説明

情報記録媒体用ガラス基板の製造方法

【課題】ガラス基板の表面に対してより均一に化学強化処理を施すことが可能な情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を得る。
【解決手段】円形ディスク状に形成されるガラス基板1に磁気記録層が形成される情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、線状の金属部材を含む保持用治具7を準備する工程と、保持用治具7を用いてガラス基板1を化学強化処理液中に浸漬し、ガラス基板1の表面に対して化学強化処理を施す工程と、を備え、保持用治具7の周囲は、ガラス基板1が化学強化処理液中に浸漬された状態で、ガラス基板1の周りに化学強化処理液の対流が生じるように開放されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク等の情報記録媒体は、ハードディスクとしてコンピュータ等に搭載される。情報記録媒体は、情報記録媒体用ガラス基板(以下、ガラス基板ともいう)から製造される。
【0003】
情報記録媒体の記録密度は年々高くなる傾向にある。これに伴って、情報記録媒体と磁気ヘッドとの間隔(ヘッド浮上量)も小さくなる傾向にある。情報記録媒体にDFH(Dynamic Flying Height)機構が採用される場合、ヘッド浮上量は3nm以下に構成される場合もある。このような背景のもと、情報記録媒体および情報記録媒体用ガラス基板には、ますます高い品質が求められている。
【0004】
特開2008−171502号公報(特許文献1)に開示されるように、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、ガラス基板の表面に化学強化層を形成する化学強化工程を含む。化学強化処理は、ガラス基板の表面全体に対して均一に施される必要がある。
【0005】
図8および図9を参照して、一般的な化学強化工程について説明する。図8は、一般的な化学強化工程に用いられる保持用治具70を示す断面図である。図9は、保持用治具70がガラス基板1を保持する部分を拡大して示す断面図である。保持用治具70は、特開2008−171502号公報(特許文献1)に開示されるものに類似している。
【0006】
図8に示すように、保持用治具70は、ガラス基板1の外側の両端部を挟持する。ガラス基板1は、化学強化処理液が貯留された化学強化処理槽(図示せず)の中に、保持用治具70とともに浸漬される。
【0007】
図9を参照して、保持用治具70においては、側壁71から端部72に向かって2本のワイヤ73が張られている。交差するように配置されたワイヤ73によって、ガラス基板1が挟持される。ガラス基板1の外周端面1Dは、ワイヤ73同士の間に位置する。保持用治具70においては、側壁71とガラス基板1との間の間隔が小さい。ガラス基板1の外周端面1Dと端部72との間も空間的に閉塞されている。
【0008】
保持用治具70においては、側壁71および端部72に囲まれた領域75内において、化学強化処理液が十分に対流しにくい。外周端面1Dの周囲において、イオン交換が十分に行なわれない。化学強化処理によって形成される化学強化層(圧縮応力層)の厚さにばらつきが生じ、ガラス基板1には、ひずみ又はうねりといった不具合が発生する。ひずみ又はうねりは、いわゆるヘッドクラッシュを発生させる原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−171502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような実情に鑑みて為されたものであって、ガラス基板の表面に対してより均一に化学強化処理を施すことが可能な情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に基づく情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、円形ディスク状に形成されるガラス基板に磁気記録層が形成される情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、線状の金属部材を含む保持用治具を準備する工程と、上記保持用治具を用いて上記ガラス基板を化学強化処理液中に浸漬し、上記ガラス基板の表面に対して化学強化処理を施す工程と、を備え、上記保持用治具の周囲は、上記ガラス基板が上記化学強化処理液中に浸漬された状態で、上記ガラス基板の周りに上記化学強化処理液の対流が生じるように開放されている。
【0012】
好ましくは、上記保持用治具は、上記ガラス基板の下方において直線状に延在する下部延在部と、上記下部延在部から重力方向の上方に向かって略V字形状に延びるように形成される第1保持部と、を含み、上記第1保持部は、上記ガラス基板の重力方向の下方側に位置する第1外周端面部を挟持する。
【0013】
好ましくは、上記保持用治具は、上記ガラス基板の周囲に配置される側壁に取り付けられ、上記保持用治具は、上記側壁から上記ガラス基板に向かって略V字形状に延びるように形成される第2保持部を含み、上記第2保持部は、上記ガラス基板の水平方向の両外側に位置する第2外周端面部を挟持する。
【0014】
好ましくは、上記金属部材の直径は、0.01mm以上5mm以下である。好ましくは、上記金属部材の熱膨張係数は、24×10−6/℃以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガラス基板の表面に対してより均一に化学強化処理を施すことが可能な情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態におけるガラス基板の製造方法によって得られるガラス基板を示す斜視図である。
【図2】実施の形態におけるガラス基板の製造方法によって得られるガラス基板を備えた磁気ディスクを示す斜視図である。
【図3】実施の形態におけるガラス基板の製造方法を示すフローチャート図である。
【図4】実施の形態におけるガラス基板の製造方法(化学強化工程)に用いられる化学強化処理装置を示す断面図である。
【図5】実施の形態におけるガラス基板の製造方法(化学強化工程)に用いられる保持用治具を示す斜視図である。
【図6】図5中のVI−VI線に沿った矢視断面図である。
【図7】実施の形態におけるガラス基板の製造方法(化学強化工程)に用いられる保持用治具に、ガラス基板が保持される様子を示す斜視図である。
【図8】一般的なガラス基板の化学強化工程に用いられる保持用治具を示す断面図である。
【図9】一般的なガラス基板の化学強化工程に用いられる保持用治具がガラス基板を保持する部分を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に基づいた実施の形態および各実施例について、以下、図面を参照しながら説明する。実施の形態および各実施例の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。実施の形態および各実施例の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0018】
[ガラス基板1・磁気ディスク10]
図1および図2を参照して、本実施の形態に基づく情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によって得られるガラス基板1、およびガラス基板1を備えた磁気ディスク10(図2参照)について説明する。図1は、磁気ディスク10の製造に用いられるガラス基板1を示す斜視図である。図2は、情報記録媒体として、ガラス基板1を備えた磁気ディスク10を示す斜視図である。
【0019】
図1に示すように、磁気ディスク10(図2参照)の製造に用いられるガラス基板1(情報記録媒体用ガラス基板)は、円形ディスク状(環状の円板形状)に形成される。ガラス基板1は、表主表面1A、裏主表面1B、内周端面1C、および外周端面1Dを有している。ガラス基板1の中心には、孔1Hが設けられる。
【0020】
ガラス基板1の大きさは、たとえば0.8インチ、1.0インチ、1.8インチ、2.5インチ、または3.5インチである。ガラス基板の厚さは、破損防止の観点から、たとえば0.30mm〜2.2mmである。本実施の形態におけるガラス基板1の大きさは、外径が約64mm、内径が約20mm、厚さが約0.8mmである。ガラス基板1の厚さとは、ガラス基板1上の点対象となる任意の複数の点で測定した値の平均によって算出される値である。
【0021】
図2に示すように、磁気ディスク10は、上記したガラス基板1の表主表面1A上に磁気薄膜層2が形成されることによって構成される。図2中では、表主表面1A上にのみ磁気薄膜層2が形成されているが、裏主表面1B上に磁気薄膜層2が形成されていてもよい。
【0022】
磁気薄膜層2は、磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂をガラス基板1の表主表面1A上にスピンコートすることによって形成される(スピンコート法)。磁気薄膜層2は、ガラス基板1の表主表面1Aに対してスパッタリング法、または無電解めっき法等により形成されてもよい。
【0023】
ガラス基板1の表主表面1Aに形成される磁気薄膜層2の膜厚は、スピンコート法の場合は約0.3μm〜1.2μm、スパッタリング法の場合は約0.04μm〜0.08μm、無電解めっき法の場合は約0.05μm〜0.1μmである。薄膜化および高密度化の観点からは、磁気薄膜層2は、スパッタリング法または無電解めっき法によって形成されるとよい。
【0024】
磁気薄膜層2に用いる磁性材料としては、特に限定はなく従来公知のものが使用できるが、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNiやCrを加えたCo系合金などが好適である。また、熱アシスト記録用に好適な磁性層材料として、FePt系の材料が用いられてもよい。
【0025】
磁気記録ヘッドの滑りをよくするために、磁気薄膜層2の表面に潤滑剤が薄くコーティングされてもよい。潤滑剤としては、たとえば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0026】
必要により下地層や保護層を設けてもよい。磁気ディスク10における下地層は、磁性膜の種類に応じて選択される。下地層の材料としては、たとえば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、またはNiなどの非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。
【0027】
下地層は、単層構造とは限らず、同一または異種の層を積層した複数層構造としても構わない。下地層は、たとえば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、または、NiAl/CrV等からなる多層構造としてもよい。
【0028】
磁気薄膜層2の摩耗や腐食を防止する保護層としては、たとえば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、またはシリカ層などが挙げられる。これらの保護層は、下地層、または磁性膜など共に、インライン型スパッタ装置を使用することによって連続して形成されることができる。これらの保護層は、単層構造から構成されていてもよく、同一または異種の層を含む多層構造から構成されていてもよい。
【0029】
上記保護層上に、あるいは上記保護層に替えて、他の保護層を形成してもよい。たとえば、上記保護層に替えて、Cr層の上にテトラアルコキシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成して酸化ケイ素(SiO)層を形成してもよい。
【0030】
[ガラス基板の製造方法]
図3に示すフローチャート図を参照して、本実施の形態におけるガラス基板(情報記録媒体用ガラス基板)の製造方法について説明する。
【0031】
本実施の形態におけるガラス基板の製造方法は、粗ラッピング工程(ステップS10)、形状加工工程(ステップS20)、粗面化工程(ステップS30)、精ラッピング工程(ステップS40)、端面研磨工程(ステップS50)、主表面研磨工程(ステップS60)、化学強化工程(ステップS70)、および洗浄工程(ステップS80)を含む。
【0032】
洗浄工程(ステップS80)を経ることによって得られたガラス基板(図1におけるガラス基板1に相当)に対して、磁気薄膜形成工程(ステップS90)が実施される。磁気薄膜形成工程(ステップS90)によって、磁気ディスク10(図2参照)が得られる。
【0033】
上記のステップは、必ずしも必須ではなく、必要に応じて省略または追加することは可能である。以下、これらの各ステップS10〜S90について順に説明する、以下には、各ステップS10〜S90間に適宜行なわれる簡易的な洗浄については記載していない。
【0034】
(粗ラッピング工程:ステップS10)
まず、上型、下型、および胴型が準備され、これらによって溶融ガラスがダイレクトプレスされる。直径66mmφ、厚さ1.2mmの円盤状のガラス基板が得られる。ガラス基板のガラス素材は、たとえばアルミノシリケートガラスである。ダイレクトプレス法以外に、ダウンドロー法またはフロート法を使用してシートガラスを形成し、このシートガラスから研削砥石で切り出すことによって、円盤状のガラス基板を得てもよい。
【0035】
アルミノシリケートガラスの組成は、たとえば、SiOが58質量%〜75質量%、Alが5質量%〜23質量%、LiOが3質量%〜10質量%、NaOが4質量%〜13質量%を主成分として含有している。
【0036】
ダイレクトプレス等によって得られたガラス基板には、ラッピング加工が施される。このラッピング加工は、寸法精度および形状精度の向上を目的として、両面ラッピング装置によって行なわれる。
【0037】
ラッピング加工において使用される砥粒の粒度は、たとえば、#400(粒径約40μm〜60μm)である。研磨装置において粒度#400のアルミナ砥粒が用いられ、上定盤の荷重は約100kgに設定される。キャリア内に収納したガラス基板の両面は、面精度0μm〜1μm、表面粗さRmaxで約6μmに仕上げられる。
【0038】
(形状加工工程:ステップS20)
粗ラッピング工程を経たガラス基板は、外周端面および内周端面がそれぞれ研削される。当該研削によって、ガラス基板の外径は約65mmとなる。ガラス基板の内径(中心部の孔1Hの直径)は約20mmとなる。外周端面および内周端面には、所定の面取り加工が施される。このときのガラス基板の端面の面粗さは、Rmaxが約2μm程度である。一般的に、2.5インチ型のハードディスクには外径が65mmのガラス基板が用いられる。
【0039】
(粗面化工程:ステップS30)
形状加工工程を経たガラス基板は、表面が粗面化される。この粗面化工程においては、平面研磨機が使用される。平面研磨機は、遊離砥粒研磨を用いて、ガラス基板に対して機械的な粗面化を行なう。ガラス基板の表面の全体が、略均一の表面粗さ(Ra=0.01μm〜0.4μm程度)となるように研磨される。粗面化工程において目標とする表面粗さは、次述する精ラッピング工程(ステップS40)で使用される固定砥粒の粒度との関係で設定されるとよい。
【0040】
(精ラッピング工程:ステップS40)
粗面化工程を経たガラス基板は、ラッピング装置にセットされる。ガラス基板の主表面は、固定砥粒研磨パッドまたはダイヤモンドシート等によって研削される。ガラス基板は、たとえば、表面粗さRaが0.1μm以下、平坦度が7μm以下となるように研削される。
【0041】
ここで、ガラス基板の主表面は、粗面化工程(ステップS30)において粗面化されている。微細な固定砥粒からなる引っ掛かりがガラス基板の主表面に形成されていることによって、固定砥粒がガラス基板の表面を滑るという不具合が防止される。したがって、精ラッピング工程における加工レートは、表面研磨の開始時点から高い加工レートで実現できるものとなっている。
【0042】
(端面研磨工程:ステップS50)
端面研磨工程においては、ブラシ研磨方法が使用される。ガラス基板が回転された状態で、ガラス基板の外周端面および内周端面がそれぞれ研磨される。ガラス基板の外周端面および内周端面は、たとえば、表面の粗さが、Rmaxで約0.4μm、Raで約0.1μmとなる。端面研磨を終えたガラス基板の表面は、水洗浄される。
【0043】
(主表面研磨工程:ステップS60)
主表面研磨工程は、第1研磨工程および第2研磨工程を有する。第1研磨工程においては、上述した両面研磨装置を用いてガラス基板の主表面が研磨される。上述の精ラッピング工程(ステップS40)で残留した傷または歪みなどが除去される。第1研磨工程においては、たとえば、研磨パッド(ポリッシャは、たとえばスウェードパッドである)が、以下の条件の下に用いられる。
【0044】
研磨液 :酸化セリウム(平均粒径1.3μm)+水
荷 重 :80g/cm〜100g/cm
研磨時間:30分〜50分
除去法 :35μm〜45μm
次に、ガラス基板の表面が洗浄される。ガラス基板の表面に付着している研磨剤が除去される。洗浄方法としては、HFを1質量%、硫酸を3質量%混合させた洗浄液が用いられる。
【0045】
この洗浄液にガラス基板を浸漬させた状態で、この洗浄液にたとえば80kHzの超音波が印加される。その後、中性洗剤にガラス基板を浸漬させた状態で、この中性洗剤にたとえば120kHzの超音波が印加される。その後、ガラス基板は、純粋を使用するリンスによって洗浄される。最後に、ガラス基板はIPA(Isopropyl alcohol)によって乾燥される。
【0046】
その後、第2研磨工程においては、軟質ポリッシャ(スウェード)である研磨パッドを用いて、ガラス基板の主表面が研磨される。研磨剤としては、第1研磨工程で用いた酸化セリウムよりも微細なシリカ砥粒が用いられる。
【0047】
(化学強化工程:ステップS70)
次に、図4〜図7を参照して、化学強化工程について説明する。図4は、化学強化工程に使用される化学強化処理装置8を模式的に示す断面図である。化学強化工程においては、化学強化処理装置8が使用される。化学強化処理装置8は、化学強化処理液6を内部に貯留する化学強化処理槽9を有する。化学強化処理液6としては、溶融塩が使用される。この溶融塩は、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムとを混合した塩が、450℃で加熱されることによって得られる。
【0048】
化学強化処理槽9の内部には、固定体4に取り付けられた保持用治具7が配置される。固定体4は、側壁4A〜4D(図5参照)から角筒状に構成される。固定体4の下部には、開口部4Hが設けられる。側壁4A〜4Dによって、保持用治具7は取り囲まれる。主表面研磨工程(ステップS60)を経た複数のガラス基板1は、保持用治具7に保持された状態で、化学強化処理液6の内部に浸漬される。
【0049】
複数のガラス基板1は、隣り合うガラス基板1同士が互いに対向するように配置される。複数のガラス基板1の各表面は、平行な位置関係にある。
【0050】
(保持用治具7)
図5〜図7を参照して、保持用治具7について詳細に説明する。図5は、保持用治具7を示す斜視図である。図5においては、図示上の便宜のため、ガラス基板1が図示されていない。図5においては、側壁4Aおよび側壁4Bの一部が破断して図示されるが、実際には連続している。図6は、図5中のVI−VI線に沿った矢視断面図である。図7は、保持用治具7にガラス基板1が保持される様子を示す斜視図である。
【0051】
図5〜図7に示すように、保持用治具7は、第1保持部7A、第2保持部7B1,7B2、上部延在部7C、および下部延在部7Dを含む。保持用治具7(第1保持部7A、第2保持部7B1,7B2、上部延在部7C、および下部延在部7D)は、線状の金属部材から構成される。
【0052】
線状の金属部材とは、針金またはワイヤーなどである。線状の金属部材の直径は、0.01mm以上5mm以下であるとよい。線状の金属部材の熱膨張係数は、24×10−6/℃以下であるとよい。保持用治具7の周囲は、固定体4を構成する側壁4A〜4Dによって取り囲まれる。保持用治具7および固定体4は、組み立てられることによって、いわゆる網籠状に構成される。
【0053】
下部延在部7Dは、ガラス基板1が配列される方向(図6紙面左右方向)に沿って直線状に延在する。下部延在部7Dの一方の端部および他方の端部は、側壁4Aおよび側壁4Cにそれぞれ固定される。
【0054】
第1保持部7Aは、重力方向の下方から上方に向かって略V字形状に延びるように形成される。第1保持部7Aの下端は、下部延在部7Dによって上方支持される(図5,図7参照)。
【0055】
上部延在部7Cは、側壁4Bおよび側壁4Dの間を橋渡しするように直線状に複数設けられる。複数の上部延在部7Cは、ガラス基板1が配列される方向(図6紙面左右方向)に互いに等間隔を空けて配置される。隣り合う上部延在部7C同士の間に、ガラス基板1が配置される(図6,図7参照)。第1保持部7Aの一方の上端および他方の上端は、隣り合う上部延在部7Cにそれぞれ固定される。
【0056】
第2保持部7B1,7B2は、水平方向における上記ガラス基板1の両外側から内側に向かって、それぞれ略V字形状に水平方向に延在する。第2保持部7B1および第2保持部7B2は、対向するように配置される。
【0057】
第2保持部7B1の延在方向の先端部の一方および先端部他方は、隣り合う上部延在部7C上にそれぞれ固定される。第2保持部7B1の延在方向の後端部は、側壁4Bに固定される。同様に、第2保持部7B2の延在方向の先端部の一方および先端部の他方は、隣り合う上部延在部7C上にそれぞれ固定される。第2保持部7B2の延在方向の後端部は、側壁4Dに固定される。
【0058】
図7を参照して、第1保持部7Aは、ガラス基板1の重力方向の下方側に位置する第1外周端面部1DAを挟持する。第2保持部7B1は、ガラス基板1の水平方向の一方の外側に位置する第2外周端面部1DB1を挟持する。同様に、第2保持部7B2は、ガラス基板1の水平方向の他方の外側に位置する第2外周端面部1DB2を挟持する。第1保持部7Aおよび第2保持部7B1,7B2の各挟持によって、ガラス基板1は保持される。
【0059】
本実施の形態における保持用治具7は、上述のとおり、線状の金属部材から構成される。線状の金属部材は、たとえば0.01mm以上5mm以下の直径を有する針金またはワイヤーなどから構成される。図6に示すように、保持用治具7の周囲は、ガラス基板1が化学強化処理液6(図4参照)中に浸漬された状態で、ガラス基板1の周りに化学強化処理液6の対流が十分に生じるように開放されている。当該構成によって、ガラス基板1の表面の全体には、均一な化学強化処理が良好に実施されることが可能となる。
【0060】
化学強化工程においては、ガラス基板に化学強化処理が施される。ガラス基板の表面に存在するイオンが、そのイオンよりも大きなイオン半径を有する他のイオンに交換される。たとえば、ガラス基板がアルミノシリケートガラスである場合、LiおよびNaが、LiおよびNaよりも大きなイオン半径を有するイオン(NaおよびKなど)に交換される。
【0061】
化学強化工程においては、(ガラス基板の厚さ方向に)ガラス基板表面から約5μmの深さまでにわたってイオン交換が行なわれる。ガラス基板の表面に圧縮応力が付与されることによって、ガラス基板の剛性が向上する。
【0062】
(洗浄工程:ステップS80)
図3を再び参照して、化学強化処理(ステップS70)が完了したガラス基板1は、アルカリ系の洗浄液に浸漬される。洗浄液に対して80kHzの超音波が印加される。その後、ガラス基板1は酸性の洗剤からなる洗浄液に浸漬される。洗浄液に対して430kHz、および950kHzの超音波が順次付与される。さらに、950kHzのリンス(純水 18MΩ・cm)を用いて複数のガラス基板1には乾燥処理が施される。
【0063】
以上の粗ラッピング工程(ステップS10)、形状加工工程(ステップS20)、粗面化工程(ステップS30)、精ラッピング工程(ステップS40)、端面研磨工程(ステップS50)、主表面研磨工程(ステップS60)、化学強化工程(ステップS70)、および洗浄工程(ステップS80)を経ることによって、情報記録媒体用ガラス基板1(図1参照)が得られる。主表面研磨工程(ステップS60)における第2研磨工程は、化学強化工程(ステップS70)の後に行なってもよい。
【0064】
(磁気薄膜形成工程:ステップS90)
洗浄工程(ステップS80)が完了したガラス基板(図1に示すガラス基板1に相当)の両主表面(またはいずれか一方の主表面)に対し、磁気薄膜層2(図2参照)が形成される。磁気薄膜層2は、Cr合金からなる密着層、CoFeZr合金からなる軟磁性層、Ruからなる配向制御下地層、CoCrPt合金からなる垂直磁気記録層、C系からなる保護層、およびF系からなる潤滑層が順次成膜されることによって形成される。
【0065】
磁気薄膜層2の形成によって、図2に示す磁気ディスク10に相当する垂直磁気記録ディスクを得ることができる。本実施の形態における磁気ディスクは、磁気薄膜層2から構成される垂直磁気ディスクの一例である。磁気ディスクは、いわゆる面内磁気ディスクとして磁性層等から構成されてもよい。
【0066】
(作用・効果)
本実施の形態における情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によれば、化学強化工程(ステップS70)において、ガラス基板1の表面全体に対して均一な化学強化処理を施すことができる。
【0067】
ここで、保持用治具7を構成する線状の金属部材は、0.01mm以上5mm以下の直径を有する針金またはワイヤーなどから構成される。この直径が0.01mmより小さくなると、保持用治具7がガラス基板1に対して傷を付けてしまう場合がある。
【0068】
この直径が5mmより大きくなると、保持用治具7とガラス基板1との接触部において化学強化層が良好に形成されにくくなる。したがって、保持用治具7を構成する線状の金属部材は、0.01mm以上5mm以下の直径を有する針金またはワイヤーなどから構成されるとよい。
【0069】
また、保持用治具7を構成する線状の金属部材の熱膨張係数は、24×10−6/℃以下であるとよい。熱膨張係数がこの値よりも大きいと、化学強化処理液6(溶融塩)中において保持用治具7が膨張しすぎるため、ガラス基板1を保持しにくくなる。熱膨張係数の下限としては、ガラス基板1を保持するだけの強度を持つという観点から、ある程度の硬さを有しているとよい。
【0070】
上述の実施の形態においては、保持用治具7は固定体4(側壁4A〜4D)に取り付けられる。固定体4を用いないで、保持用治具7を針金状の部材のみから自立可能なように構成してもよい。この場合であっても、保持用治具7の周囲において化学強化処理液6の良好な対流が得られるため、上述の実施の形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0071】
[実施例・比較例]
上述の実施の形態に基づく実施例およびこれに対する比較例について説明する。
【0072】
(実施例1)
実施例1においては、直径が0.5mmのワイヤーを用いて保持用治具7を構成した。当該条件のもと、上述の化学強化工程(ステップS70)と同様に、ガラス基板1の表面に化学強化処理を施した。その後、ガラス基板1に磁気薄膜層2を形成し、磁気ディスク10を得た。この磁気ディスク10を用いて、HDD(ハードディスクドライブ装置)を作製した。このHDDに対して1000G(1G:9.80665m/s)の衝撃が与えられるように、HDDを落下させた。その際、HDDに内蔵される磁気ディスク10が割れたか否かを目視で確認した。
【0073】
この落下試験を10回繰り返したところ、実施例1におけるガラス基板1から構成された磁気ディスク10には、1度も割れが発生しなかった。
【0074】
(実施例2)
実施例2においては、直径が0.8mmのワイヤーを用いて保持用治具7を構成した。当該条件の下、上記の実施例1と同様に化学強化処理を実施した。実施例1と同様の落下試験を行なったところ、10回中、1回ないし2回の割れが磁気ディスク10に発生した。
【0075】
(比較例)
比較例においては、図8および図9に示す保持用治具70を用いて、上述の化学強化工程と同様に、ガラス基板1の表面に化学強化処理を施した。実施例1と同様の落下試験を行なったところ、10回中、6回以上の割れが磁気ディスク10に発生した。
【0076】
以上の実験結果から、本実施の形態における保持用治具7を用いて化学強化処理を実施することによって、高い強度を有する化学強化層(圧縮応力層)がガラス基板1に形成されることがわかる。
【0077】
以上、本発明に基づいた実施の形態および各実施例について説明したが、今回開示された実施の形態および各実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0078】
1 ガラス基板(情報記録媒体用ガラス基板)、1A 表主表面、1B 裏主表面、1C 内周端面、1D 外周端面、1DA 第1外周端面部、1DB1,1DB2 第2外周端面部、1H 孔、2 磁気薄膜層、4 固定体、4A,4B,4C,4D,71 側壁、4H 開口部、6 化学強化処理液、7,70 保持用治具、7A 第1保持部、7B1,7B2 第2保持部、7C 上部延在部、7D 下部延在部、8 化学強化処理装置、9 化学強化処理槽、10 磁気ディスク、72 端部、73 ワイヤ、75 領域、S10,S20,S30,S40,S50,S60,S70,S80,S90 ステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形ディスク状に形成されるガラス基板に磁気記録層が形成される情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、
線状の金属部材を含む保持用治具を準備する工程と、
前記保持用治具を用いて前記ガラス基板を化学強化処理液中に浸漬し、前記ガラス基板の表面に対して化学強化処理を施す工程と、を備え、
前記保持用治具の周囲は、前記ガラス基板が前記化学強化処理液中に浸漬された状態で、前記ガラス基板の周りに前記化学強化処理液の対流が生じるように開放されている、
情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記保持用治具は、
前記ガラス基板の下方において直線状に延在する下部延在部と、
前記下部延在部から重力方向の上方に向かって略V字形状に延びるように形成される第1保持部と、を含み、
前記第1保持部は、前記ガラス基板の重力方向の下方側に位置する第1外周端面部を挟持する、
請求項1に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記保持用治具は、前記ガラス基板の周囲に配置される側壁に取り付けられ、
前記保持用治具は、前記側壁から前記ガラス基板に向かって略V字形状に延びるように形成される第2保持部を含み、
前記第2保持部は、前記ガラス基板の水平方向の両外側に位置する第2外周端面部を挟持する、
請求項1または2に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記金属部材の直径は、0.01mm以上5mm以下である、
請求項1から3のいずれかに記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記金属部材の熱膨張係数は、24×10−6/℃以下である、
請求項1から4のいずれかに記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−203942(P2012−203942A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66105(P2011−66105)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】