説明

情報処理装置、情報処理方法

【課題】 より迅速且つ正確にユーザの生体情報を得るための技術を提供すること。更に、日常の環境の変化などの外乱の影響を極力含まないユーザの生体情報を正確に得るための技術を提供すること。
【解決手段】 ユーザがマウス111を操作していない期間中にセンサから受信した測定データ群に基づいて、この期間中におけるマウス111の面上の代表的な測定値を示す代表測定データを求める。ユーザがマウス111を操作してる期間中にセンサから受信した測定データを記録する毎に、記録する測定データが示す測定値から代表測定データが示す値を引いた測定値を求める。この求めた測定値から、センサの測定特性に基づいて得られる予測平衡測定値を求め、求めた予測平衡測定値のデータを外部記憶装置107に記録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの生体状態を判断する為に用いるデータの取得技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、職場環境には、従業員のストレスを増大させる要因が増えている。従って、個人レベルはもとより、職場レベルのストレス状態を測定、分析し、その結果を個人、職場にフィードバックすることが重要である。そのために従来、アンケートなどによる産業心理的分析が行われていた。しかし、分析の結果を得るまでには数週間を要してしまうし、データベースに蓄積するデータ量も少ないものとなってしまう。
【0003】
また、心身が不調であるとの自覚がある個人に対しては特別な医療検査機により血圧、脈拍、体温等の測定を別途行っていたが、係る測定は大掛かりであり、診断までに時間も要する。
【0004】
従って日常の就労状態において、過度のストレス状態の個人を早期に発見し、注意を促すと共に、職場全体のストレス状態を把握し職場単位のストレス環境を軽減することが望まれている。
【0005】
従来、そのための方法として、生体情報を身近な装置で取得して生体の状態を推察し、ストレス状態を分析することが考えられていた。例えば、コンピュータを操作する操作用ポインテイングデバイス(マウス)に生体の脈や体温を検出するセンサを設け、センサからの検出データをもとに健康状態を推察するものが提案されていた。これはポインテイングデバイスのセンサから得られた生体の検出データを過去の値と単に比較してそれが異常な場合には警告を発するようにしたものである
【特許文献1】特開平10−312241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、生体の動きや日常の環境変化に応じて生体をとりまく状況が変化するので、センサから取得した生体情報には、生体とは直接関係のない情報が多数含まれる可能性が高く、この生体情報は正確ではない。従って、正確に生体情報を検出するには、環境等が変化しない場所や生体が安定した状況のもとで生体情報を検出する必要があるが、このような検出は現実的には困難である。
【0007】
また、ポインティングデバイスにセンサ(脈流、体温、発汗等を測定するセンサ)を設け、それぞれのセンサを日常的に動作させる場合には以下のような問題が生じる。
【0008】
体温や発汗(相対湿度)を測定する場合、その測定値が安定状態に達するまでに数秒の時間を要する。また、測定値のサンプリングの開始時間を同定することは困難であると共に、サンプリング間隔を一定にしてもサンプリング期間を同定することは困難である。
【0009】
また、センサへの接触、非接触を繰り返すと、センサからの測定値が安定するまでの温度や湿度等の変化曲線が繰り返されることになるが、接触開始時の値がそれぞれ異なるので、測定値の信頼度が低くなる。
【0010】
本発明は以上の問題に鑑みてなされたものであり、より迅速且つ正確にユーザの生体情報を得るための技術を提供することを目的とする。
【0011】
更に、本発明は、日常の環境の変化などの外乱の影響を極力含まないユーザの生体情報を正確に得るための技術を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的を達成するために、例えば、本発明の情報処理装置は以下の構成を備える。
【0013】
即ち、ユーザの生体状態を検出する為にポインテイングデバイスに設けられたセンサから送信されたデータを受信可能な情報処理装置であって、
前記ユーザが前記ポインティングデバイスを操作している期間中に前記センサから受信した測定データをメモリに記録する第1の記録手段と、
前記第1の記録手段によって記録された測定データと、前記センサの測定特性と、に基づいて、前記センサの平衡測定時の予測測定データを求め、当該求めた予測測定データを前記メモリに記録する第2の記録手段と
を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の目的を達成するために、例えば、本発明の情報処理方法は以下の構成を備える。
【0015】
即ち、ユーザの生体状態を検出する為にポインテイングデバイスに設けられたセンサから送信されたデータを受信可能な情報処理装置が行う情報処理方法であって、
前記ユーザが前記ポインティングデバイスを操作している期間中に前記センサから受信した測定データをメモリに記録する第1の記録工程と、
前記第1の記録工程で記録された測定データと、前記センサの測定特性と、に基づいて、前記センサの平衡測定時の予測測定データを求め、当該求めた予測測定データを前記メモリに記録する第2の記録工程と
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の構成によれば、より迅速且つ正確にユーザの生体情報を得ることができる。更に、日常の環境の変化などの外乱の影響を極力含まないユーザの生体情報を正確に得ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下添付図面を参照して、本発明をその好適な実施形態に従って詳細に説明する。
【0018】
[第1の実施形態]
図1は、本実施形態に係るシステムのハードウェア構成を示すブロック図である。図1に示す如く、本実施形態に係るシステムは、コンピュータ100、キーボード110、マウス111、センサ群112、センサ信号処理装置113、により構成されている。以下、これらの各装置について説明する。
【0019】
先ず、コンピュータ100、キーボード110、マウス111について説明する。コンピュータ100は、CPU101、RAM102、ROM103、I/F(インターフェース)104、表示部106、外部記憶装置107、I/F108,109、バス199を有する。
【0020】
CPU101は、RAM102やROM103に格納されているプログラムやデータを用いてコンピュータ100全体の制御を行うと共に、コンピュータ100が行うものとして説明する後述の各処理を実行する。
【0021】
RAM102は、外部記憶装置107からロードされたプログラムやデータ、I/F108を介してセンサ信号処理装置113から受信したデータを一時的に記憶するためのエリアを有する。また、RAM102は、CPU101が各種の処理を実行する際に用いるワークエリアも有する。即ち、RAM102は、各種のエリアを適宜提供することができる。
【0022】
ROM103は、コンピュータ100の設定データやブートプログラムなどを格納する。
【0023】
I/F104は、キーボード110を接続するためのもので、ユーザがキーボード110を用いて入力した各種の指示信号は、このI/F104を介してCPU101に通知される。
【0024】
表示部106は、CRTや液晶画面などにより構成されており、CPU101による処理結果を画像や文字などでもって表示することができる。
【0025】
外部記憶装置107は、ハードディスクドライブ装置に代表される大容量情報記憶装置である。外部記憶装置107には、OS(オペレーティングシステム)や、コンピュータ100が行うものとして説明する後述の各処理をCPU101に実行させるためのプログラムやデータ等が保存されている。また詳しくは後述するが、センサ群112を構成する各センサの測定特性を示すデータ(測定特性情報)についてもこの外部記憶装置107に保存されている。
【0026】
外部記憶装置107に保存されているプログラムやデータは、CPU101による制御に従って適宜RAM102にロードされ、CPU101による処理対象となる。
【0027】
I/F108は、センサ信号処理装置113をコンピュータ100に接続するためのもので、センサ信号処理装置113から送出される各測定データはこのI/F108を介して外部記憶装置107やRAM102に送出される。
【0028】
I/F109は、マウス111をコンピュータ100に接続するためのもので、ユーザがマウス111を用いて入力した各種の指示信号は、このI/F109を介してCPU101に通知される。
【0029】
199は上述の各部を繋ぐバスである。
【0030】
次にセンサ群112、センサ信号処理装置113について説明する。
【0031】
センサ群112は複数のセンサにより構成されており、本実施形態では、センサ群112には、温度を測定するための温度センサ、脈流(脈拍)を測定するための脈流センサ、発汗量を測定するための発汗センサ、が含まれているものとして説明する。なお、センサ群112にはこれ以外のセンサを含めても良い。
【0032】
そしてセンサ群112を構成する各センサは、ユーザがマウス111を操作する時にこのユーザが接触するマウス111の面上に取り付けられている。図2は、マウス111と、このマウス111に取り付けられたセンサ群112を示す図である。
【0033】
図2において201〜203がセンサ群112を構成する各センサで、例えば、201は温度センサ、202は脈流センサ、203は発汗センサである。温度センサとしては、例えば、温度の上昇、降下につれ抵抗が減少増加するサーミスタを用いる。
【0034】
なお、各センサの取り付け位置については図2に示した位置に限定するものではなく、それぞれのセンサが最も好ましい測定を行うことができるような位置に取り付けるべきである。例えば、発汗は暑熱刺激による温熱性発汗と、うそをついたときの発汗などの精神的な緊張や情緒の変動によりおこる精神性発汗がある。精神性発汗は手掌や手指でみられる。従って精神性発汗を測定する場合には、発汗センサは、ユーザがマウス111を手に持った場合に手の掌が接触するであろう位置に取り付けることが好ましい。
【0035】
そして各センサ201〜203が測定した結果は信号としてセンサ信号処理装置113に送出される。
【0036】
なお、本実施形態ではポインティングデバイスの一例としてマウス111を用いたが、コンピュータ100のユーザが各種の操作指示をコンピュータ100に対して入力するためのものであれば、如何なるポインティングデバイスを用いても良い。しかし、如何なるポインティングデバイスを用いるにせよ、ユーザがポインティングデバイスを操作する時にこのユーザが接触するポインティングデバイスの面上には、センサ群112が取り付けられていることになる。
【0037】
センサ信号処理装置113は、センサ群112を構成する各センサから送出された測定結果を示す信号を受けると、これを処理して、測定データを得る。そしてそれぞれのセンサにより測定された結果を示すデータ(測定データ)をコンピュータ100(I/F108)に対して送出する。
【0038】
次に、コンピュータ100が、センサ信号処理装置113から各センサにより測定された結果を示す測定データを受けた場合に、これらの測定データを、ユーザの生体状態を測定するために使用可能なデータに加工するための一連の処理について説明する。
【0039】
なお、説明を簡単にするために、センサ信号処理装置113からは、温度センサの測定結果としての温度データ、脈流センサの測定結果としての脈流データ、発汗センサの測定結果としての発汗データがコンピュータ100に入力されたものとして説明する。即ち、マウス111には、温度センサ、脈流センサ、発汗センサが適当な位置に取り付けられているものとして説明する。
【0040】
図6は、コンピュータ100が、センサ信号処理装置113から各センサによる測定データを受けた場合に、これらの測定データを、ユーザの生体状態を測定するために使用可能なデータに加工するための一連の処理のフローチャートである。なお、図6のフローチャートに従った処理をCPU101に実行させるためのプログラムやデータは外部記憶装置107に保存されており、CPU101による制御に従って適宜RAM102にロードされる。そしてCPU101がこのロードされたプログラムやデータを用いて処理を実行することで、コンピュータ100は以下説明する各処理を実行することになる。
【0041】
マウス111に取り付けられた脈流センサは、ユーザの指(脈流センサを取り付けた位置に接触する指)が脈流センサに触れているか否かに関係なく、予め設定されたサンプル期間毎(例えば100ms毎)に脈流値を測定する。そして、その測定値を示す信号をセンサ信号処理装置113に送信する。なお、ユーザの指が脈流センサに触れていない場合における脈流センサによる測定結果は、単なるノイズなどを示す。センサ信号処理装置113は、脈流センサによる測定結果を脈流データとして生成し、コンピュータ100に送出する。
【0042】
従ってステップS601では、センサ信号処理装置113から送出された脈流データP(t)をI/F108を介して受信し、外部記憶装置107に記録する。ここでP(t)は、時刻tにおける脈流データを示す。なお、tについては時刻に限定するものではなく、例えば、カウンタ値でも良い。
【0043】
一方、マウス111に取り付けられた温度センサについても同様に、ユーザの指(温度センサを取り付けた位置に接触する指)が温度センサに触れているか否かに関係なく、予め設定されたサンプル期間毎(例えば100ms毎)に温度値を測定する。そして、その測定値を示す信号をセンサ信号処理装置113に送信する。そしてセンサ信号処理装置113は、温度センサによる測定結果を温度データとして生成し、コンピュータ100に送出する。
【0044】
従ってステップS602では、センサ信号処理装置113から送出された温度データT(t)をI/F108を介して受信し、外部記憶装置107に記録する。ここでT(t)は、時刻tにおける温度データを示す。なお、tについては時刻に限定するものではなく、例えば、カウンタ値でも良い。
【0045】
一方、マウス111に取り付けられた発汗センサについても同様に、ユーザの指(発汗センサを取り付けた位置に接触する指)が発汗センサに触れているか否かに関係なく、予め設定されたサンプル期間毎(例えば100ms毎)に発汗量を測定する。そして、その発汗量を示す信号をセンサ信号処理装置113に送信する。そしてセンサ信号処理装置113は、発汗センサによる測定結果を発汗データとして生成し、コンピュータ100に送出する。
【0046】
従ってステップS603では、センサ信号処理装置113から送出された発汗データS(t)をI/F108を介して受信し、外部記憶装置107に記録する。ここでS(t)は、時刻tにおける発汗データを示す。なお、tについては時刻に限定するものではなく、例えば、カウンタ値でも良い。
【0047】
次に、ステップS604では、既に外部記憶装置107に記録した脈流データを用いて、現在ユーザがマウス111を手にして操作しているか否かを判断する。ここでこの判断処理について説明する。
【0048】
CPU101は、ステップS601で受信した脈流データP(t)と、前回ステップS601で受信したP(t−1)との差の絶対値が予め定めた閾値以上であることを検知すると、時刻tでユーザはマウス111を操作した(手に持った)と判断する。なお、ユーザがマウス111を手にもってマウス111を操作しているか否かを検知する為の方法については係る方法に限定するものではなく、如何なる方法を用いても良い。
【0049】
係る判断の結果、操作していると判断した場合には処理をステップS607に進め、操作していないと判断した場合には処理をステップS605に進める。
【0050】
ステップS605では、過去にステップS605で外部記憶装置107に記録した温度データ群を用いて、ユーザがマウス111を手に持っていない期間中におけるマウス111の面上の代表的な温度を示す代表温度データTavを生成する。例えば、過去にステップS605で外部記憶装置107に記録したそれぞれの温度データが示す温度値の平均値を求め、求めた平均値を示すデータを代表温度データTavとする。そして生成した代表温度データTavを外部記憶装置107に記録する。なお、代表温度データTavを求める方法についてはこのように温度データ群を用いることが好ましいが、過去にステップS605で外部記憶装置107に記録した温度データが1つである場合には、係る温度データをそのまま代表温度データTavとして用いる。
【0051】
次に、ステップS606では、過去にステップS606で外部記憶装置107に記録した発汗データ群を用いて、ユーザがマウス111を手に持っていない期間中におけるマウス111の面上の代表的な発汗量を示す代表発汗データSavを生成する。例えば、過去にステップS606で外部記憶装置107に記録したそれぞれの発汗データが示す発汗量の平均値を求め、求めた平均値を示すデータを代表発汗データSavとする。そして求めた代表発汗データSavを外部記憶装置107に記録する。
【0052】
そして処理をステップS601に戻し、以降の処理を行う。
【0053】
一方、ステップS607では、ステップS602で外部記憶装置107に記録した温度データT(t)の値から、代表温度データTavの値を引いた値を有するデータT’(t)を生成する。係るデータT’(t)は、時刻tにおいて温度センサが測定した温度から、ユーザがマウス111を手に持っていない期間中におけるマウス111の面上の代表的な温度を差し引いたものである。即ち、温度センサによる測定結果から、元々マウス111の面上における温度(外乱)を差し引いたものとなり、本来のユーザの指の温度とおぼしきものがT’(t)として得られる。そして生成したデータT’(t)を外部記憶装置107に記録する。
【0054】
図3は、横軸を時刻、縦軸を温度データが示す温度値とした場合に、ユーザがマウス111を手に持つ前後の、温度センサによる測定結果の変化の例を示す図である。301は、測定結果を示す曲線である。
【0055】
図3において時刻t1は、ユーザがマウス111を手に持ったタイミング(時刻)を示している。曲線301においてt<t1を満たす時刻tで測定した温度は、ユーザがマウス111を手に持っていない期間中に温度センサが測定した温度である。なお、t<t1の期間中に測定した温度の平均値を示すデータがTavに相当する。
【0056】
一方、曲線301においてt1<t<t2を満たす時刻tで測定した温度は、ユーザがマウス111を手に持っている期間中に、温度センサが測定している温度値である。しかし一般に、温度の測定対象に温度センサを接触させても、瞬時には正確な温度は得られず、ある一定以上の時間(測定中期間)がかかってしまう(測定過渡状態)。図3では、この測定中期間が、t1<t<t2に相当する。
【0057】
また、曲線301においてt≧t2を満たす時刻tで測定した温度は、ユーザがマウス111を手に持っている期間中に、温度センサが測定している温度値であり、温度センサによる最終的な測定結果として得られるものである。しかし、この最終的な測定結果も、上記外乱を含むものであり、ユーザ本来の生体状態を表しているとは限らない。そこで図4に示す如く、曲線301においてt>t1を満たす部分を温度値方向に−Tavだけシフトした曲線403を求める。係る処理が、ステップS607で行う処理に相当する。図4は、図3に示した測定特性曲線301をシフトする様子を示した図である。
【0058】
なお、図3,4を用いた説明は、測定対象が如何なるものであっても同様に適用できる説明である。
【0059】
次にステップS608では、ステップS603で外部記憶装置107に記録した発汗データS(t)の値から、代表発汗データSavの値を引いた値を有するデータS’(t)を生成する。係るデータS’(t)は、時刻tにおいて発汗センサが測定した発汗量から、ユーザがマウス111を手に持っていない期間中におけるマウス111の面上の代表的な発汗量を差し引いたものである。即ち、発汗センサによる測定結果から、元々マウス111の面上における発汗量(外乱)を差し引いたものとなり、本来のユーザの指の発汗量とおぼしきものがS’(t)として得られる。そして生成したデータS’(t)を外部記憶装置107に記録する。
【0060】
次に、ステップS609では、T’(t)と、温度センサによる測定特性を示す測定特性情報とを用いて、時刻tにおいて予測される本来のユーザの指の温度値を示すデータを、予測温度値データT”(t)として生成する。
【0061】
ここで、ステップS609における処理について、より詳細に説明する。センサ群112を構成する各センサから得られる測定データを用いてユーザの生体状態を測定する為には、この測定データが正確なものであることが前提となる。例えば、温度センサから得られる温度データを、ユーザの生体状態判断に用いる場合、t≧t2を満たす時刻tで測定した温度については最終的な測定結果(平衡状態における測定結果)であるので、T’(t)を用いれば良い。しかし、t1<t<t2を満たす時刻tで測定した温度については過渡期(時刻t1から時刻t2の間の期間)におけるものであるため、正確ではない。
【0062】
そこで本実施形態では、t≧t2を満たす時刻tについてはT’(t)を用い、t1<t<t2を満たす時刻tについては、予測温度値データT”(t)を用いる。以下、予測温度値データT”(t)を求める方法について説明する。
【0063】
図5は、センサ群112に含まれる温度センサの測定特性曲線の一例を示す図である。図5において横軸は温度センサが測定を開始してから経過した時間を示しており、縦軸は、温度の測定対象の温度に対して何%の温度を測定したかを示す。
【0064】
例えば図5に示した測定特性曲線において、温度センサが温度測定を開始してからtだけ時間が経過したときの測定温度は、温度の測定対象の温度の10%であることが分かる。また、温度センサが温度測定を開始してからtだけ時間が経過したときの測定温度は、温度の測定対象の温度の65%であることが分かる。また、温度センサが温度測定を開始してからtだけ時間が経過したときの測定温度は、温度の測定対象の温度の90%であることが分かる。
【0065】
係る測定特性曲線は、温度センサが設計されると一意に決まるものであり、事前に分かっているものである。
【0066】
外部記憶装置107には、係る測定特性曲線を規定するためのデータが、測定特性情報として保存されている。例えば、係る測定特性曲線上における複数の点の座標値を測定特性情報として保存しておいても良いし、測定特性曲線の式と、この式を確定するパラメータとを測定特性情報として保存しておいても良い。係る点は、その他のセンサについても同じである。
【0067】
何れにせよ、ステップS609では先ず、ユーザがマウス111を手に持ったタイミング(時刻)からの経過時間tpを取得する。そして図5に示したような測定特性曲線を参照し、tpに対応する%の値w(0≦w≦100)を特定する。そして100×T’(t1+tp)/wの計算結果を示すデータを予測温度値データT”(t1+tp)として生成する。係る予測温度値データは、温度センサによる測定結果が平衡状態になったとおぼしき温度値から、代表温度データTavを差し引いたものとなる。
【0068】
なお、T”(t)を求めるための方法については様々な方法が考えられ、何れの方法を用いても良い。
【0069】
図6に戻って、次にステップS610では、ステップS609における処理と同様にして次の処理を行う。即ち、S’(t)と、発汗センサによる測定特性を示す測定特性情報とを用いて、時刻tにおいて予測される本来のユーザの指の発汗量を示すデータを、予測発汗量データS”(t)として生成する。
【0070】
そして、ステップS609、S610で求めた予測温度値データT”(t)、予測発汗量データS”(t)を外部記憶装置107に記録する。
【0071】
次に、ステップS612では、本処理の終了指示がキーボード110やマウス111から入力されたか否か、本処理の終了条件が満たされたか否かを判断する。係る判断の結果、終了指示が入力された、若しくは終了条件が満たされた場合には本処理を終了する。一方、終了指示は入力されていないし、終了条件も満たされていない場合には処理をステップS601に戻し、以降の処理を繰り返す。
【0072】
このようにして外部記憶装置107に記録されたT’(t)、S’(t)、T”(t)、S”(t)は、ユーザの生体状態、例えばユーザのストレスの度合いを判断するために用いられる。即ち、t≧t2を満たす時刻tについてはT’(t)、S’(t)を用い、t1<t<t2を満たす時刻tについては、T”(t)、S”(t)を用いる。
【0073】
なお、t<t1を満たす時刻tについてはT(t)、S(t)をそのまま用いても良いし、Tav、Savを用いても良い。
【0074】
例えば、ユーザのストレスの度合いをチェックする為には次のような処理を行っても良い。即ち、検知データをユーザ固有の正常時の体温、湿度、脈流データと比較し、閾値を下回る体温、閾値を超える湿度、閾値を超える脈流を検知したときは、表示部106に警告表示を出す。そして、メモリに記録する検知データは、その旨のデータが付加される。
【0075】
なお、ユーザ固有の正常時データは、ユーザ認証データと対応付けてメモリに記憶しておく。ユーザ認証データは、例えばパスワードなどの認証データである。そしてユーザがパスワードなどの認証データを入力し、コンピュータを使用する際には、入力された認証データと、このユーザに対するユーザ認証データとを比較する。そして、一致していれば、このユーザ認証データに対応付けられている正常時データを読み出して用いる。
【0076】
なお、本実施形態による上記処理で得られる各種のデータをどのように用いるのかについては特に限定するものではない。
【0077】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、マウス111には、温度センサ、脈流センサ、発汗センサが適当な位置に取り付けられていた。そして、温度センサによる測定結果としての温度データ、脈流センサによる測定結果としての脈流データ、発汗センサによる測定結果としての発汗データがコンピュータ100に入力されていた。
【0078】
しかし、これ以外のセンサをマウス111に取り付けても良い。この場合、それぞれのセンサについて、温度センサ、発汗センサについて行った上記処理と同じ処理を行う。
【0079】
即ち、ユーザがマウス111を手にしていない期間中に外部記憶装置107に記録した測定データ群を用いて、ユーザがマウス111を手に持っていない期間中におけるマウス111の面上の代表的な測定値を示す代表測定データMavを生成する。次に、センサから取得した測定データの値から、代表測定データMavの値を引いた値を有するデータM’(t)を生成する。そして生成したデータM’(t)を外部記憶装置107に記録する。
【0080】
次に、M’(t)と、センサによる測定特性を示す測定特性情報とを用いて、時刻tにおいて予測される本来のユーザの指の測定値を示すデータを、予測測定値データM”(t)として生成する。そして、係る予測測定値データM”(t)を外部記憶装置107に記録する。
【0081】
このような処理を、それぞれのセンサについて行う。
【0082】
以上説明した各実施形態によれば、日常の環境変化に係わらずユーザの生体状態をより正確に短時間に検出し、生体状態の適切な判定を複雑な装置を用いることなく早期に行うことができる。
【0083】
また、第1,2の実施形態では、脈流データについてはユーザがマウス111を手に持ったか否かの判断にしか用いていない。しかし、脈流データを温度データ、発汗データと同様に処理することで、ユーザの生体状態を判断するために使用可能なデータを作成しても良い。
【0084】
また、第1,2の実施形態では、センサから入力した測定データを外部記憶装置107に記録しながら、T’(t)、S’(t)、T”(t)、S”(t)を求め、外部記憶装置107に記録する処理をも行っている。しかしCPU101の処理能力などが不足している場合には、このような処理を行うことは困難となる。
【0085】
このような場合、各センサからの測定データはそのまま外部記憶装置107に記録し、この時点ではT’(t)、S’(t)、T”(t)、S”(t)を求める処理は行わない。なお、各測定データを記録する際、その記録時刻も同時に記録する。そしてその後、ユーザの生体状態を判断する旨の指示がキーボード110やマウス111を用いて入力されると、T’(t)、S’(t)、T”(t)、S”(t)を求め、その後、ユーザの生体状態の判断処理を行うようにする。
【0086】
また、第1,2の実施形態において、ステップS609,S610における処理は、t≧t2を満たす時刻tについて測定した測定値については行う必要はない。そこでステップS609,S610における処理は次のような条件が満たされた場合には実行を禁止し、ステップS607,S608で求めたT’(t)、S’(t)をそれぞれT”(t)、S”(t)としてステップS611で記録するようにしても良い。
【0087】
即ち、前回ステップS607で求めたT’(t−1)と今回ステップS607で求めたT’(t)との差の絶対値が予め設定された閾値以下であれば、ステップS609における処理を行わない。そしてステップS611では、今回ステップS607で求めたT’(t)をT”(t)として外部記憶装置107に記録する。
【0088】
また、前回ステップS608で求めたS’(t−1)と今回ステップS608で求めたS’(t)との差の絶対値が予め設定された閾値以下であれば、ステップS610における処理を行わない。そしてステップS611では、今回ステップS608で求めたS’(t)をS”(t)として外部記憶装置107に記録する。
【0089】
[その他の実施形態]
また、本発明の目的は、以下のようにすることによって達成されることはいうまでもない。即ち、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記録媒体(または記憶媒体)を、システムあるいは装置に供給する。そして、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行する。この場合、記録媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコードを記録した記録媒体は本発明を構成することになる。
【0090】
また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているオペレーティングシステム(OS)などが実際の処理の一部または全部を行う。その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0091】
さらに、記録媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張カードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込まれたとする。その後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張カードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0092】
本発明を上記記録媒体に適用する場合、その記録媒体には、先に説明したフローチャートに対応するプログラムコードが格納されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るシステムのハードウェア構成を示すブロック図である。
【図2】マウス111と、このマウス111に取り付けられたセンサ群112を示す図である。
【図3】横軸を時刻、縦軸を温度データが示す温度値とした場合に、ユーザがマウス111を手に持つ前後の、温度センサによる測定結果の変化の例を示す図である。
【図4】図3に示した測定特性曲線301をシフトする様子を示した図である。
【図5】センサ群112に含まれる温度センサの測定特性曲線の一例を示す図である。
【図6】コンピュータ100が、センサ信号処理装置113から各センサによる測定データを受けた場合に、これらの測定データを、ユーザの生体状態を測定するために使用可能なデータに加工するための一連の処理のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの生体状態を検出する為にポインテイングデバイスに設けられたセンサから送信されたデータを受信可能な情報処理装置であって、
前記ユーザが前記ポインティングデバイスを操作している期間中に前記センサから受信した測定データをメモリに記録する第1の記録手段と、
前記第1の記録手段によって記録された測定データと、前記センサの測定特性と、に基づいて、前記センサの平衡測定時の予測測定データを求め、当該求めた予測測定データを前記メモリに記録する第2の記録手段と
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記ユーザが前記ポインティングデバイスを操作していない期間中に前記センサから受信した測定データを前記メモリに記録する第3の記録手段を備え、
前記第2の記録手段は、
前記第1の記録手段が前記メモリに記録した測定データが示す測定値から、前記第3の記録手段が前記メモリに記録した測定データに基づいた測定値、を差し引いた測定値を示す測定データを求め、当該求めた測定データと前記測定特性とを用いて前記予測測定データを求めることを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記センサには、前記ユーザが前記ポインティングデバイスを操作している時に前記ユーザが接触する前記ポインティングデバイスの面上に取り付けられた脈流センサが含まれており、
更に、
前記脈流センサから受信した脈流値を示す測定データに基づいて、前記ユーザが前記ポインティングデバイスを操作しているか否かを判断する判断手段
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記平衡測定時の予測測定データとは、
前記第1の記録手段が求めた測定データと、前記ユーザが前記ポインティングデバイスを操作したと判断されたタイミングから当該測定データを求めたタイミングまでの経過時間と、を用いて前記測定特性から得られる測定データを、前記センサによる測定が平衡測定となった時の測定データとして求められるものであることを特徴とする請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記第1乃至3の記録手段は、記録対象のデータを、前記ユーザの生体状態を判断する為に用いるデータとして記録することを特徴とする請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記生体状態には、前記ユーザのストレスの度合いが含まれていることを特徴とする請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項7】
ユーザの生体状態を検出する為にポインテイングデバイスに設けられたセンサから送信されたデータを受信可能な情報処理装置が行う情報処理方法であって、
前記ユーザが前記ポインティングデバイスを操作している期間中に前記センサから受信した測定データをメモリに記録する第1の記録工程と、
前記第1の記録工程で記録された測定データと、前記センサの測定特性と、に基づいて、前記センサの平衡測定時の予測測定データを求め、当該求めた予測測定データを前記メモリに記録する第2の記録工程と
を備えることを特徴とする情報処理方法。
【請求項8】
前記ユーザが前記ポインティングデバイスを操作していない期間中に前記センサから受信した測定データを前記メモリに記録する第3の記録工程を備え、
前記第2の記録工程では、
前記第1の記録工程で前記メモリに記録した測定データが示す測定値から、前記第3の記録工程で前記メモリに記録した測定データに基づいた測定値、を差し引いた測定値を示す測定データを求め、当該求めた測定データと前記測定特性とを用いて前記予測測定データを求めることを特徴とする請求項7に記載の情報処理方法。
【請求項9】
コンピュータに請求項7又は8に記載の情報処理方法を実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のコンピュータプログラムを格納したことを特徴とする、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−276314(P2008−276314A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115947(P2007−115947)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】