悪性神経膠腫におけるイソクエン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子および他の遺伝子の遺伝子変化
本発明者らは、グレードIIおよびIIIの星状細胞腫および乏突起細胞腫の大半において、ならびにこれらの比較的低悪性度の病変から発達した膠芽腫において、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)のR132残基の突然変異を見いだした。IDH1に突然変異を有しないそれらの腫瘍は往々にして、密接な関連のあるIDH2遺伝子の類似するR172残基に突然変異を有していた。これらの知見は、悪性神経膠腫の発生病理および診断にとって重要な意味を持つ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は米国政府からの資金を用いて行われた。このため、米国政府は、NIH助成金CA 43460号、CA 57345号、CA 62924号、R01CA118822号、NS20023-21号、R37CA11898-34号およびCA 121113号の規定に従い、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、癌の診断法、予後予測法、薬物スクリーニングおよび治療法の領域に関する。詳細には、これは脳腫瘍全般、および特に多型性神経膠芽腫に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
神経膠腫は、最も頻度の高い型の原発性脳腫瘍であり、世界保健機構(World Health Organization)(WHO)によって制定された組織病理学的および臨床的な基準を用いて、グレードI〜グレードIVとして分類される1。この腫瘍群にはいくつかの固有の組織像が含まれ、その中で最も頻度が高いものは星状細胞腫、乏突起細胞腫および脳室上衣腫である。グレードIの神経膠腫は、多くの場合は良性病変であると考えられ、外科的完全切除によって一般に治癒可能であり、より高悪性度の病変に進展することは、たとえあるにしても稀である2。しかし、グレードIIおよびIIIの腫瘍は、浸潤性に成長して、より高悪性度の病変へと進行する悪性腫瘍であり、それに対応して予後が不良である。グレードIVの腫瘍(多型性神経膠芽腫、GBM)は最も浸潤性の高い形態であり、予後が極めて不良である3,4。比較的低悪性度の神経膠腫を有すると以前に診断された患者に生じるものと定義される続発性GBMと、先行する既知の腫瘍を有しない原発性GBMとを、組織病理学的基準を用いて鑑別することは不可能である5,6。
【0004】
神経膠腫では、TP53、PTEN、CDKN2AおよびEGFRを含むいくつかの遺伝子が遺伝的に変化していることが知られている7-12。これらの変化は、高悪性度腫瘍の進行に伴って定まった順序で起こる傾向がある。TP53突然変異は星状細胞腫の発生における比較的早期のイベントであるように思われ、一方、PTENの欠損または突然変異およびEGFRの増幅は比較的高悪性度の腫瘍に特徴的である6,13,14。乏突起細胞腫では、多くのグレードII腫瘍で1pおよび19qのアレル欠損が起こり、一方、9p21の欠損は主としてグレードIII腫瘍に限られる15。
【0005】
膠芽腫および他の脳腫瘍について原因、識別子(identifier)および治療法を同定することは、当技術分野において引き続き必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の1つの局面によれば、ヒト対象における多型性神経膠芽腫(GBM)腫瘍を特徴決定する方法が提供される。GBM腫瘍を解析して、ヒト対象のGBM腫瘍において、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)におけるコドン132での、またはイソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(IDH2)におけるコドン172での体細胞突然変異の有無を同定する。
【0007】
本発明の別の局面として同じく提供されるのは、GBMにおいて認められるIDH1またはIDH2の突然変異形態である、R132H IDH1もしくはR132C IDH1もしくはR132S IDH1もしくはR132L IDH1もしくはR132G IDH1とは特異的に結合するが、R132 IDH1とはそうでない、単離された抗体;またはR172M IDH2、R172G IDH2もしくはR172K IDH2とは特異的に結合するが、R172とはそうでない、単離された抗体である。R132 IDH1またはR172 IDH2、すなわちIDH1またはIDH2の野生型活性部位と特異的に結合する、単離された抗体も同じく提供される。
【0008】
本発明の別の局面は、哺乳動物を免疫化する方法である。ヒト腫瘍において認められる、ヒトIDH1タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基を含むIDH1突然変異ポリペプチド、またはヒトIDH2タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基を含むIDH2突然変異ポリペプチドを、哺乳動物に投与する。この少なくとも8個の連続したアミノ酸残基は、IDH1の残基132またはIDH2の残基172である。残基132または残基172はアルギニンではない。IDH1またはIDH2突然変異ポリペプチド上には認められるが正常IDH1またはIDH2上には認められないエピトープに対して免疫反応性のある抗体および/またはT細胞が産生される。
【0009】
本発明の別の局面として同じく提供されるのは、ヒト腫瘍において認められるヒトのIDH1タンパク質またはIDH2タンパク質の少なくとも8個でありかつ200個未満である連続したアミノ酸残基を含む、IDH1またはIDH2突然変異ポリペプチドである。この少なくとも8個の連続したアミノ酸残基は、IDH1の残基132またはIDH2の残基172を含む。残基132または172はRではない。
【0010】
本発明の1つのさらなる局面は、ヒト腫瘍において認められるヒトIDH1またはヒトIDH2タンパク質のコード配列の少なくとも18個でありかつ600個未満である連続したヌクレオチド残基を含む、単離されたポリヌクレオチドである。この少なくとも18個の連続したアミノ酸残基は、IDH1のヌクレオチド394および/もしくは395、またはIDH2のヌクレオチド515(nucleotide 515 or IDH2)を含む。IDH1のヌクレオチド394および/または395は、それぞれCおよび/またはGではない。IDH2の残基515はGではない。
【0011】
本発明の別の局面は、哺乳動物を免疫化する方法である。ヒトIDH1タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基を含むIDH1ポリペプチド、またはヒトIDH2タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基を含むIDH2ポリペプチドを、哺乳動物に投与する。この少なくとも8個の連続したアミノ酸残基は、IDH1の残基132またはIDH2の残基172を含む。残基132または残基172はアルギニンである。IDH1またはIDH2ポリペプチド上に認められるエピトープに対して免疫反応性のある抗体および/またはT細胞が産生される。
【0012】
本発明の別の局面として同じく提供されるのは、ヒトのIDH1タンパク質またはIDH2タンパク質の少なくとも8個でありかつ200個未満である連続したアミノ酸残基を含むIDH1またはIDH2ポリペプチドである。この少なくとも8個の連続したアミノ酸残基は、IDH1の残基132またはIDH2の残基172を含む。残基132または172はRである。
【0013】
本発明のまた別の局面は、ヒトにおける多型性神経膠芽腫(GBM)またはGBMの微小残存病変またはGBMの分子再発(molecular relapse)を検出または診断する方法である。被験標本における遺伝子またはそれにコードされたmRNAもしくはタンパク質での体細胞突然変異を、ヒトの正常標本と比べて判定する。遺伝子は、図10、表S7に列記されたものからなる群より選択される。該ヒトは、体細胞突然変異が判定された場合、多型性神経膠芽腫、GBMの微小残存病変または分子再発を有する可能性が高いとして同定される。
【0014】
本発明のさらに別の局面は、ヒトにおける多型性神経膠芽腫を特徴決定する方法である。被験標本における少なくとも1つの遺伝子またはそれにコードされたcDNAもしくはタンパク質での体細胞突然変異をヒトの正常標本と比べて判定することにより、多型性神経膠芽腫に関するCAN遺伝子の突然変異シグネチャーを決定する。遺伝子は、図10、表S7に列記されたものからなる群より選択される。この多型性神経膠芽腫は、CAN遺伝子突然変異シグネチャーを有する、多型性神経膠芽腫腫瘍の第1群に割り当てられる。
【0015】
本発明によって提供されるもう1つの方法は、ヒトにおける多型性神経膠芽腫腫瘍を特徴決定するためのものである。被験標本における少なくとも1つの体細胞突然変異をヒトの正常標本と比べて判定することにより、多型性神経膠芽腫腫瘍におけるTP53、RB1およびPI3K/PTENからなる群より選択される突然変異した経路を同定する。この少なくとも1つの体細胞突然変異は、TP53、MDM2、MDM4、RB1、CDK4、CDKN2A、PTEN、PIK3CA、PIK3R1およびIRS1からなる群より選択される1つまたは複数の遺伝子内に存在する。この多型性神経膠芽腫は、前記経路の1つに突然変異を有する、多型性神経膠芽腫腫瘍の第1群に割り当てられる。第1群は、体細胞突然変異を有する経路内の遺伝子に関しては不均一であり、体細胞突然変異を有する経路に関しては均一である。
【0016】
同じく提供されるのは、ヒトにおける多型性神経膠芽腫またはGBMの微小残存病変またはGBMの分子再発を検出または診断するための方法である。臨床標本において、図10、表S5またはS9(SAGEの結果脳で過剰発現していた遺伝子)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する。臨床標本における1つまたは複数の遺伝子の発現を、対照ヒトまたはヒトの対照群の対応する標本における1つまたは複数の遺伝子の発現と比較する。対照と比べて発現が増大している臨床標本は、ヒトにおける多型性神経膠芽腫またはGBMの微小残存病変またはGBMの分子再発を有する可能性が高いとして同定される。
【0017】
本発明の別の局面は、多型性神経膠芽腫の負荷量をモニターするための方法である。臨床標本における発現を、図10、表S5またはS9(SAGEの結果脳で過剰発現していた遺伝子)に列記された1つまたは複数の遺伝子について測定する。測定段階を1回または複数回繰り返す。経時的に増大した、低下した、または安定な発現レベルを同定する。
【0018】
本発明のさらに別の局面は、多型性神経膠芽腫の負荷量をモニターするための方法である。臨床標本での体細胞突然変異を、図10、表S7に列記された1つまたは複数の遺伝子について判定する。判定段階を1回または複数回繰り返す。経時的に増大した、低下した、または安定な前記体細胞突然変異レベルを同定する。
【0019】
本発明のまた別の局面は、多型性神経膠芽腫を検出または診断するための方法に関する。臨床標本における、図10、表S6(ホモ接合性欠失)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する。臨床標本における1つまたは複数の遺伝子の発現を、対照ヒトまたはヒトの対照群の対応する標本における1つまたは複数の遺伝子の発現と比較する。対照と比べて発現が低下している臨床標本は、多型性神経膠芽腫を有する可能性が高いとして同定される。
【0020】
本発明の1つのさらなる局面は、多型性神経膠芽腫の負荷量をモニターする方法である。臨床標本における、図10、表S6(ホモ接合性欠失)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する。測定段階を1回または複数回繰り返す。経時的に増大した、低下した、または安定な発現レベルを同定する。
【0021】
本明細書を読めば当業者には明らかであると考えられるこれらの態様および他の態様は、GBMの解析、検出、層別化および治療のための新たなツールを当技術分野に提供するものである。
【0022】
配列表は本出願の一部である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】IDH1における配列変化。IDH1遺伝子のコドン132での体細胞突然変異の代表例である。一番上の配列クロマトグラムは正常組織由来のDNAの解析から得たものであり、下の方のクロマトグラムは表記のGBM標本から得た。矢印は、表記のアミノ酸変化をもたらす、再発性のヘテロ接合性ミスセンス突然変異C394A(腫瘍Br104Xにおいて)およびG395A(腫瘍Br129Xにおいて)の場所を指し示している。
【図2】IDH1の活性部位の構造である。ヒトのサイトゾルNADP(+)依存性IDHの結晶構造をリボン形式で示している(PDBID:1T0L)(42)。IDH1の活性クレフトは、NADP結合部位およびイソクエン酸-金属イオン結合部位からなる。イソクエン酸のα-カルボン酸酸素およびヒドロキシル基がCa2+イオンをキレート化する。NADPは橙色で、イソクエン酸は紫色で、Ca2+は青色で示されている。黄色で表示されているArg132残基は、イソクエン酸のα-カルボン酸と、赤色で示されている疎水性相互作用を形成する。
【図3】IDH1突然変異の状態別にみた45歳未満の患者における全生存率である。突然変異したIDH1を有する患者における死亡に関するハザード比は、野生型IDH1を有する者との比較で0.19であった(95%信頼区間、0.08〜0.49;P<0.001)。生存期間の中央値は、突然変異したIDH1を有する患者については3.8年であり、これに対して野生型IDH1を有する患者については1.5年であった。
【図4】図4A〜4Bは、ヒト神経膠腫におけるIDH1突然変異およびIDH2突然変異である。図4A. ヒト神経膠腫において同定された、IDH1におけるコドンR132(下)およびIDH2におけるR172(上)での突然変異の概略図。IDH1のコドン130〜134およびIDH2のコドン170〜174を示している。各突然変異を有する患者の数(n)を、図の右に列記している。図4B. ヒト神経膠腫および他の型の腫瘍における、IDH1突然変異およびIDH2突然変異の数および頻度。非CNS性癌には、肺癌35例、胃癌57例、卵巣癌27例、乳癌96例、結腸直腸癌114例、膵癌95例、前立腺癌7例、ならびに慢性骨髄性白血病4例、慢性リンパ球性白血病7例、急性リンパ芽球性白血病7例および急性骨髄性白血病45例からの末梢血検体が含まれた。
【図5】図5A〜5Bは、IDH1突然変異およびIDH2突然変異の状態別にみた、悪性神経膠腫を有する患者に関する生存期間である。退形成性星状細胞腫を有する患者の場合(図5A)、生存期間の中央値は、突然変異したIDH1またはIDH2を有する患者については65カ月であり、これに対して、野生型のIDH1およびIDH2を有する患者については19カ月であった。GBMを有する患者の場合(図5B)、生存期間の中央値は、突然変異したIDH1またはIDH2を有する患者では39カ月であり、これに対して、野生型のIDH1およびIDH2を有する患者については13.5カ月であった。
【図6】悪性神経膠腫の発生のモデルである。それぞれの型の腫瘍について、頻度の高い遺伝子変化(IDH1/IDH2突然変異、TP53突然変異、1p 19q欠損およびCDKN2A欠損)を図示している。遺伝子変化の詳細な頻度は、表1および2または参考文献1に含まれている。全体として、右側の腫瘍はIDH変化を獲得しており、一方、左側のものはそうでない。
【図7】IDH1およびIDH2における配列変化である。IDH1遺伝子のコドン132(上)およびIDH2遺伝子のコドン172(下)での体細胞突然変異の代表例。いずれの場合にも、一番上の配列クロマトグラムは正常組織由来のDNAの解析によって得たものであり、一方、下の方のクロマトグラムは表記の腫瘍標本から得た。矢印は、腫瘍TB2604(退形成性星状細胞腫)、640(退形成性星状細胞腫)および1088(退形成性乏突起細胞腫)においてのIDH1における、ならびに腫瘍H883(退形成性星状細胞腫)およびH476(退形成性乏突起細胞腫)においてのIDH2における、ミスセンス突然変異およびその結果生じるアミノ酸変化の場所を指し示している。
【図8】進行性神経膠腫においてのIDH1における配列変化である。IDH1のコドン132での体細胞突然変異の代表例を、3つの代表的な場合について図示している。一番上の配列クロマトグラムは正常組織由来のDNAの解析によって得たものであり、一方、下の方のクロマトグラムは表記の脳腫瘍標本から得た。矢印は、IDH1における突然変異およびその結果生じるアミノ酸変化の場所を指し示している。すべての場合に、各患者由来の相対的に低悪性度の腫瘍および相対的に高悪性度の腫瘍において、同一なIDH1突然変異が見いだされた。
【図9】図9A〜9Bは、突然変異したIDHおよび野生型IDHを有する神経膠腫患者の年齢分布である。野生型IDH遺伝子(図9A)または突然変異したIDH遺伝子(図9B)を有する患者における、乏突起細胞腫(O)、退形成性乏突起細胞腫(AO)、びまん性星状細胞腫(DA)、退形成性星状細胞腫(AA)および多型性神経膠芽腫(GBM)の年齢分布。
【図10】表S3〜S10の大要である。表S3(GBM探索スクリーニングで同定された体細胞突然変異)。表S4(有病者スクリーニングでの体細胞突然変異)、表S5(増幅された遺伝子)、表S6(ホモ接合性欠失遺伝子)、表S7(上位のCAN-候補遺伝子)、表S8(GBMにおいて遺伝子変化が濃縮している候補遺伝子セット)、表S9(SAGEにおける過剰発現遺伝子)および表S10(SAGEにおける過剰発現遺伝子の細胞外サブセット)。
【図11】脳腫瘍の遺伝学的および臨床的な特徴の概要である。
【図12】IDH1/IDH2突然変異型および野生型の神経膠腫において頻度の高い遺伝子変化の頻度の評価である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
ゲノム全体にわたるGBMの解析において、本発明者らは、解析したGBMのほぼ12%で、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1遺伝子(IDH1)のコドン132の体細胞突然変異を同定した16。これらの突然変異は、続発性GBMにおいてより高い頻度で見いだされた(評価した患者6例中5例)。これらのデータの1つの解釈は、IDH1突然変異が比較的低悪性度の神経膠腫のサブセットで起こり、それらをGBMへと進行させたというものである。この可能性について評価するために、本発明者らはさまざまな型の多数の神経膠腫を解析した。注目すべきことに、本発明者らは、早期の悪性神経膠腫の大半においてIDH1突然変異を同定した。さらに、IDH1突然変異を有しない神経膠腫の多くは、密接な関連があるIDH2遺伝子において類似する突然変異を有していた。これらの結果は、IDH突然変異が悪性神経膠腫の発生において早期かつ必須な役割を果たすことを示唆する。
【0025】
体細胞突然変異とは、個々の生体の生存期間中に、特定の体細胞クローンで起こる突然変異のことである。この突然変異はこのため、遺伝されることも継代されることもない。この突然変異は、他の細胞、組織、臓器に比しての違いとして出現すると考えられる。癌性であると疑われる脳組織での体細胞突然変異を検査する場合には、非新生物性であると思われる正常脳組織と、または血液細胞のような脳以外の標本と、または非罹患個体からの標本との比較を行うことができる。
【0026】
健常組織においてIDH1のコドン132およびIDH2のコドン172での頻度の高いアミノ酸はアルギニン(R)である。IDH1のコドン132のヒスチジン(H)、セリン(S)およびシステイン(C)、ロイシン(L)およびグリシン(G)による置換、ならびにIDH2のコドン172のメチオニン(M)、リジン(K)およびグリシン(G)による置換を有する突然変異コドンが見いだされている。コドン132およびコドン172での突然変異は、DNA、mRNAまたはタンパク質のレベルでのものを含む、当技術分野で公知の任意の手段を用いて検出することができる。アルギニン-132型のこの酵素、ヒスチジン-132型の酵素、セリン-132型の酵素、ロイシン-132型の酵素、グリシン-132型の酵素またはシステイン-132型の酵素と特異的に結合する抗体を、突然変異検出のための解析に用いることができる。同様に、アルギニン-172、メチオニン-172、リジン-172またはグリシン-172型のIDH2と特異的に結合する抗体を、突然変異検出のための解析に用いることができる。同様に、IDH1またはIDH2のコード配列の構成内部にこれらのアミノ酸残基に関するコドンを含むプローブを、異なる型の遺伝子またはmRNAを検出するために用いることもできる。これらのコドンの全体または一部を含むプライマーを、アレル特異的な増幅または伸長のために用いることもできる。これらのコドンの周囲の領域とハイブリダイズするプライマーをコドンを増幅するために用いて、その後に引き続いてIDH1のコドン132またはIDH2のコドン172を含む増幅領域の解析を行うことができる。
【0027】
興味深いことに、IDH1のコドン132突然変異およびIDH2のコドン172突然変異は、続発性GBMおよび良好な予後と強く関連していることが見いだされている。IDH1の132番目のアミノ酸残基および/またはIDH2の172番目のアミノ酸残基に関して層別化された膠芽腫患者の群に対して、薬物の試験を行うことができる。これらの群は、野生型(アルギニン)および変異体(複合)または変異体(それぞれ別個)を含みうる。薬物感受性を各群について測定し、特定の突然変異または野生型(アルギニン)に比して有効であるかまたは有効でないと考えられる薬物を同定することができる。感受性および耐性の情報はいずれも、治療上の決断を導く上で有用である。
【0028】
ひとたびコドン132または172突然変異がある腫瘍で同定されれば、IDH1またはIDH2のインヒビターを治療的に用いることができる。そのようなインヒビターは、腫瘍における突然変異に対して特異的であってもよく、または単にIDH1もしくはIDH2のインヒビターであってもよい。低分子インヒビターのほか、抗体および抗体誘導体を用いることもできる。そのような抗体には、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、ScFv抗体、ならびに1つまたは複数の抗体Fv部分を含む他の構築物が含まれる。抗体は例えば、ヒト化抗体、ヒト抗体またはキメラ抗体でありうる。抗体は武装しても(armed)よく、武装しなくても(unarmed)よい。武装した抗体は例えば、毒素または放射性部分とコンジュゲートさせることができる。武装していない抗体は、腫瘍細胞と結合して抗体依存性細胞媒介性細胞傷害などの宿主免疫過程に関与するように働く。抗体は、野生型のIDH1もしくはIDH2と比べて突然変異体に優先的に結合してもよく、野生型IDH1もしくはIDH2と比べて突然変異体と特異的に結合してもよく、または突然変異体および野生型IDH1もしくはIDH2の両方と等しく結合してもよい。好ましくは、抗体は、コドン132またはコドン172を含む可能性のある活性部位内のエピトープと結合すると考えられる。エピトープは、タンパク質の一次配列に沿って連続的であっても不連続的であってもよい。インヒビターには、α-メチルイソクエン酸、アルミニウムイオンまたはオキサロリンゴ酸塩が含まれうる。他のインヒビターを用いてもよく、任意で、分光学的解析(Kornberg, A., 1955)および生物発光解析(Raunio, R. et al., 1985)を含む当技術分野で公知の酵素解析を用いて同定することもできる。または、インヒビターを結合試験によって、例えばインビトロまたはインビボ結合解析などによって同定することもできる。また、IDH1またはIDH2と結合するペプチドおよびタンパク質をインヒビターとして用いることもできる。
【0029】
発現を阻害するために阻害性RNA分子を用いてもよい。これらは例えば、siRNA、マイクロRNAまたはアンチセンス性のオリゴヌクレオチドまたは構築物であってよい。これらは、ヒトにおいてIDH1またはIDH2を適宜阻害するために用いることができる。
【0030】
抗体、ポリヌクレオチド、タンパク質、低分子または抗体に関する潜在的な治療有効性は、細胞、組織、動物個体またはタンパク質と接触させることにより、試験することができる。有効性の指標には、酵素活性の改変、癌細胞成長の阻害、期待余命の延長、癌細胞増殖の阻害、癌細胞アポトーシスの刺激、および腫瘍成長の阻害または遅延が含まれる。当技術分野で公知の任意の解析を非限定的に用いることができる。候補の組み合わせおよび候補と公知の作用因子との組み合わせも同じく評価することができる。公知の作用因子には、例えば、化学療法用抗癌剤、抗体およびホルモンなどの生物学的抗癌剤、放射線照射が含まれうる。
【0031】
腫瘍を有する人もしくは哺乳動物において、腫瘍が発生する恐れのある人において、または見かけ上は健常な個体において、膠芽腫に対する免疫応答を生じさせるかまたは増大させる目的で、その人または哺乳動物にポリペプチドを投与することができる。ポリペプチドは典型的には、残基132を含むヒトIDH1タンパク質の、または残基172を含むIDH2の、少なくとも6個、少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも12個または少なくとも14個の連続したアミノ酸残基を含むと考えられる。典型的には、しかし必ずしもではないが、ポリペプチドは、IDH1の残基132に、またはIDH2の残基172に、アルギニン以外の残基を含む。人または哺乳動物が腫瘍をすでに有している状況では、残基132のアミノ酸を腫瘍における残基と一致させるとよい。ポリペプチドはIDH1の全体を含んでもよいが、200個未満、150個未満、100個未満、50個未満、30個未満のアミノ酸残基を含むこともできる。本出願者らは何らかの作用機序に拘束されることを望んではいないが、ポリペプチド免疫化は抗体および/またはT細胞応答を介して作用すると考えられる。ポリペプチドは免疫アジュバントとともに投与することもでき、または免疫応答を刺激する部分とコンジュゲートさせることもできる。これらは当技術分野において周知であり、適宜用いることができる。
【0032】
IDH1またはIDH2上のエピトープと特異的に結合する抗体は、それらが他のタンパク質と結合するよりも高い結合活性またはより高い会合速度で結合する。好ましくは、そのより高い結合活性または会合速度は、そのエピトープを含まない他のタンパク質と比べて少なくとも約2倍、5倍、7倍または10倍である。
【0033】
単離されたポリヌクレオチドは、免疫化用のポリペプチドをコードして送達するために用いることができる。このポリヌクレオチドは、培養下にある宿主細胞においてポリペプチドを製造させるために用いることができ、または遺伝子療法の状況で、ワクチンのレシピエントにおいて発現後にインビボで免疫応答を生じさせるために用いてもよい。また、ポリヌクレオチドをプライマーまたはプローブとして用いることもでき、それは検出可能な標識で標識してもよく、標識しなくてもよい。プライマーは、例えば、IDH1のnt 394もしくはnt 395またはIDH2のヌクレオチド515のいずれかに隣接するがそれを含まないヌクレオチドに対して相補的なプライマーを用いる、プライマー伸長のために用いることができる。産物は、標識ヌクレオチドを試薬として用いて検出および識別することができる。解析物の実体を容易に判定しうるように、異なるヌクレオチドに対して異なる標識を用いてもよい。典型的には、プライマーまたはプローブとして用いるためのポリヌクレオチドは、IDH1またはIDH2のコード配列の少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも14個、少なくとも16個、少なくとも18個、少なくとも20個の連続したヌクレオチドを含むと考えられる。典型的には、ポリヌクレオチドは、IDH1またはIDH2のコード配列の600個未満、500個未満、400個未満、300個未満、200個未満、100個未満のヌクレオチドを含むと考えられる。
【0034】
本発明者らのデータにより、IDH1が、GBMを有する患者における遺伝子変化の主要な標的として同定された。この遺伝子における突然変異はいずれも、イソクエン酸結合部位の内部に位置する進化的に保存された残基である位置132でのアミノ酸置換をもたらした(42)。加えて、以前に報告されていたIDH1の唯一の突然変異は、結腸直腸癌患者においてこの同じ残基に影響を及ぼす別のミスセンス突然変異であった(10)。これらのIDH1突然変異の機能的な影響は不明である。これらの突然変異の再発性は、BRAF、KRASおよびPIK3CAなどの他の癌遺伝子における活性化性の変化を連想させる。この突然変異は活性化性であろうという予測は、観察された不活性化性の変化(すなわち、フレームシフト突然変異または停止突然変異、スプライス部位変化)がないこと、活性部位の他の重要残基における変化がないこと、および現在までに観察されている突然変異がすべてヘテロ接合性である(LOHを介した第2のアレルの欠損の証拠が皆無である)という事実によって補強される。興味深いことに、酵素研究により、残基132のアルギニンのグルタミン酸による置換は触媒的に不活性な酵素をもたらすことが示されており、このことはこの残基がIDH1活性において決定的な役割を果たすことを示唆する(46)。しかし、GBMにおいて観察される置換の性質は質的に異なり、アルギニンがヒスチジンまたはセリンに変化する。ヒスチジンは、多くの酵素の触媒活性の一部としてカルボン酸と水素結合相互作用を形成し(47)、Arg132とイソクエン酸のα-カルボン酸との公知の相互作用に対しても類似の機能を果たしうると考えられる。R132H変化はより高い総触媒活性を招くと想定しうる。IDH1の活性増大は、より高レベルのNADPHをもたらし、反応性酸素種に対する細胞防御を上乗せし、アポトーシスを防止し、細胞生存および腫瘍成長を増加させることが予想される。酵素活性および細胞表現型に対するIDH1の変化の影響を明らかにするために、さらなる生化学的および分子的な解析が必要であると考えられる。
【0035】
IDH1およびIDH2の変化の固有の分子的帰結にかかわらず、IDH1およびIDH2における突然変異の検出が臨床的に有用であると考えられることは明らかである。原発性および続発性GBMにおける特徴的な遺伝子病変の同定に向けて多大な努力が注力されてきたが、現在までに同定されている変化した遺伝子は、この目的に万全であるというには程遠い。例えば、原発性GBMと続発性GBMとを比較すると、TP53はそれぞれほぼ30%および65%で突然変異しており、EFGR増幅はほぼ35%および5〜10%に存在し、PTEN突然変異はほぼ25%およびほぼ5%に存在する(5)。本発明者らの研究により、IDH1突然変異は続発性GBMに関する新規かつ有意により特異的なマーカーであり、解析した続発性GBM標本の6件中5件(83%)がこの遺伝子に突然変異を有していたが、一方、そのような変化を有していた原発性GBM患者は99例中7例(7%)に過ぎないことが判明した(P<0.001、二項検定)。IDH1突然変異を有していなかった唯一の続発性GBM患者の標本は遺伝学的にも臨床的にも特異であり、PTENの突然変異は保有するがTP53の突然変異は保有しておらず、神経節神経膠腫(稀に悪性転換を来すことが知られている)と以前に診断された比較的高齢の患者(56歳)で生じたものであった(48)。この患者は全く関係ない2種類の別個のCNS腫瘍を有しており、この症例におけるGBMは実際には原発性腫瘍であった可能性がある。
【0036】
1つの興味深い仮説は、IDH1変化により、続発性GBMを有すると分類されると考えられる患者、さらには類似の腫瘍病態およびより遷延的な臨床経過を有する原発性GBM患者のサブグループを含む、GBM患者の生物学的に特異なサブグループが同定されるというものである(表4)。興味深いことに、IDH1突然変異を有する患者では、TP53突然変異を有する頻度が極めて高く、高い頻度で変化している他のGBM遺伝子の突然変異の頻度は極めて低かった。例えば、そのような患者は、症例の83%(患者12例中10例)においてTP53突然変異を有する一方で、EGFR、PTEN、RB1およびNF1のいずれの突然変異も検出されなった;対照的に、これと同じ突然変異パターンを有したのは、野生型IDH1を有する患者の12%(93例中11例)に過ぎなかった(図12)(P<0.001、二項検定)。この相対的な遺伝的均一性に加えて、突然変異したIDH1を有する患者は、比較的年齢が若く、臨床予後が有意に改善していることを含む明確な臨床的特徴を、年齢およびTP53突然変異の状態(これらはいずれも生存期間の改善と関連がある)に関する調整後にも有していた(表4)。おそらく最も驚くべきこととして、彼らは全員、これまではGBMとも他の癌とも遺伝的連鎖が認められていなかったタンパク質であるIDH1の単一のアミノ酸残基に共通の突然変異を有していた。この予期しない結果は、ヒト癌の研究における遺伝子変化に関するゲノム全体にわたるスクリーニングの有用性を明らかに実証するものである。
【0037】
GBM腫瘍において認められる突然変異を、図10、表S7に示している。これらの突然変異を、疑いのある腫瘍組織標本、血液、CSF、尿、唾液、リンパ液その他といった被験標本において検出することができる。体細胞突然変異は典型的には、被験標本における配列を、健常脳組織からのもののような正常対照標本における配列と比較することによって判定される。1つまたは複数の突然変異をこの目的に利用することができる。患者が手術を受けている場合には、腫瘍境界部または残存組織における突然変異の検出を、微小残存病変または分子再発の検出のために利用することができる。GBMが以前に診断されていない場合には、突然変異は、例えば、生化学マーカーおよび放射線学的所見を非限定的に含む、他の身体所見または臨床検査結果と併せて、診断を助ける役割を果たしうる。
【0038】
CAN遺伝子シグネチャーを、GBMを特徴決定する目的で決定することができる。シグネチャーとは、CAN遺伝子における1つまたは複数の体細胞突然変異のセットのことである。GBMに関するCAN遺伝子は、図10、表S7に列記されている。ひとたびそのようなシグネチャーが決定されれば、GBMをそのシグネチャーを共有するGBMの群に割り当てることができる。その群は、予後を割り当てるため、臨床試験群に割り当てるため、治療レジメンを割り当てるため、ならびに/またはさらなる特徴決定および研究のために割り当てるために用いることができる。臨床試験群において、薬物を、シグネチャーを有するGBMおよび有しないGBMに異なる影響を及ぼす能力に関して評価することができる。ひとたび異なる効果が明らかにされれば、そのシグネチャーを利用して、患者を薬物レジメンに割り当てること、または薬物が有益な効果を及ぼさないと考えられる患者を不必要に治療することを避けることができる。臨床試験における薬物は、これまでは別の目的で知られているもの、これまでにGBMを治療する目的で知られているもの、またはこれまでは治療薬として未知であったものでありうる。CAN遺伝子シグネチャーは、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個の遺伝子を含みうる。特定のシグネチャーにおける遺伝子または突然変異の数は、そのシグネチャーにおけるCAN遺伝子の実体に応じて異なりうる。標準的な統計学的解析を利用することで、CAN遺伝子シグネチャーの所望の感受性および特異性を達成することができる。
【0039】
解析したGBM腫瘍における突然変異した遺伝子の解析により、複数の経路の興味深い関与が明らかになった。いくつかの経路は、GBMにおいて突然変異を高頻度に有していた。ある単一遺伝子の突然変異は、特定の腫瘍において、その経路内にある別の遺伝子における突然変異の存在を排除するように思われる。GBMにおいて高頻度に突然変異している経路は、TP53経路、RB1経路、PI3K/PTEN経路である。経路は、MetaCore Gene Ontology(GO)データベース、MetaCoreカノニカル遺伝子経路マップ(MA)データベース、MetaCore GeneGo(GG)データベース、Panther、TRMP、KEGG、およびSPADデータベースといった標準的なレファレンスデータベースの任意のものを用いて明確にすることができる。ある経路における突然変異の有無に基づいて、複数の群を形成することができる。そのような群は、突然変異した遺伝子に関しては不均一であるが、突然変異した経路に関しては均一であると考えられる。CAN遺伝子シグネチャーの場合と同じく、これらの群を利用することでGBMを特徴決定することができる。ひとたびある経路における突然変異が判定されれば、GBMを、突然変異した経路を共通に有するGBMの群に割り当てることができる。その群は、予後を割り当てるため、臨床試験群に割り当てるため、治療レジメンを割り当てるため、ならびに/またはさらなる特徴決定および研究のために割り当てるために用いることができる。臨床試験群において、薬物を、突然変異した経路を有するGBMおよび有しないGBMに異なる影響を及ぼす能力に関して評価することができる。ひとたび異なる効果が明らかにされれば、その経路を利用して、患者を薬物レジメンに割り当てること、または薬物が有益な効果を及ぼさないと考えられる患者を不必要に治療することを避けることができる。臨床試験における薬物は、これまでは別の目的で知られているもの、これまでにGBMを治療する目的で知られているもの、またはこれまでは治療薬として未知であったものでありうる。突然変異型であることが見いだされる可能性のある経路内の遺伝子の中には、以下のものがある:TP53、MDM2、MDM4、RB1、CDK4、CDKN2A、PTEN、PIK3CA、PIK3RIおよびIRS1。このリストは必ずしも網羅的ではない。
【0040】
発現レベルを測定することが可能であり、過剰発現は、新たなGBM腫瘍、分子再発またはGBMの微小残存病変を指し示している可能性がある。GBM腫瘍において認められる発現の高度の増大は、図10、表S5および図10、表S9に示されている。これらの過剰発現遺伝子を、疑いのある腫瘍組織標本、血液、CSF、尿、唾液、リンパ液その他といった被験標本において検出することができる。発現増大は典型的には、被験標本における発現を、健常脳組織からのもののような正常対照標本における発現と比較することによって判定される。1つまたは複数の遺伝子の発現増大を、この目的に利用することができる。患者が手術を受けている場合には、腫瘍境界部または残存組織における発現増大の検出を、微小残存病変または分子再発の検出のために利用することができる。GBMが以前に診断されていない場合には、発現増大は、例えば、生化学マーカーおよび放射線学的所見を非限定的に含む、他の身体所見または臨床検査結果と併せて、診断を助ける役割を果たしうる。これらの目的には、mRNAの増大を検出するためのSAGEまたはマイクロアレイ、およびタンパク質発現の増大を検出するためのさまざまな解析形式に用いられる抗体を含む、発現を定量するための当技術分野で公知の任意の手段を用いることができる。タンパク質発現を検出するためには、図10、表S10に列記された遺伝子が特に有用である。
【0041】
腫瘍負荷量は、図10、表S7に列記された突然変異を用いてモニターすることができる。これは例えば、慎重な経過観察様式で、または有効性をモニターするための治療法の間に用いることができる。体細胞突然変異をマーカーとして用いて、経時的に検出可能なDNA、mRNAまたはタンパク質のレベルを解析することにより、腫瘍負荷量を指し示すことができる。標本における突然変異のレベルは、解析期間にわたって増大する、低下する、または安定に保たれる可能性がある。そのようなモニタリングを、治療的な処置およびタイミングのための手引きとすることができる。
【0042】
GBMの解析により、ホモ接合性に欠失しているいくつかの遺伝子が明らかになった。これらは図10、表S6に列記されている。これらの遺伝子のうち1つまたは複数の発現の欠損の判定を、GBMのマーカーとして用いることができる。これは、血液もしくはリンパ節の標本において、または脳組織標本において行うことができる。これらの遺伝子のうち1つまたは複数の発現を検査することができる。ELISAまたはIHCなどの手法を、標本におけるタンパク質発現の減少または欠損を検出するために用いることができる。同様に、図10、表S6に列記されたホモ接合性欠失遺伝子を、腫瘍負荷量を経時的にモニターするために用いることもできる。発現のレベルの増大、低下、またはレベルの安定を確認しうるように、発現を繰り返しモニターすることができる。
【0043】
突然変異およびコピー数変化に関するこの統合解析によって得られたデータは、膠芽腫の遺伝学的景観(genetic landscape)に関する新たな見解をもたらした。点突然変異、増幅および欠失を含むさまざまな種類の遺伝学的データの組み合わせにより、GBMにおける複雑な細胞経路および過程において優先的に影響を受ける可能性のある個々のCAN遺伝子、さらには遺伝子の群の同定が可能になる。突然変異、増幅または欠失によってGBMにおいて影響されることが以前に示されている事実上すべての遺伝子が同定されたことは、本発明者らが採用した包括的ゲノムアプローチを実証するものである。
【0044】
しかし、本発明者らのアプローチには、ゲノム全体にわたる研究のすべてと同じく、限界があることに留意すべきである。第1に、本発明者らは、腫瘍発生において重要な役割を果たしうると考えられる遺伝子変化の1つの型である染色体転座を評価していない。しかし、再発性染色体転座の観察所見は、GBMの細胞遺伝学的研究において稀にしか報告されていない。本発明者らはまた、後成的変化も評価していないものの、本発明者らの大規模発現研究により、この機序を介して差異を伴って発現される、あらゆる遺伝子が同定されたはずである(図10、表S9)。さらに、コピー数変化に関して、本発明者らは、真に増幅されるかまたはホモ接合性に欠失している領域に注力したが、それはこれらが癌遺伝子を同定する上で歴史的に最も有用であったためである。しかし、これらの標本に関して本発明者らが生成したSNPアレイデータは、解析することで、ヘテロ接合性の消失(LOH)、または真の増幅イベントではなくて重複に起因するわずかなコピー数の増加を判定することのできる情報を含んでいる。CDKN2AまたはNF1などの既知の癌遺伝子に関するそのようなデータの解析により、これらの領域にLOHを有するさらなる腫瘍が同定されているが、GBMにおいてLOHを受けるのがゲノムのかなりの割合であることを考慮すれば、そのような観察は一般に、新たな癌遺伝子候補を正確に特定する上ではあまり役立たない可能性が高い。さらに、本発明者らの解析に用いた原発性腫瘍は、この種の標本に関して常であるように少量の混入性正常組織を含んでおり、このことにより、本発明者らがそのような特定の腫瘍におけるホモ接合性欠失を検出する能力、さらには程度は落ちるものの、体細胞突然変異を検出する能力は制限された。このことは、本発明者らが組織学的および分子生物学的な基準により、間質成分をごくわずかしか含まないようにこれらの腫瘍を慎重に選択したにもかかわらず、そうであった。この観察所見は、そのような大規模ゲノム研究にとっての初期継代異種移植片および細胞株の価値を思い起こさせる重要な事項である。
【0045】
これらの限界にもかかわらず、本発明者らの研究は、GBMについて、いくつかの重要な遺伝学的および臨床的な見識を与えた。これらのうち第1のものは、GBMにおいて変化していることが知られている経路が、これまでに予想されたよりも多くの割合の遺伝子メンバーおよび患者に影響を及ぼすことである。解析した腫瘍の大半は、TP53経路、RB1経路およびPI3K経路のそれぞれのメンバーにおける変化を有していた。経路のメンバーにおける突然変異を有する癌は、1例を除いてすべて、同じ経路の他のメンバーにおける変化を有していなかったという事実には大きな意義があり、このことは、そのような変化は腫瘍発生において機能的に等価であることを示唆する。これらの観察所見はまた、GBMにおけるこれらの経路への治療的介入の可能性も明確に示している。第2の観察所見は、これまでGBMとは関連づけられていなかった種々の新たな遺伝子および経路が同定されたことである。検出された新たな経路のうち、これらのいくつかは脳特異的なイオン輸送およびシグナル伝達の過程に関与しているように思われ、GBMの生物学的現象における興味深く、かつ有用な可能性のある局面であるように思われる。
【0046】
これらのデータは直ちに、GBMを有する患者、さらには比較的低悪性度の神経膠腫を有する者の治療およびカウンセリングに関して、重要な意味のある疑問を提起する。例えば、IDHにおける突然変異は、比較的低悪性度の神経膠腫(WHOグレードI〜III)と診断された患者のサブセットにも存在するのであろうか。IDH1突然変異が神経膠腫の進行における比較的初期の遺伝学的イベントであることが実際に見いだされたならば、これらの患者はGBMへの進行のリスクが増大しているのであろうか。どの低悪性度神経膠腫患者にアジュバント放射線療法または化学療法を受けさせるか(およびどの程度積極的な治療であるべきか)を決断することの大きな臨床的困難を考慮すれば、ある患者で悪性進行のリスクが増大しているとの知見は、そのような治療上の決断のリスク-便益解析を大きく変えると考えられる。放射線療法が神経認知学的な発達および機能に特に破壊的な影響を及ぼす恐れのある小児患者の場合、これらの決断は特に困難であり、補足的なリスク分類はいずれも特に有用と考えられる。IDH突然変異はまた、GBMの長期生存者が時折みられることの1つの生物学的な説明も与えると考えられ、現時点で利用しうる個々の治療法によって特に便益を受けると考えられる患者を同定する一助にもなりうると考えられる。IDHの臨床マーカーとしての有用性は、突然変異の状態を判定するためには遺伝子の単一のコドンを調べることしか必要でないという事実によってさらに高まるように思われる。さらに、単剤療法または他の薬剤との組み合わせのいずれかとして、これらのIDH変化を利用した新たな治療薬を設計することも想定しうる。この線に沿って、ミトコンドリアIDH2の阻害は、種々の化学療法剤に対する腫瘍細胞の感受性の増大をもたらすことが最近示されている(49)。以上をまとめると、GBM患者のサブセットおよび少なくとも1つの他の型の癌におけるIDH突然変異に関するこの知見は、ヒト腫瘍発生のこれまでは正しく評価されていなかった局面に光を当てることのできる新たな研究方法を切り開くものである。
【0047】
以上の開示は、本発明を全般的に説明している。本明細書において開示された参考文献はすべて、参照により明示的に組み入れられる。以下の具体的な例を参照することによって、より完全な理解を得ることができるが、これらは例示のみを目的として提供され、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0048】
実施例1
材料および方法
Duke大学のPreston Robert Tisch Brain Tumor CenterのTissue Bankおよび共同研究施設から入手した原発性腫瘍および異種移植片の標本、ならびに患者と条件を揃えた正常血液リンパ球から、以前の記載の通りに17、DNAを抽出した。解析する脳腫瘍はすべて、2人の神経病理医による共同審査を受けた。脳腫瘍の集団は、毛様細胞性星状細胞腫21例および上衣下巨細胞性神経膠腫2例(WHOグレードI);びまん性星状細胞腫31例、乏突起細胞腫51例、乏突起星状細胞腫3例、脳室上衣腫30例および多形性黄色星状細胞腫7例(WHOグレードII);退形成性星状細胞腫43例、退形成性乏突起細胞腫36例および退形成性乏突起星状細胞腫7例(WHOグレードIII);GBM 178例および髄芽腫55例(WHOグレードIV)からなった。GBM標本の内訳は原発性症例165例および続発性症例13例であった。GBM 15例は20歳未満の患者からであった。続発性GBMは、比較的低悪性度の神経膠腫(WHO I〜III)と以前に診断されてから1年よりも後に切除されたGBMと定義した。GBMに関する本発明者らのゲノム全体にわたる以前の突然変異解析16で解析したのは、このGBM 178例のうち66例であったが、比較的低悪性度の腫瘍は皆無であった。脳腫瘍のほかに、非CNS性癌の494例も調べた:肺癌35例、胃癌57例、卵巣癌27例、乳癌96例、結腸直腸癌114例、膵癌95例、前立腺癌7例、慢性骨髄性白血病4例、慢性リンパ球性白血病7例、急性リンパ芽球性白血病7例および急性骨髄性白血病45例。標本はすべて、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)に準拠して入手した。組織検体の収集は、Duke University Health Systemの施設内審査委員会および共同研究施設の対応するIRBによる承認を得た。
【0049】
各患者について、以前の記載の通りに16、条件を揃えた腫瘍DNAおよび正常DNAにおけるIDH1遺伝子のエキソン4をPCR増幅し、シークエンシングを行った。R132 IDH1突然変異を有しない選択された患者(グレードIIもしくはIIIの病変または続発性GBMを有するもの)において、IDH1の残りの7個のエキソンおよびIDH2の11個のエキソンすべてをシークエンシングし、突然変異に関して解析した。乏突起細胞腫、退形成性乏突起細胞腫、退形成性星状細胞腫およびGBMの集団において、TP53およびPTENのコード性エキソンもすべてシークエンシングを行った。EGFR増幅およびCDKN2A/CDKN2B欠失についても、同一の腫瘍における定量的リアルタイムPCRによって解析した18。乏突起細胞腫および退形成性乏突起細胞腫の標本を、以前の記載の通りに15,19、1pおよび19qでのヘテロ接合性の消失(LOH)に関して評価した。
【0050】
臨床情報には、出生日、被験標本の入手日、病理診断日、先行した比較的低悪性度の神経膠腫の診断の日および病状、被験標本の入手日よりも以前の放射線療法および/または化学療法の投与、最後に患者と接触した日、ならびに最後の接触時の患者の状態を含めた。生存解析のための臨床情報は、482例の原発性脳腫瘍患者すべてについて入手可能であった。Kaplan-Meier生存曲線をプロットし、生存分布をMantel Coxログランク検定およびWilcoxon検定によって比較した。全生存期間は、GBM診断日および死亡または患者との最後の接触の日を用いることによって計算した。IDH1/IDH2突然変異の出現と他の遺伝子変化との間の相関は、Fisherの直接確率検定を用いて検討した。
【0051】
実施例2
若齢GBM患者におけるIDH1の高頻度の変化
上位のCAN遺伝子リストには、これまでGBMと結びつけられていなかったいくつかの個々の遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子のうち最も高頻度に突然変異していたIDH1はイソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードし1、これはイソクエン酸のα-ケトグルタル酸への酸化的カルボキシル化を触媒して、NADPHの生成をもたらす。ヒトゲノム中には5種のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子がコード化されており、そのうち3種の産物(IDH3α、IDH3β、IDH3γ)は、ミトコンドリア内でヘテロ四量体(α2βγ)を形成し、NAD(+)を電子受容体として利用してトリカルボン酸経路の律速段階を触媒する。第4のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH2)も同じくミトコンドリアに局在しているが、これはIDH1と同じく、NADP(+)を電子受容体として利用する。IDH1産物は、残りのIDHタンパク質とは異なり、細胞質およびペルオキシソームの内部に含まれる(41)。このタンパク質は非対称性ホモ二量体を形成し(42)、ペルオキシソーム内および細胞質での生合成過程に向けてNADPHおよびα-ケトグルタル酸を再生させるように働くと考えられている。IDH1による細胞質NADPHの生成は、酸化損傷の細胞制御において重大な役割を果たすように思われる(43)(44)。他のIDH遺伝子、トリカルボン酸経路に関与する他の遺伝子、および他のペルオキシソームタンパク質のうち、遺伝的に変化していることが本発明者らの解析で見いだされたものは皆無であった。
【0052】
IDH1は、探索スクリーニングにおいて5件のGBM腫瘍で体細胞性に突然変異していることが見いだされた。驚いたことに、この5件はすべて、IDH1転写物の位置395にグアニンのアデニンへの変化である同一のヘテロ接合性点突然変異(G395A)を有し、これはタンパク質のアミノ酸残基132でのアルギニンのヒスチジンによる置き換え(R132H)をもたらした。結腸直腸癌に関する本発明者らの以前の研究では、この同じコドンが、単一の症例で隣接ヌクレオチドの変化によって突然変異しており、R132Cアミノ酸変化をもたらすことが見いだされている(10)。本発明者らの有病者スクリーニングで評価したさらに5件のGBMはヘテロ接合性R132H突然変異を有することが見いだされ、別の2件の腫瘍は同じアミノ酸残基に影響を及ぼす第3の別個の突然変異、R132Sを有していた(図1;表4)。R132残基は既知のすべての種で保存されており、基質結合部位に局在して、イソクエン酸のα-カルボン酸と疎水性相互作用を形成する(図2)(42,45)。
【0053】
IDH1突然変異およびそれらの潜在的な臨床的意義について、いくつかの重要な観察所見が得られた。第1に、IDH1における突然変異は比較的若齢のGBM患者で優先的に生じており、IDH1が突然変異した患者についての平均年齢は33歳であり、これに対して、野生型IDH1を有する患者については53歳であった(P<0.001、t-検定、表4)。35歳に満たない患者では、50%近く(19例中9例)がIDH1における突然変異を有していた。第2に、IDH1における突然変異は、35歳に満たない続発性GBM患者5例の全例を含め、続発性GBMの患者のほぼすべてで認められた(続発性GBM患者6例中5例において突然変異、これに対して原発性GBMの患者では99例中7例、P<0.001、二項検定)。第3に、IDH1突然変異を有する患者は予後が有意に改善しており、全生存期間中央値は3.8年であり、これに対して野生型IDH1を有する患者については1.1年であった(P<0.001、ログランク検定)。若齢であることおよび突然変異したTP53はGBM患者にとって正の予後因子であることが知られているが、IDH1突然変異と生存期間改善との間のこの関連性は、45歳未満の患者(図3、P<0.001、ログランク検定)、さらにはTP53突然変異を有する若齢患者のサブグループ(P<0.02、ログランク検定)においてさえも認められた。
【0054】
実施例3
多型性神経膠芽腫(GBM)のDNA標本
GBM異種移植片および原発性腫瘍からの腫瘍DNAを、末梢血標本から入手した各症例についての条件を揃えた正常DNAとともに、以前の記載の通りに(1)入手した。「特定不能の高悪性度神経膠腫」と記録された2件の探索スクリーニング標本を除き、標本はすべて、多型性神経膠芽腫(GBM;World Health OrganizationグレードIV)という組織学的診断を受けた。標本は、被験GBM標本を入手した時点である手術時の少なくとも3カ月前にGBMが診断されている患者については再発性と分類した。探索スクリーニングにおける再発性GBMは3例であり、有病者スクリーニングでは15例であった。標本は、被験GBM標本を入手した時点である手術時よりも少なくとも1年前に、比較的低悪性度の神経膠腫(WHOグレードI〜III)が組織学的に確認されている患者については続発性と分類した。1件の探索スクリーニング標本および5件の有病者スクリーニング標本が続発性と分類された。
【0055】
関連のある臨床情報には、出生日、被験GBM標本の入手日、最初のGBM診断日(再発性GBMの場合のように、GBM標本の入手日と異なる場合)、先行した比較的低悪性度の神経膠腫の診断の日および病状(続発性GBMの症例において)、GBM標本の入手日よりも以前の放射線療法および/または化学療法の投与、最後に患者と接触した日、ならびに最後の接触時の患者の状態を含めた。標本はすべて、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)(HIPAA)に準拠して入手した。標本はすべて、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)(HIPAA)に準拠して入手した。以前の記載の通りに、腫瘍-正常ペアのマッチングは、PowerPlex 2.1 System(Promega、Madison、WI)を用いた9つのSTR座位の型判定によって確認し、標本の実体は、HLA-A遺伝子のエキソン3のシークエンシングにより、探索スクリーニングおよび有病者スクリーニングの全体を通じて確かめた。PCRおよびシークエンシングは(1)に記載された通りに行った。
【0056】
実施例4
臨床データの統計学的解析
GBM患者105例からの対になった正常組織および悪性組織を遺伝子解析のために用いた。完全な臨床情報(すなわち、最初のGBM診断日、死亡または最後の接触の日といった関連のあるすべての臨床情報)が、患者105例中91例については入手可能であった。これらの91例の患者のうち、5例(すべてIDH1-野生型)は手術後の最初の1カ月以内に死亡しており、解析から除外した(Br308T、Br246T、Br23X、Br301T、Br139X)が、診断からほぼ10年後の最後の接触時にも生存していた、外科的治癒と推定される単一の患者(Br119X)(同じくIDH1-野生型)についても同様とした。Kaplan Meier生存曲線はMantel Coxログランク検定を用いて算出した。ハザード比はMantel-Haenszel法を用いて算出した。GBM患者のグループ分けおよび生存解析算出には、以下の定義を用いた:1)患者年齢は、患者GBM標本を入手した時点の年齢を指す。2)再発性GBMとは、以前にGBMと診断されてから3カ月よりも後に切除されたGBMのことを示す。3)続発性GBMとは、比較的低悪性度の神経膠腫(WHO I〜III)と以前に診断されてから1年よりも後に切除されたGBMのことを示す。4)全生存期間は、GBM診断日および死亡または患者との最後の接触の日を用いて計算した。信頼区間はすべて95%レベルで計算した。
【0057】
実施例5
IDH1およびIDH2の突然変異
976件の腫瘍標本におけるIDH1の配列解析により、R132H(腫瘍148件)、R132C(腫瘍8件)、R132S(腫瘍2件)、R132L(腫瘍8件)およびR132G(腫瘍1件)を含む、残基R132での合計167件の体細胞突然変異が判定された(図4A、図7)。体細胞R132突然変異を有していた腫瘍には、びまん性星状細胞腫(WHOグレードII)31件中25件(81%)、乏突起細胞腫(WHOグレードII)51件中41件(80%)、乏突起星状細胞腫(WHOグレードII)3件中3件(100%)、多形性黄色星状細胞腫(WHOグレードII)7件中1件(14%)、退形成性星状細胞腫(WHOグレードIII)61件中41件(67%)、退形成性乏突起細胞腫(WHOグレードIII)36件中31件(86%)、退形成性乏突起星状細胞腫(WHOグレードIII)7件中7件(100%)、続発性GBM13件中11件(85%)、および原発性GBM165件中7件(4%)が含まれた(図1B、図11)。対照的に、21件の毛様細胞性星状細胞腫(WHOグレードI)、2件の上衣下巨細胞性細胞星状細胞腫(WHOグレードI)、30件の脳室上衣腫(WHOグレードII)、55件の髄芽腫においても、494件の非CNS性腫瘍標本のいずれにおいても、R132突然変異は観察されなかった。残りのIDH1エキソンの配列解析からは、R132陰性腫瘍におけるIDH1の他の体細胞突然変異は明らかにならなかった。
【0058】
本発明者らは、IDH1が乏突起細胞腫および星状細胞腫の発生または進行にとって決定的であるならば、IDH1突然変異を有しない腫瘍において、IDH1と類似の機能を有する他の遺伝子における変化を見いだしうるのではないかと推論した。本発明者らはこのため、NADP+を電子受容体として利用する、IDH1と相同な唯一のヒトタンパク質をコードするIDH2遺伝子を解析した。これらの標本におけるすべてのIDH2エキソンの配列評価により、いずれも残基R172にある8種の体細胞突然変異が判定された:3件の腫瘍ではR172M、3件の腫瘍ではR172K、および2件の腫瘍ではR172G(図1A、図7)。IDH2におけるR172残基はIDH1のR132残基のまさに相当物であり、酵素の活性部位内に位置し、イソクエン酸基質と水素結合を形成する。
【0059】
神経膠腫の進行におけるIDH変化のタイミングをさらに評価するために、本発明者らは、低悪性度腫瘍標本および高悪性度腫瘍標本の両方が入手可能であった進行性神経膠腫の7例の患者においてIDH1突然変異を評価した。配列解析により、7例の症例のすべてで、低悪性度腫瘍および高悪性度腫瘍の両方においてIDH1突然変異が同定された(図8、表4)。これらの結果は、IDH1変化が低悪性度腫瘍に生じていること、およびそのような患者における以後の癌がこれらの初期病変から直接に派生することを明白に実証している。
【0060】
本発明者らはまた、乏突起細胞腫、退形成性乏突起細胞腫、退形成性星状細胞腫、およびGBMのサブセットを、TP53およびPTENの突然変異、EGFRの増幅、CDKN2A/CDKN2Bの欠失、ならびに1p/19qのLOHに関しても調べた(図12)。TP53突然変異は、乏突起細胞腫(16%)または退形成性乏突起細胞腫(10%)におけるよりも、退形成性星状細胞腫(63%)および続発性GBM(60%)においてはるかに頻度が高かった(p<0.001、Fisherの直接確率検定)。その反対に、1pおよび19qの欠失は、予想された通り、星状細胞性腫瘍よりも乏突起細胞性腫瘍において高い頻度で見いだされた15。
【0061】
これらの変化とIDH1およびIDH2におけるものとの比較により、いくつかの際立った相関が明らかになった。突然変異したIDH1/IDH2を有する退形成性星状細胞腫およびGBMのほぼすべてが、TP53突然変異も有していたが(82%)、PTEN、EGFRまたはCDKN2A/CDKN2Bに何らかの変化を有したのは5%に過ぎなかった(図12)。その反対に、野生型IDH1を有する退形成性星状細胞腫およびGBMはTP53突然変異をわずかしか有さず(21%)、PTEN、EGFRまたはCDKN2A/CDKN2Bの変化はより高頻度であった(40%)(p<0.001、Fisherの直接確率検定)。1p/19qの欠損は、突然変異したIDH1またはIDH2を有する乏突起細胞性腫瘍の85%(45件/53件)で観察されたが、野生型IDH遺伝子を有する患者では全く観察されなかった(0例/9例)(p<0.001、Fisherの直接確率検定)。
【0062】
IDH1またはIDH2の突然変異を有する退形成性星状細胞腫およびGBMの患者は、野生型のIDH1およびIDH2遺伝子を有する者よりも有意に若かった(年齢中央値が34歳に対して58歳、p<0.001、Studentのt-検定)。興味深いことに、IDH1またはIDH2の突然変異を有する患者の年齢中央値がより低かったにもかかわらず、20歳未満の患者からはGBMにおける突然変異は全く同定されなかった(患者18例中0例、図9)。乏突起細胞腫および退形成性乏突起細胞腫の患者において、IDH1またはIDH2の突然変異を有する患者の年齢中央値は39歳であり、IDH1突然変異は2例のティーンエイジャー(14歳および16歳)で同定されたが、より若齢の患者では同定されなかった(4例中0例)。
【0063】
突然変異したIDH1を有するGBM患者についての予後の改善という本発明者らの以前の観察所見16は、このより大規模なデータセットでも裏づけられ、IDH2に突然変異を有する患者を含むまでに拡張された。IDH1またはIDH2の突然変異を有する患者の全生存期間中央値は39カ月であり、野生型IDH1を有する患者における13.5カ月という生存期間よりも有意に長い(図5、p<0.001、ログランク検定)。IDH遺伝子の突然変異は、退形成性星状細胞腫(WHOグレードIII)の患者における予後の改善とも関連しており、突然変異を有する患者については全生存期間中央値は65カ月であり、有しない者については19カ月であった(p<0.001、ログランク検定)。びまん性星状細胞腫、乏突起細胞腫または退形成性乏突起細胞腫の患者では示差的な生存解析を行うことができなかったが、これは、IDH遺伝子突然変異を有しないこれらの型の腫瘍があまりにも少なかったためである。
【0064】
参考文献
引用した各参考文献の開示内容は、本明細書に明示的に組み入れられる。以下のリスト中の参考文献は、本文中で上付き文字の参照番号を付して引用されている。
【0065】
以下のリスト中の参考文献は、本文中で括弧内に参照番号を付して引用されている。それぞれの開示内容は、本明細書に明示的に組み入れられる。
【0066】
参考文献
【0067】
実施例6
シークエンシング戦略
本発明者らは、体細胞突然変異の同定のために本発明者らが以前に開発したシークエンシング戦略を、20,583種の遺伝子からの23,219種の転写物を含むように拡張した。これらには、以前の研究(10,11)で解析したCCDSデータベースにもRefSeqデータベースにも存在しなかった、Ensemblデータベースからの2783種の追加の遺伝子を含めた。加えて、本発明者らは、(i)PCRで増幅するのが困難であり、以前の研究では最適な解析には至らなかった;または(ii)他のヒト配列もしくはマウス配列とかなり高い同一性を有することが見いだされた、ゲノムの領域に対するPCRプライマーも設計し直した。これらの新たなプライマー配列、設計し直したプライマー配列および既存のプライマー配列の組み合わせにより、これらの遺伝子のコード性エキソンの配列解析のために首尾良く用いることができた合計208,311種のプライマー対が得られた(表S1;Science 26 September 2008: Vol.321. no.5897, pp.1807-1812でオンラインにて入手可能)。
【0068】
22件のGBM標本(図10、表S2)をPCR配列解析のために選択したが、これは患者の腫瘍から直接抽出した7件の標本、およびヌードマウスにおいて異種移植片として継代させた15件の腫瘍標本からなる。1件の腫瘍(Br27P)は、以前に放射線療法およびテモゾロミドを含む化学療法の両方によって治療された患者から入手した続発性GBMであった。他の腫瘍はすべて原発性GBMと分類され、被験腫瘍標本の収集以前には腫瘍に向けた治療を受けていなかった。
【0069】
探索スクリーニングと呼ばれるこの解析の第1段階では、22件のGBM標本および条件を揃えた1件の正常標本において、プライマー対を用いて、175,471種のコード性エキソンならびに隣接するイントロンのスプライスドナー配列およびアクセプター配列の増幅およびシークエンシングを行った。データを各増幅領域について集め、厳格な品質基準を用いて評価したところ、22件の腫瘍における標的アンプリコンの95.0%および標的塩基の93.0%で増幅およびシークエンシングが首尾良く行われた。合計689Mbの配列データをこのアプローチを通じて生成させた。アンプリコン波形を自動化アプローチを用いて解析して、各遺伝子の参照配列中には存在しない腫瘍配列の変化を同定し、続いて正常対照標本および一塩基多型(SNP)データベース中に存在する変化を以降の解析から除外した。残りの見込みのある変化の配列波形を目視検査して、本発明者らの自動化ソフトウエアによって生成された偽陽性の突然変異コールを除外した。続いて、罹患した腫瘍DNA標本および条件を揃えた正常DNA標本において、突然変異と推定されるものを含むすべてのエキソンを再び増幅させ、シークエンシングを行った。この過程によって腫瘍標本における突然変異の確認が可能となり、変化が体細胞性(すなわち、腫瘍特異的)であるかそれとも生殖細胞系に存在するかが判定された。変化が関連する遺伝子配列の異常な共増幅によって生じたものでないことを確かめるために、体細胞突然変異と推定されるすべてのものをコンピュータ計算的および実験的に検討した(12)。
【0070】
(表1)GBMのゲノム解析の概要
*合格アンプリコンは、解析した標本の75%において標的配列の90%以上でPHRED20スコアまたはそれ以上を有するものと定義した。#PHRED20スコアまたはそれ以上を有するヌクレオチドの割合(補足情報については、付属オンライン資料を参照のこと)。
【0071】
実施例7
配列変化の解析
本発明者らは、2043種の遺伝子(解析した20,661種の遺伝子の10%)が、タンパク質配列を変化させると予想される少なくとも1つの体細胞突然変異を含んでいたことを見いだした。これらの変化の大多数は一塩基置換(94%)であったが、小規模な挿入、欠失または重複もあった。以前に放射線療法および化学療法(テモゾロミドを含む)によって治療された患者から入手した腫瘍標本Br27Pは合計1332個の体細胞突然変異を有しており、これは他の21例のどの患者よりも17倍の多さであった(図10、表S3)。この標本の突然変異スペクトルは、CpCジヌクレオチドの5'シトシンにC>T転位を過剰に含み、他のGBM患者のものとは著しく異なっていたが、テモゾロミドによって治療された患者の神経膠腫標本における超変異表現型に関する以前の観察所見とは一致する(13,14)。以前に報告された患者では、MSH6ミスマッチ修復の欠陥の存在下におけるアルキル化剤の長期的曝露に起因して超変異性が起こると考えられていた;しかし、BR27Pでは、体細胞変化はMSH6にも他のミスマッチ修復遺伝子(MSH2、MLH1、MLH3、PMS 1、PMS2)のいずれにも観察されなかった。BR27Pとは対照的に、探索スクリーニングにおいて解析した他の21件の腫瘍標本はいずれも以前に放射線または化学療法治療を受けていないことがわかっており、以前に治療されたその種の腫瘍で認められている特徴的なCpC突然変異スペクトルも有しなかった。
【0072】
Br27Pを検討から除外した後に、残りの993種の突然変異は、残りの21件の腫瘍において比較的均等に分布していることが観察された(図10、表S3)。各腫瘍において同定された体細胞突然変異の数は17〜79個の範囲であり、平均は腫瘍1個当たり突然変異47個、またはシークエンシングを行ったGBM腫瘍ゲノム1Mb当たり突然変異1.51個であった。原発性腫瘍から抽出した6件のDNA標本では、異種移植片から得たものよりも突然変異の数が幾分少なかったが、これは前者における非新生物性細胞の遮蔽作用による可能性が高い。細胞株および異種移植片は、癌のゲノムシークエンシング解析のための最適なテンプレートDNAを与えること(15)、およびそれらは原発性腫瘍に存在する変化を忠実に表すこと(16)が以前に示されている。
【0073】
GBMにおける配列変化の総数および頻度はいずれも、結腸癌または乳癌で観察されているそのような変化の数および頻度よりもかなり少なく、膵癌におけるよりも幾分少ない(10,11,17)。この差について最も可能性が高そうな説明は、新生物の発病前のグリア細胞の細胞世代の数の少なさである。結腸直腸癌で観察されている体細胞突然変異の最大で半分までが、正常な細胞再生過程の間に上皮幹細胞で起こることが示唆されている(16)。正常グリア幹細胞は乳腺上皮細胞または結腸上皮細胞よりも回転の頻度がはるかに低いため、腫瘍のイニシエーションを行う突然変異が生じた時にそれらが含む突然変異の数ははるかに少ないと予想される(18)。
【0074】
本発明者らはさらに、探索スクリーニングにおいて同定された20種の突然変異遺伝子のセットを、病歴が文書で十分に裏づけられている83例のさらなるGBM(表S2、Science 26 September 2008: Vol.321. no.5897, pp.1807-1812でオンラインにて入手可能)を含む、有病者スクリーニングと呼ばれる第2のスクリーニングにおいて評価した。これらの遺伝子は、少なくとも2件の腫瘍において突然変異しており、突然変異の頻度は、シークエンシングを行った腫瘍DNA 1Mb当たり突然変異10個を上回った。このさらなる腫瘍標本において、非サイレント性の体細胞突然変異が、これらの20種の遺伝子のうち15種で同定された(図10、表S4)。有病者スクリーニングにおいて解析したすべての遺伝子の突然変異頻度は、腫瘍DNA 1Mb当たり突然変異24個であり、探索スクリーニングにおける1Mb当たり突然変異1.5個という全体的な突然変異頻度から著しく増加した(p<0.001、二項検定)。さらに、有病者スクリーニングにおける突然変異の間での非サイレント突然変異とサイレント突然変異との観察比(NS:S)は14.8:1であり、探索スクリーニングにおいて観察された3.1:1という比よりもかなり高かった(P<0.001、二項検定)。この突然変異頻度の増大および非サイレント突然変異の数の増加により、有病者スクリーニングにおいて突然変異していた遺伝子では腫瘍発生に活発に寄与する遺伝子が濃縮されていることが示唆された。
【0075】
遺伝子における突然変異の頻度に加えて、突然変異のタイプも、疾患におけるその役割を評価するために重要な情報を与えうる(19)。ナンセンス突然変異、アウトオブフレーム(out-of-frame)挿入または欠失、およびスプライス部位変化は一般に、タンパク質産物の不活性化を招く。ミスセンス突然変異の予想される影響は、進化的または構造的な手段による、突然変異した残基の評価を通じて評価することができる。ミスセンス突然変異を評価するために、本発明者らは、置換(substation)に関与するアミノ酸の物理-化学特性、および保存されたタンパク質の等価な位置でのそれらの進化的保存に基づく、56種の予測素性(feature)の機械学習を用いる新たなアルゴリズムを開発した(12)。本研究で同定されたミスセンス突然変異のおよそ15%は、この方法によって評価した場合、タンパク質機能に対して統計学的に有意な影響を及ぼすと予想された(図10、表S3)。本発明者らはまた、本研究で同定された870種のミスセンス突然変異のうち244種の構造モデルを作成することもできた(20)。いずれの場合にも、モデルは、正常タンパク質または密接な関連のあるホモログのX線結晶法または核磁気共鳴分光法を基にした。この解析により、ミスセンス突然変異のうち35種はドメイン界面または基質結合部位の近くに位置し、機能に影響を及ぼす可能性が高いことが示された((12)で構造モデルへのリンクが得られる)。
【0076】
実施例8
コピー数変化の解析
続いて、同じ腫瘍を、ほぼ100万個のSNP座位プローブを含むIllumina高密度オリゴヌクレオチドアレイに対するDNA標本のゲノムハイブリダイゼーションを通じて、コピー数変化に関して評価した(21)。本発明者らは最近、そのようなアレイを用いて、核1つ当たり12個またはそれ以上のコピーをもたらす限局的増幅(二倍体ゲノムと比較して6倍またはそれ以上の増幅)、さらには遺伝子の両方のコピーの欠失(ホモ接合性欠失)を同定するための高感度かつ特異的なアプローチを開発した(22)。そのような限局的変化を利用することで、これらの領域内の根源的な候補遺伝子を同定することができる。腫瘍において高頻度に生じていて、しかも意義が不明である、染色体腕部全体の獲得または喪失を伴うもののような、より大規模な染色体異常を有する領域内で、そのような候補遺伝子を確実に同定することは不可能である。
【0077】
本発明者らは、探索スクリーニングに用いた22件の標本において、合計147種の増幅(図10、表S5)および134種のホモ接合性欠失(図10、表S6)を同定し、腫瘍標本1件当たりの増幅は0〜34個、欠失は0〜14個であった。増幅の数は、原発性標本と、異種移植片として継代したそれらの腫瘍との間で同程度であったものの、後者の標本ではより多数のホモ接合性欠失の検出が可能であった(異種移植片1件当たりの欠失は平均8.0個、これに対して原発性標本では1件当たり2.2個)。これらの観察所見は、混入性の正常DNAを含む標本においてホモ接合性欠失を同定することの難しさを記述している以前の報告と一致しており(23)、異種移植片または細胞株の中に存在するもののような精製されたヒト腫瘍細胞のゲノム解析にとっての重要性を強く示している。
【0078】
実施例9
シークエンシング、コピー数解析および発現解析の統合
腫瘍発生の間に生じる突然変異は、腫瘍細胞に対して選択的な利点を与える可能性もあれば(ドライバー(driver)突然変異)、腫瘍成長に対して何ら正味の影響を及ぼさない可能性もある(パッセンジャー(passenger)突然変異)。ドライバーである可能性が最も高く、そのためさらなる検討に値すると考えられるGBM癌遺伝子候補(CAN遺伝子)を同定する目的で、シークエンシングおよびコピー数変化の解析から得られた突然変異データを統合した。ある遺伝子がドライバー突然変異を保有する可能性が高いか否かを判定するために用いられるバイオインフォマティクスアプローチは、各遺伝子において観察される突然変異の数およびタイプと、パッセンジャー突然変異率によって予想される数との比較を伴う。配列変化に関して、本発明者らは、パッセンジャー率の上界および下界を計算した。上界は、観察された変化の総数から、既知の癌遺伝子で生じている突然変異を差し引いて、シークエンシングを行った腫瘍DNAの量によって除算することによって控えめに計算し、一方、下界は、観察されたサイレント突然変異および予想されるNS:S比の推定値に基づいて決定した(12)。コピー数変化に関して、本発明者らは、バックグラウンド率を決定する際に、すべての増幅および欠失がパッセンジャーであるという極めて控えめな仮定を行った。各遺伝子の解析のために、続いてあらゆるタイプの変化(配列変化、増幅およびホモ接合性欠失)を組み合わせて、その遺伝子に関するパッセンジャー確率を推定した(統計学的方法のより詳細な説明については(12)を参照)。
【0079】
上位ランクのCAN遺伝子を、それらのパッセンジャー確率とともに図10、表S7に列記している。CAN遺伝子には、TP53、PTEN、CDKN2A、RB1、EGFR、NF1、PIK3CAおよびPIK3R1を含む、神経膠腫における関与に関して十分に確立しているいくつかの遺伝子が含まれていた(24-34)。本発明者らの解析において、これらの遺伝子の中で最も高頻度に変化していたものには、CDKN2A(GBMの50%で変化)、TP53、EGFRおよびPTEN(30〜40%で変化)、NF1、CDK4およびRB1(12〜15%で変化)、ならびにPIK3CAおよびPIK3R1(8〜10%で変化)が含まれた。全体的にみて、これらの頻度は、以前に報告されたものと同程度であるか、または一部の症例ではそれよりも高く、体細胞変化の検出のための本発明者らのアプローチの感度を立証するものである。
【0080】
(表2)最も高頻度に変化しているGBM CAN遺伝子
最も高頻度に変化しているCAN遺伝子を列記している;すべてのCAN遺伝子は表S7に列記されている。^点突然変異を有する腫瘍の割合は、探索スクリーニングおよび有病者スクリーニングにおける105件の標本のうち突然変異しているGBMの割合を指し示している。有病者スクリーニングではCDKN2AおよびCDK4を点突然変異に関して解析しなかったが、これは探索スクリーニングでこれらの遺伝子における配列変化が検出されなかったためである。&増幅および欠失を有する腫瘍の割合は、22件の探索スクリーニング標本におけるこれらのタイプの変化を有する腫瘍の数を指し示している。*パッセンジャー確率はパッセンジャー確率−中間(Mid)を指し示している(12)。
【0081】
これらの遺伝子によって影響を受ける経路内のさらなる遺伝子メンバーの解析により、TP53経路(TP53、MDM2、MDM4)、RB1経路(RB1、CDK4、CDKN2A)およびPI3K/PTEN経路(PIK3CA、PIK3R1、PTEN、IRS1)における重要遺伝子の変化が同定された。これらの変化は、腫瘍の大半(それぞれ64%、68%および50%)で異常な経路を生じさせ、1件を除くすべての場合において、各腫瘍内の突然変異は各経路の単一のメンバーのみに排反的な様式で影響を及ぼした(P<0.05)(表3)。詳細に注釈付けが行われたMetaCoreデータベース(35)中に含まれる機能性遺伝子群および経路の系統的解析により、TP53経路およびPI3K/PTEN経路のさらなるメンバーにおいて、さらには、細胞接着を調節するもののほか、シナプス伝達、神経インパルス伝達、ならびにナトリウムイオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンの輸送に関与するチャンネルがかかわるもののような脳特異的な細胞経路を含む、種々の他の細胞過程において、突然変異遺伝子の濃縮(enrichment)が同定された(図10、表S8)。興味深いことに、これらの後者の経路はいずれも、膵癌に関する大規模研究では濃縮が観察されておらず(17)、脱調節的な成長および浸潤を助長する、正常なグリア細胞過程の破壊(subversion)を表している可能性がある。検出された経路の多くのメンバーは、GBMにおいても他の任意のヒト癌においても、いかなる役割を果たすことも認識されておらず、腫瘍発生におけるそれらの役割を明らかにするためには多大な努力が求められるであろう。
【0082】
(表3)GBMにおけるTP53経路、PI3K経路およびRB1経路の突然変異
*Mut、突然変異した;Amp、増幅した;Del、欠失した;Alt、変化した。#22件の探索スクリーニング標本における罹患腫瘍の割合
【0083】
遺伝子発現パターンは、それがシークエンシングによってもコピー数解析によっても検出することのできない後成的変化を反映しうることから、経路の解析に情報を加えることができる。それはまた、上記の変化した経路に起因する、遺伝子発現に対する下流効果も指し示すことができる。GBMのトリプトームを解析するために、本発明者らは、RNAが入手可能であった、突然変異解析のために用いたすべてのGBM標本(合計18件の標本)、さらには2件の無関係な正常脳RNA対照に対して、SAGE(遺伝子発現の連続解析)(36)を行った。超並列的な合成によるシークエンシング法(37-40)と組み合わせると、SAGEは、遺伝子発現に関する極めて定量的でかつ高感度な手段を与える。
【0084】
まず、転写物の解析を利用することで、本研究において同定された増幅領域および欠失領域から標的遺伝子を同定する一助とした。これらの領域のいくつかは既知の腫瘍サプレッサー遺伝子または癌遺伝子を含んでいたものの、多くは、これまで癌と関連づけられていない、いくつかの遺伝子を含んでいた。突然変異データならびに転写データを用いることにより、表S5およびS6において、これらの領域のいくつかのものの内部に、標的遺伝子候補を同定することができると考えられる。
【0085】
第2に、本発明者らは、正常脳と比較してGBMにおいて差異を伴って発現される遺伝子を同定することを試みた。解析した18件のGBMにおいて、(正常脳標本と比較して)平均10倍の高いレベルで発現された遺伝子が多数(143種)あった。この143種の過剰発現遺伝子のうち、分泌されたかまたは細胞表面に発現されたものは16種であった。これらの多くは原発性脳腫瘍においても異種移植片においても過剰発現され、このことは診断的および治療的な応用の新たな可能性を示唆する。
【0086】
実施例10
若齢GBM患者におけるIDH 1の高頻度の変化
上位のCAN遺伝子のリスト(図10、表S7)には、これまでGBMと結びつけられていなかったいくつかの個々の遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子のうち最も高頻度に突然変異していたIDH1はイソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードし1、これはイソクエン酸のα-ケトグルタル酸への酸化的カルボキシル化を触媒して、NADPHの生成をもたらす。ヒトゲノム中には5種のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子がコード化されており、そのうち3種の産物(IDH3α、IDH3β、IDH3γ)は、ミトコンドリア内でヘテロ四量体(2 を形成し、NAD(+)を電子受容体として利用してトリカルボン酸経路の律速段階を触媒する。第4のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH2)も同じくミトコンドリアに局在しているが、これはIDH1と同じく、NADP(+)を電子受容体として利用する。IDH1産物は、残りのIDHタンパク質とは異なり、細胞質およびペルオキシソームの内部に含まれる(41)。このタンパク質は非対称性ホモ二量体を形成し(42)、ペルオキシソーム内および細胞質での生合成過程に向けてNADPHおよび-ケトグルタル酸を再生させるように働くと考えられている。IDH1による細胞質NADPHの生成は、酸化損傷の細胞制御において重大な役割を果たすように思われる(43)(44)。他のIDH遺伝子、トリカルボン酸経路に関与する他の遺伝子、および他のペルオキシソームタンパク質のうち、遺伝的に変化していることが本発明者らの解析で見いだされたものは皆無であった。
【0087】
IDH1は、探索スクリーニングにおいて5件のGBM腫瘍で体細胞性に突然変異していることが見いだされた。驚いたことに、この5件はすべて、IDH1転写物の位置395にグアニンのアデニンへの変化である同一のヘテロ接合性点突然変異(G395A)を有し、これはタンパク質のアミノ酸残基132でのアルギニンのヒスチジンによる置き換え(R132H)をもたらした。結腸直腸癌に関する本発明者らの以前の研究では、この同じコドンが、単一の症例で隣接ヌクレオチドの変化によって突然変異しており、R132Cアミノ酸変化をもたらすことが見いだされている(10)。本発明者らの有病者スクリーニングで評価したさらに5件のGBMはヘテロ接合性R132H突然変異を有することが見いだされ、別の2件の腫瘍は同じアミノ酸残基に影響を及ぼす第3の別個の突然変異、R132Sを有していた(図1;表4)。R132残基は既知のすべての種で保存されており、基質結合部位に局在して、イソクエン酸のα-カルボン酸と疎水性相互作用を形成する(図2)(42,45)。
【0088】
(表4)IDH1突然変異を有するGBM患者の特徴
*患者年齢は、患者GBM標本を入手した時点の年齢を指す。#再発性GBMとは、以前にGBMと診断されてから3カ月よりも後に切除されたGBMのことを示す。^続発性GBMとは、比較的低悪性度の神経膠腫(WHO I〜III)と以前に診断されてから1年よりも後に切除されたGBMのことを示す。&全生存期間は、GBM診断日および死亡または患者との最後の接触の日を用いて計算した:患者Br10PおよびBr11Pは最後の接触時に生存していた。IDH1突然変異患者およびIDH1野生型患者に関する生存期間中央値はログランク検定を用いて計算した。続発性GBM患者における以前の病理学的診断は、Br123Xでは乏突起細胞腫(WHOグレードII)、Br237TおよびBr211Tでは低悪性度膠芽腫(WHOグレードI〜II)、Br27Pでは退形成性星状細胞腫(WHOグレードIII)、ならびにBr129Xでは退形成性乏突起細胞腫(WHOグレードIII)であった。略号:GBM(多型性神経膠芽腫、WHOグレードIV)、WHO(世界保健機構)、M(男性)、F(女性)、mut(突然変異体)。平均年齢および生存期間中央値を、IDH1突然変異患者およびIDH1野生型患者について列記している。
【0089】
IDH1突然変異およびそれらの潜在的な臨床的意義について、いくつかの重要な観察所見が得られた。第1に、IDH1における突然変異は比較的若齢のGBM患者で優先的に生じており、IDH1が突然変異した患者についての平均年齢は33歳であり、これに対して、野生型IDH1を有する患者については53歳であった(P<0.001、t-検定、表4)。35歳に満たない患者では、50%近く(19例中9例)がIDH1における突然変異を有していた。第2に、IDH1における突然変異は、35歳に満たない続発性GBM患者5例の全例を含め、続発性GBMの患者のほぼすべてで認められた(続発性GBM患者6例中5例において突然変異、これに対して原発性GBMの患者では99例中7例、P<0.001、二項検定)。第3に、IDH1突然変異を有する患者は予後が有意に改善しており、全生存期間中央値は3.8年であり、これに対して野生型IDH1を有する患者については1.1年であった(P<0.001、ログランク検定)。若齢であることおよび突然変異したTP53はGBM患者にとって正の予後因子であることが知られているが、IDH1突然変異と生存期間改善との間のこの関連性は、45歳未満の患者(図3、P<0.001、ログランク検定)、さらにはTP53突然変異を有する若齢患者のサブグループ(P<0.02、ログランク検定)においてさえも認められた。
【0090】
参考文献および注記
引用した各参考文献の開示内容は、本明細書に明示的に組み入れられる。
【0091】
実施例11
材料および方法
遺伝子の選択
20,735種の独特の遺伝子に相当する23,781種の転写物からのタンパク質コード性エキソンを、シークエンシングの標的とした。このセットは、高度のキュレーション済みのConsensus Coding Sequence(CCDS)データベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/CCDS/)からの14,554種の転写物、Reference Sequence(RefSeq)データベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/RefSeq/)からのさらなる6,019種の転写物、および、Ensemblデータベース(http://www.ensembl.org/)からの無傷のオープンリーディングフレームを有するさらに3,208種の転写物で構成された。本発明者らは、Y染色体上に位置する遺伝子およびゲノム内で厳密に重複している遺伝子からの転写物は除外した。以下に詳述するように、20,661種の遺伝子に相当する23,219種の転写物が首尾良くシークエンシングされた。
【0092】
バイオインフォマティクスに関する供給源
Consensus Coding Sequence(リリース1)、RefSeq(リリース16、2006年3月)およびEnsembl(リリース31)遺伝子座標および配列は、UCSC Santa Cruz Genome Bioinformatics Site(http://genome.ucsc.edu)から収集した。補遺の表に列記された位置は、UCSC Santa Cruz hg17、ビルド35.1に対応する。既知のSNPをフィルターにかけて除去するための一塩基多型は、HapMapプロジェクトによって検証済みのdbSNP(リリース125)中に存在するものとした。BLATおよびIn Silico PCR(http://genome.ucsc.edu/cgi-bin/hgPcr)を、ヒトゲノムおよびマウスゲノムにおける相同性検索を行うために用いた。
【0093】
プライマーの設計
Primer 3ソフトウエア(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi)を用いて、標的境界から50bpよりも近接しておらず、300〜600bpの産物を生成するプライマーを作製した。350bpを超えるエキソンは、部分的に重複するいくつかのアンプリコンに分けた。In silico PCRおよびBLATを用いて、ユニークなゲノム位置から単一のPCR産物を生じさせるプライマー対を選択した。複数のin silico PCRヒットまたはBLATヒットが得られる重複領域に対するプライマー対については、標的配列と重複配列との間の違いが最も大きくなる位置で設計し直した。汎用プライマー
を、それ自体と標的領域との間にある最小数のモノ-またはジ-ヌクレオチド反復配列とともに、プライマーの5'末端に付加した。本研究に用いたプライマー配列は、Science 26 September 2008: Vol.321. no.5897, pp.1807-1812でオンラインにて入手可能である表S1に列記されている。
【0094】
多型性神経膠芽腫(GBM)のDNA標本
GBM異種移植片および原発性腫瘍からの腫瘍DNAを、末梢血標本から入手した各症例についての条件を揃えた正常DNAとともに、以前の記載の通りに(1)入手した。探索スクリーニングは22件の腫瘍標本(15件の異種移植片および7件の原発性腫瘍)からなり、有病者スクリーニングにはさらに別の83件の標本(53件の異種移植片および30件の原発性腫瘍)を含めた。探索スクリーニング標本および有病者スクリーニング標本に関するそのほかの臨床情報は、Science 26 September 2008: Vol.321. no.5897, pp.1807-1812でオンラインにて入手可能である表S2で得ることができる。「特定不能の高悪性度神経膠腫」と記録された2件の探索スクリーニング標本を除き、標本はすべて、多型性神経膠芽腫(GBM;World Health OrganizationグレードIV)という組織学的診断を受けた。標本は、被験GBM標本を入手した時点である手術時の少なくとも3カ月前にGBMが診断されている患者については再発性と分類した。探索スクリーニングにおける再発性GBMは3例であり、有病者スクリーニングでは15例であった。標本は、被験GBM標本を入手した時点である手術時よりも少なくとも1年前に、比較的低悪性度の神経膠腫(WHOグレードI〜III)が組織学的に確認されている患者については続発性と分類した。1件の探索スクリーニング標本および5件の有病者スクリーニング標本が続発性と分類された。
【0095】
(表5)有病者スクリーニングおよび探索スクリーニングに用いたGBM標本の概略
【0096】
関連のある臨床情報には、出生日、被験GBM標本の入手日、最初のGBM診断日(再発性GBMの場合のように、GBM標本の入手日と異なる場合)、先行した比較的低悪性度の神経膠腫の診断の日および病状(続発性GBMの症例において)、GBM標本の入手日よりも以前の放射線療法および/または化学療法の投与、最後に患者と接触した日、ならびに最後の接触時の患者の状態を含めた。標本はすべて、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)(HIPAA)に準拠して入手した。標本はすべて、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)(HIPAA)に準拠して入手した。以前の記載の通りに、腫瘍-正常ペアのマッチングは、PowerPlex 2.1 System(Promega、Madison、WI)を用いた9つのSTR座位の型判定によって確認し、標本の実体は、HLA-A遺伝子のエキソン3のシークエンシングにより、探索スクリーニングおよび有病者スクリーニングの全体を通じて確かめた。PCRおよびシークエンシングは(1)に記載された通りに行った。
【0097】
臨床データの統計学的解析
GBM患者105例からの対になった正常組織および悪性組織を遺伝子解析のために用いた。完全な臨床情報(すなわち、最初のGBM診断日、死亡または最後の接触の日といった関連のあるすべての臨床情報)が、患者105例中91例については入手可能であった。これらの91例の患者のうち、5例(すべてIDH1-野生型)は手術後の最初の1カ月以内に死亡しており、解析から除外した(Br308T、Br246T、Br23X、Br301T、Br139X)が、診断からほぼ10年後の最後の接触時にも生存していた、外科的治癒と推定される単一の患者(Br119X)(同じくIDH1-野生型)についても同様とした。Kaplan Meier生存曲線はMantel Coxログランク検定を用いて算出した。ハザード比はMantel-Haenszel法を用いて算出した。GBM患者のグループ分けおよび生存解析算出には、以下の定義を用いた:1)患者年齢は、患者GBM標本を入手した時点の年齢を指す。2)再発性GBMとは、以前にGBMと診断されてから3カ月よりも後に切除されたGBMのことを示す。3)続発性GBMとは、比較的低悪性度の神経膠腫(WHO I〜III)と以前に診断されてから1年よりも後に切除されたGBMのことを示す。4)全生存期間は、GBM診断日および死亡または患者との最後の接触の日を用いて計算した。信頼区間はすべて95%レベルで計算した。
【0098】
突然変異探索スクリーニング
22件のGBM標本、およびGBM患者の1例の正常組織由来の1件の対照標本において、CCDS、RefSeqおよびEnsemblの遺伝子を増幅させた。リレーショナルデータベース(Microsoft SQL Server)と連動させたMutations Surveyor(Softgenetics, State College, PA)と用いて、すべてのコード配列および隣接する4bpを解析した。さらに解析しようとするアンプリコンについては、腫瘍の少なくとも4分の3が、関心対象の領域内にPhred品質スコアが20である塩基を90%またはそれ以上有することが必要とした。この品質管理に合格したアンプリコン中の、正常標本で観察されたものと同一な突然変異、ならびに既知の一塩基多型は除去した。続いて、検出された各々の突然変異のシークエンシング用クロマトグラムを目視検査し、偽陽性コールをソフトウエアによって除去した。アーチファクトをなくすために、腫瘍DNAにおける突然変異と推定されるものすべてを再び増殖させ、シークエンシングを行った。突然変異が体細胞性であるか否かを判定するために、突然変異が同定されたのと同じ患者の正常組織由来のDNAを増幅し、シークエンシングを行った。突然変異が見いだされた場合には、突然変異と推定されるものが相同配列の増幅の結果であることを確認するために、BLATを用いて、関係するエキソンに関するヒトゲノムおよびマウスゲノムの検索を行った。標的領域の90%にわたって90%の同一性を有する類似の配列があった場合に、さらなる段階を実施した。ヒトでの重複によって生じた可能性のある突然変異は、2つの配列を識別するために設計したプライマーを用いて再び増幅させた。新たなプライマー対を用いて観察されなかった突然変異は除外した。残ったものを、その突然変異塩基がBLATによって同定された相同配列中に存在しない限り含めた。マウス異種移植片で最初に観察された突然変異は、原発性腫瘍由来のDNA中で再び増殖させ、その突然変異が原発性腫瘍に存在するか、またはその突然変異体がBLATによって同定された相同マウス配列中に同定されなければ含めた。
【0099】
突然変異の有病者スクリーニング
本発明者らはさらに、探索スクリーニングにおいて同定された20種の突然変異遺伝子のセットを、83例のさらなるGBM(表S2)を含む、有病者スクリーニングと呼ばれる第2のスクリーニングにおいて評価した。選択された遺伝子は、少なくとも2件の腫瘍において突然変異しており、突然変異の頻度は、シークエンシングを行った腫瘍DNA 1Mb当たり突然変異10個を上回った。用いたプライマー(表S1、Science 26 September 2008: Vol.321. no.5897, pp.1807-1812でオンラインにて入手可能)ならびに見込みのある突然変異の解析方法および持続期間は、探索スクリーニングにおけるものと同じとした。有病者スクリーニングにおいて観察された体細胞突然変異はすべて、図10、表S4に報告している。
【0100】
コピー数解析
BeadChipプラットフォームを採用したIllumina Infinium II Whole Genome Genotyping Assayを用いて、腫瘍標本を1,072,820箇所(1M)のSNP座位で解析した。SNP位置はすべて、ヒトゲノム参照配列のhg18(NCBIビルド36, 2006年3月)バージョンを基にした。遺伝子型判定解析は、50ヌクレオチドのオリゴ体に対するハイブリダイゼーションで始め、その後に二色蛍光単塩基伸長法を行った。各SNP位置に関して正規化された強度値(R)を得るために、蛍光強度画像ファイルをIllumina BeadStationソフトウエアを用いて処理した。各SNPについて、正規化された実験強度値(R)を、正常標本のトレーニング用セット由来のそのSNPに関する強度値と比較し、log2(R実験/Rトレーニング用セット)の比(「Log R比」と呼ぶ)として表した。
【0101】
SNPアレイデータは、以前に記載された方法(2)の変法を用いて解析した。ホモ接合性欠失(HD)は、Log R比値が-2である3つまたはそれ以上の連続したSNPと定義した。HD領域の最初および最後のSNPは、以後の解析のための変化の境界とみなした。チップのアーチファクトおよびコピー数多型の可能性をなくすために、本発明者らは、コピー数多型データベース中に含まれるすべてのHDを除去した。3つまたはそれ未満のSNPによって隔てられた隣接するホモ接合性欠失は同一の欠失の一部とみなし、互いに100,000bpの範囲内にあるHDについても同様とした。HDによって影響される標的遺伝子を同定するために、本発明者らは、RefSeq、CCDSおよびEnsemblデータベースにおけるコード性エキソンの場所を、観察されたHDのゲノム座標と比較した。そのコード領域の一部がホモ接合性欠失の内部に含まれる遺伝子はすべて、欠失によって影響されるものとみなした。
【0102】
(2)に概説されているように、増幅は、平均LogR比が0.9であり、少なくとも1つのSNPのLogR比が1.4である、3つのSNPを含む領域によって定義される。HDの場合と同じく、本発明者らは、複数の標本において同一の境界を有する、増幅と推定されるものをすべて除外した。限局的増幅は固有の標的遺伝子を同定する上で有用である可能性がさらに高いため、第2の基準セットを用いて、コピー数の増加を示した複合的増幅、大きな染色体領域または染色体全体を除去した。サイズが3Mbを上回る増幅およびサイズが同じく3Mbを上回る近傍の増幅群(1Mb以内)は複合的とみなした。10Mb領域内の4つの別個の増幅、または染色体1本当たり5つの増幅という頻度で存在する増幅または増幅群は、複合的であると考えた。これらのフィルタリング段階の後に残った増幅を限局的増幅とみなし、以後の統計学的解析に含めるのはこれらのみとした。増幅によって影響されるタンパク質コード性遺伝子を同定するために、本発明者らは、RefSeq、CCDSおよびEnsmblデータベースにおける各遺伝子の開始位置および終了位置の場所を、観察された増幅のゲノム座標と比較した。遺伝子の一部のみを含む増幅は機能的結果をもたらす可能性が低いと考えられるため、本発明者らは、観察された増幅の中にコード領域全体が含まれる遺伝子のみを検討した。
【0103】
パッセンジャー突然変異率の推定
探索スクリーニングにおいて観察された同義突然変異から、本発明者らはパッセンジャー率の下界を推定した。下界は、同義突然変異率と、HapMapヒト多型データベースにおいて観察されたNS:S比(1.02)との積として定義した。首尾良くシークエンシングが行われた1Mb当たり突然変異0.38個という計算された率は、非同義突然変異に対する選択は体細胞におけるよりも生殖細胞系においてより厳格であると考えられるため、過小評価である可能性が高い。上界は、以前の研究でドライバーであることが判明している非常に高度に突然変異している遺伝子(TP53、PTENおよびRB1)を除外した後の、1Mb当たりの非同義突然変異の観察された総数から計算した。その結果得られた非同義突然変異1.02個/Mbというパッセンジャー突然変異率は、TP53、PTENおよびRB1以外の遺伝子における突然変異のいくつかがドライバーである可能性が高いため、バックグラウンド率を過大評価している。突然変異0.70個/Mbという「中間(Mid)」尺度が、下界率と上界率の平均として得られた。探索スクリーニングおよび有病者スクリーニングにおいて同定された体細胞突然変異の数およびタイプの比較のために、パーセント値間の二標本t-検定を用いた。
【0104】
発現解析
Digital Gene Expression-Tag Profiling作成キット(Illumina, San Diego, CA)を製造者による推奨の通りに用いて、SAGEタグを作製した。手短に述べると、グアニジンイソチオシアネートを用いてRNAを精製し、各標本からの全RNAほぼ1μgに対して、オリゴ-dT磁気ビーズを用いる逆転写を行った。第2鎖の合成は、RNアーゼHニッキングおよびDNAポリメラーゼI伸長によって行った。この二本鎖cDNAを制限エンドヌクレアーゼNla IIIで消化し、Mme I制限部位を含むアダプターと連結させた。Mme I消化の後に、第2のアダプターを連結させ、アダプターと連結されたcDNA構築物を18サイクルのPCRによって濃縮し、85bpの断片をポリアクリルアミドゲルから精製した。ライブラリーサイズをリアルタイムPCRを用いて推定し、タグのシークエンシングをGenome Analyzer System(Illumina, San Diego, CA)にて行った。
【0105】
統計学的解析
統計学的解析の概略
統計学的解析は、ある遺伝子または生物学的に定義された遺伝子セットにおける突然変異が、パッセンジャー率よりも高い根源的突然変異率を反映するというエビデンスを数量化することに焦点を絞った。どちらの場合も、この解析は、点突然変異に関するデータをコピー数変化(CNA)に関するデータと統合する。点突然変異の解析のための方法は(3)に記載されたものに基づき、一方、点突然変異およびCNAの統合のための方法は(2)に基づく。以前に記載された方法に対していくつかの修正が必要であったことから、本発明者らは本明細書において自己完結的な概要を提供する。
【0106】
CAN遺伝子の統計学的解析
遺伝子の突然変異プロファイルとは、以前に定義された25種の状況特異的な突然変異のタイプのそれぞれの数のことを指す(3)。突然変異プロファイルに関するエビデンスは、実験結果を、パッセンジャー遺伝子のみで構成されるゲノムに相当する参照分布と比較する経験的ベイズ解析(4)を用いて評価される。これは、パッセンジャー率での突然変異を、実験計画を正確に再現するような様式でシミュレートすることによって得られる。具体的には、本発明者らは、各遺伝子を順に検討し、各タイプの突然変異の数を、状況特異的パッセンジャー率と等しい成功確率を用いる二項分布からシミュレートする。各状況において使用しうるヌクレオチドの数は、その特定の状況および被験標本中の遺伝子に関して首尾良くシークエンシングされたヌクレオチドの数である。インデル以外の非同義突然変異を検討する場合には、本発明者らは、以前に定義されたような(3)、リスクのあるヌクレオチドに焦点を絞る。
【0107】
これらのシミュレートされたデータセットを用いて、本発明者らは、本研究において解析した遺伝子のそれぞれに関するパッセンジャー確率を評価した。これらのパッセンジャー確率は、遺伝子の群に関してではなく、固有の遺伝子に関する記載を表す。各パッセンジャー確率は、尤度比のそれに関する推論を介して得られる:ある遺伝子において、その遺伝子がパッセンジャーである場合に特定のスコアを観測する尤度を、実際のデータにおいてそれを観察する尤度と比較する。本発明者らの解析に用いられる遺伝子特異的スコアは、検討中の遺伝子に関して、突然変異率がパッセンジャー突然変異率と同じであるとする帰無仮説に関する尤度比検定(LRT)に基づく。スコアを得るには、本発明者らはLRTをs=log(LRT)に単に変換するのみである。相対的に高いスコアは、パッセンジャー率を上回る突然変異率のエビデンスを指し示している。パッセンジャー確率を評価するためのこの一般的アプローチは、Efron and Tibshirani(4)によって記載されたものに従う。具体的には、任意の所与のスコアsに関して、F(s)は、スコアが実験データにおけるスコアがsよりも高い、シミュレートされた遺伝子の割合を表し、F0はシミュレートされたデータにおける対応する割合であり、p0はパッセンジャー遺伝子の総割合の推定値である(以下で考察する)。シミュレーション間の差異は小さいが、それにもかかわらず、本発明者らは100個のデータセットを作成して照合することによってF0を推定した。本発明者らは続いて、FおよびF0に対応する密度関数fおよびf0を数値的に推定し、各スコアsに関して、「局所的偽発見率(local false discovery rate)」(4)としても知られる比p0・f0(s)/f(s)を計算した。密度の推定は、R統計言語における関数「密度」をデフォールトの設定で用いて行った。パッセンジャー確率の計算は、真のパッセンジャーの割合であるp0の推定値に依存する。本発明者らのインプリメンテーションはp0に上界を与えようとし、それにより、パッセンジャー確率の控え目な楽観的推定値(conservatively high estimates)をもたらす。この目的のために、本発明者らはp0=1に設定した。本発明者らはまた、その最低値で開始し、右側にある次の値では減少するように値を再帰的に設定することにより、スコアに関してパッセンジャー確率が単調に変化するように制約も加えた。本発明者らは同様に、パッセンジャー確率に対し、パッセンジャー率に関しても単調に変化するように制約を加えた。
【0108】
CancerMutationAnalysisと命名されている、R統計環境においてこれらの計算を行うためのオープンソースパッケージは、http://astor.som.jhmi.edu/~gp/software/CancerMutationAnalysis/cma.htmで入手可能である。本発明者らの具体的なインプリメンテーションの詳細な数学的計算作業は(5)に提示されており、一般的な解析上の問題点は(6)に考察されている。
【0109】
CNAの統計学的解析
増幅または欠失に関与する遺伝子のそれぞれに関して、本発明者らはさらに、それらのパッセンジャー確率の推計を通じて、腫瘍発生を生じさせるエビデンスの強さを数量化した。いずれの場合にも、本発明者らはパッセンジャー確率を、(3)の体細胞突然変異解析からの情報をこの論文で提示されたデータと統合する事後確率として得る。点突然変異解析に由来するパッセンジャー確率は事前確率としての役を果たす。これらをパッセンジャー突然変異率の3通りの異なる筋書きに対して得ることができ、結果は図10、表S3でそれぞれに対して別々に提示されている。続いて、遺伝子が増幅(または欠失)していることが見いだされた標本の数をエビデンスとして用いて、「ドライバー」に関する尤度比と「パッセンジャー」に関する尤度を対比して評価した。パッセンジャー項は、当該の遺伝子が観察された頻度で増幅(または欠失)している確率である。各標本について、本発明者らは、観察された増幅(および欠失)が当該の遺伝子を偶然含む確率を算出することから始める。増幅に関しては使用可能なすべてのSNPを含めることが必要とされるが、一方、欠失に関してはSNPの任意の部分的な重複で十分である。具体的には、特定の標本においてN個のSNPの型判定を行い、K個の増幅が認められ、関与するSNPに関するそのサイズがA1 ... AKであるならば、G個のSNPを有する遺伝子は、増幅に関しては確率(A 1-G+1)/N+....+(AK-G+1)/Nで、欠失に関しては(A 1+G-1)/N+....+(AK+G-1)/Nで無作為に含まれると考えられる。本発明者らは続いて、観察された増幅(または欠失)の数についての確率を、標本が独立性ではあるが同一には分布していないベルヌイ確率変数であると仮定して、Thomas and Traubのアルゴリズム(7)を用いて算出する。帰無仮説の下での尤度を評価するための本発明者らのアプローチは、観察されたすべての欠失および増幅はパッセンジャーのみを含むと仮定しているため、非常に控え目である。尤度のドライバー項は、上記の標本特異的パッセンジャー率に、関心対象の増加(対立仮説)を反映する遺伝子特異的係数を乗算することにより、パッセンジャー項についての場合と同じように概算した。この増加は、遺伝子の経験的欠失率と総欠失率との比によって推算される。
【0110】
この併用アプローチは、増幅および欠失の独立性の近似的仮定を行う。現実には、増幅された遺伝子は欠失性ではありえないため、独立性は厳密には侵害されている。しかし、増幅イベントおよび欠失イベントは比較的少数であるため、この仮定は本発明者らの解析の目的には筋道が通っている。対数尺度での尤度の検査により、それがイベントの総数に関して概ね線形的であることが示唆されており、このことは評価システムとしてのこの近似の妥当性を裏づける。
【0111】
突然変異した遺伝子経路および群の解析
以下の4種類のデータがMetaCoreデータベース(GeneGo, Inc., St. Joseph, MI)から得られた:経路マップ、Gene Ontology(GO)プロセス、GeneGoプロセスネットワークおよびタンパク質-タンパク質相互作用。これらのカテゴリーにおける23,781種の転写物のそれぞれのメンバー数を、RefSeq識別子を用いてデータベースから取得した。GeneGo経路マップでは、4,175種の転写物および509種の経路がかかわる22,622通りの関係が同定された。Gene Ontologyプロセスについては、12,373種の転写物および4,426種のGO群がかかわる合計66,397通りの対関係が同定された。GeneGoプロセスネットワークについては、6,158種の転写物および127種のプロセスがかかわる合計23,356通りの対関係が同定された。各々の突然変異遺伝子の予想されるタンパク質産物についても、MetaCoreデータベースから推測される他の突然変異した遺伝子によってコードされるタンパク質との物理的相互作用に関して評価した。
【0112】
検討した遺伝子セットのそれぞれに関して、本発明者らは、それらが平均を上回る割合の発癌ドライバーを含むエビデンスの強さを、セットのサイズを考慮した後に数量化した。この目的のために、本発明者らは、遺伝子を、上記の複合パッセンジャー確率(突然変異、ホモ接合性欠失および増幅を考慮に入れる)に基づいてスコア別にソーティングした。本発明者らは、Bioconductor(8)中のLimmaパッケージによって実装されているWilcoxon検定を用いて、セット中に含まれる遺伝子のランキングを外部のもののランキングと比較し、続いて、αを0.2とするq-値法(9)によって多重度に関して補正した。
【0113】
バイオインフォマティクス解析
バイオインフォマティクス解析の概略
本発明者らは、(1)体細胞ミスセンス突然変異を、それらがパッセンジャーである尤度によってランク付けするためのスコア(LSMUT)を算出するための、新規なバイオインフォマティクス用ソフトウエアのパイプライン(以下に描写)を開発した。これらのスコアは、タンパク質配列、アミノ酸残基変化およびタンパク質内部の位置に由来する特性;ならびに(2)タンパク質構造相同性モデルに基づく各突然変異の質的注釈付け、を基にしている。
【0114】
突然変異スコア
本発明者らは、中立的と思われる多型と癌に関連した突然変異とを確実に鑑別すると考えられるものを同定するために、いくつかの教師あり機械学習アルゴリズムの検査を行った。最も良いアルゴリズムは、本発明者らが、並列的Random Forestソフトウエア(PARF)[http://www.irb.hrien/cir/projects/info/parf]を用いて、SwissProt Variant Pages (13)由来の2,840種の癌関連突然変異および19,503種の多型に対してトレーニングを行ったRandom Forest(12)であった。癌関連突然変異は、キーワード「癌」、「癌腫」、「肉腫」、「芽腫」、「黒色腫」、「リンパ腫」、「腺腫」および「神経膠腫」に関する構文解析を行うことによって同定された。それぞれの突然変異または多型について、本発明者らは、58種の数値的およびカテゴリー的な素性(以下の表を参照)を算出した。GBM腫瘍標本に存在した2つの突然変異はSwissProt Variant Pages中に認められ、トレーニングデータから除去した。トレーニング用セットは癌関連突然変異よりも多型をほぼ7倍多く含んでいたため、本発明者らはクラス別の重み付けを用いて少数クラスに重み付けを加えた(癌関連突然変異の重み付けは5.0とし、多型の重み付けは1.0とした)。mtryパラメーターは8に設定し、forestサイズは500ツリーに設定した。欠けている素性値は、Random Forest近接性ベースデータ補完アルゴリズム(12)を6回繰り返して用いることで補完した。Random Forestを構築するために用いた詳細なパラメーター設定および全データは要請に応じて提供する。
【0115】
本発明者らは続いて、トレーニング済みのforestを、594種のGBMミスセンス突然変異、および、11件の結腸直腸癌において突然変異していないことが認められた78種の遺伝子の転写物中に無作為に作製した142種のミスセンス突然変異の対照セットに対して適用した(5)。それぞれの突然変異について、58種の予測素性を上記の通りに算出し、トレーニング済みのforestを用いて、突然変異のランク付けのための予測スコアを算出した。具体的には、用いたスコアは、各突然変異に関して、「多型」クラスに有利なように選ばれたツリーの割合である。
【0116】
上位ランクのCAN遺伝子におけるミスセンス突然変異は、無作為なミスセンス突然変異とは異なるように分布しているという仮説を検証するために、本発明者らは、各スコアに極めて小さい無作為数を加えることによってつながりを断ち切る、改良Kolmogorov-Smirnov(KS)検定を行った。上位13種のCAN遺伝子におけるミスセンス突然変異のスコアは、対照セットにおける突然変異とは有意に異なることが見いだされた(P<0.001)。
【0117】
本発明者らは、スコアが0.7未満である突然変異(ミスセンス突然変異のほぼ15%)はパッセンジャーである可能性が低いと推測している。閾値は、パッセンジャーと、スコアが0.7未満であるのはそのほぼ2%に過ぎないSwissProt Variantセット中の中立的多型との間に類似性があるとの推定を基にしている。SwissProt Variantsのスコアは、それらを2つずつに無作為に分割し、それぞれに対してRandom Forestをトレーニングして(上記のように)、続いてそれぞれを、他のものに対してトレーニングを行ったRandom Forestを用いてスコア化することによって得た。
【0118】
相同性モデル
体細胞ミスセンス突然変異を有することが見いだされたmRNA転写物のタンパク質翻訳物を、ModPipe 1.0/MODELLER 9.1相同性モデル構築用ソフトウエア(14,15)に入力した。それぞれの突然変異に関して、本発明者らは、突然変異した位置を含むすべてのモデルを同定した。複数のモデルが突然変異に関して生成された場合には、本発明者らは、そのテンプレート構造に対して最も高度な配列同一性を有するモデルを選択した。その結果得られたモデルを用いて、突然変異した位置での野生型残基の溶媒露出度を、DSSPソフトウエア(16)を用いて算出した。露出度の値は、Gly-X-Glyトリペプチドにおけるそれぞれのタイプの側鎖に関する最大の残基溶媒露出度で除算することによって正規化した(17)。36%を上回る溶媒露出度を「露出されている」とみなし、9%〜35%は「中間性」とみなし、9%未満は「埋没している」とみなした。また、DSSPを用いて、突然変異した位置の二次構造も算出した。本発明者らは、LigBaseデータベース(18)およびPiBaseデータベース(19)を用いることで、そのテンプレート構造の等価な位置でリガンドまたはドメイン界面に近接している、相同性モデルにおける突然変異した残基位置を同定した。さらに、それぞれの突然変異に関して、本発明者らは、UCSF Chimera(20)を用いてその相同性モデル上にマッピングした突然変異の画像も作成した。それぞれの突然変異に関する画像および関連情報は、http://karchinlab.org/Mutants/CAN-genes/pancreatic/Pancreatic_cancer.html)で入手可能である。モデルの座標は要請に応じて提供する。
【0119】
(表6)Random Forestのトレーニングを行うために用いた58種の数値的およびカテゴリー的な素性
【0120】
実施例11に関する参考文献
【技術分野】
【0001】
本出願は米国政府からの資金を用いて行われた。このため、米国政府は、NIH助成金CA 43460号、CA 57345号、CA 62924号、R01CA118822号、NS20023-21号、R37CA11898-34号およびCA 121113号の規定に従い、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、癌の診断法、予後予測法、薬物スクリーニングおよび治療法の領域に関する。詳細には、これは脳腫瘍全般、および特に多型性神経膠芽腫に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
神経膠腫は、最も頻度の高い型の原発性脳腫瘍であり、世界保健機構(World Health Organization)(WHO)によって制定された組織病理学的および臨床的な基準を用いて、グレードI〜グレードIVとして分類される1。この腫瘍群にはいくつかの固有の組織像が含まれ、その中で最も頻度が高いものは星状細胞腫、乏突起細胞腫および脳室上衣腫である。グレードIの神経膠腫は、多くの場合は良性病変であると考えられ、外科的完全切除によって一般に治癒可能であり、より高悪性度の病変に進展することは、たとえあるにしても稀である2。しかし、グレードIIおよびIIIの腫瘍は、浸潤性に成長して、より高悪性度の病変へと進行する悪性腫瘍であり、それに対応して予後が不良である。グレードIVの腫瘍(多型性神経膠芽腫、GBM)は最も浸潤性の高い形態であり、予後が極めて不良である3,4。比較的低悪性度の神経膠腫を有すると以前に診断された患者に生じるものと定義される続発性GBMと、先行する既知の腫瘍を有しない原発性GBMとを、組織病理学的基準を用いて鑑別することは不可能である5,6。
【0004】
神経膠腫では、TP53、PTEN、CDKN2AおよびEGFRを含むいくつかの遺伝子が遺伝的に変化していることが知られている7-12。これらの変化は、高悪性度腫瘍の進行に伴って定まった順序で起こる傾向がある。TP53突然変異は星状細胞腫の発生における比較的早期のイベントであるように思われ、一方、PTENの欠損または突然変異およびEGFRの増幅は比較的高悪性度の腫瘍に特徴的である6,13,14。乏突起細胞腫では、多くのグレードII腫瘍で1pおよび19qのアレル欠損が起こり、一方、9p21の欠損は主としてグレードIII腫瘍に限られる15。
【0005】
膠芽腫および他の脳腫瘍について原因、識別子(identifier)および治療法を同定することは、当技術分野において引き続き必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の1つの局面によれば、ヒト対象における多型性神経膠芽腫(GBM)腫瘍を特徴決定する方法が提供される。GBM腫瘍を解析して、ヒト対象のGBM腫瘍において、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)におけるコドン132での、またはイソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(IDH2)におけるコドン172での体細胞突然変異の有無を同定する。
【0007】
本発明の別の局面として同じく提供されるのは、GBMにおいて認められるIDH1またはIDH2の突然変異形態である、R132H IDH1もしくはR132C IDH1もしくはR132S IDH1もしくはR132L IDH1もしくはR132G IDH1とは特異的に結合するが、R132 IDH1とはそうでない、単離された抗体;またはR172M IDH2、R172G IDH2もしくはR172K IDH2とは特異的に結合するが、R172とはそうでない、単離された抗体である。R132 IDH1またはR172 IDH2、すなわちIDH1またはIDH2の野生型活性部位と特異的に結合する、単離された抗体も同じく提供される。
【0008】
本発明の別の局面は、哺乳動物を免疫化する方法である。ヒト腫瘍において認められる、ヒトIDH1タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基を含むIDH1突然変異ポリペプチド、またはヒトIDH2タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基を含むIDH2突然変異ポリペプチドを、哺乳動物に投与する。この少なくとも8個の連続したアミノ酸残基は、IDH1の残基132またはIDH2の残基172である。残基132または残基172はアルギニンではない。IDH1またはIDH2突然変異ポリペプチド上には認められるが正常IDH1またはIDH2上には認められないエピトープに対して免疫反応性のある抗体および/またはT細胞が産生される。
【0009】
本発明の別の局面として同じく提供されるのは、ヒト腫瘍において認められるヒトのIDH1タンパク質またはIDH2タンパク質の少なくとも8個でありかつ200個未満である連続したアミノ酸残基を含む、IDH1またはIDH2突然変異ポリペプチドである。この少なくとも8個の連続したアミノ酸残基は、IDH1の残基132またはIDH2の残基172を含む。残基132または172はRではない。
【0010】
本発明の1つのさらなる局面は、ヒト腫瘍において認められるヒトIDH1またはヒトIDH2タンパク質のコード配列の少なくとも18個でありかつ600個未満である連続したヌクレオチド残基を含む、単離されたポリヌクレオチドである。この少なくとも18個の連続したアミノ酸残基は、IDH1のヌクレオチド394および/もしくは395、またはIDH2のヌクレオチド515(nucleotide 515 or IDH2)を含む。IDH1のヌクレオチド394および/または395は、それぞれCおよび/またはGではない。IDH2の残基515はGではない。
【0011】
本発明の別の局面は、哺乳動物を免疫化する方法である。ヒトIDH1タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基を含むIDH1ポリペプチド、またはヒトIDH2タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基を含むIDH2ポリペプチドを、哺乳動物に投与する。この少なくとも8個の連続したアミノ酸残基は、IDH1の残基132またはIDH2の残基172を含む。残基132または残基172はアルギニンである。IDH1またはIDH2ポリペプチド上に認められるエピトープに対して免疫反応性のある抗体および/またはT細胞が産生される。
【0012】
本発明の別の局面として同じく提供されるのは、ヒトのIDH1タンパク質またはIDH2タンパク質の少なくとも8個でありかつ200個未満である連続したアミノ酸残基を含むIDH1またはIDH2ポリペプチドである。この少なくとも8個の連続したアミノ酸残基は、IDH1の残基132またはIDH2の残基172を含む。残基132または172はRである。
【0013】
本発明のまた別の局面は、ヒトにおける多型性神経膠芽腫(GBM)またはGBMの微小残存病変またはGBMの分子再発(molecular relapse)を検出または診断する方法である。被験標本における遺伝子またはそれにコードされたmRNAもしくはタンパク質での体細胞突然変異を、ヒトの正常標本と比べて判定する。遺伝子は、図10、表S7に列記されたものからなる群より選択される。該ヒトは、体細胞突然変異が判定された場合、多型性神経膠芽腫、GBMの微小残存病変または分子再発を有する可能性が高いとして同定される。
【0014】
本発明のさらに別の局面は、ヒトにおける多型性神経膠芽腫を特徴決定する方法である。被験標本における少なくとも1つの遺伝子またはそれにコードされたcDNAもしくはタンパク質での体細胞突然変異をヒトの正常標本と比べて判定することにより、多型性神経膠芽腫に関するCAN遺伝子の突然変異シグネチャーを決定する。遺伝子は、図10、表S7に列記されたものからなる群より選択される。この多型性神経膠芽腫は、CAN遺伝子突然変異シグネチャーを有する、多型性神経膠芽腫腫瘍の第1群に割り当てられる。
【0015】
本発明によって提供されるもう1つの方法は、ヒトにおける多型性神経膠芽腫腫瘍を特徴決定するためのものである。被験標本における少なくとも1つの体細胞突然変異をヒトの正常標本と比べて判定することにより、多型性神経膠芽腫腫瘍におけるTP53、RB1およびPI3K/PTENからなる群より選択される突然変異した経路を同定する。この少なくとも1つの体細胞突然変異は、TP53、MDM2、MDM4、RB1、CDK4、CDKN2A、PTEN、PIK3CA、PIK3R1およびIRS1からなる群より選択される1つまたは複数の遺伝子内に存在する。この多型性神経膠芽腫は、前記経路の1つに突然変異を有する、多型性神経膠芽腫腫瘍の第1群に割り当てられる。第1群は、体細胞突然変異を有する経路内の遺伝子に関しては不均一であり、体細胞突然変異を有する経路に関しては均一である。
【0016】
同じく提供されるのは、ヒトにおける多型性神経膠芽腫またはGBMの微小残存病変またはGBMの分子再発を検出または診断するための方法である。臨床標本において、図10、表S5またはS9(SAGEの結果脳で過剰発現していた遺伝子)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する。臨床標本における1つまたは複数の遺伝子の発現を、対照ヒトまたはヒトの対照群の対応する標本における1つまたは複数の遺伝子の発現と比較する。対照と比べて発現が増大している臨床標本は、ヒトにおける多型性神経膠芽腫またはGBMの微小残存病変またはGBMの分子再発を有する可能性が高いとして同定される。
【0017】
本発明の別の局面は、多型性神経膠芽腫の負荷量をモニターするための方法である。臨床標本における発現を、図10、表S5またはS9(SAGEの結果脳で過剰発現していた遺伝子)に列記された1つまたは複数の遺伝子について測定する。測定段階を1回または複数回繰り返す。経時的に増大した、低下した、または安定な発現レベルを同定する。
【0018】
本発明のさらに別の局面は、多型性神経膠芽腫の負荷量をモニターするための方法である。臨床標本での体細胞突然変異を、図10、表S7に列記された1つまたは複数の遺伝子について判定する。判定段階を1回または複数回繰り返す。経時的に増大した、低下した、または安定な前記体細胞突然変異レベルを同定する。
【0019】
本発明のまた別の局面は、多型性神経膠芽腫を検出または診断するための方法に関する。臨床標本における、図10、表S6(ホモ接合性欠失)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する。臨床標本における1つまたは複数の遺伝子の発現を、対照ヒトまたはヒトの対照群の対応する標本における1つまたは複数の遺伝子の発現と比較する。対照と比べて発現が低下している臨床標本は、多型性神経膠芽腫を有する可能性が高いとして同定される。
【0020】
本発明の1つのさらなる局面は、多型性神経膠芽腫の負荷量をモニターする方法である。臨床標本における、図10、表S6(ホモ接合性欠失)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する。測定段階を1回または複数回繰り返す。経時的に増大した、低下した、または安定な発現レベルを同定する。
【0021】
本明細書を読めば当業者には明らかであると考えられるこれらの態様および他の態様は、GBMの解析、検出、層別化および治療のための新たなツールを当技術分野に提供するものである。
【0022】
配列表は本出願の一部である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】IDH1における配列変化。IDH1遺伝子のコドン132での体細胞突然変異の代表例である。一番上の配列クロマトグラムは正常組織由来のDNAの解析から得たものであり、下の方のクロマトグラムは表記のGBM標本から得た。矢印は、表記のアミノ酸変化をもたらす、再発性のヘテロ接合性ミスセンス突然変異C394A(腫瘍Br104Xにおいて)およびG395A(腫瘍Br129Xにおいて)の場所を指し示している。
【図2】IDH1の活性部位の構造である。ヒトのサイトゾルNADP(+)依存性IDHの結晶構造をリボン形式で示している(PDBID:1T0L)(42)。IDH1の活性クレフトは、NADP結合部位およびイソクエン酸-金属イオン結合部位からなる。イソクエン酸のα-カルボン酸酸素およびヒドロキシル基がCa2+イオンをキレート化する。NADPは橙色で、イソクエン酸は紫色で、Ca2+は青色で示されている。黄色で表示されているArg132残基は、イソクエン酸のα-カルボン酸と、赤色で示されている疎水性相互作用を形成する。
【図3】IDH1突然変異の状態別にみた45歳未満の患者における全生存率である。突然変異したIDH1を有する患者における死亡に関するハザード比は、野生型IDH1を有する者との比較で0.19であった(95%信頼区間、0.08〜0.49;P<0.001)。生存期間の中央値は、突然変異したIDH1を有する患者については3.8年であり、これに対して野生型IDH1を有する患者については1.5年であった。
【図4】図4A〜4Bは、ヒト神経膠腫におけるIDH1突然変異およびIDH2突然変異である。図4A. ヒト神経膠腫において同定された、IDH1におけるコドンR132(下)およびIDH2におけるR172(上)での突然変異の概略図。IDH1のコドン130〜134およびIDH2のコドン170〜174を示している。各突然変異を有する患者の数(n)を、図の右に列記している。図4B. ヒト神経膠腫および他の型の腫瘍における、IDH1突然変異およびIDH2突然変異の数および頻度。非CNS性癌には、肺癌35例、胃癌57例、卵巣癌27例、乳癌96例、結腸直腸癌114例、膵癌95例、前立腺癌7例、ならびに慢性骨髄性白血病4例、慢性リンパ球性白血病7例、急性リンパ芽球性白血病7例および急性骨髄性白血病45例からの末梢血検体が含まれた。
【図5】図5A〜5Bは、IDH1突然変異およびIDH2突然変異の状態別にみた、悪性神経膠腫を有する患者に関する生存期間である。退形成性星状細胞腫を有する患者の場合(図5A)、生存期間の中央値は、突然変異したIDH1またはIDH2を有する患者については65カ月であり、これに対して、野生型のIDH1およびIDH2を有する患者については19カ月であった。GBMを有する患者の場合(図5B)、生存期間の中央値は、突然変異したIDH1またはIDH2を有する患者では39カ月であり、これに対して、野生型のIDH1およびIDH2を有する患者については13.5カ月であった。
【図6】悪性神経膠腫の発生のモデルである。それぞれの型の腫瘍について、頻度の高い遺伝子変化(IDH1/IDH2突然変異、TP53突然変異、1p 19q欠損およびCDKN2A欠損)を図示している。遺伝子変化の詳細な頻度は、表1および2または参考文献1に含まれている。全体として、右側の腫瘍はIDH変化を獲得しており、一方、左側のものはそうでない。
【図7】IDH1およびIDH2における配列変化である。IDH1遺伝子のコドン132(上)およびIDH2遺伝子のコドン172(下)での体細胞突然変異の代表例。いずれの場合にも、一番上の配列クロマトグラムは正常組織由来のDNAの解析によって得たものであり、一方、下の方のクロマトグラムは表記の腫瘍標本から得た。矢印は、腫瘍TB2604(退形成性星状細胞腫)、640(退形成性星状細胞腫)および1088(退形成性乏突起細胞腫)においてのIDH1における、ならびに腫瘍H883(退形成性星状細胞腫)およびH476(退形成性乏突起細胞腫)においてのIDH2における、ミスセンス突然変異およびその結果生じるアミノ酸変化の場所を指し示している。
【図8】進行性神経膠腫においてのIDH1における配列変化である。IDH1のコドン132での体細胞突然変異の代表例を、3つの代表的な場合について図示している。一番上の配列クロマトグラムは正常組織由来のDNAの解析によって得たものであり、一方、下の方のクロマトグラムは表記の脳腫瘍標本から得た。矢印は、IDH1における突然変異およびその結果生じるアミノ酸変化の場所を指し示している。すべての場合に、各患者由来の相対的に低悪性度の腫瘍および相対的に高悪性度の腫瘍において、同一なIDH1突然変異が見いだされた。
【図9】図9A〜9Bは、突然変異したIDHおよび野生型IDHを有する神経膠腫患者の年齢分布である。野生型IDH遺伝子(図9A)または突然変異したIDH遺伝子(図9B)を有する患者における、乏突起細胞腫(O)、退形成性乏突起細胞腫(AO)、びまん性星状細胞腫(DA)、退形成性星状細胞腫(AA)および多型性神経膠芽腫(GBM)の年齢分布。
【図10】表S3〜S10の大要である。表S3(GBM探索スクリーニングで同定された体細胞突然変異)。表S4(有病者スクリーニングでの体細胞突然変異)、表S5(増幅された遺伝子)、表S6(ホモ接合性欠失遺伝子)、表S7(上位のCAN-候補遺伝子)、表S8(GBMにおいて遺伝子変化が濃縮している候補遺伝子セット)、表S9(SAGEにおける過剰発現遺伝子)および表S10(SAGEにおける過剰発現遺伝子の細胞外サブセット)。
【図11】脳腫瘍の遺伝学的および臨床的な特徴の概要である。
【図12】IDH1/IDH2突然変異型および野生型の神経膠腫において頻度の高い遺伝子変化の頻度の評価である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
ゲノム全体にわたるGBMの解析において、本発明者らは、解析したGBMのほぼ12%で、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1遺伝子(IDH1)のコドン132の体細胞突然変異を同定した16。これらの突然変異は、続発性GBMにおいてより高い頻度で見いだされた(評価した患者6例中5例)。これらのデータの1つの解釈は、IDH1突然変異が比較的低悪性度の神経膠腫のサブセットで起こり、それらをGBMへと進行させたというものである。この可能性について評価するために、本発明者らはさまざまな型の多数の神経膠腫を解析した。注目すべきことに、本発明者らは、早期の悪性神経膠腫の大半においてIDH1突然変異を同定した。さらに、IDH1突然変異を有しない神経膠腫の多くは、密接な関連があるIDH2遺伝子において類似する突然変異を有していた。これらの結果は、IDH突然変異が悪性神経膠腫の発生において早期かつ必須な役割を果たすことを示唆する。
【0025】
体細胞突然変異とは、個々の生体の生存期間中に、特定の体細胞クローンで起こる突然変異のことである。この突然変異はこのため、遺伝されることも継代されることもない。この突然変異は、他の細胞、組織、臓器に比しての違いとして出現すると考えられる。癌性であると疑われる脳組織での体細胞突然変異を検査する場合には、非新生物性であると思われる正常脳組織と、または血液細胞のような脳以外の標本と、または非罹患個体からの標本との比較を行うことができる。
【0026】
健常組織においてIDH1のコドン132およびIDH2のコドン172での頻度の高いアミノ酸はアルギニン(R)である。IDH1のコドン132のヒスチジン(H)、セリン(S)およびシステイン(C)、ロイシン(L)およびグリシン(G)による置換、ならびにIDH2のコドン172のメチオニン(M)、リジン(K)およびグリシン(G)による置換を有する突然変異コドンが見いだされている。コドン132およびコドン172での突然変異は、DNA、mRNAまたはタンパク質のレベルでのものを含む、当技術分野で公知の任意の手段を用いて検出することができる。アルギニン-132型のこの酵素、ヒスチジン-132型の酵素、セリン-132型の酵素、ロイシン-132型の酵素、グリシン-132型の酵素またはシステイン-132型の酵素と特異的に結合する抗体を、突然変異検出のための解析に用いることができる。同様に、アルギニン-172、メチオニン-172、リジン-172またはグリシン-172型のIDH2と特異的に結合する抗体を、突然変異検出のための解析に用いることができる。同様に、IDH1またはIDH2のコード配列の構成内部にこれらのアミノ酸残基に関するコドンを含むプローブを、異なる型の遺伝子またはmRNAを検出するために用いることもできる。これらのコドンの全体または一部を含むプライマーを、アレル特異的な増幅または伸長のために用いることもできる。これらのコドンの周囲の領域とハイブリダイズするプライマーをコドンを増幅するために用いて、その後に引き続いてIDH1のコドン132またはIDH2のコドン172を含む増幅領域の解析を行うことができる。
【0027】
興味深いことに、IDH1のコドン132突然変異およびIDH2のコドン172突然変異は、続発性GBMおよび良好な予後と強く関連していることが見いだされている。IDH1の132番目のアミノ酸残基および/またはIDH2の172番目のアミノ酸残基に関して層別化された膠芽腫患者の群に対して、薬物の試験を行うことができる。これらの群は、野生型(アルギニン)および変異体(複合)または変異体(それぞれ別個)を含みうる。薬物感受性を各群について測定し、特定の突然変異または野生型(アルギニン)に比して有効であるかまたは有効でないと考えられる薬物を同定することができる。感受性および耐性の情報はいずれも、治療上の決断を導く上で有用である。
【0028】
ひとたびコドン132または172突然変異がある腫瘍で同定されれば、IDH1またはIDH2のインヒビターを治療的に用いることができる。そのようなインヒビターは、腫瘍における突然変異に対して特異的であってもよく、または単にIDH1もしくはIDH2のインヒビターであってもよい。低分子インヒビターのほか、抗体および抗体誘導体を用いることもできる。そのような抗体には、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、ScFv抗体、ならびに1つまたは複数の抗体Fv部分を含む他の構築物が含まれる。抗体は例えば、ヒト化抗体、ヒト抗体またはキメラ抗体でありうる。抗体は武装しても(armed)よく、武装しなくても(unarmed)よい。武装した抗体は例えば、毒素または放射性部分とコンジュゲートさせることができる。武装していない抗体は、腫瘍細胞と結合して抗体依存性細胞媒介性細胞傷害などの宿主免疫過程に関与するように働く。抗体は、野生型のIDH1もしくはIDH2と比べて突然変異体に優先的に結合してもよく、野生型IDH1もしくはIDH2と比べて突然変異体と特異的に結合してもよく、または突然変異体および野生型IDH1もしくはIDH2の両方と等しく結合してもよい。好ましくは、抗体は、コドン132またはコドン172を含む可能性のある活性部位内のエピトープと結合すると考えられる。エピトープは、タンパク質の一次配列に沿って連続的であっても不連続的であってもよい。インヒビターには、α-メチルイソクエン酸、アルミニウムイオンまたはオキサロリンゴ酸塩が含まれうる。他のインヒビターを用いてもよく、任意で、分光学的解析(Kornberg, A., 1955)および生物発光解析(Raunio, R. et al., 1985)を含む当技術分野で公知の酵素解析を用いて同定することもできる。または、インヒビターを結合試験によって、例えばインビトロまたはインビボ結合解析などによって同定することもできる。また、IDH1またはIDH2と結合するペプチドおよびタンパク質をインヒビターとして用いることもできる。
【0029】
発現を阻害するために阻害性RNA分子を用いてもよい。これらは例えば、siRNA、マイクロRNAまたはアンチセンス性のオリゴヌクレオチドまたは構築物であってよい。これらは、ヒトにおいてIDH1またはIDH2を適宜阻害するために用いることができる。
【0030】
抗体、ポリヌクレオチド、タンパク質、低分子または抗体に関する潜在的な治療有効性は、細胞、組織、動物個体またはタンパク質と接触させることにより、試験することができる。有効性の指標には、酵素活性の改変、癌細胞成長の阻害、期待余命の延長、癌細胞増殖の阻害、癌細胞アポトーシスの刺激、および腫瘍成長の阻害または遅延が含まれる。当技術分野で公知の任意の解析を非限定的に用いることができる。候補の組み合わせおよび候補と公知の作用因子との組み合わせも同じく評価することができる。公知の作用因子には、例えば、化学療法用抗癌剤、抗体およびホルモンなどの生物学的抗癌剤、放射線照射が含まれうる。
【0031】
腫瘍を有する人もしくは哺乳動物において、腫瘍が発生する恐れのある人において、または見かけ上は健常な個体において、膠芽腫に対する免疫応答を生じさせるかまたは増大させる目的で、その人または哺乳動物にポリペプチドを投与することができる。ポリペプチドは典型的には、残基132を含むヒトIDH1タンパク質の、または残基172を含むIDH2の、少なくとも6個、少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも12個または少なくとも14個の連続したアミノ酸残基を含むと考えられる。典型的には、しかし必ずしもではないが、ポリペプチドは、IDH1の残基132に、またはIDH2の残基172に、アルギニン以外の残基を含む。人または哺乳動物が腫瘍をすでに有している状況では、残基132のアミノ酸を腫瘍における残基と一致させるとよい。ポリペプチドはIDH1の全体を含んでもよいが、200個未満、150個未満、100個未満、50個未満、30個未満のアミノ酸残基を含むこともできる。本出願者らは何らかの作用機序に拘束されることを望んではいないが、ポリペプチド免疫化は抗体および/またはT細胞応答を介して作用すると考えられる。ポリペプチドは免疫アジュバントとともに投与することもでき、または免疫応答を刺激する部分とコンジュゲートさせることもできる。これらは当技術分野において周知であり、適宜用いることができる。
【0032】
IDH1またはIDH2上のエピトープと特異的に結合する抗体は、それらが他のタンパク質と結合するよりも高い結合活性またはより高い会合速度で結合する。好ましくは、そのより高い結合活性または会合速度は、そのエピトープを含まない他のタンパク質と比べて少なくとも約2倍、5倍、7倍または10倍である。
【0033】
単離されたポリヌクレオチドは、免疫化用のポリペプチドをコードして送達するために用いることができる。このポリヌクレオチドは、培養下にある宿主細胞においてポリペプチドを製造させるために用いることができ、または遺伝子療法の状況で、ワクチンのレシピエントにおいて発現後にインビボで免疫応答を生じさせるために用いてもよい。また、ポリヌクレオチドをプライマーまたはプローブとして用いることもでき、それは検出可能な標識で標識してもよく、標識しなくてもよい。プライマーは、例えば、IDH1のnt 394もしくはnt 395またはIDH2のヌクレオチド515のいずれかに隣接するがそれを含まないヌクレオチドに対して相補的なプライマーを用いる、プライマー伸長のために用いることができる。産物は、標識ヌクレオチドを試薬として用いて検出および識別することができる。解析物の実体を容易に判定しうるように、異なるヌクレオチドに対して異なる標識を用いてもよい。典型的には、プライマーまたはプローブとして用いるためのポリヌクレオチドは、IDH1またはIDH2のコード配列の少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも14個、少なくとも16個、少なくとも18個、少なくとも20個の連続したヌクレオチドを含むと考えられる。典型的には、ポリヌクレオチドは、IDH1またはIDH2のコード配列の600個未満、500個未満、400個未満、300個未満、200個未満、100個未満のヌクレオチドを含むと考えられる。
【0034】
本発明者らのデータにより、IDH1が、GBMを有する患者における遺伝子変化の主要な標的として同定された。この遺伝子における突然変異はいずれも、イソクエン酸結合部位の内部に位置する進化的に保存された残基である位置132でのアミノ酸置換をもたらした(42)。加えて、以前に報告されていたIDH1の唯一の突然変異は、結腸直腸癌患者においてこの同じ残基に影響を及ぼす別のミスセンス突然変異であった(10)。これらのIDH1突然変異の機能的な影響は不明である。これらの突然変異の再発性は、BRAF、KRASおよびPIK3CAなどの他の癌遺伝子における活性化性の変化を連想させる。この突然変異は活性化性であろうという予測は、観察された不活性化性の変化(すなわち、フレームシフト突然変異または停止突然変異、スプライス部位変化)がないこと、活性部位の他の重要残基における変化がないこと、および現在までに観察されている突然変異がすべてヘテロ接合性である(LOHを介した第2のアレルの欠損の証拠が皆無である)という事実によって補強される。興味深いことに、酵素研究により、残基132のアルギニンのグルタミン酸による置換は触媒的に不活性な酵素をもたらすことが示されており、このことはこの残基がIDH1活性において決定的な役割を果たすことを示唆する(46)。しかし、GBMにおいて観察される置換の性質は質的に異なり、アルギニンがヒスチジンまたはセリンに変化する。ヒスチジンは、多くの酵素の触媒活性の一部としてカルボン酸と水素結合相互作用を形成し(47)、Arg132とイソクエン酸のα-カルボン酸との公知の相互作用に対しても類似の機能を果たしうると考えられる。R132H変化はより高い総触媒活性を招くと想定しうる。IDH1の活性増大は、より高レベルのNADPHをもたらし、反応性酸素種に対する細胞防御を上乗せし、アポトーシスを防止し、細胞生存および腫瘍成長を増加させることが予想される。酵素活性および細胞表現型に対するIDH1の変化の影響を明らかにするために、さらなる生化学的および分子的な解析が必要であると考えられる。
【0035】
IDH1およびIDH2の変化の固有の分子的帰結にかかわらず、IDH1およびIDH2における突然変異の検出が臨床的に有用であると考えられることは明らかである。原発性および続発性GBMにおける特徴的な遺伝子病変の同定に向けて多大な努力が注力されてきたが、現在までに同定されている変化した遺伝子は、この目的に万全であるというには程遠い。例えば、原発性GBMと続発性GBMとを比較すると、TP53はそれぞれほぼ30%および65%で突然変異しており、EFGR増幅はほぼ35%および5〜10%に存在し、PTEN突然変異はほぼ25%およびほぼ5%に存在する(5)。本発明者らの研究により、IDH1突然変異は続発性GBMに関する新規かつ有意により特異的なマーカーであり、解析した続発性GBM標本の6件中5件(83%)がこの遺伝子に突然変異を有していたが、一方、そのような変化を有していた原発性GBM患者は99例中7例(7%)に過ぎないことが判明した(P<0.001、二項検定)。IDH1突然変異を有していなかった唯一の続発性GBM患者の標本は遺伝学的にも臨床的にも特異であり、PTENの突然変異は保有するがTP53の突然変異は保有しておらず、神経節神経膠腫(稀に悪性転換を来すことが知られている)と以前に診断された比較的高齢の患者(56歳)で生じたものであった(48)。この患者は全く関係ない2種類の別個のCNS腫瘍を有しており、この症例におけるGBMは実際には原発性腫瘍であった可能性がある。
【0036】
1つの興味深い仮説は、IDH1変化により、続発性GBMを有すると分類されると考えられる患者、さらには類似の腫瘍病態およびより遷延的な臨床経過を有する原発性GBM患者のサブグループを含む、GBM患者の生物学的に特異なサブグループが同定されるというものである(表4)。興味深いことに、IDH1突然変異を有する患者では、TP53突然変異を有する頻度が極めて高く、高い頻度で変化している他のGBM遺伝子の突然変異の頻度は極めて低かった。例えば、そのような患者は、症例の83%(患者12例中10例)においてTP53突然変異を有する一方で、EGFR、PTEN、RB1およびNF1のいずれの突然変異も検出されなった;対照的に、これと同じ突然変異パターンを有したのは、野生型IDH1を有する患者の12%(93例中11例)に過ぎなかった(図12)(P<0.001、二項検定)。この相対的な遺伝的均一性に加えて、突然変異したIDH1を有する患者は、比較的年齢が若く、臨床予後が有意に改善していることを含む明確な臨床的特徴を、年齢およびTP53突然変異の状態(これらはいずれも生存期間の改善と関連がある)に関する調整後にも有していた(表4)。おそらく最も驚くべきこととして、彼らは全員、これまではGBMとも他の癌とも遺伝的連鎖が認められていなかったタンパク質であるIDH1の単一のアミノ酸残基に共通の突然変異を有していた。この予期しない結果は、ヒト癌の研究における遺伝子変化に関するゲノム全体にわたるスクリーニングの有用性を明らかに実証するものである。
【0037】
GBM腫瘍において認められる突然変異を、図10、表S7に示している。これらの突然変異を、疑いのある腫瘍組織標本、血液、CSF、尿、唾液、リンパ液その他といった被験標本において検出することができる。体細胞突然変異は典型的には、被験標本における配列を、健常脳組織からのもののような正常対照標本における配列と比較することによって判定される。1つまたは複数の突然変異をこの目的に利用することができる。患者が手術を受けている場合には、腫瘍境界部または残存組織における突然変異の検出を、微小残存病変または分子再発の検出のために利用することができる。GBMが以前に診断されていない場合には、突然変異は、例えば、生化学マーカーおよび放射線学的所見を非限定的に含む、他の身体所見または臨床検査結果と併せて、診断を助ける役割を果たしうる。
【0038】
CAN遺伝子シグネチャーを、GBMを特徴決定する目的で決定することができる。シグネチャーとは、CAN遺伝子における1つまたは複数の体細胞突然変異のセットのことである。GBMに関するCAN遺伝子は、図10、表S7に列記されている。ひとたびそのようなシグネチャーが決定されれば、GBMをそのシグネチャーを共有するGBMの群に割り当てることができる。その群は、予後を割り当てるため、臨床試験群に割り当てるため、治療レジメンを割り当てるため、ならびに/またはさらなる特徴決定および研究のために割り当てるために用いることができる。臨床試験群において、薬物を、シグネチャーを有するGBMおよび有しないGBMに異なる影響を及ぼす能力に関して評価することができる。ひとたび異なる効果が明らかにされれば、そのシグネチャーを利用して、患者を薬物レジメンに割り当てること、または薬物が有益な効果を及ぼさないと考えられる患者を不必要に治療することを避けることができる。臨床試験における薬物は、これまでは別の目的で知られているもの、これまでにGBMを治療する目的で知られているもの、またはこれまでは治療薬として未知であったものでありうる。CAN遺伝子シグネチャーは、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個の遺伝子を含みうる。特定のシグネチャーにおける遺伝子または突然変異の数は、そのシグネチャーにおけるCAN遺伝子の実体に応じて異なりうる。標準的な統計学的解析を利用することで、CAN遺伝子シグネチャーの所望の感受性および特異性を達成することができる。
【0039】
解析したGBM腫瘍における突然変異した遺伝子の解析により、複数の経路の興味深い関与が明らかになった。いくつかの経路は、GBMにおいて突然変異を高頻度に有していた。ある単一遺伝子の突然変異は、特定の腫瘍において、その経路内にある別の遺伝子における突然変異の存在を排除するように思われる。GBMにおいて高頻度に突然変異している経路は、TP53経路、RB1経路、PI3K/PTEN経路である。経路は、MetaCore Gene Ontology(GO)データベース、MetaCoreカノニカル遺伝子経路マップ(MA)データベース、MetaCore GeneGo(GG)データベース、Panther、TRMP、KEGG、およびSPADデータベースといった標準的なレファレンスデータベースの任意のものを用いて明確にすることができる。ある経路における突然変異の有無に基づいて、複数の群を形成することができる。そのような群は、突然変異した遺伝子に関しては不均一であるが、突然変異した経路に関しては均一であると考えられる。CAN遺伝子シグネチャーの場合と同じく、これらの群を利用することでGBMを特徴決定することができる。ひとたびある経路における突然変異が判定されれば、GBMを、突然変異した経路を共通に有するGBMの群に割り当てることができる。その群は、予後を割り当てるため、臨床試験群に割り当てるため、治療レジメンを割り当てるため、ならびに/またはさらなる特徴決定および研究のために割り当てるために用いることができる。臨床試験群において、薬物を、突然変異した経路を有するGBMおよび有しないGBMに異なる影響を及ぼす能力に関して評価することができる。ひとたび異なる効果が明らかにされれば、その経路を利用して、患者を薬物レジメンに割り当てること、または薬物が有益な効果を及ぼさないと考えられる患者を不必要に治療することを避けることができる。臨床試験における薬物は、これまでは別の目的で知られているもの、これまでにGBMを治療する目的で知られているもの、またはこれまでは治療薬として未知であったものでありうる。突然変異型であることが見いだされる可能性のある経路内の遺伝子の中には、以下のものがある:TP53、MDM2、MDM4、RB1、CDK4、CDKN2A、PTEN、PIK3CA、PIK3RIおよびIRS1。このリストは必ずしも網羅的ではない。
【0040】
発現レベルを測定することが可能であり、過剰発現は、新たなGBM腫瘍、分子再発またはGBMの微小残存病変を指し示している可能性がある。GBM腫瘍において認められる発現の高度の増大は、図10、表S5および図10、表S9に示されている。これらの過剰発現遺伝子を、疑いのある腫瘍組織標本、血液、CSF、尿、唾液、リンパ液その他といった被験標本において検出することができる。発現増大は典型的には、被験標本における発現を、健常脳組織からのもののような正常対照標本における発現と比較することによって判定される。1つまたは複数の遺伝子の発現増大を、この目的に利用することができる。患者が手術を受けている場合には、腫瘍境界部または残存組織における発現増大の検出を、微小残存病変または分子再発の検出のために利用することができる。GBMが以前に診断されていない場合には、発現増大は、例えば、生化学マーカーおよび放射線学的所見を非限定的に含む、他の身体所見または臨床検査結果と併せて、診断を助ける役割を果たしうる。これらの目的には、mRNAの増大を検出するためのSAGEまたはマイクロアレイ、およびタンパク質発現の増大を検出するためのさまざまな解析形式に用いられる抗体を含む、発現を定量するための当技術分野で公知の任意の手段を用いることができる。タンパク質発現を検出するためには、図10、表S10に列記された遺伝子が特に有用である。
【0041】
腫瘍負荷量は、図10、表S7に列記された突然変異を用いてモニターすることができる。これは例えば、慎重な経過観察様式で、または有効性をモニターするための治療法の間に用いることができる。体細胞突然変異をマーカーとして用いて、経時的に検出可能なDNA、mRNAまたはタンパク質のレベルを解析することにより、腫瘍負荷量を指し示すことができる。標本における突然変異のレベルは、解析期間にわたって増大する、低下する、または安定に保たれる可能性がある。そのようなモニタリングを、治療的な処置およびタイミングのための手引きとすることができる。
【0042】
GBMの解析により、ホモ接合性に欠失しているいくつかの遺伝子が明らかになった。これらは図10、表S6に列記されている。これらの遺伝子のうち1つまたは複数の発現の欠損の判定を、GBMのマーカーとして用いることができる。これは、血液もしくはリンパ節の標本において、または脳組織標本において行うことができる。これらの遺伝子のうち1つまたは複数の発現を検査することができる。ELISAまたはIHCなどの手法を、標本におけるタンパク質発現の減少または欠損を検出するために用いることができる。同様に、図10、表S6に列記されたホモ接合性欠失遺伝子を、腫瘍負荷量を経時的にモニターするために用いることもできる。発現のレベルの増大、低下、またはレベルの安定を確認しうるように、発現を繰り返しモニターすることができる。
【0043】
突然変異およびコピー数変化に関するこの統合解析によって得られたデータは、膠芽腫の遺伝学的景観(genetic landscape)に関する新たな見解をもたらした。点突然変異、増幅および欠失を含むさまざまな種類の遺伝学的データの組み合わせにより、GBMにおける複雑な細胞経路および過程において優先的に影響を受ける可能性のある個々のCAN遺伝子、さらには遺伝子の群の同定が可能になる。突然変異、増幅または欠失によってGBMにおいて影響されることが以前に示されている事実上すべての遺伝子が同定されたことは、本発明者らが採用した包括的ゲノムアプローチを実証するものである。
【0044】
しかし、本発明者らのアプローチには、ゲノム全体にわたる研究のすべてと同じく、限界があることに留意すべきである。第1に、本発明者らは、腫瘍発生において重要な役割を果たしうると考えられる遺伝子変化の1つの型である染色体転座を評価していない。しかし、再発性染色体転座の観察所見は、GBMの細胞遺伝学的研究において稀にしか報告されていない。本発明者らはまた、後成的変化も評価していないものの、本発明者らの大規模発現研究により、この機序を介して差異を伴って発現される、あらゆる遺伝子が同定されたはずである(図10、表S9)。さらに、コピー数変化に関して、本発明者らは、真に増幅されるかまたはホモ接合性に欠失している領域に注力したが、それはこれらが癌遺伝子を同定する上で歴史的に最も有用であったためである。しかし、これらの標本に関して本発明者らが生成したSNPアレイデータは、解析することで、ヘテロ接合性の消失(LOH)、または真の増幅イベントではなくて重複に起因するわずかなコピー数の増加を判定することのできる情報を含んでいる。CDKN2AまたはNF1などの既知の癌遺伝子に関するそのようなデータの解析により、これらの領域にLOHを有するさらなる腫瘍が同定されているが、GBMにおいてLOHを受けるのがゲノムのかなりの割合であることを考慮すれば、そのような観察は一般に、新たな癌遺伝子候補を正確に特定する上ではあまり役立たない可能性が高い。さらに、本発明者らの解析に用いた原発性腫瘍は、この種の標本に関して常であるように少量の混入性正常組織を含んでおり、このことにより、本発明者らがそのような特定の腫瘍におけるホモ接合性欠失を検出する能力、さらには程度は落ちるものの、体細胞突然変異を検出する能力は制限された。このことは、本発明者らが組織学的および分子生物学的な基準により、間質成分をごくわずかしか含まないようにこれらの腫瘍を慎重に選択したにもかかわらず、そうであった。この観察所見は、そのような大規模ゲノム研究にとっての初期継代異種移植片および細胞株の価値を思い起こさせる重要な事項である。
【0045】
これらの限界にもかかわらず、本発明者らの研究は、GBMについて、いくつかの重要な遺伝学的および臨床的な見識を与えた。これらのうち第1のものは、GBMにおいて変化していることが知られている経路が、これまでに予想されたよりも多くの割合の遺伝子メンバーおよび患者に影響を及ぼすことである。解析した腫瘍の大半は、TP53経路、RB1経路およびPI3K経路のそれぞれのメンバーにおける変化を有していた。経路のメンバーにおける突然変異を有する癌は、1例を除いてすべて、同じ経路の他のメンバーにおける変化を有していなかったという事実には大きな意義があり、このことは、そのような変化は腫瘍発生において機能的に等価であることを示唆する。これらの観察所見はまた、GBMにおけるこれらの経路への治療的介入の可能性も明確に示している。第2の観察所見は、これまでGBMとは関連づけられていなかった種々の新たな遺伝子および経路が同定されたことである。検出された新たな経路のうち、これらのいくつかは脳特異的なイオン輸送およびシグナル伝達の過程に関与しているように思われ、GBMの生物学的現象における興味深く、かつ有用な可能性のある局面であるように思われる。
【0046】
これらのデータは直ちに、GBMを有する患者、さらには比較的低悪性度の神経膠腫を有する者の治療およびカウンセリングに関して、重要な意味のある疑問を提起する。例えば、IDHにおける突然変異は、比較的低悪性度の神経膠腫(WHOグレードI〜III)と診断された患者のサブセットにも存在するのであろうか。IDH1突然変異が神経膠腫の進行における比較的初期の遺伝学的イベントであることが実際に見いだされたならば、これらの患者はGBMへの進行のリスクが増大しているのであろうか。どの低悪性度神経膠腫患者にアジュバント放射線療法または化学療法を受けさせるか(およびどの程度積極的な治療であるべきか)を決断することの大きな臨床的困難を考慮すれば、ある患者で悪性進行のリスクが増大しているとの知見は、そのような治療上の決断のリスク-便益解析を大きく変えると考えられる。放射線療法が神経認知学的な発達および機能に特に破壊的な影響を及ぼす恐れのある小児患者の場合、これらの決断は特に困難であり、補足的なリスク分類はいずれも特に有用と考えられる。IDH突然変異はまた、GBMの長期生存者が時折みられることの1つの生物学的な説明も与えると考えられ、現時点で利用しうる個々の治療法によって特に便益を受けると考えられる患者を同定する一助にもなりうると考えられる。IDHの臨床マーカーとしての有用性は、突然変異の状態を判定するためには遺伝子の単一のコドンを調べることしか必要でないという事実によってさらに高まるように思われる。さらに、単剤療法または他の薬剤との組み合わせのいずれかとして、これらのIDH変化を利用した新たな治療薬を設計することも想定しうる。この線に沿って、ミトコンドリアIDH2の阻害は、種々の化学療法剤に対する腫瘍細胞の感受性の増大をもたらすことが最近示されている(49)。以上をまとめると、GBM患者のサブセットおよび少なくとも1つの他の型の癌におけるIDH突然変異に関するこの知見は、ヒト腫瘍発生のこれまでは正しく評価されていなかった局面に光を当てることのできる新たな研究方法を切り開くものである。
【0047】
以上の開示は、本発明を全般的に説明している。本明細書において開示された参考文献はすべて、参照により明示的に組み入れられる。以下の具体的な例を参照することによって、より完全な理解を得ることができるが、これらは例示のみを目的として提供され、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0048】
実施例1
材料および方法
Duke大学のPreston Robert Tisch Brain Tumor CenterのTissue Bankおよび共同研究施設から入手した原発性腫瘍および異種移植片の標本、ならびに患者と条件を揃えた正常血液リンパ球から、以前の記載の通りに17、DNAを抽出した。解析する脳腫瘍はすべて、2人の神経病理医による共同審査を受けた。脳腫瘍の集団は、毛様細胞性星状細胞腫21例および上衣下巨細胞性神経膠腫2例(WHOグレードI);びまん性星状細胞腫31例、乏突起細胞腫51例、乏突起星状細胞腫3例、脳室上衣腫30例および多形性黄色星状細胞腫7例(WHOグレードII);退形成性星状細胞腫43例、退形成性乏突起細胞腫36例および退形成性乏突起星状細胞腫7例(WHOグレードIII);GBM 178例および髄芽腫55例(WHOグレードIV)からなった。GBM標本の内訳は原発性症例165例および続発性症例13例であった。GBM 15例は20歳未満の患者からであった。続発性GBMは、比較的低悪性度の神経膠腫(WHO I〜III)と以前に診断されてから1年よりも後に切除されたGBMと定義した。GBMに関する本発明者らのゲノム全体にわたる以前の突然変異解析16で解析したのは、このGBM 178例のうち66例であったが、比較的低悪性度の腫瘍は皆無であった。脳腫瘍のほかに、非CNS性癌の494例も調べた:肺癌35例、胃癌57例、卵巣癌27例、乳癌96例、結腸直腸癌114例、膵癌95例、前立腺癌7例、慢性骨髄性白血病4例、慢性リンパ球性白血病7例、急性リンパ芽球性白血病7例および急性骨髄性白血病45例。標本はすべて、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)に準拠して入手した。組織検体の収集は、Duke University Health Systemの施設内審査委員会および共同研究施設の対応するIRBによる承認を得た。
【0049】
各患者について、以前の記載の通りに16、条件を揃えた腫瘍DNAおよび正常DNAにおけるIDH1遺伝子のエキソン4をPCR増幅し、シークエンシングを行った。R132 IDH1突然変異を有しない選択された患者(グレードIIもしくはIIIの病変または続発性GBMを有するもの)において、IDH1の残りの7個のエキソンおよびIDH2の11個のエキソンすべてをシークエンシングし、突然変異に関して解析した。乏突起細胞腫、退形成性乏突起細胞腫、退形成性星状細胞腫およびGBMの集団において、TP53およびPTENのコード性エキソンもすべてシークエンシングを行った。EGFR増幅およびCDKN2A/CDKN2B欠失についても、同一の腫瘍における定量的リアルタイムPCRによって解析した18。乏突起細胞腫および退形成性乏突起細胞腫の標本を、以前の記載の通りに15,19、1pおよび19qでのヘテロ接合性の消失(LOH)に関して評価した。
【0050】
臨床情報には、出生日、被験標本の入手日、病理診断日、先行した比較的低悪性度の神経膠腫の診断の日および病状、被験標本の入手日よりも以前の放射線療法および/または化学療法の投与、最後に患者と接触した日、ならびに最後の接触時の患者の状態を含めた。生存解析のための臨床情報は、482例の原発性脳腫瘍患者すべてについて入手可能であった。Kaplan-Meier生存曲線をプロットし、生存分布をMantel Coxログランク検定およびWilcoxon検定によって比較した。全生存期間は、GBM診断日および死亡または患者との最後の接触の日を用いることによって計算した。IDH1/IDH2突然変異の出現と他の遺伝子変化との間の相関は、Fisherの直接確率検定を用いて検討した。
【0051】
実施例2
若齢GBM患者におけるIDH1の高頻度の変化
上位のCAN遺伝子リストには、これまでGBMと結びつけられていなかったいくつかの個々の遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子のうち最も高頻度に突然変異していたIDH1はイソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードし1、これはイソクエン酸のα-ケトグルタル酸への酸化的カルボキシル化を触媒して、NADPHの生成をもたらす。ヒトゲノム中には5種のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子がコード化されており、そのうち3種の産物(IDH3α、IDH3β、IDH3γ)は、ミトコンドリア内でヘテロ四量体(α2βγ)を形成し、NAD(+)を電子受容体として利用してトリカルボン酸経路の律速段階を触媒する。第4のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH2)も同じくミトコンドリアに局在しているが、これはIDH1と同じく、NADP(+)を電子受容体として利用する。IDH1産物は、残りのIDHタンパク質とは異なり、細胞質およびペルオキシソームの内部に含まれる(41)。このタンパク質は非対称性ホモ二量体を形成し(42)、ペルオキシソーム内および細胞質での生合成過程に向けてNADPHおよびα-ケトグルタル酸を再生させるように働くと考えられている。IDH1による細胞質NADPHの生成は、酸化損傷の細胞制御において重大な役割を果たすように思われる(43)(44)。他のIDH遺伝子、トリカルボン酸経路に関与する他の遺伝子、および他のペルオキシソームタンパク質のうち、遺伝的に変化していることが本発明者らの解析で見いだされたものは皆無であった。
【0052】
IDH1は、探索スクリーニングにおいて5件のGBM腫瘍で体細胞性に突然変異していることが見いだされた。驚いたことに、この5件はすべて、IDH1転写物の位置395にグアニンのアデニンへの変化である同一のヘテロ接合性点突然変異(G395A)を有し、これはタンパク質のアミノ酸残基132でのアルギニンのヒスチジンによる置き換え(R132H)をもたらした。結腸直腸癌に関する本発明者らの以前の研究では、この同じコドンが、単一の症例で隣接ヌクレオチドの変化によって突然変異しており、R132Cアミノ酸変化をもたらすことが見いだされている(10)。本発明者らの有病者スクリーニングで評価したさらに5件のGBMはヘテロ接合性R132H突然変異を有することが見いだされ、別の2件の腫瘍は同じアミノ酸残基に影響を及ぼす第3の別個の突然変異、R132Sを有していた(図1;表4)。R132残基は既知のすべての種で保存されており、基質結合部位に局在して、イソクエン酸のα-カルボン酸と疎水性相互作用を形成する(図2)(42,45)。
【0053】
IDH1突然変異およびそれらの潜在的な臨床的意義について、いくつかの重要な観察所見が得られた。第1に、IDH1における突然変異は比較的若齢のGBM患者で優先的に生じており、IDH1が突然変異した患者についての平均年齢は33歳であり、これに対して、野生型IDH1を有する患者については53歳であった(P<0.001、t-検定、表4)。35歳に満たない患者では、50%近く(19例中9例)がIDH1における突然変異を有していた。第2に、IDH1における突然変異は、35歳に満たない続発性GBM患者5例の全例を含め、続発性GBMの患者のほぼすべてで認められた(続発性GBM患者6例中5例において突然変異、これに対して原発性GBMの患者では99例中7例、P<0.001、二項検定)。第3に、IDH1突然変異を有する患者は予後が有意に改善しており、全生存期間中央値は3.8年であり、これに対して野生型IDH1を有する患者については1.1年であった(P<0.001、ログランク検定)。若齢であることおよび突然変異したTP53はGBM患者にとって正の予後因子であることが知られているが、IDH1突然変異と生存期間改善との間のこの関連性は、45歳未満の患者(図3、P<0.001、ログランク検定)、さらにはTP53突然変異を有する若齢患者のサブグループ(P<0.02、ログランク検定)においてさえも認められた。
【0054】
実施例3
多型性神経膠芽腫(GBM)のDNA標本
GBM異種移植片および原発性腫瘍からの腫瘍DNAを、末梢血標本から入手した各症例についての条件を揃えた正常DNAとともに、以前の記載の通りに(1)入手した。「特定不能の高悪性度神経膠腫」と記録された2件の探索スクリーニング標本を除き、標本はすべて、多型性神経膠芽腫(GBM;World Health OrganizationグレードIV)という組織学的診断を受けた。標本は、被験GBM標本を入手した時点である手術時の少なくとも3カ月前にGBMが診断されている患者については再発性と分類した。探索スクリーニングにおける再発性GBMは3例であり、有病者スクリーニングでは15例であった。標本は、被験GBM標本を入手した時点である手術時よりも少なくとも1年前に、比較的低悪性度の神経膠腫(WHOグレードI〜III)が組織学的に確認されている患者については続発性と分類した。1件の探索スクリーニング標本および5件の有病者スクリーニング標本が続発性と分類された。
【0055】
関連のある臨床情報には、出生日、被験GBM標本の入手日、最初のGBM診断日(再発性GBMの場合のように、GBM標本の入手日と異なる場合)、先行した比較的低悪性度の神経膠腫の診断の日および病状(続発性GBMの症例において)、GBM標本の入手日よりも以前の放射線療法および/または化学療法の投与、最後に患者と接触した日、ならびに最後の接触時の患者の状態を含めた。標本はすべて、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)(HIPAA)に準拠して入手した。標本はすべて、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)(HIPAA)に準拠して入手した。以前の記載の通りに、腫瘍-正常ペアのマッチングは、PowerPlex 2.1 System(Promega、Madison、WI)を用いた9つのSTR座位の型判定によって確認し、標本の実体は、HLA-A遺伝子のエキソン3のシークエンシングにより、探索スクリーニングおよび有病者スクリーニングの全体を通じて確かめた。PCRおよびシークエンシングは(1)に記載された通りに行った。
【0056】
実施例4
臨床データの統計学的解析
GBM患者105例からの対になった正常組織および悪性組織を遺伝子解析のために用いた。完全な臨床情報(すなわち、最初のGBM診断日、死亡または最後の接触の日といった関連のあるすべての臨床情報)が、患者105例中91例については入手可能であった。これらの91例の患者のうち、5例(すべてIDH1-野生型)は手術後の最初の1カ月以内に死亡しており、解析から除外した(Br308T、Br246T、Br23X、Br301T、Br139X)が、診断からほぼ10年後の最後の接触時にも生存していた、外科的治癒と推定される単一の患者(Br119X)(同じくIDH1-野生型)についても同様とした。Kaplan Meier生存曲線はMantel Coxログランク検定を用いて算出した。ハザード比はMantel-Haenszel法を用いて算出した。GBM患者のグループ分けおよび生存解析算出には、以下の定義を用いた:1)患者年齢は、患者GBM標本を入手した時点の年齢を指す。2)再発性GBMとは、以前にGBMと診断されてから3カ月よりも後に切除されたGBMのことを示す。3)続発性GBMとは、比較的低悪性度の神経膠腫(WHO I〜III)と以前に診断されてから1年よりも後に切除されたGBMのことを示す。4)全生存期間は、GBM診断日および死亡または患者との最後の接触の日を用いて計算した。信頼区間はすべて95%レベルで計算した。
【0057】
実施例5
IDH1およびIDH2の突然変異
976件の腫瘍標本におけるIDH1の配列解析により、R132H(腫瘍148件)、R132C(腫瘍8件)、R132S(腫瘍2件)、R132L(腫瘍8件)およびR132G(腫瘍1件)を含む、残基R132での合計167件の体細胞突然変異が判定された(図4A、図7)。体細胞R132突然変異を有していた腫瘍には、びまん性星状細胞腫(WHOグレードII)31件中25件(81%)、乏突起細胞腫(WHOグレードII)51件中41件(80%)、乏突起星状細胞腫(WHOグレードII)3件中3件(100%)、多形性黄色星状細胞腫(WHOグレードII)7件中1件(14%)、退形成性星状細胞腫(WHOグレードIII)61件中41件(67%)、退形成性乏突起細胞腫(WHOグレードIII)36件中31件(86%)、退形成性乏突起星状細胞腫(WHOグレードIII)7件中7件(100%)、続発性GBM13件中11件(85%)、および原発性GBM165件中7件(4%)が含まれた(図1B、図11)。対照的に、21件の毛様細胞性星状細胞腫(WHOグレードI)、2件の上衣下巨細胞性細胞星状細胞腫(WHOグレードI)、30件の脳室上衣腫(WHOグレードII)、55件の髄芽腫においても、494件の非CNS性腫瘍標本のいずれにおいても、R132突然変異は観察されなかった。残りのIDH1エキソンの配列解析からは、R132陰性腫瘍におけるIDH1の他の体細胞突然変異は明らかにならなかった。
【0058】
本発明者らは、IDH1が乏突起細胞腫および星状細胞腫の発生または進行にとって決定的であるならば、IDH1突然変異を有しない腫瘍において、IDH1と類似の機能を有する他の遺伝子における変化を見いだしうるのではないかと推論した。本発明者らはこのため、NADP+を電子受容体として利用する、IDH1と相同な唯一のヒトタンパク質をコードするIDH2遺伝子を解析した。これらの標本におけるすべてのIDH2エキソンの配列評価により、いずれも残基R172にある8種の体細胞突然変異が判定された:3件の腫瘍ではR172M、3件の腫瘍ではR172K、および2件の腫瘍ではR172G(図1A、図7)。IDH2におけるR172残基はIDH1のR132残基のまさに相当物であり、酵素の活性部位内に位置し、イソクエン酸基質と水素結合を形成する。
【0059】
神経膠腫の進行におけるIDH変化のタイミングをさらに評価するために、本発明者らは、低悪性度腫瘍標本および高悪性度腫瘍標本の両方が入手可能であった進行性神経膠腫の7例の患者においてIDH1突然変異を評価した。配列解析により、7例の症例のすべてで、低悪性度腫瘍および高悪性度腫瘍の両方においてIDH1突然変異が同定された(図8、表4)。これらの結果は、IDH1変化が低悪性度腫瘍に生じていること、およびそのような患者における以後の癌がこれらの初期病変から直接に派生することを明白に実証している。
【0060】
本発明者らはまた、乏突起細胞腫、退形成性乏突起細胞腫、退形成性星状細胞腫、およびGBMのサブセットを、TP53およびPTENの突然変異、EGFRの増幅、CDKN2A/CDKN2Bの欠失、ならびに1p/19qのLOHに関しても調べた(図12)。TP53突然変異は、乏突起細胞腫(16%)または退形成性乏突起細胞腫(10%)におけるよりも、退形成性星状細胞腫(63%)および続発性GBM(60%)においてはるかに頻度が高かった(p<0.001、Fisherの直接確率検定)。その反対に、1pおよび19qの欠失は、予想された通り、星状細胞性腫瘍よりも乏突起細胞性腫瘍において高い頻度で見いだされた15。
【0061】
これらの変化とIDH1およびIDH2におけるものとの比較により、いくつかの際立った相関が明らかになった。突然変異したIDH1/IDH2を有する退形成性星状細胞腫およびGBMのほぼすべてが、TP53突然変異も有していたが(82%)、PTEN、EGFRまたはCDKN2A/CDKN2Bに何らかの変化を有したのは5%に過ぎなかった(図12)。その反対に、野生型IDH1を有する退形成性星状細胞腫およびGBMはTP53突然変異をわずかしか有さず(21%)、PTEN、EGFRまたはCDKN2A/CDKN2Bの変化はより高頻度であった(40%)(p<0.001、Fisherの直接確率検定)。1p/19qの欠損は、突然変異したIDH1またはIDH2を有する乏突起細胞性腫瘍の85%(45件/53件)で観察されたが、野生型IDH遺伝子を有する患者では全く観察されなかった(0例/9例)(p<0.001、Fisherの直接確率検定)。
【0062】
IDH1またはIDH2の突然変異を有する退形成性星状細胞腫およびGBMの患者は、野生型のIDH1およびIDH2遺伝子を有する者よりも有意に若かった(年齢中央値が34歳に対して58歳、p<0.001、Studentのt-検定)。興味深いことに、IDH1またはIDH2の突然変異を有する患者の年齢中央値がより低かったにもかかわらず、20歳未満の患者からはGBMにおける突然変異は全く同定されなかった(患者18例中0例、図9)。乏突起細胞腫および退形成性乏突起細胞腫の患者において、IDH1またはIDH2の突然変異を有する患者の年齢中央値は39歳であり、IDH1突然変異は2例のティーンエイジャー(14歳および16歳)で同定されたが、より若齢の患者では同定されなかった(4例中0例)。
【0063】
突然変異したIDH1を有するGBM患者についての予後の改善という本発明者らの以前の観察所見16は、このより大規模なデータセットでも裏づけられ、IDH2に突然変異を有する患者を含むまでに拡張された。IDH1またはIDH2の突然変異を有する患者の全生存期間中央値は39カ月であり、野生型IDH1を有する患者における13.5カ月という生存期間よりも有意に長い(図5、p<0.001、ログランク検定)。IDH遺伝子の突然変異は、退形成性星状細胞腫(WHOグレードIII)の患者における予後の改善とも関連しており、突然変異を有する患者については全生存期間中央値は65カ月であり、有しない者については19カ月であった(p<0.001、ログランク検定)。びまん性星状細胞腫、乏突起細胞腫または退形成性乏突起細胞腫の患者では示差的な生存解析を行うことができなかったが、これは、IDH遺伝子突然変異を有しないこれらの型の腫瘍があまりにも少なかったためである。
【0064】
参考文献
引用した各参考文献の開示内容は、本明細書に明示的に組み入れられる。以下のリスト中の参考文献は、本文中で上付き文字の参照番号を付して引用されている。
【0065】
以下のリスト中の参考文献は、本文中で括弧内に参照番号を付して引用されている。それぞれの開示内容は、本明細書に明示的に組み入れられる。
【0066】
参考文献
【0067】
実施例6
シークエンシング戦略
本発明者らは、体細胞突然変異の同定のために本発明者らが以前に開発したシークエンシング戦略を、20,583種の遺伝子からの23,219種の転写物を含むように拡張した。これらには、以前の研究(10,11)で解析したCCDSデータベースにもRefSeqデータベースにも存在しなかった、Ensemblデータベースからの2783種の追加の遺伝子を含めた。加えて、本発明者らは、(i)PCRで増幅するのが困難であり、以前の研究では最適な解析には至らなかった;または(ii)他のヒト配列もしくはマウス配列とかなり高い同一性を有することが見いだされた、ゲノムの領域に対するPCRプライマーも設計し直した。これらの新たなプライマー配列、設計し直したプライマー配列および既存のプライマー配列の組み合わせにより、これらの遺伝子のコード性エキソンの配列解析のために首尾良く用いることができた合計208,311種のプライマー対が得られた(表S1;Science 26 September 2008: Vol.321. no.5897, pp.1807-1812でオンラインにて入手可能)。
【0068】
22件のGBM標本(図10、表S2)をPCR配列解析のために選択したが、これは患者の腫瘍から直接抽出した7件の標本、およびヌードマウスにおいて異種移植片として継代させた15件の腫瘍標本からなる。1件の腫瘍(Br27P)は、以前に放射線療法およびテモゾロミドを含む化学療法の両方によって治療された患者から入手した続発性GBMであった。他の腫瘍はすべて原発性GBMと分類され、被験腫瘍標本の収集以前には腫瘍に向けた治療を受けていなかった。
【0069】
探索スクリーニングと呼ばれるこの解析の第1段階では、22件のGBM標本および条件を揃えた1件の正常標本において、プライマー対を用いて、175,471種のコード性エキソンならびに隣接するイントロンのスプライスドナー配列およびアクセプター配列の増幅およびシークエンシングを行った。データを各増幅領域について集め、厳格な品質基準を用いて評価したところ、22件の腫瘍における標的アンプリコンの95.0%および標的塩基の93.0%で増幅およびシークエンシングが首尾良く行われた。合計689Mbの配列データをこのアプローチを通じて生成させた。アンプリコン波形を自動化アプローチを用いて解析して、各遺伝子の参照配列中には存在しない腫瘍配列の変化を同定し、続いて正常対照標本および一塩基多型(SNP)データベース中に存在する変化を以降の解析から除外した。残りの見込みのある変化の配列波形を目視検査して、本発明者らの自動化ソフトウエアによって生成された偽陽性の突然変異コールを除外した。続いて、罹患した腫瘍DNA標本および条件を揃えた正常DNA標本において、突然変異と推定されるものを含むすべてのエキソンを再び増幅させ、シークエンシングを行った。この過程によって腫瘍標本における突然変異の確認が可能となり、変化が体細胞性(すなわち、腫瘍特異的)であるかそれとも生殖細胞系に存在するかが判定された。変化が関連する遺伝子配列の異常な共増幅によって生じたものでないことを確かめるために、体細胞突然変異と推定されるすべてのものをコンピュータ計算的および実験的に検討した(12)。
【0070】
(表1)GBMのゲノム解析の概要
*合格アンプリコンは、解析した標本の75%において標的配列の90%以上でPHRED20スコアまたはそれ以上を有するものと定義した。#PHRED20スコアまたはそれ以上を有するヌクレオチドの割合(補足情報については、付属オンライン資料を参照のこと)。
【0071】
実施例7
配列変化の解析
本発明者らは、2043種の遺伝子(解析した20,661種の遺伝子の10%)が、タンパク質配列を変化させると予想される少なくとも1つの体細胞突然変異を含んでいたことを見いだした。これらの変化の大多数は一塩基置換(94%)であったが、小規模な挿入、欠失または重複もあった。以前に放射線療法および化学療法(テモゾロミドを含む)によって治療された患者から入手した腫瘍標本Br27Pは合計1332個の体細胞突然変異を有しており、これは他の21例のどの患者よりも17倍の多さであった(図10、表S3)。この標本の突然変異スペクトルは、CpCジヌクレオチドの5'シトシンにC>T転位を過剰に含み、他のGBM患者のものとは著しく異なっていたが、テモゾロミドによって治療された患者の神経膠腫標本における超変異表現型に関する以前の観察所見とは一致する(13,14)。以前に報告された患者では、MSH6ミスマッチ修復の欠陥の存在下におけるアルキル化剤の長期的曝露に起因して超変異性が起こると考えられていた;しかし、BR27Pでは、体細胞変化はMSH6にも他のミスマッチ修復遺伝子(MSH2、MLH1、MLH3、PMS 1、PMS2)のいずれにも観察されなかった。BR27Pとは対照的に、探索スクリーニングにおいて解析した他の21件の腫瘍標本はいずれも以前に放射線または化学療法治療を受けていないことがわかっており、以前に治療されたその種の腫瘍で認められている特徴的なCpC突然変異スペクトルも有しなかった。
【0072】
Br27Pを検討から除外した後に、残りの993種の突然変異は、残りの21件の腫瘍において比較的均等に分布していることが観察された(図10、表S3)。各腫瘍において同定された体細胞突然変異の数は17〜79個の範囲であり、平均は腫瘍1個当たり突然変異47個、またはシークエンシングを行ったGBM腫瘍ゲノム1Mb当たり突然変異1.51個であった。原発性腫瘍から抽出した6件のDNA標本では、異種移植片から得たものよりも突然変異の数が幾分少なかったが、これは前者における非新生物性細胞の遮蔽作用による可能性が高い。細胞株および異種移植片は、癌のゲノムシークエンシング解析のための最適なテンプレートDNAを与えること(15)、およびそれらは原発性腫瘍に存在する変化を忠実に表すこと(16)が以前に示されている。
【0073】
GBMにおける配列変化の総数および頻度はいずれも、結腸癌または乳癌で観察されているそのような変化の数および頻度よりもかなり少なく、膵癌におけるよりも幾分少ない(10,11,17)。この差について最も可能性が高そうな説明は、新生物の発病前のグリア細胞の細胞世代の数の少なさである。結腸直腸癌で観察されている体細胞突然変異の最大で半分までが、正常な細胞再生過程の間に上皮幹細胞で起こることが示唆されている(16)。正常グリア幹細胞は乳腺上皮細胞または結腸上皮細胞よりも回転の頻度がはるかに低いため、腫瘍のイニシエーションを行う突然変異が生じた時にそれらが含む突然変異の数ははるかに少ないと予想される(18)。
【0074】
本発明者らはさらに、探索スクリーニングにおいて同定された20種の突然変異遺伝子のセットを、病歴が文書で十分に裏づけられている83例のさらなるGBM(表S2、Science 26 September 2008: Vol.321. no.5897, pp.1807-1812でオンラインにて入手可能)を含む、有病者スクリーニングと呼ばれる第2のスクリーニングにおいて評価した。これらの遺伝子は、少なくとも2件の腫瘍において突然変異しており、突然変異の頻度は、シークエンシングを行った腫瘍DNA 1Mb当たり突然変異10個を上回った。このさらなる腫瘍標本において、非サイレント性の体細胞突然変異が、これらの20種の遺伝子のうち15種で同定された(図10、表S4)。有病者スクリーニングにおいて解析したすべての遺伝子の突然変異頻度は、腫瘍DNA 1Mb当たり突然変異24個であり、探索スクリーニングにおける1Mb当たり突然変異1.5個という全体的な突然変異頻度から著しく増加した(p<0.001、二項検定)。さらに、有病者スクリーニングにおける突然変異の間での非サイレント突然変異とサイレント突然変異との観察比(NS:S)は14.8:1であり、探索スクリーニングにおいて観察された3.1:1という比よりもかなり高かった(P<0.001、二項検定)。この突然変異頻度の増大および非サイレント突然変異の数の増加により、有病者スクリーニングにおいて突然変異していた遺伝子では腫瘍発生に活発に寄与する遺伝子が濃縮されていることが示唆された。
【0075】
遺伝子における突然変異の頻度に加えて、突然変異のタイプも、疾患におけるその役割を評価するために重要な情報を与えうる(19)。ナンセンス突然変異、アウトオブフレーム(out-of-frame)挿入または欠失、およびスプライス部位変化は一般に、タンパク質産物の不活性化を招く。ミスセンス突然変異の予想される影響は、進化的または構造的な手段による、突然変異した残基の評価を通じて評価することができる。ミスセンス突然変異を評価するために、本発明者らは、置換(substation)に関与するアミノ酸の物理-化学特性、および保存されたタンパク質の等価な位置でのそれらの進化的保存に基づく、56種の予測素性(feature)の機械学習を用いる新たなアルゴリズムを開発した(12)。本研究で同定されたミスセンス突然変異のおよそ15%は、この方法によって評価した場合、タンパク質機能に対して統計学的に有意な影響を及ぼすと予想された(図10、表S3)。本発明者らはまた、本研究で同定された870種のミスセンス突然変異のうち244種の構造モデルを作成することもできた(20)。いずれの場合にも、モデルは、正常タンパク質または密接な関連のあるホモログのX線結晶法または核磁気共鳴分光法を基にした。この解析により、ミスセンス突然変異のうち35種はドメイン界面または基質結合部位の近くに位置し、機能に影響を及ぼす可能性が高いことが示された((12)で構造モデルへのリンクが得られる)。
【0076】
実施例8
コピー数変化の解析
続いて、同じ腫瘍を、ほぼ100万個のSNP座位プローブを含むIllumina高密度オリゴヌクレオチドアレイに対するDNA標本のゲノムハイブリダイゼーションを通じて、コピー数変化に関して評価した(21)。本発明者らは最近、そのようなアレイを用いて、核1つ当たり12個またはそれ以上のコピーをもたらす限局的増幅(二倍体ゲノムと比較して6倍またはそれ以上の増幅)、さらには遺伝子の両方のコピーの欠失(ホモ接合性欠失)を同定するための高感度かつ特異的なアプローチを開発した(22)。そのような限局的変化を利用することで、これらの領域内の根源的な候補遺伝子を同定することができる。腫瘍において高頻度に生じていて、しかも意義が不明である、染色体腕部全体の獲得または喪失を伴うもののような、より大規模な染色体異常を有する領域内で、そのような候補遺伝子を確実に同定することは不可能である。
【0077】
本発明者らは、探索スクリーニングに用いた22件の標本において、合計147種の増幅(図10、表S5)および134種のホモ接合性欠失(図10、表S6)を同定し、腫瘍標本1件当たりの増幅は0〜34個、欠失は0〜14個であった。増幅の数は、原発性標本と、異種移植片として継代したそれらの腫瘍との間で同程度であったものの、後者の標本ではより多数のホモ接合性欠失の検出が可能であった(異種移植片1件当たりの欠失は平均8.0個、これに対して原発性標本では1件当たり2.2個)。これらの観察所見は、混入性の正常DNAを含む標本においてホモ接合性欠失を同定することの難しさを記述している以前の報告と一致しており(23)、異種移植片または細胞株の中に存在するもののような精製されたヒト腫瘍細胞のゲノム解析にとっての重要性を強く示している。
【0078】
実施例9
シークエンシング、コピー数解析および発現解析の統合
腫瘍発生の間に生じる突然変異は、腫瘍細胞に対して選択的な利点を与える可能性もあれば(ドライバー(driver)突然変異)、腫瘍成長に対して何ら正味の影響を及ぼさない可能性もある(パッセンジャー(passenger)突然変異)。ドライバーである可能性が最も高く、そのためさらなる検討に値すると考えられるGBM癌遺伝子候補(CAN遺伝子)を同定する目的で、シークエンシングおよびコピー数変化の解析から得られた突然変異データを統合した。ある遺伝子がドライバー突然変異を保有する可能性が高いか否かを判定するために用いられるバイオインフォマティクスアプローチは、各遺伝子において観察される突然変異の数およびタイプと、パッセンジャー突然変異率によって予想される数との比較を伴う。配列変化に関して、本発明者らは、パッセンジャー率の上界および下界を計算した。上界は、観察された変化の総数から、既知の癌遺伝子で生じている突然変異を差し引いて、シークエンシングを行った腫瘍DNAの量によって除算することによって控えめに計算し、一方、下界は、観察されたサイレント突然変異および予想されるNS:S比の推定値に基づいて決定した(12)。コピー数変化に関して、本発明者らは、バックグラウンド率を決定する際に、すべての増幅および欠失がパッセンジャーであるという極めて控えめな仮定を行った。各遺伝子の解析のために、続いてあらゆるタイプの変化(配列変化、増幅およびホモ接合性欠失)を組み合わせて、その遺伝子に関するパッセンジャー確率を推定した(統計学的方法のより詳細な説明については(12)を参照)。
【0079】
上位ランクのCAN遺伝子を、それらのパッセンジャー確率とともに図10、表S7に列記している。CAN遺伝子には、TP53、PTEN、CDKN2A、RB1、EGFR、NF1、PIK3CAおよびPIK3R1を含む、神経膠腫における関与に関して十分に確立しているいくつかの遺伝子が含まれていた(24-34)。本発明者らの解析において、これらの遺伝子の中で最も高頻度に変化していたものには、CDKN2A(GBMの50%で変化)、TP53、EGFRおよびPTEN(30〜40%で変化)、NF1、CDK4およびRB1(12〜15%で変化)、ならびにPIK3CAおよびPIK3R1(8〜10%で変化)が含まれた。全体的にみて、これらの頻度は、以前に報告されたものと同程度であるか、または一部の症例ではそれよりも高く、体細胞変化の検出のための本発明者らのアプローチの感度を立証するものである。
【0080】
(表2)最も高頻度に変化しているGBM CAN遺伝子
最も高頻度に変化しているCAN遺伝子を列記している;すべてのCAN遺伝子は表S7に列記されている。^点突然変異を有する腫瘍の割合は、探索スクリーニングおよび有病者スクリーニングにおける105件の標本のうち突然変異しているGBMの割合を指し示している。有病者スクリーニングではCDKN2AおよびCDK4を点突然変異に関して解析しなかったが、これは探索スクリーニングでこれらの遺伝子における配列変化が検出されなかったためである。&増幅および欠失を有する腫瘍の割合は、22件の探索スクリーニング標本におけるこれらのタイプの変化を有する腫瘍の数を指し示している。*パッセンジャー確率はパッセンジャー確率−中間(Mid)を指し示している(12)。
【0081】
これらの遺伝子によって影響を受ける経路内のさらなる遺伝子メンバーの解析により、TP53経路(TP53、MDM2、MDM4)、RB1経路(RB1、CDK4、CDKN2A)およびPI3K/PTEN経路(PIK3CA、PIK3R1、PTEN、IRS1)における重要遺伝子の変化が同定された。これらの変化は、腫瘍の大半(それぞれ64%、68%および50%)で異常な経路を生じさせ、1件を除くすべての場合において、各腫瘍内の突然変異は各経路の単一のメンバーのみに排反的な様式で影響を及ぼした(P<0.05)(表3)。詳細に注釈付けが行われたMetaCoreデータベース(35)中に含まれる機能性遺伝子群および経路の系統的解析により、TP53経路およびPI3K/PTEN経路のさらなるメンバーにおいて、さらには、細胞接着を調節するもののほか、シナプス伝達、神経インパルス伝達、ならびにナトリウムイオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンの輸送に関与するチャンネルがかかわるもののような脳特異的な細胞経路を含む、種々の他の細胞過程において、突然変異遺伝子の濃縮(enrichment)が同定された(図10、表S8)。興味深いことに、これらの後者の経路はいずれも、膵癌に関する大規模研究では濃縮が観察されておらず(17)、脱調節的な成長および浸潤を助長する、正常なグリア細胞過程の破壊(subversion)を表している可能性がある。検出された経路の多くのメンバーは、GBMにおいても他の任意のヒト癌においても、いかなる役割を果たすことも認識されておらず、腫瘍発生におけるそれらの役割を明らかにするためには多大な努力が求められるであろう。
【0082】
(表3)GBMにおけるTP53経路、PI3K経路およびRB1経路の突然変異
*Mut、突然変異した;Amp、増幅した;Del、欠失した;Alt、変化した。#22件の探索スクリーニング標本における罹患腫瘍の割合
【0083】
遺伝子発現パターンは、それがシークエンシングによってもコピー数解析によっても検出することのできない後成的変化を反映しうることから、経路の解析に情報を加えることができる。それはまた、上記の変化した経路に起因する、遺伝子発現に対する下流効果も指し示すことができる。GBMのトリプトームを解析するために、本発明者らは、RNAが入手可能であった、突然変異解析のために用いたすべてのGBM標本(合計18件の標本)、さらには2件の無関係な正常脳RNA対照に対して、SAGE(遺伝子発現の連続解析)(36)を行った。超並列的な合成によるシークエンシング法(37-40)と組み合わせると、SAGEは、遺伝子発現に関する極めて定量的でかつ高感度な手段を与える。
【0084】
まず、転写物の解析を利用することで、本研究において同定された増幅領域および欠失領域から標的遺伝子を同定する一助とした。これらの領域のいくつかは既知の腫瘍サプレッサー遺伝子または癌遺伝子を含んでいたものの、多くは、これまで癌と関連づけられていない、いくつかの遺伝子を含んでいた。突然変異データならびに転写データを用いることにより、表S5およびS6において、これらの領域のいくつかのものの内部に、標的遺伝子候補を同定することができると考えられる。
【0085】
第2に、本発明者らは、正常脳と比較してGBMにおいて差異を伴って発現される遺伝子を同定することを試みた。解析した18件のGBMにおいて、(正常脳標本と比較して)平均10倍の高いレベルで発現された遺伝子が多数(143種)あった。この143種の過剰発現遺伝子のうち、分泌されたかまたは細胞表面に発現されたものは16種であった。これらの多くは原発性脳腫瘍においても異種移植片においても過剰発現され、このことは診断的および治療的な応用の新たな可能性を示唆する。
【0086】
実施例10
若齢GBM患者におけるIDH 1の高頻度の変化
上位のCAN遺伝子のリスト(図10、表S7)には、これまでGBMと結びつけられていなかったいくつかの個々の遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子のうち最も高頻度に突然変異していたIDH1はイソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードし1、これはイソクエン酸のα-ケトグルタル酸への酸化的カルボキシル化を触媒して、NADPHの生成をもたらす。ヒトゲノム中には5種のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子がコード化されており、そのうち3種の産物(IDH3α、IDH3β、IDH3γ)は、ミトコンドリア内でヘテロ四量体(2 を形成し、NAD(+)を電子受容体として利用してトリカルボン酸経路の律速段階を触媒する。第4のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH2)も同じくミトコンドリアに局在しているが、これはIDH1と同じく、NADP(+)を電子受容体として利用する。IDH1産物は、残りのIDHタンパク質とは異なり、細胞質およびペルオキシソームの内部に含まれる(41)。このタンパク質は非対称性ホモ二量体を形成し(42)、ペルオキシソーム内および細胞質での生合成過程に向けてNADPHおよび-ケトグルタル酸を再生させるように働くと考えられている。IDH1による細胞質NADPHの生成は、酸化損傷の細胞制御において重大な役割を果たすように思われる(43)(44)。他のIDH遺伝子、トリカルボン酸経路に関与する他の遺伝子、および他のペルオキシソームタンパク質のうち、遺伝的に変化していることが本発明者らの解析で見いだされたものは皆無であった。
【0087】
IDH1は、探索スクリーニングにおいて5件のGBM腫瘍で体細胞性に突然変異していることが見いだされた。驚いたことに、この5件はすべて、IDH1転写物の位置395にグアニンのアデニンへの変化である同一のヘテロ接合性点突然変異(G395A)を有し、これはタンパク質のアミノ酸残基132でのアルギニンのヒスチジンによる置き換え(R132H)をもたらした。結腸直腸癌に関する本発明者らの以前の研究では、この同じコドンが、単一の症例で隣接ヌクレオチドの変化によって突然変異しており、R132Cアミノ酸変化をもたらすことが見いだされている(10)。本発明者らの有病者スクリーニングで評価したさらに5件のGBMはヘテロ接合性R132H突然変異を有することが見いだされ、別の2件の腫瘍は同じアミノ酸残基に影響を及ぼす第3の別個の突然変異、R132Sを有していた(図1;表4)。R132残基は既知のすべての種で保存されており、基質結合部位に局在して、イソクエン酸のα-カルボン酸と疎水性相互作用を形成する(図2)(42,45)。
【0088】
(表4)IDH1突然変異を有するGBM患者の特徴
*患者年齢は、患者GBM標本を入手した時点の年齢を指す。#再発性GBMとは、以前にGBMと診断されてから3カ月よりも後に切除されたGBMのことを示す。^続発性GBMとは、比較的低悪性度の神経膠腫(WHO I〜III)と以前に診断されてから1年よりも後に切除されたGBMのことを示す。&全生存期間は、GBM診断日および死亡または患者との最後の接触の日を用いて計算した:患者Br10PおよびBr11Pは最後の接触時に生存していた。IDH1突然変異患者およびIDH1野生型患者に関する生存期間中央値はログランク検定を用いて計算した。続発性GBM患者における以前の病理学的診断は、Br123Xでは乏突起細胞腫(WHOグレードII)、Br237TおよびBr211Tでは低悪性度膠芽腫(WHOグレードI〜II)、Br27Pでは退形成性星状細胞腫(WHOグレードIII)、ならびにBr129Xでは退形成性乏突起細胞腫(WHOグレードIII)であった。略号:GBM(多型性神経膠芽腫、WHOグレードIV)、WHO(世界保健機構)、M(男性)、F(女性)、mut(突然変異体)。平均年齢および生存期間中央値を、IDH1突然変異患者およびIDH1野生型患者について列記している。
【0089】
IDH1突然変異およびそれらの潜在的な臨床的意義について、いくつかの重要な観察所見が得られた。第1に、IDH1における突然変異は比較的若齢のGBM患者で優先的に生じており、IDH1が突然変異した患者についての平均年齢は33歳であり、これに対して、野生型IDH1を有する患者については53歳であった(P<0.001、t-検定、表4)。35歳に満たない患者では、50%近く(19例中9例)がIDH1における突然変異を有していた。第2に、IDH1における突然変異は、35歳に満たない続発性GBM患者5例の全例を含め、続発性GBMの患者のほぼすべてで認められた(続発性GBM患者6例中5例において突然変異、これに対して原発性GBMの患者では99例中7例、P<0.001、二項検定)。第3に、IDH1突然変異を有する患者は予後が有意に改善しており、全生存期間中央値は3.8年であり、これに対して野生型IDH1を有する患者については1.1年であった(P<0.001、ログランク検定)。若齢であることおよび突然変異したTP53はGBM患者にとって正の予後因子であることが知られているが、IDH1突然変異と生存期間改善との間のこの関連性は、45歳未満の患者(図3、P<0.001、ログランク検定)、さらにはTP53突然変異を有する若齢患者のサブグループ(P<0.02、ログランク検定)においてさえも認められた。
【0090】
参考文献および注記
引用した各参考文献の開示内容は、本明細書に明示的に組み入れられる。
【0091】
実施例11
材料および方法
遺伝子の選択
20,735種の独特の遺伝子に相当する23,781種の転写物からのタンパク質コード性エキソンを、シークエンシングの標的とした。このセットは、高度のキュレーション済みのConsensus Coding Sequence(CCDS)データベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/CCDS/)からの14,554種の転写物、Reference Sequence(RefSeq)データベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/RefSeq/)からのさらなる6,019種の転写物、および、Ensemblデータベース(http://www.ensembl.org/)からの無傷のオープンリーディングフレームを有するさらに3,208種の転写物で構成された。本発明者らは、Y染色体上に位置する遺伝子およびゲノム内で厳密に重複している遺伝子からの転写物は除外した。以下に詳述するように、20,661種の遺伝子に相当する23,219種の転写物が首尾良くシークエンシングされた。
【0092】
バイオインフォマティクスに関する供給源
Consensus Coding Sequence(リリース1)、RefSeq(リリース16、2006年3月)およびEnsembl(リリース31)遺伝子座標および配列は、UCSC Santa Cruz Genome Bioinformatics Site(http://genome.ucsc.edu)から収集した。補遺の表に列記された位置は、UCSC Santa Cruz hg17、ビルド35.1に対応する。既知のSNPをフィルターにかけて除去するための一塩基多型は、HapMapプロジェクトによって検証済みのdbSNP(リリース125)中に存在するものとした。BLATおよびIn Silico PCR(http://genome.ucsc.edu/cgi-bin/hgPcr)を、ヒトゲノムおよびマウスゲノムにおける相同性検索を行うために用いた。
【0093】
プライマーの設計
Primer 3ソフトウエア(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi)を用いて、標的境界から50bpよりも近接しておらず、300〜600bpの産物を生成するプライマーを作製した。350bpを超えるエキソンは、部分的に重複するいくつかのアンプリコンに分けた。In silico PCRおよびBLATを用いて、ユニークなゲノム位置から単一のPCR産物を生じさせるプライマー対を選択した。複数のin silico PCRヒットまたはBLATヒットが得られる重複領域に対するプライマー対については、標的配列と重複配列との間の違いが最も大きくなる位置で設計し直した。汎用プライマー
を、それ自体と標的領域との間にある最小数のモノ-またはジ-ヌクレオチド反復配列とともに、プライマーの5'末端に付加した。本研究に用いたプライマー配列は、Science 26 September 2008: Vol.321. no.5897, pp.1807-1812でオンラインにて入手可能である表S1に列記されている。
【0094】
多型性神経膠芽腫(GBM)のDNA標本
GBM異種移植片および原発性腫瘍からの腫瘍DNAを、末梢血標本から入手した各症例についての条件を揃えた正常DNAとともに、以前の記載の通りに(1)入手した。探索スクリーニングは22件の腫瘍標本(15件の異種移植片および7件の原発性腫瘍)からなり、有病者スクリーニングにはさらに別の83件の標本(53件の異種移植片および30件の原発性腫瘍)を含めた。探索スクリーニング標本および有病者スクリーニング標本に関するそのほかの臨床情報は、Science 26 September 2008: Vol.321. no.5897, pp.1807-1812でオンラインにて入手可能である表S2で得ることができる。「特定不能の高悪性度神経膠腫」と記録された2件の探索スクリーニング標本を除き、標本はすべて、多型性神経膠芽腫(GBM;World Health OrganizationグレードIV)という組織学的診断を受けた。標本は、被験GBM標本を入手した時点である手術時の少なくとも3カ月前にGBMが診断されている患者については再発性と分類した。探索スクリーニングにおける再発性GBMは3例であり、有病者スクリーニングでは15例であった。標本は、被験GBM標本を入手した時点である手術時よりも少なくとも1年前に、比較的低悪性度の神経膠腫(WHOグレードI〜III)が組織学的に確認されている患者については続発性と分類した。1件の探索スクリーニング標本および5件の有病者スクリーニング標本が続発性と分類された。
【0095】
(表5)有病者スクリーニングおよび探索スクリーニングに用いたGBM標本の概略
【0096】
関連のある臨床情報には、出生日、被験GBM標本の入手日、最初のGBM診断日(再発性GBMの場合のように、GBM標本の入手日と異なる場合)、先行した比較的低悪性度の神経膠腫の診断の日および病状(続発性GBMの症例において)、GBM標本の入手日よりも以前の放射線療法および/または化学療法の投与、最後に患者と接触した日、ならびに最後の接触時の患者の状態を含めた。標本はすべて、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)(HIPAA)に準拠して入手した。標本はすべて、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)(HIPAA)に準拠して入手した。以前の記載の通りに、腫瘍-正常ペアのマッチングは、PowerPlex 2.1 System(Promega、Madison、WI)を用いた9つのSTR座位の型判定によって確認し、標本の実体は、HLA-A遺伝子のエキソン3のシークエンシングにより、探索スクリーニングおよび有病者スクリーニングの全体を通じて確かめた。PCRおよびシークエンシングは(1)に記載された通りに行った。
【0097】
臨床データの統計学的解析
GBM患者105例からの対になった正常組織および悪性組織を遺伝子解析のために用いた。完全な臨床情報(すなわち、最初のGBM診断日、死亡または最後の接触の日といった関連のあるすべての臨床情報)が、患者105例中91例については入手可能であった。これらの91例の患者のうち、5例(すべてIDH1-野生型)は手術後の最初の1カ月以内に死亡しており、解析から除外した(Br308T、Br246T、Br23X、Br301T、Br139X)が、診断からほぼ10年後の最後の接触時にも生存していた、外科的治癒と推定される単一の患者(Br119X)(同じくIDH1-野生型)についても同様とした。Kaplan Meier生存曲線はMantel Coxログランク検定を用いて算出した。ハザード比はMantel-Haenszel法を用いて算出した。GBM患者のグループ分けおよび生存解析算出には、以下の定義を用いた:1)患者年齢は、患者GBM標本を入手した時点の年齢を指す。2)再発性GBMとは、以前にGBMと診断されてから3カ月よりも後に切除されたGBMのことを示す。3)続発性GBMとは、比較的低悪性度の神経膠腫(WHO I〜III)と以前に診断されてから1年よりも後に切除されたGBMのことを示す。4)全生存期間は、GBM診断日および死亡または患者との最後の接触の日を用いて計算した。信頼区間はすべて95%レベルで計算した。
【0098】
突然変異探索スクリーニング
22件のGBM標本、およびGBM患者の1例の正常組織由来の1件の対照標本において、CCDS、RefSeqおよびEnsemblの遺伝子を増幅させた。リレーショナルデータベース(Microsoft SQL Server)と連動させたMutations Surveyor(Softgenetics, State College, PA)と用いて、すべてのコード配列および隣接する4bpを解析した。さらに解析しようとするアンプリコンについては、腫瘍の少なくとも4分の3が、関心対象の領域内にPhred品質スコアが20である塩基を90%またはそれ以上有することが必要とした。この品質管理に合格したアンプリコン中の、正常標本で観察されたものと同一な突然変異、ならびに既知の一塩基多型は除去した。続いて、検出された各々の突然変異のシークエンシング用クロマトグラムを目視検査し、偽陽性コールをソフトウエアによって除去した。アーチファクトをなくすために、腫瘍DNAにおける突然変異と推定されるものすべてを再び増殖させ、シークエンシングを行った。突然変異が体細胞性であるか否かを判定するために、突然変異が同定されたのと同じ患者の正常組織由来のDNAを増幅し、シークエンシングを行った。突然変異が見いだされた場合には、突然変異と推定されるものが相同配列の増幅の結果であることを確認するために、BLATを用いて、関係するエキソンに関するヒトゲノムおよびマウスゲノムの検索を行った。標的領域の90%にわたって90%の同一性を有する類似の配列があった場合に、さらなる段階を実施した。ヒトでの重複によって生じた可能性のある突然変異は、2つの配列を識別するために設計したプライマーを用いて再び増幅させた。新たなプライマー対を用いて観察されなかった突然変異は除外した。残ったものを、その突然変異塩基がBLATによって同定された相同配列中に存在しない限り含めた。マウス異種移植片で最初に観察された突然変異は、原発性腫瘍由来のDNA中で再び増殖させ、その突然変異が原発性腫瘍に存在するか、またはその突然変異体がBLATによって同定された相同マウス配列中に同定されなければ含めた。
【0099】
突然変異の有病者スクリーニング
本発明者らはさらに、探索スクリーニングにおいて同定された20種の突然変異遺伝子のセットを、83例のさらなるGBM(表S2)を含む、有病者スクリーニングと呼ばれる第2のスクリーニングにおいて評価した。選択された遺伝子は、少なくとも2件の腫瘍において突然変異しており、突然変異の頻度は、シークエンシングを行った腫瘍DNA 1Mb当たり突然変異10個を上回った。用いたプライマー(表S1、Science 26 September 2008: Vol.321. no.5897, pp.1807-1812でオンラインにて入手可能)ならびに見込みのある突然変異の解析方法および持続期間は、探索スクリーニングにおけるものと同じとした。有病者スクリーニングにおいて観察された体細胞突然変異はすべて、図10、表S4に報告している。
【0100】
コピー数解析
BeadChipプラットフォームを採用したIllumina Infinium II Whole Genome Genotyping Assayを用いて、腫瘍標本を1,072,820箇所(1M)のSNP座位で解析した。SNP位置はすべて、ヒトゲノム参照配列のhg18(NCBIビルド36, 2006年3月)バージョンを基にした。遺伝子型判定解析は、50ヌクレオチドのオリゴ体に対するハイブリダイゼーションで始め、その後に二色蛍光単塩基伸長法を行った。各SNP位置に関して正規化された強度値(R)を得るために、蛍光強度画像ファイルをIllumina BeadStationソフトウエアを用いて処理した。各SNPについて、正規化された実験強度値(R)を、正常標本のトレーニング用セット由来のそのSNPに関する強度値と比較し、log2(R実験/Rトレーニング用セット)の比(「Log R比」と呼ぶ)として表した。
【0101】
SNPアレイデータは、以前に記載された方法(2)の変法を用いて解析した。ホモ接合性欠失(HD)は、Log R比値が-2である3つまたはそれ以上の連続したSNPと定義した。HD領域の最初および最後のSNPは、以後の解析のための変化の境界とみなした。チップのアーチファクトおよびコピー数多型の可能性をなくすために、本発明者らは、コピー数多型データベース中に含まれるすべてのHDを除去した。3つまたはそれ未満のSNPによって隔てられた隣接するホモ接合性欠失は同一の欠失の一部とみなし、互いに100,000bpの範囲内にあるHDについても同様とした。HDによって影響される標的遺伝子を同定するために、本発明者らは、RefSeq、CCDSおよびEnsemblデータベースにおけるコード性エキソンの場所を、観察されたHDのゲノム座標と比較した。そのコード領域の一部がホモ接合性欠失の内部に含まれる遺伝子はすべて、欠失によって影響されるものとみなした。
【0102】
(2)に概説されているように、増幅は、平均LogR比が0.9であり、少なくとも1つのSNPのLogR比が1.4である、3つのSNPを含む領域によって定義される。HDの場合と同じく、本発明者らは、複数の標本において同一の境界を有する、増幅と推定されるものをすべて除外した。限局的増幅は固有の標的遺伝子を同定する上で有用である可能性がさらに高いため、第2の基準セットを用いて、コピー数の増加を示した複合的増幅、大きな染色体領域または染色体全体を除去した。サイズが3Mbを上回る増幅およびサイズが同じく3Mbを上回る近傍の増幅群(1Mb以内)は複合的とみなした。10Mb領域内の4つの別個の増幅、または染色体1本当たり5つの増幅という頻度で存在する増幅または増幅群は、複合的であると考えた。これらのフィルタリング段階の後に残った増幅を限局的増幅とみなし、以後の統計学的解析に含めるのはこれらのみとした。増幅によって影響されるタンパク質コード性遺伝子を同定するために、本発明者らは、RefSeq、CCDSおよびEnsmblデータベースにおける各遺伝子の開始位置および終了位置の場所を、観察された増幅のゲノム座標と比較した。遺伝子の一部のみを含む増幅は機能的結果をもたらす可能性が低いと考えられるため、本発明者らは、観察された増幅の中にコード領域全体が含まれる遺伝子のみを検討した。
【0103】
パッセンジャー突然変異率の推定
探索スクリーニングにおいて観察された同義突然変異から、本発明者らはパッセンジャー率の下界を推定した。下界は、同義突然変異率と、HapMapヒト多型データベースにおいて観察されたNS:S比(1.02)との積として定義した。首尾良くシークエンシングが行われた1Mb当たり突然変異0.38個という計算された率は、非同義突然変異に対する選択は体細胞におけるよりも生殖細胞系においてより厳格であると考えられるため、過小評価である可能性が高い。上界は、以前の研究でドライバーであることが判明している非常に高度に突然変異している遺伝子(TP53、PTENおよびRB1)を除外した後の、1Mb当たりの非同義突然変異の観察された総数から計算した。その結果得られた非同義突然変異1.02個/Mbというパッセンジャー突然変異率は、TP53、PTENおよびRB1以外の遺伝子における突然変異のいくつかがドライバーである可能性が高いため、バックグラウンド率を過大評価している。突然変異0.70個/Mbという「中間(Mid)」尺度が、下界率と上界率の平均として得られた。探索スクリーニングおよび有病者スクリーニングにおいて同定された体細胞突然変異の数およびタイプの比較のために、パーセント値間の二標本t-検定を用いた。
【0104】
発現解析
Digital Gene Expression-Tag Profiling作成キット(Illumina, San Diego, CA)を製造者による推奨の通りに用いて、SAGEタグを作製した。手短に述べると、グアニジンイソチオシアネートを用いてRNAを精製し、各標本からの全RNAほぼ1μgに対して、オリゴ-dT磁気ビーズを用いる逆転写を行った。第2鎖の合成は、RNアーゼHニッキングおよびDNAポリメラーゼI伸長によって行った。この二本鎖cDNAを制限エンドヌクレアーゼNla IIIで消化し、Mme I制限部位を含むアダプターと連結させた。Mme I消化の後に、第2のアダプターを連結させ、アダプターと連結されたcDNA構築物を18サイクルのPCRによって濃縮し、85bpの断片をポリアクリルアミドゲルから精製した。ライブラリーサイズをリアルタイムPCRを用いて推定し、タグのシークエンシングをGenome Analyzer System(Illumina, San Diego, CA)にて行った。
【0105】
統計学的解析
統計学的解析の概略
統計学的解析は、ある遺伝子または生物学的に定義された遺伝子セットにおける突然変異が、パッセンジャー率よりも高い根源的突然変異率を反映するというエビデンスを数量化することに焦点を絞った。どちらの場合も、この解析は、点突然変異に関するデータをコピー数変化(CNA)に関するデータと統合する。点突然変異の解析のための方法は(3)に記載されたものに基づき、一方、点突然変異およびCNAの統合のための方法は(2)に基づく。以前に記載された方法に対していくつかの修正が必要であったことから、本発明者らは本明細書において自己完結的な概要を提供する。
【0106】
CAN遺伝子の統計学的解析
遺伝子の突然変異プロファイルとは、以前に定義された25種の状況特異的な突然変異のタイプのそれぞれの数のことを指す(3)。突然変異プロファイルに関するエビデンスは、実験結果を、パッセンジャー遺伝子のみで構成されるゲノムに相当する参照分布と比較する経験的ベイズ解析(4)を用いて評価される。これは、パッセンジャー率での突然変異を、実験計画を正確に再現するような様式でシミュレートすることによって得られる。具体的には、本発明者らは、各遺伝子を順に検討し、各タイプの突然変異の数を、状況特異的パッセンジャー率と等しい成功確率を用いる二項分布からシミュレートする。各状況において使用しうるヌクレオチドの数は、その特定の状況および被験標本中の遺伝子に関して首尾良くシークエンシングされたヌクレオチドの数である。インデル以外の非同義突然変異を検討する場合には、本発明者らは、以前に定義されたような(3)、リスクのあるヌクレオチドに焦点を絞る。
【0107】
これらのシミュレートされたデータセットを用いて、本発明者らは、本研究において解析した遺伝子のそれぞれに関するパッセンジャー確率を評価した。これらのパッセンジャー確率は、遺伝子の群に関してではなく、固有の遺伝子に関する記載を表す。各パッセンジャー確率は、尤度比のそれに関する推論を介して得られる:ある遺伝子において、その遺伝子がパッセンジャーである場合に特定のスコアを観測する尤度を、実際のデータにおいてそれを観察する尤度と比較する。本発明者らの解析に用いられる遺伝子特異的スコアは、検討中の遺伝子に関して、突然変異率がパッセンジャー突然変異率と同じであるとする帰無仮説に関する尤度比検定(LRT)に基づく。スコアを得るには、本発明者らはLRTをs=log(LRT)に単に変換するのみである。相対的に高いスコアは、パッセンジャー率を上回る突然変異率のエビデンスを指し示している。パッセンジャー確率を評価するためのこの一般的アプローチは、Efron and Tibshirani(4)によって記載されたものに従う。具体的には、任意の所与のスコアsに関して、F(s)は、スコアが実験データにおけるスコアがsよりも高い、シミュレートされた遺伝子の割合を表し、F0はシミュレートされたデータにおける対応する割合であり、p0はパッセンジャー遺伝子の総割合の推定値である(以下で考察する)。シミュレーション間の差異は小さいが、それにもかかわらず、本発明者らは100個のデータセットを作成して照合することによってF0を推定した。本発明者らは続いて、FおよびF0に対応する密度関数fおよびf0を数値的に推定し、各スコアsに関して、「局所的偽発見率(local false discovery rate)」(4)としても知られる比p0・f0(s)/f(s)を計算した。密度の推定は、R統計言語における関数「密度」をデフォールトの設定で用いて行った。パッセンジャー確率の計算は、真のパッセンジャーの割合であるp0の推定値に依存する。本発明者らのインプリメンテーションはp0に上界を与えようとし、それにより、パッセンジャー確率の控え目な楽観的推定値(conservatively high estimates)をもたらす。この目的のために、本発明者らはp0=1に設定した。本発明者らはまた、その最低値で開始し、右側にある次の値では減少するように値を再帰的に設定することにより、スコアに関してパッセンジャー確率が単調に変化するように制約も加えた。本発明者らは同様に、パッセンジャー確率に対し、パッセンジャー率に関しても単調に変化するように制約を加えた。
【0108】
CancerMutationAnalysisと命名されている、R統計環境においてこれらの計算を行うためのオープンソースパッケージは、http://astor.som.jhmi.edu/~gp/software/CancerMutationAnalysis/cma.htmで入手可能である。本発明者らの具体的なインプリメンテーションの詳細な数学的計算作業は(5)に提示されており、一般的な解析上の問題点は(6)に考察されている。
【0109】
CNAの統計学的解析
増幅または欠失に関与する遺伝子のそれぞれに関して、本発明者らはさらに、それらのパッセンジャー確率の推計を通じて、腫瘍発生を生じさせるエビデンスの強さを数量化した。いずれの場合にも、本発明者らはパッセンジャー確率を、(3)の体細胞突然変異解析からの情報をこの論文で提示されたデータと統合する事後確率として得る。点突然変異解析に由来するパッセンジャー確率は事前確率としての役を果たす。これらをパッセンジャー突然変異率の3通りの異なる筋書きに対して得ることができ、結果は図10、表S3でそれぞれに対して別々に提示されている。続いて、遺伝子が増幅(または欠失)していることが見いだされた標本の数をエビデンスとして用いて、「ドライバー」に関する尤度比と「パッセンジャー」に関する尤度を対比して評価した。パッセンジャー項は、当該の遺伝子が観察された頻度で増幅(または欠失)している確率である。各標本について、本発明者らは、観察された増幅(および欠失)が当該の遺伝子を偶然含む確率を算出することから始める。増幅に関しては使用可能なすべてのSNPを含めることが必要とされるが、一方、欠失に関してはSNPの任意の部分的な重複で十分である。具体的には、特定の標本においてN個のSNPの型判定を行い、K個の増幅が認められ、関与するSNPに関するそのサイズがA1 ... AKであるならば、G個のSNPを有する遺伝子は、増幅に関しては確率(A 1-G+1)/N+....+(AK-G+1)/Nで、欠失に関しては(A 1+G-1)/N+....+(AK+G-1)/Nで無作為に含まれると考えられる。本発明者らは続いて、観察された増幅(または欠失)の数についての確率を、標本が独立性ではあるが同一には分布していないベルヌイ確率変数であると仮定して、Thomas and Traubのアルゴリズム(7)を用いて算出する。帰無仮説の下での尤度を評価するための本発明者らのアプローチは、観察されたすべての欠失および増幅はパッセンジャーのみを含むと仮定しているため、非常に控え目である。尤度のドライバー項は、上記の標本特異的パッセンジャー率に、関心対象の増加(対立仮説)を反映する遺伝子特異的係数を乗算することにより、パッセンジャー項についての場合と同じように概算した。この増加は、遺伝子の経験的欠失率と総欠失率との比によって推算される。
【0110】
この併用アプローチは、増幅および欠失の独立性の近似的仮定を行う。現実には、増幅された遺伝子は欠失性ではありえないため、独立性は厳密には侵害されている。しかし、増幅イベントおよび欠失イベントは比較的少数であるため、この仮定は本発明者らの解析の目的には筋道が通っている。対数尺度での尤度の検査により、それがイベントの総数に関して概ね線形的であることが示唆されており、このことは評価システムとしてのこの近似の妥当性を裏づける。
【0111】
突然変異した遺伝子経路および群の解析
以下の4種類のデータがMetaCoreデータベース(GeneGo, Inc., St. Joseph, MI)から得られた:経路マップ、Gene Ontology(GO)プロセス、GeneGoプロセスネットワークおよびタンパク質-タンパク質相互作用。これらのカテゴリーにおける23,781種の転写物のそれぞれのメンバー数を、RefSeq識別子を用いてデータベースから取得した。GeneGo経路マップでは、4,175種の転写物および509種の経路がかかわる22,622通りの関係が同定された。Gene Ontologyプロセスについては、12,373種の転写物および4,426種のGO群がかかわる合計66,397通りの対関係が同定された。GeneGoプロセスネットワークについては、6,158種の転写物および127種のプロセスがかかわる合計23,356通りの対関係が同定された。各々の突然変異遺伝子の予想されるタンパク質産物についても、MetaCoreデータベースから推測される他の突然変異した遺伝子によってコードされるタンパク質との物理的相互作用に関して評価した。
【0112】
検討した遺伝子セットのそれぞれに関して、本発明者らは、それらが平均を上回る割合の発癌ドライバーを含むエビデンスの強さを、セットのサイズを考慮した後に数量化した。この目的のために、本発明者らは、遺伝子を、上記の複合パッセンジャー確率(突然変異、ホモ接合性欠失および増幅を考慮に入れる)に基づいてスコア別にソーティングした。本発明者らは、Bioconductor(8)中のLimmaパッケージによって実装されているWilcoxon検定を用いて、セット中に含まれる遺伝子のランキングを外部のもののランキングと比較し、続いて、αを0.2とするq-値法(9)によって多重度に関して補正した。
【0113】
バイオインフォマティクス解析
バイオインフォマティクス解析の概略
本発明者らは、(1)体細胞ミスセンス突然変異を、それらがパッセンジャーである尤度によってランク付けするためのスコア(LSMUT)を算出するための、新規なバイオインフォマティクス用ソフトウエアのパイプライン(以下に描写)を開発した。これらのスコアは、タンパク質配列、アミノ酸残基変化およびタンパク質内部の位置に由来する特性;ならびに(2)タンパク質構造相同性モデルに基づく各突然変異の質的注釈付け、を基にしている。
【0114】
突然変異スコア
本発明者らは、中立的と思われる多型と癌に関連した突然変異とを確実に鑑別すると考えられるものを同定するために、いくつかの教師あり機械学習アルゴリズムの検査を行った。最も良いアルゴリズムは、本発明者らが、並列的Random Forestソフトウエア(PARF)[http://www.irb.hrien/cir/projects/info/parf]を用いて、SwissProt Variant Pages (13)由来の2,840種の癌関連突然変異および19,503種の多型に対してトレーニングを行ったRandom Forest(12)であった。癌関連突然変異は、キーワード「癌」、「癌腫」、「肉腫」、「芽腫」、「黒色腫」、「リンパ腫」、「腺腫」および「神経膠腫」に関する構文解析を行うことによって同定された。それぞれの突然変異または多型について、本発明者らは、58種の数値的およびカテゴリー的な素性(以下の表を参照)を算出した。GBM腫瘍標本に存在した2つの突然変異はSwissProt Variant Pages中に認められ、トレーニングデータから除去した。トレーニング用セットは癌関連突然変異よりも多型をほぼ7倍多く含んでいたため、本発明者らはクラス別の重み付けを用いて少数クラスに重み付けを加えた(癌関連突然変異の重み付けは5.0とし、多型の重み付けは1.0とした)。mtryパラメーターは8に設定し、forestサイズは500ツリーに設定した。欠けている素性値は、Random Forest近接性ベースデータ補完アルゴリズム(12)を6回繰り返して用いることで補完した。Random Forestを構築するために用いた詳細なパラメーター設定および全データは要請に応じて提供する。
【0115】
本発明者らは続いて、トレーニング済みのforestを、594種のGBMミスセンス突然変異、および、11件の結腸直腸癌において突然変異していないことが認められた78種の遺伝子の転写物中に無作為に作製した142種のミスセンス突然変異の対照セットに対して適用した(5)。それぞれの突然変異について、58種の予測素性を上記の通りに算出し、トレーニング済みのforestを用いて、突然変異のランク付けのための予測スコアを算出した。具体的には、用いたスコアは、各突然変異に関して、「多型」クラスに有利なように選ばれたツリーの割合である。
【0116】
上位ランクのCAN遺伝子におけるミスセンス突然変異は、無作為なミスセンス突然変異とは異なるように分布しているという仮説を検証するために、本発明者らは、各スコアに極めて小さい無作為数を加えることによってつながりを断ち切る、改良Kolmogorov-Smirnov(KS)検定を行った。上位13種のCAN遺伝子におけるミスセンス突然変異のスコアは、対照セットにおける突然変異とは有意に異なることが見いだされた(P<0.001)。
【0117】
本発明者らは、スコアが0.7未満である突然変異(ミスセンス突然変異のほぼ15%)はパッセンジャーである可能性が低いと推測している。閾値は、パッセンジャーと、スコアが0.7未満であるのはそのほぼ2%に過ぎないSwissProt Variantセット中の中立的多型との間に類似性があるとの推定を基にしている。SwissProt Variantsのスコアは、それらを2つずつに無作為に分割し、それぞれに対してRandom Forestをトレーニングして(上記のように)、続いてそれぞれを、他のものに対してトレーニングを行ったRandom Forestを用いてスコア化することによって得た。
【0118】
相同性モデル
体細胞ミスセンス突然変異を有することが見いだされたmRNA転写物のタンパク質翻訳物を、ModPipe 1.0/MODELLER 9.1相同性モデル構築用ソフトウエア(14,15)に入力した。それぞれの突然変異に関して、本発明者らは、突然変異した位置を含むすべてのモデルを同定した。複数のモデルが突然変異に関して生成された場合には、本発明者らは、そのテンプレート構造に対して最も高度な配列同一性を有するモデルを選択した。その結果得られたモデルを用いて、突然変異した位置での野生型残基の溶媒露出度を、DSSPソフトウエア(16)を用いて算出した。露出度の値は、Gly-X-Glyトリペプチドにおけるそれぞれのタイプの側鎖に関する最大の残基溶媒露出度で除算することによって正規化した(17)。36%を上回る溶媒露出度を「露出されている」とみなし、9%〜35%は「中間性」とみなし、9%未満は「埋没している」とみなした。また、DSSPを用いて、突然変異した位置の二次構造も算出した。本発明者らは、LigBaseデータベース(18)およびPiBaseデータベース(19)を用いることで、そのテンプレート構造の等価な位置でリガンドまたはドメイン界面に近接している、相同性モデルにおける突然変異した残基位置を同定した。さらに、それぞれの突然変異に関して、本発明者らは、UCSF Chimera(20)を用いてその相同性モデル上にマッピングした突然変異の画像も作成した。それぞれの突然変異に関する画像および関連情報は、http://karchinlab.org/Mutants/CAN-genes/pancreatic/Pancreatic_cancer.html)で入手可能である。モデルの座標は要請に応じて提供する。
【0119】
(表6)Random Forestのトレーニングを行うために用いた58種の数値的およびカテゴリー的な素性
【0120】
実施例11に関する参考文献
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象におけるGBM腫瘍を特徴決定する方法であって、以下の段階を含む方法:
・イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)におけるコドン132;または
・イソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(IDH2)におけるコドン172
での体細胞突然変異の有無を同定するために、ヒト対象におけるGBM腫瘍を解析する段階。
【請求項2】
体細胞突然変異がIDH1におけるR132Hである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
体細胞突然変異がIDH1におけるR132Sである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
体細胞突然変異がIDH1におけるR132Cである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
体細胞突然変異がIDH1におけるR132Lである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
体細胞突然変異がIDH1におけるR132Gである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
体細胞突然変異がIDH2におけるR172Mである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
体細胞突然変異がIDH2におけるR172Kである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
体細胞突然変異がIDH2におけるR172Gである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
腫瘍を、体細胞突然変異が存在する場合には続発性GBMである可能性が高いとして、または体細胞突然変異が存在しない場合には原発性GBMである可能性が高いとして同定する段階。
【請求項11】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
体細胞突然変異が存在する場合にはより良好な予後(より長い期待余命)を割り当て、または体細胞突然変異が存在しない場合にはより不良な予後(より短い期待余命)を割り当てる段階。
【請求項12】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
対象を、体細胞突然変異の有無に基づいて臨床試験群に割り当てる段階。
【請求項13】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
GBM腫瘍を治療するためにIDH1またはIDH2のインヒビターを処方する段階。
【請求項14】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
GBM腫瘍を治療するためにIDH1またはIDH2のインヒビターを投与する段階。
【請求項15】
インヒビターが、IDH1、IDH2、またはIDH1およびIDH2と特異的に結合する抗体である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
インヒビターが、IDH1、IDH2、またはIDH1およびIDH2と特異的に結合する抗体である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
インヒビターが、IDH1のコドン132、IDH2のコドン172、または該コドンの両方と特異的に結合する抗体である、請求項13記載の方法。
【請求項18】
インヒビターが、IDH1のコドン132、IDH2のコドン172、または該コドンの両方と特異的に結合する抗体である、請求項14記載の方法。
【請求項19】
以下の段階をさらに含む、請求項13記載の方法:
化学療法剤をIDH1インヒビターと協調して処方する段階。
【請求項20】
以下の段階をさらに含む、請求項14記載の方法:
化学療法剤をIDH1インヒビターと協調して投与する段階。
【請求項21】
以下を増幅する段階を含む、請求項1記載の方法:
・IDH1転写物のコドン132またはヌクレオチド394もしくは395を含む、IDH1遺伝子またはIDH1 mRNAのcDNAの少なくとも一部;あるいは
・IDH2転写物のコドン172またはヌクレオチド515を含む、IDH2遺伝子またはIDH2 mRNAのcDNAの少なくとも一部。
【請求項22】
判定段階が、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(IDH2)、またはIDH1およびIDH2の両方と特異的に結合する抗体を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項23】
判定段階が、R132 IDH1またはR172 IDH2と比べて、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)のR132H、R132C、R132S、R132LおよびR132G、ならびにIDH2のR172M、R172GおよびR172Kのうち1つまたは複数に優先的に結合する抗体を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項24】
判定段階が、以下を含むオリゴヌクレオチドプローブのハイブリダイゼーションを使用する、請求項1記載の方法:
・IDH1のコドン132またはIDH1転写物のヌクレオチド394もしくは395に加えて、特異的ハイブリダイゼーションを達成するのに十分なIDH1の隣接ヌクレオチド;または
・IDH2のコドン172またはIDH2転写物のヌクレオチド515に加えて、特異的ハイブリダイゼーションを達成するのに十分なIDH2の隣接ヌクレオチド。
【請求項25】
判定段階が、プライマー伸長を用いて、以下を含む反応産物を生成させることを含む、請求項1記載の方法:
・コドン132またはIDH1転写物のヌクレオチド394もしくは395を含む、IDH1の少なくとも一部;あるいは
・コドン172またはIDH2転写物のヌクレオチド515を含む、IDH2の少なくとも一部。
【請求項26】
・R132H IDH1またはR132C IDH1またはR132S IDH1またはR132L IDH1またはR132G IDH1と特異的に結合するが、R132 IDH1とは特異的に結合しないか;
・R172M IDH2、IDH2のR172GまたはR172Kと特異的に結合するが、R172 IDH2とは特異的に結合しないか;
・R132 IDH1と特異的に結合するか;あるいは
・R172 IDH2と特異的に結合する、
単離された抗体。
【請求項27】
モノクローナル抗体である、請求項26記載の抗体。
【請求項28】
単鎖可変領域分子である、請求項26記載の抗体。
【請求項29】
以下を含む突然変異ポリペプチドを哺乳動物に投与することにより、IDH1突然変異ポリペプチド上には認められるが正常IDH1上には認められない、またはIDH2突然変異ポリペプチド上には認められるが正常IDH2上には認められないエピトープに対して免疫反応性のある抗体および/またはT細胞を産生させる段階を含む、哺乳動物を免疫化する方法:
・残基132を含み、該残基132がアルギニンではない、ヒト腫瘍において認められるヒトIDH1タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基;または
・残基172を含み、該残基172がアルギニンではない、ヒト腫瘍において認められるヒトIDH2タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基。
【請求項30】
突然変異ポリペプチドがIDH1のR132H残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
突然変異ポリペプチドがIDH1のR132S残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項32】
突然変異ポリペプチドがIDH1のR132C残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項33】
突然変異ポリペプチドがIDH1のR132G残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項34】
突然変異ポリペプチドがIDH1のR132L残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項35】
突然変異ポリペプチドがIDH2のR172M残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項36】
突然変異ポリペプチドがIDH2のR172K残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項37】
突然変異ポリペプチドがIDH2のR172G残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項38】
以下を含む、突然変異ポリペプチド:
・残基132を含み、該残基132がアルギニンではない、ヒト腫瘍において認められるヒトIDH1タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基;または
・残基172を含み、該残基172がアルギニンではない、ヒト腫瘍において認められるヒトIDH2タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基。
【請求項39】
IDH1ポリペプチドであり、残基132がヒスチジン、システイン、ロイシン、セリンおよびグリシンからなる群より選択される、請求項38記載の突然変異ポリペプチド。
【請求項40】
ヒトIDH2ポリペプチドであり、残基172がグリシン、リジンおよびメチオニンからなる群より選択される、請求項38記載の突然変異ポリペプチド。
【請求項41】
ヒト腫瘍において認められるヒトのIDH1タンパク質またはIDH2タンパク質のコード配列の少なくとも18個でありかつ600個未満である連続したヌクレオチド残基を含み、該少なくとも18個の連続したアミノ酸残基が以下を含む、単離されたポリヌクレオチド:
・それぞれCおよび/またはGではない、IDH1のヌクレオチド394および/または395;
・Gではない、IDH2のヌクレオチド515。
【請求項42】
コード配列がヒトIDH1タンパク質のものであって、ヌクレオチド394がT、AおよびGからなる群より選択されるか、またはヌクレオチド395がAおよびTからなる群より選択される、請求項41記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項43】
コード配列がヒトIDH2タンパク質のものであって、ヌクレオチド515がTおよびAからなる群より選択されるか、またはヌクレオチド514がGである、請求項41記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項44】
以下を含むポリペプチドを哺乳動物に投与することにより、IDH1ポリペプチド上に認められるかまたはIDH2突然変異ポリペプチド上に認められるエピトープに対して免疫反応性のある抗体および/またはT細胞を産生させる段階を含む、哺乳動物を免疫化する方法:
・ヒトIDH1タンパク質の少なくとも8個でありかつ200個未満である連続したアミノ酸残基であって、該少なくとも8個の連続したアミノ酸残基が残基132を含み、該残基132がアルギニンである、アミノ酸残基;または
・ヒトIDH2タンパク質の少なくとも8個でありかつ200個未満である連続したアミノ酸残基であって、該少なくとも8個の連続したアミノ酸残基が残基172を含み、該残基172がアルギニンである、アミノ酸残基。
【請求項45】
以下を含む、イソクエン酸デヒドロゲナーゼポリペプチド:
・少なくとも8個の連続したアミノ酸残基が残基132を含み、該残基132がアルギニンである、ヒトIDH1タンパク質の少なくとも8個でありかつ200個未満である連続したアミノ酸残基;または
・少なくとも8個の連続したアミノ酸残基が残基172を含み、該残基172がアルギニンである、ヒトIDH2タンパク質の少なくとも8個でありかつ200個未満である連続したアミノ酸残基。
【請求項46】
癌治療のための被験物質をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
被験物質をヒトのIDH1タンパク質またはIDH2タンパク質と接触させる段階;
ヒトのIDH1タンパク質またはIDH2タンパク質の酵素活性を解析する段階;
酵素活性を改変する被験物質を治療薬候補として同定する段階;
癌細胞増殖阻害、期待余命の延長、癌細胞増殖の阻害、アポトーシスの刺激または腫瘍成長の阻害を判定するために、細胞、組織または動物個体の癌モデルにおいて該治療薬候補を試験する段階。
【請求項47】
タンパク質がIDH1である、請求項46記載の方法。
【請求項48】
タンパク質がIDH2である、請求項46記載の方法。
【請求項49】
改変物質がインヒビターである、請求項46記載の方法。
【請求項50】
改変物質がエンハンサーである、請求項46記載の方法。
【請求項51】
試験の段階が化学療法用抗癌薬の存在下で行われる、請求項46記載の方法。
【請求項52】
試験の段階が化学療法用抗癌薬の非存在下で行われる、請求項46記載の方法。
【請求項53】
タンパク質が残基132にアルギニン以外のアミノ酸を有する、請求項47記載の方法。
【請求項54】
タンパク質が残基172にアルギニン以外のアミノ酸を有する、請求項48記載の方法。
【請求項55】
酵素を分光学的解析を用いて解析する、請求項46記載の方法。
【請求項56】
酵素を生物発光解析を用いて解析する、請求項46記載の方法。
【請求項57】
細胞、組織または動物個体の癌モデルが、IDH1のコドン132またはIDH2のコドン172にアルギニン以外の残基を含む、請求項46記載の方法。
【請求項58】
ヒトにおける多型性神経膠芽腫(GBM)またはGBMの微小残存病変またはGBMの分子再発の検出または診断の方法であって、以下の段階を含む方法:
被験標本における遺伝子またはそれにコードされたmRNAもしくはタンパク質での体細胞突然変異をヒトの正常標本と比べて判定する段階であって、該遺伝子が図10、表S7に列記されたものからなる群より選択される、段階;
体細胞突然変異が判定された場合に、該ヒトを多型性神経膠芽腫、微小残存病変またはGBMの分子再発を有する可能性が高いとして同定する段階。
【請求項59】
突然変異が、CDKN2A、TP53、EGFR、PTEN、NF1、CDK4、RB1、IDH1、PIK3CAおよびPIK3R1からなる群より選択される遺伝子内に存在する、請求項58記載の方法。
【請求項60】
被験標本が脳組織標本であるか、または多型性神経膠芽腫転移を疑われる、請求項58記載の方法。
【請求項61】
正常標本が脳組織標本である、請求項58記載の方法。
【請求項62】
ヒトにおける多型性神経膠芽腫を特徴決定する方法であって、以下の段階を含む方法:
被験標本における少なくとも1つの遺伝子またはそのコードされるcDNAまたはタンパク質での体細胞突然変異をヒトの正常標本と比べて判定することによって、多型性神経膠芽腫に関するCAN遺伝子突然変異シグネチャーを決定する段階であって、該遺伝子が図10、表S7に列記されたものからなる群より選択される段階;
該多型性神経膠芽腫を、CAN遺伝子突然変異シグネチャーを有する多型性神経膠芽腫腫瘍の第1群に割り当てる段階。
【請求項63】
突然変異が、CDKN2A、TP53、EGFR、PTEN、NF1、CDK4、RB1、IDH1、PIK3CAおよびPIK3R1からなる群より選択される遺伝子内に存在する、請求項62記載の方法。
【請求項64】
被験標本が多型性神経膠芽腫標本であるか、または多型性神経膠芽腫転移を疑われる、請求項62記載の方法。
【請求項65】
正常標本が脳組織標本である、請求項62記載の方法。
【請求項66】
以下の段階をさらに含む、請求項62記載の方法:
第1群に対する候補または公知の抗癌治療法の有効性を、異なるCAN遺伝子突然変異シグネチャーを有する多型性神経膠芽腫腫瘍の第2群に対する有効性と比較する段階;
該候補または公知の抗癌治療法の有効性の増大または低下と相関するCAN遺伝子突然変異シグネチャーを、他の群と比べて同定する段階。
【請求項67】
少なくとも1つの突然変異が、CDKN2A、TP53、EGFR、PTEN、NF1、CDK4、RB1、IDH1、PIK3CAおよびPIK3R1からなる群より選択される遺伝子内に存在する、請求項66記載の方法。
【請求項68】
被験標本が脳組織標本または血液標本である、請求項66記載の方法。
【請求項69】
正常標本が脳組織標本または血液標本である、請求項66記載の方法。
【請求項70】
CAN遺伝子突然変異シグネチャーが、図10、表S7から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、請求項62記載の方法。
【請求項71】
CAN遺伝子突然変異シグネチャーが、図10、表S7から選択される少なくとも3つの遺伝子を含む、請求項62記載の方法。
【請求項72】
CAN遺伝子突然変異シグネチャーが、図10、表S7から選択される少なくとも4つの遺伝子を含む、請求項62記載の方法。
【請求項73】
CAN遺伝子突然変異シグネチャーが、図10、表S7から選択される少なくとも5つの遺伝子を含む、請求項62記載の方法。
【請求項74】
CAN遺伝子突然変異シグネチャーが、図10、表S7から選択される少なくとも6つの遺伝子を含む、請求項62記載の方法。
【請求項75】
CAN遺伝子突然変異シグネチャーが、図10、表S7から選択される少なくとも7つの遺伝子を含む、請求項62記載の方法。
【請求項76】
ヒトにおける多型性神経膠芽腫腫瘍を特徴決定する方法であって、以下の段階を含む方法:
被験標本における少なくとも1つの体細胞突然変異をヒトの正常標本と比べて判定することにより、多型性神経膠芽腫腫瘍における、TP53、RB1およびPI3K/PTENからなる群より選択される突然変異経路を決定する段階であって、該少なくとも1つの体細胞突然変異がTP53、MDM2、MDM4、RB1、CDK4、CDKN2A、PTEN、PIK3CA、PIK3R1およびIRS1からなる群より選択される1つまたは複数の遺伝子内に存在する段階;
該多型性神経膠芽腫を、該経路の1つに突然変異を有する多型性神経膠芽腫腫瘍の第1群に割り当てる段階であって、該第1群が、体細胞突然変異を有する経路の遺伝子に関して不均一であり、体細胞突然変異を有する経路に関して均一である、段階。
【請求項77】
以下の段階をさらに含む、請求項76記載の方法:
第1群に対する候補または公知の抗癌治療法の有効性を、前記経路に突然変異を有しない第2群の多型性神経膠芽腫腫瘍に対する有効性と比較する段階;
他の群に対する、第1群における候補または公知の抗癌治療法の有効性の増大または低下と相関する経路を同定する段階。
【請求項78】
ヒトにおける多型性神経膠芽腫またはGBMの微小残存病変またはGBMの分子再発を検出または診断するための方法であって、以下の段階を含む方法:
臨床標本における、図10、表S5またはS9(SAGEの結果脳で過剰発現していた遺伝子)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する段階;
該臨床標本における該1つまたは複数の遺伝子の発現を、対照ヒトまたはヒトの対照群の対応する標本における該1つまたは複数の遺伝子の発現と比較する段階;
対象と比べて発現が増大している臨床標本を、ヒトにおける多型性神経膠芽腫またはGBMの微小残存病変またはGBMの分子再発を有する可能性が高いとして同定する段階。
【請求項79】
臨床標本が血液標本である、請求項78記載の方法。
【請求項80】
臨床標本が脳組織標本である、請求項78記載の方法。
【請求項81】
1つまたは複数の遺伝子のタンパク質発現を測定する、請求項78記載の方法。
【請求項82】
1つまたは複数の遺伝子のmRNA発現を測定する、請求項78記載の方法。
【請求項83】
1つまたは複数の遺伝子が、図10、表S10(SAGEによって見いだされた細胞外タンパク質)に列記されたものから選択される、請求項78記載の方法。
【請求項84】
多型性神経膠芽腫の負荷量をモニターするための方法であって、以下の段階を含む方法:
臨床標本における、図10、表S5またはS9(SAGEの結果脳で過剰発現していた遺伝子)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する段階;
該測定段階を1回または複数回繰り返す段階;および
経時的に増大した、低下した、または安定な発現レベルを同定する段階。
【請求項85】
臨床標本が血液標本である、請求項84記載の方法。
【請求項86】
1つまたは複数の遺伝子のタンパク質発現を測定する、請求項84記載の方法。
【請求項87】
1つまたは複数の遺伝子が、図10、表S10(SAGEによって見いだされた細胞外タンパク質)に列記されたものから選択される、請求項86記載の方法。
【請求項88】
多型性神経膠芽腫の負荷量をモニターするための方法であって、以下の段階を含む方法:
臨床標本における、図10、表S7に列記された1つまたは複数の遺伝子の体細胞突然変異を判定する段階;
該判定段階を1回または複数回繰り返す段階;および
経時的に増大した、低下した、または安定な該体細胞突然変異レベルを同定する段階。
【請求項89】
多型性神経膠芽腫を検出または診断するための方法であって、以下の段階を含む方法:
臨床標本における、図10、表S6(ホモ接合性欠失)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する段階;
該臨床標本における該1つまたは複数の遺伝子の発現を、対照ヒトまたはヒトの対照群の対応する標本における該1つまたは複数の遺伝子の発現と比較する段階;
対照と比べて発現が低下した臨床標本を、多型性神経膠芽腫を有する可能性が高いとして同定する段階。
【請求項90】
臨床標本が血液標本またはリンパ節標本である、請求項89記載の方法。
【請求項91】
1つまたは複数の遺伝子のタンパク質発現を測定する、請求項89記載の方法。
【請求項92】
多型性神経膠芽腫の負荷量をモニターするための方法であって、以下の段階を含む方法:
臨床標本における、図10、表S6(ホモ接合性欠失)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する段階;
該測定段階を1回または複数回繰り返す段階;および
経時的に増大した、低下した、または安定な発現レベルを同定する段階。
【請求項93】
臨床標本が血液標本またはリンパ節標本である、請求項92記載の方法。
【請求項94】
1つまたは複数の遺伝子のタンパク質発現を測定する、請求項92記載の方法。
【請求項95】
検体が、血漿、血清、全血、便、および呼気からなる群より選択される、請求項89または92記載の方法。
【請求項1】
ヒト対象におけるGBM腫瘍を特徴決定する方法であって、以下の段階を含む方法:
・イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)におけるコドン132;または
・イソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(IDH2)におけるコドン172
での体細胞突然変異の有無を同定するために、ヒト対象におけるGBM腫瘍を解析する段階。
【請求項2】
体細胞突然変異がIDH1におけるR132Hである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
体細胞突然変異がIDH1におけるR132Sである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
体細胞突然変異がIDH1におけるR132Cである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
体細胞突然変異がIDH1におけるR132Lである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
体細胞突然変異がIDH1におけるR132Gである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
体細胞突然変異がIDH2におけるR172Mである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
体細胞突然変異がIDH2におけるR172Kである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
体細胞突然変異がIDH2におけるR172Gである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
腫瘍を、体細胞突然変異が存在する場合には続発性GBMである可能性が高いとして、または体細胞突然変異が存在しない場合には原発性GBMである可能性が高いとして同定する段階。
【請求項11】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
体細胞突然変異が存在する場合にはより良好な予後(より長い期待余命)を割り当て、または体細胞突然変異が存在しない場合にはより不良な予後(より短い期待余命)を割り当てる段階。
【請求項12】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
対象を、体細胞突然変異の有無に基づいて臨床試験群に割り当てる段階。
【請求項13】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
GBM腫瘍を治療するためにIDH1またはIDH2のインヒビターを処方する段階。
【請求項14】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
GBM腫瘍を治療するためにIDH1またはIDH2のインヒビターを投与する段階。
【請求項15】
インヒビターが、IDH1、IDH2、またはIDH1およびIDH2と特異的に結合する抗体である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
インヒビターが、IDH1、IDH2、またはIDH1およびIDH2と特異的に結合する抗体である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
インヒビターが、IDH1のコドン132、IDH2のコドン172、または該コドンの両方と特異的に結合する抗体である、請求項13記載の方法。
【請求項18】
インヒビターが、IDH1のコドン132、IDH2のコドン172、または該コドンの両方と特異的に結合する抗体である、請求項14記載の方法。
【請求項19】
以下の段階をさらに含む、請求項13記載の方法:
化学療法剤をIDH1インヒビターと協調して処方する段階。
【請求項20】
以下の段階をさらに含む、請求項14記載の方法:
化学療法剤をIDH1インヒビターと協調して投与する段階。
【請求項21】
以下を増幅する段階を含む、請求項1記載の方法:
・IDH1転写物のコドン132またはヌクレオチド394もしくは395を含む、IDH1遺伝子またはIDH1 mRNAのcDNAの少なくとも一部;あるいは
・IDH2転写物のコドン172またはヌクレオチド515を含む、IDH2遺伝子またはIDH2 mRNAのcDNAの少なくとも一部。
【請求項22】
判定段階が、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(IDH2)、またはIDH1およびIDH2の両方と特異的に結合する抗体を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項23】
判定段階が、R132 IDH1またはR172 IDH2と比べて、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)のR132H、R132C、R132S、R132LおよびR132G、ならびにIDH2のR172M、R172GおよびR172Kのうち1つまたは複数に優先的に結合する抗体を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項24】
判定段階が、以下を含むオリゴヌクレオチドプローブのハイブリダイゼーションを使用する、請求項1記載の方法:
・IDH1のコドン132またはIDH1転写物のヌクレオチド394もしくは395に加えて、特異的ハイブリダイゼーションを達成するのに十分なIDH1の隣接ヌクレオチド;または
・IDH2のコドン172またはIDH2転写物のヌクレオチド515に加えて、特異的ハイブリダイゼーションを達成するのに十分なIDH2の隣接ヌクレオチド。
【請求項25】
判定段階が、プライマー伸長を用いて、以下を含む反応産物を生成させることを含む、請求項1記載の方法:
・コドン132またはIDH1転写物のヌクレオチド394もしくは395を含む、IDH1の少なくとも一部;あるいは
・コドン172またはIDH2転写物のヌクレオチド515を含む、IDH2の少なくとも一部。
【請求項26】
・R132H IDH1またはR132C IDH1またはR132S IDH1またはR132L IDH1またはR132G IDH1と特異的に結合するが、R132 IDH1とは特異的に結合しないか;
・R172M IDH2、IDH2のR172GまたはR172Kと特異的に結合するが、R172 IDH2とは特異的に結合しないか;
・R132 IDH1と特異的に結合するか;あるいは
・R172 IDH2と特異的に結合する、
単離された抗体。
【請求項27】
モノクローナル抗体である、請求項26記載の抗体。
【請求項28】
単鎖可変領域分子である、請求項26記載の抗体。
【請求項29】
以下を含む突然変異ポリペプチドを哺乳動物に投与することにより、IDH1突然変異ポリペプチド上には認められるが正常IDH1上には認められない、またはIDH2突然変異ポリペプチド上には認められるが正常IDH2上には認められないエピトープに対して免疫反応性のある抗体および/またはT細胞を産生させる段階を含む、哺乳動物を免疫化する方法:
・残基132を含み、該残基132がアルギニンではない、ヒト腫瘍において認められるヒトIDH1タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基;または
・残基172を含み、該残基172がアルギニンではない、ヒト腫瘍において認められるヒトIDH2タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基。
【請求項30】
突然変異ポリペプチドがIDH1のR132H残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
突然変異ポリペプチドがIDH1のR132S残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項32】
突然変異ポリペプチドがIDH1のR132C残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項33】
突然変異ポリペプチドがIDH1のR132G残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項34】
突然変異ポリペプチドがIDH1のR132L残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項35】
突然変異ポリペプチドがIDH2のR172M残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項36】
突然変異ポリペプチドがIDH2のR172K残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項37】
突然変異ポリペプチドがIDH2のR172G残基を含む、請求項29記載の方法。
【請求項38】
以下を含む、突然変異ポリペプチド:
・残基132を含み、該残基132がアルギニンではない、ヒト腫瘍において認められるヒトIDH1タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基;または
・残基172を含み、該残基172がアルギニンではない、ヒト腫瘍において認められるヒトIDH2タンパク質の少なくとも8個の連続したアミノ酸残基。
【請求項39】
IDH1ポリペプチドであり、残基132がヒスチジン、システイン、ロイシン、セリンおよびグリシンからなる群より選択される、請求項38記載の突然変異ポリペプチド。
【請求項40】
ヒトIDH2ポリペプチドであり、残基172がグリシン、リジンおよびメチオニンからなる群より選択される、請求項38記載の突然変異ポリペプチド。
【請求項41】
ヒト腫瘍において認められるヒトのIDH1タンパク質またはIDH2タンパク質のコード配列の少なくとも18個でありかつ600個未満である連続したヌクレオチド残基を含み、該少なくとも18個の連続したアミノ酸残基が以下を含む、単離されたポリヌクレオチド:
・それぞれCおよび/またはGではない、IDH1のヌクレオチド394および/または395;
・Gではない、IDH2のヌクレオチド515。
【請求項42】
コード配列がヒトIDH1タンパク質のものであって、ヌクレオチド394がT、AおよびGからなる群より選択されるか、またはヌクレオチド395がAおよびTからなる群より選択される、請求項41記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項43】
コード配列がヒトIDH2タンパク質のものであって、ヌクレオチド515がTおよびAからなる群より選択されるか、またはヌクレオチド514がGである、請求項41記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項44】
以下を含むポリペプチドを哺乳動物に投与することにより、IDH1ポリペプチド上に認められるかまたはIDH2突然変異ポリペプチド上に認められるエピトープに対して免疫反応性のある抗体および/またはT細胞を産生させる段階を含む、哺乳動物を免疫化する方法:
・ヒトIDH1タンパク質の少なくとも8個でありかつ200個未満である連続したアミノ酸残基であって、該少なくとも8個の連続したアミノ酸残基が残基132を含み、該残基132がアルギニンである、アミノ酸残基;または
・ヒトIDH2タンパク質の少なくとも8個でありかつ200個未満である連続したアミノ酸残基であって、該少なくとも8個の連続したアミノ酸残基が残基172を含み、該残基172がアルギニンである、アミノ酸残基。
【請求項45】
以下を含む、イソクエン酸デヒドロゲナーゼポリペプチド:
・少なくとも8個の連続したアミノ酸残基が残基132を含み、該残基132がアルギニンである、ヒトIDH1タンパク質の少なくとも8個でありかつ200個未満である連続したアミノ酸残基;または
・少なくとも8個の連続したアミノ酸残基が残基172を含み、該残基172がアルギニンである、ヒトIDH2タンパク質の少なくとも8個でありかつ200個未満である連続したアミノ酸残基。
【請求項46】
癌治療のための被験物質をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
被験物質をヒトのIDH1タンパク質またはIDH2タンパク質と接触させる段階;
ヒトのIDH1タンパク質またはIDH2タンパク質の酵素活性を解析する段階;
酵素活性を改変する被験物質を治療薬候補として同定する段階;
癌細胞増殖阻害、期待余命の延長、癌細胞増殖の阻害、アポトーシスの刺激または腫瘍成長の阻害を判定するために、細胞、組織または動物個体の癌モデルにおいて該治療薬候補を試験する段階。
【請求項47】
タンパク質がIDH1である、請求項46記載の方法。
【請求項48】
タンパク質がIDH2である、請求項46記載の方法。
【請求項49】
改変物質がインヒビターである、請求項46記載の方法。
【請求項50】
改変物質がエンハンサーである、請求項46記載の方法。
【請求項51】
試験の段階が化学療法用抗癌薬の存在下で行われる、請求項46記載の方法。
【請求項52】
試験の段階が化学療法用抗癌薬の非存在下で行われる、請求項46記載の方法。
【請求項53】
タンパク質が残基132にアルギニン以外のアミノ酸を有する、請求項47記載の方法。
【請求項54】
タンパク質が残基172にアルギニン以外のアミノ酸を有する、請求項48記載の方法。
【請求項55】
酵素を分光学的解析を用いて解析する、請求項46記載の方法。
【請求項56】
酵素を生物発光解析を用いて解析する、請求項46記載の方法。
【請求項57】
細胞、組織または動物個体の癌モデルが、IDH1のコドン132またはIDH2のコドン172にアルギニン以外の残基を含む、請求項46記載の方法。
【請求項58】
ヒトにおける多型性神経膠芽腫(GBM)またはGBMの微小残存病変またはGBMの分子再発の検出または診断の方法であって、以下の段階を含む方法:
被験標本における遺伝子またはそれにコードされたmRNAもしくはタンパク質での体細胞突然変異をヒトの正常標本と比べて判定する段階であって、該遺伝子が図10、表S7に列記されたものからなる群より選択される、段階;
体細胞突然変異が判定された場合に、該ヒトを多型性神経膠芽腫、微小残存病変またはGBMの分子再発を有する可能性が高いとして同定する段階。
【請求項59】
突然変異が、CDKN2A、TP53、EGFR、PTEN、NF1、CDK4、RB1、IDH1、PIK3CAおよびPIK3R1からなる群より選択される遺伝子内に存在する、請求項58記載の方法。
【請求項60】
被験標本が脳組織標本であるか、または多型性神経膠芽腫転移を疑われる、請求項58記載の方法。
【請求項61】
正常標本が脳組織標本である、請求項58記載の方法。
【請求項62】
ヒトにおける多型性神経膠芽腫を特徴決定する方法であって、以下の段階を含む方法:
被験標本における少なくとも1つの遺伝子またはそのコードされるcDNAまたはタンパク質での体細胞突然変異をヒトの正常標本と比べて判定することによって、多型性神経膠芽腫に関するCAN遺伝子突然変異シグネチャーを決定する段階であって、該遺伝子が図10、表S7に列記されたものからなる群より選択される段階;
該多型性神経膠芽腫を、CAN遺伝子突然変異シグネチャーを有する多型性神経膠芽腫腫瘍の第1群に割り当てる段階。
【請求項63】
突然変異が、CDKN2A、TP53、EGFR、PTEN、NF1、CDK4、RB1、IDH1、PIK3CAおよびPIK3R1からなる群より選択される遺伝子内に存在する、請求項62記載の方法。
【請求項64】
被験標本が多型性神経膠芽腫標本であるか、または多型性神経膠芽腫転移を疑われる、請求項62記載の方法。
【請求項65】
正常標本が脳組織標本である、請求項62記載の方法。
【請求項66】
以下の段階をさらに含む、請求項62記載の方法:
第1群に対する候補または公知の抗癌治療法の有効性を、異なるCAN遺伝子突然変異シグネチャーを有する多型性神経膠芽腫腫瘍の第2群に対する有効性と比較する段階;
該候補または公知の抗癌治療法の有効性の増大または低下と相関するCAN遺伝子突然変異シグネチャーを、他の群と比べて同定する段階。
【請求項67】
少なくとも1つの突然変異が、CDKN2A、TP53、EGFR、PTEN、NF1、CDK4、RB1、IDH1、PIK3CAおよびPIK3R1からなる群より選択される遺伝子内に存在する、請求項66記載の方法。
【請求項68】
被験標本が脳組織標本または血液標本である、請求項66記載の方法。
【請求項69】
正常標本が脳組織標本または血液標本である、請求項66記載の方法。
【請求項70】
CAN遺伝子突然変異シグネチャーが、図10、表S7から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、請求項62記載の方法。
【請求項71】
CAN遺伝子突然変異シグネチャーが、図10、表S7から選択される少なくとも3つの遺伝子を含む、請求項62記載の方法。
【請求項72】
CAN遺伝子突然変異シグネチャーが、図10、表S7から選択される少なくとも4つの遺伝子を含む、請求項62記載の方法。
【請求項73】
CAN遺伝子突然変異シグネチャーが、図10、表S7から選択される少なくとも5つの遺伝子を含む、請求項62記載の方法。
【請求項74】
CAN遺伝子突然変異シグネチャーが、図10、表S7から選択される少なくとも6つの遺伝子を含む、請求項62記載の方法。
【請求項75】
CAN遺伝子突然変異シグネチャーが、図10、表S7から選択される少なくとも7つの遺伝子を含む、請求項62記載の方法。
【請求項76】
ヒトにおける多型性神経膠芽腫腫瘍を特徴決定する方法であって、以下の段階を含む方法:
被験標本における少なくとも1つの体細胞突然変異をヒトの正常標本と比べて判定することにより、多型性神経膠芽腫腫瘍における、TP53、RB1およびPI3K/PTENからなる群より選択される突然変異経路を決定する段階であって、該少なくとも1つの体細胞突然変異がTP53、MDM2、MDM4、RB1、CDK4、CDKN2A、PTEN、PIK3CA、PIK3R1およびIRS1からなる群より選択される1つまたは複数の遺伝子内に存在する段階;
該多型性神経膠芽腫を、該経路の1つに突然変異を有する多型性神経膠芽腫腫瘍の第1群に割り当てる段階であって、該第1群が、体細胞突然変異を有する経路の遺伝子に関して不均一であり、体細胞突然変異を有する経路に関して均一である、段階。
【請求項77】
以下の段階をさらに含む、請求項76記載の方法:
第1群に対する候補または公知の抗癌治療法の有効性を、前記経路に突然変異を有しない第2群の多型性神経膠芽腫腫瘍に対する有効性と比較する段階;
他の群に対する、第1群における候補または公知の抗癌治療法の有効性の増大または低下と相関する経路を同定する段階。
【請求項78】
ヒトにおける多型性神経膠芽腫またはGBMの微小残存病変またはGBMの分子再発を検出または診断するための方法であって、以下の段階を含む方法:
臨床標本における、図10、表S5またはS9(SAGEの結果脳で過剰発現していた遺伝子)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する段階;
該臨床標本における該1つまたは複数の遺伝子の発現を、対照ヒトまたはヒトの対照群の対応する標本における該1つまたは複数の遺伝子の発現と比較する段階;
対象と比べて発現が増大している臨床標本を、ヒトにおける多型性神経膠芽腫またはGBMの微小残存病変またはGBMの分子再発を有する可能性が高いとして同定する段階。
【請求項79】
臨床標本が血液標本である、請求項78記載の方法。
【請求項80】
臨床標本が脳組織標本である、請求項78記載の方法。
【請求項81】
1つまたは複数の遺伝子のタンパク質発現を測定する、請求項78記載の方法。
【請求項82】
1つまたは複数の遺伝子のmRNA発現を測定する、請求項78記載の方法。
【請求項83】
1つまたは複数の遺伝子が、図10、表S10(SAGEによって見いだされた細胞外タンパク質)に列記されたものから選択される、請求項78記載の方法。
【請求項84】
多型性神経膠芽腫の負荷量をモニターするための方法であって、以下の段階を含む方法:
臨床標本における、図10、表S5またはS9(SAGEの結果脳で過剰発現していた遺伝子)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する段階;
該測定段階を1回または複数回繰り返す段階;および
経時的に増大した、低下した、または安定な発現レベルを同定する段階。
【請求項85】
臨床標本が血液標本である、請求項84記載の方法。
【請求項86】
1つまたは複数の遺伝子のタンパク質発現を測定する、請求項84記載の方法。
【請求項87】
1つまたは複数の遺伝子が、図10、表S10(SAGEによって見いだされた細胞外タンパク質)に列記されたものから選択される、請求項86記載の方法。
【請求項88】
多型性神経膠芽腫の負荷量をモニターするための方法であって、以下の段階を含む方法:
臨床標本における、図10、表S7に列記された1つまたは複数の遺伝子の体細胞突然変異を判定する段階;
該判定段階を1回または複数回繰り返す段階;および
経時的に増大した、低下した、または安定な該体細胞突然変異レベルを同定する段階。
【請求項89】
多型性神経膠芽腫を検出または診断するための方法であって、以下の段階を含む方法:
臨床標本における、図10、表S6(ホモ接合性欠失)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する段階;
該臨床標本における該1つまたは複数の遺伝子の発現を、対照ヒトまたはヒトの対照群の対応する標本における該1つまたは複数の遺伝子の発現と比較する段階;
対照と比べて発現が低下した臨床標本を、多型性神経膠芽腫を有する可能性が高いとして同定する段階。
【請求項90】
臨床標本が血液標本またはリンパ節標本である、請求項89記載の方法。
【請求項91】
1つまたは複数の遺伝子のタンパク質発現を測定する、請求項89記載の方法。
【請求項92】
多型性神経膠芽腫の負荷量をモニターするための方法であって、以下の段階を含む方法:
臨床標本における、図10、表S6(ホモ接合性欠失)に列記された1つまたは複数の遺伝子の発現を測定する段階;
該測定段階を1回または複数回繰り返す段階;および
経時的に増大した、低下した、または安定な発現レベルを同定する段階。
【請求項93】
臨床標本が血液標本またはリンパ節標本である、請求項92記載の方法。
【請求項94】
1つまたは複数の遺伝子のタンパク質発現を測定する、請求項92記載の方法。
【請求項95】
検体が、血漿、血清、全血、便、および呼気からなる群より選択される、請求項89または92記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10−001】
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【図10−063】
【図10−064】
【図10−065】
【図10−066】
【図10−067】
【図10−068】
【図10−069】
【図10−070】
【図10−071】
【図10−072】
【図10−073】
【図10−074】
【図10−075】
【図10−076】
【図10−077】
【図10−078】
【図10−079】
【図10−080】
【図10−081】
【図10−082】
【図10−083】
【図10−084】
【図10−085】
【図10−086】
【図10−087】
【図10−088】
【図10−089】
【図10−090】
【図10−091】
【図10−092】
【図10−093】
【図10−094】
【図10−095】
【図10−096】
【図10−097】
【図10−098】
【図10−099】
【図10−100】
【図10−101】
【図10−102】
【図10−103】
【図10−104】
【図10−105】
【図10−106】
【図10−107】
【図10−108】
【図10−109】
【図10−110】
【図10−111】
【図10−112】
【図10−113】
【図10−114】
【図10−115】
【図10−116】
【図10−117】
【図10−118】
【図10−119】
【図10−120】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2012−501652(P2012−501652A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526180(P2011−526180)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/055803
【国際公開番号】WO2010/028099
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(398076227)ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー (35)
【出願人】(511056404)デューク ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/055803
【国際公開番号】WO2010/028099
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(398076227)ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー (35)
【出願人】(511056404)デューク ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】
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