説明

情報再生装置及び方法

【課題】 超解像再生における再生光スポットの形状を制御してクロストークを低減し、かつ再生時における記録マークの消去を避けることにより、光ディスクの高密度化と高S/N化を目的とする。しかし、従来のフォトン超解像技術では、再生光スポット進行方向の高密度化は可能であったが、トラック方向の高密度化、及びクロストークの低減が困難であった。また、従来技術では、高い再生光パワーを用いる必要があり、そのため書換え型光記録においては記録マークが消去されてしまうという困難があった。
【解決手段】 フォトン超解像膜を有する光記録媒体に記録されたマークの再生時に、再生光をパルス状にする。そのパルスの周波数は、記録マークの再生信号の最大周波数の2倍以上に設定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】光学的に記録された情報を再生する装置に関わり、特にディスク媒体に記録された情報を記録再生する光ディスク装置の高密度化方式、及び媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】現在光ディスクの研究開発において、情報の高密度化は重要課題の一つである。それを解決する方法として、例えば無機材料を用いたフォトン超解像の方法が、特願平9―252963において提案されている。このフォトン超解像技術は、吸収したフォトン数に依存して屈折率n, kがn’, k’に変化し、かつある時間内で再びn, kに戻る物質を利用する。この方法の概念図を図2に示す。再生光スポット201が202の方向に進行している場合、ある一定以上のフォトンを吸収した領域204は、周囲の領域203とは異なった屈折率を有する。ここで例えば領域203における、記録マークとスペースからの反射率が同じになるようにディスク構造を設計すれば、再生信号は実質的に領域204からのみ生じることとなり、実効的なスポットサイズが小さくなったことになる。この場合、領域203をマスク領域、204をアパーチャ領域と呼ぶ。この方法により、小さなマークを高いS/Nの信号で再生することができ、光ディスクの高密度化が達成される。またこの方法は、再生専用、追記型、書換え可能いずれのタイプの光ディスクにも応用が可能である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記のフォトン超解像では、実効的なスポットサイズは、スポット進行方向には小さくすることができるが、その垂直方向であるトラック方向に大幅に縮小することは困難であり、情報の高密度化は1次元方向でしか実現されなくなる。
【0004】また、フォトン超解像では、再生光のパワーを大きくする必要があるが、追記型及び書換え型光記録においては、その大きな光パワーによって記録マークが消去される可能性がある。それを避けるためには、記録感度が低下するようなディスク構造にすることも可能だが、そうすると記録パワーを大きくする必要があり、省電力化を図ることが不可能となる。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するために、本発明では、上記の超解像膜を有する光ディスク内の情報の再生時に、パルス状に変調された再生光を用いる。パルス再生光を用いた光ディスク装置に関しては、特開平8―221758号公報において提案されている。
【0006】再生光をパルス状に変調することにより、超解像膜内のアパーチャ領域の形状を制御することができる。パルス光を入射すると、超解像膜はガウシアンビームのパワーの高い部分でより多くのフォトンを吸収する。超解像膜の屈折率が変化する領域は、そのパルス光の強度とパルス幅に依存する。この2つのパラメータを最適化することにより、アパーチャ領域の形状を制御することができる。このことにより、アパーチャ領域はトラック方向にも縮小することができ、光ディスクにおける2次元での情報高密度化が実現される。この方法は、例えば磁気超解像や相変化材料を用いた超解像とパルス再生を組み合わせたような、熱的な過程とは異なる。熱的過程を利用した超解像では、そのアパーチャ領域は、フォトン吸収後の超解像膜内における熱伝導過程によって決まる。一方、フォトン超解像では、アパーチャ領域は単純にフォトン吸収のみで決まる。このフォトン超解像とパルス光再生を組み合わせた場合、そのアパーチャ領域の形状の制御は極めて容易となる。
【0007】また追記型及び書換え型光記録においては、再生光をパルス状にすることにより、記録膜の温度上昇を抑えることができるため、記録マークの消去を避けることができる。
【0008】また、再生光のパルスの周期が、記録マークの再生信号帯域の2倍以上であれば、再生信号に対するパルス再生光の影響は、低域遮断フィルターによって遮断することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明を相変化記録光ディスクに応用した例を記す。
【0010】装置としては、通常の情報再生装置と同様に、再生光スポットを形成する光ヘッド、光ディスクからの反射光を検出して再生データに復調する復調回路を有するものを用いる。本発明の装置で通常のものと大きく異なるものは、再生光の変調回路である。この変調回路は再生光をパルス状にするものであり、どのようなパルスにするかについては後述する。
【0011】図3に、使用した光ディスクの構造を示す。このディスクは、超解像膜303と相変化記録膜305を有している。超解像膜303はSi、Na、Ca、Co、Oの元素を含む無機ガラスである。このディスクの初期化及び記録の方法は、従来の相変化ディスクと同様に行う。トラック幅は0.5μm、ディスク線速度は3m/sに設定する。ここで従来の超解像再生と同様に、直流パワー3mWの再生光で記録マークを再生すると、再生光スポットと相変化記録マークとの位置関係は、図4のようになる。再生光のスポットサイズは、波長が660nmで開口数が0.6なので、約1.1μmである。スポット内のマスク領域203では、記録マークとスペースの反射率が等しいので、実質的にはアパーチャ領域のみでマークを読み出す。アパーチャ領域はスポット進行方向202に対して、再生光スポット201よりも縮小されており、よって記録マーク401の再生信号のC/Nは大きくなる。この方法により、0.25μmの長さのマークで約30dBのC/Nを得ることができる。しかし図4に示すように、アパーチャ領域204内には隣接トラックに記録されたマーク402も存在するため、クロストークの影響が無視できなくなる。また、C/Nの向上を図るために再生光パワーを4mWにすると、記録マークは消去されてしまう。そこで変調回路により再生光をパルス状にする。パルス幅は5ns、パワーは8mW、パルスデューティーは20%に設定する。すなわち、パルスの後エッジから次パルスの前エッジまでは20ns、パルス周波数は1/25ns=40MHzに設定する。この設定では、最短記録マークの長さを0.25μmとすると、ディスク線速度が3m/sなので、(3m/s)/(0.25μm×2)=6MHzが記録マークの再生信号帯域の最大周波数となる。再生光のパルスが最短記録マーク上で2個以上照射されるためには、再生光パルスの周波数は記録マークの再生信号帯域の最大周波数の2倍以上が望ましいので、40MHzは十分な周波数である。これを、再生光のパルスの周期Tと、上記媒体の記録マークの最短の長さLと、上記媒体と上記再生光のスポット位置との間の相対速度Vとの間の関係式で示すと、2T≦L/Vとなる。
【0012】上記条件では、再生光スポットと記録マークとの位置関係は図5のようになる。超解像膜の励起時間が数nsなので、アパーチャ領域の中心は再生光スポットの中心よりも、スポット進行方向に対して若干遅れる。図4に比べて、アパーチャ領域104はスポット進行方向102と垂直のトラック方向に縮小されており、このことにより0.25μmの長さのマークで約50dBのC/Nを得ることができ、かつ隣接トラック内の記録マーク402がアパーチャ領域104内に入っていないので、クロストークを大幅に低減できる。
【0013】
【発明の効果】本発明により、フォトン超解像における再生光のスポットの形状を制御でき、そのことにより狭トラック幅に記録されたマークの再生時のクロストークを低減でき、2次元方向での高密度化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における再生光スポットの形状。
【図2】超解像技術における再生光スポットの形状。
【図3】本発明の実施例における光ディスクの構造。
【図4】超解像技術における再生時の記録マークと再生光スポットの位置関係。
【図5】本発明の実施例における記録マークと再生光スポットの位置関係。
【符号の説明】
101:再生光スポット、102:レーザ光スポット進行方向、103:マスク領域、104:アパーチャ領域、201:再生光スポット、202:レーザ光スポット進行方向、203:マスク領域、204:アパーチャ領域、301:ポリカーボネート基板、302:保護層、303:超解像層、304:保護層、305:記録膜、306:保護層、307:反射層、401:読み出しトラック内の相変化記録マーク、402:隣接トラック内の相変化記録マーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】光学的に情報を再生する情報再生装置において、入射光のパワーに依存して光学的過程により屈折率が変化する層を有する媒体に対して、再生光をパルス状に照射することを特徴とする情報再生装置。
【請求項2】請求項1記載の情報再生装置において、上記再生光のパルスの周波数が、上記媒体の記録マークの再生信号帯域の最大周波数の2倍以上であることを特徴とする情報再生装置。
【請求項3】請求項1又は2の何れかに記載の情報再生装置において、上記再生光のパルスの周期Tと、上記媒体の記録マークの最短の長さLと、上記媒体と上記再生光のスポット位置との間の相対速度Vとの間の関係が、2T≦L/Vを満たすことを特徴とする情報再生装置。
【請求項4】光学的に情報を再生する情報再生方法において、入射光のパワーに依存して光学的過程により屈折率が変化する層を有する媒体用い、該媒体に再生光をパルス状に照射することを特徴とする情報再生方法。
【請求項5】請求項4記載の情報再生方法において、上記再生光のパルスの周波数が、上記媒体の記録マークの再生信号帯域の最大周波数の2倍以上であることを特徴とする情報再生方法。
【請求項6】請求項1又は2の何れかに記載の情報再生方法において、上記再生光のパルスの周期Tと、上記媒体の記録マークの最短の長さLと、上記媒体と上記再生光のスポット位置との間の相対速度Vとの間の関係が、2T≦L/Vを満たすことを特徴とする情報再生方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【公開番号】特開平11−134651
【公開日】平成11年(1999)5月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−299939
【出願日】平成9年(1997)10月31日
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)