説明

情報記録媒体及びその製造方法、情報記録再生装置並びに情報記録媒体作製装置

【課題】パターンド磁気記録媒体において反磁界による記録ビットの磁化反転の影響を抑制し、高密度磁気記録における極小磁気ビットの記録を可能にする情報記録媒体、その製造方法、情報記録再生装置、及び情報記録媒体作製装置を得る。
【解決手段】情報記録媒体10は、基板1上に、薄膜2が形成され、この薄膜2上に、基板1表面に対し且つ最近接の柱状磁性体の1つに向かって傾斜している柱状磁性体3が形成されている。そして、柱状磁性体3の周囲には誘電体4が形成されている。情報記録媒体10は、情報記録媒体作製装置によって、基板面上に誘電体を積層し、誘電体に多数の孔を積層方向に形成し、この孔に磁性体を充填し、誘電体を加温して、磁性体に傾斜した磁界を印加することによって得る。情報記録再生装置は情報記録媒体10を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体及びその製造方法、情報記録再生装置並びに情報記録媒体作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータの演算能力の向上、情報通信能力の向上によって、外部情報記憶装置に求められる性能も飛躍的に高くなってきている。特に、ハードディスクドライブに対しては、1Tb/inchを超えた高密度記録の要請がなされ始めている。しかし、記録面密度1Tb/inchとなると、1つのビットサイズが約25nm平方となるなど、記録ビットのサイズが極めて小さくなり、ハードディスクに代表される高密度情報記録装置に用いられる磁気記録媒体では、垂直磁気記録媒体に移行している。将来の更なる高密度化磁気記録媒体としてパターンド磁気記録媒体が注目されている。このパターンド磁気記録媒体とその作製技術については、微細な細孔を有する陽極酸化アルミナを用いたパターンド磁気記録媒体作製技術が考案されている(例えば下記特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−175621号公報
【非特許文献1】M.Shiraki, IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL.21, NO.5, p1465
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述の陽極酸化アルミナを用いたパターンド磁気記録媒体では、微細な細孔に磁性体が充填されており、基板面に対して磁化が垂直かつ高密度で充填されるために、記録が行われた磁気ビットに隣接する磁気ビットの記録状態によって、記録ビットが反転してしまう。これは、記録磁気ビットが隣接する磁気ビットから発生する反磁場によって、記録ビットの磁化が反転してしまう現象である。熱を媒体に加えるアシスト磁気記録などでは、特に反磁界の効果が顕著に現れる。従って、上述のパターンド磁気記録媒体においては、記録ビット以外の磁気ビットからの反磁界の影響を抑える必要がある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、その目的は、パターンド磁気記録媒体において反磁界による記録ビットの磁化反転の影響を抑制し、高密度磁気記録における極小磁気ビットの記録を可能にする情報記録媒体及びその製造方法、情報記録再生装置並びに情報記録媒体作製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
(1) 本発明の情報記録媒体は、基板と、前記基板面に対して傾斜している柱状磁性体と、前記柱状磁性体の周囲に配されている誘電体とを有している。
【0007】
磁性体がナノメータサイズの柱状になると、柱状磁性体では単磁区が形成される。したがって、上記構成の情報記録媒体においては、この柱状の磁性体が基板面に対して傾斜した場合、柱状の磁性体の反磁界エネルギーが減少し、周囲の磁性体からの反磁界の影響による、柱状磁性体の磁化反転を抑制でき、傾斜柱状構造の磁性体で構成される磁気ビットが安定化し、ナノメータサイズの磁気ビット記録が可能になる。また、近接場アシスト磁気記録を行う際には、誘電体の存在により、傾斜した柱状磁性体に沿った近接場の伝播が可能になる。
【0008】
(2) 上記(1)の情報記録媒体においては、前記誘電体が、前記柱状磁性体を基板面上において移動可能にするようなガラス軟化点を有することが好ましく、前記柱状磁性体の磁気相転移温度以上の軟化点を有することがより好ましい。これにより、基板上に形成した柱状磁性体とともに加熱することで、柱状磁性体が誘電体中を動くことができ、傾斜した柱状磁性体を簡便に形成することが可能になる。また、磁気記録媒体は磁気相転移温度以上に昇温されることで、消磁される。
【0009】
(3) 上記(1)又は(2)の情報記録媒体においては、前記柱状磁性体が、最近接の柱状磁性体に向かって傾斜していることが好ましい。これにより、近接した柱状磁性体からの反磁界エネルギーの寄与を最小化できる。
【0010】
(4) 上記(1)〜(3)の情報記録媒体においては、前記柱状磁性体が、前記基板面に対して六方配置されていることが好ましい。柱状磁性体が、基板面に対して細密充填配置である六方配置となっているので、単位面積当たりについて、傾斜した柱状磁性体で構成される磁気ビット数が、単に平方配置したときに比べ増加し、高密度記録が実現できる。
【0011】
(5) 別の観点として、上記の(1)又は(2)の情報記録媒体においては、前記柱状磁性体が、前記基板面に対して平方配置されており、第2近接の柱状磁性体に向かって傾斜していてもかまわない。このように柱状磁性体が基板面に対して平方配置とされることで、該柱状磁性体の傾斜角度が大きくなくとも(45°以下)、反磁界エネルギーの寄与を抑えることができる。また、柱状磁性体で構成される磁気ビット数が、単に平方配置しただけのときに比べ増加するので、高密度記録を実現できる。
【0012】
(6) 上記(1)〜(5)の情報記録媒体においては、前記柱状磁性体の側面に、非磁性金属被膜が形成されていることが好ましい。これにより、情報記録媒体表面からの光や近接場あるいは熱源からの熱エネルギーを、効率よく指定された領域に存在する柱状磁性体全体に伝播させることができる。したがって、熱アシスト磁気記録が可能になる。
【0013】
(7) 本発明の情報記録再生装置は、上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の前記情報記録媒体と、前記情報記録媒体に対して情報を記録再生できる情報記録再生ヘッドと、前記情報記録再生ヘッドを前記情報記録媒体の所定の位置へ移動させる移動手段とを備えている。このように、反磁界エネルギーの効果を抑制することができる柱状磁性体を有する情報記録媒体を用いるので、ナノメータサイズの高密度磁気ビット記録が可能な情報記録再生装置を提供できる。
【0014】
(8) 本発明の情報記録媒体作製装置は、基板と、前記基板面に形成されている柱状磁性体と、前記柱状磁性体の周囲に配されている誘電体とを有している情報記録媒体の表面を前記柱状磁性体の磁気相転移温度以上、前記柱状磁性体の軟化点未満の温度に加熱する加熱手段と、前記情報記録媒体の前記基板面に対して傾斜した磁界を前記柱状磁性体に印加する磁界印加手段とを備えている。
【0015】
(9) 上記(8)の情報記録媒体作製装置においては、前記情報記録媒体を前記基板面に直交する方向を軸として回転させる情報記録媒体回転手段と、前記情報記録媒体の径方向に前記磁界印加手段を相対移動させる移動手段とをさらに備えていることが好ましい。
【0016】
上記(8)又は(9)の構成によれば、ナノメータサイズの柱状磁性体とその周囲を誘電体で囲まれた情報記録媒体に対して、加熱手段を用いて誘電体の軟化点以上であって、前記柱状磁性体の磁気相転移温度以上、前記柱状磁性体の軟化点未満の温度に昇温し、誘電体が軟化したところで、情報記録媒体面に対して磁界印加手段により傾斜した磁界を印加すれば、柱状磁性体が、外部磁界の方向に一様に傾斜配向する。柱状磁性体は、情報記録媒体が誘電体の軟化点以下に冷却されたところで固定することができる。したがって、基板面に対して傾斜している柱状磁性体を有する情報記録媒体の作製を実現できる情報記録媒体作製装置を提供できる。また、上記(9)の構成によれば、確実且つ容易に、基板面に対して傾斜している柱状磁性体を有する情報記録媒体の作製を実現できる情報記録媒体作製装置を提供できる。
【0017】
(10) 上記(8)又は(9)の情報記録媒体作製装置においては、前記磁界印加手段が、前記柱状磁性体に印加する磁界の傾斜方向及び傾斜角度を変更可能な変更手段を備えていることが好ましい。これにより、柱状磁性体に印加する磁界の傾斜方向及び傾斜角度を変更できるので、情報記録媒体中の柱状磁性体の傾斜の向き及び角度を任意に制御できる。したがって、反磁界エネルギー低減に適した傾斜方向や角度を有する柱状磁性体の配向制御が容易にできる情報記録媒体作製装置を提供できる。
【0018】
(11) 本発明の情報記録媒体の製造方法は、基板と、前記基板面に対して傾斜している柱状磁性体と、前記柱状磁性体の周囲に配されている誘電体とを有している情報記録媒体を形成する工程と、前記情報記録媒体を前記柱状磁性体の磁気相転移温度以上、前記柱状磁性体のガラス軟化点未満の温度に加温する工程と、前記加温する工程で加温された前記情報記録媒体の温度が、前記誘電体の軟化点以上に保持された状態で、前記情報記録媒体の前記基板面に対して前記情報記録媒体に傾斜した磁界を印加する工程とを有している。これにより、上記(1)の情報記録媒体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<第1実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る情報記録媒体について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る情報記録媒体の一部分を示す斜視概略構成図である。図2は、図1の情報記録媒体の上視図である。図3は、図1の情報記録媒体における柱状磁性体の配置構成を説明するために用いる模式図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る情報記録媒体10において、基板1上に、薄膜2が形成され、この薄膜2上に、基板1表面に対し且つ最近接の柱状磁性体の1つに向かって傾斜している柱状磁性体3が形成されている。そして、柱状磁性体3の周囲には誘電体4が形成されている。
【0021】
基板1は、ガラスからなる。なお、変形例として、基板1を構成する材料としては、アルミニウム、亜鉛、銅、又はプラスチック、などから構成される非磁性体であってもよい。あるいは、Si、Ge、SiC等のIV属半導体、GaAs、GaP、InP、AlAs、GaN、InN、InSb、GaSb、AlNに代表されるIII−V属化合物半導体、または、ZnTe、ZeSe、ZnS、ZnO等のII−VI属化合物半導体、ZnO、Al3、SiO、TiO、CrO、CeO等の酸化物絶縁体、または、SiNなどの窒化物絶縁体で構成されていてもよい。また、基板1は、表面が平滑であり、かつ、基板1上に成膜を行った後でも、成膜した薄膜を変形させることなく保持できる材料であれば、それ以外の材料、形状のものであっても良い。
【0022】
薄膜2は、アルミニウム、亜鉛、銅、のいずれかまたはその複合物質によって構成されている。
【0023】
柱状磁性体3には、Co、CoCrPt系、希土類遷移金属、FePt系の磁性体、又はRhFe系などの反強磁性物質などが用いられる。柱状磁性体3は、図2及び図3に示すように、基板1表面に対して六方配置(柱状磁性体3の周囲に配列された最近接の柱状磁性体の数が6個となるように配置)されている。このように、基板1表面に対して柱状磁性体3が細密充填配置である六方配置を取ることで、単位面積当たりの磁気ビット数が増加し、高密度記録を実現できる。図2及び図3においては、柱状磁性体3の長さをd、最近接柱状磁性体間の距離をrとし、最近接の柱状磁性体の柱の径をc、基板1表面に対しての傾き角をθ、最近接の柱状磁性体方向に対する柱状磁性体3の傾きの基板1表面上の方位角をφとしている。ここで、rが25nmの場合には、平方配置(柱状磁性体3の周囲に配列された最近接の柱状磁性体の数が4個となるような配置)に比べ1.15倍高密度になり、約1.15Tb/inの記録密度を実現することができる。また、d/cが1よりも大きく(柱状磁性体3が長細く)なれば、柱状磁性体3の両端に磁荷が生じやすくなり、両端に磁荷が形成されると柱状磁性体3の磁化容易軸を、柱状磁性体3に平行とできる。また、柱状磁性体3の長さdは、長くなりすぎると、高周波記録する場合の磁気応答性が悪くなるため、50nm以下となっている。
【0024】
誘電体4は、柱状磁性体3の磁気相転移温度以上のガラス軟化点を有しているものであり、主にSi,Al,Zn,In,Ga,Sn,Mn,B,Bi,Pbの元素を含んだ酸化物で構成されたガラス材からなる。
【0025】
次に、情報記録媒体10の製造方法について説明する。まず、薄膜2を基板1上に成膜し、ナノインプリントなどの技術を用いて、柱状磁性体3を六方配置するためのパターンを形成した後、成膜した薄膜2を陽極酸化する。続いて、薄膜2上部に多孔質状の誘電体4を形成する。そして、誘電体4の多孔質状内部に、電着法を用いて、磁性体を充填し、柱状磁性体3を形成する(図4参照)。なお、陽極酸化法を用いて形成した多孔質アルミナの細孔内部に、電着法を用いて、磁性体を充填する方法は、上述した非特許文献1に開示されている。
【0026】
続いて、基板1上の形成した柱状磁性体3と誘電体4とを、誘電体4のガラス軟化点以上であって、柱状磁性体3の磁気相転移温度(キュリー温度、ネール点)以上、柱状磁性体3の軟化点未満の温度に加熱する。これにより、柱状磁性体3に磁界を印加することによって、誘電体4中を移動させることができるようになる。そのため、誘電体4が軟化している状態で、外部から基板1表面に対して斜めに所望の強さの磁界を印加し、図1のような状態となるまで、柱状磁性体3を傾斜配向させることができる。そして、図1のような状態となったところで、情報記録媒体10全体を冷却する。
【0027】
上記構成により、以下のような効果を奏する。柱状磁性体3においては、ナノサイズで形成されると、単磁区が形成される。このような傾斜した柱状磁性体3では、垂直方向の磁化成分が減少するため、反磁界エネルギーが減少し、周囲の柱状磁性体3からの反磁界の影響による、ナノサイズの柱状磁性体3の磁化反転を抑制できる。したがって、本実施形態の情報記録媒体10によれば、磁気記録を行う際、複数の柱状磁性体3で構成される磁気ビットが安定化し、ナノメータサイズの磁気ビット記録が可能になる。また、近接場アシスト磁気記録を行う際には、誘電体4の存在により、傾斜した柱状磁性体3に沿った近接場の伝播が可能になる。
【0028】
また、誘電体4が磁気記録の際に熱を加える熱アシスト磁気記録などの際に加熱されたとしても、その加熱温度が、柱状磁性体3の磁気相転移温度以上、柱状磁性体3の軟化点未満であれば、柱状磁性体3は軟化せずにその形状を維持することができるとともに、柱状磁性体3が誘電体中を動くことができ、傾斜した柱状磁性体3を簡便に形成することが可能になる。なお、この熱アシスト磁気記録の一変形例としては、以下のものがある。誘電体4のガラス軟化点が柱状磁性体3の磁気相転移温度以下でも、熱を加え、磁気相転移温度(キュリー点、ネール点)に柱状磁性体3を昇温するに従って、柱状磁性体3の保持力は減少し、磁化反転が起こりやすくなる(熱によって保持力が増加するN型フェリ磁性体などの磁性体の場合、ネール点以下、補償温度以上に加熱すると先述の磁化反転が起こる。)。このとき、柱状磁性体3の保磁力よりも大きな外部磁界を印加すれば、容易に情報記録媒体の磁気ビットが反転する(柱状磁性体3の磁化方向が反転する)ので、熱アシスト磁気記録を行うことができることとなる。
【0029】
さらに、柱状磁性体3が、最近接の柱状磁性体の1つに向かって傾斜しているので、近接した柱状磁性体からの反磁界エネルギーの寄与を最小化できる。
【0030】
加えて、柱状磁性体3が基板1面に対して六方配置されているので、単位面積当たりについて、傾斜した柱状磁性体3で構成される磁気ビット数が、単に平方配置したときに比べ増加し、高密度記録が実現できる情報記録媒体10を提供できる。
【0031】
<第1実施形態の変形例>
次に、本発明の第1実施形態の変形例に係る情報記録媒体について説明する。図5は、本発明の第1実施形態の変形例に係る情報記録媒体の一部分を示す斜視概略構成図である。なお、第1実施形態の符号1〜4と同様の部分には、順に符号11〜14を付け、その説明を省略することがある。
【0032】
本変形例の情報記録媒体20は、柱状磁性体13の側面に、非磁性金属被膜15が形成されている点で第1実施形態の情報記録媒体10と異なっている。
【0033】
非磁性金属被膜15には、誘電体14との界面で表面プラズモン伝播が可能になるので、Au、Ag、Cu、Ptなどの電気伝導度の高い物質や熱伝導特性の高い金属を用いる。なお、一変形例として、単なる非磁性金属を用いてもよい。
【0034】
情報記録媒体20の製造方法については、ほぼ第1実施形態の情報記録媒体10と同様であるが、非磁性金属被膜15を形成するために、スパッタ成膜法を用いる点が異なっている。なお、一変形例として、スパッタ成膜法の代わりに、真空蒸着法又はメッキ法を用いてもよい。
【0035】
本変形例によれば、第1実施形態と同様の効果を奏すると共に、柱状磁性体13の側面に非磁性金属被膜15が形成されることで、情報記録媒体20表面からの光や近接場あるいは熱源からの熱エネルギーを、効率よく指定された領域(記録ビットに対応した領域のことであり、この領域を構成する柱状磁性体13は、1つでも複数でもよい。)に存在する柱状磁性体13全体に伝播させることができる。これにより、熱アシスト磁気記録が可能になる。
【0036】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る情報記録媒体について説明する。図6は、本発明の第2実施形態に係る情報記録媒体の一部分を示す斜視概略構成図である。図7は、図5の情報記録媒体の上視図である。図8は、図6の情報記録媒体における柱状磁性体の配置構成を説明するために用いる模式図である。なお、第1実施形態の符号1〜4と同様の部分には、順に符号21〜24を付け、その説明を省略することがある。また、図7及び図8においては、柱状磁性体23の基板21表面に対しての傾き角をθ、第2近接の柱状磁性体方向に対する柱状磁性体23の傾きの基板21表面上の方位角をφとしている。
【0037】
本実施形態の情報記録媒体30は、柱状磁性体3が六方配置されている代わりに、柱状磁性体23が基板21面上に平方配置されている点、柱状磁性体23が第2近接の柱状磁性体に向かって傾斜している点で第1実施形態の情報記録媒体10と異なっている。
【0038】
情報記録媒体30の製造方法については、ほぼ第1実施形態の情報記録媒体10と同様であるが、薄膜22を基板21上に成膜し、ナノインプリントなどの技術を用いて、柱状磁性体23を平方配置するためのパターンを形成した後、成膜した薄膜22を陽極酸化する点が異なっている。
【0039】
本実施形態によれば、第1実施形態における柱状磁性体3が基板1面に対して六方配置されていることによる効果以外、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0040】
また、柱状磁性体23が基板21面に対して平方配置されることで、柱状磁性体23の傾斜角度が大きくなくとも(45°以下)、反磁界エネルギーの寄与を抑えることができる。また、柱状磁性体23で構成される磁気ビット数が、単に平方配置しただけのときに比べ増加するので、高密度記録を実現できる。
【0041】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る情報記録再生装置について説明する。図9は、本発明の第3実施形態に係る情報記録再生装置の概略構成図である。
【0042】
情報記録再生装置100は、情報記録媒体40と、基体41に設けられ、情報記録媒体40の面に直交する方向を軸として情報記録媒体40を回転させる情報記録媒体回転部42と、情報記録媒体40に対して情報を記録再生できる情報記録再生ヘッド43と、情報記録再生ヘッド43を情報記録媒体40の所定の位置へ移動させる移動部44と、情報記録再生ヘッド43で再生された(読み取られた)磁気情報を処理する信号処理部45とを備えている。
【0043】
情報記録媒体40には、上述した第1実施形態の情報記録媒体と同様のものを用いる。変形例として、第1実施形態の変形例又は第2実施形態の情報記録媒体と同様のものを用いても構わない。
【0044】
情報記録再生ヘッド43の情報記録媒体40への磁場印加により情報記録媒体40における傾斜形成された柱状磁性体の磁化をそろえることが可能であり、情報記録媒体40において情報の保持及び再生が可能である。したがって、情報記録再生装置100によれば、情報記録媒体40における柱状磁性体のサイズを10nmかそれ以下に十分小さくしても、無数の情報記録媒体40における柱状磁性体の磁化方向によって情報を記録することも可能である。また、サイズが25nm前後である単一の情報記録媒体40における柱状磁性体に情報を記録することも可能である。
【0045】
これによって、反磁界エネルギーの効果を抑制することができるように傾斜形成された柱状磁性体を有する情報記録媒体40を用いることで、ナノメータサイズの高密度磁気ビット記録が可能な情報記録再生装置100を提供できる。
【0046】
尚、情報記録媒体40の駆動は、情報記録媒体回転部42を用いたような回転のみに限定されない。また、情報記録再生ヘッド43の移動は円周上のスライダのみに限定されるものではない。例えば、情報記録媒体が円筒状になっており、情報記録再生ヘッドが、回転する前記円筒状の情報記録媒体の表面に押さえ付けられるとともに、前記円筒状の情報記録媒体の軸方向にスライドさせることで、記録再生することもできる。
【0047】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係る情報記録媒体作製装置について説明する。図9は、本発明の第4実施形態に係る情報記録媒体作製装置の概略構成図である。
【0048】
情報記録媒体作製装置200は、情報記録媒体50と、情報記録媒体50の面に直交する方向を軸として情報記録媒体50を回転させる情報記録媒体回転部51と、情報記録媒体50の面に対して傾斜した磁界を印加する磁界印加部52と、加熱手段としてのレーザー光源53及びレーザー集光部54(集光レンズ)と、情報記録媒体50を径方向に平行移動させる移動部55とを備えている。
【0049】
情報記録媒体50は、基板と、この基板面に略垂直に形成されている柱状磁性体と、この柱状磁性体の周囲に配されている誘電体とを有している。
【0050】
磁界印加部52は、磁界が発生する端部間に情報記録媒体50を設置するために、一部が欠けているように形成された略環状の磁気ヨーク部52aと、両端が電源(図示せず)と接続され、磁気ヨーク部52aの一部に巻き付けられた導電線52bとを有している。また、磁界印加部52は、情報記録媒体50における柱状磁性体に印加する磁界の傾斜方向及び傾斜角度を変更可能な変更部56を備えている。この変更部は、磁界印加部52を情報記録媒体50の径方向に相対移動させる移動部55とともに、情報記録媒体50上の任意の半径位置Rで、情報記録媒体50面上の接線方向Tに対して方位角φと、情報記録媒体50面上の動径方向Rに対して傾き角をθとに磁場が印加できるようになっている(図10参照)。
【0051】
上記構成により、ナノメータサイズの柱状磁性体とその周囲を誘電体で囲まれた情報記録媒体50に対して、レーザー光源53及びレーザー集光部54を用いて誘電体の軟化点以上であって、柱状磁性体の磁気相転移温度以上、柱状磁性体の軟化点未満の温度に昇温し、誘電体が軟化したところで、導電線52bに電流を流して磁気ヨーク部52aを磁化させた磁界印加部52や、上述の移動部及び変更部を用いて、情報記録媒体50面に対して傾斜した磁界を印加すれば、柱状磁性体が外部磁界の方向に一様に傾斜配向する。情報記録媒体50における柱状磁性体は、情報記録媒体50が誘電体の軟化点以下に冷却されたところで固定することができる。したがって、基板面に対して傾斜している柱状磁性体を有する情報記録媒体50の作製を実現できる情報記録媒体作製装置を提供できる。
【0052】
また、磁界印加部52は、情報記録媒体50における柱状磁性体に印加する磁界の傾斜方向及び傾斜角度を変更可能な変更部56を備えているので、情報記録媒体50中の柱状磁性体の傾斜の向き及び角度を任意に制御できる。したがって、反磁界エネルギー低減に適した傾斜方向や角度を有する柱状磁性体の配向制御が容易にできる情報記録媒体作製装置を提供できる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明の情報記録媒体について実施例を用いて説明する。
【0054】
(実施例1)
上記第1実施形態と同構成の情報記録媒体についての反磁界エネルギーを以下のようにして計算した。基板面に対しての柱状磁性体の傾き角をθ、柱状磁性体の長さをd、最近接柱状磁性体間の距離をr、α=d/rとし、θとαとをパラメータとして反磁界エネルギーを計算した。その結果を反磁界エネルギーの等高線(θを縦軸、αを横軸)として表現し、図11のグラフに示す。尚、等高線に記載の数値は任意単位のエネルギー値になっている(後述する実施例2及び実施例3も同様。)。また、ここでの計算では、情報記録媒体における柱状磁性体が、最近接の柱状磁性体方向に傾斜しており、図3で示したような中心位置にある柱状磁性体と六方配置している周辺の柱状磁性体との磁化方向が同じ方向(平行)に向いた場合の反磁界エネルギーを計算している。
【0055】
図3で示したような中心位置にある柱状磁性体とその周辺の柱状磁性体の磁化方向が反平行な場合は、反磁界エネルギーの極性が反転する。また、中心位置の周辺に配置される柱状磁性体の磁化方向が揃ったほうが、反磁界エネルギーの寄与が大きくなる。従って、中心位置にある柱状磁性体とその周辺の柱状磁性体の反磁界エネルギーを最小にするには、図11の反磁界エネルギーの等高線でエネルギー値がゼロに近いほうが、反磁界の影響を受けない。よって、反磁界エネルギーの等高線でエネルギー値がゼロになるパラメータαとθとして、αが1.2の場合、θが17°で反磁界エネルギーがゼロになる。このとき、中心位置の周辺に配置される柱状磁性体からの反磁界エネルギーの寄与を最小化できる。
【0056】
(実施例2)
次に、上記第2実施形態と同構成の情報記録媒体についての反磁界エネルギーを実施例1と同様にして計算した。ただし、ここでの計算では、情報記録媒体における柱状磁性体が、最近接の柱状磁性体方向に傾斜しており、図7で示したような中心位置にある柱状磁性体と平方配置している周辺の柱状磁性体との磁化方向が同じ方向(平行)に向いた場合の反磁界エネルギーを計算している。計算結果を反磁界エネルギーの等高線として表現し、図12に示す。
【0057】
実施例1でも同様のことを述べたが、図7で示したような中心位置にある柱状磁性体とその周辺の柱状磁性体の磁化方向が反平行な場合は、反磁界エネルギーの極性が反転する。また、中心位置の周辺に配置される柱状磁性体の磁化方向が揃ったほうが、反磁界エネルギーの寄与が大きくなる。従って、中心位置にある柱状磁性体とその周辺の柱状磁性体の反磁界エネルギーを最小にするには、図12の反磁界エネルギーの等高線でエネルギー値がゼロに近いほうが、反磁界の影響を受けない。よって、反磁界エネルギーの等高線でエネルギー値がゼロになるパラメータαとθとして、αが1.2の場合、θが17°で反磁界エネルギーがゼロとなり、実施例1で述べた結果と同様に、柱状磁性体が六方配置したときとほぼ同様の結果が得られる。このことからも、柱状磁性体が、最近接の柱状磁性体方向に傾斜することで、最近接の柱状磁性体からの反磁界エネルギーの寄与を最小化できる。
【0058】
(実施例3)
次に、第2実施形態と同様に基板面上において傾斜した柱状磁性体を平方配置するとともに、この柱状磁性体の傾斜した方向の最近接の柱状磁性体に対する方位角φを45°(第2近接の柱状磁性体への方向)にとった場合の反磁界エネルギーを、実施例1と同様にして計算した。その結果を図13に示す。
【0059】
図13では、反磁界エネルギーの等高線でエネルギー値がゼロになる点は存在しないが、柱状磁性体があまり傾斜していない(θ>45°)状況では、最近接の柱状磁性体方向に対して柱状磁性体が傾いた場合に比べて、反磁界エネルギーが減少することがわかる。つまり、図11及び図12の反磁界エネルギーよりも、絶対値の最大値が小さいことがわかる(図11及び図12では「8」、図13では「5」)。したがって、柱状磁性体が基板面に対して平方配置されており、第2近接の柱状磁性体の傾斜方向に傾斜している場合には、柱状磁性体があまり傾斜していない状態(θ>45°)とすることで、反磁界エネルギーの寄与を抑えることができることがわかる。したがって、柱状磁性体があまり傾斜していない状態(θ>45°)とすれば、傾斜させた場合に比べて、柱状磁性体で構成される磁気ビットの数を増加させることができ、高密度記録を実現できる。
【0060】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態や実施例に限定されるものではない。例えば、第1、第2実施形態において、成膜した薄膜2、12にリンを含有させておけば、誘電体4、14のガラス軟化点を低下させることができる。その結果として、より低い温度で柱状磁性体3、13を傾斜配向させることができるので、加熱のために必要なエネルギーを減少させることができ、経済的である。
【0061】
また、第1、第2実施形態において、情報記録媒体10、20の表面は、研磨処理が施されていても構わない。そして、研磨処理後にカーボンやダイヤモンドライクカーボンあるいは窒化カーボンや絶縁体などによって構成される保護膜がさらに形成されるとともに、保護膜上に潤滑剤が塗布されていても構わない。
【0062】
また、第2実施形態において、第1実施形態の変形例のように、柱状磁性体23と誘電体24との間に非磁性金属被膜を形成しても構わない。
【0063】
また、第1実施形態及びその変形例、第2実施形態において、柱状磁性体は両端が平面を有する円柱状であるが、両端部が丸まった曲面を有するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1実施形態に係る情報記録媒体の一部分を示す斜視概略構成図である。
【図2】図1の情報記録媒体の上視図である。
【図3】図1の情報記録媒体における柱状磁性体の配置構成を説明するために用いる模式図である。
【図4】図1の情報記録媒体の製造方法を説明するために用いた図である。
【図5】本発明の第1実施形態の変形例に係る情報記録媒体の一部分を示す斜視概略構成図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る情報記録媒体の一部分を示す斜視概略構成図である。
【図7】図6の情報記録媒体の上視図である。
【図8】図6の情報記録媒体における柱状磁性体の配置構成を説明するために用いる模式図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る情報記録再生装置の概略構成図である。
【図10】本発明の第4実施形態に係る情報記録媒体作製装置の概略構成図である。
【図11】本発明の実施例1に係る反磁界エネルギーを計算した結果を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例2に係る反磁界エネルギーを計算した結果を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例3に係る反磁界エネルギーを計算した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
1、21 基板
2、22 薄膜
3、13、23 柱状磁性体
4、24 誘電体
10、30、40、50 情報記録媒体
14 誘電体
15 非磁性金属被膜
41 基体
42、51 情報記録媒体回転部
43 情報記録再生ヘッド
44 移動部
45 信号処理部
52 磁界印加部
52a 磁気ヨーク部
52b 導電線
53 レーザー光源
54 レーザー集光部
100 情報記録再生装置
200 情報記録媒体作製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板面に対して傾斜している柱状磁性体と、前記柱状磁性体の周囲に配されている誘電体とを有していることを特徴とする情報記録媒体。
【請求項2】
前記誘電体が、前記柱状磁性体を基板面上において移動可能にするようなガラス軟化点を有することを特徴とする請求項1記載の情報記録媒体。
【請求項3】
前記柱状磁性体が、最近接の柱状磁性体に向かって傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の情報記録媒体。
【請求項4】
前記柱状磁性体が、前記基板面に対して六方配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の情報記録媒体。
【請求項5】
前記柱状磁性体が、前記基板面に対して平方配置されており、第2近接している柱状磁性体に向かって傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の情報記録媒体。
【請求項6】
前記柱状磁性体の側面に、非磁性金属被膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の情報記録媒体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の前記情報記録媒体と、前記情報記録媒体に対して情報を記録再生できる情報記録再生ヘッドと、前記情報記録再生ヘッドを前記情報記録媒体の所定の位置へ移動させる移動手段とを備えていることを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項8】
基板と、前記基板面に形成されている柱状磁性体と、前記柱状磁性体の周囲に配されている誘電体とを有している情報記録媒体の表面を前記柱状磁性体の磁気相転移温度以上、前記柱状磁性体の軟化点未満の温度に加熱する加熱手段と、
前記情報記録媒体の前記基板面に対して傾斜した磁界を前記柱状磁性体に印加する磁界印加手段とを備えていることを特徴とする情報記録媒体作製装置。
【請求項9】
前記情報記録媒体を前記基板面に直交する方向を軸として回転させる情報記録媒体回転手段と、前記情報記録媒体の径方向に前記磁界印加手段を相対移動させる移動手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項8記載の情報記録媒体作製装置。
【請求項10】
前記磁界印加手段が、前記柱状磁性体に印加する磁界の傾斜方向及び傾斜角度を変更可能な変更手段を備えていることを特徴とする請求項8又は9に記載の情報記録媒体作製装置。
【請求項11】
基板と、前記基板面に対して傾斜している柱状磁性体と、前記柱状磁性体の周囲に配されている誘電体とを有している情報記録媒体を形成する工程と、
前記情報記録媒体を前記柱状磁性体の磁気相転移温度以上、前記柱状磁性体の軟化点未満の温度に加温する工程と、
前記加温する工程で加温された前記情報記録媒体の温度が、前記誘電体のガラス軟化点以上に保持された状態で、前記情報記録媒体の前記基板面に対して前記情報記録媒体に傾斜した磁界を印加する工程とを有していることを特徴とする情報記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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