説明

悪性神経膠腫患者の予後予測方法

【課題】本発明は、悪性神経膠腫患者の予後を予測する方法、ならびに前記方法に用いる遺伝子セットおよびキットを提供する。
【解決手段】悪性神経膠腫患者の予後を予測する方法であって、該患者から採取された試料において、特定の82遺伝子または15遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む方法、ならびに該方法を実施するための遺伝子セットおよびキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性神経膠腫患者の予後を予測する方法、ならびに前記方法に用いる遺伝子セットおよびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
悪性神経膠腫患者の予後は、従来病理組織学的診断を基本になされていた。組織学的診断方法として、世界保健機関(WHO)の方法が現在最も広く用いられている(非特許文献1)。しかしながら、診断区分内にも依然として多くの個体差が存在し、また診断者の主観要素もあり、必ずしも正確な診断と予後予測ができていなかった。病理組織学的診断は、患者を予め認識できない点で不十分であることが明らかとなっている。それゆえ、悪性神経膠腫のためのさらなる予後予測マーカーが必要とされている。
【0003】
近年、マイクロアレイ技術による、神経膠腫を含む各種癌の分類(非特許文献2−4)、神経膠腫サブクラスの同定(非特許文献5−13)、分子マーカーの発見(14−21)、疾患の予後予測(非特許文献22−25)が可能となってきている。病理組織学的診断と異なり、分子診断は診断時の腫瘍の遺伝子発現プロファイルに基づき個人の長期的な転帰を予測することができ、臨床医が最適な臨床判断を行う助けとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kleihues P, Louis DN, Wiestler OD, et al WHO grading of tumours of the central nervous system. In: Louis DN, Ohgaki H, Wiestler OD, Cavenee WK eds. World Health Organization Classification of Tumours of the Nervous System. Lyon, France:IARC Press;2007:10-11.
【非特許文献2】Ramaswamy S, Tamayo P, Rifkin R, et al. Multiclass cancer diagnosis using tumor gene expression signatures. Proc Natl Acad Sci U S A 2001; 98: 15149-15154.
【非特許文献3】Rickman DS, Bobek MP, Misek DE, et al. Distinctive molecular profiles of high-grade and low-grade gliomas based on oligonucleotide microarray analysis. Cancer Res 2001;61:6885-6891.
【非特許文献4】Kim S, Dougherty ER, Shmulevich I, et al. Identification of combination gene sets for glioma classification. Mol Cancer Ther 2002;1:1229-1236.
【非特許文献5】Khan J, Wei JS, Ringner M, et al. Classification and diagnostic prediction of cancers using gene expression profiling and artificial neural networks. Nat Med 2001;7:673-679.
【非特許文献6】Mischel PS, Shai R, Shi T, et al. Identification of molecular subtypes of glioblastoma by gene expression profiling. Oncogene 2003;22:2361-2373.
【非特許文献7】Nigro JM, Misra A, Zhang L, et al. Integrated array-comparative genomic hybridization and expression array profiles identify clinically relevant molecular subtypes of glioblastoma. Cancer Res 2005;65:1678-1686.
【非特許文献8】Shai R, Shi T, Kremen TJ, et al. Gene expression profiling identifies molecular subtypes of gliomas. Oncogene 2003;22:4918-4923.
【非特許文献9】Sorlie T, Tibshirani R, Parker J, et al. Repeated observation of breast tumor subtypes in independent gene expression data sets. Proc Natl Acad Sci U S A 2003;100:8418-8423.
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【非特許文献15】Godard S, Getz G, Delorenzi M, et al. Classification of human astrocytic gliomas on the basis of gene expression: a correlated group of genes with angiogenic activity emerges as a strong predictor of subtypes. Cancer Res 2003; 63:6613-6625.
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【非特許文献18】Horvath S, Zhang B, Carlson M, et al. Analysis of oncogenic signaling networks in glioblastoma identifies ASPM as a molecular target. Proc Natl Acad Sci U S A 2006 ;103:17402-17407.
【非特許文献19】Yamanaka R, Arao T, Yajima N, et al. Identification of expressed genes characterizing long-term survival in malignant glioma patients. Oncogene 2006;25:5994-6002.
【非特許文献20】Soroceanu L, Kharbanda S, Chen R, et al. Identification of IGF2 signaling through phosphoinositide-3-kinase regulatory subunit 3 as a growth-promoting axis in glioblastoma. Proc Natl Acad Sci U S A 2007;104:3466-3471.
【非特許文献21】Reddy SP, Britto R, Vinnakota K, et al. Novel glioblastoma markers with diagnostic and prognostic value identified through transcriptome analysis. Clin Cancer Res 2008;14:2978-2987.
【非特許文献22】Nutt CL, Mani DR, Betensky RA, et al. Gene expression-based classification of malignant gliomas correlates better with survival than histological classification. Cancer Res 2003;63:1602-1607.
【非特許文献23】Freije WA, Castro-Vargas FE, Fang Z, et al. Gene expression profiling of gliomas strongly predicts survival. Cancer Res 2004; 64:6503-6510.
【非特許文献24】Petalidis LP, Oulas A, Backlund M, et al. Improved grading and survival prediction of human astrocytic brain tumors by artificial neural network analysis of gene expression microarray data. Mol Cancer Ther 2008;7:1013-1024.
【非特許文献25】Marko NF, Toms SA, Barnett GH, Weil R.Genomic expression patterns distinguish long-term from short-term glioblastoma survivors: a preliminary feasibility study. Genomics 2008;91:395-406.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、悪性神経膠腫患者の新規な予後予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、悪性神経膠腫患者50人の摘出腫瘍からmRNAを抽出し、GeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 Expression array (Affymetrix, Inc.)(約47,000遺伝子を含む)を用いて各mRNAの発現量を測定した。これらの発現プロファイルと、追跡調査により得た各患者の術後の生存日数との相関を統計学的に処理し、発現プロファイルと生存日数との間に強い相関を示す遺伝子を同定した。これにより本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、悪性神経膠腫患者の予後を予測する方法であって、該患者から採取された試料において、表1に示す82遺伝子または表3に示す15遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、悪性神経膠腫患者の予後を予測するためのキットであって、表1に示す82遺伝子または表3に示す15遺伝子に対するプローブまたはプライマーを含むキットを提供する。
【0009】
さらに、本発明は、悪性神経膠腫患者の予後を予測するための、表1に示す82遺伝子または表3に示す15遺伝子からなる遺伝子セットを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、悪性神経膠腫患者のより正確な予後予測が可能となった。本発明は、悪性神経膠腫の早期発見および治療法の選択に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】6遺伝子についての周辺プロット。縦軸の値は所定の遺伝子発現についての期待死亡者数を表し、横軸は遺伝子発現値を示す。灰色の点は死亡症例を表し、黒色の点は追跡最終日まで生存した症例(打ち切り症例)を表す。線はLOWESS(locally weighted scattedplot)補整を表す。
【図2】A) WHOグレードIIIおよびIVを比較するKaplan-Meier曲線、B) 遺伝子発現についてのクラスタリング解析により分類された群の比較、C) 適用した82遺伝子のセットによるRandom survival forest modelにより分類された群の比較、D) 適用した15遺伝子セットによるRandom survival forest modelにより分類された群の比較。
【図3】腫瘍の進行に伴うPI3KR1、TAGLN、およびSERPPING 1の発現変化(転写レベルおよびタンパク質レベル)。A) QPCRにより評価した発現変化の検証。短期間生存者(生存期間<2年、n=30)および長期間生存者(生存期間>2年、n=14)の平均発現変化を示す。B) グレードII、III、およびIVの腫瘍におけるPI3KR1、TAGLN、およびSERPPING 1についての代表的免疫組織化学の結果。PI3KR1、TAGLN、およびSERPPING 1は細胞質において染色された。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、その発現レベルが悪性神経膠腫患者の生存日数と高い相関を示す遺伝子を同定したことに基づく。すなわち、本発明の予後予測方法は、表1に示す82遺伝子または表3に示す15遺伝子の発現レベルを測定し、この発現レベルから予後を予測するものである。
【0013】
本発明において、悪性神経膠腫とは神経膠細胞(グリア細胞)から発生する悪性腫瘍を意味し、これには星状細胞腫、未分化星状細胞腫、未分化乏突起星状細胞腫、乏突起神経膠腫、神経膠芽腫が含まれる。
【0014】
患者試料としては、患者から採取した腫瘍組織を使用することができる。常套的方法により、この組織から全RNAまたはmRNAを抽出し、必要に応じてcDNAを合成して、実験に使用する。腫瘍組織は、初回手術時に採取すればよい。
【0015】
遺伝子の発現レベルは、常套的方法により測定すればよい。発現レベルの測定方法としては、DNAマイクロアレイ法、PCR法、ノーザンブロット法などが挙げられるが、なかでもDNAマイクロアレイ法が好適である。
【0016】
DNAマイクロアレイ法では、測定対象とする遺伝子に対するプローブを含むマイクロアレイを使用する。かかるマイクロアレイとしては、Gene Chip Human Genome U133 Plus 2.0 Expression array (Affymetrix, Inc.)が挙げられる。あるいは、測定対象の遺伝子に対するプローブを合成し、スライドガラスなどの適当な基盤上に固定して、所望のマイクロアレイを作製してもよい。マイクロアレイの作製およびデータ解析の方法は、例えばMicroarray Technology and Cancer Gene Profiling. Simone Mocellin (ed). Landes Bioscience, Austin, Tx, 2006などに記載される。
【0017】
DNAマイクロアレイ法による発現レベルの測定は、例えば以下のとおりである。まず、各腫瘍組織からISOGEN(ニッポンジーン)を用いて全RNAを抽出する。次いで、RNAをGene Chip Human Genome U133 Plus 2.0 Expression array (Affymetrix, Inc.)(約47,000遺伝子を含む)でのハイブリダイゼーション用に処理し、ハイブリダイゼーションを行う。ハイブリダイゼーション後のチップは、Fluidics Station 450、High-Resolution Microarray Scanner 3000、およびGCOS Workstation Version 1.3 (Affymetrix, Inc.)を用いて解析することができる。
【0018】
PCR法では、各遺伝子を特異的に増幅可能なプライマーを利用する。例えば、StepOne RealTime PCR system (Applied Biosystems)およびTaqMan Universal PCR Master Mix (Applied Biosystems)などの市販のキットを用いて、定量的PCRを行えばよい。
【0019】
各遺伝子の配列は、表1または表3に示すGenBank番号に基づき特定可能である。
【0020】
患者の予後は、測定した遺伝子の発現レベルを統計処理し、予測生存関数(すなわち、各時点においてそれ以降生存する確率)を算出することによって予測することができる。この予測は、例えば2年生存というようにある時点(2年)を先に与えてから行われる。その時点での予測生存確率が0.5以上であれば、それに対応する発現レベルを持つ患者を予後良と判定し、0.5未満であれば予後悪と判定する。この場合の発現レベルに対する予測生存間は、Random survival forest modelにて算出される累積ハザード関数から算出される。
【0021】
本発明のキットは、本発明の予後予測方法に用いることができるものであり、表1に示す82遺伝子または表3に示す15遺伝子に対するプローブまたはプライマーを含む。各遺伝子に対するプローブおよびプライマーは、その遺伝子の配列情報に基づき、常套的方法により合成することができる。キットは、測定方法に応じて、その他必要な試薬を含んでいてもよい。本発明のキットは、例えば、DNAマイクロアレイ法、PCR法、ノーザンブロット法などに用いられるキットである。DNAマイクロアレイ法用のキットとしては、前記プローブが適当な基盤上に固定されたマイクロアレイを含むものが挙げられる。
【0022】
本発明の遺伝子セットは、悪性神経膠腫患者の予後を予測するために使用されるものであり、本発明の予後予測方法に用いるDNAマイクロアレイ用のプローブやPCR用プライマーなどを作製するために用いることができる。
【0023】
本発明を、以下の実施例によりさらに説明する。
【実施例1】
【0024】
1.材料および方法
(1)サンプル
組織は、回収後5分以内に液体窒素中で凍結し、-80℃で保存した。臨床ステージは、外科的病理および臨床報告から評価した。サンプルは、新潟大学の有資格の病理学者により、WHOの2000年基準にしたがい、後にRNAを抽出する凍結サンプルに近接または隣接するパラフィン包埋組織切片の観察によって再評価した。サンプルの適正(すなわち、非腫瘍性の要素のコンタミネーションが最小であること)を確認するため、および腫瘍の壊死および細胞充実性の程度を評価するため、各収集標本の組織病理を再評価した。新潟大学医学部ヒト研究倫理委員会のガイドライン(プロトコール#70)にしたがい、全ての患者からサンプルの使用についてインフォームドコンセントを得た。全生存率は、診断データから測定した。生存期間の最終日は、死亡日または追跡最終日とした。
【0025】
(2)RNA抽出およびアレイハイブリダイゼーション
各腫瘍からの約100mgの組織を用いて、ISOGEN(ニッポンジーン)により製造元の説明書にしたがい全RNAを抽出した。得られたRNAの質は、Bioanalyzer System (Agilent Technologies) によりRNA Pico Chipを用いて検証した。28S/28S比>0.7であってリボゾームピークの崩壊が見られないサンプルのみを本研究に使用した。RNA(6μg)をGene Chip Human Genome U133 Plus 2.0 Expression array (Affymetrix, Inc.)(約47,000遺伝子を含む)でのハイブリダイゼーション用に処理した。ハイブリダイゼーション後、Fluidics Station 450、High-Resolution Microarray Scanner 3000、およびGCOS Workstation Version 1.3 (Affymetrix, Inc.)を用いてチップを処理した。
【0026】
(3)リアルタイム定量的PCRによる発現差異の検証
StepOne RealTime PCR system (Applied Biosystems) において、TaqMan Universal PCR Master Mix (Applied Biosystems) を用いて、製造元のプロトコールにしたがい定量的PCR(QPCR)を行った。TaqMan Gene Expression Assay Mixには、プライマーおよびTaqManプローブ(Applied BiosystemsのHs99999905-m1 (GAPDH)、Hs00933163-m1 (PIK3R1)、Hs00934330-m1 (SERPING1) およびHs00162558-m1 (TAGLN))が含まれた。全RNA(5μg)を、SuperScript II (Invirtogen) を用いて逆転写してcDNAとした。このcDNA(1μl)をQPCRに使用した。検証は、はじめに評価した腫瘍の一部について行った。アッセイはデュプリケートで行った。QPCRの生データは、反応が対数期に到達するのに必要なサイクル数である。GAPDHの発現をQPCRデータの標準化に使用した。腫瘍群間の平均発現変化は、2-ΔΔCT法(Livak KJ, Schmittgen TD. Analysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and the 2(-Delta Delta C(T)) Method. Methods. 2001 ;25:402-408)を用いて計算した。
【0027】
(4)免疫組織化学
ホルマリン固定パラフィン包埋組織標本の5ミクロンの切片を用いて免疫組織化学を行った。PIK3R1 (抗体希釈 1:200; Abcam)、SERPING 1 (M81) (抗体希釈 1:50; Abcam)および TAGLN (SM22α) (抗体希釈 1:200; Abcam) の免疫組織化学は、既報(非特許文献19)のとおり行った。染色強度は、なし、または、弱い陽性(0ポイント)、中程度の陽性(1ポイント)、または強い陽性(2ポイント)に分類した。3回の独立した測定の平均を小数点一桁まで計算した。観察者は患者番号を認識していなかった。
【0028】
(5)統計学的解析
遺伝子のランク付けのため、一変量Cox比例ハザードモデル (univariate Cox proportional hazards regression model)から各遺伝子についてCoxスコアを得た。安定なスコアを得るため、交差検証サンプルから算出したスコアの平均を得た。スコアの小さい(p値>0.0025)の遺伝子は除いた。フィルター基準を通過した遺伝子を更なる解析で考慮した。統計学的解析は全て、Rソフトウェア(R Development Core Team. R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria. 2009 ISBN 3-900051-07-0, URL http://www.R-project.org)およびBioconductor(Gentleman R, Carey V, Bates D, et al. Bioconductor: open software development for computational biology and bioinformatics. Genome Biol 2004, 5:R80)にて行った。
【0029】
生存期間の予測因子となる遺伝子を選択するため、まずフィルター後の遺伝子発現および表現型(年齢、WHOグレード、Karnofsky performance status score (KPS)、および性別)をはじめの候補とし、Random Survival Forest model (Ishwaran H, Kogalur UB, Blackstone EH and Lauer MS. Random survival forests. Annals of Applied Statistics 2008;2: 841-860)を繰り返しあてはめ、各繰り返しにおいて最も小さいVariable Importanceを有する遺伝子を排除した後、新規forestを構築した。Random Survival Forestパッケージ内のrsf関数において、Random Survival Forestについてのデフォルトセッティングを使用した。最も小さい効果検証誤差率(1-Harrell's concordance index (Harrel Jr FE, Lee KL, Mark DB. Tutorial in biostatistics: multivariable prognostic models: issues in developing models, evaluating assumptions and adequacy, and measuring and reducing error. Statistics in Medicine 1996;15: 361-387) および分類ツリーの文献(Ripley BD: Pattern recognition and neural networks. Cambridge: Cambridge University Press, 2008)で用いられる”1 s.e. rule”を有する遺伝子のセットを選択した。
【0030】
Ward's minimum variance cluster analysisにより、あてはめたRandom Survival Forest modelから評価した全ての死亡時点についての各個人のensemble cumulative hazard functionをインプットとして用いて、サンプルを2つの生存群に分けた。Kaplan-Meier method (Kaplan EL, Meier P. Nonparametric estimation from incomplete observations. J Am Statist Assoc 1958;53:457- 481) を用いて、各群について生存分布を評価した。Log-rank検定を用いて生存群間の相違を調べた。比較のため、同じ解析をWHOグレードおよび遺伝子発現クラスタリングに基づく別の2群について行った。
【0031】
予測精度を評価するため、3つの実験(Petalidis LP, Oulas A, Backlund M, et al. Improved grading and survival prediction of human astrocytic brain tumors by artificial neural network analysis of gene expression microarray data. Mol Cancer Ther 2008;7:1013-1024; Phillips HS, Kharbanda S, Chen R, et al. Molecular subclasses of high-grade glioma predict prognosis, delineate a pattern of disease progression, and resemble stages in neurogenesis. Cancer Cell 2006;9:157-173; Freije WA, Castro-Vargas FE, Fang Z, et al. Gene expression profiling of gliomas strongly predicts survival. Cancer Res 2004; 64:6503-6510)からの独立の試験データを利用した。はじめに、各試験における各個人の集合死亡率を、選択遺伝子を用いた我々のデータセットにあてはめたRandom Survival Forest modelを用いて算出した。次に、集合死亡率と生存期間との関係をHarrell's concordance indexを用いて解析した。予測精度は、このindexについてのp値と研究のサンプルサイズに基づく重みとの重み付き組み合わせを用いて評価した。これらは、survcomp package(Haibe-Kains B, Desmedt C, Sotiriou C, Bontempi, G. A comparative study of survival models for breast cancer prognostication based on microarray data: does a single gene beat them all? Bioinformatics 2008;24:2200-2208)内のconcordance.index functionおよびtest.hetero.test functionを用いて実施した。試験データ中に見あたらない遺伝子が幾つか存在したので、これら遺伝子は欠損値として扱い、近似法(Breiman L. Random forests. Machine Learning 2001; 45:5-32)により帰属させた。この解析について、p値<0.05を統計学的に有意と判断した。
【0032】
2.結果
(1)患者特性
2000年〜2005年に外科的切除を受けた患者50人から、非処置神経膠腫標本(星状細胞腫(グレードII)5人、未分化星状細胞腫7人、未分化乏突起星状細胞腫または乏突起神経膠腫(グレードIII)6人、または神経膠芽腫(グレードIV)32人(WHO基準))を得た。患者の平均年齢は65歳(18-80歳)であり、男性34人、女性16人であった。手術前のKarnofsky Performance Status (KPS)は、48人(98%)の患者で少なくとも50であった。未分化星状細胞腫および神経膠芽腫については、腫瘍の最大の外科的切除後に、患者は外照射療法(2cmの周縁の腫瘍につき標準線量60Gy)およびニムスチンによる第一選択化学療法をうけ、再発時にテモゾロマイド治療をうけた。グレードIIの星状細胞腫については、腫瘍の外科的手術後、患者ははじめに2cmの周縁の腫瘍につき標準線量60Gyの照射療法を受け、再発時にテモゾロマイドによる化学療法をうけた。未分化乏突起神経膠腫のほとんどのケースでは、患者は放射線治療と改変PCV療法の化学療法(プロカルバジン、ニムスチン、およびビンクリスチン)をうけた。初期治療および維持治療中の腫瘍の再発について、磁気共鳴映像法(MRI)またはコンピュータ断層撮影法(CT)により観察した。処置は、新潟大学病院の神経外科において行った。生存期間中央値は、それぞれグレードIIが57ヶ月、グレードIIIが29.5ヶ月、グレードIVが13.5ヶ月であった。生存者の追跡中央値は4.7年(3.7-8.3年)であった。
【0033】
(2)予測遺伝子の選択
82遺伝子が予測因子として選択され、表現型は選択されなかった。表1は、これら遺伝子および各遺伝子のVariable Importance (VI)を示す。図1は、推定集合死亡率と選択した6つの遺伝子(LOC100128292、TBX19、VEGFA、PIK3R1、TAGLN、およびSERPING)との間の関係を示す散布図である。
【0034】
(3)選択遺伝子を用いた生存率解析
WHOグレードIIIおよびIV(A)、遺伝子発現に基づくクラスタリング解析(B)、適用した82遺伝子のセットによるRandom survival forest model(C)、適用した15遺伝子のセットによるRandom survival forest model(D)により分類された群について、Kaplan-Meier曲線を描いた(図2)。対応するLogrank検定のための検定統計量(Q)およびp値(p)は、WHOグレードがQ=8.6、p=0.0034、遺伝子発現がQ=15.0、p=0.0001、および82遺伝子によるRandom Survival Forest modelがQ=45.6、p<0.0001であった。これらの結果は、遺伝子による分類がグレードよりも有効であること、およびRandom Survival Forest modelの方が遺伝子発現を直接用いるよりも有用であることを示す。
【0035】
(4)独立したデータセットにおける選択遺伝子を用いた生存率解析
予測精度の結果を表2に示す。算出したHarrell's concordance index(その95%信頼区間(CI)およびp値)は、Petalidis et al.について0.6671(95%CI: 0.5907-0.7435, p<0.0001)、Phillips et al.について0.6273(95%CI: 0.5489-0.7057, p<0.0007)、およびFreije et al.について0.5116(95%CI: 0.4364-0.5869, p<0.3810)であった。組み合わせ試験のp値はp<0.0001であり、これは選択された遺伝子セットが有意に予測的であることを示唆する。
【0036】
(5)遺伝子セットの更なる最適化
臨床サンプルに対する適用のため遺伝子セットを最適化するため、識別名を有する82遺伝子によるRandom Survival Forest modelを再び適用して、生存率との相関の強度および有意性に基づき上位15遺伝子を選択した(表3)。各患者の生存日数と15遺伝子の発現量を表4に示す。Kaplan-Meier曲線を用いて選択した15遺伝子のセットについてのP値はp<0.0001(Q=30)であったが(図2D)、全82遺伝子のセットと比較すると若干劣っていた。独立のデータセット群における転帰予測のため、15遺伝子のプロファイルを試験した(表2)。算出したHarrell's concordance indexは、Petalidis et al.について0.6696(95%CI: 0.6029-0.7362, p<0.0001)、Phillips et al.について0.6213(95%CI: 0.5452-0.6974, p<0.0009)、およびFreije et al.について0.5478(95%CI: 0.4678-0.6278, p<0.1209)であった。組み合わせ試験のp値はp<0.0001であり、これは選択した遺伝子セットが有意に予測的であることを示唆する。15遺伝子のプロファイルを用いて計算したメタジーンスコアに基づく生存率予測は、82遺伝子のセットにおけるPetalidis et al.およびPhillips et al.と同様か、またはこれらよりも若干悪く、Freije et al.よりも良好であった。それゆえ、15遺伝子のセットは、82遺伝子のセットと同様に患者の生存率を予測する遺伝子セットであるといえる。
【0037】
(6)特に生物学的に興味深い遺伝子
82遺伝子の同定に加えて、PI3KR1、TAGLN、およびSERPPING 1は、特に生物学的に興味深い遺伝子であるか、新規なものであった。それらの発現変化をQPCRと免疫組織化学により検証した(図3)。これら遺伝子はまた、短期間生存者(生存期間<2年)および長期間生存者(生存期間>2年)の間で発現差異が見られることが明らかとなった。前記の15遺伝子のセットを含むさらなる27遺伝子について、QPCRによる検証に成功した(データ非提示)。PI3KR1の代表的な免疫組織化学の結果は、グレードIIの腫瘍において陽性染色を示し、グレードIVの腫瘍について陰性染色を示した。TAGLNおよびSERPING 1は、グレードIVについて陽性染色、グレードII、IIIについて陰性染色を示した。PI3KR1、TAGLN、およびSERPPING 1は、細胞質において染色された(図3B)。
【0038】
【表1−1】


【表1−2】


【表1−3】


【表1−4】


【表2】

【表3】


【表4−1】


【表4−2】


【表4−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪性神経膠腫患者の予後を予測する方法であって、該患者から採取された試料において、表1に示す82遺伝子または表3に示す15遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む方法。
【請求項2】
発現レベルを統計処理し、予測生存関数を算出する工程をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項3】
悪性神経膠腫患者の予後を予測するためのキットであって、表1に示す82遺伝子または表3に示す15遺伝子に対するプローブまたはプライマーを含むキット。
【請求項4】
悪性神経膠腫患者の予後を予測するための、表1に示す82遺伝子または表3に示す15遺伝子からなる遺伝子セット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−211989(P2011−211989A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84929(P2010−84929)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】