説明

感光性平版印刷版材料

【課題】CTP方式に利用できる高感度な感光性平版印刷版材料であり、水により現像が可能で、特に紫外線硬化インキを使用した場合にも耐刷性が良好であり、またタック値の低いインキを使用した場合にも網絡みの発生のない印刷性に優れた感光性平版印刷版材料を提供すること。
【解決手段】支持体上に、水溶性ポリマーとヒドロキシアパタイトを含有する親水性層と、該親水性層上に、不飽和二重結合基を側鎖に有する水溶性重合体、光重合開始剤、および光重合開始剤を増感する化合物を含有する光重合性感光層を有する感光性平版印刷版材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水により現像が可能な感光性平版印刷版材料に関し、特にコンピューター・トゥー・プレート(CTP)方式により画像形成が可能な感光性平版印刷版材料に関する。更に詳しくは、830nmもしくは405nm付近の波長に発光する半導体レーザー等の光源を利用する走査露光装置を用いて露光した後、水により現像が可能な感光性平版印刷版材料に関する。また、印刷機上で湿し水により機上現像が可能な感光性平版印刷版材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューター上で作製したデジタルデータをもとにフィルム上に出力せずに直接印刷版上に出力するコンピューター・トゥー・プレート(CTP)技術が開発され、出力機として種々のレーザーを搭載した各種プレートセッターとこれらに適合する感光性平版印刷版の開発が盛んに行われている。CTP方式の普及と共にクローズアップされてきた重要な問題点或いは要望として、現像処理に関わる諸点が挙げられる。通常方式のCTPでは、印刷版材料をレーザー画像露光した後、アルカリ性現像液により非画像部を溶出し、水洗およびガム引き工程を経て印刷に供される。CTP方式は露光に関しては完全にデジタル方式であり、印刷データは印刷版材料表面に正確に記録されるが、現像処理はアナログ的に作用し、結果として得られる平版印刷版材料の特性が必ずしも一義的に決定されず、製版工程の種々の変動要因により著しく左右されることがある。例えば、現像処理液のpH変動や現像液中の感光層成分の蓄積による現像性の低下等による処理条件の変動により網点面積率や線幅が変動し、更には印刷時の地汚れや耐刷不良を引き起こすこともある。こうした現像処理に関わるアナログ的な変動因子を回避し、如何に安定して製版物を作製するかが大きな問題である。さらには、処理液に関わるコストダウン要望および近年の環境負荷低減の要請からアルカリ現像廃液の問題もクローズアップされてきており、こうした現像工程を不要にするいわゆるプロセスレス印刷版への期待がますます高まってきている。
【0003】
近年、プロセスレス印刷版として、印刷機上で現像を行う機上現像方式の印刷版と、厳密な意味ではプロセスレスとは言い難いが、水により現像を行うケミカルフリーの印刷版が検討され、一部市場に出て実用化されている。機上現像方式は印刷機上で湿し水とインキの供給により感光層の除去を行うもので、湿し水は感光層を膨潤させインキによる除去を容易にするものである。水現像タイプは、感光層を実質的に強アルカリ剤を含有しない現像液により除去するもので、印刷に先立て版面の画像を確認し易いため好ましく、後者は、湿し水によっても容易に感光層が除去できるため好ましい。
【0004】
現在までのところ、プロセスレス印刷版としては、インクジェット方式或いは熱転写方式を利用するもの、およびレーザー光を利用する方式として、アブレーション方式を利用するもの、熱融着タイプのもの、マイクロカプセル型のもの、および剥離タイプのものが知られている。インクジェット方式或いは熱転写方式を利用する例としては、特開2004−167973号公報および特開平9−99662号公報等に記載される系が挙げられる。これらは、下記に述べるレーザー光を利用する方式に比べて画質的に劣る問題がある。レーザー光を利用する方式として、アブレーション方式に関しては、例えば、特開平8−507727号公報、特開平6−186750号公報、特開平6−199064号公報、特開平7−314934号公報、特開平10−58636号公報、特開平10−244773号公報等に記載されているものが挙げられる。アブレーション方式の問題点は、アブレーションにより発生するカスによる光学系の汚染や、アブレーションカスを除去するためのクリーニング機構を特別に装置に設ける必要性があり、汎用性に欠ける問題、更には、低感度であり、露光に時間がかかるため生産性に劣ることなどが挙げられる。熱融着タイプは、例えば、特許2938397号公報、特開2001−88458号公報、特開2001−39047号公報、特開2004−50616号公報および特開2004−237592号公報などに記載される熱により熱融着性微粒子を融着させる方式を利用するものが挙げられるが、問題点として、低感度であることおよび支持体との接着に劣り、耐刷性において問題が発生することなどが挙げられる。マイクロカプセル型に関しては、特開2002−29162号公報、特開2002−46361号公報、特開2002−137562号公報、特開2004−66482公報等に見られるような、マイクロカプセル或いは微粒子に光重合性機能を付与した素材を使用し、光重合によりこれらを硬化させるタイプのものである。高感度光重合系を利用するため、感度に関しては良好であるが、機上現像に際して湿し水を版面全体に行き渡らせた後にインキをつけ、感光層を除去することが必要である。しかしながら、種々の印刷機の給湿機構において必ずしも感光層の除去が簡便に行われるわけではなく、印刷機の種類によっては感光層の除去が困難で地汚れが発生し問題になる場合があった。
【0005】
剥離タイプに属する系としては、例えば特開平7−191457号公報、特開平7−325394号公報、特開平10−3166号公報等に記載されるように、親水性層の上に光重合性感光層を設け、露光後に受容体シートを密着させて未露光部を受容体シート上に転写させることで親水性層の上に硬化した感光層からなる画像を形成する方法などが挙げられる。この方式では、微細なシャドー部網点部分などの除去が困難であると考えられ、また親水性層上の感光層の除去が不十分になり地汚れが発生しやすいことが欠点としてあげられる。
【0006】
上記のようなレーザー光を利用するプロセスレス印刷版は画像形成に関し一般に高エネルギーを必要とするため、露光用光源としては近赤外半導体レーザーを使用する。また、支持体としてアルミニウム板を使用するものが大部分である。これに対して、フィルム支持体上に親水性層を形成し、この上に熱融解性微粒子(ワックス等)層を設けたプロセスレス印刷版が、例えば特開2004−50616号公報および特開2004−237592号公報(特許文献1)などに記載されている。印刷材料としてフィルムを使用することで版材がロール状に収納されるため露光装置が小型でコンパクトに構成され、版材の取り扱い性やコストが大幅に改善される利点を有している。しかしながら、品質性能面では種々問題があり、これら公開特許公報によると、親水性層はコロイダルシリカやモンモリロナイトなどの親水性微粒子から構成され、画像は熱融着したワックスであるため、ワックスと親水性層の界面の接着性が十分でないため耐刷性に劣る問題と比較的低感度である問題があった。
【0007】
さらに、特開2004−167973号公報(特許文献2)および特開平9−99662号公報(特許文献3)等に記載されるシリカを主たる構成成分とする多孔質層を親水性層として用いる場合、シリカ粒子間隙に印刷時のインキが埋没することで地汚れが発生したり、或いは材料を長期間保存した後に使用しようとした場合に、画像形成層が同様に粒子間隙に埋没或いは吸着することで残膜の発生を引き起こし、結果として地汚れの発生に繋がることもあり問題であった。
【0008】
特開2000−158839号公報(特許文献4)には、ポリアクリル酸等のカルボキシル基を有する水溶性ポリマーとコロイダルシリカを特定の比率で含む親水性層をフィルム支持体上に形成し、インキ脱離性の良好な結果を示している。しかしながら、ポリアクリル酸などの水溶性ポリマーは印刷中に徐々に給湿液中に溶解し、親水性層が膨潤することで印刷条件によっては親水性層が剥離したり、画像部が剥離するなどの問題があった。さらに、PS版の印刷性能と比較した場合、明らかに保水性に劣るものであった。
【0009】
一方、前述した近赤外半導体レーザーを利用したCTP方式印刷版と並んで、400〜430nmの波長域に発光する青紫色半導体レーザーを利用したCTP方式印刷版も好ましく利用されている。例えば、InGaN系の材料を用い、400〜430nmの波長域で連続発振可能な青紫色半導体レーザーが実用化されている。こうした青紫色半導体レーザーを用いた走査露光システムは、半導体レーザーが構造上安価に製造出来るため、十分な出力を有しながら、経済的でかつ生産性の高いCTPシステムを構築できるといった長所を有する。さらに、従来のFD−YAGやArレーザーを使用するシステムに比較して、より明るいセーフライト下(500nm以下の光をカットした黄色灯下)での作業が可能な感光材料が使用できるという長所を有する。こうした特に青紫色半導体レーザーを光源として用いる光重合性組成物には高感度である光重合開始剤(系)が用いられる。先行技術として、例えばチタノセンを光重合開始剤として利用する系として特開平8−272096号公報、特開平10−101719号公報、特開2000−147763号公報、特開2001−42524号公報、特開2002−278066号公報、特開2003−221517号公報、特開2005−241926号公報などが挙げられる。同様に、トリハロメチル置換トリアジン誘導体を用いた系としては、特公昭61−9621号公報、特開2002−116540号公報等に記載される。ヘキサアリールビイミダゾール系化合物を用いた系としては、特開2006−293024号公報等に記載される。更に、ホウ素塩化合部を利用する系として特開2001−290271号公報などが挙げられる。
【0010】
従来の上記のような光重合性組成物を利用した青紫色半導体レーザーを用いるCTPシステムに適用される感光性平版印刷版の例としては特開2004−125836号公報、特開2005−241926号公報、特開2005−309388号公報等に記載の系を挙げることが出来る。これらの例は何れもアルカリ性現像液を使用して印刷版を形成する方式であり、青紫色半導体レーザーを利用したプロセスレスもしくはケミカルフリーの印刷版を与えるものではないため、これらの実現が期待されるのが現状である。
【0011】
特開2003−215801号公報(特許文献5)には、水現像可能な感光性組成物として、側鎖にフェニル基を介してビニル基が結合したカチオン性もしくはアニオン性の水溶性ポリマーを用いる系が開示されており、さらにこれを親水性表面を有する基板上に形成することで水現像可能な印刷版が作製できることを開示している。この場合、親水性表面を有する基板として、シリケート処理されたアルミ板や親水性下引き層を設けたフィルム支持体が例示されているが、いずれの組み合わせにおいても種々の印刷条件に於いて地汚れ防止と耐刷性の両方の性質を同時に満足させることが困難であり、更なる最適化のための素材検討および構成に関する検討が必要であった。
【0012】
特開2008−265297号公報(特許文献6)には、水溶性ポリマーとコロイダルシリカを特定の比で含む親水性層を設け、その上に光重合性感光層を設けた積層構造からなる水現像可能な感光性平版印刷版材料が開示されている。ここで開示される感光性平版印刷版材料は良好な水現像性を示し、通常の印刷条件下では問題のない耐刷性と保水性を示したが、印刷インキの種類により耐刷性や保水性が大きく変化し、特に紫外線硬化インキを使用した場合には耐刷性が低下する問題が発覚し、また別の問題としてタック値の低いインキを使用して印刷した場合、上記の親水性層中にインキが染み込むことで非画像部の保水性が悪化し、特に網部の再現性が悪く網絡みが発生し易いという問題が発覚したため改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−237592号公報
【特許文献2】特開2004−167973号公報
【特許文献3】特開平9−99662号公報
【特許文献4】特開2000−158839号公報
【特許文献5】特開2003−215801号公報
【特許文献6】特開2008−265297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、CTP方式に利用できる高感度な感光性平版印刷版材料であり、水による現像が可能で、特に紫外線硬化インキを使用した場合にも耐刷性が良好であり、またタック値の低いインキを使用した場合にも網絡みの発生のない印刷性に優れた感光性平版印刷版材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
支持体上に、水溶性ポリマーとヒドロキシアパタイトを含有する親水性層と、該親水性層上に、不飽和二重結合基を側鎖に有する水溶性重合体、光重合開始剤、および光重合開始剤を増感する化合物を含有する光重合性感光層を有する感光性平版印刷版材料によって、本発明の課題は基本的には解決される。
【発明の効果】
【0016】
CTP方式に利用できる高感度な感光性平版印刷版材料であり、水による現像が可能で、特に紫外線硬化インキを使用した場合にも耐刷性が良好であり、またタック値の低いインキを使用した場合にも網絡みの発生のない印刷性に優れた感光性平版印刷版材料を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】合成例1で得られたヒドロキシアパタイト微粒子の走査型電子顕微鏡による拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に関わる感光性平版印刷版材料は支持体上に水溶性ポリマーとヒドロキシアパタイトを含有する親水性層を有し、該親水性層上に、不飽和二重結合基を側鎖に有する水溶性重合体、光重合開始剤、および光重合開始剤を増感する化合物を含有する光重合性感光層を有する積層構造からなることが特徴である。最初にヒドロキシアパタイトについて説明を行う。
【0019】
本発明におけるヒドロキシアパタイトとはリン酸カルシウム塩の一つの形態であり、化学組成としてCa(POOHの組成でカルシウム原子とリン原子が含まれるリン酸カルシウム塩を指す。本発明に於いて使用するヒドロキシアパタイトは市販される種々のヒドロキシアパタイト粉体を使用することが可能であるが、後述するように、ヒドロキシアパタイトと本発明に関わる水溶性ポリマーとを混合して親水性層を支持体上に形成する際に、ヒドロキシアパタイトは微粒子の形で存在することが必要であり、特に均一な層として親水性層を形成する場合には微粒子の大きさとして30μm以下の平均粒子径を有することが好ましい。これ以上の平均粒子径である場合には、親水性層の凹凸により後述する感光性平版印刷版材料として使用する場合に画質が低下し、印刷性も劣ることがある。
【0020】
上記の範囲にある平均粒子径を有するヒドロキシアパタイトの製造方法に関しては、例えば特開2005−263581号公報にはカルシウム塩水溶液とリン酸塩水溶液を用いて、温度を一定にして単に両者を混合するのみでヒドロキシアパタイト微粒子を合成する方法が開示される。或いは、特開平5−170413号公報には酸化カルシウム及び/または水酸化カルシウムの水性スラリーとリン酸水溶液をpH7〜12の範囲に於いて混合することでヒドロキシアパタイトとして純度の高い微粒子を得る方法が開示される。さらには、特開平3−261612号公報にはpHを10〜12の範囲に調節した条件で、カルシウム塩水溶液とリン酸塩水溶液をCa/Pモル比が1.67/1になるように徐々に混合し、さらに煮沸処理を行うことで粒子径が100nm以下のヒドロキシアパタイト粒子を70%以上含む微粒子の分散物を製造する方法が開示されている。
【0021】
本発明に用いることの出来るヒドロキシアパタイトとしては上述した例に示す何れの製造方法によって得られたヒドロキシアパタイト微粒子を好ましく用いることが出来る。本発明に於いては、更に好ましく用いることの出来るヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法について以下に説明を行う。
【0022】
本発明に関して最も好ましく用いることの出来るヒドロキシアパタイトの製造方法は以下に述べる2つの工程からなる。最初の工程は平板状結晶の第二リン酸カルシウム二水和物を合成し、次の2つ目の工程として、得られた第二リン酸カルシウム二水和物をpH12以上で、かつ温度が50℃以上の反応条件でアルカリ処理してヒドロキシアパタイトに変換する工程である。このようにして合成されるヒドロキシアパタイトの特徴は、一次粒子径が10〜100nmの範囲にあり、二次粒子径が1〜20μmの範囲にあることが特徴である。このような方法で得られたヒドロキシアパタイトを用いることで網絡みの発生がより改善され、耐刷性がより向上した感光性平版印刷版材料が得られるため好ましい。
【0023】
最初に平板状結晶の第二リン酸カルシウム二水和物(CaHPO・2HO)の合成方法について説明を行う。これを合成するための原料としては各種カルシウム塩と各種リン酸塩から選ばれる原料が必要であり、カルシウム塩として適当である原料の例としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムおよびこれらの水和物が好ましく用いることが出来る。リン酸塩として好適である原料の例としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二アンモニウム等が特に好ましい例として挙げられる。こうしたカルシウム塩およびリン酸塩はpHが4〜9の範囲に於いて水に可溶性であることが好ましい。なお本発明に於いて可溶性であるとは、20℃での溶解性が1質量%以上であることを意味する。
【0024】
上記のカルシウム塩およびリン酸塩は、好ましくはpHが4〜9の範囲において混合することで第二リン酸カルシウム二水和物を生成するが、この範囲を越えて例えばpHが強アルカリである場合には水酸化カルシウムが生成するため目的とするヒドロキシアパタイトの生成を阻害する場合がある。あるいは、アンモニア水やその他のアミン類などを加えてpHが9を越えて合成を行った場合には第三リン酸カルシウムが生成することがある。この際の温度として90℃以上の温度で反応を行った場合には第二リン酸カルシウム無水物が生成し、結晶型としてモネタイトと呼ばれる針状結晶を生成する。
【0025】
上記のカルシウム塩およびリン酸塩を反応させる温度は90℃未満の温度であることが好ましく、これにより平板状の結晶形態を有する第二リン酸カルシウム二水和物が得られる。得られた第二リン酸カルシウム二水和物は平板状結晶であり、反応温度が高くなるに従って結晶成長が促進され結晶サイズが増加する。第二リン酸カルシウム二水和物の結晶成長は、後述するアルカリ処理により生成するヒドロキシアパタイト微粒子の二次粒子の大きさに直接関わってくることから非常に重要である。即ち、この段階で結晶成長が促進され、相対的に結晶の大きさが大きくなるに従って、後述するように、引き続くアルカリ処理によりヒドロキシアパタイト微粒子を合成する場合に、結晶同士の間で弱い相互作用が生じることで二次粒子が形成される。この際、第二リン酸カルシウム二水和物の結晶の大きさが小さい方が、これからアルカリ処理で得られるヒドロキシアパタイト微粒子の二次粒子の大きさが小さくなり、静置安定性も二次粒子の大きさが小さい方がより良好である。従って、一般的には、第二リン酸カルシウム二水和物を合成する場合の温度としては低い温度である場合の方がより二次粒子の成長が抑制されるため好ましい。反応温度として90℃未満の温度であれば、これから得られた第二リン酸カルシウム二水和物の平板状結晶を用いて、後述するアルカリ処理によって得られるヒドロキシアパタイト微粒子の一次粒子の大きさは10〜100nmの範囲にある。本発明において好ましく使用されるヒドロキシアパタイト微粒子の分散物における二次粒子の平均粒子径は1〜20μmの範囲であり、第二リン酸カルシウム二水和物を合成する際の温度が低い方が二次粒子径がより小さく、凝集物の生成や粗大粒子の生成が抑制されることから好ましい。より好ましい第二リン酸カルシウム二水和物を合成する際の反応温度は−5℃〜50℃の範囲である。これより低い温度では水溶液が部分的に氷結することで攪拌が均一に行えない場合がある。
【0026】
カルシウム塩水溶液とリン酸塩水溶液を用いて両者の混合を行う場合、三種類の方法で両者の混合を行うことが出来る。一つの方法として、カルシウム塩水溶液の中にリン酸塩水溶液を攪拌しながら加える方法であり、また別の方法として、これとは逆にリン酸塩水溶液の中にカルシウム塩水溶液を加える方法である。もしくは、両方の水溶液を同時に混合する方法も行うことが出来る。これらの方法における反応条件の違いは、カルシウム塩とリン酸塩が反応する際の、両者の濃度比に差が生じることである。最初の方法では、リン酸塩に対してカルシウム塩濃度が大過剰に存在する条件であり、二つ目の条件では逆にリン酸塩濃度が大過剰にある条件でカルシウム塩が添加されることになる。3番目の同時に混合する条件では両者の濃度比を任意の比率に調節することが可能である。
【0027】
カルシウム塩水溶液およびリン酸塩水溶液を混合する際の反応系における各々の濃度については実際的に操作を行う上での取り扱いやすさがあるのみで特に決められた濃度の範囲で目的とする第二リン酸カルシウム二水和物を合成する必要はない。例えば、カルシウム塩水溶液の濃度は使用するカルシウム塩の飽和濃度以下で用いることが好ましく、溶液からのカルシウム塩の析出を避けるため通常は9モル/リットルより低い濃度で用いることが好ましい。また、カルシウム塩濃度の下限についても特に制限はないが、製造単位当たりの収量を高めるためには濃度は高い方が好ましいことから、製造の便宜上0.1〜9モル/リットルの範囲でカルシウム塩水溶液の濃度を調節することが好ましく行われる。リン酸塩水溶液の濃度に関してもこれと全く同様で、製造に関する便宜上0.1〜9モル/リットルの範囲でリン酸塩水溶液の濃度を調節することが好ましく行われる。
【0028】
上記の濃度範囲で調整されたカルシウム塩水溶液とリン酸塩水溶液は、先に述べた3種類の方法で互いに混合することが出来る。混合の速度は、例えばカルシウム塩水溶液中にリン酸塩水溶液を添加する場合には、カルシウム塩水溶液中に攪拌を行いながらリン酸塩水溶液を10分〜3時間程度の範囲の時間をかけて徐々に添加することが好ましい。この時間より短時間に混合を行うと、析出する第二リン酸カルシウム二水和物が塊状となり精製が困難になる場合がある。また3時間を越えて長時間にわたり徐々に添加を行っても実際的なメリットはない。混合の方法として、リン酸塩水溶液中にカルシウム塩水溶液を添加する場合も同様に、カルシウム酸塩水溶液を10分〜3時間程度の範囲の時間をかけて徐々に添加することが好ましい。カルシウム塩水溶液とリン酸塩水溶液を同時に混合する場合に於いては、これらの水溶液を、別の容器に直接混合しても良いし、或いは適当な容量の水中に攪拌を行いながら両者の溶液を同時に、或いは適当な間隔で添加を行っても良い。添加を開始してから混合が完了するまでの時間は10分〜3時間程度の範囲の時間をかけて徐々に添加することが好ましい。
【0029】
上記の反応を行う際には、反応系に於いてさらにpHを調整するために種々の酸、塩基などを加えて反応が生じている間、前述のように反応系のpHを4〜9の範囲に維持することが好ましい。通常は前述のようなカルシウム塩水溶液とリン酸塩水溶液を用いて両者を混合して反応を行う場合にはpHは反応の進行に伴い酸性側に偏るが、特に制御しなくても上記の範囲内に維持される。しかしながら更に精密にpHを狭い範囲に留めることも好ましく行われ、特にトリス塩酸緩衝液などを用いてpHを調節することも好ましく行うことが出来る。その他、種々のアニオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤などの添加も行うことが出来る。また水溶性ポリマーとして種々のポリマーを添加して反応を行うことも出来るが、場合によっては反応により生成する第二リン酸カルシウム塩の結晶中にこれらの添加物が取り込まれる場合があり、生成物の純度が低下する場合がある。
【0030】
生成した第二リン酸カルシウム二水和物は水溶液から析出して沈殿物を生じる。この際、生じた沈殿物を特に精製せずにそのまま次に述べるアルカリ処理を行っても良いが、沈殿した第二リン酸カルシウム二水和物を濾過などの方法で分離し、さらに純水等で洗浄を行って精製しても良い。精製した第二リン酸カルシウム二水和物は特に乾燥させることなく引き続き次のアルカリ処理を行うことが好ましく行われる。あるいは室温程度の温度から更に低い温度で乾燥を行った後に引き続くアルカリ処理を行うことも好ましく行われる。しかしながら、第二リン酸カルシウム二水和物を室温以上の例えば50℃以上の温度で乾燥を行うなどして熱履歴を与えた場合、乾燥中に結晶同士が相互作用して凝集塊が生成するため、これを用いてアルカリ処理を行った場合に、得られるヒドロキシアパタイトが凝集塊として生成し、微粒子の分散物の状態で得られない場合がある。従って、第二リン酸カルシウム二水和物の平板状結晶を合成した後、熱履歴を与えずに引き続き該アルカリ処理を行うことが好ましい。
【0031】
上記で得られた第二リン酸カルシウム二水和物を用いて、次にアルカリを加えてこれをアルカリ処理することで本発明の目的とするヒドロキシアパタイト微粒子を得る方法について述べる。アルカリを加えた場合のpHは12以上であることが好ましく、特にpHが13を越える場合にヒドロキシアパタイトの生成が促進されることから好ましい。こうした目的で使用されるアルカリとは水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが特に好ましい。これらの水酸化物の添加する割合は、第二リン酸カルシウム二水和物1モルに対して、下記の反応式に基づいて0.6モルの割合で加えることが好ましく、0.6モルから2モルの割合でアルカリが加えられる場合が最も好ましい。
【0032】
5CaHPO・2HO + 3KOH →
Ca(POOH +KHPO +KHPO+4H
【0033】
上記のアルカリは水溶液の形で用いることが好ましく、0.1〜20質量%の範囲で調整したアルカリ水溶液中に、先に得られた第二リン酸カルシウム二水和物を加えて加熱攪拌を行うことで目的とするヒドロキシアパタイト微粒子が得られる。この場合の加熱温度に関しては50℃以上とし、50〜100℃の範囲で処理を行うことが好ましい。この範囲の温度条件でアルカリ処理を行うことで第二リン酸カルシウム二水和物の平板状結晶が瓦解し、微小なヒドロキシアパタイト微粒子が適度の大きさの結晶子を有する形で生成する。さらには、ヒドロキシアパタイト微粒子が分散物の形で二次粒子を形成し、この二次粒子の大きさが数μmから数十μmの範囲の比較的狭い粒子径分布を示す。このことで、本発明により得られる感光性平版印刷版材料の親水性層が均質でかつμmのオーダーで制御された表面荒さを有することで、この上に形成される光重合性感光層により形成される画像との接着性が向上し耐刷性が増すため好ましく、さらに、画質、解像度が向上するため好ましい。
【0034】
本発明において一次粒子の大きさは走査型電子顕微鏡観察より計測し、二次粒子の大きさは光散乱回折式粒度分布計を使用して求められる体積基準粒子径でのメジアン径を意味する。最初に合成する第二リン酸カルシウム二水和物の結晶の大きさが大きいほど、これからアルカリ処理により得られるヒドロキシアパタイト微粒子から形成される二次粒子の大きさも大きくなり、このことを利用して二次粒子の大きさを制御することが可能である。制御可能である範囲は1〜20μmである。さらにはアルカリ処理に際して、処理温度が高い方が形成されるヒドロキシアパタイト微粒子の二次粒子の粒子径分布が均一になり、これから得られる分散物の分散安定性が良好で粗大粒子の混在が防止できることからより好ましい。従って、アルカリ処理を行う際のより好ましい温度範囲は70℃〜100℃の範囲であり、さらに最も好ましい温度範囲は90℃〜100℃の範囲である。但し、何れの温度でアルカリ処理を行っても、得られるヒドロキシアパタイト微粒子の一次粒子の大きさは10〜100nmの範囲にある。処理温度を100℃を越える温度で行うことも可能であり処理に要する時間を短縮することも可能であるが、加圧して処理を行う必要があるため特に迅速に処理を行う必要が無い限り、処理温度を100℃以上に高める必要はない。
【0035】
アルカリ処理に際して、加熱を行う時間については数分間から24時間の範囲であることが好ましく、第二リン酸カルシウム二水和物の結晶が小さい場合には比較的短時間の処理で目的とするヒドロキシアパタイトの微粒子が均一な粒子径分布を以て得られるが、該結晶の大きさが相対的に大きい場合にはより長時間をかけてアルカリ処理を行った方が、粗大粒子の混入を防止できる点で好ましい。最も好ましい処理時間は5分から5時間の範囲である。
【0036】
上記のようなヒドロキシアパタイト微粒子は、その分散物をさらにダイノミルやペイントコンディショナー或いはホモミキサーやホモジナイザーなどの公知の分散方法で分散を行って二次粒子の会合状態をほぐし、より小さな二次粒子の粒子径の分散物を作製することも出来る。
【0037】
上記のような条件でアルカリ処理を行って得られたヒドロキシアパタイトは濾過或いは遠心分離等の方法で分離され精製されることが好ましい。通常の方法で濾過を行い、濾取された固体を水洗することで精製されたヒドロキシアパタイトの微粒子を固体で分離することが出来る。この際、限外濾過装置を利用して分離精製を行うことも好ましく行われる。或いは、遠心分離器を使用してヒドロキシアパタイト微粒子の分散物を遠心沈降させ、沈降した固体を再度水に分散し、再び遠心分離を行うことで精製されたヒドロキシアパタイトの微粒子を固体で取り出すことが出来る。何れの方法によっても、水洗を行うことで高純度のヒドロキシアパタイトの微粒子を簡便に分離することが可能である。また、遠心分離と濾過を組み合わせることでも簡便に、かつ迅速にヒドロキシアパタイトの精製と分離を行うことが出来るため好ましい。
【0038】
上記のようにして分離したヒドロキシアパタイト微粒子は、固体として取り出した後に乾燥させて用いても良いが、乾燥は室温もしくはこれより低い温度で行うことが好ましく、室温より高い例えば50℃以上の温度で乾燥を行った場合、微粒子間で融着が生じ、水中に分散した場合に凝集物が発生し、安定な分散物が得られない場合がある。従って、最も好ましいヒドロキシアパタイトの分散物を得る方法として、上記で遠心分離もしくは濾過により分離したヒドロキシアパタイトに熱履歴を与えることなく、乾燥させるかもしくは乾燥させることなく、水洗して湿潤した状態のまま取り出して、これを再度水に分散させる方法が最も好ましく用いられる。
【0039】
或いは、上記に於いて本発明の方法で得られたヒドロキシアパタイト微粒子を乾燥した状態で用いる場合には、再度ボールミルやグラインダーなどを使用して粉砕することで再度分散することが可能であり、或いは上記に於いて本発明の方法で得られた乾燥したヒドロキシアパタイト微粒子を水中でペイントコンディショナーやダイノミル、ホモミキサー或いはホモジナイザーなどの分散方法を利用して均一で分散安定性の良好なヒドロキシアパタイト微粒子の分散物を得ることが出来る。
【0040】
ヒドロキシアパタイト微粒子の分散物として、水以外の有機溶媒中に分散した分散物を得るためには、予め水に分散した分散物に対して有機溶剤を徐々に添加することで作製することも可能であるが、より好ましくは、上記の方法で乾燥したヒドロキシアパタイト微粒子の粉体を用いて、これを有機溶剤中に添加して分散物を得る方法が最も好ましい。この場合、有機溶剤中に可溶性である界面活性剤や種々のポリマーを添加することも好ましく行われる。また、分散物を作製するに際して、ペイントコンディショナーやダイノミル、ホモミキサー或いはホモジナイザーなどの分散機器を利用して均一で分散安定性の良好なヒドロキシアパタイトの有機溶剤中での分散物を得ることが出来る。
【0041】
本発明に於いては、親水性層には、さらに水溶性ポリマーを含む。水溶性ポリマーとしては、上記のヒドロキシアパタイト微粒子と混合した際に、ヒドロキシアパタイト微粒子の凝集を引き起こさず、均一な分散状態を保つ系が好ましく、さらには、塗膜を形成した際にも、ヒドロキシアパタイト微粒子と該水溶性ポリマーが相分離を起こさず、均一な皮膜を形成し、多孔質構造を生起しない系が最も好ましい。このことは、ヒドロキシアパタイト微粒子と該水溶性ポリマーのみからなる塗布物は外観上透明もしくはやや白濁した半透明であることが好ましく、相分離して白濁した不透明な親水性層は本発明に於いては好ましくない。さらに、表面形状に於いても均一であり、粗面化を引き起こすようなヒドロキシアパタイト微粒子と水溶性ポリマーの組み合わせは好ましくない。水溶性ポリマーはヒドロキシアパタイト微粒子による多孔質構造を防止し、粒子間間隙を埋めることで印刷中のインキの進入を防止する働きを示すことが本質的に重要で、こうした機能を有するためには本質的に任意の水溶性ポリマーを使用することが出来る。
【0042】
本発明の特徴の一つとして、従来技術では例えば特許文献6において示されるような本発明と最も密接に関連した方法に於いて、本発明で使用するヒドロキシアパタイト微粒子に換えてコロイダルシリカを使用した場合には、印刷中にインキ溶剤が親水性層中に浸透することで親水性層の非画像部に於いて保水性が低下する問題があった。このことは印刷中の印刷版の親水性層がインキの浸透により着色する現象が認められたことから明確となった。こうした問題は特にタック値の低い印刷インキを使用した場合に顕著であり、保水性の低下は特に網絡みが発生しやすくなるという問題を引き起こしていた。これに対し、本発明のヒドロキシアパタイトを使用した親水性層を形成した場合、ヒドロキシアパタイトはインキ溶剤の浸透を防止する作用が顕著であり、網絡みの発生が顕著に防止されることが判明し、このことは、おそらくはヒドロキシアパタイト微粒子表面が極めて親水性が高いことから、こうした好ましい効果を発揮する原因と推測される。加えて、本発明のヒドロキシアパタイトを含む親水性層を用いた場合、この上に形成される光重合性感光層との接着性がさらに向上し、耐刷性の向上が顕著であり、特に紫外線硬化インキを使用した場合にも耐刷性が良好になることを見出したことが本発明の特徴である。しかしながら、ヒドロキシアパタイト微粒子を単独で用いようとした場合には、これから形成される親水性層の膜としての力学的な強度が不足し、また用いる支持体との接着性に劣るため、本発明で開示する様々な水溶性ポリマーと併用することが好ましい。
【0043】
本発明に於いて使用できる水溶性ポリマーの例としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、変性澱粉、変性セルロース等を用いることが出来る。さらには、最も好ましい水溶性ポリマーとしては、下記一般式Iで示されるポリマーが挙げられる。
【0044】
【化1】

【0045】
上式に於いて、Xは共重合体組成中に占める繰り返し単位の質量%を表し、1から40までの任意の数値を表す。繰り返し単位Aは反応性基としてカルボキシル基、アミノ基、水酸基、アセトアセトキシ基から選ばれる基を有する繰り返し単位である。繰り返し単位Bは共重合体を水溶性にするために必要な親水性基を有する繰り返し単位である。
【0046】
上記一般式Iで示される水溶性ポリマーは後述する架橋剤との間で効率的に架橋反応が進行するための反応性基を分子内に含むことが重要である。こうした反応性基として特に好ましい例は、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、アセトアセトキシ基が挙げられる。これらの反応性基を分子内に有する水溶性ポリマーを得るには、反応性基を有する各種モノマーを共重合する形で組み込むことが好ましく行われる。前記一般式Iで示す繰り返し単位Aに対応するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン、アクリルアミド−N−グリコール酸等のカルボキシル基含有モノマー及びこれらの塩、アリルアミン、ジアリルアミン、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、4−アミノスチレン、4−アミノメチルスチレン、N,N−ジメチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン、N,N−ジエチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン等のアミノ基含有モノマー、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール等の含窒素複素環含有モノマー、N−メチロールアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類およびアセトアセトキシエチルメタクリレート等が挙げられるが、これらの例に限定されるものではない。
【0047】
上記一般式Iにおいて、繰り返し単位Aの共重合体中に於ける割合であるXは1から40までの範囲にあることが好ましく、この範囲以下では架橋反応が進行しても耐水性が発揮できず、この範囲以上であれば、下記の水溶性を付与するための繰り返し単位Bの導入による効果が薄れ、親水性層の水に対する親和性が低下するため好ましくない。
【0048】
更に、一般式Iにおける繰り返し単位Bを与えるためのモノマーとしては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチルメタクリレート、3−スルホプロピルメタクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホ基含有モノマー及びこれらの塩、ビニルホスホン酸等のリン酸基含有モノマー及びこれらの塩、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、アクリル酸−2−(トリメチルアンモニウム)エチルエステル、メタクリル酸−2−(トリメチルアンモニウム)エチルエステル、アクリル酸−2−(トリエチルアンモニウム)エチルエステル、メタクリル酸−2−(トリエチルアンモニウム)エチルエステル、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド、N,N、N−トリメチル−N−(4−ビニルベンジル)アンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基含有(メタ)アクリレート類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これら水溶性モノマーは繰り返し単位Aを構成するために1種で用いても良いし、任意の2種類以上を用いても良い。本発明に於ける好ましい水溶性ポリマーの例を下記に示す。
【0049】
【化2】

【0050】
【化3】

【0051】
こうした水溶性ポリマーを用いる場合には、ヒドロキシアパタイトとの好ましい比率が存在し、水溶性ポリマーとヒドロキシアパタイトの質量比は1:0.5〜1:4の範囲であることが好ましい。水溶性ポリマーとヒドロキシアパタイトの比が1:0.5の比率からはずれ、この比率よりさらにヒドロキシアパタイトの比率が小さくなると、ヒドロキシアパタイトの添加による保水性の向上効果や網絡みの防止効果が低下し、さらに後述する光重合性感光層との接着性が低下し、印刷時に於いて耐刷性が低下する場合がある。また、水溶性ポリマーとヒドロキシアパタイトとの比が1:4からはずれ、これよりさらにヒドロキシアパタイトの比率が高くなると、親水性層の膜としての力学的な強度が不足し、また用いる支持体との接着性に劣る場合があり、結果として耐刷性に劣る場合がある。また親水性層中に空隙が形成されることから保水性が相対的に低下し、網絡みが発生しやすくなる場合がある。従って、水溶性ポリマーとヒドロキシアパタイトの質量比が1:0.5〜1:4の範囲内でヒドロキシアパタイトを使用した親水性層を形成した場合、ヒドロキシアパタイトはインキ溶剤の浸透を防止する作用が顕著であり、タック値の低いインキを使用した場合でも地汚れが発生しにくく、網部の再現性が良好で網絡みの発生が防止される効果が顕著である。加えて、この親水性層の上に、後述する光重合性感光層を設けて感光性平版印刷版材料として利用する際に、光重合の結果形成される画像部が紫外線硬化インキにより膨潤し、印刷中に親水性層から剥離することで耐刷性が低下することを有効に防止できることを見出したことも、本発明の効果の一つである。比較としてヒドロキシアパタイトに換えて例えば前述の特許文献6に記載されるコロイダルシリカを用いた場合には紫外線硬化インキを用いた印刷に於いて、画像部が親水性層から剥離し、耐刷性が劣る場合があった。
【0052】
本発明に関わる親水性層に添加し、上記水溶性ポリマーを架橋するための架橋剤を用いることが好ましく行われる。この場合架橋剤としては公知の種々の化合物が挙げられる。具体的にはエポキシ化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物およびその誘導体、ホルマリン等のアルデヒド化合物およびメチロール化合物、ヒドラジド化合物などが好ましい例として挙げられる。以下、こうした架橋剤の具体的な例を化学式を添えて説明する。これらの内で特にエポキシ化合物が好ましい例として挙げられる。
【0053】
エポキシ化合物としては分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物で、水溶性であるものが好ましく使用される。こうしたエポキシ化合物は中性から弱酸性条件では水中でも比較的安定であり、親水性層を形成するための塗工液を作成した場合に、塗液寿命が長く連続した生産において極めて有利であり好ましい。好ましいエポキシ化合物の例を下記に示す。
【0054】
【化4】

【0055】
上記のようなエポキシ化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、カルボキシル基やアミノ基が特に好ましい。
【0056】
アジリジン化合物として好ましい化合物の例を下記に示す。こうしたアジリジン化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、カルボキシル基が特に好ましい。
【0057】
【化5】

【0058】
オキサゾリン化合物としては、置換基として下記一般式で示す基を分子内に2個以上含む化合物が好ましく、市販される各種化合物として例えば、(株)日本触媒から「エポクロス」の商品名で提供される各種グレードの化合物が好ましく使用される。こうしたオキサゾリン化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、カルボキシル基が特に好ましい。
【0059】
【化6】

【0060】
イソシアネート化合物としては、水中で安定である化合物が好ましく、いわゆる自己乳化性イソシアネート化合物や、ブロックイソシアネート化合物が好ましく使用される。自己乳化性イソシアネート化合物としては、例えば、特公昭55−7472号公報(米国特許第3,996,154号)、特開平5−222150号(米国特許第5,252,696号)、特開平9−71720号、特開平9−328654号、特開平10−60073号公報等に記載されるような自己乳化性イソシアネートを指す。具体的には、例えば、脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネートから形成される環状三量体骨格のイソシアヌレート構造を分子内に有するポリイソシアネートや、ビュレット構造、ウレタン構造等を分子内に有するポリイソシアネートをベースポリイソシアネートとし、これに片末端エーテル化したポリエチレングリコール等をポリイソシアネート基の内一部のみに付加させて得られる構造のポリイソシアネート化合物が極めて好ましい例として挙げられる。こうした構造のイソシアネート化合物の合成法については上記の明細書中に記載されている。こうしたイソシアネート化合物の具体的な例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート等を出発原料とした環状三量化によるポリイソシアネートをベースポリイソシアネートとしたものが市販されており、例えば、旭化成工業株式会社からデユラネートWB40或いはWX1741等の名称で入手可能である。ブロックイソシアネート化合物としては、例えば特開平4−184335号、特開平6−175252号明細書等に見られるように、重亜硫酸塩、アルコール類、ラクタム類、オキシム類、活性メチレン類などでブロックされたブロックイソシアネートが好ましく用いられる。こうしたイソシアネート化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、水酸基やアミノ基が特に好ましい。
【0061】
ホルマリン等のアルデヒド化合物およびメチロール化合物の例としては、ホルマリン、グリオキザール、および下記に示すような種々のN−メチロール化合物を例示することが出来る。こうした化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、水酸基やアミノ基が特に好ましい。
【0062】
【化7】

【0063】
ヒドラジド化合物として好ましく使用できる化合物の例を下記に示す。こうしたヒドラジド化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、アセトアセトキシ基のような活性メチレン基が特に好ましい。
【0064】
【化8】

【0065】
上記のような種々の架橋剤と該水溶性ポリマーとの比率に関しては好ましい範囲が存在する。該水溶性ポリマー100質量部に対して架橋剤は1〜40質量部の範囲で用いることが好ましく、1質量部以下では架橋耐水化が不十分であり、印刷中に親水性層の剥離が生じる場合がある。逆に40質量部以上用いた場合には、親水性層の水に対する親和性が低下し、地汚れの原因となることがある。また、本発明の親水性層は、前述したヒドロキシアパタイト以外にも、二酸化チタンやコロイダルシリカ等の無機微粒子を含有していても良いが、この場合、ヒドロキシアパタイトに対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0066】
親水性層を形成する支持体としては各種プラスチックフィルムおよびアルミニウム板が挙げられる。プラスチックフィルム支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、硝酸セルロースなどが代表的に挙げられ、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく用いられる。これらのフィルムは親水性層を設ける前に、表面に親水化加工が施されていることが好ましく、こうした親水化加工としては、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。さらなる親水化加工として基材上に設ける親水性層との接着性を高めるため基材上に下引き層を設けても良い。下引き層としては、親水性樹脂を主成分とする層が有効である。親水性樹脂としては、ゼラチン、ゼラチン誘導体(例えば、フタル化ゼラチン)、ヒドロキエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、キサンタン、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の水溶性樹脂が好ましい。特に好ましくは、ゼラチン、ポリビニルアルコールが挙げられる。こうした下引き層を介してフィルム支持体と親水性層を形成することで、多部数にわたるロングラン印刷条件での耐刷性が向上するため好ましく利用される。
【0067】
支持体としてアルミニウム板を使用する場合には、親水性層との接着性を良好にする目的で、粗面化処理され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板が好ましく用いられる。さらに、表面をシリケート処理したアルミニウム板も好ましく用いることが出来るが、印刷時に於ける親水性は本発明で得られる親水性層で発現されるため、アルミニウム表面の親水化処理としてのシリケート加工は特に必要としない。
【0068】
本発明に関わる光重合性感光層には不飽和二重結合基を側鎖に有する水溶性重合体が含まれる。この場合、側鎖に導入される不飽和二重結合基としてはアクリロイル基、メタクリロイル基、スチレニル基等のビニル性二重結合基やアリル基などが好ましい。これらの不飽和二重結合基を水溶性重合体側鎖に導入する具体的方法については、例えば前述の特許文献5に示される方法が挙げられる。
【0069】
該水溶性重合体として水に対して良好な溶解性を示すためには、該重合体中には側鎖にカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などの酸性基を有することが好ましく、これらの酸性基は任意の塩基により中和されている場合が特に好ましい。これらのうちで特にスルホン酸塩基を側鎖に有する水溶性重合体が最も良好な水溶性を示し、これを用いた光重合性感光層は水現像性が良好であることから特に好ましい。
【0070】
更に好ましい該水溶性重合体の例として、スルホン酸塩基と、ヘテロ環を含む連結基を介してビニル基が結合したフェニル基の両方を側鎖に有する水溶性重合体が挙げられる。該ヘテロ環を含む連結基を介してビニル基が結合したフェニル基とは、下記一般式IIで表される基を側鎖に有するものである。
【0071】
【化9】

【0072】
式中、Zはヘテロ環を有する連結基を表し、R、R、及びRは、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。Rは水素原子と置換可能な基または原子を表す。nは1を表し、mは0〜4の整数を表し、kは1〜4の整数を表す。上記ヘテロ環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、更にこれらの複素環には置換基が結合していても良い。一般式IIで表される基の例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0073】
【化10】

【0074】
【化11】

【0075】
上記一般式IIで表される基の中には好ましいものが存在する。即ち、R及びRが水素原子でRが水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)であるものが好ましい。更に、連結基としてはチアジアゾール環を含む連結基が好ましく、kは1または2であるものが好ましい。
【0076】
該重合体組成中に同時に含まれるスルホン酸基とは下記一般式IIIに示すように連結基を介して主鎖にスルホン酸基が結合したものであり、スルホン酸基は任意の塩基により中和され、塩の形になっているものが好ましい。
【0077】
【化12】

【0078】
上記一般式IIIにおいて、連結基Lは主鎖とスルホン酸基を連結する任意の原子、基を表し、アルキレン基、アリーレン基などが好ましい。スルホン酸基と塩を形成する塩基Bとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの無機塩基や各種アミン類および水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、コリンなどの4級アンモニウム塩基などが好ましく用いられる。
【0079】
本発明において光重合性感光層に含まれる該重合体は水現像が可能であるため水溶性であることが特徴である。該重合体組成中におけるスルホン酸基と、ヘテロ環を介してビニル基が結合したフェニル基の割合については好ましい範囲が存在する。スルホン酸基を有する繰り返し単位は重合体組成中に於いて40質量%から90質量%の範囲が好ましく、これ以下の場合には重合体が水に不溶となり、水現像あるいは印刷機上での現像性が低下する場合がある。また、90質量%以上の場合には、十分な耐刷性が得られない場合がある。
【0080】
上記のスルホン酸基を中和するための塩基としてさらに好ましい塩基が存在する。それは、水酸基を有する3級アミンであり、具体的にはジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、n−ブチルジエタノールアミン、t−ブチルジエタノールアミンが更に好ましい例として挙げられる。これらの塩基を用いて該スルホン酸基を中和した重合体を用いることで、重合体の水現像性あるいは機上現像性が極めて良好となり、地汚れの発生を防止する上で極めて好ましい。
【0081】
上記重合体の分子量に関しては好ましい範囲が存在し、重量平均分子量で5000から20万の範囲が好ましく、これ以下の分子量では耐刷性が不十分となり好ましくなく、また20万を越える分子量では塗布する際の塗液粘度が高くなりすぎ、均一な塗布が困難になる場合がある。最も好ましい分子量範囲は数万から10万の間である。
【0082】
上記重合体組成中には、目的に応じて上記のスルホン酸基およびビニル基を有する繰り返し単位以外にも種々の繰り返し単位を導入することが出来る。例えば、親水性モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン、アクリルアミド−N−グリコール酸等のカルボキシル基含有モノマー及びこれらの塩、ビニルホスホン酸等のリン酸基含有モノマー及びこれらの塩、アリルアミン、ジアリルアミン、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、4−アミノスチレン、4−アミノメチルスチレン、N,N−ジメチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン、N,N−ジエチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン等のアミノ基含有モノマー及びこれらの4級アンモニウム塩、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環含有モノマー及びこれらの4級アンモニウム塩、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基含有(メタ)アクリレート類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これら水溶性モノマーは1種で用いても良いし、任意の2種類以上を用いても良い。
【0083】
或いは、疎水性モノマーとして、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のアリール(メタ)アクリレート類またはアリールアルキル(メタ)アクリレート類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等各種モノマーを挙げることができる。これらの任意の組み合わせで構成される、該スルホン酸基とビニル基を同時に繰り返し単位に含む共重合体を本発明における重合体として使用することができる。こうした該スルホン酸基とビニル基以外の繰り返し単位を該重合体に含む場合、該重合体中に於ける割合は全体の50質量%以下に留めることが好ましく、これ以上の割合で導入した場合には本発明の目的とする地汚れ防止と耐刷性の両立に支障を来す場合があり好ましくない。
【0084】
本発明に於ける好ましい重合体の例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。式中、数字は各繰り返し単位の重合体中に於ける質量%を表す。これらの重合体の合成方法に関しては、例えば前述の特許文献5中に記載される合成例と同様な方法により容易に合成される。
【0085】
【化13】

【0086】
【化14】

【0087】
【化15】

【0088】
本発明に関わる該光重合性感光層には、該重合体と併せて、光重合開始剤を含有する。本発明に用いられる光重合開始剤としては、光または電子線の照射によりラジカルを発生し得る化合物であれば任意の化合物を用いることができる。
【0089】
本発明に用いることのできる光重合開始剤の例としては(a)芳香族ケトン類、(b)芳香族オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(e)ケトオキシムエステル化合物、(f)アジニウム化合物、(g)活性エステル化合物、(h)メタロセン化合物、(i)トリハロアルキル置換化合物、及び(j)有機ホウ素化合物等が挙げられる。
【0090】
(a)芳香族ケトン類の好ましい例としては、”RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY”J.P.FOUASSIER,J.F.RABEK(1993)、P.77〜P.177に記載のベンゾフェノン骨格、或いはチオキサントン骨格を有する化合物、特公昭47−6416号公報に記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号公報に記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326号公報に記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664号公報に記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報に記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報に記載のジアルコキシベンゾフェノン類、特公昭60−26403号、特開昭62−81345号公報に記載のベンゾインエーテル類、特開平2−211452号公報に記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報に記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報に記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報に記載のアシルホスフィン類、特公昭63−61950号公報に記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報に記載のクマリン類を挙げることができる。
【0091】
(b)芳香族オニウム塩の例としては、N、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、TeまたはIの芳香族オニウム塩が含まれる。このような芳香族オニウム塩は、特公昭52−14277号、同昭52−14278号、同昭52−14279号公報等に例示されている化合物を挙げることができる。
【0092】
(c)有機過酸化物の例としては、分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物のほとんど全てが含まれるが、例えば、3,3′,4,4′−テトラ−(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ−(tert−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−tert−ブチルジパーオキシイソフタレート等の過酸化エステル系が好ましい。
【0093】
(d)ヘキサアリールビイミダゾールの例としては、特公昭45−37377号、同昭44−86516号公報に記載のロフィンダイマー類、例えば2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロメチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0094】
(e)ケトオキシムエステルの例としては、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0095】
(f)アジニウム塩化合物の例としては、特開昭63−138345号、同昭63−142345号、同昭63−142346号、同昭63−143537号、特公昭46−42363号公報等に記載のN−O結合を有する化合物群を挙げることができる。
【0096】
(g)活性エステル化合物の例としては特公昭62−6223号公報等に記載のイミドスルホネート化合物、特公昭63−14340号、特開昭59−174831号公報等に記載の活性スルホネート類を挙げることができる。
【0097】
(h)メタロセン化合物の例としては、特開昭59−152396号、同昭61−151197号、同昭63−41484号、同平2−249号、同平2−4705号公報等に記載のチタノセン化合物ならびに、特開平1−304453号、同平1−152109号公報等に記載の鉄−アレーン錯体等を挙げることができる。具体的なチタノセン化合物としては、例えば、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ジ−クロライド、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジシクロペンタジエニル−Ti−2,6−ジ−フルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジ−フルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロ−3−(ピル−1−イル)−フェニ−1−イル等を挙げることができる。
【0098】
(i)トリハロアルキル置換化合物の例としては、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、米国特許第3,954,475号、同第3,987,037号、同第4,189,323号、特開昭61−151644号、同昭63−298339号、同平4−69661号、同平11−153859号公報等に記載のトリハロメチル−s−トリアジン化合物、特開昭54−74728号、同昭55−77742号、同昭60−138539号、同昭61−143748号、同平4−362644号、同平11−84649号公報等に記載の2−トリハロメチル−1,3,4−オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。また、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合した、特開2001−290271号公報等に記載のトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0099】
(j)有機ホウ素塩化合物の例としては、特開平8−217813号、同平9−106242号、同平9−188685号、同平9−188686号、同平9−188710号公報等に記載の有機ホウ素アンモニウム化合物、特開平6−175561号、同平6−175564号、同平6−157623号公報等に記載の有機ホウ素スルホニウム化合物及び有機ホウ素オキソスルホニウム化合物、特開平6−175553号、同平6−175554号公報等に記載の有機ホウ素ヨードニウム化合物、特開平9−188710号公報等に記載の有機ホウ素ホスホニウム化合物、特開平6−348011号、同平7−128785号、同平7−140589号、同平7−292014号、同平7−306527号公報等に記載の有機ホウ素遷移金属配位錯体化合物等が挙げられる。また、特開昭62−143044号、同平5−194619号公報等に記載の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有するカチオン性色素が挙げられる。
【0100】
また、本発明の光重合性感光層を、405nm付近の紫外光に対応させる場合には、(d)ヘキサアリールビイミダゾール、(h)メタロセン化合物、(i)トリハロアルキル置換化合物、(j)有機ホウ素塩化合物が特に好ましい。
【0101】
また、本発明の光重合性感光層を750nm以上の近赤外〜赤外光に対応させる場合には(i)トリハロアルキル置換化合物、(j)有機ホウ素塩化合物が特に好ましい。
【0102】
上記光重合開始剤は単独で用いても良いし、任意の2種以上の組み合わせで用いても良い。特に、(i)トリハロアルキル置換化合物と(j)有機ホウ素塩化合物を組み合わせて用いた場合には、感度が大幅に向上するために好ましい。光重合開始剤の光重合性感光層中に占める含有量は、前記重合体に対して、1〜100質量%の範囲が好ましく、更に1〜40質量%の範囲が特に好ましい。
【0103】
本発明に関わる光重合開始剤については特に有機ホウ素塩が好ましく用いられる。更に好ましくは、有機ホウ素塩とトリハロアルキル置換化合物(例えばトリハロアルキル置換された含窒素複素環化合物としてs−トリアジン化合物およびオキサジアゾール誘導体、トリハロアルキルスルホニル化合物)を組み合わせて用いることである。
【0104】
有機ホウ素塩を構成する有機ホウ素アニオンは、下記一般式IVで表される。
【0105】
【化16】

【0106】
式中、R、R、RおよびRは各々同じであっても異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R、R、RおよびRの内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0107】
上記の有機ホウ素アニオンは、これと塩を形成するカチオンが同時に存在する。この場合のカチオンとしては、アルカリ金属イオン、オニウムイオン及びカチオン性増感色素が挙げられる。オニウム塩としては、アンモニウム、スルホニウム、ヨードニウムおよびホスホニウム化合物が挙げられる。アルカリ金属イオンまたはオニウム化合物と有機ホウ素アニオンとの塩を用いる場合には、別に増感色素を添加することで色素が吸収する光の波長範囲での感光性を付与することが行われる。また、カチオン性増感色素の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有する場合は、該増感色素の吸収波長に応じて感光性が付与される。しかし、後者の場合は更にアルカリ金属もしくはオニウム塩の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを併せて含有するのが好ましい。
【0108】
本発明に用いられる有機ホウ素塩としては、先に示した一般式IVで表される有機ホウ素アニオンを含む塩であり、塩を形成するカチオンとしてはアルカリ金属イオンおよびオニウム化合物が好ましく使用される。特に好ましい例は、有機ホウ素アニオンとのオニウム塩として、テトラアルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等のスルホニウム塩、トリアリールアルキルホスホニウム塩等のホスホニウム塩が挙げられる。特に好ましい有機ホウ素塩の例を下記に示す。
【0109】
【化17】

【0110】
【化18】

【0111】
本発明において、有機ホウ素塩とともに用いることでさらに高感度化、硬調化が具現される光重合開始剤としてトリハロアルキル置換化合物が挙げられる。上記トリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体およびオキサジアゾール誘導体が挙げられ、或いは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0112】
トリハロアルキル置換した含窒素複素環化合物やトリハロアルキルスルホニル化合物の特に好ましい例を下記に示す。
【0113】
【化19】

【0114】
【化20】

【0115】
本発明に関わる光重合性感光層は、前記した光重合開始剤を増感する化合物を含有する。特に、光波長域が400〜430nm若しくは750nm〜1100nmに感度のピークを有し、この波長領域に吸収を有し、前述の光重合開始剤を増感する化合物を併せて含有することが好ましい。400〜430nmの波長域の感度を増大される化合物としてシアニン系色素、特開平7−271284号公報、特開平8−29973号公報等に記載されるクマリン系化合物、特開平9−230913号公報、特開2001−42524号公報等に記載されるカルバゾール系化合物や、特開平8−262715号公報、特開平8−272096号公報、特開平9−328505号公報等に記載されるカルボメロシアニン系色素、特開平4−194857号公報、特開平6−295061号公報、特開平7−84863号公報、特開平8−220755号公報、特開平9−80750号公報、特開平9−236913号公報等に記載されるアミノベンジリデンケトン系色素、特開平4−184344号公報、特開平6−301208号公報、特開平7−225474号公報、特開平7−5685号公報、特開平7−281434号公報、特開平8−6245号公報などに記載されるピロメチン系色素、特開平9−80751号公報などに記載されるスチリル系色素、或いは(チオ)ピリリウム系化合物等が挙げられる。これらの内、シアニン系色素またはクマリン系化合物或いは(チオ)ピリリウム系化合物が好ましい。好ましく用いることの出来るシアニン系色素の例を下記に示す。
【0116】
【化21】

【0117】
【化22】

【0118】
400〜430nmの波長域の感度を増大されるために用いることの出来る好ましいクマリン系化合物としての例を下記に示す。
【0119】
【化23】

【0120】
【化24】

【0121】
【化25】

【0122】
400〜430nmの波長域の感度を増大されるために用いることの出来る好ましい(チオ)ピリリウム系化合物としての例を下記に示す。
【0123】
【化26】

【0124】
750〜1100nmの波長域における増感色素として、シアニン系色素、ポリフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ系化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、スクアリリウム系化合物、(チオ)ピリリウム系化合物が挙げられ、更に、欧州特許第0,568,993号明細書、米国特許第4,508,811号明細書、同5,227,227号明細書に記載の化合物も用いることができる。
【0125】
750〜1100nmの波長域の近赤外光に対応する好ましい増感色素の例を下記に示す。
【0126】
【化27】

【0127】
【化28】

【0128】
本発明は、光重合性感光層中に多官能性モノマーを含有することも出来る。こうした多官能性モノマーの例としては、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能性アクリル系モノマー、或いは、アクリロイル基、メタクリロイル基を導入した各種重合体としてポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等も同様に使用される。
【0129】
その他の添加剤として、本発明に関わる光重合性感光層中には、液物性、硬化反応性、硬化物の物理的性質(力学的、光学的等)を改善する目的で種々の添加剤が含有されていても良い。液物性を改善する目的で、水、アルコール類、ケトン類、炭化水素溶媒、芳香族溶媒、エーテル類、アミン類、アミド類等の種々の化合物を添加することが好ましく行われる。更にはアクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン系樹脂等の種々の疎水性樹脂や、あるいはポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール類、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体等の親水性樹脂を添加して使用することも可能である。
【0130】
光重合性感光層の着色を目的として、カーボンブラック、フタロシアニン系顔料、酸化チタン、群青、亜鉛華、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナ白等の種々の顔料や公知の各種染料を含むことも好ましく行われる。
【0131】
本発明に関わる光重合性感光層中には、更に長期にわたる保存に関して、熱重合による暗所での硬化反応を防止するために重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。こうした目的で好ましく使用される重合禁止剤としては、ハイドロキノン類、カテコール類、ナフトール類、クレゾール類等の各種フェノール性水酸基を有する化合物やキノン類化合物、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル類、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩類等が好ましく使用される。この場合の重合禁止剤の添加量としては、該光重合性組成物総量100質量部に対して0.01質量部から10質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0132】
光重合性感光層の乾燥固形分塗布量に関しては、乾燥質量で1平方メートルあたり0.3gから10gの範囲の乾燥固形分塗布量で形成することが好ましく、更に0.5gから3gの範囲であることが良好な解像度を発揮し、かつ細線画像や微小網点画像の耐刷性を確保し、同時に耐摩耗性を大幅に向上させるために極めて好ましい。光重合性感光層は上述の種々の要素を混合した溶液を作製し、公知の種々の塗布方式を用いて支持体表面あるいは親水性層上に塗布、乾燥される。
【0133】
本発明の感光性平版印刷版材料においては、光重合性感光層の上に、更に保護層を設けることも好ましく行われる。保護層は、感光層中で露光により生じる画像形成反応を阻害する大気中に存在する酸素や塩基性物質等の低分子化合物の感光層への混入を防止し、大気中での露光感度を更に向上させる好ましい効果を有する。更には感光層表面を傷から防止する効果も併せて期待される。従って、このような保護層に望まれる特性は、酸素等の低分子化合物の透過性が低く力学的強度に優れ、更に、露光に用いる光の透過は実質阻害せず、感光層との密着性に優れ、かつ、露光後の現像工程で容易に除去できることが望ましい。本発明の水現像可能な感光性平版印刷版材料においては、水現像の過程においてこうした保護層と光重合性感光層の未露光部の除去が同時に行うことも可能であるため、特に保護層の除去工程を設ける必要が無いことが特徴である。更に、先に述べたような光重合性感光層に含まれる該重合体が水溶性であるが故に大気中の水分を吸湿しブロッキングを発生したり、保存中に感度変化等の問題を生じる場合があるが、保護層を光重合性感光層の上部に設けることでこうしたブロッキングや感度変化の問題を解消することが可能である。加えて、特に405nm付近の波長域の青紫色半導体レーザーを使用して記録を行う場合、特に高感度である感光層が要求される。こうした場合に、保護層を設けることで更に感度が上昇するため特に好ましく適用することができる。
【0134】
このような、保護層に関する工夫が従来よりなされており、米国特許第3,458,311号明細書、特開昭55−49729号公報等に詳しく記載されている。保護層に使用できる材料としては例えば、比較的結晶性に優れた水溶性高分子化合物を用いることが良く、具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリアクリル酸などのような水溶性ポリマーが知られているが、これらの内、ポリビニルアルコールを主成分として用いることが、酸素遮断性、現像除去性といった基本特性的に最も良好な結果を与える。保護層に使用するポリビニルアルコールは、必要な酸素遮断性と水溶性を有するための未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテル、およびアセタールで置換されていても良い。また、同様に一部が他の共重合成分を有していても良い。こうした保護層を適用する際の乾燥固形分塗布量に関しては好ましい範囲が存在し、感光層上に乾燥質量で1平方メートルあたり0.1gから10gの範囲の乾燥固形分塗布量で形成することが好ましく、更には0.2gから2gの範囲が好ましい。保護層は、公知の種々の塗布方式を用いて光重合性感光層上に塗布、乾燥される。
【0135】
上記のようにして支持体上に形成された光重合性感光層と親水性層を有する材料を印刷版として使用するためには、これに密着露光あるいはレーザー走査露光を行い、露光された部分が架橋することで水に対する溶解性が低下することから、水により未露光部を溶出することでパターン形成が行われる。
【0136】
本発明において、水現像に使用される水とは、純水もしくはこれに各種無機、有機イオン性化合物が含まれても良く、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムイオンなどが含まれる水であっても良い。また、印刷機上で湿し水を機上現像用に用いる場合には、各種市販の湿し水が使用でき、pHは7±2の範囲内で用いることが好ましい。また、水には各種アルコール類として、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、メトキシエタノール、ポリエチレングリコールなどの溶剤が含まれていても良い。或いは、市販される各種ガム液を使用して現像することも、版面を指紋汚れ等から保護する目的で好ましく用いることが出来る。
【0137】
以下実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部数や百分率は質量基準である。
【実施例】
【0138】
(合成例1)
塩化カルシウム二水和物29.4gおよび1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.5)10gを溶解した水溶液200ml中を作製し、氷冷した水浴上で攪拌を行い、内温を2℃に調節した。滴下漏斗を用いて、リン酸水素二ナトリウム12水和物71.6gと1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.5)2gを溶解した水溶液130mlを1時間にわたり徐々に滴下した。滴下終了後の溶液のpHは6.5であった。滴下終了後、反応系は室温に保ち、さらに一時間攪拌を行った後、濾過を行い濾紙上の結晶を十分水洗することで精製を行った。結晶は乾燥させずに引き続き下記のアルカリ処理に給した。
【0139】
上記で得られた湿潤状態の第二リン酸カルシウム二水和物全量を300mlのフラスコ内に移し、水200mlを加え、さらに水酸化カリウム16gを加えて攪拌を行った。反応系のpHは13.5であった。フラスコを油浴上に移し、攪拌しながら内温を95℃になるまで30分を要して昇温した。内温が95℃に達した時点から3時間この温度に保った後、攪拌を行いながら室温まで徐々に冷却を行った。溶液全体を、遠心分離器を用いて遠心分離し、沈殿物を濾紙上に移した。水で十分に洗浄を行うことで精製を行った。得られた試料の一部を室温で乾燥し、走査型電子顕微鏡、X線回折、FT−IRおよび蛍光X線分析により解析を行った。残りの試料は水洗後、湿潤状態のまま全体が100mlになるよう水を加えて分散を行うことでヒドロキシアパタイト微粒子の分散物を作製した。この際、添加する水の量を調節して分散物中のヒドロキシアパタイト微粒子の濃度が10質量%になるよう調節した。アルカリ処理後に得られたヒドロキシアパタイト微粒子の走査型電子顕微鏡による拡大図を図1に示した。得られた微粒子の一次粒子の形状は米粒状であり、大きさは、大凡35nm程度の大きさであることが分かった。また、光散乱回折方式粒度分布計で測定した二次粒子の体積平均粒子径(メジアン径)は6.5μmであった。蛍光X線測定による試料中のCa(カルシウム)およびP(リン)の定量を行ったところ、Ca/P=1.68/1(モル比)であった。なお、得られたヒドロキシアパタイト微粒子の収率は、理論値のほぼ85%の収率でヒドロキシアパタイト微粒子が得られていることが分かった。
【0140】
(実施例1〜7)
【0141】
(親水性層)
塩化ビニリデンとゼラチンをこの順に積層した下引き層を有する厚み100μmのポリエステルフィルムを使用して、この上に下記の処方で示される親水性層を各々形成した。親水性層の塗布量は各々乾燥質量で1平方メートル当たり4gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で20分間加熱して乾燥を行った。試料はさらに40℃の乾燥機内で3日間加熱を行った後、引き続く光重合性感光層の塗布に給した。
【0142】
(親水性層塗液処方)
水溶性ポリマー(A−5)(10%水溶液) 10g
ヒドロキシアパタイト微粒子分散液(10%分散液)(表1に記載の量)
架橋剤(E−2) 0.2g
純水 5g
【0143】
【表1】

【0144】
(光重合性感光層)
上記のように作製した親水性層の上に、下記光重合性感光層塗液処方の塗布液を塗布し、光重合性感光層を形成した。光重合性感光層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり1gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で10分間加熱して乾燥を行った。
【0145】
(光重合性感光層塗液処方)
ポリマー(SP−8:重量平均分子量約5万)溶液(25%濃度)4g
光重合開始剤(BC−6) 0.1g
光重合開始剤(T−2) 0.05g
トリメチロールプロパントリアクリレート 0.5g
増感色素(S−38) 0.03g
ビクトリアブルー(着色用染料) 0.02g
ジオキサン 9g
エタノール 1g
【0146】
(露光および現像条件)
上記のようにして作製した光重合性感光層および親水性層を設けることで各々実施例1〜7の感光性平版印刷版を作製した。各々の試料を以下のようにして露光を行い、さらに水で現像した後に下記に示す印刷性試験を行った。露光はアルミ印刷版に用いられる830nmレーザーを搭載したPT−R4000(大日本スクリーン製造(株)製)を使用し、この装置を用いて描画を行うために、0.24mmのアルミ板上に上記の試料をセロハンテープを用いて感光層が表面になるように張り合わせた。露光エネルギーは、フィルム表面上で100mJ/cm程度になるように設定し、ドラム回転数1000rpmで描画を行った。テスト用画像として、2400dpi、175線相当の網点階調パターンで網点面積率が5〜95%の範囲で10%ずつ変化させた網点パターンと10〜100μm細線を出力した。上記で描画を行った各試料を30℃に調節した水中に浸けながら、スポンジで軽く表面を擦ることで未露光部を除去し現像を行った。
【0147】
(印刷性試験1.紫外線硬化インキを使用した耐刷性試験)
印刷機として、オフセット枚葉印刷機リョービ560を使用し、印刷インキは紫外線硬化インキBest Cure RNCプロセス紅を使用し、吸湿液は東洋インク(株)製オフセット印刷用吸湿液アクワユニティWKKの1%水溶液を使用した。印刷枚数は3万枚まで実施し、印刷評価項目として、耐刷性についてテスト画像中の微小網点および細線が欠落し始めるまでの刷り枚数を以て評価を行った。耐刷性に関しては1万枚以上の刷り枚数で実用的には可とし、これ未満である場合は不可と判断した。
【0148】
(印刷性試験2.タック値の低いインキを使用した保水性試験)
印刷機として、オフセット枚葉印刷機リョービ560を使用し、印刷インキはタック値の低いインキとしてDIC(株)製ニューチャンピオンFグロス紫インキを使用し、湿し水は市販のPS版用給湿液トーホーエッチ液を2%に希釈して使用した。印刷枚数は5000枚まで実施し、印刷評価項目として、保水性は印刷を通して地汚れが無い場合を○とし、印刷初期或いは後期に地汚れが発生した場合を△、終始地汚れが認められた場合を×とした。網絡み性評価として、175線相当の網点階調パターンについて全ての網点面積率で良好な印刷が行えた場合を○とし、網点面積率が85〜95%の範囲に於いてのみ網絡みが認められた場合を△、これ以下の網点面積率で網絡みが発生した場合を×とした。実用上は△以上の性能で可と判断し、×である場合を不可とした。
【0149】
以上のようにして評価を行った結果を表2にまとめた。
【0150】
【表2】

【0151】
表2に見られるように、何れの実施例においても1万枚以上の良好な耐刷性を示すと共に、良好な保水性および網絡み性を示す結果であった。但し、ヒドロキシアパタイトの比率が低い実施例6については耐刷性が相対的に低く、保水性、網絡み性共にやや劣る結果であった。またヒドロキシアパタイトの比率が相対的に多い実施例7についても同様にやや劣る結果であった。
【0152】
(比較例1〜3)
【0153】
(親水性層)
実施例1〜7と同様にして塩化ビニリデンとゼラチンをこの順に積層した下引き層を有する厚み100μmのポリエステルフィルムを使用して、この上に下記の処方で示される親水性層を形成した。親水性層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり2gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で20分間加熱して乾燥を行った。試料はさらに40℃の乾燥機内で3日間加熱を行った後、引き続く光重合性感光層の塗布に給した。
【0154】
(比較親水性層塗液処方)
水溶性ポリマー(A−5)溶液(10%濃度) 10g
コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製スノーテックスS、20%水溶液)
(表3に記載の量)
架橋剤(E−2) 0.2g
純水 5g
【0155】
【表3】

【0156】
上記のようにして作製した比較親水性層を設けた支持体上に、実施例1〜7と同様にして同一の光重合性感光層塗液を塗布、乾燥することで比較例1〜3感光性平版印刷版を作製した。実施例1〜7と同様にして露光および水による現像処理を行った後、同様に印刷評価を行い、表4に示す結果を得た。
【0157】
【表4】

【0158】
表4の結果から、何れの比較例においても耐刷性および保水性、網絡み性において満足すべき結果は得られなかった。
【0159】
(実施例8〜10)
実施例4で作製した親水性層の上に、光重合性感光層塗布液中のポリマーを実施例1〜7で使用したポリマー(SP−8)に替えて下記に示すポリマーをそれぞれ使用した以外は同様にして光重合性感光層を塗布し、各々実施例8〜10の感光性平版印刷版材料を作製した。これらについて同様に評価を行った結果を表5に示した。下記化学式中に於ける数値はポリマー中に於ける各繰り返し単位の質量比を表す。
【0160】
【化29】

【0161】
【化30】

【0162】
【化31】

【0163】
【表5】

【0164】
表5に見られるように、何れの実施例8〜10においても1万枚以上の良好な耐刷性を示すと共に、良好な保水性および網絡み性を示す結果であった。但し、実施例4との比較に於いては耐刷性が相対的に低く、保水性、網絡み性共にやや劣る結果であった。
【0165】
(実施例11〜13)
実施例2〜4で作製した親水性層の上に、各々下記に示す光重合性感光層塗液処方を用いて光重合性感光層を塗布した。光重合性感光層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり1.6gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。さらに、各々の光重合性感光層の上に保護層としてポリビニルアルコール(クラレ(株)製PVA−105)を使用して乾燥塗布質量で1平方メートル当たり2.0gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行い、80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行うことでそれぞれ実施例11〜13の感光性平版印刷版材料を作製した。
【0166】
(光重合性感光層塗液処方)
バインダーポリマー(SP−7:重量平均分子量約4万)(25%濃度)
1.20質量部
トリメチロールプロパントリアクリレート 0.50質量部
光重合開始剤(T−8) 0.15質量部
光重合開始剤(BC−6) 0.15質量部
増感色素(S−16) 0.04質量部
フタロシアニンブルー(着色用顔料) 0.02質量部
ジオキサン 25質量部
【0167】
上記のようにして作製した実施例11〜13の感光性平版印刷版材料を次のようにして露光試験を行った。露光は光波長が405nmの半導体レーザーを搭載したCTP用イメージセッターVIPLAS(三菱製紙(株)製)を使用し、この装置を用いて版面上の露光エネルギーが120μJ/cmになるように設定し、走査露光方式により描画を行った。テスト用画像として、2400dpi、175線相当の1%から97%までの網点面積率を示す網点階調パターンと10〜100μmの細線を出力した。先の実施例と同様にして水による現像処理を行った後、同様に印刷評価を行い、表6に示す結果を得た。
【0168】
【表6】

【0169】
表6に見られるように、実施例11〜13の何れにおいても良好な耐刷性を示すと共に、良好な保水性および網絡み性を示す結果であった。
【0170】
以上の結果から、本発明により、CTP方式に利用できる高感度な感光性平版印刷版材料であり、水により現像が可能で、特に紫外線硬化インキを使用した場合にも耐刷性が良好であり、またタック値の低いインキを使用した場合にも網絡みの発生のない印刷性に優れた感光性平版印刷版材料が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、水溶性ポリマーとヒドロキシアパタイトを含有する親水性層と、該親水性層上に、不飽和二重結合基を側鎖に有する水溶性重合体、光重合開始剤、および光重合開始剤を増感する化合物を含有する光重合性感光層を有する感光性平版印刷版材料。
【請求項2】
前記水溶性ポリマーとヒドロキシアパタイトを質量比で1:0.5〜1:4の範囲で含有する親水性層を有する請求項1に記載の感光性平版印刷版材料。

【図1】
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【公開番号】特開2012−203312(P2012−203312A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69758(P2011−69758)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】