説明

情報記録媒体、その真偽判定方法、及び真偽判定システム

【課題】単独で安価かつセキュリティー性の良好な真偽判定を実現する。
【解決手段】 2以上の波長において発光強度ピークを出現し得る希土類蛍光錯体を含有する情報記録層を含む情報記録媒体に励起光を照射し、少なくとも2つの波長における発光強度を並行して測定してその比率を算出し、予め決められた比率と照合して真偽判定を行う真偽判定システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、希土類蛍光錯体の発光スペクトルを活用した、情報記録媒体、その真偽判定方法、及び真偽判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、真偽判定手段は、ますますその重要性を増してきている。
【0003】
一般に、蛍光染顔料を活用したセキュリティー方式では、可視光では視認識できない画像、記号、その他の形成物が、特定の波長に光、特に紫外光を照射することによって出現して認識できる状態に至る。従来、無機蛍光顔料を用いてパターンを形成し、紫外線照射によってパターンを出現させる方式が開示されているが、無機蛍光顔料は粒子として存在するため、可視光下で薄くパターンが視認できることにより、セキュリティー性に課題がある。
【0004】
これに対し、希土類蛍光錯体を活用するセキュリティー方式が報告されている。
【0005】
希土類蛍光錯体は可視光下で透明であり、かつ媒体に溶解して光散乱がないため、視認できない点ではセキュリティー性が高い。このため、写真等の画像を印刷して紫外光を照射し、通常の写真と照合することにより、セキュリティー性が保たれる。しかしながら、全面に紫外線を照射して検査することにより偽造が可能であり、単独では高度なセキュリティーシステムを構築できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−173622号公報
【特許文献2】特開2002−88282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本実施形態は、かかる事情を鑑みてなされたものであり、希土類蛍光錯体を用いて、セキュリティー性の良好な情報記録媒体、真偽判定方法、及び真偽判定システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施態様によれば、基材と、該基材上に設けられ、2以上の波長において発光強度ピークを出現し得る希土類蛍光錯体を含有する情報記録層を含む情報記録媒体に励起光を照射し、第1の波長及び該第1の波長とは異なる第2の波長における発光強度を並行して測定し、第1の発光強度及び第2の発光強度を決定する2波長発光強度測定部、
該2波長発光強度測定部からの該第1の発光強度情報及び第2の発光強度情報を受けて、該第1の発光強度及び第2の発光強度の相対強度比を計算する数値処理部、及び
該数値処理部から送られた相対強度比情報と、真偽判定情報から得られる相対強度比情報とを照合し、真偽判定を行う判定部を具備する真偽判定システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態の真偽判定システムの構成の一例を表すブロック図である。
【図2】実施形態の情報記録媒体の一例を表す正面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】実施形態の真偽判定方法の一例を表すフローである。
【図5】実施形態の真偽判定方法の他の一例を表すフローである。
【図6】実施形態に使用可能な希土類蛍光錯体の一種であるEu(III)錯体の発光スペクトルを表すグラフである。
【図7】実施形態に使用可能な希土類蛍光錯体の一種であるTb(III)錯体の発光スペクトルを表すグラフである。
【図8】実施形態に使用可能なインクリボンの構成の一例を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態にかかる情報記録媒体は、基材と、基材上に設けられ、2以上の波長において発光強度ピークを出現し得る希土類蛍光錯体を含有する情報記録層とを含む。
【0011】
実施形態にかかる真偽判定システム及び真偽判定方法では、上記情報記録媒体について真偽判定を行う。
【0012】
以下、図面を参照し、実施形態をより詳細に説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係る真偽判定システムの構成を表すブロック図である。
【0014】
図示するように、実施形態にかかる真偽判定システム100は、2波長発光強度測定部101、数値処理部102、及び判定部103を有する。
【0015】
2波長発光強度測定部101は、上記情報記録媒体に励起光を照射し、第1の波長及び該第1の波長とは異なる第2の波長における発光強度を並行して測定し、第1の発光強度及び第2の発光強度の決定を行うために設けられる。
【0016】
数値処理部102は、2波長発光強度測定部101からの第1の発光強度情報及び第2の発光強度情報を受けて、該第1の発光強度及び第2の発光強度の相対強度比の計算を行うために設けられる。
判定部103は、数値処理部102から送られた相対強度比情報と、真偽判定情報から得られる相対強度比情報とを照合し、真偽判定を行うために設けられる。
【0017】
例えば、真偽判定情報は、真偽判定情報記録部104から得ることができる。真偽判定情報記録部104は例えば情報記録媒体の基材上に設けることが可能である。
【0018】
図2に、実施形態にかかる情報記録媒体の一例を表す正面図を示す。
【0019】
図3に図2のA−A断面図を示す。
【0020】
図示するように、実施形態に係る情報記録媒体の一例となるIDカード10は、基材1とその上に設けられた例えば文字情報層3、画像情報層2等の情報記録層を含む。希土類蛍光錯体は、情報記録層の少なくとも一部に含まれ得る。そこの希土類蛍光錯体を溶解するポリマーと共に使用できる。希土類蛍光錯体は、この希土類蛍光錯体を溶解するポリマーと共に使用できる。例えば画像情報層2を形成するためのインクに添加することができる。任意に、画像情報層2の右上の隅には、真偽判定情報記録部4を設けることが出来る。また、基材1、文字情報層3、画像情報層2、及び真偽判定情報記録部4上には、保護層5を設けることが出来る。
【0021】
なお、ここでは、情報記録媒体に真偽判定情報記録部を設ける例について述べたが、これに限定するものではなく、例えば真偽判定情報は、判定部と接続可能なデータ蓄積部等に予め記憶させておくことが出来る。
【0022】
図4に、実施形態にかかる真偽判定方法の一例を表すフローを示す。
【0023】
実施形態にかかる真偽判定方法では、2波長発光強度測定(ブロック1)、数値処理(ブロック2)、及び真偽判定(ブロック3)を行う。
【0024】
2波長発光強度測定(ブロック1)では、2波長発光強度測定部にて、上記情報記録媒体に励起光を照射し、第1の波長及び該第1の波長とは異なる第2の波長における第1の発光強度及び第2の発光強度を並行して測定する。
【0025】
数値処理(ブロック2)では、2波長発光強度測定部からの第1の発光強度情報及び第2の発光強度情報を受けて、該第1の発光強度及び第2の発光強度の相対強度比を計算する。
【0026】
真偽判定(ブロック3)では、数値処理部から送られた相対強度比情報と、真偽判定情報から得られる相対強度比情報とを照合し、その照合結果を受けて判定を行う。
【0027】
実施形態にかかる真偽判定システム及び真偽判定方法は、希土類蛍光錯体のスペクトル形状の特異性を活用したものであり、発光スペクトル中の2以上の波長における発光強度例えば電気双極子遷移に基づく発光ピークの強度と、磁気双極子遷移に基づく発光ピークの強度とを並行して計測し、その相対強度比を求める。
【0028】
相対強度比は、使用される希土類蛍光錯体を溶解するポリマーが同一であれば個々の希土類蛍光錯体固有のものとなる。
【0029】
目視にはほとんど同一の発光が得られても、希土類蛍光錯体の分子構造が異なれば、相対強度比が変動する。
【0030】
また、使用される希土類蛍光錯体が同じであっても、溶解するポリマーが異なると、相対強度比が変動する。
【0031】
さらに、使用される希土類蛍光錯体が同じであっても、溶解するポリマーとの配合比が異なっても、有為な変動は検出されない。
【0032】
このため、実施形態によれば、使用されている希土類蛍光錯体の分子構造、溶解するポリマー、希土類蛍光錯体とポリマー配合比について、真偽判定情報記録部等にあらかじめ記録された情報と一致するか、あるいは不一致であるかを容易に判定することが可能となり、セキュリティー性が良好となる。
【0033】
また、例えば、図4に示す2波長発光強度測定に加えて、2波長例えばλ1,λ2間の任意の少なくとも1波長例えばλ3の波長で発光強度例えばI3を測定し、上記2波長λ1,λ2における発光強度例えばI1,I2のいずれかよりも小さいことを確かめる発光強度測定を行うことができる。
【0034】
発光強度I3が、上記2波長における発光強度I1,I2のいずれかよりも高い場合には、真偽判定は偽と判定される。
【0035】
なお、このような場合は、例えば発光がブロードに起きる蛍光体が使用されているか、または測定すべき希土類蛍光錯体とは異なる波長にも発光強度とピークを有する蛍光体が使用されている等の原因が考えられる。
【0036】
図5に、実施形態にかかる真偽判定方法の他の一例を表すフローを示す。
【0037】
図示するように、この真偽判定方法では、最初の真偽判定の結果を受けた場合には(ブロック4)、再度、同じ媒体について2波長発光強度測定、数値処理、及び真偽判定を行い、得られた真偽判定の結果と、その前の真偽判定の結果とを照合し、その一致をもって最終的に真偽を決定し(ブロック5)、得られた真偽判定の結果と、その前の真偽判定の結果とを照合し、2つの結果が一致しないときは、加えて、2波長発光強度測定、数値処理、及び真偽判定を行い、得られた真偽判定の結果と、その前の真偽判定の結果とが一致するまで、2波長発光強度測定、数値処理、及び真偽判定を繰り返すこと以外は、図4に示す方法と同様である。
【0038】
実施形態に使用可能な希土類蛍光錯体の一種である下記式(1)で表される分子構造を有するEu(III)錯体の発光スペクトルを図6に示す。
【化1】

【0039】
図6において、波長612nmにピークを有する、電気双極子遷移に基づく発光スペクトル強度602は、錯体の配位子の分子構造及び溶解するポリマーの種類の影響を大きく受けるものである。一方、各々、波長580nm、594nm、650nm、700nmにピークを有する、磁気双極子遷移に基づく発光スペクトル強度601は、これらの影響を受けず、ほぼ一定の発光強度を有するのである。以上より、電気双極子遷移と磁気双極子遷移に基づく発光強度の比率は、錯体の分子構造と溶解するポリマーの種類固有の値となる。すなわち、セキュリティーを設置する側が用いた蛍光錯体と分子構造が異なる蛍光錯体を用いて偽造を試みた場合、目視の発光は区別できなくとも、発光スペクトルの比率を把握することにより、直ちにその真偽を判定し得る。
【0040】
実施形態に使用可能な希土類蛍光錯体の一種である下記式(2)で表される分子構造を有するTb(III)錯体の発光スペクトル図7に示す。
【化2】

【0041】
図中、波長544nmにピークを有する603は、磁気双極子遷移に基づく発光スペクトル強度、604は、一方、各々、波長492nm、588nm、及び624nmにピークを有する、磁気双極子遷移に基づく発光スペクトル強度を、各々示す。
【0042】
図7において、Eu(III)錯体の場合と同様に、セキュリティーを設置する側が用いた蛍光錯体と分子構造が異なる蛍光錯体を用いて偽造を試みた場合、目視の発光は区別できなくとも、発光スペクトルの比率を把握することにより、直ちにその真偽を判定し得る。
【0043】
Eu(III)錯体とTb(III)錯体等、複数の希土類蛍光錯体を混合することにより、より強固な上記のセキュリティーシステムを構築することが可能である。
【0044】
発光スペクトルの検出方式は、電気双極子遷移と磁気双極子遷移の発光のピーク波長の2波長の強度を並行して、好ましくは同時に計測し、瞬時にその相対強度比率を計算して規定の値であるか否かを照合することができる。実施形態の方法を用いると、発光スペクトル全体を計測するよりも、測定に時間がかからず、低コストで、良好なセキュリティ性が要求される種々の用途に適用することが可能となる。
【0045】
一般的に有機蛍光体は、溶解するポリマーにより、発光強度のみならず、発光波長が大きく変化するため、上記のような真偽判定は不可能である。
【0046】
これに対し、実施形態にかかる希土類蛍光錯体は、波長が、分子構造や存在条件でほとんどシフトせず、かつ置かれた環境で発光強度が変化しない磁気双極子遷移に基づく発光と、置かれた環境によって発光強度が変化する電気双極子遷移に基づく発光を分離して有する希土類蛍光錯体でのみ可能なシステムである。
【0047】
実施形態に用いられる希土類蛍光錯体を溶解するポリマーとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂などの透明な樹脂が望ましい。より望ましくは、高極性なものである。
【0048】
実施形態に用いられるアクリル樹脂としては、具体的には、三菱レイヨン(株)製ダイヤナールBR−53、ダイヤナールBR−64、ダイヤナールBR−77、ダイヤナールBR−79、ダイヤナールBR−90、ダイヤナールBR−93、ダイヤナールBR−101、ダイヤナールBR−102、ダイヤナールBR−105、ダイヤナールBR−106、ダイヤナールBR−107、ダイヤナールBR−112、ダイヤナールBR−115、ダイヤナールBR−116、ダイヤナールBR−117、ダイヤナールBR−118等があげられる。
【0049】
実施形態に用いられるポリエステル樹脂としては、具体的には、東洋紡績(株)製バイロン200、バイロン220、バイロン245、バイロン270、バイロン280、バイロン290、バイロンGK640、バイロンGK880、バイロンSI−173、バイロンRN−9300、バイロンRN−9600、バイロナールMD−1245、ユニチカ(株)製エリーテルUE−3200、エリーテルUE−3201、エリーテルUE−3203、エリーテルUE−3600、エリーテルUE−9600、エリーテルUE−9800、エリーテルUE−3660等があげられる。
【0050】
実施形態に用いられる塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂としては、具体的には、ダウケミカル製VYNS−3、VYHH、VYHD、VMCH、VMCC、VMCA、VERR−40、VAGH、VAGD、VAGF、VROH、日信化学工業(株)製ソルバインC、ソルバインCL、ソルバインCH、ソルバインCN、ソルバインC5、ソルバインM、ソルバインML、ソルバインTA5R、ソルバインTAO、ソルバインMK6、ソルバインTA2等があげられる。
【0051】
実施形態に用いられる希土類蛍光錯体は、光に対する耐久性、発光強度、印刷性能の3つの特性を満たす必要がある。我々は種々の検討を行った結果、下記式(1)に示す分子構造のLn(III)錯体が上記特性を最もよく満たすことを見出した。
【化3】

【0052】
式(3)において、Ar,Arは同一でも異なっていてもよい芳香族置換基またはこの置換体、R,Rは同一でも異なっていても良い直鎖、枝分かれ構造のどちらでもよいアルキル基、アルコキシ基、R(F),R(F)は、同一であっても異なっていてもよいパーフルオロアルキル基、nは2以上の整数、Ln(III)は希土類イオンである。
【0053】
また、さらには、実施形態に用いられる希土類蛍光錯体は、下記式(4)に示す分子構造のLn(III)錯体が上記特性を満たすことを見出した。
【化4】

【0054】
式(4)において、R1,R2,R3,R4は同一でも異なっていてもよい芳香族置換基または直鎖、枝分かれ構造のどちらでもよいアルキル基、アルコキシ基またはこれらの置換体であり、すべて同一である場合を除く。R1(F),R2(F)は、同一であっても異なっていてもよいパーフルオロアルキル基、Ln(III)は希土類イオンである。
【0055】
実施形態にかかるセキュリティー媒体は、熱転写印刷等で画像やパターンを形成することによって実現することができる。熱転写印刷を行う場合のインクリボンの断面図を図8に示す。
【0056】
図示するように、このインクリボン20は、基材7、と基材7の一方の主面上に形成された耐熱層6と、基材7のもう一方の主面には、溶融型または昇華型熱転写インク層8とが記載されている。
【0057】
実施形態によれば、使用される希土類蛍光錯体の分子構造と、溶解するポリマーの種類によって変化し得、かつ他の要因に左右されない磁気双極子遷移と電気双極子遷移に基づく発光ピークの強度比を真偽判定時の基準とすることができる。これにより、希土類蛍光錯体とポリマーの種類の両方の合致を以て、真偽判定を行うことができ、さらには、希土類蛍光錯体とポリマーの配合比の合致に以て、簡単安価なシステムでよりセキュリティーの良好な真偽判定を行うことが可能となる。
【0058】
実験例
以下、実施例を示し、実施の形態をより詳細に説明する。
【0059】
実施例1
実施形態にかかる情報記録媒体を以下のように作成し、その光耐久性、明るさ、及び印刷精度を測定、評価した。
【0060】
熱溶融性インクリボンの作成
一方の表面に耐熱フィルムを設けた厚さ4.5μmの透明ポリエステルフィルム(東レ株式会社製、商品型番:ルミラーQ27)を用意し、そのポリエステルフィルムのもう一方の表面に、下記組成の熱溶融性インク塗布液を、グラビアコーターを用いて、乾燥後の塗膜厚みが3μmになるよう塗布し、それぞれ120℃で2分間、加熱・乾燥して、熱溶融性インク層を形成し、熱溶融性インクリボンを得た。
【0061】
熱溶融性インク層塗布液
メチルエチルケトン 40重量部
トルエン 40重量部
東洋紡績(株)製バイロン220 14重量部
式(5)で表される希土類蛍光錯体 6重量部
【化5】

【0062】
得られた熱溶融性インクリボンと市販のPPC用紙を重ね、熱溶融性インクリボンの背面側から600dpiのサーマルヘッドで、画像記録を行い、例えばIDカード等の画像入り情報記録媒体を得た。
【0063】
下記条件にて、光耐久性、明るさ、及び印刷精度を測定、評価した。
【0064】
耐久性
画像記録を行った媒体を、スガ試験機(株)製ロングライフキセノンウェザーメーターWEL−75X−HC−BEC型内に7日間放置し、発光強度の残存率の変化を日本分光製蛍光分光光度計FP−6600にて測定した。
【0065】
発光強度の残存率は、次式より求めた。
【0066】
残存率(%)=(試験後の発光強度)/(試験前の発光強度)×100(%)
その結果、発光強度の残存率は、88(%)と、良好であった。
【0067】
尚、残存率は、70(%)以上が良好、40(%)以上70(%)未満がやや良好、40(%)未満を不良とする。
【0068】
明るさ(発光強度)
画像記録を行った媒体の発光強度を、日本分光製蛍光分光光度計FP−6600にて測定した。その結果、全体の発光強度は、420であり、良好であった。
【0069】
また、580nmの波長における発光強度は324であり、700nmの波長における発光強度は23となる。
【0070】
その発光強度比は、14.1である。
【0071】
印刷精度の評価方法
画像記録を行った媒体の画点の形状を実体顕微鏡で観察し、画点面積のばらつき、画点の中央抜けの有無を調べた。画点面積のばらつきが±10%以内であれば良好、±10%を越えると不良として評価した。また、中央抜けがない場合を良好、ある場合を不良として評価した。その結果、画点面積のばらつきが4%と良好であった。
【0072】
上述のごとく、光耐久性、印刷精度、及び発光強度の3特性ともに良好であり、情報記録媒体として実用的に使用できることが分かった。
【0073】
また、熱溶融性インクの発光スペクトルについて、二波長同時検出システム日本板硝子社製 光ファイバー型蛍光検出器を用いて測定したところ、ピーク強度比()/()は、8.0となった。
【0074】
また、使用されるポリマー バイロン220に対する希土類蛍光錯体の重量は42.86重量%であった。
【0075】
実施例2
式(5)で表される希土類蛍光錯体の代わりに、下記式(6)に示す分子構造の錯体を用いること以外は、実施例1と同様にして、画像入り情報記録媒体を作成した。
【化6】

【0076】
実施例1と同様にして、光耐久性、印刷精度、明るさを測定、評価したところ、光耐久性は82%、発光強度は384であり、良好であった。しかしながら、印刷精度は、画点面積のばらつきが23%とやや劣っていた。
【0077】
印刷精度がやや悪い原因は、熱転写時の転写能が良くない、即ち膜質が丈夫であり、転写されがたいことがあげられる。一般に、溶質に対するフッ素原子の導入は、ポリマーをもろくする傾向がある。即ち、βジケトンの置換基は、両者ともにフルオロアルキル基であることが必要である。
【0078】
実施例3
式(5)で表される希土類蛍光錯体の代わりに、下記式(1)に示す分子構造をもつ希土類蛍光錯体を用いること以外は、実施例1と同様にして、画像入り情報記録媒体を作成した。
【化7】

【0079】
実施例1と同様にして、光耐久性、印刷精度、明るさを評価したところ、光耐久性、明るさ、印刷精度が多少劣ることが判明した。
【0080】
式(1)に示す錯体は、他の錯体と比較して、溶媒に対する溶解性に極めて優れることが特徴である。ポリマー中で染料として振舞うため、耐久性が劣化したものと考えられる。
【0081】
実施例4
式(5)で表される希土類蛍光錯体の代わりに、下記式(7)下記で表される分子構造をもつ希土類蛍光錯体を用いること以外は実施例1と同様にして、画像入り情報記録媒体を作成した。
【化8】

【0082】
実施例1と同様にして、光耐久性、印刷精度、明るさを評価したところ、明るさは良好であったが、光耐久性、印刷精度がやや劣ることが判明した。
【0083】
式(7)で表される分子構造をもつ希土類蛍光錯体では、βジケトン配位子に芳香族置換基が導入されたことにより、活性メチレンとなるβジケトンの中央部のHの酸性度が向上し、分解が促進されて光耐久性が低下したものと思われる。
【0084】
実施例5〜9
下記式(8)ないし式(12)で表される分子構造を有するEu(III)錯体を、各々合成し、 酢酸エチル溶液中における発光スペクトルについて、二波長同時検出システム 日本板硝子社製 光ファイバー型蛍光検出器を用いてピーク強度比()/()を測定したところ、下記表1に示す結果を得た。
【化9】

【0085】
【化10】

【0086】
【化11】

【0087】
【化12】

【0088】
【化13】

【0089】
【表1】

【0090】
式(8)ないし式(12)で表される分子構造を有するEu(III)錯体は互いに似たような構造を有するけれども、上記表1のように、ピーク強度比に差が出る。
【0091】
このように、実施形態にかかる情報記録媒体に使用される希土類蛍光錯体には、各々、固有のピーク強度比があることがわかる。
【0092】
このように、希土類蛍光錯体が二以上の波長にて固有のピーク強度比を示す特性を使用し、使用されている希土類蛍光錯体の分子構造、溶解するポリマー、及び希土類蛍光錯体とポリマー配合比について、あらかじめ情報を記憶させておくことにより、測定を行った試料のピーク強度比と一致するか、あるいは不一致であるかを容易に判定することが可能となり、セキュリティー性が良好となる。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0094】
実施例10
式(5)で表される希土類蛍光錯体の代わりに、式(2)で表される分子構造をもつ希土類蛍光錯体を用いること以外は実施例1と同様にして、画像入り情報記録媒体を作成した。ピーク強度比()/()を測定したところ、0.20であった。
【化14】

【0095】
実施例11
式(12)のEu(III)錯体を用いて作成したセキュリティー画像5種(真)と、実施例1の式(5)のEu(III)錯体を用いて作成したセキュリティー画像1種(偽)を混合した。
【0096】
ブラックライト照射時は、全く同一に見える赤色発光画像が得られた。しかしながら、二波長同時検出システムでピーク強度比を測定したところ、1種のみピーク強度比28の偽の画像が検出された。
【符号の説明】
【0097】
1…基材、2…画像情報層、3…文字情報層、4…真偽判定情報記録部、10…IDカード、100…真偽判定システム、102…2波長発光強度測定部、103…判定部、104…真偽判定情報記録部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に設けられ、2以上の波長において発光強度ピークを出現し得る希土類蛍光錯体を含有する情報記録層を含む情報記録媒体に励起光を照射し、第1の波長及び該第1の波長とは異なる第2の波長における発光強度を並行して測定し、第1の発光強度及び第2の発光強度を決定する2波長発光強度測定部、
該2波長発光強度測定部からの該第1の発光強度情報及び第2の発光強度情報を受けて、該第1の発光強度及び第2の発光強度の相対強度比を計算する数値処理部、及び
該数値処理部から送られた相対強度比情報と、真偽判定情報から得られる相対強度比情報とを照合し、真偽判定を行う判定部を具備する真偽判定システム。
【請求項2】
前記の2波長以上の波長に対応する発光は、少なくとも一つの磁気双極子遷移に基づく発光と、少なくとも一つの電気双極子遷移に基づく発光の中心である請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記真偽判定情報を記録した真偽判定情報記録部が前記基材上に設けられる請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記希土類蛍光錯体が、下記式(3)で現される請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシステム。
【化1】

(式(3)において、Ar, Arは同一でも異なっていてもよい芳香族置換基またはこの置換体、R, Rは同一でも異なっていても良い直鎖、枝分かれ構造のどちらでもよいアルキル基、アルコキシ基、R(F),R(F)は、同一であっても異なっていてもよいパーフルオロアルキル基、nは2以上の整数、Ln(III)は希土類イオンである。)
【請求項5】
前記希土類蛍光錯体が、下記式(4)で表される請求項1ないし4のいずれか1項に記載のシステム。
【化2】

(式(4)において、R,R,R,R,R5,R6は同一でも異なっていてもよい芳香族置換基または直鎖、枝分かれ構造のどちらでもよいアルキル基、アルコキシ基またはこれらの置換体であり、すべて同一である場合を除く。R(F),R(F)は、同一であっても異なっていてもよいパーフルオロアルキル基、Ln(III)は希土類イオンである。)
【請求項6】
2波長発光強度測定部にて、基材と、該基材上に設けられ、2以上の波長において発光強度ピークを出現し得る希土類蛍光錯体を含有する情報記録層を含む情報記録媒体に励起光を照射し、第1の波長及び該第1の波長とは異なる第2の波長における第1の発光強度及び第2の発光強度を並行して測定する2波長発光強度測定を行い、
該2波長発光強度測定部からの該第1の発光強度情報及び第2の発光強度情報を受けて、該第1の発光強度及び第2の発光強度の相対強度比を計算する数値処理を行い、及び
該数値処理部から送られた相対強度比情報と、真偽判定情報から得られる相対強度比情報とを照合し、真偽判定を行うことを含む真偽判定方法。
【請求項7】
前記2波長以上の波長に対応する発光は、少なくとも一つの磁気双極子遷移に基づく発光と、少なくとも一つの電気双極子遷移に基づく発光の中心である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記真偽判定の結果を受けて、再度、同じ媒体について2波長発光強度測定、数値処理、及び真偽判定を行い、得られた真偽判定の結果と、前回の真偽判定の結果とを照合し、その一致をもって最終的に真偽判定を決定する請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記真偽判定情報を記録した真偽判定情報記録部が前記基材上に設けられる請求項5ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記希土類蛍光錯体が、下記式(3)で現される請求項5ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【化3】

式(3)において、Ar,Arは同一でも異なっていてもよい芳香族置換基またはこの置換体、R,Rは同一でも異なっていても良い直鎖、枝分かれ構造のどちらでもよいアルキル基、アルコキシ基、R(F),R(F)は、同一であっても異なっていてもよいパーフルオロアルキル基、nは2以上の整数、Ln(III)は希土類イオンである。
【請求項11】
前記希土類蛍光錯体が、下記式(4)で表される請求項5ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【化4】

式(4)において、R,R,R,Rは同一でも異なっていてもよい芳香族置換基または直鎖、枝分かれ構造のどちらでもよいアルキル基、アルコキシ基またはこれらの置換体であり、すべて同一である場合を除く。R(F),R(F)は、同一であっても異なっていてもよいパーフルオロアルキル基、Ln(III)は希土類イオンである。
【請求項12】
前記第1の波長と第2の波長との間の第3の波長における発光強度をさらに測定し、前第1の波長及び第2の波長における各発光強度と比較して、前記判定部は、真偽判定を行うことをさらに含む請求項6ないし11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
基材と、該基材上に設けられ、励起光照射により、2以上の波長において発光強度のピークを出現し得る希土類蛍光錯体を含有する情報記録部を具備する情報記録媒体。
【請求項14】
前記少なくとも2つの波長に対応する発光は、少なくとも一つの磁気双極子遷移に基づく発光と、少なくとも一つの電気双極子遷移に基づく発光の中心を含む請求項13に記載の情報記録媒体。
【請求項15】
前記基材上に、前記希土類蛍光錯体の発光強度のピークを出現し得る2つの波長と、該2つの波長における各発光強度の相対強度比とを含む真偽判定情報を記録した真偽判定情報記録部をさらに具備する請求項13または14に記載の情報記録媒体。
【請求項16】
前記希土類蛍光錯体が、下記式(3)で現される請求項13ないし15のいずれか1項に記載の情報記録媒体。
【化5】


式(3)において、Ar,Arは同一でも異なっていてもよい芳香族置換基またはこの置換体、R,Rは同一でも異なっていても良い直鎖、枝分かれ構造のどちらでもよいアルキル基、アルコキシ基、R(F), R(F)は、同一であっても異なっていてもよいパーフルオロアルキル基、nは2以上の整数、Ln(III)は希土類イオンである。
【請求項17】
前記希土類蛍光錯体が、下記式(4)で表される請求項13ないし16のいずれか1項に記載の情報記録媒体。
【化6】

式(4)において、R,R,R,Rは同一でも異なっていてもよい芳香族置換基または直鎖、枝分かれ構造のどちらでもよいアルキル基、アルコキシ基またはこれらの置換体であり、すべて同一である場合を除く。R(F),R(F)は、同一であっても異なっていてもよいパーフルオロアルキル基、Ln(III)は希土類イオンである。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−61794(P2012−61794A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209244(P2010−209244)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】