説明

意匠性塗装金属板の製造方法

【課題】自然な風合いを有し、しかも遠くからでも模様を視認可能な、意匠性に優れた模様塗装金属板の製造方法の提供。
【解決手段】金属板の少なくとも片面に、下地処理を施した後に、グランド塗料を塗装し、さらにグランド塗料とは異なる色相の模様形成塗料の1種以上を島状にスプレー塗装した後に、焼き付け硬化させて塗装金属板を製造する方法であって、スプレー塗装する際に塗料粒子の流れを積極的に乱すことを特徴とする、模様塗装金属板の製造方法。 スプレー塗料の流れを乱す具体的手段としてはエアーの噴霧が採用できる。複数のノズルからエアーを間欠的に吹き付けることが好ましく、間欠的な吹き付けに長短を付ける、即ち、吹き付け時間をアトランダムにすると特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品や屋内外の建材等に使用するのに適した、意匠性に優れた模様塗装金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板を使用した製品において、人の目に触れる外板は、耐食性や意匠性の向上を目的として、何らかの塗装が施されて使用されることがほとんどである。
【0003】
そのような塗装は、従来は製品の組立終了後に塗装するアフターコート方式で行ってきたが、最近は予め塗装を施した塗装金属板(プレコート金属板)の使用が増加してきている。
【0004】
塗装金属板の使用割合が増えているのは、(1) 客先の工程省略に役立つ、(2) 脱脂、塗装といった薬品を使用する煩雑な作業を避けることができる、(3) 都会近郊に立地した家電製品工場の場合は塗装工場を更新しにくい、(4) 特殊な機能付与が可能、(5) 意匠性付与が可能、といった理由が挙げられる。
【0005】
これらの理由のうち、特に塗装金属板の持つ意匠性に着目して、模様塗装金属板が求められるようになってきた。
【0006】
模様塗装金属板の製造方法についての従来技術は、次のものが知られている。
【0007】
特許文献1には、コイルコーティングなどの高速塗装において、スプレー塗装によって均一な多彩模様塗膜を形成することができる多彩模様塗装方法が記載されている。ここでは、速度10m/分以上で移動する帯状被塗物に、塗料吐出ノズルを2個以上被塗物面に向けて配置し、各塗料吐出ノズルから互いに異なる色の塗料を吐出させる多彩模様塗装設備を用いて、2色以上の塗料をスプレー塗装し多彩模様塗膜を形成する方法が記載されている。
【0008】
そして、特許文献2には、回転霧化スプレーを用いて飛散塗料粒子の飛散方向と飛散量とを制御することによって、帯状金属板の表面全体にわたって塗料の塗布密度が均一な優れた意匠性金属板を製造する方法が記載されている。ここでは、連続式カラー塗装ライン上で、帯状金属板の表面に回転霧化スプレー装置によって上塗り塗料を塗布し、その上塗り塗料が乾燥または未乾燥の状態にある間にさらにその上に異なる色調の塗料を塗布した後、焼付乾燥することによって意匠性金属板を製造する方法において、スプレー装置と帯状金属板との間に遮蔽板を設けて、帯状金属板に塗布される塗料の塗布密度を均一にするように制御するものである。
【0009】
【特許文献1】特開2003−135998号公報
【特許文献2】特開2002−192059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの従来技術による模様塗装金属板の製造方法は、いずれも、スプレー塗装により、粒状化した塗料を表面に島状に付着させる方法であるが、個々の島状模様のサイズが小さいため、数m離れて見ると、模様が視認しにくいという問題点があった。
【0011】
なお、模様塗装金属板に類似するものとして、模様印刷金属板があるが、これは60質量%を超える高濃度の顔料を含有するインクを、乾燥させたグランド塗膜を有する金属板に転写印刷させて模様を発現するものである。しかしながら、この模様印刷金属板においては転写される模様が金属板上に繰り返し印刷されて、その模様は規則的なため、ややもすると人工的な印象を与える場合もある。また、模様を変更しようとすると、新しい印刷用版ロールを作成する必要がある。
【0012】
これに対して、本発明は、模様印刷金属板のように人工的な印象を与えるような完全な規則性を有する模様を避けたものであり、規則性のない自然な風合いを有し、しかも遠くからでも模様を視認できる、意匠性に優れた模様塗装金属板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、規則性のない自然な風合いを有し、しかも遠くからでも視認できる模様について種々検討した結果、次の(1)〜(6)の知見を得た
(1)遠くから模様金属板の模様を視認できるようにするためには、グランド塗膜上に形成される島状塗膜模様の個々の平面サイズを大きくするのがよい。
【0014】
(2) グランド塗膜上に生成する島状塗膜模様の個々の平面サイズを大きくするには、模様を形成するスプレー塗料の粒状サイズを大きくすることによって、グランド塗膜上に生成する島状塗膜模様の個々の平面サイズを大きくすることが考えられる。しかしながら、島状塗膜模様の個々の平面サイズは大きくなるもののその厚みも増加してしまうことから、「ワキ」等の塗装欠陥が発生し易くなるという問題がある。
【0015】
(3)平面サイズを大きくする他の方法として、模様を形成するスプレー塗料の粒状サイズはそのままにして、そのスプレー塗料がグランド塗膜上に付着して島状塗膜模様を形成する際に粒状塗料の平面方向への密集化を促進することで、グランド塗膜上に生成する個々の島状模様の平面サイズを大きくすることが考えられる。
【0016】
(4)このように、平面方向への密集化の促進によって、グランド塗膜上に生成する個々の島状塗膜模様の厚みを大きくすることなしに、グランド塗膜上に生成する個々の島状模様の平面サイズを大きくすることができる。
【0017】
(5)そして、粒状塗料の平面方向への密集化の促進によって、グランド塗膜上に生成する個々の島状模様の平面サイズを大きくすることは、グランド塗膜の上に塗装するスプレー塗料の流れを乱すことによって可能である。
【0018】
(6)スプレー塗料の流れを乱す具体的手段としては気体の噴霧が採用できる。特に、複数のノズルから気体を間欠的に吹き付けることで、自然な風合いが得られる。好ましい風合いは、間欠的な吹き付けに長短を付けること、即ち、吹き付け時間と吹き付け停止時間をアトランダムにすることで得られる。
【0019】
本発明は、このような知見に基づいて完成したものであり、本発明に係る塗装金属板の製造方法は、次の(1)〜(7)のいずれかを要旨とするものである。
【0020】
(1)金属板の少なくとも片面に、下地処理を施した後に、グランド塗料を塗装し、さらにグランド塗料とは異なる色相の模様形成塗料の1種以上を島状にスプレー塗装した後に、焼き付け硬化させて塗装金属板を製造する方法であって、スプレー塗装する際に塗料粒子の流れを積極的に乱すことを特徴とする、模様塗装金属板の製造方法。
【0021】
(2)金属板の少なくとも片面に、下地処理を施し、その上に下塗り塗料を塗装した後に、グランド塗料を塗装し、さらにグランド塗料とは異なる色相の模様形成塗料の1種以上を島状にスプレー塗装して塗装金属板を製造する方法であって、スプレー塗装する際に塗料粒子の流れを積極的に乱すことを特徴とする、模様塗装金属板の製造方法。
【0022】
(3)グランド塗料及び島状模様形成塗料を、同時に焼き付け硬化させることを特徴とする、(1)又は(2)の模様塗装金属板の製造方法。
【0023】
(4) 島状模様塗膜の厚みが乾燥膜厚で2〜8μmであることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかの模様塗装金属板の製造方法。
【0024】
(5)スプレー塗装する際に、上面から気体を吹き付けることによって、塗料粒子の流れを積極的に乱すことを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかの模様塗装金属板の製造方法。
【0025】
(6)スプレー塗装する際に、気体を間欠的に吹き付けることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかの模様塗装金属板の製造方法。
【0026】
(7)気体を間欠的に吹き付ける際に、吹き付け時間と吹き付け停止時間の一方又は両方を変動させることを特徴とする、(6)の模様塗装金属板の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、自然な風合いを有し、しかも遠くからでも模様を視認可能な、意匠性に優れた模様塗装金属板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明の塗装金属板の製造方法について説明する。
【0029】
(1)塗装金属板の基材となる金属板:
塗装金属板の基材となる金属板としては、特に限定されるものではなく、例えば、冷延鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板などを挙げることができる。
【0030】
屋内や屋外建材用、家電機器用として使用される塗装金属板であれば、亜鉛系やアルミ系のめっき鋼板が耐食性や経済性の面から好適である。
【0031】
めっき金属板は、溶融めっき、電気めっき、気相めっき等のいずれの方法によりめっきしたものでもよく、めっき金属種は亜鉛、錫、アルミニウム等とそれらの合金が用いられる。具体的には、溶融亜鉛めっき金属板、5%Alを含有した溶融Zn−Al合金めっき金属板、溶融アルミニウムめっき金属板、55%Alを含有した溶融Al−Zn合金めっき金属板等が挙げられる。
【0032】
(2)下地処理について:
塗装金属板の基材となる金属板は、基材金属板と塗膜との密着性の向上を図るために、金属板表面に下地処理が施される。
【0033】
下地処理は、リン酸亜鉛処理、クロメート処理などの化成処理を施すことによってなされる。クロメート処理は、電解型や反応型クロメート処理も適用可能であるが、作業性の面からは塗布型クロメート処理が好ましい。金属クロム換算のクロメート付着量は、10〜200mg/m2の範囲が好ましい。クロメート付着量があまりに少ないと、塗膜の密着性が十分得られず、過大になると加工性の低下を招くことになる。本発明で使用するのに好適な塗布型クロメート処理液の市販品の1例は、日本ペイント(株)製「NRC 300」である。塗布型クロメート処理液は、常法に従ってロールコータ等で塗布し、熱風で50〜100℃に加熱して乾燥させることで下地処理を実施すればよい。
【0034】
環境問題から6価クロムを使うクロメート処理を実施したくない場合には、シリカ、樹脂、ジルコニウムやチタンを含有するクロムフリー下地処理を施すこともできる。本発明に使用するのに好適な1例は、シリカ系下地処理液である日本ペイント(株)製「サーフコート EC2000」である。
(3)下塗り塗膜について:
金属板表面に下地処理が施したのち、直接、グランド塗膜を形成しても良いが、特に耐食性が要求される場合など、用途によっては、グランド塗膜の下に下塗り塗膜を形成しておくのが好ましい。
【0035】
塗装金属板の基材となる金属板に塗装される下塗り塗膜の塗料は、例えば、エポキシ系、ポリエステル系およびウレタン系の樹脂が使用できる。金属板に対して密着性に優れ、加工性も良好な塗膜を形成することができる樹脂が好ましい。使用する塗料の溶媒は水性系と有機溶剤系のいずれでもよいし、溶媒を使用しない粉体塗料でもよい。
【0036】
エポキシ系塗料は各種のものが市販されており、それらを適宜、使用すればよい。例えば、メラミン、アミン、またはイソシアネートを架橋剤として含有するエポキシ系塗料でよい。エポキシ樹脂種としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。
【0037】
ポリエステル系塗料の例として、熱可塑性ポリエステル樹脂にメラミンやイソシアネートを架橋剤として配合したものが挙げられる。ポリエステルとしては、分子量が5千から2万程度のいわゆる高分子量ポリエステル樹脂が、加工性の観点から好適である。架橋剤としては、エチルアルコールやブチルアルコールで変性したメラミンを使用することができ、場合によってパラトルエンスルホン酸やドデシルベンゼンスルホン酸等を触媒として適宜使用することができる。
【0038】
ウレタン系塗料の例としては、ポリエステルポリオールを黄変型ポリイソシアネートまたは無黄変型ポリイソシアネートで架橋反応させるものが挙げられる。架橋剤の例としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)等が使用できる。この場合も、ジブチル錫ジラウレート(DBTL)等の触媒を適宜使用してもよい。
【0039】
下塗り塗膜の塗料は、2種以上の樹脂種を含有してもよい。下塗り塗膜は1層でよいが、用途に応じて2層以上としてもよい。下塗り塗膜は、防錆顔料等の添加剤を含有させてもよい。防錆顔料としては、ストロンチウムクロメートやジンククロメート等のクロム系防錆顔料やリン酸系防錆顔料が挙げられる。
【0040】
下塗り塗膜の厚みは、乾燥膜厚として1〜15μm程度の厚みとすることが好ましい。塗膜厚みが1μm以上のとき耐食性が良好であるが、塗膜厚みが15μmを上回ると、耐食性が飽和する一方、コストが増加するだけである。また、塗膜厚みが15μm以下のとき加工性が良好である。好ましい塗膜厚みは、3〜10μmである。
【0041】
下塗り塗膜の塗料は、下地処理を施した金属板の上に、ロールコータ等の適当な塗布装置を使用して、塗装される。塗装は、塗布だけでなく、スプレーコータを用いた静電塗装や電着塗装によってもよい。
【0042】
塗装後、加熱して焼き付けがなされる。焼付けは、金属板の最高到達温度が約150 〜230 ℃となるように約30〜60秒の焼付けにより行うことができ、従来の熱風吹き付け型オーブンや、誘導加熱、赤外線加熱などの加熱方法が利用できる。なお、下塗り塗膜の焼き付けは下塗り塗装直後にしてもよいし、次に述べるグランド塗膜の塗装後に同時にしてもよい。あるいは、さらに島状の模様塗膜の塗装後に同時に焼き付けても良い。
【0043】
(4)グランド塗膜について:
グランド塗膜は、模様塗膜を塗装するベースとなる塗膜であり、下地処理を施した後に、直接又は下塗り塗料の塗膜を介して、グランド塗料が塗装される。グランド塗膜の塗料は、塗装金属板が使用される製品の部位に応じて適宜、選択することが可能であるが、下地処理膜又は下塗り塗膜と模様塗膜との間で優れた密着性を有する塗料を用いるのが好ましい。
【0044】
グランド塗料に使用される樹脂種としては、下塗り塗料に関して上述した樹脂種に加えて、フッ素系樹脂も使用できる。耐候性や加工性が求められる場合には、ポリエステル系、ウレタン系及びフッ素系の樹脂が好ましい。エポキシ系、ポリエステル系及びウレタン系の樹脂種の具体的な態様については、上述の(3)下塗り塗膜において説明したものと同様である。
【0045】
フッ素系樹脂塗料としては、例えば、アクリル樹脂とPVdF(ポリフッ化ビニリデン)の混合物が挙げられる。質量比で50:50から10:90の混合比のものが好ましい。フッ素系樹脂塗料は、特に耐候性が要求される用途に好適である。
【0046】
使用する塗料の溶媒は水性系と有機溶剤系のいずれでもよいし、溶媒を使用しない粉体塗料でもよい。
【0047】
グランド塗膜の塗料は、2種以上の樹脂種を含有してもよい。グランド塗膜は1層でよいが、用途に応じて2層以上としてもよい。グランド塗膜は、ランダムに島状の模様塗膜を塗装するベースとなる塗膜であるから、模様塗料の色相との関係で、必要に応じて、着色顔料を含有させることができる。
【0048】
グランド塗膜の塗料の塗装は、下地処理を施した後に、直接又は下塗り塗料の塗膜を介して、グランド塗料が塗装される。ロールコータ等の適当な塗布装置を使用するのが好ましいが、塗布だけでなく、スプレーコータを用いた静電塗装や電着塗装によってもよい。なお、下塗り塗料の塗膜を介してグランド塗料を塗装する場合は、グランド塗膜の塗料の塗装は、下塗り塗料を乾燥、硬化した後に行うのが好ましい。
【0049】
グランド塗膜の厚みは、乾燥膜厚として、好ましくは10〜30μmである。塗膜厚みが10μm以上のとき密着性が良好であるが、塗膜厚みが30μmを上回ると、ワキ等の塗膜欠陥が生じる場合があり、また密着性が飽和するので、コストが増加するだけである。塗膜厚みは、さらに好ましくは12〜18μmである。
【0050】
通常の塗装金属板では、グランド塗膜を1層だけ形成させるので十分であるが、目的に応じて、グランド塗膜を2層又はそれ以上の層とすることも可能である。
【0051】
グランド塗膜の塗料の焼付けは、下塗り塗料について説明したのと同様に実施できる。グランド塗膜の焼付けは、金属板の最高到達温度が180〜250℃となるように約40〜80秒の焼付けで行うことができる。なお、グランド塗膜の焼き付けは、模様塗膜の焼き付けと同時に行うのが好ましい。
【0052】
(5)島状模様塗膜について:
模様塗膜は、グランド塗膜の上に塗装する塗膜であり、ランダムに島状の模様をグランド塗膜上に形成する。模様塗膜の塗料は、グランド塗膜との間で優れた密着性を有する塗料を用いるのが好ましい。
【0053】
模様塗膜の塗料としては、例えば、エポキシ系、ポリエステル系およびウレタン系の樹脂が使用できる。個々の樹脂種の具体的な態様については、前述の(3)下塗り塗膜において説明したものと同様である。模様塗膜の塗料は、1種の樹脂種だけを含有するものでもよいが、2種以上の樹脂種を含有するものでもよい。グランド塗料に用いた塗料とは異なる樹脂種でもよいが、同じ樹脂種の塗料を使用するのが好ましい。耐候性や加工性が求められる場合には、ポリエステル系及びウレタン系樹脂が好ましい。
【0054】
模様塗膜は、グランド塗膜の上に塗装され、島状の模様を形成するから、グランド塗料の色との関係で、必要に応じて、着色顔料を含有させることができる。着色顔料を含有させる場合には、模様塗膜中の顔料の含有量は60質量%以下であることが好ましい。模様塗膜中の顔料の含有量が60質量%以下であると、模様塗料の流動性が大きく、グランド塗膜上を広がって大きな模様サイズの島状模様が形成されるからである。また、模様塗膜の表面はほぼ平坦になるので模様部分の塗料が剥がれにくくなる。
【0055】
島状の模様塗膜は、島状の模様をグランド塗膜の上に現出するために、グランド塗膜とは色相の異なる塗料をスプレー塗装することによって形成する。このとき、グランド塗膜の塗料に用いた樹脂種とは異なる樹脂種からなる塗料を用いてスプレー塗装してもよいが、同じ樹脂種からなる塗料を用いて塗装するのが好ましい。スプレー塗装は、1回の塗装だけでもよいが、2回以上の塗装を同時に又は順次に行ってもよい。複数回のスプレー塗装をする場合、異なる樹脂種からなる模様塗料を用いてスプレー塗装してもよいが、同じ樹脂種からなる模様塗料を用いて塗装するのが好ましい。また、複数回のスプレー塗装をする場合、模様塗膜の塗料は同じ色相の塗料を用いてもよく、また別の色相の塗料を用いてもよい。
【0056】
使用する塗料の溶媒は水性系と有機溶剤系のいずれでもよいし、溶媒を使用しない粉体塗料でもよい。溶媒を用いるときは、JIS K5600に従って、シンナー希釈等によって塗料粘度をフォードカップ#4で10〜60秒程度に調整することが好ましい。塗料粘度が60秒を超えるとスプレーされた塗料粒子のサイズをコントロールすることが困難となる。そして、粘度が10秒を下回るとシンナー量が多くなりすぎて、コストが増加するだけでなく、模様塗膜の膜厚が薄くなるので、グランド塗膜を隠蔽するだけの色相が得られない場合がある。
【0057】
スプレー塗装に用いるスプレーガンは、塗装ラインにある金属板の全幅をカバーできるように、複数設けることが好ましい。このスプレーガンから噴霧される塗料粒子のサイズは、形成される模様塗膜の島状模様の平面サイズに影響する。後述するように、エアー等の気体の噴霧等によってスプレー塗料の流れを乱すと、グランド塗膜上に付着する粒状塗料の平面方向への密集化が促進されて、グランド塗膜上に生成する個々の島状模様の平面サイズを大きくすることができる。
【0058】
なお、形成される模様塗膜の島状模様のサイズは、塗装金属板に求める意匠性に応じて適宜選択することができるが、外径0.5〜10mmの島状模様を形成するのが一般的である。
【0059】
模様塗膜の塗装は、グランド塗膜の乾燥後又は焼き付け後に行ってもよいが、グランド塗膜が未乾燥の状態で模様塗膜の塗料を塗装するのが好ましい。グランド塗膜が未乾燥の状態で模様塗膜の塗料を塗装すると、模様塗料の流動性が大きく、模様塗膜の塗料がグランド塗膜の塗料上を広がって大きな模様サイズの島状模様が形成されるとともに、グランド塗膜に密着するからである。また、模様塗膜の表面はほぼ平坦になるので、例えば、激しい加工が加えられても模様部分の塗料が剥がれて脱落することもない。
【0060】
これに対して、模様塗膜の塗装をグランド塗膜の乾燥後又は焼き付け後に行うと、模様塗膜の塗料が広がらないので、模様サイズの小さな島状模様が形成され易く、また、模様塗膜は凸形状となり易い。模様の形状に関しては、前述した模様印刷金属板においても模様が凸形状となるという問題を抱える。模様印刷金属板の場合には、乾燥させたグランド塗膜を有する金属板にインクが印刷されるため、転写されたインクは必ず凸形状をなすので、激しい加工が加えられた場合には、模様部分のインクが剥がれて脱落する恐れがある。
【0061】
模様塗膜の塗料の焼付けは、金属板の最高到達温度が180〜250℃となるように約40〜80秒の焼付けで行うことができる。なお、模様塗膜の焼き付けは、グランド塗膜の焼き付けと同時に行うのが好ましい。模様塗膜の厚みは、乾燥膜厚で2〜8μm程度とすることが好ましい。模様塗膜の厚みを2μm以上にすると異なる色相でグランド塗膜を隠蔽することができるが、8μmを超える厚みになるとワキなどが発生する可能性が出てくるからである。
【0062】
(6)グランド塗膜と模様塗膜との色差ΔEについて:
グランド塗膜と模様塗膜との色差ΔEは、グランド塗膜の色値E(G)と模様塗膜の色値E(S)の差であり、次式で表される。
ΔE=|E(G)―E(S)|
色相を数値化する方法としては、JIS Z8729によれば、Lab表色系とLuv表色系の2種類が認められているが、以下では、Lab表色系によって説明する。
【0063】
Lab表色系では、ある地点における色値を、一つの明度L(白〜黒)並びに色相と彩度を示す2つの色度a(赤〜緑)及びb(黄〜青)という、3つの座標の数値で表わすことができる。したがって、ある地点における色値のLab表色系測定結果を、(L,a,b)という座標で表すことができる。
【0064】
そして、2つの地点のLab表色系による色差は、JIS Z8730によって、次式で表される。
ΔE=[(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)21/2
したがって、グランド塗膜と模様塗膜との色差ΔEは、グランド塗膜上の一地点の座標を(L1,a1,b1)、模様塗膜上の一地点の座標を(L2,a2,b2)とすれば、次式で表される。
ΔE=[(L1−L22+(a1−a22+(b1−b221/2
本発明においては、模様塗膜の模様視認性の観点から、グランド塗膜と模様塗膜との色差ΔEを10以上とするのが好ましい。さらに、好ましくは、色差ΔEが20以上のものである。
【0065】
なお、模様塗膜の模様が2種以上存在するときは、それぞれの模様について、グランド塗膜との色差ΔEを測定する。
【0066】
(7)スプレー塗装する際に塗料粒子の流れを積極的に乱す方法について
グランド塗膜上に付着する粒状塗料の平面方向への密集化を促進して、グランド塗膜上に生成する個々の島状模様の平面サイズを大きくするには、グランド塗膜の上に塗装するスプレー塗料の流れを乱すことによって可能であり、その具体的手段としては気体の噴霧が採用できる。その気体に、特に制約はないが、空気(エアー)を用いるのがコストの面から好ましい。
【0067】
気体の噴霧は、一本のノズルだけを用いても良いが、複数のノズルを用いるのが好ましい。そして、自然な風合いを得るためには気体を間欠的に吹き付けるのが好ましい。間欠的な吹き付けに長短を付けること、即ち、吹き付け時間と吹き付け停止時間の一方又は両方を変動させて、吹き付け時間をアトランダムにするのが、一層好ましい。
【0068】
気体の噴霧に用いるノズルは、気体の噴霧ができればよく、特に制約はない。この気体噴霧ノゾルには、スプレー塗装用のガンを転用することもできる。スプレーガンが複数設置されているときは、そのうちの1個又は複数個には、塗料と溶剤を供給せず、気体のみを吐出させるだけで、気体噴霧ノゾルとして使用することができる。
【0069】
なお、気体噴霧ノズルの個数や設置間隔、スプレー塗装用ガンの個数や設置間隔、それに、気体噴霧ノズルから気体を噴霧するパターンについては、求める模様塗膜の意匠性によって適宜選択することができる。
【0070】
(8)模様視認性の評価方法について:
模様視認性は、視力1.0を有する人が、2m離れた場所からと10m離れた場所から塗装金属板を眺めた際に、模様を視認することができるか否かで判断する。2mと10mの両方とも模様を視認することができなかったときは不良(×)と判断し、2m離れたときは視認することができたが10m離れたときは視認することができなかったときは良好(○)、2mと10mの両方とも模様を視認することができたときは優良(◎)と、判断した。
【0071】
(9)その他:
なお、本発明に従った塗膜は、素材の外板となる片面だけに形成してもよいが、所望により素材の両面に形成してもよい。片面だけに形成する場合、未塗装の面は、裸でもよく、或いは下地処理だけを施してもよく、さらには本発明とは異なる塗装を施してもよい。両面に形成する場合、グランド塗膜と模様塗膜の構成は両面で同じにしてもよいし、異なる構成にしてもよい。
【実施例1】
【0072】
供試材の作製方法:
Al:55質量%、Zn:44質量%及びSi:1質量%のめっき組成を有する溶融55%Al−Zn合金めっき金属板(金属板の幅1m、厚み0.5mm)を素材とし、この素材の片面に下地処理として、次の塗布型クロメート処理を施した。
【0073】
塗布型クロメート処理液(日本ペイント(株)製「NRC 300」)を、クロム付着量が30mg/m2となるようにバーコータで塗布し、最高到達温度が80 ℃となるように5秒間加熱して、乾燥させた。
【0074】
こうして下地処理を施した溶融55%Al−Zn合金めっき金属板の面に、下塗り塗料として、エポキシ塗料(関西ペイント(株)製「KPカラー8699」)をバーコータで塗布し、焼き付け時間30秒で、最高到達温度が210℃になるように焼き付けをおこなって、乾燥時の厚みが5μmの下塗り塗膜を得た。
【0075】
別途、グランド塗膜及び模様塗膜の双方に使用する塗料として、ポリエステル塗料(関西ペイント(株)製「KP1510」)を用意し、これに顔料等の添加剤を添加して、表1に示す色相を有する塗料を3種類調整した。
【0076】
【表1】

【0077】
これらの塗料のうちから、表2に示す組合せによって、塗料A〜Cをグランド塗料又は模様塗料として選択し、グランド塗料を下塗り塗膜の上にバーコータで塗布した後、グランド塗膜が未乾燥の状態で、模様塗料をスプレー塗装した。
【0078】
【表2】

【0079】
図1は、塗装金属板が流れるラインの上部からみたスプレーガンの配置例を示す。ここで、スプレーガンは25cmの間隔をおいて5個配置されている。スプレーガンのうち、スプレー塗装に用いられるガンは、ガンA、ガンC、ガンEの3つであり、表2に示す組合せで、模様塗膜を形成する塗料A〜Cをスプレー塗装により、グランド塗膜上に吹き付けた。そして、残りの2つのガン、すなわち、ガンBとガンDからはエアーのみを噴出させた。
【0080】
図2は、エアーのみを噴出するガンBとガンDのエアーの吹き付け状態を示すパターン図である。ガン毎に、電磁弁を使用してエアーの噴出と切断を繰り返した。この際、噴出時間と切断時間に長短を付けて、間欠的に吹き付けを行った。
【0081】
ガンBとガンDからの気体噴霧量は700NL/分に設定した。そして、ガンA、ガンC、ガンEのスプレー巾はそれぞれ50cm、スプレーエアー量は120NL/分、スプレー塗料S1の吐出量は、150cc/分、スプレー塗料S2の吐出量は、200cc/分に設定した。また塗装ラインの速度は60m/分とした。
【0082】
なお、比較例として、ガンBとDからエアーを噴出させない点でのみ、実施例と異なる条件で、ガンA、ガンC、ガンEの3つを使用して模様塗装を行った。
【0083】
その後、グランド塗料と模様塗料を同時に乾燥、焼き付けを行った。焼き付け条件は、焼き付け時間50秒で、最高到達温度が230℃であった。
【0084】
このようにして得られた模様塗装金属板について、2m及び10m離れて模様の視認性について調査した結果を、表3に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
表3から、ガンBとガンDからエアーを噴出させ、残りのガンA、ガンC、ガンEの3つから模様塗膜を形成する塗料を吹き付けた場合の模様塗装金属板の視認性は、エアーを噴出させないときに比べて格段と良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明により、自然な風合いを有し、しかも遠くからでも模様を視認可能な、意匠性に優れた模様塗装金属板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】スプレーガン及びエアーガンの配置を示す図である。
【図2】エアーガンによるエアー吹き付けの時間を示すダイアグラムである。
【符号の説明】
【0089】
A,B,C,D,E ガン
1 グランド塗膜を有する鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の少なくとも片面に、下地処理を施した後に、グランド塗料を塗装し、さらにグランド塗料とは異なる色相の模様形成塗料の1種以上を島状にスプレー塗装した後に、焼き付け硬化させて塗装金属板を製造する方法であって、スプレー塗装する際に塗料粒子の流れを積極的に乱すことを特徴とする、模様塗装金属板の製造方法。
【請求項2】
金属板の少なくとも片面に、下地処理を施し、その上に下塗り塗料を塗装した後に、グランド塗料を塗装し、さらにグランド塗料とは異なる色相の模様形成塗料の1種以上を島状にスプレー塗装して塗装金属板を製造する方法であって、スプレー塗装する際に塗料粒子の流れを積極的に乱すことを特徴とする、模様塗装金属板の製造方法。
【請求項3】
グランド塗料及び島状模様形成塗料を、同時に焼き付け硬化させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の模様塗装金属板の製造方法。
【請求項4】
島状模様塗膜の厚みが乾燥膜厚で2〜8μmであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の模様塗装金属板の製造方法。
【請求項5】
スプレー塗装する際に、上面から気体を吹き付けることによって、塗料粒子の流れを積極的に乱すことを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の模様塗装金属板の製造方法。
【請求項6】
スプレー塗装する際に、気体を間欠的に吹き付けることを特徴とする、請求項1から5までのいずれかに記載の模様塗装金属板の製造方法。
【請求項7】
気体を間欠的に吹き付ける際に、吹き付け時間と吹き付け停止時間の一方又は両方を変動させることを特徴とする、請求項6記載の模様塗装金属板の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−212463(P2006−212463A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24677(P2005−24677)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000101949)住友金属建材株式会社 (44)
【Fターム(参考)】