説明

感染細胞からのポックスウイルスの採取および精製法

【課題】
本発明は、ポックスウイルス、特に改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)を感染細胞から採取する方法を提供する。
【解決手段】
本発明によって、ポックスウイルス感染細胞を高圧均質化にかけ、ポックスウイルス含有ホモジネートを得る。ポックスウイルスに富んだ画分を得るために、ポックスウイルス含有ホモジネートを少なくとも一回の精製工程にかけて良い。本発明はさらに、本発明による方法で得られる、ポックスウイルス含有画分およびポックスウイルス含有ホモジネートにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポックスウイルス、特に改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)を感染細胞から採取する方法に関する。本発明によって、ポックスウイルス感染細胞を高圧均質化にかけ、ポックスウイルス含有ホモジネートを得る。ポックスウイルスに富んだ画分(a poxvirus−enriched fraction)を得るために、ポックスウイルス含有ホモジネートを少なくとも一回の精製工程にかけて良い。本発明はさらに、本発明による方法で得られる、ポックスウイルス含有画分およびポックスウイルス含有ホモジネートにも関する。
【背景技術】
【0002】
ポックスウイルス科は、脊椎動物細胞および無脊椎動物細胞の細胞質中で複製する複雑なDNAウイルスの大きなファミリーからなる。ポックスウイルス科は、コルドポックスウイルス(脊椎動物ポックスウイルス)およびエントモポックスウイルス(昆虫ポックスウイルス)の亜科に分けられる。
【0003】
コルドポックスウイルスとしては、例えばラクダ痘ウイルス、ヒツジ痘ウイルス、ヤギ痘ウイルスまたはアビポックス、特に鶏痘ウイルスなどの、経済的に重要ないくつかの動物ポックスウイルス(異なる属に分類される)が挙げられる。ヒツジ痘およびヤギ痘に対する家畜への予防接種のために、弱毒化した、生きたウイルスおよび不活性化したワクチンが入手可能である。家禽の予防接種を行うために、鶏痘ウイルスをベクターとして用いた組換えワクチンの開発が行なわれてきた。
【0004】
鶏痘ウイルスはヒト細胞に感染するため、ヒトにおいて異種遺伝子を発現させ、対応する免疫応答を誘導するためのベクターとしても利用できることが仮定される。ゲノム中にHIV遺伝子を含有する鶏痘ウイルスは、特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0005】
ヒトにおいて、天然痘ウイルスは、オルトポックスウイルス属の一員であるが、群を抜いて最も重要なポックスウイルスであった。ワクシニアウイルスもまた、ポックスウイルス科のファミリーのうちの、オルソポックスウイルス属の一員であるが、天然痘に対する免疫性の付与のための生ワクチンとして利用されていた。天然痘ウイルスを用いた、世界的に好結果であった予防接種は天然痘の撲滅で完結した(天然痘の世界的撲滅。天然痘撲滅の証明に対する世界委員会の最終報告;History of Public Health、NO.4、Geneva:世界保健機構、1980年)。このWHOの宣言以来、ポックスウイルス感染について危険度が高い人々(例えば、研究所勤務者)を除いては予防接種を続けなかった。生物戦争で、またはバイオテロリストにより利用される天然痘ウイルスの危険性という観点から、予防接種プログラムが再び重要になっている。
【0006】
さらに最近では、ワクシニアウイルスもまた、組換え遺伝子発現のための、および組換え体生ワクチンとして利用する可能性を持つ、遺伝子工学で作るウイルスベクターに利用されている(非特許文献1;非特許文献2)。これは、DNA組換え技術により、ワクシニアウイルスのゲノム中に導入された外来抗原をコードするDNA配列(遺伝子)を必要とする。ウイルスDNA中の、ウイルスの生活サイクルに必須でない部位において遺伝子を統合させれば、新しく生産した組換えワクシニアウイルスの感染が可能になる、すなわち、外来細胞の感染が可能になり、したがって統合したDNA配列の発現が可能になる(特許文献3および特許文献4)。このようにして調製した組換え体ワクシニアウイルスは、一方では感染病の予防のための生ワクチンとして、また一方では真核細胞における異種タンパク質の調製のために利用することができる。
【0007】
組換え体生ワクチンの開発のためのベクターとしてのワクシニアウイルスの利用は、安全性の問題および規制に影響を受けてきた。文献に記述されている組換え体ワクチンウイルスのほとんどは、ワクシニアウイルスのWestern Reserve)株に基づいている。この株は神経毒性が高く、そのためヒトおよび動物への利用にはあまり適さないことが知られている(非特許文献3)。一方、改変ワクシニアウイルスアンカラ(Ankara)(MVA)は、例外的に安全であることが知られている。MVAは、ワクシニアウイルスのアンカラ株(CVA)をトリ胎仔の胚繊維芽細胞上で長期間連続継代させることにより発生させる(非特許文献4;特許文献5を参照のこと)。ブダペスト条約の必要条件を満たして保管されているMVAウイルス株の例としては、MVA572株、MVA575株およびMVA−BNが挙げられ、これらはEuropean Collection of Animal Cell Cultures(ECACC)、Salisbury(UK)に保管されており、保管番号はそれぞれECACC V94012707、ECACC V00120707およびECACC V00083008である。MVAは、その顕著な弱毒化性、すなわち、良好な免疫原性を維持する間に減少させた毒性または感染性によって区別される。MVAウイルスについて、野生型CVA株と比較したゲノムの変異を決定するための分析が行なわれている。全部で31,000塩基対のゲノムDNAにおける6つの主要な欠失(欠失、II、III、IV、V、およびVI)が明らかになっている(非特許文献5)。得られたMVAウイルスは、鳥類に対する高度な宿主細胞制限となる。さらに、MVAは、その極度な弱毒化性に特徴付けられる。様々な動物モデルで試験したところ、MVAは免疫抑制動物においてさえも無毒であることが分かった。さらに重要なことに、広範囲の臨床試験においてMVA株の優れた性質が実証された(非特許文献6、非特許文献7)。高リスクの患者を含む120,000人のヒトにおけるこれらの研究の間、MVAワクチンの使用に関連する副作用はみられなかった。ワクチンとして有効な組換えMVAはすでに構築されており、臨床試験に利用されている。特許文献6に、デング熱ウイルス抗原をコードしているDNA配列を1つまたはそれ以上含み、発現させることができる組換えMVAが開示されている。MVAゲノム中で自然に起こる欠失部位において、外来DNA配列をウイルスDNA中に組換えた。
【0008】
予防接種にポックスウイルスまたは組換えポックスウイルスを用いる前に、ウイルスを、規制の必要条件を満たすようにある程度まで精製する必要がある。ポックスウイルス、特にMVAおよび組換えMVAを精製するための従来の方法は以下の通りである:第一工程でそれぞれのポックスウイルスに感染可能な細胞を培養する。MVAの場合に可能な細胞は一般にトリ胎児胚繊維芽細胞である。可能な細胞をポックスウイルスで感染させ、ウイルスの子孫が発生するのに十分な時間培養する。ついで培養バイアル表面からの細胞を分離し、細胞を部分的に分解するために、細胞を凍結、溶解させる。無傷の細胞と破壊された細胞の混合物をスピンダウンさせる。超音波を用いてホモジネートを産生させる。スクロースクッション遠心分離によりホモジネートからウイルスを精製する(非特許文献8)。この手順中で重要な工程は、超音波を用いた均質化である(非特許文献9;非特許文献10)。工業用の手順においては、全ての工程が容易に制御および再生できることが好ましい。しかしながら、ウイルスと細胞の懸濁液を均質化するために超音波を用いることの不都合として、超音波工程を同一様式で再生することが難しいこと、調整が難しいこと、およびこの手順を研究所の規模から工業規模へ拡大するのが難しいこと、が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,736,368号明細書
【特許文献2】米国特許第6,051,410号明細書
【特許文献3】欧州特許明細書第83,286号明細書
【特許文献4】欧州特許明細書第110,385号明細書
【特許文献5】スイス特許第568,392号明細書
【特許文献6】国際公開第98/13500号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Mackett,M.,Smith,G.L.およびMoss,B.[1982年]P.N.A.S. USA79巻、7415〜7419頁
【非特許文献2】Smith,G.L.,Mackett,M.およびMoss,B.[1984年]Biotechnology and Generic Engineering Reviews 2巻、383〜407頁
【非特許文献3】Morita et. al.,Vaccine 5巻、65〜70頁[1987年]
【非特許文献4】Mayr,A.,Hochstein−Mintzel,V.およびStickl,H.[1975年]Infection 3巻、6〜14頁
【非特許文献5】Meyer,H.,Sutter,G.およびMayr A.[1991年]J.Virol. 72巻、1031〜1038頁
【非特許文献6】Mayr et al.,Zbl.Bakt.Hyg.I、Abt.Org.B167、375〜390頁[1987年]
【非特許文献7】Stickl et al.,Dtsch.med.Wschr.99巻、2386〜2392頁[1974年]
【非特許文献8】Joklik WK.「4つのポックスウイルス菌株の精製(The purification of four strains of poxvirus.)」Virology 1962年;18巻:9〜18頁
【非特許文献9】Hedstorm,K.G.およびLindberg,U.,Z.Immun.Forsch.1969年 137巻:421〜430頁
【非特許文献10】Stickl,H.,Korb,W.およびHochstein−Mintzel,V.,Zbl.Bakt.,I.Abt.Orig.(1970年)、215巻、38〜50頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、ポックスウイルス、特に、MVA株などのワクシニアウイルスをポックスウイルス感染細胞から採取する方法を、感染細胞の均質化が再生可能であり、制御が容易で研究所規模から工業規模へ拡大できるような形で供給することは本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ポックスウイルス、特に、エルストリー株または改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)などのワクシニアウイルスを感染細胞から採取する方法に関する。感染細胞からポックスウイルスを採取するための、本発明による方法には、ポックスウイルス含有ホモジュネートを得るために感染細胞を高圧均質化にかける工程が含まれる。
【0013】
本発明による方法によって無傷で感染性のポックスウイルスを採取することは予想していなかった。高圧均質化は、真核細胞および原核細胞からタンパク質または脂質を単離する目的で、細胞性および副細胞性の構造物を破壊するために一般的に利用される。米国特許第3,983,008号に、高圧均質化を用いて微生物細胞から有効成分を抽出する方法が開示されている。そこで抽出された成分は酵母のタンパク質、細菌の酵素、および酵母の脂質であった。第DE19918619号に、酵母細胞からのHbsAgの単離するための高圧均質化の利用が開示されている。米国特許第4,225,521号に、高圧均質化により、微生物細胞からグルコースイソメラーゼを抽出する手順が記載されている。高圧均質化はまた、組換えサッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からウイルス様粒子(VLP)を単離するため(Milburn and Dunnill(1994年)Biotechnology and Bioengineering 44巻、736〜744頁)、およびアデノウイルスベクターを生産および精製するため(米国特許第6,194,191号)にも利用されている。VLPsおよびアデノウイルスはエンベロープを持たず、より小さく単純なウイルスであり、そのため細胞性タンパク質構造物に似ている。ゆえに、細胞からのタンパク質単離に適すことが示された高圧均質化が、真核細胞からのアデノウイルスおよびVLPsの単離にも利用されることは驚くことではない。一方、細胞内成熟ポックスウイルスビリオン(IMV、以下参照のこと、Fields et al.,Fields Virology、1996、Lippincott−Raven Publishers、Philadelphia、USA、ISBN 0−7817−0253−4、83章 2654〜2655頁を参照のこと)は非常に複雑な組織形態をもち、それにはとりわけ脂質膜があげられる。ポックスウイルスIMVの組織形態および物理的性質は、ある局面においてはエンベロープを持たないウイルスの組織形態および物理的性質よりも、細胞の組織形態および物理的性質により綿密に関連する。したがって、高圧均質化による細胞破壊に用いた条件により、ポックスウイルスの破壊も導かれると期待できた。したがって、高圧均質化により、細胞が破壊されるがかなりの量のポックスウイルスが無傷のまま残り、さらに精製可能であったことは意外な結果であった。言い換えれば、高圧均質化を感染細胞からポックスウイルスを採取する方法に利用できることはだれも想定しなかった。実際、公知の感染細胞からポックスウイルスを採取する方法においては、均質化のより一般的な手段である超音波を均質化に用いる。
【0014】
超音波を用いた採取法と対比して、本発明による方法を用いると、感染細胞の均質化が再現可能になる;本方法は容易に制御することができ、また研究室規模から工業規模への拡大が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は均質化工程の最期にウイルス力価を示す。
【0016】
本発明の文中において用いる用語「ポックスウイルス(poxvirus)」は、ポックスウイルス科に属する任意のウイルスを指す。本発明による方法は、コルドポックスウイルス亜科に対して行なうことが好ましく、オルトポックスウイルス属、アヴィポックスウイルス属、カプリポックスウイルス属およびスイポックスウイルス属のポックスウイルスに対して行なうことがさらに好ましい。最も好ましくは、本発明はワクシニアウイルス、ヤギ痘ウイルス、ヒツジ痘ウイルス、カナリヤ痘ウイルスおよび鶏痘ウイルスからなる群から選択したポックスウイルスを採取および精製する方法に関する。特に好ましいのは、ワクシニアウイルスである。本発明による方法に用いるワクシニアウイルス株の例としては、Elstree株、Wyeth株、Copenhagen株、Temple of Heaven株、NYCBH株、Western Reserve株が挙げられる。本発明は、ここに挙げた特定のワクシニアウイルスに限定されず、任意のワクシニアウイルス株を代わりに用いて良い。ワクシニアウイルス株の好ましい例は、改変ワクシニアウイルス株アンカラ(MVA)である。一般的なMVA株はMVA575であり、European Collection of Animal Cell Culturesに、寄託番号第ECACC V00120707号で寄託されている。最も好ましいのはMVA−BNまたはその誘導体である。MVA−BNは国際特許第WO 02/42480号(第PCT/EP01/13628号)に記載されている。前述の国際出願には、あるMVA株に対し、それがMVA−BNであるか、その誘導体であるかを評価することができる検定法、およびMVA−BNまたはその誘導体を得る方法が開示されている。この出願の内容は、本出願に参考文献として組み込まれている。MVA−BNはEuropean Collection of Animal Cell Culturesに、委託番号第ECACC V00083008号で保管されている。
【0017】
採取しようとするウイルスは、天然のウイルス、弱毒化ウイルス、または組換えウイルスであって良い。
【0018】
用語「組換え体ウイルス(recombinant virus)」という言葉は、ウイルスゲノム中に、本来のウイルスゲノムの一部ではない異種遺伝子を挿入されたような任意のウイルスを指す。異種遺伝子は治療的な遺伝子、免疫応答を誘導するための、抗原をコードしている遺伝子、または少なくとも一つのエピトープを有するペプチド、アンチセンス発現カセットまたはリボザイム遺伝子であって良い。組換え体ウイルスを得る方法は、当業者に公知である。異種遺伝子は好ましくはウイルスゲノムの必要不可欠ではない部位に挿入する。本発明の他の好ましい実施様態では、異種核酸配列を、MVAゲノムの自然に起こる欠失部位に挿入する(第PCT/EP96/02926号に記載)。
【0019】
「弱毒化ウイルス(attenuated virus)」とは、宿主となる生物体に感染した際の死亡率および/または罹患率が、弱毒化していない親ウイルスに比べて低いウイルスを指す。弱毒化ワクシニアウイルスの例としては、MVA株、特にMVA−575およびMVA−BNが挙げられる。
ワクシニアウイルスのようなポックスウイルスは、二つの異なる形態で存在することが分かっている:感染細胞の細胞質中の細胞膜に付着するポックスウイルス(細胞内成熟ウイルス(IMV))および外面化されたウイルス(細胞外外被ウイルス(extracellular enveloped virions:EEV))である(Vanderplasschen A,Hollinshead M,Smith GL「細胞内および細胞外ワクチンウイルスは、異なる機構によって細胞内に侵入する(Intracellular and extracellular vaccinia virions enter cells by different mechanisms)」J.Gen.Virol.(1998年)、79巻,877−887頁)。IMVsおよびEEVs両方が感染性があるが、しかしEEVがさらなるリポタンパク質エンベロープを含むので、形態学的に異なる。通常の環境下では、IMV粒子はEEVよりも豊富であるが、本発明による方法では、両方の型の粒子を得ることができる。
【0020】
本発明による均質化段階のための開始物質は、それぞれのポックスウイルスで感染した細胞である。本発明の均質化のための開始物質を定義するために使用した「感染細胞(infected cell)」は、それぞれのウイルスが感染した無傷の細胞、それぞれのポックスウイルスが接着した感染細胞の部分および断片、または無傷の細胞と溶解/分解細胞の混合物を意味する。感染細胞の部分または断片の例は、それぞれのポックスウイルスが接着した、崩壊/溶解細胞の細胞膜である。開始物質はまた、細胞膜に接着しないか、細胞内に局在しない遊離ウイルス粒子を含みうる。
【0021】
本発明による方法のための開始物質である感染細胞を得るために、真核細胞に、それぞれのポックスウイルスを感染させる。真核細胞は、それぞれのポックスウイルスの感染に感受性であり、感染性ウイルスの複製および産出を許容する細胞である。そのような細胞は、すべてのポックスウイルスの当業者に公知である。MVAおよびワクシニアウイルス株Elstreeに関して、この型の細胞の例は、ニワトリ胎児繊維芽細胞(CEF)(Drexler I.,Heller K.,Wahren B.,Erfle V.and Sutter G.「高度に弱毒化した改変ワクシニアアンカラは、ウイルス増殖の潜在的な宿主である生まれたばかりのハムスターの腎臓細胞中で複製するが、様々なヒト移植細胞および自己細胞中では複製しない(Highly attenuated modified vaccinia Ankara replicates in baby hamster kidney cells,a potential host for virus propagation,but not in various human transformed and primary cells.)J.Gen.Virol.(1998年)、79巻、347〜352頁)である。CEF細胞は当業者に公知の条件下で培養することができる。好ましくは、CEF細胞はステーショナリーフラスコまたはローラーボトル内で、血清を含まない培地中で培養する。インキュベーションは、好ましくは37℃±2℃において48〜96時間行なう。感染については、好ましくは感染の多重度(MOI)0.05〜1 TCID50にてポックスウイルスを用い、インキュベーションを、好ましくは37℃±2℃にて48〜72時間行なう。
【0022】
感染の進行は細胞変性の影響(CPE)を見ることにより、特に感染細胞のかなりのラウンディング(円形化)があらわれることにより、観測することができる。
【0023】
本発明により、ElstreeまたはMVAなどのポックスウイルスを感染細胞から採取することが可能になる。「採取(recovery)」という言葉を使うことにより、本発明の方法によりポックスウイルス感染細胞を崩壊させること、および/またはポックスウイルスを、それらが通常付着する細胞膜から、さらにポックスウイルスを精製することが可能になるような程度に分離することが可能になることを表わす。したがって、感染細胞からのポックスウイルスの採取で得た産物(本明細書では「ポックスウイルス含有ホモジネート(poxvirus−containing homogenate)」と呼ぶ)は、遊離ポックスウイルスと、無傷の、破壊されていない細胞および細胞膜に付着しているウイルスをほんの少量だけ含む細胞性有機堆積物との均質な混合物である。
【0024】
感染細胞が、懸濁培地で培養できる細胞である場合、感染細胞は遠心分離により容易に回収することができる。感染細胞がほぼ無傷の付着細胞である場合、高圧均質化にかける前に、回収、すなわち培養バイアルから取り除く必要がある。このような方法は当業者に公知である。有用な技術としては、機械的方法(例えば、ゴム製セルスクレーパーの使用による方法)、物理学的方法(例えば、−15℃以下で凍結させてから、培養容器を+15℃以上で解凍させる)または生化学的方法(例えばトリプシンなどの酵素で処理し、培養容器から細胞を分離する)があげられる。この目的のために酵素を用いる場合には、インキュベーションをしている間に、酵素によりウイルスも損傷を受けるため、インキュベーション時間を制御する必要がある。
【0025】
本発明による方法においては、感染細胞、さらに特に回収した感染細胞を次に高圧均質化工程にかける。本明細書では「高圧均質化(high pressure homogenization)」という言葉は時折「HPH」と省略する。高圧均質化は二重の効果をもつ。一方では、高圧均質化により無傷の細胞を破壊することができる。したがって、IMVsが遊離し、さらに精製できる状態になる。もう一方では、高圧均質化により、ポックスウイルスを細胞膜から分離する、または少なくとも細胞−膜−ウイルス集合体の大きさを減少させることができる。また、これによりポックスウイルスのさらなる精製が簡単になる。
【0026】
当業者は、高圧均質化の一般的な原理を熟知している(White MD、Marcus D.,「微生物の分解(disintegration of microorganisms)」、Adv.Biotechnol.Processes 1998年;8巻:51〜96頁)。HPH系は、制御された、繰り返し可能な条件下で高圧により、試料を小さな固定したオリフィスに高速で通すことに基づいている。本明細書で使用するところの「ジェット(jet)」、「オリフィス(orifice)」、および「ノズル(nozzle)」は互換性を持つ。
【0027】
それぞれの細胞破壊器の中心となるのは、破壊頭部である。破壊頭部は好ましくは(I)高圧チャンバー/シリンダー、(II)前記チャンバー/シリンダーの中へ移動し、それによってチャンバー/シリンダー内の圧力が上昇するような高圧ピストン、および(III)チャンバーの内容物が噴出する時に通るノズル/ジェットからなる。噴出したチャンバーの内容物は、好ましくは冷却可能な熱交換表面を有する金属片などの標的表面に注がれる。破壊されたチャンバー内容物を収集するために、この系には破壊された試料の収集法が備えられている(「収集チャンバー(collection chamber)」と呼ぶ)。一般的な高圧均質化ユニットは、Constant Cell Disruption Systems(Low March、Daventry、Northants、NN114SD、United Kingdom)のBasic Z+である。
【0028】
好ましい実施様態においては、高圧均質化系を用いた細胞破壊を行なうには三つの工程がある。(I)試料を高圧シリンダー/チャンバーの中に入れる。次にシリンダー/チャンバー内の圧力を強める。最後に高圧ピストンを下げる。(II)ついでピストンを試料が高速でノズルを通るようにする。高圧部から低圧部へ試料が急速に移動することにより、細胞破壊が起こる。(III)試料が標的に当たり、冷却した熱交換表面に急速に広がる。ついで産物をチャンバー内に流して、収集する。液圧を再充電させ、この周期を続ける。工程の最後に、噴出させたホモジネートを量に応じて適切なバイアル中に収集する。
【0029】
本発明によるポックスウイルスの採取に用いるには、ノズルの直径は0.10〜0.6mm、0.15〜0.6mm、0.15〜0.50mmの範囲で、好ましくは0.15〜0.40mm、0.20〜0.50mmの範囲、さらに好ましくは0.20〜0.40mm、最も好ましくは0.25mm〜0.35mmであることが必要である。最も好ましい直径の例は、0.25mmおよび0.35mmである。
【0030】
圧力チャンバー/シリンダー内の圧力は、200〜1000bar、好ましくは400〜1000bar、200〜800bar、さらに好ましくは400〜800bar、600〜1000bar、さらに好ましくは600〜900bar、最も好ましくは700〜900barに設定する。最も好ましい圧力は800barである。
【0031】
出口でのホモジネートの温度は、好ましくは+25℃を超えず、好ましくは15℃以下、最も好ましくは10℃以下である。
【0032】
本発明による方法は、ほとんど直線的にスケールアップでき、一回ずつででも、連続工程ででも実行することができる。
【0033】
一回ずつの工程においては、均質化するそれぞれの細胞バッチを一回または数回高圧均質化工程にかけることができる。好ましくはそれぞれのバッチは一回〜三回、最も好ましくは一回だけ均質化工程にかける。
【0034】
均質化工程の結果は、好ましくは上記で定義した開始物質(初期物質)および均質化工程の後に得られた物質のウイルス力価(組織培養物感染用量(TCID50)またはプラーク形成ユニット(pfu)のどちらかで測定した、感染性ウイルス粒子の数と等量)の測定により確認して良い。言い換えれば、高圧均質化の前後でウイルス力価を測定する。初期物質にはほぼ無傷の細胞が含まれ、細胞膜に付着したポックスウイルス粒子を含む集合体の割合が高い。そのような物質をウイルス力価の測定に用いた場合、得られる力価は実際の感染性粒子の数よりも低い。これは、ウイルス力価の測定に用いる試験系が、通常感染細胞の数またはプラーク数を計測するような細胞培養系(実施例2に開示したような系)であることによる。そのような系では、ただ一つのウイルス粒子による感染を示す陽性の結果と、例えば細胞膜に付着したウイルスの大きな集合体による感染を示す陽性の結果との区別ができない。高圧均質化後、ポックスウイルスが細胞膜から分離するようになり、および/または細胞膜−ウイルス集合体の大きさがかなり減少し、たくさんのより小さな集合体となる。この物質を力価の測定に用いた場合、たとえ実際の感染性ウイルス粒子の数が変わらなくても、得られる結果はより高くなる。このように、均質化の結果は、好ましくは初期物質と比べて少なくとも等量またはより高いホモジネートのTCID50/ml(「TCID」は「組織培養物感染用量(tissue culture infectious dose)」の略語である)に反映される。実施例項においてTCID50/ml値がどのように測定されるかを示す。あるいは、高圧均質化の質および結果は電子顕微鏡により測定することができる。
【0035】
さらに精製するために、得られたホモジネートを少なくとも一回の精製工程にかけポックスウイルスに富んだ画分を得る。特に、前述のワクシニアウイルスのさらなる精製を企図している場合、これらの工程はワクシニアウイルス含有ホモジネートに対して行なうことができる。
【0036】
精製工程はすなわち
−一回のバッチ分離(例えばスクロースクッションを用いた)または連続フロー超遠心分離(スクロース勾配)(Hilfenhaus,J.,Kohler,R.and Gruschkau,H.,J.Biol.Stand.(1976)4、285〜293;Madalinski,W.,Bankovski,A. and Korbecki,M.Acta Virol.(1977年)21巻、104〜108頁)、
−限外濾過(例えば、孔の大きさが50kDa以上で0,1μm以下の膜を用いたクロスフロー濾過)、
−カラムクロマトグラフィー(例えば、イオン交換、疎水性相互作用、サイズ排除またはそれらの組み合わせ)(Hedstrom,K.G. and Lindberg,U.,Z.ImmunForsch.1969年 137巻:421〜430頁;Stickl,H.,Z.Immun.Forsch.1969,137:421−430;Stickl,H.Korb,W. and Hochstein−Mintzel,V.,Zbl.Bakt.,I.Abt.Orig.(1970年)、215巻、38〜50頁)、または
−上記全ての組み合わせ(Masuda,N.,Ellen,R.P. and Grove,D.A.,J.Bacteriol.(1981年)、147(3)巻、1095〜1104頁)
でありうる。当業者に公知のその他の任意の方法も本発明の範囲に含まれる。
【0037】
精製工程が限外濾過工程であることが好ましい。限外濾過は、クロスフロー濾過であることが最も好ましい。クロスフロー濾過の原理は、当業者に公知である。例えば、Richards、G.P. and Goldmintz,D.,J.Virol.Methods(1982年)、4(3)巻、147〜153頁「接種したカキ組織ホモジネートからのポックスウイルスの抽出に対するクロスフロー濾過技術の評価(Evaluation of a cross−flow filtration technique for extraction of polioviruses from inoculated oyster tissue homogenates)」を参照のこと。
【0038】
一つの精製段階で、生物薬学的な産物に要求される規制に十分見合うかもしれないが、さらに精度の高い産物を得るために、二つ、またはそれ以上の上記の精製工程を組み合わせて行なって良い。
【0039】
最も好ましい実施様態においては、第一精製工程はクロスフロー濾過であり、続いて少なくとも一つのカラムクロマトグラフィー工程を行なう。最も好ましいカラムクロマトグラフィー工程はイオン交換または疎水性相互作用によるものである。
【0040】
得られたウイルスが濃縮された画分を、任意に凍結乾燥させる。凍結乾燥の方法は当業者に公知である(Day J. and McLellan M.,Method in Molecular Biology(1995年)、38巻、Humana Press、「低温保存および凍結乾燥プロトコール(Cryopreservation and freeze−frying protocols.)」)。
【0041】
本発明はさらに、本発明によるポックスウイルスの採取法、すなわち感染細胞を高圧均質化にかける工程を含む方法で得られる、ポックスウイルスに富んだ画分および/またはポックスウイルス含有ホモジネートにも関する。特に、本発明は、本発明による採取/精製法、すなわちHPHにより得られるポックスウイルス含有ホモジネートを少なくとも一つの精製工程にかける方法で得られる、ポックスウイルスに富んだ画分に関する。ポックスウイルスは上記で定義した任意のポックスウイルスであって良い。特に、本発明によるポックスウイルスは、予防接種に適する任意の株のワクシニアウイルスであり、特に、エルストリー株または改変ワクシニアウイルスアンカラ(Ankara)、最も好ましくはMVA−BNである。
【0042】
HPH工程を含んだ、本発明による工程で得られるポックスウイルス含有ホモジネートおよび/またはポックスウイルスに富んだ画分は、遊離IMVポックスウイルスのEEVポックスウイルスに対する比率が非常に高いことで特徴付けられる。「遊離IMV(free IMV)」という言葉は、感染細胞の破壊の後、前、または最中に細胞膜から分離され、そのためさらに精製可能なIMVsに対して用いる。ポックスウイルスの調製に関する全ての工業的工程において、初期物質は感染細胞と同様に培養物の上澄みを含む。したがって、初期物質には感染細胞に含まれるIMVポックスウイルスと同様に、主に上澄みに見られるEEVポックスウイルスも含まれる。細胞を破壊するための、および続く均質化のための公知の方法(例えば超音波を用いた)は、細胞の破壊および/または細胞性有機堆積物からのIMVポックスウイルスの分離に関して、高圧均質化ほど効果的でない。言い換えれば、ほとんどのIMVポックスウイルスが細胞膜および有機堆積物に付着したまま残る。したがって、遊離IMVのEEVに対する比率は本発明による方法に比べ低い。超音波を用いた方法では、IMVsが付着したままの細胞有機堆積物が通常取り除かれるので、さらなる精製工程の段階でもこの比率は変化しない。公知のポックスウイルス採取法と対照的に、本発明による採取法では、感染細胞は非常に効果的に破壊され、IMVsは非常に効果的に細胞膜から分離される。したがって、さらに精製することができるような遊離IMVsの総量は、従来の方法に比べ高く、その結果として遊離IMVのEEVに対する比率も高い。
【0043】
本発明による方法で得られるポックスウイルス含有ホモジネートおよび/またはポックスウイルスに富んだ画分はワクチンとして有用である。
【0044】
ポックスウイルス含有ホモジネートおよび/またはポックスウイルスに富んだ画分に、ワクシニアウイルスエルストリー株またはMVA株などの、非改変ポックスウイルスまたは弱毒化ポックスウイルスが含まれている場合、ポックスウイルス感染に対する予防接種に利用できる。例えば、エルストリー株またはMVA株、特にMVA−BN株などのワクシニアウイルスを含有するウイルス含有ホモジネートおよび/またはウイルス濃縮画分を、天然痘感染に対するワクチンとして利用して良い。
【0045】
ポックスウイルス含有ホモジネートおよび/またはポックスウイルスに富んだ画分に、一つまたはそれ以上の異種遺伝子を含む、および発現しているポックスウイルスが含まれている場合、ポックスウイルス含有ホモジネートおよび/またはポックスウイルスに富んだ画分は、さらにヒトを含む動物における、異種遺伝子により発現されるタンパク質に対する予防接種に利用して良い。
【0046】
ワクチンの調製のために、本発明による方法で得られるポックスウイルス含有ホモジネートおよび/またはポックスウイルスに富んだ画分を生理学的に許容可能な形態に変換する。これは天然痘に対する予防接種に用いるポックスウイルスワクチンの調製における経験に基づいて行なう(Stickl,H.et al.[1974年]Dtsch.med.Wschr.99巻、2386〜2392頁に記載のように)。例えば、ポックスウイルス含有ホモジネートおよび/またはポックスウイルスに富んだ画分を、−80℃にて、約10mMのTris、140mMのNaCl pH7.4中で製剤化した力価5×10TCID50/mlで保存する。ワクチン注射の調製のために、例えば、10〜10TCID50のウイルスを、2%のペプトンおよび1%のヒトアルブミン存在下で、アンプル、好ましくはガラスアンプル内で、リン酸緩衝塩水(PBS)中に凍結乾燥させる。あるいは、ワクチン注射は、処方中のウイルスを段階的に凍結乾燥させることにより生産しても良い。この処方には、生体内投与に適合するような、マンニトール、デキストラン、糖、グリシン、ラクトースまたはポリビニルピロリドンなど追加的な添加物、または抗酸化剤または不活性ガス、安定剤または組換えタンパク質(例えばヒト血清アルブミン)などのその他の添加物が含まれても良い。一般的な、凍結乾燥に適したウイルス含有処方には10mMのTris−緩衝液、140mM NaCl、18.9g/l デキストラン(MW 36000〜40000)、45g/l スクロース、0.108g/l L−グルタミン酸一カリウム塩一水和物 pH7.4が含まれる。次にガラスアンプルに封をし、4℃〜室温にて数ヶ月保存して良い。しかしながら、必要のない間は、アンプルは−20℃以下で保存するのが好ましい。
【0047】
予防接種のために、凍結乾燥させた産物を0.1〜0.5mlの水性溶液、好ましくは生理食塩水またはTris緩衝液中に溶解させ、全身的にか局所的にかどちらかで、すなわち、非経口、筋肉内、または当業者に公知のその他の任意の経路により投与して良い。当業者は、投与様式、用量および投与回数について公知の方法で最適化して良い。ポックスウイルスベクターに最も好ましいのは皮下、または筋肉内投与である。
【0048】
本発明はさらに、ヒトを含む動物への予防接種の方法にも関し、それは本発明による方法で得られるポックスウイルス含有ホモジネートまたはポックスウイルスに富んだ画分を必要とするような、ヒトを含む動物への予防接種からなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
本発明はとりわけ以下を、単独または組み合わせて含む。
【0050】
ポックスウイルス含有ホモジネートを得るために、感染細胞を高圧均質化にかける段階を含む、感染細胞からポックスウイルスを採取する方法。
【0051】
前記ポックスウイルスが、オルトポックスウイルス、アビポックスウイルス、スイポックスウイルスおよびカプリポックスウイルスからなる群から選択されることを特徴とする上記のような方法。
【0052】
前記ポックスウイルスが、ワクシニアウイルス、ヤギ痘ウイルス、ヒツジ痘ウイルス、カナリヤ痘ウイルスおよび鶏痘ウイルスからなる群から選択されることを特徴とする上記の方法。
【0053】
前記ワクシニアウイルスが改変ワクシニアウイルス株アンカラ(MVA)、特にMVA−BN(ECACC寄託番号 V00083008)であることを特徴とする上記の方法。
【0054】
前記ポックスウイルスが組換えポックスウイルスであることを特徴とする上記の方法。
【0055】
高圧均質化を、感染細胞を高圧チャンバーに入れ、チャンバー内の圧力を高めて感染細胞を、ノズルを通して噴出させることにより行なうことを特徴とする上記の方法。
【0056】
チャンバー内の圧力を200〜1000barまで高めることを特徴とする上記の方法。
【0057】
前記ノズルの直径が0.10〜0.6mmであることを特徴とする上記の方法。
【0058】
ポックスウイルスに富んだ画分を得るために、ポックスウイルス含有ホモジネートを少なくとも一つの精製工程にかけることを特徴とする上記の方法。
【0059】
少なくとも一つの精製工程が限外濾過工程であることを特徴とする上記の方法。
【0060】
前記限外濾過がクロスフロー濾過であることを特徴とする上記の方法
クロスフロー濾過に用いる膜の孔の大きさが500kDaよりも大きく0.1μmと同等かまたはそれよりも小さいことを特徴とする上記の方法。
【0061】
限外濾過に続いて少なくとも一つのカラムクロマトグラフィー工程を行なうことを特徴とする上記の方法。
【0062】
得られるポックスウイルス含有ホモジネートまたはポックスウイルスに富んだ画分を凍結乾燥させることを特徴とする上記の方法。
【0063】
上記で定義した方法により得られるポックスウイルス含有ホモジネートまたはポックスウイルスに富んだ画分。
【0064】
上記のように、ワクチンとしてのポックスウイルス含有ホモジネートまたはポックスウイルスに富んだ画分。
【0065】
上記の、ワクチンの調製へのポックスウイルス含有ホモジネートまたはポックスウイルスに富んだ画分の使用方法。
【0066】
上記で定義したように、動物体内への、ポックスウイルス含有ホモジネートまたはポックスウイルスに富んだ画分またはワクチンの投与を特徴とする、ワクチン接種を必要とするヒトを含む動物のワクチン接種のための方法。
【0067】
図面の簡単な説明
図1:
MVA−BN感染したCEF細胞を凍結融解サイクルにかけ、ウイルス−細胞懸濁液を得た。その懸濁液のウイルス力価を、実施例2に記載のようにさらに細胞−ウイルス懸濁液を精製せずに測定した(「0値」)。ウイルス−細胞懸濁液を、超音波を用いた従来から公知の均質化法(「Sonifier」)、または実施例1に記載のように本発明による均質化法(「HPH」)にかけた。HPH工程における圧力は800barであり、ノズルの直径は0.25mmであった。均質化工程の最期にウイルス力価を再度測定した。以下の実施例により本発明がさらに説明される。本発明で得られる技術がこれらの実施例への適用に限定されるという解釈をされないことを当業者には理解されたい。
【実施例】
【0068】
<実施例1>
高圧ホモジナイザーを用いたポックスウイルス−細胞懸濁液の均質化
ローラーフラスコ内で培養したニワトリ胎児胚繊維芽細胞(CEF)にMVA−BN(ECACC V00083008)を感染させた。感染細胞を凍結および融解させてウイルス−細胞懸濁液を得た。
【0069】
Constant Cell Disruption System(Low March、Daventry、Northants、NN114SD、United Kingdom)のBasic Z+ホモジナイザーに、一回の運転ごと50mlの未精製ウイルス−細胞懸濁液をつめた。最適な均質化条件を確認するために、ノズルの直径を0.18〜0.40mm、圧力を200〜1000barの範囲で試した。粗懸濁液を一回、二回、または三回高圧均質化にかけた。均質器は製造者の指示にしたがって使用した。実施例2に記載のように、力価を観測することにより、方法の評価を行なった。
【0070】
予備研究において、直径が0.4mmよりも大きいジェットを用いると、均質化の結果にプラスの影響がみられないことが分かった。直径が0.18mm、0.25mmおよび0.35mmのノズルを用いた場合に、ウイルス−細胞懸濁液を圧力800barに一回かけた際に最も良い結果が得られた。これらの条件下では力価については目立った違いは見られなかった。
【0071】
本発明による方法を、従来から公知の直接フロー型超音波処理と比較した。結果を図1に示す。本発明による方法では、超音波処理と比較して、ウイルス力価が高く、懸濁液の均質化がよりよくできた。そのため、さらに先の工程により適している。
【0072】
<実施例2>
改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)の滴定
改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)について、96ウェル形式で、10倍希釈液を用いてTCID50に基づいた検定によって滴定を行なった。この検定の最後に、抗ワクシニアウイルス抗体および適切な染色溶液を用いて感染細胞を明視化した。
【0073】
2〜3日齢の初代CEF(ニワトリ胎児胚繊維芽細胞)細胞を、7%のRPMI中1×10細胞/mlに希釈した。希釈ごと8回、10倍希釈を行なった。希釈後、96ウェルプレートにウェルごと100μlいれた。次に細胞を37℃にて、および5%のCO下で一晩インキュベートした。
【0074】
ウシ胎児血清を含まないRPMIを用いて、ウイルス含有溶液の希釈を10倍工程(10−1〜10−12)で行なった。ついで、細胞含有ウェルにそれぞれのウイルス試料を100μlずつ加えた。96ウェルプレートを37℃にて、5%のCO下で5日間インキュベートし、感染およびウイルス複製をさせた。
【0075】
感染後5日間、ワクシニアウイルスに特異的な抗体で細胞を染色した。特異的な抗体を検出するために、セイヨウワサビペルオキダーゼ(HRP)結合二次抗体を用いた。MVAに特異的な抗体は、抗ワクシニアウイルス抗体、ウサギポリクローナル、IgG画分(Quartett、Berlin、Germany#9503〜2057)である。二次抗体は、抗ウサギIgG抗体、HRP結合ヤギポリクローナル(Promega、Mannheim、Germany、#W4011)である。着色反応を公知の技術したがって行なった。
【0076】
着色反応において陽性の細胞があるウェルを全て陽性とし、TCID50の計算に用いた。Spearman[1]およびKaerber[2]の計算式を用いて力価を計算した。全ての検定指数は一定のため、以下の単純化した計算式を用いた:
ウイルス力価
【0077】
【数1】

a=8つのウェルすべてが陽性であるような最終カラムの希釈数
=カラムa+1の、陽性ウェルの数
=カラムb+1の、陽性ウェルの数
=カラムc+1の、陽性ウェルの数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染細胞を高圧均質化し、ポックスウイルス含有ホモジネートを得る段階を含み、Basic Z+ホモジナイザー(Constant Cell Disruption Systems、Low March、Daventry、Northants、NN114SD、United Kingdom)が使用される場合には、前記高圧均質化が、感染細胞を高圧チャンバー内に入れ、チャンバー内の圧力を200〜1000barの値まで増加させ、感染細胞を0.10〜0.6mmの範囲の直径を有するノズルを通して排出することによって実施される、感染細胞よりポックスウイルスを採取するための方法。
【請求項2】
感染細胞を高圧均質化し、ポックスウイルス含有ホモジネートを得る段階を含み、前記高圧均質化が、感染細胞を高圧チャンバー内に入れ、Basic Z+ホモジナイザー(Constant Cell Disruption Systems、Low March、Daventry、Northants、NN114SD、United Kingdom)において200〜1000barのチャンバー内圧力および0.10〜0.6mmの範囲の直径を有するノズルを用いた場合に相当する条件下で、感染細胞をノズルを通して排出することによって実施される、感染細胞よりポックスウイルスを採取するための方法。
【請求項3】
前記ポックスウイルスが、オルトポックスウイルス(orthopoxviruses)、アビポックスウイルス(avipoxviruses)、スイポックスウイルス(suipoxviruses)およびカプリポックスウイルス(capripoxviruses)からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記ポックスウイルスが、ワクシニアウイルス(vaccinia virus)、ヤギ痘ウイルス(goatpoxvirus)、ヒツジ痘ウイルス(sheeppoxvirus)、カナリア痘ウイルス(canarypoxvirus)および鶏痘ウイルス(fowlpoxvirus)からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1〜3のうちいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ワクシニアウイルスが、Elstreeまたは改変ワクシニアウイルス株アンカラ(modified vaccinia virus strain Ankara;MVA)、特に、ECACC寄託番号第V00083008号のMVA−BNであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポックスウイルスが、組換え体ポックスウイルスであることを特徴とする、請求項1〜5のうちいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記高圧均質化は、感染細胞を高圧チャンバー内に入れ、チャンバー内の圧力を増加させ、感染細胞をノズルを通して排出することによって実施されることを特徴とする、請求項1〜6のうちいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記チャンバー内の圧力を、200〜1000barの範囲の値まで増加させることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ノズルが、0.10〜0.6mmの範囲の直径を有する、請求項7〜8のうちいずれかに記載の方法。
【請求項10】
均質化するそれぞれの細胞バッチを一回〜三回高圧均質化工程にかける、請求項1〜9のうちいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記ポックスウイルス含有ホモジネートを、少なくとも1つの精製段階にかけ、ポックスウイルスに富んだ画分を得ることを特徴とする、請求項1〜9のうちいずれかに記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの精製段階の1つが、限外濾過段階であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記限外濾過が、クロス−フロー−濾過であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記クロス−フロー−濾過段階において、500kDaより大きく、0.1μm以下の孔の大きさを有する膜を使用することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記限外濾過に続き、少なくとも1つのカラムクロマトグラフィー段階を実施することを特徴とする、請求項12〜14のうちいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記ポックスウイルス含有ホモジネートまたはポックスウイルスに富んだ画分を凍結乾燥することを特徴とする、請求項1〜15のうちいずれかに記載の方法。
【請求項17】
感染細胞をホモジナイザーの高圧チャンバー内に入れ、Basic Z+ホモジナイザー(Constant Cell Disruption Systems、Low March、Daventry、Northants、NN114SD、United Kingdom)が使用される場合には、チャンバー内の圧力を200〜1000barの値まで増加させ、感染細胞を0.10〜0.6mmの範囲の直径を有するノズルを通して排出することよって実施される感染細胞の高圧均質化により得ることができる、ポックスウイルスに富んだ画分またはポックスウイルス含有ホモジネート。
【請求項18】
ワクチンとしての、請求項17に記載のポックスウイルスに富んだ画分またはポックスウイルス含有ホモジネート。
【請求項19】
ワクチンの調製のための、請求項17に記載のポックスウイルスに富んだ画分またはポックスウイルス含有ホモジネートの使用。

【図1】
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【公開番号】特開2010−46093(P2010−46093A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−263687(P2009−263687)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【分割の表示】特願2003−554879(P2003−554879)の分割
【原出願日】平成14年12月13日(2002.12.13)
【出願人】(502240076)バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ (18)
【Fターム(参考)】