説明

悪性腫瘍抑制剤

【課題】ほとんど有効利用されていないマグロ頭部を利用して、低コストで副作用が無く、腫瘍増殖抑制効果が高く、酸化し難い悪性腫瘍抑制剤を提供すること。
【解決手段】γ-シクロデキストリンで包接処理したマグロ頭部の粉末を有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性腫瘍抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国で悪性新生物が死因の1位になって久しい。悪性新生物の増殖を抑制する腫瘍抑制剤として、ナイトロジェンマスタードのようなアルキル化剤、メルカプトリンのような代謝拮抗薬、硫酸ブレオマイシンのような抗生物質、副腎皮質ステロイドのようなホルモン、インターフェロン等が用いられている。
ところが、ほとんどのものは非常に副作用が強く、薬剤自体が発ガン性を有するものもあって、癌の発症を予防するために予防的に服用することなどは到底できず、使用時期及び使用量に制限がある。
また、従来、副作用の無い抗癌剤として、深海魚の肝臓抽出物の不飽和脂肪酸組成物を有効成分とする抗癌剤が知られている(特許文献1参照)。
しかし、深海魚の肝臓は、水産加工工程においてそれほど大量に廃棄されるものではなく、深海魚の肝臓から不飽和脂肪酸を抽出するには複雑な加工が必要であった。
【0003】
ところで、日本国内でマグロは年間約46万トン(2002年推定)消費されており、その全重量の約8%に当たる頭部は、「マグロのカブト」として一部調理されているものの、ほとんどが飼料、肥料化されていて、有効利用されていないのが現状である。
一方、マグロの頭部には、有効な生理活性物質であるイコサペンタエン酸(IPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのn−3不飽和脂肪酸、コラーゲン、コンドロイチン、たんぱく質、ビタミンB1、ビタミンD、ナイアシン、タウリン、ルティン、そして、カルシウム、セレン、亜鉛等のミネラルが豊富に含まれている。
しかしながら、n−3不飽和脂肪酸は酸化し易く、短時間で新鮮さを失って不快な魚臭を発生するだけでなく、この酸化物は生体に対する毒性が高い。
【0004】
また、魚特有の臭気があり、きわめて酸敗を受けやすいIPAをシクロデキストリンで包接処理し、臭気、酸敗を抑制した飲食物が公知である(特許文献2参照)。
しかし、この飲食物は、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、動脈硬化予防作用、血漿凝集抑制作用を有すると記載されているだけであって、抗癌作用については何ら着目されていなかった。
さらに、魚からIPAを得るには、やはり複雑な抽出工程が必要である。
【0005】
【特許文献1】特公平7−86087号公報
【特許文献2】特開昭60−34156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、ほとんど有効利用されていないマグロ頭部を利用して、低コストで副作用が無く、腫瘍増殖抑制効果が高いばかりか、酸化し難い悪性腫瘍抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の悪性腫瘍抑制剤は、γ-シクロデキストリンで包接処理したマグロ頭部の粉末を有効成分とする。
γ-シクロデキストリンで包接処理したマグロ頭部の粉末を得るには、荒く砕いたマグロ頭部にγ−シクロデキストリン水溶液を加え、ペースト化した後で瞬間乾燥して粉末化する。
悪性腫瘍抑制剤の形態としては、錠剤、散剤、ソフトカプセル等がある。
なお、ソフトカプセル形態とする場合は、更に粉砕機にかけて30メッシュの粒径にそろえるのが望ましい。
【0008】
γ-シクロデキストリンで包接処理したマグロ頭部の粉末に抗癌効果がある理由は明らかでないが、IPA、DHAといった不飽和脂肪酸の抗炎症作用、免疫機能の正常化作用、血管新生抑制作用に加えて、セレン、亜鉛等のミネラル類の免疫改善効果、及び、魚肉たんぱく質を消化した結果得られる加水分解ペプチドの関与も考えられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、腫瘍の増殖を抑制できるばかりか、食品にもなるマグロ頭部を原料としているので副作用が無く、γ-シクロデキストリンで包接処理してあるため、酸化しにくく、不快な魚臭さも少ない。
また、ほとんど有効利用されていないマグロ頭部を利用し、抽出・精製等の複雑な加工が不要なので、原料を入手しやすく、コストが低廉で済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の悪性腫瘍抑制剤は、γ-シクロデキストリンで包接処理したマグロ頭部の粉末を有効成分とする。
以下、本発明の悪性腫瘍抑制剤を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0011】
[製法]
超低温保存してあるマグロ頭部を、ボーンカッタ及びボーンチョッパーを用いて荒く砕いた後、γ-シクロデキシドリン水溶液を加え、ミルで100μ程度まで挽き、非常に柔らかいペーストとした。ペーストとγ−シクロデキシドリンの重量比は5:1とした。
次いで、このペーストに、粘着性を弱めるために約18重量%のおからを加え、さらに、音速の蒸気を吹き付けるタイプの瞬間乾燥機によって、125℃、5秒間で瞬間乾燥し、含水率8%以下で魚臭のない淡黄色の粉末(以下、CDマグロ粉末という)を得た。
得られた粉末の組成を表1〜表3に示す。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
【表3】

【0015】
[実験1]
6週齢雄BALBc/nunuマウスの右腰部にSP2マウス骨髄腫細胞(2×106/0.1ml)を移植した。
マウス50匹に対して腫瘍移植後、7日経過時点で移植細胞が宿主マウスに定着していることを確認し、腫瘍長径、短径ともに4mm以上である個体を30匹選出して、無作為に3群に分けた。
【0016】
また、餌料重量に対し、CDマグロ粉末を2%(w/v)添加した餌料と、10%(w/v)添加した餌料を用意した。餌料は、AIN93Gをもとに脂質(コーン油)を用いて脂質含有量を調製し、CDマグロ粉末添加後の脂質含有量が7%(w/v)になるようにした。
そして、マウスの3群を、CDマグロ粉末を投与しない対照群と、CDマグロ粉末が2%添加された餌料を給餌した2%給餌群と、CDマグロ粉末が10%添加された餌料を給餌した10%給餌群とし、各群の体重と腫瘍体積の変化及び死亡に至るまでの日数を記録した。
【0017】
また、給餌開始から21日における腫瘍増殖抑制率を以下の式に従って算出した。
腫瘍増殖抑制率(%)=100(1−T/C)
T:CDマグロ粉末給餌群平均腫瘍重量
C:対照群平均腫瘍重量
なお、腫瘍の重量は、腫瘍の長径×短径×短径×0.5によって算出した。
すなわち、対照群と比較してCDマグロ粉末給餌群の腫瘍増殖がどの程度かを腫瘍増殖抑制率(%)として示した。CDマグロ粉末給餌群で腫瘍の増殖が全く見られないときはT=0となり、腫瘍増殖抑制率は100%となる。反対に、CDマグロ粉末給餌群で腫瘍の増殖が対照群と同じときはT=Cとなり、腫瘍増殖抑制率が0%となる。
【0018】
給餌開始から21日経過時点までの体重の変化を図1に示す。図1から、CDマグロ粉末を給餌することによって、14日までは体重増加が対照群に比べて高い傾向にあることがわかる。
14日から21日までの間に腫瘍の増殖進行に伴う悪液質が顕著に認められ、体重が減少に転じているが、CDマグロ粉末給餌群では体重の減少が軽減されている。特に、10%給餌群では、有意(P<0.05)に体重減少が軽減された。
【0019】
給餌開始から21日経過時点までの腫瘍体積の変化を図2に示す。図2からわかるように、7日までは各群の腫瘍体積に差はみられないが、14日では10%給餌群で対照群に比べ有意(P<0.05)に小さい。また、2%給餌群でも、14日、21日ともに小さい傾向にある。
さらに、給餌期間中における体重あたりの腫瘍体積(重量)比を検討したところ、図3に示すように、腫瘍体積の経時変化と同様の傾向がみられた。
以上から、CDマグロ粉末を給餌することによって、SP2移植腫瘍によりもたらされる体重増加抑制及び末期(21日)における体重減少は効果的に軽減された。
【0020】
また、給餌21日における各群の腫瘍重量を表4に示す。
【0021】
【表4】

【0022】
表4から、対照群に比べて、CDマグロ粉末給餌群は有意に腫瘍重量が低いことがわかる。
そして、腫瘍の増殖抑制効果を定量的に示すために、表4に示す各群の腫瘍重量の平均値から21日経過時点における腫瘍増殖抑制率を算出し、図4に示す。
図4から明らかなように、2%給餌群及び10%給餌群ともに腫瘍抑制効果がみられ、特に10%給餌群は、有意(P<0.05)に腫瘍の増殖を抑制していた。
【0023】
図5は、給餌21日における各群のマウスの状態を示す。各群から腫瘍が最も大きい個体を4匹選出し、対照群を図5(a)に、2%給餌群を図5(b)に、10%給餌群を図5(c)にそれぞれ示してある。
図5から、対照群に比べ、CDマグロ粉末給餌群は腫瘍の発達に伴う悪液質に典型的な痩せが抑制されていることがわかる。
また、対照群では、腫瘍が大きいことは明確であるが、非常に血管が発達していることがわかる。即ち、CDマグロ粉末給餌群では、腫瘍細胞に栄養成分や酸素を供給する血管の新生が抑制されていることが明らかである。
【0024】
図6には、給餌開始後の各群の生存数を示す。図6から明らかなように、生存期間はCDマグロ粉末給餌群で延長がみられ、10%給餌群で顕著であった。
本実験は、腫瘍がマウスに定着していることを確認してから、即ち、細胞移植後7日が経過してから給餌を開始している。これは、15〜20%程度の確立で腫瘍が定着しない、或いは、非常に細胞の増殖が緩慢な個体がみられるためで、移植1週間後に腫瘍の定着が見込まれる個体を選出することで、同様の増殖が期待できる実験群が設定できる。
以上を勘案して考察すると、腫瘍移植時点或いはそれ以前からCDマグロ粉末を給餌した場合は、さらに強力な腫瘍増殖抑制効果が得られる可能性は大きい。
【0025】
[実験2]
CDマグロ粉末の脂肪酸組成と同等の脂肪酸組成を有するマグロ眼窩油添加餌料を給餌した場合の腫瘍増殖抑制効果を検討し、CDマグロ粉末に含有されるIPA、DHAの関与程度について評価した。
CDマグロ粉末及びマグロ眼窩油由来脂質(トリグリセリド)の脂肪酸組成を表5に示す。
表5からわかるように、両者の脂肪酸組成はほぼ同様であるが、CDマグロ粉末よりもマグロ眼窩油のほうがn−6/n−3比は僅かに低かった。これはマグロ眼窩油中にIPA、DHA等のn−3系高度不飽和脂肪酸が多く含有されていることを示すが、実質的に影響のある差とはいえない。
【0026】
【表5】

【0027】
表5に組成を示したマグロ眼窩油を0.5%含有した餌料、及び、2%含有した餌料を調製し、実験1と同様にして腫瘍増殖抑制効果を評価した。
CDマグロ粉末2%餌料及び10%餌料に含まれるCDマグロ粉末由来脂質含量はそれぞれ0.34%及び1.72%であり、その脂質の全てが脂肪酸を構成成分とするグリセリドであると仮定した場合でも、マグロ眼窩油由来脂質添加群のn−3系高度不飽和脂肪酸含有量よりも少ないことがわかる(表6)。
また、餌料中全脂質のn−6/n−3比はCDマグロ粉末餌料において高いことがわかる。
【0028】
【表6】

【0029】
給餌開始から21日経過時点までの、マグロ眼窩油0.5%餌料を給餌したマグロ眼窩油0.5%群及びマグロ眼窩油2%餌料を給餌したマグロ眼窩油2%群の腫瘍体積の変化を、実験1においてCDマグロ粉末餌料を給餌した2%給餌群及び10%給餌群と比較して図7に示す。
給餌開始から7日までは各群の腫瘍体積に差はみられないが、14日、21日では対照群に比べて他の全ての群で腫瘍体積が小さい傾向がみられる。
【0030】
また、給餌21日における各群の腫瘍重量を表7に示す。表7から、対照群に比べてCDマグロ粉末給餌群では腫瘍重量が低いことがわかる。
【0031】
【表7】

【0032】
さらに、表7で示す各群の腫瘍重量の平均値から、実験1と同様にして求めた腫瘍増殖抑制率を図8に示す。
しかし、CDマグロ粉末10%給餌群よりもn−3系高度不飽和脂肪酸含有量が高いマグロ眼窩油2%群、CDマグロ粉末2%群よりもn−3系高度不飽和脂肪酸含有量が高いマグロ眼窩油0.5%群ともに、腫瘍体積を指標にすると、対応するCDマグロ粉末給餌群に比べて癌抑制効果が低いことがわかった。
【0033】
即ち、餌料中のn−3系高度不飽和脂肪酸は、CDマグロ粉末2%餌料<マグロ眼窩油0.5%餌料、CDマグロ粉末10%餌料<マグロ眼窩油2%餌料であるが、図7及び図8から明らかなように、腫瘍増殖抑制効果はCDマグロ粉末餌料のほうが高い。
以上から、CDマグロ粉末の腫瘍増殖抑制効果は、IPA、DHAといったn−3系高度不飽和脂肪酸のみで説明できるものではなく、マグロ頭部に含まれるたんぱく質、多糖類、ミネラル等の免疫改善作用、血管新生抑制作用などが総合的に作用した結果であると考えられる。
【0034】
本発明の悪性腫瘍抑制剤の抑制効果に対する実験はマウスを対象として行ったが、一般に、SPマウス骨髄腫瘍細胞をはじめとする移植腫瘍モデルにおいて、腫瘍抑制効果を示す成分は、ヒト癌末期における悪液質の解除、QOLの改善を可能とする場合が多い。
従って、本発明の悪性腫瘍抑制剤は、ヒトに対しても腫瘍抑制効果を発揮することが期待できる。
【0035】
また、平均体重25gのマウスの1日平均摂取餌量は約2.0g、CDマグロ粉末2%餌料を給餌した場合、マウスのCDマグロ1日摂取量は0.04gである。体重60kgのヒトの場合、1日あたりCDマグロ摂取量を体重換算すると、0.04×60/0.025=96gとなる。ヒト体重あたりの総摂取エネルギーはマウスの約1/10なので、これを乗じて9.6g/日となる。
ヒトの腫瘍はマウスの移植腫瘍に比べて増殖速度が非常に遅いので、上記計算から一日あたり約10gを摂取することで腫瘍抑制効果を期待できるものと考える。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実験1において、給餌開始から21日経過時点までの各群の体重変化を示す図。
【図2】実験1において、給餌開始から21日経過時点までの各群の腫瘍体積変化を示す図。
【図3】実験1において、給餌期間中における体重あたりの腫瘍体積(重量)比を示す図。
【図4】実験1において、給餌開始から21日経過時点における腫瘍増殖抑制率を示す図。
【図5】実験1において、給餌開始から21日経過時点における各群の状態を示し、図5(a)は対照群、図5(b)は2%給餌群、図5(c)は10%給餌群である。
【図6】実験1において、給餌開始後の各群の生存率を示す図。
【図7】実験2において、給餌開始から21日経過時点までの各群の腫瘍体積変化を示す図。
【図8】実験2において、給餌開始から21日経過時点における腫瘍増殖抑制率を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-シクロデキストリンで包接処理したマグロ頭部の粉末を有効成分とする悪性腫瘍抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−186446(P2007−186446A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5267(P2006−5267)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(505380108)八洲商事株式会社 (6)
【出願人】(505380957)八洲水産株式会社 (2)
【Fターム(参考)】