説明

感圧導電糸および生体情報測定用被服

【課題】 電極として用いた場合に複数の生体情報を同時に計測することができる感圧導電糸を提供する。
【解決手段】 弾性糸からなる芯糸2に導電性を有する巻糸4,6を巻き付けてなる感圧導電糸1であって、巻糸4,6は、導電性繊維と非導電性繊維とを混紡することにより、伸縮に応じて電気抵抗値が変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感圧導電糸および生体情報測定用被服に関する。
【背景技術】
【0002】
健康状態を把握する上で、呼吸や心拍などの生体情報は重要な指標となるが、従来の生体信号の計測は、ゲルを用いた電極の貼り付けや呼気バンドの巻き付けなどが必要であり、身体への拘束感が大きなものとなっていた。
【0003】
そこで、このような拘束感を軽減して日常的な健康管理を容易にするため、衣服に電極を装着して、自然な状態で生体情報を計測可能にすることが検討されている。例えば、特許文献1には、導電性糸からなる電極を衣服などに設けて、脈拍信号を検出することが開示されている。
【特許文献1】特表2005−525477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の導電性糸からなる電極は、検出信号から1種類の生体情報しか得られないため、例えば、脈拍信号以外に呼吸信号など他の生体情報を同時に計測したい場合には、新たな電極を設ける必要があり、装用感やコスト面での問題を生じるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、電極として用いた場合に複数の生体情報を同時に計測することができる感圧導電糸の提供を目的とし、更には、このような感圧導電糸を備える生体情報測定用被服の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記目的は、弾性糸からなる芯糸に導電性を有する巻糸を巻き付けてなる感圧導電糸であって、前記巻糸は、導電性繊維と非導電性繊維とを混紡することにより、伸縮に応じて電気抵抗値が変化する感圧導電糸により達成される。
【0007】
この感圧導電糸において、前記巻糸は、前記芯糸に2重に巻き付けられており、1重目と2重目の巻き方向が逆方向であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の前記目的は、非導電性材料からなる被服に対し、身体に密着するように配置された電極を備える生体情報測定用被服であって、前記電極は、上述した感圧導電糸を用いて形成されている生体情報測定用被服により達成される。
【0009】
この生体情報測定用被服は、例えば、前記電極の出力信号から、心拍信号及び呼吸信号を同時に抽出可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の感圧導電糸によれば、電極として用いた場合に複数の生体情報を同時に計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実態形態について添付図面を参照して説明する。
【0012】
<感圧導電糸>
図1は、本発明の一実施形態に係る感圧導電糸の概略構成図である。図1に示すように、感圧導電糸1は、ポリウレタンなどの弾性糸からなる芯糸2に、巻糸4,6が2重に巻き付けられており、1重目の巻糸4の巻き方向に対し、2重目の巻糸6の巻き方向が逆方向となるように構成されている。感圧導電糸1の製法については、従来のダブルカバリング糸と同様である。
【0013】
巻糸4,6は、ステンレスなどの導電性繊維と、ポリエステルなどの非導電性繊維とを混紡することにより得られたものであり、例えば、特開2003−20538号公報に開示されたものを好ましく用いることができる。このような構成を有する巻糸4,6は、張力が大きくなると、導電性繊維の密度が高くなることによって電気抵抗値が低くなる一方、張力が小さくなると、導電性繊維の密度が低くなって電気抵抗値が高くなる。すなわち、巻糸4,6に作用する張力の変化により、電気抵抗値が変化する性質を有している。
【0014】
図2は、巻糸に作用させる張力(荷重)と抵抗値の関係を、一例として示す図であり、5本の巻糸について実際に測定した結果を示している。巻糸には、混紡率がポリエステル繊維70%、ステンレス繊維30%のものを使用し、長さ300mmの巻糸の先端に重りを吊るしたときの巻糸の抵抗値の変化を、図3に示す計測回路を用いて測定した。図3において、VCCは定電圧(5V)、R1は金属皮膜抵抗(1kΩ)、Rxは測定対象となる巻糸の抵抗であり、VCCをR1及びRxで分圧したときの出力電圧Voutから、Rxの抵抗値を算出した。重りには水を使用し、5gずつ150gまで増加させた。また、Voutの計測は、携帯型オシロスコープ(ZR−MDR10、OMRON社)を使用して行い、サンプリングレートは200Hzとした。
【0015】
図2に示すように、荷重の大きさが約40g以下の場合には、いずれの巻糸についても、荷重の増加に伴い抵抗値は大きく低下していることから、巻糸に作用する張力と抵抗値の間に相関関係を有することがわかる。これに対し、荷重の大きさが40gより大きくなると、いずれの巻糸も抵抗値はほとんど変化していないため、抵抗値を測定しても荷重の大きさが一意的に定まらない。
【0016】
図4は、巻糸に作用する荷重と巻糸の伸び率の関係を、一例として示す図である。伸び率は、巻糸の自然長を100%としたときの値で示している。荷重と抵抗値との間に良好な相関を有する荷重が40g以下の条件は、図4に示すように、1%以下の微小な伸び率に相当するため、この巻糸をそのまま電極として用いる場合には、呼吸などの体動により検出可能な生体信号を的確に抽出することが困難である。
【0017】
これに対し、本実施形態の感圧導電糸1は、上記の性質を有する巻糸4,6を、弾性糸からなる芯糸2に巻き付けて構成しているため、体動により感圧導電糸1に大きな張力が作用して芯糸2の伸びが大きくなった場合でも、これに巻き付けられた巻糸4,6の伸びを相対的に抑制することができる。したがって、感圧導電糸1の全体の伸びを、巻糸4,6の微小変形として検出することが可能であり、呼吸などの体動に伴う生体信号を精度良く検出することができる。
【0018】
図5は、本実施形態の感圧導電糸1について、伸び率と抵抗値の関係を一例として示す図である。感圧導電糸1の初期長さは100mmとし、伸び率は20%まで4%ずつ計測した。抵抗値の測定方法は、上述した巻糸単体の場合と同様であり、1本の感圧導電糸1に対して3回の試行を行った。図5に示すように、伸び率が20%に至るまで抵抗値は継続的に変化しており、図2及び図4に示す巻糸単体の結果と比較して、より大きな伸び率の変化を抵抗値変化として検出可能であることがわかる。
【0019】
本実施形態の感圧導電糸1は、巻き方向が互いに逆方向である2重の巻糸4,6を芯糸2に巻き付けて構成されているため、トルクの相殺による糸の安定化が得られるとともに、巻糸4,6同士の接点密度の変化も得られることから、単一(1重)の巻糸を使用する場合に比べて感度が向上する。但し、芯糸に巻き付ける巻糸は、単一のものであってもよく、この場合も芯糸に対する巻糸の伸びを抑制して、体動に伴う生体信号の検出を行うことができる。
【0020】
また、芯糸2に伸縮性を持つ素材を使用したカバリング構造にすることにより、芯糸2が安定した伸縮性を担うのでヒステリシスが低減されると共に、巻糸4,6は全体の変形に対し十分な長さが得られる。これにより、巻糸4,6を安定した変形の範囲で使用することができるため、芯材2を備えずに巻糸4,6のみで使用する場合に比べて、安定した検出が可能となる。
【0021】
<生体情報測定用被服>
上述した感圧導電糸1は、織物や編物とすることにより、面状の電極を形成することができ、この電極を被服に縫い付ける等して装着することにより、生体情報測定用被服を構成することができる。
【0022】
図6は、本発明の一実施形態に係る生体情報測定用被服の概略構成図である。図6に示す生体情報測定用被服10は、心拍及び呼吸を同時に測定するためのものであり、被服本体12の内側に、2つの関電極14,16およびGND電極(基準電極)18を設けて構成されている。被服本体12は、柔軟性の高いポリウレタンなどの非導電性材料からなるTシャツであり、取り付けられた各電極14,16,18が身体に密着し易いように、ある程度の伸縮性を有するものを好ましく用いることができる。
【0023】
関電極14,16は、心電図の誘導法である双極誘導の第2誘導に従い右鎖骨部、左肋骨弓下部にそれぞれ配置され、GND電極18は、左鎖骨部に配置されている。右鎖骨部に配置される関電極14,左肋骨弓下部に配置される関電極16,及びGND電極18は、いずれも図1に示す感圧導電糸1の織物からなり、これらは被服本体12に対して縫い付けなどにより固定されている。関電極14,16の大きさは、例えば60×30(mm)程度である。
【0024】
商用電源に由来するノイズの影響を軽減するため、被服本体12の表面側の関電極14,16に相当する部分に、感圧導電糸1からなる編物などを設けて、シールドを形成してもよい。また、身体に対する関電極14,16及びGND電極18の密着をより確実にするため、関電極14,16及びGND電極18と被服本体12との間に、ウレタンフォームなどの弾性体を挿入してもよい。但し、上記のシールドや弾性体は本発明において必須のものではない。
【0025】
図6に示す生体情報測定用被服10を被験者が実際に装着して、GND電極18を基準とする2つの関電極14,16の電位差である出力電圧を計測した。ゲインを510倍とし、カットオフ周波数が0.05Hzの1次のHPF(ハイパスフィルタ)と、30Hzの4次のLPF(ローパスフィルタ)を使用した。この出力電圧の一例を、図7に示す。出力電圧の測定には、上記の携帯型オシロスコープ(ZR−MDR10、OMRON社)を使用した。この出力電圧は、例えば腕時計状の情報処理装置に入力して、表示及び記憶させることも可能である。
【0026】
図7に示す出力電圧は、心電図に基づく心拍信号が含まれると共に、呼吸による体幹の動きによって発生する呼吸信号も含まれている。すなわち、左肋骨弓下部の関電極16の伸縮により巻糸4,6が微小変形を起こすと、右鎖骨部の関電極14との差動で基線が揺らぐことになり、この情報を利用して呼吸を測定することができる。
【0027】
本測定においては、出力電圧に対して、0.8HzのHPFをかけることにより心拍信号を抽出し、0.8HzのLPFをかけることにより呼吸信号を抽出した。分離された心拍信号及び呼吸信号を、それぞれ図8(a)及び図9(a)に示す。
【0028】
これと同時に、心拍信号及び呼吸信号のリファレンス信号も併せて測定した。心拍のリファレンスにはディスポーザブル電極(Blue Sensor、Ambu社)を、呼吸のリファレンスには呼吸ピックアップ(AP−C022、フタミ・エム・イー社)をそれぞれ使用し、ポリメイト(AP1524、TECH社)により同時計測及び記録を行った。心拍リファレンス信号及び呼吸リファレンス信号を、それぞれ図8(b)及び図9(b)に示す。
【0029】
図8(a)と(b)、図9(a)と(b)をそれぞれ比較すると、心拍信号及び呼吸信号の波形はいずれもリファレンス信号の波形と類似しており、本実施形態の生体情報測定用被服10により、心拍信号及び呼吸信号を同時に計測可能であった。
【0030】
本実施形態の生体情報測定用被服10において、電極の配置や数は特に限定されるものではなく、筋電図や脳波など検出対象となる生体情報や測定原理に応じて、適宜変更可能である。また、電極が装着される被服本体12も、Tシャツに限定されず、電極の位置に応じた衣服や装身具を適宜選択することができる。本実施形態では、電極の双方に本発明の感圧導電糸を使用しているが、一対の電極のうち体動により伸縮する側のみに感圧導電糸を使用することもできる。
【0031】
本発明の生体情報測定用被服は、従来の電極による生体信号の測定に加えて、呼吸や肩関節の動き、体幹の傾き、満腹度、嚥下による首の動きなど、体動により検出可能な生体信号を同時に測定可能であることから、このような測定用途に特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る感圧導電糸の概略構成図である。
【図2】巻糸に作用させる張力(荷重)と抵抗値の関係を一例として示す図である。
【図3】図2に示す測定に用いた計測回路の構成図である。
【図4】巻糸に作用する荷重と巻糸の伸び率の関係を一例として示す図である。
【図5】本実施形態の感圧導電糸について、伸び率と抵抗値の関係を一例として示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る生体情報測定用被服の概略構成図である。
【図7】図6に示す生体情報測定用被服の出力電圧の波形の一例を示す図である。
【図8】(a)心拍信号の測定データの一例、及び(b)心拍信号のリファレンス信号の一例を、それぞれ示す図である。
【図9】(a)呼吸信号の測定データの一例、及び(b)呼吸信号のリファレンス信号の一例を、それぞれ示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 感圧導電糸
2 芯糸
4,6 巻糸
10 生体情報測定用被服
12 被服本体
14,16 関電極
18 GND電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性糸からなる芯糸に導電性を有する巻糸を巻き付けてなる感圧導電糸であって、
前記巻糸は、導電性繊維と非導電性繊維とを混紡することにより、伸縮に応じて電気抵抗値が変化する感圧導電糸。
【請求項2】
前記巻糸は、前記芯糸に2重に巻き付けられており、1重目と2重目の巻き方向が逆方向である請求項1に記載の感圧導電糸。
【請求項3】
非導電性材料からなる被服に対し、身体に密着するように配置された電極を備える生体情報測定用被服であって、
前記電極は、請求項1または2に記載された感圧導電糸を用いて形成されている生体情報測定用被服。
【請求項4】
前記電極の出力信号から、心拍信号及び呼吸信号を同時に抽出可能である請求項3に記載の生体情報測定用被服。

【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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