説明

感圧複写材料

【課題】発色剤の溶解性に優れ、臭気が少なく、毒性を有さず、かつ感圧複写材料の発色剤の溶剤として優れた特性を有する感圧複写紙用発色剤を提供する。
【解決手段】1−フェニル−1−エチルフェニルエタン(PEPE)、1−フェニル−1−キシリルエタン(PXE)および1,1−ジフェニルエタン(1,1−DPE)の混合物を含有してなる発色剤溶剤であって、1,1−DPEの含有量が0.1質量%以上25質量%以下であることを特徴とする感圧複写紙用発色剤用溶剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は感圧複写材料、特に感圧複写紙用に用いる電子供与性発色剤(以下「発色剤」という)の溶剤に関する。さらに詳しくは、従来のジアリールアルカンからなる発色剤溶剤が有する問題点を解決し、発色剤の溶解性や発色性能に優れ、かつ、汚れ現像、および顕色剤のカプセル塗布面への移行現象が少ない優れた性能を有する感圧複写紙用発色剤の溶剤(以下「発色剤用溶剤」という)を提供することを目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、無色あるいは淡色の発色剤を溶液の形でマイクロカプセル皮膜内に内蔵させて紙の一面に塗布し、他の紙のこれと対向する面に、該発色剤と反応して発色させる性質を有する粘土又は高分子材料などの電子受容性物質(以下「顕色剤」という)を塗布し、使用する際にはこれらの各塗布面を対向して重ね合わせ、圧力により複写記録をとる形式の感圧複写材料、例えば感圧複写紙が知られていた。
【0003】
この種の感圧複写材料の複写記録機構は、筆圧、タイプ圧力等の圧力によりマイクロカプセル皮膜が裂開され、マイクロカプセル内部に存在していた、発色剤を含む発色剤溶液が放出され、対向して設置された紙の表面に塗布された、粘土又は高分子材料などの顕色剤と接触して発色するものである。
【0004】
また、このような発色機構を有する各塗布層を、1枚の紙の片面にマイクロカプセル層を内層として、粘土又は高分子重合体層を外層として各々積層塗布した複写紙、所謂セルフコンテインド感圧複写紙が知られている。この複写紙の発色機構も筆圧、タイプ圧力等によってマイクロカプセル皮膜が裂開され、マイクロカプセル内部に存在していた発色剤含む発色剤溶液が放出され、外層に塗布されている粘土又は高分子材料と接触して発色するものである。
【0005】
これらの感圧複写材料に使用される発色剤溶液は、電子供与性の無色の発色剤を疎水性の発色剤溶剤の1種又は2種以上に溶解した溶液である。ここで用いられる疎水性の発色剤溶剤は以下の要件を備えていることが要求される。
【0006】
すなわち、毒性がないこと、不快臭がないこと、溶剤それ自身の色がないかごく淡色であること、不揮発性であること、発色剤染料の溶解性が良いこと、染料を溶解した溶液の安定性が良好であること、マイクロカプセル化に際し安定な微小分散体になること、マイクロカプセル皮膜を当該分散体上に形成し得ること、マイクロカプセルの貯蔵安定性があること、マイクロカプセルを被塗布材料上に均一にかつ所望の厚さに被覆できること、発色剤が粘土又は高分子材料などの顕色剤と接触して行われる発色反応を妨げずかつ発色速度が速いこと、発色剤溶液がカプセル壁から滲出し、複写記録を行う前に顕色剤と接触して発色する所謂スマッジ現象が生じないこと、複写記録を行う際に顕色剤がカプセル塗布面に移行してカプセル塗布面で発色する所謂裏面発色の現象を生じないこと、更には顕色剤として高分子材料を用いる時はその高分子材料を溶解して発色剤との接触を密にすること、複写像が滲みなくかつ鮮明であること、および長期保存後でも鮮明な複写像が得られる等である。
【0007】
従来、この種の感圧複写材料の発色剤の溶剤として、フェニルキシリルエタン、フェニル−イソプロピルフェニルエタン、フェニルキシリルメタンなどのジアリールアルカン、ジイソプロピルナフタレンなどのアルキルナフタレン、イソプロピルビフェニル、sec−ブチルビフェニルなどのアルキルビフェニル、および部分水素化ターフェニルなどが知られ、工業的にも使用されている(特許文献1〜3)。
【0008】
これらの中でジアリールアルカンは優れた溶剤であり、その中でも1−フェニル−1−エチルフェニルエタン(以下「PEPE」という)と1−フェニル−1−キシリルエタン(以下「PXE」という)の混合物からなる発色剤溶剤は、無色透明の液体であり、不快臭が無く、カプセル化も容易であり、これを用いて製造した感圧複写紙は発色速度が大きい、スマッジ現象も生じない、などの優れた特性を有し広く用いられている(特許文献1〜3)。
ところで、前記したように発色剤の溶剤には高い発色剤溶解度が要求される。その理由は、溶解度が大きいほど高濃度の発色剤溶液を製造することが可能になり、そのような高濃度の発色剤溶液を用いて製造したマイクロカプセルは、少量の塗布で高い発色濃度を得ることが出来、その結果、感圧複写紙の製造コストの低減が可能になる。また、高濃度で発色剤溶液を製造できれば、それを希釈して所望の濃度を有する発色剤溶液を製造できる。その結果、発色剤の溶解作業の頻度を少なく出来るので作業効率の面で有利である。また、溶解度が高いほど、発色剤の再結晶化による、マイクロカプセル製造設備の配管閉塞などの危険性を回避できる、などである。
しかしながら、従来用いられてきたPEPEとPXEの混合物からなる溶剤は、これら溶解性に関する要求を満たすものではなく、さらに溶解性の優れた発色剤用溶剤の開発が待たれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−12389号公報
【特許文献2】特開昭63−168383号公報
【特許文献3】特開平07−214896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は従来のPEPEとPXEの混合物からなる発色剤溶剤の有する上記のような欠点を解決し、発色剤の溶解性に優れ、臭気が少なく、毒性を有さずかつ感圧複写材料の発色剤の溶剤として優れた特性を有する新規な溶剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、PEPEとPXEの混合物に、1,1−ジフェニルエタン(以下「1,1−DPE」という)を配合することにより発色剤の溶解量を大きく向上できるとの知見を得た。そして、このような知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、1−フェニル−1−エチルフェニルエタン(PEPE)、1−フェニル−1−キシリルエタン(PXE)および1,1−ジフェニルエタン(1,1−DPE)の混合物を含有してなる発色剤溶剤であって、1,1−DPEの含有量が0.1質量%以上25質量%以下であることを特徴とする感圧複写紙用発色剤用溶剤である。
【0013】
また本発明は、1−フェニル−1−エチルフェニルエタン(PEPE)の含有量が0.1〜70質量%であり、1−フェニル−1−キシリルエタン(PXE)の含有量が5〜99.8質量%であることを特徴とする前記記載の感圧複写紙用発色剤用溶剤である。
【0014】
また本発明は、1−フェニル−1−エチルフェニルエタン(PEPE)、1−フェニル−1−キシリルエタン(PXE)および1,1−ジフェニルエタン(1,1−DPE)の含有量が90質量%以上であることを特徴とする前記記載の感圧複写紙用発色剤用溶剤である。
【0015】
また本発明は、1−フェニル−1−エチルフェニルエタン(PEPE)と1−フェニル−1−キシリルエタン(PXE)が、スチレンと炭素数8のアルキルベンゼンを含む炭化水素を原料として固体酸触媒の存在下、液相、150〜250℃の温度で反応させて得られたものであることを特徴とする前記記載の感圧複写紙用発色剤用溶剤である。
【0016】
また本発明は、前記記載の発色剤用溶剤に発色剤を溶解させてなる感圧複写材料である。
【0017】
また本発明は、発色剤がクリスタルバイオレットラクトンであること特徴とする前記記載の感圧複写材料である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の溶剤を用いれば、感圧複写紙を製造する際において、高濃度の発色剤溶液を準備できる。その結果、高濃度の発色剤溶液を内包したマイクロカプセルを製造できることにより、少ない塗布量で高い発色性能を得ることが可能になり、低コストで感圧複写紙を製造することができる。また、本発明の溶剤を用いた発色剤溶液は安定であり、装置内で発色剤が再結晶することによる配管の閉塞などの障害を起こすことがない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明の溶剤は、1−フェニル−1−エチルフェニルエタン(PEPE)、1−フェニル−1−キシリルエタン(PXE)および1,1−ジフェニルエタン(1,1−DPE)の混合物からなり、1,1−DPEの含有量が0.1質量%以上25質量%以下であることを特徴とする感圧複写紙用発色剤用溶剤である。
PEPE、PXEおよび1,1−DPEは、それぞれ下記式(1)、式(2)および式(3)で表される化合物である。
【0020】
【化1】

【0021】
本発明の発色剤用溶剤における1,1−DPEの含有割合は、溶剤全量基準で0.1質量%以上25質量%以下であることが必要である。好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。また、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。1,1−DPEの含有割合が25質量%を超えると、臭気が悪くなる。あるいは発色剤用溶剤の粘度が下がり、マイクロカプセルの成形性加工が低下して破裂しやすくなる等の問題が生じる。好ましい発色剤用溶剤の動粘度は、4.5mm/S以上である。
【0022】
本発明の発色剤用溶剤において、PEPEとPXEの合計の含有割合は溶剤全量基準で75〜99.9質量%である。75質量%に満たない場合は、臭気の優位性あるいはマイクロカプセルの成形加工性が低下する。このうち、PEPEの含有割合は溶剤全量基準で0.1〜70質量%であり、好ましくは1〜50質量%である。PEPEの含有量が70質量%を超えると耐スマッジ性が低下する。一方、PXEの含有割合は溶剤全量基準で5〜99.8質量%であり、好ましくは10〜99質量%、より好ましくは30〜98質量%である。PXEの含有割合が5質量%に満たない場合は、臭気あるいは耐スマッジ性に問題を生じる。
【0023】
なお、本発明で言うPXEとは、1−フェニル−1−オルソキシリルエタン(以下「POXE」という)、1−フェニル−1−メタキシリルエタン(以下「PMXE」という)及び1−フェニル−1−パラキシリルエタン(以下「PPXE」という)から選ばれる1種又は2種以上の混合物を含む総称である。本発明においてはPXEに占めるPOXEとPMXEの合計の含有割合が30質量%以上であるものが好ましく、より好ましくは50質量%以上である。この割合が30質量%に満たない場合は、発色剤の溶解度が低下するため好ましくない。
【0024】
本発明の発色剤用溶剤の製造法については特に制限はないが、PEPE、POXE、PMXE、PPXE、1,1−DPEをそれぞれ個別に製造して、所定の割合で配合する方法が挙げられる。当然のことながら、配合に際しては不純物をできるだけ除去しておくのが好ましい。
また、PEPEとPXEの混合物を製造し、1,1−DPEを配合する方法も採用することができる。PEPEとPXEの混合物は、前記のようにそれぞれ別個に製造したものを所定の割合で混合したものでも良いが、炭素数8のアルキルベンゼンの混合物を反応させて製造することも可能である。炭素数8のアルキルベンゼンの混合物は、工業的に入手できる所謂混合キシレンといった、エチルベンゼンと、オルソ、メタ、パラキシレンの3種のキシレン異性体を含むものが好ましく用いられる。混合キシレンを用いて製造する場合には、本発明の溶剤の組成が達成できるように混合キシレン中のエチルベンゼン及びキシレン異性体の組成を調整することが望ましい。
【0025】
本発明においては、炭素数8のアルキルベンゼンの混合物とスチレンを反応させて混合キシレンを得る際の酸触媒としては固体酸触媒が用いられる。硫酸やリン酸などの液体酸触媒は、廃棄物処理の問題があるため好ましくない。
【0026】
ところで、上記のようにスチレンと炭素数8のアルキルベンゼンを酸触媒存在下で反応させてPEPEおよびPXEからなる混合物を製造すると、目的成分であるPEPEおよびPXEの他に各種の副生物が生成する。そのような副生物としては例えば、スチレンが二量化して生成するスチレン二量体や三量化して生成するスチレン三量体、エチル基などのアルキル基の移動により生成するジフェニルエタン、前記した炭素数8のアルキルベンゼンに含まれる不純物に由来するフェニルトルイルエタン、炭素数8のアルキルベンゼンにスチレンが2個付加した生成物などが挙げられる。これらの副生物は、スチレンと炭素数8のアルキルベンゼンを酸触媒存在下で反応させた後に、PEPEおよびPXEを蒸留分離する際に完全に取り除かれず、本発明の発色剤用溶剤に混入してくる可能性がある。特にスチレンの二量体はPEPEあるいはPXEと沸点が近接しており、蒸留での分離が困難である。また同様にスチレンとベンゼンを酸触媒存在下で反応させて1,1−DPEを製造すると、目的成分である1,1−DPEの他に各種の副生物が生成する。そのような副生物としては例えば、スチレンが二量化して生成するスチレン二量体や三量化して生成するスチレン三量体、エチル基のアルキル基の移動により生成する1,2−ジフェニルエタンなどが挙げられる。これらの副生物は、スチレンとベンゼンを酸触媒存在下で反応させた後に、1,1−DPEを蒸留分離する際に完全に取り除かれず、本発明の発色剤用溶剤に混入してくる可能性がある。
【0027】
本発明のPEPE、PXEおよび1,1−DPEを含む発色剤溶剤は、上述のように副生物が混入する場合においても、PEPE、PXEおよび1,1−DPEの合計含有量は90質量%以上であることが望ましく、96質量%以上が更に好ましく、99質量%以上が最も好ましい。合計含有量が90質量%に満たない場合、上記した副生物がスチレンの二量体である場合には臭気が強いという弊害が生ずる可能性が有る。当該副生物がスチレンの三量体や、炭素数8のアルキルベンゼンおよびベンゼンにスチレンが2個付加した化合物(以下「三環芳香族炭化水素」という)或いは、炭素数8のアルキルベンゼンに含まれる可能性が有る炭素数9のアルキルベンゼンにスチレンが付加したような、PEPEおよびPXEよりも高沸点成分の場合、発色剤の溶解性が低下したり、これを用いて製造した感圧複写紙の発色速度が低下するという弊害が生ずる可能性がある。
【0028】
なお、上記の副生物は本発明の発色剤用溶剤中においては不純物であり、その全含有量は、溶剤組成物中で10質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが最も好ましい。これら不純物の含有量は、PEPE、PXEおよび1,1−DPEを製造する際のスチレンや炭素数8のアルキルベンゼンおよびベンゼンの純度、あるいは後述のPEPE、PXEおよび1,1−DPEを得る反応条件および蒸留精製条件により副生物の発生量、目的とする溶剤成分中の混入(残存)量をコントロールすることにより制御することが可能となる。
【0029】
スチレンと炭素数8のアルキルベンゼン、あるいはスチレンとベンゼンを固体酸触媒存在下で反応させて、それぞれPEPEとPXEの混合物、あるいは1,1−DPEを製造する際の好ましい反応温度は150℃以上250℃以下である。反応温度が150℃を下回る場合は固体酸触媒の活性が不十分となりスチレンが未反応で残る。また、250℃を超える温度ではスチレンの反応は完全に進行するが、生成したPEPE、PXEおよび1,1−DPEが分解するおそれがある。
【0030】
固体酸触媒存在下のスチレンと炭素数8のアルキルベンゼンの反応、あるいはスチレンとベンゼンの反応は液相で行われることが好ましい。気相ではスチレンの熱重合などの副反応が起きやすい。反応器内が液相に保たれる限り、反応圧力に制約はない。
また、反応器の形式についても特に制約は無いが、固定相反応器に成型した固体酸触媒を充填し原料を連続的に供給する所謂固定相流通式反応器が好ましく用いられる。この際、反応器を2段にして、1段目の反応器で残存したスチレンを完全に反応させる方式、あるいはスチレンの二量化あるいは三量化を抑えるために反応器出口から得られた反応液を反応器入口に循環して供給原料中のスチレン濃度を低下させる、所謂ローカルリサイクル方式も好ましく用いられる。
【0031】
固体酸触媒としては特に制限は無いが、シリカアルミナ、合成アルミノシリケート(合成ゼオライト)などが好ましく用いられる。
【0032】
本発明において発色剤として使用される電子供与性物質は、常温において無色または淡色であり、加熱下に電子受容性物質と反応して発色する物質である。例えば、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド(CVL)、3,3−ビス−(p−ジメチルアミノフェニル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(1,2−ジメチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス−(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス−(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−6−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス−(9−エチルカルバゾール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス−(2−フェニルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3−p−ジメチルアミノフェニル−3−(1−メチルピロール−2−イル)−6−ジメチル−アミノフタリド等のトリフェニルメタン系化合物;4,4′−ビス−ジメチルアミノベンズヒドリンベンジルエーテル、N−ハロフェニル−ロイコオーラミン、N−2,4,5−トリクロロフェニルロイコオーラミン等のジフェニルメタン系化合物;ローダミン−B−アニリノラクタム、ローダミン−(p−ニトロアニリノ)ラクタム、ローダミンB−(p−クロロアニリノ)ラクタム、7−ジメチルアミノ−2−メトキシフルオラン、7−ジエチルアミノ−2−メトキシフルオラン、7−ジエチルアミノ−3−メトキシフルオラン、7−ジエチルアミノ−3−クロロフルオラン、7−ジエチルアミノ−3−クロロ−2−メチルフルオラン、7−ジエチルアミノ−2,3−ジメチルフルオラン、7−ジエチルアミノ−(3−アセチルメチルアミノ)フルオラン、7−ジエチルアミノ−(3−メチルアミノ)フルオラン、3,7−ジエチルアミノフルオラン、7−ジエチルアミノ−3−(ジベンジルアミノ)フルオラン、7−ジエチルアミノ−3−(メチルベンジルアミノ)フルオラン、7−ジエチルアミノ−3−(クロロエチルメチルアミノ)フルオラン、7−ジエチルアミノ−3−(ジエチルアミノ)フルオラン、2−フェニルアミノ−3−メチル−6−(N−エチル−N−p−トリル)−アミノ−フルオラン等のフルオラン系化合物;ベンゾイルロイコメチレンブルー、p−ニトロベンジルロイコメチレンブルー等のチアジン系化合物;さらに3−メチル−スピロ−ジナフトピラン、3−エチル−スピロ−ジナフトピラン、3,3’−ジクロロ−スピロ−ジナフトピラン、3−ベンジル−スピロ−ジナフトピラン、3−メチル−ナフト−(3−メトキシベンゾ)−スピロピラン、3−プロピル−スピロ−ジベンゾピラン等のスピロ系化合物等、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。本発明の溶剤を用いて発色剤溶液を製造する場合、これら発色剤の何れをも用いることが出来る。
【0033】
これら発色剤の中ではクリスタルバイオレットラクトン(CVL)が好ましく用いられる。クリスタルバイオレットラクトンは純度が90質量%以上、98質量%以下であることが好ましい。純度が90質量%に満たない場合には発色に有効な成分が少なくなるために、感圧複写紙にマイクロカプセル化した発色剤を塗布する場合、所望の発色濃度を得るために塗布量を多くしなければならないなどの問題が生ずる。また、純度が98質量%を超える場合には、発色剤が再結晶化しやい傾向があるため好ましくない。
【0034】
該発色剤は、本発明の発色剤用溶剤に溶解させて用いるが、その溶解量は、得られる感圧複写紙に要求される発色濃度に応じて任意に選択できる。該発色剤は、本発明の発色剤用溶剤を使用することにより高濃度の発色剤溶液を調製することができ、これを内包したマイクロカプセルは、少ない塗布量で高い発色性能を得ることが可能となる。また、発色剤溶液の安定性が向上し、装置内で発色剤が再結晶することによる配管の閉塞などの障害を起こすことがない。溶解量は使用する条件によって異なるが、通常は0.5〜25質量%程度である。本発明の発色剤用溶剤は、発色剤を高濃度で溶解できることが特徴であり、CVLの溶解量は、100℃で13.0質量%以上であることが好ましい。該発色剤と接触し、これを発色させる電子受容性を有する顕色剤としては、酸性白土、活性白土、ゼオライト、ベントナイト、カオリンのような粘土類、重合体または芳香族カルボン酸(あるいはその金属塩)が挙げられる。
【0035】
重合体の例としては、フェノール−アルデヒド重合体、フェノール−アセチレン重合体、マレイン酸−ロジン樹脂、部分的あるいは完全に加水分解したスチレン−無水マレイン酸共重合体、部分的あるいは完全に加水分解したエチレン−無水マレイン酸共重合体、カルボキシポリエチレンおよび部分的あるいは完全に加水分解したビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0036】
芳香族カルボン酸およびその金属塩の例については、特開昭55−28847号公報に示されているが、つぎの化合物が挙げられる。
すなわち、総炭素原子数が15以上、更に、好ましくは19以上の芳香族カルボン酸、例えば、3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸、3−(α−メチルベンジル)−5−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、3−(α,α−ジメチルベンジル)フェニル−5−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、3,5−ジ−t−ブチルサリチル酸、3,5−ジ−t−オクチルサリチル酸、3−シクロヘキシル−5−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、3−フェニル−5−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、3,5−ジ−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸などがあり、これらと多価金属、例えば、亜鉛、アルミニウム、バリウム、スズ、鉄、カルシウム、鉛などとの塩などがある。
【0037】
本発明の発色剤用溶剤を用いて製造した発色剤溶液をマイクロカプセル化する方法は特に限定されるものではない。一般的な方法としては、上記溶液をゼラチンおよびアラビアゴムの混合水溶液中に乳化分散させ、次にコアセルベーション法により、乳化した油滴の周囲にゼラチン膜を形成させることにより、発色剤溶液を含むマイクロカプセルを得る方法を例示することができる(特開平6−55838号公報、特表2005−505443号公報など参照)。最近では、界面重合法、インサイチュー(in−situ)重合法などにより、合成樹脂膜を形成させる方法も多く用いられる。
【0038】
かくして生成した発色剤溶液のマイクロカプセル乳化液を紙に塗布し、乾燥させることにより、発色剤溶液のマイクロカプセル塗布紙を得る。上記乳化液の塗布は、マイクロカプセルが機械的圧力、摩擦力によって破壊されやすいため、エアーナイフコーター、カーテンコーター等により行なわれる。また、マイクロカプセル塗布膜の乾燥重量は、0.5〜20g/m程度である。
【0039】
一方、この塗布面に対向する紙の面に、層状に上記顕色剤の水分散液をエアーナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、バーコーター等の通常の塗布装置によって上質紙、コート紙、フィルム等の基材上に乾燥重量が2〜8g/m程度となるよう塗布することにより、顕色剤塗布紙が得られる。
【0040】
セルフコンテインド感圧複写紙は、上記顕色剤を発色剤溶液のマイクロカプセル塗布面に重ねて塗布することにより得ることが出来る。顕色剤の塗布法は、上記方法と同じ方法が適用できる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例により本発明の実施態様を例示するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<溶剤製造例1>
内径10mm、長さ50cmの管型反応器にシリカアルミナを20g詰め、オルソキシレン、パラキシレン、メタキシレンおよびエチルベンゼンを含む混合キシレン99.8質量%とスチレン0.2質量%を含む原料混合物を、100g/h、反応温度170℃でフィードした。得られた反応物を蒸留し、POXE、PMXE、PPXEおよびPEPEを含む混合物を得た。
【0043】
<溶剤製造例2>
内径10mm、長さ50cmの管型反応器にシリカアルミナを20g詰め、オルソキシレン99.8質量%とスチレン0.2質量%を含む原料混合物を100g/h、反応温度170℃でフィードした。得られた反応物を蒸留し、POXEを得た。
上記と同じ反応器にシリカアルミナを20g詰め、メタキシレン99.8質量%とスチレン0.2質量%を含む原料混合物を100g/h、反応温度170℃でフィードした。得られた反応物を蒸留し、PMXEを得た。
上記と同じ反応器にシリカアルミナを20g詰め、パラキシレン99.8質量%とスチレン0.2質量%を含む原料混合物を100g/h、反応温度170℃でフィードした。得られた反応物を蒸留し、PPXEを得た。
上記と同じ反応器にシリカアルミナを20g詰め、エチルベンゼン99.8質量%とスチレン0.2質量%を含む原料混合物を100g/h、反応温度210℃でフィードした。得られた反応物を蒸留し、PEPEを得た。
上記と同じ反応器にシリカアルミナを20g詰め、ベンゼン99.8質量%とスチレン0.2質量%を含む原料混合物を100g/h、反応温度220℃でフィードした。得られた反応物を蒸留し、1,1−DPEを得た。
製造したPOXE、PMEX、PPXEおよびPEPEの純度は各99質量%であった。
【0044】
<溶剤製造例3>
内径10mm、長さ50cmの管型反応器にシリカアルミナを20g詰め、オルソキシレン99.0質量%とスチレン1.0質量%を含む芳香族炭化水素を100g/h、反応温度200℃でフィードした。得られた混合物を蒸留し、三環芳香族炭化水素を得た。得られた3環芳香族の含有量は99.8質量%であった。
【0045】
(実施例1)
純度97.6%のCVL(山田化学社製)を9.0g入れた100ml円筒形試験管に、溶剤製造例1で製造したPOXE、PMXE、PPEEおよびPEPEを含む混合物と1,1−DPEを混合させた溶剤1(組成を表1に示す。)を60.0g加え、100℃に加熱されたオイルバス容器に試験管を浸し、30分間攪拌を行った。攪拌後、目視にてCVLが全量溶解しているかどうか確認をした。全量溶解していた場合、さらにCVLを0.05g添加し、7分間観察した。7分間経ってCVLが完全に溶解した場合、同じ操作を繰り返し、0.05g添加した後7分経過してもCVLが完全には溶解しなくなるまでCVLの添加を継続した。7分経過しても完全に溶解していない場合は、完全に溶解が確認された量までを溶解量とし、溶解量を以下の式により求めた。
溶解量(g/100g 溶剤)=100×[(最初に入れたCVLの量+完全には溶解しなくなった時点までに加えたCVL合計量)−最後に添加したCVL量](g)/60(g)
9.0gのCVLが全溶解しない場合は、0.6g刻みでCVLの量を減らし、完全混合する量を求め、その量に対して、上記と同様の操作で0.05g刻みでCVLを追加し、同様の方法で溶解量を求めた。
結果を表1に示す。また溶剤1の臭気および動粘度を測定し、その評価結果を併せて表1に示す。
なお、表1において、PPXE、PMXEなど表中の単位表記の無い数値の単位は質量%であり、動粘度の単位はmm/sである。また、臭気は各溶剤が100℃の状態で、10人中不快と感じた人が2人以下の場合に○、5人以下の場合に△、6人以上の場合に×とした。
【0046】
(実施例2〜8)
溶剤製造例2で合成したPOXE、PMXE、PPXE、PEPEおよび1,1−DPEを所定量混合し、溶剤2〜8を調製した。これらの溶剤を用いて実施例1と同様にCVL溶解量と動粘度を測定し、臭気を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例9、10)
溶剤製造例2で合成したPOXE、PMXE、PPXE、PEPE、1,1−DPEおよび溶剤製造例3で合成した3環芳香族を所定量混合し、溶剤9と溶剤10を得た。この溶剤を用いて実施例1と同様にCVL溶解量と動粘度を測定し、臭気を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
(実施例11)
純度97.6%のCVLの替わりに純度93.8%のCVL(山田化学社製)を用いた以外、実施例2と同様にしてCVL溶解量と動粘度を測定し、臭気を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例12)
純度97.6%のCVLの替わりに純度96.1%のCVL(山田化学社製)を用いた以外、実施例2と同様にしてCVL溶解量と動粘度を測定し、臭気を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
(比較例1)
溶剤製造例2で合成したPOXE、PMXE、PPXEおよびPEPEを所定量混合し、溶剤11を調製した。この溶剤を用いて実施例1と同様にCVL溶解量と動粘度を測定し、臭気を評価した。結果を表1に示す。溶解量は、実施例のどの溶解量よりも少なく、発色剤の溶解性能が劣った。
【0051】
(比較例2)
溶剤製造例2で合成したPOXE、PMXE、PPXE、PEPEおよび1,1−DPEを所定量混合し、溶剤12を調製した。この溶剤を用いて実施例1と同様にCVL溶解量と動粘度を測定し、臭気を評価した。結果を表1に示す。溶剤12は、本発明の発色剤用溶剤と比較して臭気がやや劣り、動粘度の値が、適切な値より小さかった。
【0052】
(比較例3)
溶剤製造例2で合成したPOXE、PMXE、PPXE、PEPEおよび溶剤製造例3で合成した3環芳香族を所定量混合し、溶剤13を調製した。この溶剤を用いて実施例1と同様にCVL溶解量と動粘度を測定し、臭気を評価した。結果を表1に示す。溶剤13はCVL溶解量の値が小さく、発色剤の溶解性能が不十分であった。また、動粘度の値が、適切な値より大きかった。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の溶剤を用いることにより、高濃度の発色剤溶液を調製できるため、少ない塗布量で高い発色性能を得ることが可能になり、低コストで感圧複写紙を製造することができる。また、本発明の溶剤を用いた発色剤溶液は安定であり、装置内で配管の閉塞などの障害を起こすことがないので、感圧複写紙の工業的製造に適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−フェニル−1−エチルフェニルエタン(PEPE)、1−フェニル−1−キシリルエタン(PXE)および1,1−ジフェニルエタン(1,1−DPE)の混合物を含有してなる発色剤溶剤であって、1,1−DPEの含有量が0.1質量%以上25質量%以下であることを特徴とする感圧複写紙用発色剤用溶剤。
【請求項2】
1−フェニル−1−エチルフェニルエタン(PEPE)の含有量が0.1〜70質量%であり、1−フェニル−1−キシリルエタン(PXE)の含有量が5〜99.8質量%であることを特徴とする請求項1に記載の感圧複写紙用発色剤用溶剤。
【請求項3】
1−フェニル−1−エチルフェニルエタン(PEPE)、1−フェニル−1−キシリルエタン(PXE)および1,1−ジフェニルエタン(1,1−DPE)の含有量が90質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の感圧複写紙用発色剤用溶剤。
【請求項4】
1−フェニル−1−エチルフェニルエタン(PEPE)と1−フェニル−1−キシリルエタン(PXE)が、スチレンと炭素数8のアルキルベンゼンを含む炭化水素を原料として固体酸触媒の存在下、液相、150〜250℃の温度で反応させて得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の感圧複写紙用発色剤用溶剤。
【請求項5】
請求項1に記載の発色剤用溶剤に発色剤を溶解させてなる感圧複写材料。
【請求項6】
発色剤がクリスタルバイオレットラクトンであることを特徴とする請求項5に記載の感圧複写材料

【公開番号】特開2012−196864(P2012−196864A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62254(P2011−62254)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】