説明

悪性腫瘍治療剤

【課題】新たな抗悪性腫瘍剤の提供。
【解決手段】ヒラタケ由来のT1タイプリボヌクレアーゼを含有する悪性腫瘍治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たなリボヌクレアーゼを含有する悪性腫瘍治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リボヌクレアーゼ(RNase)はRNAを分解する酵素であり、塩基の種類を問わないリボヌクレアーゼT2、ピリミジン塩基のある部分だけを切断するリボヌクレアーゼA、グアニンの部分のみを分解するリボヌクレアーゼT1などが挙げられる。
【0003】
リボヌクレアーゼの中で、リボヌクレアーゼAに属するウシガエル由来のリボヌクレアーゼやウシ膵臓由来のリボヌクレアーゼに抗腫瘍活性があることは知られている(特許文献1、2及び非特許文献1)。また、抗腫瘍活性を有するα−サルシンはRNase T1に近い構造を有しているが、T1タイプのRNaseではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−532067号公報
【特許文献2】特表2007−530002号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Clin.Oncol.2002,Jan 1:20(1):274−281
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、さらに新たなリボヌクレアーゼを含有する抗悪性腫瘍治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、T1タイプのリボヌクレアーゼに着目して種々検討してきたところ、ヒラタケ由来のT1タイプリボヌクレアーゼは、同じT1タイプのリボヌクレアーゼであるヤマブシタケ由来のリボヌクレアーゼ等に比べて特に強い腫瘍細胞増殖抑制作用を有し、T1タイプのリボヌクレアーゼの中でも特に悪性腫瘍治療剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、ヒラタケ由来のT1タイプリボヌクレアーゼを含有する悪性腫瘍治療剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の悪性腫瘍治療剤は、優れた腫瘍細胞増殖抑制作用を有し、中性付近で安定で、かつ熱安定性も高いので、医薬品としての応用が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】rRNase Po1の精製工程を示す図である。
【図2】1MR−32細胞に対する各種RNaseの増殖抑制作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の悪性腫瘍治療剤の有効成分は、ヒラタケ由来のT1タイプリボヌクレアーゼ(以下、RNase Po1と略することもある)である。ヒラタケは、ヒラタケ科ヒラタケ属に属する食用キノコであり、このうちPleurotus ostreatusが特に好ましい。本発明で用いるT1タイプリボヌクレアーゼは、ヒラタケ子実体から抽出することもできるが、遺伝子組換え法により大腸菌等の微生物の形質転換体から抽出することもできる。
【0012】
RNase Po1には、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、及び配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつリボヌクレアーゼ活性を有するタンパク質が含まれる。ここで、配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列としては、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するもの、特に95%以上の同一性を有するものが好ましい。
【0013】
ヒラタケ子実体からRNase Po1を抽出するには、例えばヒラタケ子実体を細切又は粉砕し、酢酸ナトリウム水溶液を加えてホモジナイズし、遠心分離により固形物を除去する。次いでこの上清から硫安分画によりタンパク画分を得、ゲル濾過、イオン交換クロマト等により分画することにより得ることができる(J.Biochem.116,26−33(1994))。
【0014】
一方、遺伝子組換え法によるRNase Po1の採取法については、例えば第51回日本薬学会関東支部大会(2007年10月16日)講演要旨集J12記載の方法を用いることができる。まず遺伝子のクローニングをし、クローニングしたDNA断片を用いた発現ベクターの調製、発現ベクターを用いたRNase Po1の調製を行うが、これらの操作は周知の技術であり、具体的には、例えば「Molecular Cloning」(Maniatisら編、Cold Spring Harbor Laboratories,Cold Spring Harbor、New York(1982))に記載の方法に従って行うことができる。
【0015】
例えば、ヒラタケの子実体から精製したRNase Po1のN−末端、C−末端などのアミノ酸配列の一部を既知の方法で決定し、それに相当するオリゴヌクレオチドを合成する。合成したオリゴヌクレオチドをプローブとしてヒラタケのトータルRNAを抽出後、逆転写酵素反応で得たcDNA断片をクローニングすればよい。
クローン化に用いる宿主は特に限定されないが、操作性及び簡便性から大腸菌を宿主とするのが適当である。
【0016】
クローン化した遺伝子の高発現系を構築するためには、たとえばマキザム−ギルバートの方法(Methods in Enzymology,65,499(1980))もしくはダイデオキシチェーンターミネーター法(Methods in Enzymology,101,20(1983))などを応用してクローン化したDNA断片の塩基配列を解析して当該遺伝子のコーディング領域を特定し、宿主微生物に応じて当該遺伝子が微生物菌体中で発現可能となるように発現制御シグナル(転写開始及び翻訳開始シグナル)をその上流に連結した組換え発現ベクターを作製する。
【0017】
RNase Po1を異種微生物内で大量に産生させるために使用する発現制御シグナルとしては、人為的制御が可能で、RNase Po1の生産量を上昇させるような強力な転写開始並びに翻訳開始シグナルを用いることが望ましい。このような転写開始シグナルとしては、宿主として大腸菌を用いる場合には、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,80,21(1983)、Gene,20,231(1982))、trcプロモーター(J.Biol.Chem.,260,3539(1985))などを例示することができる。
ベクターとしては、種々のプラスミドベクター、ファージベクターなどが使用可能であるが、微生物菌体内で複製可能であり、適当な薬剤耐性マーカーと特定の制限酵素切断部位を有し、菌体内のコピー数の高いプラスミドベクターを使用するのが望ましい。具体的に大腸菌を宿主とする場合には、pBR322(Gene,2,95(1975))、pUC18,pUC19(Gene、33,103(1985))などを例示することができる。作製した組換えベクターを用いて微生物を形質転換する。宿主となる微生物としては安全性が高く取扱いやすいものであれば特に限定されない。例えば、大腸菌、酵母などDNA組換え操作に常用されている微生物を使用することができる。その中でも、大腸菌が有利であり、例えば組換えDNA実験に使用されるBL21株、K12株、C600菌、JM105菌、JM109菌(Gene,33,103−119(1985))などが使用可能である。
微生物を形質転換する方法はすでに多くの方法が報告されており、宿主として使用する微生物に応じて適宜選択すればよい。例えば大腸菌を宿主として使用する場合、低温下、塩化カルシウム処理して菌体内にプラスミドを導入する方法(J.Mol.Biol.,53,159(1970))により大腸菌を形質転換することができる。
【0018】
得られた形質転換体は、当該微生物が増殖可能な培地中で増殖させ、さらにクローン化したRNase Po1遺伝子の発現を誘導して菌体内又は菌体外に当該酵素が大量に蓄積するまで培養を行う。形質転換体の培養は、炭素源、窒素源などの当該微生物の増殖に必要な栄養源を含有する培地を用いて常法に従って行えばよい。例えば、大腸菌を宿主として使用する場合、培地として2xYT培地(Methods in Enzymology,100,20(1983))、LB培地、M9CA培地(Molecular Cloning、前述)などの大腸菌の培養に常用されている培地を用い、20〜40℃の培養温度で必要により通気攪拌しながら培養することができる。また、ベクターとしてプラスミドを用いた場合には、培養中におけるプラスミドの脱落を防ぐために適当な抗生物質(プラスミドの薬剤耐性マーカーに応じ、アンピシリン、カナマイシンなど)の薬剤を適当量培養液に加えて培養する。
培養中にRNase Po1遺伝子の発現を誘導する必要がある場合には、用いたプロモーターで常用されている方法で当該遺伝子の発現を誘導する。例えば、lacプロモーターやtacプロモーターを使用した場合には、培養中期に発現誘導剤であるイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(以下、IPTGと略称する)を適当量添加する。
【0019】
こうして得られた培養上清から硫安塩析処理、透析処理、エタノールなどの溶媒処理、各種クロマトグラフィー処理などの酵素精製に通常使用されている処理を単独で、又は数種組み合わせて得られる精製物をRNase Po1として利用することができる。
【0020】
RNase Po1の等電点は8.7であり細胞内への移行がよいこと。また、ジスルフィド結合が1組多いことから熱安定性にも優れている。さらに、至適pHが7.5であることから細胞内で酵素活性を最大限に発現できる。
【0021】
RNase Po1は、種々の腫瘍細胞の増殖を低濃度で抑制し、ヒトを含む哺乳類における悪性腫瘍治療剤として有用である。RNase Po1はT1タイプのリボヌクレアーゼであるが、同じT1タイプに属するヤマブシタケ由来のリボヌクレアーゼや、典型的な真菌由来RNase T1に比べて特に強い抗腫瘍作用を有する。
【0022】
本発明の悪性腫瘍治療剤の対象となる悪性腫瘍には、白血病、リンパ腫などの血液や造血組織の腫瘍及び固形腫瘍が含まれる。固形腫瘍としては、皮膚癌、肺癌、大腸癌、胃癌、乳癌、前立腺癌、甲状腺癌などの上皮細胞癌;及び平滑筋肉腫、骨肉腫などの肉腫が挙げられる。
【0023】
本発明の医薬は、RNase Po1に、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、被覆剤、乳化剤、懸濁化剤、溶剤、安定化剤、吸収補助剤、軟膏基剤等の1以上の薬学的に許容される担体を適宜添加し、常法により経口投与用、注射投与用、直腸内投与用、外用などに適する剤形(医薬組成物)に製剤化することによって得られる。
経口投与用の製剤としては、顆粒、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤等が;注射投与用の製剤としては、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、点滴注射用の製剤などが;直腸内投与用の製剤としては、坐薬、軟カプセル等が好ましい。
本発明の医薬は上記の如き製剤として、ヒトを含む哺乳動物に投与することができる。
本発明の医薬は、RNase Po1として、1日当り約1〜500mg/kgを1〜4回投与するのが好ましい。
【実施例】
【0024】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0025】
参考例1
ヒラタケ子実体3kgをきざみ、0.01M酢酸緩衝液(pH6.0)を加えてホモジナイズする。1万rpmで30分間遠心分離し、上清を用いる。90%飽和硫安を加え、硫安分画後遠心分離し沈殿を緩衝液に溶解し、精製水に対して透析する。Sephadex G50によるゲル濾過、Ultrogel AcA54によるゲル濾過、次いでSP−Toyopearl 650Mによるイオン交換クロマトを行う。さらにDEAE−Toyopearl 650Mによるイオン交換クロマトを行い、TSK Gel G2000SWカラムを用いたHPLCによるゲル濾過を行う。以上の操作によりRNase Po1を得た。
【0026】
参考例2
(rRNase Po1の精製)
pET−pelB−Po1を導入した発現用大腸菌(BL21(DE3)pLys S)を、100μg/mLのアンピシリンを添加した液体TB培地に植菌し、1日後にIPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、転写誘導をかけたものを25℃の暗所で、7日間、80rpmで振とう培養した培養上清約2Lを出発原料としてrRNase Po1の精製を行った。なお、rRNase Po1のcDNA配列より推測した等電点は8.7であった。
rRNase Po1の精製法のフローチャートを図1に示した。
【0027】
実施例1
RNase T1(真菌由来)及び担子菌由来の2種のT1タイプRNase、RNase Po1、Hericium erinaceum(ヤマブシタケ)のRNase He1について、ヒト神経芽腫細胞(IMR−32)を用いて腫瘍細胞の生育に対する影響を検討した。
【0028】
(方法)
細胞生育阻害作用:細胞を10%牛胎仔血清を加えたRPMI 1640培地で希釈し、5×103cell/100μL又は3×105cell/mLとした。この細胞培養液100μL又は200μLに終濃度0〜10μMのRNaseをそれぞれ加え、5%CO2条件下、37℃、72時間培養し、MTT法により細胞生育阻害率を算出した。
【0029】
細胞内取り込み量:10%牛胎仔血清を加えたRPMI 1640培地で希釈した3×105cell/mLの細胞懸濁液2mLに終濃度6μMの各RNaseを加え、5%CO2条件下37℃、30分培養後、遠心して細胞を回収し、0.5%Triton X−100を加えて凍結融解し、再度遠心分離し、上清のRNase活性を指標として求めた。
【0030】
(結果)
ヒト神経芽腫細胞の中では、IMR−32細胞において、RNase T1、RNase Po1とも濃度依存的に細胞生育阻害作用を示し、特にRNase Po1は、3μMの添加により、生存細胞数は、約10%以下にまで低下した(図2)。また、RNase Po1の細胞生育阻害作用は、RNase He1よりも強力であった。
また、腫瘍細胞(P−388)内へのRNaseの取り込み量は、RNase Po1は0.5%、RNase T1は0.03%、RNase He1は0.01%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒラタケ由来のT1タイプリボヌクレアーゼを含有する悪性腫瘍治療薬。
【請求項2】
ヒラタケ由来のT1タイプリボヌクレアーゼが、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、又は配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつリボヌクレアーゼ活性を有するタンパク質である請求項1記載の悪性腫瘍治療薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−92019(P2012−92019A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33373(P2009−33373)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】