説明

感光性組成物

【課題】 優れた硬化性、接着性、可とう性を発現する高感度なカチオン重合性感光性組成物を提供する。
【解決手段】 (a)1分子中に少なくとも2個以上の脂環式エポキシ基を有する化合物 30〜90質量%、(b)下記一般式(1)で示される化合物 1〜50質量%、(c)ポリカーボネートジオールとエポキシ化ポリブタジエンのうちの少なくとも1つ 1〜60質量%、(d)エネルギー線感受性カチオン重合開始剤 0.1〜20質量%を含有することを特徴とする感光性組成物。
【化1】


(式中Rは、水素またはメチル基のいずれかであり、Rは互いに同一でも異なっていてもよく、nは1〜4の整数を表す。)
また、この感光性組成物を、感熱孔版印刷用原紙における多孔性支持体と熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせるための接着剤として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー線の照射により極めて高速に硬化塗膜を形成することができ、且つそれにより形成された塗膜は、樹脂、金属、ガラスといった様々な基材に対し良好な密着性を有し、加工性、表面硬度等にも優れ、また硬化時の収縮も少ないことから、接着剤、塗料、インキ、フィルムコーティングなどの用途として有用な感光性組成物に関する。具体的には、インクジェット用UVインク、反射防止膜形成用コーティング材、ハードコーティング材、光ディスクの貼り合わせ用接着剤、次世代光ディスクであるBlu−ray Diskの表面保護層形成材、液晶や有機EL等のディスプレイパネルのシール剤として有用であり、特には感熱孔版印刷用原紙における多孔性支持体と熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせるための接着剤として有用な感光性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線等のエネルギー線を用いた硬化システムは、生産性の向上や近年の環境問題を解決する上で有力な方法となっている。現在の光硬化システムの主流は、(メタ)アクリレート系材料を使用したラジカル硬化系であるが、エポキシやビニルエーテル、オキセタン等の材料を使用したカチオン硬化系材料は、(a)酸素による硬化阻害を受け難いため、表面および薄膜硬化性に優れる、(b)硬化収縮が小さく、幅広い基材に対し良好な接着性を有する、(c)活性種の寿命が長く光照射後も硬化が徐々に進むことから(暗反応)、残モノマー量を低く抑えることが可能等、ラジカル硬化系に比べ優れた特長を有することから、近年、塗料、接着剤、ディスプレイ用シール剤、印刷インキ、立体造形、シリコーン系剥離紙、フォトレジスト、電子部品用封止剤等への応用が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。
光カチオン硬化系で主に用いられる化合物としてエポキシ化合物が挙げられ、中でもとりわけ反応性に富む脂環式エポキシ化合物が多用される(特許文献1)。ただしこの脂環式エポキシ化合物を開始剤と組み合わせて光硬化させただけでは、エポキシ基の反応性(転化率)が低いのに加え、硬くて脆い硬化膜となってしまう。これは、接着剤、インキ等として用いたときに、接着性の悪化要因、クラック・ひび・割れの発生要因となってしまう。この問題を解決するために、可とう性を付与する目的でエポキシ化ポリブタジエンを添加する試み(特許文献2及び3)、ポリカーボネートジオールを添加する試み(特許文献4)等がなされている。しかし、可とう性は若干向上するものの未だ不十分であり、またエポキシ基の反応性は依然として低い。また、エポキシ化ポリブタジエンと共に多価アルコールを併用して可とう性をさらに向上させる試みもなされている(特許文献5)。この多価アルコールの併用技術は、カチオン重合反応速度の向上、柔軟性の付与等を目的として古くから知られているが(例えば、非特許文献1参照)、単に汎用の多価アルコールを添加するだけでは、可とう性、接着性、硬化性、硬度等の全ての課題を解決することはできない。
感熱孔版印刷用原紙は一般に、紙等の多孔性支持体と熱可塑性樹脂フィルムを、接着剤を用いて接着させている。接着剤としては、溶剤系、水系、若しくは熱硬化型、室温硬化型、湿気硬化型、紫外線硬化型等の無溶剤系が提案されている。この中で紫外線硬化型には、室温での高速硬化が可能という非常に優れた点があるものの、ラジカル硬化系の場合(特許文献6)には大気中の酸素による硬化阻害を受ける、硬化収縮が大きく接着性が良くない、臭気が強いといった問題点があるため、感熱孔版印刷用原紙の接着剤としては不十分である。またカチオン硬化系の場合(特許文献7及び8)には、硬化速度と接着性の両立が難しく、また硬くて脆い硬化膜となるためにロール状としたときにひびが入ったり、接着不良、穿孔不良等を引き起こし易い等、接着剤として十分な性能を有する材料は未だ見出されていないのが現状である。
【0003】
【特許文献1】米国特許第3794576号明細書
【特許文献2】特開昭60−199024号公報
【特許文献3】特開平8−277320号公報
【特許文献4】特開平9−71636号公報
【特許文献5】特開平10−102026号公報
【特許文献6】特開昭63−233890号公報
【特許文献7】特開平8−230348号公報
【特許文献8】特開平11−78276号公報
【非特許文献1】角岡正弘、他著「カチオン硬化技術の工業展開」 MATERIAL STAGE、 技術情報協会、2002年5月10日、第2巻、第2号、P.39−92
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来のカチオン系の持つ接着性が良好で硬化収縮も小さいといった性能を保持しながら、これまでにない優れた硬化性(硬化速度)と、可とう性を有する極めて有用なカチオン系感光性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特段の加熱プロセスを用いなくとも優れた光硬化性と、可とう性を有し、接着性にも優れるカチオン重合性感光性組成物を見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、(a)1分子中に少なくとも2個以上の脂環式エポキシ基を有する化合物 30〜90質量%、(b)下記一般式(1)で示される化合物 1〜50質量%、(c)ポリカーボネートジオールとエポキシ化ポリブタジエンのうちの少なくとも1つ 1〜60質量%、(d)エネルギー線感受性カチオン重合開始剤 0.1〜20質量%を含有することを特徴とする感光性組成物を提供するものである。
【0006】
【化1】

(式中Rは、水素またはメチル基のいずれかであり、Rは互いに同一でも異なっていてもよく、nは1〜4の整数を表す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明の感光性組成物は、これまでのエポキシ化合物からなる感光性組成物同様、優れた接着性を示し、硬化収縮も小さいといった性能を保持しながら、これまでにない優れた光硬化性と、可とう性があるといった特長を有する。このことから、この感光性組成物は様々な用途において有用である。その中でも特に、感熱孔版印刷用原紙における多孔性支持体と熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせるための接着剤として用いると、高速硬化性、高接着性、可とう性といった点で非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について、以下具体的に説明する。本発明における成分(a)の1分子中に少なくとも2個以上の脂環式エポキシ基を有する化合物としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)等が挙げられ、2官能脂環式エポキシ化合物としてはセロキサイド2021、2080(ダイセル化学工業社製)、多官能脂環式エポキシ化合物としてはエポリードGT300、GT400(ダイセル化学工業社製)等を用いることができる。これらの中では、2官能脂環式エポキシ化合物である3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートが硬化膜特性や経済的な面からも好ましい。また、高Tgが求められるような用途においては、多官能脂環式エポキシ化合物が好ましい。以上のような脂環式エポキシ化合物が、グリシジルエーテル型エポキシ化合物よりもカチオン重合反応性に優れるため必須である。これらの脂環式エポキシ化合物は、1種単独あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
本発明で用いられる成分(b)は、下記一般式(1)で示される化合物であり、分子中に2個の水酸基を有している。
【0009】
【化1】

(式中Rは、水素またはメチル基のいずれかであり、Rは互いに同一でも異なっていてもよく、nは1〜4の整数を表す。)
【0010】
多価アルコールの併用技術は、カチオン重合反応速度の向上、柔軟性の付与等を目的として広く知られている。本発明の感光性組成物に用いられる成分(b)としては、分子中に2個の水酸基を有しているジオール化合物であると、硬化性、エポキシ基の反応性、可とう性、エポキシ化合物との相溶性に優れた系を実現できる。成分(b)の骨格としては、基材との接着性を高めるためにエーテル鎖であり、そのエーテル鎖の長さとしては、nが4以下である必要がある。これは、nが大き過ぎると、可とう性は向上するものの硬度が低過ぎるという問題が生じてしまい、光を多量に照射しても表面タックが残ってしまうからであり、nが4以下の場合に硬化性にも可とう性にも優れた硬化膜を得ることができる。本発明の感光性組成物に用いられる成分(b)としては例えば、置換基Rが全て水素であるエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、また、少なくとも1つの置換基Rがメチル基であるプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。nの値としては1〜4であり、可とう性、接着性やエポキシ化合物との相溶性等の観点から、好ましくはn=2〜4である。同様の理由により、更に好ましくはn=3、4である。置換基Rは水素またはメチル基のいずれかであり、エポキシ基との反応性を考慮すると好ましくは置換基Rが全て水素の化合物である。これら成分(b)の化合物は、1種単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0011】
本発明における成分(c)のうちのポリカーボネートジオールは、可とう性の付与、接着性の向上、粘度調整を目的として添加しており、一般的には化学的安定性と物理的安定性に優れているという特徴がある。ポリカーボネートジオールは、2個の水酸基を持つジオールとホスゲン、または有機カーボネート化合物、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等との反応等、種々の方法により合成される。ポリカーボネートジオールを合成するのに使用されるジオールとしては脂肪族ジオールまたは脂環式ジオールがあり、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらの中では、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールが、可とう性、硬化性等の観点から好ましい。なお、これらジオールを2種類以上用いた共重合ポリカーボネートジオールでも良い。例として、1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールを共重合させたT4671、T4672、T4691、T4692(いずれも商品名:旭化成ケミカルズ社製)や、1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールを共重合させたT5651、T5652、T5650J(いずれも商品名:旭化成ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0012】
本発明における成分(c)のうちのエポキシ化ポリブタジエンは、可とう性の付与、架橋密度の調整、粘度調整を目的に添加している。エポキシ化ポリブタジエンは、骨格中に内部エポキシ基を有しているので、可とう性を向上させながらも架橋密度も維持することができ、膜の強靭化に有効である。このとき分子内に水酸基を少なくとも1個有していることにより、好ましくは少なくとも2個有していることにより、水酸基と脂環式エポキシ化合物との反応により速やかにポリマー骨格内に組み込まれることが可能となる。エポキシ化ポリブタジエンの数平均分子量は500〜20000であることが好ましく、より好ましくは500〜15000である。エポキシ化ポリブタジエンのオキシラン酸素濃度としては5〜12wt%であることが好ましい。このようなエポキシ化ポリブタジエンとしてはエポリードPB3600(ダイセル化学工業社製)等を用いることができる。
本発明の成分(c)におけるポリカーボネートジオールとエポキシ化ポリブタジエンは、それぞれ単独で添加しても良く、併用しても良い。ポリカーボネートジオールとエポキシ化ポリブタジエンの両方を用いると、接着性と硬化性をより高いレベルで両立させ易く、好ましい。
【0013】
本発明で使用する成分(d)のエネルギー線感受性カチオン重合開始剤とは、エネルギー線照射によりカチオン重合を開始させる物質を放出することが可能な化合物であり、特に好ましいものとしては照射によりルイス酸を放出するオニウム塩である。このようなものとしては、ルイス酸のジアゾニウム塩、ルイス酸のヨードニウム塩、ルイス酸のスルホニウム塩等が挙げられ、これらはカチオン部分がそれぞれ芳香属ジアゾニウム、芳香属ヨードニウム、芳香属スルホニウムであり、アニオン部分がBF4 - 、PF6 - 、SbF6 - 、[BX4 - (ただし、Xは少なくとも2つ以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基)等により構成されたオニウム塩である。具体的には四フッ化ホウ素のフェニルジアゾニウム塩、六フッ化リンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化アンチモンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化ヒ素のトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、四フッ化アンチモンのトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素のジフェニルヨードニウム塩、アセチルアセトンアルミニウム塩とオルトニトロベンジルシリルエーテル混合体、フェニルチオピリジウム塩、六フッ化リンアレン−鉄錯体等を挙げることができ、CD−1012(商品名:SARTOMER社製)、PCI−019、PCI−021(商品名:日本化薬社製)、オプトマーSP−150、オプトマーSP−170(商品名:旭電化社製)、UVI−6990(商品名:ダウケミカル社製)、CPI−100P、CPI−100A(商品名:サンアプロ社製)、TEPBI−S(商品名:日本触媒社製)等を用いることができ、これらは単独でも2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0014】
本発明のエネルギー線感受性カチオン重合開始剤には、ベンゾフェノン、ベンゾインイソプロピルエーテル、チオキサントン、アントラセン等の光増感剤を併用することもでき、具体的には4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4’−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジブトキシアントラセン等が挙げられる。
また、本発明の感光性組成物には、硬化性や硬化時の膜物性に悪影響を及ぼさない程度にカチオン重合性を示す他の化合物を添加することができる。これらの化合物としては、例えばグリシジルエーテル型エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン等の環状エーテル化合物や環状ラクトン化合物、環状アセタール化合物、環状チオエーテル化合物、スピロオルソエステル化合物、等が挙げられる。
【0015】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体のジクリシジルエーテル、ビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加体のジクリシジルエーテル、水添ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加体のジクリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジ及び/又はトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリ及び/又はテトラグリシジルエーテル、ソルビトールヘプタ及び/又はヘキサグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエン・フェノール付加型グリシジルエーテル、メチレンビス(2,7−ジヒドロキシナフタレン)テトラグリシジルエーテル、1,6−ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル等を挙げることができる。前記以外の低分子量のエポキシ化合物は希釈剤として用いることできる。
【0016】
ビニルエーテル化合物としては、水酸基を有するビニルエーテル化合物や、水酸基を含有しない多官能ビニルエーテルを用いることができる。水酸基を有するビニルエーテル化合物の具体例としては、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル、9−ヒドロキシノニルビニルエーテル、プロピレングリコールモノビニルエーテル、ネオペンチルグリコールモノビニルエーテル、グリセロールジビニルエーテル、グリセロールモノビニルエーテル、トリメチロールプロパンジビニルエーテル、トリメチロールプロパンモノビニルエーテル、ペンタエリスリトールモノビニルエーテル、ペンタエリスリトールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、トリシクロデカンジオールモノビニルエーテル、トリシクロデカンジメタノールモノビニルエーテル等を挙げることができる。水酸基を含有しない多官能ビニルエーテルとしては、エチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、グリセロールトリビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル等を挙げることができる。これらの中では、水酸基を有するビニルエーテル化合物が反応性の点で好ましい。
この他、前記以外の多価アルコールや、ノボラック樹脂等の多核フェノール化合物を、硬化性を損なわない範囲で用いることもできる。
本発明の感光性組成物には、さらに必要に応じて(メタ)アクリレートモノマー類やオリゴマー類、および光ラジカル開始剤、消泡剤、レベリング剤、重合禁止剤、ワックス類、酸化防止剤、腐食防止剤、非反応性ポリマー、微粒子無機フィラー、シランカップリング剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ剤等を添加することもできる。
【0017】
次に、本発明において用いられる感光性組成物中の各成分の組成割合について説明する。感光性組成物において、成分(b)中の水酸基の官能基濃度(成分(b)のモル数×2と定義する)と、成分(c)中の水酸基の官能基濃度(成分(c)のモル数×1分子中の水酸基数と定義する)を加えた値は、エポキシ基の官能基濃度(エポキシ化合物のモル数×1分子中のエポキシ基数と定義する)以下であることが重要である。これは、組成物中のエポキシ基に比べ成分(b)や成分(c)の水酸基が過剰に存在すると、表面タックが残り易い等の問題が生じ、また硬化後の膜の親水性が高くなり過ぎ耐水性が不足する、硬度が低過ぎる等、硬化膜特性が不十分となるためである。実際の配合割合としてはそれぞれの化合物の分子量にもよるが、一般に成分(a)として1分子中に少なくとも2個以上の脂環式エポキシ基を有する化合物 30〜90質量%、成分(b)として前記一般式(1)で示される化合物 1〜50質量%、成分(c)としてポリカーボネートジオールとエポキシ化ポリブタジエンのうちの少なくとも1つ 1〜60質量%、成分(d)のエネルギー線感受性カチオン重合開始剤 0.1〜20質量%であり、好ましくは成分(a)40〜80質量%、成分(b)1〜40質量%、成分(c)5〜50質量%、成分(d)0.2〜15質量%であり、更に好ましくは成分(a)45〜75質量%、成分(b)5〜30質量%、成分(c)5〜40質量%、成分(d)0.2〜10質量%である。成分(b)の含有量が1〜50質量%、好ましくは1〜40質量%であると、前述のような理由により優れた硬化膜特性が得られる。成分(c)のポリカーボネートジオールとエポキシ化ポリブタジエンのうちの少なくとも1つについては、それぞれを単独で用いても併用しても良く、そのときの全含有量が1〜60質量%、好ましくは5〜50質量%であると、可とう性、硬化性に優れた硬化膜が得られる。成分(d)の含有量は0.1〜20質量%であり、好ましくは0.2〜15質量%である。開始剤を過剰に使用すると経済的に望ましくないだけでなく、光線透過率が低下し膜底部の硬化が不足するため好ましくない。また少な過ぎる場合、エネルギー線照射により発生する活性カチオン物質の量が不足し、十分な硬化性が得られなくなる。
【0018】
本発明の感光性組成物を感熱孔版印刷用原紙における多孔性支持体と熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせるための接着剤として用いる場合、その方法は特に限定されず、従来感熱孔版印刷用原紙の製造で知られている方法に従えば良い。例えば、本発明の感光性組成物を熱可塑性樹脂フィルム及び/または多孔性支持体に塗布してこれらを互いに密着させ、エネルギー線を照射して組成物を硬化させ、熱可塑性樹脂フィルムと多孔性支持体とを接着させる。熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えばポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体フィルム等が挙げられる。該フィルムの厚さは10μm以下が好ましく、より好ましくは1〜6μmである。また、該フィルムには通常2軸延伸フィルムが用いられ、縦方向及び横方向の延伸率がともに150〜400%のものが好ましく用いられる。多孔性支持体としては種々のものが使用でき、例えばポリエステル繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維等の合成繊維、マニラ麻、コウゾ、ミツマタ、パルプ等の天然繊維が挙げられ、これらは単独または2種以上混合して用いることができる。多孔性支持体の秤量は6〜15g/m2 が好ましく、より好ましくは8〜13g/m2 である。さらにその厚さは10〜60μmが好ましく、より好ましくは15〜55μmである。感光性組成物の塗工法としては、マルチロールコーティング方法が好ましいが、ブレードコーティング方法、グラビアコーティング方法、ナイフコーティング方法、リバースロールコーティング方法、スプレコーティング方法、オフセットグラビアコーティング方法、キスコーティング方法等で行っても良い。感光性組成物の塗工膜厚は、0.01〜2μmが好ましい。
【0019】
本発明の感光性組成物を硬化させるのに使用できる光源としては、所定の作業時間内で硬化させることができるものであれば特に制限はなく、通常、紫外線、可視光線の波長の光を照射できるものであり、例えば低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライド灯、無電極放電ランプ、カーボンアーク灯等が挙げられる。
用途によっては、硬化を促進するために、上記方法で得られた硬化物を恒温槽、赤外線ヒーター等で加温しても良い。
【実施例】
【0020】
本発明を実施例に基づいて説明する。
感光性組成物の硬化膜の特性評価は、以下の方法で行った。
また、感熱孔版印刷用原紙における多孔性支持体と熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせるための接着剤としての性能については、感光性組成物とPET基材との接着性を碁盤目テープ剥離試験により評価した。この理由は、種々の感光性組成物を用いて多孔性支持体と熱可塑性樹脂フィルムを接着させたものについて剥離試験を行ったところ、剥離は接着剤層と熱可塑性樹脂フィルム(例えば、ポリエステルフィルム)の界面で起き易く、つまり、感光性組成物硬化膜の熱可塑性樹脂フィルムに対する接着性が最重要課題であるからである。
<硬化膜の特性評価>
(1)硬化状態:露光後被膜を指触観察し、硬化膜表面のタックを調べた。
(2)転化率:IRスペクトルのエポキシ基に基づくピーク強度の減衰から転化率を算出した。
(3)接着性:PET基材上に形成された硬化膜に対し碁盤目テープ剥離試験を行い、残存率の測定を行った。硬くて脆い膜はこの試験で容易に剥離するため、可とう性についても同時に評価している。
【0021】
[実施例1]
成分(a)の1分子中に少なくとも2個以上の脂環式エポキシ基を有する化合物として3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート58質量%、成分(b)の前記一般式(1)で示される化合物としてトリエチレングリコール14質量%、成分(c)のポリカーボネートジオールとエポキシ化ポリブタジエンのうちの少なくとも1つに該当するものとして、ポリカーボネートジオールとしてT4672(商品名:旭化成ケミカルズ社製)10質量%とエポキシ化ポリブタジエンとしてエポリードPB3600(商品名:ダイセル化学工業社製)14質量%、成分(d)のエネルギー線感受性カチオン重合開始剤としてスルホニウムPF6 塩型のCPI−100P(商品名:サンアプロ社製)4質量%を十分混合することにより透明な感光性組成物を得た。このようにして得られた感光性組成物の特性を評価するために、該感光性組成物をPET基材上にバーコーターを用い膜厚10μmになるように塗工した後、400W高圧水銀灯露光機(セン特殊光源(株)社製)で1000mJ/cm2 露光し、硬化膜の上記特性評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例2]
成分(c)として、エポキシ化ポリブタジエンとして上記エポリードPB3600を24質量%用いる以外は実施例1と同様にして感光性組成物を得、上記特性評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例3]
成分(c)として、ポリカーボネートジオールとして上記T4672を24質量%用いる以外は実施例1と同様にして感光性組成物を得、上記特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0022】
[比較例1]
成分(a)として3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを96質量%、及び成分(d)として上記CPI−100Pを4質量%から成るエポキシ樹脂のみで構成される感光性組成物を得た。この組成物の性能評価結果を表1に示す。
[比較例2]
成分(a)として3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを68質量%、成分(c)としてポリカーボネートジオールとして上記T4672を28質量%、成分(d)として上記CPI−100Pを4質量%から成る、エポキシ樹脂とポリカーボネートジオールから構成される感光性組成物を得た。この組成物の性能評価結果を表1に示す。
[比較例3]
成分(a)として3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを68質量%、成分(c)としてエポキシ化ポリブタジエンとして上記エポリードPB3600を28質量%、成分(d)として上記CPI−100Pを4質量%から成る、エポキシ樹脂とエポキシ化ポリブタジエンから構成される感光性組成物を得た。この組成物の性能評価結果を表1に示す。
[比較例4]
成分(b)の代わりに、ポリエチレングリコール(平均分子量400)を14質量%用いる以外は実施例1と同様にして感光性組成物を得、特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0023】
以上の結果から、本発明に係わるカチオン重合性感光性組成物は、比較例に示されるエポキシ樹脂単独、エポキシ樹脂/ポリカーボネートジオール、エポキシ樹脂/エポキシ化ポリブタジエンから成る従来のカチオン型感光性組成物に比べ優れた反応性(転化率)を有し、また優れた接着性、そして優れた可とう性も示すことがわかる。また、成分(b)の代わりにポリエチレングリコールを用いても硬化不良(タック大)になるのと比較し、成分(b)を用いた本発明の感光性組成物は優れた硬化状態、硬化膜特性を実現できる。このことから、本発明に係わるカチオン重合性感光性組成物は、従来のカチオン重合性感光性組成物と比較して優れた硬化性、反応性、接着性、可とう性を有しており、様々な用途において有用なものである。特に感熱孔版印刷用原紙における多孔性支持体と熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせるための接着剤として用いると、その優れた硬化性から高い生産性が期待でき、また接着性や可とう性に優れた製品の提供を可能とするものである。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の感光性組成物は、これまでのエポキシ化合物からなる感光性組成物同様、酸素による硬化阻害を受け難い、臭気が少ない、硬化収縮が小さいといった性能を保持しながら、優れた硬化性、接着性、可とう性といったこれまでにない性質を持っていることから、様々な分野、特に感熱孔版印刷用原紙用接着剤の分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1分子中に少なくとも2個以上の脂環式エポキシ基を有する化合物 30〜90質量%、(b)下記一般式(1)で示される化合物
1〜50質量%、(c)ポリカーボネートジオールとエポキシ化ポリブタジエンのうちの少なくとも1つ 1〜60質量%、(d)エネルギー線感受性カチオン重合開始剤 0.1〜20質量%を含有することを特徴とする感光性組成物。
【化1】

(式中Rは、水素またはメチル基のいずれかであり、Rは互いに同一でも異なっていてもよく、nは1〜4の整数を表す。)
【請求項2】
成分(c)のうちのエポキシ化ポリブタジエンが、ポリブタジエン骨格の分子内にエポキシ基を少なくとも1つ含み、かつ、水酸基を少なくとも1つ含む化合物であることを特徴とする請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項3】
成分(b)が、上記一般式(1)においてnが2〜4の整数で表される化合物であることを特徴とする請求項1、又は2に記載の感光性組成物。
【請求項4】
成分(b)が、上記一般式(1)においてRが全て水素の化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の感光性組成物。
【請求項5】
感熱孔版印刷用原紙における多孔性支持体と熱可塑性樹脂フィルムを貼り合わせるための接着剤として用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の感光性組成物。

【公開番号】特開2006−63261(P2006−63261A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250032(P2004−250032)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】