説明

感圧センサ用導電部材、これを用いた感圧センサ

【課題】繰り返しの圧縮変形による電気抵抗値変化に対し優れた再現性を有する感圧センサ用導電部材、及びこれを用いた感圧センサを提供する。
【解決手段】基材としての弾性体と、該弾性体表面に形成された導電性塗膜とを有する感圧センサ用導電部材であって、該弾性体は、ゴム成分を70体積%以上含有するゴム組成物からなり、
該ゴム組成物がゴム成分の総量を100質量部とした場合に、ポリブタジエンゴムを60質量部以上、ポリブタジエンゴムを除くジエン系ゴムを40質量部以下の範囲で含有することを特徴とする感圧センサ用導電部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材に作用する圧力の大きさ、分布状態を測定する感圧センサ用導電部材に関する。また、この導電部材を用いた感圧センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、部材に作用する圧力の大きさ、分布状態を測定する手段として、チタン酸ジルコン酸鉛等の圧電セラミックスを用いた方式や、歪みゲージを用いる方式が使用されている。しかしながら、圧電セラミックスを用いた方式は、一般に剛性の高い材料で形成されているため、形状の自由度に制限があり、また、歪みゲージを用いる方式も同様に、形状設計の自由度が低いという問題を有している。
【0003】
これらの問題に対して、ゴム、エラストマー、樹脂材料などの高分子材料を基材とし導電性粒子を分散させた導電性部材を用いることで、形状の自由度が高い感圧センサが得られることが知られている。
【0004】
なお上記導電性部材を用いた圧力検知メカニズムとしては、以下の二つが挙げられる。
【0005】
一つは、無加圧時は高い電気抵抗値を示すが、圧力の増加に伴う圧縮変形により、基材中の導電性粒子同士の粒子間距離が狭まり、導電性粒子による導電パスが形成するために抵抗値が減少することを利用したものであり、抵抗値変化型である。なお、この抵抗変化は基材中における導電性粒子の分散状態が大きく影響する為、繰り返しの圧縮変形による電気抵抗値変化の再現性が課題となっている。特に、押圧を繰り返すうちに、疲労により導電性部材が永久変形を起こし、導電性の粒子同士が接触したまま導通状態となり圧力を検出し難くなる問題を有している。
【0006】
これに対し、もう一つは、導電性部材と検出電極の接触状態による導通変化を利用したものである。例えば、上記導電性部材を用いて導電性塗膜を形成し、導電性塗膜同士、あるいは、導電性塗膜と櫛型電極等の検出電極を対向配置させたものがある。この種の感圧センサの場合、圧力の増加に伴い、導電性塗膜同士の接触面積、あるいは導電性塗膜と櫛型電極間の接触面積が変化することで導通状態が変化する。従って、圧力の変化を電気抵抗値変化として検出することが可能であり、接触面積変化型といえる。
【0007】
特許文献1には、導電性カーボンブラックが配合された感圧導電性インクで形成されている導電性塗膜相互の接触面積により、印加側・レシーブ側電極間の抵抗が変化する形式の感圧センサが報告されている。この感圧センサでは、感圧導電性インクが、バインダーとしてのシリコーンエラストマー成分100重量部に対して、二酸化ケイ素30〜70重量部を添加することにより、樹脂としての強度を高めると共に導電性カーボンブラックの分散効果を高めている。この感圧センサの場合、上記抵抗値変化型の感圧センサと異なり、導電性粒子の粒子間距離の変化を利用しておらず、導電性の粒子同士が接触したまま導通状態となり圧力を検出し難くなる問題を生じない。
【0008】
また、その他、ゴム、エラストマー、樹脂材料などを基材とした感圧センサとして、基材の誘電率を利用した静電容量変化型が知られている。例えば、特許文献2には、一対の電極層と、前記一対の電極層の間に介在され前記一対の電極層の各々を離間状態とするゴム弾性体からなる誘電体層と、を備えてなる感圧センサが報告されている。この感圧センサでは、前記誘電体層が10℃ないし30℃での1ないし30Hzにおけるtanδが0.03以下であると共に10℃ないし30℃におけるJIS−K−6301に準拠したAスケールでのゴム硬度が、20ないし80度であることを特徴とする。この感圧センサの場合、圧力によってゴム弾性体からなる誘電体層が弾性変形され、静電容量が変化することを利用したものである。よって、上記抵抗値変化型の感圧センサと異なり、導電性粒子の粒子間距離の変化を利用しておらず、上記導電性粒子の接触状態に起因した圧力を検出し難くなる問題を生じない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3882172号公報
【特許文献2】特許第3593184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
引用文献1に開示される感圧センサは、次の点が問題となる。感圧導電インク層を形成する基材の種類によっては、繰り返しの圧縮開放により基材の撓み方にばらつきを生じる、あるいは永久変形する場合がある。その結果、圧縮開放時の検出電極と感圧導電インク層間の接触面積変化の再現性に欠け、検出信号として得られる電気抵抗値の再現性が、良好でない場合がある。
【0011】
また、引用文献2に開示される感圧センサは、次の点が問題となる。
【0012】
(1)静電容量型センサにおいて圧縮変形に対するヒステリシスが小さいゴム弾性体を誘電体層として使用した場合、センサ検出時にチャタリング現象(オンオフを短時間に繰り返す現象)が発生し、検出信号の再現性が良好でない場合がある。場合によっては、センサとしての制御自体が困難となることがある。
【0013】
(2)誘電体層であるゴム弾性体に用いるポリマーの主鎖構造によっては、誘電率が低すぎて繰り返しの圧縮変形に対する静電容量の変化量が十分ではなく、センサとして実用的でない場合がある。
【0014】
(3)誘電体層であるゴム弾性体に用いるポリマーの主鎖構造によっては、残留する低分子量の揮発性成分がコネクタなどの電気接点部のスパーク等で絶縁物となり接点障害の原因となる場合がある。
【0015】
このように繰り返しの圧縮変形に対する検出信号の再現性が良好であり、また、接触対象物に対し汚染がない感圧センサ用部材の要請がある。
【0016】
従って本発明の課題は、繰り返しの圧縮変形に対する検出信号である電気抵抗値変化に対して優れた再現性を有し、接触対象物に対し汚染がない感圧センサ用導電部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、繰り返しの圧縮変形に伴うヒステリシスロスが小さく、圧縮変形による検出信号である電気抵抗値変化に対して優れた再現性を有し、接触対象物に対し汚染がない感圧センサ用導電部材を見出した。これは弾性体を基材とし該弾性体表面に導電性塗膜が形成された感圧センサ用導電部材において、特定のポリマーをゴム主成分とし、また、全ゴム成分の割合を一定量以上としたゴム組成部を基材として用いることにより得られるものである。すなわち、本発明の感圧センサ用導電部材は、基材としての弾性体と、該弾性体表面に形成された導電性塗膜とを有する感圧センサ用導電部材であって、該弾性体は、ゴム成分を70体積%以上含有するゴム組成物からなり、該ゴム組成物がゴム成分の総量を100質量部とした場合に、ポリブタジエンゴムを60質量部以上、ポリブタジエンゴムを除くジエン系ゴムを40質量部以下の範囲で含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の感圧センサ用導電部材は導電性塗膜を形成する基材としてポリブタジエンゴムを主成分とするゴム成分の割合を一定量以上としたゴム組成物を用いることにより、繰り返しの圧縮変形に対する検出信号である電気抵抗値変化に対し優れた再現性を実現した。
【0019】
また、本発明の感圧センサ用導電部材は、基材としてポリブタジエンゴム及びポリブタジエンゴムを除くジエン系ゴムをゴム成分としたゴム組成物からなり、例えば、シリコーンゴムの場合に生じる低分子量シロキサン成分による電極汚染を生じない。また外層に導電性塗膜を形成したものであり、基材中に残留する加硫剤残渣による接触部材汚染を生じない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】繰り返し圧縮における圧力と電気抵抗値を計測を示す模式図である。
【図2】実施例1における繰り返し圧縮時の圧力と抵抗LogRの関係を示すグラフ図である。
【図3】実施例2における繰り返し圧縮時の圧力と抵抗LogRの関係を示すグラフ図である。
【図4】比較例1における繰り返し圧縮時の圧力と抵抗LogRの関係を示すグラフ図である。
【図5】比較例2における繰り返し圧縮時の圧力と抵抗LogRの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、基材表面に導電性塗膜が形成された感圧センサ用導電部材において、繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性に対する基材の影響、特に、基材ゴムの構造および反発弾性の影響に着想し、研究を行った。その結果、高反発弾性であるポリブタジエンゴムをゴム主成分としたゴム組成物を基材とし、表面に導電性塗膜を形成した導電部材が圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性を高めることが出来る知見を得、本発明を完成するに至った。
【0022】
本発明の感圧センサ用導電部材は、ゴム組成物からなる弾性体を基材とし、該弾性体表面に導電性塗膜が形成されたものである。ゴム組成物は、ゴム成分の総量を100質量部とした場合に、ポリブタジエンゴムを60質量部以上、ポリブタジエンゴムを除くジエン系ゴムを40質量部以下の範囲で含有し、ゴム組成物中にゴム成分を70体積%以上含有する。
【0023】
本発明の感圧センサ用導電部材が、繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化に優れた再現性を有する理由として、以下の理由が考えられる。一般に、ゴム組成物からなる弾性体を繰り返し圧縮変形させた場合、ポリマー−ポリマー間やポリマー−フィラー間、あるいはフィラー-フィラー間においてエネルギーロスが生じる。このエネルギーロスの大小が、ゴム組成物の繰り返しの圧縮変形に対するヒステリシスに影響する。したがって、上記エネルギーロスが小さいゴム組成物は繰り返しの圧縮変形に対するヒステリシスが良好であり、ゴム組成物表面に導電性塗膜を形成した導電部材の場合、繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性が良好なものとなる。
【0024】
なお、繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性としては、圧力100kPa以下の領域において、圧縮開放時の抵抗差が0.3桁以下、より好ましくは0.1桁以下であることが望ましい。この程度の抵抗差であれば、例えば、櫛形の電極に当接させ、部材に作用する加圧力の大きさ、分布状態を測定するセンサ等に好適に使用することが可能である。
【0025】
本発明においては、分子間力が小さく、分子回転時の立体障害が少ないポリブタジエンゴムをゴム主成分とすることで、上記ポリマー起因のエネルギーロスを低減している。さらに、ゴム組成物中のゴム成分の配合割合を一定量以上とすることで、相対的にその他添加剤の配合割合を少なくし、添加剤の一つであるフィラー起因のエネルギーロスを低減し、繰り返しの圧縮変形に対するヒステリシスが良好なゴム組成物を実現している。
【0026】
なお、ポリブタジエンゴムの配合量は、全ゴム成分を100質量部としたときに、60質量部以上である。上記配合量以上であれば、分子間力が小さく、分子回転時の立体障害が少ないポリブタジエンゴムの特性により、繰り返しの圧縮変形に対するヒステリシスが良好なものとなる。また、その他ゴム成分としては、ポリブタジエンゴムを除くジエン系ゴムを40質量部以下含有する。
【0027】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴムなどが挙げられる。
【0028】
なかでも、ポリブタジエンゴムが非極性のジエン系ゴムである為、親和性を考慮すると非極性ジエン系ゴムが好ましく、このようなゴムとして、イソプレンゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム等が挙げられる。
【0029】
なかでも、分子回転時の立体障害に対する分子構造の影響を考慮すると、イソプレン構造からなるイソプレンゴムまたは天然ゴムがより好ましい。イソプレンゴム及び天然ゴムの少なくとも一種を、ゴム成分の総量を100質量部とした場合に5質量部以上(5質量%以上)、40質量部以下(40質量%以下)の範囲で含有することでポリブタジエンゴムの特性を損なわず、混練加工性が良好となるほか、感圧センサ用導電部材の機械的強度を高めることが可能となる。イソプレンゴム及び天然ゴムの少なくとも一種を含有する場合、ポリブタジエンゴムは、ゴム成分の総量を100質量部とした場合に60質量部以上(60質量%以上)、95質量部以下(95質量%以下)の範囲とすることができる。なお、その他ゴム成分を含有せずにポリブタジエンゴムが100質量部(100質量%)であっても不都合は生じない。
【0030】
また、上記ポリブタジエンをゴム主成分とするゴム組成物は、ゴム成分の割合が70体積%以上である。ゴム組成物は、通常、ゴム成分の他に、各種配合剤を含有する。例えば、導電性付与剤、加硫剤、加硫促進剤、充填剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤などの従来からゴムの配合剤として使用されているものが挙げられる。
【0031】
本発明の感圧センサ用導電部材の加硫系としては、従来公知の硫黄加硫、有機過酸化物加硫いずれも使用可能である。なお硫黄を用いた加硫系の場合、架橋形態としてポリスルフィド結合が含まれるのに対し、有機過酸化物加硫はポリマー鎖中の炭素原子同士の結合となる。その為、ゴム分子鎖同士がより密な圧縮永久歪に優れた加硫物となり、繰り返し圧縮変形に対して良好なものとなる為、有機過酸化物加硫が好ましい。なお用いる有機過酸化物としては、特に制約はなく、従来公知のジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド、パーケタール等が使用可能である。なかでも、ジアルキルパーオキサイドがより好ましく、ジクミルパーオキサイドが好適である。ジクミルパーオキサイドの配合量としてはゴム成分の総量を100質量部とした場合に0.3質量部以上、3質量部以下とすることで、繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性が良好な感圧センサ用導電部材が得られる。より好ましくは1質量部以上、2質量部以下である。
【0032】
導電性付与剤としては、従来公知のものであれば特に限定なく用いることができるが、例えば、以下のものを挙げることができる。銅粉、銀粉などの金属粒子や、金属粒子を無機物で表面処理した表面処理品、あるいは酸化亜鉛等を異種元素でドープすることによりN型半導体化した酸化亜鉛粉末やカーボンブラック、球状黒鉛、有機樹脂の炭化物など。
【0033】
なお、ゴム成分との親和性を考慮するとカーボンブラック、球状黒鉛、有機樹脂の炭化物などの炭素系粒子が好ましい。また、老化防止剤としては2−メルカプトベンゾイミダゾール やポリメライズド2,2,4−トリメチル1,2−ビヒドロキノリンなどが好適である。また、有機過酸化物加硫の場合、酸化亜鉛を配合することで耐熱老化性の向上が期待できる。可塑剤、軟化剤としては、不飽和結合の少ない、たとえばパラフィン系のオイルが好適である。
【0034】
なお、本発明においては、上記配合剤を必要に応じて適宜配合することが可能であるが、その他配合剤による上記エネルギーロスへの影響を考慮するとゴム組成物中ゴム成分の割合を70体積%以上とする必要がある。ゴム組成物中ゴム成分の割合が70体積%以上であれば、繰り返しの圧縮変形に対するヒステリシスが良好なゴム組成物を得る事が可能となる。なお、ゴム組成物中ゴム成分の割合は100体積%であることが、圧縮変形に対するヒステリシスへの理想状態といえ、例えば、原料ゴムに有機過酸化物のみを配合し加硫した場合に最も理想状態に近いものが得られる。
【0035】
本発明に用いるポリブタジエンゴムとしては、シス1,4−ブタジエン結合を90質量%以上含有する、より好ましくは95質量%以上含有するハイシスタイプのポリブタジエンゴムが好ましい。シス1,4−ブタジエンゴム結合は分子鎖の直線性の指標となるものであり、90質量%以上であれば、ポリブタジエンゴムの分子鎖の直線性が良好である。それゆえ、分子回転時の立体障害が小さく、繰り返しの圧縮変形に対するヒステリシスが良好なゴム組成物が得られる。
【0036】
また、ポリブタジエンゴムは、100℃におけるムーニー粘度(ML)に対する、25℃における5質量%トルエン溶液粘度(Tcp)の比(Tcp/ML)が2〜5であることが好ましい。
【0037】
Tcpは濃厚溶液中での分子の絡み合いの程度を示すものであり、同程度の分子量分布のポリブタジエンにあっては、分子量が同一であれば(すなわち、ML1+4が同一であれば)分岐度の指標(Tcpが大きい程、分岐度は小さい)となるものである。なお、トルエン溶液粘度(Tcp)の測定方法としては、ポリマーをトルエンに5質量%の濃度で溶解した後、標準液として粘度計校正用標準液(JIS Z8809)を用い、キヤノンフェンスケ粘度計NO.400を使用して測定する。ムーニー粘度の測定方法としては、JIS K6300記載の方法により行う。
【0038】
また、Tcp/MLはMLの異なるポリブタジエンの分岐度を比較する場合に指標(Tcp/MLが大きい程、分岐度は小さい)として用いられる。トルエン溶液粘度(Tcp)とムーニー粘度(ML)との比(Tcp/ML)が上記範囲にある場合、分子鎖の分岐度は小さく分子回転時の立体障害が少ない為、反発弾性に優れたゴム組成物が得られる。なお、Tcp/ML比が上記範囲より大きいと、素ゴムのコールドフロー性が大きくなり、上記範囲より小さいと反発弾性が低くなる。
【0039】
また、ポリブタジエンゴムの25℃における5質量%トルエン溶液粘度(Tcp)は50〜150cpの範囲であることが好ましい。また、ポリブタジエンゴムの100℃におけるムーニー粘度(ML)は30〜100の範囲であることが好ましい。これらの数値範囲では混練加工性が良好かつ反発弾性に優れたゴム組成物が得られる。
【0040】
なお、本発明の感圧センサ用導電部材の基材硬度としては、特に限定されないが、JIS K6253における加硫ゴムの硬さを求めるための試験方法において、Aタイプでの硬度が30度から80度、より好ましくは40度から70度である。上記範囲内であれば、繰り返し圧縮変形に対し、ヒステリシスの良好なゴム組成物が得られる。
【0041】
上記感圧センサ用導電部材の基材となるゴム組成物の未加硫物は、上記ゴム成分と必要に応じて、他のポリマー、導電性付与剤、充填剤等のその他配合剤を加えて、混合することによって調製することができる。混合は、例えば、バンバリーミキサーやインターミックスや加圧式ニーダー等の密閉型混練機や、オープンロールのような開放型の混練機を用いて行うことができる。混合条件としては、例えば、30〜150℃、3分〜30分等、その他配合剤が基材ゴム中に一様に分散させることができる条件を選択すればよい。
【0042】
ゴム組成物を成形、加硫する方法としては、特に限定されるものではなく、成形方法としては、押出成形、射出成形、プレス成形等を挙げることができる。射出成形は、上記未加硫物に射出圧を加えて金型に押し込み、金型を充填して金型の形に成形する方法である。押出成形は、上記未加硫物をスクリューで混練し、先端の押出金型(ダイ)を通過させ連続成形する方法である。また、上記方法の他にオープンロールなどで平板状に成形してもよい。
【0043】
成形後の未加硫ゴム混合物の加硫方法としては、加熱、冷却等の温度制御により加硫を行う方法であれば、特に条件は問わない。
【0044】
過酸化物加硫方式のコンパウンドは熱空気加硫あるいは空気の介在する直接蒸気加硫では、空気中の酸素が生成したポリマーのフリーラジカルに結合する為におきる分子切断により、加硫物の表面著しく粘着性を示す為、空気の介在しない方法が適している。例えば、型内加硫やパージにより脱空気した加硫缶、熱溶融塩槽(LCM)等を使用することができる。具体的には、例えば、金型内に充填した状態で加圧下150〜180℃で、5〜50分加熱して行うことができる。
【0045】
また、加硫剤等の未反応残渣を除去する場合、上記加硫後の感圧導電性材料を熱風炉等で2次加硫する方法が挙げられ、必要に応じて実施すればよい。例えば、2次加硫の条件としては、120〜200℃の熱風炉にて15〜100分加熱して行うことができる。
【0046】
本発明の感圧センサ用導電部材は、上記ゴム組成物からなる基材表面に導電性塗膜を形成したものである。導電性塗膜の役割は、本発明の感圧センサ用導電部材に対する外力の作用を電気抵抗値として検出する素子として機能するほか、基材中に残存する未分解残渣等による接触部材に対する汚染を防止するものである。
【0047】
導電性塗膜の基材樹脂としては、以下のものを挙げることができる。フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、スチレン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(SEBC)及びオレフィン−エチレン・ブチレン・オレフィン共重合体(CEBC)等。これらの樹脂は1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、基材樹脂は架橋系のものでもよく、このための硬化剤としては、例えば、イソシアネート化合物、アミン化合物を適宜配合することができる。
【0048】
また、所望の電気抵抗値を得るために、導電性カーボン、グラファイト、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉及び金属酸化物である導電性酸化錫や導電性酸化チタン等の導電剤を含有する。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
導電性塗膜の基材樹脂100重量部に対する導電粒子の配合割合は、所望する電気抵抗値にあわせて適宜調整すればよく、2〜200重量部、好ましくは5〜100重量部の範囲とされる。
【0050】
また、上記基材樹脂、導電粒子のほかに、その他成分を配合することも可能であり、例えば、有機弾性フィラー、無機酸化物フィラーなどが挙げられる。有機弾性フィラーとしては、シリコーン系、ウレタン系などのエラストマーやアクリル系、スチレン系、ポリアミド系など樹脂からなる球状粒子が挙げられる。無機酸化物フィラーとしては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、などが挙げられる。
【0051】
上記導電性塗膜は、1層以上を有し、全体として、10〜50μmの厚さを有することが好ましく、より好ましくは10〜30μmである。導電性塗膜の厚さが50μm以下であれば、柔軟性を損なうことがなく、感圧センサ用導電部材として好適に使用することが可能となる。また、厚さが10μm以上であれば、基材ゴム起因の汚染を抑制することができる。
【0052】
導電性塗膜を作製する方法としては、上記導電性塗膜を構成する材料及び、有機溶剤からなる塗工液を調製し、この塗工液を基材ゴム表面に塗布した後、溶剤を除去することにより行なうことができる。塗工液の調製はサンドミル、ペイントシェーカー、ダイノミル、パールミル等のビーズを利用した分散装置を用いて分散調製する。なお、溶剤としては、導電性塗膜に必要な材料を溶解または分散することができる溶剤であればよい。例えば、以下のものが挙げられる。メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類や、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類や、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類や、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類や、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類や、クロロホルム、塩化エチレン、ジクロルエチレン、四塩化炭素、トリクロロエチレンなどの脂肪族ハロゲン化炭化水素やベンゼン、トルエン、キシレン、リグロイン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族化合物など。
【0053】
上記塗工液を基材ゴム表面に塗布する方法としては、従来公知の浸漬塗工、スプレー塗工、ロールコート等を挙げることができ、塗工液の利用効率を考慮すると、浸漬塗工が特に好ましい。
【0054】
さらに熱風循環乾燥機や赤外線乾燥炉などを用いて溶剤を除去して基材ゴム表面に導電性塗膜を形成する。
【0055】
なお、導電性塗膜は基材となる弾性体の少なくとも一面に形成すればよく、本発明の導電部材を感圧センサとして用いる場合は、少なくとも一対の電極層が形成された基板上に、電極層に導電性塗膜が対向するよう導電部材を配置すればよい。基板と、該基板上に設けられた少なくとも一対の電極層と、該電極層に対向して設けられた導電体層とを有する感圧センサにおいて、本発明の感圧センサ用導電部材を導電体層として用いるものである。この感圧センサでは電極層および導電体層の少なくとも一方に対する加圧変化を電気抵抗値変化として検出することができる。
【実施例】
【0056】
本発明の感圧センサ用導電部材を具体的に説明する。
【0057】
以下に、実施例、比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例のみに限定されるものではない。
【0058】
各実施例および比較例で使用した基材の原料は以下の表1に示す通りである。
【0059】
【表1】



【0060】
加硫剤以外の原材料について、表3および4に示す割合で3L加圧型ニーダー(D3−10:株式会社モリヤマ製)を用い混練した。
【0061】
まずローター回転数30rpmで、原料ゴムのみを1分間素練りし、次いで酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、カーボンブラックを投入して10分間混練りした。ニーダー容量に対する材料の充填量は65vol%で行った。得られたゴム組成物を室温(25℃)で1時間冷ました後、更に、オープンロール機(12inchテスト用ロール機:関西ロール(株)製)を用い、加硫剤を混練した。フロントロール15rpm、バックロール18rpmで、適宜切返しながら15分間混練した後、ロール間隙0.6mmにて薄通した後、15mm×15mmに裁断することにより基材となるゴム組成物の未加硫物を得た。次に、上記未加硫物を予め170℃に加熱した15mm×15mm×0.5mmの金型内に充填し、170℃、100kgfにて15分間プレス加硫を行い、感圧センサ用導電部材の基材となる弾性体を得た。
【0062】
続いて、導電性塗料を調製するために以下の表2に示す各成分およびその組成に従って配合し、固形分30.0質量%の溶液とした。
【0063】
【表2】



【0064】
この樹脂溶液200質量部に対して、直径0.8mmのガラスビーズを200質量部加えて、450mlのマヨネーズビンに入れ、ペイントシェイカーを使用して6時間分散した。最後に200メッシュの網で溶液をろ過して、樹脂塗料を作成した。
【0065】
前記導電性塗料をディッピング法により、引き上げ速度10mm/secで前記弾性体の表面に塗工し、30分間風乾後、オーブンを用い、160℃で1時間加熱することによって硬化させ、膜厚15μmの導電性塗膜を形成した感圧センサ用導電部材を得た。
【0066】
[繰り返し圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性]
得られた感圧センサ用導電部材の角形シートを、23℃/60%RH(N/N)環境に24時間以上放置した後、繰り返し圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性を評価した。
【0067】
図1に示すように、上記評価用試験片を櫛型電極1(電極幅1mm、電極間隔0.5mm)上に配置し、角形シート上面全体に圧力が加わるようにした。この状態で櫛型電極に直流電圧5V6を印加し、荷重測定器7にて感圧導電性材料2の厚さ方向に0〜100kPaの範囲で繰り返し圧縮を1000回繰り返し、櫛型電極に直列接続した1kΩの抵抗体5にかかる電圧を電圧測定器4により測定した。電圧の測定値の平均値Vave(V)から、感圧導電性材料の抵抗値(R)を求めた。
【0068】
再現性の評価は、繰り返し圧縮1回目の加圧時10kPa、20kPa、40kPaにおける抵抗値(R)を対数変化した値を各々LogRA1、LogRA3、LogRA5とする。
【0069】
また、繰り返し圧縮1000回目の減圧時10kPa、20kPa、40kPaにおける抵抗値(R)を対数変換した値を各々LogRB1、LogRB3、LogRB5とする。
【0070】
上記LogRとLogRから差の絶対値を求め、繰り返し圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性の指標とした。
◎:|Δ(LogR-LogR)|≦0.1 再現性最良
○:0.1<|Δ(LogR-LogR)|≦0.3 再現性良好
×:0.3<|Δ(LogR-LogR)| 再現性低
また上記評価基準において、圧力10kPa、20kPa、40kPaでの再現性評価での総合判定は下記基準にて行った。
◎:圧力10kPa、20kPa、40kPaでの再現性評価で◎2つ、○1つ以上(×含まない)
○:圧力10kPa、20kPa、40kPaでの再現性評価で◎1つ、○2つ以下(×含まない)
×:圧力10kPa、20kPa、40kPaでの再現性評価でいずれかに×を含む
【0071】
【表3】



【0072】
【表4】



【0073】
実施例1、2及び比較例1、2の繰り返し圧縮開放における圧力と抵抗LogRの関係を図2〜6に示した。実施例1、2、3及び比較例1、2、3、4の結果より、ゴム組成物のゴム成分は、ポリブタジエンゴムを本発明の範囲内含有することが適していることがわかる。すなわち、本発明の範囲外である比較例1やゴム成分としてポリブタジエンゴムを用いていない比較例2、3、4は、繰り返し圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性が劣る。
【0074】
また、実施例4、比較例5より、ゴム成分としてポリブタジエンゴムを本発明範囲内含有し、かつゴム組成物におけるゴム成分の割合が本発明範囲内であることが適していることがわかる。すなわち、ゴム成分の割合が本発明の範囲外である比較例5は、繰り返し圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性が劣る。
【0075】
実施例1、6、7より、本発明のポリブタジエンゴムとしては、トルエン溶液粘度(Tcp)とムーニー粘度(ML)の比が本発明範囲内のポリブタジエンゴムがより好ましいことがわかる。すなわち、ムーニー粘度(ML)に対するトルエン溶液粘度(Tcp)の比が2より小さい実施例5、6は、10kPa、20kPaにおける電気抵抗値変化の差が大きくなる傾向にある。
【0076】
さらに、実施例2、5、8、9より、ポリブタジエンゴムをその他ゴムとブレンドして用いる場合、イソプレンゴム、天然ゴムがより好ましいことがわかる。すなわち、ポリブタジエンゴムのブレンドゴムとして、スチレンブタジエンゴムやアクリロニトリルブタジエンゴムを用いた実施例2、9と比較し、イソプレンゴム、天然ゴムを用いた実施例5、8が電気抵抗値変化の差がより小さく、良好である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の感圧センサ用導電部材は、例えば所望の形状に成形し櫛形の電極に当接させ、部材に作用する加圧力の大きさ、分布状態を測定するセンサとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 片面電極(櫛型)
2 感圧導電性材料
3 絶縁性シート
4 電圧測定器
5 1kΩ抵抗体
6 直流電圧5V
7 荷重測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材としての弾性体と、該弾性体表面に形成された導電性塗膜とを有する感圧センサ用導電部材であって、該弾性体は、ゴム成分を70体積%以上含有するゴム組成物からなり、
該ゴム組成物がゴム成分の総量を100質量部とした場合に、ポリブタジエンゴムを60質量部以上、ポリブタジエンゴムを除くジエン系ゴムを40質量部以下の範囲で含有することを特徴とする感圧センサ用導電部材。
【請求項2】
該ポリブタジエンゴムがシス1,4−ブタジエン結合を90質量%以上含有する請求項1に記載の感圧センサ用導電部材。
【請求項3】
該ポリブタジエンゴムにおいて、25℃における5質量%トルエン溶液粘度(Tcp)が50〜150cpであり、100℃におけるムーニー粘度(ML)が30〜100である請求項1または2に記載の感圧センサ用導電部材。
【請求項4】
該ポリブタジエンゴムにおいて、100℃におけるムーニー粘度(ML)に対する25℃における5質量%トルエン溶液粘度(Tcp)の比(Tcp/ML)が2〜5である請求項1〜3のいずれかに記載の感圧センサ用導電部材。
【請求項5】
該ゴム組成物がゴム成分の総量を100質量部とした場合に、ポリブタジエンゴムを60質量部以上、95質量部以下の範囲で含有し、イソプレンゴムおよび天然ゴムの少なくとも一種を5質量部以上、40質量部以下の範囲で含有する請求項1〜4のいずれかに記載の感圧センサ用導電部材。
【請求項6】
基板と、該基板上に設けられた少なくとも一対の電極層と、該電極層に対向して設けられた導電体層とを有し、該電極層および該導電体層の少なくとも一方に対する加圧変化を、電気抵抗値変化として検出する感圧センサにおいて、該導電体層が請求項1〜5のいずれかに記載の感圧センサ用導電部材であることを特徴とする感圧センサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−159411(P2012−159411A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19792(P2011−19792)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)