説明

感光性樹脂版の現像廃液処理装置

【課題】感光性樹脂版の現像廃液から感光性樹脂成分を簡単な方法で効率良く分離するための現像廃液処理装置を提供すること。
【解決手段】側面および底面にヒーターを具備する本体容器を有する感光性樹脂版の現像廃液処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂版の現像廃液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂組成物を印刷用版材として使用することは一般的に行われ、樹脂凸版、平版、凹版、フレキソ版印刷の各分野において主流となっている。感光性樹脂版は、感光性樹脂層に潜像を形成した後、現像によりレリーフ像を形成して印刷版として使用するものである。感光性樹脂層に潜像を形成する方法として、ネガティブまたはポジティブの原画フィルムを感光性樹脂層に密着させ、原画フィルムを通して活性光線を照射する方法や、コンピューター上で処理された情報をレーザーにより感光性樹脂層上に直接画像マスクを形成する、いわゆるCTP(computer to plate)方式により画像マスク形成後、活性光線を照射する方法が挙げられ、これらの方法により、感光性樹脂層中に、溶剤に溶解する部分と溶解しない部分、もしくは硬化した部分と硬化しない部分とからなる潜像を形成する。また、感光性樹脂版の現像方法としては、圧搾空気等を用いて未露光部を吹き飛ばす方法や、現像液を一定圧力によりスプレー状に噴射して未露光部を除去する方法や、現像液中に感光性樹脂版を浸漬させ、または現像液を感光性樹脂版面にシャワー状に噴射しながらブラシ等で未露光部をこすりだす方法が行われている。
【0003】
感光性樹脂版の現像工程で発生する現像液には、未露光部の感光性樹脂成分が溶解または分散された状態で存在する。その現像液をそのまま繰り返し用いて感光性樹脂版を現像すると、現像液中の感光性樹脂成分の濃度が上昇してゆき、その結果、現像速度の低下や、分散した感光性樹脂成分の版やブラシへの付着が生じる場合がある。そのため、頻繁に現像液を交換し、ある程度以上感光性樹脂成分を含有した現像液を廃液として廃棄する必要があった。しかし、現像廃液は高濃度のBOD(生物化学的酸素要求量)、SS(浮游物質)あるいはn−ヘキサン抽出物等を含んでいるため、そのまま河川等に放流すると、水質汚染の原因となる可能性がある。このため、現像廃液から感光性樹脂成分を分離除去する処理方法が望まれている。
【0004】
このような現像廃液の処理方法に関して、例えば、ろ過材を装填したバスケットを内部に有する容器本体と廃液循環系および廃液吸引排出系を備えてなる水洗い出し廃液処理装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、現像廃液から樹脂分を分離させ、紫外線照射により現像廃液中の樹脂分を硬化させた後、得られた固形物を除去する現像廃液の処理方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、現像工程で発生する感光性樹脂層成分を溶解または分散した現像液を減圧蒸留することで現像液として再利用することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−068812号公報
【特許文献2】特開平11−125913号公報
【特許文献3】国際公開第2003/005129号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に開示された従来公知の技術において、現像廃液を加熱することが行われている。現像廃液の処理を効率的に進めるためには、現像廃液を均一に加熱することが求められ、撹拌機やポンプを具備する循環系などが一般的に使用されているが、凝集した感光性樹脂成分が撹拌機やポンプ、配管内に付着する課題があった。本発明は、感光性樹脂版の現像廃液から感光性樹脂成分を簡単な方法で効率良く分離するための現像廃液処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、側面および底面にヒーターを具備する本体容器を有する感光性樹脂版の現像廃液処理装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、感光性樹脂版の現像廃液から感光性樹脂成分を簡単な方法で効率良く分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の感光性樹脂版の現像廃液処理装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の現像廃液処理装置は、側面および底面に具備する本体容器を有する。本体容器は通常ステンレスで構成され、円筒型や角筒型などの形状を有することが好ましい。従来公知の現像廃液処理装置は、本体容器の側面にヒーターを具備することが一般的であったが、本発明の現像廃液処理装置は、本体容器の側面および底面にヒーターを具備することを特徴とする。ヒーターは、現像廃液を加熱する機能を有し、これを側面および底面に装備することにより、撹拌機構を要することなく、対流により現像廃液の液温を均一に温度上昇させることができ、効率良く現像廃液を処理することができる。また、撹拌機構を要しないことから、撹拌機やポンプ、配管内へ付着した感光性樹脂成分除去などの作業が不要となり、より簡単な方法で現像廃液を処理することができる。本発明の感光性樹脂版の現像廃液処理装置の一例を示す概略図を図1に示す。本体容器1の内部に取り外し可能な内容器2を有し、本体容器1の外側の側面および底面にヒーター3を有する。
【0011】
ヒーターの材質は特に限定されないが、熱伝導性からラバーヒーターが好ましい。ヒーターは、本体容器の内側に配しても外側に配してもよいが、感光性樹脂成分の付着による熱伝達率の低下を抑制する観点およびメンテナンス性の観点から、本体容器外側の側面および底面に配することが好ましい。ヒーターの形状は特に限定されないが、本体容器表面に隙間なく密着できる形状が好ましい。また、本体容器の側面および底面のそれぞれ一部にヒーターを配してもよいが、昇温効率の観点から、側面および底面全体にヒーターを配することが好ましい。
【0012】
本発明の感光性樹脂版の現像廃液処理装置は、本体容器内に取り外し可能な内容器を有することが好ましい。現像廃液を本体容器内に直接投入するのではなく、本体容器内に設けられた内容器に投入すると、現像廃液中の感光性樹脂成分が内容器中で凝集沈殿する。内容器が取り外し可能であると、凝集沈殿した感光性樹脂成分を内容器とともに容易に取り外すことができるため、本体容器の清掃を容易に行うことができ、作業効率が向上する。内容器の形状としては、円筒型、角筒型、袋形状などが挙げられる。また、内容器の材質としては、現像廃液の加熱温度程度の耐熱性を有するものが好ましく、ステンレスなどの金属、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン樹脂などの樹脂、前記樹脂にアルミニウム箔などの金属箔を積層した積層体などが挙げられる。特に、樹脂製の袋が廃棄しやすいなど作業性に優れるため好ましい。
【0013】
次に、本発明の現像廃液処理装置を用いた感光性樹脂版の現像廃液処理方法の例について説明する。まず、現像廃液を本体容器または内容器内に投入する。内容器内に投入すると、前述のとおり凝集沈殿した感光性樹脂成分を内容器とともに容易に取り外すことができ、作業効率が向上するため好ましい。また、感光性樹脂成分の凝集を促進する公知の凝集剤を添加してもよい。凝集剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウムやクエン酸などが挙げられ、安価かつ入手のしやすいクエン酸が好ましい。凝集剤の添加量は現像廃液100重量%に対して0.1重量%〜5重量%が好ましい。
【0014】
次に、現像廃液を加熱し、感光性樹脂成分を凝集させる。処理中の現像廃液の温度は、凝集効率の点から35℃以上が好ましい。
【0015】
加熱処理により感光性樹脂成分が凝集沈殿した後の上澄み液は、ろ過や蒸留などの公知の方法によって廃液処理することが好ましい。蒸留処理をすることがより好ましく、加熱処理後の上澄み液中に含まれている樹脂分、界面活性剤成分、その他添加剤成分をさらに取り除くことができる。現像廃液を直接蒸留処理する場合、処理の進行に伴い蒸留処理機の加熱部材への樹脂付着により処理能力が低下する課題があった。しかし、本発明の現像廃液処理装置による加熱処理後の上澄み液を蒸留処理することで、蒸留処理機の加熱部材への樹脂の付着を低減することができ、処理能力の低下を抑制することができる。また、蒸留処理機の加熱部材への樹脂の付着が低減することにより、メンテナンスも容易に行うことができる。
【0016】
加熱処理後、本体容器または内容器中の残さに微量もしくは少量の現像液が残存する場合には、残さと共に吸水性化合物等で固形化するとより作業性に優れる。吸水性化合物としては、例えば、親水性に改質した炭化水素ポリマー、ビニルアルコール/酢酸ビニル共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリペプチド、ポリアクリル酸塩、又はアクリル酸とマレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等によって得られる共重合体等の高吸水性樹脂などが挙げられる。高吸水性樹脂の添加量は、感光性樹脂成分の種類や残さの量、残さの濃縮率によって異なるが、残さが5〜15kg程度であれば、10g〜400gが実用上好ましい。
【0017】
次に、本発明における感光性樹脂版の製版方法について説明する。
【0018】
感光性樹脂版を用いて印刷用のレリーフ像を形成するために、まず、感光性樹脂層に潜像を形成する。感光性樹脂層に潜像を形成する方法として、ネガティブまたはポジティブの原画フィルムを感光性樹脂層に密着させ、原画フィルムを通して活性光線を照射する方法や、CTP方式により画像マスクを形成した後、活性光線を照射する方法が挙げられる。活性光線の照射には、通常300〜400nmの波長の光を照射できる高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯、ケミカル灯等が用いられる。原画フィルムや画像マスクを介して活性光線を照射することにより、光重合によって硬化を行わせ、潜像を形成する。感光性樹脂版の種類によっては、潜像形成前に支持体側から全面露光する等の処理を行ってもよい。
【0019】
次に、潜像を形成した感光性樹脂版を現像することにより、レリーフ像を形成する。現像方法としては、例えば、圧搾空気等を用いて未露光部を吹き飛ばす方法や、現像液を一定圧力によりスプレー状に噴射して未露光部を除去する方法や、現像液中に感光性樹脂版を浸漬させ、または現像液を感光性樹脂版面にシャワー状に噴射しながらブラシ等で未露光部をこすりだす方法が挙げられる。現像液としては、水を主成分とする液が好ましく用いられる。具体的には、水道水を用いることができるが、界面活性剤を含有した水道水を用いてもよい。現像液中に界面活性剤を含有することによって、現像速度を向上させたり、感光性樹脂成分が感光性樹脂版やブラシに付着することを防止する効果が得られる場合がある。界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ナトリウム塩、脂肪酸カリウムやアルキル硫酸エステルナトリウム塩などが好適に使用される。界面活性剤を含有する場合、その含有量は現像液中0.01重量%〜10重量%が好ましく、0.1重量%〜3重量%がより好ましい。現像時の現像液の液温は10℃〜60℃が好ましい。また、現像液中に感光性樹脂版を浸漬させ、または現像液を感光性樹脂版面にシャワー状に噴射しながらブラシ等で未露光部をこすりだすブラシ式現像装置が好ましく用いられる。一方、こすりだされた未露光部の感光性樹脂成分は、現像液中に混入し、溶解または分散状態で存在する。
【0020】
このようにして得られたレリーフ像を形成した感光性樹脂版を乾燥して現像液を除去することが好ましい。乾燥温度は20℃〜80℃が好ましい。その後、好ましくは大気中ないし真空中で活性光線処理して印刷版を得ることができる。
【0021】
本発明では上記のように感光性樹脂版を現像した際に発生する現像廃液をヒーターを装備した本体容器にて加温することにより、現像廃液から感光性樹脂成分を効率良く分離することができる。感光性樹脂成分としてポリアミドに親水性成分を導入した水溶性または水膨潤性ポリアミドを含む感光性樹脂版の現像廃液処理に好適に用いられるが、その他、部分鹸化ポリ酢酸ビニルやその誘導体などを含む感光性樹脂版の現像廃液処理にも用いることができる。
【実施例】
【0022】
[比較例1]
感光性樹脂版“トレリーフ”(登録商標)DWF95DIIN(東レ(株)製)にレーザー描画機“CDI Spark2530”(エスコグラフィックス(株)製)を用いて画像マスクを形成した後、ケミカル灯露光機を用いて9分間露光した。次いで自動現像機“富士トレリーフプロセサーFTP640IID”(富士フイルムグラフィックシステムズ(株)製)を用いてA3サイズの40枚の感光性樹脂版につき、現像、乾燥、後露光を行った。自動現像機“富士トレリーフプロセサーFTP640IID”からは現像廃液80L(感光性樹脂成分濃度5重量%)を得た。
【0023】
該現像廃液を、外部側面にラバーヒーター(電力密度0.45W/cm)を密着させて装備した材質ステンレス、形状円筒型、容量100Lの本体容器に投入し、凝集剤としてクエン酸を200g添加して、液温が40℃になるまで加温した。本体容器上部の液温が40℃に達したとき、下部の液温は30℃であり、液温度差が10℃であった。このとき本体容器内は感光性樹脂成分が容器底に凝集沈殿し、上澄み液は半透明な状態であった。上澄み液を取り除き、本体容器内に残った水分を含む感光性樹脂成分9kgに高吸水性樹脂“アクアキープ”(登録商標)10SH−P(住友精化(株)製)を300g添加して固形化し、容器で掬って廃棄した。
【0024】
[比較例2]
比較例1と同様の方法で得られた現像廃液80L(感光性樹脂成分濃度5重量%)を、外部底面にラバーヒーター(電力密度0.45W/cm)を密着させて装備した材質ステンレス、形状円筒型、容量100Lの本体容器に投入し、凝集剤としてクエン酸を200g添加して加温した。後述する実施例1と同様の時間加温した結果、液温は15℃までしか昇温しなかった。
【0025】
[実施例1]
比較例1と同様の方法で得られた現像廃液80L(感光性樹脂成分濃度5重量%)を、外部側面と底面にラバーヒーター(各ヒーター電力密度0.45W/cm)を密着させて装備した材質ステンレス、形状円筒型、容量100Lの本体容器に投入し、凝集剤としてクエン酸を200g添加して、液温が40℃になるまで加温した。本体容器上部の液温が40℃に達したとき、下部の液温は38℃であり、液温度差が2℃であった。このとき本体容器内は感光性樹脂成分が容器底に凝集沈殿し、上澄み液は半透明な状態であった。上澄み液を取り除き、本体容器内に残った感光性樹脂成分10kgに高吸水性樹脂“アクアキープ”(登録商標)10SH−P(住友精化(株)製)を300g添加して固形化し、容器で掬って廃棄した。
【0026】
比較例1では液温度差10℃であったが、実施例1では液温度差2℃となり、液温が均一に温度上昇することで感光性樹脂成分がより多く分離した。
【0027】
[実施例2]
実施例1で使用した廃液処理装置の本体容器内にポリエチレン樹脂袋を装着し、ポリエチレン樹脂袋内に比較例1と同様の方法で得られた現像廃液80L(感光性樹脂成分濃度5重量%)を投入し、凝集剤としてクエン酸を200g添加して、液温が40℃になるまで加温した。本体容器上部の液温が40℃に達したとき、下部の液温は38℃であり、液温度差が2℃であった。このとき本体容器内は感光性樹脂成分が容器底に凝集沈殿し、上澄み液は半透明な状態であった。上澄み液を取り除き、ポリエチレン袋内に残った感光性樹脂成分10kgに高吸水性樹脂“アクアキープ”(登録商標)10SH−P(住友精化(株)製)を300g添加して固形化し、ポリエチレン袋とともに廃棄した。
【0028】
実施例1では処理毎に凝集沈殿した感光性樹脂成分を廃棄後清掃する必要があるが、実施例2ではポリエチレン袋とともに廃棄するため、処理毎の清掃が不要となる。
【0029】
[実施例3]
実施例2と同様の方法で得られた水分を減圧蒸留式廃液処理機“トレリーフリフレッシャーTTR50VDII”(東レ(株)製)を用いて減圧蒸留処理し、透明な再生水60Lを回収した。実施例2では上澄み液にはまだ感光性樹脂成分が含まれているため、半透明な状態であったが、実施例3では感光性樹脂成分がさらに取り除かれることで透明な再生水を得た。
【符号の説明】
【0030】
1 本体容器
2 内容器
3 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面および底面にヒーターを具備する本体容器を有する感光性樹脂版の現像廃液処理装置。
【請求項2】
本体容器内に取り外し可能な内容器を有することを特徴とする請求項1記載の感光性樹脂版の現像廃液処理装置。
【請求項3】
取り外し可能な内容器が樹脂袋であること特徴とする請求項2に記載の感光性樹脂版の現像廃液処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−54158(P2013−54158A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191392(P2011−191392)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】