説明

感圧抵抗素子

【課題】加圧力の加減による速度制御に必要なリニア特性を有しつつ、絶対抵抗値を下げることのできる感圧抵抗素子を提供する。
【解決手段】感圧抵抗素子は、無加圧で10Ω未満の抵抗値を示し、加圧によりその抵抗値が減少し、200g/cmの加圧時に10Ω未満の抵抗値を示す感圧導電弾性体Aと、無加圧で10Ω以上の抵抗値を示し、加圧によりその抵抗値が減少し、200g/cmの加圧時に10Ω以上の抵抗値を示す感圧導電弾性体Bが積層してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ポインティングデバイス等に利用される感圧抵抗素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ポインティングデバイスは、画面上のカーソルを介して、画面上での入力位置や座標を指定する入力機器である。近年、携帯電話やゲームゲームコントローラ等には、ユーザーの複雑で、微妙な指先によるコントロールに対応できるポインティングデバイスが求められている。このようなコントロールに対応するには、加圧の加減による速度制御が必要となる。そこで、加圧力が増大するとともに、抵抗値が次第に減少し、導通するリニア特性を有する感圧導電弾性体の利用が検討されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−222070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、リニア特性を有する感圧導電弾性体は、その加圧による抵抗値の減少が飽和した時の抵抗値(以下、絶対抵抗値という)が大きく、導電率が低いという欠点がある。そのため、リニア特性を有する感圧導電弾性体を利用したポインティングデバイスでは、その感度を向上させるのが困難であり、ダイナミックレンジも狭いものであった。
本発明は、加圧力の加減による速度制御に必要なリニア特性を有しつつ、絶対抵抗値を下げることのできる感圧抵抗素子を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の感圧抵抗素子は、無加圧で10Ω未満の抵抗値を示し、加圧によりその抵抗値が減少し、200g/cmの加圧時に10Ω未満の抵抗値を示す感圧導電弾性体(A)と、無加圧で10Ω以上の抵抗値を示し、加圧によりその抵抗値が減少し、200g/cmの加圧時に10Ω以上の抵抗値を示す感圧導電弾性体(B)が積層してなることを特徴とする。
本発明の感圧抵抗素子は、感圧導電弾性体(B)が2つの電極に接続されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明の感圧抵抗素子によれば、リニア特性を有したまま、従来のリニア特性を有する感圧導電弾性体からなる感圧抵抗素子と比較して、絶対抵抗値を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に、本発明の実施形態例を図を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態例に限定されるものではない。
本発明は、図1に示すように、加圧による抵抗値減少の特性の異なる感圧導電弾性体(A)と感圧導電弾性体(B)が積層してなるものである。
【0007】
感圧導電弾性体(A)とは、図2(曲線a)に示すように、無加圧で10Ω未満の抵抗値を示し、加圧によりその抵抗値が急激に減少し、200g/cmの加圧時に10Ω未満の抵抗値を示すものである。さらに、より好ましくは、200g/cmの加圧時に、10Ω未満の抵抗値を示した方が良い。それにより、得られる感圧抵抗素子の抵抗値が下がりやすくなる。
一般には、感圧導電弾性体(A)は、ON/OFFタイプの感圧導電弾性体として、スイッチ素子に利用されているものである。また、ON/OFFタイプの感圧導電弾性体は、絶対抵抗値が非常に低く(図2、曲線a)、導電率が高いという性質を示す。
【0008】
感圧導電弾性体(B)とは、図2(曲線b)に示すように、無加圧で10Ω以上の抵抗値を示し、加圧によりその抵抗値が次第に減少し、200g/cmの加圧時に10以上の抵抗値を示すものである。
一般には、感圧導電弾性体(B)は、アナログ型あるいは抵抗変化型と言われるもので、加圧に応じて抵抗が変化するものである。すなわち、感圧導電弾性体(B)は、図2(曲線b)に示すような抵抗値と加圧力の関係を有し、加圧力が増大するとともに、抵抗値が次第に減少し、導通するリニア特性を有する。しかし、リニア特性を有する感圧導電弾性体は、絶対抵抗値が低くなりにくく(図2、曲線b)、導電率が低いという性質を示す。
【0009】
感圧導電弾性体(A)と感圧導電弾性体(B)は、原理的には区別はなく、絶縁性の弾性高分子中に導電粒子を分散させたものであり、無加圧の状態では、導電粒子は互いに接触せず、電流が流れず、加圧すると材料にひずみが生じ、導電粒子の分散状態、接触状態が変化して抵抗値が低下するものである。
感圧導電弾性体(A)と感圧導電弾性体(B)が、上記の抵抗値の相違点を有するためには、絶縁性の弾性高分子と導電粒子の種類と量などを選択、調整すれば良い。
感圧導電弾性体(A)の材料としては、例えば、絶縁性の弾性高分子としてシリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム等の合成ゴム、天然ゴム、熱可塑性エラストマー等が挙げられ、また、導電粒子としてカーボンブラック、グラファイト(黒鉛)、金、銀等の金属等が挙げられる。その中でも、絶縁性の弾性高分子としてシリコーンゴムが、また、導電粒子としてカーボンブラックまたはグラファイトが使用されることが好ましい。
また、感圧導電弾性体(B)の材料としては、例えば、絶縁性の弾性高分子としてシリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム等の合成ゴム、天然ゴム、熱可塑性エラストマー等が挙げられ、また、導電粒子としてカーボンブラック、グラファイト(黒鉛)、金、銀等の金属等が挙げられる。その中でも、絶縁性の弾性高分子としてシリコーンゴムが、また、導電粒子としてカーボンブラックまたはグラファイトが使用されることが好ましい。
【0010】
感圧導電弾性体(A)と感圧導電弾性体(B)は上記の弾性高分子に導電粒子を混練し、加硫剤を加え、加硫し、その後、公知の成形法により成形して得られる。加硫剤としては、シリコーンゴム用として過酸化化合物加硫剤、付加加硫剤(SiーHと白金触媒)等が挙げられる。
次に、感圧導電弾性体(A)と感圧導電弾性体(B)を、ラミネートして積層体とする。その後、必要な形状に切り出して、本発明の感圧抵抗素子1が得られる。
【0011】
本発明の感圧抵抗素子1は、図3のように、感圧導電弾性体(B)が2つの電極20に接続されて使用される。感圧抵抗素子1が加圧された場合、感圧抵抗素子1の感圧導電弾性体(B)は感圧導電弾性体(A)と比べて、抵抗値が下がりにくい。従って、電流は図3(経路ア)に示すような感圧導電弾性体(B)のみの経路には殆ど通らず、図3(経路イ)に示すように、抵抗値が感圧導電弾性体(B)よりも低い感圧導電弾性体(A)を介して通る。
つまり、本発明の感圧抵抗素子1においては、図3に示すように、抵抗値の高い経路アでなく、抵抗値の低い経路イに電流が通ることができ、抵抗値を減少させることができる。これにより、本発明の感圧抵抗素子1は、従来の感圧導電弾性体(B)と比較し、絶対抵抗値を下げることができる(図2、曲線c)。
また、それと共に、経路イにおいても、電流は抵抗値が高くリニア特性を有する感圧導電弾性体(B)も、通過することになる。従って、本発明の感圧抵抗素子1は、リニア特性も有することとなり、感圧導電弾性体(A)のように、抵抗値が急激に低下することもなく、加圧により、抵抗値が次第に減少する(図2、曲線c)。
従って、本発明の感圧抵抗素子は、図2(曲線c)に示すように、リニア特性を有したまま、絶対抵抗値を減少させることができる。
【0012】
なお、本発明の感圧抵抗素子1の感圧導電弾性体(A)が2つの電極に接続されて、加圧され導通する場合、抵抗値の低い感圧導電弾性体(A)から抵抗値の高い感圧導電弾性体(B)に電流が流れることは殆どなく、感圧抵抗素子の特性は感圧導電弾性体(A)と同様のものになってしまう。
よって、本発明の感圧抵抗素子の効果を奏するには、感圧導電弾性体(B)が電極に接続することが必要となる。
【0013】
感圧抵抗素子1の厚さd(図1)は、用途に応じて適宜設定することができる。好ましくは0.1〜1.0mmが良い。
また、感圧導電弾性体(A)と感圧導電弾性体(B)の厚さの割合は、それぞれの感圧導電弾性体の絶対抵抗値にもよるが、感圧導電弾性体(B)の厚さの割合を50〜95%にすることが好ましい。感圧導電弾性体(B)の厚さの割合が50%未満になると、感圧導電弾性体(B)を通過する電流の量が少なくなり、電流は殆ど感圧導電弾性体(A)のみを流れることになり、その結果リニア特性が得られにくくなる。また、感圧導電弾性体(B)の厚さの割合が95%を超えると、絶対抵抗値が減少しにくくなる。
また、感圧抵抗素子の形状は特に制限されず、用途に応じ設定すれば良い。
【0014】
本発明の感圧抵抗素子1は、例えば、図4に示すような構成でポインティングデバイス10に利用される。ポインティングデバイス10は、操作レバー21、4つの感圧抵抗素子1、それと接する4つの接点23a、23b、23c、23dを有する押圧板22、及び、感圧抵抗素子1と接する4対の電極20を有することが好ましい。
操作レバー21は、例えば、上下左右の4方向にユーザーが圧力を掛けられるようになっており、それぞれの方向に対応して4つの感圧抵抗素子1が設置されている。
【0015】
無加圧状態では、感圧抵抗素子1は図2(曲線c)に示すように、極めて大きい抵抗値を示し、4つの感圧抵抗素子1は絶縁状態になっている。そこで、ユーザーが操作レバー21を押すと、押圧板22の接点23a、23b、23c、23dを介して、本発明の感圧抵抗素子1に加圧力がかかる。それにより、4つの感圧抵抗素子1のうち、ユーザーが押した方向に対応する感圧抵抗素子1のみに加圧され、感圧抵抗素子1の抵抗値が減少し、導通する。すなわち、上下左右の4方向のうち、ユーザーが加圧した方向の感圧抵抗素子1のみで導通し、その4つの電極20の電流を測定することで、ユーザーがどの方向に圧力を掛けたかを検知することができる。このように、ユーザーが操作レバー21で圧力を掛けた方向に、カーソルの移動方向を対応させることができる。
また、ユーザーの加圧力の掛け方により、本発明の感圧抵抗素子1は抵抗値の減少が異なるので、カーソルの速度調整も可能になる。
【0016】
従って、本発明の感圧抵抗素子1を利用したポインティングデバイスによると、リニア特性を有したまま、その感度を向上させることができ、ダイナミックレンジも広く、ユーザーの感覚によりフィットした操作性を実現できる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例を示す。
<実施例1>
感圧導電弾性体(A)の弾性高分子として100質量部のシリコーン生ゴム(KE−78VBS、信越化学工業株式会社製)、導電粒子として67質量部のアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業株式会社製)を混練し、加硫剤として2質量部の2・5−ジメチル−2・5ビス(tブチルパーオキシ)−ヘキサンを加え、また、感圧導電弾性体(B)の弾性高分子として100質量部のシリコーン生ゴム(KE−78VBS、信越化学工業株式会社製)、導電粒子として18質量部のアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業株式会社製)を混練し、加硫剤として2質量部の2・5−ジメチル−2・5ビス(tブチルパーオキシ)−ヘキサンを加え、押出ラミネーションで成形し、厚さが0.15mmの感圧導電弾性体(A)と厚さが0.15mmの感圧導電弾性体(B)の積層体を得た。その後、直径3.8mmの円柱形となるように切り出し、感圧抵抗素子を得た。
【0018】
<実施例2>
実施例1と同様の方法で、厚さが0.10mmの感圧導電弾性体(A)と厚さが0.20mmの感圧導電弾性体(B)の積層体を得た。その後、直径3.8mmの円柱形となるように切り出し、感圧抵抗素子を得た。
【0019】
<実施例3>
実施例1と同様の方法で、厚さが0.05mmの感圧導電弾性体(A)と厚さが0.25mmの感圧導電弾性体(B)の積層体を得た。その後、直径3.8mmの円柱形となるように切り出し、感圧抵抗素子を得た。
【0020】
<比較例1>
感圧導電弾性体(A)の弾性高分子として100質量部のシリコーン生ゴム(KE−78VBS、信越化学工業株式会社製)、導電粒子として67質量部のアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業株式会社製)を混練し、加硫剤として2質量部の2・5−ジメチル−2・5ビス(tブチルパーオキシ)−ヘキサンを加え、押出成形し、厚さが0.30mmの感圧導電弾性体(A)の弾性体を得た。その後、直径3.8mmの円柱形となるように切り出し、感圧抵抗素子を得た。
【0021】
<比較例2>
感圧導電弾性体(B)の弾性高分子として100質量部のシリコーン生ゴム(KE−78VBS、信越化学工業株式会社製)、導電粒子として18質量部のアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業株式会社製)を混練し、加硫剤として2質量部の2・5−ジメチル−2・5ビス(tブチルパーオキシ)−ヘキサンを加え、押出成形し、厚さが0.30mmの感圧導電弾性体(B)の弾性体を得た。その後、直径3.8mmの円柱形となるように切り出し、感圧抵抗素子を得た。
【0022】
<感圧抵抗素子の特性評価>
図5のような測定回路により、上記で得られた実施例、比較例の感圧抵抗素子の抵抗値の特性を調べた。測定回路は、10KΩのリファレンス抵抗30と本発明の感圧抵抗素子1を直列に接続したもので、定電圧5Vを印加した。感圧抵抗素子1は電極20を有した測定基板上に設置した。このような回路において、直径2.6mmの押し子24を利用し、感圧抵抗素子1に加圧し、加圧時の、リファレンス抵抗30にかかる電圧を電圧計31で計測し、その値をX−Yレコーダで記録した。
【0023】
その結果、図6(曲線11〜15)のグラフに示す加圧力とリファレンス抵抗30にかかる電圧の関係が得られた。ここで、リファレンス抵抗30と感圧抵抗素子は直列に接続されており、リファレンス抵抗30にかかる電圧と直列に接続されている感圧抵抗素子の抵抗値は反比例する。
実施例1(図6、曲線11)、実施例2(図6、曲線12)、実施例3(図6、曲線13)の感圧抵抗素子は、加圧力が増大するとともに、リファレンス抵抗30にかかる電圧が次第に増大しているので、本発明の感圧抵抗素子は、抵抗値が次第に減少するリニア特性を有していることがわかった。それにも関わらず、これらの感圧抵抗素子は、加圧力が大きくなったとき、リファレンス抵抗30にかかる電圧は比較例1(曲線14)の感圧導電弾性体(A)のみの感圧抵抗素子の時と殆ど変わらない値を示す。つまり、本発明の感圧抵抗素子は、感圧導電弾性体(A)と殆ど変わらない小さな絶対抵抗値を有していることがわかった。
よって、本発明の感圧抵抗素子がリニア特性を有しつつ、加圧によって抵抗値を大きく減少させることができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の感圧抵抗素子を示す斜視図である。
【図2】感圧導電弾性体(A)(曲線a)、感圧導電弾性体(B)(曲線b)、本発明の感圧抵抗素子(曲線c)の抵抗値と加圧力の関係の概略を示したグラフである。
【図3】本発明の感圧抵抗素子と電極、並びに、電流の流れの概略を示した模式図である。
【図4】図4(a)は本発明の感圧抵抗素子を利用したポインティングデバイスの概略を示した側面図であり、図4(b)は、図4(a)のa−aの断面を示した断面図である。
【図5】本願の実施例、比較例において使用した測定回路の概略を示した模式図である。
【図6】実施例1(曲線11)、実施例2(曲線12)、実施例3(曲線13)、比較例1(曲線14)、比較例2(曲線15)の感圧抵抗素子を測定回路に設置したときのリファレンス抵抗にかかる電圧と加圧力の関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1 感圧抵抗素子
A 感圧導電弾性体
B 感圧導電弾性体
20 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無加圧で10Ω未満の抵抗値を示し、加圧によりその抵抗値が減少し、200g/cmの加圧時に10Ω未満の抵抗値を示す感圧導電弾性体(A)と、無加圧で10Ω以上の抵抗値を示し、加圧によりその抵抗値が減少し、200g/cmの加圧時に10Ω以上の抵抗値を示す感圧導電弾性体(B)が積層してなることを特徴とする感圧抵抗素子。
【請求項2】
感圧導電弾性体(B)が2つの電極に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の感圧抵抗素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−256399(P2008−256399A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96417(P2007−96417)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)