説明

悪性胸膜中皮腫治療剤

【課題】悪性胸膜中皮腫を治療するための新規な治療剤を提供する。
【解決手段】接着斑キナーゼを標的として、細胞内で該接着斑キナーゼの発現量を低減させるRNAi分子を含む、中皮腫治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着斑キナーゼ(focal adhesion kinase;FAK)遺伝子の発現を抑制するRNAi分子および当該RNAi分子を含む悪性胸膜中皮腫の治療のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
中皮腫は、胸膜、腹膜および心膜を主な発生部位とする、中皮細胞由来の腫瘍の総称である。悪性胸膜中皮腫は、中胚葉由来の胸膜中皮から発生する悪性腫瘍で、通常壁側胸膜から発生し、胸膜沿いに進展する(非特許文献1)。胸膜中皮腫の発生要因の大半はアスベスト暴露であることが知られており、肺がんとは異なり喫煙との相互作用は認められていない(非特許文献1)。一般にアスベスト暴露後の潜伏期間は長く、中皮腫発生までに20〜50年(平均40年)を要する。2008年には本邦で1,170人の患者が報告されているが(非特許文献2)、本邦でのアスベストの全面使用禁止は2006年であり、今後の40年間で2030〜2051年をピークに約10万人の患者発生が予想されている(非特許文献3)。悪性胸膜中皮腫は肺癌とは異なり中胚葉由来であることから、上皮としての性格を持つ癌腫と非上皮の性格を持つ肉腫の両方向への分化能を有しており、病理組織学的には上皮型(50〜60%)、二相型(20〜25%)、肉腫型(20%)に分かれる。患者では、通常片側性の胸膜肥厚を認め、約80%の症例で胸水を合併する。細胞診での診断率は約30%と低く、胸腔鏡下の組織検査が行われることが多い。肺がんとの鑑別にも複数の分子マーカーに対する免疫染色を用いた総合的な組織診断が必要である(非特許文献4)。一方、臨床経過は遠隔臓器への転移が問題となる肺がんとは大きく異なり、臨床的に転移が問題になることは少なく、局所再発が問題となる症例がほとんどである。治療には抵抗性を示し、手術療法、放射線療法、化学療法が行われるが、いずれの治療に対しても低感受性である。化学療法としては、シスプラチンとペメトレキセドの併用療法が用いられるが(非特許文献5)、平均生存期間は約12ヶ月と予後は不良である。
【0003】
インテグリンは、細胞外マトリックス分子に対する主要な細胞表面レセプターであって、さまざまな生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たしている。接着斑キナーゼ(以下、「FAK」と記載する)は、インテグリンによって開始されるシグナル伝達経路の主要な構成要素であることが、最近になって確認されている。FAKは、接着斑において、インテグリンおよび細胞骨格タンパク質とともに集合することが、FAKの活性化に関与すると提唱されてきた。多くの異なったアプローチによる最近の結果から、FAKを介するインテグリンシグナル伝達は、フィブロネクチン上での細胞の遊走を増加させるとともに、細胞の増殖および生存を調節している可能性があることが示されている(非特許文献6)。インテグリンとFAKの相互作用によって、癌細胞の接着および細胞外マトリックス(ECM)への浸潤を調節している。FAKのシグナル伝達カスケードのトリガーは、Y397の自己リン酸化である。リン酸化されたY397は、SrcファミリーのチロシンキナーゼのためのSH2ドッキング部位であり、これに結合したc−Srcキナーゼは、FAK中の他のチロシン残基をリン酸化する。FAKのリン酸化は、細胞の運動性および浸潤の増加と相関する。IV型コラーゲン等、さまざまなECMタンパク質への癌細胞の接着および伝播によって、チロシンのリン酸化およびFAKの活性化の増加がもたらされる(非特許文献7)。
【0004】
RNA干渉(以下、「RNAi」と記載する)は、多くの真核生物で保存されている転写後遺伝子制御の方法である。RNAi分子は、細胞中に存在する二本鎖RNA(以下、「dsRNA」と記載する)によって誘導される(非特許文献8)。dsRNAであって短いもの、即ち、30ヌクレオチド未満のものは、短い干渉性RNA(以下、「siRNA」と記載する)と呼ばれ、siRNAとの配列相同性を共有するメッセンジャーRNA(mRNA)の破壊を引き起こす(非特許文献9)。siRNA及び標的のmRNAは、RNA誘導されたサイレンシング複合体(RISC)に結合し、これが標的mRNAを開裂させると考えられている。このsiRNAは、見かけ上、マルチプルターンオーバー酵素とよく似て、再利用され、一つのsiRNA分子が、約1000のmRNA分子の開裂を誘導することができる。それ故、RNAi分子によるmRNAの分解は、標的遺伝子の発現を阻止するための現在利用可能な技術より一層有効である。
【0005】
培養哺乳動物細胞においては、RNAi作用が、生きたマウスにおいても有効であることが示された(非特許文献10、非特許文献11)。また、FAKを標的とするRNAi分子は、乳癌、肺癌、卵巣腫瘍の治療に適応する可能性があることが開示されている(非特許文献12、非特許文献13、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−536874号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Robinson BWS,Lake RA.Advances in malignant mesothelioma.N Engl J Med 2005;353:1591−1603.
【非特許文献2】厚生労働省ホームページ。都道府県別にみた中皮腫による死亡数の年次推移(平成7年〜20年)(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/chuuhisyu08/)
【非特許文献3】Murayama T et al.Estimation of future mortality from pleural malignant mesothelioma in Japan based on an age−cohort model. Am J Ind Med 2006;49:1−7.
【非特許文献4】Robinson BWS et al.Malignant mesothelioma.2005;366:397−408.
【非特許文献5】Vogelzang NJ et al.Phase III study of pemetrexed in combination with cisplatin versus cisplatin alone in patients with malignant pleural mesothelioma.J Clin Oncol.2003;21:2636−2644
【非特許文献6】JL Guan,Int J Biochem Cell Biol.,29(8−9):1085−96(1997 Aug−Sep)
【非特許文献7】H Sawai, et al.,Molecular Cancer,4:37(2005)
【非特許文献8】Fire A, et al.,Nature 391:806−811(1998)
【非特許文献9】Elbashir SM,et al.,Nature,411:494−498(2001)
【非特許文献10】Nature,418:38−39(2002)
【非特許文献11】Xia H,et al.,Nat.Biotech.20:1006−1010(2002)
【非特許文献12】BMC Cancer 2009;9:280
【非特許文献13】Anticancer Res 2004;24(6):3899
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
中皮腫、特に悪性胸膜中皮腫は、従来治療法に対して明らかな高い悪性腫瘍抵抗性があるので、当該中皮腫における新規な標的および新規な治療戦略が早急に開発されることを必要とされている。
本発明は、悪性胸膜中皮腫を治療するための新規な治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはこのような現状に鑑み、悪性胸膜中皮腫に対する新規標的遺伝子を探索し、また当該中皮腫の治療法の研究を重ねた結果、FAKは当該中皮腫の効果的な標的であることを見出した。また、FAKの発現を特に顕著に抑制することが可能な新規なRNAi分子を見出した。さらに、本発明者らは、当該RNAi分子がFAKの発現を顕著に抑制することにより、当該中皮腫の抗腫瘍効果を有することを確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1] 接着斑キナーゼを標的として、細胞内で該接着斑キナーゼの発現量を低減させるRNAi分子を含む、中皮腫治療剤。
[2] RNAi分子が、AUACUGUAGAGUCCUCCACAUUGGG(配列番号1)で表される塩基配列からなるセンス鎖と該センス鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするアンチセンス鎖がハイブリダイズしてなる二本鎖RNA部分を含む、[1]の中皮腫治療剤。
[3] RNAi分子が、AUACUGUAGAGUCCUCCACAUUGGG(配列番号1)で表される塩基配列からなるセンス鎖とCCCAAUGUGGAGGACUCUACAGUAU(配列番号2)で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖がハイブリダイズしてなる二本鎖RNA部分を含む、[2]の中皮腫治療剤。
[4] RNAi分子のセンス鎖とアンチセンス鎖がリンカー部分を介して連結されている、[1]〜[3]のいずれかの中皮腫治療剤。
[5] RNAi分子が配列番号3で表される塩基配列からなる、[4]の中皮腫治療剤。
[6] [4]または[5]に特定されるRNAi分子を発現するベクターを含む、中皮腫治療剤であって、該ベクターは該RNAi分子をコードするDNAを含む、上記中皮腫治療剤。
[7] 中皮腫が悪性胸膜中皮腫である、[1]〜[6]のいずれかの中皮腫治療剤。
[8] 胸腔内投与用である、[1]〜[7]のいずれかの中皮腫治療剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明におけるRNAi分子は、FAKの発現を特に顕著に抑制することが可能であり、FAKを発現する悪性胸膜中皮腫の増殖を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1はFAKを標的とするsiRNA分子による、NCI−H290細胞(A)およびY−MESO−14細胞(B)におけるFAK発現量を示す。CTRL:無処置のもの、対照siRNA:対照のsiRNA分子で処置したもの、FAK siRNA:FAKを標的とするsiRNA分子で処置したもの、縦軸:βアクチン発現量との相対比で示すFAK発現量。
【図2】図2はFAKを標的とするsiRNA分子による、NCI−H290細胞(A)およびY−MESO−14細胞(B)の創傷治癒率(遊走率)(%)を示す。CTRL:無処置のもの、対照siRNA:対照のsiRNA分子で処置したもの、FAK siRNA:FAKを標的とするsiRNA分子で処置したもの。
【図3】図3はFAKを標的とするsiRNA分子による、NCI−H290細胞(A)およびY−MESO−14細胞(B)の浸潤率(%)を示す。CTRL:無処置のもの、対照siRNA:対照のsiRNA分子で処置したもの、FAK siRNA:FAKを標的とするsiRNA分子で処置したもの。
【図4】図4はFAKを標的とするsiRNA分子による、NCI−H290細胞(A)およびY−MESO−14細胞(B)の細胞増殖能(細胞生存率)(%)を示す。細胞のみ:無処置のもの、対照siRNA:対照のsiRNA分子で処置したもの、FAK siRNA 3,10,30,60nM:FAKを標的とする各濃度のsiRNA分子で処置したもの。
【図5】図5はFAKを標的とするsiRNA分子のin vivo投与による、Y−MESO−14細胞およびNCI−H290細胞におけるFAK発現量を示す。MOCK:siRNA分子による処置なし、CTRL siRNA:対照のsiRNA分子で処置したもの、FAK siRNA in vivoトランスフェクション:FAKを標的とするsiRNA分子で処置したもの。
【図6】図6はFAKを標的とするsiRNA分子のin vivo投与による、NCI−H290細胞およびY−MESO−14細胞の胸腔内腫瘍ならびに血性胸水を示す。CTRL:siRNA分子による処置なし、FAK siRNA:FAKを標的とするsiRNA分子で処置したもの。
【図7】図7はFAKを標的とするsiRNA分子のin vivo投与による、NCI−H290細胞およびY−MESO−14細胞の腫瘍重量ならびに血性胸水産生量を示す。MOCK:siRNA分子による処置なし、CTRL siRNA:対照のsiRNA分子で処置したもの、FAK siRNA:FAKを標的とするsiRNA分子で処置したもの。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるRNAi分子は、配列番号1で表される塩基配列からなるセンス鎖と、当該センス鎖の塩基配列に相補的な塩基配列を有するアンチセンス鎖とがハイブリダイズしてなる二本鎖RNA部分を含む。本発明におけるRNAi分子は、当該アンチセンス鎖がハイブリダイズ可能なFAKのmRNA部分(以下、標的mRNA部分)を標的とすることにより、FAK特異的にRNAi作用を奏し、FAKの発現を顕著に抑制することができる。
【0014】
ここで本発明におけるRNAi分子が、標的mRNA部分を「標的」とするとは、本発明のRNAi分子の二本鎖RNA部分のアンチセンス鎖が、標的mRNA部分とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできることをいう。
【0015】
ストリンジェントな条件下とは、常法に従ってハイブリッドを形成する核酸の融解温度(Tm)に基づいて求めることができる。例えば、ハイブリダイズ状態を維持できる洗浄条件として通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件、より厳格には「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度の条件、さらに厳格には「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の条件が挙げられる。
【0016】
本発明におけるRNAi分子の二本鎖RNA部分のアンチセンス鎖は、標的mRNA部分と完全に相補的な塩基配列からなるRNAであることが望ましいが、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる限り、1〜3の塩基、好ましくは1〜2塩基、より好ましくは1塩基の欠失、置換、付加を含むミスマッチを有するものであってもよい。
【0017】
好ましくは、本発明におけるRNAi分子は、配列番号1で表される塩基配列からなるセンス鎖と配列番号2で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖がハイブリダイズしてなる二本鎖RNA部分を含む。
【0018】
本発明におけるRNAi分子を構成するセンス鎖またはアンチセンス鎖は必要に応じて、3’末端にオーバーハングを有していても良い。当該オーバーハングの塩基の種類、数は限定されず、例えば、1〜5、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1もしくは2塩基からなる配列が挙げられ、例えば、TTT、UUやTTが挙げられる。本発明において、オーバーハングとは、RNAi分子の一方の鎖の末端に付加された塩基であって、もう一方の鎖の対応する位置に相補的に結合し得る塩基が存在しない塩基をいう。オーバーハングはDNAを構成する塩基であってもよい。さらに、siRNAを構成するセンス鎖またはアンチセンス鎖は、遺伝子の配列決定等種々の実験操作を円滑に行うために、RNAi活性に対して影響を与えない範囲で必要に応じて1〜3塩基、さらに好ましくは1もしくは2塩基の置換、付加、欠失をさらに含んでも良い。
【0019】
また、センス鎖またはアンチセンス鎖は必要に応じて、5’末端がリン酸化されていてもよく、5’末端に三リン酸(ppp)が結合していても良い。
【0020】
本発明におけるRNAi分子には、siRNA、shRNA(short hairpin RNA)分子等の二本鎖RNA分子が含まれるが、好ましくはsiRNA分子およびshRNA分子である。
【0021】
本発明におけるsiRNA分子とは、上記センス鎖とアンチセンス鎖がハイブリダイズし、二本鎖部分を形成した二本鎖RNA分子である。
【0022】
siRNA分子を構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖は、公知の方法に基づいて、化学合成や、プロモーターおよびRNAポリメラーゼを用いた転写系によってin vitroで合成することができる。また、適当な発現ベクターに当該アンチセンス鎖およびセンス鎖の鋳型DNAを導入し、当該ベクターを適当な宿主細胞内に投与することによってin vivoで合成することも可能である。合成されたセンス鎖およびアンチセンス鎖のアニーリングは、当業者に公知である一般的な方法によって行うことができる。合成したセンス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれ二本鎖RNA用アニーリングバッファーに溶解し、等量(等モル数)を混合し、二本鎖が解離するまで温度を加熱し、その後徐々に冷却してインキュベートすることによって行うことができる。アニーリング条件は、例えば、90℃にて1分間、続いて37℃にて1時間静置することによって行うことができる。その後、フェノール/クロロホルム抽出・エタノール沈殿を行うことによって、二本鎖RNA分子であるsiRNA分子を得ることができる。
【0023】
本発明における、shRNA分子とは、上記センス鎖とアンチセンス鎖とが、リンカー部分を介して連結された40〜60塩基からなる一本鎖RNAであり、当該リンカー部分がループを形成することにより折りたたまれ、当該アンチセンス鎖と当該センス鎖がハイブリダイズして、二本鎖部分を形成する。
【0024】
shRNA分子に含まれるリンカー部分は、センス鎖とアンチセンス鎖を連結しステムループ構造を形成し得る限り、ポリヌクレオチドリンカーであっても、非ポリヌクレオチドリンカーであってもよく、特に限定しないが、当業者に公知である2〜22塩基のポリヌクレオチドリンカーが好ましい。具体的には、UAGUGCUCCUGGUUG(配列番号4)、UUCAAGAGA、CCACC、CUCGAG、CCACACC、UUCAAGAGA、AUG、CCCおよびUUCGが例示でき、UAGUGCUCCUGGUUG(配列番号4)が好ましい。
このようなshRNAとしては、配列番号3で表される塩基配列を含むものが好ましい。
【0025】
shRNA分子も、上記したように公知の方法に基づいて、in vitroまたはin vivoにて合成することが可能である。合成に際しては、センス鎖とアンチセンス鎖をリンカー部分を介して逆方向配列として含む1本のRNA鎖を合成し、その後この1本のRNA鎖を自己相補的結合によって二本鎖構造を形成させshRNA分子を得ることができる。
【0026】
shRNA分子はまた、当該shRNA分子をコードする鋳型DNAを含む発現ベクターを使用して得ることもできる。
【0027】
本発明に用いることができるベクターとしては、プラスミドベクター、ウイルスベクター、非ウイルスベクター等を用いることができる。プラスミドベクターとしては、pBAsiベクター、pSUPERベクター、pBAsi−hU6等を用いることができる。ウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクター(pAxcwit等)、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等を用いることができる。非ウイルスベクターとしては、リポソームベクター等を用いることができる。
【0028】
ベクターには、プロモーターおよび/またはその他の制御配列をshRNA分子の鋳型DNAに機能し得るかたちで連結して挿入する。「機能し得るかたちで連結して挿入する」とは、当該ベクターが導入された細胞において、プロモーターおよび/またはその他の制御配列の制御の下、上記shRNA分子が発現され標的となるFAKのmRNAが分解されるように、プロモーターおよび/またはその他の制御配列を連結してベクターに組み込むことを意味する。ベクターに組み込むことができるプロモーターおよび/またはその他の制御配列は特に限定されないが、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、時期特異的プロモーター、tRNAプロモーター、H1プロモーター、U6プロモーター、ポリメラーゼII系プロモーター、CMVプロモーター等、その他の調節エレメント等(例えば、チミジン残基が少なくとも4つ以上連続する配列からなるターミネーター配列)、当該分野で公知のプロモーターおよび/またはその他の制御配列を適宜選択することが可能である。
【0029】
このように作製された上記shRNA分子を発現するベクターは、導入された細胞内でshRNA分子を発現し、FAKのmRNAを特異的に分解することができる。
【0030】
本発明におけるRNAi分子の投与方法は、腫瘍内で効果を奏する限り特に制限はなく、RNAi分子は、腫瘍内や血中に投与することが可能である。本発明におけるRNAi分子が血中に投与される場合、RNAi分子の分解を防ぐため、公知の核酸修飾法により修飾してもよい。また、腫瘍に到達しやすいように、リポソームや高分子ミセル等の公知のドラッグデリバリーシステム(DDS)技術を用いてもよい。
【0031】
また、本発明におけるshRNA分子発現ベクターを細胞に導入する方法としては、脂質を媒介とする担体輸送法(例えば、リポフェクトアミン法)、化学物質(リン酸カルシウム等)を媒介とする輸送、マイクロインジェクション、遺伝子銃による打ち込み法、電気穿孔法等が挙げられる。
【0032】
本発明におけるRNAi分子またはshRNA分子発現ベクターの効果は、当該分子またはベクターを導入された細胞や組織、および個体におけるFAKのmRNAまたはタンパク質の発現量が、当該分子またはベクターを導入していない(または導入前の)細胞や組織、および個体におけるFAKのmRNAまたはタンパク質の発現量と比較して低下していることを指標にして評価することが可能である。測定対象がmRNAである場合には、ノザンハイブリダイゼーション、RT−PCR、in situ hybridization等によって測定することができる。また、測定対象がタンパク質である場合には、ウエスタンブロッティング、ELISA、抗体を結合させたプロテインチップを用いた測定、タンパク質の活性測定等によって測定することができる。
【0033】
本発明におけるRNAi分子またはshRNA分子発現ベクターは、導入された細胞や組織、および個体におけるFAKのmRNAまたはタンパク質の発現量を、対照と比較して5割以上、6割以上、7割以上、好ましくは8割以上またはさらに好ましくは9割以上、低下させることが可能である。
【0034】
本発明におけるRNAi分子またはshRNA分子発現ベクターの効果は、FAKのmRNAを標的とする当業者に公知であるRNAi分子またはshRNA分子発現ベクターと比べて、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、100倍、またはそれ以上のFAKの発現抑制効果を有し得る。
【0035】
なお、RNAi分子の設計において、標的mRNA部分の塩基配列を選択する方法として種々の方法が知られており、例えば、siRNA Design Support System(タカラバイオ株式会社)等を用いることが可能である。しかし、当該手法により選択された塩基配列を有するRNAi分子の全てがRNAi作用を有するわけではない。したがって、当該手法により選択された塩基配列を有する候補RNAi分子の中から、所望するFAKの発現を顕著に抑制する作用を有するRNAi分子を選択することは多大な困難性を有するものである。
【0036】
下記実施例にて詳述されるように、本発明におけるRNAi分子またはshRNA分子発現ベクターは中皮腫の増殖を抑制することが可能であることから、本発明のRNAi分子またはshRNA分子発現ベクターは、中皮腫を治療および/または予防するための医薬組成物の有効成分として使用できる。
【0037】
本発明において「中皮腫」は、FAKを発現する限り、胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、心膜中皮腫など(これらに限定されない)が含まれ、また悪性であっても良性であってもよい。好ましくは、「中皮腫」は、悪性胸膜中皮腫である。
【0038】
より詳細には、本発明におけるRNAi分子またはshRNA分子発現ベクターを投与することによって、悪性胸膜中皮腫細胞の遊走能を4割以上、好ましくは5割以上、さらに好ましくは6割以上抑制することができる。また、本発明におけるRNAi分子またはshRNA分子発現ベクターを投与することによって、悪性胸膜中皮腫細胞の浸潤能を6割以上、好ましくは7割以上、さらに好ましくは8割以上抑制することができる。さらに、本発明におけるRNAi分子またはshRNA分子発現ベクターを投与することによって、悪性胸膜中皮腫細胞の増殖を5割以上、6割以上、好ましくは7割以上、さらに好ましくは8割以上抑制することができる。またさらに、本発明におけるRNAi分子またはshRNA分子発現ベクターを投与することによって、悪性胸水の産生を5割以上、6割以上、好ましくは7割以上、さらに好ましくは8割以上抑制することができる。
【0039】
本発明治療剤は、上記RNAi分子またはshRNA分子発現ベクターを1種または複数種を組み合わせて含んでも良い。また、本発明治療剤の有効成分としては、shRNA分子発現ベクターを使用することが好ましい。当該ベクターは、RNAi分子を合成するより安価であり、かつ、細胞内に導入後増幅されてshRNA分子を安定して大量に生成し得る点でRNAi分子を導入するのに比べて量的な効率も良いためである。当該shRNA発現ベクターは配列番号3で表されるshRNA分子を発現するものが好ましい。
【0040】
本発明治療剤はまた、上記RNAi分子またはshRNA分子発現ベクターと共に、通常用いられている適当なキャリア、希釈剤、エマルジョン、賦形剤、増量剤、結合剤、浸潤剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、着色料、香味剤、および安定化剤等を含んでも良い。
【0041】
本発明治療剤は、注射によって直接中皮腫に対して投与することが可能であり、また、経口投与または非経口投与(例えば、静脈内投与、動脈内投与、注射による局所投与、腹腔または胸腔内投与、経肺投与、皮下投与、筋肉内投与、舌下投与、経皮吸収または直腸内投与等)によっても、投与することができる。中皮種が悪性胸膜中皮腫である場合、その生体内での進展様式(上記「背景技術」の欄を参照)を考えると、胸腔内投与がより好ましい。胸腔内への投与方法については、公知慣用の方法が用いられるが、例えば、悪性胸膜中皮腫患者の胸腔内投与には、単回投与であれば経皮的に注射用シリンジと注射針を利用しての投与が一般的であるが、繰り返し投与の必要性が想定される場合はカテーテルを留置し、利用する方法が考えられる。
【0042】
また、本発明治療剤は、投与経路に応じて適当な剤形とすることができる。具体的には注射剤、懸濁剤、乳化剤、軟膏剤、クリーム剤錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤、トローチ錠、直腸投与剤、油脂性坐剤、水溶性坐剤等の各種製剤形態に調製することができるが、好ましくは注射剤である。
【0043】
本発明治療剤に含まれる上記RNAi分子またはshRNA分子発現ベクターは、患者の年齢、体重、疾患の重篤度等の要因によって変化し得るが、1回につき体重1kgあたり0.0001mg〜100mgの範囲から適宜選択される量を含めることができる。
【0044】
また、本発明治療剤中に含有される上記RNAi分子またはshRNA分子発現ベクターの目的の組織または細胞への遺伝子送達は、遺伝子治療の分野で通常用いられている種々の投与方法を利用することが可能であり、例えば、上記したようにリポソームや高分子ミセル等の公知のDDS技術、脂質を媒介とする担体輸送法(例えば、リポフェクトアミン法)、化学物質(リン酸カルシウム等)を媒介とする輸送、マイクロインジェクション、遺伝子銃による打ち込み法、電気穿孔法等を利用することが可能である。
【0045】
本発明治療剤の効果は、中皮腫に由来する細胞や組織、および中皮腫に罹患する個体に本発明治療剤を投与し、腫瘍の大きさが当該治療剤を投与していない(または投与前の)細胞や組織、および個体における腫瘍の大きさと比較して、腫瘍が縮小または消滅していることを指標にして評価することが可能である。本発明治療剤の効果を評価するのに利用できる中皮腫細胞としては、例えば、ヒト悪性胸膜中皮腫細胞NCI−H290、Y−MESO−14等が挙げられる。
【0046】
本発明治療剤の効果は、FAKのmRNAを標的とする当業者に公知のRNAi分子またはshRNA分子発現ベクターと比べて、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、100倍、またはそれ以上の抗腫瘍効果を有し得る。
【0047】
本発明治療剤における製剤としては、薬理学的に許容される担体を用いて、通常公知の方法により調製することができる。斯かる担体としては、通常の薬剤に汎用される各種のもの、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を例示できる。
【0048】
賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、マルトース、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、イノシトール、デキストラン、ソルビトール、アルブミン、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、メチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴムおよびこれらの混合物等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールおよびこれらの混合物等が挙げられる。結合剤としては、例えば、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、エチルセルロース、水、エタノール、リン酸カリウムおよびこれらの混合物等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖およびこれらの混合物等が挙げられる。希釈剤としては、例えば、水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類およびこれらの混合物等が挙げられる。安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、チオグリコール酸、チオ乳酸およびこれらの混合物等が挙げられる。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ホウ酸、ブドウ糖、グリセリンおよびこれらの混合物等が挙げられる。pH調整剤および緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムおよびこれらの混合物等が挙げられる。無痛化剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0049】
上記各製剤の投与形態としては特に制限は無く、治療目的に応じて適宜選択でき、具体的には経口剤(錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤等)、注射剤、坐剤、貼付剤、軟膏剤等が例示できるが、注射剤とすることが好ましい。
【0050】
本発明治療剤における投与順序や投与間隔は、各有効成分による効果が得られる範囲であれば特に制限されないが、1日に1回、2日に1回毎、1週間に2回毎、1週間に3回毎、又は1週間に1回毎に投与することが例示できる。
【0051】
本発明はまた、上記本発明治療剤を用いた中皮腫の治療方法に関する。当該方法により治療し得る中皮腫としては、上記に定義したような中皮腫が含まれる。また、当該方法において上記本発明治療剤の用法および用量は上記したとおりである。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び試験例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1:FAKを標的とするsiRNA分子の調製
RNAi作用によりFAKの発現を抑制することができるsiRNA分子の作製を目的として、以下のRNAを合成した:
センス鎖側RNA
5’−AUACUGUAGAGUCCUCCACAUUGGG−3’(配列番号1);
アンチセンス鎖側RNA
5’−CCCAAUGUGGAGGACUCUACAGUAU−3’(配列番号2)。
【0054】
センス鎖側RNAとアンチセンス鎖側RNAを各々等量に終濃度20μMとなるようにし、終濃度0.1%となるジエチルピロカーボネート(DEPC)、終濃度10mMとなるTris―HCl,pH8.0、終濃度20mMとなるNaCl、終濃度1mMとなるEDTAを加えた水溶液を調製した。
【0055】
実施例2:siRNA分子による悪性胸膜中皮腫のFAKの発現抑制効果
悪性胸膜中皮腫細胞NCI−H290およびY−MESO−14をRPMI1640培地で6ウェルプレートに培養した。ウェル中の細胞密度が約30−50%の状態となった段階で、10nMとした実施例1のRNAi分子を7.5μLと、7.5μLのLipofectamine 2000(Invitrogen社)を混合し、これら培養細胞に添加する処置を行った。併せて、無処置のもの、対照のsiRNA分子で処置したものも用意した。
【0056】
添加後48時間経過した段階で、細胞を回収し、直ちにmRNAを抽出し、製造元のプロトコルに従って、TaqmanリアルタイムPCR法(Assays−on−Demand Gene Expression system,assay ID Hs99999905_m1,PCR product size 122 bp;Applied Biosystems社)によりFAKの発現を確認した。内部標準としてはGAPDHを用いた。各遺伝子の発現は、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems社)により確認した。
【0057】
結果を図1に示す。実施例1にて調製したFAKを標的とするsiRNA分子が悪性胸膜中皮腫細胞におけるFAKの発現を顕著に抑制することが確認できた。
【0058】
実施例3:siRNA分子による悪性胸膜中皮腫細胞の遊走能抑制効果
実施例2と同様に、実施例1のsiRNA分子で処置した細胞を用意した。併せて、無処置の細胞、対照のsiRNA分子で処置した細胞も用意した。
【0059】
siRNA分子添加24時間後に滅菌チップの先端でプレート底部に直線状の細胞剥離傷を作成した。更に24時間後に、細胞遊走による創傷治癒の状態を観察した。細胞剥離傷境界の間の創傷幅と、細胞遊走先端部境界の間の創傷治癒幅を測定し、創傷治癒率(遊走率)(%)を計算することによって、遊走能を評価した。
【0060】
結果を図2に示す。実施例1にて調製したFAKを標的とするsiRNA分子の処置により、悪性胸膜中皮腫細胞の創傷治癒率が顕著に低下し、悪性胸膜中皮腫細胞の遊走能を抑制できることが確認できた。
【0061】
実施例4:siRNA分子による悪性胸膜中皮腫細胞の浸潤能抑制効果
実施例2と同様に、実施例1のsiRNA分子で処置した細胞を用意した。併せて、無処置の細胞、対照のsiRNA分子で処置した細胞も用意した。
【0062】
siRNA分子添加24時間後に細胞を回収し、10%FBS添加RMI1640培地で5×10/mlの細胞濃度溶液を作成した。マトリゲルインベージョンチャンバー(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて細胞浸潤能を測定した。即ち、マトリゲルインベージョンチャンバーの24ウェルプレートの8μmポアインサート付き24ウェルプレートに0.5ml(2.5×10個)の細胞浮遊液を添加し、24時間培養後、メンブレン下面に浸潤した細胞数(%)を測定することによって、細胞浸潤能を評価した。
【0063】
結果を図3に示す。実施例1にて調製したFAKを標的とするsiRNA分子の処置により、悪性胸膜中皮腫細胞の浸潤数が顕著に低下し、悪性胸膜中皮腫細胞の浸潤能を抑制できることが確認できた。
【0064】
実施例5:siRNA分子による悪性胸膜中皮腫細胞の増殖抑制効果
実施例2と同様に、実施例1のsiRNA分子で処置した細胞を用意した。ただし、実施例1のsiRNA分子の濃度を3nM、10nM、30nM及び60nMとした。併せて、無処置の細胞、対照のsiRNA分子(10nM)で処置した細胞も用意した。
【0065】
siRNA分子添加24時間後に細胞を一旦回収後、96ウェルプレートに5000/wellの細胞を播種した。その24、48および72時間培養後、0.2%のMTT(3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウム)溶液を添加した。その3時間培養後、100μLのジメチルスルホキシド(DMSO)を添加し、550nmおよび630nmの吸光度を測定し、無処置群の吸光度に対する、siRNA分子処置群の吸光度の割合(細胞数)(%)を計算することによって、細胞増殖能を評価した。
【0066】
結果を図4に示す。実施例1にて調製したFAKを標的とするsiRNA分子の処置により、無処置と比較し、吸光度の割合が顕著に低下し、悪性胸膜中皮腫細胞の細胞増殖を抑制できることが確認できた。
【0067】
実施例6:siRNA分子による悪性胸膜中皮腫細胞のFAKの発現抑制効果
SCIDマウスに血性胸水を伴う胸腔内播種性腫瘍を形成させるため、悪性胸膜中皮腫細胞NCI−H290(3×10)およびY−MESO−14(1×10)を胸腔内に播種した。播種後10日目に、実施例1のsiRNA分子を、マウス体重1kg当たり5mgとなるよう、100μLのInvivofectamine(登録商標)(Invitrogen社製)と複合させ、マウス胸腔内に投与した。投与後1日、4日および7日後の腫瘍組織におけるFAK発現量をWestern blotting法で測定し確認した。
【0068】
結果を図5に示す。実施例1にて調製したFAKを標的とするsiRNA分子の処置により、マウス胸腔内の悪性胸膜中皮腫の腫瘍組織におけるFAK発現が投与後1日目より抑制されることが確認できた。
【0069】
実施例7:siRNA分子による悪性胸膜中皮腫細胞の増殖抑制効果
SCIDマウスに血性胸水を伴う胸腔内播種性腫瘍を形成させるため、悪性胸膜中皮腫細胞NCI−H290(3×10)およびY−MESO−14(1×10)を胸腔内に播種した。播種後10日目から3日ごと計4回、実施例1のsiRNA分子を、マウス体重1kg当たり5mgとなるよう、100μLのInvivofectamine(登録商標)(Invitrogen社製)と複合させ、マウス胸腔内に投与した。
播種後21日目における胸腔内播種性腫瘍および血性胸水を評価した。
【0070】
結果を図6及び図7に示す。実施例のRNAi分子の処置により、胸腔内腫瘍増殖および悪性胸水産生が抑制されることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明におけるFAKのmRNAを標的とするRNAi分子は、悪性胸膜中皮腫細胞におけるFAKの発現量を抑制することが可能であり、また悪性胸膜中皮腫細胞の増殖を抑制することが可能である。よって、効率的に悪性胸膜中皮腫を治療および/または予防することを可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着斑キナーゼを標的として、細胞内で該接着斑キナーゼの発現量を低減させるRNAi分子を含む、中皮腫治療剤。
【請求項2】
RNAi分子が、AUACUGUAGAGUCCUCCACAUUGGG(配列番号1)で表される塩基配列からなるセンス鎖と該センス鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするアンチセンス鎖がハイブリダイズしてなる二本鎖RNA部分を含む、請求項1に記載の中皮腫治療剤。
【請求項3】
RNAi分子が、AUACUGUAGAGUCCUCCACAUUGGG(配列番号1)で表される塩基配列からなるセンス鎖とCCCAAUGUGGAGGACUCUACAGUAU(配列番号2)で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖がハイブリダイズしてなる二本鎖RNA部分を含む、請求項2に記載の中皮腫治療剤。
【請求項4】
RNAi分子のセンス鎖とアンチセンス鎖がリンカー部分を介して連結されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の中皮腫治療剤。
【請求項5】
RNAi分子が配列番号3で表される塩基配列からなる、請求項4に記載の中皮腫治療剤。
【請求項6】
請求項4または請求項5に特定されるRNAi分子を発現するベクターを含む、中皮腫治療剤であって、該ベクターは該RNAi分子をコードするDNAを含む、上記中皮腫治療剤。
【請求項7】
中皮腫が悪性胸膜中皮腫である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の中皮腫治療剤。
【請求項8】
胸腔内投与用である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の中皮腫治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−18754(P2013−18754A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154965(P2011−154965)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(000207827)大鵬薬品工業株式会社 (52)
【Fターム(参考)】