説明

情報表示装置、レーダ装置、ソナー装置、及び情報表示方法

【課題】センサの検出内容に所定の処理を行って得られる情報を表示する情報表示装置において、検出対象が信号処理の影響で消えたのか検出対象自体が存在しないのかをユーザが把握できるように情報の表示を行う構成を提供する。
【解決手段】レーダ指示器(情報表示装置)は、センサ信号取得部と、信号処理部と、表示部と、を備える。センサ信号取得部は、レーダアンテナの検出内容を示す信号であるセンサ信号を取得する。信号処理部は、センサ信号取得部が取得したセンサ信号に対して、第1信号処理部による第1信号処理と、第2信号処理部による第2信号処理と、を行う。表示部は、第1信号処理部を行った第1情報を表示画面に表示するとともに、第2信号処理を行った第2情報のうち、前記第1情報と異なる情報を、当該第1情報と異なる表示形態(表示色等)で表示画面に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、センサが検出した情報を表示する情報表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置が備えるアンテナは、物標や陸からのエコー(反射波)以外にも、波からのエコー(海面反射)や、雨や雪からのエコー(雨雪反射)を受信する。そこで従来から、このような不要なエコーを抑圧(除去)するために、信号レベルを所定量だけ減算する処理(ゲイン調整処理)が行われている。
【0003】
以下、海面反射を抑圧するために行うゲイン調整処理について、図8及び図9を参照して説明する。図8は、適切なゲイン調整処理によって海面反射が抑圧される様子を説明する図である。図9は、様々なゲイン調整処理を行ったときの表示画面を示す図である。
【0004】
図8(a)には、上記ゲイン調整処理を行う前のエコー信号(海面反射等を含む)を示すグラフが示されている。この図8(a)に示すように、海面反射は、レーダアンテナに近い位置では信号レベルが強力で、距離が離れると急激に信号レベルが低下するという特性がある。この特性を考慮し、レーダ装置においては、アンテナからの距離が離れるにつれて除去する信号レベルを小さくするためのカーブ(海面反射除去用カーブ)が設定される(図8(b)を参照)。そして、ゲイン調整処理を行う前のエコー信号から、この海面反射除去用カーブから得られる値を減算することにより、船舶を示すエコー信号を抽出する(海面反射を抑圧する)ことができる(図8(c)を参照)。
【0005】
同様にして、雨雪反射等を抑圧することにより、不要なエコーを適切に抑圧したレーダ映像(図9(b))を作成することができる。これにより、ゲイン調整処理を行わずに作成したレーダ映像(図9(a))と比較して、必要なエコーを見易く表示できる。
【0006】
また、特許文献1は、雨雪反射を効果的に除去する構成のレーダ装置を開示する。このレーダ装置が備える区間判定部は、受信したエコー信号に基づいて、当該エコーが存在する距離範囲が「陸/物標区間」であるか「雨雪/ノイズ区間」であるかを判定する。そして、レーダ装置は、「雨雪/ノイズ区間」であると判定された距離範囲について、この距離範囲のエコー信号に応じて決定された値を用いて雨雪反射の抑圧処理を行う。
【0007】
なお、このレーダ装置は、「雨雪/ノイズ区間」と判定された領域を半透明の色で塗りつぶして表示する構成についても開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−2425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記のゲイン調整処理において、海面反射除去用カーブ等の設定は容易ではない。例えば図10(a)のグラフに示すように、海面反射除去用カーブの値が強過ぎる場合、船舶を示すエコー信号についても抑圧されてしまう(図10(b)を参照)。この結果、必要な情報が抑圧されたレーダ映像(図9(c))が作成されてしまう。
【0010】
従って、レーダ映像を参照するユーザは、レーダ映像上に何も表示されていない場合、信号処理によって船舶を示すエコーが抑圧されているのか、船舶自体がそこに存在しないのか、が分からなくなることがある。この場合、ユーザは、上記のゲイン調整処理の設定を再び行って、船舶の存在の有無を確認する必要がある。
【0011】
また、この課題は、船舶用レーダ装置だけでなく、センサの検出内容に対して信号処理を行うことで当該検出内容が抑圧される可能性がある機器全般に共通するものである。
【0012】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、センサの検出内容に所定の処理を行って得られる情報を表示する情報表示装置において、検出対象が信号処理の影響で消えたのか検出対象自体が存在しないのかをユーザが把握できるように情報の表示を行う構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0013】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0014】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の情報表示装置が提供される。即ち、この情報表示装置は、センサ信号取得部と、信号処理部と、表示部と、を備える。前記センサ信号取得部は、センサの検出内容を示す信号であるセンサ信号を取得する。前記信号処理部は、前記センサ信号取得部が取得したセンサ信号に対して、第1信号処理と、当該第1信号処理と異なる信号処理である第2信号処理と、を行う。前記表示部は、前記第1信号処理を行った第1情報を表示画面に表示するとともに、前記第2信号処理を行った第2情報のうち、前記第1情報と異なる情報を、当該第1情報と異なる表示形態で前記表示画面に表示する。
【0015】
これにより、メインの情報(第1情報)に加え、補助的な情報(第2情報)を併せて表示することができる。従って、例えばノイズ除去を目的とする第1信号処理を行うことによって、第1情報の一部が抑圧されたとしても、当該抑圧部分について代わりに第2情報を表示することができる。そのため、例えば検出対象が表示画面に表示されていない場合に、信号処理の影響なのか、それとも検出対象自体が存在しないのか、についてユーザが混乱することを防止できる。
【0016】
前記の情報表示装置においては、前記表示部は、階調の変化を有する前記第1情報と、階調の変化のない前記第2情報と、を表示することが好ましい。
【0017】
これにより、第1情報の内容(計測値の強弱等)を分かり易くするとともに、全体の情報のうちどの部分が第2情報であるかが把握し易くなる。特に、第2情報を過度に目立たない表示形態(網掛け等)とすることで、当該情報が補助的な情報であることを直感的に把握することができる。
【0018】
前記の情報表示装置においては、前記表示部は、前記第1情報と前記第2情報とで表示色を異ならせることが好ましい。
【0019】
これにより、簡単な構成で、第1情報と第2情報とを見分けることができる。特に、第2情報を過度に目立たない表示色とすることで、当該情報が補助的な情報であることを直感的に把握することができる。
【0020】
前記の情報表示装置においては、前記第2信号処理に処理を付加したものが前記第1信号処理であることが好ましい。
【0021】
これにより、付加した処理によって仮に第1情報の一部が抑圧されても、当該抑圧部分について代わりに第2情報を表示することができる。従って、例えば、センサの検出対象を参照したままで、強めのノイズ抑圧処理を行うことができる。
【0022】
前記の情報表示装置においては、前記第1信号処理及び前記第2信号処理は、同種の信号処理であり、信号処理に用いるパラメータのみが互いに異なることが好ましい。
【0023】
これにより、例えば信号処理部がノイズ抑圧処理を行う場合、第1信号処理のパラメータを第2信号処理と異ならせることで、ノイズを十分に抑圧して第1情報の一部が表示画面から消えた場合でも、当該消えた情報を第2情報によって表示画面に表示させることができる。
【0024】
前記の情報表示装置においては、前記同種の信号処理は、ゲイン調整処理であることが好ましい。
【0025】
これにより、ノイズと検出対象との信号レベルが近い場合であって、それらを除去するようなゲイン調整が行われた場合であっても、検出対象が表示画面から消えることを防止できる。
【0026】
前記の情報表示装置においては、前記同種の信号処理は、スキャン相関処理であることが好ましい。
【0027】
これにより、高速で移動する検出対象を除去するスキャン相関処理が行われた場合であっても、当該検出対象が表示画面から消えることを防止できる。
【0028】
前記の情報表示装置においては、前記第1信号処理に含まれる前記同種の信号処理と、前記第2信号処理に含まれる前記同種の信号処理と、のうち一方は、信号処理のパラメータを自動的に調整し、他方は、ユーザの設定値に基づいてパラメータを調整することが好ましい。
【0029】
これにより、ユーザの操作による信号処理と、自動的に調整された信号処理と、の間で相互補完を行うことができる。
【0030】
前記の情報表示装置においては、前記第1信号処理に含まれる前記同種の信号処理と、前記第2信号処理に含まれる前記同種の信号処理と、のうち一方に設定されるパラメータは、他方に設定されるパラメータを一定量だけ上昇又は下降させた値であることが好ましい。
【0031】
これにより、例えば、パラメータを調整することで第1情報から検出対象が消える前に、当該検出対象を第2情報によって表示させることが可能となる。従って、表示対象が表示画面から完全に消える前に、パラメータの再設定を行うことができる。
【0032】
本発明の第2の観点によれば、前記の情報表示装置と、前記センサとしてのレーダアンテナと、を備えるレーダ装置が提供される。
【0033】
即ち、移動体を探知するレーダ装置を利用する場合、信号処理の影響で移動体が表示画面に表示されていないのか、それとも移動体自体が存在しないのか、についてユーザは確実に把握することが望ましい。従って、これを把握可能とする本発明の効果を特に有効に発揮させることができる。
【0034】
本発明の第3の観点によれば、前記の情報表示装置と、前記センサとしての音波送受信装置と、を備えるソナー装置が提供される。
【0035】
これにより、上記の効果をソナー装置において発揮させることができる。
【0036】
本発明の第4の観点によれば、以下の情報表示方法が提供される。即ち、この情報表示方法は、センサ信号取得工程と、信号処理工程と、表示工程と、を含む。前記センサ信号取得工程では、センサの検出内容を示す信号であるセンサ信号を取得する。前記信号処理工程では、前記センサ信号取得工程で取得したセンサ信号に対して、第1信号処理と、当該第1信号処理と異なる信号処理である第2信号処理と、を行う。前記表示工程では、前記第1信号処理を行った第1情報を表示画面に表示するとともに、前記第2信号処理を行った第2情報のうち、前記第1情報と異なる情報を、当該第1情報と異なる表示形態で前記表示画面に表示する。
【0037】
これにより、メインの情報(第1情報)に加え、補助的な情報(第2情報)を併せて表示することができる。従って、例えばノイズ除去を目的とする第1信号処理を行うことによって、第1情報の一部が抑圧されたとしても、当該抑圧部分について代わりに第2情報を表示することができる。そのため、例えば検出対象が表示画面に表示されていない場合に、信号処理の影響なのか、それとも検出対象自体が存在しないのか、についてユーザが混乱することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態に係るレーダ装置のブロック図。
【図2】第1情報、第2情報、及びそれらから作成されるセンサ映像を示す図。
【図3】センサ映像の表示例を示す図。
【図4】第2信号処理部が行うゲイン調整処理を説明する図。
【図5】第2信号処理部が行うゲイン調整処理を説明する図。
【図6】第2信号処理部が行うゲイン調整処理の他の例を説明する図。
【図7】第1信号処理部及び第2信号処理部が行う処理の例を示すブロック図。
【図8】適切なゲイン調整処理によって海面反射が抑圧される様子を説明する図。
【図9】様々なゲイン調整処理を行ったときの表示画面を示す図。
【図10】過剰なゲイン調整処理によって船舶を示すエコーまでもが抑圧される様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本実施形態に係るレーダ装置1のブロック図である。図2は、第1情報、第2情報、及びそれらから作成されるセンサ映像を示す図である。図3は、センサ映像の表示例を示す図である。
【0040】
本実施形態のレーダ装置1は、漁船等の船舶に備えられる舶用レーダであり、主に他船等の物標の探知に用いられる。図1に示すように、このレーダ装置1は、アンテナユニット10と、レーダ指示器(映像表示装置)20と、を備えている。
【0041】
アンテナユニット10は、船舶の所定の位置に取り付けられている。このアンテナユニット10は、レーダアンテナ(センサ)11と、送受信部12と、を備えている。
【0042】
レーダアンテナ11は、指向性の強いパルス状電波を送信するとともに、物標からのエコー(反射波)を受信できるように構成されている。この構成で、レーダアンテナ11がパルス状電波を送信してからエコーを受信するまでの時間を測定することにより、自船から物標までの距離を知ることができる。また、レーダアンテナ11は水平面内で360°回転可能に構成され、パルス状電波の送信方向を変えながら(レーダアンテナ11の角度を変化させながら)電波の送受信を繰り返し行うように構成されている。この構成により、自船周囲の平面上の物標を360°にわたり探知することができる。以下の説明では、パルス状電波を送信してから次のパルス状電波を送信するまでの動作を「スイープ」と称することがある。
【0043】
なお、このパルスレーダに代えて、CW(continuous wave)レーダやパルスドップラーレーダを用いても良い。また、上記の構成に代えて、レーダアンテナを回転させない構成のレーダ装置を用いても良い。例えば、全周方向にアンテナ素子を有する構成のレーダ装置や、前方等の特定の方向のみを探知するレーダ装置等は、レーダアンテナを回転させなくても周囲を探知することができる。
【0044】
送受信部12は、レーダアンテナ11が受信したエコー信号をサンプリングし、デジタル化したエコー信号(センサ信号)をレーダ指示器20へ出力するように構成されている。
【0045】
レーダ指示器20は、センサ信号取得部21と、スイープメモリ22と、信号処理部23と、画像処理部24と、表示部25と、操作部26と、を備えている。
【0046】
センサ信号取得部21は、アンテナユニット10と通信を行うためのインタフェースである。センサ信号取得部21は、レーダアンテナ11の検出結果を示す信号である前記センサ信号を取得して、スイープメモリ22へ出力する。
【0047】
スイープメモリ22は、センサ信号を1スイープ分リアルタイムで記憶することができるバッファメモリである。スイープメモリ22には、1スイープの間にサンプリングされた前記センサ信号が、時系列順で記憶されている。従って、スイープメモリ22からセンサ信号を読み出すときの読出しアドレスに基づいて、当該センサ信号に対応する物標(エコー源)までの距離を求めることができる。また、レーダアンテナ11には図略の方位センサが取り付けられており、この方位センサの検出結果もセンサ信号取得部21を介してスイープメモリ22へ送信されている。従って、スイープメモリ22からセンサ信号を読み出す際は、当該センサ信号に対応する物標の位置を得ることができる。
【0048】
信号処理部23は、スイープメモリ22から入力されたセンサ信号に基づいて、所定の信号処理を行う。信号処理部23は、第1信号処理部51と、第2信号処理部52と、で構成されている。本実施形態では、第1信号処理部51及び第2信号処理部52は、ともにゲイン調整処理を行う。
【0049】
第1信号処理部51は、ユーザの操作に応じたゲイン調整パラメータでゲイン調整処理を行い、調整後のエコー信号に基づいてレーダ映像(第1情報)を作成する(図2(a)を参照)。第1情報は、図面では1色で表示されているが、実際は信号レベルの強さに応じて階調を変化させて表示されるものとする。なお、第1情報の表示に用いる色は、任意の色を用いることができる。第1信号処理部51が作成した第1情報は画像処理部24へ出力される。
【0050】
第2信号処理部52は、センサ信号取得部21が取得したセンサ信号に基づいてゲイン調整パラメータを算出する処理を行い、当該算出したゲイン調整パラメータでゲイン調整処理を行う。そして、第2信号処理部52は、調整後のエコー信号に基づいてレーダ映像(第2情報)を作成する(図2(a)を参照)。第2情報は、第1情報と異なり、階調の変化がない。そのため、第2信号処理部52は、エコー信号が所定の閾値より強いか弱いかに基づいて第2情報を作成する。なお、上記の閾値は、距離に応じて変化するように設定されても良い。第2信号処理部52が作成した第1情報は画像処理部24へ出力される。なお、第2信号処理部52が第2情報を作成する処理の詳細については後述する。
【0051】
画像処理部24は、第1情報及び第2情報に基づいて、センサ映像を作成する。このとき、画像処理部24は、第2情報上に第1情報を重ねるようにして、センサ映像を作成する(図2(b)を参照)。つまり、画像処理部24は、第1情報と、第2情報のうち第1情報と異なる情報(重ならない部分)と、を合成して、センサ映像を作成する。画像処理部24は、以上のようにして作成したセンサ映像を表示部25へ出力する。
【0052】
表示部25は、カラー表示が可能な液晶ディスプレイ等によって構成される。表示部25は、図3に示すように、センサ映像を表示画面に表示する。
【0053】
操作部26は、操作キー及び操作ノブ等で構成されている。ユーザは、この操作部26を操作することにより、レーダ指示器20等に対して各種操作及び指示が可能となっている。特に、本実施形態では、ユーザが操作部26を操作することで第1信号処理部51が行う信号処理の設定値を指定可能である。第1信号処理部51は、この設定値に基づいて信号処理のパラメータを変化させる。
【0054】
以上のように、本実施形態の表示部25は、メインとなるレーダ映像(第1情報)に加え、補助的なレーダ映像(第2情報)を併せて表示することができる。これにより、例えば、ユーザが操作部26を操作して比較的強めのゲイン調整パラメータを設定し、船舶等を示すエコーが第1情報から消えてしまった場合であっても、当該エコー(即ち、第1情報に現れない潜在的なエコー)を第2情報によって表示画面に表示することができる。そのため、ユーザは、エコーの見落としを防ぐことができる。
【0055】
次に、第2信号処理部52が物標の有無を判定するために行うゲイン調整処理について、図4及び図5を参照して説明する。図4及び図5は、第2信号処理部52が行うゲイン調整処理を説明する図である。
【0056】
図4(a)は、ゲイン調整処理前のエコー信号(センサ信号)を示すグラフである。図4(a)に示すように、エコー信号には、船舶からのエコー信号に加え、波からのエコー信号(海面反射)や、雨や雪からのエコー信号(雨雪反射)や、バックグラウンドノイズが含まれる。なお、第2信号処理部52がゲイン調整処理を行う方法は無数に存在するが、以下では、(1)バックグラウンドノイズを除去するためのゲイン調整処理、(2)海面反射及びバックグラウンドノイズを除去するためのゲイン調整処理、及び(3)海面反射、雨雪反射、及びバックグラウンドノイズを除去するためのゲイン調整処理のそれぞれに用いるパラメータについて説明する。
【0057】
図4(b)には、バックグラウンドノイズを除去するためのバックグラウンドノイズ除去用ラインが示されている。このバックグラウンドノイズ除去用ラインは、遠距離のエコー信号の信号レベルを平均することで求められる。第2信号処理部52は、初めに、受信したエコー信号から、このバックグラウンドノイズ除去用ラインから得られる値を減算する。次に、第2信号処理部52は、減算の結果エコー信号の信号レベルが存在する(信号レベルが0以上である)領域については、船舶等の物標が存在すると判断する。第2信号処理部52は、以上のようにして、バックグラウンドノイズを除去して物標の有無を判断する。
【0058】
図5(a)には、上記のバックグラウンドノイズ除去用ラインに加え、海面反射を除去するための海面反射除去用カーブが示されている。海面反射は、レーダアンテナ11に近い位置では信号レベルが強力で、距離が離れると急激に信号レベルが低下するという特性がある。従って、海面反射除去用カーブは、レーダアンテナ11からの距離に応じて領域を作成し、この領域のエコー信号を平均することで求められる。第2信号処理部52は、受信したエコー信号から、海面反射が支配的な部分については海面反射除去用カーブから得られる値を減算し、それ以外についてはバックグラウンドノイズ除去用ラインから得られる値を減算する。次に、第2信号処理部52は、減算の結果、エコー信号の信号レベルが存在する領域については、船舶等の物標が存在すると判断する。第2信号処理部52は、以上のようにして、海面反射及びバックグラウンドノイズを除去して物標の有無を判断する。
【0059】
図5(b)には、上記のバックグラウンドノイズ除去用ライン及び海面反射除去用カーブに加え、雨雪反射を除去するための雨雪反射除去用カーブが示されている。雨雪反射は、レーダアンテナ11からの距離だけでなく天候等の影響も受ける。従って、このゲイン調整処理では、上記で海面反射除去用カーブを求めるために行った処理を、レーダアンテナ11の近傍だけでなくより遠い場所についても行う。これにより、海面反射、雨雪反射、及びバックグラウンドノイズを除去可能なカーブ及びラインを形成することができる。第2信号処理部52は、エコー信号からこれらを減算し、エコー信号の信号レベルが存在する領域については、船舶等の物標が存在すると判断する。第2信号処理部52は、以上のようにして、海面反射、雨雪反射、及びバックグラウンドノイズを除去して物標の有無を判断する。
【0060】
このように、第2信号処理部52は、受信したエコー信号に基づいてゲイン調整パラメータを求めて、エコー信号から減算することにより、物標の有無についてある程度妥当性のある結果を算出する。従って、表示部25の表示画面には、この妥当性のある結果を補助的なセンサ映像として表示し続けることができる。
【0061】
なお、上記の構成に代えて、ユーザの操作により第2信号処理部52のゲイン調整パラメータが設定され、第1信号処理部51のゲイン調整パラメータが自動的に算出される構成であっても良い。この構成では、自動的に算出されたゲイン調整パラメータを用いて作成されたセンサ映像がメインのセンサ映像になるため、精度良くゲイン調整パラメータが算出可能な場合に好適である。
【0062】
また、他の構成として、図6に示すように、第2信号処理部52のゲイン調整パラメータが、第1信号処理部51のゲイン調整パラメータを所定量だけ弱くした値となるように設定される構成を挙げることができる。この構成では、第1情報からエコーが消える際に、代わりに第2情報で当該エコーが表示される。従って、例えば、表示画面からエコーが表示されなくなる前に第1信号処理部51のゲイン調整パラメータを再調整して、当該エコーを消えないようにすることができる。
【0063】
このように、ゲイン調整パラメータが異なっていれば、第1信号処理部51及び第2信号処理部52におけるゲイン調整パラメータの設定方法は任意である。
【0064】
また、上記の構成では、図7(a)に示すように、第1信号処理部51及び第2信号処理部52がゲイン調整処理を行う構成であるが、図7(b)に示すように、ゲイン調整処理に代えて(又は加えて)、スキャン相関処理を行う構成であっても良い。
【0065】
スキャン相関処理とは、最新のエコー信号と過去のエコー信号との相関をとることにより、時間的に安定して検出される信号(過去の信号との相関性が高い信号)は残しつつ、時間的にランダムに変動する信号(過去のエコー信号との相関性が低い信号)を抑圧する処理である。例えば、他船、ブイ及び陸地等を示すエコーは、時間的に安定して検出される信号である。一方、海面反射に基づくエコーは、時間的にランダムに変動する信号である。従って、エコー信号に対して上記スキャン相関処理を行うことにより、海面反射に基づく信号のみを抑圧することができる。しかし、例えば他船が高速で移動していると、当該他船からのエコーはスキャン毎に異なる位置で検出されることとなり、見かけ上は信号が安定していないように見えてしまう。この結果、高速移動物標のエコーが抑圧されてしまうことがある。
【0066】
なお、スキャン相関処理に用いるパラメータを大きくすることにより、時間的にランダムに変動する信号をより強く抑圧することができる。図7(b)に示す構成では、このスキャン相関処理に用いるパラメータを第1信号処理部51と第2信号処理部52とで異ならせる構成である。例えば、第2信号処理部52が行うスキャン相関処理に用いるパラメータを第1信号処理部51よりも所定量小さくして直近のエコーが優先的に表示されるようにすることで、高速で移動する物標が第1情報から消える際に、代わりに第2情報として当該エコーが表示される。従って、例えば、エコーが表示されなくなる前にパラメータの再調整等を行うことができる。
【0067】
また、第1信号処理部51及び第2信号処理部52で行う信号処理は、同種の信号処理同士でなくても良い。例えば、図7(c)に示すように、第1信号処理部51においてゲイン調整処理及びスキャン相関を行い、第2信号処理部52においてゲイン調整処理のみを行う構成であっても良い。この構成は、第2信号処理部52によって行われる信号処理に処理を付加したものが第1信号処理部51によって行われる処理であると表現することができる。
【0068】
このように、行う信号処理の種類及びパラメータのうち少なくとも一方が異なっていれば、第1信号処理部51が行う第1信号処理及び第2信号処理部52が行う第2信号処理は、任意のものとすることができる。
【0069】
以上に説明したように、本実施形態のレーダ指示器20は、センサ信号取得部21と、信号処理部23と、表示部25と、を備える。センサ信号取得部21は、レーダアンテナ11の検出内容を示す信号であるセンサ信号を取得する。信号処理部23は、センサ信号取得部が取得したセンサ信号に対して、第1信号処理部51による第1信号処理と、第2信号処理部52による第2信号処理と、を行う。表示部25は、第1信号処理部51を行った第1情報を表示画面に表示するとともに、第2信号処理を行った第2情報のうち、第1情報と異なる情報を、当該第1情報と異なる表示形態(本実施形態では異なる表示色)で表示画面に表示する。
【0070】
これにより、メインのセンサ映像(第1情報)に加え、補助的なセンサ映像(第2情報)を併せて表示することができる。従って、ゲイン調整処理を行うことによって、第1情報のエコーが一部表示されなくなったとしても、当該部分について代わりに第2情報のエコーを表示することができる。そのため、例えば船舶等の物標が表示画面に表示されていない場合に、信号処理の影響なのか、それとも船舶自体が存在しないのか、についてユーザが混乱することを防止できる。
【0071】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0072】
第1情報及び第2情報は、表示部25に表示する際の表示形態が互いに異なる構成であれば任意の表示形態で表示することができる。第1情報は、例えば、信号レベルに応じて色の彩度又は明度が変化する構成とすることができる。第2情報は、例えば、半透明で表示したり、網掛けを用いて表示したりすることができる。なお、第1情報及び第2情報は、信号処理部23が信号処理を行うことで得られる情報であるので、上記実施形態のように映像に限られない。
【0073】
画像処理部24によるセンサ映像作成方法は、結果として、第1情報がメインとして表示され、当該第1情報外の部分を第2情報によって補うように表示される構成であれば、作成方法は任意である。
【0074】
本発明は、船舶用レーダ装置だけでなく、他の移動体(航空機等)に搭載されるレーダ装置や、灯台等に設置され、移動体の位置等を監視するレーダ装置等に適用することができる。また、レーダ装置以外にも、超音波を送受信する音波送受信装置によって魚や海底の位置等を検出するソナー装置にも本発明を適用することができる。また、光の波長毎の強度等を測定する光測定装置(分光装置等)にも本発明を適用することができる。このように、本発明は、センサの検出内容に対して信号処理を行う構成の機器全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
11 レーダアンテナ(センサ)
20 レーダ指示器(情報表示装置)
21 センサ信号取得部
23 信号処理部
25 表示部
51 第1信号処理部
52 第2信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサの検出内容を示す信号であるセンサ信号を取得するセンサ信号取得部と、
前記センサ信号取得部が取得したセンサ信号に対して、第1信号処理と、当該第1信号処理と異なる信号処理である第2信号処理と、を行う信号処理部と、
前記第1信号処理を行った第1情報を表示画面に表示するとともに、前記第2信号処理を行った第2情報のうち、前記第1情報と異なる情報を、当該第1情報と異なる表示形態で前記表示画面に表示する表示部と、
を備えることを特徴とする情報表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報表示装置であって、
前記表示部は、
階調の変化を有する前記第1情報と、階調の変化のない前記第2情報と、を表示することを特徴とする情報表示装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の情報表示装置であって、
前記表示部は、前記第1情報と前記第2情報とで表示色を異ならせることを特徴とする情報表示装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の情報表示装置であって、
前記第2信号処理に処理を付加したものが前記第1信号処理であることを特徴とする情報表示装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の情報表示装置であって、
前記第1信号処理及び前記第2信号処理は、同種の信号処理であり、信号処理に用いるパラメータのみが互いに異なることを特徴とする情報表示装置。
【請求項6】
請求項5に記載の情報表示装置であって、
前記同種の信号処理は、ゲイン調整処理であることを特徴とする情報表示装置。
【請求項7】
請求項5に記載の情報表示装置であって、
前記同種の信号処理は、スキャン相関処理であることを特徴とする情報表示装置。
【請求項8】
請求項5から7までの何れか一項に記載の情報表示装置であって、
前記第1信号処理に含まれる前記同種の信号処理と、前記第2信号処理に含まれる前記同種の信号処理と、のうち一方は、パラメータを自動的に調整し、他方は、ユーザの設定値に基づいてパラメータを調整することを特徴とする情報表示装置。
【請求項9】
請求項5から7までの何れか一項に記載の情報表示装置であって、
前記第1信号処理に含まれる前記同種の信号処理と、前記第2信号処理に含まれる前記同種の信号処理と、のうち一方に設定されるパラメータは、他方に設定されるパラメータを一定量だけ上昇又は下降させた値であることを特徴とする情報表示装置。
【請求項10】
請求項1から9までの何れか一項に記載の情報表示装置と、
前記センサとしてのレーダアンテナと、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項11】
請求項1から9までの何れか一項に記載の情報表示装置と、
前記センサとしての音波送受信装置と、
を備えることを特徴とするソナー装置。
【請求項12】
センサの検出内容を示す信号であるセンサ信号を取得するセンサ信号取得工程と、
前記センサ信号取得工程で取得したセンサ信号に対して、第1信号処理と、当該第1信号処理と異なる信号処理である第2信号処理と、を行う信号処理工程と、
前記第1信号処理を行った第1情報を表示画面に表示するとともに、前記第2信号処理を行った第2情報のうち、前記第1情報と異なる情報を、当該第1情報と異なる表示形態で前記表示画面に表示する表示工程と、
を含むことを特徴とする情報表示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−68522(P2013−68522A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207411(P2011−207411)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】