説明

患者用寝巻パンツ

【課題】本発明では、患者が患者用寝巻パンツを着用したままでも、ドレーンの屈曲による閉塞をなくし、胸腔、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出を円滑に行うことができる患者用寝巻パンツを提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題解決をするために、腰部のサイズを調整する調整手段を設けた患者用寝巻パンツであって、脇線から正中線に向けて腰幅長さの略15%の位置に、腰部から裾部に向けて設けられたスリットと、前記スリットによって分離された前面部と後面部とのそれぞれに設けられ、分離された前記前面部と前記後面部とを係止可能にするボタン部材とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者用寝巻パンツに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、着脱が容易にできるように、パンツの一部が開閉できるものが知られている。図5を参照して、特許文献1において、ズボン101と上着とからなる患者用寝巻であって、前記ズボン101のウェスト部102が伸縮可能なバンドによって構成され、このウェスト部102の少なくとも一部に不連続部103が形成されているとともに、この不連続部103に面ファスナ106が設けられて接離可能となされ、また、前記不連続部103から下方へ向かい、かつ、少なくとも股上部107の全長に亙る切り込み104が形成され、この切り込み104にスライドファスナ105が取り付けられていることにより、前記股上部107が大きく開放可能に構成されていることを特徴とする患者用寝巻が知られている。
【0003】
また、図6を参照して、特許文献2において、トランクス本体201の両前身頃202Bの中央をウエスト部より脚部にかけ切り開き、開口部にボタン203と面ファスナー204を設けて、止めることが出来るようにした介護用下着の開閉式トランクスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録3042632号
【特許文献2】特開2000−17501号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
外科手術に関連して、胸腔、腹腔等に管状器材(以下、ドレーンと言う)を挿入して、体腔内に貯留した血液や膿等を体外に誘導し排出する処置が行われる場合がある。
【0006】
上記の処置を受けた場合、従来の患者用寝巻パンツによれば、ドレーンが、着用した患者用寝巻パンツにより圧迫されたり患者が動いた時に屈曲することがある。ドレーンが屈曲により閉塞すると、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出が阻害され患者が合併症を引き起こしたり、創傷治癒が妨げられる問題があった。
【0007】
また、上記事情を回避するために、ドレーン挿入部において、患者用寝巻パンツをずらしておく必要があり、患者に不快感を与える問題があった。
【0008】
本発明では、患者が患者用寝巻パンツを着用したままでも、ドレーンの屈曲による閉塞をなくし、胸腔、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出を円滑に行うことができる患者用寝巻パンツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決をするために、腰部のサイズを調整する調整手段を設けた患者用寝巻パンツであって、脇線から正中線に向けて腰幅長さの略15%の位置に、腰部から裾部に向けて設けられたスリットと、前記スリットによって分離された前面部と後面部とのそれぞれに設けられ、分離された前記前面部と前記後面部とを係止可能にするボタン部材とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、患者が患者用寝巻パンツを着用したままでも、ドレーンの屈曲による閉塞をなくし、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本願発明に係る患者用寝巻パンツのスリットを開放した図である。
【図2】同患者用寝巻パンツの全体正面図である。
【図3】患者の仰臥位腹部におけるドレーン挿入部位を示す図である。
【図4】同患者用寝巻パンツ患者が着用時の、胴体短手方向断面の拡大図である。
【図5】従来例の、患者用寝巻の要部を表す正面図である。
【図6】別の従来例の、介護用下着の開閉式トランクスの全体正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本願の実施形態を図面を参照しながら説明する。なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0013】
図1及び図2を参照して、患者用寝巻パンツ1を説明する。図1は患者用寝巻パンツ1のスリット5を開放した図であり、図2は患者用寝巻パンツ1の全体正面図である。患者用寝巻パンツ1は、前面部2、後面部3、調整部材4、ボタン部材6を備える。前面部2と後面部3とは、内股部分で縫製され結合しており、外股部分で前面部2及び後面部3の双方に設けられたボタン部材6により係止され、患者用寝巻パンツ1の基本部分を構成する。ボタン部材6は、略脇線8部分における、前面部2及び後面部3それぞれに腰部7から裾部9方向に沿って、患者用寝巻パンツ1の長手方向と略平行に設けられている。ボタン部材6の係止または係止解除により前面部2と後面部3とが分離し、この部分がスリット5になる。調整部材4は、腰部7の患者胴体部短手方向に設けられており、紐部材40等を併用して設けてもよい。
【0014】
図2を参照する。前面部2のボタン部材6(図1参照)と、後面部3のボタン部材6(図1参照)とを係止して、前面部2を上にして展開した状態において、患者胴体短手方向の腰部7の幅を腰幅11と言うことにし、腰幅11の中点から、患者胴体長手方向へ伸ばした垂線を正中線10と言うことにする。
【0015】
スリット5は、正中線10側の前面部2が脇線8側の後面部3に上方から重なって、ボタン部材6により係止され閉鎖状態となる。一方、スリット5は、前面部2及び後面部3に設けられたボタン部材6の係止解除により、開放状態となる。つまり、後面部3と係止解除された前面部2は、正中線10を対称軸としてはだけるようになっている。患者用寝巻パンツ1は、スリット5を完全に又は一部、閉鎖した状態で使用される。なお、図2のように、スリット5は、腰部7から裾部9まで設けられているが、腰部7から膝部19まで設けた構成としてもよい。
【0016】
ボタン部材6同士の間に、胸腔、腹腔等に挿入した体腔内に貯留した血液や膿を体外に排出するドレーン17を通すことができる。ボタン部材6同士の間隔は、ドレーン17を通すことができ、同時に固定することができる間隔であれば良い。一般的なドレーン17の外径は0.8cm〜1.0cmであるので、ボタン部材6同士の間隔は、具体的には2cm以上6cm以下であればよく、更には2cm以上4cm以下が好適である。
【0017】
図3は、患者仰臥位腹部におけるドレーン挿入部位を示す図である。図3を参照して、患者13の腹腔等にドレーンが挿入される位置を説明する。患者正中線14から、患者正中線14―腰部末端15間隔の2/3の部位には、腹壁動静脈が走行するため、この範囲にドレーン17(図4参照)が挿入されることはほとんどない。つまり、腰部末端15から、患者正中線14―腰部末端15間隔の1/3の長さの範囲内(図3斜線部)にドレーン17は挿入される。該部分を、ドレーン挿入部位16と言うことにする。ドレーン挿入部位16において、ドレーン17は体表面から略脊椎18(図4参照)方向へと挿入される。
【0018】
図4は、患者用寝巻パンツ1を患者が着用時の、胴体短手方向断面の拡大図である。図3及び図4を参照して、体型に応じたサイズの患者用寝巻パンツ1は患者の体にフィットしているので、患者用寝巻パンツ1と患者13の体の該当部分とは、略相似関係にある。つまり、患者用寝巻パンツ1の、脇線8、正中線10、及び腰幅11の位置関係は、患者13の、腰部末端15、患者正中線14、及び左右腰部末端15間隔(患者正中線14−腰部末端15間隔の2倍に相当)の位置関係に、対応する。
【0019】
従って、患者用寝巻パンツ1のスリット5が設けられる位置である、脇線8から正中線10に向けて腰幅11長さの15%の位置は、ドレーン17の挿入位置である、腰部末端15から患者正中線14―腰部末端15間隔の1/3の長さの位置、言い換えると、左右腰部末端15間隔(患者正中線14−腰部末端15間隔の2倍に相当)の1/6(約16%)の長さの位置、に略対応すると言える。
【0020】
上述したように、スリット5を閉じた状態では、正中線10側の前面部2が、脇線8側の後面部3に上方から重なっている。下腹部に挿入されたドレーン17は、体内への挿入部から患者正中線14方向へ一端延出し、その後前面部2と後面部3とを係止するボタン部材6(図1参照)同士の間から、側臥位方向または下半身方向に延出する。つまり、図4に示されたように、ドレーン17の挿入部位は、緩やかな曲線形状になり屈曲がないので、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出を円滑に行うことができる。
【0021】
言い換えると、患者用寝巻パンツ1からドレーン17を取り出す際には、体表面と患者用寝巻パンツ1との間で、一度取り出し方向と逆方向にドレーン17を取り回すことで、穏やかな曲線形状を可能にできる。
【0022】
従って、スリット5の位置は、ドレーン17挿入部よりも患者正中線14側にあることが必要である。ドレーン17の挿入部位は、ドレーン挿入部位16に限定されるので、スリット5が脇線8から正中線10に向けて腰幅11長さの15%の位置に設けられていれば、ドレーン17の取り回しは必然的に上記のような形状になるからである。
【0023】
具体的には、スリット5は、脇線8から正中線10に向けて腰幅11長さの15%の位置より正中線10側に、腰部7から裾部9に向けて設けられていればよい。
【0024】
好適には、スリット5は、脇線8から正中線10に向けて腰幅11長さの15%の位置に、腰部7から裾部9に向けて設けられていればよい。
【0025】
本実施形態によれば、ドレーン17が屈曲せず閉塞しないので、ドレーン内に溜まった血液や膿等が滞留しないので、合併症の誘発、及び創傷治癒の阻害をなくすことができる。
【0026】
また、ドレーン17が屈曲せず閉塞しないので、ドレーン17の患者13の挿入部位から、滞留した血液や膿などの漏出がなく、ガーゼ交換などの処置の回数を減らすことができ、医療現場の作業効率を向上することができる。
【0027】
また、ドレーン17が屈曲せず閉塞しない状態に固定されており、ドレーン17を挿入したまま患者が寝起したり、歩行しても胸腔内、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出を阻害しないので、患者の動作の自由度を大きくすることができる。
【0028】
また、ドレーン17を側腹部から出さないので、患者が側臥位になったとき、痛みがないとともに、ドレーン17が潰れて閉塞することを防止できる。
【0029】
また、胸部等の上半身にドレーン17を挿入した場合であっても、スリットの係止部材間にドレーン17を通し固定できるので、歩行時におけるドレーン17の揺動をなくし、安全に歩行でき、同時に、ドレーンの屈曲による閉塞をなくし、腹腔内等に貯留した血液や膿等の体外への排出を円滑に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、患者用寝巻パンツに関して有用である。
【符号の説明】
【0031】
1 患者用寝巻パンツ
2 前面部
3 後面部
4 調整部材
5 スリット
6 ボタン部材
7 腰部
8 脇線
9 裾部
10 正中線
11 腰幅
13 患者
14 患者正中線
15 腰部末端
16 ドレーン挿入部位
17 ドレーン
18 脊椎
19 膝部

101 ズボン
102 ウェスト部
103 不連続部
104 切り込み
105 スライドファスナ
106 面ファスナ
107 股上部

201 トランクス本体
202A 後ろ身頃
202B 前身頃
203 ボタン
204 面ファスナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腰部のサイズを調整する調整手段を設けた患者用寝巻パンツであって、
脇線から正中線に向けて腰幅長さの略15%の位置に、腰部から裾部に向けて設けられたスリットと、
前記スリットによって分離された前面部と後面部とのそれぞれに設けられ、分離された前記前面部と前記後面部とを係止可能にするボタン部材と
を備えた患者用寝巻パンツ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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