説明

感染症起炎菌検出用プローブセット及び担体及び遺伝子検査方法

【課題】細菌の属による分類を目的に、同じ属の菌種は一括検出が可能で、しかも、他の属の細菌は区別して検出できるようなプローブを提供する。
【解決手段】感染症起炎菌遺伝子を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブは、特定の塩基配列の14群のうちの一つの群に属する少なくとも一つの塩基配列を含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症疾患の原因菌の検出および同定に有用な感染症起因菌由来のプローブセットならびに担体、遺伝子検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAチップ(またはDNAマイクロアレイともいう。以下同じ)を用いた遺伝子発現解析が創薬を始め種々の領域で行なわれている。それは、各種遺伝子セット(プローブ)が配置されたDNAマイクロアレイに、それぞれ異なった検体DNAを反応させ、各検体に存在するそれぞれの遺伝子量を比較して、各ステージで大量に存在する(発現量の高い)遺伝子、或いは逆に不活性化している(発現量の低い)遺伝子を分類し、機能と関連付けて解析するものである。
【0003】
感染症の起炎菌検査はその一例であり、江崎らは特許文献1において、DNAプローブとして染色体DNAが固定化されたDNAチップを用いる微生物同定法を提案している。この方法によれば、互いにGC含量の異なる複数の既知微生物由来の染色体DNAと、検体中の未知微生物由来の染色体DNAとを反応させ、生じたハイブリダイゼーション複合体を検出することで検体中の未知微生物を検出することが可能である。
【0004】
また、大野らは感染症の起炎菌検査のためのDNAチップに用いるプローブとして、特許文献2で制限酵素断片を利用した真菌の検出用プローブを、特許文献3で緑膿菌の検出用プローブを、特許文献4でEscherichia coli(エシェリキア コリ)菌、klebsiella pneumoniae(クレブシエラ ニューモニエ)菌ならびにEnterobacter cloacae(エンテロバクター クロアカエ)菌の制限酵素断片を利用した検出用プローブをそれぞれ提案している。
【特許文献1】特開2001−299396号公報
【特許文献2】特開平6−133798号公報
【特許文献3】特開平10−304896号公報
【特許文献4】特開平10−304897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術に示したDNAチップは、染色体DNA或いは制限酵素断片等のDNAプローブを利用するものであり、いずれも微生物から直接取り出したDNAを材料としている。このため、一度に大量に調製することは困難であり、臨床診断用には適さないという問題があった。これは臨床診断用に用いるためには、安価で均質なDNAチップの大量生産が必要であり、このためにプローブ溶液として均質なDNAの大量調整が不可欠となるが、DNAプローブでは、このような大量調製ができないからである。なお、DNAプローブであっても、PCR増幅反応を利用することで当該DNAを徐々に増加させていくことは可能であるが、PCR反応では、一度に大量調製することは困難であることから、臨床診断用に利用することは難しい。
【0006】
また、DNAプローブは塩基長が長いため、類似菌種間における菌種の同定が困難であり、例えば感染症検出用には適さないという問題があった。これは、感染症の治療においては菌種の特定とそれに応じた抗生剤の選択・投与が必要であり、このために感染症検出用プローブには、同種内の詳細な区別までは必要としないまでも(つまり同種内は一括検出でき)、類似する他の種の細菌は区別して検出できるような機能が求められるからである。一方、例えば特許文献4で示されているエシェリキア コリ菌、クレブシエラ ニューモニエ菌、エンテロバクター クロアカエ菌の制限酵素断片を用いたDNAチップでは、プローブの塩基長が長いために、これら3菌種相互間に交差反応が生じてしまい、類似する個々の菌を区別することができず、感染症検出用に利用することは難しい。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、一度に大量調整することが可能であり、かつ、類似菌種間における菌種の同定が可能な感染症検出用プローブを提供することを目的とする。
【0008】
より具体的には、感染症の複数種の原因菌の種による分類に適した感染症検出用プローブセットを提供することを目的とするものである。
【0009】
また、これらの類似菌種間の差異がDNAチップ上で精度良く評価可能であるよう、感染症検出用プローブと検体とのハイブリッド体の安定性も考慮したプローブセットを提供することを目的とする。
【0010】
また、これらの感染症検出用プローブと検体との反応を行なう為に、これらの感染症検出用プローブが固定された担体を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、検体溶液との反応の過程で、これらの感染症検出用プローブが安定に担体上に固定され、再現性の高い検出結果を得るために、化学的に固定された担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明による感染症起炎菌検出用プローブセットは、
下記第1群乃至第14群のうちの1または複数群より選択されたひとつ以上の塩基配列、或いはそれぞれの相補鎖配列から選択されたひとつ以上の塩基配列、の1または複数を有するオリゴヌクレオチドで形成される複数種類のプローブを含むことを特徴とする。
【0013】
ここで、第1群乃至第14群の塩基配列群はそれぞれ、
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
【表3】

【0017】
である。
【0018】
また、上記の目的を達成するための本発明による感染症起炎菌検出用プライマセットは、
下記第15群のうちの少なくとも1つ以上と、第16群のうちの少なくとも1つ以上の複数の塩基配列の各々を有するオリゴヌクレオチドからなる複数のプライマを含むこと特徴とする。
【0019】
ここで、第15群乃至第16群の塩基配列群はそれぞれ、
【0020】
【表4】

【0021】
である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、一度に大量調整することが可能であり、かつ、類似菌種間における菌種の同定が可能な感染症検出用プローブを提供することができる。より具体的には、感染症の複数種の原因菌の種による分類に適した感染症検出用プローブセットを提供することが可能となる。
【0023】
また、これらの類似菌種間の差異がDNAチップ上で精度良く評価可能であるよう、感染症検出用プローブと検体とのハイブリッド体の安定性も考慮したプローブセットを提供することが可能となる。
【0024】
また、これらの感染症検出用プローブと検体との反応を行なう為に、これらの感染症検出用プローブが固定された担体を提供することができる。
【0025】
さらに、検体溶液との反応の過程で、これらの感染症検出用プローブが安定に担体上に固定され、再現性の高い検出結果を得るために、化学的に固定された担体が提供することが出来る。
【0026】
また、上記担体を用いた、感染症起炎菌遺伝子を検出する遺伝子検査方法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0028】
以下の実施形態では、感染症の起炎菌同定の為のオリゴヌクレオチドプローブ、より具体的には、Bacteroides fragilis、Bacteroides thetaiotaomicron、Clostridium difficile、Clostridium perfringens、Eggerthella lenta、Fusobacterium necrophorum、Fusobacterium nucleatum、Lactobacillus acidophilus、Anaerococcus prevotii、Peptoniphilus asaccharolyticus、Porphyromonas asaccharolytica、Porphyromonas gingivalis、Prevotella denticola、Propionibacterium acnesのいずれか、或いは複数菌を検出する為のプローブが示される。すなわち、上記14種類の感染症起炎菌の遺伝子のうちの16s rRNA遺伝子配列を過不足なく検出するための核酸プローブセットが開示される。
【0029】
本実施形態によれば、上記感染症起炎菌の遺伝子の核酸配列を含む検査溶液と反応せしめるための上記オリゴヌクレオチドプローブは、上記表1に示した第1群〜第14群のうちのいずれかの群に属する塩基配列を含む。
【0030】
ここで、各群から選択された塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプローブが検出する微生物を以下の表3に示す。
【0031】
【表5】

【0032】
これらのプローブ配列の相補的な配列もまた、同じ機能を有する為にプローブ配列として有効である。
【0033】
各菌のプローブの設計は、16s rRNAをコーディングしているゲノム部分より、当該菌に対し非常に特異性が高く、また、それぞれのプローブ塩基配列でばらつきがなく、十分なハイブリダイゼーション感度が期待できるように行なった。
【0034】
これらのオリゴヌクレオチドプローブは、担体上に結合された2種以上のプローブと検体とのハイブリダイゼーション反応において、安定なハイブリッド体を形成し、良好な結果を与えるように設計されている。
【0035】
さらに、本発明にかかる感染症検出用プローブが固定された担体は、オリゴヌクレオチドをBJプリンタを用いて吐出し、化学的に結合させることで作製することを特徴としている。これにより、従来法に比べ、プローブがはがれにくくなるうえに、感度が向上するという付帯的な効果も得られる。つまり、従来から一般的に用いられるスタンフォード法と呼ばれるスタンピング法によりDNAチップを生成した場合(例えば、宝酒造は、がん疾患に関連するヒト由来既知遺伝子のcDNA断片をスポット或いはスタンプにより塗布することでDNAチップを生成している)、塗布したDNAがはがれやすいという欠点があった。また、従来のように、DNAチップ上で合成によりプローブを配置した場合(例えば、AffymerixのDNAチップ等)は、各プローブ配列の合成収量が異なる為に、正確な評価ができないという欠点があった。本発明にかかる担体は、かかる点についても考慮して作製されており、従来に比べ安定に固定されはがれにくく、高感度と高精度の検出ができる点を特徴としている。以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0036】
本実施形態のDNAチップが検査の対象とする検体としては、ヒト、家畜等の動物由来の血液、髄液、喀痰、胃液、膣分泌物、口腔内粘液等の体液、尿及び糞便のような排出物等細菌が存在すると思われるあらゆる物を対象とする。また、食中毒、汚染の対象となる食品、飲料水及び温泉水のような環境中の水等、または空気清浄器等のフィルタなど、細菌による汚染が引き起こされる可能性のある媒体全てが挙げられる。さらに、輸出入時における検疫等の動植物も検体としてその対象とする。
【0037】
また、本実施形態のDNAチップが対象とする検体としては、抽出した核酸そのものでも良いが、16s rRNA検出用に設計されたPCR反応用プライマーを用いて調製された増幅検体、或いはPCR増幅物を元にさらにPCR反応等を行なって調製された検体、PCR以外の増幅方法により調製された検体、可視化のために各種標識法により標識された検体等、いずれの調製法により調製された検体をも含む。
【0038】
また、本実施形態のDNAチップに用いられる担体は、ガラス基板、プラスチック基板、シリコンウェハー等の平面基板、凹凸のある三次元構造体、ビーズのような球状のもの、棒状、紐状、糸状のもの等あらゆるものを含む。さらに、その基板の表面をプローブDNAの固定化が可能なように処理したものも含む。特に、表面に化学反応が可能となるように官能基を導入したものは、ハイブリダイゼーション反応の過程でプローブが安定に結合している為に、再現性の点で好ましい形態である。
【0039】
本発明に用いられる化学的な固定化方法としては、例えば、マレイミド基とチオール(−SH)基との組合わせを用いる例が挙げられる。即ち核酸プローブの末端にチオール(−SH)基を結合させておき、固相表面がマレイミド基を有するように処理しておくことで、固相表面に供給された核酸プローブのチオール基と固相表面のマレイミド基とが反応して核酸プローブを固定化する。
【0040】
マレイミド基の導入方法としては、まず、ガラス基板にアミノシランカップリング剤を反応させ、次にそのアミノ基とEMCS試薬(N-(6-Maleimidocaproyloxy)succinimide:Dojin社製)との反応によりマレイミド基を導入する。DNAへのSH基の導入は、DNA自動合成機上5'-Thiol-ModifierC6(Glen Research社製)を用いることにより行なうことができる。
【0041】
固定化に利用する官能基の組合わせとしては、上記したチオール基とマレイミド基の組合わせ以外にも、例えばエポキシ基(固相上)とアミノ基(核酸プローブ末端)の組合わせ等が挙げられる。また、各種シランカップリング剤による表面処理も有効であり、該シランカップリング剤により導入された官能基と反応可能な官能基を導入したオリゴヌクレオチドが用いられる。さらに、官能基を有する樹脂をコーティングする方法も利用可能である。
【0042】
以下、乳酸菌(Lactobacillus acidophilus)を検出するための感染症起炎菌検出用プローブを用いた実施例により、更に詳細に説明するが、Bacteroides fragilis、Bacteroides thetaiotaomicron、Clostridium difficile、Clostridium perfringens、Eggerthella lenta、Fusobacterium necrophorum、Fusobacterium nucleatum、Anaerococcus prevotii、Peptoniphilus asaccharolyticus、Porphyromonas asaccharolytica、Porphyromonas gingivalis、Prevotella denticola、Propionibacterium acnesについても、以下の実施例で説明するのと同様の手法によりプローブセットの設計、生成ができるとともに、検査処理(ハイブリダイゼーション反応)を行なうことができる。
【実施例】
【0043】
1 Step PCR法を用いた微生物の検出
[1.プローブDNAの準備]
乳酸菌株検出用プローブとして表1に示す核酸配列を設計した。具体的には、乳酸菌の16s rRNAをコーディングしているゲノム部分より、表4に示したプローブ塩基配列を選んだ。これらのプローブ塩基配列群は、当該菌に対し非常に特異性が高く、十分かつそれぞれのプローブ塩基配列でばらつきのないハイブリダイゼーション感度が期待できるように設計されている(なお、本実施例では各プローブ塩基配列は表1に示した、第8群の配列と完全に一致したものを用いたが、完全一致に限定される必要はなく、該各プローブ塩基配列を含む20から30程度の塩基長を有するプローブ塩基配列も表4に示す各プローブ塩基配列に含まれるものとする)。
【0044】
【表6】

【0045】
表中に示したプローブは、DNAマイクロアレイに固定するための官能基として、合成後、定法に従って核酸の5'末端にチオール基を導入した。官能基の導入後、精製し、凍結乾燥した。凍結乾燥した内部標準用プローブは、−30℃の冷凍庫に保存した。
【0046】
[2.検体増幅用PCRプライマーの準備]
起炎菌検出用の為の16s rRNA遺伝子(標的遺伝子)増幅用PCR Primerとして表5に示す核酸配列を設計した。具体的には、16s rRNAをコーディングしているゲノム部分を特異的に増幅するプローブセット、つまり約1500塩基長の16s rRNAコーディング領域の両端部分で、特異的な融解温度をできるだけ揃えたプライマーを設計した。なお、変異株や、ゲノム上に複数存在する16s rRNAコーディング領域も同時に増幅できるように複数種類のプライマーを設計した。
【0047】
【表7】

【0048】
表中に示したPrimerは、合成後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製し、Forward Primerを8種、Reverse Primerを4種を混合し、それぞれのプライマー濃度が、最終濃度10 pmol/μlとなるようにTE緩衝液に溶解した。
【0049】
[3.乳酸菌(Lactobacillus acidophilus) Genome DNA(モデル検体)の抽出]
[3−1] 微生物の培養 & Genome DNA 抽出
まず、乳酸菌標準株(ATCC4355)を、定法に従って培養した。この微生物培養液から、核酸精製キット(FastPrep FP100A・FastDNA Kit:フナコシ株式会社製)を用いて、Genome DNAの抽出を行った。
【0050】
[3−2] 回収したGenome DNAの検査
回収された微生物(乳酸菌株)のGenome DNAは、定法に従って、アガロース電気泳動と260/280nmの吸光度測定を行い、その品質(低分子核酸の混入量、分解の程度)と回収量を検定した。本実施例では、約10μgのGenome DNAが回収され、Genome DNAのデグラデーションやrRNAの混入は認められなかった。回収したGenome DNAは、最終濃度50ng/μlとなるようにTE緩衝液に溶解し、以下の実施例に使用した。
【0051】
[4.DNAマイクロアレイの作製]
[4−1] ガラス基板の洗浄
合成石英のガラス基板(サイズ:25mm×75mm×1mm、飯山特殊ガラス社製)を耐熱、耐アルカリのラックに入れ、所定の濃度に調製した超音波洗浄用の洗浄液に浸した。一晩洗浄液中で浸した後、20分間超音波洗浄を行った。続いて基板を取り出し、軽く純水ですすいだ後、超純水中で20分超音波洗浄をおこなった。次に80℃に加熱した1N水酸化ナトリウム水溶液中に10分間基板を浸した。再び純水洗浄と超純水洗浄を行い、DNAチップ用の石英ガラス基板を用意した。
【0052】
[4−2] 表面処理
シランカップリング剤KBM-603(信越シリコーン社製)を、1%の濃度となるように純水中に溶解させ、2時間室温で攪拌した。続いて、先に洗浄したガラス基板をシランカップリング剤水溶液に浸し、20分間室温で放置した。ガラス基板を引き上げ、軽く純水で表面を洗浄した後、窒素ガスを基板の両面に吹き付けて乾燥させた。次に乾燥した基板を120℃に加熱したオーブン中で1時間ベークし、カップリング剤処理を完結させ、基板表面にアミノ基を導入した。次いで同仁化学研究所社製のN−マレイミドカプロイロキシスクシイミド(N-(6-Maleimidocaproyloxy)succinimido)(以下EMCSと略す)を、ジメチルスルホキシドとエタノールの1:1混合溶媒中に最終濃度が0.3 mg/mlとなるように溶解したEMCS溶液を用意した。
【0053】
ベークの終了したガラス基板を放冷し、調製したEMCS溶液中に室温で2時間浸した。この処理により、シランカップリング剤によって表面に導入されたアミノ基とEMCSのスクシイミド基が反応し、ガラス基板表面にマレイミド基が導入された。EMCS溶液から引き上げたガラス基板を、先述のEMCSを溶解した混合溶媒を用いて洗浄し、さらにエタノールにより洗浄した後、窒素ガス雰囲気下で乾燥させた。
【0054】
[4−3] プローブDNA
実施例で作製した微生物検出用プローブを純水に溶解し、それぞれ、最終濃度(インク溶解時)10μMとなるように分注した後、凍結乾燥を行い、水分を除いた。
【0055】
[4−4] BJプリンタによるDNA吐出、および基板への結合
グリセリン7.5 wt%、チオジグリコール7.5 wt%、尿素7.5 wt%、アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製)1.0 wt%を含む水溶液を用意した。続いて、先に用意した5種類のプローブ(表4)の夫々を上記の混合溶媒に規定濃度なるように溶解した。得られたDNA溶液をバブルジェットプリンタ(商品名:BJF-850 キヤノン(株)社製)用インクタンクに充填し、印字ヘッドに装着した。
【0056】
なおここで用いたバブルジェットプリンタは平板への印刷が可能なように改造を施したものである。またこのバブルジェットプリンタは、所定のファイル作成方法に従って印字パターンを入力することにより、約5ピコリットルのDNA溶液を約120μmピッチでスポッティングすることが可能となっている。
【0057】
続いて、この改造バブルジェットプリンタを用いて、1枚のガラス基板に対して、印字操作を行い、アレイを作製した。印字が確実に行われていることを確認した後、30分間加湿チャンバー内に静置し、ガラス基板表面のマレイミド基と核酸プローブ末端のチオール基とを反応させた。
【0058】
[4−5] 洗浄
30分間の反応後、100mMのNaClを含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.0)により表面に残ったDNA溶液を洗い流し、ガラス基板表面に一本鎖DNAが固定した遺伝子チップを得た。
【0059】
[5.検体の増幅と標識化(PCR増幅&蛍光標識の取り込み)]
検体となる微生物遺伝子の増幅、および、標識化反応を以下に示す。
【0060】
【表8】

【0061】
上記組成の反応液を以下のプロトコールに従って、市販のサーマルサイクラーで増幅反応を行った。
【0062】
【表9】

【0063】
反応終了後、精製用カラム(QIAGEN QIAquick PCR Purification Kit)を用いてPrimerを除去した後、増幅産物の定量を行い、標識化検体とした。
【0064】
[6.ハイブリダイゼーション]
上述の[4.DNAマイクロアレイの作製]で作製した遺伝子チップと[5.検体の増幅と標識化(PCR増幅&蛍光標識の取り込み)]で作製した標識化検体を用いて検出反応を行った。
【0065】
[6−1] 遺伝子チップのブロッキング
BSA(牛血清アルブミンFraction V:Sigma社製)を1 wt%となるように100mM NaCl/10mM Phosphate Bufferに溶解し、この溶液に[4.DNAマイクロアレイの作製]で作製した遺伝子チップを室温で2時間浸し、ブロッキングを行った。ブロッキング終了後、0.1wt%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む2xSSC溶液(NaCl 300mM、Sodium Citrate(trisodium citrate dihydrate, C6H5Na3・2H2O) 30mM、pH 7.0)で洗浄を行った後、純水でリンスしてからスピンドライ装置で水切りを行った。
【0066】
[6−2] ハイブリダイゼーション
水切りした遺伝子チップをハイブリダイゼーション装置(Genomic Solutions Inc. Hybridization Station)にセットし、以下に示すハイブリダイゼーション溶液、条件でハイブリダイゼーション反応を行った。
【0067】
[6−3] ハイブリダイゼーション条件
65℃ 3min → 92℃ 2min → 45℃ 3hr → Wash 2xSSC / 0.1% SDS at 25℃ → Wash 2xSSC at 20℃ → (Rinse with H2O : Manual) → Spin dry。
【0068】
[7.微生物の検出(蛍光測定)]
上記ハイブリダイゼーション反応終了後の遺伝子チップを遺伝子チップ用蛍光検出装置(Axon社製、GenePix 4000B)を用いて蛍光測定を行った。その結果、再現性良く、十分なシグナルでLactobacillus acidophilusを検出することができた。また、他の菌のプローブに対するハイブリッド体は検出されなかった。
【0069】
以下の表6に、ハイブリダイゼーション反応によって得られた蛍光輝度値をバックグラウンドの輝度で補正した値を示す。この表6に示すデータにより、Lactobacillus acidophilus用に作成した表4に示したプローブの蛍光輝度が、他のプローブと比較して高い蛍光輝度を示していることが分かる。
【0070】
【表10】

【0071】
【表11】

【0072】
なお、上記実施例では、特にLactobacillus acidophilusを検出した例を挙げて説明したが、前述の表3に示す他の菌であっても、同様の手法により設計したプローブ担体を用いてハイブリダイゼーションを行なうことにより、それぞれ菌用に設計したプローブから得られる蛍光輝度が高くなる結果が得られ、再現性良く、十分なシグナルで、それぞれの菌を検出することができた。
【0073】
以上説明したように、上記実施例によれば、Bacteroides fragilis、Bacteroides thetaiotaomicron、Clostridium difficile、Clostridium perfringens、Eggerthella lenta、Fusobacterium necrophorum、Fusobacterium nucleatum、Lactobacillus acidophilus、Anaerococcus prevotii、Peptoniphilus asaccharolyticus、Porphyromonas asaccharolytica、Porphyromonas gingivalis、Prevotella denticola、Propionibacterium acnesの14種菌を検出可能なプローブセットを固定したマクロアレイを用いて、感染症起炎菌を同定することが可能になり、微生物由来のDNAプローブの問題を解決した。すなわち、オリゴヌクレオチドプローブは化学的に大量合成が可能であり、精製や濃度のコントロールが可能である。また、細菌の種による分類を目的に、同じ種の菌種は一括検出が可能で、しかも、他の種の細菌は区別して検出できるようなプローブセットが提供できた。
【0074】
また、上記実施形態によれば、感染症起炎菌遺伝子の16s rRNA遺伝子配列を過不足なく検出することにより、該感染症起炎菌の存在を効率良く、また高い精度で判定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染症起炎菌遺伝子を検出するための感染症起炎菌検出用プローブセットであって、下記第1群乃至第14群のうちの1または複数群より選択されたひとつ以上の塩基配列、或いはそれぞれの相補鎖配列から選択されたひとつ以上の塩基配列、の1または複数を有するオリゴヌクレオチドで形成される複数種類のプローブを含むことを特徴とする感染症起炎菌検出用プローブセット。
第1群
(1)AATACCCGATAGCATAATGATTCCGCATG
(2)TGAAGGCTCTATGGGTCGTAAACTTCT
(3)ATACTGTCAGTCTTGAGTACAGTAGAGGT
(4)ACATGTCAGTGAGCAATCACCGC
(5)GCTAGCGGGTGACCGTATGCTAAT
第2群
(1)CACGTATCCAACCTGCCGATAACTC
(2)AGAATTTCGGTTATCGATGGGGATGC
(3)TTCCACGTGTGGAATTTTGTATGTACCAT
(4)ACTGGCTGTCTTGAGTACAGTAGAGG
(5)GCAAGGCAAATGTGAAGGTGCTG
第3群
(1)GCATCTCTTGAATATCAAAGGTGAGCC
(2)CAAGTCAGGAGTGAAAGGCTACGG
(3)GAGTACTAGGTGTCGGGGGTTACC
(4)ACATCCCAATGACATCTCCTTAATCGGA
(5)AGAGAGACTGCCAGGGATAACCTG
第4群
(1)CCTCATAGAGTGGAATAGCCTTCCGA
(2)AAAGATGGCATCATCATTCAACCAAAGGA
(3)TGCTGCATTCCAAACTGGTTATCTAGAG
(4)TGGGGGTTTCAACACCTCCGTG
(5)GGTGGAGCCAAACTTAAAAACCAGTCT
第5群
(1)TTTCAGCAGGGAAGAAATTCGACGG
(2)CTCTCAAGCGGGATCTCTAATCCGAG
(3)GGGAGGCTCGAGTTCGGTAGAG
(4)TTAGGTTGGGGACTCATGGGGG
(5)CTTTATGCCCTGGGCTGCACAC
第6群
(1)CCTCTTAGTCTGGGACAACATCTGGA
(2)GAAAATGCGGAGCTCAACTCCGTAT
(3)CTTTCGGGGGAACGTAGTGACAG
(4)GATACTGCCTGCGACGAGCAGA
(5)CTAACCTTAGGGAAGGATGCTCCGA
第7群
(1)TTATGAAAGCTATATGCGCTGTGAGAGAG
(2)GGTACCAACAGAAGAAGTGACGGC
(3)GCGCGTCTAGGTGGTTATGTAAGTC
(4)TAGGTGTTGGGGGTCGAACCTC
(5)TGCGATACTGCCTACGATGAGTAGG
第8群
(1)ATACCGGATAAGAAAGCAGATCGCATG
(2)ATGCATAGCCGAGTTGAGAGACTGAT
(3)AGAGGTAGTAACTGGCCTTTATTTGACG
(4)GAGGTTTCCGCCTCTCAGTGCT
(5)CTGTTCTCAGTTCGGACTGCAGTCT
第9群
(1)CGTTGGAAACGACGAATAATACCCTATGA
(2)CAGTACCATACGAATAAGGACCGGC
(3)CTGCTCATCTTGAGGTATGGAAGGGA
(4)GGTGTCTGGAATAATCTGGGTGCC
(5)TGACATATTACGGCGGGGTCTAGAG
第10群
(1)AGTGACACATGTCATAACGATCAAAGTGA
(2)TGAGTAGTGAAGAGGTAAGTGGAATTCCT
(3)AAGGCGACTTACTGGTCACAAACTG
(4)CTAGGTGTCGGAGAATTTCGGTGC
(5)AAAGAGCGGGCGAGCTAGTGAT
第11群
(1)GTGGTGAATAACCCGATGAAAGTCGG
(2)TGTATGGGATTAAAGTCACCTACGTGTAG
(3)AGCTAGAGTGTACTGGAGGTACGTG
(4)CTATGCGATATACAGTATGGGTCTAAGCG
(5)ACGAGTCAAGTCGAGGACTCTATCG
第12群
(1)CGGGCGATACGAGTATTGCATTGAA
(2)TGAAACCTGAGCGCTCAACGTTC
(3)TACCGTCAAGCTTCCACAGCGA
(4)TTTCGCTGAGGACTCTACCGAGAC
(5)GGCGACCGGATGCGAATCTCTA
第13群
(1)CGCATGTTCTTCGATGACGGCA
(2)TGCTTTTATGCGGGGATAAAGTGAGG
(3)CAACGTCTGACTTGCAGCGCATA
(4)GCCAAGCGAAAGCGTTAAGCATC
(5)TTGAGGTCCTTCGGGACTCCTG
第14群
(1)AAAGTTTCGGCGGTTGGGGATG
(2)TTGATCGCGTCGGAAGTGTAATCTTG
(3)ACTAGGTGTGGGGTCCATTCCAC
(4)CCTCTTTTGGGGTCGGTTCACAG
(5)GGGTGAGCGAATCTCGGAAAGC
【請求項2】
請求項1に記載の感染症起炎菌検出用プローブセットに含まれるプローブが化学的に固定されていることを特徴とする担体。
【請求項3】
感染症起炎菌の16S rRNA遺伝子配列をPCR増幅させるのに用いられるプライマであって、下記の第15群の塩基配列のうちの少なくとも一つ以上と、下記の第16群の少なくとも一つ以上の複数の塩基配列の各々を有するオリゴヌクレオチドからなる複数のプライマを含むことを特徴とする感染症起炎菌増幅反応用プライマセット。
第15群
(1)GCGGCGTGCCTAATACATGCAAG
(2)GCTACAGGCTTAACACATGCAAG
(3)GCGATAGGCTTAACACATGCAAG
(4)GCGGCGTGCCTAACACATGCAAG
(5)GCGGCGTGCTTAACACATGCAAG
(6)GCGGTGTGCCTAACACATGCAAG
(7)GCTACAGGCTTACCACATGCAAG
(8)GCGATAGGCATAACACATGCAAG
第16群
(1)ATCCAGCCGCAGGTTCTCCTAC
(2)ATCCAGCCGCACCTTCCGGTAC
(3)TTCCAGCCGCACCTTCCGGTAC
(4)TTCCAACCGCACGTTCCCGTAC
【請求項4】
請求項2に記載の担体を用いて感染症起炎菌遺伝子を検出することを特徴とする遺伝子検査方法。
【請求項5】
請求項3に記載の感染症起炎菌増幅反応用プライマセットを用いてPCR増幅処理を行なうことを特徴とする遺伝子検査方法。
【請求項6】
請求項3に記載の感染症起炎菌増幅反応用プライマセットを用いてPCR増幅処理を行なって、請求項2に記載の担体を用いて感染症起炎菌遺伝子を検出することを特徴とする遺伝子検査方法。



【公開番号】特開2006−129828(P2006−129828A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324978(P2004−324978)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】