説明

感光性樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いたハードコートフィルム並びに反射防止フィルム

【課題】硬化膜を形成した際に十分な帯電防止特性、高屈折率および透明性を有し、環境負荷物質を用いず、プラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶表示装置(LCD)等の画像表示装置のハードコート層や高屈折率層に適した感光性樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いたハードコートフィルム並びに反射防止フィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも、(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物と、重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーと、金属酸化物と、光重合開始剤と、を含む、感光性樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いたハードコートフィルム並びに反射防止フィルムにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率及び帯電防止機能に優れた感光性樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いたハードコートフィルム並びに反射防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
外光の反射によるコントラストの低下や像の映り込みを防止する反射防止フィルム又は反射防止膜は、近年様々な用途で使用されている。その代表的な使用例は、プラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶表示装置(LCD)のような画像表示装置の最表面の外光の反射を防止する際に用いられる反射防止膜である。このような用途に適用される反射防止膜には、帯電防止性、表面硬度、低い反射率、高い耐擦傷性、防汚性等が要求される。
【0003】
これらの要求に対しては、反射防止フィルム等の原料となる樹脂組成物の組成に改良を加えることにより、所望の特性を発揮させている。例えば、特開2002−283509号公報には、反射防止用フィルムにおいて、導電層に導電性無機粒子を含有する導電層と主鎖中にビニルエーテル構造を含む含フッ素系共重合体からなる樹脂層からなる積層フィルムが開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、特開2006−188588号公報には、帯電防止機能を有する反射防止フィルムにおいて、導電性金属酸化物と透明性金属酸化物の2種類の金属酸化物を用いた高屈折率層またはハードコート層に用いられる感光性樹脂組成物が開示されている(特許文献2)。
【0005】
また、特開2003−137912号公報には、重合性単量体と半導体超微粒子からなる 重合性液体組成物、架橋樹脂組成物が開示されている(特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−283509号公報
【特許文献2】特開2006−188588号公報
【特許文献3】特開2003−137912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ITOやATOを用いて導電層の導電性を発現させ、高屈折率とする場合、導電層が着色し透過率が低下するという問題が生じる。また、その他の金属酸化物を用いて、導電性を発現させるためには多量に添加することが必要となり硬度等の他特性に影響を与える。具体的には金属酸化物が多くなると相対的にバインダー(樹脂)の量が少なくなり、硬化組成物自体の強度(クラックが発生しやすくなる)、耐擦傷性等に影響を与える。また、金属酸化物の量が80%を超えるとヘイズが上昇する(透過率が下がる)。
【0008】
また、通常の樹脂をバインダーとした場合、樹脂単体の表面抵抗が高いために、金属酸化物の表面抵抗値は10Ω/□以下でなければ、十分な帯電防止特性を得ることが難しい。このとき高導電性、比較的透明性の高いアンチモン酸亜鉛を使用するケースが多いが、高屈折率化するには75%以上添加する必要がある。
【0009】
さらに、アンチモン化合物は環境負荷物質であるため、使用が制限される。
【0010】
さらにまた、半導体微粒子などの透明性酸化物を使用する場合、所定の量を添加すれば高屈折率、透明性を発現させることができる一方、当該酸化物は、粒子単独の表面抵抗値が低くないため、十分な帯電防止機能を発揮することが出来ない。
【0011】
一般に、帯電防止性を向上させるためにITOやATOなどの導電性金属酸化物の添加量を多くすると、帯電防止効果は向上するが、屈折率や透明性は劣るものとなる。また、屈折率を向上させるためにZnOやTiOなどの透明金属酸化物の添加量を多くすると、屈折率は向上するが、帯電防止特性は劣るものとなる。従って、帯電防止特性、高屈折率、透明性のいずれについても優れた特性を有するハードコートフィルムや反射防止フィルムが望まれていた。
【0012】
従って、本発明は、硬化膜を形成した際に十分な帯電防止特性、高屈折率および透明性を有し、環境負荷物質を用いず、プラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶表示装置(LCD)等の画像表示装置のハードコート層や高屈折率層に適した感光性樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いたハードコートフィルム並びに反射防止フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は優れた帯電防止特性を維持しつつ、高屈折率、高透明性を達成する感光性樹脂組成物の組成について種々検討したところ、導電性補助剤を使用することにより、導電性金属酸化物との間で相乗効果を発揮するとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものであり、少なくとも、(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物と、重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーと、金属酸化物と、光重合開始剤と、を含む、感光性樹脂組成物を提供するものである。
【0014】
導電性補助剤として重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーを使用することにより、本発明の感光性樹脂組成物から形成された硬化被膜は、導電性、透過率を高く維持したまま、高屈折率となる。また、当該被膜の上に低屈折率樹脂を塗布して硬化させることにより、反射率を低く抑えることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の感光性樹脂組成物によれば、帯電防止剤として表面抵抗率10Ω/□以上の透明金属酸化物を使用することができ、透過率及び屈折率も従来の感光性樹脂組成物と比較して優れたものとなる。従って、硬化膜を形成した際に十分な帯電防止特性、高屈折率および透明性を有し、画像表示装置のハードコート層や高屈折率層に適したハードコートフィルムや反射防止フィルムの製造に適している。また、環境負荷物質を用いていないため、環境の観点からも好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0017】
本実施形態の感光性樹脂組成物は、(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物を含む。前記(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物を用いることにより、表面硬度が高い(ハードコート性がある)硬化膜を得ることができる。
【0018】
前記(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物としては、例えば、 (メタ)アクリレート系モノマーが好適に用いられる。(メタ)アクリレート系モノマーの好適な例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
さらに、前記(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物と併用して、(メタ)アクリロイル基を2つ有しかつエーテル鎖を有するラジカル系の感光性モノマーを使用することもできる。この場合、樹脂組成物が硬化膜を形成した際に、エーテル結合が硬化膜の電子伝導性を補助的に高める効果が期待できる。
【0020】
前記(メタ)アクリロイル基を2つ有しかつエーテル鎖を有するラジカル系の感光性モノマーの好適な例としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO変性(メタ)ジアクリレート等のEO変性化合物が挙げられる。
【0021】
前記光硬化性化合物は、6つ以上の官能基を有することが好ましい。前記光硬化性化合物が6以上の官能基を有することで、より表面硬度が高い硬化膜を得ることができる。
【0022】
すなわち、本実施形態の感光性樹脂組成物に用いられる光硬化性化合物は、(メタ)アクリロイル基の官能基が最低3つある。また、官能基の合計は6つ以上であることが好ましい。このとき、他の官能基としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基を使用することができ、単独でも、併用することも可能である。官能基がすべて(メタ)アクリロイル基である場合、ビニル基と(メタ)アクリロイル基、ビニル基とアリル基と(メタ)アクリロイル基、アリル基と(メタ)アクリロイル基との組合せの場合がある。
【0023】
前記6つ以上の官能基を有する光硬化性化合物の具体的としては、例えば、下記式(1)に示す多官能ウレタンアクリレートを挙げることができる。
【0024】
【化1】

【0025】
上記式中、Aは2官能以上の(メタ)アクリレート部分を表し、Iはイソシアネート残基を表す。ここで、「イソシアネート残基」とは、反応後のイソシアネート化合物をいい、本実施形態で使用されるイソシアネートは、多価イソシアネートである。
【0026】
前記金属酸化物、前記光硬化性化合物、前記感光性モノマーの固形分の合計量100wt%に対して、前記(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物の含有量は、5〜60wt%であることが好ましく、20〜50wt%であることがより好ましい。前記(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物の含有量をかかる範囲にすることで、膜強度が上がり、充分な帯電防止能を発現させることができる。加えて、高屈折率化も達成することができる。
【0027】
本実施形態の感光性樹脂組成物は、導電性補助剤として、重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーを含む。かかる感光性モノマーを用いることで、従来は使用できなかった表面抵抗値が高い金属酸化物を用いることができ、硬化膜の導電性を高めることができる。
【0028】
前記重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーは、光カチオン重合性官能基を少なくとも一つ有する光カチオン重合性モノマー又は光アニオン重合性官能基を少なくとも一つ有する光アニオン重合性モノマーであることが好ましい。本実施例では、光カチオン重合性モノマーを用いた。これにより、暗反応による反応性向上と、ラジカルモノマー由来の酸素阻害による硬化不良を抑制できる。また、UV光照射後も反応が進み(暗反応)、加えてラジカル系材料の反応率が向上し、結果的に膜強度が向上する。
【0029】
前記ポリエーテル鎖は、前記感光性モノマーの一単位に3つ以上含まれることが好ましい。前記ポリエーテル鎖が前記感光性モノマーの一単位に3つ以上含まれることにより、エーテル鎖由来のプロトン伝導が発現する。なお、「ポリエーテル鎖を有する」とは、骨格中にエチレンオキサド鎖(CHCHO)を有することを意味する。
【0030】
前記重合性官能基は、前記感光性モノマーの一単位に2つ以上含まれることが好ましい。前記重合性官能基が前記感光性モノマーの一単位に2つ以上含まれることにより、重合反応が3次元的に架橋し、硬化性が高まる。
【0031】
前記重合性官能基としては、例えば、エポキシ基、オキセタン基、ビニル基を有する光カチオン重合性官能基であることが好ましく、より好ましくはビニル基を有する光カチオン重合性官能基である。その理由は、ビニル基は(メタ)アクリロイル基と反応することが可能であり、光ラジカル開始剤で反応開始することができ、光ラジカル系樹脂との反応が期待できるからである。
【0032】
上記ビニル基及びエーテル鎖を有する光カチオン重合性モノマーとしては、例えば、下記式(2)で表されるビニルエーテル化合物が挙げられる。
【0033】
【化2】

【0034】
上記式中、RはH、アルキル鎖又はビニル基を表し、Bはビニル基を表す。また、nは3以上の整数である。
【0035】
このような、EO鎖(CHC(R)2O)を有するビニルエーテル化合物を用いることで、極性の高い樹脂、具体的には(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物、より具体的には多官能ウレタンアクリレートなどの樹脂との相溶性を高めることができる。また、前記ビニルエーテル化合物は低粘度であるため、反応性希釈剤としても利用することができる。以上の特性から、前記ビニルエーテル化合物は樹脂組成物内で良好な分散状態を維持することができ、硬化後の感光性樹脂組成物において緻密な導電性ネットワークを形成することができる。
【0036】
また、カチオン系ビニルエーテル化合物は基材との密着性に優れる。カチオン系のビニル基が好ましい理由として、多官能ウレタンアクリレートの未反応官能基と当該カチオン系のビニル基との暗反応により未反応官能基の反応が促進される。
【0037】
さらに、金属酸化物の量が多くなると一般的に基材の密着性低下が生じるが、カチオン系ビニルエーテル化合物を用いることにより、反応を緩やかに進めることができる。これにより硬化時に生じる硬化収縮が発生しがたく、基材との密着性の低下を抑制できると考えられる。
【0038】
さらにまた、未反応官能基の反応が促進されることにより、表面硬化性、耐薬品性も向上する。
【0039】
また、紫外線を吸収する金属酸化物(例えばガリウムドープ酸化亜鉛)を使用する場合は、以下の理由からカチオン系の硬化機構で進むカチオン系ビニルエーテル化合物を用いることが好ましい。
【0040】
ラジカル系の硬化機構によれば、紫外線を照射することにより反応が開始し(以後、開始反応という)、その後の反応(以下、成長反応という)は開始反応に影響を受ける。これに対して、カチオン系の硬化機構もラジカル系の硬化機構と同じく紫外線を照射することにより反応が開始するが、その後の成長反応は、紫外線を照射せずとも、加熱することで反応が継続的に進行する。よって、紫外線を吸収する金属酸化物(例えばガリウムドープ酸化亜鉛)を使用する場合は、カチオン系硬化機構の方が効率的かつ満遍なく硬化させることができる。
【0041】
図1は重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーの導電性メカニズムを説明するための図である。重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーのエーテル骨格部分で、系内にプロトン(H)が発生し、当該プロトン(H)が隣接するポリエーテル間(図における枠内)を移動することによってプロトン伝導が発現する。図1において、(+)はプロトンを表し、(−)はプロトンが脱離することにより発生する電子又は非共有電子対を表す。また、R1はアルキレン鎖(メチレン、エチレン鎖等)を表す。
【0042】
前記重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーの含有量は、前記金属酸化物、前記光硬化性化合物、前記感光性モノマーの固形分の合計量100wt%に対して、5〜15wt%であることが好ましい。前記重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーの含有量をかかる範囲にすることで、充分な導電性ネットワークを形成し、帯電防止性能を向上させることができる。
【0043】
本実施形態の感光性樹脂組成物は、帯電防止性を付与するために金属酸化物を含む。金属酸化物自体にUVカット能があるため、感光性樹脂組成物に金属酸化物を用いることにより、UVカット(360nm以下をカット)、耐光性が付与でき、太陽光照射による硬化膜の劣化が改善される。その結果、感光性樹脂組成物にUV吸収剤を用いる必要がなくなる。
【0044】
前記金属酸化物としては、少なくともアンチモン酸亜鉛、酸化錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、五酸化アンチモン、酸化錫、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛からなる群から選択された1種以上を含むことが好ましい。特に、金属酸化物をガリウムドープ酸化亜鉛とした場合、熱線をカットする機能を有するため、本分野で要求される赤外線カット機能を付与することもできる。
【0045】
前記金属酸化物は、透明性の観点から、その平均1次粒子が0.001〜0.2μmの粒子であることが好ましく、0.005〜0.001μmであることがより好ましい。平均粒子径をかかる範囲にすることで、粒子の凝集を未然に防止し、ヘイズ上昇の問題を防止することができる。
【0046】
前記金属酸化物の含有量は、導電性付与、高屈折率化の観点から、前記金属酸化物、前記光硬化性化合物、前記感光性モノマーの固形分の合計量100wt%に対して、20〜75wt%であることが好ましい。
【0047】
本実施形態の感光性樹脂組成物は、光重合開始剤を含む。前記光重合開始剤は、ラジカル系、カチオン系、アニオン系の重合開始剤を使用することができる。
【0048】
前記ラジカル系の光重合開始剤の好適な例としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2,2メチルフェニルプロパノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキサイド、2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ミヒラーズケトン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
前記ラジカル系重合開始剤の添加量は、その種類、使用される光硬化性化合物の種類および量比、使用条件などによって異なるが、感光性樹脂組成物中の光硬化性化合物100wt%とした場合に、0.5〜10wt%である。
【0050】
前記カチオン系重合開始剤の好適な例としては、例えば、スルホニウム塩、アンモニウム塩などの他、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等を挙げることができる。また、カチオン系重合開始剤は市販品を使用することもできる。市販品の代表例としては、商品名CI−1370、CI−2064、CI−2397、CI−2624、CI−2639、CI−2734、CI−2758、CI−2823、CI−2855およびCI−5102の下に入手可能な市販品(いずれも日本曹達社製)、商品名PHOTOINITIATOR2047の下に入手可能な市販品(ローディア社製)、商品名UVI−6974およびUVI−6990の下に入手可能な市販品(いずれもユニオンカーバイト社製)等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
カチオン重合開始剤の添加量は、その種類、使用される光カチオン重合性モノマーの種類および量比、使用条件などによって異なるが、感光性樹脂組成物中の光カチオン重合性モノマー100wt%とした場合に、0.5〜10wt%である。
【0052】
前記アニオン系重合開始剤の好適な例としては、例えば、アルカリ金属又は有機アルカリ金属を例示することができ、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ナトリウム−カリウム合金等を例示することができ、有機アルカリ金属としては、上記アルカリ金属のアルキル化物、アリル化物、アリール化物等を使用することができ、具体的には、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、エチルナトリウム、リチウムビフェニル、リチウムナフタレン、リチウムトリフェニル、ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン、α−メチルスチレンナトリウムジアニオン、1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、1,1−ジフェニルメチルカリウム、1,4−ジリチオ−2−ブテン、1,6−ジリチオヘキサン、ポリスチリルリチウム、クミルカリウム、クミルセシウム、カリウムカルバジド等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
アニオン重合開始剤の添加量は、その種類、使用される光アニオン重合性モノマーの種類および量比、使用条件などによって異なるが、感光性樹脂組成物中の光アニオン重合性モノマー100wt%とした場合に、0.5〜10wt%である。
【0054】
本実施形態の感光性樹脂組成物は、光ラジカル系樹脂である(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物と、光カチオン重合性モノマー又は光アニオン重合性モノマーである重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーが存在する。従って、光重合開始剤は、前記化合物、前記モノマーの種類に応じてラジカル系とカチオン系又はアニオン系の重合開始剤を適宜選択して併用することが好ましい。
【0055】
また、ラジカル系とカチオン系又はアニオン系の重合開始剤を併用することにより、反応速度が速く、湿度の影響を受けないという光ラジカル反応の利点と、酸素阻害を受けず、暗反応性があり、硬化収縮が少ないという光カチオン/光アニオン反応の利点が得られる。例えば、反応初期は光ラジカル反応を行い、その後はカチオン系又はアニオン系による暗反応で反応を行うことができる。
【0056】
また、反応によって得られた硬化膜についても、光ラジカル反応と光カチオン又は光アニオン反応を併用して得られた硬化膜は、イオンが残存しているために導電性が向上することが期待できる。
【0057】
上記光重合開始剤の効率を上げるために、増感剤、アミン系添加剤、チオール系硬化促進剤を使用してもよい。特にチオール系硬化促進剤は少量添加で酸素阻害を低減することができ、硬化性が高い皮膜を形成することができるため好ましい。
【0058】
本実施形態の感光性樹脂組成物は、金属酸化物と樹脂の分散性の観点から、有機溶剤を添加することができる。前記有機溶剤の好適な例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;2−メトキシエチルアセタート、2−エトキシエチルアセタート、2−ブトキシエチルアセタート等のエーテルエステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;等が挙げられる。
【0059】
有機溶剤の添加量は、感光性樹脂組成物の使用条件(例えば、塗布する際の濃度条件)により適宜設定することができる。具体的には、光硬化性化合物、感光性モノマー、金属酸化物の固形分の合計量100wt%に対して、10〜9900wt%である。
【0060】
本実施形態の感光性樹脂組成物は、基材に塗布した後、光重合により硬化させて、ハードコート及び/又は帯電防止高屈折率層を形成することができる。さらに、前記ハードコートフィルム又は帯電防止高屈折率層上に低屈折率層を形成することにより、2層構造タイプ又は3層構造タイプの反射防止フィルムを形成することができる。反射防止フィルムは、プラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶表示装置(LCD)のような画像表示装置に適用することができる。
【0061】
図2は、表面抵抗率が10Ω/□以上の金属酸化物を含む感光性樹脂組成物を硬化させてハードコートフィルムを形成した場合の導電性メカニズムを説明するための図である。図2(A)は従来例のハードコートフィルムの模式図であり、図2(B)は本実施形態のハードコートフィルムの模式図である。
【0062】
図2(A)に示すように、導電性補助剤である重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーを配合しない従来のハードコートフィルムは、バインダー(絶縁体)10中に表面抵抗率が10Ω/□以上金属酸化物12が存在しているだけでは、導電性(EC)は弱いものとなる。
【0063】
一方、図2(B)に示すように、導電性補助剤である重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマー14を配合した状態のハードコートフィルムは、バインダー(絶縁体)10にビニルエーテル鎖が存在しているため、プロトン16が発生し易くなる。その結果、図2(A)のハードコートフィルムよりも、導電性(EC)が強いものとなる。なお、図2(B)において、(+)はプロトン16を表し、(−)はプロトンが脱離することにより発生する電子又は非共有電子対18を表す。
【0064】
また、プロトン16が移動することにより導電性(EC)が発現し、表面抵抗率が10Ω/□以上の金属酸化物12を添加しても、本分野で要求される帯電防止特性を発現させることができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は、以下に示す実施例のみならず様々な変更を加えて実施することが可能であり、かかる変更も本特許請求の範囲に包含される。
【0066】
1.感光性樹脂組成物の調製
表1に示す組成で実施例及び比較例の感光性樹脂組成物を調製した。まず、光硬化性化合物である多官能ウレタンアクリレート(D)と感光性モノマーであるビニルエーテル化合物(E)を金属酸化物(A,B,C)に添加し、有機溶剤(H)を加え撹拌したのちに光重合開始剤(F,G)を添加し、撹拌することにより所望の感光性樹脂組成物を得た。
【0067】
【表1】

【0068】
2.フィルムの作製
(1)帯電防止ハードコートフィルムの作製
上述の感光性樹脂組成物を用いて帯電防止ハードコートフィルムを作成した。バーコーターを用いて、上述の感光性樹脂組成物を易接着付きPET上に塗布した。次いで、80℃の乾燥炉中に1分間乾燥後、空気雰囲気で積算光量が400mJ/cmとなるように紫外線を照射し、感光性樹脂組成物を硬化することにより、基材上に3μmの被膜を有する帯電防止ハードコートフィルム(屈折率:1.75)を得た。
【0069】
(2)2層構造からなる反射防止フィルムの作製
バーコーターを用いて、実施例2の感光性樹脂組成物を膜厚1μmとなるように易接着付きPET上に塗布し、その上にDPHA(ジベンタエリスリトールヘキサアクリレート)と低屈折率金属酸化物分散液(MIBK分散フッ化マグネシウム)、光重合開始剤、有機溶剤の組成からなる低屈折率用樹脂組成物を塗布した。次いで、80℃の乾燥炉中に1分間乾燥後、窒素雰囲気で積算光量が400mJ/cmとなるように紫外線を照射・硬化することにより、0.1μmの被膜を形成した。これにより、基材上に帯電防止ハードコート層(屈折率:1.75)および低屈折率層(屈折率:1.43)が形成された2層構造からなる反射防止フィルムを得た。なお、他の実施例の感光性樹脂組成物を用いても、同様に反射防止フィルムを製造することができた。
【0070】
(3)3層構造からなる反射防止フィルムの作製
DPHA、光重合開始剤、有機溶剤からなる組成のハードコートフィルム組成物をバーコーターを用いて、易接着PET上に膜厚が3μmとなるように塗布し、80℃の乾燥炉中に1分間乾燥後、空気雰囲気で積算光量が400mJ/cmとなるように紫外線を照射し、ハードコートフィルム組成物を硬化することにより、3μmの被膜を有するハードコートフィルムを得た。その上に実施例2の感光性樹脂組成物をバーコーターにより塗布し、80℃の乾燥炉中に1分間乾燥後、空気雰囲気で積算光量が400mJ/cmとなるように紫外線を照射し、硬化することにより、0.1μmの被膜を有する高屈折率帯電防止層を得た。さらにDPHAと低屈折率金属酸化物分散液(MIBK分散フッ化マグネシウム)、光重合開始剤、有機溶剤の組成からなる低屈折率用樹脂組成物を高屈折率帯電防止層上に塗布し、80℃の乾燥炉中に1分間乾燥後、窒素雰囲気で積算光量が400mJ/cmとなるように紫外線を照射し、0.1μmの被膜を形成した。これにより、基材上にハードコート層(屈折率:1.51)、高屈折率帯電防止層(屈折率:1.75)及び低屈折率層(屈折率:1.43)が形成された3層構造からなる反射防止フィルムを得た。なお、他の実施例の感光性樹脂組成物を用いても、同様に反射防止フィルムを製造することができた。
【0071】
3.評価試験
上記2(1)で得られた帯電防止ハードコートフィルムをサンプルとして、下記項目について評価試験を行った。
【0072】
(1)全光線透過率
ヘイズメーター(村上色彩研究所社製ヘイズメーター HM−150)を使用し、測定した。
【0073】
(2)ヘイズ値
ヘイズメーター(村上色彩研究所社製ヘイズメーター HM−150)を使用し、測定した。
【0074】
(3)帯電防止性(ホコリ付着防止)サンプルの表面を表面抵抗計(東亜ディーケーケー社製SME−8310)で測定し、1011Ω/□以下で帯電防止性あり(ホコリ付着防止あり)と評価した。
【0075】
(4)耐擦傷性
硬化皮膜をスチールウール(日本スチールウール社製、商品名:ボンスター#0000)により200g/cmで10回擦り、艶消しの塗料を塗布し、傷の有無を目視にて観察し、以下の基準により評価した。
○:傷が3本以下
△:傷が4本以上10本以下
×:傷が10本以上
【0076】
(5)鉛筆硬度
JIS K 5400に従って評価した。すなわち、鉛筆を硬化膜表面に当接し、1kgの荷重でラインを5本引き、傷が基材まで達しているか否かを観察することにより評価した。なお、傷が4本以上ない場合、OK判定とした。また、表2には、そのときの鉛筆硬度を記載した。
【0077】
(6)密着性
JIS K 5400に従って測定した。すなわち、硬化皮膜の表面に1mm間隔で縦、横11本の切れ目を入れて100個の碁盤目を作り、セロハンテープをその表面に密着させた後、一気に剥がした時に剥離せず残存したマス目の個数を表示した。
【0078】
(7)波長カットの有無(紫外線カット、赤外線カット)
分光スペクトル測定器(日立ハイテクノロジーズ社製、U−4100)で380nm以下の波長を測定し、透過率が5%以下の部分の波長を観測した。なお、本発明における評価において、紫外線(UV)カット機能があるというのは、360nm以下の波長の透過率が5%以下の場合とし、赤外線(IR)カット機能があるというのは、1600nm以上の波長(近赤外線)の透過率が30%以下である場合とした。図3は、実施例2の感光性樹脂組成物を用いて製造した帯電防止ハードコートフィルムの分光透過スペクトルの一例である。
【0079】
(1)〜(7)の評価試験の結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
評価試験の結果、実施例の感光性樹脂組成物を用いて製造した帯電防止ハードコートフィルムは、導電性、透過率を高く維持したまま、高屈折率となることが判明した。
【0082】
なお、従来のハードコート用樹脂組成物、高屈折率用樹脂組成物には、レベリング剤を添加していたため、低屈折率層との密着性が低下していた。これに対し本発明の感光性樹脂組成物は、レベリング剤を入れる必要がないため、低屈折率層との密着性が良くなる。
【0083】
(8)反射率の測定
上記2(2)で得られた2層構造の反射防止フィルム及び上記2(3)で得られた3層構造の反射防止フィルムを用い、反射率の測定を行った。具体的には、反射防止フィルムの裏面を#400のサンドペーパーで荒らした後、艶消しの黒色塗料を塗布した。次いで、反射率測定器(島津製作所社製、装置名:UV−3150)により、視感平均反射率を測定した。その結果を表3及び図4に示す。なお、図4は、実施例2の感光性樹脂組成物を用いて形成した2層構造の反射防止フィルムの分光反射スペクトルである。これら表3及び図4の結果から、実施例の感光性樹脂組成物を用いて形成された2層構造の反射防止フィルム及び3層構造の反射防止フィルムは、反射率を低く抑えることができることを確認した。
【0084】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーの導電性メカニズムを説明するための図である。
【図2】ハードコートフィルムの導電性メカニズムを説明するための図である。
【図3】帯電防止ハードコートフィルムの分光透過スペクトルの一例である。
【図4】反射防止フィルムの分光反射スペクトルの一例である。
【符号の説明】
【0086】
10…バインダー(絶縁体)、12…表面抵抗率が10Ω/□以上の金属酸化物、14…重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマー、16…プロトン、18…電子又は非共有電子対、EC…導電性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物と、重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーと、金属酸化物と、光重合開始剤と、を含む、感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーが、光カチオン重合性モノマー又は光アニオン重合性モノマーである、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエーテル鎖が、前記感光性モノマーの一単位に3つ以上含まれる、請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記重合性官能基が、前記感光性モノマーの一単位に2つ以上含まれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記重合性官能基が、エポキシ基、オキセタン基、ビニル基からなる群から選択された少なくとも1種以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記金属酸化物が、少なくともアンチモン酸亜鉛、酸化錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、五酸化アンチモン、酸化錫、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛からなる群から選択された1種以上を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
前記光硬化性化合物が、6つ以上の官能基を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項8】
前記6つ以上の官能基を有する光硬化性化合物が、下記式(1)に示す多官能ウレタンアクリレートである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【化1】

(上記式中、Aは2官能以上の(メタ)アクリレート部分を表し、Iはイソシアネート残基を表す。)
【請求項9】
前記金属酸化物、前記光硬化性化合物、前記感光性モノマーの固形分の合計量100wt%に対して、
前記(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物の含有量が5〜60wt%であり、
前記重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーの含有量が5〜15wt%であり、
前記金属酸化物の含有量が20〜75wt%である、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項10】
前記(メタ)アクリロイル基を3つ以上有する光硬化性化合物が多官能ウレタンアクリレートであり、
前記重合性官能基及びポリエーテル鎖を有する感光性モノマーがビニルエーテル化合物であり、
前記金属酸化物がガリウムドープ酸化亜鉛である、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物が基材上に形成されたハードコートフィルム。
【請求項12】
請求項11に記載のハードコートフィルム上に、前記ハードコートフィルムの屈折率よりも低い屈折率を有する低屈折率層が形成された反射防止フィルム。
【請求項13】
基材と、該基材上に形成されたハードコート層と、該ハードコート層上に形成され、該ハードコート層の屈折率よりも高い屈折率を有する高屈折率層と、高屈折率層上に形成され、該高屈折率層よりも低い屈折率を有する低屈折率層と、を有する反射防止フィルムであって、
前記高屈折率層が、請求項1〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物から形成された、反射防止フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−242497(P2009−242497A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88853(P2008−88853)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000155698)株式会社有沢製作所 (117)
【Fターム(参考)】