説明

情報化施工装置及び情報化施工プログラム

【課題】地盤構造物の施工において合理的な対策工を選定可能な情報化施工装置及び情報化施工プログラムを提供することを課題とする。
【解決手段】地盤構造物を対象とした情報化施工装置であって、地盤構造物施工に関係する逆解析対象の複数のパラメータに対して直交表を用いた実験計画法に基づく逆解析を行うことによって、地盤構造物を施工している現場における応力及び/又は変形を計測した各計測値とその各計測値に対応する各解析値とが整合するように複数のパラメータの各値を決定し、その決定された複数のパラメータの各値を用いて地盤構造物施工による影響を予測し、その予測された影響が低減するように対策工を選定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤構造物を対象とした情報化施工装置及び情報化施工プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、地盤構造物としてトンネルを施工する際に、トンネル周辺の地中に重要構造物(例えば、水道管、ガス管)が埋設されている場合や地表面に民家や鉄塔等の構造物が設置されている場合がある。このような場合、トンネル施工がこれらの周辺構造物に与える影響を事前に予測し、必要に応じて周辺構造物の健全性(保全性)を確保するための合理的な対策を実施することが求められている。
【0003】
トンネル施工が周辺構造物に与える影響は、一般に、有限要素法(FEM[FiniteElement Method])を用いて予測されることが多い。有限要素法による予測値は入力する地盤物性値(パラメータ)に依存するが、地盤は不均質かつ不確定な自然そのものであるため、事前の土質試験結果だけからでは地盤物性値を精度よく求めることができない。そのため、トンネル施工中においては、施工中の計測データを用いて地盤物性値を見直し、トンネル施工時におけるトンネルやその周辺構造物への影響を低減する最も経済的な対策工を選定するという、いわゆる情報化施工が行われている。
【0004】
このトンネルの情報化施工において核となる解析技術は、逆解析である。この逆解析は、トンネルやその周辺の地盤中あるいは地表面に設置した変位計の計測結果やトンネルに設置した各種支保工部材の応力の計測結果とFEM解析による解析値とが整合するような地盤物性値を最適化手法を用いて自動的に探索する解析技術である。地盤物性値には、各地層における単位体積重量、変形係数、内部摩擦角、粘着力、ポアソン比、静止土圧係数等がある。
【0005】
情報化施工で用いられてきた逆解析としては、直接定式化法、逆定式化法、総当り法等がある。直接定式化法は、数理計算法における直接探索法(simplex法等)や勾配法(共役勾配法等)を利用して、それぞれの現場の計測値と解析値との差分の総和を最小化する物性値パラメータを求める方法であり、変形係数、ポアソン比、内部摩擦角、粘着力等が逆解析対象パラメータである。逆定式化法は、初期応力と変形係数の比で規定される剛性マトリックスと掘削解放力に相当する掘削壁面の等価節点力との関係から解析上での変位を求め、この変位値と現場で計測される変位値との差分の総和が最小となるように初期応力と変形係数の比の組み合わせを求める方法であり、初期応力と変形係数の比が逆解析対象パラメータである。総当り法は、求めたい物性値パラメータの組み合わせを複数個用意し、全ての組み合わせに対して解析を実施し、これらのうちの現場の計測値が解析値と最も近いパラメータの組み合わせを逆解析により推定された物性値とする方法であり、あらゆる物性値が逆解析対象パラメータとなる。地盤構造物を対象とした逆解析を用いた方法としては、例えば、特許文献1に開示される地盤掘削部前方の地質予測方法、特許文献2に開示されるトンネル切羽前方の探査方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3976318号公報
【特許文献2】特開2001−166061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の情報化施工で用いられてきた逆解析方法としては、上記したような直接定式化法、逆定式化法、総当り法等がある。直接定式化法や逆定式化法の場合、逆解析により求めることができる地盤物性値の種類に制限がある。そのため、トンネルの内空変位については計測値と解析値とを整合させることができるが、トンネル周辺地盤の地中変位や地表面変位までを整合させることは困難であり、逆解析の精度が必ずしも高いとはいえない。その結果、トンネル周辺地盤の地中構造物や地表面構造物への影響を高精度に予測することができず、それらの周辺構造物の健全性(保全性)を確保した対策工を選定できない。また、総当り法の場合、全ての地盤物性値を対象とできるが、全ての組み合わせについて逆解析を行うので計算回数が膨大となり、トンネル施工途中の実務に制約された時間内で逆解析ができない。そのため、逆解析する地盤物性値の種類を絞り込むことになり、結局、逆解析の精度が低下し、周辺構造物の健全性を確保した対策工を選定できない。
【0008】
そこで、本発明は、地盤構造物の施工において合理的な対策工を選定可能な情報化施工装置及び情報化施工プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る情報化施工装置は、地盤構造物を対象とした情報化施工装置であって、地盤構造物施工に関係する逆解析対象の複数のパラメータに対して実験計画法に基づく逆解析を行い、地盤構造物を施工している現場における応力及び/又は変形を計測した各計測値と各計測値に対応する各解析値とが整合するように複数のパラメータの各値を決定する逆解析手段と、逆解析手段で決定された複数のパラメータの各値を用いて地盤構造物施工による影響を予測する影響予測手段と、影響予測手段で予測された影響が低減する対策工を選定する対策工選定手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
この情報化施工装置では、地盤構造物施工に関係する物性値の中から逆解析対象の複数のパラメータが設定されており、地盤構造物施工中の現場において計測された応力や変形についての計測値が入力されている。地盤構造物施工に関係する物性値としては、例えば、単位体積重量、変形係数、ポアソン比、内部摩擦角、粘着力、静止土圧係数等がある。計測される応力や変形としては、例えば、内空変位、天端沈下、地中変位、支保工応力、ロックボルト応力、地表面変位がある。情報化施工装置では、逆解析手段によって、実験計画法に基づく逆解析により、現場の応力及び/又は変形の各計測値とそれに対応する各解析値とが整合(一致)するように逆解析対象の複数のパラメータの各値を決定する。このように逆解析に統計学の一手法である実験計画法を採用することにより、逆解析できる物性値の種類に制約がなくなり(地盤構造物施工に関係する全ての物性値を逆解析対象とすることが可能)、逆解析を行うパラメータの各値の組み合わせを最小限に抑えつつ高精度な逆解析を行うことができる。さらに、情報化施工装置では、影響予測手段によって、逆解析手段で決定された複数のパラメータの各値を用いて地盤構造物施工による影響を予測する。この影響を及ぼす対象としては、例えば、地盤構造物自体、地盤構造物周辺の地中の構造物、地盤構造物周辺の地表面の構造物があり、これらの構造物における応力や変形によって影響を把握できる。そして、情報化施工装置では、対策工選定手段によって、影響予測手段で予測された影響が低減するような対策工を選定する。対策工としては、例えば、地盤改良範囲の拡大、改良強度の増加、支保工の剛性アップ、補助工法の追加がある。このように、この情報化施工装置は、逆解析に実験計画法を採用することにより、多くのパラメータを逆解析対象とした場合でも高効率な逆解析が可能となるので、影響予測に必要な全ての物性値を逆解析対象としてパラメータ値を高効率に決定でき、その必要な全てのパラメータ値を用いて地盤構造物、周辺地盤の地中構造物や地表面構造物への影響を高精度に予測でき、その高精度な影響予測結果に基づいて合理的な対策工を選定できる。合理的な対策工とは、地盤構造物施工による構造物への健全性を確保(影響を低減)しつつコストや工期等を抑えた対策工である。
【0011】
本発明の上記情報化施工装置では、逆解析手段は、直交表を用いて逆解析対象の複数のパラメータについての各値の組み合わせを設定し、組み合わせ毎に複数のパラメータについての各値を用いて各解析値を求める。
【0012】
この情報化施工装置の逆解析手段では、実験計画法の直交表に基づいて逆解析対象の複数のパラメータについての各値の組み合わせを設定し、その組み合わせ毎に複数のパラメータの各値を用いて応力や変形の各解析値を求める。このように、この情報化施工装置では、直交法を用いた実験計画法により、逆解析対象の複数のパラメータ値の組み合わせを簡単かつ高精度に設定できる。
【0013】
本発明の上記情報化施工装置では、逆解析手段は、逆解析対象の複数のパラメータについてそれぞれ設定される探索範囲内で複数のパラメータについての各値の組み合わせを設定し、組み合わせ毎に複数のパラメータについての各値を用いて各解析値を求め、地盤構造物を施工している現場における応力及び/又は変形の各計測値と各解析値から導出される誤差が許容誤差以上の場合には複数のパラメータについての各探索範囲を段階的に絞り込み、各計測値と各解析値から導出される誤差が許容誤差より小さくなった場合にはそのときの組み合わせのパラメータの各値を複数のパラメータの最適値として決定する。
【0014】
この情報化施工装置では、地盤構造物施工に関係する物性値の中から逆解析対象の複数のパラメータが設定されると、その各パラメータについての探索範囲もそれぞれ設定される。そして、この情報化施工装置の逆解析手段では、逆解析対象の各パラメータの探索範囲内で直交表に基づいて複数のパラメータについての各値の組み合わせを設定し、その組み合わせ毎に複数のパラメータの各値を用いて応力や変形の各解析値を求める。さらに、逆解析手段では、その組み合わせ毎に、現場の応力及び/又は変形の各計測値と各解析値から導出される誤差が許容誤差より小さくなったか否かを判定する。誤差が許容誤差以上の場合(計測値と解析値とが整合していない場合)、逆解析手段では、複数のパラメータについての各探索範囲を段階的に絞り込み、その絞り込んだ各探索範囲に基づいて上記の処理を繰り返し行う。誤差が許容誤差より小さくなった場合(計測値と解析値とが整合した場合)、逆解析手段では、そのときの組み合わせのパラメータの各値を複数のパラメータについての最適値としてそれぞれ決定する。このように、この情報化施工装置では、計測値と解析値から導出される誤差が許容誤差より小さくなるまで複数のパラメータについての各探索範囲を段階的に絞り込み、その小さくなった探索範囲に基づいて各パラメータの最適値を決定することにより、逆解析対象の複数のパラメータの最適値を簡単かつ高精度に決定できる。
【0015】
本発明に係る情報化施工プログラムは、地盤構造物を対象とした情報化施工を行うための情報化施工プログラムであって、コンピュータに、地盤構造物施工に関係する逆解析対象の複数のパラメータに対して実験計画法に基づく逆解析を行い、地盤構造物を施工している現場における応力及び/又は変形を計測した各計測値と各計測値に対応する各解析値とが整合するように複数のパラメータの各値を決定する逆解析機能と、逆解析機能で決定された複数のパラメータの各値を用いて地盤構造物施工による影響を予測する影響予測機能と、影響予測機能で予測された影響が低減する対策工を選定する対策工選定機能とを実現させることを特徴とする。
【0016】
本発明の上記情報化施工プログラムでは、逆解析機能は、直交表を用いて逆解析対象の複数のパラメータについての各値の組み合わせを設定し、組み合わせ毎に複数のパラメータについての各値を用いて各解析値を求める。
【0017】
本発明の上記情報化施工プログラムでは、逆解析機能は、逆解析対象の複数のパラメータについてそれぞれ設定される探索範囲内で複数のパラメータについての各値の組み合わせを設定し、組み合わせ毎に複数のパラメータについての各値を用いて各解析値を求め、地盤構造物を施工している現場における応力及び/又は変形の各計測値と各解析値から導出される誤差が許容誤差以上の場合には複数のパラメータについての各探索範囲を段階的に絞り込み、各計測値と各解析値から導出される誤差が許容誤差より小さくなった場合にはそのときの組み合わせのパラメータの各値を複数のパラメータの最適値として決定する。
【0018】
この各情報化施工プログラムによれば、この各プログラムをコンピュータに実行させることによって、上記情報化施工装置と同様の作用及び効果を奏する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、逆解析に実験計画法を採用することにより、多くのパラメータを逆解析対象とした場合でも高効率な逆解析が可能となるので、影響予測に必要な全ての物性値を逆解析対象としてパラメータ値を高効率に決定でき、その必要な全てのパラメータ値を用いて地盤構造物、周辺地盤の地中構造物や地表面構造物への影響を高精度に予測でき、その高精度な影響予測結果に基づいて合理的な対策工を選定できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態に係る情報化施工装置の構成を示すブロック図である。
【図2】トンネルに対するFEM解析モデルの一例である。
【図3】実験計画法を用いた逆解析による最適パラメータ探索の一例である。
【図4】図1の情報化施工装置における処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】トンネル施工現場での応力と変位の説明図であり、(a)がトンネル部分であり、(b)がトンネル周辺である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る情報化施工装置及び情報化施工プログラムの実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
本実施の形態では、本発明を、トンネルを対象とした情報化施工装置に適用する。本実施の形態に係る情報化施工装置は、トンネルの施工中に、各施工段階における施工現場での応力や変形の計測値に基づいてトンネル施工に関係する物性値をパラメータとしてFEM解析(有限要素法解析)による逆解析を行い、この逆解析によって決定されたパラメータの最適値を用いてトンネル施工による影響をFEM解析によって予測し、影響を低減する合理的な対策工(次の施工段階で採用される対策工)を選定する。なお、FEM解析については、従来の手法を適用するので、以下では詳細な説明を省略している。
【0023】
トンネル施工に関係する物性値としては、地盤物性値と支保工部材物性値がある。地盤物性値としては、例えば、単位体積重量、変形係数、ポアソン比、内部摩擦角、粘着力、静止土圧係数等がある。支保工部材物性値としては、例えば、単位体積重量、変形係数、内部摩擦角、粘着力、断面積、断面2次モーメントがある。トンネル施工現場での応力や変形としては、例えば、鋼製支保工応力、吹付けコンクリート応力、ロックボルト応力、トンネルの内空変位や天端沈下、地中変位、地表面変位等がある。対策工としては、例えば、地盤改良範囲の拡大、改良強度の増加、支保工の剛性アップ、補助工法(AGF、ロックボルト等)の追加がある。
【0024】
図1〜図3を参照して、本実施の形態に係る情報化施工装置1について説明する。図1は、本実施の形態に係る情報化施工装置の構成を示すブロック図である。図2は、トンネルに対するFEM解析モデルの一例である。図3は、実験計画法を用いた逆解析による最適パラメータ探索の一例である。
【0025】
情報化施工装置1は、トンネル施工においてトンネル及びその周辺の地中構造物や地表面構造物への影響を低減しつつ施工におけるコストや工期等も抑える合理的な対策工を選定するために、トンネル及びその周辺の構造物への影響の予測に必要な全ての物性値をパラメータとして逆解析を行う。そのために、情報化施工装置1は、逆解析に実験計画法を採用し、直交法を用いた実験計画法によって逆解析できる物性値の種類に制約をなくし(トンネル施工に関係する全ての物性値を逆解析対象のパラメータとすることができる)、逆解析を行うパラメータの各値の組み合わせを最小限に抑えつつ高精度な逆解析を行う。
【0026】
逆解析に採用される実験計画法は、予め設定される複数のパラメータの各値についての組み合わせ表(直交表)を作成しておき、その直交表に基づく各組み合わせのパラメータ値を用いて計測対象の応力や変形についての各解析値を計算し、実際の各計測値と各解析値との差分の総和が最も小さくなるパラメータの範囲を絞込むための過程を繰り返すことにより、その複数のパラメータについての最適値を探索する方法である。この方法によって、可能な限り少ない組み合わせでの逆解析を行うことができるので、総当り法と比較して大幅に計算回数を削減でき、総当り法と同程度の精度でパラメータの最適値を推定できる。直交表は、予め決められた特定のパラメータの組み合わせで全ての組み合わせを試行したときとほぼ同じ効果を出せるパラメータの組み合わせ表である。
【0027】
情報化施工装置1は、図1に示すように、対策工データベース2、最適パラメータデータ3、入力部4、FEM解析部5、最適パラメータ探索部6、FEM解析部7、対策工妥当性判断部8、出力部9を備えている。なお、情報化施工装置1は、情報化施工だけを行う専用装置でもよいし、あるいは、パソコン等の汎用コンピュータで情報化施工用のアプリケーションプログラムを実行することによって構成されてもよい。
【0028】
なお、本実施の形態では、FEM解析部5及び最適パラメータ探索部6が特許請求の範囲に記載する逆解析手段に相当し、FEM解析部7が特許請求の範囲に記載する影響予測手段に相当し、対策工妥当性判断部8が特許請求の範囲に記載する対策工選定手段に相当する。
【0029】
対策工データベース2は、情報化施工装置1の記憶装置(ハードディスク等)の所定の領域に構成されるデータベースである。対策工データベース2には、トンネル施工の対策工が格納される。格納される具体的な対策工としては、上記に示した対策工がある。
【0030】
最適パラメータデータ3は、情報化施工装置1のRAMの所定の領域に構成されるデータの一時記憶領域である。最適パラメータデータ3には、最適パラメータ探索部6で探索された逆解析対象の各パラメータの最適値が一時記憶される。一時記憶されるパラメータとしては、上記に示した地盤物性値と支保工部材物性値の中から逆解析対象のパラメータとして設定されたパラメータである。
【0031】
入力部4は、情報化施工装置1のキーボードやマウス等で構成され、オペレータが入力するための手段である。入力部4から入力されるものとしては、トンネル施工の現場で計測された複数の計測値、逆解析対象の複数のパラメータ、その各パラメータの探索範囲(初期値)、施工対象のトンネル周辺の地盤データや地形データ、周辺の地中構造物のデータや地表面構造物のデータ等がある。入力される計測値は、上記に示したトンネルやトンネル周辺での応力や変形の中で、FEM解析による解析値と一致させたい応力や変形についてのトンネル施工の現場で計測された値である。入力される逆解析対象のパラメータは、上記に示した地盤物性値と支保工部材物性値の中で、トンネル施工によるトンネルやその周辺構造物への影響を予測する際に必要となる物性値である。逆解析対象のパラメータの探索範囲(初期値)は、地盤の物性値毎にトンネルが施工される地盤において考えられる上限値から下限値までの範囲、支保工の物性値毎に考えられる上限値から下限値までの範囲である。これらの探索範囲については、情報化施工を行う毎に逆解析対象のパラメータと共に入力されてもよいし、あるいは、最初に一度だけ全ての物性値についての探索範囲が予め入力されてもよい。
【0032】
FEM解析部5では、まず、FEM解析(有限要素法解析)によって、施工中のトンネル及びそのトンネル周辺の解析モデルを作成する。図2には、解析モデルの一例を示しており、空洞部分T,Tが掘削中のトンネル部分であり、地表面には構造物Bが設置されている。
【0033】
FEM解析部5では、各段階の探索範囲毎に、直交表によって逆解析対象の複数のパラメータの各値の組み合わせを順次設定する。直交表については、従来の実験計画法に用いられる直交表と同様の手法で作成され、各段階の探索範囲毎に各パラメータの探索範囲に基づいて作成される。設定した組み合わせ毎に、FEM解析部5では、その組み合わせのパラメータの各値に基づいて、作成した解析モデルを用いたFEM解析によって、計測値として入力されている応力や変形についての解析値(解析予測値)をそれぞれ計算する。
【0034】
最適パラメータ探索部6では、FEM解析部5である組み合わせについての解析値を計算する毎(ある段階の探索範囲における組み合わせ毎)に、入力されている応力や変形についての全ての計測値とそれに対応する全ての解析値を用いて、式(1)によって各計測値と解析値との差分の総和を誤差として計算する。なお、式(1)では差分の二乗値の総和を誤差としているが、差分の総和をそのまま誤差としてもよい。そして、最適パラメータ探索部6では、その誤差が許容誤差より小さいか否かを判定する。許容誤差は、計測値と解析値とが一致(整合)しているとみなせる誤差の許容量であり、予め設定される。
誤差=Σ(計算値−解析値)・・・(1)
【0035】
ある段階の探索範囲における全ての組み合わせについて誤差が許容誤差以上と判定した場合、最適パラメータ探索部6では、有意差検定によってその誤差要因の評価を行う。有意差検定については、従来の手法を適用するので、詳細な説明を省略する。そして、最適パラメータ探索部6では、その評価結果に基づいて、現在設定されている複数のパラメータについて各探索範囲を段階的にそれぞれ絞り込み、前回よりも小さい各探索範囲を再設定する。なお、探索範囲を絞り込んでいく手法としては、有意差検定を用いる手法以外の他の手法でもよい。
【0036】
ある絞り込み段階の探索範囲におけるある組み合わせについて誤差が許容誤差より小さくなったと判定した場合、最適パラメータ探索部6では、その組み合わせのパラメータの各値を逆解析対象の各パラメータの最適値として決定し、その各パラメータの最適値を最適パラメータデータ3に一時記憶させる。なお、ある絞り込み段階の探索範囲において誤差が許容誤差より小さくなる組み合わせが複数ある場合には、例えば、誤差が最も小さい組み合わせを選択する。
【0037】
図3には、実験計画法を用いた逆解析による最適パラメータ探索の一例を示している。この例では、判り易くするために、逆解析対象のパラメータが側圧係数と変形係数の2つの場合である。この例では、側圧係数、変形係数、各計測値と各解析値との差分の総和からなる誤差の関係を三次元のグラフで示しており、x軸が側圧係数であり、y軸が変形係数であり、z軸が誤差である。最も外側の実線で示す範囲A1が、初期値の側圧係数の探索範囲と変形係数の探索範囲からなる第1段階の探索範囲である。その内側の実線で示す範囲A2が、範囲A1から絞り込まれた側圧係数の探索範囲と変形係数の探索範囲からなる第2段階の探索範囲である。その内側の実線で示す範囲A3が、範囲A2から絞り込まれた側圧係数の探索範囲と変形係数の探索範囲からなる第3段階の探索範囲である。その内側の実線で示す範囲A4が、範囲A3から絞り込まれた側圧係数の探索範囲と変形係数の探索範囲からなる第4段階の探索範囲である。
【0038】
各段階の探索範囲A1,A2,A3,A4において、直交表で設定される側圧係数のパラメータ値と変形係数のパラメータ値の組み合わせを三角形で示している。この例の場合、各段階の探索範囲A1,A2,A3,A4において、9組の組み合わせについて側圧係数のパラメータ値と変形係数のパラメータ値を用いて解析値が計算される。探索範囲が絞り込まれて小さいくなるのに従って、各組み合わせのパラメータ値の間隔も小さくなり、誤差が小さくなるパラメータ値が絞り込まれてゆく。そして、最終的に、第4段階の探索範囲A4内の組み合わせCの側圧係数のパラメータ値と変形係数のパラメータ値のときに、誤差が許容誤差より小さくなり、この組み合わせCの各パラメータ値が側圧係数、変形係数の最適値となる。したがって、この例の場合、9×4=36回のFEM解析による解析値計算が行われことになる。なお、総当り法の場合、例えば、初期値の側圧係数の探索範囲と変形係数の探索範囲内に設定される破線で示す各交点が総当りの組み合わせであり、11×11=121回のFEM解析による解析値計算が行われる。
【0039】
FEM解析部7では、最適パラメータ探索部6で逆解析対象の各パラメータの最適値を決定すると、その各パラメータの最適値を用いて、FEM解析によってトンネル及び周辺構造物に対する影響の予測値を計算する。ここでは、予測値としては、トンネルやそのトンネル周辺の地中構造物や地表面構造物についての応力や変形の中でトンネル施工による影響を低減したい構造物(保全性を確保したい構造物)の応力や変形についての各予測値が計算される。
【0040】
また、FEM解析部7では、対策工妥当性判断部8で対策工を再設定する毎に、その対策工を用いてトンネル施工を行ったと仮定して、各パラメータの最適値を用いて、FEM解析によってトンネル及び周辺構造物に対する影響の予測値を計算する。
【0041】
対策工妥当性判断部8では、FEM解析部7で予測値を計算する毎に、各予測値について評価基準値より小さいか否かを判定する。評価基準値は、トンネル施工が構造物に与える影響によって健全性(保全性)が確保されているか否かを判定するための閾値であり、予測値(各構造物の応力、変形)毎に予め設定される。
【0042】
いずれか1つ以上の予測値が評価基準値以上と判定した場合、対策工妥当性判断部8では、対策工データベース2に格納されている対策工の中から対策工を選定し、対策工を再設定する。ここでは、例えば、評価基準値以上となった構造物の応力や変形の予測値を考慮し、その応力や変形を小さくできるような対策工を選定する。一方、全ての予測値が評価基準値より小さいと判定した場合、対策工妥当性判断部8では、現在設定されている対策工を次の施工段階に対策工として出力部9から出力する。
【0043】
出力部9は、情報化施工装置1のディスプレイや接続されるプリンタ等で構成され、情報化施工装置1から各種情報や結果を出力するための手段である。出力するものとしては、対策工妥当性判断部8で最終的に決定した対策工を少なくとも出力し、最適パラメータ探索部6で探索した各パラメータの最適値等の他の情報も出力するようにしてもよい。
【0044】
図1〜図3を参照して、情報化施工装置1における処理の流れを図4のフローチャートに沿って説明する。図4は、図1の情報化施工装置における処理の流れを示すフローチャートである。図5は、トンネル施工現場での応力と変位の説明図であり、(a)がトンネル部分であり、(b)がトンネル周辺である。
【0045】
トンネル施工中に各施工段階が終了すると、トンネル施工現場において、図5に示すように、トンネル内空変位ID、天端沈下CS、地中変位UD、地表面変位GD、支保工応力SS等の各変位や各応力が計測される。情報化施工装置1のオペレータは、これらの計測値(解析値と一致させたい計測値)を入力部4によって入力している。また、情報化施工装置1のオペレータは、影響予測に必要な逆解析対象のパラメータを地盤物性値や支保工部材物性値の中から選択し、入力部4によって逆解析対象のパラメータ及びその探索範囲を入力している。なお、図5において、符号CBの実線で示す境界線が施工前を示し、符号CAの破線で示す境界線が施工後を示す。また、図5(b)において、符号DMで示すものは地中変位計であり、この地中変位計DMによって地中変位UDが計測される。
【0046】
情報化施工装置1では、逆解析対象のトンネル及びその周辺の地盤に対する解析モデルをFEM解析によって作成する(S1)。情報化施工装置1には、トンネル施工の現場の各計測値が設定される(S2)。また、情報化施工装置1には、影響予測に必要な逆解析対象のパラメータが複数設定され、その各パラメータについての探索範囲が設定される(S2)。
【0047】
ある段階の探索範囲が設定されている場合、情報化施工装置1では、その探索範囲内で、直交表に基づいて各パラメータの値の組み合わせを設定する(S3)。その組み合わせ毎に、情報化施工装置1では、その組み合わせのパラメータの各値を用いて、FEM解析によって、設定されている各計測値に対応する応力や変形についての各解析値をそれぞれ計算する(S4)。そして、情報化施工装置1では、各計測値とそれに対応する各解析値を用いて、式(1)によって誤差を計算し、その誤差が許容誤差より小さいか否かを判定する(S5)。ここでは、直交表によって設定された全ての組み合わせについて判定を行う。
【0048】
ある段階の探索範囲における全ての組み合わせについてS5で誤差が許容誤差以上と判定した場合(その段階の探索範囲では現場における計測値とFEM解析によって推定される解析値とが一致するような最適なパラメータを決定できない場合)、情報化施工装置1では、有意差検定による誤差要因評価を行い(S6)、逆解析対象の各パラメータについて前回よりも小さい探索範囲を再設定する(S7)。そして、情報化施工装置1では、再設定した各パラメータについて設定されている探索範囲内で、S3〜S5の処理を再度行う。
【0049】
ある段階の探索範囲におけるある組み合わせについてS5で誤差が許容誤差より小さいと判定した場合(現場における計測値とFEM解析によって推定される解析値とが一致するような最適なパラメータを決定できた場合)、情報化施工装置1では、そのときの組み合わせのパラメータの各値を各パラメータの最適値としてそれぞれ決定する(S8)。
【0050】
そして、情報化施工装置1では、その各パラメータの最適値を用いて、FEM解析によってトンネル及び周辺構造物についての影響(影響を低減したい箇所の応力や変形)の予測値を計算する(S9)。さらに、情報化施工装置1では、予測値が評価基準値よりも小さいか否かを判定する(S10)。S10にて全ての予測値が評価基準値より小さいと判定した場合、情報化施工装置1では、対策工を選定することなく、処理を終了する。そして、次のトンネル施工段階では、前回の施工段階と同じ施工方法を用いてトンネル施工が行われる。
【0051】
S10にて1つ以上の予測値が評価基準値以上と判定した場合、情報化施工装置1では、対策工データベース2に用意されている各対策工から対策工を順次設定し、その対策工を行った場合の効果検証解析を行い、トンネル及び周辺構造物についての影響の予測値を計算する(S11)。そして、情報化施工装置1では、予測値が評価基準値よりも小さいか否かを判定する(S12)。S12にて1つ以上の予測値が評価基準値以上と判定した場合、情報化施工装置1では、S11の処理に戻って異なる対策工を選定し、S12で再判定を行う。一方、S12にて全ての予測値が評価基準値より小さいと判定した場合、情報化施工装置1では、選定した最新の対策工を出力し、処理を終了する。そして、次のトンネル施工段階では、最終的に選定された対策工を用いてトンネル施工が行われる。
【0052】
この情報化施工装置1によれば、逆解析に実験計画法を採用することにより、多くのパラメータを逆解析対象とした場合でも高効率な逆解析が可能となるので、影響予測に必要な全ての物性値を逆解析対象のパラメータとした逆解析ができ、影響予測に必要な全てのパラメータの最適値を高効率に決定できる。その結果、影響予測に必要な全てのパラメータの最適値を用いてトンネル構造物及びその周辺地盤の地中構造物や地表面構造物への影響を同時に高精度に予測でき、その高精度な影響予測結果に基づいて合理的な対策工を選定できる。合理的な対策工とは、地盤構造物施工による周辺構造物への健全性を確保(影響を低減)しつつコストや工期等を抑えた対策工である。また、高効率な逆解析が可能となるので、逆解析に要する処理負荷を軽減でき、トンネル施工途中の実務の制約された時間内で逆解析が可能となる。
【0053】
また、情報化施工装置1によれば、上記のように合理的な対策工を選定できるので、トンネル施工の生産性向上と周辺構造物の健全性の両立を図ることができる。具体的には、過剰変位の発生による繰り返し(再掘削)等の手戻りの防止、施工コストの最小化、トンネル周辺構造物の健全が可能となる。
【0054】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0055】
例えば、本実施の形態ではトンネルを対象とした情報化施工装置に適用したが、他の地盤構造物を対象としたものでもよく、例えば、ビルの山留め掘削工事や盛土造成工事にも適用できる。
【0056】
また、本実施の形態では情報化施工装置に適用したが、CD−ROM等の記憶媒体に格納されたプログラムやインタネット等のネットワークを介して利用可能なプログラム等に適用し、このようなプログラムをコンピュータ上で実行することによって地盤構造物を対象とした情報化施工を行う構成としてもよい。
【0057】
また、本実施の形態では逆解析や影響予測でFEM解析を適用したが、他の手法を適用してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…情報化施工装置、2…対策工データベース、3…最適パラメータデータ、4…入力部、5…FEM解析部、6…最適パラメータ探索部、7…FEM解析部、8…対策工妥当性判断部、9…出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤構造物を対象とした情報化施工装置であって、
地盤構造物施工に関係する逆解析対象の複数のパラメータに対して実験計画法に基づく逆解析を行い、地盤構造物を施工している現場における応力及び/又は変形を計測した各計測値と前記各計測値に対応する各解析値とが整合するように前記複数のパラメータの各値を決定する逆解析手段と、
前記逆解析手段で決定された複数のパラメータの各値を用いて地盤構造物施工による影響を予測する影響予測手段と、
前記影響予測手段で予測された影響が低減する対策工を選定する対策工選定手段と、
を備えることを特徴とする情報化施工装置。
【請求項2】
前記逆解析手段は、直交表を用いて逆解析対象の複数のパラメータについての各値の組み合わせを設定し、組み合わせ毎に複数のパラメータについての各値を用いて各解析値を求めることを特徴とする請求項1に記載の情報化施工装置。
【請求項3】
前記逆解析手段は、逆解析対象の複数のパラメータについてそれぞれ設定される探索範囲内で複数のパラメータについての各値の組み合わせを設定し、組み合わせ毎に複数のパラメータについての各値を用いて各解析値を求め、地盤構造物を施工している現場における応力及び/又は変形の各計測値と各解析値から導出される誤差が許容誤差以上の場合には複数のパラメータについての各探索範囲を段階的に絞り込み、各計測値と各解析値から導出される誤差が許容誤差より小さくなった場合にはそのときの組み合わせのパラメータの各値を複数のパラメータの最適値として決定することを特徴とする請求項2に記載の情報化施工装置。
【請求項4】
地盤構造物を対象とした情報化施工を行うための情報化施工プログラムであって、
コンピュータに、
地盤構造物施工に関係する逆解析対象の複数のパラメータに対して実験計画法に基づく逆解析を行い、地盤構造物を施工している現場における応力及び/又は変形を計測した各計測値と前記各計測値に対応する各解析値とが整合するように前記複数のパラメータの各値を決定する逆解析機能と、
前記逆解析機能で決定された複数のパラメータの各値を用いて地盤構造物施工による影響を予測する影響予測機能と、
前記影響予測機能で予測された影響が低減する対策工を選定する対策工選定機能と、
を実現させることを特徴とする情報化施工プログラム。
【請求項5】
前記逆解析機能は、直交表を用いて逆解析対象の複数のパラメータについての各値の組み合わせを設定し、組み合わせ毎に複数のパラメータについての各値を用いて各解析値を求めることを特徴とする請求項4に記載の情報化施工プログラム。
【請求項6】
前記逆解析機能は、逆解析対象の複数のパラメータについてそれぞれ設定される探索範囲内で複数のパラメータについての各値の組み合わせを設定し、組み合わせ毎に複数のパラメータについての各値を用いて各解析値を求め、地盤構造物を施工している現場における応力及び/又は変形の各計測値と各解析値から導出される誤差が許容誤差以上の場合には複数のパラメータについての各探索範囲を段階的に絞り込み、各計測値と各解析値から導出される誤差が許容誤差より小さくなった場合にはそのときの組み合わせのパラメータの各値を複数のパラメータの最適値として決定することを特徴とする請求項5に記載の情報化施工プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−255320(P2012−255320A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130201(P2011−130201)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)