説明

愛玩動物において抗ウイルス性免疫を増強する際に使用するための、抗酸化剤を含有する食物組成物

本発明は、愛玩動物がウイルス感染症に抵抗し、および/またはそれらを克服する能力を増強するための方法を包含する。本発明の方法は、愛玩動物の抗ウイルス性免疫を増強するのに有効な量のリポ酸を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、愛玩動物がウイルス感染症に抵抗し、および/またはそれらを克服する能力を増強するための方法を包含する。本発明の方法は、愛玩動物の抗ウイルス性免疫を増強するのに有効な量のリポ酸を含有する。
【背景技術】
【0002】
[0002] 愛玩動物、たとえばイヌおよびネコは、老化の問題をかかえていると思われる。これらのうち幾つかは決まり文句に現われている。これらのひとつは“高齢のイヌに新しい芸当を教えることはできない”である。この文句は、イヌが老化するのに伴ってそれらの精神能力は身体能力と同様に低下するらしいという所見から出ている。思考、学習および記憶に関連する精神活動が次第に低下するように思われる(Cummings, B. J., Head, E., Ruehl, W., Milgram, N. W. & Cotman, C. W. (1996): The canine as an animal model of aging and dementia. Neurobiology of Aging 17:259-268)。さらに、老化しつつある動物では、変化しつつある精神能力に付随して行動変化が発現する可能性がある。多くの原因がこの能力低下にあるとされてきた。
【0003】
[0003] これらの能力喪失は高齢のイヌ類およびネコ類に一般にみられる。7歳以上のイヌおよび7歳以上のネコ類は高齢とみなされ、この問題を生じる可能性がある。
[0004] 有意レベルの少なくとも1種類の抗酸化剤が成体の愛玩用ペットの食事中に存在するか、あるいはペットにその食事以外に与えられることにより、高齢の愛玩用ペットの精神能力の衰退開始を阻止し、および/または成体の愛玩用ペットの精神能力をさらに高齢になるまで維持することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Cummings, B. J., Head, E., Ruehl, W., Milgram, N. W. & Cotman, C. W. (1996): The canine as an animal model of aging and dementia. Neurobiology of Aging 17:259-268
【発明の概要】
【0005】
[0005] 本発明によれば、愛玩動物においてウイルス感染症を処置する方法であって、その必要がある愛玩動物に有効量の1種類以上の抗酸化剤、たとえばリポ酸を含む食物組成物を投与することを含む方法が提供される。
【0006】
[0006] 他の態様は、愛玩動物においてウイルス感染症に対する免疫応答を増強または増大する方法であって、その必要がある愛玩動物に有効量の1種類以上の抗酸化剤、たとえばリポ酸を含む食物組成物を投与することを含む方法を包含する。
【0007】
[0007] これらの方法のすべてにおいて、動物の食事に酸化剤またはその混合物を投与することが望ましい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
全般的記載
[0008] 本発明は、愛玩動物がウイルス感染症に抵抗または対抗する能力を増強する方法であって、愛玩動物に愛玩動物がウイルス感染症に抵抗または対抗する能力を増強するのに有効な量のリポ酸を含む食物組成物を投与することを含む方法を包含する。
【0009】
[0009] 特定の態様において、愛玩動物がウイルス感染症に抵抗または対抗する能力を増強するリポ酸の有効量は少なくとも約25ppmである。
[0010] 特定の態様において、有効量は少なくとも約50ppmである。
【0010】
[0011] 特定の態様において、有効量は少なくとも約100ppmである。
[0012] 特定の態様において、有効量は約100ppm〜約600ppmである。
[0013] 特定の態様において、有効量は約100ppm〜約200ppmである。
【0011】
[0014] 特定の態様において、愛玩動物はイヌである。
[0015] 特定の態様において、愛玩動物はネコである。
[0016] 特定の態様において、有効量は愛玩動物において先天性(innate)抗ウイルス活性を増強するのに有効である。
【0012】
[0017] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも15日間投与する。
[0018] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも30日間投与する。
【0013】
[0019] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも45日間投与する。
[0020] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を1日1回投与する。
【0014】
[0021] 本発明は、愛玩動物においてウイルス感染症を処置する方法であって、その必要がある愛玩動物に有効量のリポ酸を含む食物組成物を投与することを含む方法をも包含する。
【0015】
[0022] 特定の態様において、リポ酸の有効量は少なくとも約25ppmである。
[0023] 特定の態様において、有効量は少なくとも約50ppmである。
[0024] 特定の態様において、有効量は少なくとも約100ppmである。
【0016】
[0025] 特定の態様において、有効量は約100ppm〜約600ppmである。
[0026] 特定の態様において、有効量は約100ppm〜約200ppmである。
[0027] 特定の態様において、愛玩動物はイヌである。
【0017】
[0028] 特定の態様において、愛玩動物はネコである。
[0029] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも15日間投与する。
【0018】
[0030] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも30日間投与する。
[0031] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも45日間投与する。
【0019】
[0032] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を1日1回投与する。
[0033] 成体の愛玩用ペット、たとえばイヌ類およびネコ類に与える食事は、その年齢の動物に与える標準的な普通食である。下記は1〜6歳のイヌ類のための典型的な食事である:
【0020】
【表1】

【0021】
[0034] 本発明者らは意外にも、1種類以上の抗酸化剤、たとえばリポ酸の添加が、愛玩動物、たとえばイヌおよびネコにおいて、先天性抗ウイルス免疫機能を増強するのに有用であることも見出した。本明細書中で用いる用語“増強する(enhance)”または“増強(enhancing)”は、抗ウイルス免疫機能について述べる場合、愛玩動物が抗原に対して増大した免疫応答をもち、これによって感染症に対してより抵抗性となり、または愛玩動物の身体からより速やかにウイルス感染症を消失させる能力を表わす。したがって、抗酸化剤、たとえばリポ酸を含有するペットフードを食べている愛玩動物、たとえばイヌは、抗酸化剤を摂取していない動物よりウイルス感染症に対して抵抗性であり、それをより速やかに消失させるであろう。
【0022】
[0035] これを達成する食事の成分は、抗酸化剤またはその混合物である。抗酸化剤は、フリーラジカルを消滅させる物質である。そのような物質の例には、イチョウ(ginkgo biloba)、柑橘類果肉、ブドウ搾りかす、トマト搾りかす、ニンジンおよびホウレンソウなどの食物(すべて、好ましくは乾燥したもの)、ならびに他の多様な物質、たとえばベータ−カロテン、セレン、コエンザイムQ10(ユビキノン)、ルテイン、トコトリエノール類、ダイズイソフラボン類、S−アデノシルメチオニン、グルタチオン、タウリン、N−アセチルシステイン、ビタミンE、ビタミンC、アルファ−リポ酸、L−カルニチンなどが含まれる。ビタミンEはトコフェロールまたはトコフェロール混合物、およびその多様な誘導体、たとえばエステル、たとえばビタミンE酢酸、コハク酸、パルミチン酸などとして投与できる。アルファ形が好ましいが、ベータ、ガンマおよびデルタ形が含有されていてもよい。D形が好ましいが、ラセミ混合物も許容される。これらの形態および誘導体は、ペットが摂取した後、ビタミンE様の活性で機能するであろう。ビタミンCはこの食事にアスコルビン酸およびその多様な誘導体、たとえばリン酸カルシウム塩、コレステリル塩、2−モノホスフェートなどとして投与でき、これらはペットが摂取した後にビタミンC様の活性で機能するであろう。それらは、液体、半固体、固体および熱安定形態など、いかなる形態であってもよい。アルファ−リポ酸は、この食事にアルファ−リポ酸として、またはそのリポエート誘導体(U.S.Pat.No.5,621,117の場合のような)、ラセミ混合物、塩類、エステルもしくはアミドとして投与できる。L−カルニチンを食事に投与でき、カルニチンの多様な誘導体、たとえば塩類、たとえば塩酸塩、フマル酸塩およびコハク酸塩、ならびにアセチル化カルニチンなどを使用できる。
【0023】
[0036] 食事に投与する量−すべて食事に対するwt%(乾燥物質基準)として−は、遊離物質として測定される有効物質自体として計算される。最大使用量は毒性をもたらすべきでない。
【0024】
[0037] 少なくとも約100ppmまたは少なくとも約150ppmのビタミンEを使用できる。特定の態様においては、約500〜約1,000ppmの範囲を使用できる。必ずしもそうではないが、約2,000ppmまたは約1,500ppmの最大量を一般に超えない。
【0025】
[0038] ビタミンCに関しては、少なくとも約50ppm、望ましくは少なくとも約75ppm、より望ましくは少なくとも約100ppmを使用する。無毒性である最大量を使用できる。
【0026】
[0039] アルファ−リポ酸の量は、少なくとも約25、望ましくは少なくとも約50ppm、より望ましくは約100ppmから変更できる。種々の態様において、イヌに投与できるリポ酸の範囲は約150ppm〜約4500ppmである。種々の態様において、ネコに投与できるリポ酸の範囲は約65ppm〜約2600ppmである。最大量は約100ppmから600ppmまで、またはペットに対して無毒性のままである量まで変更できる。特定の態様において、範囲は約100ppmから約200ppmまでである。
【0027】
[0040] L−カルニチンについては、イヌ類には約50ppm、望ましくは約200ppm、より望ましくは約300ppmが有用な最小量である。ネコ類には、これよりわずかに高い最小量のL−カルニチン、たとえば約100ppm、200ppm、および500ppmを使用できる。無毒性最大量、たとえば約5,000ppm未満を使用できる。イヌ類には、これより低い量、たとえば約5,000ppm未満を使用できる。イヌ類には、好ましい範囲は約200ppm〜約400ppmである。ネコ類には、好ましい範囲は約400ppm〜約600ppmである。
【0028】
[0041] ベータ-カロテンは約1〜15ppmで使用できる。
[0042] セレンは約0.1から約5ppmまでで使用できる。
[0043] ルテイン:少なくとも約5ppmを使用できる。
【0029】
[0044] トコトリエノール類:少なくとも約25ppmを使用できる。
[0045] コエンザイムQ10:少なくとも約25ppmを使用できる。
[0046] S−アデノシルメチオニン:少なくとも約50ppmを使用できる。
【0030】
[0047] タウリン:少なくとも約1000ppmを使用できる。
[0048] ダイズイソフラボン類:少なくとも約25ppmを使用できる。
[0049] N−アセチルシステイン:少なくとも約50ppmを使用できる。
【0031】
[0050] グルタチオン:少なくとも約50ppmを使用できる。
[0051] イチョウ:少なくとも50ppmの抽出物を使用できる。
[0052] 以下は、ORAC(Oxygen radical absorbing capacity、酸素ラジカル吸収能)含量の高い原料成分である:ホウレンソウ搾りかす、トマト搾りかす、柑橘類果肉、ブドウ搾りかす、ニンジン顆粒、ブロッコリ、緑茶、イチョウ、およびトウモロコシグルテンミール。食事に1%の含有率(トウモロコシのように低ORAC成分については合計5%の置換)として添加した場合、それらは食事全体のORAC含量を増大させ、これらの成分を含有する食事を食べた動物の血漿のORAC含量を増大させた。好ましくは、乾燥物質のグラム当たりORAC含量>25.mu.moleをもついずれかのTrolox均等成分を、1%で他の4種類の1%成分と組み合わせて合計5%を食事に添加すれば使用できる。
【実施例】
【0032】
実施例1
[0053] 実験条件
[0054] 20匹のイヌに30日間給餌した。10匹にはAAFCOレベルの対照食、他の10匹のイヌには150ppmのアルファ−リポ酸を含有するAAFCOレベルの対照食を与えた。30日間の終了時に各イヌから全血試料をPaxgenチューブに採集した。
【0033】
[0055] 全血試料からPAXgene RNA単離キットを用いて全RNAを単離した。すべての測定をcanine 2 Affymetrix遺伝子チップにより行なった。統計分析のために、すべての測定値をRMAで正規化した。すべての分析をPartekにより実施した。対照食と試験食の間で差次発現する遺伝子(<0.05の数値を伴う少なくとも20%の発現変化)についてANOVA t−検定を実施した。
【0034】
[0056] 差次発現する遺伝子をGeneGoパスウェイ分析ソフトウェアで分析した。リポ酸を30日間与えたイヌはインターフェロン仲介による抗ウイルス応答を示した。イヌにリポ酸を30日間与えることによりアップレギュレートされた遺伝子であってインターフェロン仲介による抗ウイルス応答に関与するものを表4に挙げる。
【0035】
【表2−1】

【0036】
【表2−2】

【0037】
[0057] リポ酸を30日間与えたイヌの試験に基づいて、本発明者らは意外にも、インターフェロンアルファ/ベータおよびガンマに対する細胞表面受容体が増加し、これによって全体的なインターフェロン仲介による抗ウイルス防御機序を増大させる効力が生じることを見出した。JAK2、すなわちSTAT1およびSTAT2の重要なアクチベーターがアップレギュレートされることを本発明者らは見出した。インターフェロン調節因子9(IFR9)がアップレギュレートされる。IFR9、STAT1およびSTAT2は複合体(ISFG3)を形成し、これは核へ移行し、抗ウイルス遺伝子、インターフェロン誘導による二本鎖RNA活性化プロテインキナーゼ(PKR)、および2−5A−依存性リボヌクレアーゼ(RnaseL)をアップレギュレートする。PKRはelF2S1をリン酸化により阻害し、これによりウイルスタンパク質合成を阻害する。RnaseLはウイルスRNAを開裂し、その結果、ウイルスの複製および機能を阻害する。
【0038】
[0058] 本発明の範囲は実施例に開示した特定の態様により限定されるべきでない;実施例は本発明の幾つかの観点の説明のためのものであり、機能的に均等ないずれの態様も本発明の範囲に含まれる。実際に、本明細書に提示および記載したもののほか本発明の多様な改変が当業者に明らかであろう;それらは特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0039】
[0059] 引用したいずれの文献についてもその開示内容全体を本明細書に援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
愛玩動物がウイルス感染症に抵抗または対抗する能力を増強する方法であって、その必要がある愛玩動物に愛玩動物がウイルス感染症に抵抗または対抗する能力を増強するのに有効な量のリポ酸を含む食物組成物を投与することを含み、その際、愛玩動物がウイルス感染症に抵抗または対抗する能力を増強するリポ酸の有効量が少なくとも約25ppmである方法。
【請求項2】
有効量が少なくとも約50ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有効量が少なくとも約100ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
有効量が約100ppm〜約600ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
有効量が約100ppm〜約200ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
愛玩動物がイヌである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
愛玩動物がネコである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
有効量が愛玩動物において先天性抗ウイルス活性を増強するのに有効である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも15日間投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも30日間投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも45日間投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
リポ酸を含むペットフード組成物を1日1回投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
愛玩動物においてウイルス感染症を処置する方法であって、その必要がある愛玩動物に有効量のリポ酸を含む食物組成物を投与することを含み、その際、リポ酸の有効量が少なくとも約25ppmである方法。
【請求項14】
有効量が少なくとも約50ppmである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
有効量が少なくとも約100ppmである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
有効量が約100ppm〜約600ppmである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
有効量が約100ppm〜約200ppmである、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
愛玩動物がイヌである、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
愛玩動物がネコである、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも15日間投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも30日間投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも45日間投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
リポ酸を含むペットフード組成物を1日1回投与する、請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2012−511933(P2012−511933A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542373(P2011−542373)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/068230
【国際公開番号】WO2010/077933
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(502329223)ヒルズ・ペット・ニュートリシャン・インコーポレーテッド (138)
【Fターム(参考)】