説明

感光性樹脂組成物、それを使用したスクリーン印刷用版及びスクリーン印刷用版の製造方法

【課題】配線の線幅が10μm程度で、高アスペクト比のプリント基板を製造することができるスクリーン印刷用版、その製造方法、及び前記スクリーン印刷用版の製造に使用する感光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(1)式(I)で表される構造単位を含むメタクリレート系共重合体と、


(2)光ラジカル開始剤と、(3)少なくとも光ラジカル開始剤にラジカルを発生させる光とは波長領域が異なる光の照射によって酸を発生する光酸発生剤と、(4)ラジカルにより架橋反応する架橋剤とを含む感光性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プリント基板、ICパッケージ、チップインダクター、フィルター、アンテナなどの製造に使用するスクリーン印刷用版、その製造方法及びそれに使用する感光性樹脂組成物に関し、特に高アスペクト比(配線の高さを線幅で除した値)の微細配線を有するプリント基板を製造するためのスクリーン印刷用版、その製造方法及びそれに使用する感光性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からあるスクリーン製版は、感光性樹脂であるポリビニルアルコール(以下、PVAと省略する。)-ジアゾ系感光剤をステンレス(以下、SUSと省略する。)製のスクリーン上に塗布して樹脂層を形成し、この樹脂層に回路パターンを露光して架橋、硬化(ネガ型の場合)させ、未硬化部分を水洗(現像)して、作製している(特許文献1、2及び3を参照。)。
【0003】
しかし、前記スクリーン印刷用版の製作方法では、現像時に樹脂層が膨潤して回路パターンが蛇行・変形するなどの理由から、配線の線幅が30μm以下で、かつ高アスペクト比の微細配線を有するプリント基板を製造することはできなかった。
【特許文献1】特開2005−292780号公報
【特許文献2】特開2001−133976号公報
【特許文献3】特開平11−344801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、この発明は、配線の線幅が10μm以下と微細であり、かつ高アスペクト比のプリント基板を製造することができるスクリーン印刷用版、その製造方法、及び前記スクリーン印刷用版の製造に使用する感光性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、特定の構成単位を含むメタクリレート系共重合体、光ラジカル開始剤、光酸発生剤、架橋剤を含有する感光性樹脂組成物を使用することによって、高アスペクト比の微細配線を有するスクリーン版を製造することに成功した。
【0006】
すなわち、請求項1に記載の感光性樹脂組成物は、
(1)式(I)
【化1】

で表される構造単位を含むメタクリレート系共重合体と、(2)光ラジカル開始剤と、(3)光ラジカル開始剤にラジカルを発生させる光とは波長領域が異なる光の照射によって酸を発生する光酸発生剤と、(4)ラジカルにより架橋反応する架橋剤と、を含有するものである。
【0007】
請求項2に記載の感光性樹脂組成物は、請求項1に記載の感光性樹脂組成物であって、メメタクリレート系共重合体が、
式(II)
【化2】

で表される構造単位を含むものである。
【0008】
請求項3に記載の感光性樹脂組成物は、請求項1又は請求項2に記載の感光性樹脂組成物であって、メタクリレート系共重合体が、
一般式(III)
【化3】

(式中、RはH又はCH3の何れかを表しており、mは1又は2の何れかを表わしている。)
で表される構造単位を含むものである。
【0009】
請求項4に記載の感光性樹脂組成物は、請求項1から請求項3の何れかに記載の感光性樹脂組成物であって、光酸発生剤がi線(365nm)により酸を発生する化合物からなるものである。
【0010】
請求項5に記載の感光性樹脂組成物は、請求項1から請求項4の何れかに記載の感光性樹脂組成物であって、露光工程では架橋反応を抑制するとともに、後露光工程では架橋反応を阻害し難い重合禁止剤を含むものである。
【0011】
請求項6に記載のスクリーン印刷用版の製造方法は、請求項1から請求項5の何れかに記載の感光性樹脂組成物をスクリーンに塗布・乾燥して樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、光ラジカル開始剤がラジカルを発生する光とは波長領域が異なる光をスクリーン上の樹脂層に照射して回路パターンを露光する露光工程と、前記樹脂層の露光部分を現像して除去する現像工程と、光ラジカル開始剤がラジカルを発生する波長の光を含む光を照射して、前記樹脂層の現像工程において除去されなかった部分を架橋する後露光工程と、をこの順番で含む方法である。
【0012】
請求項7に記載のスクリーン印刷用版の製造方法は、請求項6に記載のスクリーン印刷用版の製造方法であって、シランカップリング剤によって表面処理されたスクリーンを使用する方法である。
【0013】
請求項8に記載のスクリーン印刷用版は、請求項6又は請求項7に記載のスクリーン印刷用版の製造方法で製造してなるものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の感光性樹脂組成物は、露光すると光酸発生剤から生じた酸がメタクリレート系共重合体のテトラヒドロピラニル基を分解してその極性が変化するため、露光部分に存在するメタクリレート系共重合体は、水系の現像液に溶解し易くなる。これに対して、未露光部分は疎水性が維持され水系の現像液では膨潤しない。そのため、この感光性樹脂組成物をスクリーン印刷用版の製造に利用すれば、回路パターンを構成する配線をより高アスペクト比の微細配線とすることができる。
【0015】
また、回路パターンを形成したのち、光ラジカル開始剤によって架橋剤とメタクリレート系共重合体とをラジカル重合することにより、樹脂層の強度を向上させることができる。
【0016】
請求項2及び請求項3に記載の感光性樹脂組成物により、感光性樹脂組成物からなる樹脂層の強度、及び樹脂層とスクリーンとの密着強度をより高めることができ、スクリーン印刷用版の寿命をより延ばすことができる。
【0017】
請求項4に記載の感光性樹脂組成物により、プリント基板の製造に一般的に使用されており、安価な光源である高圧水銀灯をスクリーン印刷用版の製造に使用することができる。
【0018】
請求項5に記載の感光性樹脂組成物により、露光工程での架橋反応を禁止又は抑制することでき、これによって現像不良を抑制し微細なパターンをより形成しやすくなる。
【0019】
請求項6に記載のスクリーン印刷用版の製造方法では、メタクリレート系共重合体と光酸発生剤によって、高アスペクト比の微細配線を有する回路パターンを形成したのち、この回路パターンを架橋剤と光ラジカル開始剤が架橋・硬化する。これによって、高アスペクト比の微細配線を有するプリント基板の製造に利用可能なスクリーン印刷用版を製造することができる。
【0020】
請求項7に記載の印刷用版の製造方法により、スクリーン印刷用版の耐久性、具体的には、樹脂層とスクリーンとの密着性を向上させることができる。
【0021】
請求項8に記載のスクリーン印刷用版を使用することにより、高アスペクト比の微細配線を有するプリント基板を安価に形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
1.感光性樹脂組成物
この発明の感光性樹脂組成物は、(1)メタクリレート系共重合体、(2)光ラジカル開始剤、(3)光ラジカル開始剤にラジカルを発生させる光とは波長領域が異なる光の照射によって酸を発生する光酸発生剤、(4)ラジカルにより架橋反応する架橋剤を含有しており、必要に応じて各種添加物や溶媒を含んでいてもよい。そこで、以下にこれらについて詳説する。
【0023】
(1)メタクリレート系共重合体
メタクリレート系共重合体は、図1に示すように、前記式(I)を構成単位として含むものである。なお、メタクリレート系共重合体の分子量は3000〜100000が好ましく、5000〜20000がより好ましい。これは分子量が3000以下であると樹脂強度が著しく弱くなり、100000以上であると水系の現像液に溶解し難くなるからである。
【0024】
このメタクリレート系共重合体は、光酸発生剤から発生した酸によって、エステル脱離基が脱離し、メタクリル酸モノマー単位が生成する。そして、この光照射部分はアルカリ水溶液等で現像することによって溶解し、ポジ型パターンを形成する。
【0025】
また、このメタクリレート系共重合体は、図1に示すように、式(II)及び一般式(III)を構成単位として含んでいてもよい。これらを構成単位として含むことにより、感光性樹脂組成物とスクリーンとの密着性や強度を向上させることができる。なお、このメタクリレート系共重合体が複数の構成単位を含む場合には、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0026】
さらに、このメタクリレート系共重合体は、他にもヘミアセタールエステル基を有するモノマーなどを構成単位として含んでいてもよい。例えば、ヘミアセタールエステル基を有するモノマーは環状ビニルエーテルやアルキルビニルエーテルとカルボキシル基との反応等により得られる。メタクリレートモノマー(I)に使用できる3,4-ジヒドロ-2H-ピラン以外の環状ビニルエーテルとしては2,3-ジヒドロフラン、3,4-ジヒドロフラン、2,3-ジヒドロ-2H-ピラン、3,4-ジヒドロ-2-メトキシ-2H-ピラン、3,4-ジヒドロ-4,4-ジメチル-2H-ピラン-2-オン、3,4-ジヒドロ-2-エトキシ-2H-ピラン等が挙げられる。また、アルキルビニルエーテル等も使用できる。例えば、メチルビニルテーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。アルキルビニルエーテルや環状ビニルエーテルとカルボキシル基から得られるヘミアセタールエステル基を有するモノマーなどを含むことによって、メタクリレートモノマー(I)と同等の効果が得られる。
【0027】
加えて、構造単位(II)の他に、既知の(メタ)アクリル酸エステル、エチレン性不飽和カルボン酸、その他の共重合可能なモノマーを、密着性を高めるに使用してもよい。具体的には、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールメタクリレート、スチレン、ノニルフェノキシポリエチレングリコールモノアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレンモノアクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレンモノメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチルフタレート、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタレート、2-メタクリロイロキシエチル−2-ヒドロキシプロピルフタレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルアクリレート、n-プロピルメタクリレート、i-プロピルアクリレート、i-プロピルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルアクリレート、i-ブチルメタクリレート、sec-ブチルアクリレート、sec-ブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、3-ヒドロキシブチルアクリレート、3-ヒドロキシブチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、3-エチルヘキシルアクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールモノメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、グリセリンモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、メタクリルアミドやアクリロイルモルホリンなどのアミド類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等を挙げることができる。なお、メタクリレート系共重合体は、必要に応じて単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0028】
構造単位IIIおいてエチレン性不飽和基を導入する方法としては、メタクリレート共重合体中の水酸基に(メタ)アクリロイル基を有するイソシアナートを付加させる方法がよい。そのような化合物としては、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアナート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアナート、2-(2-メタクリロイルエチルオキシ)エチルイソシアナート、2-(2-アクリロイルエチルオキシ)エチルイソシアナート、ジメチル(メタ)-イソプロペニルベンジルイソシアナート、1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアナート、メタクリロイルイソシアナート等を挙げることができる。なかでも2-メタクリロイルオキシエチルイソシアナート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアナートが好ましい。なお、これらの化合物は、必要に応じて2種以上を付加してもよい。
【0029】
前記式(I)、式(II)、一般式(III)の化合物だけを構成単位とする共重合体の場合、前記式(I)、式(II)、一般式(III)の化合物の割合、すなわち図1中のx:y:zはxが5mol%〜95mol%、yが4mol%〜50mol%、zが1mol%〜45mol%であるのが好ましく、xが15mol%〜90mol%、yが10mol%〜45mol%、zが5mol%〜40mol%であるのがより好ましい。これはxのモル比が低すぎると水系の現像液に溶解し難くなり、y,zのモル比が低すぎるとスクリーンへの密着性や強度が低下するからである。
【0030】
(2)光ラジカル開始剤
光ラジカル開始剤は、公知の化合物であれば特に限定することなく使用することができる。このような化合物として、具体的には、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアセトフェノン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ジクロロアセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、p-tert-ブチルアセトフェノン等のアセトフェノン類や、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p-ビスジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類や、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエ−テル類や、ベンジルジメチルケタール、チオキサンテン、2-クロロチオキサンテン、2,4-ジエチルチオキサンテン、2-メチルチオキサンテン、2-イソプロピルチオキサンテン等のイオウ化合物や、2-エチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン等のアントラキノン類や、2-メルカプトベンゾイミダール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール等のチオール化合物や、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(m-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体等のイミダゾリル化合物や、p-メトキシトリアジン等のトリアジン化合物や、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(5-メチルフラン-2-イル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(フラン-2-イル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-エトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-n-ブトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン等のハロメチル基を有するトリアジン化合物、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1オン等のアミノケトン化合物等が挙げられる。なお、これらは必要に応じて、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
ただし、(3)光酸発生剤に酸を発生させる光源として安価な高圧水銀灯を使用するために、光ラジカル開始剤がi線よりも短い波長の光でラジカルを発生する化合物であることが好ましい。また、光ラジカル重合開始剤以外の熱重合開始剤を併用してもよい。
【0032】
このような熱重合開始剤としては、具体的には2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のニトリル系アゾ化合物(ニトリル系アゾ系重合開始剤);ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等の非ニトリル系アゾ化合物(非ニトリル系アゾ系重合開始剤);t-ヘキシルペルオキシピバレート、tert-ブチルペルオキシピバレート、3,5,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ステアロイルペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエート、サクシニックペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ2-エチルヘキサノエート、4-メチルベンゾイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、1,1’-ビス−(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物(パーオキサイド系重合開始剤)及び過酸化水素などが挙げられる。なかでもアゾ系重合開始剤が好ましい。
【0033】
なお、使用する光ラジカル開始剤の添加量は、その種類にもよるが架橋剤の5〜90重量%程度が好ましく、15〜50重量%程度がより好ましい。これは、5重量%以下であると光ラジカル重合が不充分となり強度が著しく悪くなり、90重量%以上であると光ラジカル重合開始剤が不純物として物性に大きく影響を与えて強度及びスクリーンへの密着性が著しく悪くなるとの理由からである。
【0034】
(3)光酸発生剤
光酸発生剤は、光ラジカル開始剤にラジカルを発生させる光とは波長領域が異なる光の照射によって酸を発生する公知の化合物であれば、特に限定することなく使用することができる。ただし、酸を発生させる光源として安価な高圧水銀灯を使用するためには、光酸発生剤がi線により酸を発生する化合物であることが好ましい。このような化合物として、具体的には、トリフェニルスルホニウムトリフレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムナフタレンスルホネート、(ヒドロキシフェニル)ベンジルメチルスルホニウムトルエンスルホネート、ジフェニルヨードニウムトリフレート、ジフェニルヨードニウムピレンスルホネート、ジフェニルヨードニウムドデシルベンゼンスルホネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、p-メチルフェニルジフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネート、トリ(tert-ブチルフェニル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホネートなどが挙げられる。なお、これらは必要に応じて、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
なお、光酸発生剤の添加量は、その種類にもよるがメタクリレート系共重合体の樹脂分100重量%に対して0.1〜30重量%程度が好ましく、1.0〜10重量%程度がより好ましい。これは、0.1重量%以下であると極性変化基の脱離が不充分で水系の現像液に溶解し難くなり、30重量%以上であると光酸発生剤が不純物として物性に大きく影響を与えて強度及びスクリーンへの密着性が著しく悪くなるためである。
【0036】
(4)架橋剤
架橋剤は、光ラジカル開始剤によって発生したラジカルの作用によりメタクリレート系共重合体とラジカル共重合して架橋する公知の化合物であれば特に限定することなく使用することができる。このような化合物として、具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(DPHA)、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート(DPPA)、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等多価アルコールの(メタ)アクリレートが挙げられる。また多価アルコールは、その分子内にエーテル結合、エステル結合、ウレタン結合を有していてもよく、多官能(メタ)アクリレートであればよりよい。
【0037】
なかでも、水系現像液への溶解性および塗膜の曲げ性向上の理由から、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が好ましい。なお、これらは必要に応じて、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
架橋剤の添加量は、その種類にもよるが、メタクリレート系共重合体の樹脂分100重量%に対して5〜90重量%程度が好ましく、10〜50重量%がより好ましい。これは、5重量%以下であると強度が著しく弱くなり、90重量%以上であると架橋密度が必要以上に高くなり著しく脆くなり、場合によってはクラックが発生するためである。
【0039】
(5)添加剤及び溶媒
この感光性樹脂組成物には、感度、塗布性、密着性、耐熱性、耐薬品性を向上することを目的に、必要に応じて相溶性のある添加物、例えば、可塑剤、安定剤、界面活性剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤などの添加剤を添加してもよい。なお、これらの添加量は感光性樹脂組成物の効果を損なわない範囲であればよく、その用途に応じて定めればよい。
【0040】
また、スクリーンへの塗布性を向上するため、感光性樹脂組成物には必要に応じて適当な溶媒や乾燥時間を調節するため乾燥遅効剤を加えてもよく、希釈後に粘度を調節するため粘度調節剤を加えてもよい。
【0041】
溶媒として、具体的には、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、芳香族石油ナフタ、テトラリン、テレビン油、ソルベッソ#100(エクソン化学(株)登録商標)、ソルベッソ#150(エクソン化学(株)登録商標)等の芳香族炭化水素;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸第二ブチル、酢酸アミル、酢酸メトキシブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル及びエーテルエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、メシチルオキサイド、メチルイソアミルケトン、エチル-n-ブチルケトン、エチルアミルケトン、ジイソブチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。
【0042】
なかでも、感光剤の保存安定性および塗膜の乾燥速度の理由から、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、芳香族石油ナフタ、テトラリン、テレビン油、ソルベッソ#100(エクソン化学(株)登録商標)、ソルベッソ#150(エクソン化学(株)登録商標)等の芳香族炭化水素、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンが好ましい。
【0043】
また、乾燥遅効剤として、具体的には、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、エチレングリコールモノヘキシルエーテルアセテート、グリセリントリアセテート、グリセリントリラウリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトフェノン、イソホロン、エチル-N-ブチルケトン、ジアセトンアルコール(4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン)、ジイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、ジ-N-プロピルケトン、メチル-N-アミルケトン(アミルメチルケトン)、メチルシクロヘキサノン、メチル-N-ブチルケトン、メチル-N-プロピルケトン、メチル-N-ヘキシルケトン、メチル-N-ヘプチルケトン、アジピン酸ジエチル、アセチルクエン酸トリメチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチル、安息香酸イソアミル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、安息香酸プロピル、安息香酸ベンジル、ギ酸イソアミル、ギ酸イソブチル、ギ酸エチル、ギ酸ブチル、ギ酸プロピル、ギ酸ヘキシル、ギ酸ベンジル、ギ酸メチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、酢酸アミル、酢酸アリル、酢酸イソアミル、酢酸メチルイソアミル、酢酸メトキシブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸第二ヘキシル、酢酸-2-エチルヘキシル、酢酸-2-エチルブチル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸-n-ブチル、酢酸第二ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸ベンジル、酢酸メチルシクロヘキシル、シュウ酸ジアミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、酒石酸ジエチル、酒石酸ジブチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸ブチル、乳酸アミル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、フタル酸エステル、γ-ブチロラクトン、プロピオン酸イソアミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ベンジル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジブチル、酪酸イソアミル、酪酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル等を挙げることができる。
【0044】
なかでも、塗膜の乾燥速度や均一性の理由から3-メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が好ましい。なお、これら溶媒及び乾燥遅効剤は必要に応じて、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0045】
さらに、露光工程で光酸発生剤に酸を発生させるために照射した光により、ラジカル生じて架橋剤が架橋反応し、現像不良が起きて微細なパターンを形成し難くなることを防ぐため、露光工程では架橋反応を抑制するとともに、後露光工程では架橋反応を阻害し難い重合禁止剤を加えてもよい。
【0046】
このような重合禁止剤として、ラジカル重合禁止剤が使用できる。具体的には、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、p-tert-ブチルカテコール等のキノン系重合禁止剤;2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール等のアルキルフェノール系重合禁止剤;アルキル化ジフェニルアミン、N,N´-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、フェノチアジン等のアミン系重合禁止剤;4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,4-ジヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-ヒドロキシ-4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル等ピペリジン系重合禁止剤;ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅等のジチオカルバミン酸銅系重合禁止剤等が挙げられる。
【0047】
なかでも、露光工程では架橋反応を抑制するとともに、後露光工程では架橋反応を阻害し難いことから、ピペリジン系重合禁止剤が好ましい。なお、これら重合禁止剤は必要に応じて、単独又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0048】
2.スクリーン印刷用版
スクリーン印刷用版は、この発明の感光性樹脂組成物をスクリーン上に塗布または感光性樹脂組成物をフィルム上にしたものをスクリーン上に貼り付けて樹脂層を形成し、これに回路パターンを形成したのち、樹脂層を架橋硬化することによって製造する。具体的には、下記の(1)樹脂層形成工程、(2)露光工程、(3)現像工程、(4)後露光工程により製造する。そこで、以下にこれらについて詳説する。
【0049】
(1)樹脂層形成工程
感光性樹脂組成物をスクリーンに塗布・乾燥し、所定の厚みで積層して樹脂層を形成する工程である。なお、樹脂層の厚みは、回路パターンの線幅を微細し、高アスペクト比の微細配線を形成するため、2μm〜200μmが好ましく、10μm〜20μmがより好ましい。
【0050】
前記スクリーンは、公知のスクリーン印刷用スクリーンであれば特に限定することなく使用することができる。例えば、アルミニウム等の金属製の棒状素材を正方形或いは長方形に製作したフラットスクリーン型枠に、ステンレスやポリエステル製のスクリーンを紗張りしたものが挙げられる。
【0051】
なお、前記スクリーンは、スクリーン印刷用版の耐久性(樹脂層の接着強度、対磨耗性、耐溶剤性)を向上させるため、シランカップリング剤による表面処理、ウェットブラストによる表面粗化処理、紫外線による表面処理、プラズマによる表面処理等によりその表面を処理したものが好ましい。
【0052】
また、樹脂層を形成する方法としては、バケットを使用して感光性樹脂組成物を直接塗布して乾燥する方法(直接法)、感光性樹脂組成物を樹脂フィルムなどに塗布・乾燥して樹脂皮膜を得ておいて、この樹脂皮膜を感光性樹脂組成物が塗布されたスクリーン上に転写する方法(間接法)など、公知の方法であれば特に限定することなく使用することができる。
【0053】
(2)露光工程
フォトマスクを介して、光ラジカル開始剤がラジカルを発生する光とは波長領域が異なる光をスクリーン上の樹脂層に照射して回路パターンを露光する工程である。この工程によって、樹脂層のうちフォトマスクを介して透過した光があたった部分で、図1に示すように、メタクリレート系共重合体のテトラヒドロピラニル基が脱離して極性が変化する。なお、この極性変化したメタクリレート系共重合体は現像液に容易に溶ける。
【0054】
ここで、フォトマスクは、フィルムマスク、クロムマスクなど公知のものであれば特に限定することなく使用できるが、製造するスクリーン印刷用版の精度を考慮すると、クロムマスクの方が好ましい。
【0055】
また、光源は、紫外線、可視光線などを発する水銀灯やハロゲンランプなどの公知の光源と光学用フィルターとを組み合わせたものであり、光酸発生剤に酸を発生させることができる波長領域の光を発生することができ、光ラジカル開始剤にラジカルを発生させる波長領域の光を発生しないものである。なかでも、安価な水銀灯と光学用フィルターを組み合わせ、i線(365nm)は発生するが、波長254nmを含む光は発生しないものが好ましい。なお、露光時間は使用する及び感光性樹脂組成物に応じて自由に設定することができる。
【0056】
(3)現像工程
露光した樹脂層を有するスクリーンを現像液に漬け置きしたり、ウエスでこすったり、現像液をスプレーにより吹き付けたりすることにより、樹脂層の露光部分を現像し、樹脂層の露光部分にある極性変化したメタクリレート系共重合体を除去する工程である。この工程により、回路パターンを形成することができる。
【0057】
現像液としては、公知の水やアルカリ性水溶液のものであれば特に限定することなく使用できるが、溶解性の理由からテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液などが好ましい。また、現像方法や現像時間は、使用する現像液と感光性樹脂組成物に応じて自由に設定することができる。
【0058】
(4)後露光工程
光ラジカル開始剤がラジカルを発生する波長の光を含む光を照射して、前記樹脂層の未露光部分を架橋する工程である。この工程により発生したラジカルにより、メタクリレート系共重合体と架橋剤と架橋・硬化させる。
【0059】
光源は、紫外線、可視光線などを発する水銀灯やハロゲンランプなどの公知の光源と光学用フィルターとを組み合わせたものであり、光ラジカル開始剤にラジカルを発生させる波長領域の光を発生すればよい。具体的には、254nmを含む光を発生するものが好ましい。
【0060】
なお、この感光性樹脂組成物及びスクリーン印刷用版は、微細な配線を描画に利用することができるので、プリント基板の製造のほか、液晶表示装置の周辺回路、ハイブリッドIC、電子部品の配線回路形成などにも利用することができる。
【0061】
以下に、この発明を実施例により説明するが、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても下記の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0062】
1.メタクリレート系共重合体の調製及び評価
2-テトラヒドロピラニルメタクリレート(以下、M-THPと省略する。)及び2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、2-HEMAと省略する。)を使用して、3種類のメタクリレート系共重合体を有機溶媒を使用する溶液重合法により調製した。
【0063】
(1)試薬
M-THP(品名:NKエステルM-THP,新中村化学工業)、2-HEMA(品名:アクリエステルHO,三菱レイヨン)、光ラジカル重合開始剤である2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(以下、AMBMと省略する。品名:V-59,和光純薬)、トルエンは購入したものをそのまま使用した。
【0064】
また、側鎖に二重結合を導入させるために主鎖中の2-HEMAと付加反応させた2-イソシアナトエチルメタクリレート(品名:カレンズMOI、昭和電工)、付加反応用の触媒であるジブチル錫ラウレート(品名:STANN-BL、三共有機合成)、重合禁止剤である2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(略名:BHT、住友化学工業)についても、購入したものをそのまま使用した。
【0065】
(2)測定装置及び測定方法
メタクリレート系共重合体のMn及びMwは、ポンプ(JASCO,880-PU)、検出器(JASCO,RI-1530,870-UV)、デガッサー(JASCO,DG-980-53)、恒温槽(クロマトサイエンス,CS-600H)、カラム(昭和電工,KF-805L)で構成したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)測定装置を使用して測定した。なお、溶離液にはTHFを使用し、分析温度は40℃、流速は1.0ml/minに設定した。また、分子量標準物質にはポリスチレン(東ソー)を使用した。
【0066】
(3)メタクリレート系共重合体の調製
(i)HAR-2-1の調製
M-THP 92.4部(90mol%)、2-HEMA 7.6部(10mol%)、トルエン150.0部、AMBN6.0部を500mLの四つ口フラスコに入れ、90℃で6時間ラジカル重合を行った。得られたメタクリレート系共重合体のトルエン溶液(40重量%)は、HAR-2-1と名付けた。なお、メタクリレート溶液重合ポリマーの収率は98%であった。また、調製したメタクリレート系共重合体のMwは8630、Mw/Mnは2.66であった。
【0067】
(ii)側鎖に二重結合を導入したAP-HAR-200の調製
M-THP 170.1部、2-HEMA 23.0部、トルエン301.1部、AMBN11.6部を1000mLの四ツ口フラスコに入れ、90℃で6時間ラジカル重合を行った。つづいて、カレンズMOI 9.2部、BHT 0.30部、ジブチル錫ジラウレート0.10部、トルエン11部を同四ツ口フラスコに入れ、約70℃で90分間反応を行った。得られたメタクリレート系共重合体のトルエン溶液(40重量%)は、AP-HAR-200と名付けた。なお、メタクリレート溶液重合ポリマーの収率は97%であった。また、調製したメタクリレート系共重合体のMw:8680、Mw/Mn:2.53であった。
【0068】
(iii)側鎖に二重結合を導入したAP-HAR-201の調製
M-THP 200.0部、2-HEMA 51.0部、トルエン376.5部、AMBN15.1部を1000mLの四ツ口フラスコに入れ、90℃で6時間ラジカル重合を行った。つづいて、カレンズMOI 36.6部、BHT 0.43部、ジブチル錫ジラウレート0.14部、トルエン39.0部を同四ツ口フラスコに入れ、約70℃で90分間反応を行った。得られたメタクリレート系共重合体のトルエン溶液(40重量%)は、AP-HAR-201と名付けた。なお、メタクリレート溶液重合ポリマーの収率は97%であった。また、調製したメタクリレート系共重合体のMw:9250、Mw/Mn:2.20であった。
【実施例2】
【0069】
2.樹脂組成物の評価
架橋剤と光ラジカル開始剤を含まない樹脂組成物を調製し、これを使用するスクリーン印刷用版を製造して、その解像性について評価した。
【0070】
(1)試薬
メタクリレート系共重合体は、実施例1で製造したHAR-2-1を使用した。また、光酸発生剤はCPI-100P(49%ポリプロピレンカーボネート溶液、サンアプロ株式会社)を使用した。さらに、乾燥遅効剤は3-メトキシブチルアセテート(以下、メトアセと省略する。新中村化学工業株式会社)、現像試薬はテトラメチルアンモニウムヒドロキシド五水和物(以下、TMAHと省略する。東京化成工業株式会社)を使用した。
【0071】
(2)スクリーン
スリーンは、線径16μmのステンレス製(SUS304)の線材を織った500メッシュのカレンダー加工したスクリーン(厚み20μm)を使用した。なお、スクリーンを枠に紗張りする際のバイアス角度は23°であった。
【0072】
(3)露光装置
回路パターンの露光には平行光紫外線露光装置を使用した。なお、この光源の主波長は365nmであり、波長254nmの光は発生しない。
【0073】
(4)スクリーン印刷用版の製造
(i)樹脂層の形成
CPI-100PをHAR-2-1の樹脂分に対して5重量%となるように加えて混合し、自然放置して溶媒を蒸発させ、固形分が50重量%から60重量%となるまで粘度を上げた。メトアセを加えて粘度を調整し、この樹脂組成物をスクリーンのプリント面に厚みが10〜12μmとなるようにバケットで塗布し、40℃で3時間以上暗所で熱風乾燥した。
【0074】
(ii)パターン形成
まず、樹脂層を形成したスクリーンにフォトマスクを密着させ、平行光紫外線露光装置(波長365nm)で露光した。なお、照射した紫外線の量(主露光量)が758J/cm2、948J/cm2、1138J/cm2と異なるスクリーンを製造した。また、フォトマスクはLine/Space=10/10μmを使用した。つぎに、2.38wt%TMAH水溶液に8分間浸漬して現像した。最後に、現像後のスクリーンを水で洗浄して40℃で熱風乾燥した。
【0075】
(5)樹脂層の評価
スクリーン上の樹脂層を走査型電子顕微鏡(JSM-6480LV、日本電子、以下、SEMと略記する。)により観察した。その結果を図2に示す。
【0076】
図2に示すように、Line/Space=10/10μmの解像性を得ることができた。また、回路パターンのエッジもシャープであることが分かった。さらに、露光量を変化させても、開口幅には大きな変化はなかった。加えて、ステンレス製スクリーンの厚みが20μm、レジスト膜厚が10μmの計30μmの厚みであることから、回路パターンを高アスペクト化することができた。ただ、樹脂層の強度には問題があった。そこで、架橋剤及び光重合開始剤を添加して後露光することにより、樹脂層の強度の向上を試みた。
【実施例3】
【0077】
3.感光性樹脂組成物の調製、スクリーン印刷用版の製造及び評価
感光性樹脂組成物を調製して、これを使用するスクリーン印刷用版を製造し、後露光工程が樹脂層の強度に与える影響について評価した。なお、回路パターンは形成しなかった。
【0078】
(1)試薬
メタクリレート系共重合体、光酸発生剤、トルエン、乾燥遅効剤、現像試薬は実施例2と同じものを使用した。また、架橋剤はNKエステルA-DPH(以下、A-DPHと省略する。6官能基,新中村化学工業株式会社)、光ラジカル開始剤はDarocur1173(チバ・スペシャリティケミカルズ株式会社)を使用した。
【0079】
(2)スクリーン及び後露光装置
スリーンは、線径16μmのステンレス製(SUS304)の線材を織った500メッシュのスクリーン(厚み20μm)にカレンダー加工を施したものを使用した。なお、スクリーンを枠に紗張りする際のバイアス角度は23°であった。光ラジカル開始剤による後露光には、波長254nm光を発生する紫外線後露光装置を使用した。
【0080】
(3)スクリーン印刷用版の製造
(i)感光性樹脂組成物の調製
HAR-2-1の樹脂分とA-DPHとが重量比で4:1となるよう混合した。これに、CPI-100PをHAR-2-1の樹脂分に対して5重量%となるように加えた。さらに、Darocur1173をA-DPHに対して5重量%となるように加えて、感光性樹脂組成物を調製した。
【0081】
(ii)樹脂層の形成
感光性樹脂組成物を室温・暗所に保管することにより、溶媒をある程度蒸発させて粘度を上げ、メトアセを加えて粘度調整した。そして、粘度調節した感光性樹脂組成物をスクリーンのプリント面に厚みが10〜12μmとなるように塗布し、40℃で3時間以上暗所で乾燥した。
【0082】
(iii)後露光
乾燥したスクリーンを紫外線後露光装置で後露光して樹脂層を架橋し、スクリーン印刷用版を製造した。なお、後露光時間を0分、3分、10分と変えてスクリーンを製造した。
【0083】
(4)樹脂層の強度試験
後露光時間だけ変えて製造したスクリーン印刷用版の樹脂層を、トルエンを含ませたウエスで1分間摩擦し、摩擦前後の膜厚の変化(減少膜厚)によって、樹脂層の強度を評価した。なお、膜厚の測定はデジタル膜厚計を使用した。その結果を図3に示す。
【0084】
図3に示すように、後露光時間が0分の場合には樹脂層がトルエンに溶解して膜厚が減少したのに対して、後露光時間が3分および10分間の場合には膜厚の減少は見られなかった。この結果から後露光による架橋反応の効果を確認できた。
【実施例4】
【0085】
4.架橋剤が異なるスクリーン印刷用版の製造とその評価
(1)スクリーン印刷用版の製造
架橋剤にA-DPHの代りにNKエステル14G(以下、14Gと省略する。2官能,新中村化学工業株式会社)を使用した点を除いて、実施例3と同様の方法、同様の配合、同様の材料を使用してスクリーン印刷用版を製造した。
【0086】
(2)解像性試験
後露光を行わずに製造したスクリーン印刷用版を使用して、平行光紫外線露光装置による紫外線の露光量(主露光量)が解像性に与える影響について調べた。ここでは主露光量を711J/cm2、1422J/cm2と変えてスクリーン印刷用版を製造した。
【0087】
なお、露光にはフォトマスクを使用し、現像は2.38wt%TMAH水溶液に8分間浸漬した。その後、水で1分間洗浄し、40℃で10分間乾燥した。また、解像性の評価はスクリーン印刷用版の樹脂層をデジタルマイクロスコープ(VHX-200、キーエンス)で観察することによって行なった。その結果を図4に示す。
【実施例5】
【0088】
5.スクリーン印刷用版の製造及びその評価
感光性樹脂組成物を調製して、これを使用するスクリーン印刷用版を製造し、その解像性、密着性、樹脂層の強度について評価した。なお、露光工程における光ラジカル重合開始剤の反応を抑制するため、重合禁止剤を添加した。
【0089】
(1)試薬
メタクリレート系共重合体は、実施例1で製造したHAR-2-1(40%トルエン溶液)を使用した。光酸発生剤はCPI-100P(49%ポリプロピレンカーボネート溶液、サンアプロ株式会社)を使用した。架橋剤は、新中村化学工業株式会社製のNKオリゴ UA-HAR-50(ウレタンアクリレート)、UA-HAR-101(ウレタンアクリレート)、UA-HAR-102(ウレタンアクリレート)、UA-HAR-100(ウレタンメタクリレート)を使用した。光ラジカル重合開始剤は、Darocur1173(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社)、光重合禁止剤は2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(東京化成工業株式会社)を使用した。
【0090】
また、現像試薬には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(以下、TMAHと略記する。昭和電工株式会社)を使用した。シランカップリング剤は、A-174(GE東芝シリコーン株式会社)を使用した。
【0091】
(2)装置
回路パターンの露光には、実施例2で使用した平行光紫外線露光装置を使用した。また、光ラジカル開始剤による後露光には、実施例3で使用した紫外線後露光装置を使用した。
【0092】
(3)スクリーン
スリーンは、線径16μmのステンレス製(SUS304)の線材を織った500メッシュのスクリーン(厚さ19〜20μm)にカレンダー加工を施したものに、後述するシランカップリング剤による表面処理を施して使用した。なお、スクリーンを枠に紗張りする際のバイアス角度は23°であった。また、フォトマスクはクロムマスク(Line/Space=11.5μm/8.5μm、膜厚:10μm)を使用した。
【0093】
(4)シランカップリング剤による表面処理
シランカップリング剤の1重量%酢酸エチル溶液をスクリーンの両面に塗布し、40℃で10分間乾燥した。酢酸エチルを含ませたウエスでスクリーンを拭き、40℃で2分間乾燥した。
【0094】
(5)感光性樹脂組成物の調製
メタクリレート系共重合体と、架橋剤と、光酸発生剤と、光ラジカル重合開始剤と、重合禁止剤とを混合して、感光性樹脂組成物を調製した。なお、メタクリレート系共重合体と架橋剤との混合比は、メタクリレート系共重合体:架橋剤が4:1、3:1、2:1(樹脂重量分比)のものを調製した。光酸発生剤はメタクリレート系共重合体に対して、5重量%となるように添加した(樹脂重量分比)。光重合開始剤と光重合禁止剤は、架橋剤に対してそれぞれ3重量%加えた。ただし、UA-HAR-100を使用した場合のみ1重量%となるように添加した。
【0095】
(6)スクリーン印刷用版の製造
調整した感光樹脂組成物を、樹脂分が50〜60%程度になるまで室温で溶剤を蒸発させた。シランカップリング剤処理を施したスクリーンに感光樹脂組成物を10μm塗布し、40℃で3時間以上乾燥した。フォトマスクをスクリーンに接触させ、紫外線露光装置(主波長365nm)にて所定量露光した。2.5重量%TMAH水溶液に8分間浸漬して、水で1分間洗浄し、40℃で10分間乾燥した。紫外線後露光装置により5000mJ/cm2となるよう後露光した。
【0096】
(7)架橋剤の違いが解像性に与える影響
種々の架橋剤をメタクリレート系共重合体:架橋剤=4:1となるように混合した印刷用版を、デジタルマイクロスコープにより観察した写真を図5に示す。4種類の架橋剤の中でUA-HAR-50の場合に最も解像性が良好であった。UA-HAR-50以外の架橋剤では樹脂層にひび割れが発生した。
【0097】
つぎに、解像性の優れていた架橋剤UA-HAR-50を使用して、メタクリレート系共重合体との混合比を検討した。その結果、図6に示すように、メタクリレート系共重合体:架橋剤=3:1、2:1の場合にも解像性は良好であったが、2:1の場合にはスクリーンへの樹脂の残りが多く見られた。また、架橋剤の混合量が増えるにつれて露光量が多く必要になることが分かった。以上の結果から、解像性の点では架橋剤は少ない方がよいと考えられた。一方、樹脂層の強度や密着性は架橋剤の割合が多いほうが良好であると考えられた。
【0098】
これらの観点から、3種類の混合比を比較すると、架橋剤の割合ができるだけ多く解像性も良好である条件であるメタクリレート系共重合体:架橋剤=3:1が混合比として適当であると考えられた。
【0099】
また、メタクリレート系共重合体:架橋剤=3:1の場合のSEMによる観察結果を図7に示す。平面像、斜面像より、直線性は良好であると分かった。断面像より、エッジに若干丸みはあるものの、矩形に近い形状であることが分かった。
【0100】
さらに、レーザー顕微鏡(VK9500、キーエンス)による観察結果を図8に示す。写真上のLine/Spaceに対して水平方向に引いた直線上での測定プロファイルより樹脂層の幅は約10μm(開口幅10μm)、樹脂層の高さが約10μmであることが分かった。
【0101】
(8)スクリーンとの密着性及び樹脂層強度の評価
メタクリレート系共重合体:架橋剤(UA-HAR-50)=3:1のスクリーン印刷用版について、スクリーンと樹脂層との密着性をテープ剥離試験により調べ、樹脂層の強度を鉛筆硬度試験により調べた。具体的には下記のようにして行った。
【0102】
テープ剥離試験は、まず、スクリーンの下にガラス板を敷き、樹脂層にテープを貼り付けて上から消しゴムで20回こすり密着させた。つぎに、テープを垂直方向に一気に引き剥がした。最後に、スクリーン印刷用版の界面剥離と凝集破壊の様子を実体顕微鏡(BH-2 オリンパス)で観察した。なお、テープはユニ ポリエステルテープ(アクリル系、ユニ工業株式会社)を使用した。また、鉛筆硬度試験は鉛筆硬度試験法(JIS K-5400-8-4)に従って荷重300gにて試験した。
【0103】
その結果、テープ剥離試験において界面剥離、凝集破壊の両方が起こった。テープ剥離試験後の樹脂層の状態を実体顕微鏡で観察した結果を図9に示す。また、鉛筆硬度は2Hであることが分かった。
【実施例6】
【0104】
6.メタクリレート系共重合体の組成変化が解像性、密着性、樹脂層強度に与える影響
後露光により架橋密度を高めて樹脂層の強度を向上させるため、メタクリレート系共重合体の側鎖に二重結合を導入することを試みた。
【0105】
(1)スクリーン印刷用版の製造
メタクリレート系共重合体に実施例1で製造したAP-HAR-200、AP-HAR-201を使用して実施例5に記載の方法により、メタクリレート系共重合体:架橋剤(UA-HAR-50)=3:1のスクリーン印刷用版を製造した。
【0106】
(2)解像性
製造したスクリーン印刷用版の解像性について、実施例5と同様にレザー顕微鏡及びSEMにより観察した。その結果を図10から図14に示す。なお、図10はスクリーン印刷用版のデジタルマイクロスコープ像である。また、図11はメタクリレート系共重合体としてAP-HAR-200を使用するスクリーン印刷用版のSEM像であり、図12は同じスクリーン印刷用版のレーザー顕微鏡による観察結果である。さらに、図13はメタクリレート系共重合体としてAP-HAR-201を使用するスクリーン印刷用版のSEM像であり、図14は同じスクリーン印刷用版のレーザー顕微鏡による観察結果である。
【0107】
図11及び図13に示すSEM像のうちの平面像及び斜面像から、AP-HAR-200、AP-HAR-201どちらをメタクリレート系共重合体として使用しても、スクリーン印刷用版の直線性は良好であることが分かった。また、同断面像よりエッジの丸みは少なく、実施例5に記載したHAR-2-1をメタクリレート系共重合体として使用するスクリーン印刷用版よりも、さらに矩形に近い形状であることがわかった。
【0108】
また、図12に示すレーザー顕微鏡による観察結果、すなわち、この写真上のLine/Spaceに対して水平方向に引いた直線上での測定プロファイルから、AP-HAR-200をメタクリレート系共重合体として使用した場合、樹脂層の幅は約11μm(開口幅9μm)、樹脂層の高さは約11μmあることが分かった。同様に、図14から、AP-HAR-201をメタクリレート系共重合体として使用した場合、樹脂層の幅は約10μm(開口幅10μm)、樹脂層の約14μmあることが分かった。
【0109】
(3)密着性
実施例5と同様の方法でテープ剥離試験を行って、スクリーンと樹脂層との密着性について調べた。その結果、図15に示すように、テープ剥離試験の結果、界面剥離、凝集破壊ともに起きてはいるものの、HAR-2-1の場合に比べて剥離の割合が小さくなった。これは、2-HEMAが増えたことによってステンレススクリーンとの密着性が向上し、メタクリロイル基を導入することによって架橋密度が大きくなり、強度が上がって凝集破壊が少なくなったからであると、考えられる。
【0110】
(4)樹脂層の強度
実施例5と同様の方法で鉛筆硬度試験を行って、樹脂層の強度について調べた。その結果、AP-HAR-200及びAP-HAR-201をメタクリレート系共重合体として使用したスクリーン印刷用版の鉛筆硬度はいずれもHBであること、HAR-2-1をメタクリレート系共重合体として使用したスクリーン印刷用版は鉛筆硬度がHであること、そして、これらが現行の感光剤よりも柔らかいことが分かった。
【実施例7】
【0111】
7.印刷用版の耐溶剤性試験
スクリーン印刷を行うにあたっては、ペーストに含まれる溶剤や印刷用版の洗浄に使用する溶剤に樹脂が溶解してはならない。そこで、実施例5及び実施例6で製造したスクリーン印刷用版の樹脂層を、溶剤を含ませたウエスで最大500回こすり、樹脂層の厚さの変化及びタックの有無を調べた。その結果を図16及び表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
なお、溶剤には、銀ペーストに含まれるブチルカルビトールアセテート(以下、BCAと略記する。)、印刷用版の洗浄に使用するトルエンとシクロヘキサノンの混合液(以下、混合液と略記する。)を使用した。また、評価はパターンのない部分で行った。
【0114】
図16に示すように、3種類ともに2種類の溶剤で500回こすっても、樹脂層の厚さの減少は見られなかった。また、AP-HAR-200及びAP-HAR-201をメタクリレート系共重合体として使用した場合には、BCA、混合液ともに500回こすってもタックは現れなかった。一方、HAR-2-1をメタクリレート系共重合体に使用した場合には、100回こすると少しタックが現れた。以上の結果から、AP-HAR-200、AP-HAR-201を使用する印刷用版は、実用に耐えられると考えられた。
【実施例8】
【0115】
8.10μm印刷試験
メタクリレート系共重合体としてAP-HAR-201を使用するスクリーン印刷用版を製造したのち、このスクリーン印刷用版を使用して銀ペーストを基板上に印刷し、印刷物を評価した。以下にその詳細について説明する。
【0116】
(1)スクリーン印刷用版
スクリーン印刷用版は、線径13μmのステンレス製(SUS304)の線材を織った590メッシュのスクリーン(厚さ17μm)にカレンダー加工を施したスクリーンを使用し、フォトマスクにクロムマスク(Line/Space=10μm/10μm、膜厚:10μm)のものを使用したことを除いて、実施例5及び実施例6と同様の方法で製造したものを使用した。
【0117】
(2)銀ペースト
導電塗料 CA-2503-4(大研化学工業株式会社)を使用した。
【0118】
(3)基板
基板は、多孔膜つきポリイミドフィルム(ダイセル化学工業株式会社)、ポリイミドフィルム(品名:カプトン100EN、東レ・デュポン株式会社)、インクジェットフィルム(セイコーエプソン株式会社)をそれぞれ使用した。
【0119】
(4)スクリーン印刷
印刷は、印刷機LS-150(ニューロング精密工業株式会社)を使用してスキージ印刷したのち、200℃で30分焼成した(インクジェットフィルムを使用した場合のみ焼成しなかった)。なお、印刷条件は、スキージ材質:ウレタンゴム、スキージ硬度70°、スキージ速度:30mm/sec、スキージ落込み:フリー、スクレッパ速度:30mm/sec、スクレッパ落し込み:0.5mm、印圧:0.13MPa、背圧:0.10MPa、クリアランス:1.5mmである。
【0120】
(5)印刷物の評価
印刷物の評価は、SEM観察によってパターンの短絡及びショートの有無を調べた。その結果を表2に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
表2に示すように、銀ペーストとしてCA-2503-4を使用した場合には、多孔膜つきポリイミド、及びインクジェットフィルムに対して、断線や短絡なく印刷することができた。
【0123】
この結果から、ペーストしてはCA-2503-4が線幅10μmの印刷に最も適していることが分かった。また、基板については、カプトン100EN(未処理のポリイミドフィルム)を使用した場合には全面短絡が起こったことから、多孔膜がペーストのにじみ防止に効果があることが分かった。
【0124】
また、SEM及びレーザー顕微鏡観察によって線幅及び高さについても測定した。そのうち、CA-2503-4を多孔膜つきポリイミドに印刷したスクリーン印刷用版のSEM像を図17に示し、レーザー顕微鏡による観察結果を図18に示す。図18に示すように、CA-2503-4を多孔膜つきポリイミドに印刷した場合(4ショット目)には、得られた印刷物の線幅は約12μmであり、印刷用版の開口幅に対して2μm程度大きくなっていることが分かった。また、パターンの高さは約3μmであることが分かった。
【実施例9】
【0125】
9.印刷物の接合強度・電気抵抗値の測定
スクリーン印刷によって製造した印刷物における基板と銀ペーストとの間の接合強度及び銀ペースト部分の電気抵抗値を測定した。その詳細を以下に示す。
【0126】
(1)銀ペースト
銀ペーストとして、XA-9053(有機銀-酸化銀系,藤倉化成)、CA-2503-4(サブミクロン銀粉末-フェノール-アクリル系、大研化学工業)、CA-2503-4B(サブミクロン銀粉末-フェノール-アクリル系,大研化学工業)を使用した。なお、XA-9053を塗布する場合には、必要に応じてプライマー(XB-3058、ポリエステル-ブロックイソシアネート系)を基板に塗布した。
【0127】
(2)基板
基板には、ポリイミド基板であるカプトン100EN(東レ・デュポン製)及びスライドガラスを使用した。また、ポリイミド基板は、コロナ処理を施したものと未処理のものを使用した。なお、コロナ処理は、線対円筒型のコロナ放電処理装置のロール部分にポリイミド基板を両面テープで貼り付け、放電出力1kW又は0.5kW、処理速度1m/min、電極間隙3mm、放電領域通過回数1〜10回で行った。
【0128】
(3)スクリーン印刷
スクリーン印刷用版は、実施例8に記載のスクリーン印刷用版を使用して、実施例8に記載の条件で行った。なお、CA-2503-4及びCA-2503-4Bを使用した場合には、実施例8と同様に200℃で30分間印刷物を焼成した。一方、XA-9053を使用した場合には、予備乾燥(75℃〜150℃,10〜30分)、加圧焼成(200℃,1.5kPa〜21MPa,1〜30分)、後乾燥(200℃,10分)の3工程を様々に組み合わせて印刷物を焼成した。
【0129】
(4)接合強度の測定
ボンドテスター(dage5000、Dage Arctek Co.,LTd)を使用して、ツール高さ0μm、せん断速度500μm/sで銀ペースト/ポリイミド基板の接合強度を測定した。図19の(a)にCA-2503-4/ポリイミド基板、図19の(b)にCA-2503-4B/ポリイミド基板の接合強度の測定結果を示す。この図から、コロナ放電処理を行うことによりわずかに強度が上昇したことが分かった。また、図20にXA-9053/ポリイミド基板(ディスペンサー塗布、ランド径1〜2mm)の接合強度の測定結果を示す。この図から、150〜250℃の中では200℃の焼成が最も高強度であることが分かった。
【0130】
(5)電気抵抗値の測定
図21に示すように,スライドガラス上に厚さ50μmのセロハンテープでマスキングしたスライドガラスに銀ペーストを塗布し、(3)と同様の熱履歴で硬化させて試験片を製作した。そして、同図に示すように試験片の電気抵抗を4点端子法により測定した。
【0131】
図22にCA-2503-4及びCA-2503-4Bの電気抵抗値を測定した結果を示す。この図から、CA-2503-4及びCA-2503-4Bの両方とも硬化温度・時間の増加とともに電気抵抗値は小さくなっていることが分かった。また、CA-2503-4の電気抵抗値よりもCA-2503-4Bの電気抵抗値が低いため、電気特性においてもCA-2503-4Bの方が優位であることも分かった。
【0132】
図23にXA-9053の電気抵抗を4点端子法で測定した結果を示す。焼成条件が最も良好であった場合、即ち115℃で20分間の予備乾燥ののちに200℃、1.5kPaで30分間加圧焼成する場合の電気抵抗値は0.01Ωm以上であり、他の場合よりも6桁以上大きくなることが分かった。また、115℃で20分間の予備乾燥し、200℃、1.5kPaで30分間加圧焼成したのち、銀ペースト表面を自由にして200℃、10分間後乾燥することにより、他の焼成条件よりも電気抵抗値が良好になることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】メタクリレート系共重合体の構造と光酸発生剤による化学反応を示す図である。
【図2】メタクリレート系共重合体と光酸発生剤とを含む樹脂組成物により樹脂層が形成されたスクリーンをSEMで観察した写真である。
【図3】後露光時間がスクリーン上に形成された樹脂層のトルエン耐性に与える影響を比較する図である。
【図4】後露光せずに製造したスクリーン印刷用版を、デジタルマイクロスコープで観察した写真である。
【図5】感光性樹脂組成物に含まれる架橋剤の種類が異なるスクリーン印刷用版を、デジタルスコープで観察した写真である。
【図6】感光性樹脂組成物に含まれる架橋剤の混合比が異なるスクリーン印刷用版を、デジタルスコープで観察した写真である。
【図7】図6(a)のスクリーン印刷用版をSEMで観察した写真である。
【図8】図6(a)のスクリーン印刷用版のレーザー顕微鏡による観察結果である。
【図9】図6(a)のスクリーン印刷用版を使用して、テープ剥離試験した後の樹脂層の状態を実体顕微鏡で観察した写真である。
【図10】スクリーン印刷用版をデジタルマイクロスコープで観察した写真である。
【図11】メタクリレート系共重合体として側鎖に二重結合を含むAP-HAR-200を使用したスクリーン印刷用版をSEMで観察した写真である。
【図12】図11と同じスクリーン印刷用版のレーザー顕微鏡による観察結果である。
【図13】メタクリレート系共重合体として側鎖に二重結合を含むAP-HAR-201を使用したスクリーン印刷用版をSEMで観察した写真である。
【図14】図13と同じスクリーン印刷用版のレーザー顕微鏡による観察結果である。
【図15】メタクリレート系共重合体として側鎖に二重結合を含むAP-HAR-200、AP-HAR-201及び二重結合を含まないHAR-2-1を使用して、テープ剥離試験した後の樹脂層の状態を実体顕微鏡で観察した写真である。
【図16】スクリーン印刷用版の樹脂層を、溶剤を含ませたウエスでこすり、樹脂層の厚さの変化を調べた結果を示すグラフである。
【図17】銀ペーストCA-2503-4を多孔膜つきポリイミドに印刷した印刷物をSEMにより観察した写真である。
【図18】図17と同じ印刷物のレーザー顕微鏡による観察結果である。
【図19】銀ペーストCA-2503-4、CA-2503-4B/ポリイミド基板の印刷物の接合強度試験の結果を示すグラフである。
【図20】銀ペーストXA-9053/ポリイミド基板の印刷物の接合強度試験の結果を示すグラフである。
【図21】4点端子法による電気抵抗値の測定を説明する概略図である。
【図22】図21の4点端子法によって、CA-2503-4及びCA-2503-4Bの電気抵抗値を測定した結果を示すグラフである。
【図23】図21の4点端子法によって、焼成条件の異なるXA-9053の電気抵抗値を測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)式(I)
【化1】

で表される構造単位を含むメタクリレート系共重合体と、
(2)光ラジカル開始剤と、
(3)少なくとも光ラジカル開始剤にラジカルを発生させる光とは波長領域が異なる光の照射によって酸を発生する光酸発生剤と、
(4)ラジカルにより架橋反応する架橋剤と、
を含有する感光性樹脂組成物。
【請求項2】
メタクリレート系共重合体が、
式(II)
【化2】

で表される構造単位を含む請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
メタクリレート系共重合体が、
一般式(III)
【化3】

(式中、RはH又はCH3の何れかを表しており、mは1又は2の何れかを表わしている。)
で表される構造単位を含む請求項1又は請求項2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
光酸発生剤がi線により酸を発生する化合物である請求項1から請求項3の何れかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
露光工程では架橋反応を抑制するとともに、後露光工程では架橋反応を阻害し難い重合禁止剤を含む請求項1から請求項4の何れかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れかに記載の感光性樹脂組成物をスクリーンに塗布・乾燥して樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
光ラジカル開始剤がラジカルを発生する光とは波長領域が異なる光をスクリーン上の樹脂層に照射して回路パターンを露光する露光工程と、
前記樹脂層の露光部分を現像して除去する現像工程と、
光ラジカル開始剤がラジカルを発生する波長の光を含む光を照射して、前記樹脂層の現像工程において除去されなかった部分を架橋する後露光工程と、
をこの順番で含むスクリーン印刷用版の製造方法。
【請求項7】
シランカップリング剤によって表面処理されたスクリーンを使用する請求項6に記載のスクリーン印刷用版の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載のスクリーン印刷用版の製造方法により製造してなるスクリーン印刷用版。

【図1】
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【図3】
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【図16】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−48163(P2009−48163A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85995(P2008−85995)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(592066723)中沼アートスクリーン株式会社 (8)
【出願人】(000190895)新中村化学工業株式会社 (19)
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【Fターム(参考)】