平均温度や、最低、最高温度を基準とすることで制御性能を高めることができる。また、前記したように、いずれかの温度センサが故障した場合であっても、試料配置部2の温度制御を実行することができる。
なお本実施形態では、2つの温度センサ(下流側温度検知手段)18,20の検知温度の平均値を下流側温度Bとして制御が行われる。
また、排気通路11にも、前記同様の規制板36が1つ設けられている。
【0048】
循環通路15は、試料配置部2の上部側に位置し、送風通路10及び排気通路11に対してほぼ直交する方向に延びた通路である。即ち、循環通路15は、空気の流れ方向上流側に排気通路11が隣接しており、空気の流れ方向下流側に送風通路10が隣接している。即ち、循環通路15においては、排気通路11を通過した一部の空気及び給気部23から給気された外部の空気が通過するか、排気通路11を通過した全部の空気が通過する。また、循環通路15には送風機12及びヒータ13が配されており、送風機12がヒータ13よりも空気の流れ方向下流側に位置している。即ち、ヒータ13で加熱された空気が、送風機12によって送風通路10に送り出される。
【0049】
本実施形態では、ヒータ13は6つ設けられており、その内の1つは常時作動する常時ヒータ13aで、残りの5つは短時間に急激な温度上昇を行う必要がある場合に作動する臨時ヒータ13b〜13fである。なお、全てのヒータ13a〜13fは、入力を変更することで発熱量を調整することができる。
【0050】
送風機12は、インバータを備えた遠心ファンであり、インバータにより周波数が変更されることで、図示しないモータの回転数を無段階に増減可能である。また、本実施形態の恒温装置1では、従来の恒温装置に用いられる送風機12よりもモータの容量が大きいものが採用されている。これは、高発熱化された近年の発熱試料体Wに対応するためである。具体的には、本実施形態に採用される送風機12のモータの容量としては、9kw(4.5kw程度のモータが2つ)程度のものである。
【0051】
続いて、恒温装置1における制御部とその他の機器との関係について、図面を用いて説明する。
【0052】
本実施形態の恒温装置1では、試料配置部2内の温度ばらつきが所定の適正温度差となる様に温度センサ16,17,18,20が検知する温度に基づいた送風機12の制御が実行される。即ち、図2に示すように、温度センサ16,17,18,20と制御部30は、信号線31で接続され、送風機12と制御部30は、信号線32で接続されている。
【0053】
また制御部30は、前記温度センサ16の検知温度に基づいて、ダンパ部21とヒータ13の各機器を制御することができる。即ち、制御部30は、図2に示すように、ダンパ部21とヒータ13の各機器と、信号線33,34で接続されている。
【0054】
本実施形態の恒温装置1では、具体的には試料配置部2内の温度が設定値となる様にヒータ13a〜13fの入力が制御される。試料配置部2内の温度は、送風機12の吹き出し部の温度を基準とすることが通例であり、本実施形態では、上流側上部温度センサ16が最も送風機12の吹き出し部に近い。そこで本実施形態では、試料配置部2の温度は、上流側上部温度センサ温度センサ16の検知温度で決定され、上流側上部温度センサ16の検知温度を基準にヒータ13a〜13fの入力がPID制御される。
【0055】
また、前記した制御部30には、図示しない演算部が備えられ、当該演算部により、試料配置部2における上流側温度Aと、下流側温度Bとの温度差C(下流側温度B−上流側温度A)が演算される。
なお、本実施形態では、前記した様に二つの上流側温度センサ16,17の平均温度が上流側温度Aであり、二つの下流側温度センサ18,20の平均温度が下流側温度Bである。当該上流側温度A自体及び下流側温度B自体も前記演算部で演算されている。即ち本実施形態では、上流側における平均温度と下流側における平均温度が演算され、さらに上流側温度Aと下流側温度Bとの温度差C(下流側温度B−上流側温度A)が演算される。
【0056】
次に、本実施形態の恒温装置1の機能について説明する。
本実施形態の恒温装置1では、試料配置部2の試料載置棚6に発熱試料体Wを載置し、熱風によって試料配置部2を加熱すると共に発熱試料体Wに通電して発熱試料体Wを試験する。試料配置部2の設定温度(設定値)は例えば摂氏125度といった高温である。
本実施形態の恒温装置1は、前記した様に送風機12の吹き出し部の温度を試料配置部2の温度とし、試料配置部2の温度は、上流側温度センサ16の検知温度を基準にヒータ13a〜13fの入力をPID制御して調節される。
【0057】
またダンパ部21は、試料配置部2の実際の温度に基づいて開閉される。具体的には、上流側上部温度センサ16が検知する温度が低い場合(設定温度の8〜9割程度の温度、設定温度が125度であるならば摂氏100度から110度程度)は、ダンパ部21の開度を閉状態にしつつ、ヒータ13を作動する。一方、上流側上部温度センサ16が検知する温度が高い場合(設定温度の9割を超える温度)は、ダンパ部21の開度を開状態にする。
また、本実施形態では、試料配置部2の温度分布を均一に制御し、且つ上流側温度検知手段が検知する上流側温度と下流側温度検知手段が検知する下流側温度との間に所定の適正温度差が存在するように、送風機12の送風量がPID制御される。
なお、以下の説明では、恒温装置1における送風量を無段階に増減させることが可能な構成として説明する。
【0058】
なお本実施形態の恒温装置1は、前記した様に上流側温度検知手段が検知する上流側温度と下流側温度検知手段が検知する下流側温度との間に所定の適正温度差が存在するように、送風機12の送風量がPID制御される点に特徴があるが、この機能の作用を説明するために、最初に送風機12の送風量が一定である場合(PID制御しない状態)の挙動を比較例として説明する。
即ち本実施形態に対する比較として、恒温装置1の試料配置部2に発熱試料体Wを満載し、且つ送風機12の送風量を一定にして、バーンイン試験を行った場合の試料配置部2の温度分布について説明する。
【0059】
発熱試料体Wが満載された状態でバーンイン試験を行う場合、試料配置部2の上流側と下流側の温度は、一般に、図3(a)又は図3(b)のグラフのように変化する。即ち発熱試料体Wが、試料配置部2に設置され、ヒータ13を作動させて試料配置部2を昇温するとともに、送風機12を起動し、且つ送風機12の回転数を一定に維持して空気を試料載置棚6に沿ってほぼ平行に流すと、試料配置部2の上流側と下流側の温度が図3(a)又は図3(b)のグラフのように変化する。
即ち恒温装置1の初期動作時においては、発熱試料体Wの発熱量は低く、試料配置部2を通過する空気の熱が試料載置棚6やその他の内部材料及び発熱試料体W自体に奪われるため、上流側温度Aと下流側温度Bとを比較すると、下流側温度Bのほうが低い状態となる。
その後、発熱試料体Wの発熱によって試料載置棚6やその他の内部材料が加熱されて昇温し、時間の経過と共に上流側温度Aと下流側温度Bの温度差が小さくなる。
【0060】
そして、さらに時間が経過すると、上流側温度Aと下流側温度Bの高低が図3の様に逆転する。即ち、発熱試料体Wの発熱によって試料配置部2を通過する空気が昇温され、下流側温度Bの方が上流側温度Aよりも高くなる。なお下流側温度Bの方が上流側温度Aよりも高くなる時期は、試料載置棚6やその他の熱容量と、発熱試料体Wの発熱量との関数であり、試料載置棚6等の熱容量が大きく、発熱試料体Wの発熱量が小さい場合には図3(a)の様に試料配置部2の温度が設定温度近傍となった後となる。
逆に試料載置棚6等の熱容量が小さく、発熱試料体Wの発熱量が大きい場合には図3(b)の様に試料配置部2の温度が設定温度となる前に、下流側温度Bの方が上流側温度Aよりも高くなる。
【0061】
また、試料配置部2の温度は、ダンパ部21の開閉や、ヒータ13の制御によって許容される範囲の設定温度に保たれる。そして発熱試料体Wの発熱量が一定であり、この発熱試料体Wが発生する熱と、ダンパ部21を経由して外部に排出される熱とヒータ13によって補正的に追加される熱及び送風機12による攪拌熱が平衡し、且つ送風機12の送風量が一定であるならば、上流側温度Aは、図3(a)(b)に示すように、設定温度の近傍で安定する。
【0062】
これに対して、下流側温度Bは、ほぼ一定の温度だけ上流側温度Aよりも高い状態を維持して上流側温度Aと同じように平衡状態となって安定する。
そして、送風機12の送風量が少ない場合には、図4に示すように、上流側温度Aと下流側温度Bの温度差Cが大きくなり、送風機12の送風量が多い場合には、図5に示すように、上流側温度Aと下流側温度Bの温度差Cが小さくなる。
以上は、本実施形態の効果を説明するための比較例であり、送風機12の送風量を一定にして、バーンイン試験を行った場合の試料配置部2の温度分布について説明したものであるが、本実施形態では、前記した様に上流側温度検知手段が検知する上流側温度と下流側温度検知手段が検知する下流側温度との間に所定の適正温度差が存在するように、送風機12の送風量をPID制御している。
【0063】
以下、本実施形態の様に上流側温度検知手段が検知する上流側温度と下流側温度検知手段が検知する下流側温度との間に所定の適正温度差が存在するように、送風機12の送風量をPID制御する場合の試料配置部2の温度分布について説明する。
【0064】
即ち本実施形態では、上流側温度Aと下流側温度Bの温度差Cが、適正温度差となるように、送風機12の送風量を増減させる。
また試験中に発熱試料体Wの発熱量(全発熱試料体Wの総発熱量)が、試験条件の変化や発熱試料体W自身の故障によって変化し、発熱試料体Wが発生する熱と、ダンパ部21を経由して外部に排出される熱とヒータ13によって追加される熱及び送風機12による攪拌熱の平衡が崩れて上流側温度Aが設定温度を外れると、ヒータ13の発熱量が調整されて上流側温度Aを設定温度の近傍に戻す。
【0065】
図6は、本発明の実施形態を説明するものであり、図1の恒温装置の試料配置部における上流側温度Aと下流側温度Bと、時間との関係を簡易的に示すグラフである。
また上流側温度Aと下流側温度Bの温度差Cをグラフにすると図7の通りである。
即ち、恒温装置1の初期動作時においては、図7に示すように、一旦、上流側温度Aと下流側温度Bとの温度差Cが大きくなる(マイナス側)が、発熱試料体Wの発熱により、経時的に当該温度差Cが小さくなる方に変化する。そして、上流側温度Aと下流側温度Bとの温度差Cが0度となったところを境として、下流側温度Bが上流側温度Aより高温となる。即ち、温度差Cが0度となったところを境に、発熱試料体Wの表面温度が送風機12により送り出される空気の温度よりも高くなり、試料配置部2を通過する空気が発熱試料体Wによって加熱される。なお、本実施形態では、恒温装置1が作動してから一定時間経過し、恒温装置1内の温度が設定温度(設定値)になるまでの動作を初期動作と言っている。本実施形態では、恒温装置1内の温度が設定温度(設定値)になるまでの間(初期動作期間)は、恒温装置1内の温度が上昇過程にあるので、送風機12を全力で回転させる。
【0066】
初期動作期間を終えると、試料載置棚6やその他の内部材料が昇温し、さらに発熱試料体Wの温度が高くなり、下流側温度Bが上流側温度Aより高温となる。初期動作期間を越えると、恒温装置1内の温度が設定温度(設定値)となるが、試料配置部2を流れる空気が発熱試料体Wの熱によりさらに加熱されるため、図6、図7に示すように、下流側温度Bと上流側温度Aとの温度差Cが次第に大きくなる。
しかしながら本実施形態では、初期動作期間を終えると、上流側温度検知手段が検知する上流側温度と下流側温度検知手段が検知する下流側温度との間に所定の適正温度差が存在するように、送風機12の送風量がPID制御される。そのため送風機12の送風量が増減されるので、図6のa−b間の様に送風機12の送風量は低下傾向となる。その結果下流側温度Bと上流側温度Aとの温度差Cは、図6、図7の様に適正温度差に収束して安定する。
【0067】
即ち、本実施形態では、初期動作期間を終えると、試料配置部2の温度分布の変化に鑑み、上流側温度センサ16,17と、下流側温度センサ18,20が検知する検知温度に基づいて送風機12の送風量をPID制御して、試料配置部2の温度分布を許容できる所定の範囲に保つ構成とされている。具体的には、初期動作時には試料配置部2の温度は低温であり、試料配置部2の温度が上昇過程にあるので、送風機12を全力で回転させる。そして、初期動作期間を終えると、発熱試料体Wの加熱により高温側が逆転して下流側温度Bが過剰に高くなるが、高温側の下流側温度Bと低温側の上流側温度Aの間に適正温度差を維持し、温度分布が所定の範囲となるように、送風機の送風量を制御する。即ち、高温側の下流側温度Bと低温側の上流側温度Aの温度差Cが、下限温度差以上であって上限温度差以下の所定範囲の温度差となるように、送風機の送風量の強弱を調整する。
これにより、本実施形態の恒温装置1では、バーンイン試験において、試料配置部2の温度環境を効率的に設定温度に近づけると共に、許容可能な範囲の温度分布にして、省エネルギーを図ることが可能となる。
【0068】
以下に、バーンイン試験を行った場合における、本実施形態の恒温装置1の動作について具体的に説明する。
【0069】
恒温装置1が運転されて、バーンイン試験が開始されると、主に試料配置部2の温度を予め設定された設定値(摂氏125度)に近づけるため、上流側上部温度センサ16が検知する上流側温度を基準に各機器が制御される。本実施形態では、主にヒータ13の入力がPID制御されて上流側上部温度センサ16が検知する上流側温度が、設定値(摂氏125度)となる様に調節される。
【0070】
より具体的に説明すると、運転開始から一定時間が経過するまでの初期動作時においては、試料配置部2の温度を効率的に昇温させるため、ダンパ部21を全閉状態とし、且つ全てのヒータ13をフル稼働で作動する。また送風機12は全力で回転される。
さらに、上流側温度センサ16の検知温度が、摂氏100度〜摂氏110度程度に至ると、ダンパ部21が開かれ、且つヒータ13の入力が比例制御に基づいて減ぜられる。
【0071】
また、このとき、発熱試料体Wに対して通電されているため、発熱試料体Wは発熱しているが、試料載置棚6やその他の内部材料の温度が低いため上流側温度Aが下流側温度Bより高温であり、且つ上流側温度Aと下流側温度Bとの温度差は大きい。そのため、初期動作時においては、図7のタイムチャートに示すように、送風機12は、送風量が強となるように回転数が制御される。この制御により、初期動作時においては、恒温装置1内部の空気は大きく攪拌されながら、試料配置部2と通路部5を循環するため、設定温度(摂氏125度)に向かって急速に昇温する。
【0072】
また、図6、図7に示すように、試料配置部2の温度が設定値に向かって昇温していく過程で、試料配置部2を通過した発熱試料体Wにより加熱された空気の温度(下流側温度B)が、次第に上流側温度Aに近づき、両者の温度差Cがなくなった後(温度差Cが摂氏0度)上流側温度Aが設定温度(摂氏125度)に到達する。ここまでは前記した様に送風機12は全力(強)で運転されている。
その後、図7に示すように、温度差Cが所定の範囲となるよう、送風機12の回転数が落ち、送風量が少ない状態となる(図6のa−b間)。
そして、下流側温度Bが発熱試料体Wの発熱により高温となり、温度差Cが拡大しようとするので、これに合わせて送風量が次第に増加する(図6のb−c間)。つまり温度差Cが拡がり過ぎて温度分布が所定の範囲を超えることを防止するために、送風機12の送風量が制御される。
【0073】
具体的には、温度差Cに基づいて送風機12の制御を実行する場合、下流側温度Bと上流側温度Aとの差の程度に応じて、送風機12の回転数を制御して送風量を増減する。
即ち、本実施形態においては、温度差Cに基づいて制御を実行する場合、温度差Cが一定となる様に送風機12の送風量が制御される。
【0074】
一方、下流側温度センサ18,20が検知する下流側温度Bが発熱試料体Wの熱により上昇して、下流側温度Bと上流側温度Aとの差が拡がり、温度差Cが適正温度差を超えると、送風機12の回転数を増加させ、適正温度差に戻す。
【0075】
そして、試料配置部2の温度差Cが適正温度差に制御されつつも、上流側温度センサ16の検知温度が、設定値(摂氏125度)を超えると、ヒータ13の入力を下げると共にダンパ部21の開閉板24を開く方向に開度調整する。逆に試料配置部2の温度差Cが適正温度差に制御されつつも、上流側温度センサ16の検知温度が設定値を下回ると、ヒータ13の入力を上げると共にダンパ部21の開閉板24を閉じる方向に開度調整される。
【0076】
従って、本実施形態の恒温装置1では、上流側温度センサ16の検知温度、又は、下流側温度センサ18,20の検知温度と上流側温度センサ16,17の検知温度との温度差に基づいた風量制御が行われることで、試料配置部2の温度分布を適正に保ちつつ、無駄な電力消費を低減することができる。
【0077】
次に、本実施形態の恒温装置1を使用してバーンイン試験を行っている際に、外乱が発生した場合の温度変化の挙動について説明する。
例えば図6に示すように、時間T1の時に外乱として発熱試料体Wの発熱量の低下が生じ、下流側温度センサ18,20の検知温度が低下したとすると、試料配置部2の温度差Cが適正温度差未満となる。送風機12は、温度差Cが適正温度差を維持する様にPID制御されているから、時間T1以降は送風機12の回転数が低下し送風量が下がる。そのため下流側温度センサ18,20の検知温度が上昇し、温度差Cが適正温度差に戻る。
【0078】
しかしながら送風機12の回転数を低下させると、送風機12の攪拌によるエネルギーが減少するから、試料配置部2に供給される熱量が低下し、全体の温度が下がる。即ち時間T2から上流側温度センサ16の検知温度が次第に低下する現象が見られる。
ここで本実施形態では、ヒータ13は上流側上部温度センサ16の検知温度が設定温度となる様にPID制御されているから、ヒータ13の入力が増大し、適正温度差を維持したままの状態で、全体の温度が上昇する。その結果、試料配置部2の温度が設定温度であり、且つ試料配置部2の温度差Cが適正温度差となる。
【0079】
なお、本発明では、以下の式により算出される送風量を目標値として、送風機12の送風量が制御されている。
【0080】
V=Q・860/(Cp・γ・(B−A)・60) 式1
【0081】
V:目標送風量[立方メートルパー分 m3 /min]
Q:恒温装置1内部で発熱し得る全ての機器の発熱量[kw]
860[kcal/kw]
Cp:空気の定圧比熱[kcal/kg・K]
γ:空気の密度[キログラムパー立法メートル kg/m3
B:下流側温度
A:上流側温度
【0082】
上記実施形態では、送風機12の送風量(モータの回転数)を無段階に切り替え可能とした構成を示したが、本発明はこれに限定されず、送風機12の送風量を段階的に切り換えることができるものであっても構わない。
また上記実施形態では、送風機12の送風量やヒータをPID制御したが、これらをオンオフ制御してもよい。
図8、図9は、送風量を二段階にオンオフ切り替え(正確には強弱切り替え)することによって送風量を調節する際の温度変化を示すものであり、温度が一定の周期で昇降する。
【0083】
なお、推奨される適正温度差は、摂氏4〜6度程度であるが、試験条件によって適正温度差が異なるので、適正温度差を適宜設定変更することができることが望ましい。
【0084】
上記実施形態では、送風通路10及び排気通路11に2つずつの温度センサを設けた構成を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、温度センサを送風通路10と排気通路11のいずれか一方にのみに複数設け、他方には1つだけ設ける構成や、送風通路10及び排気通路11に1つずつ又は3つ以上ずつ設ける構成であっても構わない。
【0085】
上記実施形態では、制御部30が2つの温度センサの平均温度を演算して、その平均温度を上流側温度Aや下流側温度Bとして採用する構成を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、制御部30が上流側で検知された最低温度を演算して上流側温度Aとして採用すると共に、下流側で検知された最高温度を演算して下流側温度Bとして採用する構成であっても構わない。
【0086】
またさらに、a層の前後に設けられた上流側上部温度センサ(上流側温度検知手段)16と、下流側上部温度センサ20とを一組として温度差を演算し、さらにこれとは別にe層の前後に設けられた上流側下部温度センサ(上流側温度検知手段)17と、下流側下部温度センサ(下流側温度検知手段)18とを一組として温度差を演算し、二つの温度差を比較してその大きい方を基準温度差とし、この基準温度差が適正温度差となる様に送風機の送風量を増減させてもよい。もちろん、上流側温度検知手段と、下流側下部温度センサは、他の層(b層、c層、d層)の前後に設けてもよい。
【0087】
上記実施形態では、上流側上部温度センサ16が検知する上流側温度Aを設定値に制御したが、本発明はこれに限定されず、例えば、下流側上部温度センサ20が検知する下流側温度Bを設定値に制御する構成であっても構わない。
また、試料配置部2近傍に設けた全ての温度センサ16,17,18,20の検知温度の平均値が設定値に制御される構成であっても構わない。
【0088】
また上記した実施形態では、ヒータ13をPID制御あるいはオンオフ制御したが、複数のヒータの内、通電するヒータの数を変更してヒータの総出力を調整するものであってもよい。もちろん、個々のヒータのPID制御と、通電するヒータの数を変更する制御とを併用してもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 恒温装置
2 試料配置部
5 通路部
10 送風通路
11 排気通路
15 循環通路
12 送風機
13 ヒータ(加熱手段)
16 上流側上部温度センサ(上流側温度検知手段)
17 上流側下部温度センサ(上流側温度検知手段)
18 下流側下部温度センサ(下流側温度検知手段)
20 下流側上部温度センサ(下流側温度検知手段)
21 ダンパ部(温度降下手段)
40 風量調整ダンパ
A 上流側温度
B 下流側温度
C 温度差
W 発熱試料体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱する発熱試料体が配置される試料配置部と、試料配置部において空気を一定方向に流動させることが可能な送風機と、試料配置部の温度を上昇させることが可能な加熱手段と、試料配置部の温度を降下させることが可能な温度降下手段とを有し、試料配置部内の温度を設定値に維持可能な恒温装置であって、
恒温装置内部には、試料配置部に対して空気の流れ方向上流側の温度を検知する上流側温度検知手段と、試料配置部に対して空気の流れ方向下流側の温度を検知する下流側温度検知手段とを有し、
試料配置部の温度を設定値に制御する際には、上流側温度検知手段が検知する上流側温度と下流側温度検知手段が検知する下流側温度との間に所定の適正温度差が存在するように、送風機の送風量を増減させることを特徴とする恒温装置。
【請求項2】
上流側温度と下流側温度との間の温度差が適正温度差未満である場合は、送風機の送風量を減少させ、
前記温度差が適正温度差を超える場合は、送風機の送風量を増大させることを特徴とする請求項1に記載の恒温装置。
【請求項3】
上流側温度検知手段と下流側温度検知手段の内の少なくとも一方は、複数設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の恒温装置。
【請求項4】
上流側温度検知手段及び下流側温度検知手段のうち、複数設けられた温度検知手段はそれぞれ離れた位置に配置され、
下流側温度検知手段が検知する検知温度の中の最高温度または最低温度と、上流側温度検知手段が検知する検知温度の中の最低温度または最高温度との温度差に基づいて送風機の送風量が制御されることを特徴とする請求項3に記載の恒温装置。
【請求項5】
上流側温度検知手段及び下流側温度検知手段のうち、複数設けられた温度検知手段はそれぞれ離れた位置に配置され、
上流側温度検知手段が複数設けられている場合は複数の上流側温度検知手段が検知する検知温度の平均値を上流側温度とし、上流側温度検知手段の数が単数である場合は当該一つの上流側温度検知手段が検知する検知温度を上流側温度とし、
下流側温度検知手段が複数設けられている場合は複数の下流側温度検知手段が検知する検知温度の平均値を下流側温度とし、下流側温度検知手段の数が単数である場合は当該一つの下流側温度検知手段が検知する検知温度を下流側温度とし、
上流側温度と下流側温度との間に所定の適正温度差が存在するように、送風機の送風量を増減させることを特徴とする請求項3に記載の恒温装置。
【請求項6】
複数の上流側温度検知手段と複数の下流側温度検知手段とを有し、
試料配置部を通過する空気の流れは大まかに複数の層に分かれ、
複数の層の上流側に前記上流側温度検知手段があり、当該層の下流側に前記上流側温度検知手段と対応する下流側温度検知手段が設置され、
上流側温度検知手段が検知する上流側温度とこれに対応する下流側温度検知手段が検知する下流側温度の差の内で最大である温度差を基準温度差とし、この基準温度差が適正温度差となる様に送風機の送風量を増減させることを特徴とする請求項3に記載の恒温装置。
【請求項7】
試料配置部内の温度は、上流側温度検知手段の検知温度に基づいて設定値に維持されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の恒温装置。
【請求項8】
試料配置部内の温度は、下流側温度検知手段の検知温度に基づいて設定値に維持されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の恒温装置。
【請求項9】
試料配置部内の温度は、上流側温度検知手段の検知温度と下流側温度検知手段の検知温度の平均に基づいて設定値に維持されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の恒温装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−206661(P2011−206661A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76059(P2010−76059)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】