説明

情報記録媒体用ガラス基板の製造方法および情報記録媒体

【課題】化学強化処理後の基板毎の化学強化層の厚みのばらつきを低減できる、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】情報記録媒体用のガラス基板1の製造方法は、ガラス基板1を成形する工程と、主表面に化学強化層を形成する工程と、を備える。化学強化層を形成する工程は、化学強化処理槽20内に貯留された化学強化処理液にガラス基板1を浸漬させる工程と、ガラス基板1を化学強化処理液中で移動させる工程と、を含む。移動させる工程は、化学強化処理槽20の内壁23a,23bに沿って内壁23a,23bの水平方向長さL1,L2の半分以上に亘ってガラス基板1を水平方向に移動させる工程と、化学強化処理液の液深の半分以上に亘ってガラス基板1を垂直方向に移動させる工程と、の少なくともいずれか一方を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法および情報記録媒体に関し、特に、情報記録媒体の製造に用いられる情報記録媒体用ガラス基板の製造方法、およびその情報記録媒体用ガラス基板を備えた情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクなどの情報記録媒体は、コンピュータなどにHDD(Hard Disk Drive)として搭載される。情報記録媒体は、基板の表面上に、磁気、光、または光磁気などの性質を利用した記録層を含む磁気薄膜層が形成されて製造される。記録層が磁気ヘッドによって磁化されることによって、所定の情報が情報記録媒体に記録される。
【0003】
情報記録媒体用の基板としては、従来アルミニウム基板が用いられてきたが、記録密度の向上に伴い、アルミニウム基板に比較して基板表面の平滑性および強度に優れるガラス基板に徐々に置き換わりつつある。このガラス基板には、一般に機械的強度を向上させるため、化学強化処理が施される。いわゆるイオン交換法によって、ガラス基板の表面(表層)付近のアルカリ元素を、当該アルカリ元素よりも径の大きい他のアルカリ元素と置換し、当該置換によって、ガラス基板の表面に圧縮歪みを発生させ、化学強化層(圧縮応力層ともいう)が形成される。
【0004】
ガラス基板の化学強化処理に関し、従来、ガラス基板ホルダの保持部がガラス基板の主表面と面取面との境界部に当接し、点接触によってガラス基板を保持する技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。また、化学強化液を貯留する貯留槽の内壁面に沿って、化学強化液の液面の波を抑制する複数の波消し体を設ける技術が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。また、化学強化処理液をガラス基板に対して流動させ、またはガラス基板を化学強化処理液に対して移動させる技術が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−171502号公報
【特許文献2】特開2009−87397号公報
【特許文献3】特開2007−12247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気ディスクなどの情報記録媒体は、HDDなどの情報記録装置の内部において高速で回転する。情報の記録および再生のために、情報記録媒体の表面に形成された磁気記録層上を磁気ヘッドが浮上走行する。近年、記録密度の増加に伴って、磁気ヘッドと情報記録媒体(磁気記録層)との間の浮上距離を小さくする必要がある。特に、近年開発が進んだDFH(Dynamic Flying Height)技術によってダイナミックに磁気ヘッドの浮上量を精密制御することが可能となり、一層浮上量が小さくなる傾向にある。ガラス基板の主表面に形成された磁気記録層と磁気ヘッドとの接触(いわゆるヘッドクラッシュ現象)を抑制するために、ガラス基板の主表面の平滑度および平坦度に対する要求はますます高くなっている。
【0007】
本発明者は、化学強化処理を施したガラス基板の平坦度向上について検討を進め、化学強化処理したガラス基板において、基板毎の化学強化層の厚みにばらつきが生じることを明らかにした。基板毎の化学強化層の厚みにばらつきが生じると、基板の反り具合にもばらつきが生じる。つまり、化学強化層の厚みに対応して基板に生じる圧縮応力が異なることから、化学強化層厚みの大きい基板の反りが大きく、化学強化層厚みの小さい基板の反りが小さくなる。この基板の反りのばらつきは、化学強化処理後に精密研磨をしたとしても修正は困難である。そのため、ガラス基板の平坦度の向上には限界があった。
【0008】
近年、基板の平面度に対する要求がより厳しくなるにつれて、化学強化層の厚みを一層小さくすることが要望されている。化学強化層の厚みの絶対値が小さくなることで、化学強化層の厚みのばらつきの許容値が小さくなっており、基板毎の化学強化層の厚みばらつきの低減は大きな課題となっている。
【0009】
上記特許文献3では、化学強化処理工程において、ガラス基板と化学強化処理液とを相対的に移動させることにより、ガラス基板の主表面部に対して常に新しい化学強化処理液を供給することが開示されている。しかし、特許文献3では、基板毎の化学強化層の厚みのばらつきについては考慮されていない。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、化学強化処理後の基板毎の化学強化層の厚みのばらつきを低減できる、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、化学強化処理後に化学強化層の厚みにばらつきが生じる理由について鋭意検討した。その結果、化学強化処理槽内で処理液の温度分布が存在し、処理液温度の高い箇所ではイオン交換の反応速度が大きく、その結果化学強化層の厚みが大きくなり、他方、処理液温度の低い箇所ではイオン交換の反応速度が小さく、その結果化学強化層厚みが小さくなることを見出した。そこで本発明者は、化学強化処理される対象の各々のガラス基板に付与される温度条件を均一化することで、基板毎の化学強化層の厚みばらつきが低減できると考え、本発明に想到するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、ガラス基板の主表面に磁気記録層が形成される情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、ガラス基板を成形する工程と、主表面に化学強化層を形成する工程と、を備える。化学強化層を形成する工程は、液槽内に貯留された処理液にガラス基板を浸漬させる工程と、ガラス基板を処理液中で移動させる工程と、を含む。移動させる工程は、液槽の内壁に沿って内壁の水平方向長さの半分以上に亘ってガラス基板を水平方向に移動させる工程と、処理液の液深の半分以上に亘ってガラス基板を垂直方向に移動させる工程と、の少なくともいずれか一方を有する。
【0013】
上記方法において、化学強化層を形成する工程は、ガラス基板を保持治具に搭載する工程を含み、移動させる工程は、保持治具に搭載されたガラス基板を処理液中で移動させる工程を有してもよい。
【0014】
上記方法において、化学強化層を形成する工程は、ガラス基板を保持治具に搭載する工程を含み、移動させる工程は、ガラス基板を保持治具に非接触の状態で処理液中で移動させる工程を有してもよい。
【0015】
上記方法において、主表面をラップ研磨する工程と、ラップ研磨された主表面を粗研磨する工程と、粗研磨された主表面を鏡面研磨する工程と、をさらに備え、化学強化層を形成する工程は、ラップ研磨する工程の後、粗研磨する工程の前に行なわれてもよい。または、化学強化層を形成する工程は、粗研磨する工程の後、鏡面研磨する工程の前に行なわれてもよい。または、化学強化層を形成する工程は、鏡面研磨する工程の後に行なわれてもよい。
【0016】
本発明に係る情報記録媒体は、上記のいずれかの局面の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によって得られたガラス基板と、ガラス基板の表面に形成された磁気記録層と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によると、化学強化処理後の基板毎の化学強化層の厚みのばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態におけるガラス基板の製造方法によって得られるガラス基板を示す斜視図である。
【図2】実施の形態におけるガラス基板の製造方法によって得られるガラス基板を備えた磁気ディスクを示す斜視図である。
【図3】実施の形態におけるガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】ガラス基板の化学強化工程の詳細を示すフローチャートである。
【図5】ガラス基板用の化学強化処理槽を側面視した部分断面図である。
【図6】ガラス基板用の化学強化処理槽を平面視した部分断面図である。
【図7】ガラス基板の搭載された保持治具を側面視した部分断面図である。
【図8】ガラス基板の搭載された保持治具を正面視した部分断面図である。
【図9】化学強化処理槽内のガラス基板の移動経路を示す模式図である。
【図10】化学強化処理槽内でガラス基板が移動する各工程を順に示すフローチャートである。
【図11】化学強化処理によって得られたガラス基板の断面図である。
【図12】化学強化層のイオン交換状態を示すグラフである。
【図13】実施の形態2の化学強化処理槽を側面視した部分断面図である。
【図14】実施の形態2の化学強化処理槽内のガラス基板の移動経路を示す模式図である。
【図15】実施の形態2の化学強化処理槽内でガラス基板が移動する各工程を順に示すフローチャートである。
【図16】実施の形態3の化学強化処理槽内のガラス基板の移動経路を示す模式図である。
【図17】実施の形態3の化学強化処理槽内でガラス基板が移動する各工程を順に示すフローチャートである。
【図18】実施の形態4の化学強化処理槽の内部を透視した斜視図である。
【図19】実施の形態4の化学強化処理槽内でのガラス基板の移動を模式的に示す第一の図である。
【図20】実施の形態4の化学強化処理槽内でのガラス基板の移動を模式的に示す第二の図である。
【図21】実施の形態4の化学強化処理槽内でのガラス基板の移動を模式的に示す第三の図である。
【図22】実施の形態4の化学強化処理槽内でのガラス基板の移動を模式的に示す第四の図である。
【図23】実施の形態4の化学強化処理槽内でのガラス基板の移動を模式的に示す第五の図である。
【図24】実施の形態4の化学強化処理槽内でのガラス基板の移動を模式的に示す第六の図である。
【図25】実施の形態4の化学強化処理槽20内でガラス基板1が移動する各工程を順に示すフローチャートである。
【図26】円環状の保持治具の第一の変形例を示す斜視図である。
【図27】図26に示すXXVII−XXVII線に沿う保持治具の断面図である。
【図28】円環状の保持治具の第二の変形例を示す斜視図である。
【図29】図29に示すXXIX−XXIX線に沿う保持治具の断面図である。
【図30】実施の形態5の化学強化処理槽内のガラス基板の移動経路を示す模式図である。
【図31】実施の形態6のガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図32】実施の形態6の製造方法によって得られたガラス基板の断面図である。
【図33】実施の形態7のガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図34】実施の形態7の製造方法によって得られたガラス基板の断面図である。
【図35】本発明の実施例および従来例に従って製造されたガラス基板の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に基づいた実施の形態について、以下、図面を参照しながら説明する。実施の形態の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。実施の形態の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0020】
(実施の形態1)
[ガラス基板1・磁気ディスク10]
図1および図2を参照して、まず、本実施の形態に基づく情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によって得られるガラス基板1、およびガラス基板1を備えた磁気ディスク10について説明する。図1は、磁気ディスク10(図2参照)に用いられるガラス基板1を示す斜視図である。図2は、情報記録媒体として、ガラス基板1を備えた磁気ディスク10を示す斜視図である。
【0021】
図1に示すように、磁気ディスク10に用いられるガラス基板1(情報記録媒体用ガラス基板)は、中心に円孔1Hが形成された環状の円板形状を呈している。円形ディスク形状のガラス基板1は、表主表面1A、裏主表面1B、内周端面1C、および外周端面1Dを有している。
【0022】
ガラス基板1の大きさは、特に制限はなく、たとえば外径0.8インチ、1.0インチ、1.8インチ、2.5インチ、または3.5インチなどである。ガラス基板1の厚さは、破損防止の観点から、たとえば0.30〜2.2mmである。本実施の形態におけるガラス基板1の大きさは、外径が約64mm、内径が約20mm、厚さが約0.8mmである。ガラス基板1の厚さとは、ガラス基板1上の点対象となる任意の複数の点で測定した値の平均によって算出される値である。
【0023】
図2に示すように、磁気ディスク10は、上記したガラス基板1の表主表面1A上に磁性膜が成膜されて、磁気記録層を含む磁気薄膜層2が形成されることによって、構成される。図2中では、表主表面1A上にのみ磁気薄膜層2が形成されているが、裏主表面1B上にも磁気薄膜層2が形成されていてもよい。
【0024】
磁気薄膜層2は、磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂をガラス基板1の表主表面1A上にスピンコートすることによって形成される(スピンコート法)。磁気薄膜層2は、ガラス基板1の表主表面1Aに対してスパッタリング法、または無電解めっき法などにより形成されてもよい。
【0025】
ガラス基板1の表主表面1Aに形成される磁気薄膜層2の膜厚は、スピンコート法の場合は約0.3μm〜1.2μm、スパッタリング法の場合は約0.04μm〜0.08μm、無電解めっき法の場合は約0.05μm〜0.1μmである。薄膜化および高密度化の観点からは、磁気薄膜層2はスパッタリング法または無電解めっき法によって形成されるとよい。
【0026】
磁気薄膜層2に用いる磁性材料としては、特に限定はなく従来公知のものが使用できるが、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNiやCrを加えたCo系合金などが好適である。また、熱アシスト記録用に好適な磁性層材料として、FePt系の材料が用いられてもよい。
【0027】
また、磁気記録ヘッドの滑りをよくするために磁気薄膜層2の表面に潤滑剤を薄くコーティングしてもよい。潤滑剤としては、たとえば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0028】
さらに、必要により下地層や保護層を設けてもよい。磁気ディスク10における下地層は磁性膜に応じて選択される。下地層の材料としては、たとえば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、またはNiなどの非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。
【0029】
また、下地層は単層とは限らず、同一または異種の層を積層した複数層構造としても構わない。たとえば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrVなどの多層下地層としてもよい。
【0030】
磁気薄膜層2の摩耗や腐食を防止する保護層としては、たとえば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層などが挙げられる。これらの保護層は、下地層、磁性膜などと共にインライン型スパッタ装置で連続して形成できる。また、これらの保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一または異種の層からなる多層構成としてもよい。
【0031】
上記保護層上に、あるいは上記保護層に替えて、他の保護層を形成してもよい。たとえば、上記保護層に替えて、Cr層の上にテトラアルコキシシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成して酸化ケイ素(SiO)層を形成してもよい。
【0032】
[ガラス基板の製造方法]
次に、図3に示すフローチャート図を用いて、本実施の形態におけるガラス基板(情報記録媒体用ガラス基板)の製造方法について説明する。図3は、実施の形態におけるガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
【0033】
本実施の形態におけるガラス基板の製造方法は、成形工程(ステップS10)、第一ラッピング工程(ステップS20)、形状加工工程(ステップS30)、内周研磨工程(ステップS40)、第二ラッピング工程(ステップS50)、外周研磨工程(ステップS60)、第一主表面研磨工程(ステップS70)、第二主表面研磨工程(ステップS80)、および化学強化工程(ステップS90)を経ることによって得られたガラス基板(図1におけるガラス基板1に相当)に対して、磁性膜形成工程(ステップS100)が実施されてもよい。磁性膜形成工程(ステップS100)によって、磁気ディスク10が得られる。
【0034】
以下、これらの各ステップS10〜S100について順に説明する。以下には、各ステップS10〜S100間に適宜行なわれる簡易的な洗浄については記載していない。
【0035】
(成形工程)
成形工程(ステップS10)においては、ガラス基板を構成するガラス素材が溶融される。ガラス素材は、たとえば一般的なアルミノシリケートガラスが用いられる。アルミノシリケートガラスは、58質量%〜75質量%のSiOと、5質量%〜23質量%のAlと、3質量%〜10質量%のLiOと、4質量%〜13質量%のNaOと、を主成分として含有する。溶融したガラス素材は、下型上に流し込まれた後、上型および下型によってプレス成型される。プレス成型によって、円盤状のガラスブランク材(ガラス母材)が成形される。
【0036】
ガラスブランク材は、ダウンドロー法またはフロート法によって形成されたシートガラス(板ガラス)を、研削砥石で切り出すことによって形成されてもよい。またガラス素材も、アルミノシリケートガラスに限られるものではなく、任意の素材であってもよい。
【0037】
(第一ラッピング工程)
次に、第一ラッピング工程(ステップS20)においては、プレス成型されたガラスブランク材の両方の主表面に対して、寸法精度および形状精度の向上を目的として、ラップ研磨処理が施される。ガラスブランク材の両方の主表面とは、後述する各処理を経ることによって、図1における表主表面1Aとなる主表面および裏主表面1Bとなる主表面のことである(以下、両主表面ともいう)。
【0038】
ラップ研磨処理は、遊星歯車機構を利用した両面ラッピング装置を用いて行なわれる。具体的にはガラスブランク材の両主表面に上下からラップ定盤を押圧させ、研削液を両主表面上に供給し、ガラスブランク材とラップ定盤とを相対的に移動させて、ラップ研磨処理が行なわれる。ラップ研磨処理によって、ガラス基板としてのおおよその平行度、平坦度および厚みなどが予備調整され、おおよそ平坦な主表面を有するガラス母材が得られる。たとえば、粒度#400のアルミナ砥粒(粒径約40〜60μm)を含有する研削液を用い、上定盤の荷重を100kg程度に設定することによって、ガラスブランク材の両面を面精度0μm〜1μm、表面粗さRmaxで6μm程度に仕上げてもよい。
【0039】
(形状加工工程)
次に、形状加工工程(ステップS30)においては、円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、ガラスブランク材の中心部に対してコアリング(内周カット)処理が施される。コアリング処理によって、中心部に孔の開いた円環状のガラス基板が得られる。その後、中心部の孔に対向する内周端面、および、外周端面を、ダイヤモンド砥石によって研削し、外径を65mm、内径(中心部の円孔1Hの直径)を20mmとした後、所定の面取り加工が実施される。このときのガラス基板の端面の面粗さは、Rmaxで2μm程度である。なお、一般的に、2.5インチ型のハードディスクには、外径が65mmのガラス基板が用いられる。
【0040】
(内周研磨工程)
次に、内周研磨工程(ステップS40)においては、ガラス基板の内周端面について、ブラシ研磨による鏡面研磨が行なわれる。具体的には、研磨ブラシに研磨剤を含む研磨液を供給し、ガラス基板の内周端面に接触するように研磨ブラシを配置した上で、ガラス基板を回転させながら、研磨ブラシをあてることにより、ガラス基板の内周端面を研磨する。
【0041】
上記の研磨剤としては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、および酸化アルミニウムからなる群より選択される1種以上からなるものを用いることが好ましい。上記の研磨ブラシは、アラミド系繊維、ポリブチレンテレフタレート、およびポリプロピレンからなる群より選択される1種以上からなることが好ましい。
【0042】
(第二ラッピング工程)
次に、第二ラッピング工程(ステップS50)においては、ガラス基板の両主表面について、第一ラッピング工程(ステップS20)と同様に、ラップ研磨処理が施される。この第二ラッピング工程を行なうことにより、前工程のコアリングまたは端面加工においてガラス基板の両主表面に形成された微細なキズや突起物などの、微細な凹凸形状を予め除去しておくことができ、後工程の主表面の研磨時間を短縮することができる。
【0043】
(外周研磨工程)
次に、外周研磨工程(ステップS60)においては、ガラス基板の外周端面について、ブラシ研磨による鏡面研磨が行なわれる。具体的には、研磨ブラシに研磨剤を含む研磨液を供給し、ガラス基板の外周端面に接触するように研磨ブラシを配置した上で、ガラス基板を回転させながら、研磨ブラシをあてることにより、ガラス基板の外周端面を研磨する。上記の研磨剤および研磨ブラシは、ガラス基板の内周端面の研磨の際に使用される研磨剤および研磨ブラシと同様に選定される。
【0044】
(第一主表面研磨工程)
次に、ガラス基板の主表面研磨工程のうちの第一の工程である粗研磨工程として、第一主表面研磨工程(ステップS70)が行なわれる。第一主表面研磨工程は、前述のラッピング工程においてガラス基板の主表面に残留したキズを除去しつつ、ガラス基板の反りを矯正することを主目的とする。第一主表面研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により主表面の研磨が行なわれる。たとえば、硬質ベロア、ウレタン発砲、またはピッチ含浸スウェードなどの研磨パッドを用いて研磨が行なわれる。研磨剤としては、一般的な酸化セリウム砥粒が用いられる。
【0045】
(第二主表面研磨工程)
次に、ガラス基板の主表面研磨工程のうちの第二の工程である精密研磨工程として、第二主表面研磨工程(ステップS80)が行なわれる。第二主表面研磨工程は、ガラス基板の主表面を被覆する際、またはガラス基板を分別する際などに、ガラス基板の主表面上に発生した微小欠陥などを解消して鏡面状に仕上げること、および、ガラス基板の反りを解消して所望の平坦度に仕上げることを目的とする。第二主表面研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により主表面の研磨が行なわれる。たとえば、スウェードまたはベロアを素材とする軟質ポリッシャである研磨パッドを用いて研磨が行なわれる。研磨剤としては、第一主表面研磨工程で用いた酸化セリウムよりも微細な、一般的なコロイダルシリカが用いられる。
【0046】
(化学強化工程)
次に、化学強化工程(ステップS90)においては、上述した主表面研磨工程を終えたガラス基板に化学強化が施される。ガラス基板が洗浄された後、300〜400℃に加熱された硝酸カリウム(70%)と硝酸ナトリウム(30%)との混合用液などの化学強化処理液中に、ガラス基板を30分間浸漬することによって、化学強化を行なう。
【0047】
この処理の結果、ガラス基板の表面に存在するアルカリ金属イオン(たとえば、アルミノシリケートガラス使用の場合、リチウムイオンおよびナトリウムイオン)が、化学強化処理液中に含まれる、これらのイオンに比べてイオン半径の大きいナトリウムイオンおよびカリウムイオンにそれぞれ置換される(イオン交換法)。イオン半径の違いによって生じる歪みにより、イオン交換された領域に圧縮応力が発生し、ガラス基板の両主表面が強化される。たとえば、ガラス基板の両主表面において、ガラス基板表面から約25μmまでの範囲に化学強化層を形成し、ガラス基板の剛性を向上させてもよい。このようにして、図1に示すガラス基板1に相当するガラス基板が得られる。
【0048】
(磁性膜形成工程)
最後に、磁性膜形成工程(ステップS100)においては、化学強化処理が完了したガラス基板を洗浄した後に、図1に示すガラス基板1に相当するガラス基板の両主表面(またはいずれか一方の主表面)に対し、磁性膜が形成されることにより、磁気薄膜層2が形成される。磁気薄膜層2は、Cr合金からなる密着層、CoFeZr合金からなる軟磁性層、Ruからなる配向制御下地層、CoCrPt合金からなる垂直磁気記録層、C系からなる保護層、およびF系からなる潤滑層が順次成膜されることによって形成される。磁気薄膜層の形成によって、図2に示す磁気ディスク10に相当する垂直磁気記録ディスクを得ることができる。
【0049】
本実施の形態における磁気ディスクは、磁気薄膜層から構成される垂直磁気ディスクの一例である。磁気ディスクは、いわゆる面内磁気ディスクとして磁性層などから構成されてもよい。
【0050】
(S90の「化学強化工程」の詳細)
以下、ステップS90の「化学強化工程」の詳細について説明する。図4は、ガラス基板1の化学強化工程(ステップS90)の詳細を示すフローチャートである。図5は、ガラス基板1用の化学強化処理槽20を側面視した部分断面図である。図6は、ガラス基板1用の化学強化処理槽20を平面視した部分断面図である。なお図5には、図6中に示すV−V線に沿う化学強化処理槽20の断面が図示されており、図6には、図5中に示すVI−VI線に沿う化学強化処理槽20の断面が図示されている。
【0051】
ガラス基板1の化学強化工程では、図4に示すように、まず化学強化処理液を貯留するための液槽(図5に示す化学強化処理槽20)を準備する(ステップS110)。化学強化処理槽20の大きさは任意であるが、たとえば、三千枚程度のガラス基板を一度に収容できるように、幅方向1200mm、奥行き方向800mm、高さ方向600mmの内寸を有する、化学強化処理槽20を準備してもよい。次に、化学強化処理槽20の内部に、化学強化処理液28を貯留する(ステップS120)。化学強化処理液28の液深(すなわち、化学強化処理槽20の底部21と化学強化処理液28の液面との距離)を、500mmとするように、化学強化処理液28を化学強化処理槽20中に注入する。
【0052】
液槽の準備に並行して、ガラス基板1を保持するための保持治具30を準備する(ステップS130)。たとえば100枚のガラス基板1を保持可能な保持治具30を準備する。続いて、保持治具30にガラス基板1を搭載する(ステップS140)。図7は、ガラス基板1の搭載された保持治具30を側面視した部分断面図である。図8は、ガラス基板1の搭載された保持治具30を正面視した部分断面図である。なお図7には、図8に示すVII−VII線に沿う保持治具30の断面が図示されており、図8には、図7中に示すVIII−VIII線に沿う保持治具30の断面が図示されている。
【0053】
保持治具30は、保持治具30の外形を形作る枠体31と、枠体31の対向する二側面を連結する基板支持部32〜34と、を有する。基板支持部32〜34は、長手方向に凹形状と凸形状とが連続的に形成された棒状の形状を有する。ガラス基板1は、基板支持部32〜34の表面の凹形状にガラス基板1の外周部分が当接することにより、基板支持部32〜24によって支持される。基板支持部32は、ガラス基板1の下方に配置されており、ガラス基板1を下側から支持する。基板支持部33,34は、ガラス基板1の側方に配置されており、ガラス基板1の側部を両側から保持する。
【0054】
ガラス基板1を保持治具30に搭載した状態で、保持治具30ごとガラス基板1を化学強化処理槽20の内部へ配置して、ガラス基板1を化学強化処理液28に浸漬させる(ステップS150)。図5および図6には、保持治具30によって保持されたガラス基板1が化学強化処理液28中に浸漬された状態が図示されている。
【0055】
図5および図6に示すように、化学強化処理槽20は、有底の矩形状容器である。化学強化処理槽20は、化学強化処理槽20の底面を形成する板状の底部21と、化学強化処理槽20の壁面を形成する板状の壁部22と、を有する。化学強化処理槽20の内側へ向く壁部22の表面は、化学強化処理槽20の内壁23を形成する。互いに対向する一対の内壁23を連結するように、支持梁24〜26が配置されている。支持梁24〜26は、ガラス基板1の搭載された保持治具30を支持する。保持治具30は、支持梁24〜26の上に搭載されて、化学強化処理槽20の内側に配置される。支持梁24は上段の梁であり、支持梁25は中段の梁であり、支持梁26は下段の梁であり、各々の支持梁24〜26は複数の保持治具30を支持する。
【0056】
図5および図6に示す化学強化処理槽20内の保持治具30の配置は一例であり、任意の個数の保持治具30が化学強化処理槽20内の任意の位置に配置されてもよい。化学強化処理液28の深さ方向に並べられる保持治具30の段数もまた任意であってもよい。たとえば、内壁23aに沿う方向に5列の保持治具30が並べられ、内壁23bに沿う方向に2列の保持治具30が並べられ、各段の支持梁24〜26上に十個の保持治具30が載置されることにより、合計三千枚のガラス基板1が一度に化学強化処理液28に浸漬されてもよい。
【0057】
化学強化処理槽20の内側に、内壁23に近接して、複数の加熱ヒータ42が配置されている。加熱ヒータ42は、化学強化処理槽20の内部の周辺部に配置されている。加熱ヒータ42は、化学強化処理液28中に浸漬されている。加熱ヒータ42が稼働して熱を発生することにより、化学強化処理液28は所定の温度にまで加熱される。図6に示す例では、水平方向寸法の大きい側の内壁23aに近接して二本の加熱ヒータ42が設けられ、水平方向寸法の小さい側の内壁23bに近接して一本の加熱ヒータ42が設けられている。加熱ヒータ42の本数および配置は、図6に示す例に限られず、任意に調整が可能である。
【0058】
化学強化処理槽20の底部21から、化学強化処理槽20の内側へ向けて、複数の撹拌部44が配置されている。撹拌部44はたとえば、化学強化処理液28を流動させるインペラやポンプであってもよい。また撹拌部44は、化学強化処理液28を振動させる超音波加振器や泡発生器であってもよい。撹拌部44が駆動することにより、化学強化処理液28中に液体の流れが発生する。撹拌部44によって、化学強化処理液28は撹拌される。
【0059】
撹拌部44が化学強化処理液28を撹拌することと、加熱ヒータ42で加熱された化学強化処理液28が対流することと、によって、化学強化処理槽20内で化学強化処理液28が流動する。この化学強化処理液28の流動によって、化学強化処理液28の温度分布は減少する。しかし、数千枚程度のガラス基板1を収容できるような大寸法を有する化学強化処理槽20では、槽内部の化学強化処理液28の温度を完全に均一にするのは困難である。
【0060】
そこで、化学強化処理槽20内に収容されたガラス基板1に付与される温度条件を均一化するために、ステップS160で、ガラス基板1を化学強化処理液28中で移動させる。図9は、化学強化処理槽20内のガラス基板1の移動経路を示す模式図である。図10は、化学強化処理槽20内でガラス基板1が移動する各工程を順に示すフローチャートである。
【0061】
本実施の形態では、ガラス基板1は、水平方向に移動する。図9に示すように、水平方向において、平面形状が矩形状の化学強化処理槽20の長辺を形成する壁部22aの内壁23aに沿う一方の方向を矢印aで示し、他方の方向を矢印cで示す。水平方向において、化学強化処理槽20の短辺を形成する壁部22bの内壁23bに沿う一方の方向を矢印bで示し、他方の方向を矢印dで示す。
【0062】
図10に示すように、ガラス基板1は、保持治具30に搭載された状態で、まず矢印a方向に水平移動し(ステップS161)、続いて矢印b方向に水平移動し(ステップS162)、続いて矢印c方向に水平移動し(ステップS163)、続いて矢印d方向に水平移動する(ステップS164)。ステップS161〜S164の移動によって、図9に示すようにガラス基板1を搭載した保持治具30は元の場所に戻る。そのため、図10に示すようにステップS164が終了するとリターンされ、再度ステップS161の矢印a方向の水平移動が開始される。ガラス基板1は、化学強化処理槽20内を、化学強化処理槽20の内壁23a,23bに沿って移動する。ガラス基板1の移動経路は、閉ループを形成する。
【0063】
化学強化処理槽20内でのガラス基板1の移動は、図示しない任意の移送装置を使用して行なわれる。たとえばリニアガイドやベルト式のコンベヤを適宜組み合わせて移送装置を形成して保持治具30ごとガラス基板1を移動させてもよく、または保持治具30をクレーンで吊り下げて移動させてもよい。
【0064】
図4を再び参照して、ガラス基板1の表層の化学強化に必要な所定時間が経過したか否かを判断し(ステップS170)、所定時間が経過するまで、ステップS160(ステップS161〜S164)に従ったガラス基板1の水平移動が続けられる。所定時間が経過したと判断されれば、ガラス基板1の移動を停止し、ガラス基板1を化学強化処理液28から取り出す(ステップS180)。
【0065】
図9には、内壁23aの水平方向長さL1と、内壁23bの水平方向長さL2とが図示されている。ステップS161,S163において、ガラス基板1は、化学強化処理槽20の内壁23aに沿って移動する。このときガラス基板1は、内壁23aの水平方向長さL1の半分以上の距離に亘って、水平方向に移動する。ステップS161,S163でのガラス基板1の内壁23aに沿う水平方向の移動距離はたとえば1000mmであり、移動距離は長さL1の半分以上である。ステップS162,S164において、ガラス基板1は、化学強化処理槽20の内壁23bに沿って移動する。このときガラス基板1は、内壁23bの水平方向長さL2の半分以上の距離に亘って、水平方向に移動する。ステップS162,S164でのガラス基板1の内壁23bに沿う水平方向の移動距離はたとえば700mmであり、移動距離は長さL2の半分以上である。
【0066】
化学強化処理液28中でのガラス基板1の移動距離を規定し、化学強化処理液28中でガラス基板1を大きく動かすことにより、ガラス基板1に付与される温度条件を均一化できる。水平方向において、加熱ヒータ42の近傍位置の化学強化処理液28は温度が相対的に高く、加熱ヒータ42から離れる位置の化学強化処理液28は温度が相対的に低いと考えられる。つまり、化学強化処理槽20に貯留された化学強化処理液28は、水平方向の温度分布を有している。しかし、上述したようにガラス基板1を化学強化処理液28中で移動させれば、特定のガラス基板1が温度の高い化学強化処理液28に浸漬され続けることはなく、別の特定のガラス基板1が温度の低い化学強化処理液28に浸漬され続けることはない。
【0067】
化学強化処理液28中でガラス基板1が移動することにより、全てのガラス基板1が、化学強化処理槽20の内部における温度の相対的に高い領域と温度の相対的に低い領域との両方を、通過する。化学強化処理槽20内に多少の温度分布があっても、各々のガラス基板1は一様に化学強化処理されたことになる。ガラス基板1を化学強化するための化学強化処理液28の温度条件が、全てのガラス基板1に対して均一化されている。ガラス基板1を移動させることにより、化学強化処理される対象の各々のガラス基板1に付与される温度条件の均一性が向上されている。
【0068】
そのため、各々のガラス基板1の表層をイオン交換する反応速度の分布を低減できるので、ガラス基板1毎の化学強化層の厚みのばらつきを低減でき、化学強化処理後のガラス基板1の安定な品質を確保できる。ガラス基板1毎の化学強化層の厚みのばらつきが低減できることにより、ガラス基板1の反りのばらつきを低減することができる。したがって、平坦度が向上され、磁気ヘッドと磁気記録層との間の浮上距離を小さくすることを可能とする、情報記録媒体用のガラス基板1を提供することができる。
【0069】
図11は、実施の形態1の化学強化処理によって得られたガラス基板1の断面図である。図11に示すガラス基板1においては、化学強化層6が、表主表面1A、裏主表面1B、内周端面1C、および外周端面1Dのそれぞれに形成される。ガラス基板1の表面の全体にわたって化学強化層6が形成されるため、情報記録媒体としての耐衝撃性を向上させることができる。
【0070】
図12は、化学強化層6のイオン交換状態を示すグラフである。図12に示す横軸は、ガラス基板1の表面(つまり、表主表面1A、裏主表面1B、内周端面1C、および外周端面1D)からの深さ方向(単位:μm)を示し、縦軸は、ガラス基板1中のLiOの含有量(単位:wt%)を示す。図12に示す点線は、化学強化処理前にガラス基板1が含有するLiの量を示し、実線は、化学強化処理後にガラス基板1が含有するLiの量を示す。
【0071】
化学強化層6の「厚み」は、ガラス基板1に含有されるLiがNaまたはKと80%以上イオン交換されている、ガラス基板1の表面からの距離として定義することができる。化学強化層6と化学強化されていない領域との界面は、イオン交換により導入されたイオンが存在するか否かにより判断される。化学強化層6の厚みは、SEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)を用いて、ガラス基板1の断面を測定し、アルカリの定量分析を実施することにより測定できる。
【0072】
図12に示すように、化学強化処理前に10wt%含有されていたLiは、ガラス基板1の表面付近においてほぼゼロにまで減少している。基板表面から深さ約25μmの領域においては、Liの含有量は2wt%以下である。したがって、図12のグラフから、上述した化学強化処理によって、ガラス基板1の表層部に厚み約25μmの化学強化層6が形成されたことがわかる。
【0073】
(実施の形態2)
図13は、実施の形態2の化学強化処理槽20を側面視した部分断面図である。実施の形態2の化学強化工程(図3に示すステップS90)では、実施の形態1と同様に化学強化処理液28中でガラス基板1を移動させるが、ガラス基板1の移動経路において実施の形態1と異なっている。図14は、実施の形態2の化学強化処理槽20内のガラス基板1の移動経路を示す模式図である。図15は、実施の形態2の化学強化処理槽20内でガラス基板1が移動する各工程を順に示すフローチャートである。
【0074】
実施の形態2では、ガラス基板1は、垂直方向に移動する。図14に示すように、垂直方向において上昇する方向を矢印eで示し、下降する方向を矢印fで示す。矢印b,dは実施の形態1と同様に、化学強化処理槽20の短辺を形成する壁部22bの内壁23bに沿う方向を示す。
【0075】
図15に示すように、ガラス基板1は、保持治具30に搭載された状態で、まず矢印b方向に水平移動し(ステップS162)、続いて矢印e方向に垂直移動し(ステップS165)、続いて矢印d方向に水平移動し(ステップS164)、続いて矢印f方向に垂直移動する(ステップS166)。ステップS162,S165,S164およびS166の移動によって、図14に示すようにガラス基板1を搭載した保持治具30は元の場所に戻る。そのため、図15に示すようにステップS166が終了するとリターンされ、再度ステップS162の矢印b方向の水平移動が開始される。ガラス基板1は、化学強化処理槽20内を、化学強化処理槽20の底部21、壁部22aおよび化学強化処理液28の液面に沿って移動する。ガラス基板1の移動経路は、閉ループを形成する。
【0076】
図9には、内壁23bの水平方向長さL2と、化学強化処理液28の液深Dとが図示されている。ステップS162,S164において、ガラス基板1は、化学強化処理槽20の内壁23b(図14には不図示)に沿って移動する。このときガラス基板1は、内壁23bの水平方向長さL2の半分以上の距離に亘って、水平方向に移動する。ステップS162,S164でのガラス基板1の内壁23bに沿う水平方向の移動距離はたとえば700mmであり、移動距離は長さL2の半分以上である。ステップS165,S166において、ガラス基板1は、化学強化処理槽20内を垂直方向に移動する。このときガラス基板1は、化学強化処理液28の液深Dの半分以上の距離に亘って、垂直方向に移動する。ステップS165,S166でのガラス基板1の垂直方向の移動距離はたとえば400mmであり、移動距離は液深Dの半分以上である。
【0077】
化学強化処理液28中でのガラス基板1の移動距離を規定し、化学強化処理液28中でガラス基板1を大きく動かすことにより、ガラス基板1に付与される温度条件を均一化できる。化学強化処理液28が対流することにより、垂直方向において、液面付近の化学強化処理液28は温度が相対的に高く、化学強化処理槽20の底部21付近の化学強化処理液28は温度が相対的に低いと考えられる。つまり、化学強化処理槽20に貯留された化学強化処理液28は、垂直方向の温度分布を有している。しかし、上述したようにガラス基板1を化学強化処理液28中で移動させれば、特定のガラス基板1が温度の高い化学強化処理液28に浸漬され続けることはなく、別の特定のガラス基板1が温度の低い化学強化処理液28に浸漬され続けることはない。
【0078】
化学強化処理液28中でガラス基板1が移動することにより、化学強化処理液28の温度条件が、全てのガラス基板1に対して均一化されている。そのため、各々のガラス基板1の表層をイオン交換する反応速度の分布を低減できるので、ガラス基板1毎の化学強化層の厚みのばらつきを低減でき、化学強化処理後のガラス基板1の安定な品質を確保できる。ガラス基板1毎の化学強化層の厚みのばらつきが低減できることにより、ガラス基板1の反りのばらつきを低減することができる。したがって、平坦度が向上され、磁気ヘッドと磁気記録層との間の浮上距離を小さくすることを可能とする、情報記録媒体用のガラス基板1を提供することができる。
【0079】
(実施の形態3)
図16は、実施の形態3の化学強化処理槽20内のガラス基板1の移動経路を示す模式図である。図17は、実施の形態3の化学強化処理槽20内でガラス基板1が移動する各工程を順に示すフローチャートである。実施の形態3の化学強化工程(図3に示すステップS90)では、実施の形態1,2と同様に化学強化処理液28中でガラス基板1を移動させるが、ガラス基板1の移動経路において実施の形態1,2と異なっている。
【0080】
実施の形態3では、ガラス基板1は、水平方向と垂直方向との両方に移動する。図16に示す矢印a(a1,a2)および矢印c(c1,c2)は実施の形態1と同様に、化学強化処理槽20の長辺を形成する壁部22aの内壁23aに沿う方向を示す。矢印b,dは実施の形態1と同様に、化学強化処理槽20の短辺を形成する壁部22bの内壁23bに沿う方向を示す。矢印e,fは実施の形態2と同様に、垂直方向を示す。
【0081】
図17に示すように、ガラス基板1は、保持治具30に搭載された状態で、まず矢印a1方向に水平移動し(ステップS161A)、続いて矢印b方向に水平移動し(ステップS162)、続いて矢印c1方向に水平移動し(ステップS163A)、続いて矢印e方向に垂直移動する(ステップS165)。ガラス基板1はさらに、矢印a2方向に水平移動し(ステップS161B)、続いて矢印d方向に水平移動し(ステップS164)、続いて矢印c2方向に水平移動し(ステップS163B)、続いて矢印f方向に垂直移動する(ステップS166)。このような経路を辿った後に、図16に示すようにガラス基板1を搭載した保持治具30は元の場所に戻る。そのため、図17に示すようにステップS166が終了するとリターンされ、再度ステップS161Aの矢印a1方向の水平移動が開始される。
【0082】
ステップS161A,S163A,S161BおよびS163Bにおいて、ガラス基板1は、化学強化処理槽20の内壁23aに沿って移動する。このときガラス基板1は、内壁23aの水平方向長さL1の半分以上の距離に亘って、水平方向に移動する。ステップS161A,S163A,S161BおよびS163Bでのガラス基板1の内壁23aに沿う水平方向の移動距離はたとえば1000mmであり、長さL1の半分以上である。
【0083】
ステップS162,S164において、ガラス基板1は、化学強化処理槽20の内壁23bに沿って移動する。このときガラス基板1は、内壁23bの水平方向長さL2の半分以上の距離に亘って、水平方向に移動する。ステップS162,S164でのガラス基板1の内壁23bに沿う水平方向の移動距離はたとえば700mmであり、長さL2の半分以上である。ステップS165,S166において、ガラス基板1は、化学強化処理槽20内を垂直方向に移動する。このときガラス基板1は、化学強化処理液28の液深Dの半分以上の距離に亘って、垂直方向に移動する。ステップS165,S166でのガラス基板1の垂直方向の移動距離はたとえば400mmであり、液深Dの半分以上である。
【0084】
化学強化処理液28中でのガラス基板1の移動距離を規定し、化学強化処理液28中でガラス基板1を大きく動かすことにより、ガラス基板1に付与される温度条件を均一化できる。実施の形態1,2で説明した通り、化学強化処理槽20に貯留された化学強化処理液28は、水平方向および垂直方向の温度分布を有している。しかし、上述したようにガラス基板1を化学強化処理液28中で移動させれば、特定のガラス基板1が温度の高い化学強化処理液28に浸漬され続けることはなく、別の特定のガラス基板1が温度の低い化学強化処理液28に浸漬され続けることはない。
【0085】
化学強化処理液28中でガラス基板1が移動することにより、化学強化処理液28の温度条件が、全てのガラス基板1に対して均一化されている。そのため、各々のガラス基板1の表層をイオン交換する反応速度の分布を低減できるので、ガラス基板1毎の化学強化層の厚みのばらつきを低減でき、化学強化処理後のガラス基板1の安定な品質を確保できる。ガラス基板1毎の化学強化層の厚みのばらつきが低減できることにより、ガラス基板1の反りのばらつきを低減することができる。したがって、平坦度が向上され、磁気ヘッドと磁気記録層との間の浮上距離を小さくすることを可能とする、情報記録媒体用のガラス基板1を提供することができる。
【0086】
(実施の形態4)
図18は、実施の形態4の化学強化処理槽20の内部を透視した斜視図である。実施の形態4のガラス基板1の製造方法は、実施の形態1〜3と異なり、ガラス基板1が保持治具35に搭載された状態で保持治具35と共にガラス基板1を化学強化処理液28中で移動させる工程に加えて、保持治具35に非接触の状態でガラス基板1を化学強化処理液28中で移動させる工程を有している。
【0087】
図18に示すように、実施の形態4の化学強化処理槽20は、実施の形態1〜3と同様の、幅方向1200mm、奥行き方向800mm、高さ方向600mmの内寸を有する。化学強化処理槽20の内部には、ガラス基板1を搭載する保持治具35と、保持治具35を水平方向に移動させる移動部51と、ガラス基板1の垂直方向の移動経路を定めるガイド50,52と、が収容されている。これらの保持治具35、移動部51およびガイド50,52は、化学強化処理液28中に浸漬されている。
【0088】
保持治具35は、一枚のガラス基板1を受ける受け皿としての機能を有する。保持治具35は、ガラス基板1の表面のうち保持治具35に接触する接触部を少なくできるように、円環形状に形成されている。ガイド50,52は、棒状の形状を有し、化学強化処理液28で直立している。化学強化処理槽20を平面視した場合、ガイド50は化学強化処理槽20の中央部に配置されており、ガイド52はガイド50と化学強化処理槽20の内壁23との間に配置されている。ガイド50の周囲の四方に、四本のガイド52が配置されている。
【0089】
移動部51は、二本のレールが直交して組み合わせられた十文字状に形成されており、ガイド52の本数と同数の四本の腕部を有する。ガイド52の本数と同数の四個の保持治具35が、四本の腕部のそれぞれに搭載されている。移動部51は、保持治具35を腕部の先端から腕部の根元(すなわち、十文字状の移動部51の中心部)にまで移動可能である。保持治具35が腕部の先端にあるとき、保持治具35はガイド52の下方に配置されている。保持治具35が腕部の根元にあるとき、保持治具35はガイド50の下方に配置されている。
【0090】
図19〜図24は、実施の形態4の化学強化処理槽20内でのガラス基板1の移動を模式的に示す図である。図25は、実施の形態4の化学強化処理槽20内でガラス基板1が移動する各工程を順に示すフローチャートである。
【0091】
図19には、リング状の形状を有する保持治具35が移動部51に搭載され、保持治具35上にガラス基板1が搭載されている状態が図示されている。このとき保持治具35とガラス基板1とは、ガイド52の下方に存在する。図19に示す状態から、保持治具35を上方へ移動させることにより、図20に示す矢印g方向に沿ってガラス基板1は上昇し、ガイド52の上方へ到達する。ガラス基板1は、保持治具35と共に、矢印g方向へ垂直移動する(ステップS167A)。保持治具35を化学強化処理槽20内の底部21から化学強化処理液28の液面へ向けて移動させることにより、保持治具35上に搭載されたガラス基板1は、垂直方向上向きに移動する。
【0092】
ガラス基板1が上方へ移動する際には、ガラス基板1の中心部に形成された円孔1Hの内部にガイド52が通るように、ガラス基板1を移動させる。ガイド52がない場合、ガラス基板1の移動中に水平方向のずれが発生し、ずれが大きくなるとガラス基板1が保持治具35から落下する虞がある。ガイド52を使用して、ガラス基板1の水平方向の位置決めをすることにより、ガラス基板1の移動中の位置ずれを確実に防止することができる。
【0093】
ガイド52の上方まで移動したガラス基板1は、図示しないチャック装置で保持される。続いてチャック装置が水平移動することで、ガラス基板1は、図21に示す矢印h方向へ水平移動する(ステップS168)。チャック装置は、ガラス基板1を保持治具35の上面から取り去り、ガラス基板1のみを移動させる。チャック装置は、ガラス基板1を、ガイド52の上方から、ガイド50の上方へ水平移動させる(図21参照)。
【0094】
保持治具35の上面からガラス基板1が取り除かれた後、保持治具35は、下方に移動する。保持治具35は、移動部51に搭載された状態に戻るまで、垂直方向下向きに移動する。
【0095】
続いて、ガラス基板1がガイド50の上方にある状態で、上記チャック装置はガラス基板1の支持を解除する。ガラス基板1がチャック装置により支持されなくなると、ガラス基板1は自重で自然落下し、図22に示す矢印i方向へ垂直移動する(ステップS169)。図22には、化学強化処理液28中の液面付近から化学強化処理槽20の底部21へ向かって垂直方向下向きに移動するガラス基板1の、移動途中の状態が示されている。ガラス基板1は、矢印i方向に沿って、化学強化処理液28中を沈んでいくように移動する。ガラス基板1が下方へ移動する際に、円孔1Hの内部にガイド50が通るようにガラス基板1を移動させることにより、ガラス基板1の水平方向の位置決めをし、ガラス基板1の移動中の位置ずれを確実に防止することができる。
【0096】
このとき保持治具35は、移動部51によって、ガイド52の下方から、ガイド50の下方にまで移動する。保持治具35は、図23に示すように、矢印i方向に沿って移動するガラス基板1が化学強化処理槽20の底部21付近に到達したときに、ガラス基板1を受けることができる位置に移動する。ガラス基板1が自重により沈んで保持治具35の上面に載ることにより、ガラス基板1の一部が保持治具35と接触し、ガラス基板1が保持治具35により支持された状態に戻る。
【0097】
その後移動部51が保持治具35を移動させることにより、保持治具35と共に、保持治具35上に載置されたガラス基板1も移動する。ガラス基板1は、ガイド50の下方からガイド52の下方にまで、図24に示す矢印j方向へ水平移動する(ステップS167B)。図19と図24とを比較して、ステップS167A,S168,S169およびS167Bの移動によって、保持治具35と、保持治具35に搭載されたガラス基板1とは元の場所に戻る。そのため、図25に示すようにステップS167Bが終了するとリターンされ、再度ステップS167Aの矢印g方向の垂直移動が開始される。
【0098】
ステップS167A,S169において、ガラス基板1は、化学強化処理槽20内を垂直方向に移動する。このときガラス基板1は、化学強化処理液28の液深Dの半分以上の距離に亘って、垂直方向に移動する。ステップS167A,S169でのガラス基板1の垂直方向の移動距離はたとえば400mmであり、液深Dの半分以上である。
【0099】
化学強化処理液28中でのガラス基板1の移動距離を規定し、化学強化処理液28中でガラス基板1を大きく動かすことにより、ガラス基板1に付与される温度条件を均一化できる。化学強化処理液28が垂直方向の温度分布を有していても、化学強化処理液28中でガラス基板1が移動することにより、化学強化処理液28の温度条件が、全てのガラス基板1に対して均一化されている。そのため、ガラス基板1毎の化学強化層の厚みのばらつきが低減できるので、ガラス基板1の反りのばらつきを低減することができる。したがって、平坦度が向上され、磁気ヘッドと磁気記録層との間の浮上距離を小さくすることを可能とする、情報記録媒体用のガラス基板1を提供することができる。
【0100】
図22に示す状態で、ガラス基板1は、化学強化処理液28中に浮遊している。ガラス基板1の移動中に、ガラス基板1が保持治具35に非接触の状態で、化学強化処理液28中でガラス基板1が移動している状態が存在する。このとき、ガラス基板1の表面全体が、保持治具35または上記チャック装置など他の部材によって覆い隠されていない。ガラス基板1を化学強化処理液28中で移動させるときに、ガラス基板1の表面の一部が保持治具35でマスキングされた状態を一定時間解消できる。ガラス基板1の表面がマスキングされていない時間帯では、ガラス基板1の表面の全面が化学強化処理液28に接触している。
【0101】
化学強化処理液28中でガラス基板1を保持治具35に非接触に移動させることによって、一枚のガラス基板1内においても、化学強化層の厚みを均一化することができる。一枚のガラス基板1内での化学強化層の厚みのばらつきを低減できることにより、ガラス基板1の反りを発生しにくくすることができるので、ガラス基板1の平坦度をより向上することができる。さらに、一枚のガラス基板1において局所的に化学強化層の厚みの小さい箇所が発生することを抑制できるので、当該箇所がガラス基板1の破壊起点になることを回避でき、ガラス基板1の機械的強度を向上することができる。したがって、落下衝撃などに対して有効な、強度の高いガラス基板1を提供することができる。
【0102】
図26は、円環状の保持治具35の第一の変形例を示す斜視図である。図27は、図26に示すXXVII−XXVII線に沿う保持治具35の断面図である。図26,27に示す保持治具35は、リング形状の最外縁からガラス基板1を搭載する表面側に突出する円筒壁部36を有する。円筒壁部36は、保持治具35に搭載されたガラス基板1の水平方向の移動を妨げ得る程度に、保持治具35の表面から突出している。この円筒壁部36により、ガラス基板1の移動中の位置ずれを防止できるので、図18に示すガイド52を省略することができる。
【0103】
図28は、円環状の保持治具35の第二の変形例を示す斜視図である。図29は、図29に示すXXIX−XXIX線に沿う保持治具35の断面図である。図28,29に示す保持治具35は、リング形状の下面に連結された空気供給管37を有する。保持治具35の上面には、空気供給管37を経由して供給された空気が噴き出る複数の噴出口38が形成されている。図29に示すように、保持治具35の内部には、保持治具35を上下方向に貫通し、空気供給管37と噴出口38とを連通する、通気路が形成されている。空気供給管37は、たとえば白金製である。空気供給管37は、保持治具35が化学強化処理槽20内を化学強化処理液28の液面付近まで移動したときにも保持治具35への連結を維持できるように、伸縮可能に形成されている。
【0104】
空気供給管37から空気を供給し、上記通気路を経由して噴出口38から空気を流出させることにより、図29に示すように、保持治具35をガラス基板1から浮かせることができる。ガラス基板1を空気で支持することにより、ガラス基板1が保持治具35に非接触な状態を保つことができる。ガラス基板1と保持治具35との接触を少なくすることにより、ガラス基板1の表面の一部が保持治具35でマスキングされた状態を低減できるので、より化学強化層の厚みの均一性を向上できる。また、保持治具35からガラス基板1に衝撃が加わることを防止できる。加えて、ガラス基板1の表面へ保持治具35から異物が移動することを抑制して、ガラス基板1の表面への塵埃(パーティクル)の付着の増加を抑制することができる。
【0105】
(実施の形態5)
図30は、実施の形態5の化学強化処理槽20内のガラス基板1の移動経路を示す模式図である。実施の形態5では、ガラス基板1を保持する保持治具35として、図28,29を参照して説明した構成の保持治具35が使用される。つまり、空気供給管を介して空気を供給することにより、保持治具35の表面からガラス基板1を浮かし、ガラス基板1を保持治具35に対し非接触の状態に保つことのできる、保持治具35が使用される。
【0106】
ガラス基板1が保持治具35から浮いている状態で、化学強化処理槽20内で保持治具35を移動させることにより、図30に示す矢印a〜d方向へガラス基板1は水平移動する。ガラス基板1と保持治具35とを非接触に保つことで、ガラス基板1の表面の一部が保持治具35でマスキングされた状態を低減できる。この状態で、化学強化処理液28内でガラス基板1を移動させることにより、ガラス基板1の表層に形成される化学強化層の厚みの均一性を、より向上することができる。
【0107】
(実施の形態6)
図31は、実施の形態6のガラス基板1の製造方法を示すフローチャートである。実施の形態6の製造方法は、ガラス基板1の主表面を粗研磨する第一主表面研磨工程(ステップS70)の後、かつ、ガラス基板1の主表面を鏡面研磨する第二主表面研磨工程(S80)の前に、化学強化工程(ステップS90)が行なわれる点で、図3を参照して説明した実施の形態1と異なっている。
【0108】
図32は、実施の形態6の製造方法によって得られたガラス基板1の断面図である。ガラス基板1の表面全体に化学強化層6が形成された後に、ガラス基板1の表主表面1Aと裏主表面1Bとが精密研磨される。そのため、表主表面1Aおよび裏主表面1B側の化学強化層6は、内周端面1Cおよび外周端面1D側の化学強化層6と比較して、その厚みが小さくなっている。
【0109】
(実施の形態7)
図33は、実施の形態7のガラス基板1の製造方法を示すフローチャートである。実施の形態7の製造方法は、ガラス基板1を主表面をラップ研磨する第二ラッピング工程(ステップS50)の後、かつ、ガラス基板1の主表面を粗研磨する第一主表面研磨工程(ステップS70)の前に、化学強化工程(ステップS90)が行なわれる点で、図3を参照して説明した実施の形態1と異なっている。
【0110】
図34は、実施の形態7の製造方法によって得られたガラス基板1の断面図である。ガラス基板1の表面全体に化学強化層6が形成された後に、ガラス基板1の表主表面1Aと裏主表面1Bとが粗研磨および精密研磨される。そのため、表主表面1Aおよび裏主表面1B側の化学強化層6は除去されている。内周端面1Cおよび外周端面1Dのみに化学強化層6が形成され、内周端面1Cおよび外周端面1Dを起点とする破壊および損傷(破損)が発生しにくい構成とされている。表主表面1Aおよび裏主表面1Bに化学強化層6が形成されていないため、表主表面1Aおよび裏主表面1Bの平坦度および平滑度が高く、情報を高い密度で記録できる磁気記録層を表主表面1Aおよび裏主表面1Bに形成することができる。
【0111】
本発明のガラス基板1は、実施の形態7に示す各工程を順に経て製造されてもよい。但し、実施の形態1および6に示す、最終製品であるガラス基板1の表主表面1Aおよび裏主表面1Bに化学強化層6が形成される場合、化学強化工程(ステップS90)において化学強化層6の厚みを均一化できるので、本発明をより好適に適用することができる。
【0112】
なお、これまでの実施の形態の説明においては、略直方体形状を有する化学強化処理槽20内をガラス基板1が移動する例について説明したが、化学強化処理槽20の形状は任意であり、たとえば円柱水槽状の化学強化処理槽20を使用してもよい。
【実施例】
【0113】
以下、本発明の実施例について説明する。図35は、本発明の実施例および従来例に従って製造されたガラス基板1の評価結果を示す図である。図35に示す実施例1〜5は、上述した実施の形態1〜5の製造方法に従って製造したガラス基板1である。従来例1は、化学強化処理槽の内部に撹拌部を有さない場合の、化学強化処理液中にガラス基板1を静止させて製造したガラス基板1である。従来例は、化学強化処理槽の内部に撹拌部を有し、撹拌部により化学強化処理液を撹拌させた場合の、化学強化処理液中にガラス基板1を静止させて製造したガラス基板1である。各実施例および従来例について、100枚のガラス基板1を製造して、100枚のガラス基板1について評価試験を実施した。
【0114】
評価試験は、強化層厚み、平面度、落下衝撃試験の三項目について行なった。
(強化層厚み)
強化層厚みとは、化学強化層6の厚みの目標値を50μmとして化学強化処理を行なった場合の、ガラス基板1の表層部に実際に形成された化学強化層6の厚みを計測し、目標値50μmに対する化学強化層6の厚みのばらつきとして評価した値(単位:μm)である。この距離は、エネルギー分散型の電解放出型走査電子顕微鏡(SEM−EDX)にて、アルカリ成分の定量分析を実施することにより測定した。
【0115】
(平面度)
平面度とは、ガラス基板1の表主表面1Aに発生したうねりの大きさの平均値(単位:Å)である。うねりは、Phase Shift社製のディスク用干渉計「OptiFlat」を用いて、非接触レーザ干渉法により、測定範囲として波長5mm〜0.1mmのカットオフ値を測定することにより、測定した。
【0116】
(落下衝撃試験)
落下衝撃試験とは、得られたガラス基板をドライブに設置した状態であるハードディスクドライブ(HDD)に対して1000Gの衝撃力が与えられるように、HDDを落下させた試験方法であり、その際、HDDに備えられた磁気ディスクが割れたか否かを目視で確認したガラス基板1の割れ確率(単位:%)である。尚、1Gの衝撃力は約9.80665m/Sである。
【0117】
従来例1,2では、化学強化層6の厚みのばらつきが10μm以上と大きく、平面度も5.0Åと大きくなっている。その結果、落下衝撃試験においてガラス基板1の割れる確率がそれぞれ30%、10%であり、ガラス基板1の機械的強度は不十分であった。
【0118】
一方実施例1〜5では、化学強化層6の厚みのばらつきが2.1〜3.3μmに低減されており、そのため平面度もまた1.0〜1.4Åに低減されている。その結果、落下衝撃試験では、ガラス基板1の割れる確率はいずれも0%であった。すなわち、本発明のガラス基板1の製造方法によって得られるガラス基板1では、ガラス基板1毎の化学強化層の厚みのばらつきが低減され、ガラス基板1の反りのばらつきが低減されており、したがって、機械的強度が向上し落下衝撃に強い、情報記録媒体用として好適なガラス基板1を提供できることが示された。
【0119】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0120】
1 ガラス基板、1A 表主表面、1B 裏主表面、1C 内周端面、1D 外周端面、1H 円孔、2 磁気薄膜層、6 化学強化層、10 磁気ディスク、20 化学強化処理槽、21 底部、22,22a,22b 壁部、23,23a,23b 内壁、28 化学強化処理液、30,35 保持治具、36 円筒壁部、37 空気供給管、38 噴出口、42 加熱ヒータ、44 撹拌部、50,52 ガイド、51 移動部、L1,L2 内壁の水平方向長さ、D 液深。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の主表面に磁気記録層が形成される情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、
前記ガラス基板を成形する工程と、
前記主表面に化学強化層を形成する工程と、を備え、
前記化学強化層を形成する工程は、液槽内に貯留された処理液に前記ガラス基板を浸漬させる工程と、前記ガラス基板を前記処理液中で移動させる工程と、を含み、
前記移動させる工程は、前記液槽の内壁に沿って前記内壁の水平方向長さの半分以上に亘って前記ガラス基板を水平方向に移動させる工程と、前記処理液の液深の半分以上に亘って前記ガラス基板を垂直方向に移動させる工程と、の少なくともいずれか一方を有する、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記化学強化層を形成する工程は、前記ガラス基板を保持治具に搭載する工程を含み、
前記移動させる工程は、前記保持治具に搭載された前記ガラス基板を前記処理液中で移動させる工程を有する、請求項1に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記化学強化層を形成する工程は、前記ガラス基板を保持治具に搭載する工程を含み、
前記移動させる工程は、前記ガラス基板を前記保持治具に非接触の状態で前記処理液中で移動させる工程を有する、請求項1または請求項2に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記主表面をラップ研磨する工程と、
ラップ研磨された前記主表面を粗研磨する工程と、
粗研磨された前記主表面を鏡面研磨する工程と、をさらに備え、
前記化学強化層を形成する工程は、前記ラップ研磨する工程の後、前記粗研磨する工程の前に行なわれる、請求項1から請求項3のいずれかに記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記主表面をラップ研磨する工程と、
ラップ研磨された前記主表面を粗研磨する工程と、
粗研磨された前記主表面を鏡面研磨する工程と、をさらに備え、
前記化学強化層を形成する工程は、前記粗研磨する工程の後、前記鏡面研磨する工程の前に行なわれる、請求項1から請求項3のいずれかに記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記主表面をラップ研磨する工程と、
ラップ研磨された前記主表面を粗研磨する工程と、
粗研磨された前記主表面を鏡面研磨する工程と、をさらに備え、
前記化学強化層を形成する工程は、前記鏡面研磨する工程の後に行なわれる、請求項1から請求項3のいずれかに記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によって得られたガラス基板と、
前記ガラス基板の表面に形成された磁気記録層と、を備える、情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2012−203923(P2012−203923A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64635(P2011−64635)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】