説明

情報記録体

【課題】ドットオンドット方式を使用した真正品と、一般用途のプリンタを使用した変造品又は偽造品とを、一見して判別することのできる情報記録体を提供すること。
【解決手段】少なくとも基材と、記録画像と、記録画像と重なるように万線パターンを設ける。該記録画像は、少なくとも3色のドット11,12,13の集合からなり、かつ各色のドット1個ずつを一組として同一箇所に重ねて一つの色調を持ったドットとする。また、重ねられたドットは少なくとも一方向に等間隔のピッチで配列されている。そして、万線パターンのピッチはドットのピッチの整数倍である。この記録画像を剥離して変造画像を一般のプリンタで形成すると、変造画像と万線パターン41,42との間でモアレを発生し、一見して判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドットオンドット方式を用いた情報記録体の偽変造を防止する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
このような情報記録体は各種証明書として広く用いられている。例えば、免許証やパスポートなどである。これら情報記録体の形状はカード形状または冊子形状であることが多い。そして、これら情報記録体に絵柄や文字などの可視画像を情報として記録する手段として、中間転写方式又は再転写方式と呼ばれる印刷法式がある。
【0003】
中間転写方式又は再転写方式とは、あらかじめ中間転写媒体上に可視画像を形成し、その中間転写媒体からこれら画像を情報記録体の基材に転写形成するものである。中間転写媒体としては、ベースフィルム上に、転写材としてベースフィルム側から剥離層、保護層、中間層、接着層を順次設けたものなどがある。なお、中間層は、絵柄層、OVD層などであり、用途に応じて選択される。接着層は、画像を形成する受像層を兼ねた受像層兼接着層とすることができ、情報記録体の基材に転写する前に画像を受像層兼接着層に設けることが可能となる。
【0004】
中間転写媒体の受像層兼接着層へ画像を形成する際には、まず、転写リボンと転写装置とを準備する。転写リボンは色材層を有しており、色材層は染料又は顔料を含有している。そして、この転写リボンは、サーマルヘッドによってパターン状に加熱されると、この加熱された部分の色材層が転写される。あるいは、加熱部分の染料が昇華して転写される。いずれの場合でも、被転写体には、加熱パターンに対応した形状の画像が記録される。
【0005】
他方、転写装置はドラムとサーマルヘッドとでその主要部が構成されており、サーマルヘッドの発熱素子群は画像データに基づいて発熱する。サーマルヘッドの個々の発熱素子の先端はドット形状であるため、前記加熱パターンは多数のドットの集合によって構成されたパターンである。また、この加熱パターンに対応した形状の画像も、多数のドットの集合によって構成されたものである。
【0006】
そして、中間転写媒体に画像を記録する際には、中間転写媒体を転写装置へ搬送して受像層兼接着層に転写リボンの色材層を当接させ、画像データに基づいてサーマルヘッドの発熱素子群を適宜発熱させることにより、受像層兼接着層に画像を転写形成することができる。
【0007】
なお、多色の画像を記録する場合には、色調の異なる複数の転写リボンを使用して、同様な工程を繰返す。あるいは、転写リボンの表面を複数の領域に区分して、これら複数の領域のそれぞれに、色調の異なる色材層を設けた転写リボンを使用することもある。いずれの場合も、この多色の画像は、それぞれの色調の画像が重ね合わされて構成されたもので、各色調の画像は多数のドットの集合によって構成されている。
【0008】
こうして画像が記録された中間転写媒体から、情報記録体の基材に、画像を転写する方法としては、例えば、次の方法が知られている。すなわち、中間転写媒体の接着層又は受像層兼接着層を情報記録体の基材に当接させると共に加熱して圧着させ、中間転写媒体のベースフィルムを剥離させて転写することができる。加熱圧着手段としては、熱ロール、熱板等が使用されている。
【0009】
なお、OVD層は見る角度で色彩等が変化する画像を有するもので、主に装飾性と偽造
防止を目的として設けられるものである。このOVD層としては、例えば、レリーフ型回折格子構造体が使用されている。レリーフ型回折格子構造体は、微細な凹凸パターンを有する回折格子形成層と、この凹凸パターンに沿って設けられた透過性薄膜層で構成されるものである。透過性薄膜層の屈折率は回折格子形成層の屈折率より大きく、両者の境界面で光反射が生じる。この境界面は微細な凹凸パターンを有するから、反射光は凹凸を反映して回折する。そして、見る角度で色彩が変化したり、あるいは立体画像を構成したりする。このため、中間層としてレリーフ型回折格子構造体を利用した中間転写媒体はコピーが難しく多用されている。また、このレリーフ型回折格子構造体は、エンボス複製法により、安価に大量に製造することができる。このOVD層は見る角度で色彩等が変化する画像を有するものであるから、コピーによって複製することができない。このため、偽造が困難であり、しかも、一見して真贋を判定することができる。
【0010】
ところで、前述のように、多色の画像は各色の画像が重ね合わされたものである。そして、各色の画像は多数のドットの集合によって構成されている。このように各色のドットが重ね合わされた場合、モアレと呼ばれる干渉縞が発生することがある。
【0011】
このモアレを防止する方法としては2種類の方法が知られている。
【0012】
その一つは、ドットの配列方向を制御する方法である。この方法は、スクリーン方式と呼ばれる画像形成方式に利用されている。スクリーン方式とは、規則正しく各色のドットが格子状に配列され、各ドットの面積を変えることで階調を表現する面積階調方式による印刷の一種である。そして、モアレを防止するため、各色のドットの配列方向(スクリーン角度)を色ごとに変えている。カラー画像は、通常、シアン、マゼンタ、イエロー、の3色、又は、これにブラックを加えた4色で構成されているから、これら3色又は4色のドットのスクリーン角度を30度ずつ又は15度ずつずらした角度で格子状に配置している。この方式は、一般用途のプリンタに採用されている。
【0013】
もう一つの方法は、各色のドットを同一箇所に重ねて配置する方式である。この方法はドットオンドット方式と呼ばれている。この方式では、各色のドットを精度良く重ねるとともに滑らかな階調表現を再現するという高度な技術が必要とされるため、一般用途のプリンタにはあまり使用されていない。このため、偽造防止機能が必要とされる個人情報記録体などにおいて、顔写真の印刷などに使用されている。このため、特定の個人情報記録体がドットオンドット方式を使用しているか否かを検査することにより、その個人情報記録体が真正か否かを判定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平6−210989号公報
【特許文献2】特開2000−135810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、このようにOVD層やドットオンドット方式による画像を有するものでも、その画像が変造された場合には、真贋判定は必ずしも容易とはいえないことがあった。
【0016】
例えば、真正品から熱や薬品を用いて中間転写媒体をはがし、そこに設けられている画像を除去して別の画像を形成し、基材に貼り付けることで変造品を作ることができる。この場合、用いられている中間転写媒体は真正品であるため、画像部分が変造されているにもかかわらず、真正品と誤認される可能性があった。
【0017】
前述のように、この場合でも、その画像がドットオンドット方式を使用しているか否かを検査することにより、真正か否かを判別できる。しかしながら、ドットオンドット技術によって形成された画像と、一般用途のプリンタによって形成された画像とは、目視では判別できないことがあった。この場合には、ルーペなどで拡大する必要があり、一見して真贋を判定することができないのである。
【0018】
そこで、本発明は、このように画像が変造された場合に備えて、ドットオンドット方式を使用した真正品と、一般用途のプリンタを使用した変造品又は偽造品とを、一見して判別することのできる情報記録体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、以下のような解決手段により前記課題を解決する。
【0020】
本発明は、少なくとも基材と、記録画像と、該記録画像と重なるように設けられた万線パターンを有する情報記録体であって、
該記録画像は、少なくとも3色のドットの集合からなり、かつ各色のドット1個ずつを一組として同一箇所に重ねて一つの色調を持ったドットとしており、
かつ重ねられたドットが少なくとも一方向に等間隔のピッチで配列されているとともに、該万線パターンのピッチが該ドットのピッチの整数倍である、
ことを特徴とする情報記録体である。
【0021】
また、本発明は、前記記録画像が、中間転写媒体上に形成され、該記録画像が形成された該中間転写媒体が熱圧によって基材上に接着されていることを特徴とする、請求項1記載の情報記録体である。
【0022】
また、本発明は、前記記録画像を形成するドットが、感熱転写インクリボンと前記中間転写媒体を重ねてサーマルヘッドで加熱することによって形成されていることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の情報記録体である。
【0023】
また、本発明は、前記万線パターンがあらかじめ基材上に印刷されており、該万線パターンに位置を合わせて前記ドットが形成された中間転写媒体を接着することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の情報記録体である。
【0024】
また、本発明は、前記万線パターンがあらかじめ前記中間転写媒体上に設けられ、該万線パターンに位置を合わせて前記ドットが形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の情報記録体である。
【0025】
また、本発明は、前記中間転写媒体に回折格子構造体が形成されたOVD層が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の情報記録体である。
【0026】
また、本発明は、前記中間転写媒体に金属蒸着層が形成され、前記万線パターンが該金属蒸着層によって形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の情報記録体である。
【0027】
また、本発明は、前記万線パターンが2箇所以上の領域に形成され、各領域における万線パターンのピッチがそれぞれ異なることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の情報記録体である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の情報記録体は、以下のような効果によって偽造や変造を抑止することができる。
【0029】
まず、ドットオンドット方式による画像印刷は、専用のプリンタと高度な技術を必要とする。このため、極めて高い偽造防止効果が得られる。
【0030】
例えば、ドットオンドット方式によって形成される記録画像の解像度は300dpi〜600dpi程度が多く、この場合、ドットサイズは40〜80μm程度となる。そして、このような解像度の下でドットを重ねるには10〜20μm程度の位置あわせ精度が必要である。また、万線パターンの幅もドットサイズと同じ程度であることが望ましく、このような細線を用いた万線パターンを安定して印刷するためには、高度な技術を必要とする。
【0031】
次に、本発明の情報記録体においては、万線パターンのピッチがドットのピッチの整数倍であるため、万線パターンと干渉することがない。すなわちモアレパターンを生じることがない。他方、仮に一般用途のプリンタを用いて変造品をつくった場合、その変造品の画像は、互いに配列方向(スクリーン角度)の異なる複数色のドットの重ね合わせによって構成されているから、これら各色のドットのうち、いずれか一つは万線パターンと干渉してモアレパターンが生じる。このため、モアレの有無によって、目視によっても一見してその真贋を判定することができる。
【0032】
特にパスポートにおいては偽造品よりも変造品の方が圧倒的に多い。例えば、盗難されたパスポートの顔写真部分のみを変造して他人に成りすまして入国しようとするケースである。このようなケースにおいても、本発明の情報記録体であれば以下のような効果によって変造を防止することができる。
【0033】
すなわち、請求項4に記すように、基材にあらかじめ万線パターンが形成されており、さらにその上にドットオンドット方式による画像が重ねあわされている場合、このドットオンドット方式による画像を除去して別の画像を形成することは可能であるが、この場合には変造された画像と万線パターンが干渉してモアレパターンを発生させるために変造を見分けることができる。
【0034】
また、請求項5に示すように、万線パターンが中間転写媒体上に形成されている場合には中間転写媒体を破壊することなく画像を変造することが困難になる。仮に基材と中間転写媒体を剥離した上で画像を変造したとしても上記と同様にモアレパターンの発生によって変造を明らかにすることができる。
【0035】
さらに請求項6に示すように、中間転写媒体にOVD層が設けられていれば中間転写媒体の偽造に対する抑止効果がさらに高まり、請求項7に示すように金属蒸着層を万線パターンに用いた場合、万線パターンの偽造自体が非常に難しくなる。これに加え、請求項8に示すように万線パターンのピッチを複数個用意しておけば、さまざまな偽造品において確実にモアレパターンを発生させることができるため、偽造抑止効果が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ドットオンドット方式とスクリーン方式を比較した拡大図である
【図2】中間転写方式媒体と中間転写方式で形成した情報記録体を示した断面図である
【図3】本発明の一実施例を示した平面図である
【図4】本発明の一実施例を示した断面図である
【図5】本発明の一実施例を示した断面図である
【図6】本発明の一実施例を示した断面図である
【図7】本発明の効果を比較して示した拡大図である
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面等を参照して、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0038】
図1はドットオンドット方式(左図)とスクリーン方式(右図)におけるドット配置を表したものである。いずれの図面の場合も、シアン11、マゼンタ12、イエロー13の3色のドットで画像が構成されている。ドットオンドット方式(左図)においては、シアン11、マゼンタ12、イエロー13の各ドットは同じ場所に重ねて配置されているのに対し、スクリーン方式(右図)における各ドットはそれぞれの色ごとに等間隔に配置されている。
【0039】
図2の左図は中間転写方式の原理を示すもので、中間転写媒体20と情報記録体30とを対面させて配置した状態を示している。なお、この中間転写媒体20には画像が設けられている。そして、中間転写媒体20を情報記録体30に接着し、ベースフィルム21を剥離除去することにより、情報記録体30に画像を転写形成することができる。図2の右図は、画像が形成された情報記録体30を示している。なお、後述するように、ベースフィルム21を剥離除去することなく、情報記録体30として使用することも可能である。
【0040】
中間転写媒体20は少なくともベースフィルム21と受像層兼接着層25の2層を備えて構成される。
【0041】
ベースフィルム21と受像層兼接着層25の間には、剥離層および保護層を設けることも可能である。剥離層の役割は、ベースフィルム21と受像層兼接着層25との剥離を容易とするものである。また、保護層の役割は、情報記録体30に画像を転写した後、この画像を覆って磨耗等から防ぐものである。この剥離層の役割と保護層の役割とを単一の層で果たすこともでき、両者の役割を果たす層を剥離層兼保護層と呼ぶことができる。図2に示す中間転写媒体20は剥離層兼保護層22有している。
【0042】
中間転写媒体20に、さらに中間層としてOVD層23や金属蒸着層24を設けることで、コピー防止効果や贋造防止効果を高めることもできる。また、OVD層23と金属蒸着層24の間にアンカー層を設けたり、エッチング処理によって金属蒸着層24をパターン状に設けることもできる。
【0043】
図2の右図においては、ベースフィルム21が情報記録体30から取り除かれて剥離層兼保護層25が最表面に露出している。剥離層兼保護層22や受像層兼接着層25は通常透明な材料でできており、情報記録体30の基材31との間に設けられた記録画像や万線パターンを視認することができる。基材31上にあらかじめ易接着層を設けて、受像層兼接着層25との接着性を向上させることもできる。
【0044】
図3は本発明を利用した情報記録体の実施例を表しており、顔写真等の画像43と万線パターン41が重ねて設けられている。また、図3では、複数の領域に万線パターン41と万線パターン42が設けられており、万線パターン41のピッチと方向とが万線パターン42のピッチと方向と異なるように設けられている。図4から図6は本発明の実施例を示す断面図であり、例えば図4のように記録画像の上に万線パターンを設けることができる。また、図5のように基材に万線パターンを設け、その上に記録画像を設けることもできる。また、図6のように中間転写媒体に万線パターンと画像を形成し、基材と接着することもできる。
【0045】
以下、中間転写媒体、情報記録体及び転写リボンを構成する素材につい説明する。また
、併せて及び印刷方式についても説明する。
【0046】
[情報記録体の基材31]:広く用いられている紙をはじめ、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン等の合成樹脂のフィルムが中間転写媒体の基材として使用できる。また、多孔質の樹脂基材などを使用することもできる。また、これらを積層して基材とすることも可能である。
【0047】
[情報記録体の易接着層]:基材上に設ける層であり、中間転写媒体の受像層兼接着層と相性の良い樹脂を用いることが望ましい。例えばウレタン、アクリル、酢酸ビニル、ポリアミド等が単独で又は組み合わせで使用可能である。
【0048】
[中間転写媒体のベースフィルム21]:中間転写媒体のベースフィルム21は、接着層に使用される材料より溶融温度又は軟化温度の高いことを必要とする。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン等の合成樹脂のフィルムなどが使用できる。また、これらを積層して使用することもできる。
【0049】
[中間転写媒体の剥離層および保護層22]:中間転写媒体20を基材に接着した後、ベースフィルム21を取り除いて使用する場合には剥離層および保護層が必要であり、通常、剥離層兼保護層22として形成される。剥離層兼保護層22を利用する場合には、ベースフィルム21としてウェブ状のフィルムを用いてウェブ状の中間転写媒体を形成することができる。また、ウェブ状の中間転写媒体20を使用すれば、情報記録体30に連続的に画像を再転写することができるため生産性が良い。この剥離層兼保護層22は、ベースフィルム21を剥離して接着層または受像層兼接着層25をより効果的に情報記録体30に転写する機能が必要である。また、併せて、転写された接着層または受像層兼接着層25について外部からの化学的、機械的破損を防止する保護膜の機能を有することが必要である。剥離層兼保護層22としては、熱可塑性アクリル樹脂、塩化ゴム系樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、セルロース系樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂などが使用可能である。あるいは、これらに耐摩擦剤を添加したものも使用できる。耐摩擦剤としては、フッ素樹脂パウダー、ポリエチレンパウダー、天然ワックスや合成ワックス、高級脂肪酸の金属塩などが例示できる。高級脂肪酸の金属塩は、例えば、ステアリン酸亜鉛等である。
【0050】
[中間層]:ここでいう中間層とは、剥離層兼保護層22と受像層兼接着層2の間にある層であり、OVD層23や金属蒸着層24、絵柄層などさまざまな層を総称している。
【0051】
絵柄層はグラビア印刷等通常の印刷方法で形成できる。
【0052】
OVD層は見る角度で色彩等が変化する画像を有するもので、例えば、レリーフ型回折格子が使用できる。レリーフ型回折格子は回折格子形成層と透過性薄膜層とからなり、回折格子形成層は回折格子形成用樹脂層の表面に、微細な凹凸パターンが設けられている。樹脂は、エンボス成形性が良好で、プレスムラが生じ難く、明るい再生像が得られ、剥離層および保護層及び透過性薄膜層との接着性が良好である必要がある。
【0053】
透過性薄膜層は回折格子形成層で得られる回折光を反射させることで再生像を明るくすると同時に、その下に設けられた記録情報や絵柄などを視認するために透明材料を用いた層であって、回折格子形成層(屈折率n=1.3〜1.6)よりも屈折率の高いことが装飾性の向上に好ましい。さらに透過性薄膜層は、複数の層を重ね合わせて形成してもよく、異なる屈折率の層の組み合わせ、高屈折率の層と低屈折率の層とを交互に積層した多層
膜としてもよい。また、このような薄膜層を形成する方法としては、ZnSなどの金属化合物を使用し、真空蒸着法の他にスパッタリング法、イオンプレーティング法等の成膜手段を用いることが可能であり、膜厚としては10nm〜1000nmの範囲にあることが好ましい。
【0054】
なお、OVD層としては前記のいわゆるレリーフ型回折格子以外に、リップマンホログラムなどの体積位相型ホログラムを用いることも可能である。
【0055】
次に、金属蒸着層は回折格子による画像を効率的に視認させるための反射層であり、情報記録体の全面に設けては記録された情報が隠れてしまうため、部分的に設けることが多い。例えば、アルミニウム、銅などの金属をホログラム層の上に真空蒸着法やスパッタリング法などで蒸着し、マスク層を設けた上でエッチングすることで部分的な反射層とすることができる。
【0056】
[受像層兼接着層25]:受像層兼接着層25としては、感熱接着剤として用いられる熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などの塩化ビニル系、線状飽和ポリエステルやポリエステル系ポリアミド等のポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系等である。
【0057】
[インク層(記録画像)26]本発明に係る情報は、インク層による画像の形式で設けることができる。また、染料を使用する場合には、樹脂層を画像状に染色することで画像を形成することができる。例えば、昇華転写法による画像である。
【0058】
例えば、中間転写方式(再転写方式)を利用して、中間転写媒体20に画像を形成した後、この画像を情報記録体30に転写形成することによって、情報記録体30に画像を形成することができる。また、中間転写媒体20を使用することなく、直接情報記録体30に画像を形成することも可能である。いずれの場合にも、各種印刷方式によって設けることができる。例えば、静電気を用いてトナーを定着させる電子写真方式、液状のインクをノズルから射出することで画像を形成するインクジェット方式、インクリボンを被転写物に押し当てた上でサーマルヘッド等を用いて熱を加えてインクを移行させる熱転写方式、などである。
【0059】
しかしながら、中間転写方式(再転写方式)を用いる場合には、熱転写方式が望ましい。電子写真方式は静電気を用いるため、ベースフィルム21等の材質によっては問題が生じやすく、インクジェット方式はインクを吸い取る受像層が必要であるため好ましくない。サーマルヘッドを用いた熱転写方式は、被転写物が平滑であることが要求されるが、この点においても中間転写方式は薄膜のフィルムを用いることから相性が良い。加えて、熱転写方式を用いることで後述のドットオンドット方式による画像形成を容易に行うことができるのに対して、他の方式では非常に困難である。
【0060】
熱転写方式で用いる転写リボンは、例えば、ベースとなるフィルムの上にインク層を印刷することで製造できる。ベースとなるフィルムとしては、樹脂シートが使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のフィルムである。また、インク層としては、バインダー用樹脂に着色材を適宜混合したものを使用することができる。バインダー用樹脂としては、ポリメチルメタアクリレート、ポリブチラール、塩化ビニル−酢酸ビニル−共重合体等が使用できる。着色材としては、有機染料、有機顔料、無機顔料等が使用できる。また、必要によっては、インク層にワックス成分やフィラー等を加えることもできる。
【0061】
[ドットの配置方式]本発明においては、ドットの配置方式としてドットオンドット方
式を用いる必要がある。上記で述べたように、転写リボンを用いて熱転写方式によって画像を形成する場合、各色のドットを順に中間転写媒体上に設けていく。代表的なドットオンドット方式によれば、まず、ブラックのインクを転写し、そのドットと同じ位置にシアン、マゼンタ、イエローの各インクを順に転写していく。転写順序は各色のインクの濃度や発色の良さ、透過性、接着性などを考慮したものであり、これに限るものではない。また、ブラックインクを使用せずに3色で画像を形成することもある。ドットを重ねて転写する方法としては、例えば、中間転写媒体をロールに固定し、別のロールに固定した転写リボンを押し当ててサーマルヘッドで加熱して、まず1色目の画像を形成する。さらに、ステッピングモータを用いて中間転写媒体用のロールを逆転させて最初の位置に戻し、他方のロールの転写リボンは別の色に変更し、同様にサーマルヘッドを用いて画像を形成する。これを繰り返すことで各色のドットの位置がすべて重なった画像を形成することができる。
【0062】
[中間転写媒体20の接着]中間転写媒体20には受像層兼接着層25が設けられているため、情報記録体30の基材31と接した上からヒートローラなどで加熱加圧することによって接着することができる。この中間転写媒体20に剥離層と保護層が設けられていれば、ベースフィルム21を取り除いた情報記録体を作成することができる。
【0063】
[万線パターン41]本発明の特徴は上記ドットオンドット方式によって形成された記録画像に万線パターン41を重ねたものであり、その万線パターン41のピッチはドットのピッチの整数倍になっている必要がある。すなわち、万線パターンのピッチとドットのピッチが一致している場合、図7の左図に示すように、ドットと万線パターンが干渉することなく交互に重ねあわされることになり、万線パターンのピッチがドットピッチの2倍、3倍、4倍と整数倍になっている場合は、万線パターンの間にドットが、1個、2個、3個と入るだけで、同様に干渉することはない。万線パターンの線幅は、ドットの最大直径、あるいはドットのピッチと同じぐらいであることが望ましい。線幅が細いとドットとの干渉が明確には分からなくなるため偽造品の判別が困難になり、線幅が太すぎると記録画像を覆う面積が多くなりすぎて画像自体の視認性が悪くなる。
【0064】
万線パターン41は各種印刷方式で作成することができるが、情報記録体30の基材31にあらかじめ印刷しておく場合にはオフセット印刷やグラビア印刷が好適に使用でき、中間転写媒体21上にあらかじめ印刷する場合にはグラビア印刷が好適に使用できる。また金属蒸着層を用いて万線パターンを作成する場合は、まず中間転写媒体20上に金属蒸着層を作成し、さらにグラビア印刷等で金属蒸着層の上に万線パターンのマスク層を印刷し、その後エッチング方式によって金蔵蒸着層を部分的に取り除くことで金属蒸着層からなる万線パターン41を形成することができる。またマスク層の印刷と同時にレジスターマークなども印刷しておけば、中間転写媒体20上にドットを形成する際の基準点として利用できる。
【0065】
[万線パターン41の効果]上記のようにして万線パターンと記録画像を重ねて形成することによって偽造と変造を抑止することができる。例えば、図7の右図に一般的なプレンタで印刷した記録画像の拡大図を示す。
【0066】
インクジェット方式や電子写真方式に依らず、一般のプリンタではスクリーン方式でドット配置を行なうため、図7の右図のように各色のドットが分散して配置されている。この画像の場合、マゼンタのドット(12)はX軸Y軸に平行に設けられ、イエローのドット(11)とシアンのドット(13)はそれぞれ30度ずつ傾けたスクリーン角度で設けられている。すなわち、各色に関して、それぞれのスクリーン角度で見たときのドットのピッチはすべて同じであるが、X軸方向で見た場合や、Y軸方向で見た場合のドットのピッチはそれぞれ異なる。この例での万線パターンはY軸と平行に設けられているため、万
線パターンとの干渉に影響するのはX軸方向のドットピッチである。X軸方向のドットピッチは各色によって異なるから、画像全体で見た場合に色のムラを生じさせることになる。
【0067】
例えば、万線パターンのピッチが図7の右図におけるマゼンタのドットピッチと同じだった場合を考えると、万線パターンがマゼンタのドットと重なった場合にはマゼンタの色成分が見えなくなり、画像の色調が明らかに変化する。
【0068】
また、これに加え、シアンとイエローのX軸方向におけるドットピッチは万線パターンのドットピッチと異なるため、万線パターンとドットが重なる部分と重ならない部分が周期的に発生し、記録画像全体に波のような色変化、すなわち干渉縞を発生させることになる。もちろん、マゼンタのドットピッチが万線パターンのピッチと異なる場合は、マゼンタにおいても周期的に干渉縞が生じる。また、スクリーン方式によるドット配置を行なった場合、各色のX軸方向におけるドットピッチは必ず異なるため、すべての色のドットを万線パターンと干渉しないように形成することは不可能である。これにより、ドットオンドット方式以外の方式で印刷された偽造品においてはモアレパターンが発生し、容易に真性品と判別することができる。
【実施例】
【0069】
本発明はパスポートや運転免許証などの身分証明書として使用される情報記録体における偽変造防止のための有効な手段となる。このため、ここではパスポート冊子に応用した際の実施例を述べる。
【0070】
すなわち、まず冊子を用意した。この冊子は、表紙カバー、データページ、VISAページ、から構成されており、氏名や顔写真などの個人情報はデータページに記録される。データページは国によって仕様が異なるが、ここでは紙製のページに透明の易接着層をコーティングしたものを使用した。
【0071】
次に上記パスポート冊子のデータページに対し、パスポートプリンタ(凸版印刷(株)製 E2000)を用いて顔写真および氏名や有効期限等の個人情報を記録した。記録方式は上記で述べた中間転写方式であり、以下、この記録に使用した中間転写媒体と記録方法を述べる。
【0072】
まず中間転写媒体を準備した。この中間転写媒体は、ベースフィルム、剥離層兼保護層、OVD層、受像層兼接着層、から構成されており、受像層兼接着層上の一部には万線パターンが形成されている(図3参照)。この万線パターンは幅50μm、ピッチ100μmで、万線パターンと中間転写媒体の流れ方向が平行になるようにオフセット印刷により墨インクで印刷した。この中間転写媒体に転写リボンを重ね合わせ、サーマルヘッドを用いて上記で述べたようにドットオンドット方式による記録画像を形成した。サーマルヘッドの発熱素子のピッチは50μmで、媒体の送りピッチも50μmであるため、得られた記録画像のドットピッチはいずれの方向も50μmである。
【0073】
次に画像が記録された中間転写媒体をパスポートのデータページに重ね、ヒートローラを用いて熱転写し、評価用のパスポート冊子を作成した。
【0074】
比較のため、上記パスポート冊子を模した偽造品を作成した。同じくパスポート冊子を準備し、これにインクジェットプリンタで顔写真等の画像を記録し、その上から上記の万線パターンを設けた中間転写媒体を接着した。
【0075】
得られた二つの冊子を比較したところ、いずれも真性品の材料を用いているため、外観
やOVD層などで偽造品を判別することはできなかった。しかし記録画像部分を目視で確認したところ、ドットオンドット方式で作成した真性品のパスポート冊子においては万線パターンの設けられた部分は暗くなっているものの画像として不自然な点はなかったが、偽造品においては、万線パターンが設けられた部分にモアレパターンが発生しており、明らかに真性品とは異なる外観であったため偽造品と判別することができた。以上のように本発明の効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0076】
1‥ ドットオンドット方式による印刷画像の例
2‥ スクリーン方式による印刷画像の例
11‥ イエローのドット
12‥ マゼンタのドット
13‥ シアンのドット
20‥ 中間転写媒体
21‥ ベースフィルム
22‥ 剥離層兼保護層
23‥ OVD層
24‥ 金属蒸着層
25‥ 受像層兼接着層
26‥ インク層(記録画像)
30‥ 情報記録体
31‥ 基材
41‥ 万線パターン1
42‥ 万線パターン2
43‥ 記録画像
44‥ 中間転写媒体
45‥ 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材と、記録画像と、該記録画像と重なるように設けられた万線パターンを有する情報記録体であって、
該記録画像は、少なくとも3色のドットの集合からなり、かつ各色のドット1個ずつを一組として同一箇所に重ねて一つの色調を持ったドットとしており、
かつ重ねられたドットが少なくとも一方向に等間隔のピッチで配列されているとともに、該万線パターンのピッチが該ドットのピッチの整数倍である、
ことを特徴とする情報記録体。
【請求項2】
前記記録画像が、中間転写媒体上に形成され、該記録画像が形成された該中間転写媒体が熱圧によって基材上に接着されていることを特徴とする、請求項1に記載の情報記録体。
【請求項3】
前記記録画像を形成するドットが、感熱転写インクリボンと前記中間転写媒体を重ねてサーマルヘッドで加熱することによって形成されていることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の情報記録体。
【請求項4】
前記万線パターンがあらかじめ基材上に印刷されており、該万線パターンに位置を合わせて前記ドットが形成された中間転写媒体を接着することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の情報記録体。
【請求項5】
前記万線パターンがあらかじめ前記中間転写媒体上に設けられ、該万線パターンに位置を合わせて前記ドットが形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の情報記録体。
【請求項6】
前記中間転写媒体に回折格子構造体が形成されたOVD層が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の情報記録体。
【請求項7】
前記中間転写媒体に金属蒸着層が形成され、前記万線パターンが該金属蒸着層によって形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の情報記録体。
【請求項8】
前記万線パターンが2箇所以上の領域に形成され、各領域における万線パターンのピッチがそれぞれ異なることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の情報記録体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−88316(P2011−88316A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242326(P2009−242326)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】