説明

情報記憶媒体

【課題】 無線ICタグを用いて無線通信を行うことが可能で、さらに防水性と可撓性とを兼ね備えた情報記憶媒体を提供する。
【解決手段】 情報記憶媒体100は、樹脂フィルム1と、第1の粘着シート2と、無線ICタグ3と、補助アンテナ4と、第2の粘着シート5と、樹脂シート6と、第3の粘着シート7と、導電体層8とからなる。第1の粘着シート2および第2の粘着シート5のうち、少なくともいずれか1つの粘着シートは、基材が防水性を有する樹脂からなり、粘着剤層がアクリル系粘着剤またはブチルゴム系粘着剤からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線ICタグを用いた情報記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信の分野のみならず、物流管理などの分野でも無線通信技術が応用され、無線通信用のICタグ(以下では単に「無線ICタグ」という。)は、RFID(Radio Frequency Identification)技術の一翼を担う製品として広く知られている。
【0003】
無線ICタグは、自ら電源を持たないパッシブタイプと電源を持つアクティブタイプとがある。低価格で汎用性を有するパッシブタイプは、リーダからの電波を受信し、このエネルギを利用してIC回路を起動し、無線通信が可能となる。
【0004】
無線ICタグは、識別番号などのデータを記憶するICチップと、電波を送受信するためのアンテナとからなり、可撓性を有し、薄型、軽量で無線通信が実現できることが大きな利点となっている。ICチップにはメモリ領域を設けているため、ここに格納される情報を用いて情報管理が可能となる。
【0005】
薄型、軽量の利点を生かして、無線ICタグを、物流管理や安価な情報記憶媒体として使用することができるが、その用途が多岐にわたることから、様々な使用環境に置かれることになる。
【0006】
たとえば、金属材料に無線ICタグを貼り付けて使用しようとすると、アンテナの通信特性が劣化し、通信可能距離が短くなってしまう。金属材料に貼り付けて使用する場合には、特許文献1に開示されているような無線通信改善シート体を用いればよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−134709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
他の使用環境としては、水が付着したり、水没する可能性があるような過酷な使用環境でも耐えられる無線ICタグが求められている。
【0009】
樹脂製のハードケースに無線ICタグおよび無線通信改善シート体を収納することで、防水性は確保できるが、全体の外形寸法が大きくなり、可撓性が失われるために、貼り付け位置が制限されてしまう。可撓性を確保するために、樹脂フィルムによって被覆する構成もあるが、外部からの衝撃で樹脂フィルムが破損したり、無線ICタグが破損してしまうおそれがある。
【0010】
本発明の目的は、無線ICタグを用いて無線通信を行うことが可能で、さらに防水性と可撓性とを兼ね備えた情報記憶媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、樹脂フィルムと、
第1の基材および第1の基材の厚み方向の両面に設けられる第1の粘着剤層からなる第1の粘着シートと、
スペーサ、該スペーサの一方主面に設けられるアンテナおよびアンテナに接続され、識別情報が記憶される集積回路素子からなる無線ICタグと、
支持材および該支持材の一方主面に設けられる、孔または切欠きを有する金属薄層からなる補助アンテナと、
第2の基材および第2の基材の厚み方向の両面に設けられる第2の粘着剤層からなる第2の粘着シートと、
樹脂からなる誘電体層とが、この順に積層されてなり、
前記第1の粘着シートおよび前記第2の粘着シートのうち、少なくともいずれか1つの粘着シートは、基材が防水性を有する樹脂からなり、粘着剤層がアクリル系粘着剤またはブチルゴム系粘着剤からなることを特徴とする情報記憶媒体である。
【0012】
また本発明は、防水性を有する樹脂からなる第3の基材および第3の基材の厚み方向の両面に設けられる、アクリル系粘着剤またはブチルゴム系粘着剤からなる第3の粘着剤層からなる第3の粘着シートと、
金属からなる導電体層と、をさらに備え、
前記第3の粘着シートと前記導電体層とが、この順に前記誘電体層に対して積層されていることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記防水性を有する樹脂は、ポリオレフィン系発泡樹脂であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂フィルムと、第1の粘着シートと、無線ICタグと、補助アンテナと、第2の粘着シートと、誘電体層と、からなる情報記憶媒体である。前記第1の粘着シートおよび前記第2の粘着シートのうち、少なくともいずれか1つの粘着シートは、基材が防水性を有する樹脂からなり、粘着剤層がアクリル系粘着剤またはブチルゴム系粘着剤からなる。
これにより、防水性と可撓性とを兼ね備えた情報記憶媒体を実現することができる。
【0015】
また本発明によれば、さらに、防水性を有する樹脂からなる第3の基材および第3の基材の厚み方向の両面に設けられる、アクリル系粘着剤またはブチルゴム系粘着剤からなる第3の粘着剤層からなる第3の粘着シートと、前記第3の粘着シートに貼り付けられる導電体層とを備える。
【0016】
これにより、情報記憶媒体を貼り付ける対象物品の材質がどのような材質であっても、無線ICタグを用いて無線通信を行うことができ、汎用性が向上する。
【0017】
また本発明によれば、前記防水性を有する樹脂としては、ポリオレフィン系発泡樹脂であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態である情報記憶媒体100の層構成を示す概略図である。
【図2】補助アンテナ4の平面図である。
【図3】実施例1の試験結果を示すグラフである。
【図4】比較例1の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面を参考にして本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態である情報記憶媒体100の構成を示す概略図である。図1(a)は、情報記憶媒体100の層構成を示す断面図であり、図1(b)は、第1の粘着シート2の構成を示す断面図であり、図1(c)は、無線ICタグ3の構成を示す断面図である。
【0020】
情報記憶媒体100は、樹脂フィルム1と、第1の粘着シート2と、無線ICタグ3と、補助アンテナ4と、第2の粘着シート5と、樹脂シート6と、第3の粘着シート7と、導電体層8とが、この順に積層してなる。
【0021】
本発明は、第1の粘着シート2および第2の粘着シート5のうち、少なくともいずれか1つの粘着シートが、防水性シートからなる。本実施形態では、第1の粘着シート2および第2の粘着シート5が、いずれも防水性シートであるが、第1の粘着シート2が防水性シートであり、第2の粘着シート5は、単に両面粘着性を有する粘着シートであってもよく、第2の粘着シート5が防水性シートであり、第1の粘着シート2は、単に両面粘着性を有する粘着シートであってもよい。
【0022】
防水性シートについて、詳細は後述するが、基材が防水性を有する樹脂からなり、粘着剤層がアクリル系粘着剤またはブチルゴム系粘着剤からなる。
【0023】
樹脂フィルム1は、情報記憶媒体100の最外層に配置され、情報記憶媒体100の少なくとも厚み方向一方側からの水分の浸入を防ぎ、衝撃などから保護するためのものである。
【0024】
樹脂フィルム1の材質としては、可撓性を有するものであれば特に限定されないが、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエステル、不飽和ポリエステル、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニルおよびポリ塩化ビニリデン等の塩素系樹脂;フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂などが挙げられる。
【0025】
第1樹脂フィルム1の厚みは、情報記憶媒体100を貼り付ける対象となる物品の表面形状に応じて、その表面形状に沿って変形できる程度の可撓性を有するように設ければよく、たとえば、PETフィルムであれば0.1〜3mmである。
【0026】
第1の粘着シート2は、基材(以下では「第1の基材」という)21と第1の基材21の厚み方向の両面に設けられる粘着剤層(以下では「第1の粘着剤層」という)22とからなる。
【0027】
第1の基材21は、防水性を有する樹脂からなり、第1の粘着剤層がアクリル系粘着剤またはブチルゴム系粘着剤からなる。
【0028】
第1の基材21の材質としては、ポリオレフィン系発泡樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)、ポリエチレン樹脂などの樹脂系基材を用いることができる。
第1の基材21の形状としては、フォーム状およびフィルム状のものを用いることができ、これらの形状では、第1の粘着剤層22として、アクリル系粘着剤を用いることが好ましい。また、第1の基材21の形状としては、ネット状のものを用いることができ、この形状では、第1の粘着剤層22として、ブチルゴム系粘着剤を用いることが好ましい。
【0029】
第1の粘着シート2は、いわゆる防水両面テープであり、耐水性に優れ、たとえば一方面側の粘着剤層を樹脂フィルム1に貼り付け、他方面側の粘着剤層を無線ICタグ3に貼り付けた状態で水を付着させたり、水没させても基材への水の浸透や粘着剤の剥がれは生じない。
【0030】
無線ICタグ3は、樹脂性のスペーサ31と、特定の周波数の電波を送受信可能なアンテナ32と、アンテナに接続され、識別情報が記憶される集積回路素子(ICチップ)33とからなる。無線ICタグ3は、市販品を用いることができ、寸法および通信周波数などは、情報記憶媒体100を貼り付ける対象となる物品、使用する流通管理システムなどに応じて、既存の無線ICタグの中から適宜選択すればよい。
【0031】
スペーサ31は、アンテナ32がアルミニウムなどの金属薄層からなるため、金属薄層を支持するために設けられるとともに、補助アンテナ4とアンテナ32およびICチップ33との間の誘電体スペーサとして機能するものである。補助アンテナ4と無線ICタグ3のアンテナ32およびICチップ33とを結線せず、第1の誘電体スペーサとしてスペーサ31を介在させる。
【0032】
図2は、補助アンテナ4の平面図である。
補助アンテナ4は、支持材41および支持材41の一方主面に設けられる、孔または切欠きSが設けられた金属薄層42からなる。
【0033】
金属薄層42は、支持材41の一方主面の全面に設けられ、略中央部分に孔(スロット)または切欠き(スリット)Sが設けられている。
【0034】
支持材41は、金属薄層42がアンテナとして機能するために金属薄層42を支持するスペーサとして設けられるとともに、スペーサ31と同様に誘電体スペーサとして機能するものである。
【0035】
第2の粘着シート5は、第2の基材と第2の基材の厚み方向の両面に設けられる第2の粘着剤層とからなり、第1の粘着シート2と同じ防水両面テープである。材質は、上記の第1の粘着シート2と同じである。
【0036】
樹脂シート6は、樹脂からなる誘電体層であり、支持材41、第2の粘着シート5とともに第2の誘電体スペーサとして機能する。誘電体スペーサは、情報記憶媒体100を貼り付ける対象となる物品の表面からの間隔を規定するためのスペーサである。
【0037】
詳細は後述するが、補助アンテナ4と、第2の粘着シート5および樹脂シート6とは、協働して無線ICタグ3の無線通信距離を改善する通信改善シート体として機能する。
【0038】
たとえば、補助アンテナ4の支持材41と樹脂シート6との間に水が浸透すると、これらの誘電体スペーサとしての特性が変化してしまい、通信改善機能が低下してしまう。第2の粘着シート5として防水両面テープを用いることで、水の浸透を防止し、情報記憶媒体100に水が付着したり、水没するような環境においても、通信改善機能を低下させることなく維持することができる。
【0039】
また、無線ICタグ3は、ICチップ33およびアンテナ32が露出しており、水の付着などによって回路が短絡し、無線通信が不可能となってしまうおそれがある。
【0040】
少なくとも、第1の粘着シート2と補助アンテナ4とを、その外形寸法が無線ICタグ3の外形寸法よりも大きくし、第1の粘着シート2と補助アンテナ4の周縁部においては無線ICタグ3が介在せず、第1の粘着シート2と補助アンテナ4とが直接粘着するように構成する。中央部分に、第1の粘着シート2と補助アンテナ4との間に無線ICタグ3を保持し、周縁部からの水の浸透を防止する。
【0041】
これにより、情報記憶媒体100に水が付着したり、水没するような環境においても、無線ICタグ3への直接的な水の接触を防止できる。
【0042】
ここで、通信改善シート体としての通信改善機能について説明する。本来、無線ICタグ3は、金属材料などの近傍では無線通信が妨害されて通信距離が短くなってしまうが、本発明のように、補助アンテナ4と誘電体スペーサを用いることで金属材料などの近傍にあっても通信距離が短くならず通信距離を維持するか、短くなるとしてもその程度を抑えることができる。情報記憶媒体100は、補助アンテナ4の金属薄層42に、孔または切欠きを設けることで、無線ICタグ3の通信改善を可能としている。無線ICタグ3のアンテナ32と補助アンテナ4の金属薄層42とは、孔、または切欠きSを通じて電磁的に結合し、補助アンテナ4よる無線通信が可能となり、その結果通信可能距離を改善することができる。
【0043】
補助アンテナ4に孔または切欠きSを設けることで、無線ICタグ3のアンテナ32の共振動作に応じて孔または切欠きSに、アンテナ形状の長軸方向に沿って電界が発生するため、これを介することでアンテナ32およびICチップ33と補助アンテナ4との間の電磁的結合が活性化することになる。さらに、孔または切欠きSは金属薄層42の電気抵抗を上げるため、金属薄層42に発生する、アンテナ32に対応した誘導電流を抑えることが可能となる。
【0044】
補助アンテナ4は、孔または切欠きSを介することで無線ICタグ3と結線しなくとも電磁エネルギを受け渡す機能を有することやICチップ33への電気信号の伝搬とICチップ33からの電気信号の伝搬もその内部で重畳化することにより、従来の遠方とのアンテナ動作に加え近傍での無線ICタグ3との電磁エネルギの受け渡しという動作メカニズムにも対応している。
【0045】
補助アンテナ4は、無線ICタグ3と組み合わせたときに、全体として無線通信周波数に共振する構成であり、補助アンテナ4の金属薄層42に含まれる共振層としての部位は、一つでも複数でもよいが、その部位は無線通信周波数の電波の波長をλとすると、λ/8〜3λ/4の範囲に入る寸法を有している。
【0046】
このように、情報記憶媒体100は、無線ICタグ3を補助アンテナ4に貼り合わせるだけで無線ICタグ3の通信改善を行なうことが可能となる。市販の無線ICタグはそれぞれの設計により、チップインピーダンスの値が異なっている。このインピーダンスは静置の場合と動作時の場合でも異なるし、また動作時でも受信するエネルギ量に依存して変化する。このような不安定で、変動しやすいインピーダンスを有する無線ICタグ3を単に貼り付けるだけで、インピーダンス整合および通信改善を実現できる。
【0047】
第1の誘電体スペーサであるスペーサ31、第2の誘電体スペーサである支持材41、第2の粘着シート5、樹脂シート6および補助アンテナ4は、それぞれ同一の外形寸法を有している。情報記憶媒体100を積層方向から見たときの平面形状は、無線ICタグ3の形状にもよるが、多くは矩形状である。
【0048】
本実施形態では、平面形状は長方形であり、中央部に矩形状の孔(スロット)Sが設けられる。孔Sの位置は、無線ICタグ3のICチップやその接合部およびリアクタンス装荷部の位置に応じて適宜設定することが好ましい。
【0049】
孔Sの長さLは、情報記憶媒体100の短辺方向長さL0に対して3〜97%となる長さに形成され、たとえば3〜194mmである。
【0050】
孔Sの幅Wは、ICチップやその接合部分およびリアクタンス装荷部の大きさなどによるが、たとえば1〜180mmである。このような孔Sを設けることで、無線ICタグ3のアンテナ32と、補助アンテナ4の金属薄層42とが、この孔Sを介して電磁的に結合し、補助アンテナ4の金属薄層42が共振アンテナとして機能する。さらに、ICチップ33の直下に孔Sを設けることで、補助アンテナ4の金属薄層42が導電体として、ICチップ33に与える影響を小さくすることができる。
【0051】
ここで、本実施形態では、第2の誘電体スペーサの外方側に第3の粘着シート7が積層され、さらに導電体層8が積層される。
【0052】
第3の粘着シート7は、第3の基材と第3の基材の厚み方向の両面に設けられる第3の粘着剤層とからなり、第1の粘着シート2および第2の粘着シート5と同じ防水両面テープである。材質は、上記の第1の粘着シート2および第2の粘着シート5と同じである。
【0053】
導電体層8は、アルミニウムなどの金属材料からなり、導電性を有するものであれば特に限定されるものではない。なお、本実施形態では、導電体層8を金属薄層で形成するために、支持体としてPETフィルムを用いているが、支持体は必須の構成ではない。PETフィルムの一方側主面の全面にアルミニウム薄層を形成し、PETフィルムの他方側主面を、第3の粘着シート7の第3の粘着剤層に貼り付け、アルミニウム薄層が外方に露出するように積層する。
【0054】
第2の誘電体スペーサは、情報記憶媒体100を貼り付ける対象の物品の表面と補助アンテナ4との間隔を規定するためのものであるが、対象の物品の表面が導電性材料であることを想定しているので、対象物品の材質によっては、間隔の規定が不十分となる場合がある。したがって、上記のように導電体層8を情報記憶媒体100に一体的に設けておけば、対象物品の材質がどのようなものであっても、導電体層8との間隔は常に一定となるので好ましい。
【0055】
以下では、導電体層8を備えた構成を前提として説明するが、貼り付けの対象となる物品の表面が導電性材料で構成される場合は、導電体層8と対象物品の表面とは同じ機能を有するものと考えればよい。
【0056】
第1の誘電体スペーサおよび第2の誘電体スペーサは、それぞれ無線ICタグ3と補助アンテナ4とを絶縁し、補助アンテナ4と導電体層8とを絶縁するとともに、誘電体材料として波長短縮効果を与えることで、補助アンテナ4の共振周波数を調整する。補助アンテナ4と導電体層8との間には電界=0となる部分が形成される場合があり、その場合は電界=0の部分にビアを設けるなど補助アンテナ4と導電体層8とを導通させても動作は可能である。
【0057】
第1の誘電体スペーサおよび第2の誘電体スペーサは、無線ICタグ3と補助アンテナ4との位置関係、および補助アンテナ4と導電体層8との位置関係を保つことができれば、電磁エネルギの損失の低い、すなわち通信周波数帯域で誘電正接tanδ(ε”/ε’)または磁性正接tanδ(μ”/μ’)の低い材料を用いることが好ましい。たとえば空間でもよいが、一般には下記に例示するような有機材料を用いることが好ましい。
【0058】
なお、各粘着シート5,7は、その材質が上記のように防水性を有する具体的な材質に限定されるので、下記例示は、誘電体スペーサを構成するスペーサ31、支持材41および樹脂シート6の材料の例示である。
【0059】
有機材料としては、可撓性を有するものであればよく、たとえばゴム、熱可塑性エラストマー、各種プラスチック、木材、紙材、などの高分子有機材料等を用いることができる。またそれらの多孔質体も用いることができる。前記ゴムとしては、天然ゴムのほか、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDMゴム)、エチレン−酢酸ビニル系ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレンアクリル系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、水素添加ニトリルゴム(HNBR)などの合成ゴム単独、それらの誘導体、もしくはこれらを各種変性処理にて改質したものなどが挙げられる。これらのゴムは、単独で使用するほか、複数をブレンドして用いることができる。
【0060】
熱可塑性エラストマーとしては、たとえば塩素化ポリエチレンのような塩素系、エチレン系共重合体、アクリル系、エチレンアクリル共重合体系、ウレタン系、エステル系、シリコーン系、スチレン系、アミド系、オレフィン系などの各種熱可塑性エラストマーおよびそれらの誘導体が挙げられる。
【0061】
さらに、各種プラスチックとしては、たとえば軟質ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエステル、不飽和ポリエステル、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニルおよびポリ塩化ビニリデン等の塩素系樹脂;フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂などの熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂およびこれらの誘導体、さらには共重合体やリサイクル樹脂等が挙げられる。
【0062】
以上の材料をそのままか、複合化または変性させて用いることができる。たとえば、カーボン、黒鉛、グラファイト、酸化チタン、炭素繊維、カーボンチューブ、黒鉛繊維等のフィラーを複合化して誘電率を上げることで波長短縮効果により小型化が実現する。また補強材を充填した強化樹脂を用いてもよい。
【0063】
たとえば、EPDMゴムに酸化チタンをフィラーとして混合することで、高誘電率材料であって、さらに柔軟性を有するスペーサが実現できる。また、スペーサ31、支持材41および樹脂シート6は、同じ材料であっても、異なる材料であってもよい。異なる材料である場合、たとえば、スペーサ31、支持材41としてPETフィルムを用い、樹脂シートとして軟質ポリエチレンを用いる。
【0064】
これにより、情報記憶媒体100を小型化するとともに、貼り付け対象物品の表面形状に十分に追従することができる柔軟性を付与することができる。
【0065】
第1の誘電体スペーサの機能としては、無線ICタグ3と補助アンテナ4とが電気的に導通しなければ十分であるので、空気すなわち無線ICタグ3と補助アンテナ4との間に空気層が設けられていてもよい。
【0066】
第1の誘電体スペーサおよび第2の誘電体スペーサは、受信した電波エネルギをできる限り損失無く送信エネルギに変える必要があるため、できる限りエネルギ損失が少ない材料を選定する必要がある。そのためには無線ICタグ3が無線通信に利用する電磁波の周波数において誘電正接tanδ(ε”/ε’)が0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.2以下である。
【0067】
さらに誘電体スペーサとしては高誘電率、柔軟性および低誘電正接tanδ(ε”/ε’)を兼ねているのが好ましいが、より重要なのは通信周波数帯域(UHF帯等)で低い誘電正接tanδを示すことである。
【0068】
さらに複素比誘電率の実部ε’が高ければ情報記憶媒体100の薄型化、小型化が可能となり得るため、ε’としては1〜50であることが好ましい。
【0069】
補助アンテナ4の金属薄層42は、導電性を有する導電性材料から構成される。
金属薄層42を構成する導電性材料としては、金、白金、銀、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、亜鉛、鉛、タングステン、鉄などの金属であってもよく、支持材41表面に設けられた上記金属の粉末、導電性カーボン系材料の混入された樹脂混合物、あるいは導電性樹脂のフィルム等であってもよい。上記金属等を、薄層状、板状、シート状、フィルム状等に加工されたものであってもよい。あるいはまた支持材41上に、膜厚たとえば600Åの金属薄層42が形成された構成を有してもよい。金属薄層をフィルムもしくはクロスなどの基材に転写したものでもよい。また、導電インク(たとえば抵抗率10Ω/sq.以下)を支持材41に塗布してもよい。
【0070】
アンテナとしての金属薄層42の共振部位は特定周波数の電波に対応する波長に応じたサイズに決まるが、導電体層8のサイズに制限はない。
【0071】
孔または切欠きSは、一般的な形成方法で金属薄層42に形成することができる。機械的、化学的加工を用いて孔または切欠きSとなる所定の部分を除去すればよい。また、予め孔または切欠きSが設けられた形状となるように、スペーサに直接印刷、蒸着、塗工することも可能である。
【0072】
孔または切欠きSは、金属薄層42電気抵抗を上昇させるものであればその形状に制限はない。また孔または切欠きSの寸法は無線通信の電波の周波数に対して共振するものであっても、共振するものでなくてもよい。
【実施例】
【0073】
図1に示す構成の情報記憶媒体100を実施例1として作製し、防水試験を行った。
情報記憶媒体100の外形寸法は、たて15mm×よこ90mmとした。
【0074】
また、情報記憶媒体100の各層は以下のものを用いた。
樹脂フィルム1:厚み0.1mmの透明PETフィルム
第1の粘着シート2:防水性両面テープ(日東電工株式会社製、57120B)
無線ICタグ3:Avery Dennison社製 AD−226
補助アンテナ4:アルミニウム薄層/PETラミネートフィルム(パナック株式会社製、アルペット20−75)
第2の粘着シート5:防水性両面テープ(日東電工株式会社製、57120B)
樹脂シート6:軟質ポリエチレン(新神戸電機株式会社製、コウベポリシート EH)
第3の粘着シート7:防水性両面テープ(日東電工株式会社製、57120B)
導電体層8:アルミニウム薄層/PETラミネートフィルム(パナック株式会社製、アルペット20−75)
【0075】
防水性両面テープは、基材がポリオレフィン系発泡体からなり、粘着剤層がアクリル系粘着剤からなり、厚みが0.2mmである。補助アンテナ4は、PETフィルムの厚みが75μm、アルミニウム薄層の厚みが20μmであり、アルミニウム薄層の中央部分にたて16mm×よこ40mmの孔Sを設けた。軟質ポリエチレンは、厚みが2mmである。導電体層8は、補助アンテナ4のような孔を設けず、全面にアルミニウム薄層が形成されている状態で用いた。
【0076】
また、上記の防水性両面テープの代わりに、基材が不織布からなり、粘着剤層がアクリル系粘着剤からなる非防水性の両面テープを用いた以外は実施例1と同じ構成のものを比較例1とした。
【0077】
実施例1および比較例1を水没させ、引き上げて乾燥させたのち、無線ICタグ3の通信可能距離を測定した。水没条件は、JIS C0920に規定されるIPコード IPX7に相当する条件とした。具体的には、水深1mに30分間浸漬させる条件である。
【0078】
図3は、実施例1の試験結果を示すグラフであり、図4は、比較例1の試験結果を示すグラフである。これらのグラフは、横軸が周波数(MHz)を示し、縦軸が通信可能距離(m)を示す。また、いずれの結果においても実線が水没前を示しており、破線が水没後を示している。
【0079】
図3に示す実施例1の結果からわかるように、水没前と水没後で通信距離もピーク周波数も変化が見られなかった。これは、情報記憶媒体に水への浸入が生じなかったことを示している。
【0080】
これに対して図4に示す比較例1の結果では、水没前に比較して水没後は、通信距離が短くなり、かつピーク周波数も低周波数側にシフトした。これは、情報記憶媒体の非防水性両面テープの不織布基材に水が含浸し、情報記憶媒体の内部に水が浸入したことにより、誘電体スペーサの被誘電率が変化したり、水が無線ICタグ3に付着したりすることで、通信改善性能が低下したものと考えられる。
【0081】
実施例1のように、防水性両面テープを用いることで、情報記憶媒体への水の浸入を防ぐことができる。比較例1では、防水性の両面テープを用いていないので、たとえば不織布基材を介して情報記憶媒体の内部に水が浸入し、特性劣化が生じたものと考えられる。
【符号の説明】
【0082】
1 樹脂フィルム
2 第1の粘着シート
3 無線ICタグ
4 補助アンテナ
5 第2の粘着シート
6 樹脂シート
7 第3の粘着シート
8 導電体層
100 情報記憶媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムと、
第1の基材および第1の基材の厚み方向の両面に設けられる第1の粘着剤層からなる第1の粘着シートと、
スペーサ、該スペーサの一方主面に設けられるアンテナおよびアンテナに接続され、識別情報が記憶される集積回路素子からなる無線ICタグと、
支持材および該支持材の一方主面に設けられる、孔または切欠きを有する金属薄層からなる補助アンテナと、
第2の基材および第2の基材の厚み方向の両面に設けられる第2の粘着剤層からなる第2の粘着シートと、
樹脂からなる誘電体層とが、この順に積層されてなり、
前記第1の粘着シートおよび前記第2の粘着シートのうち、少なくともいずれか1つの粘着シートは、基材が防水性を有する樹脂からなり、粘着剤層がアクリル系粘着剤またはブチルゴム系粘着剤からなることを特徴とする情報記憶媒体。
【請求項2】
防水性を有する樹脂からなる第3の基材および第3の基材の厚み方向の両面に設けられる、アクリル系粘着剤またはブチルゴム系粘着剤からなる第3の粘着剤層からなる第3の粘着シートと、
金属からなる導電体層と、をさらに備え、
前記第3の粘着シートと前記導電体層とが、この順に前記誘電体層に対して積層されていることを特徴とする請求項1記載の情報記憶媒体。
【請求項3】
前記防水性を有する樹脂は、ポリオレフィン系発泡樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の情報記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−109596(P2013−109596A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254419(P2011−254419)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】