説明

患者管理薬剤投与装置

【課題】装置の熟練操作を要することなく、患者が安全に自己投与することができる患者管理液状薬投与装置を提供する。
【解決手段】往復ポンプ、ポンプと係合可能なプランジャー、及びプランジャーと係合可能な押しボタンとを含む患者管理液状薬投与装置において、ポンプの出口の閉鎖及び開放のため、押しボタンの伸長位置と押下げ位置との間の運動に連動的に応答する手段と、押しボタンをその押下げ位置に解放可能に係止するための手段と、押しボタンをその押下げ位置から解放するため、プランジャーの選択位置への移動に連動的に応答する手段とを備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に医療装置に関し、特に、鎮痛薬等の薬剤の自己投与のための患者管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
痛み、例えば、術後疼痛、又は病気もしくはけがに起因する痛みの症状の治療は、しばしば、液状の鎮痛薬及び/又は麻酔薬の、例えば一又は複数の皮下注射による患者への皮下注入及び/又は静脈内(「IV」)注入を必要とする。痛みが更に長期にわたる場合、例えば皮下注射針でカテーテルを患者の静脈内に挿入し、例えば、「IV点滴」又は調節可能な低い流量を有する電気機械式ポンプを用いて、該カテーテルを通じて薬剤を低流量で、すなわち「基礎的な」流量で連続的に注入することが好ましいかもしれない。
【0003】
慢性疼痛症状を示す多くの患者はまた、痛みのレベルが更に一層激しく感じられる周期的な症状の発現を経験し、薬剤の一時的なより速い注入速度に対するニーズを示す。これを達成するため、注入装置の流量を調整することが必要であり、これはまた、そのような注入装置の調整を果たす訓練、技能及び/又は身体能力を患者が一般に欠くので、訓練を受けた医療専門家の存在及び介入を必要とする。
【0004】
上記の点から、例えば激痛の発現時に医療専門家の介入なしに患者が薬剤を静脈内に自己投与することを可能にする「患者管理鎮痛法」すなわち「PCA」薬剤投与装置であって、操作が簡単で楽であるのみならず、使用時にフェールセーフで、すなわち、自己投与薬剤の過量の可能性を排除する薬剤投与装置に対し、多くの提案がされきた。そのようなPCA装置の例は、B. Baldwinへの米国特許第5,084,021号(特許文献1)、K. Hiejima等への米国特許第5,891,102号(特許文献2)、及び、K. Hiejima等への米国特許第6,213,981号(特許文献3)に見ることができる。
【0005】
これらの装置はすべて往復ポンプの設備を共通に有する。該ポンプにおいて、患者は、ポンプのプランジャーを押し下げることにより、ポンプの「圧縮」ストロークを手動で引き起こし、これにより、液状薬からなる正確に測ったボーラスを患者の静脈内へと絞り出す。その後、圧縮ばね及び/又は加圧薬源が、プランジャーをその初期位置に戻し、これにより、ポンプの補充すなわち「取入れ」ストロークを引き起こす。ポンプが補充する速度、従って、患者が薬剤を自己投与し得る速度は、ポンプの入口に置かれる流れレストリクターによって制限される。患者からポンプへの流体の逆流が、ポンプの出口に配置される逆止め弁によって引き起こされ得る。
【0006】
前述のPCA装置は、患者管理薬剤投与装置の上記問題点に対する一部の解決を与えるが、これらはまた、ある欠点を含む。例えば、あるPCA装置は、ポンプの圧縮ストロークの間じゅうずっと患者が連続的にプランジャーに力を及ぼすことを必要とし、これは、終了までに数秒もしくは数分さえもかかり得る。また、ある患者は、そのような長期の作業を身体的にできないかもしれない。他のPCT装置は、患者が、圧縮ストロークを引き起こすためにポンプの第1のボタンを押し下げ、次いで、取入れストロークを開始するためにポンプの第2のボタンを押すことを必要とする。取入れストロークも、圧縮ストロークの完結後に長期の時間となり得、これは、患者が、第2のボタンを何時押すかを知るためにプランジャーの位置を監視することを必要とする。すべてのPCT装置に共通の更なる欠点は、患者への気泡の投与がもしあれば患者に危険な塞栓を形成し得るので、使用前に該装置に「呼び水」をするため、すなわち、該装置内の空気を液状薬で置き換えるため、これらの装置が長時間を要すると共に、医療専門家による該装置の慎重な操作を必要とすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,084,021号明細書
【特許文献2】米国特許第5,891,102号明細書
【特許文献3】米国特許第6,213,981号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、医療分野において、患者に対し液状薬の連続注入及びボーラス注入のいずれか又は両方を施すことができるPCA装置が求められている。該PCA装置において、ボーラス量は、ポンプの圧縮ストロークを引き起こすために単一のボタンを素早く押すことにより、患者が安全に自己投与することができ、また、該装置は、その後、圧縮ストロークの完了時にポンプの取入れストロークを自動的に開始する。更に、該装置は、装置の熟練操作を要することなく、運転のために迅速に呼び水をすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によれば、患者に対し患者によって自己投与されるように、液状薬の連続的な流れ、並びに液状薬の連続する大量のボーラスの一方又は両方を可能にするPCA装置が提供される。患者は、ボタンを素早く押すことにより、薬剤の単一のボーラスを自己投与する。該ボタンは、ポンプの長期間出力ストロークを引き起こし、これにより、患者は、該出力ストローク中に連続的に該ボタンを押し下げる必要はない。また、ポンプの取入れストロークは、本装置自体によって圧縮ストロークの最後に自動的に引き起こされる。本発明の別の側面において、上記新規な装置は、熟練操作を要することなく、使用のために迅速に呼び水が差され(準備され)得る。
【0010】
本発明の例示的な好ましい一実施形態において、新規なPCA装置は細長いハウジングを備え、該ハウジングは、該ハウジングを通って延びる軸方向空洞を有し、ハウジングの底端部に往復ポンプが取り付けられる。該ポンプは、閉じた内部リザーバを形成し、また、第1壁もしくは座部と可撓性第2壁とを含む。第1壁は空洞内に固定され、また、第2壁は、空洞内において固定された第1壁に対しリザーバ充満位置とリザーバ空位置との間を軸方向に移動可能である。該ポンプは入口ポート及び出口ポートを含み、入口導管によって入口ポートは加圧された液状薬源に接続可能であり、出口ポートは、出口導管によって患者の皮下に接続可能である。両入口及び出口導管は、ハウジングの底端部外へと伸長する。好ましい一実施形態において、該装置のある選択した呼び水する(プライミング)向き(準備配向)において、該装置の迅速な呼び水のため、出口ポートが入口ポートよりも高い位置にあるように、ポンプの入口及び出口ポートは該装置上に配置される。
【0011】
クランプは、閉位置と開位置との間を移動するように空洞に回転可能に取り付けられる。閉位置は、クランプがポンプの出口導管を締め付け、これにより、該導管を通る液状薬の流れ、ポンプからの薬剤の流れを止める。開位置は、クランプが出口導管から離れ、そのため、ポンプからの薬剤の流れを許容する。クランプは、バネによってその閉位置に向かって弾性的に付勢される。
【0012】
細長いプランジャーが、隆起位置と低下位置との間の軸方向運動のため、空洞内のポンプ上方に取り入れられ、また、ポンプの上記可動壁と接触する下方端部を有する。細長い押しボタンも、伸長位置と押下げ位置との間の軸方向位置のため、空洞内のプランジャー上方に取り入れられる。該ボタンは、該ボタンをその押下げ位置に係止(ラッチ/保持)するための、該ボタンにおける戻り止めと、ボタンがその押下げ位置へと移動する際にクランプと係合してクランプをその開位置に動かすレッジとを含む。該装置の例示的な一実施形態において、上記ボタンは、その下方端部部分において軸方向内腔を含み、該内腔においてプランジャーの上方部分が相対的軸方向滑り運動のために同軸上に配置される。プランジャーとボタンとの間に圧縮ばねが軸方向に配置される。
【0013】
ハウジングの空洞に取り付けられるばねキャッチは、ボタンがその押下げ位置まで移動した際に、ボタンの戻り止めと弾性的に係合し、また、プランジャーがその低下位置へと移動した際に、プランジャー上のキャッチリリースがボタンの戻り止めからばねキャッチを切り離すまで、圧縮ばねの上方への付勢に抗してボタンをそこに保持する。
【0014】
随意的なバイパス導管が、該装置に設けられ得る。該バイパス導管は、ポンプ上流の入口導管をポンプ下流の出口導管に連結し、そのため、液状薬の連続的な流量すなわち基礎的な流量が、ポンプ又は患者の活動とは無関係に患者に投与され得る。ポンプへの液状薬の流量を調整するため、従って、患者が安全に該薬を自己投与できる流量に調整するため、オリフィスがポンプの入口導管に挿入され得る。加えて、患者への液状薬の基礎流量を調整するため、オリフィスがバイパス導管に挿入され得る。
【0015】
PCAの別の例示的な好ましい実施形態において、本装置には、取り外しできる呼び水(プライミグ)タブが設けられる。該タブは、ハウジングの側壁を通って延び、クランプとボタンのロックフィンガの両方に次のように係合する。すなわち、クランプが、ボタンの位置にかかわらず開位置に保たれ、また、ボタンが、プランジャーの位置にかかわらず押下げ位置に保たれるようにである。呼び水タブは、押しボタンをその押下げ位置に移動させ、本装置を選択した呼び水向きに置き、かつ、入口導管を加圧液状薬源に連結することにより、本装置が、迅速かつ容易に呼び水されることを可能にする。本装置に呼び水が差されて使用の準備ができた後、呼び水タブは単に取り外されて排気される。
【0016】
上記新規なPCA装置の上記の及び他の多くの特徴及び利点は、以下の本発明の詳細な説明の考慮から、特にそのような考慮が付随図面と共になされたならば、得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に従う患者管理液状薬投与装置の例示的な好ましい実施形態の正面図である。
【図2】本装置の上方及び側方斜視図である。
【図3】クランプが閉位置で出口導管と締付け係合して示される、本装置のプランジャー、往復ポンプ、クランプ及び出口導管の一部分解斜視図である。
【図4】図1の線4−4に沿う本装置の側断面図であって、ポンプの出力ストロークが開始される直前時点の本装置の構成要素の相対位置を示し、ポンプの押しボタン、プランジャー及び可動壁が、それぞれの伸長位置、隆起位置及びリザーバ充満位置で示され、かつ、本装置の呼び水タブが、本装置のハウジングの側壁の開口を通って延びて開位置のクランプを保持して示される。
【図5】ポンプの出力ストロークの途中時点での本発明の構成要素の相対位置を示す点を除き、図4と同様の本装置の側断面図であり、本装置のボタンが押下げ位置に係止されて示される。
【図6】ポンプの出力ストロークが完了した直後の本装置の構成要素の相対位置を示す点を除き、図4及び5と同様の本装置の側断面図であり、プランジャー及びポンプの可動壁が、それぞれの低下位置及びリザーバ空位置にて示され、また、本装置のボタンが伸長位置へ自動的に戻されて示される。
【図7】本装置のクランプと出口導管の一部を示すため、本装置のハウジング、ポンプ、プランジャー及びボタンの一部が取り去られた図4と同様の本装置の内部側面図であり、呼び水タブが、クランプを出口導管から離し開位置に保持して示される。
【図8】本装置から取り外された呼び水タブを示す、本装置の側面図である。
【図9】図7と同様の本装置の一部断面内部側面図であり、ボタンが押下げ位置に係止されて示され、また、クランプと係合し、かつ、クランプを出口導管から離れた開位置に保持するボタンのレッジを示すため、クランプシールドが本装置から取り去られて示される。
【図10】ボタンが取り去られて、クランプを閉位置へと付勢して出口導管と締付け係合させるばねを示す、図9と同様の本装置の内部側面図である。
【図11】A乃至Cよりなり、Aはボタンの正面図、Bはボタンの背面図、Cは図11Aの線11C−11Cに沿って示すボタンの断面図である。
【図12】A及びBよりなり、Aは呼び水タブの斜視図、Bは呼び水タブの正面図である。
【図13】A乃至Cよりなり、Aはクランプの斜視図、Bはクランプの正面図、Cはクランプの底面図である。
【図14】A及びBよりなり、Aはクランプシールドの前方斜視図、Bはクランプシールドの後方斜視図である。
【図15】図10と同様な本装置の内部側面図である。
【図16】本装置の一部分解内部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に従う患者管理液状薬投与(「PCA」)装置10の例示的な好ましい実施形態が図1の正面図に示される。装置10は、開放上端部14及び底端部16を有する細長いハウジング12と、例えば図7に示すような、ハウジング12を通って延びる軸方向空洞18とを備えている。図面に示す特定の例示的実施形態において、ハウジングは、堅牢なプラスチック材料から射出成形され、また、二つのクラムシェル側壁12A及び12Bを含み、これら側壁12A及び12Bは、該装置を通って延びる中間面に沿って例えば接着剤で共に連結される。
【0019】
図4〜6の断面図に示すように、往復ポンプ20がハウジング12の空洞18内の底端部16に取り付けられる。該ポンプは、液状薬用の閉リザーバ22を形成し、また、空洞に動かないように固定される第1壁もしくは座部24と、該固定壁に対し、リザーバ充満位置(図4参照)とリザーバ空位置(図6参照)との間を空洞内で軸方向に移動可能な第2フレキシブル(可撓性)壁26とを含む。
【0020】
ポンプ20は、入口ポート28及び出口ポート30を含む。入口導管32の一端部は入口ポートに接続され、他端部は、例えばルアーフィッティング(図示せず)を用いて加圧液状薬源(図示せず)に接続可能である。加圧液状薬源は、例えば、既知のタイプの電気機械式注入ポンプを備え得る。出口ポートは、出口導管34により患者に対し、例えば皮下注射針(図示せず)で皮下に接続可能である。好ましい一実施形態において、入口及び出口導管は、透明でフレキシブルな外科的管材料からなり、また、保護フレキシブルグロメット36を通ってハウジング12の底端部16外へ延びる。
【0021】
クランプ38は、出口導管34を締め付け(図10及び15参照)、これにより該導管を通る液体の流れを防止する閉位置と、出口導管から切り離され(図7及び9参照)、これにより、該導管を通る液体の流れを許容する開位置との間を移動するように空洞18に取り付けられる。ばね40は、クランプをその閉位置に向けて弾性的に付勢する(偏らせる)。次の点が理解されるであろう。すなわち、クランプの閉鎖はポンプ20の流出を塞ぎ、そのため、リザーバ22がポンプの入口ポート28を通って加圧液状薬を受け入れ、すなわち補充し、また、クランプの開放により、ポンプがリザーバの内容物をポンプの出口ポート30を通って放出する。
【0022】
図面に示す特定の例示的実施形態において、クランプ38はレバーアームを備え、レバーアームは、その閉位置と開位置との間の移動のためにハウジング12の側壁12Bに回転可能に取り付けられる。クランプ38はまた、くさび形ジョー42を含み、ジョー42は、側壁上の弓形アンビル44に対して出口導管34を締め付け、アンビル44上にわたって、ポンプ20の外部でかつハウジング内部にある出口導管のループ35が案内される(図15及び16参照)。クランプシールド46(図14A、14B及び16参照)は、出口導管の内部部分をアンビル上に取り込むと共に、回転運動のためにクランプを支持する役割を果たす。
【0023】
図4〜6の断面図に示すように、細長いプランジャー48は、隆起位置(図4参照)と低下位置(図6参照)との間の軸方向運動のために、ハウジング12の空洞18内のポンプ20上方に取り込まれる。プランジャーは、ポンプの可動壁26と接触する下方端部を有し、該下方端部は、その固定壁すなわち座部24の内側形状に合致する形状を有する。次の点が理解されるであろう。すなわち、クランプ38がその開位置にある場合、プランジャーに作用する下向きの力が、プランジャーを隆起位置(図4参照)から下方に移動させ、これにより、ポンプの可動壁を、その固定壁に向かって可動壁が固定壁に合致的にぴったり合うまで下方に押し(図5参照)、これにより、ポンプの出力ストロークを実行して、液状薬ボーラスをポンプのリザーバ22から患者へと放出する。更に次の点が理解されるであろう。すなわち、クランプが閉じている場合、加圧薬源は、上記のようにリザーバに新規な薬剤ボーラスを充填し始め、可動壁を固定壁から離れる方に移動させ、上述したようにプランジャを共同して持ち上げてその元の隆起位置まで戻す。
【0024】
プランジャー48は、細長い押しボタン50及び圧縮ばね52の作用で間接的に患者によって押し下げられる。押しボタン50は、伸長位置(図4及び6参照)と押下げ位置(図5)との間の軸方向運動のためにハウジング12の空洞18内のプランジャー上方に取り込まれる。圧縮ばね52は、プランジャーとボタンとの間に軸方向に配置される。図面に示す特定の例示的実施形態において、ボタンは、その下方端部を通って延びる軸方向内腔を含み、また、プランジャーの上方部分は、上記内腔内での相対的滑り軸方向運動のために該内腔内に同軸状に配置され、これにより圧縮ばねを取り込み、よりコンパクトな装置10をもたらす。
【0025】
ボタン50は、該ボタンを押下げ位置において係止(ラッチ/保持)するための戻り止め54と、クランプ38と係合し、図9に示すようにボタンがその押下げ位置まで移動する際に該クランプをその開位置まで移動させるレッジ56とを含む。図9に示すように、(断面図に示す)ボタンがその押下げ位置まで押されると、ボタンの上記レッジは、クランプのレバーアームにおける延長部58と係合し、クランプをその開位置まで回転させ、これにより、上述したようにポンプ20からの流出を可能にする。同時に、上記係止戻り止めは、空洞18内に取り付けられた弾性ばねキャッチ60とオーバーセンターラッチング係合(an over-center latching engagement)で係合し、これは、圧縮ばね52の上方への力に抗してボタンをその押下げ位置で保持する。
【0026】
ボタン50のその押下げ位置への移動はまた、プランジャー48に対して圧縮ばね52を圧縮させ(図5参照)、その結果、上述したように、ポンプ20の可動壁26に対するプランジャーの対応する下方への移動、及びポンプの対応する出力ストロークをもたらす。従って、患者によるボタンのその押下げ位置への一回の素早い押し下げは、その後のポンプの完全出力ストロークをもたらし、該ストロークは、該装置のポンプと患者との間における流動抵抗のため、一般に長時間にわたる。しかしながら、上記のようにボタンが押下げ位置で保持されるので、患者が、該ストロークの全期間にわたって連続的な力をボタンに働かせる必要がない。
【0027】
ボタン50がポンプ20の出力ストロークの終わりにその伸長位置まで自動的に戻ることを可能にするため(図6参照)、スコップ様のキャッチリリース62がプランジャー48に設けられる。キャッチリリース62は、ばねキャッチ60の端部を捕まえると共に、プランジャーがその低下位置に達した際に、該端部を、ボタンの係止戻り止め54から切り離す。ボタンがその伸長位置に戻ると、圧縮ばね52における圧縮は緩み、同時に、クランプ38が解放されてその閉位置に戻り、これにより、既述したようなポンプの取入れストロークを開始する。従って、ポンプの取入れストロークは自動的に引き起こされ、患者側には活動又は装置10の監視は全く必要ない。
【0028】
別の好ましい実施形態において、本発明のPCA装置10は、迅速かつ簡単な手順で使用のための呼び水がされ得る。図3〜5に示すように、ポンプ20のそれぞれの入口及び出口ポート28及び30は、次のように該装置に配置される。すなわち、該装置の選択された静止向きにおいて、出口ポートは、入口ポートよりも高い位置に配置され、そのため、リザーバ22内の液状薬中に気泡が少しでもあれば、該気泡は重力により出口ポートに向かって誘導される。これは、図8に示すように、出口ポートが入口ポートよりも高くなるように単に装置10をその側部から例えばテーブル上に横たえることによって成し遂げられる。図示のように、説明文「呼び水のためにこちら側を上に」が、開業医に対する支援として直立側部に適用され得る。
【0029】
図11A及び11Bに示すように、弾性ロックフィンガ64がボタン50に設けられ、また、図7及び8に示すように、取り外しできる呼び水タブ66が、ハウジング12の側壁の開口68を通って挿入される。呼び水タブ66は、ボタンの位置にかかわらずクランプがその開位置に保たれるように、また、プランジャー48の位置にかかわらずボタンがその押下げ位置に保たれるように、クランプ38とボタンのロックフィンガとの両方に係合する。この目的のため、呼び水タブはノッチ70を含み(図12A、12B参照)、ノッチ70は、クランプのくさび形ジョー42と係合し、ボタンが上方、すなわち伸長位置にある場合でさえ、図7に示すようにクランプをその開位置に保つ。この構成は、次の点で更なる利益を与える。すなわち、装置10が使用前に長期間在庫保管される場合、上記呼び水タブは、クランプが、そのような保管中、フレキシブル出口導管34に恒久的圧縮を形成することを防ぐ。
【0030】
ボタン50の弾性ロックフィンガ64は、傾斜歯72(図11A参照)を含み、傾斜歯72は、ボタンがその押下げ位置まで押し下げられると、呼び水タブ66上を滑って引っかかる。従って、プランジャーのキャッチリリース62がボタンの係止戻り止め54からばねキャッチ60を切り離すように、たとえボタンが共同でプランジャー48をその低下位置まで押しても、ボタンは、その押下げ位置に留まり、そのため、プランジャーは、それに応じてその低下位置に保たれる。上記構成は、その開位置に保たれているクランプ38と、最小寸法まで、すなわち、図6に示すようなポンプの固定壁24と可動壁22との間の狭い空間まで減じられているポンプ20のリザーバ22の体積との両方をもたらす。この構成において、ポンプは、非常に少量の液状薬のみを用いて迅速に呼び水がされ得る。
【0031】
従って、装置10の好ましい実施形態において、該装置は、所定位置に挿入された呼び水タブ66と共に製造され、保管され、かつ供給される。該装置は、次いで、1)無菌包装から該装置を取り出し、2)押しボタン50をその押下げ位置へと移動させ、3)該装置をある面上に置き、すなわち、該装置を選択した呼び水向きに保ち(「「呼び水のためにこちら側を上に」)、かつ、4)入口導管32の先端部を加圧液状薬源に接続することによる該装置の最小限の操作により、迅速に呼び水がされる。液状薬は、ポンプ20のリザーバ22の入口導管及び最小体積を素早く満たし、また、そこに少しでも空気があれば該空気をその先方へ、及び、高い出口ポート30及び出口導管34外へと押しやる。該装置が呼び水された後、呼び水タブは、単に取り外されて配置される。するとすぐに、ボタンは、その伸長位置に戻り、クランプ38は出口導管を閉じ、また、リザーバは最初の薬剤ボーラスで満ち始める。呼び水操作中、該装置を通る液状薬の流れを制御するため、既知のタイプのチュービングクランプ73(図2参照)が出口導管に設けられ得る。
【0032】
上記から分かるように、PCA装置10は、患者が、連続的な大量の液状薬ボーラスを自己投与することを可能にする。加えて、図4〜6に示すように、該装置はまた、ポンプ20におけるバイパス導管74の設置により、患者の制御から独立して、薬剤の連続的な基礎流の投与ができるように製造され得る。バイパス導管74は、ポンプの上流の入口導管32に接続される第1端部と、クランプ38の下流の出口導管34に接続される反対側の第2端部とを有する。バイパス導管74を通る液状薬の流れは、ポンプのリザーバ22を迂回し、次いで、出口導管を通って患者に直接投与される。患者への液状薬の基礎流量すなわち連続的な流量を調整するため、流れリストリクタ76、例えばガラスオリフィスがバイパス導管に設けられ得る。
【0033】
加えて又はあるいは、液状薬がポンプを満たす速度、従って、患者が連続的な薬剤ボーラスを自己投与する最大速度を調整し、これにより、薬剤ボーラスの過量の自己投与の可能性を排除するため、第2流れリストリクタ78がポンプ20の入口導管32に設けられ得る。既に当業者には自明であるように、本発明の本質及び範囲から逸脱することなく、本発明のPCA装置10の材料及び方法において多くの変形及び変更があり得る。
【0034】
例えば、該装置が患者の衣服又は寝具の物品に都合よく取り付けられ得るように、図1に示すような弾性クリップ80が装置10のハウジング12に設けられ得る。加えて、プランジャーの隆起位置(リザーバ−充満)及び低下位置(リザーバ−空)に対するプランジャーの軸方向位置がハウジングを通じて容易に目視できるように、図2に示すように、インジケータ82がプランジャー48に設けられ得ると共に、対応する窓部84が該装置のハウジング12に形成され得、該窓部を通じてインジケータを見ることができる。
【0035】
上記例に照らして、本発明の範囲は、本明細書中に記載し例示した特定の実施形態の範囲に限定されるべきではない。それら実施形態は、本質的に単なる例示にすぎないからである。むしろ、本発明の範囲は、特許請求の範囲及び各請求項の機能的均等物に対応付けられるべきである。
【符号の説明】
【0036】
10 患者管理液状薬投与(PCA)装置
12 ハウジング
18 (ハウジングの)空洞
20 往復ポンプ
22 リザーバ
24 第1壁
26 第2フレキシブル壁
28 入口ポート
30 出口ポート
32 入口導管
34 出口導管
35 (出口導管の)ループ
38 クランプ
40 ばね
42 ジョー
48 プランジャー
50 ボタン
52 圧縮ばね
54 戻り止め
56 レッジ
66 呼び水タブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復ポンプと、該ポンプと係合可能なプランジャーと、プランジャーと係合可能な押しボタンとを含むタイプの患者管理液状薬投与装置において、
前記ポンプの出口の閉鎖及び開放それぞれのため、押しボタンの伸長位置と押下げ位置との間の該押しボタンの運動に連動的に応答する手段と、
前記押しボタンをその押下げ位置に解放可能に係止するための手段と、
押しボタンをその押下げ位置から解放するため、プランジャーの選択位置への移動に連動的に応答する手段とを備えた患者管理液状薬投与装置。
【請求項2】
前記押しボタンの位置にかかわらず、前記ポンプの出口を一時的に開放状態に保つと共に、プランジャーの位置にかかわらず、押しボタンをその押下げ位置に保つための、該装置から取り外し可能な手段を更に備えた請求項1の患者管理液状薬投与装置。
【請求項3】
前記ポンプの出口は、該装置の選択された静止向きにおいて該ポンプの入口よりも高い位置に配置される請求項2の患者管理液状投与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−206579(P2011−206579A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156519(P2011−156519)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【分割の表示】特願2004−565761(P2004−565761)の分割
【原出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
【Fターム(参考)】