説明

患者に同期した換気装置

【課題】患者が可能性のある各相状態にある確率に基づいて、患者に換気支援を提供するための装置に関する。
【解決手段】呼吸サイクルが一連の規定された相状態から構成されており、規定された各相状態は、開始の流れ及び終了の流れを有し、装置は、気道にガス供給を提供する手段と、患者の気流を測定する手段と、患者の可能性のある各相状態に対して、患者が相状態にある確率と、患者が相状態にあるときに測定された気流が流れる確率との積を決定する決定ステップと、患者の気流を測定し、測定された気流と規定された相状態とに従って相状態を特定し、測定された気流に従って規定された相状態の開始の流れ及び終了の流れを更新する更新ステップと、特定された相状態に基づいて、気道にガスの供給を制御する制御ステップと、を実行するためのプログラムされた命令を備えた制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、換気装置を患者呼吸に同期させる方法に関する。より詳細には、本発明は、換気装置の呼吸支援が患者の呼吸サイクルの相と一致することができるように、患者の流量測定を用いて患者呼吸における相を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然に呼吸する患者を支援する人工換気装置は、それらの行ないを患者の努力に同期させようとする。これを実行するために、換気装置は、典型的には、圧力、体積、流量および時間の1つ以上を測定し、その測定値を予め決められた閾値と比較する。いくつかの換気装置は、患者努力を検出するために患者の胸および腹のまわりに呼吸のバンドを用いる。その後、換気装置は、患者の努力の測定値に従って患者に送出されている空気の圧力、体積または流量を調節する。例えば、流量がトリガーされた圧力をコントロールするデバイスは、流量が閾値レベルと交差するまで、ある一定圧力で患者に空気を送出する。そのとき、圧力は他の一定圧力に変更される。条件によっては、異なった患者は、換気装置が患者の努力を如何に素早く且つ正確に追跡するかによって、異なったレベルの不快感を経験する。呼吸が、例えば、咳、嘆息およびいびきの存在で不規則なときに、単純な閾値テストは失敗する。患者に同期した換気用の改善された方法および装置は、ファジー理論を用いて、患者の呼吸サイクルの相が流量データから決定されるという特許文献1に記述される。当該文献は、クロスリファレンスによって本願に含まれている。
【0003】
典型的な装置は、図1に示されるように、空気送出導管6によって患者インターフェース5に接続されたモータ2および撹拌翼1で構成された、サーボ3の制御送風機を含んでいる。コントローラー4は、典型的に、コンピューター、メモリを含むプロセッサーまたはプログラム可能な回路である。患者のインターフェースの1つの例は、鼻マスクである。他のものは、鼻と口のマスク、完全に顔面を覆うマスクおよび鼻のピローを含んでいる。マスクにおける圧力は、マスクと直接に接触する変換器11によって測定される。または、代わりに、変換器は、物理的に送風機メイン・ハウジング内に位置する。変換器は、相関性を用いて、マスク圧力を推定する。流量変換器10または他の流量測定手段も、マスク内に、または送風機メイン・ハウジング内に位置する。送風機ハウジング上に様々なディスプレイ8およびスイッチ7がある。装置が他のデバイスと通じることを可能にするインターフェース15がある。ある装置は、その出力が制御可能に様々に大気までガス抜されて、制御された可変圧力を患者に提供する一定速度の送風機を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO98/12965号(PCT/AU97/00631)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
「専門の」システムは知られていて、医学上診断を支援するために用いられる。かかる専門システムは、典型的に、「知識ベース」および「推論エンジン」という2つの部分を備えると言われている。知識ベースは、観測されたデータの解釈を導くのに用いられているシステムに関する「専門の」情報のセットを備える。精巧な専門システムは、知識ベースにおいて何百、または何千もの情報を含んでいる。ベルソン−ジョーンズのファジーメンバーシップ規則および重み付けは、知識ベースとして解釈される。推論エンジンは、結論に達するための実験上の証拠と知識ベースとを組み合わせるメカニズムである。いくつかの異なった推論エンジンは、ファジー理論、規則に基づいた推論およびベイズの尤度に基づいたものが知られている。
【0006】
ベイズの定理は、事前の知識が実験的な観測結果(observations)の解釈に影響を及ぼすに違いないという直観的に訴える命題を定量化する。ベイズの定理の1つの形式は、次のとおりである。

ここで、Lは尤度または確率関数である。このように、L(H|F)は、観測結果(observation)Fが与えられた場合での、仮説が真であるということの尤度である。L(H)は仮説が真であるということの尤度であり、L(F|H)は、仮説が真であることが与えられた場合での観測結果(observation)の尤度である。
【0007】
例えば、医者が患者の中に特別な徴候を観測したならば、患者が特別の疾病を有しているかどうか決定することにおいて、医者は、患者が特別の疾病を有しているという尤度を示す事前の証拠を参考にする。仮説が真であるという尤度を決定するために、いくつかの独立した観測結果(observations)は事前確率と共に用いられる。最も起こり得る仮説が決定される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、確率関数で相を決定するための方法および装置である。該方法は、呼吸サイクルを離散的な相状態に区分することを含んでいる。相状態は、吸息及び呼息を含み、好ましくは、吸息及び呼息の内での多くの追加の相状態を含むだろう。そして、各相状態の確率は確率関数を用いて計算される。好ましい実施形態では、計算は、「観測された確率」の決定L(F|H)および「事前確率」決定L(H)の関数である。計算された確率L(H|F)は、患者が経験している患者の呼吸サイクルでの実際の相を決定するために比較される。
【0009】
特別な各相状態の事前確率は、相対的な期間の関数(すなわち全呼吸サイクルの期間に対する各相状態の期間の比率)によって決定されるであろう。本発明は、等しい期間に、または不等の期間にある離散的な相状態を考えている。異なった期間のかかる相状態は、ピーク流量に関連して呼吸サイクルを部分に区分すること、または流量の変化速度を変化させることによって導き出される。さらに、計算された確率は、相状態承継、例えば、現在決定した相状態から連続的に続く相状態の尤度を増加させることに基づいて調節される。
【0010】
観測された確率決定は、観測された呼吸の特徴が与えられた場合における各相状態の尤度を推定する。本発明の好ましい実施形態では、呼吸の流量は、患者から観測されるか測定される。推定では、測定値は、その測定値と個々の潜在的な相状態の間の予め決められた尤度(例えば、流量の特別の範囲が特別の相状態と関係しているという尤度)に基づく確率関数に適用される。
【0011】
該方法は、患者の呼吸パターンまたは特徴を学習することにより、相検出の信頼度をダイナミックに改善するためにも用いられる。事前確率を調節するために前に計算された相状態確率を利用することによって、次に計算された相状態確率は、相決定におけるより高い患者の特定精度を提供する。さらに、前に記録された呼吸データは、相状態の区分を修正するか、または、観測された呼吸の特徴と、観測結果(observation)に基づいた(given)各相状態の尤度との関係を修正するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明での使用に適している先行技術の換気装置を図示する。
【図2】本発明に係る方法のステップのフローチャートである。
【図3】等価な相状態期間に基づいた相分類を図示する。
【図4】ピーク流量に基づいた相分類を図示する。
【図5】特定の相状態の確率を決定するのに有用な1セットの観測結果(observations)を備えた相分類を示す。
【図6】1分という時間にわたる人に関する流量対時間データを示す。
【図7】10秒という時間にわたる人に関する流量対時間データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、条件付き確率の推定のためにベイズの定理またはある同様の定式を用いて、流量および流量変化速度の情報に基づいて最も起こり得る相が決定される患者に同期した改善された換気に関する方法及び装置を提供する。図2に示されるような特定ステップ20において、本発明によれば、呼吸サイクルは、多くの離散的な相状態(例えば、吸息の前期、吸息の中期および吸息の後期、呼息の前期、呼息の中期および呼息の後期、休止、嘆息、咳)に分けられるか区分される。本発明に係る方法及び装置が用いられているときに、流量及び圧力の観測結果(observations)は、測定ステップ22において連続的に及び各時間ポイントでなされる。算出ステップ24では、確率または尤度が決定される。各相状態に対応する相の尤度は、好ましくは、式1で示されるベイズの定理を用いて決定される。例えば、6つの相状態を識別するシステムでは、式1を用いて各離散的な相状態に対して6つの計算がなされるだろう。この推定は、特定の相状態の各々の事前尤度L(H)の推定を含んでいる。しかしながら、これらは、使用前に決定される及び/または使用の間に調節されることでもよい。流量及び流量と変化速度の観測結果(observations)に基づいて(given)に生じる離散的な呼吸状態の尤度L(H|F)も決定される。これらの推定の後に、決定ステップ26では、最も起こり得る相状態に対応した相(例えば最も高い確率または尤度を備えた相計算)に患者の相が決定される。そして、換気同期を改善するために患者に送出されている空気の流量、体積または圧力を調節するために、この情報が装置に使用される。
【0014】
各相状態の事前尤度または事前確率L(H)は、相状態の定義およびその相対的な期間に依存する。かかる決定は、呼吸サイクルの期間に対する相状態の期間の比率によってなされる。各相状態は必ずしも同じ期間を有してはいない。単純なシステムは、呼吸サイクルを吸息及び呼息という2つの状態に分けるであろう。代わりに、吸息または呼息内の多くの相状態は、システムによって分類される。呼吸サイクルがシヌソイドの流量対時間曲線に導いたならば、等しい一時的なサブセクションにサイクルを分けて、相状態として各サブセクションを決めることは適切である。その場合には、各相状態は演繹的に等しく起こり得るであろう。例えば、次に、仮説の呼吸サイクルの時間が6秒であり、システムが6つの相状態を識別するならば、各相状態の時間が1秒である。最初の1秒が「吸息の前期」であり、次の2秒が「吸息の中期」である。このモデルでは、異なった相状態は同じ事前尤度を有するであろう。このように、図3に示されているように、各相状態の尤度L(H)は、以下のように1/6である。
L(H前期_吸息)=1/6
L(H中期_吸息)=1/6
L(H後期_吸息)=1/6
L(H前期_呼息)=1/6
L(H中期_呼息)=1/6
L(H後期_呼息)=1/6
【0015】
相状態の数を増加させることは、呼吸の状態の変化を追跡するためのシステムの潜在的な精度を増加させる。しかし、これは計算コストが高くなる。異なった期間の相状態を有することは、計算効率が良いであろう。呼吸の1つのモデルでは、相状態は流量の大きさに基づいて選ばれるであろう。例えば0からピーク流量の1/6までの前期の流量は「吸息の前期」と呼ばれる。かかるシステムでは、例えば図4に示されたように、典型的な患者流量に対する呼吸サイクルに基づいて、L(H前期_吸息)が4/48である。ここで、ピーク流量範囲および流れサイクルの切片(遮断)として示されているように、4がおおよそ相状態の期間であり、48がおおよそ全サイクルの期間である。同様に、ピーク流量の5/6〜6/6に決定された吸息の中期の相状態は、11/48に等しい尤度L(H中期_吸息)を有する。図4は、また9/48に等しいL(H中期_呼息)を持った呼息の中期の相状態を示す。残りの相状態は、同様の方法で決定される。
【0016】
呼吸の他のモデルでは、流量の変化の速度は、呼吸サイクルを分けるための基礎として選ばれる。このように、変化の速度がその前期ステージでの呼吸の変化の速度を分類するのに適切な範囲にある流量によって、吸息の前期の相状態は特徴づけられる。例えばグラフを用いると、全サイクルの期間で割られた変化範囲のその特別な速度での呼吸サイクルの離散的な部分の期間は、特別の相状態の事前確率L(H)を生み出すことができる。流量の変化の速度に基づいて呼吸サイクルを分けることの利点は、それである流量がより素早く変わるところでの呼吸サイクルのそれらの部分は、それらに割り当てられたより多くの呼吸の相状態を有するであろう。これらの後の2つのモデルでは、異なった相状態は異なった事前の尤度を有するであろう。
【0017】
本発明の1つの形態において、相状態の数およびそれらの定義は、呼吸データに依存して適応して改良される。例えば、流量速度が素早く変わっているところで、本発明に係る装置は、その領域を画定するためにより多くの相状態を有していることが好ましいことを決めることができる。
【0018】
患者が咳よりもしばしば呼吸を行うので、数夜にわたる患者の呼吸データの観測結果(observation)は、咳が演繹的に呼吸よりも起こりにくいという結論に導く。多くの浅い呼吸に続いて深呼吸が起りやすいことも観測されるだろう。患者は、レム睡眠のような睡眠の間に多くの異なったステージを経験することが知られている。それらの呼吸の性質は、睡眠の異なったステージに依存して、変わることができる。従って、異なったタイプの呼吸は、睡眠のステージに依存して、演繹的により起こり得る。特別の患者が特有の呼吸を示す程度について、システムは、本願に記載されるように、これらの特徴を学習し、かつ、患者に合う異なった相状態の事前の尤度を調節する能力を有している。
【0019】
観測された確率関数L(F|H)を決める目的のための離散的セットのj個の観測結果(observations)が、流量信号のために画定される。同様に、流量の微分についての離散的1セットの観測結果(observations)が画定される。関数は、患者の呼吸の特徴の変更の結果、あらかじめ定められるか変更される。流れまたは流れの微分に対する値の範囲を離散的な下位範囲に分けて、次に、各相状態とそれらの下位範囲とを比較し、典型的または前に観測された呼吸の流量カーブの関係に基づいた確率をその下位範囲で算定することにより関数が画定される。例えば、流量信号は、−200リッター/分から+200リッター/分までの範囲である。これは、−200〜−50、−50〜0、0〜50、50〜200リッター/分という下位範囲に分けられる。流量信号におけるノイズは、流量信号が分けられる最も小さな区分を画定する(つまり、ノイズレベルが2リッター/分であるならば、流量信号の全範囲を1リッター/分の区分に分けることは、意味がない)。観測表1と標示された次の表は、様々な仮説が真であることに基づいて(given)、6つの相状態を識別するシステムに対してなされている観測結果(observations)の尤度の例を与える。この例において、大きな正の流量信号が呼息の中期の相で観測されるという低い尤度がある。
観測表1

【0020】
尤度又は確率を記述するために、観測表1が、「低い」、「中程度」及び「高い」という用語を含んでいるが、実際の計算において、これらの用語は、低いに対して0〜33パーセント、中程度に対して33〜66パーセント、および高いに対して66〜100パーセントの範囲内で定量化される。さらに、これらの確率は3つのレベルに制限される必要はない。一般に、相状態の境界での変化は、患者が所与の呼吸の相状態にあるという仮説が真であることに基づいて(given)、各々の観測結果(observation)の尤度における変化に導く。その代わりに、確率は、画定された連続的な尤度密度関数から決定される。
【0021】
図5は、9つの相状態(ローマ数字で示される)へ細分される試料呼吸データを示す。相状態「i」、「ii」および「v」が、相状態「iii」および「vi」と比較して、比較的短いことに注意すること。従って、他のすべてが等しいが、相状態「iii」および「vi」は、相状態「i」、「ii」および「v」より比較的大きな事前の尤度を有している。図5は、観測結果(observations)が相状態の分類に関係するので、1セットの流量観測結果(大きく正から大きく負まで)を図示する。観測された確率L(F|H)は、このグラフから決定される。例えば、80〜100(大きく正)の範囲における流れの遮断または観測結果(observation)は、相状態iiiに対して高い確率を示すが、相状態i、v、vi、vii、viii、ixに対して低い確率を示すであろう。これらの場合が大きく正の観測結果(observation)の境界にあるとき、相状態iiおよびivは、低い尤度から中程度の尤度を有する。
【0022】
次の仮説の例において、相の確率または尤度の計算は、L(H)の決定の際に図3の6つの単純化された分類システムと、L(F|H)の決定のための観測表1とを利用する本発明に従って実証される。結果は以下のとおりである。
観測された事実F:
流量信号からの測定された流量が150である。
そのとき、F=F大きく_正

仮説の尤度L(H):
L(H前期_吸息)=1/6=0.167
L(H中期_吸息)=1/6=0.167
L(H後期_吸息)=1/6=0.167
L(H前期_呼息)=1/6=0.167
L(H中期_呼息)=1/6=0.167
L(H後期_呼息)=1/6=0.167

仮説のもとでの観測結果(observation)の尤度L(H|F
L(F大きく_正|H前期_吸息)=0.25(0.25=低いを仮定して)
L(F大きく_正|H中期_吸息)=0.75(0.75=高いを仮定して)
L(F大きく_正|H後期_吸息)=0.25
L(F大きく_正|H前期_呼息)=0.25
L(F大きく_正|H中期_呼息)=0.25
L(F大きく_正|H後期_呼息)=0.25

ベイズの定理の計算:
L(H前期_吸息|F大きく_正)=(0.25×0.167)×{0.25×0.167+5×(0.167×0.25)}−1=0.125
L(H中期_吸息|F大きく_正)=(0.75×0.167)×{0.25×0.167+5×(0.167×0.25)}−1=0.375
L(H後期_吸息|F大きく_正)=(0.25×0.167)×{0.25×0.167+5×(0.167×0.25)}−1=0.125
L(H前期_呼息|F大きく_正)=(0.25×0.167)×{0.25×0.167+5×(0.167×0.25)}−1=0.125
L(H中期_呼息|F大きく_正)=(0.25×0.167)×{0.25×0.167+5×(0.167×0.25)}−1=0.125
L(H後期_呼息|F大きく_正)=(0.25×0.167)×{0.25×0.167+5×(0.167×0.25)}−1=0.125
最も蓋然的の高い相を見つけるために計算された確率L(H|F)を比較することによって、この単純化された例において、相が吸息の前期であることは明白である。この決定で、換気の支援を提供するシステムは、例えば、決定した相の特別な相状態に関係した圧力利得の調節により、支援を自動的に調節して患者の相を適合させる。さらに、相に対する確率L(H)は、計算後に修正されて、L(H|F)の関数によって決定された相尤度L(H|F)と等しいか近似するまでL(H)を調節することにより、後の決定を改善する。さらに、観測結果(observations)の各々の尤度L(F|H)は、事前の呼吸サイクルを表わす記録された呼吸データまたは事前の呼吸サイクルの幾つかの平均に基づいて更新される。
【0023】
本発明によれば、図1に示されたような換気装置のプロセッサーは、次の好ましい方法を達成するアルゴリズムでプログラムされている。
I. 第一の時定数で下記のことを繰り返すこと。
(a) 各相状態に対して事前の尤度L(H)を更新すること。
(b) 各相状態のもとでの各観測結果(observation)の尤度L(F|H)を更新すること。
II. 第二の時定数で下記のことを繰り返すこと。
(a) 流量を測定し、流量の変化の速度を決定すること。
(b) ベイズの定理を用いて、各相状態に対する尤度L(H|F)を計算すること。
(c) 相は最も蓋然性の高い相状態にあると決定される。
【0024】
第一の時定数は、いくつかの典型的な呼吸とほぼ同程度である。それは、例えば10〜15秒である。第2の時定数は、より短くて、例えば、典型的な呼吸の時間の1/20、すなわち数百ミリ秒である。
【0025】
1つの形態において、本発明に係る装置は、患者がくつろいだ環境でマスクを着用できるときに訓練期間を提供する。マスクでの流量および圧力が、モニターされる。また、デバイスは、患者の呼吸のパターンの特徴のうちのいくつかを学習する機会を有している。この期間に、システムの各相状態の尤度P(H)およびP(F|H)に関する関数への調整が、L(H|F)および観測された呼吸データを用いてなされ、及び/又は、相状態の区分が変わる。患者が寝入ったときに、患者の呼吸の特徴は変わるであろう。しかし、装置は、睡眠状態への推移をモニターし、睡眠状態に対する蓋然性の高いパラメーターを推定することができる。
【0026】
患者の呼吸の流量は、一般にシヌソイドであるのでモデル化することができるが、実際には、データはもっと複雑である。例えば、図6および7は、人からの流量データが、それぞれ、1分及び10秒にわたっていることを示す。データは、ノイズ、人為現象、ドリフト、嘆息、咳および他の出来事の存在でさらに複雑になる。小さな絶対値の流量の存在の間に、流量データに対する心拍動(いわゆる「心臓性の影響」)の影響が特定される。これらの複雑さ(それらは「非理想」と呼ばれる)は、単純な自動システムが不正確に相を決定することを意味する。
【0027】
例えば図7を参照すると、閾値だけに基づいたシステムは、患者がおよそ2秒で吸息相に動かされ、そして短時間(例えば100ミリ秒)が経過した後に呼気相に移っており、吸息相にもう一度切り替えられるということになる。単純化された自動システムでは、かかる呼吸は、呼吸サイクルの長さおよび吸い込まれたまたは吐き出された空気の体積の計算を複雑にする。従って、複雑な流量データから患者の呼吸サイクルの相を正確に決定することができる方法および装置の必要性が存在する。患者の相を決定するときに非理想の流量で混乱しそうにない方法および装置の必要性が存在する。
【0028】
流量データにおける非理想に対処する問題の解決策の1つのアプローチは、例えば測定ステップ22においてデータをローパスフィルタ処理することによってデータを滑らかにすることである。ローパスフィルタ処理は、フィルタの時定数によって特徴づけられる。小さな時定数は、平滑化の量が小さいものの、システムがより素早く応答することができることを意味する。より大きな時定数は、データがより滑らかであるものの、システムが素早く応答しないことを意味する。非常に大きな時定数(本質的に長時間平均)は、相情報をすべて除去する。従って、データが滑らかであるならば、適切な時定数を選ぶ必要性がある。更に、何が適切な時定数であるかを患者の流量データから学習する利点がシステムに存する。必要ならば、かかるシステムは時定数をダイナミックに更新することができる。
【0029】
ノイズの多いデータの微分の決定は、特に問題である。微分を計算するためのアルゴリズムは、データが分析される時間に依存して、非常に異なった結果を与える。例えば図7を参照すると、2秒から2.1秒までの領域でのデータの微分を計算したアルゴリズムは、負の値を与える。その一方で、2秒から2.5秒までの領域での微分を計算したアルゴリズムは、0に近い値を与える。変わり目は、曲線の傾斜が正と負との間で変化するところ、すなわち、2次微分が0であるところの曲線の一部分である。同様に、呼吸サイクルでの終端(すなわち呼息の後、および吸息の前)でのデータは、心臓性の流量の存在のために特に非理想である。その結果、呼吸サイクルの終端で流量の微分を決定するための計算は、問題であり、間違いを起こしやすい。
【0030】
この問題を克服するために、本発明に係る相決定用のアルゴリズムは、患者が呼吸サイクル(例えば、流量データの絶対値が小さいならば、ピーク吸息およびピーク呼息を識別する)の終端近くにいるかどうかをまず決める。患者が呼吸サイクルの終端近くにいるかもしれないならば、異なった時定数が、微分を計算するためにデータの平滑ステップに適用される。好ましい実施形態では、時定数は、吸息の前期〜吸息の後期、および呼息の前期〜呼息の後期のような他の領域よりも、呼吸の流量カーブの終端の近くの領域でさらに長くなる。更に、本発明に係るアルゴリズムでは、患者の呼吸サイクルの相の決定における微分の影響は、微分計算が間違いを起こしやすい領域(呼吸サイクルの終端、ピーク吸息およびピーク呼息の1つ以上のようなところ)でより少ない重み付けを与える。更に、本発明の実施形態に係るアルゴリズムでは、呼吸サイクルの終端での流量の微分の演繹的な尤度関数は、流量の小さな値またはゼロの値で最大を有し、微分の大きな値で最小を有する。言いかえれば、本発明の実施形態に係るアルゴリズムにおいて、この領域で、微分の小さな値は、微分の大きな値より高い尤度を有している。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、12ビットの流量データは、50Hzで収集される。そのデータは、160ミリ秒の時定数でローパスフィルタ処理される。
【0032】
前に記載したように、相がいくつかの相状態へ分けられるシステムでは、本発明の実施形態に係るアルゴリズムは、患者がそれらの相状態(例えば最大の確率または尤度を持った相状態)のうちの1つに存することを決める。代わりに、アルゴリズムは、高い尤度を持った2つの隣接した相状態間に相があることを決める。例えば、尤度の相対的なサイズに従って重み付けすることにより、最も高い尤度を持った2つの相状態の1つに相が近いことをアルゴリズムは決める。従って、1つの相状態が95%で起こりそうであり、他の相状態が70%で起こりそうな場合、相は、95%で起こりそうな相状態に近いように決定されるだろう。この点では、相は連続変数として決定される。例えば、決定された相状態に依存するか、2つの最も起こり得る相状態間の近隣に依存して、相が0〜1で変化する。その代わりにまたはさらに、相は、極座標を用いて表示され、0〜360度、または0〜2πラジアンで変化する。
【0033】
かかる決定を図示するために、相φが連続変数として計算される。N個の相状態Sの一連の事後確率Pからこれを推定する1つの方法は、各相状態を標準相φs,i及び重み付けWに関連させることである。そして、

としてφを計算すること。
他のアプローチは、連続的でランダムな変数の形でベイズの定理の公式を用いることである。それは次の事後の密度関数(患者に関して利用可能な情報が瞬間の呼吸の流量qであることを仮説する)を生じる。

そして、φの推定値は、患者流量の観測値qに基づいて(given)事後の密度を最大にする値である(これはローカルかグローバルな最大値である)。実際、事後の密度を計算するために用いられる事前の条件付きの密度は、恐らく、区分上一次または三次のスプライン関数のような連続の内挿(補間)関数を用いることにより、離散的なデータから推定される。事後の密度関数は、(恐らく区分上)分析的にまたは数値方式によって計算されるし、φ及びqの連続関数であるように事後の密度関数を生じる。事後の密度が連続関数であるならば、流量qが時間の連続関数であるので、推定された相φが時間の連続関数であることになる。
【0034】
かかる連続相変数は、換気支援圧力を調節するために用いられる。例えば、患者に送出された圧力が相の連続関数Πに基づくならば、
P=Pmin+AΠ(φ)
ここで、Pmin及びAは、定数またはゆっくりと変化する量である。相が時間の連続関数であることの重要な結果は、圧力が時間の連続関数であるということである。例えば、それは気道に送出された圧力の突然の変化に関係する不快さを回避するために望ましい。
【0035】
もちろん、離散的な相状態の数が増加すると、相の表示は離散的な関数ではなく、連続的な関数と見なされる。これは、決定した相状態から連続相変数のさらなる計算の必要性を緩和する。この点に関して、6つの相状態および9つの相状態は、先の実施形態の中で特定されたが、例として、相は、128個の相状態または256個の相状態にも分けられる。
【0036】
本発明の実施形態に係るアルゴリズムでは、相決定は他の相の関連した尤度によって増強される。例えば、連続した相状態は、連続しない相よりも起こり得る。このように、相決定は、現在の相状態が前に決定した相状態から次の連続した相状態であるという尤度に部分的に基づく。かかるプロセスを図示するために、現在の相状態が吸息の前期であることを決定されていると仮説することである。次の相状態が吸息の中期であるならば、吸息の中期は、吸息の後期または呼気性の相状態のような連続しない相状態よりも演繹的に起こり得る。従って、相がサイクルを通じて進行するとき、演繹的な尤度は、例えば、次の連続する相状態の計算された確率を増加させることにより、それらの連続する相状態に従って調節される。このことは、本発明の実施形態に係るアルゴリズムは、連続しない相状態が現在の相状態に従うが、単にかかる決定をしそうであることを決定することができないと言っているのではない。本発明の実施形態に係るアルゴリズムにおいて、相の「循環」(アルゴリズムが2つの相状態間を行ったり来たりすること)は、それほど起こりそうには無い。
【0037】
本発明は、特別の実施形態について記載したが、これらの実施形態は、本発明の原理の適用の単なる例示であることは、理解されるであろう。このように、本発明の例示した実施形態で多数の修正がなされ、また、本発明の精神および範囲から逸脱することなく他の配置が考え出されることは、理解されるであろう。
【0038】
本出願は、2001年5月23日に出願された米国の仮特許出願60/292,983号の優先出願日を主張する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者がそれぞれの可能性のある相状態にある確率に基づいて、患者に換気支援を提供するための装置であって、
呼吸サイクルが一連の規定された相状態から構成されており、
規定された相状態のそれぞれは、開始の流れ及び終了の流れを有し、
前記装置は、
患者の気道に呼吸可能なガスの制御された供給を提供するための手段と、
患者の気流を測定するための手段と、
患者の可能性のある相状態のそれぞれに対して、患者が当該相状態にある確率と、患者が当該相状態にあるときに測定された気流が流れる確率との積を決定する決定ステップと、
患者の気流を測定し、前記測定された気流と規定された相状態とに従って相状態を特定し、前記測定された気流に従って前記規定された相状態の開始の流れ及び終了の流れを更新する更新ステップと、
前記特定された相状態に基づいて、患者の気道に供給される呼吸可能なガスの供給を制御する制御ステップと、を実行するためのプログラムされた命令を備えた制御手段と、
を備える装置。
【請求項2】
前記呼吸可能なガスの制御された供給を提供するための手段は換気装置を含み、前記患者の呼吸を表す気流信号を生成するための手段は圧力変換器である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記確率は、全呼吸サイクルの期間に対する各相状態の期間の比に基づいて、決定される、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記確率は、全呼吸サイクルの期間に対する各相状態の期間の比に基づいて決定され、すでに決定された確率に応じて決定される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記確率を決定する決定ステップは、ベイズの定理の関数として事前確率および観測された確率の推定を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記確率を決定する決定ステップは、状態の連続性に基づいて確率を調節することを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
患者がそれぞれの可能性のある相状態にある確率に基づいて、患者に換気支援を提供するための装置であって、
各相状態は、呼吸サイクルの一部であり、
前記装置は、
患者の気道に呼吸可能なガスの制御された供給を提供するための手段と、
患者における気流を測定するための手段と、
患者の可能性のある相状態のそれぞれに対して、患者が当該相状態にある確率を決定する決定ステップと、
患者が当該相状態にある確率と、患者の前の相状態と、測定された気流と、に基づいて患者の現在の相状態を特定する特定ステップと、
前記特定された現在の相状態に基づいて、患者の気道に供給される呼吸可能なガスの供給を制御する制御ステップと、を実行するためのプログラムされた命令を備えた制御手段と、
を備える装置。
【請求項8】
前記呼吸可能なガスの制御された供給を提供するための手段は換気装置を含み、前記患者の呼吸を表す気流信号を生成するための手段は圧力変換器である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記確率は、全呼吸サイクルの期間に対する各相状態の期間の比に基づいて、決定される、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記確率は、全呼吸サイクルの期間に対する各相状態の期間の比に基づいて決定され、すでに決定された確率に応じて決定される、請求項7に記載の装置。
【請求項11】
前記確率を決定する決定ステップは、ベイズの定理の関数として事前確率および観測された確率の推定を含む、請求項7に記載の装置。
【請求項12】
前記確率を決定する決定ステップは、状態の連続性に基づいて確率を調節することを含む、請求項7に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−207621(P2010−207621A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−137469(P2010−137469)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【分割の表示】特願2009−92098(P2009−92098)の分割
【原出願日】平成14年5月22日(2002.5.22)
【出願人】(500046450)レスメド・リミテッド (192)
【氏名又は名称原語表記】RESMED LTD