説明

感圧接着シートおよびその製造方法

【課題】トルエン放散量およびTVOC量がいずれも少なく、且つユーザーが実際に感じる不快臭が低減された粘着シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る粘着シートは、アクリル系ポリマーエマルジョンと粘着付与樹脂エマルジョンを含む粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備え、1g当たりのトルエン放散量が20μg以下且つ総揮発性有機化合物量が150μg以下であって、官能試験において9割以上のパネラーが該粘着シートから放散した臭気物質の不快度が所定濃度のトルエンよりも低いと判定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感圧接着シートに関し、詳しくは、トルエン放散量および総揮発性有機化合物量が少なく、さらに不快臭が低減された感圧接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系ポリマーが水に分散した態様の水性エマルジョン型感圧接着剤(粘着剤)組成物は、分散媒として水を用いることから、溶剤型の粘着剤組成物に比べて環境衛生上望ましい。また、このような水性エマルジョン型のアクリル系粘着剤組成物は、より耐溶剤性等に優れた粘着剤層および該粘着剤層を有する感圧接着シート(粘着シート)を形成しやすいという利点を有している。
【0003】
一方、近年は粘着シートから放散するトルエン量(トルエン放散量)や総揮発性有機化合物(Total Volatile Organic Compounds;TVOC)量の低減に対する要望が高まっており、かかる要望を満たす粘着シートおよび該粘着シートを形成し得る粘着剤組成物が求められている。この種の技術に関する従来技術文献として特許文献1および2が例示される。
【0004】
【特許文献1】特開2004−315767号公報
【特許文献2】特開2006−111818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機械的に測定されるトルエン放散量およびTVOC量が所定の目標値以下に抑えられた粘着シートであっても、実際に該粘着シートが閉空間において使用されたときにユーザーが不快臭を感じる程度は上記機械的測定値から単純には予測し得ないことがある。また、一般的な傾向としてトルエン放散量およびTVOC量が低いほど不快臭は低減するものの、粘着シートの性能や生産効率あるいは選択し得る基材等の観点から、これらの量を限りなくゼロに近づけるという解決策が現実的とは言い難い場合もある。
【0006】
そこで本発明は、水性エマルジョン型のアクリル系粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える粘着シートであって、トルエン放散量およびTVOC量がいずれも少なく、且つユーザーが実際に感じる不快臭が低減された粘着シートを提供することを目的とする。本発明の他の目的は、かかる粘着シートを効率よく製造する方法を提供することである。関連する他の目的は、上記粘着シートを製造する用途に好適な粘着剤組成物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、アクリル系ポリマーの水性エマルジョンと粘着付与樹脂の水性エマルジョンとを含む感圧接着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を有する粘着シートであって、以下の条件(a)〜(c)をいずれも満たす粘着シートが提供される。
(a)80℃で30分間加熱したときのトルエン放散量が粘着シート1g当たり20μg以下である。
(b)80℃で30分間加熱したときの総揮発性有機化合物量が粘着シート1g当たり150μg以下である。
(c)温度23℃、相対湿度50%の条件下において粘着シート10cmから24時間のあいだに放散した臭気物質を容積900cmの空気中に含む測定ガスと、同容積の空気中に0.05gのトルエンを含む対照ガスと、の臭気不快度を比較する官能試験において、パネラーの9割以上が前記対照ガスよりも前記測定ガスのほうが不快度が低いと判定する。
【0008】
かかる粘着シートは、水性エマルジョン型のアクリル系粘着剤組成物を用いて形成されていることから環境衛生上好ましく、また粘着付与樹脂エマルジョンを含むアクリル系粘着剤組成物を用いて形成されていることにより良好な粘着性能を発揮し得る。そして、該粘着シートは、トルエン放散量およびTVOC量がいずれも低いレベルにあることに加えて、実際の官能試験における臭気不快度が少ないという優れた性質を備えるものである。
【0009】
ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、前記粘着付与樹脂エマルジョンが、軟化点120℃以上の粘着付与樹脂の水性エマルジョンである。好ましくは、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤を実質的に使用することなく調製された粘着付与樹脂エマルジョンである。高軟化点の粘着付与樹脂の使用は、粘着シートの性能(例えば耐熱性)向上に効果的である一方、エマルジョン化することが困難である(特許文献2参照)。かかる粘着付与樹脂エマルジョンとして、少なくとも芳香族炭化水素系溶剤を実質的に使用することなく(より好ましくは、有機溶剤を実質的に使用することなく)調製されたものを選択することにより、トルエン放散量およびTVOC量がより低減され、且つ臭気不快度の少ない粘着シートを提供することができる。
【0010】
本発明によると、また、ここに開示されるいずれかの粘着シートを製造する方法が提供される。その方法は、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとするモノマー原料をエマルジョン重合に付して前記アクリル系ポリマーの水性エマルジョンを得ることを含む。また、該アクリル系ポリマーエマルジョンと前記粘着付与樹脂の水性エマルジョンとを混合して前記粘着剤組成物を調製することを含む。また、その粘着剤組成物を乾燥させて前記粘着剤層を形成することを含む。
ここで、前記エマルジョン重合は、以下の条件(A)および(B)をいずれも満たすように行われる。
(A)重合開始剤を有する反応容器に前記モノマー原料を供給して常温よりも高い重合温度に維持することにより該モノマー原料の重合反応を行い、次いでその反応液を前記重合温度から常温まで冷却する。
(B)前記モノマー原料を前記反応容器に供給し終えてから間隔をあけて(且つ、典型的には前記冷却を終える前に)、前記反応液に追加の重合開始剤を供給する。該追加の重合開始剤としては、先にモノマー原料の重合反応に使用された重合開始剤よりも半減期温度の低い重合開始剤および/またはレドックス系開始剤(例えば、過酸化水素とアスコルビン酸との組み合わせ)を好ましく採用することができる。
【0011】
かかる製造方法によると、モノマーの残存量が高度に低減されたアクリル系ポリマーエマルジョンを得ることができる。このようなアクリル系ポリマーエマルジョンに粘着付与樹脂エマルジョン(好ましくは、芳香族炭化水素系溶剤を実質的に使用することなく調製されたエマルジョン)を配合してなる粘着剤組成物を用いることにより、トルエン放散量およびTVOC量がより低減され且つ臭気不快度の少ない粘着シートを効率よく製造することができる。したがって本発明は、他の側面として、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとするモノマー原料を上記(A)および(B)をいずれも満たす条件で行われるエマルジョン重合に付してアクリル系ポリマーの水性エマルジョンを得ることと、該アクリル系ポリマーエマルジョンと粘着付与樹脂の水性エマルジョンとを混合して粘着剤組成物を調製することと、を包含する粘着剤組成物製造方法を提供する。
【0012】
ここに開示される粘着シート製造方法の好ましい一態様では、前記粘着剤組成物の乾燥を凡そ110℃以下の温度で行う。該製造方法では上述のようにモノマーの残存量が高度に低減されたアクリル系ポリマーエマルジョンを用いるので、粘着剤組成物の乾燥条件をそれほど厳しくしなくても、トルエン放散量およびTVOC量が少なく且つ臭気不快度の少ない粘着シートを製造することができる。このように粘着剤組成物の乾燥条件をより広範囲から選択し得ることは、該組成物の乾燥に要するエネルギーコストを削減し得る、該組成物を付与する基材の選択幅が広がる、過度の加熱による粘着性能の低下が回避された性能のよい粘着剤層を形成し得る、等のうち一または二以上の観点から好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0014】
本発明に係る粘着シートは、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える。かかる粘着剤層をシート状基材(支持体)の片面または両面に有する形態の基材付き粘着シートであってもよく、あるいは該粘着剤層が剥離ライナー(支持体)上に設けられた形態等の基材レスの粘着シートであってもよい。ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。なお、上記粘着剤層は連続的に形成されたものに限定されず、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。また、本発明に係る粘着シートは、粘着剤層を有することに加えて、本発明の効果を損なわない範囲で他の層(例えば中間層、下塗り層等)を有していてもよい。
【0015】
ここに開示される粘着シートは、例えば、図1〜図6に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。このうち図1,図2は、両面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図1に示す粘着シート11は、基材1の両面に粘着剤層2が設けられ、それらの粘着剤層2が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によってそれぞれ保護された構成を有している。図2に示す粘着シート12は、基材1の両面に粘着剤層2が設けられ、それらの粘着剤層のうち一方が、両面が剥離面となっている剥離ライナー3により保護された構成を有している。この種の粘着シート12は、該粘着シート12を巻回することにより他方の粘着剤層を剥離ライナー3の裏面に当接させ、該他方の粘着剤層もまた剥離ライナー3によって保護された構成とすることができる。
図3,図4は、基材レスの粘着シートの構成例である。図3に示す粘着シート13は、基材レスの粘着剤層2の両面が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によってそれぞれ保護された構成を有する。図4に示す粘着シート14は、基材レスの粘着剤層2の一面が、両面が剥離面となっている剥離ライナー3により保護された構成を有し、これを巻回すると粘着剤層2の他面が剥離ライナー3に当接して該他面もまた剥離ライナー3で保護された構成とできるようになっている。このように、基材レス粘着シート13,14では、剥離ライナー3が粘着剤層2を保護するとともに該粘着剤層2を支持する支持体としての機能を果たしている。
図5,図6は、片面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図5に示す粘着シート15は、基材1の片面に粘着剤層2が設けられ、その粘着剤層2の表面(接着面)が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によって保護された構成を有する。図6に示す粘着シート16は、基材1の一面に粘着剤層2が設けられた構成を有する。その基材1の他面は剥離面となっており、粘着シート16を巻回すると該他面に粘着剤層2が当接して該粘着剤層の表面(接着面)が基材1の他面で保護された構成とできるようになっている。
【0016】
本発明に係る粘着シートは、該粘着シートを80℃で30分間加熱したときのトルエン放散量(以下、単に「トルエン放散量」ということもある。)が粘着シート1g当たり20μg以下(以下、これを「20μg/g」等と表記することもある。)である、という特性を有する。好ましい一態様ではトルエン放散量が10μg/g以下であり、より好ましくは5μg/g以下である。トルエン放散量の下限は特に限定されないが、粘着特性、生産効率、選択し得る基材や工程紙(粘着シートの製造過程において粘着剤組成物または粘着剤層を一時的に保持し、最終製品たる粘着シートには含まれない支持体)の材質、粘着剤組成物の乾燥条件等に鑑みて、通常は0.5μg/g以上であり、典型的には1μg/g以上である。
なお、トルエン放散量としては、下記のトルエン放散量測定方法により得られた値を採用する。
【0017】
[トルエン放散量測定方法]
粘着シートから所定のサイズ(面積:5cm)を切り取って試料を作製し、該試料をバイアル瓶に入れて密栓する。その後、試料を入れたバイアル瓶を80℃で30分間加熱し、加熱状態のガス1.0mlをヘッドスペースオートサンプラーによりガスクロマトグラフ測定装置(GC測定装置)に注入してトルエンの量を測定し、試料(粘着シート)1g当たりのトルエンの含有量(放散量)[μg/g]を算出し、定量する。
なお、ここで粘着シート1g当たりのトルエン含有量を算出する基準となる粘着シートの質量は、基材付き粘着シートにおいては基材および該基材に支持された粘着剤層を含む全体の質量とし(但し剥離ライナーは含まない。)、基材レスの粘着シートにおいては粘着剤層自体の質量とする。
【0018】
また、本発明に係る粘着シートは、該粘着シートを80℃で30分間加熱したときのTVOC量(以下、単に「TVOC量」ということもある。)が粘着シート1g当たり150μg以下である、という特性を有する。好ましい一態様ではTVOC量が100μg/g以下であり、より好ましくは50μg/g以下である。TVOC量の下限は特に限定されないが、粘着特性、生産効率、選択し得る基材や工程紙の材質、粘着剤組成物の乾燥条件等に鑑みて、通常は5μg/g以上であり、典型的には10μg/g以上である。
なお、TVOC量としては、下記のTVOC量測定方法により得られた値を採用する。
【0019】
[TVOC量測定方法]
上記トルエン放散量測定方法と同様に作製した試料を入れたバイアル瓶を80℃で30分間加熱し、加熱状態のガス1.0mlをヘッドスペースオートサンプラーによりGC測定装置に注入する。得られたガスクロマトグラムに基づいて、粘着剤組成物の作製に使用した材料から予測される揮発物質(残存モノマー、粘着付与樹脂エマルジョンに含まれる溶剤等)については標準物質によりピークの帰属および定量を行い、その他の(帰属困難な)ピークについてはトルエン換算として定量することにより、試料(粘着シート)1g当たりのTVOC量[μg/g]を求める。
なお、ここで粘着シート1g当たりのTVOC量を算出する基準となる粘着シートの質量は、基材付き粘着シートにおいては基材および該基材に支持された粘着剤層を含む全体の質量とし(但し剥離ライナーは含まない。)、基材レスの粘着シートにおいては粘着剤層自体の質量とする。
【0020】
なお、上記トルエン放散量測定方法およびTVOC量測定方法のいずれについても、ガスクロマトグラフの測定条件は次の通りとする。
・カラム:DB−FFAP 1.0μm(0.535mmφ×30m)
・キャリアガス:He 5.0mL/min
・カラムヘッド圧:23kPa(40℃)
・注入口:スプリット(スプリット比12:1、温度250℃)
・カラム温度:40℃(0min)−<+10℃/min>−250(9min)[40℃より、昇温速度10℃/minで250℃まで昇温させた後、250℃で9分間保持させるという意味]
・検出器:FID(温度250℃)
【0021】
本発明に係る粘着シートは、さらに、ユーザーが実際に感じる不快臭が少ない(弱い)という特性を有する。より具体的には、以下の方法で行われる官能試験(臭気不快度試験)において、パネラーの9割以上が対照ガスよりも臭気不快度が低いと判定する、という特性を有する。
【0022】
[臭気不快度試験方法]
・試験環境:温度23±2℃、相対湿度50±5%に維持された室内にて行う。
・測定試料:粘着シートから所定のサイズ(面積:10cm)を切り取ったものを測定試料とする。
・測定用容器:容積900cm(0.9リットル)の新しいガラス瓶を蒸留水で洗浄し、次いでアセトンで洗浄し、80℃で12時間乾燥させた容器を使用する。
・測定ガス:上記試料の片面を上記測定用容器の内面に貼り付けて密栓し、上記試験環境下に24時間放置したもの(測定ガス容器)を少なくとも5個用意する。
・対照ガス:上記測定用容器に0.05gのトルエンを滴下して密栓し、上記試験環境下に24時間放置したもの(対照ガス容器)を、上記測定ガス容器と同数だけ用意する。
・パネラー:少なくとも10人のパネラーにより判定を行う。
・判定方法:各パネラーが測定ガス容器および対照ガス容器の蓋を短時間開けてにおいを嗅ぎ、測定ガスおよび対照ガスのうちどちらが不快度がより少ないと感じたかを記録する。なお、1個の容器につき評価するパネラーは2人までとする。すなわち、2回蓋を開けた容器はそれ以上評価に使用しない。
【0023】
ここに開示される粘着シートの好適な一態様では、該粘着シートのホルムアルデヒドの放散量が3μg/m未満(より好ましくは2μg/m以下、さらに好ましくは1μg/m以下))である。ここで、ホルムアルデヒドの放散量は、JIS A 1901(2003)に準拠した方法により測定された値を採用する。この際、測定するサンプルの表面積は0.043mとし、サンプル(粘着シート)の単位体積あたりのホルムアルデヒドの含有量(μg/m)を算出し、定量する。具体的な条件は次の通りである。
【0024】
[ホルムアルデヒド放散量測定方法]
(サンプリング条件)
・捕集管:Waters社製「SEP−PAK DNPHSilica カートリッジ short type」
・流量:167mL/min
・採取量:10L
(測定機器等)
・小形チャンバー:ADTEC社製「20Lチャンバー」
・清浄空気供給装置:新菱エコビジネス社製「ADclean」
・シール材、シールボックス:なし
・温湿度制御装置:ADTEC社製「ADPAC−SYSTEM III 温湿度ユニット」
・空気捕集装置:ジーエルサイエンス社製「SP208−1000DUAL サンプリングポンプ」
(分析条件)
・高速液体クロマトグラフ:Waters社製「TM996PAD」
・検出器:UV Detector
・カラム:Waters社製「Puresil C18(4.6×150mm)」
・移動相:アセトニトリル水溶液(アセトニトリル:水=50:50)
・注入量:20μL
・検出波長:360nm
【0025】
ここに開示される技術において使用する粘着付与樹脂は、典型的には、粘着付与樹脂が水に分散されている水性エマルジョン形態の粘着付与樹脂組成物(粘着付与樹脂エマルジョン)である。分散される粘着付与樹脂は特に制限されないが、例えば、ロジン系、テルペン系、炭化水素系、エポキシ系、ポリアミド系、エラストマー系、フェノール系、ケトン系等の粘着付与樹脂が挙げられる。このような粘着付与樹脂は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
具体的には、ロジン系粘着付与樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の未変性ロジン(生ロジン);これらの未変性ロジンを水添化、不均化、重合等により変性した変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、その他の化学的に修飾されたロジン等);その他の各種ロジン誘導体;等が挙げられる。上記ロジン誘導体としては、例えば、未変性ロジンをアルコール類によりエステル化したもの(すなわち、ロジンのエステル化物)、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)をアルコール類によりエステル化したもの(すなわち、変性ロジンのエステル化物)等のロジンエステル類;未変性ロジンや変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン類;ロジンエステル類を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類;未変性ロジン、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)、不飽和脂肪酸変性ロジン類または不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類におけるカルボキシル基を還元処理したロジンアルコール類;未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体等のロジン類(特に、ロジンエステル類)の金属塩;ロジン類(未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体等)にフェノールを酸触媒で付加させ熱重合することにより得られるロジンフェノール樹脂;等が挙げられる。
【0027】
テルペン系粘着付与樹脂としては、例えば、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、ジペンテン重合体等のテルペン系樹脂;これらのテルペン系樹脂を変性(フェノール変性、芳香族変性、水素添加変性、炭化水素変性等)した変性テルペン系樹脂(例えば、テルペン−フェノール系樹脂、スチレン変性テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、水素添加テルペン系樹脂等);等が挙げられる。
【0028】
炭化水素系粘着付与樹脂としては、例えば、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族系環状炭化水素樹脂、脂肪族・芳香族系石油樹脂(スチレン−オレフィン系共重合体等)、脂肪族・脂環族系石油樹脂、水素添加炭化水素樹脂、クマロン系樹脂、クマロンインデン系樹脂等の各種の炭化水素系の樹脂が挙げられる。脂肪族系炭化水素樹脂としては、炭素数4〜5程度のオレフィン(1−ブテン−1、イソブチレン、1−ペンテン等)およびジエン(ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン等)から選択される一種または二種以上の脂肪族炭化水素の(共)重合体等が例示される。芳香族系炭化水素樹脂としては、炭素数8〜10程度のビニル基含有芳香族系炭化水素(スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、インデン、メチルインデン等)から選択される一種または二種以上の(共)重合体等が例示される。脂肪族系環状炭化水素樹脂としては、いわゆる「C4石油留分」や「C5石油留分」を環化二量体化した後に重合させた脂環式炭化水素系樹脂;環状ジエン化合物(シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、ジペンテン等)の重合体またはその水素添加物;芳香族系炭化水素樹脂または脂肪族・芳香族系石油樹脂の芳香環を水素添加した脂環式炭化水素系樹脂;等が例示される。
【0029】
特に限定するものではないが、粘着シートのホルムアルデヒド放散量を低く抑える(例えば、該放散量を3μg/m未満にコントロールする)という観点から、粘着付与樹脂を製造する際の材料(または原料)としてホルムアルデヒドが用いられていない粘着付与樹脂を好適に用いることができる。かかる粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、炭化水素系粘着付与樹脂、エポキシ系粘着付与樹脂、ポリアミド系粘着付与樹脂、エラストマー系粘着付与樹脂等が挙げられる。
【0030】
ここに開示される技術では、軟化点(軟化温度)が凡そ120℃以上(好ましくは凡そ130℃以上、さらに好ましくは凡そ140℃以上)である粘着付与樹脂が好ましく使用される。かかる軟化点を有する粘着付与樹脂(典型的には、該粘着付与樹脂のエマルジョンの形態で使用される。)によると、より高性能な粘着シート(例えば、高い接着性、優れた端末剥がれ防止性、良好な耐熱性等のうち一または二以上の性能)が実現され得る。粘着付与樹脂の軟化点の上限は特に制限されず、例えば凡そ170℃以下(好ましくは凡そ160℃以下、さらに好ましくは凡そ155℃以下)であり得る。粘着付与樹脂の軟化点としては、JIS K 5601に準拠して測定された値を採用することができる。
【0031】
粘着付与樹脂のエマルジョンとしては、有機溶剤を実質的に使用することなく調製されているか、あるいは、芳香族炭化水素系有機溶剤以外の材料(溶剤)を用いて調製されているものを好ましく採用し得る。
【0032】
有機溶剤を実質上用いずに粘着付与樹脂のエマルジョンを調製する(すなわち、粘着付与樹脂をエマルジョン化する)方法としては、無溶剤系高圧乳化法、無溶剤系転相乳化法等が挙げられる。ここで無溶剤系高圧乳化法とは、粘着付与樹脂をその軟化点以上に加熱して溶融状態とし、これを水と適当な乳化剤と予備混合し、高圧乳化機にて乳化してエマルジョン化する方法である。また、無溶剤系転相乳化法とは、加圧下または常圧下にて粘着付与樹脂をその軟化点以上に昇温して乳化剤を練り込み、これに熱水を徐々に添加して転相乳化させることによりエマルジョン化する方法である。
【0033】
また、芳香族炭化水素系有機溶剤以外の溶剤(すなわち、非芳香族炭化水素系有機溶剤)を用いて粘着付与樹脂エマルジョンを調製する方法としては、例えば、当該粘着付与樹脂を非芳香族炭化水素系有機溶剤に溶解させてから水に分散させる方法が挙げられる。ここで使用する非芳香族炭化水素系有機溶剤は、粘着付与樹脂の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば脂環式炭化水素系の有機溶剤を好適に用いることができる。脂環式炭化水素系有機溶剤の例としては、シクロヘキサン、アルキル基含有シクロヘキサン(メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、メチルエチルシクロヘキサン等)等のシクロヘキサン類;該シクロヘキサン類に対応するシクロペンタン類(シクロペンタン、アルキル基含有シクロペンタン等);同じくシクロヘプタン類(シクロヘプタン、アルキル基含有シクロヘプタン等);同じくシクロオクタン類(シクロオクタン、アルキル基含有シクロオクタン等);等が挙げられる。このような非芳香族炭化水素系有機溶剤は、単独でまたは2種以上を混合して用いることできる。該有機溶剤の使用量は特に制限されないが、該有機溶剤に粘着付与樹脂を溶解させた溶液を水に分散させることが可能な範囲で(必要に応じて乳化剤を用いてもよい。)、なるべく少ない使用量となっていることが好ましい。また、上記粘着付与樹脂溶液を水に分散させてエマルジョン化した後は、使用した有機溶剤が公知または慣用の除去方法(例えば減圧留去方法等)によりできるだけ除去されていることが好ましい。
【0034】
粘着付与樹脂を水に分散させる際には、必要に応じて乳化剤を用いることができる。該乳化剤としては、例えば、後述するモノマー原料をエマルジョン重合に付す際に使用される乳化剤と同様のものから選択される一種または二種以上を用いることができる。アニオン系乳化剤および/またはノニオン系乳化剤の使用が好ましい。モノマー原料のエマルジョン重合に用いる乳化剤と、粘着付与樹脂エマルジョンの調製に用いる乳化剤とは、同一であってもよく異なってもよい。通常は、一方がアニオン系乳化剤であれば他方もアニオン系乳化剤を用いることが好ましく、一方がノニオン系乳化剤であれば他方もノニオン系乳化剤を用いることが好ましい。乳化剤の使用量は、粘着付与樹脂をエマルジョンの形態に調製することが可能な使用量であれば特に制限されず、例えば、粘着付与樹脂全量(固形分)に対して凡そ0.2〜10質量%(好ましくは凡そ0.5〜5質量%)程度の範囲から選択することができる。
【0035】
ここに開示される技術において好ましく使用し得る粘着付与樹脂エマルジョンとしては、例えば、商品名「SK−253NS」(ハリマ化成株式会社製;軟化点145℃;有機溶剤を実質上全く用いずに製造された粘着付与樹脂含有エマルジョン)、商品名「タマノルE−200−NT」(荒川化学株式会社製;軟化点150℃;脂環式炭化水素系有機溶剤を用いて製造された粘着付与樹脂含有エマルジョン)等が挙げられる。
【0036】
ここに開示される技術におけるアクリル系ポリマーは、粘着剤のベースポリマー(基本成分)をなすものであって、所定のモノマー原料を重合(典型的にはエマルジョン重合)してなる重合体である。上記モノマー原料は、アルキル(メタ)アクリレート、すなわちアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルを主モノマー(主構成単量体)とする。ここで「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包含する概念である。また、「アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとする」とは、上記モノマー原料の総量に占めるアルキル(メタ)アクリレートの含有量(二種以上のアルキル(メタ)アクリレートを含有する場合にはそれらの合計含有量)の割合が50質量%を超えることをいう。このアルキル(メタ)アクリレート含有割合は、例えば前記モノマー原料の50質量%を超えて99.8質量%以下の範囲であり得る。アルキル(メタ)アクリレートの含有割合が凡そ80質量%以上(典型的には凡そ80〜99.8質量%)であるモノマー原料が好ましく、凡そ85質量%以上(典型的には凡そ85〜99.5質量%)であるモノマー原料がより好ましい。モノマー原料に占めるアルキル(メタ)アクリレートの割合が凡そ90質量%以上(典型的には凡そ90〜99質量%)であってもよい。この割合は、該モノマー原料を重合して得られるアクリル系ポリマーにおけるアルキル(メタ)アクリレートの(共)重合割合に概ね対応する。
【0037】
上記モノマー原料を構成するアルキル(メタ)アクリレートは、下記式(1):
CH=C(R)COOR ・・・(1);
で表される化合物から選択される一種または二種以上であり得る。ここで、上記式(1)中のRは水素原子またはメチル基である。また、該式(1)中のRは炭素数1〜20のアルキル基である。上記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。これらのうち炭素数が2〜14(以下、このような炭素数の範囲を「C2−14」と表すことがある。)のアルキル基が好ましく、C2−10のアルキル基(例えばブチル基、2−エチルヘキシル基等)がより好ましい。
【0038】
好ましい一つの態様では、上記モノマー原料に含まれるアルキル(メタ)アクリレートの総量のうち凡そ80質量%以上(より好ましくは凡そ90質量%以上)が、上記式(1)におけるRがC2−10(より好ましくはC4−8)のアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルである。該モノマー原料に含まれるアルキル(メタ)アクリレートの実質的に全部がC2−10アルキル(より好ましくはC4−8アルキル)(メタ)アクリレートであってもよい。かかるアルキル(メタ)アクリレートは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、アルキル(メタ)アクリレートとしてブチルアクリレートを単独で含む組成、2−エチルヘキシルアクリレートを単独で含む組成、ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートの二種を含む組成、等のモノマー原料であり得る。このようにアルキル(メタ)アクリレートとしてブチルアクリレートおよび/または2−エチルヘキシルアクリレートを含む組成のモノマー原料において、ブチルアクリレート(BA)と2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)との含有割合(質量比)は、例えば、BA/2EHA=0/100〜100/0(好ましくは0/100〜70/30、より好ましくは5/95〜60/40)程度であり得る。
【0039】
上記モノマー原料は、主モノマーとしてのアルキル(メタ)アクリレートに加えて、任意成分としてその他のモノマー(共重合成分)を含有することができる。当該「その他のモノマー」は、ここで使用するアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な種々のモノマーから選択される一種または二種以上であり得る。かかる共重合成分は、例えば、アクリル系ポリマーに架橋点を導入する、アクリル系ポリマーの凝集力を高める、等の目的で使用することができる。なお、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量に対するアルキル(メタ)アクリレートの割合は凡そ80質量%以上(例えば凡そ80〜99.8質量%)であることが好ましく、より好ましくは凡そ85質量%以上(例えば凡そ85〜99.5質量%)、さらに好ましくは凡そ90質量以上(例えば凡そ90〜99質量%)である。
【0040】
具体的には、アクリル系ポリマーに架橋点を導入するために、上記共重合成分として官能基含有モノマー(特に、アクリル系重合体に熱架橋する架橋点を導入させるための熱架橋性官能基含有モノマー)を用いることができる。かかる官能基含有モノマーを用いることにより、被着体に対する接着力を向上させることができる。このような官能基含有モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能であって且つ架橋点となる官能基を有しているモノマー(典型的にはエチレン性不飽和単量体)であれば特に制限されず、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イソクロトン酸等のカルボキシル基含有モノマーまたはその酸無水物(無水マレイン酸、無水イコタン酸等);2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの他、ビニルアルコール、アリルアルコール等の水酸基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー;アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ含有モノマー;N−ビニル−2−ピロリドン、N−メチルビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピリミジン、N−ビニルピペラジン、N−ビニルピラジン、N−ビニルピロール、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルオキサゾール、N−ビニルモルホリン、N−ビニルカプロラクタム、N−(メタ)アクリロイルモルホリン等の複素環(例えば窒素原子含有環)を有するモノマー等が挙げられる。
【0041】
このような官能基含有モノマーは、一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましく使用される官能基含有モノマーとして、カルボキシル基含有モノマーまたはその無水物(より好ましくはエチレン性不飽和モノカルボン酸)が挙げられる。なかでもアクリル酸および/またはメタクリル酸の使用が好ましい。
かかる官能基含有モノマーを含む組成のモノマー原料では、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対する官能基含有モノマー(二種以上を含む場合にはそれらの合計)の含有割合を例えば凡そ12質量部以下(典型的には凡そ0.5〜12質量部)とすることができる。この割合がアルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して凡そ8質量部以下(典型的には凡そ1〜8質量部)であってもよい。
【0042】
また、アクリル系ポリマーの凝集力を高めるために、上述した官能基含有モノマー以外の他の共重合成分を用いることができる。かかる共重合成分としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;スチレン、置換スチレン(α−メチルスチレン等)、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチルジ(メタ)アクリレート等(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、イソボルニル(メタ)アクリレートのような、非芳香族性の環を含有する(メタ)アクリルレート;フェニル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のアリールオキシアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリールアルキル(メタ)アクリレートのような、芳香族性の環を含有する(メタ)アクリレート;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のオレフィン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基含有モノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマーの他、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ジビニルベンゼン、ブチルジ(メタ)アクリレート、ヘキシルジ(メタ)アクリレート等の多官能モノマー等が挙げられる。
【0043】
ここに開示される技術におけるアクリル系ポリマーの水性エマルジョンは、このようなモノマー原料をエマルジョン重合に付して得られたものであり得る。エマルジョン重合の態様は特に限定されず、従来公知の一般的な乳化重合と同様の態様により、例えば公知の各種モノマー供給方法、重合条件(重合温度、重合時間、重合圧力等)、使用材料(重合開始剤、界面活性剤等)を適宜採用して行うことができる。例えば、モノマー供給方法としては、全モノマー原料を一度に重合容器に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等のいずれも採用可能である。モノマー原料の一部または全部をあらかじめ水と混合して乳化し、その乳化液(すなわち、モノマー原料のエマルジョン)を反応容器内に供給してもよい。重合温度は、使用するモノマーの種類や重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば常温より高く100℃以下(典型的には40〜100℃、例えば40〜80℃)の範囲から選択することができる。
【0044】
重合時に用いられる重合開始剤は、重合方法の種類および態様(重合条件)に応じて、公知または慣用の重合開始剤から適宜選択することができる。重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、過酸化水素等の過酸化物系重合開始剤;フェニル置換エタン等の置換エタン系重合開始剤;芳香族カルボニル化合物;過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤;が挙げられる。重合開始剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
重合開始剤の使用量は、通常と同程度の使用量であればよく、例えばモノマー原料100質量部に対して凡そ0.005〜1質量部程度の範囲から選択することができる。
【0045】
重合の際には、必要に応じて連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。連鎖移動剤としては、公知または慣用の連鎖移動剤を用いることができ、例えば、ドデシルメルカプタン(ドデカンチオール)、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、2,3−ジメチルカプト−1−プロパノール等のメルカプタン類の他、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。連鎖移動剤は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤の使用量は、通常と同程度の使用量であればよく、例えば、モノマー原料100質量部に対して凡そ0.001〜0.5質量部程度の範囲から選択することができる。
【0046】
ここに開示されるモノマー原料のエマルジョン重合における好ましい一態様では、重合開始剤を有する反応容器に上記モノマー原料を供給して系を常温よりも高い重合温度(好ましくは凡そ40℃〜80℃、例えば凡そ50℃〜70℃)に維持することにより、該モノマー原料の重合反応を行う。その後、反応容器の内容物(反応液)を典型的には常温まで冷却する。例えば、重合開始剤の全量が仕込まれた反応容器にモノマー原料の全量を一括して供給してもよく、モノマー原料の全量を所定時間に亘って連続的に供給してもよく(連続供給)、あるいはモノマー原料の全量をいくつかに分割して所定時間(例えば凡そ5分〜60分)毎に供給してもよい(分割供給)。上記モノマー原料の連続供給を行う場合、該供給を行う時間は、通常は凡そ1時間〜8時間程度とすることが適当であり、好ましくは凡そ2時間〜6時間程度(例えば凡そ3時間〜5時間程度)である。また、上記モノマー原料の分割供給を行う場合には、最初のモノマー原料画分が供給されてから最後のモノマー原料画分が供給されるまでの時間を通常は凡そ1時間〜8時間程度とすることが適当であり、好ましくは凡そ2時間〜6時間程度(例えば凡そ3時間〜5時間程度)である。あるいは、重合開始剤の一部が仕込まれた反応容器にモノマー原料の少なくとも一部を供給して該モノマー原料の重合を開始させ、残りの重合開始剤は所定時間に亘って連続的に、あるいはいくつかに分割して所定時間毎に供給してもよい。通常は、モノマー原料の供給終了とほぼ同時あるいはモノマー原料の供給終了よりも前に、重合開始剤の供給を終了することが好ましい。
【0047】
重合時間(モノマー原料の重合反応を行う時間をいい、該重合反応を開始させてから系を重合温度に保つ時間として把握され得る。)は、使用する重合開始剤の種類、重合温度、重合開始剤およびモノマー原料の供給態様等に応じて適宜設定することができる。例えば、重合時間を凡そ2時間〜12時間程度とすることができ、生産性等の観点から通常は凡そ4時間〜8時間程度とすることが好ましい。また、モノマー原料の全量を反応容器に供給し終えてから所定時間は反応容器の内容物(反応液)を重合温度に保持する(いわゆる熟成を行う)ことが好ましい。かかる熟成を行うことによって反応液中に残存するモノマーの量を減らし、粘着シートのTVOC量および臭気の低減に寄与することできる。この熟成期間は例えば凡そ30分〜4時間程度とすることができ、生産性等の観点から通常は凡そ1時間〜3時間程度とすることが好ましい。なお、ここでいう重合時間は上記熟成期間を含む。したがって、例えば重合開始剤の全量が仕込まれた反応容器を重合温度に保持してここにモノマー原料の全量を4時間かけて連続的に供給し、該モノマー原料の供給を終えてから2時間に亘り系を引き続き該重合温度に保持して反応液の熟成を行った場合の重合時間は6時間となる。重合温度は重合時間の全期間に亘って一定でもよく、一部の期間と他の期間とで異なってもよい。例えば、所定の重合温度でモノマー原料を供給した後、より高い重合温度で熟成を行ってもよい。
【0048】
ここに開示される方法では、モノマー原料を反応容器に供給し終えてから間隔をあけて、該反応容器の内容物(反応液)に追加の重合開始剤を供給する。このように追加の重合開始剤(以下「追加開始剤」ともいう。)を供給することにより、反応液中に残存するモノマーの量を効率よく減少させる(典型的には、該残存モノマーの重合を促進する)ことができる。その結果、粘着シートのTVOC量および臭気の低減に寄与することができる。使用する追加開始剤は、先にモノマー原料の重合反応に使用された重合開始剤(すなわち、モノマー原料の供給終了前に反応容器に導入された重合開始剤。以下「主開始剤」ともいう。)と同一であってもよく異なってもよい。残存モノマー量の減少を効率よく行い得る追加開始剤として、主開始剤(例えば、アゾ系重合開始剤、過硫酸塩、過酸化物系重合開始剤等から選択される開始剤)よりも半減期温度の低い重合開始剤(例えば、アゾ系重合開始剤、過硫酸塩、過酸化物系重合開始剤等から選択される開始剤)を好ましく用いることができる。また、追加開始剤としてレドックス系重合開始剤を用いることも好ましい。例えば、過酸化物(過酸化水素等)とアスコルビン酸との組み合わせ、過酸化物(過酸化水素等)と鉄(II)塩との組み合わせ、過硫酸塩(過硫酸アンモニウム等)と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ等によるレドックス系重合開始剤を好ましく採用することができる。なかでも、レドックス反応後に余分な残留物を生じないことから、過酸化水素(典型的には、濃度1〜35%程度の過酸化水素水の形態で用いられる。)とアスコルビン酸との組み合わせが好適である。追加開始剤の使用量は特に限定されず、例えばモノマー原料100質量部に対して凡そ0.005〜1質量部程度の範囲から選択することができる。
【0049】
かかる追加開始剤を反応液に供給(添加)する好適なタイミングは、該追加開始剤の種類によっても異なり得る。モノマー原料を反応容器に供給し終えてから間隔をあけて(典型的には凡そ10分〜4時間、例えば凡そ1時間〜3時間程度経過後に)、且つ反応液の冷却を終える前に行うことが好ましい。例えば、熱により分解してラジカルを発生することで残存モノマーを減少させるタイプの追加開始剤(アゾ系重合開始剤、過硫酸塩、過酸化物系重合開始剤等)では、上記熟成期間の途中で(例えば、該熟成期間の凡そ30〜95%が経過した時点で)追加開始剤を添加することが好ましい。また、レドックス系の追加開始剤を使用する場合には、熟成期間の終了前後(例えば、追加開始剤の投入とほぼ同時に冷却を開始する態様)または反応液を冷却する途中で追加開始剤を添加する態様を好ましく採用することができる。このことによって、生産性への影響を抑えつつ残存モノマー量を効果的に減少させることができる。なお、追加開始剤の添加は一度に行ってもよく、連続的にまたは分割して行ってもよい。操作が簡便であることから、追加開始剤を一度に添加する態様を好ましく採用することができる。
【0050】
上記エマルジョン重合においては、上記追加開始剤の使用により残存モノマー量を効率よく減少させ得ることから、重合時間を極端に長くしなくても(例えば、重合時間を凡そ8時間以下としても)、残存モノマー量が十分に低減されたアクリル系ポリマーエマルジョンを得ることができる。かかるアクリル系ポリマーエマルジョンに粘着付与樹脂エマルジョンを配合してなる粘着剤組成物によると、トルエン放散量、TVOC量および臭気不快度の少ない粘着シートが形成され得る。このように極端に長い重合時間の採用を必要としないことは、粘着剤組成物および該組成物を用いて製造される粘着シートの生産性向上の観点から好ましい。
【0051】
ここに開示される粘着剤組成物を構成するアクリル系ポリマーエマルジョンを得るためのエマルジョン重合を行う具体的な態様および使用する粘着付与樹脂エマルジョンは、これらを含む粘着剤組成物を用いて製造される粘着シートにおいて所望のトルエン放散量、TVOC量および臭気不快度試験の結果が満足され得るように(典型的には、上述した条件(a)〜(c)をいずれも満たすように)設定することができる。すなわち、この明細書により開示される発明には、所望の上記条件(a)〜(c)をいずれも満足する粘着シートを形成し得るアクリル系ポリマーエマルジョンおよび粘着付与樹脂エマルジョンを用意(選択)する工程と、上記アクリル系ポリマーエマルジョンおよび粘着付与樹脂エマルジョンを用いて水性エマルジョン型の粘着剤組成物を調製する工程と、該粘着剤組成物を乾燥させて粘着剤層を形成する工程と、を包含する粘着シート製造方法が含まれる。上記アクリル系ポリマーエマルジョンを用意する工程は、上記条件(a)〜(c)をいずれも満足する粘着シートが得られるようなエマルジョン重合態様を選択することと、その選択したエマルジョン重合態様にしたがってモノマー原料のエマルジョン重合を行うこととを包含する。
【0052】
ここに開示される粘着剤組成物に含まれるアクリル系ポリマーエマルジョンは、典型的には、上記のようなエマルジョン重合により調製されたエマルジョン形態の重合物(アクリル系ポリマー)をそのまま用いて調製され得る。また、エマルジョン重合以外の重合方法、例えば溶液重合、光重合、バルク重合等により得られたアクリル系ポリマーを、必要に応じて乳化剤を用いて水に分散させることにより調製されたアクリル系ポリマーエマルジョンであってもよい。上記エマルジョン重合の際や、アクリル系ポリマーを水に分散させる際には、適当な乳化剤を単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができる。
【0053】
具体的には、いずれの形態の乳化剤も使用可能であるが、通常はアニオン系乳化剤および/またはノニオン系乳化剤を好適に用いることができる。アニオン系乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩型アニオン系乳化剤;スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム等のスルホコハク酸型アニオン系乳化剤;等が挙げられる。また、ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー;等のノニオン系乳化剤等が挙げられる。
乳化剤の使用量は、アクリル系ポリマーをエマルジョンの形態に調製することが可能な使用量であれば特に制限されず、例えば、アクリル系ポリマーまたはモノマー原料に対して凡そ0.2〜10質量%(好ましくは凡そ0.5〜5質量%)程度の範囲から選択することができる。
【0054】
ここに開示される技術において粘着剤層の形成に使用される粘着剤組成物における粘着付与樹脂(典型的にはエマルジョンの形態で配合される。)の含有量は特に制限されず、目的とする粘着性能(接着性、端末剥がれ防止性等)に応じて適宜設定することができる。例えば、粘着付与樹脂エマルジョンに含まれる粘着付与樹脂の質量基準として、アクリル系ポリマー100質量部に対して凡そ10〜100質量部(好ましくは凡そ15〜80質量部、より好ましくは凡そ20〜60質量部)の割合で用いることができる。粘着付与樹脂の使用量が少なすぎると、粘着付与樹脂の添加効果が充分に発揮されず、目的とする粘着性能が実現され難くなることがある。また、粘着付与樹脂の使用量が多すぎると、アクリル系ポリマーとの相溶性が不足しやすく、接着性やタックが低下しがちとなることがある。また、粘着シートのトルエン放散量、TVOC量、臭気不快度等の観点からも、粘着付与樹脂の過剰な使用は避けることが望ましい。例えば、該組成物に含まれる不揮発分(固形分)に占めるアクリル系ポリマーの質量が50質量%を超える粘着剤組成物が好ましい。
【0055】
上記粘着剤組成物には、必要に応じて架橋剤が配合されていてもよい。該架橋剤の種類は特に制限されず、公知または慣用の架橋剤(例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アミン系架橋剤等)から適宜選択して用いることができる。油溶性架橋剤、水溶性架橋剤のいずれも使用可能である。架橋剤は単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。架橋剤の使用量は特に制限されず、例えば、アクリル系ポリマー100質量部に対して凡そ10質量部以下(例えば凡そ0.005〜10質量部、好ましくは凡そ0.01〜5質量部)程度の範囲から選択することができる。
【0056】
上記粘着剤組成物は、必要に応じて、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有するものであり得る。該組成物に含有され得る他の任意成分としては、粘度調整剤(増粘剤等)、レベリング剤、剥離調整剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、顔料や染料等の着色剤、界面活性剤、帯電防止剤、防腐剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の、水性粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤が例示される。
【0057】
ここに開示される粘着シートの典型的な構成には、上述のような粘着剤組成物から形成された粘着剤層を支持する支持体が含まれる。かかる支持体は、粘着シートの基材または剥離ライナーであり得る。
粘着シートを構成する基材(典型的にはシート状基材)としては、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等)製フィルム、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)製フィルム、塩化ビニル系樹脂製フィルム、酢酸ビニル系樹脂製フィルム、ポリイミド系樹脂製フィルム、ポリアミド系樹脂製フィルム、フッ素系樹脂製フィルム、その他セロハン類等のプラスチックフィルム類;和紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙、合成紙、トップコート紙等の紙類;綿繊維、スフ、マニラ麻、パルプ、レーヨン、アセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等の天然繊維、半合成繊維または合成繊維の繊維状物質等からなる単独または混紡等の織布や不織布等の布類;天然ゴム、ブチルゴム等からなるゴムシート類;発泡ポリウレタン、発泡ポリクロロプレンゴム等の発泡体からなる発泡体シート類;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;およびこれらの複合体等が挙げられる。前記プラスチックフィルム類は、無延伸タイプであってもよく、延伸タイプ(1軸延伸タイプまたは2軸延伸タイプ)であってもよい。基材は、単層の形態を有していてもよく、積層された形態を有していてもよい。また、基材には、必要に応じて、滑剤、可塑剤、充填剤、顔料や染料等の着色剤、帯電防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の各種添加剤が配合されていてもよい。基材の表面(特に、粘着剤層が設けられる側の表面)には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理等の物理的処理、下塗り処理、背面処理等の化学的処理等の適宜な公知または慣用の表面処理が施されていてもよい。基材の厚さは目的に応じて適宜選択できるが、一般には凡そ10μm〜500μm(好ましくは凡そ10μm〜200μm)程度である。
【0058】
粘着剤層を保護および/または支持する剥離ライナーの材質や構成は特に制限されず、公知の剥離ライナーから適当なものを選択して用いることができる。例えば、基材の少なくとも一方の表面に剥離処理が施された(典型的には、剥離処理剤による剥離処理層が設けられた)構成の剥離ライナーを好適に用いることができる。この種の剥離ライナーを構成する基材(剥離処理対象)としては、粘着シートを構成する基材として上述したものと同様の基材(各種プラスチックフィルム類、紙類、布類、ゴムシート類、発泡体シート類、金属箔、これらの複合体等)を適宜選択して用いることができる。上記剥離処理層を形成する剥離処理剤としては、公知または慣用の剥離処理剤(例えば、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等の剥離処理剤)を用いることができる。
また、フッ素系ポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体等)または低極性ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂等)からなる低接着性の基材を、該基材の表面に剥離処理を施すことなく剥離ライナーとして用いてもよい。あるいは、かかる低接着性基材の表面に剥離処理を施したものを剥離ライナーとして用いてもよい。剥離ライナーを構成する基材や剥離処理層の厚みは特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。剥離ライナーの総厚み(基材表面に剥離処理層を有する構成の剥離ライナーでは、基材および剥離処理層を含む全体の厚さ)は、例えば凡そ15μm以上(典型的には凡そ15μm〜500μm)であることが好ましく、凡そ25μm〜500μmであることがより好ましい。
【0059】
ここに開示される技術における粘着剤層は、典型的には、上述のような成分(アクリル系ポリマーエマルジョンおよび粘着付与樹脂エマルジョンの他、必要に応じて配合される各種添加剤等を含み得る。)を所定の量比で混合することにより調製された水性エマルジョン型アクリル系粘着剤組成物を、所定の面上(基材、剥離ライナー、工程紙等の表面であり得る。)に付与して乾燥させることにより形成することができる。粘着剤組成物の付与(典型的には塗布)に際しては、慣用のコーター(例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等)を用いることができる。特に限定するものではないが、乾燥後に形成される粘着剤層の厚み(両面粘着シートの場合には基材の片面に形成される粘着剤層の厚み)は、例えば凡そ2μm〜150μm(好ましくは凡そ5μm〜100μm)の範囲から選択することができる。該粘着剤層の厚みが例えば凡そ20μm〜150μm(典型的には凡そ40μm〜100μm)であってもよい。なお、基材付き粘着シートの場合、基材に直接粘着剤組成物を付与して粘着剤層を形成してもよく、剥離ライナー上に形成した粘着剤層を基材に転写してもよい。
【0060】
上記所定の面上に付与された粘着剤組成物の乾燥は、架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、加熱下で行うことが好ましい。このときの加熱条件(乾燥条件)としては、被塗布物の材質や乾燥後に形成される粘着剤層の厚み(粘着剤組成物の塗布厚)にもよるが、例えば凡そ40℃〜120℃程度の乾燥温度を採用することができる。また、乾燥時間は例えば30秒〜5分程度とすることができる。
【0061】
本発明の好適な態様によると、上記粘着剤組成物の乾燥を凡そ110℃以下の温度(例えば凡そ60℃〜110℃、好ましくは凡そ80℃〜110℃)で行ってなる粘着剤層を備える粘着シートであって且つ上記条件(a)〜(c)をいずれも満たす粘着シート(上記粘着剤層を不織布等の基材の両面に設けてなる両面粘着シートであり得る)およびその製造方法が提供され得る。このように比較的低い乾燥温度を採用し得ることは、過度の高温加熱による粘着性能の低下や粘着剤組成物の発泡による粘着面の荒れを防止し得る(その結果として、より粘着性能に優れた粘着シートが製造され得る)こと、および、粘着剤組成物の被塗布物(基材、剥離ライナー、工程紙等)をより広範な材料のなかから選択し得る(例えば、比較的耐熱性の低い材料をも選択し得る)ことから好ましい。
【0062】
また、本発明の好適な態様によると、上記粘着剤組成物の乾燥を凡そ3分以下(例えば凡そ1.5分〜2.5分)の時間で行って形成された粘着剤層を備える粘着シートであって且つ上記条件(a)〜(c)をいずれも満たす粘着シートおよびその製造方法が提供され得る。このように比較的短い乾燥時間を採用し得ることは、粘着シートの生産性向上の観点から好ましい。また、過度に長時間の加熱による粘着性能の低下を防止し得る(したがって、より粘着性能に優れた粘着シートが製造され得る)という観点からも好ましい。例えば、粘着剤組成物を120℃で5分間乾燥させてなる粘着剤層を備える粘着シートに比べて、同じ組成物を110℃で2分間乾燥させてなる粘着剤層を備える粘着シートによると、より高い粘着性能が実現され得る。
【0063】
また、本発明の好適な態様によると、乾燥後に形成される粘着剤層の厚さが凡そ40μm以上(典型的には凡そ40μm〜100μm、例えば凡そ50μm〜70μm)であり、且つ上記のように比較的低い乾燥温度および/または比較的短い乾燥時間で粘着剤組成物を乾燥させてなる粘着剤層を備える粘着シートであって、上記条件(a)〜(c)をいずれも満たす粘着シートおよびその製造方法が提供され得る。このように比較的厚い粘着剤層を比較的低い乾燥温度および/または比較的短い乾燥時間で形成することによって、より粘着性能に優れた粘着シートが製造され得る。
これら好適な態様に係る粘着シートが形成されるように、アクリル系ポリマーエマルジョンの重合態様(例えば、追加開始剤の種類や添加タイミング)の設定および使用する粘着付与樹脂エマルジョンの選択を行うことが好ましい。
【0064】
本発明の好適な態様によると、粘着シート1g当たり粘着剤0.03g〜1g(典型的には0.16g〜1g、例えば0.5g〜1gであり、0.8g〜1gであってもよい。)を含み、且つ上記条件(a)〜(c)をいずれも満たす粘着シート(例えば両面粘着シート)およびその製造方法が提供され得る。ここに開示される技術によると、このように単位質量および/または単位面積当たりに含まれる粘着剤量が多くても、所望の目標特性(トルエン放散量、TVOC量、臭気不快度)を満足する粘着シートが実現され得る。かかる粘着シート(例えば両面粘着シート)は、下記実施例に記載の方法により測定される剥離強度が凡そ10N/20mm以上であり、且つ端末剥がれ高さ(端末剥がれ距離)が凡そ5mm以下であるという粘着性能を満足するものであり得る。
【0065】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0066】
<例1>
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート(重合開始剤)(和光純薬工業株式会社から入手可能な商品名「VA−057」を使用した。)0.1部およびイオン交換水35部を投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌して60℃に昇温した。該重合温度(ここでは60℃)を維持しつつ、ここにブチルアクリレート90部、2−エチルヘキシルアクリレート10部、アクリル酸4部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2部をイオン交換水40部に添加して乳化したもの(すなわち、モノマー原料のエマルジョン)を4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマー原料エマルジョンの滴下終了後、さらに2時間同温度(ここでは60℃)に保持して熟成した。熟成終了後、アスコルビン酸0.1部および35%過酸化水素水0.1部(追加の重合開始剤)を添加して、系を常温まで冷却した。このようにしてアクリル系ポリマーを含む反応混合物を得た。
上記反応混合物に10%アンモニウム水を添加して液性をpH7に調整し、次いでオキサゾリン系架橋剤(日本触媒化学工業株式会社から入手可能な商品名「エポクロス(商標)WS−700」、オキサゾリン基含有ポリマーの水溶液)を固形分基準で0.7部添加して、例1に係るアクリル系ポリマーの水分散液(エマルジョン)を得た。
【0067】
上記アクリル系ポリマーエマルジョンに対し、該エマルジョンに含まれるアクリル系ポリマー100部当たり30部(固形分基準)の割合で粘着付与樹脂エマルジョンを添加して、例1に係る粘着剤組成物を調製した。上記粘着付与樹脂エマルジョンとしては、商品名「SK−253NS」(ハリマ化成株式会社製、軟化点145℃の重合ロジン系樹脂の水性エマルジョン)を使用した。なお、商品名「SK−253NS」は、有機溶剤を実質上全く用いずに製造された粘着付与樹脂エマルジョンである。
【0068】
上質紙をシリコーン系剥離剤で処理してなる剥離ライナーに上記粘着剤組成物を塗布した。これを100℃で2分間乾燥することにより、該剥離ライナー上に厚さ60μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層を不織布基材(商品名「SP原紙−14」、大福製紙株式会社製、坪量14g/m2、厚さ42μm、嵩密度0.33g/cm3のパルプ系不織布)の両面に貼り合わせて、例1に係る粘着シート(両面粘着シート)を作製した。この両面粘着シートの両粘着面は、該粘着シートの作製に使用した剥離ライナーによってそのまま保護されている。
【0069】
<例2>
本例では、例1に係るアクリル系ポリマーエマルジョンに添加する粘着付与樹脂エマルジョンとして商品名「タマノルE−200−NT」(荒川化学株式会社製、軟化点150℃のロジンフェノール系樹脂の水性エマルジョン)を、該エマルジョンに含まれるアクリル系ポリマー100部当たり30部(固形分基準)の割合で使用した。その他の点については例1と同様にして、例2に係る両面粘着シートを作製した。なお、商品名「タマノルE−200−NT」は、脂環式炭化水素系有機溶剤(すなわち、非芳香族炭化水素系有機溶剤)を用いて製造された粘着付与樹脂エマルジョンである。
【0070】
<例3>
本例では、モノマー原料のエマルジョンとして、ブチルアクリレート40部、2−エチルヘキシルアクリレート60部、メチルアクリレート3部、アクリル酸3部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社から入手可能な商品名「KBM−503」を使用した。)0.06部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム2部をイオン交換水40部に添加して乳化したものを使用した。また、オキサゾリン系架橋剤は使用しなかった。その他の点については例1と同様にして、例3に係るアクリル系ポリマーエマルジョンを得た。
このアクリル系ポリマーエマルジョンに対し、該エマルジョンに含まれるアクリル系ポリマー100部当たり30部(固形分基準)の割合で商品名「SK−253NS」を添加して例3に係る粘着剤組成物を調製し、該粘着剤組成物を用いて例1と同様に両面粘着シートを作製した。
【0071】
<例4>
本例では、アクリル系ポリマーエマルジョンに粘着付与樹脂エマルジョンを添加しない点を除いては例1と同様にして粘着剤組成物を調製した。この粘着剤組成物を用いて例1と同様に両面粘着シート(すなわち、粘着付与樹脂を含まない粘着剤層を備える粘着シート)を作製した。
【0072】
<例5>
本例では、モノマー原料のエマルジョンとして、ブチルアクリレート80部、2−エチルヘキシルアクリレート20部、メチルアクリレート3部、アクリル酸2部、ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.05部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム2部をイオン交換水40部に添加して乳化したものを使用した。冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)]プロパン(重合開始剤)(和光純薬工業株式会社から入手可能な商品名「VA−061」を使用した。)0.1部およびイオン交換水35部を投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌して60℃に昇温した。該重合温度(ここでは60℃)を維持しつつ、上記モノマー原料のエマルジョンを4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマー原料エマルジョンの滴下終了後、さらに2時間同温度(ここでは60℃)に保持して熟成した。熟成終了後、追加の重合開始剤を添加することなく系を常温まで冷却した。このようにしてアクリル系ポリマーを含む反応混合物を得た。該混合物を用いた点以外は例1と同様にして(すなわち、オキサゾリン系架橋剤および粘着付与樹脂としての商品名「SK−253NS」を添加して)、例5に係る両面粘着シートを作製した。
【0073】
<例6>
本例では、例1に係るアクリル系ポリマーエマルジョンに添加する粘着付与樹脂エマルジョンとして商品名「タマノルE−200」(荒川化学株式会社製、軟化点150℃のロジンフェノール系樹脂のエマルジョン)を、該エマルジョンに含まれるアクリル系ポリマー100部当たり30部(固形分基準)の割合で使用した。その他の点については例1と同様にして、例6に係る両面粘着シートを作製した。なお、商品名「タマノルE−200」は、芳香族炭化水素系有機溶剤を用いて製造された粘着付与樹脂エマルジョンである。
【0074】
例1〜6に係る両面粘着シートにつき、上述した方法により、該粘着シート1g当たりのトルエン放散量およびTVOC量を測定した。なお、例1〜6に係る両面粘着シート1gには約0.91gの粘着剤が含まれる。
また、例1〜6に係る両面粘着シートにつき、上述した方法により、臭気不快度試験を行った。パネラーの人数は10人とし、一種類の試料につき5個の測定ガス容器および同数の対照ガス容器を用意した。なお、例1〜6に係る両面粘着シート10cmには約1.6gの粘着剤が含まれる。
さらに、例1〜6に係る両面粘着シートの接着性および端末剥がれ防止性を以下の方法により評価した。得られた結果を、各例に係る粘着シートの製造に使用した粘着剤組成物の概略構成(追加開始剤使用の有無、使用した粘着付与樹脂エマルジョンの商品名)とともに表1に示す。表中の「におい低減効果」の欄には、対照ガスよりも測定ガスのほうが臭気不快度が低いと判定したパネラーの人数を示している。
【0075】
[剥離強度測定]
両面粘着シートの一面を覆う剥離ライナーを剥がして粘着剤層を露出させ、これを厚さ25μmのPETフィルムに貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットして試験片を作製した。上記試験片の他面から剥離ライナーを剥がし、該試験片を被着体としてのSUS304ステンレス板に、2kgのローラを1往復させる方法で圧着した。これを23℃に30分間放置した後、JIS Z0237に準じ、温度23℃、相対湿度50%の測定環境下、引張試験機を使用して引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件で剥離強度(N/20mm幅)を測定した。
【0076】
[端末剥がれ試験]
両面粘着シートの一面を覆う剥離ライナーを剥がして粘着剤層を露出させ、これを厚さ0.5mm、幅10mm、長さ90mmのアルミニウム板に貼り合わせて試験片を作製した。その試験片の長手方向をφ50mmの丸棒に沿わせて弧状に曲げた後、該試験片の他面から剥離ライナーを剥がし、ラミネータを用いてポリプロピレン板に圧着した。これを23℃の環境下に24時間放置し、次いで70℃で2時間加温した後に、ポリプロピレン板表面から浮きあがった試験片端部の高さ(mm)を測定した。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に示されるように、アクリル系ポリマーエマルジョンの製造において追加開始剤(ここではレドックス系重合開始剤)の添加を行い、且つ有機溶剤を実質上全く用いないかあるいは非芳香族炭化水素系有機溶剤のみを用いて製造された粘着付与樹脂エマルジョンを配合した例1〜例3に係る粘着剤組成物によると、110℃で2分間という比較的穏やかな乾燥条件にも拘らず、上記条件(a)〜(c)をいずれも満たす粘着シートが得られた。より具体的には、トルエン放散量が5μg/gであり、TVOC量が150μg/gであり、且つ臭気不快度試験に合格する(すなわち、パネラーの9割以上が対照ガスよりも測定ガスの不快度が低いと判定する)粘着シートが得られた。これらの粘着シートは粘着性能にも優れていた。例2に係る粘着シートは、例1,3に比べてTVOC量は高いものの所定の目標値は満たしており、しかも実際に感じる臭気不快度は例1,3とほぼ同程度に低く、そして例1,3よりも更に高い粘着性能を示すものであった。
一方、粘着付与樹脂エマルジョンを配合しない例4に係る粘着剤組成物を用いて得られた粘着シートは粘着性能の低いものであった。また、追加開始剤の添加を省略したアクリル系ポリマーエマルジョンを用いてなる例5に係る粘着剤組成物から形成された粘着シートは臭気不快度が高く、TVOC量も多かった。また、芳香族系炭化水素系有機溶剤を用いて製造された粘着付与樹脂エマルジョンを配合した例6に係る粘着剤組成物を用いた粘着シートはトルエン放散量が明らかに多く、臭気不快度も高めであった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上に説明したとおり、本発明によると、トルエン放散量およびTVOC量がいずれも所定の目標値以下であって、且つ不快臭の少ない粘着シートが提供され得る。かかる粘着シートは、ここに開示されるいずれかの製造方法を適用して好ましく製造することができる。本発明に係る粘着シートは、上記特性を活かして、該粘着シートが閉空間で使用される用途、例えば車両内装材等の車両(典型的には自動車)用材料や住宅建材等の住宅用材料を固定する用途に好ましく利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る粘着シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1:基材
2:粘着剤層
3:剥離ライナー
11,12,13,14,15,16:粘着シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリマーの水性エマルジョンと粘着付与樹脂の水性エマルジョンとを含む感圧接着剤組成物を用いて形成された感圧接着剤層を有する感圧接着シートであって、
以下の条件:
80℃で30分間加熱したときのトルエン放散量が感圧接着シート1g当たり20μg以下である;
80℃で30分間加熱したときの総揮発性有機化合物量が感圧接着シート1g当たり150μg以下である;および、
温度23℃、相対湿度50%の条件下において感圧接着シート10cmから24時間のあいだに放散した臭気物質を容積900cmの空気中に含む測定ガスと、同容積の空気中に0.05gのトルエンを含む対照ガスと、の臭気不快度を比較する官能試験において、パネラーの9割以上が前記対照ガスよりも前記測定ガスのほうが不快度が低いと判定する;
をいずれも満たすことを特徴とする、感圧接着シート。
【請求項2】
前記粘着付与樹脂エマルジョンは軟化点120℃以上の粘着付与樹脂の水性エマルジョンであり、該粘着付与樹脂エマルジョンは芳香族炭化水素系溶剤を実質的に使用することなく調製されたエマルジョンである、請求項1に記載の感圧接着シート。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂エマルジョンは、有機溶剤を実質的に使用することなく調製されたエマルジョンである、請求項1または2に記載の感圧接着シート。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の感圧接着シートを製造する方法であって:
アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとするモノマー原料をエマルジョン重合に付して前記アクリル系ポリマーの水性エマルジョンを得ること;
該アクリル系ポリマーエマルジョンと前記粘着付与樹脂の水性エマルジョンとを混合して前記感圧接着剤組成物を調製すること;および、
その感圧接着剤組成物を乾燥させて前記感圧接着剤層を形成すること;
を包含し、
ここで、前記エマルジョン重合は、以下の条件:
重合開始剤を有する反応容器に前記モノマー原料を供給して常温よりも高い重合温度に維持することにより該モノマー原料の重合反応を行い、次いでその反応液を前記重合温度から常温まで冷却する;および、
前記モノマー原料を前記反応容器に供給し終えてから間隔をあけて、前記反応液に追加の重合開始剤を供給する;
をいずれも満たすように行われる、感圧接着シート製造方法。
【請求項5】
前記追加の重合開始剤は、先にモノマー原料の重合反応に使用された重合開始剤よりも半減期温度の低い重合開始剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記追加の重合開始剤はレドックス系開始剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記レドックス系開始剤が過酸化水素とアスコルビン酸との組み合わせである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記感圧接着剤組成物の乾燥を110℃以下の温度で行う、請求項4から7のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−249497(P2009−249497A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99170(P2008−99170)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】