情報処理装置、情報処理方法、プログラム及び蛍光スペクトルの強度補正方法
【課題】測定されたスペクトルに基づいて真のスペクトル強度をより正確に算出すること。
【解決手段】光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定部を備える、情報処理装置が提供される。
【解決手段】光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定部を備える、情報処理装置が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置、情報処理方法、プログラム及び蛍光スペクトルの強度補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞等の微小粒子が持つ特性を測定するために、蛍光色素により標識された微小粒子にレーザ光を照射し、励起された蛍光色素から発生する蛍光の強度やパターンを計測する装置(例えば、フローサイトメータ等)が用いられる。また、微少粒子の特性をより詳細に分析する技術として、微小粒子を複数の蛍光色素を用いて標識し、レーザ光を照射した各蛍光色素から発せられる蛍光を受光波長帯域の異なる複数の光検出器により計測するマルチカラー測定と呼ばれる技術も用いられるようになってきている。なお、受光波長帯域を制限するために各光検出器に設けられる光学フィルタの透過波長帯域は、計測対象とする蛍光色素から発せられる蛍光の蛍光波長に応じて設計される。
【0003】
蛍光色素としては、例えば、FITC(Fluorescein isothiocyanate)、PE(phycoerythrin)等が利用される。これらの蛍光色素を用いて標識した微小粒子にレーザ光を照射して得られる蛍光スペクトルを観測すると、互いに重複する蛍光波長帯域の存在が確認される。つまり、マルチカラー測定を行う場合、微少粒子にレーザ光を照射して得られる蛍光を光学フィルタにより波長帯域別に分離したとしても、各光検出器で検出される蛍光スペクトルには目的とする蛍光色素以外の蛍光色素から発せられた蛍光の成分が漏れ込んでいると考えられる。このような蛍光の漏れ込みが生じると、各光検出器で計測される蛍光強度と目的とする蛍光色素から実際に発せられた蛍光の蛍光強度との間にずれが生じてしまう。その結果、測定誤差が生じる。
【0004】
このような測定誤差を補正するために、光検出器で計測された蛍光強度から漏れ込み分の蛍光強度を差し引く蛍光補正処理(コンペンセーション)が行われる。この蛍光補正処理は、光検出器で計測された蛍光強度が目的とする蛍光色素から実際に発せられた蛍光の蛍光強度に近づくように、計測された蛍光強度に対して補正(以下、蛍光補正)を加えるものである。蛍光補正を行う方法として、例えば、下記の特許文献1には、数学的に蛍光強度を補正する方法が開示されている。
【0005】
下記の特許文献1に記載の方法は、各光検出器で計測された蛍光強度(検出値)を要素とするベクトルを考え、このベクトルに予め設定した補正行列の逆行列を作用させることで、目的とする蛍光色素から実際に発せられた蛍光の蛍光強度を算出するものである。なお、上記の補正行列は、漏れ込み行列と呼ばれることもある。上記の補正行列は、各蛍光色素を単標識した微小粒子の蛍光波長分布を解析することによって作成されるものであり、各蛍光色素の蛍光波長分布を列ベクトルとして配列したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−83894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
なお、上記特許文献1に記載されている蛍光補正処理は、補正行列の行列要素に負値を許容している。そのため、上記の蛍光補正処理を適用すると、補正後の蛍光強度が負値になる場合がある。補正後の蛍光強度が負値をとるのは、各光検出器の検出値に含まれるノイズが行列要素の値に影響を与えていることが原因である。しかしながら、現実には、蛍光強度が負値になることはない。また、ある蛍光色素から発せられる蛍光の蛍光強度が負値として算出されるということは、同時に他の蛍光色素に関する蛍光強度の算出値に正方向への誤差が生じていることを意味する。
【0008】
解析する微小粒子集団(以下、ポピュレーション)に、ある蛍光色素についての蛍光強度が負値となる小集団(以下、サブポピュレーション)が存在する場合について考える。この場合、その蛍光色素の蛍光強度をログスケールでプロットした二次元相関図(以下、サイトグラム)を作成すると、サイトグラム上にサブポピュレーションがプロットされなくなってしまう。そのため、サイトグラム上にプロットされたポピュレーションが実際よりも少なくなったような誤解をユーザに与えるおそれがある。
【0009】
また、上記の特許文献1に記載されているような蛍光補正処理は、微小粒子から発せられる自家蛍光の検出値をバックグランドとして各光検出器の検出値から減算する際に、ポピュレーション全体の自家蛍光強度の平均値を演算に用いている。しかしながら、自家蛍光の強度やパターンはサブポピュレーション毎に異なっている。そのため、全てのサブポピュレーションについて一律に上記の平均値を減算するという演算そのものが、蛍光強度の算出値の誤差要因となっていた。特に、解析対象とするサブポピュレーション間の自家蛍光強度のばらつきが大きい場合には誤差が顕著となる。
【0010】
ところで、測定した蛍光スペクトルの中で、ある波長帯域に存在するピークが複数の化学種に由来するという状況は、上述のような蛍光色素により標識された微小粒子の蛍光スペクトルだけに生じうるものではない。測定スペクトルの中で、あるピークが複数の化学種に由来するという状況は、例えば、複数の化学種が混在しているサンプルの発光スペクトルや吸光スペクトル等においても生じうるものである。つまり、複数の発光要素から発せられた光のスペクトルを発光要素毎に分解する処理を実施するに当たって、目的とする発光要素から発せられた光のスペクトルに漏れ込んだ他の発光要素の成分を効果的に抑圧する補正方法が求められている。
【0011】
そこで、本開示では、測定されたスペクトルから目的とするスペクトル成分をより精度良く抽出することが可能な情報処理装置、情報処理方法、プログラム及び蛍光スペクトルの強度補正方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示によれば、光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定部を備える、情報処理装置が提供される。
【0013】
また、本開示によれば、光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定するステップを含む、情報処理方法が提供される。
【0014】
また、本開示によれば、コンピュータに、光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定機能を実現させるためのプログラムが提供される。
【0015】
また、本開示によれば、複数の蛍光色素により多重染色された微小粒子に対して所定波長の光を照射して、前記微小粒子の蛍光スペクトルを測定することと、測定された前記微小粒子の蛍光スペクトルの蛍光強度を、前記蛍光色素単独の蛍光特性に関する情報を利用して補正することと、を含み、前記蛍光強度を補正する際には、前記微小粒子の蛍光スペクトルを、それぞれの前記蛍光色素の蛍光スペクトルに所定の重み付け係数を乗じたものの線形和として取り扱い、前記蛍光色素単独の蛍光特性に関する情報を利用して前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布を表すパラメータが設定され、前記微小粒子の蛍光スペクトルと、設定された前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布と、に基づいて、当該微小粒子の蛍光スペクトルに対応する尤もらしい前記重み付け係数及び前記強度分布を表すパラメータが推定され、推定された前記重み付け係数が、それぞれの前記蛍光色素に由来する蛍光強度とされる蛍光スペクトルの強度補正方法が提供される。
【0016】
本開示によれば、パラメータ設定制御部は、被測定物に対して所定波長の光を照射することで測定されたスペクトルを、1又は複数のスペクトル種それぞれに由来する基準スペクトルに所定の重み付け係数を乗じたものの線形和として取り扱い、基準スペクトルに対応する強度分布を表すパラメータを設定し、推定部は、被測定物のスペクトルと、設定された基準スペクトルに対応する強度分布と、に基づいて、当該被測定物のスペクトルに対応する尤もらしい重み付け係数及び強度分布を表すパラメータを推定し、出力部は、推定された重み付け係数を、それぞれの基準スペクトルに由来するスペクトル強度として出力する。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本開示によれば、測定されたスペクトルから目的とするスペクトル成分をより精度良く抽出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】蛍光強度補正処理について説明するための説明図である。
【図2】蛍光強度補正処理について説明するための説明図である。
【図3】蛍光強度補正処理について説明するための説明図である。
【図4】蛍光強度補正処理について説明するための説明図である。
【図5】本開示の第1の実施形態に係る情報処理システムについて示した説明図である。
【図6A】同実施形態に係る測定ユニットの一例を示した説明図である。
【図6B】同実施形態に係る測定ユニットの一例を示した説明図である。
【図7】同実施形態に係る強度補正処理の概略を示した説明図である。
【図8】同実施形態に係る情報処理装置の構成の一例を示したブロック図である。
【図9】同実施形態に係る強度補正処理部の構成の一例を示したブロック図である。
【図10】同実施形態に係る情報処理方法の流れの一例を示した流れ図である。
【図11】蛍光強度補正処理の流れについて示した流れ図である。
【図12】蛍光強度補正処理の流れについて示した流れ図である。
【図13】同実施形態に係る情報処理方法を利用した蛍光強度補正処理の流れの一例を示した流れ図である。
【図14】同実施形態に係る情報処理方法を利用した蛍光強度補正処理の流れの一例を示した流れ図である。
【図15】同実施形態に係る情報処理方法を利用した基底ベクトルの生成処理について説明するための説明図である。
【図16】同実施形態に係る情報処理方法を利用した基底ベクトルの生成処理について説明するための説明図である。
【図17】本開示の実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成を示したブロック図である。
【図18】混合サンプルの染色に利用した蛍光色素の蛍光特性を示したグラフ図である。
【図19A】測定データのフィッティングの様子を示したグラフ図である。
【図19B】測定データのフィッティングの様子を示したグラフ図である。
【図19C】測定データのフィッティングの様子を示したグラフ図である。
【図20A】蛍光色素FITCの基底ベクトルの変化を示したグラフ図である。
【図20B】蛍光色素PEの基底ベクトルの変化を示したグラフ図である。
【図21】混合サンプルの二次元相関図を示したグラフ図である。
【図22A】制約付き最小二乗法による測定データのフィッティング結果を示したグラフ図である。
【図22B】細胞単染色基底ベクトルを用いた場合の測定データのフィッティング結果を示したグラフ図である。
【図23】混合サンプルの二次元相関図を示したグラフ図である。
【図24】測定データの一部を利用した事前分布の学習結果について示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
なお、説明は、以下の順序で行うものとする。
(1)本開示における技術的思想の基盤となる技術について
(2)第1の実施形態
(2−1)情報処理システムについて
(2−2)情報処理装置の構成について
(2−3)情報処理方法の流れについて
(2−4)蛍光強度補正方法の流れの一例について
(3)本開示の実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成について
(4)実施例
【0021】
(本開示における技術的思想の基盤となる技術について)
まず、本開示の実施形態に係る情報処理装置及び情報処理方法について説明するに先立ち、本開示における技術的思想の基盤となる技術(以下、基盤技術とも称する。)について、図1〜図4を参照しながら簡単に説明する。図1〜図4は、蛍光強度の補正処理について説明するための説明図である。
【0022】
以下では、フローサイトメーターにより測定された、蛍光色素により標識された生体細胞等の蛍光スペクトルに対し蛍光強度補正を実施する場合を例にとって、説明するものとする。
【0023】
複数種類の蛍光色素を利用して生体細胞等の微小粒子を多重に染色し、染色した微小粒子の蛍光スペクトルを測定する場合について考える。
【0024】
まず、各蛍光色素を単独で使用して微小粒子を染色した単染色サンプルを用意する。そして、図1に示すように、単染色サンプルの蛍光スペクトルを予め測定しておく。図1に示した例では、FITC、PE、ECD、PC5、PC7という5種類の蛍光色素をそれぞれ単独で用いた場合の蛍光スペクトルが予め測定されている。その後、複数種類の蛍光色素によりサンプルを多重染色し、蛍光スペクトルを測定する。測定された蛍光スペクトルは、標識に用いた蛍光色素それぞれに由来する蛍光強度が重畳したものとなる。そこで、測定により得られた蛍光スペクトルに対し、蛍光強度補正処理を行うことによって、どの蛍光色素に由来する蛍光強度がどのくらいの割合で重畳しているのか、を特定する。
【0025】
ここで、上記特許文献1に記載されている補正行列を用いた方法(以下、逆行列法とも称する。)について紹介する。この方法は、下記の式11に示したように、測定の結果、それぞれの光検知器で得られた蛍光強度(MI)に対して、補正行列の逆行列を作用させることにより、真の蛍光強度(FL)を算出するものである。
【0026】
【数1】
【0027】
図2は、逆行列法による蛍光強度補正処理を模式的に示したものである。逆行列法による蛍光強度補正処理は、それぞれの光検知器で測定された測定データを通る近似曲線を、重畳している蛍光色素単独での蛍光スペクトルを基底ベクトルとしたうえで算出する処理であると言い換えることができる。すなわち、逆行列法による蛍光強度補正処理は、光検知器x1〜x5の測定データをy1〜y5と表すこととし、基底ベクトルをそれぞれX1(x)〜XM(x)と表すこととすると、基底ベクトルX1(x)〜XM(x)を用いて、測定データy1〜y5の全てを通る近似曲線を求める処理となる。
【0028】
逆行列法の場合、真の蛍光強度が負値となる場合がある。また、逆行列法の場合、光検知器の設置台数を、用いる蛍光色素の数と同じになるように設定する必要がある。さらに、各光検知器での測定データが近似直線上に存在するという条件そのものが、算出された蛍光強度の誤差要因となってしまう。
【0029】
本発明者らは、上記のような逆行列法の問題点を改善するための方法について検討を行った。その結果、本発明者らは、まず初めに、各光検知器での測定データを通る近似曲線を求めるのではなく、図3に例示したように、最小二乗法を用いて、各光検知器での測定データから推測される尤もらしい近似曲線を算出する方法に想到した。この方法は、光検知器x1〜xNの測定データをy1〜yNと表すこととし、基底ベクトルをそれぞれX1(x)〜XM(x)と表すこととして、基底ベクトルX1(x)〜XM(x)を用いて、測定データy1〜yNとの誤差が最も小さい近似曲線を求める方法である。
【0030】
この最小二乗法を用いた蛍光強度補正方法は、図4のように模式的に表現することができる。ここで、図4を参照しながら、最小二乗法を用いた蛍光強度補正方法について説明を補足する。
【0031】
各光検出器により測定される測定データの集合(すなわち、蛍光スペクトル)は、基底ベクトルとして用いられる基準となる蛍光スペクトル(例えば、サンプルを単独の蛍光色素で単染色した場合の蛍光スペクトルやサンプル等の自家蛍光スペクトルなど)に所定の係数(強度係数)を乗じたものの線形和にノイズが重畳しているものであるとする。その上で、各光検出器による測定データに基づいて、それぞれの強度係数の具体的な値は、最小二乗法により決定される。このようにして決定される強度係数が、補正後の蛍光強度(すなわち、真の蛍光強度)となる。
【0032】
ここで、図4に示した強度係数を求めるための最小二乗法を実施するにあたって、本発明者らは、強度係数の値が所定の最小値以上(例えば、ゼロ以上)であるという制約を設けるアイデアを創出した。このアイデアを用いると、算出される真の蛍光強度が負値になりうるという逆行列法の短所を改善することができる。本発明者らによるアイデアを盛り込んだ方法のことを以下では「制約付き最小二乗法」と呼ぶことにする。
【0033】
ここで、具体的な式を示しながら、制約付き最小二乗法による方法を簡単に説明する。
【0034】
まず、測定された蛍光スペクトルをy(x)とし、蛍光色素k(k=1,・・・,M)の基底ベクトルをXk(x)とし、蛍光色素kの強度係数をakとすると、測定された蛍光スペクトルy(x)は、下記の式21のように表される。ここで、i番目(i=1,・・・,N)の光検出器による測定データをyiと表すこととすると、着目している最小二乗法は、下記の式22で表される評価関数χ2の最小値を与える強度係数を求める問題に帰着できる。なお、下記の式22において、σiは、i番目の光検出器の測定値に対する重み付け係数の逆数を表している。なお、重み付け係数の逆数として、例えば、i番目の光検出器の測定誤差分散を用いてもよいし、1として取り扱ってもよい。
【0035】
【数2】
【0036】
式22で表される評価関数の最小値を与える強度係数akの算出方法は、公知のあらゆる方法を用いることが可能である。
【0037】
<強度係数akの算出方法−その1>
例えば、式22で表される評価関数が最小値となるのは、式22を強度係数akで微分した値が全てゼロになるときである、として正規方程式(行列方程式)を導き、導かれた正規方程式(実際は、M元連立一次方程式)を解いて強度係数akを算出してもよい。
【0038】
すなわち、式22の右辺を強度係数akで微分した値がゼロになるという条件は、下記の式23のように表される。ここで、下記の式23において、インデックスkは、k=1,・・・,Mの整数である。
【0039】
【数3】
【0040】
ここで、上記の式23は、和をとる順番を変更することで、下記の式24で表される正規方程式の形に変形することができる。なお、下記の式24において、akj及びβkは、それぞれ下記の式25及び式26で表される値である。
【0041】
【数4】
【0042】
また、下記の式27で表される要素AijからなるN×M行列Aと、下記の式28で表される要素biからなるN次元ベクトルbと、強度係数a1〜aMを要素とするM次元ベクトルaと、を考えると、上記式24で表される正規方程式は、下記の式29のような行列方程式で表すことも可能である。
【0043】
【数5】
【0044】
式24又は式29から明らかなように、これらの式は、M元連立一次方程式であり、この方程式を解くことによって、求める強度係数a1〜aMを求めることができる。
【0045】
<強度係数akの算出方法−その2>
任意のN×M行列Xは、正規直交行列U,V、及び、特異値と呼ばれる非負の値を対角成分として持つ対角行列Wを用いて、下記の式30のように分解することができる。ここで、行列Uは、N×M行列であり、行列V及び行列Wは、M×M行列である。
【0046】
また、評価関数である式22は、上記行列A及びベクトルa,bを用いて、下記の式22’のように表すことができる。
【0047】
【数6】
【0048】
ここで、式22’における行列Aを特異値分解し、行列Aに応じた行列U,W,Vを得ることができたとき、式22’の最小値を与えるベクトルaは、下記の式31により求めることが可能である。
【0049】
【数7】
【0050】
<制約付き最小二乗法による強度補正方法に対する検討>
本発明者らは、初めに想到した上記のような制約付き最小二乗法による強度補正方法について、鋭意検討を行った。その結果、制約付き最小二乗法による強度補正方法は、上記特許文献1に記載されているような逆行列法による強度補正方法よりも格段に精度が向上することが分かった。しかし、本発明者らは、制約付き最小二乗法による強度補正方法を実施するに当たり、下記のような点にも配慮すべきであるという考えに至った。
【0051】
例えば、測定対象とするサンプルを各色素で単染色して蛍光スペクトルを測定するという操作では、測定の手間及び測定に用いる試料が無駄になることが多く、また、特に測定対象として細胞に着目する場合、全く同一の条件を有する細胞を色素の個数分だけ準備することは、困難なことが多い。また、制約付き最小二乗法においては全ての測定データにおいて基底ベクトルが共通であるとしていたが、実際には、様々な要因により各測定における基底ベクトルにはバラつきが存在すると考えるのが自然である。また、当然のことながら、多重染色した細胞を単染色した場合の測定データを得ることはできない。つまり、本来、基底ベクトル自体は知りえないものである。これらの考察から、本発明者らは、基底ベクトル自体のバラつきを考慮すべきであること、及び基底ベクトルのバラつきを考慮することで強度補正処理の誤差を抑圧できる可能性に気づいた。
【0052】
また、先だって説明した例では、ある色素により単染色したサンプルによる測定データを基底ベクトルとして利用する場合について説明したが、当然ながら、例えば細胞自体の自家蛍光や、フローサイトメーターのマイクロ流路のチューブやチップに由来する蛍光も、基底ベクトルとして利用することが可能である。また、上記のように、細胞等のサンプルを単染色したものを準備する手間を考えると、細胞等のサンプルに代えてビーズ(ラテックスビーズなど)を単染色したものの蛍光スペクトルを基底ベクトルとして用いることも考えられる。しかしながら、単染色ビーズの蛍光スペクトルの平均は、単染色した細胞等のサンプルの蛍光スペクトルとズレがあるため、ビーズの蛍光スペクトルから生成した基底ベクトルを用いた場合、細胞等のサンプルの蛍光スペクトルから生成した基底ベクトルを用いた場合に比べて、蛍光強度補正処理の結果が大きく異なってしまうことがある。本発明者らは、これらの点についても考察を行い、基底ベクトルとして利用できる測定データの多様性について更なる検討を重ねた。
【0053】
また、先だって説明した制約付き最小二乗法では、複数の光検出器から得られる複数の周波数帯域での蛍光強度は、同程度のバラつきのノイズを持つことが暗に仮定されている。しかしながら、光電子増倍管に代表される光検出器には、適切なS/N比で測定可能な信号強度に範囲があるために、各光検出器の感度を考慮に入れずに得られた測定データに対して制約付き最小二乗法を適用すると、強度補正処理結果に悪影響が及んでいる可能性が懸念される。
【0054】
そこで、本発明者らは、上記の考察に基づいて検討を進め、基底ベクトルのバラつきに基づく強度補正処理の誤差要因を取り除いて更に精度良く強度補正処理を実施することが可能な強度補正方法に想到した。また、本発明者らは、強度補正処理の精度向上に加え、基底ベクトルとして利用可能な測定データの多様性や光検出器の検出精度についても検討を行い、これらの内容についても新たなアイデアを創出した。
【0055】
(第1の実施形態)
以下では、図5〜図9を参照しながら、本開示の第1の実施形態について詳細に説明する。
【0056】
<情報処理システムについて>
まず、図5を参照しながら、本実施形態に係る情報処理システムについて説明する。図5は、本実施形態に係る情報処理システムを示した説明図である。
【0057】
本実施形態に係る情報処理システム1は、図5に示したように、情報処理装置10と、測定サンプルSのスペクトルを測定する各種の測定ユニット20とを含む。
【0058】
本実施形態における測定サンプルSである微小粒子としては、例えば、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいは、ラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などを利用することができる。
【0059】
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。細胞には、動物細胞(血球系細胞等)及び植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌等の細菌類、タバコモザイクウイルス等のウイルス類、イースト菌等の菌類などが含まれる。生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体等の生体関連高分子が包含されていてもよい。
【0060】
また、工業用粒子は、例えば有機高分子材料や無機高分子材料、金属等であってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレート等が含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料等が含まれる。金属には、金コロイド、アルミニウム等が含まれる。これら微小粒子の形状は、球形である場合が多いが、非球形であってもよく、また、大きさや質量等も特に限定されない。
【0061】
情報処理装置10は、測定ユニット20により測定された測定サンプルSの測定データを取得し、取得した測定データであるスペクトルの強度を補正する強度補正処理を実施する。図5では、本実施形態に係る情報処理装置10が、測定ユニット20とは別の装置として設けられる場合について図示しているが、本実施形態に係る情報処理装置10の機能は、測定ユニット20の動作を制御するコンピュータに実装されていてもよいし、測定ユニット20の筐体内に設けられた任意のコンピュータに実装されていてもよい。なお、情報処理装置10の詳細な構成については後段において詳述する。
【0062】
測定ユニット20は、測定サンプルSに対してレーザ光を照射し、測定サンプルSからの蛍光やリン光といった発光を測定したり、測定サンプルSからの散乱光を測定したり、測定サンプルSによる吸収スペクトルを測定したりする。本実施形態に係る測定ユニット20は、測定サンプルSの発光スペクトル、散乱スペクトル又は吸収スペクトルを測定するものであってもよいし、発光スペクトル、散乱スペクトル及び吸収スペクトルの少なくとも2つ以上を測定するものであってもよい。これらのスペクトルは、本稿に言う「光の強度分布」の一例である。
【0063】
なお、以下では、測定ユニット20として、測定サンプルSの蛍光スペクトルを測定する図6A及び図6Bに示したようなフローサイトメーターを用いる場合を例にとって、詳細な説明を行うものとする。
【0064】
<測定サンプルについて>
測定サンプルである微小粒子は、蛍光スペクトルの測定に先立って、複数の蛍光色素により多重標識(多重染色)される。微小粒子の蛍光色素標識は、公知の任意の手法によって行うことができる。例えば測定対象を細胞とする場合には、細胞表面分子に対する蛍光標識抗体と細胞とを混合し、細胞表面分子に抗体を結合させる。蛍光標識抗体は、抗体に直接蛍光色素を結合させたものであってもよく、ビオチン標識した抗体にアビジンを結合した蛍光色素をアビジン・ビオチン反応によって結合させたものであってもよい。また、抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であってもよい。
【0065】
微小粒子を多重標識するための蛍光色素には、公知の物質を2つ以上組み合わせて用いることができる。蛍光色素としては、例えば、フィコエリスリン(PE)、FITC、PE−Cy5、PE−Cy7、PE−テキサスレッド(PE−Texas red)、アロフィコシアニン(APC)、APC−Cy7、エチジウムブロマイド(Ethidium bromide)、プロピジウムアイオダイド(Propidium iodide)、ヘキスト(Hoechst)33258/33342、DAPI、アクリジンオレンジ(Acridine orange)、クロモマイシン(Chromomycin)、ミトラマイシン(Mithramycin)、オリボマイシン(Olivomycin)、パイロニン(Pyronin)Y、チアゾールオレンジ(Thiazole orange)、ローダミン(Rhodamine)101イソチオシアネート(isothiocyanate)、BCECF、BCECF−AM、C.SNARF−1、C.SNARF−1−AMA、エクオリン(Aequorin)、Indo−1、Indo−1−AM、Fluo−3、Fluo−3−AM、Fura−2、Fura−2−AM、オキソノール(Oxonol)、テキサスレッド(Texas red)、ローダミン(Rhodamine)123、10−N−ノニ−アクリジンオレンジ(Acridine orange)、フルオレセイン(Fluorecein)、フルオレセインジアセテート(Fluorescein diacetate)、カルボキシフルオレセイン(Carboxyfluorescein)、カルビキシフルオレセインジアセテート(Caboxyfluorescein diacetate)、カルボキシジクロロフルオレセイン(Carboxydichlorofluorescein)、カルボキシジクロロフルオレセインジアセテート(Carboxydichlorofluorescein diacetate)等を利用することができる。もちろん、本実施形態で使用可能な蛍光色素は、上記の例に限定されるわけではない。
【0066】
<測定ユニットの一例について>
測定ユニット20の一例であるフローサイトメーターは、図6Aに示したように、サンプルSの染色に利用された蛍光色素を励起可能な波長を有するレーザ光を、レーザ光源からマイクロ流路を流れる多重染色された微小粒子Sに対して射出する。また、フローサイトメーターに設けられた光検出器は、レーザ光の照射された微小粒子から放射される蛍光を、光電子増倍管等の光検出器により検出する。なお、図6Aの例では1台のレーザ光源しか描画されていないが、複数のレーザ光源が設けられていてもよい。
【0067】
このような測定処理を行うフローサイトメーターは、公知の構成を有することが可能であるが、例えば図6Bに示したような構成を有している。
【0068】
図6Bに示すように、フローサイトメーターは、所定波長のレーザ光(例えば、波長488nm及び640nmのレーザ光)を射出するレーザ光源と、レーザ光を測定サンプルSへと導光するためのレンズ等の光学系(図示せず。)と、測定サンプルSからの前方散乱光や後方散乱光等といった散乱光や蛍光を検知するための各種光検知器と、散乱光や蛍光を光検知器へと導光する各種の光学系と、を有している。
【0069】
ここで、図6Bに示した例では、光検知器として、測定サンプルSからの散乱光等を検知するためのCCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、フォトダイオード等といったディテクタと、測定サンプルSの蛍光を検知するための複数(例えば、32個程度)の光電子増倍管と、が設けられている。なお、本実施形態に係る技術を適用する場合、光検出器の数は、測定サンプルSの多重染色に利用する蛍光色素数よりも多くなるように設定してもよい。つまり、後述する本実施形態の強度補正処理を適用する場合、(蛍光色素数)<(光検出器の数)という設定条件にしても、精度良く所望の結果を得ることができる。
【0070】
レーザ光源から射出されたレーザ光に起因する測定サンプルSからの蛍光は、測定サンプルSと各光電子増倍管との間に設けられたプリズムにより分光され、各光電子増倍管へと導光される。各光電子増倍管は、対応する波長帯域の蛍光の検知結果を示した測定データを、本実施形態に係る情報処理装置10へと出力する。
【0071】
上記のように、本実施形態に係る情報処理装置10は、測定サンプルSからの蛍光を連続的に観測した蛍光スペクトルを得る。また、CCD、CMOS、フォトダイオード等のディテクタにより検知された散乱光等の測定データが、本実施形態に係る情報処理装置10に出力されるように構成されていてもよい。
【0072】
なお、図6Bに示したフローサイトメーターの一例では、測定サンプルSからの散乱光を検知するための一連の光学系が設けられているが、かかる光学系は設けられていなくともよい。また、図6Bに示したフローサイトメーターでは、測定サンプルSからの蛍光をプリズムにより分光して光電子増倍管へと導光しているが、測定サンプルSからの蛍光は、複数の波長選択フィルタにより分離され、各光電子増倍管へと導光されてもよい。つまり、多重染色されたサンプルSをレーザ光で励起して得られる蛍光スペクトルを所定の波長帯域毎に選択的に測定し、その測定結果を情報処理装置10に入力できるような構成であれば、一部の構成要素を任意に変形してもよい。
【0073】
以上、図6A及び図6Bを参照しながら、本実施形態に係る測定ユニット20の一例について、簡単に説明した。
【0074】
<情報処理装置について>
続いて、図7〜図9を参照しながら、本実施形態に係る情報処理装置10について、詳細に説明する。図7は、本実施形態に係る情報処理装置10における強度補正処理の概略を説明するための説明図である。図8は、本実施形態に係る情報処理装置10の構成を示したブロック図であり、図9は、本実施形態に係る情報処理装置10が有する強度補正処理部103の構成を示したブロック図である。
【0075】
[情報処理装置の概略]
本実施形態に係る情報処理装置10は、図7に示したように、「測定データは、強度補正処理に用いる基底ベクトルに強度係数を乗じたものの線形和に対してノイズが重畳したものである」として取り扱う。その上で、情報処理装置10は、基底ベクトルを所定の分布(例えば切断正規分布)を用いてモデル化するとともに、ノイズについても所定の分布(例えば正規分布)を用いてモデル化し、確率モデルに基づいて強度補正処理を実施する。以下では、基底ベクトルを表す所定の分布を、事前分布と称することがある。
【0076】
本実施形態に係る情報処理装置10では、基底ベクトルを所定の分布を用いてモデル化し、各測定データにおける基底ベクトルを確率モデルにより推定して事前分布を修正することにより、各測定における基底ベクトルのバラつきを改善する。これにより、各測定データ(各測定スペクトル)の基底ベクトルを推定したり、各測定データに共通の基底ベクトルを推定したりすることが可能となる。
【0077】
また、本実施形態に係る情報処理装置10では、基底ベクトルの推定を行うため、蛍光色素の基底ベクトルだけでなく、細胞等の測定サンプル自体やマイクロ流路チップ等の蛍光も推定することが可能となり、基底ベクトルとして利用可能な測定データの多様化を図ることができる。更に、本実施形態に係る情報処理装置10では、予め測定されているスペクトルや、スペクトルに関するデータベース等の事前知識を事前分布の初期値として利用することもできる。
【0078】
また、本実施形態に係る情報処理装置10では、ノイズを表すベクトル(ノイズベクトル)を、相関は持たないが各次元で異なる分散を持つ正規分布によりモデル化し、各次元のノイズの分散を推定することによって、各光検出器の感度を考慮に入れた強度補正処理を実現することが可能となる。
【0079】
[情報処理装置の構成]
続いて、図8及び図9を参照しながら、本実施形態に係る情報処理装置10の構成について、詳細に説明する。
【0080】
○情報処理装置の全体構成
本実施形態に係る情報処理装置10は、図8に例示したように、測定データ取得部101と、強度補正処理部103と、表示制御部105と、記憶部107と、を主に備える。
【0081】
測定データ取得部101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力装置、通信装置等により実現される。測定データ取得部101は、測定ユニット20から、当該測定ユニット20により生成された測定サンプルSの測定データを取得する。
【0082】
ここで、測定ユニット20から取得する測定サンプルSの測定データは、例えば、一つの微小粒子又は所定個数の微小粒子に対して所定波長のレーザ光が照射されたことで生成されるスペクトルの強度を表したデータである。一つの微小粒子又は所定個数の微小粒子に対するスペクトルの測定には、微小ではあるが時間幅が存在する。そのため、本実施形態に係る測定データには、その微少な時間幅における累積強度、最大強度、又は、平均強度等が用いられる。
【0083】
測定データ取得部101は、着目している測定サンプルSの測定データを取得すると、取得した測定データを、後述する強度補正処理部103に入力する。また、測定データ取得部101は、取得した測定データに対し、当該データを取得した日時等の時刻情報を関連付けて、履歴情報として後述する記憶部107等に格納してもよい。
【0084】
強度補正処理部103は、例えば、CPU、DSP(Digital Signal Processor)、ROM、RAM等により実現される。強度補正処理部103は、測定データ取得部101から出力された測定サンプルSの測定データや、後述する記憶部107等に格納されている基底ベクトルに関する事前知識データベース等を利用して、測定ユニット20により測定された各種スペクトルの強度補正処理を実施する。本実施形態に係る強度補正処理部103では、先だって概略を示したような強度補正方法により基底ベクトル毎の真の強度を算出する。そのため、算出される真の強度は、制約付き最小二乗法を利用した強度補正方法により得られる結果と比べても、更に正確なものとなる。
【0085】
強度補正処理部103は、測定データ取得部101から出力された各種スペクトルの強度補正処理結果を後述する表示制御部105に入力し、表示制御部105によって処理結果をユーザに提示させる。また、強度補正処理部103は、得られた強度補正処理結果を利用して、後述する記憶部107等に格納されている各種データベースの更新処理を実施してもよい。
【0086】
また、強度補正処理部103は、得られた強度補正処理結果を、プリンタ等の出力装置を介して印刷物としてユーザに提示してもよく、CD、DVD、Blu−rayディスクなどといった各種の記録媒体やUSBメモリ等に、得られた強度補正処理結果を表すデータを出力してもよい。また、強度補正処理部103は、得られた強度補正処理結果を表すデータを、本実施形態に係る情報処理装置10が通信可能な外部の装置に対して、各種の通信網を介して出力してもよい。
【0087】
更に、強度補正処理部103は、得られた強度補正処理結果を表すデータに、当該データを生成した日時等に関する時刻情報を関連付けて、履歴情報として後述する記憶部107に格納してもよい。
【0088】
なお、強度補正処理部103の構成については、後段において更に詳細に説明する。
【0089】
表示制御部105は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置、出力装置等により実現される。表示制御部105は、情報処理装置10が備えるディスプレイ等の表示装置や、情報処理装置10の外部に設けられたディスプレイ等の表示装置における表示画面の表示制御を行う。より詳細には、表示制御部105は、強度補正処理部103から通知された各種スペクトルの強度補正処理結果(補正後のスペクトル強度)に関する情報に基づいて、表示画面の表示制御を実施する。表示制御部105が強度補正処理部103から通知された強度補正処理結果の表示画面への表示制御を行うことで、情報処理装置10のユーザは、強度補正処理の結果を把握することが可能となる。
【0090】
記憶部107は、例えば本実施形態に係る情報処理装置10が備えるRAMやストレージ装置等により実現される。この記憶部107には、強度補正処理部103がスペクトルの強度補正処理に利用する各種のデータベースや事前知識に関する情報等が格納されている。また、記憶部107には、測定データ取得部101が取得した各種の測定データ等が格納されていてもよい。更に、記憶部107には、強度補正処理部103や表示制御部105が、各種の情報を表示画面に表示するために利用する各種のアプリケーションに対応する実行データが格納されてもよい。また、この記憶部107には、情報処理装置10が何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、又は、各種のデータベース等が適宜格納される。この記憶部107は、本実施形態に係る情報処理装置10が備える各処理部が、自由に読み書きできるように構成されている。
【0091】
○強度補正処理部の構成
続いて、図9を参照しながら、本実施形態に係る情報処理装置10が備える強度補正処理部103の構成について、更に詳細に説明する。
【0092】
本実施形態に係る強度補正処理部103は、先述のように、図7に示したように測定データを定式化したうえで各基底ベクトル及びノイズベクトルに対して事前分布を与え、各測定データにおける基底ベクトル及びノイズベクトルを推定する。その後、強度補正処理部103は、推定した基底ベクトル及びノイズベクトルを利用して、図7に示した式における強度係数を算出する。
【0093】
また、強度補正処理部103は、上述のような事前分布の初期値のもとで、各測定データにおける基底ベクトルやノイズベクトルの事後分布を算出し、得られた事後分布を利用して、事前分布を表すパラメータ類を更新する。これにより、強度補正処理に利用される基底ベクトルやノイズベクトルの事前分布は、測定データに対して相応しいものとなるように、随時修正されることとなる。
【0094】
ここで、強度補正処理部103は、着目するスペクトルにおいて典型的な事前分布に関するデータを予め記憶部107等にデータベースとして記憶しておき、その典型的なデータそのものを事前分布の初期値として利用することもできる。
【0095】
例えば、各種蛍光色素で染色された細胞の蛍光スペクトルに着目する場合、一部あるいは全ての蛍光色素による細胞やビーズの単染色サンプルを利用して蛍光スペクトルを測定し、得られた蛍光スペクトルを事前分布の初期値として利用することができる。また、細胞やビーズの単染色サンプルを混合したものを利用して測定した蛍光スペクトルや、細胞やビーズを多重染色したサンプルを利用して測定した蛍光スペクトルを、事前分布の初期値として利用することも可能である。強度補正処理部103は、このような事前分布の初期値についても、推定した基底ベクトルの事後分布を利用して更新し、測定データに対して相応しいものとなるように修正を行ってもよい。
【0096】
なお、単染色サンプルを混合したものを利用して、基底ベクトルの事前分布を得る際には、対応する蛍光色素それぞれの分光スペクトルにおいて観測ピークのオーバーラップが少なくなるように、組み合わせる蛍光色素を選択することが好ましい。
【0097】
また、強度補正処理部103は、蛍光スペクトルの測定に用いられる蛍光色素の基底ベクトルだけでなく、チップの蛍光スペクトルや細胞の自家蛍光スペクトルについても事前分布を規定し、その事前分布を更新していくこともできる。これにより、強度補正処理部103は、チップの蛍光スペクトルや細胞の自家蛍光スペクトルのような事前分布を学習処理により得ることが可能となる。
【0098】
例えば、強度補正処理部103は、チップに何も流さないで測定した蛍光スペクトル、又は、細胞を流すために用いられる液体のみを流して測定した蛍光スペクトルを利用して、これらの測定データにより相応しくなるように、規定した事前分布を修正していく。これにより、強度補正処理部103は、チップの蛍光スペクトルを表す事前分布を得ることができる。同様に、強度補正処理部103は、チップに無染色の細胞を流すことで測定した蛍光スペクトルを利用し、その測定によって得られた測定データに対して、より相応しくなるように、規定した事前分布を修正していく。これらの処理により、強度補正処理部103は、細胞の自家蛍光スペクトルを表す事前分布を得ることができる。
【0099】
ここで、強度補正処理部103は、各測定データにおける基底ベクトルを推定するのではなく、全ての測定データに共通して利用可能な基底ベクトルを同様にして推定し、この共通利用が可能な基底ベクトルを利用して、強度係数を算出してもよい。すなわち、強度補正処理部103は、全ての測定データに共通して利用可能な基底ベクトルを推定し、得られた基底ベクトルを表す各種のパラメータを各強度補正処理に転用することで、強度係数を算出してもよい。
【0100】
このような機能を有する強度補正処理部103の構成について、図9を参照しながら、具体的に説明する。
【0101】
なお、以下では、数式を用いながら強度補正処理部103について具体的に説明することとする。この際、あるイベントn(1≦n≦N)の測定データ(以下、測定ベクトルとも称する。)をyn∈RK(Kは、光検出器のチャンネル数)と表すこととする。また、因子i(1≦i≦M)に対応する半正値の基底ベクトルをφni(φni≧0)と表すこととし、因子iの半正値の係数(強度係数)をwni(wni≧0)と表すこととする。更に、基底ベクトルを並べた行列を、Φn=(φn1,・・・,φnM)と表すこととし、強度係数を並べたベクトルを、wn=(wn1,・・・,wnM)Tと表すこととする。
【0102】
本実施形態に係る強度補正処理部103は、図9に例示したように、パラメータ設定制御部111と、強度係数・基底ベクトル推定部113と、補正強度出力部115と、を含む。
【0103】
パラメータ設定制御部111は、例えば、CPU、DSP、ROM、RAM等により実現される。パラメータ設定制御部111は、基底ベクトルの事前分布を表すパラメータや、ノイズベクトルの分布を表すパラメータ等といった、強度補正処理に用いられる各種のパラメータを設定するとともに、後述する強度係数・基底ベクトル推定部113による処理結果に応じて、これらのパラメータの値を更新する。
【0104】
具体的には、パラメータ設定制御部111は、イベントnにおける基底ベクトルの事前分布φniを、下記の式101のように設定するとともに、ノイズベクトルεnの分布を、下記の式102のように設定する。
【0105】
【数8】
【0106】
ここで、上記の式101は、基底ベクトルφni≧0を満たす範囲で、平均パラメータμi、共分散パラメータΣiを持つ正規分布に比例する確率密度を持ち、それ以外の範囲では確率密度を持たない切断正規分布を表している。また、上記式102において、λ=(λ1,・・・,λK)Tは、各光検出器の分散を表している。上記式102は、各光検出器において独立の分散パラメータλkを設定することを表したものである。このようにして分散を考慮することにより、各光検出器の感度が異なる場合等に、感度の違いを考慮した強度補正処理を実現することが可能となる。
【0107】
パラメータ設定制御部111が基底ベクトル及びノイズベクトルを上記の式101及び式102のように設定することで、測定データに対応する測定ベクトルynは、下記の式103のように確率モデル化されることとなる。
【0108】
【数9】
【0109】
なお、パラメータ設定制御部111は、式101に基づき基底ベクトルの事前分布φniを設定するのではなく、先述のように、各種データベースに格納されている各種スペクトルデータや予め測定された各種スペクトルそのものを、基底ベクトルの事前分布φniとして利用してもよい。
【0110】
パラメータ設定制御部111は、後述する強度係数・基底ベクトル推定部113によって算出されたwnや、Φnを利用して、事前分布のパラメータ及びノイズベクトルを更新する。具体的には、パラメータ設定制御部111は、下記の式104に基づいてノイズベクトルを更新する。
【0111】
【数10】
【0112】
また、パラメータ設定制御部111は、第二種最尤推定等の方法により、事前分布のパラメータである平均パラメータμi及び共分散パラメータΣiを更新する。平均パラメータμi及び共分散パラメータΣiの更新方法は、適宜設定することが可能であるが、例えば、パラメータ設定制御部111は、下記の式105で表される{φni}n=1Nに関する期待値Eを最大化するように、平均パラメータμi及び共分散パラメータΣiを更新することができる。
【0113】
下記の式105に基づくパラメータの更新を実施する場合、全ての基底ベクトルφniが、パラメータμi,Σiに対して同様に反映されることとなる。しかしながら、後述するように、強度係数ベクトルwnは、wn≧0という制約のもとで推定処理が行われるため、強度係数wni=0となっている場合が多数生じうると考えられる。このような場合、基底ベクトルφniの平均は、μiのままとなる。また、強度係数wniの値が小さい場合にも、同様に基底ベクトルφniの平均は、μiのままとなる。
【0114】
従って、基底ベクトルφniを一様に更新処理に利用した場合、事前分布は、初期値に強く依存したものとなってしまう可能性がある。そこで、パラメータ設定制御部111は、下記の式106に示したように、強度係数wniで重み付けた期待値Eを最大化するように平均パラメータμi及び共分散パラメータΣiを更新してもよい。また、このような方法以外にも、パラメータ設定制御部111は、{wni}n=1Nの最大値に所定値を乗じたものを閾値として、閾値以上の強度係数を有するもののみを用いて更新処理を行ってもよい。
【0115】
【数11】
【0116】
推定部の一例である強度係数・基底ベクトル推定部113は、例えば、CPU、DSP、ROM、RAM等により実現される。強度係数・基底ベクトル推定部113は、測定データに対応する測定ベクトルynと、パラメータ設定制御部111により設定されたパラメータ(基底ベクトル及びノイズベクトルに関するパラメータ)とに基づき、測定ベクトルynに対応する尤もらしい強度係数及び基底ベクトルを推定する。
【0117】
また、強度係数・基底ベクトル推定部113は、強度係数及び基底ベクトルのパラメータの推定値が得られると、得られた推定値が収束しているか否かを判定する収束判定を実施する。得られた推定値が収束していないと判定された場合、強度係数・基底ベクトル推定部113は、得られた推定値をパラメータ設定制御部111に出力して、各種パラメータの更新を要請する。その上で、強度係数・基底ベクトル推定部113は、更新された各種パラメータを利用して、強度係数及び基底ベクトルを再度推定する。
【0118】
本実施形態に係る強度係数・基底ベクトル推定部113は、上記のような繰り返し演算を行うことで、測定ベクトルに対応する尤もらしい強度係数及び基底ベクトルを、精度良く推定することができる。
【0119】
また、得られた推定値が収束していると判定された場合、強度係数・基底ベクトル推定部113は、得られた強度係数の推定値を、後述する補正強度出力部115に出力する。
【0120】
強度係数・基底ベクトル推定部113が、強度係数や基底ベクトルを推定するために用いる方法は、事後確率最大化(Maximum A Posteriori:MAP)推定や、サンプリングに基づくベイズ推定や変分ベイズ推定等の各種ベイズ推定や、最尤推定等といった、公知の方法を利用することが可能である。なお、処理の過程において、事後確率最大化推定などにより推定された基底ベクトルをそのまま利用することも可能であるが、所定の正規化を施した基底ベクトルを利用する方法も考えられる。正規化の方法としては、例えば、蛍光スペクトルの最大値や積分値で正規化する方法、或いは、基底ベクトルのノルム(例えば、ユークリッドノルムなど)で正規化する方法などが考えられる。
【0121】
以下では、強度係数・基底ベクトル推定部113が、事後確率最大化推定を用いて推定処理を行う場合を例にとって、具体的に説明を行うこととする。
【0122】
まず、強度係数・基底ベクトル推定部113は、パラメータ設定制御部111により設定された{wn,Φn}n=1N及びλについて、事後確率最大化推定を行う。このとき、強度係数・基底ベクトル推定部113が考慮する同時分布は、下記の式111のように表される。
【0123】
【数12】
【0124】
ここで、上記式111の対数をとり、強度係数ベクトルwnに関する項に着目すると、下記の式112を得ることができる。ここで、wn≧0であるため、強度係数・基底ベクトル推定部113は、wn≧0という制約のもとで下記の式113で表される二次計画問題を解くことにより、上記式111及び式112を満足する最適な強度係数ベクトルwnを得ることができる。
【0125】
【数13】
【0126】
また、上記の式111の対数をとり、基底ベクトルの行列Φnに関する項に着目すると、下記の式114を得ることができる。ここで、下記の式114において、diag(λ)は、対角成分にλを持つ対角行列であり、diag(Σ1−1,・・・ΣM−1)は、対角ブロックにΣ1−1,・・・ΣM−1を持つブロック対角行列であり、IKは、K次元単位行列である。また、下記の式114において、vec(Φn)は、下記の式115で表されるベクトルであり、μは、下記の式116で表されるベクトルである。
【0127】
【数14】
【0128】
ここで、Φn≧0であるため、強度係数・基底ベクトル推定部113は、Φn≧0という制約のもとで下記の式117で表される二次計画問題を解くことにより、上記の式111及び式114を満足する最適な強度係数ベクトルΦnを得ることができる。
【0129】
【数15】
【0130】
出力部の一例である補正強度出力部115は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。補正強度出力部115は、強度係数・基底ベクトル推定部113から通知された、収束後の強度係数wniを、着目している測定データの強度補正処理後の強度(補正強度)として出力する。
【0131】
例えば、補正強度出力部115は、強度係数・基底ベクトル推定部113から通知された強度係数wniを表示制御部105に入力し、表示制御部105により表示画面を介して補正強度をユーザに出力させる。また、補正強度出力部115は、プリンタ等の出力装置を介して補正強度をユーザに対して出力してもよく、CD、DVD、Blu−rayディスクなどといった各種の記録媒体やUSBメモリ等に、補正強度を表すデータを出力してもよい。また、補正強度出力部115は、得られた補正強度を表すデータを、本実施形態に係る情報処理装置10が通信可能な外部の装置に対して、各種の通信網を介して出力してもよい。
【0132】
以上、図9を参照しながら、本実施形態に係る強度補正処理部103の構成について、詳細に説明した。
【0133】
なお、上記説明では、基底ベクトルやノイズベクトルの事前分布が正規分布とする場合を例に挙げたが、これらの事前分布を、Student−t分布やLaplace分布等、正規分布以外の分布としてもよい。
【0134】
また、細胞の蛍光スペクトルに対して上記のような強度補正処理を実施する場合、細胞の自家蛍光は細胞種毎に異なると考えられるため、細胞の自家蛍光に対応する基底ベクトルの事前分布を混合分布としてもよい。これにより、細胞種を推定しつつ細胞の自家蛍光を推定するといった推定処理を行うことが可能となる。
【0135】
ここで、細胞の自家蛍光に対応する基底ベクトルの事前分布に用いる混合分布は、無染色の細胞群を用いて測定した測定ベクトル群をEM(Expextation Maximization)アルゴリズムや変分ベイズ推定アルゴリズムやクラスタリングにより処理することで、生成することができる。
【0136】
また、上記説明では、多重染色された細胞の蛍光スペクトルを例にとって、本実施形態に係る強度補正処理について具体的に説明したが、本実施形態に係る強度補正処理は、多重染色された細胞の蛍光スペクトル以外にも適用することが可能である。
【0137】
例えば、複数の化合物が混合されていると思われる混合物に着目し、かかる混合物の発光スペクトル、吸収スペクトル、散乱スペクトル等を各化合物の公知のスペクトルデータベースを利用して強度補正する場合についても、本実施形態に係る強度補正方法を適用可能である。その場合、本実施形態に係る強度補正方法によって得られる補正強度は、対応する化合物がどのくらい含まれているかという定量分析結果に対応するものとなる。また、本実施形態に係る強度補正方法では、公知のスペクトルデータベース等を利用し実測スペクトルに基づいて基底ベクトルの推定を行うため、上記定量分析のみならず、どのような化合物が混合されているか(すなわち、混合されている化合物の定性分析)に関する知見も得ることが可能となる。
【0138】
以上、本実施形態に係る情報処理装置10の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0139】
なお、上述のような本実施形態に係る情報処理装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0140】
<情報処理方法の流れについて>
続いて、図10を参照しながら、本実施形態に係る情報処理方法(強度補正方法)の流れについて、その一例を簡単に説明する。図10は、本実施形態に係る情報処理方法の流れの一例を示した流れ図である。
【0141】
本実施形態に係る情報処理装置10の測定データ取得部101は、測定ユニット20により測定されたスペクトルのデータ(測定データ)を取得し(ステップS101)、得られた測定データを、強度補正処理部103に出力する。
【0142】
強度補正処理部103のパラメータ設定制御部111は、基底ベクトル及びノイズベクトルに関するパラメータの初期設定を実施し(ステップS103)、設定した各パラメータに関する情報を、強度係数・基底ベクトル推定部113に出力する。
【0143】
強度係数・基底ベクトル推定部113は、測定データ取得部101から通知された測定データ、及び、パラメータ設定制御部111により設定された各種パラメータを利用して、例えば上記式113により強度係数を推定する(ステップS105)。また、強度係数・基底ベクトル推定部113は、測定データ取得部101から通知された測定データ、及び、パラメータ設定制御部111により設定された各種パラメータを利用して、例えば上記式117により、基底ベクトルを推定する(ステップS107)。
【0144】
ここで、強度係数・基底ベクトル推定部113は、全ての測定値に対して処理を実施したか否かを判断する(ステップS109)。全ての測定値に対して処理を実施していない場合には、強度係数・基底ベクトル推定部113は、ステップS105に戻って処理を継続する。また、全ての測定値に対して処理を実施している場合には、強度係数・基底ベクトル推定部113は、得られた推定値が収束しているか否かを判定する(ステップS111)。
【0145】
推定値が収束していない場合、強度係数・基底ベクトル推定部113は、得られた推定値をパラメータ設定制御部111に出力する。パラメータ設定制御部111は、通知された推定値を利用して、基底ベクトルやノイズベクトルに関するパラメータを更新し(ステップS113)、更新後のパラメータを強度係数・基底ベクトル推定部113に出力する。強度係数・基底ベクトル推定部113は、更新後のパラメータを利用し、再びステップS105に戻って処理を継続する。
【0146】
また、推定値が収束した場合、強度係数・基底ベクトル推定部113は、得られた強度係数を、補正強度出力部115に出力する。補正強度出力部115は、強度係数・基底ベクトル推定部113から出力された強度係数を、補正処理後の強度(すなわち、真の強度)として出力する(ステップS115)。これにより、ユーザは、着目しているスペクトルに関する強度補正処理結果を把握することが可能となる。
【0147】
以上、図10を参照しながら、本実施形態に係る情報処理の流れの一例を簡単に説明した。
【0148】
<蛍光強度補正方法の流れの一例について>
続いて、図11〜図16を参照しながら、多重染色された細胞の蛍光スペクトルに対して蛍光強度の補正処理を行う場合を例にとって、その流れの一例を説明する。
【0149】
[一般的な蛍光強度補正処理の流れ]
まず、図11及び図12を参照しながら、本実施形態に係る強度補正方法を利用しない場合の蛍光強度の補正方法の流れについて、簡単に説明する。図11及び図12は、一般的な蛍光強度補正処理の流れについて示した流れ図である。
【0150】
まず、図11を参照しながら、単染色サンプルの蛍光スペクトル測定を行わない場合の流れについて説明する。
本実施形態に係る強度補正方法を利用しない場合、蛍光スペクトルの測定者は、測定を行う細胞に対して、どのような蛍光色素を用いて多重染色を行うかの実験計画を立案する(ステップS11)。その上で、蛍光スペクトルの測定者は、蛍光色素の蛍光特性に関するデータベースを参照しながらコンピュータ等の演算装置等を利用することにより、式11に示したような強度補正行列(コンペンセーションマトリクス)を生成する(ステップS13)。
【0151】
その後、蛍光スペクトルの測定者は、公知のフローサイトメーター等を利用して、着目している多重染色細胞の蛍光スペクトルを測定する(ステップS15)。その上で、蛍光スペクトルの測定者は、コンピュータ等の演算装置を利用して、生成した強度補正行列に基づく強度補正処理を実施し(ステップS17)、測定結果を獲得する(ステップS19)。
【0152】
続いて、図12を参照しながら、単染色サンプルの蛍光スペクトル測定を行う場合の流れについて説明する。
【0153】
本実施形態に係る強度補正方法を利用しない場合、蛍光スペクトルの測定者は、測定を行う細胞に対して、どのような蛍光色素を用いて多重染色を行うかの実験計画を立案する(ステップS21)。その上で、蛍光スペクトルの測定者は、単染色測定を行うためのサンプルの染色を行いつつ(ステップS23)、測定するサンプルについても染色を実施する(ステップS25)。
【0154】
その後、蛍光スペクトルの測定者は、ステップS23にて準備した単染色測定用サンプルを用いて、当該サンプルの蛍光スペクトルを測定する(ステップS27)。この際、本実施形態に係る強度補正方法を利用しない場合には、単染色測定用サンプルの測定数は、細胞の多重染色に用いる蛍光色素数と等しくなる。単染色測定用サンプルの測定が終了すると、蛍光スペクトルの測定者は、コンピュータ等の演算装置を利用して、式11に示したような強度補正行列を生成する(ステップS29)。
【0155】
以上説明したような前処理を行った後に、蛍光スペクトルの測定者は、公知のフローサイトメーター等を利用して、着目している多重染色細胞の蛍光スペクトルを測定する(ステップS31)。その上で、蛍光スペクトルの測定者は、コンピュータ等の演算装置を利用して、生成した強度補正行列に基づく強度補正処理を実施し(ステップS33)、測定結果を獲得する(ステップS35)。
【0156】
[本実施形態に係る強度補正方法を利用した蛍光強度補正処理の流れ]
次に、図13〜図16を参照しながら、本実施形態に係る強度補正方法を利用した蛍光強度補正処理の流れについて説明する。図13及び図14は、本実施形態に係る強度補正方法を利用した蛍光強度補正処理の流れについて示した流れ図である。
【0157】
まず、図13を参照しながら、単染色サンプルの蛍光スペクトル測定を行わない場合の流れについて説明する。
【0158】
本実施形態に係る強度補正方法を利用する場合、蛍光スペクトルの測定者は、まず、測定を行う細胞に対して、どのような蛍光色素を用いて多重染色を行うかの実験計画を立案し(ステップS151)、測定を行う細胞を多重染色する。その上で、蛍光スペクトルの測定者は、図6A及び図6Bに示したようなフローサイトメーターを利用して、多重染色した細胞の蛍光スペクトルを測定する(ステップS153)。
【0159】
蛍光スペクトルの測定者は、図6A及び図6Bに示したようなフローサイトメーターから出力される測定データを、図8及び図9に示したような本実施形態に係る情報処理装置10に伝送する。本実施形態に係る情報処理装置10は、蛍光色素の蛍光特性に関するデータベース等を利用しながら、先だって説明したような確率モデルに基づく強度補正処理を実施し(ステップS155)、得られた強度補正処理結果を出力する。これにより、蛍光スペクトルの測定者は、各蛍光色素に由来する蛍光強度の値(すなわち、蛍光スペクトルの測定結果)を獲得することができる(ステップS157)。
【0160】
本実施形態に係る強度補正方法は、フローサイトメーター等の測定ユニットにより測定された測定結果を利用して、各蛍光色素を単独で用いた場合の蛍光スペクトルに相当する基底ベクトルを修正していく。そのため、本実施形態に係る強度補正方法を利用することで、着目している細胞等のサンプルを単染色した場合の情報が自動的に反映された強度補正処理が行われることとなり、算出される補正強度の精度を向上させることができる。
【0161】
続いて、図14を参照しながら、単染色サンプルの蛍光スペクトル測定を行う場合の流れについて説明する。
【0162】
本実施形態に係る強度補正方法を利用する場合、蛍光スペクトルの測定者は、まず、測定を行う細胞に対して、どのような蛍光色素を用いて多重染色を行うかの実験計画を立案する(ステップS161)。その上で、蛍光スペクトルの測定者は、単染色測定を行うためのサンプルの染色を行った後に得られた単染色サンプルのいくつかを混合することにより混合サンプルを準備しつつ(ステップS163)、測定するサンプルについても多重染色を実施する(ステップS165)。
【0163】
その後、蛍光スペクトルの測定者は、ステップS163にて準備した単染色測定用サンプルを用いて、図6A及び図6Bに示したようなフローサイトメーターにより、当該サンプルの蛍光スペクトルを測定する(ステップS167)。この際、本実施形態に係る強度補正方法を利用する場合には、単染色サンプルのいくつかを混合した混合サンプルを利用することができるため、単染色測定用サンプルの測定数を細胞の多重染色に用いる蛍光色素数未満とすることができる。
【0164】
単染色測定用サンプルの測定が終了すると、蛍光スペクトルの測定者は、得られた単染色測定用サンプルの測定結果を、図8及び図9に示したような本実施形態に係る情報処理装置10に伝送する。本実施形態に係る情報処理装置10は、サンプルの測定に先立ち、入力された測定結果を利用して、事前分布パラメータの内容を着目する細胞に適するように修正する(ステップS169)。
【0165】
以上説明したような前処理を行った後に、蛍光スペクトルの測定者は、図6A及び図6Bに示したようなフローサイトメーター等を利用して、着目している多重染色細胞の蛍光スペクトルを測定する(ステップS171)。蛍光スペクトルの測定者は、測定に用いたフローサイトメーターから出力される測定データを、図8及び図9に示したような本実施形態に係る情報処理装置10に伝送する。
【0166】
本実施形態に係る情報処理装置10は、修正された事前分布パラメータ及び測定データを利用して、先だって説明したような確率モデルに基づく強度補正処理を実施し(ステップS173)、得られた強度補正処理結果を出力する。これにより、蛍光スペクトルの測定者は、各蛍光色素に由来する蛍光強度の値(すなわち、蛍光スペクトルの測定結果)を獲得することができる(ステップS175)。
【0167】
図15及び図16は、本実施形態に係る情報処理方法を利用した基底ベクトルの生成処理について説明するための説明図である。
図15に示したような、488nmのレーザ光により励起される7種類の蛍光色素、及び、640nmのレーザ光により励起される3種類の蛍光色素の計10種類の蛍光色素を用いて、サンプルを多重染色する場合を考える。特に、488nmのレーザ光により励起される7種類の蛍光色素は、図15から明らかなように、蛍光特性を示すピークのオーバーラップが多数存在していることがわかる。
【0168】
本実施形態に係る強度補正方法を利用しない場合には、このような10種類の蛍光色素の基底ベクトルを生成するためには、各蛍光色素を用いた単染色サンプル10種類を準備して、10回の測定を行う必要があった。しかしながら、本実施形態に係る強度補正方法を利用することで、測定される蛍光スペクトルにおいてピークのオーバーラップが少なくなるように組み合わされた混合サンプルを利用して、単染色スペクトルの測定を行うことができる。
【0169】
具体的には、例えば図16に示したように、ピーク波長が互いにオーバーラップしないような蛍光色素の組み合わせを考慮したうえで3種類の混合サンプルを準備し、計3回の測定を行うことで、基底ベクトルとして用いられる事前分布を実際の測定スペクトルから生成することができる。このように、本実施形態に係る強度補正方法を利用することで、単染色サンプルの測定結果を得るために要する時間やコストを、大幅に削減することができる。
【0170】
以上、図13〜図16を参照しながら、本実施形態に係る強度補正方法を利用した蛍光強度補正処理の流れについて、簡単に説明した。
【0171】
(ハードウェア構成について)
次に、図17を参照しながら、本開示の実施形態に係る情報処理装置10のハードウェア構成について、詳細に説明する。図17は、本開示の実施形態に係る情報処理装置10のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【0172】
情報処理装置10は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、情報処理装置10は、更に、ホストバス907と、ブリッジ909と、外部バス911と、インターフェース913と、入力装置915と、出力装置917と、ストレージ装置919と、ドライブ921と、接続ポート923と、通信装置925とを備える。
【0173】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置919、またはリムーバブル記録媒体927に記録された各種プログラムに従って、情報処理装置10内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるホストバス907により相互に接続されている。
【0174】
ホストバス907は、ブリッジ909を介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バス911に接続されている。
【0175】
入力装置915は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置915は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、情報処理装置10の操作に対応した携帯電話やPDA等の外部接続機器929であってもよい。さらに、入力装置915は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。情報処理装置10のユーザは、この入力装置915を操作することにより、情報処理装置10に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0176】
出力装置917は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置917は、例えば、情報処理装置10が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、情報処理装置10が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0177】
ストレージ装置919は、情報処理装置10の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置919は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置919は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0178】
ドライブ921は、記録媒体用リーダライタであり、情報処理装置10に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ921は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体927に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ921は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体927に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体927は、例えば、DVDメディア、HD−DVDメディア、Blu−rayメディア等である。また、リムーバブル記録媒体927は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体927は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0179】
接続ポート923は、機器を情報処理装置10に直接接続するためのポートである。接続ポート923の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート等がある。接続ポート923の別の例として、RS−232Cポート、光オーディオ端子、HDMI(High−Definition Multimedia Interface)ポート等がある。この接続ポート923に外部接続機器929を接続することで、情報処理装置10は、外部接続機器929から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器929に各種のデータを提供したりする。
【0180】
通信装置925は、例えば、通信網931に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置925は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置925は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置925は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置925に接続される通信網931は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
【0181】
以上、本開示の実施形態に係る情報処理装置10の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【実施例】
【0182】
以下、実施例及び比較例を示しながら、本開示の技術的思想について具体的に説明する。しかしながら、本開示の技術的思想が下記の実施例に限定されるわけではない。
【0183】
以下に示す実施例では、相異なる二人から採取した血液を利用して混合サンプルを製造し、これら混合サンプルをFITC、Alexa532及びPEの3種類の蛍光色素で多重染色したうえで測定した蛍光スペクトルのデータを利用して、本開示の実施形態に係る情報処理方法(強度補正方法)の有用性について検討を行った。
【0184】
図18は、混合サンプルの染色に利用した蛍光色素の蛍光特性を示したグラフ図である。図18に示した蛍光特性は、図6A及び図6Bに示したフローサイトメーターを用いることで測定したものである。ここで、図18に示したグラフ図の横軸は、測定に利用したフローサイトメーターに実装されている光電子増倍管に付けられた番号に対応しており、蛍光スペクトルの波長に対応するものである。また、グラフ図の縦軸は、蛍光強度を表している。
【0185】
ここで、図18に示した結果から明らかなように、FITC、Alexa532、PEという3種類の蛍光色素は、それぞれの蛍光特性を示すピークが互いにオーバーラップしていることがわかる。図18のグラフ図より、このような3種類の蛍光色素の組み合わせは、真の蛍光強度の算出が困難となる蛍光色素の組み合わせであるといえる。
【0186】
以下では、細胞を単染色することで測定した基底ベクトルを用いた場合と、ラテックスビーズを単染色することで測定した基底ベクトルを用いた場合とを比較することで、本開示の実施形態に係る情報処理方法(強度補正方法)の有用性について検討を行った。なお、以下では、細胞を単染色することで測定した基底ベクトルを、細胞単染色基底ベクトル又は細胞単染色事前分布と称することとし、ラテックスビーズを単染色することで測定した基底ベクトルを、ビーズ単染色基底ベクトル又はビーズ単染色事前分布と称することとする。
【0187】
図19A〜図19Cは、上述のような混合サンプルを多重染色したうえで測定した蛍光スペクトルの測定結果を、それぞれの基底ベクトルを利用してフィッティングした様子を示している。
【0188】
図19Aは、ビーズ単染色基底ベクトルを利用して、図3及び図4で例示したような制約付き最小二乗法により測定データをフィッティングした様子を示したものである。図19Aを参照すると明らかなように、最小二乗法により得られた近似曲線(図中のEstimateで表される曲線)は、実際に測定された蛍光スペクトルを再現できていないことがわかる。また、近似曲線を算出するために用いられた基底ベクトルについて着目してみると、FITCに関する基底ベクトル及びPEに関する基底ベクトルに加えて、Alexa532に関する基底ベクトルが利用されていることがわかる。
【0189】
図19Bは、細胞単染色基底ベクトルを利用して、制約付き最小二乗法により測定データをフィッティングした様子を示したものである。図19Bを参照すると、最小二乗法により得られた近似曲線(図中のEstimateで表される曲線)は、実際に測定された蛍光スペクトルを再現できていることがわかる。また、近似曲線を算出するために用いられた基底ベクトルについて着目してみると、FITCに関する基底ベクトル及びPEに関する基底ベクトルが主に使用されており、Alexa532に関する基底ベクトルは利用されていないことがわかる。
【0190】
図19A及び図19Bを比較することで明らかなように、制約付き最小二乗法により測定データをフィッティングするためには、ビーズ単染色基底ベクトルではなく、基底ベクトルの生成に時間やコストを要する細胞単染色基底ベクトルの利用が求められる。
【0191】
また、図19Cは、ビーズ単染色基底ベクトルを利用して、本開示の実施形態に係る蛍光強度補正方法により測定データをフィッティングした様子を示したものである。図19Cを参照すると、本提案法により得られた近似曲線(図中のEstimateで表される曲線)は、実際に測定された蛍光スペクトルを再現できていることがわかる。また、近似曲線を算出するために用いられた基底ベクトルについて着目してみると、FITCに関する基底ベクトル及びPEに関する基底ベクトルが主に使用されており、Alexa532に関する基底ベクトルは利用されていないことがわかる。
【0192】
このように、本提案法では、細胞単染色基底ベクトルよりも精度が低い可能性のあるビーズ単染色基底ベクトルを用いた場合であっても、細胞単染色基底ベクトルを用いた場合と同様の結果を得ることができる。
【0193】
ここで、上記のようなフィッティング処理に伴い、着目している蛍光色素の基底ベクトルがどのように変化したかという知見について、蛍光色素FITC及びPEを例にとって、図20A及び図20Bに示した。図20Aは、蛍光色素FITCの基底ベクトルの変化を示したグラフ図であり、図20Bは、蛍光色素PEの基底ベクトルの変化を示したグラフ図である。
【0194】
図20A及び図20Bにおいて、△で示したプロットは、細胞単染色基底ベクトルの平均を示したものであり、◆で示したプロットは、ビーズ単染色基底ベクトルの平均を示したものであり、□で示したプロットは、本提案法により推定された基底ベクトル(すなわち、事前分布)の平均を示している。本提案法は、事前分布を表すパラメータが測定データ等に基づいて随時修正されていくため、□で示したプロットは、測定データに適合するように事前分布が学習されていった結果と見ることができる。
【0195】
図20A及び図20Bの双方から明らかなように、本提案法により測定データを学習した事前分布の平均は、細胞単染色基底ベクトルに非常に類似した分布となっていることがわかる。この結果からも明らかなように、本提案法では、測定データに適合するように事前分布(基底ベクトル)が学習されていくため、ビーズ単染色基底ベクトルを初期値として強度補正処理を開始したとしても、細胞単染色基底ベクトルと非常に類似した結果を得ることができた。
【0196】
続いて、図21を参照しながら、細胞単染色事前分布を利用し、制約付き最小二乗法及び本提案法により生成された二次元相関図について説明する。図21は、上記混合サンプルについて、細胞単染色事前分布を利用し、制約付き最小二乗法及び本提案法により生成された二次元相関図を示したグラフ図である。ここで、図21に示した二次元相関図は、3種類の蛍光色素(FITC、Alexa532、PE)から選択された2種類の蛍光色素の蛍光強度を、対数目盛でプロットしたものである。
【0197】
図21を参照すると、FITCの蛍光強度とPEの蛍光強度とをプロットした二次元相関図、及び、FITCの蛍光強度とAlexa532の蛍光強度とをプロットした二次元相関図については、制約付き最小二乗法と本提案法とは、非常に類似した集団(ポピュレーション)が表示されていることがわかる。しかしながら、PEの蛍光強度とAlexa532の蛍光強度とをプロットした二次元相関図(右端に示した相関図)では、図中点線で囲んだ領域について、制約付き最小二乗法と本提案法の双方では、表示されている集団の挙動が異なっていることがわかる。より詳細には、制約付き最小二乗法を利用して生成された二次元相関図では、図中点線で囲んだ領域は、図中矢印で示した部分で繋がっている大きな一つの集団のように見受けられる。また、本提案法を利用して生成された二次元相関図では、図中点線で囲んだ領域は、2つの集団が存在している。
【0198】
図21(a)の矢印で示した部分のフィッティング結果を図22Aに示し、図21(b)の矢印で示した部分のフィッティング結果を図22Bに示した。図22Aを見ると、該当部分の測定データは、蛍光色素PE及びAlexa532の基底ベクトルを用いてフィッティングされていることがわかる。このように、蛍光色素PEの基底ベクトルを用いたフィッティングの精度に余地があるために、Alexa532の蛍光強度がPEの蛍光強度に漏れこんでいるような結果となってしまい、図21(a)に示したような大きな一つの集団となったと考えられる。
【0199】
また、図22Bに示した本提案法によるフィッティング結果では、蛍光色素PEの基底ベクトルを推定する処理が実施されているため、該当部分の測定データは、蛍光色素PEの基底ベクトルを用いて(Alexa532の基底ベクトルを用いずに)フィッティングされている。これより、本提案法では、制約付き最小二乗法で生じた蛍光強度の漏れこみが適切に補正され、二次元相関図において、図21(b)に示したような2つの集団が図示されることとなったことが示唆される。
【0200】
続いて、図23を参照しながら、ビーズ単染色事前分布を利用し、制約付き最小二乗法及び本提案法により生成された二次元相関図について説明する。図23は、上記混合サンプルについて、ビーズ単染色事前分布を利用し、制約付き最小二乗法及び本提案法により生成された二次元相関図を示したグラフ図である。ここで、図23に示した二次元相関図は、3種類の蛍光色素(FITC、Alexa532、PE)から選択された2種類の蛍光色素の蛍光強度を、対数目盛でプロットしたものである。
【0201】
図23では、各二次元相関図を、プロットの分布から推測される複数の集団に区分しており、各集団の境界を実線で示している。また、各領域に記載されている数字は、各領域内に含まれるプロットの個数を示しており、カッコ内に記載されている数字は、細胞単染色事前分布を用いた場合のプロット数との差を示している。
【0202】
図23の右端に示した二次元相関図から明らかなように、ビーズ単染色事前分布を用いた場合であっても、本提案法では、制約付き最小二乗法で生じた蛍光強度の漏れこみが適切に補正されていることがわかる。また、各3種類の二次元相関図を比較すると、制約付き最小二乗法による二次元相関図では、細胞単染色事前分布とのプロット数の差が大きいのに対し、本提案法では、細胞単染色事前分布とのプロット数の差が非常に小さいことがわかる。これらの結果から、本提案法による強度補正方法を用い、ビーズ単染色事前分布を出発点として測定データによる学習を行うことで、細胞単染色事前分布と同等の結果を得ることができることを示している。
【0203】
図24は、測定データの一部を利用した事前分布の学習結果について示した説明図である。図24に示した例では、二次元相関図の右上に存在する集団に対応する測定データのみを用いて、事前分布を適切に学習できるか否かを検証した結果を示している。図24に示したグラフ図から明らかなように、点線で囲った領域のデータのみから学習した事前分布の平均は、ビーズ単染色事前分布の平均よりも細胞単染色事前分布の平均に類似している。この結果から、本提案法を用いることで、測定データの一部を利用した学習であっても、事前分布を適切に学習できることが明らかとなった。
【0204】
以上、図18〜図24を参照しながら、本開示の実施形態に係る強度補正方法を用いた実施例について、具体的に説明した。上記説明から明らかなように、本開示の実施形態に係る強度補正方法では、測定ごとの各蛍光色素の蛍光特性を推定するため、制約付き最小二乗法による蛍光補正で問題となった蛍光強度の漏れこみを補正することができた。また、本開示の実施形態に係る強度補正方法では、各蛍光色素の蛍光特性に関する事前知識(例えば、事前の測定によって得られた各蛍光色素の測定データ等)をサンプルの測定データにあわせて修正することができるため、精度に余地のある事前知識を初期値とした場合であっても、精度の良い強度補正結果を得ることが可能となる。
【0205】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0206】
なお、本稿で開示した技術は、例えば、下記のように表現することができる。
【0207】
(1)
光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定部を備える、
情報処理装置。
【0208】
(2)
前記推定部は、前記結合係数及び当該結合係数に基づく前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布の推定値に対し、当該推定値が収束したか否かを判定し、
前記情報処理装置は、前記推定値が収束していないと判定された場合、前記推定値を利用して前記所定の確率分布を規定するパラメータを更新するパラメータ設定制御部をさらに備え、
前記推定部は、更新後の前記所定の確率分布を規定するパラメータを利用して、前記結合係数及び前記所定の確率分布を規定するパラメータを再び推定する、
上記(1)に記載の情報処理装置。
【0209】
(3)
前記推定部は、前記測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布に影響する、前記基準の被測定物から得られる光の成分以外の要素が他の所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定し、
前記パラメータ設定制御部は、前記所定の確率分布を規定するパラメータを更新する際、前記推定値を利用して前記他の所定の確率分布を規定するパラメータを更新する、
上記(2)に記載の情報処理装置。
【0210】
(4)
前記推定部は、前記基準の被測定物から予め得ておいた光の強度分布を前記所定の確率分布に基づいて前記基準の被測定物から得られる光の強度分布を推定する際に用いる事前知識として利用する、
上記(2)に記載の情報処理装置。
【0211】
(5)
前記パラメータ設定制御部は、複数の前記測定対象の被測定物に対する光の強度分布の測定を実行する場合であっても、前記推定部により算出された前記推定値を利用して更新した前記所定の確率分布を規定するパラメータを共通して利用する、
上記(2)に記載の情報処理装置。
【0212】
(6)
前記測定対象の被測定物は、複数の蛍光色素を用いて多重染色された微小粒子であり、
前記物質は、前記微小粒子の染色に利用される蛍光色素である、
上記(2)に記載の情報処理装置。
【0213】
(7)
光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定するステップを含む、
情報処理方法。
【0214】
(8)
コンピュータに、
光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定機能を実現させるためのプログラム。
【0215】
(9)
複数の蛍光色素により多重染色された微小粒子に対して所定波長の光を照射して、前記微小粒子の蛍光スペクトルを測定することと、
測定された前記微小粒子の蛍光スペクトルの蛍光強度を、前記蛍光色素単独の蛍光特性に関する情報を利用して補正することと、
を含み、
前記蛍光強度を補正する際には、
前記微小粒子の蛍光スペクトルを、それぞれの前記蛍光色素の蛍光スペクトルに所定の重み付け係数を乗じたものの線形和として取り扱い、前記蛍光色素単独の蛍光特性に関する情報を利用して前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布を表すパラメータが設定され、
前記微小粒子の蛍光スペクトルと、設定された前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布と、に基づいて、当該微小粒子の蛍光スペクトルに対応する尤もらしい前記重み付け係数及び前記強度分布を表すパラメータが推定され、
推定された前記重み付け係数が、それぞれの前記蛍光色素に由来する蛍光強度とされる、蛍光スペクトルの強度補正方法。
【0216】
(10)
前記微小粒子の蛍光スペクトルの測定に先立ち、前記複数の蛍光色素は蛍光ピーク波長が互いに重畳しないように組み合わされた複数のグループに分類され、前記微小粒子は当該グループに含まれる前記蛍光色素でそれぞれ単染色され、単染色された前記微小粒子を混合した混合サンプルが前記グループごとに調整され、調整された前記混合サンプルを利用して前記混合サンプルの蛍光スペクトルがそれぞれ測定され、
前記蛍光強度を補正する際には、それぞれの前記混合サンプルの蛍光スペクトルを利用して、前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布を表すパラメータが設定される、上記(9)に記載の蛍光スペクトルの強度補正方法。
【符号の説明】
【0217】
1 情報処理システム
10 情報処理装置
20 測定ユニット
101 測定データ取得部
103 強度補正処理部
105 表示制御部
107 記憶部
111 パラメータ設定制御部
113 強度係数・基底ベクトル推定部
115 補正強度出力部
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置、情報処理方法、プログラム及び蛍光スペクトルの強度補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞等の微小粒子が持つ特性を測定するために、蛍光色素により標識された微小粒子にレーザ光を照射し、励起された蛍光色素から発生する蛍光の強度やパターンを計測する装置(例えば、フローサイトメータ等)が用いられる。また、微少粒子の特性をより詳細に分析する技術として、微小粒子を複数の蛍光色素を用いて標識し、レーザ光を照射した各蛍光色素から発せられる蛍光を受光波長帯域の異なる複数の光検出器により計測するマルチカラー測定と呼ばれる技術も用いられるようになってきている。なお、受光波長帯域を制限するために各光検出器に設けられる光学フィルタの透過波長帯域は、計測対象とする蛍光色素から発せられる蛍光の蛍光波長に応じて設計される。
【0003】
蛍光色素としては、例えば、FITC(Fluorescein isothiocyanate)、PE(phycoerythrin)等が利用される。これらの蛍光色素を用いて標識した微小粒子にレーザ光を照射して得られる蛍光スペクトルを観測すると、互いに重複する蛍光波長帯域の存在が確認される。つまり、マルチカラー測定を行う場合、微少粒子にレーザ光を照射して得られる蛍光を光学フィルタにより波長帯域別に分離したとしても、各光検出器で検出される蛍光スペクトルには目的とする蛍光色素以外の蛍光色素から発せられた蛍光の成分が漏れ込んでいると考えられる。このような蛍光の漏れ込みが生じると、各光検出器で計測される蛍光強度と目的とする蛍光色素から実際に発せられた蛍光の蛍光強度との間にずれが生じてしまう。その結果、測定誤差が生じる。
【0004】
このような測定誤差を補正するために、光検出器で計測された蛍光強度から漏れ込み分の蛍光強度を差し引く蛍光補正処理(コンペンセーション)が行われる。この蛍光補正処理は、光検出器で計測された蛍光強度が目的とする蛍光色素から実際に発せられた蛍光の蛍光強度に近づくように、計測された蛍光強度に対して補正(以下、蛍光補正)を加えるものである。蛍光補正を行う方法として、例えば、下記の特許文献1には、数学的に蛍光強度を補正する方法が開示されている。
【0005】
下記の特許文献1に記載の方法は、各光検出器で計測された蛍光強度(検出値)を要素とするベクトルを考え、このベクトルに予め設定した補正行列の逆行列を作用させることで、目的とする蛍光色素から実際に発せられた蛍光の蛍光強度を算出するものである。なお、上記の補正行列は、漏れ込み行列と呼ばれることもある。上記の補正行列は、各蛍光色素を単標識した微小粒子の蛍光波長分布を解析することによって作成されるものであり、各蛍光色素の蛍光波長分布を列ベクトルとして配列したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−83894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
なお、上記特許文献1に記載されている蛍光補正処理は、補正行列の行列要素に負値を許容している。そのため、上記の蛍光補正処理を適用すると、補正後の蛍光強度が負値になる場合がある。補正後の蛍光強度が負値をとるのは、各光検出器の検出値に含まれるノイズが行列要素の値に影響を与えていることが原因である。しかしながら、現実には、蛍光強度が負値になることはない。また、ある蛍光色素から発せられる蛍光の蛍光強度が負値として算出されるということは、同時に他の蛍光色素に関する蛍光強度の算出値に正方向への誤差が生じていることを意味する。
【0008】
解析する微小粒子集団(以下、ポピュレーション)に、ある蛍光色素についての蛍光強度が負値となる小集団(以下、サブポピュレーション)が存在する場合について考える。この場合、その蛍光色素の蛍光強度をログスケールでプロットした二次元相関図(以下、サイトグラム)を作成すると、サイトグラム上にサブポピュレーションがプロットされなくなってしまう。そのため、サイトグラム上にプロットされたポピュレーションが実際よりも少なくなったような誤解をユーザに与えるおそれがある。
【0009】
また、上記の特許文献1に記載されているような蛍光補正処理は、微小粒子から発せられる自家蛍光の検出値をバックグランドとして各光検出器の検出値から減算する際に、ポピュレーション全体の自家蛍光強度の平均値を演算に用いている。しかしながら、自家蛍光の強度やパターンはサブポピュレーション毎に異なっている。そのため、全てのサブポピュレーションについて一律に上記の平均値を減算するという演算そのものが、蛍光強度の算出値の誤差要因となっていた。特に、解析対象とするサブポピュレーション間の自家蛍光強度のばらつきが大きい場合には誤差が顕著となる。
【0010】
ところで、測定した蛍光スペクトルの中で、ある波長帯域に存在するピークが複数の化学種に由来するという状況は、上述のような蛍光色素により標識された微小粒子の蛍光スペクトルだけに生じうるものではない。測定スペクトルの中で、あるピークが複数の化学種に由来するという状況は、例えば、複数の化学種が混在しているサンプルの発光スペクトルや吸光スペクトル等においても生じうるものである。つまり、複数の発光要素から発せられた光のスペクトルを発光要素毎に分解する処理を実施するに当たって、目的とする発光要素から発せられた光のスペクトルに漏れ込んだ他の発光要素の成分を効果的に抑圧する補正方法が求められている。
【0011】
そこで、本開示では、測定されたスペクトルから目的とするスペクトル成分をより精度良く抽出することが可能な情報処理装置、情報処理方法、プログラム及び蛍光スペクトルの強度補正方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示によれば、光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定部を備える、情報処理装置が提供される。
【0013】
また、本開示によれば、光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定するステップを含む、情報処理方法が提供される。
【0014】
また、本開示によれば、コンピュータに、光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定機能を実現させるためのプログラムが提供される。
【0015】
また、本開示によれば、複数の蛍光色素により多重染色された微小粒子に対して所定波長の光を照射して、前記微小粒子の蛍光スペクトルを測定することと、測定された前記微小粒子の蛍光スペクトルの蛍光強度を、前記蛍光色素単独の蛍光特性に関する情報を利用して補正することと、を含み、前記蛍光強度を補正する際には、前記微小粒子の蛍光スペクトルを、それぞれの前記蛍光色素の蛍光スペクトルに所定の重み付け係数を乗じたものの線形和として取り扱い、前記蛍光色素単独の蛍光特性に関する情報を利用して前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布を表すパラメータが設定され、前記微小粒子の蛍光スペクトルと、設定された前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布と、に基づいて、当該微小粒子の蛍光スペクトルに対応する尤もらしい前記重み付け係数及び前記強度分布を表すパラメータが推定され、推定された前記重み付け係数が、それぞれの前記蛍光色素に由来する蛍光強度とされる蛍光スペクトルの強度補正方法が提供される。
【0016】
本開示によれば、パラメータ設定制御部は、被測定物に対して所定波長の光を照射することで測定されたスペクトルを、1又は複数のスペクトル種それぞれに由来する基準スペクトルに所定の重み付け係数を乗じたものの線形和として取り扱い、基準スペクトルに対応する強度分布を表すパラメータを設定し、推定部は、被測定物のスペクトルと、設定された基準スペクトルに対応する強度分布と、に基づいて、当該被測定物のスペクトルに対応する尤もらしい重み付け係数及び強度分布を表すパラメータを推定し、出力部は、推定された重み付け係数を、それぞれの基準スペクトルに由来するスペクトル強度として出力する。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本開示によれば、測定されたスペクトルから目的とするスペクトル成分をより精度良く抽出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】蛍光強度補正処理について説明するための説明図である。
【図2】蛍光強度補正処理について説明するための説明図である。
【図3】蛍光強度補正処理について説明するための説明図である。
【図4】蛍光強度補正処理について説明するための説明図である。
【図5】本開示の第1の実施形態に係る情報処理システムについて示した説明図である。
【図6A】同実施形態に係る測定ユニットの一例を示した説明図である。
【図6B】同実施形態に係る測定ユニットの一例を示した説明図である。
【図7】同実施形態に係る強度補正処理の概略を示した説明図である。
【図8】同実施形態に係る情報処理装置の構成の一例を示したブロック図である。
【図9】同実施形態に係る強度補正処理部の構成の一例を示したブロック図である。
【図10】同実施形態に係る情報処理方法の流れの一例を示した流れ図である。
【図11】蛍光強度補正処理の流れについて示した流れ図である。
【図12】蛍光強度補正処理の流れについて示した流れ図である。
【図13】同実施形態に係る情報処理方法を利用した蛍光強度補正処理の流れの一例を示した流れ図である。
【図14】同実施形態に係る情報処理方法を利用した蛍光強度補正処理の流れの一例を示した流れ図である。
【図15】同実施形態に係る情報処理方法を利用した基底ベクトルの生成処理について説明するための説明図である。
【図16】同実施形態に係る情報処理方法を利用した基底ベクトルの生成処理について説明するための説明図である。
【図17】本開示の実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成を示したブロック図である。
【図18】混合サンプルの染色に利用した蛍光色素の蛍光特性を示したグラフ図である。
【図19A】測定データのフィッティングの様子を示したグラフ図である。
【図19B】測定データのフィッティングの様子を示したグラフ図である。
【図19C】測定データのフィッティングの様子を示したグラフ図である。
【図20A】蛍光色素FITCの基底ベクトルの変化を示したグラフ図である。
【図20B】蛍光色素PEの基底ベクトルの変化を示したグラフ図である。
【図21】混合サンプルの二次元相関図を示したグラフ図である。
【図22A】制約付き最小二乗法による測定データのフィッティング結果を示したグラフ図である。
【図22B】細胞単染色基底ベクトルを用いた場合の測定データのフィッティング結果を示したグラフ図である。
【図23】混合サンプルの二次元相関図を示したグラフ図である。
【図24】測定データの一部を利用した事前分布の学習結果について示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
なお、説明は、以下の順序で行うものとする。
(1)本開示における技術的思想の基盤となる技術について
(2)第1の実施形態
(2−1)情報処理システムについて
(2−2)情報処理装置の構成について
(2−3)情報処理方法の流れについて
(2−4)蛍光強度補正方法の流れの一例について
(3)本開示の実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成について
(4)実施例
【0021】
(本開示における技術的思想の基盤となる技術について)
まず、本開示の実施形態に係る情報処理装置及び情報処理方法について説明するに先立ち、本開示における技術的思想の基盤となる技術(以下、基盤技術とも称する。)について、図1〜図4を参照しながら簡単に説明する。図1〜図4は、蛍光強度の補正処理について説明するための説明図である。
【0022】
以下では、フローサイトメーターにより測定された、蛍光色素により標識された生体細胞等の蛍光スペクトルに対し蛍光強度補正を実施する場合を例にとって、説明するものとする。
【0023】
複数種類の蛍光色素を利用して生体細胞等の微小粒子を多重に染色し、染色した微小粒子の蛍光スペクトルを測定する場合について考える。
【0024】
まず、各蛍光色素を単独で使用して微小粒子を染色した単染色サンプルを用意する。そして、図1に示すように、単染色サンプルの蛍光スペクトルを予め測定しておく。図1に示した例では、FITC、PE、ECD、PC5、PC7という5種類の蛍光色素をそれぞれ単独で用いた場合の蛍光スペクトルが予め測定されている。その後、複数種類の蛍光色素によりサンプルを多重染色し、蛍光スペクトルを測定する。測定された蛍光スペクトルは、標識に用いた蛍光色素それぞれに由来する蛍光強度が重畳したものとなる。そこで、測定により得られた蛍光スペクトルに対し、蛍光強度補正処理を行うことによって、どの蛍光色素に由来する蛍光強度がどのくらいの割合で重畳しているのか、を特定する。
【0025】
ここで、上記特許文献1に記載されている補正行列を用いた方法(以下、逆行列法とも称する。)について紹介する。この方法は、下記の式11に示したように、測定の結果、それぞれの光検知器で得られた蛍光強度(MI)に対して、補正行列の逆行列を作用させることにより、真の蛍光強度(FL)を算出するものである。
【0026】
【数1】
【0027】
図2は、逆行列法による蛍光強度補正処理を模式的に示したものである。逆行列法による蛍光強度補正処理は、それぞれの光検知器で測定された測定データを通る近似曲線を、重畳している蛍光色素単独での蛍光スペクトルを基底ベクトルとしたうえで算出する処理であると言い換えることができる。すなわち、逆行列法による蛍光強度補正処理は、光検知器x1〜x5の測定データをy1〜y5と表すこととし、基底ベクトルをそれぞれX1(x)〜XM(x)と表すこととすると、基底ベクトルX1(x)〜XM(x)を用いて、測定データy1〜y5の全てを通る近似曲線を求める処理となる。
【0028】
逆行列法の場合、真の蛍光強度が負値となる場合がある。また、逆行列法の場合、光検知器の設置台数を、用いる蛍光色素の数と同じになるように設定する必要がある。さらに、各光検知器での測定データが近似直線上に存在するという条件そのものが、算出された蛍光強度の誤差要因となってしまう。
【0029】
本発明者らは、上記のような逆行列法の問題点を改善するための方法について検討を行った。その結果、本発明者らは、まず初めに、各光検知器での測定データを通る近似曲線を求めるのではなく、図3に例示したように、最小二乗法を用いて、各光検知器での測定データから推測される尤もらしい近似曲線を算出する方法に想到した。この方法は、光検知器x1〜xNの測定データをy1〜yNと表すこととし、基底ベクトルをそれぞれX1(x)〜XM(x)と表すこととして、基底ベクトルX1(x)〜XM(x)を用いて、測定データy1〜yNとの誤差が最も小さい近似曲線を求める方法である。
【0030】
この最小二乗法を用いた蛍光強度補正方法は、図4のように模式的に表現することができる。ここで、図4を参照しながら、最小二乗法を用いた蛍光強度補正方法について説明を補足する。
【0031】
各光検出器により測定される測定データの集合(すなわち、蛍光スペクトル)は、基底ベクトルとして用いられる基準となる蛍光スペクトル(例えば、サンプルを単独の蛍光色素で単染色した場合の蛍光スペクトルやサンプル等の自家蛍光スペクトルなど)に所定の係数(強度係数)を乗じたものの線形和にノイズが重畳しているものであるとする。その上で、各光検出器による測定データに基づいて、それぞれの強度係数の具体的な値は、最小二乗法により決定される。このようにして決定される強度係数が、補正後の蛍光強度(すなわち、真の蛍光強度)となる。
【0032】
ここで、図4に示した強度係数を求めるための最小二乗法を実施するにあたって、本発明者らは、強度係数の値が所定の最小値以上(例えば、ゼロ以上)であるという制約を設けるアイデアを創出した。このアイデアを用いると、算出される真の蛍光強度が負値になりうるという逆行列法の短所を改善することができる。本発明者らによるアイデアを盛り込んだ方法のことを以下では「制約付き最小二乗法」と呼ぶことにする。
【0033】
ここで、具体的な式を示しながら、制約付き最小二乗法による方法を簡単に説明する。
【0034】
まず、測定された蛍光スペクトルをy(x)とし、蛍光色素k(k=1,・・・,M)の基底ベクトルをXk(x)とし、蛍光色素kの強度係数をakとすると、測定された蛍光スペクトルy(x)は、下記の式21のように表される。ここで、i番目(i=1,・・・,N)の光検出器による測定データをyiと表すこととすると、着目している最小二乗法は、下記の式22で表される評価関数χ2の最小値を与える強度係数を求める問題に帰着できる。なお、下記の式22において、σiは、i番目の光検出器の測定値に対する重み付け係数の逆数を表している。なお、重み付け係数の逆数として、例えば、i番目の光検出器の測定誤差分散を用いてもよいし、1として取り扱ってもよい。
【0035】
【数2】
【0036】
式22で表される評価関数の最小値を与える強度係数akの算出方法は、公知のあらゆる方法を用いることが可能である。
【0037】
<強度係数akの算出方法−その1>
例えば、式22で表される評価関数が最小値となるのは、式22を強度係数akで微分した値が全てゼロになるときである、として正規方程式(行列方程式)を導き、導かれた正規方程式(実際は、M元連立一次方程式)を解いて強度係数akを算出してもよい。
【0038】
すなわち、式22の右辺を強度係数akで微分した値がゼロになるという条件は、下記の式23のように表される。ここで、下記の式23において、インデックスkは、k=1,・・・,Mの整数である。
【0039】
【数3】
【0040】
ここで、上記の式23は、和をとる順番を変更することで、下記の式24で表される正規方程式の形に変形することができる。なお、下記の式24において、akj及びβkは、それぞれ下記の式25及び式26で表される値である。
【0041】
【数4】
【0042】
また、下記の式27で表される要素AijからなるN×M行列Aと、下記の式28で表される要素biからなるN次元ベクトルbと、強度係数a1〜aMを要素とするM次元ベクトルaと、を考えると、上記式24で表される正規方程式は、下記の式29のような行列方程式で表すことも可能である。
【0043】
【数5】
【0044】
式24又は式29から明らかなように、これらの式は、M元連立一次方程式であり、この方程式を解くことによって、求める強度係数a1〜aMを求めることができる。
【0045】
<強度係数akの算出方法−その2>
任意のN×M行列Xは、正規直交行列U,V、及び、特異値と呼ばれる非負の値を対角成分として持つ対角行列Wを用いて、下記の式30のように分解することができる。ここで、行列Uは、N×M行列であり、行列V及び行列Wは、M×M行列である。
【0046】
また、評価関数である式22は、上記行列A及びベクトルa,bを用いて、下記の式22’のように表すことができる。
【0047】
【数6】
【0048】
ここで、式22’における行列Aを特異値分解し、行列Aに応じた行列U,W,Vを得ることができたとき、式22’の最小値を与えるベクトルaは、下記の式31により求めることが可能である。
【0049】
【数7】
【0050】
<制約付き最小二乗法による強度補正方法に対する検討>
本発明者らは、初めに想到した上記のような制約付き最小二乗法による強度補正方法について、鋭意検討を行った。その結果、制約付き最小二乗法による強度補正方法は、上記特許文献1に記載されているような逆行列法による強度補正方法よりも格段に精度が向上することが分かった。しかし、本発明者らは、制約付き最小二乗法による強度補正方法を実施するに当たり、下記のような点にも配慮すべきであるという考えに至った。
【0051】
例えば、測定対象とするサンプルを各色素で単染色して蛍光スペクトルを測定するという操作では、測定の手間及び測定に用いる試料が無駄になることが多く、また、特に測定対象として細胞に着目する場合、全く同一の条件を有する細胞を色素の個数分だけ準備することは、困難なことが多い。また、制約付き最小二乗法においては全ての測定データにおいて基底ベクトルが共通であるとしていたが、実際には、様々な要因により各測定における基底ベクトルにはバラつきが存在すると考えるのが自然である。また、当然のことながら、多重染色した細胞を単染色した場合の測定データを得ることはできない。つまり、本来、基底ベクトル自体は知りえないものである。これらの考察から、本発明者らは、基底ベクトル自体のバラつきを考慮すべきであること、及び基底ベクトルのバラつきを考慮することで強度補正処理の誤差を抑圧できる可能性に気づいた。
【0052】
また、先だって説明した例では、ある色素により単染色したサンプルによる測定データを基底ベクトルとして利用する場合について説明したが、当然ながら、例えば細胞自体の自家蛍光や、フローサイトメーターのマイクロ流路のチューブやチップに由来する蛍光も、基底ベクトルとして利用することが可能である。また、上記のように、細胞等のサンプルを単染色したものを準備する手間を考えると、細胞等のサンプルに代えてビーズ(ラテックスビーズなど)を単染色したものの蛍光スペクトルを基底ベクトルとして用いることも考えられる。しかしながら、単染色ビーズの蛍光スペクトルの平均は、単染色した細胞等のサンプルの蛍光スペクトルとズレがあるため、ビーズの蛍光スペクトルから生成した基底ベクトルを用いた場合、細胞等のサンプルの蛍光スペクトルから生成した基底ベクトルを用いた場合に比べて、蛍光強度補正処理の結果が大きく異なってしまうことがある。本発明者らは、これらの点についても考察を行い、基底ベクトルとして利用できる測定データの多様性について更なる検討を重ねた。
【0053】
また、先だって説明した制約付き最小二乗法では、複数の光検出器から得られる複数の周波数帯域での蛍光強度は、同程度のバラつきのノイズを持つことが暗に仮定されている。しかしながら、光電子増倍管に代表される光検出器には、適切なS/N比で測定可能な信号強度に範囲があるために、各光検出器の感度を考慮に入れずに得られた測定データに対して制約付き最小二乗法を適用すると、強度補正処理結果に悪影響が及んでいる可能性が懸念される。
【0054】
そこで、本発明者らは、上記の考察に基づいて検討を進め、基底ベクトルのバラつきに基づく強度補正処理の誤差要因を取り除いて更に精度良く強度補正処理を実施することが可能な強度補正方法に想到した。また、本発明者らは、強度補正処理の精度向上に加え、基底ベクトルとして利用可能な測定データの多様性や光検出器の検出精度についても検討を行い、これらの内容についても新たなアイデアを創出した。
【0055】
(第1の実施形態)
以下では、図5〜図9を参照しながら、本開示の第1の実施形態について詳細に説明する。
【0056】
<情報処理システムについて>
まず、図5を参照しながら、本実施形態に係る情報処理システムについて説明する。図5は、本実施形態に係る情報処理システムを示した説明図である。
【0057】
本実施形態に係る情報処理システム1は、図5に示したように、情報処理装置10と、測定サンプルSのスペクトルを測定する各種の測定ユニット20とを含む。
【0058】
本実施形態における測定サンプルSである微小粒子としては、例えば、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいは、ラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などを利用することができる。
【0059】
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。細胞には、動物細胞(血球系細胞等)及び植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌等の細菌類、タバコモザイクウイルス等のウイルス類、イースト菌等の菌類などが含まれる。生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体等の生体関連高分子が包含されていてもよい。
【0060】
また、工業用粒子は、例えば有機高分子材料や無機高分子材料、金属等であってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレート等が含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料等が含まれる。金属には、金コロイド、アルミニウム等が含まれる。これら微小粒子の形状は、球形である場合が多いが、非球形であってもよく、また、大きさや質量等も特に限定されない。
【0061】
情報処理装置10は、測定ユニット20により測定された測定サンプルSの測定データを取得し、取得した測定データであるスペクトルの強度を補正する強度補正処理を実施する。図5では、本実施形態に係る情報処理装置10が、測定ユニット20とは別の装置として設けられる場合について図示しているが、本実施形態に係る情報処理装置10の機能は、測定ユニット20の動作を制御するコンピュータに実装されていてもよいし、測定ユニット20の筐体内に設けられた任意のコンピュータに実装されていてもよい。なお、情報処理装置10の詳細な構成については後段において詳述する。
【0062】
測定ユニット20は、測定サンプルSに対してレーザ光を照射し、測定サンプルSからの蛍光やリン光といった発光を測定したり、測定サンプルSからの散乱光を測定したり、測定サンプルSによる吸収スペクトルを測定したりする。本実施形態に係る測定ユニット20は、測定サンプルSの発光スペクトル、散乱スペクトル又は吸収スペクトルを測定するものであってもよいし、発光スペクトル、散乱スペクトル及び吸収スペクトルの少なくとも2つ以上を測定するものであってもよい。これらのスペクトルは、本稿に言う「光の強度分布」の一例である。
【0063】
なお、以下では、測定ユニット20として、測定サンプルSの蛍光スペクトルを測定する図6A及び図6Bに示したようなフローサイトメーターを用いる場合を例にとって、詳細な説明を行うものとする。
【0064】
<測定サンプルについて>
測定サンプルである微小粒子は、蛍光スペクトルの測定に先立って、複数の蛍光色素により多重標識(多重染色)される。微小粒子の蛍光色素標識は、公知の任意の手法によって行うことができる。例えば測定対象を細胞とする場合には、細胞表面分子に対する蛍光標識抗体と細胞とを混合し、細胞表面分子に抗体を結合させる。蛍光標識抗体は、抗体に直接蛍光色素を結合させたものであってもよく、ビオチン標識した抗体にアビジンを結合した蛍光色素をアビジン・ビオチン反応によって結合させたものであってもよい。また、抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であってもよい。
【0065】
微小粒子を多重標識するための蛍光色素には、公知の物質を2つ以上組み合わせて用いることができる。蛍光色素としては、例えば、フィコエリスリン(PE)、FITC、PE−Cy5、PE−Cy7、PE−テキサスレッド(PE−Texas red)、アロフィコシアニン(APC)、APC−Cy7、エチジウムブロマイド(Ethidium bromide)、プロピジウムアイオダイド(Propidium iodide)、ヘキスト(Hoechst)33258/33342、DAPI、アクリジンオレンジ(Acridine orange)、クロモマイシン(Chromomycin)、ミトラマイシン(Mithramycin)、オリボマイシン(Olivomycin)、パイロニン(Pyronin)Y、チアゾールオレンジ(Thiazole orange)、ローダミン(Rhodamine)101イソチオシアネート(isothiocyanate)、BCECF、BCECF−AM、C.SNARF−1、C.SNARF−1−AMA、エクオリン(Aequorin)、Indo−1、Indo−1−AM、Fluo−3、Fluo−3−AM、Fura−2、Fura−2−AM、オキソノール(Oxonol)、テキサスレッド(Texas red)、ローダミン(Rhodamine)123、10−N−ノニ−アクリジンオレンジ(Acridine orange)、フルオレセイン(Fluorecein)、フルオレセインジアセテート(Fluorescein diacetate)、カルボキシフルオレセイン(Carboxyfluorescein)、カルビキシフルオレセインジアセテート(Caboxyfluorescein diacetate)、カルボキシジクロロフルオレセイン(Carboxydichlorofluorescein)、カルボキシジクロロフルオレセインジアセテート(Carboxydichlorofluorescein diacetate)等を利用することができる。もちろん、本実施形態で使用可能な蛍光色素は、上記の例に限定されるわけではない。
【0066】
<測定ユニットの一例について>
測定ユニット20の一例であるフローサイトメーターは、図6Aに示したように、サンプルSの染色に利用された蛍光色素を励起可能な波長を有するレーザ光を、レーザ光源からマイクロ流路を流れる多重染色された微小粒子Sに対して射出する。また、フローサイトメーターに設けられた光検出器は、レーザ光の照射された微小粒子から放射される蛍光を、光電子増倍管等の光検出器により検出する。なお、図6Aの例では1台のレーザ光源しか描画されていないが、複数のレーザ光源が設けられていてもよい。
【0067】
このような測定処理を行うフローサイトメーターは、公知の構成を有することが可能であるが、例えば図6Bに示したような構成を有している。
【0068】
図6Bに示すように、フローサイトメーターは、所定波長のレーザ光(例えば、波長488nm及び640nmのレーザ光)を射出するレーザ光源と、レーザ光を測定サンプルSへと導光するためのレンズ等の光学系(図示せず。)と、測定サンプルSからの前方散乱光や後方散乱光等といった散乱光や蛍光を検知するための各種光検知器と、散乱光や蛍光を光検知器へと導光する各種の光学系と、を有している。
【0069】
ここで、図6Bに示した例では、光検知器として、測定サンプルSからの散乱光等を検知するためのCCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、フォトダイオード等といったディテクタと、測定サンプルSの蛍光を検知するための複数(例えば、32個程度)の光電子増倍管と、が設けられている。なお、本実施形態に係る技術を適用する場合、光検出器の数は、測定サンプルSの多重染色に利用する蛍光色素数よりも多くなるように設定してもよい。つまり、後述する本実施形態の強度補正処理を適用する場合、(蛍光色素数)<(光検出器の数)という設定条件にしても、精度良く所望の結果を得ることができる。
【0070】
レーザ光源から射出されたレーザ光に起因する測定サンプルSからの蛍光は、測定サンプルSと各光電子増倍管との間に設けられたプリズムにより分光され、各光電子増倍管へと導光される。各光電子増倍管は、対応する波長帯域の蛍光の検知結果を示した測定データを、本実施形態に係る情報処理装置10へと出力する。
【0071】
上記のように、本実施形態に係る情報処理装置10は、測定サンプルSからの蛍光を連続的に観測した蛍光スペクトルを得る。また、CCD、CMOS、フォトダイオード等のディテクタにより検知された散乱光等の測定データが、本実施形態に係る情報処理装置10に出力されるように構成されていてもよい。
【0072】
なお、図6Bに示したフローサイトメーターの一例では、測定サンプルSからの散乱光を検知するための一連の光学系が設けられているが、かかる光学系は設けられていなくともよい。また、図6Bに示したフローサイトメーターでは、測定サンプルSからの蛍光をプリズムにより分光して光電子増倍管へと導光しているが、測定サンプルSからの蛍光は、複数の波長選択フィルタにより分離され、各光電子増倍管へと導光されてもよい。つまり、多重染色されたサンプルSをレーザ光で励起して得られる蛍光スペクトルを所定の波長帯域毎に選択的に測定し、その測定結果を情報処理装置10に入力できるような構成であれば、一部の構成要素を任意に変形してもよい。
【0073】
以上、図6A及び図6Bを参照しながら、本実施形態に係る測定ユニット20の一例について、簡単に説明した。
【0074】
<情報処理装置について>
続いて、図7〜図9を参照しながら、本実施形態に係る情報処理装置10について、詳細に説明する。図7は、本実施形態に係る情報処理装置10における強度補正処理の概略を説明するための説明図である。図8は、本実施形態に係る情報処理装置10の構成を示したブロック図であり、図9は、本実施形態に係る情報処理装置10が有する強度補正処理部103の構成を示したブロック図である。
【0075】
[情報処理装置の概略]
本実施形態に係る情報処理装置10は、図7に示したように、「測定データは、強度補正処理に用いる基底ベクトルに強度係数を乗じたものの線形和に対してノイズが重畳したものである」として取り扱う。その上で、情報処理装置10は、基底ベクトルを所定の分布(例えば切断正規分布)を用いてモデル化するとともに、ノイズについても所定の分布(例えば正規分布)を用いてモデル化し、確率モデルに基づいて強度補正処理を実施する。以下では、基底ベクトルを表す所定の分布を、事前分布と称することがある。
【0076】
本実施形態に係る情報処理装置10では、基底ベクトルを所定の分布を用いてモデル化し、各測定データにおける基底ベクトルを確率モデルにより推定して事前分布を修正することにより、各測定における基底ベクトルのバラつきを改善する。これにより、各測定データ(各測定スペクトル)の基底ベクトルを推定したり、各測定データに共通の基底ベクトルを推定したりすることが可能となる。
【0077】
また、本実施形態に係る情報処理装置10では、基底ベクトルの推定を行うため、蛍光色素の基底ベクトルだけでなく、細胞等の測定サンプル自体やマイクロ流路チップ等の蛍光も推定することが可能となり、基底ベクトルとして利用可能な測定データの多様化を図ることができる。更に、本実施形態に係る情報処理装置10では、予め測定されているスペクトルや、スペクトルに関するデータベース等の事前知識を事前分布の初期値として利用することもできる。
【0078】
また、本実施形態に係る情報処理装置10では、ノイズを表すベクトル(ノイズベクトル)を、相関は持たないが各次元で異なる分散を持つ正規分布によりモデル化し、各次元のノイズの分散を推定することによって、各光検出器の感度を考慮に入れた強度補正処理を実現することが可能となる。
【0079】
[情報処理装置の構成]
続いて、図8及び図9を参照しながら、本実施形態に係る情報処理装置10の構成について、詳細に説明する。
【0080】
○情報処理装置の全体構成
本実施形態に係る情報処理装置10は、図8に例示したように、測定データ取得部101と、強度補正処理部103と、表示制御部105と、記憶部107と、を主に備える。
【0081】
測定データ取得部101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力装置、通信装置等により実現される。測定データ取得部101は、測定ユニット20から、当該測定ユニット20により生成された測定サンプルSの測定データを取得する。
【0082】
ここで、測定ユニット20から取得する測定サンプルSの測定データは、例えば、一つの微小粒子又は所定個数の微小粒子に対して所定波長のレーザ光が照射されたことで生成されるスペクトルの強度を表したデータである。一つの微小粒子又は所定個数の微小粒子に対するスペクトルの測定には、微小ではあるが時間幅が存在する。そのため、本実施形態に係る測定データには、その微少な時間幅における累積強度、最大強度、又は、平均強度等が用いられる。
【0083】
測定データ取得部101は、着目している測定サンプルSの測定データを取得すると、取得した測定データを、後述する強度補正処理部103に入力する。また、測定データ取得部101は、取得した測定データに対し、当該データを取得した日時等の時刻情報を関連付けて、履歴情報として後述する記憶部107等に格納してもよい。
【0084】
強度補正処理部103は、例えば、CPU、DSP(Digital Signal Processor)、ROM、RAM等により実現される。強度補正処理部103は、測定データ取得部101から出力された測定サンプルSの測定データや、後述する記憶部107等に格納されている基底ベクトルに関する事前知識データベース等を利用して、測定ユニット20により測定された各種スペクトルの強度補正処理を実施する。本実施形態に係る強度補正処理部103では、先だって概略を示したような強度補正方法により基底ベクトル毎の真の強度を算出する。そのため、算出される真の強度は、制約付き最小二乗法を利用した強度補正方法により得られる結果と比べても、更に正確なものとなる。
【0085】
強度補正処理部103は、測定データ取得部101から出力された各種スペクトルの強度補正処理結果を後述する表示制御部105に入力し、表示制御部105によって処理結果をユーザに提示させる。また、強度補正処理部103は、得られた強度補正処理結果を利用して、後述する記憶部107等に格納されている各種データベースの更新処理を実施してもよい。
【0086】
また、強度補正処理部103は、得られた強度補正処理結果を、プリンタ等の出力装置を介して印刷物としてユーザに提示してもよく、CD、DVD、Blu−rayディスクなどといった各種の記録媒体やUSBメモリ等に、得られた強度補正処理結果を表すデータを出力してもよい。また、強度補正処理部103は、得られた強度補正処理結果を表すデータを、本実施形態に係る情報処理装置10が通信可能な外部の装置に対して、各種の通信網を介して出力してもよい。
【0087】
更に、強度補正処理部103は、得られた強度補正処理結果を表すデータに、当該データを生成した日時等に関する時刻情報を関連付けて、履歴情報として後述する記憶部107に格納してもよい。
【0088】
なお、強度補正処理部103の構成については、後段において更に詳細に説明する。
【0089】
表示制御部105は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置、出力装置等により実現される。表示制御部105は、情報処理装置10が備えるディスプレイ等の表示装置や、情報処理装置10の外部に設けられたディスプレイ等の表示装置における表示画面の表示制御を行う。より詳細には、表示制御部105は、強度補正処理部103から通知された各種スペクトルの強度補正処理結果(補正後のスペクトル強度)に関する情報に基づいて、表示画面の表示制御を実施する。表示制御部105が強度補正処理部103から通知された強度補正処理結果の表示画面への表示制御を行うことで、情報処理装置10のユーザは、強度補正処理の結果を把握することが可能となる。
【0090】
記憶部107は、例えば本実施形態に係る情報処理装置10が備えるRAMやストレージ装置等により実現される。この記憶部107には、強度補正処理部103がスペクトルの強度補正処理に利用する各種のデータベースや事前知識に関する情報等が格納されている。また、記憶部107には、測定データ取得部101が取得した各種の測定データ等が格納されていてもよい。更に、記憶部107には、強度補正処理部103や表示制御部105が、各種の情報を表示画面に表示するために利用する各種のアプリケーションに対応する実行データが格納されてもよい。また、この記憶部107には、情報処理装置10が何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、又は、各種のデータベース等が適宜格納される。この記憶部107は、本実施形態に係る情報処理装置10が備える各処理部が、自由に読み書きできるように構成されている。
【0091】
○強度補正処理部の構成
続いて、図9を参照しながら、本実施形態に係る情報処理装置10が備える強度補正処理部103の構成について、更に詳細に説明する。
【0092】
本実施形態に係る強度補正処理部103は、先述のように、図7に示したように測定データを定式化したうえで各基底ベクトル及びノイズベクトルに対して事前分布を与え、各測定データにおける基底ベクトル及びノイズベクトルを推定する。その後、強度補正処理部103は、推定した基底ベクトル及びノイズベクトルを利用して、図7に示した式における強度係数を算出する。
【0093】
また、強度補正処理部103は、上述のような事前分布の初期値のもとで、各測定データにおける基底ベクトルやノイズベクトルの事後分布を算出し、得られた事後分布を利用して、事前分布を表すパラメータ類を更新する。これにより、強度補正処理に利用される基底ベクトルやノイズベクトルの事前分布は、測定データに対して相応しいものとなるように、随時修正されることとなる。
【0094】
ここで、強度補正処理部103は、着目するスペクトルにおいて典型的な事前分布に関するデータを予め記憶部107等にデータベースとして記憶しておき、その典型的なデータそのものを事前分布の初期値として利用することもできる。
【0095】
例えば、各種蛍光色素で染色された細胞の蛍光スペクトルに着目する場合、一部あるいは全ての蛍光色素による細胞やビーズの単染色サンプルを利用して蛍光スペクトルを測定し、得られた蛍光スペクトルを事前分布の初期値として利用することができる。また、細胞やビーズの単染色サンプルを混合したものを利用して測定した蛍光スペクトルや、細胞やビーズを多重染色したサンプルを利用して測定した蛍光スペクトルを、事前分布の初期値として利用することも可能である。強度補正処理部103は、このような事前分布の初期値についても、推定した基底ベクトルの事後分布を利用して更新し、測定データに対して相応しいものとなるように修正を行ってもよい。
【0096】
なお、単染色サンプルを混合したものを利用して、基底ベクトルの事前分布を得る際には、対応する蛍光色素それぞれの分光スペクトルにおいて観測ピークのオーバーラップが少なくなるように、組み合わせる蛍光色素を選択することが好ましい。
【0097】
また、強度補正処理部103は、蛍光スペクトルの測定に用いられる蛍光色素の基底ベクトルだけでなく、チップの蛍光スペクトルや細胞の自家蛍光スペクトルについても事前分布を規定し、その事前分布を更新していくこともできる。これにより、強度補正処理部103は、チップの蛍光スペクトルや細胞の自家蛍光スペクトルのような事前分布を学習処理により得ることが可能となる。
【0098】
例えば、強度補正処理部103は、チップに何も流さないで測定した蛍光スペクトル、又は、細胞を流すために用いられる液体のみを流して測定した蛍光スペクトルを利用して、これらの測定データにより相応しくなるように、規定した事前分布を修正していく。これにより、強度補正処理部103は、チップの蛍光スペクトルを表す事前分布を得ることができる。同様に、強度補正処理部103は、チップに無染色の細胞を流すことで測定した蛍光スペクトルを利用し、その測定によって得られた測定データに対して、より相応しくなるように、規定した事前分布を修正していく。これらの処理により、強度補正処理部103は、細胞の自家蛍光スペクトルを表す事前分布を得ることができる。
【0099】
ここで、強度補正処理部103は、各測定データにおける基底ベクトルを推定するのではなく、全ての測定データに共通して利用可能な基底ベクトルを同様にして推定し、この共通利用が可能な基底ベクトルを利用して、強度係数を算出してもよい。すなわち、強度補正処理部103は、全ての測定データに共通して利用可能な基底ベクトルを推定し、得られた基底ベクトルを表す各種のパラメータを各強度補正処理に転用することで、強度係数を算出してもよい。
【0100】
このような機能を有する強度補正処理部103の構成について、図9を参照しながら、具体的に説明する。
【0101】
なお、以下では、数式を用いながら強度補正処理部103について具体的に説明することとする。この際、あるイベントn(1≦n≦N)の測定データ(以下、測定ベクトルとも称する。)をyn∈RK(Kは、光検出器のチャンネル数)と表すこととする。また、因子i(1≦i≦M)に対応する半正値の基底ベクトルをφni(φni≧0)と表すこととし、因子iの半正値の係数(強度係数)をwni(wni≧0)と表すこととする。更に、基底ベクトルを並べた行列を、Φn=(φn1,・・・,φnM)と表すこととし、強度係数を並べたベクトルを、wn=(wn1,・・・,wnM)Tと表すこととする。
【0102】
本実施形態に係る強度補正処理部103は、図9に例示したように、パラメータ設定制御部111と、強度係数・基底ベクトル推定部113と、補正強度出力部115と、を含む。
【0103】
パラメータ設定制御部111は、例えば、CPU、DSP、ROM、RAM等により実現される。パラメータ設定制御部111は、基底ベクトルの事前分布を表すパラメータや、ノイズベクトルの分布を表すパラメータ等といった、強度補正処理に用いられる各種のパラメータを設定するとともに、後述する強度係数・基底ベクトル推定部113による処理結果に応じて、これらのパラメータの値を更新する。
【0104】
具体的には、パラメータ設定制御部111は、イベントnにおける基底ベクトルの事前分布φniを、下記の式101のように設定するとともに、ノイズベクトルεnの分布を、下記の式102のように設定する。
【0105】
【数8】
【0106】
ここで、上記の式101は、基底ベクトルφni≧0を満たす範囲で、平均パラメータμi、共分散パラメータΣiを持つ正規分布に比例する確率密度を持ち、それ以外の範囲では確率密度を持たない切断正規分布を表している。また、上記式102において、λ=(λ1,・・・,λK)Tは、各光検出器の分散を表している。上記式102は、各光検出器において独立の分散パラメータλkを設定することを表したものである。このようにして分散を考慮することにより、各光検出器の感度が異なる場合等に、感度の違いを考慮した強度補正処理を実現することが可能となる。
【0107】
パラメータ設定制御部111が基底ベクトル及びノイズベクトルを上記の式101及び式102のように設定することで、測定データに対応する測定ベクトルynは、下記の式103のように確率モデル化されることとなる。
【0108】
【数9】
【0109】
なお、パラメータ設定制御部111は、式101に基づき基底ベクトルの事前分布φniを設定するのではなく、先述のように、各種データベースに格納されている各種スペクトルデータや予め測定された各種スペクトルそのものを、基底ベクトルの事前分布φniとして利用してもよい。
【0110】
パラメータ設定制御部111は、後述する強度係数・基底ベクトル推定部113によって算出されたwnや、Φnを利用して、事前分布のパラメータ及びノイズベクトルを更新する。具体的には、パラメータ設定制御部111は、下記の式104に基づいてノイズベクトルを更新する。
【0111】
【数10】
【0112】
また、パラメータ設定制御部111は、第二種最尤推定等の方法により、事前分布のパラメータである平均パラメータμi及び共分散パラメータΣiを更新する。平均パラメータμi及び共分散パラメータΣiの更新方法は、適宜設定することが可能であるが、例えば、パラメータ設定制御部111は、下記の式105で表される{φni}n=1Nに関する期待値Eを最大化するように、平均パラメータμi及び共分散パラメータΣiを更新することができる。
【0113】
下記の式105に基づくパラメータの更新を実施する場合、全ての基底ベクトルφniが、パラメータμi,Σiに対して同様に反映されることとなる。しかしながら、後述するように、強度係数ベクトルwnは、wn≧0という制約のもとで推定処理が行われるため、強度係数wni=0となっている場合が多数生じうると考えられる。このような場合、基底ベクトルφniの平均は、μiのままとなる。また、強度係数wniの値が小さい場合にも、同様に基底ベクトルφniの平均は、μiのままとなる。
【0114】
従って、基底ベクトルφniを一様に更新処理に利用した場合、事前分布は、初期値に強く依存したものとなってしまう可能性がある。そこで、パラメータ設定制御部111は、下記の式106に示したように、強度係数wniで重み付けた期待値Eを最大化するように平均パラメータμi及び共分散パラメータΣiを更新してもよい。また、このような方法以外にも、パラメータ設定制御部111は、{wni}n=1Nの最大値に所定値を乗じたものを閾値として、閾値以上の強度係数を有するもののみを用いて更新処理を行ってもよい。
【0115】
【数11】
【0116】
推定部の一例である強度係数・基底ベクトル推定部113は、例えば、CPU、DSP、ROM、RAM等により実現される。強度係数・基底ベクトル推定部113は、測定データに対応する測定ベクトルynと、パラメータ設定制御部111により設定されたパラメータ(基底ベクトル及びノイズベクトルに関するパラメータ)とに基づき、測定ベクトルynに対応する尤もらしい強度係数及び基底ベクトルを推定する。
【0117】
また、強度係数・基底ベクトル推定部113は、強度係数及び基底ベクトルのパラメータの推定値が得られると、得られた推定値が収束しているか否かを判定する収束判定を実施する。得られた推定値が収束していないと判定された場合、強度係数・基底ベクトル推定部113は、得られた推定値をパラメータ設定制御部111に出力して、各種パラメータの更新を要請する。その上で、強度係数・基底ベクトル推定部113は、更新された各種パラメータを利用して、強度係数及び基底ベクトルを再度推定する。
【0118】
本実施形態に係る強度係数・基底ベクトル推定部113は、上記のような繰り返し演算を行うことで、測定ベクトルに対応する尤もらしい強度係数及び基底ベクトルを、精度良く推定することができる。
【0119】
また、得られた推定値が収束していると判定された場合、強度係数・基底ベクトル推定部113は、得られた強度係数の推定値を、後述する補正強度出力部115に出力する。
【0120】
強度係数・基底ベクトル推定部113が、強度係数や基底ベクトルを推定するために用いる方法は、事後確率最大化(Maximum A Posteriori:MAP)推定や、サンプリングに基づくベイズ推定や変分ベイズ推定等の各種ベイズ推定や、最尤推定等といった、公知の方法を利用することが可能である。なお、処理の過程において、事後確率最大化推定などにより推定された基底ベクトルをそのまま利用することも可能であるが、所定の正規化を施した基底ベクトルを利用する方法も考えられる。正規化の方法としては、例えば、蛍光スペクトルの最大値や積分値で正規化する方法、或いは、基底ベクトルのノルム(例えば、ユークリッドノルムなど)で正規化する方法などが考えられる。
【0121】
以下では、強度係数・基底ベクトル推定部113が、事後確率最大化推定を用いて推定処理を行う場合を例にとって、具体的に説明を行うこととする。
【0122】
まず、強度係数・基底ベクトル推定部113は、パラメータ設定制御部111により設定された{wn,Φn}n=1N及びλについて、事後確率最大化推定を行う。このとき、強度係数・基底ベクトル推定部113が考慮する同時分布は、下記の式111のように表される。
【0123】
【数12】
【0124】
ここで、上記式111の対数をとり、強度係数ベクトルwnに関する項に着目すると、下記の式112を得ることができる。ここで、wn≧0であるため、強度係数・基底ベクトル推定部113は、wn≧0という制約のもとで下記の式113で表される二次計画問題を解くことにより、上記式111及び式112を満足する最適な強度係数ベクトルwnを得ることができる。
【0125】
【数13】
【0126】
また、上記の式111の対数をとり、基底ベクトルの行列Φnに関する項に着目すると、下記の式114を得ることができる。ここで、下記の式114において、diag(λ)は、対角成分にλを持つ対角行列であり、diag(Σ1−1,・・・ΣM−1)は、対角ブロックにΣ1−1,・・・ΣM−1を持つブロック対角行列であり、IKは、K次元単位行列である。また、下記の式114において、vec(Φn)は、下記の式115で表されるベクトルであり、μは、下記の式116で表されるベクトルである。
【0127】
【数14】
【0128】
ここで、Φn≧0であるため、強度係数・基底ベクトル推定部113は、Φn≧0という制約のもとで下記の式117で表される二次計画問題を解くことにより、上記の式111及び式114を満足する最適な強度係数ベクトルΦnを得ることができる。
【0129】
【数15】
【0130】
出力部の一例である補正強度出力部115は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。補正強度出力部115は、強度係数・基底ベクトル推定部113から通知された、収束後の強度係数wniを、着目している測定データの強度補正処理後の強度(補正強度)として出力する。
【0131】
例えば、補正強度出力部115は、強度係数・基底ベクトル推定部113から通知された強度係数wniを表示制御部105に入力し、表示制御部105により表示画面を介して補正強度をユーザに出力させる。また、補正強度出力部115は、プリンタ等の出力装置を介して補正強度をユーザに対して出力してもよく、CD、DVD、Blu−rayディスクなどといった各種の記録媒体やUSBメモリ等に、補正強度を表すデータを出力してもよい。また、補正強度出力部115は、得られた補正強度を表すデータを、本実施形態に係る情報処理装置10が通信可能な外部の装置に対して、各種の通信網を介して出力してもよい。
【0132】
以上、図9を参照しながら、本実施形態に係る強度補正処理部103の構成について、詳細に説明した。
【0133】
なお、上記説明では、基底ベクトルやノイズベクトルの事前分布が正規分布とする場合を例に挙げたが、これらの事前分布を、Student−t分布やLaplace分布等、正規分布以外の分布としてもよい。
【0134】
また、細胞の蛍光スペクトルに対して上記のような強度補正処理を実施する場合、細胞の自家蛍光は細胞種毎に異なると考えられるため、細胞の自家蛍光に対応する基底ベクトルの事前分布を混合分布としてもよい。これにより、細胞種を推定しつつ細胞の自家蛍光を推定するといった推定処理を行うことが可能となる。
【0135】
ここで、細胞の自家蛍光に対応する基底ベクトルの事前分布に用いる混合分布は、無染色の細胞群を用いて測定した測定ベクトル群をEM(Expextation Maximization)アルゴリズムや変分ベイズ推定アルゴリズムやクラスタリングにより処理することで、生成することができる。
【0136】
また、上記説明では、多重染色された細胞の蛍光スペクトルを例にとって、本実施形態に係る強度補正処理について具体的に説明したが、本実施形態に係る強度補正処理は、多重染色された細胞の蛍光スペクトル以外にも適用することが可能である。
【0137】
例えば、複数の化合物が混合されていると思われる混合物に着目し、かかる混合物の発光スペクトル、吸収スペクトル、散乱スペクトル等を各化合物の公知のスペクトルデータベースを利用して強度補正する場合についても、本実施形態に係る強度補正方法を適用可能である。その場合、本実施形態に係る強度補正方法によって得られる補正強度は、対応する化合物がどのくらい含まれているかという定量分析結果に対応するものとなる。また、本実施形態に係る強度補正方法では、公知のスペクトルデータベース等を利用し実測スペクトルに基づいて基底ベクトルの推定を行うため、上記定量分析のみならず、どのような化合物が混合されているか(すなわち、混合されている化合物の定性分析)に関する知見も得ることが可能となる。
【0138】
以上、本実施形態に係る情報処理装置10の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0139】
なお、上述のような本実施形態に係る情報処理装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0140】
<情報処理方法の流れについて>
続いて、図10を参照しながら、本実施形態に係る情報処理方法(強度補正方法)の流れについて、その一例を簡単に説明する。図10は、本実施形態に係る情報処理方法の流れの一例を示した流れ図である。
【0141】
本実施形態に係る情報処理装置10の測定データ取得部101は、測定ユニット20により測定されたスペクトルのデータ(測定データ)を取得し(ステップS101)、得られた測定データを、強度補正処理部103に出力する。
【0142】
強度補正処理部103のパラメータ設定制御部111は、基底ベクトル及びノイズベクトルに関するパラメータの初期設定を実施し(ステップS103)、設定した各パラメータに関する情報を、強度係数・基底ベクトル推定部113に出力する。
【0143】
強度係数・基底ベクトル推定部113は、測定データ取得部101から通知された測定データ、及び、パラメータ設定制御部111により設定された各種パラメータを利用して、例えば上記式113により強度係数を推定する(ステップS105)。また、強度係数・基底ベクトル推定部113は、測定データ取得部101から通知された測定データ、及び、パラメータ設定制御部111により設定された各種パラメータを利用して、例えば上記式117により、基底ベクトルを推定する(ステップS107)。
【0144】
ここで、強度係数・基底ベクトル推定部113は、全ての測定値に対して処理を実施したか否かを判断する(ステップS109)。全ての測定値に対して処理を実施していない場合には、強度係数・基底ベクトル推定部113は、ステップS105に戻って処理を継続する。また、全ての測定値に対して処理を実施している場合には、強度係数・基底ベクトル推定部113は、得られた推定値が収束しているか否かを判定する(ステップS111)。
【0145】
推定値が収束していない場合、強度係数・基底ベクトル推定部113は、得られた推定値をパラメータ設定制御部111に出力する。パラメータ設定制御部111は、通知された推定値を利用して、基底ベクトルやノイズベクトルに関するパラメータを更新し(ステップS113)、更新後のパラメータを強度係数・基底ベクトル推定部113に出力する。強度係数・基底ベクトル推定部113は、更新後のパラメータを利用し、再びステップS105に戻って処理を継続する。
【0146】
また、推定値が収束した場合、強度係数・基底ベクトル推定部113は、得られた強度係数を、補正強度出力部115に出力する。補正強度出力部115は、強度係数・基底ベクトル推定部113から出力された強度係数を、補正処理後の強度(すなわち、真の強度)として出力する(ステップS115)。これにより、ユーザは、着目しているスペクトルに関する強度補正処理結果を把握することが可能となる。
【0147】
以上、図10を参照しながら、本実施形態に係る情報処理の流れの一例を簡単に説明した。
【0148】
<蛍光強度補正方法の流れの一例について>
続いて、図11〜図16を参照しながら、多重染色された細胞の蛍光スペクトルに対して蛍光強度の補正処理を行う場合を例にとって、その流れの一例を説明する。
【0149】
[一般的な蛍光強度補正処理の流れ]
まず、図11及び図12を参照しながら、本実施形態に係る強度補正方法を利用しない場合の蛍光強度の補正方法の流れについて、簡単に説明する。図11及び図12は、一般的な蛍光強度補正処理の流れについて示した流れ図である。
【0150】
まず、図11を参照しながら、単染色サンプルの蛍光スペクトル測定を行わない場合の流れについて説明する。
本実施形態に係る強度補正方法を利用しない場合、蛍光スペクトルの測定者は、測定を行う細胞に対して、どのような蛍光色素を用いて多重染色を行うかの実験計画を立案する(ステップS11)。その上で、蛍光スペクトルの測定者は、蛍光色素の蛍光特性に関するデータベースを参照しながらコンピュータ等の演算装置等を利用することにより、式11に示したような強度補正行列(コンペンセーションマトリクス)を生成する(ステップS13)。
【0151】
その後、蛍光スペクトルの測定者は、公知のフローサイトメーター等を利用して、着目している多重染色細胞の蛍光スペクトルを測定する(ステップS15)。その上で、蛍光スペクトルの測定者は、コンピュータ等の演算装置を利用して、生成した強度補正行列に基づく強度補正処理を実施し(ステップS17)、測定結果を獲得する(ステップS19)。
【0152】
続いて、図12を参照しながら、単染色サンプルの蛍光スペクトル測定を行う場合の流れについて説明する。
【0153】
本実施形態に係る強度補正方法を利用しない場合、蛍光スペクトルの測定者は、測定を行う細胞に対して、どのような蛍光色素を用いて多重染色を行うかの実験計画を立案する(ステップS21)。その上で、蛍光スペクトルの測定者は、単染色測定を行うためのサンプルの染色を行いつつ(ステップS23)、測定するサンプルについても染色を実施する(ステップS25)。
【0154】
その後、蛍光スペクトルの測定者は、ステップS23にて準備した単染色測定用サンプルを用いて、当該サンプルの蛍光スペクトルを測定する(ステップS27)。この際、本実施形態に係る強度補正方法を利用しない場合には、単染色測定用サンプルの測定数は、細胞の多重染色に用いる蛍光色素数と等しくなる。単染色測定用サンプルの測定が終了すると、蛍光スペクトルの測定者は、コンピュータ等の演算装置を利用して、式11に示したような強度補正行列を生成する(ステップS29)。
【0155】
以上説明したような前処理を行った後に、蛍光スペクトルの測定者は、公知のフローサイトメーター等を利用して、着目している多重染色細胞の蛍光スペクトルを測定する(ステップS31)。その上で、蛍光スペクトルの測定者は、コンピュータ等の演算装置を利用して、生成した強度補正行列に基づく強度補正処理を実施し(ステップS33)、測定結果を獲得する(ステップS35)。
【0156】
[本実施形態に係る強度補正方法を利用した蛍光強度補正処理の流れ]
次に、図13〜図16を参照しながら、本実施形態に係る強度補正方法を利用した蛍光強度補正処理の流れについて説明する。図13及び図14は、本実施形態に係る強度補正方法を利用した蛍光強度補正処理の流れについて示した流れ図である。
【0157】
まず、図13を参照しながら、単染色サンプルの蛍光スペクトル測定を行わない場合の流れについて説明する。
【0158】
本実施形態に係る強度補正方法を利用する場合、蛍光スペクトルの測定者は、まず、測定を行う細胞に対して、どのような蛍光色素を用いて多重染色を行うかの実験計画を立案し(ステップS151)、測定を行う細胞を多重染色する。その上で、蛍光スペクトルの測定者は、図6A及び図6Bに示したようなフローサイトメーターを利用して、多重染色した細胞の蛍光スペクトルを測定する(ステップS153)。
【0159】
蛍光スペクトルの測定者は、図6A及び図6Bに示したようなフローサイトメーターから出力される測定データを、図8及び図9に示したような本実施形態に係る情報処理装置10に伝送する。本実施形態に係る情報処理装置10は、蛍光色素の蛍光特性に関するデータベース等を利用しながら、先だって説明したような確率モデルに基づく強度補正処理を実施し(ステップS155)、得られた強度補正処理結果を出力する。これにより、蛍光スペクトルの測定者は、各蛍光色素に由来する蛍光強度の値(すなわち、蛍光スペクトルの測定結果)を獲得することができる(ステップS157)。
【0160】
本実施形態に係る強度補正方法は、フローサイトメーター等の測定ユニットにより測定された測定結果を利用して、各蛍光色素を単独で用いた場合の蛍光スペクトルに相当する基底ベクトルを修正していく。そのため、本実施形態に係る強度補正方法を利用することで、着目している細胞等のサンプルを単染色した場合の情報が自動的に反映された強度補正処理が行われることとなり、算出される補正強度の精度を向上させることができる。
【0161】
続いて、図14を参照しながら、単染色サンプルの蛍光スペクトル測定を行う場合の流れについて説明する。
【0162】
本実施形態に係る強度補正方法を利用する場合、蛍光スペクトルの測定者は、まず、測定を行う細胞に対して、どのような蛍光色素を用いて多重染色を行うかの実験計画を立案する(ステップS161)。その上で、蛍光スペクトルの測定者は、単染色測定を行うためのサンプルの染色を行った後に得られた単染色サンプルのいくつかを混合することにより混合サンプルを準備しつつ(ステップS163)、測定するサンプルについても多重染色を実施する(ステップS165)。
【0163】
その後、蛍光スペクトルの測定者は、ステップS163にて準備した単染色測定用サンプルを用いて、図6A及び図6Bに示したようなフローサイトメーターにより、当該サンプルの蛍光スペクトルを測定する(ステップS167)。この際、本実施形態に係る強度補正方法を利用する場合には、単染色サンプルのいくつかを混合した混合サンプルを利用することができるため、単染色測定用サンプルの測定数を細胞の多重染色に用いる蛍光色素数未満とすることができる。
【0164】
単染色測定用サンプルの測定が終了すると、蛍光スペクトルの測定者は、得られた単染色測定用サンプルの測定結果を、図8及び図9に示したような本実施形態に係る情報処理装置10に伝送する。本実施形態に係る情報処理装置10は、サンプルの測定に先立ち、入力された測定結果を利用して、事前分布パラメータの内容を着目する細胞に適するように修正する(ステップS169)。
【0165】
以上説明したような前処理を行った後に、蛍光スペクトルの測定者は、図6A及び図6Bに示したようなフローサイトメーター等を利用して、着目している多重染色細胞の蛍光スペクトルを測定する(ステップS171)。蛍光スペクトルの測定者は、測定に用いたフローサイトメーターから出力される測定データを、図8及び図9に示したような本実施形態に係る情報処理装置10に伝送する。
【0166】
本実施形態に係る情報処理装置10は、修正された事前分布パラメータ及び測定データを利用して、先だって説明したような確率モデルに基づく強度補正処理を実施し(ステップS173)、得られた強度補正処理結果を出力する。これにより、蛍光スペクトルの測定者は、各蛍光色素に由来する蛍光強度の値(すなわち、蛍光スペクトルの測定結果)を獲得することができる(ステップS175)。
【0167】
図15及び図16は、本実施形態に係る情報処理方法を利用した基底ベクトルの生成処理について説明するための説明図である。
図15に示したような、488nmのレーザ光により励起される7種類の蛍光色素、及び、640nmのレーザ光により励起される3種類の蛍光色素の計10種類の蛍光色素を用いて、サンプルを多重染色する場合を考える。特に、488nmのレーザ光により励起される7種類の蛍光色素は、図15から明らかなように、蛍光特性を示すピークのオーバーラップが多数存在していることがわかる。
【0168】
本実施形態に係る強度補正方法を利用しない場合には、このような10種類の蛍光色素の基底ベクトルを生成するためには、各蛍光色素を用いた単染色サンプル10種類を準備して、10回の測定を行う必要があった。しかしながら、本実施形態に係る強度補正方法を利用することで、測定される蛍光スペクトルにおいてピークのオーバーラップが少なくなるように組み合わされた混合サンプルを利用して、単染色スペクトルの測定を行うことができる。
【0169】
具体的には、例えば図16に示したように、ピーク波長が互いにオーバーラップしないような蛍光色素の組み合わせを考慮したうえで3種類の混合サンプルを準備し、計3回の測定を行うことで、基底ベクトルとして用いられる事前分布を実際の測定スペクトルから生成することができる。このように、本実施形態に係る強度補正方法を利用することで、単染色サンプルの測定結果を得るために要する時間やコストを、大幅に削減することができる。
【0170】
以上、図13〜図16を参照しながら、本実施形態に係る強度補正方法を利用した蛍光強度補正処理の流れについて、簡単に説明した。
【0171】
(ハードウェア構成について)
次に、図17を参照しながら、本開示の実施形態に係る情報処理装置10のハードウェア構成について、詳細に説明する。図17は、本開示の実施形態に係る情報処理装置10のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【0172】
情報処理装置10は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、情報処理装置10は、更に、ホストバス907と、ブリッジ909と、外部バス911と、インターフェース913と、入力装置915と、出力装置917と、ストレージ装置919と、ドライブ921と、接続ポート923と、通信装置925とを備える。
【0173】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置919、またはリムーバブル記録媒体927に記録された各種プログラムに従って、情報処理装置10内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるホストバス907により相互に接続されている。
【0174】
ホストバス907は、ブリッジ909を介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バス911に接続されている。
【0175】
入力装置915は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置915は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、情報処理装置10の操作に対応した携帯電話やPDA等の外部接続機器929であってもよい。さらに、入力装置915は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。情報処理装置10のユーザは、この入力装置915を操作することにより、情報処理装置10に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0176】
出力装置917は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置917は、例えば、情報処理装置10が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、情報処理装置10が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0177】
ストレージ装置919は、情報処理装置10の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置919は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置919は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0178】
ドライブ921は、記録媒体用リーダライタであり、情報処理装置10に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ921は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体927に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ921は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体927に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体927は、例えば、DVDメディア、HD−DVDメディア、Blu−rayメディア等である。また、リムーバブル記録媒体927は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体927は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0179】
接続ポート923は、機器を情報処理装置10に直接接続するためのポートである。接続ポート923の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート等がある。接続ポート923の別の例として、RS−232Cポート、光オーディオ端子、HDMI(High−Definition Multimedia Interface)ポート等がある。この接続ポート923に外部接続機器929を接続することで、情報処理装置10は、外部接続機器929から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器929に各種のデータを提供したりする。
【0180】
通信装置925は、例えば、通信網931に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置925は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置925は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置925は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置925に接続される通信網931は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
【0181】
以上、本開示の実施形態に係る情報処理装置10の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【実施例】
【0182】
以下、実施例及び比較例を示しながら、本開示の技術的思想について具体的に説明する。しかしながら、本開示の技術的思想が下記の実施例に限定されるわけではない。
【0183】
以下に示す実施例では、相異なる二人から採取した血液を利用して混合サンプルを製造し、これら混合サンプルをFITC、Alexa532及びPEの3種類の蛍光色素で多重染色したうえで測定した蛍光スペクトルのデータを利用して、本開示の実施形態に係る情報処理方法(強度補正方法)の有用性について検討を行った。
【0184】
図18は、混合サンプルの染色に利用した蛍光色素の蛍光特性を示したグラフ図である。図18に示した蛍光特性は、図6A及び図6Bに示したフローサイトメーターを用いることで測定したものである。ここで、図18に示したグラフ図の横軸は、測定に利用したフローサイトメーターに実装されている光電子増倍管に付けられた番号に対応しており、蛍光スペクトルの波長に対応するものである。また、グラフ図の縦軸は、蛍光強度を表している。
【0185】
ここで、図18に示した結果から明らかなように、FITC、Alexa532、PEという3種類の蛍光色素は、それぞれの蛍光特性を示すピークが互いにオーバーラップしていることがわかる。図18のグラフ図より、このような3種類の蛍光色素の組み合わせは、真の蛍光強度の算出が困難となる蛍光色素の組み合わせであるといえる。
【0186】
以下では、細胞を単染色することで測定した基底ベクトルを用いた場合と、ラテックスビーズを単染色することで測定した基底ベクトルを用いた場合とを比較することで、本開示の実施形態に係る情報処理方法(強度補正方法)の有用性について検討を行った。なお、以下では、細胞を単染色することで測定した基底ベクトルを、細胞単染色基底ベクトル又は細胞単染色事前分布と称することとし、ラテックスビーズを単染色することで測定した基底ベクトルを、ビーズ単染色基底ベクトル又はビーズ単染色事前分布と称することとする。
【0187】
図19A〜図19Cは、上述のような混合サンプルを多重染色したうえで測定した蛍光スペクトルの測定結果を、それぞれの基底ベクトルを利用してフィッティングした様子を示している。
【0188】
図19Aは、ビーズ単染色基底ベクトルを利用して、図3及び図4で例示したような制約付き最小二乗法により測定データをフィッティングした様子を示したものである。図19Aを参照すると明らかなように、最小二乗法により得られた近似曲線(図中のEstimateで表される曲線)は、実際に測定された蛍光スペクトルを再現できていないことがわかる。また、近似曲線を算出するために用いられた基底ベクトルについて着目してみると、FITCに関する基底ベクトル及びPEに関する基底ベクトルに加えて、Alexa532に関する基底ベクトルが利用されていることがわかる。
【0189】
図19Bは、細胞単染色基底ベクトルを利用して、制約付き最小二乗法により測定データをフィッティングした様子を示したものである。図19Bを参照すると、最小二乗法により得られた近似曲線(図中のEstimateで表される曲線)は、実際に測定された蛍光スペクトルを再現できていることがわかる。また、近似曲線を算出するために用いられた基底ベクトルについて着目してみると、FITCに関する基底ベクトル及びPEに関する基底ベクトルが主に使用されており、Alexa532に関する基底ベクトルは利用されていないことがわかる。
【0190】
図19A及び図19Bを比較することで明らかなように、制約付き最小二乗法により測定データをフィッティングするためには、ビーズ単染色基底ベクトルではなく、基底ベクトルの生成に時間やコストを要する細胞単染色基底ベクトルの利用が求められる。
【0191】
また、図19Cは、ビーズ単染色基底ベクトルを利用して、本開示の実施形態に係る蛍光強度補正方法により測定データをフィッティングした様子を示したものである。図19Cを参照すると、本提案法により得られた近似曲線(図中のEstimateで表される曲線)は、実際に測定された蛍光スペクトルを再現できていることがわかる。また、近似曲線を算出するために用いられた基底ベクトルについて着目してみると、FITCに関する基底ベクトル及びPEに関する基底ベクトルが主に使用されており、Alexa532に関する基底ベクトルは利用されていないことがわかる。
【0192】
このように、本提案法では、細胞単染色基底ベクトルよりも精度が低い可能性のあるビーズ単染色基底ベクトルを用いた場合であっても、細胞単染色基底ベクトルを用いた場合と同様の結果を得ることができる。
【0193】
ここで、上記のようなフィッティング処理に伴い、着目している蛍光色素の基底ベクトルがどのように変化したかという知見について、蛍光色素FITC及びPEを例にとって、図20A及び図20Bに示した。図20Aは、蛍光色素FITCの基底ベクトルの変化を示したグラフ図であり、図20Bは、蛍光色素PEの基底ベクトルの変化を示したグラフ図である。
【0194】
図20A及び図20Bにおいて、△で示したプロットは、細胞単染色基底ベクトルの平均を示したものであり、◆で示したプロットは、ビーズ単染色基底ベクトルの平均を示したものであり、□で示したプロットは、本提案法により推定された基底ベクトル(すなわち、事前分布)の平均を示している。本提案法は、事前分布を表すパラメータが測定データ等に基づいて随時修正されていくため、□で示したプロットは、測定データに適合するように事前分布が学習されていった結果と見ることができる。
【0195】
図20A及び図20Bの双方から明らかなように、本提案法により測定データを学習した事前分布の平均は、細胞単染色基底ベクトルに非常に類似した分布となっていることがわかる。この結果からも明らかなように、本提案法では、測定データに適合するように事前分布(基底ベクトル)が学習されていくため、ビーズ単染色基底ベクトルを初期値として強度補正処理を開始したとしても、細胞単染色基底ベクトルと非常に類似した結果を得ることができた。
【0196】
続いて、図21を参照しながら、細胞単染色事前分布を利用し、制約付き最小二乗法及び本提案法により生成された二次元相関図について説明する。図21は、上記混合サンプルについて、細胞単染色事前分布を利用し、制約付き最小二乗法及び本提案法により生成された二次元相関図を示したグラフ図である。ここで、図21に示した二次元相関図は、3種類の蛍光色素(FITC、Alexa532、PE)から選択された2種類の蛍光色素の蛍光強度を、対数目盛でプロットしたものである。
【0197】
図21を参照すると、FITCの蛍光強度とPEの蛍光強度とをプロットした二次元相関図、及び、FITCの蛍光強度とAlexa532の蛍光強度とをプロットした二次元相関図については、制約付き最小二乗法と本提案法とは、非常に類似した集団(ポピュレーション)が表示されていることがわかる。しかしながら、PEの蛍光強度とAlexa532の蛍光強度とをプロットした二次元相関図(右端に示した相関図)では、図中点線で囲んだ領域について、制約付き最小二乗法と本提案法の双方では、表示されている集団の挙動が異なっていることがわかる。より詳細には、制約付き最小二乗法を利用して生成された二次元相関図では、図中点線で囲んだ領域は、図中矢印で示した部分で繋がっている大きな一つの集団のように見受けられる。また、本提案法を利用して生成された二次元相関図では、図中点線で囲んだ領域は、2つの集団が存在している。
【0198】
図21(a)の矢印で示した部分のフィッティング結果を図22Aに示し、図21(b)の矢印で示した部分のフィッティング結果を図22Bに示した。図22Aを見ると、該当部分の測定データは、蛍光色素PE及びAlexa532の基底ベクトルを用いてフィッティングされていることがわかる。このように、蛍光色素PEの基底ベクトルを用いたフィッティングの精度に余地があるために、Alexa532の蛍光強度がPEの蛍光強度に漏れこんでいるような結果となってしまい、図21(a)に示したような大きな一つの集団となったと考えられる。
【0199】
また、図22Bに示した本提案法によるフィッティング結果では、蛍光色素PEの基底ベクトルを推定する処理が実施されているため、該当部分の測定データは、蛍光色素PEの基底ベクトルを用いて(Alexa532の基底ベクトルを用いずに)フィッティングされている。これより、本提案法では、制約付き最小二乗法で生じた蛍光強度の漏れこみが適切に補正され、二次元相関図において、図21(b)に示したような2つの集団が図示されることとなったことが示唆される。
【0200】
続いて、図23を参照しながら、ビーズ単染色事前分布を利用し、制約付き最小二乗法及び本提案法により生成された二次元相関図について説明する。図23は、上記混合サンプルについて、ビーズ単染色事前分布を利用し、制約付き最小二乗法及び本提案法により生成された二次元相関図を示したグラフ図である。ここで、図23に示した二次元相関図は、3種類の蛍光色素(FITC、Alexa532、PE)から選択された2種類の蛍光色素の蛍光強度を、対数目盛でプロットしたものである。
【0201】
図23では、各二次元相関図を、プロットの分布から推測される複数の集団に区分しており、各集団の境界を実線で示している。また、各領域に記載されている数字は、各領域内に含まれるプロットの個数を示しており、カッコ内に記載されている数字は、細胞単染色事前分布を用いた場合のプロット数との差を示している。
【0202】
図23の右端に示した二次元相関図から明らかなように、ビーズ単染色事前分布を用いた場合であっても、本提案法では、制約付き最小二乗法で生じた蛍光強度の漏れこみが適切に補正されていることがわかる。また、各3種類の二次元相関図を比較すると、制約付き最小二乗法による二次元相関図では、細胞単染色事前分布とのプロット数の差が大きいのに対し、本提案法では、細胞単染色事前分布とのプロット数の差が非常に小さいことがわかる。これらの結果から、本提案法による強度補正方法を用い、ビーズ単染色事前分布を出発点として測定データによる学習を行うことで、細胞単染色事前分布と同等の結果を得ることができることを示している。
【0203】
図24は、測定データの一部を利用した事前分布の学習結果について示した説明図である。図24に示した例では、二次元相関図の右上に存在する集団に対応する測定データのみを用いて、事前分布を適切に学習できるか否かを検証した結果を示している。図24に示したグラフ図から明らかなように、点線で囲った領域のデータのみから学習した事前分布の平均は、ビーズ単染色事前分布の平均よりも細胞単染色事前分布の平均に類似している。この結果から、本提案法を用いることで、測定データの一部を利用した学習であっても、事前分布を適切に学習できることが明らかとなった。
【0204】
以上、図18〜図24を参照しながら、本開示の実施形態に係る強度補正方法を用いた実施例について、具体的に説明した。上記説明から明らかなように、本開示の実施形態に係る強度補正方法では、測定ごとの各蛍光色素の蛍光特性を推定するため、制約付き最小二乗法による蛍光補正で問題となった蛍光強度の漏れこみを補正することができた。また、本開示の実施形態に係る強度補正方法では、各蛍光色素の蛍光特性に関する事前知識(例えば、事前の測定によって得られた各蛍光色素の測定データ等)をサンプルの測定データにあわせて修正することができるため、精度に余地のある事前知識を初期値とした場合であっても、精度の良い強度補正結果を得ることが可能となる。
【0205】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0206】
なお、本稿で開示した技術は、例えば、下記のように表現することができる。
【0207】
(1)
光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定部を備える、
情報処理装置。
【0208】
(2)
前記推定部は、前記結合係数及び当該結合係数に基づく前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布の推定値に対し、当該推定値が収束したか否かを判定し、
前記情報処理装置は、前記推定値が収束していないと判定された場合、前記推定値を利用して前記所定の確率分布を規定するパラメータを更新するパラメータ設定制御部をさらに備え、
前記推定部は、更新後の前記所定の確率分布を規定するパラメータを利用して、前記結合係数及び前記所定の確率分布を規定するパラメータを再び推定する、
上記(1)に記載の情報処理装置。
【0209】
(3)
前記推定部は、前記測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布に影響する、前記基準の被測定物から得られる光の成分以外の要素が他の所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定し、
前記パラメータ設定制御部は、前記所定の確率分布を規定するパラメータを更新する際、前記推定値を利用して前記他の所定の確率分布を規定するパラメータを更新する、
上記(2)に記載の情報処理装置。
【0210】
(4)
前記推定部は、前記基準の被測定物から予め得ておいた光の強度分布を前記所定の確率分布に基づいて前記基準の被測定物から得られる光の強度分布を推定する際に用いる事前知識として利用する、
上記(2)に記載の情報処理装置。
【0211】
(5)
前記パラメータ設定制御部は、複数の前記測定対象の被測定物に対する光の強度分布の測定を実行する場合であっても、前記推定部により算出された前記推定値を利用して更新した前記所定の確率分布を規定するパラメータを共通して利用する、
上記(2)に記載の情報処理装置。
【0212】
(6)
前記測定対象の被測定物は、複数の蛍光色素を用いて多重染色された微小粒子であり、
前記物質は、前記微小粒子の染色に利用される蛍光色素である、
上記(2)に記載の情報処理装置。
【0213】
(7)
光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定するステップを含む、
情報処理方法。
【0214】
(8)
コンピュータに、
光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定機能を実現させるためのプログラム。
【0215】
(9)
複数の蛍光色素により多重染色された微小粒子に対して所定波長の光を照射して、前記微小粒子の蛍光スペクトルを測定することと、
測定された前記微小粒子の蛍光スペクトルの蛍光強度を、前記蛍光色素単独の蛍光特性に関する情報を利用して補正することと、
を含み、
前記蛍光強度を補正する際には、
前記微小粒子の蛍光スペクトルを、それぞれの前記蛍光色素の蛍光スペクトルに所定の重み付け係数を乗じたものの線形和として取り扱い、前記蛍光色素単独の蛍光特性に関する情報を利用して前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布を表すパラメータが設定され、
前記微小粒子の蛍光スペクトルと、設定された前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布と、に基づいて、当該微小粒子の蛍光スペクトルに対応する尤もらしい前記重み付け係数及び前記強度分布を表すパラメータが推定され、
推定された前記重み付け係数が、それぞれの前記蛍光色素に由来する蛍光強度とされる、蛍光スペクトルの強度補正方法。
【0216】
(10)
前記微小粒子の蛍光スペクトルの測定に先立ち、前記複数の蛍光色素は蛍光ピーク波長が互いに重畳しないように組み合わされた複数のグループに分類され、前記微小粒子は当該グループに含まれる前記蛍光色素でそれぞれ単染色され、単染色された前記微小粒子を混合した混合サンプルが前記グループごとに調整され、調整された前記混合サンプルを利用して前記混合サンプルの蛍光スペクトルがそれぞれ測定され、
前記蛍光強度を補正する際には、それぞれの前記混合サンプルの蛍光スペクトルを利用して、前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布を表すパラメータが設定される、上記(9)に記載の蛍光スペクトルの強度補正方法。
【符号の説明】
【0217】
1 情報処理システム
10 情報処理装置
20 測定ユニット
101 測定データ取得部
103 強度補正処理部
105 表示制御部
107 記憶部
111 パラメータ設定制御部
113 強度係数・基底ベクトル推定部
115 補正強度出力部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定部を備える、
情報処理装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記結合係数及び当該結合係数に基づく前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布の推定値に対し、当該推定値が収束したか否かを判定し、
前記情報処理装置は、前記推定値が収束していないと判定された場合、前記推定値を利用して前記所定の確率分布を規定するパラメータを更新するパラメータ設定制御部をさらに備え、
前記推定部は、更新後の前記所定の確率分布を規定するパラメータを利用して、前記結合係数及び前記所定の確率分布を規定するパラメータを再び推定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布に影響する、前記基準の被測定物から得られる光の成分以外の要素が他の所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定し、
前記パラメータ設定制御部は、前記所定の確率分布を規定するパラメータを更新する際、前記推定値を利用して前記他の所定の確率分布を規定するパラメータを更新する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記基準の被測定物から予め得ておいた光の強度分布を前記所定の確率分布に基づいて前記基準の被測定物から得られる光の強度分布を推定する際に用いる事前知識として利用する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記パラメータ設定制御部は、複数の前記測定対象の被測定物に対する光の強度分布の測定を実行する場合であっても、前記推定部により算出された前記推定値を利用して更新した前記所定の確率分布を規定するパラメータを共通して利用する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記測定対象の被測定物は、複数の蛍光色素を用いて多重染色された微小粒子であり、
前記物質は、前記微小粒子の染色に利用される蛍光色素である、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項7】
光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定するステップを含む、
情報処理方法。
【請求項8】
コンピュータに、
光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定機能を実現させるためのプログラム。
【請求項9】
複数の蛍光色素により多重染色された微小粒子に対して所定波長の光を照射して、前記微小粒子の蛍光スペクトルを測定することと、
測定された前記微小粒子の蛍光スペクトルの蛍光強度を、前記蛍光色素単独の蛍光特性に関する情報を利用して補正することと、
を含み、
前記蛍光強度を補正する際には、
前記微小粒子の蛍光スペクトルを、それぞれの前記蛍光色素の蛍光スペクトルに所定の重み付け係数を乗じたものの線形和として取り扱い、前記蛍光色素単独の蛍光特性に関する情報を利用して前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布を表すパラメータが設定され、
前記微小粒子の蛍光スペクトルと、設定された前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布と、に基づいて、当該微小粒子の蛍光スペクトルに対応する尤もらしい前記重み付け係数及び前記強度分布を表すパラメータが推定され、
推定された前記重み付け係数が、それぞれの前記蛍光色素に由来する蛍光強度とされる、
蛍光スペクトルの強度補正方法。
【請求項10】
前記微小粒子の蛍光スペクトルの測定に先立ち、前記複数の蛍光色素は蛍光ピーク波長が互いに重畳しないように組み合わされた複数のグループに分類され、前記微小粒子は当該グループに含まれる前記蛍光色素でそれぞれ単染色され、単染色された前記微小粒子を混合した混合サンプルが前記グループごとに調整され、調整された前記混合サンプルを利用して前記混合サンプルの蛍光スペクトルがそれぞれ測定され、
前記蛍光強度を補正する際には、それぞれの前記混合サンプルの蛍光スペクトルを利用して、前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布を表すパラメータが設定される、
請求項9に記載の蛍光スペクトルの強度補正方法。
【請求項1】
光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定部を備える、
情報処理装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記結合係数及び当該結合係数に基づく前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布の推定値に対し、当該推定値が収束したか否かを判定し、
前記情報処理装置は、前記推定値が収束していないと判定された場合、前記推定値を利用して前記所定の確率分布を規定するパラメータを更新するパラメータ設定制御部をさらに備え、
前記推定部は、更新後の前記所定の確率分布を規定するパラメータを利用して、前記結合係数及び前記所定の確率分布を規定するパラメータを再び推定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布に影響する、前記基準の被測定物から得られる光の成分以外の要素が他の所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定し、
前記パラメータ設定制御部は、前記所定の確率分布を規定するパラメータを更新する際、前記推定値を利用して前記他の所定の確率分布を規定するパラメータを更新する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記基準の被測定物から予め得ておいた光の強度分布を前記所定の確率分布に基づいて前記基準の被測定物から得られる光の強度分布を推定する際に用いる事前知識として利用する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記パラメータ設定制御部は、複数の前記測定対象の被測定物に対する光の強度分布の測定を実行する場合であっても、前記推定部により算出された前記推定値を利用して更新した前記所定の確率分布を規定するパラメータを共通して利用する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記測定対象の被測定物は、複数の蛍光色素を用いて多重染色された微小粒子であり、
前記物質は、前記微小粒子の染色に利用される蛍光色素である、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項7】
光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定するステップを含む、
情報処理方法。
【請求項8】
コンピュータに、
光に対する応答特性が互いに異なる複数の物質を表面及び/又は内部に有する測定対象の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布を、前記各物質を単独で有する基準の被測定物に光を照射して得られる光の強度分布の線形結合で表現し、前記基準の被測定物から得られる光の強度分布が所定の確率分布に従うものとしてモデル化し、前記測定対象の被測定物から得られた光の強度分布から、前記線形結合の結合係数を推定する推定機能を実現させるためのプログラム。
【請求項9】
複数の蛍光色素により多重染色された微小粒子に対して所定波長の光を照射して、前記微小粒子の蛍光スペクトルを測定することと、
測定された前記微小粒子の蛍光スペクトルの蛍光強度を、前記蛍光色素単独の蛍光特性に関する情報を利用して補正することと、
を含み、
前記蛍光強度を補正する際には、
前記微小粒子の蛍光スペクトルを、それぞれの前記蛍光色素の蛍光スペクトルに所定の重み付け係数を乗じたものの線形和として取り扱い、前記蛍光色素単独の蛍光特性に関する情報を利用して前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布を表すパラメータが設定され、
前記微小粒子の蛍光スペクトルと、設定された前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布と、に基づいて、当該微小粒子の蛍光スペクトルに対応する尤もらしい前記重み付け係数及び前記強度分布を表すパラメータが推定され、
推定された前記重み付け係数が、それぞれの前記蛍光色素に由来する蛍光強度とされる、
蛍光スペクトルの強度補正方法。
【請求項10】
前記微小粒子の蛍光スペクトルの測定に先立ち、前記複数の蛍光色素は蛍光ピーク波長が互いに重畳しないように組み合わされた複数のグループに分類され、前記微小粒子は当該グループに含まれる前記蛍光色素でそれぞれ単染色され、単染色された前記微小粒子を混合した混合サンプルが前記グループごとに調整され、調整された前記混合サンプルを利用して前記混合サンプルの蛍光スペクトルがそれぞれ測定され、
前記蛍光強度を補正する際には、それぞれの前記混合サンプルの蛍光スペクトルを利用して、前記蛍光色素の蛍光スペクトルに対応する強度分布を表すパラメータが設定される、
請求項9に記載の蛍光スペクトルの強度補正方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図20A】
【図20B】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図20A】
【図20B】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2013−24792(P2013−24792A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161758(P2011−161758)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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