説明

情報提示装置及び情報提示システム並びにプログラム

【課題】障害物等が存在する方向や移動方向などの方向に関する情報を、運転者等に正確に提示することができる触覚刺激による情報提示装置等を提供すること。
【解決手段】ステップ110にて、周辺監視装置3からの信号に基づいて、危険物の状態を分析し、どの振動モータ23をどのように駆動させるかを決定する。例えば車両の前方の右側に危険物が存在する場合に、シート20の左側から右側に向かって振動が移動するように制御するときには、振動モータ23の振動を順次右側に移動させるとともに、始点側のみ振動させる振動モータ23の列を2列とし、その後は1列のみ振動させるように、駆動信号を設定する。これにより、(始点のある)左側から(終点のある)右側に向かって、始点側を強調した振動が移動するように各振動モータ23の動作が繰り返されるので、運転席に着座した運転者は、振動が左側から右側に移動することを体感できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のシートに着座した運転者等に対して、触覚刺激によって情報を提示できる情報提示装置及び情報提示システム並びにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自車に接近する危険物を検出し、その危険物の情報を運転者等に提示する各種の自動車用の警告装置が知られている。
例えば下記特許文献1には、赤外線センサや超音波センサ等のセンサを車両に配置して、車両周囲に存在する障害物を検知し、その障害物に関する情報を、運転席等に配置した振動子(バイブレータ)を振動させることによって、運転者などに報知する技術が開示されている。
【0003】
この技術では、運転席等に配置された多数の振動子の振動パターン(どの振動子を振動させるか)を変更することによって、障害物の位置や速度などの情報を提示している。
また、下記特許文献2には、前記特許文献1と同様に、車両に配置された各種のセンサによって障害物を検知し、その障害物による危険状態に応じて、運転席に配置した複数の振動子の振動状態を変更して、運転者に情報を提示する技術が開示されている。
【0004】
この技術は、振動子の振動の周波数、提示時間、振幅などを、人間の感触覚特性に合わせて、仮現運動現象(例えば障害物等の移動方向を示す仮想の振動の現象)が知覚できるように制御することで、運転者に振動による不快感や違和感を与えることなく情報を提示しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−215900号公報
【特許文献2】特開2008−77631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の技術では、障害物の存在方向や移動方向などの方向を示す情報を提示することはできなかった。
また、特許文献2の技術では、障害物の方向を示す情報を提示することは可能であるが、運転席に埋め込まれた振動子の振動によって運転者に情報を提示するという構成上、方向に関する情報を正確に運転者に提示することが容易ではなかった。
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、障害物等が存在する方向や移動方向などの方向に関する情報を、運転者等に正確に提示することができる触覚刺激による情報提示装置及び情報提示システム並びにプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1の発明は、生体に触覚刺激を与える複数の触覚刺激手段を用いて、生体に方向を示す情報を提示する情報提示装置において、前記方向を示す際の始点側となる触覚刺激手段と終点側となる触覚刺激手段とを用い、前記生体に対して始点側を終点側より強調して刺激するように制御する制御手段を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明者等の研究により、運転者等に対して触覚刺激によって方向を提示する場合には、始点側を終点側より強調するように刺激することにより、その方向を明瞭に示すことができることが明らかになっており、その知見に基づいて本発明がなされたものである。
【0010】
つまり、本発明では、複数の触覚刺激手段によって運転者等の触覚を刺激して、方向に関する情報(障害物の存在方向や移動方向などの情報)を提示する際に、始点側を終点側より強調して刺激するように制御するので、従来に比べて、運転者等に方向に関する情報を正確に提示することができる。
【0011】
ここで、「始点側を終点側より強調して刺激する」とは、運転者等の生体に対して、始点側における刺激が終点側における刺激よりも強く知覚されるように、触覚による刺激(例えば振動による刺激)を与えることである。
【0012】
(2)請求項2の発明では、前記触覚刺激手段は、物理的な振動子であることを特徴とする。
本発明は、触覚刺激手段を例示したものである。本発明では、振動により障害物等の方向を明瞭に提示することができる。なお、物理的な振動子としては、例えば加える電力によってその振動の状態が変化する振動モータ、圧電素子などが挙げられる。
【0013】
(3)請求項3の発明では、前記振動子による刺激の強調の程度の制御を、振動の振幅、振動の周波数、及び振動の継続時間のうち、少なくとも1種の調節によって行うことを特徴とする。
【0014】
本発明は、振動子による刺激の強調の程度(強さ:レベル)の制御を例示したものである。ここでは、振動子の振動の振幅を大きくすることにより、また、振動の周波数を低くすることにより、更に、振動の継続時間を長くすることにより、刺激の強調の程度(即ち刺激の強度)を高めることができる。
【0015】
(4)請求項4の発明では、前記振動子による刺激の強調の程度の制御を、振動させる振動子の個数の調節によって行うことを特徴とする。
本発明は、振動子による刺激の強調の程度の制御を例示したものである。ここでは、振動させる振動数の個数を多くすることにより、刺激の強度を高めることができる。
【0016】
(5)請求項5の発明では、前記方向を示す情報を提示する場合には、前記方向に沿って異なる振動子を振動させるとともに、前記始点にて振動させる振動子の数を、前記終点にて振動させる振動子の数より多くすることを特徴とする。
【0017】
本発明は、振動子による刺激の強調の程度の制御を例示したものである。本発明では、例えば図3(b)に示すように、始点として振動させる振動子の個数(S)を、終点として振動させる振動子の数(E:E<S)より多くすることにより、始点側における刺激の強度を終点側より高めることができる。これにより、方向の提示を明瞭に行うことができる。
【0018】
(6)請求項6の発明では、前記方向を示す情報を提示する場合には、前記情報を提示する方向に沿って振動させる振動子を変更するとともに、該振動子の変更の際には、既に振動させた振動子も振動させることを特徴とする。
【0019】
本発明は、振動子による刺激の強調の程度の制御を例示したものである。本発明では、例えば図6(b)に示すように、始点から終点に向かって振動させる振動子を変更するが、振動する振動子を変更する際には、既に振動させた始点側の振動子も合わせて振動させる。
【0020】
本発明者等の実験によれば、このように振動子を振動させた場合でも、従来に比べて、より明瞭に方向を提示することができることが明らかになっている。
この理由は、必ずしも明らかではないが、本発明のように振動子を制御することにより、運転者等にとっては、振動子の振動が始点側から終点側に移動するように感じられるとともに、最初に振動した始点側の振動子も継続的に振動することにより、始点側が常に認識されるからではないかと推定される。
【0021】
(7)請求項7の発明では、前記触覚刺激手段は、自動車のシート及びステアリングの少なくとも一方に埋め込まれていることを特徴とする。
本発明は、触覚刺激手段の取り付け位置を例示したものである。例えばシートの背もたれ部分や座面などに触覚刺激手段を取り付ける場合には、例えば振動子を縦横に面状(平面上)に配列したマトリックス状の配置を採用できる。また、例えばステアリングに触覚刺激手段を取り付ける場合には、例えば振動子を縦横に配置した平面を筒状にしたマトリックス状の配置を採用できる。
【0022】
なお、振動子等のマトリックスとしては、「n≧2、m≧1」又は「n≧1、m≧2」(但し、nは行の個数、mは列の個数)のマトリックスを採用できる。
(8)請求項8の発明では、前記触覚刺激手段を、自動車の周囲の状況を監視する周辺監視装置からの情報に基づいて制御して、危険物の方向を提示することを特徴とする。
【0023】
本発明では、例えばカメラやレーダ等の周辺監視装置からの情報に基づいて危険物の方向を提示するので、その方向の提示を受けた運転者は、より安全な車両の運転が可能となる。
【0024】
(9)請求項9の発明では、前記触覚刺激手段を、ナビゲーション装置からの情報に基づいて制御して、経路案内の方向を提示することを特徴とする。
本発明は、ナビゲーション装置からの情報に基づいて制御して、経路案内の方向を提示するので、その方向の提示を受けた運転者は、より安全な車両の運転が可能となる。
【0025】
(10)請求項10の発明では、前記触覚刺激手段は、自動車のシート及びステアリングに埋め込まれており、前記シートの触覚刺激手段と前記ステアリングの触覚刺激手段との両方の刺激によって、運転者に仮現運動を知覚させて、前記方向を提示することを特徴とする。
【0026】
本発明者等の研究によれば、シートの触覚刺激手段とステアリングの触覚刺激手段との両方の刺激によって、運転者に(実際の振動箇所とは異なる位置にて)仮現運動を知覚させることが可能であることが明らかになっている。
【0027】
つまり、シートに着座してステアリングを握っている運転者は、シートの触覚刺激手段とステアリングの触覚刺激手段とから刺激を受けると、シートとステアリングとの間(例えば腕の中央部分)にて刺激を受けたように感じる(これを仮現運動現象と称する)。従って、この仮現運動によって方向を提示することができる。
【0028】
具体的には、例えばステアリングの振動子をシートの振動子より強く振動させると、腕の中央より前の部分にて仮現運動を生じさせることができる。従って、ステアリングとシートの両振動子の振動の強度を調節することにより、腕(従って車両)の前後方向に仮現運動の発生位置を移動させることがでるので、この仮現運動の発生位置の移動方向によって、方向の提示を行うことができる。
【0029】
また、仮現運動の強度自体は、ステアリングとシートの両振動子の振動の強度を調節することにより制御できる(即ち、両振動子の振動の強度を上げると仮現運動の強度を上げることができる)。
【0030】
よって、ステアリングとシートの両振動子の振動の強度を調節することによって、方向(例えばステアリング側(始点側)からシート側(終点側)への方向)を提示できるとともに、始点側の刺激の強度を終点側より高めることができる。
【0031】
(11)請求項11の発明では、前記触覚刺激手段は、振動モータであることを特徴とする。
本発明は、触覚刺激手段を例示したものである。振動モータは、供給する電力を調節することにより、振動の強度(従って刺激の強度)を調節することができる。
【0032】
(12)請求項12の発明は、前記請求項1〜11のいずれかに記載の情報提示装置を備えた情報提示システムであり、この情報提示システムでは、触角刺激手段を備えるとともに、自車両の周辺を監視する周辺監視装置及びナビゲーション装置のうち少なくとも一方を備えている。
【0033】
(13)請求項13の発明は、コンピュータを、請求項1〜11のいずれかに記載の情報提示装置の制御手段として機能させるためのプログラムである。
このプログラムによって、情報提示装置を上述のように作動させることができる。
【0034】
なお、上述したプログラムは、コンピュータによる処理に適した命令の順番を示すものであり、例えば情報提示装置の備える記憶装置に予め記憶しておくことができ、また、各種記録媒体や通信回線を介して情報提示装置などに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1の情報提示装置を含む情報提示システムを示すブロック図である。
【図2】実施例1の振動モータの配列を示す説明図である。
【図3】(a)は実施例1における振動モータの駆動波形を示すタイミングチャート、(b)はその振動モータの移動位置の変化を示す説明図である。
【図4】実施例1の情報提示装置の制御処理を示すフローチャートである。
【図5】(a)は比較例における振動モータの駆動波形を示すタイミングチャート、(b)はその振動モータの移動位置の変化を示す説明図である。
【図6】(a)は実施例2における振動モータの駆動波形を示すタイミングチャート、(b)はその振動モータの移動位置の変化を示す説明図である。
【図7】実施例3におけるステアリングの振動モータの配置を示す説明図である。
【図8】実施例4における仮現運動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、本発明の情報提示装置及び情報提示システム並びにプログラムの実施例について、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0037】
a)まず、本実施例の情報提示装置を含む情報提示システムについて説明する。
本実施例の情報提示システムは、自車両の周囲の危険物(他車両、人、固定物などの障害物)を検出し、自車両や危険物の状態(位置や速度など)に応じて、危険物の方向(存在する方向や移動方向)を運転者に提示するものである。
【0038】
図1に示す様に、本実施例の情報提示システム1は、自車両の周囲の危険物を検出する周囲監視装置3と、運転者に触覚(振動の感覚)によって危険物の方向を提示する情報提示振動部5と、周辺監視装置3からの情報に基づいて情報提示振動部5の動作を制御する情報提示装置7とを備えている。 また、情報提示装置7には、ナビゲーション装置9も接続されている。
【0039】
以下、各構成について説明する。
前記周辺監視装置3は、前方カメラ11、後方カメラ13、側方カメラ15、赤外線カメラ17、レーザレーダ19等を備えている。
【0040】
前記情報提示振動部5は、運転者のシート20の背もたれ部分21に埋設された複数の振動子(振動モータ)23から構成されている。詳しくは、図2に示す様に、振動モータ23は、シート20の背もたれ部分21の表面に沿った同じ平面上に、横5行×縦5列のマトリックスを形成するように配置されている。
【0041】
図1に戻り、前記情報提示装置7は、危険物の方向(例えば存在する方向)を示すために、情報提示振動部5(詳しくは振動モータ23)の動作を制御するものであり、周知のマイクロコンピュータ(マイコン)25を主要部とし、マイコン25からの信号に基づいて振動モータ23を駆動するための波形を発生させる波形発生部27と、波形発生部27から出力される信号を増幅するアンプ部29とを備えている。なお、アンプ部29は、情報提示装置7とは別体に設けてもよい。
【0042】
また、この情報提示システム1では、前記図2に示す様に、情報提示振動部5の各列の振動子23に対応して、それぞれアンプ31〜39が設けられている。つまり、列1の5個の振動モータ23に対する信号を増幅する第1アンプ31と、列2の5個の振動モータ23に対する信号を増幅する第2アンプ33と、列3の5個の振動モータ23に対する信号を増幅する第3アンプ35と、列4の5個の振動モータ23に対する信号を増幅する第4アンプ37と、列5の5個の振動モータ23に対する信号を増幅する第4アンプ39とを備えている。
【0043】
b)次に、本実施例の情報提示システム1の動作について説明する。
本実施例では、情報駆動振動部5の各振動モータ23を、図3に示す様に駆動する。
具体的には、まず、図3(a)に示す様に、タイミングt0にて、情報提示装置7から情報提示駆動部5(従って振動モータ23)に対して、列1及び列2の全振動モータ23を駆動する信号(振動させる信号)を出力する。即ち、タイミングt0にて、駆動信号をON(オン)にする。
【0044】
次に、タイミングt0から100msec後のタイミングt1にて、列1及び列2の全振動モータ23の振動を停止するために、駆動信号をOFF(オフ)にする。
次に、タイミングt1から100msec後のタイミングt2にて、列3の全振動モータ23を振動させるために、駆動信号をオンにする。
【0045】
次に、タイミングt2から100msec後のタイミングt3にて、列3の全振動モータ23の振動を停止するために、駆動信号をオフにする。
次に、タイミングt3から100msec後のタイミングt4にて、列4の全振動モータ23を振動させるために、駆動信号をオンにする。
【0046】
次に、タイミングt4から100msec後のタイミングt5にて、列4の全振動モータ23の振動を停止するために、駆動信号をオフにする。
次に、タイミングt5から100msec後のタイミングt6にて、列5の全振動モータ23を振動させるために、駆動信号をオンにする。
【0047】
次に、タイミングt6から100msec後のタイミングt7にて、列5の全振動モータ23の振動を停止するために、駆動信号をオフにする。
その後、タイミングt7から100msec後のタイミングt8から、最初のタイミングt0の動作に戻り、このタイミングt0〜t8の動作(A−Bの動作)を所定回数繰り返す。
【0048】
これにより、図3(b)に示す様に、(始点を示す)列1及び列2の振動モータ23の100msecにわたる振動から、順次、100msecの間隔を空けて、列3の振動モータ23の振動、列4の振動モータ23の振動、(終点を示す)列5の振動モータ23の振動が実施され、その始点から終点に到る振動パターンによる動作が繰り返される。なお、図3(b)の灰色の丸部分が振動する振動モータ23を示している。
【0049】
c)次に、本実施例の情報提示装置7のマイコン25にて実施される制御処理について説明する。
図4に示す様に、まず、ステップ(S)100にて、周辺監視装置3の各カメラ11〜17やレーザレーダ19からの信号を入力する。
【0050】
続くステップ110にて、周辺監視装置3からの信号に基づいて、危険物の状態を分析し、その危険物に関する情報の提示が必要と判断されると、その情報を提示するために、どの振動モータ23をどのように駆動させるかを決定する。
【0051】
例えば(運転者から見て)車両の前方の左側に危険物が存在する場合には、振動の移動方向の先に危険物があることを示すために、前記図1に示す様に、シート20の(向かって)左側から右側に向かって振動が移動するように制御する。
【0052】
詳しくは、前記図3(b)に示す様に、振動モータ23の振動を順次右側に移動させるとともに、始点においては振動させる振動モータ23の列を2列とし、その後は(終点まで)1列のみ振動モータ23を振動させるように、駆動信号を設定する。つまり、前記図3(a)に示すタイミングで、対応する振動モータ23に対する駆動信号を出力するように設定する。
【0053】
続くステップ120では、前記ステップ110にて決定した振動モータ23の駆動手順に応じて、順次駆動信号を出力する。
続くステップ130では、上述したA−Bの駆動信号の出力を所定回数繰り返したか否かを判定し、ここで肯定判断されると一旦本処理を終了し、一方否定判断されるとステップ120に戻る。
【0054】
これにより、前記図3(b)の始点のある左側から終点のある右側に向かって、(始点側を強調するとともに)振動が移動するように各振動モータ23の動作が繰り返されるので、運転者は、振動が左側から右側に移動することを明瞭に体感できる。よって、運転者は(シート20に向かって)左側から右側に向かう方向(即ち運転者から見て車両の右側から左側に向かう方向)が提示されたと明確に感じることができる。
【0055】
d)次に、本実施例の効果を確認するために行った実験例について説明する。
・この実験例では、本実施例の情報提示駆動部5を実験用の座席(シート:図示せず)の背もたれ部分に取り付け、そのシートに被験者を着座させ、情報提示装置7から振動モータ23に対して、前記図3(a)に示した駆動信号を出力し(A−B間を10回)、その際の振動の方向の認識率を調べた。
【0056】
具体的には、6人の被験者に対して、シートの振動モータ23に同様な駆動信号を出力した場合に、振動の移動方向が認識できるか否かの官能評価を実施した。
その結果、本実施例の場合には、始点では2列の振動モータ23を振動させ、それ以降の終点までは各1列の振動モータ23を振動させるので、6人全員が明瞭に振動の移動方向を認識できた。
【0057】
・また、比較例の実験も行った。
具体的には、本実施例と同様な情報提示駆動部5を実験用のシートに取り付け、そのシートに被験者を着座させ、情報提示装置7から振動モータ23に対して、駆動信号を出力し、その際の振動の方向の認識率を調べた。
【0058】
ただし、ここでは、本実施例とは異なり、図5(a)に示す様に駆動信号を出力した。詳しくは、図5(b)に示すように、列1、列2、列3、列4、列5の振動モータ23を、それぞれ(100msecの間隔をあけて)100msecにわたり、同図右方向に順次1列ずつ振動させるように制御した。
【0059】
その結果、比較例の場合には、始点から終点まで各1列の振動モータ23を振動させるだけであるので、6人のうち1人だけが振動の移動方向を認識できたのみであった。
e)次に、本実施例の効果について説明する。
【0060】
本実施例では、始点を示す2列の振動モータ23を振動させ、それ以降の終点までは、前記図3(b)の右方向に向かって各1列の振動モータ23を順次振動させるので、運転者は振動の移動方向を明瞭に認識することができる。これにより、運転者は、障害物の存在方向を明瞭に認識することができる。
【0061】
なお、本実施例では、振動モータ23の個数を違えることによって刺激の強調の程度を調節したが、例えば圧電素子などを用いて、振動の振幅、振動の周波数、振動の継続時間を調節することによって、刺激の強度を制御してもよい。
【0062】
また、本実施例においては、ナビゲーション装置9からの情報に基づいて、振動モータ23の動作を制御して、経路案内の方向を提示してもよい。
例えば車両を左折させるように案内する場合には、前記図1に示すように、シート20に向かって右方向に振動を移動させるように制御すればよい。
【実施例2】
【0063】
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
本実施例は、前記実施例2とは、振動モータの駆動方法が異なるのみであるので、異なる点を中心に説明する。なお、実施例1と同じ構成要素については同じ番号を使用する。
【0064】
まず、本実施例の情報提示システムの動作について説明する。
本実施例では、情報駆動振動部5の各振動モータ23を、図6に示す様に駆動する。つまり、各列の振動モータ23の振動が図6(b)の右側に移動するように制御するとともに、一旦振動させた列の振動モータ23は、次の列以降の振動モータ23を振動させる際にも同時に振動させるように制御する。即ち、危険物の存在を示す方向に沿って、振動する振動モータ23の列が増加するように制御する。
【0065】
具体的には、まず、図6(a)に示す様に、タイミングt0にて、情報提示装置7から情報提示駆動部5(従って振動モータ23)に対して、列1の全振動モータ23を振動させる信号を出力する。即ち、タイミングt0にて、駆動信号をオンにする。
【0066】
次に、タイミングt0から100msec後のタイミングt1にて、列1の全振動モータ23の振動を停止するために、駆動信号をオフにする。
次に、タイミングt1から100msec後のタイミングt2にて、列1及び列2の全振動モータ23を振動させるために、駆動信号をオンにする。
【0067】
次に、タイミングt2から100msec後のタイミングt3にて、列1及び列2の全振動モータ23の振動を停止するために、駆動信号をオフにする。
次に、タイミングt3から100msec後のタイミングt4にて、列1〜列3の全振動モータ23を振動させるために、駆動信号をオンにする。
【0068】
次に、タイミングt4から100msec後のタイミングt5にて、列1〜列3の全振動モータ23の振動を停止するために、駆動信号をオフにする。
次に、タイミングt5から100msec後のタイミングt6にて、列1〜列4の全振動モータ23を振動させるために、駆動信号をオンにする。
【0069】
次に、タイミングt6から100msec後のタイミングt7にて、列1〜列4の全振動モータ23の振動を停止するために、駆動信号をオフにする。
次に、タイミングt7から100msec後のタイミングt8にて、列1〜列5の全振動モータ23を振動させるために、駆動信号をオンにする。
【0070】
次に、タイミングt8から100msec後のタイミングt9にて、列1〜列5の全振動モータ23の振動を停止するために、駆動信号をオフにする。
その後、タイミングt9から100msec後のタイミングt10から、最初のタイミングt0に戻り、このタイミングt0〜t10の動作(A−Bの動作)を所定回数繰り返す。
【0071】
これにより、図6(b)に示す様に、(始点を示す)列1の振動モータ23の100msecにわたる振動から、順次、100msecの間隔を空けて、列1及び列2の振動モータ23の振動、列1〜列3の振動モータ23の振動、列1〜列4の振動モータ23の振動、列1〜(終点を示す)列5の振動モータ23の振動が実施され、その始点から終点に到る振動パターンによる動作が繰り返される。
【0072】
この様に、本実施例では、例えば前記図1に示すシート20の(向かって)右側に危険物がある場合には、シート20の左側(始点側)から右側(終点側)に向かって振動が移動するように制御するとともに、前記図6(b)に示す様に、振動する振動モータ23の列が、順次右側に移動するにつれて増加するように制御する。これによって、運転者に対して、危険物の方向を明瞭に示すことができる。
【0073】
本実施例においても、前記実施例1の実験例と同様に、6人の被験者に対して同様な実験を行ったところ、6人のうち5人が明瞭に振動の移動方向を認識できた。
なお、本実施例では、始点側から終点側にゆくほど振動する列が増加するので、一見すると終点側の方が振動が強調される印象があるが、実際には、単に振動の列が移動するだけでなく、振動する列の数(従って振動する部位の幅)も変化することにより、常に始点側が意識されることにより、方向性がより明瞭になると推定される。
【実施例3】
【0074】
次に、実施例3について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
本実施例は、ステアリングにも、前記実施例1と同様に、方向を示すための振動モータが配置されている。
【0075】
図7に示す様に、本実施例では、ステアリング41の一部(運転者の手が触れる部分)に、ステアリング41を巻くように(筒状に)、例えば縦3列×横3列のマトリックスにて振動モータ43が配置されている。
【0076】
従って、例えば矢印A方向の方向提示を行う場合(例えば「後方に接近車両あり」を示す場合)には、上部の横方向の1行の3個の振動モータ43から、中央の1行の3個の振動モータ43、下部の1行の3個の振動モータ43の順番で、順次振動モータ43を駆動させるとともに、その動作を所定回数繰り返す。
【0077】
しかも、この際には、始点を示す上部の1行の振動モータ43の振動の強度を、他の中央の1行及び(終点を示す)下部の1行の振動モータ43の振動の強度より大きくする。なお、例えば振動モータ43に印加する電圧を大きくすることにより、振動の強度(振動の振幅等)を大きくすることができる。
【0078】
これにより、矢印A方向の方向提示を行うことができるとともに、始点側の刺激の強度を終点側より大きくできるので、方向をより明瞭に提示することができる。
また、例えば矢印B方向の方向提示を行う場合(例えば次の交差点で右折の場合)には、左側の縦方向の1列の3個の振動モータ43から、中央の1列の3個の振動モータ43、右側の1列の3個の振動モータ43の順番で、順次振動モータ43を駆動させるとともに、その動作を所定回数繰り返す。
【0079】
この場合も、前記と同様に、始点を示す左側の1列の振動モータ43の振動の強度を、他の中央の1列及び(終点を示す)右側の1列の振動モータ43の振動の強度より大きくする。
【0080】
これにより、矢印B方向の方向提示を行うことができるとともに、始点側の刺激の強度を終点側より大きくできるので、方向をより明瞭に提示することができる。
【実施例4】
【0081】
次に、実施例4について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
図8に示す様に、本実施例では、ステアリング51とシート53との両方に、それぞれ振動モータ55、57が配置されている。
【0082】
本発明者等の研究によれば、ステアリング51の振動モータ55とシート53の振動モータ57とを、共に同じ強度で振動させた場合には、運転者は、あたかも両振動モータ55、57の中間位置(即ち腕の中央近傍)で振動が発生したように体感することが明らかになっている。なお、両振動モータ55、57の振幅、周波数、振動継続時間等を同じとすることによって、振動の強度を同程度に設定することができる。
【0083】
つまり、ステアリング51の振動モータ55とシート53の振動モータ57とを、同じ強度で振動させた場合には、両振動モータ55、57の中間位置にて、振動が発生したかのような(刺激を受けたかのような)いわゆる仮現運動が発生する。
【0084】
この仮現運動が発生する位置は、ステアリング51の振動モータ55の振動の強度とシート53の振動モータ57の振動の強度との関係で前後する。即ち、ステアリング51の振動モータ55の振動の強度の方がシート53の振動モータ57の振動の強度より高いと、仮現運動の発生位置は、中央よりもステアリング51の振動モータ55側となる。つまり、仮現運動の発生位置は、振動の強度の高い側に移動する。
【0085】
従って、前後の振動モータ55、57の振動の強度を調節することで、仮現運動の発生位置を前後に移動させることができる。
例えば仮現運動の発生位置を前方より後方に移動させる場合には、前方の振動モータ55の強度を徐々に弱めるとともに、後方の振動モータ57の強度を除去に強める。
【0086】
また、仮現運動自体の強度は、前後の振動モータ55、57の振動の強度に依存する。よって、前後の振動モータ55、57の振動の強度を共に弱めると、仮現運動の強度が低下し、逆に、前後の振動モータ55、57の振動の強度を共に強めると、仮現運動の強度が増加する。
【0087】
従って、これらの特性を利用して、前記実施例1の様に、始点側から終点側に刺激が移動したかのように知覚させるとともに、始点側の刺激の強調の程度を終点側より高めることができる。
【0088】
具体的には、例えば前方から後方に向かって仮現運動の発生位置を移動させて方向の提示を行う場合には、まず、前後の振動モータ55、57の振動の強度を大きく設定する(レベルB以上)とするとともに(設定1)、前方の振動モータ55の振動の強度(レベルA)を後方の振動モータ57の振動の強度(レベルB)より大きくする。これにより、腕の中央部分より前方にて強く知覚される仮現運動を発生させることができる。なお、強度の程度は、レベルA>B>C>Dとする。
【0089】
次に、前後の振動モータ55、57の振動の強度を、前記設定1よりも低く設定する(レベルC以下)とするとともに、前方の振動モータ55の振動の強度(レベルD)を後方の振動モータ57の振動の強度(レベルC)より弱くする。これにより、腕の中央部分より後方にて弱く振動する仮現運動を発生させることができる。
【0090】
このようにして、始点側から終点側に刺激が移動したかのように知覚させるとともに、始点側の刺激の強調の程度を終点側より高めることができる。
本実施例によっても、前記実施例1等と同様に、前後方向の方向提示を行うことができるとともに、始点側の刺激の強度を終点側より大きくできるので、方向をより明瞭に提示することができる。
【0091】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えば前記実施例では、情報提示装置について述べたが、その制御内容については、情報提示装置を制御するマイクロコンピュータのプログラムによって実現できる。
【0092】
なお、このプログラムは、マイクロコンピュータとして構成される電子制御装置、マイクロチップ、フレキシブルディスク、ハードディスク、DVD、光ディスク等の各種の記録媒体に記録できるが、単に記録媒体に記憶されたものに限定されることなく、例えばインターネットなどの通信ラインにて送受信されるプログラムにも適用される。
【0093】
(2)また、前記実施例では、波形発生部やアンプ部を備えた構成を情報提示装置としたが、情報提示装置に情報提示装置を接続した構成を情報提示装置としてもよく、また、振動モータの動作を制御するマイコン自体を情報提示装置としてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…情報提示システム
3…周辺監視装置
7…情報提示装置
9…ナビゲーション装置
20、53…シート
23、43、53、57…振動モータ
27…波形発生部
29…アンプ部
43…ステアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に触覚刺激を与える複数の触覚刺激手段を用いて、生体に方向を示す情報を提示する情報提示装置において、
前記方向を示す際の始点側となる触覚刺激手段と終点側となる触覚刺激手段とを用い、前記生体に対して始点側を終点側より強調して刺激するように制御する制御手段を備えたことを特徴とする情報提示装置。
【請求項2】
前記触覚刺激手段は、物理的な振動子であることを特徴とする請求項1に記載の情報提示装置。
【請求項3】
前記振動子による刺激の強調の程度の制御を、振動の振幅、振動の周波数、及び振動の継続時間のうち、少なくとも1種の調節によって行うことを特徴とする請求項2に記載の情報提示装置。
【請求項4】
前記振動子による刺激の強調の程度の制御を、振動させる振動子の個数の調節によって行うことを特徴とする請求項2に記載の情報提示装置。
【請求項5】
前記方向を示す情報を提示する場合には、前記方向に沿って異なる振動子を振動させるとともに、前記始点にて振動させる振動子の数を、前記終点にて振動させる振動子の数より多くすることを特徴とする請求項4に記載の情報提示装置。
【請求項6】
前記方向を示す情報を提示する場合には、前記方向に沿って振動させる振動子を変更するとともに、該変更した振動子を振動させる際には、既に振動させた振動子も振動させることを特徴とする請求項4に記載の情報提示装置。
【請求項7】
前記触覚刺激手段は、自動車のシート及びステアリングの少なくとも一方に埋め込まれていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の情報提示装置。
【請求項8】
前記触覚刺激手段を、自動車の周囲の状況を監視する周辺監視装置からの情報に基づいて制御して、危険物の方向を提示することを特徴とする請求項7に記載の情報提示装置。
【請求項9】
前記触覚刺激手段を、ナビゲーション装置からの情報に基づいて制御して、経路案内の方向を提示することを特徴とする請求項7に記載の情報提示装置。
【請求項10】
前記触覚刺激手段は、自動車のシート及びステアリングに埋め込まれており、前記シートの触覚刺激手段と前記ステアリングの触覚刺激手段との両方の刺激によって、運転者に仮現運動を知覚させて、前記方向を提示することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の情報提示装置。
【請求項11】
前記触覚刺激手段は、振動モータであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の情報提示装置。
【請求項12】
前記請求項1〜11のいずれかに記載の情報提示装置に、前記触角刺激手段を備えるとともに、自車両の周辺を監視する周辺監視装置及びナビゲーション装置のうち少なくとも一方を備えたことを特徴とする情報提示システム。
【請求項13】
コンピュータを、請求項1〜11のいずれかに記載の情報提示装置の前記制御手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−48566(P2011−48566A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195630(P2009−195630)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(505195384)国立大学法人奈良女子大学 (15)
【Fターム(参考)】