説明

感温塗料および感温センサ

【課題】感温色素がバインダであるフッ素系ポリマーに均一に分散し且つ溶媒が揮発すると表面が滑らかな薄膜を形成する感温塗料を提供する。
【解決手段】発光性を有するローダミンB誘導体RhoB-MAを、フッ素系ポリマーを構成するメタクリル酸イソブチル、及びメタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルエステルに共重合させてフッ素系ポリマーを構成する単量体の原子団または官能基を成すようにする。そして、そのフッ素系ポリマーをトルエンに溶解して感温塗料を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温塗料および感温センサ、特に、被測定対象物の外表面形状に依らずに塗装面に対し感温色素が均一に分散し且つ表面が滑らかな薄膜を被測定対象物上に形成する感温塗料および感温センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば航空宇宙分野を例にとると、大型実用風洞における表面温度場計測は、流れ場を飛行する航空機に起こり得る様々な流体力学的現象を解明する有効な手段として期待されている。航空機の飛行性能は、翼表面の流れの特性に大きく依存する。翼表面では層流と乱流という状態が混在し、乱流が支配的になる(流れが翼から剥離する)と摩擦抵抗が増し、失速するようになる。特に、流れが層流から乱流に移行する現象のことを遷移現象と呼んでいる。また、熱伝達率は流れの状態が乱流であるか又は層流であるかにより異なるため、翼表面の温度分布を計測し、得られた温度分布から熱伝達率を求めることにより遷移現象のパターンを評価することが出来る。
感温塗料(Temperature-Sensitive Paint:TSP)を用いた温度場計測は、感温塗料に含まれた色素の発光が熱的失活により消光する現象を利用したものである。被測定対象物である模型外表面に塗られた感温塗料に励起光を照射すると色素が発光する。その発光強度は温度と相関関係があり、模型上の発光強度分布をCCDカメラで計測することにより模型の表面温度場を求めることができる(例えば、特許文献1を参照。)。
また、最近ではマイクロマシーンのような微小領域を対象とした計測が注目されており、センサー自身が分子レベルの大きさを持つ感圧、感温塗料は、これら微小領域を対象とした計測分野に対しても好適に応用することが出来る計測ツールの一つである。
ところで、感温塗料は、発光を担う感温色素とバインダーであるポリマー及びこれらを溶解する溶媒から構成されている。風洞実験の場合、被測定対象物である模型への塗布はスプレーガンを用いて行っている。塗布された感温塗料中の溶媒はすぐに揮発し、模型上にはポリマーと感温色素だけが残って薄膜化する。この時、溶媒によっては揮発状態の場所依存性が影響して色素のみが多く凝集する部分ができてしまい、感温色素の分散特性が不均一な薄膜が形成されることが起こり得る。この現象は、同一温度に対する発光強度のバラツキを引き起こし感温塗料の計測精度に影響を与える。特に、マイクロフローを可視化するような微小領域計測では、その影響は顕著に現れる。
また、感温塗料を作製する場合には、感温色素とポリマーの両方に可溶な共通溶媒を用い且つ塗装面を滑らかに仕上げるため揮発速度の遅い塗料を作製することが望ましい。さらに、溶媒に対して同じ溶解性を有することが理想的である。しかし、感温色素とポリマーの双方に適合する溶媒は未だないのが現状であり、実際は、感温色素に適合した溶媒を用いて感温塗料が作製されている。しかも、感温色素に対し使用できる溶媒はごく少数に限定されている(例えば、特許文献1の[0006]を参照。)。現在使用されている感温色素はポリマーと混合した場合の溶媒に対する適合性が悪く(ポリマーが溶媒に適合していないため)、その溶媒を用いて作製した薄膜の塗装面は粗く、実用向きではない。風洞実験では塗装面の粗さが計測精度に影響することがわかっており、感温塗料を評価する上で重要なパラメータとなっている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−29767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の感温塗料は、感温色素とバインダとを一定の当量比で一定量の溶媒に混合させることにより作製していた(例えば、特許文献1の[0005]を参照。)。この場合注意しなければならないことは、感温色素の溶媒に対する溶解度と、ポリマーの溶媒に対する溶解度が同程度であるような感温色素とポリマーの組を選択し、且つ感温塗料の塗装面を滑らかに仕上げる為に揮発速度の遅い溶媒を選択しなければならないことである。仮に、感温色素の溶解度とポリマーの溶解度が著しく相異する場合、溶媒が揮発する過程で溶解度の相対的に小さい方が先に析出し凝集するようになり、一方、溶媒の揮発速度が早い場合、感温色素およびポリマーは塗装面に対し均一に拡散することができないため、模型上に表面が粗い薄膜が形成されることになる。
しかし、前述した通り、感温色素とポリマーの双方に適合する溶媒は未だないのが現状であり、実際は、感温色素に適合した溶媒を用いて感温塗料が作製されている。現在使用されている感温色素の多くはポリマーと混合した場合に溶媒に対する適合性が極めて悪く、使用できる溶媒はごく少数に限定されている。その溶媒を用いて作製された感温塗料でさえ、模型の外表面に吹き付けて薄膜化した場合に、感温色素とポリマーとの溶解度の差異に起因する感温色素の凝集、あるいは溶媒の揮発速度に起因する表面の粗い塗装面、特に風洞実験では塗装面の粗さが計測精度に大きく影響するため、このような感温塗料は実用されない。このように感温塗料が薄膜化した際の感温色素の分布および塗装面の粗さは感温塗料の実用性を評価する上で重要なパラメータである。
そこで、本発明は、上記実情に鑑み創案されたものであって、被測定対象物の表面形状に依らずに感温色素が均一に分散し且つ表面が滑らかな薄膜を被測定対象物上に形成する感温塗料および感温センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の感温塗料は、温度を検知する感温色素と該感温色素をバインドするポリマーとを有する感温塗料であって、前記感温色素が前記ポリマーの構成物質に共重合して該ポリマーの構成要素となることにより、前記ポリマー中に均一に分散し且つ前記ポリマーは揮発速度の遅い有機溶媒に均一に親溶していることを特徴とする。
上記感温塗料によれば、感温色素がポリマーの構成物質に共重合しその単量体の原子団または官能基を成している、つまり、感温色素はポリマーを構成する物質そのものであり、感温色素とポリマーが混合されただけの従来の感温塗料とは、化学的構造が全く異なり、その結果、従来の感温塗料には見られない有利な化学的特性を有するようになる。その一つに、感温色素はポリマーに化学結合しているため、感温色素はポリマーに対し均一に分散するようになる。また、溶媒に対する溶解度はポリマーの溶解度のみに依存するようになり、従って、ポリマーに適合する溶媒を適切に選択することにより、感温色素の溶解度とポリマーの溶解度が相異する場合でも、感温色素はそのポリマーに対し均一に分散し且つ安定した形態を成しながらポリマーは溶媒中に均一に溶解するようになる。結果、その感温塗料を被測定対象物に対し液状を保持したまま塗布した際に、感温色素は被測定対象物の表面形状に依らずに塗装面に対し均一に分散するようになる。これにより、被測定対象物の塗装面は表面が滑らかな薄膜となり、その結果、塗装面の面粗さが計測精度に影響しなくなり、感温塗料は温度センサとして好適に実用され得る。
【0006】
請求項2に記載の感温塗料では、前記感温色素は、ローダミンB又はローダミンB誘導体から成ることとした。
上記感温塗料によれば、上記感温色素はポリマーを構成する物質と好適に共重合してポリマーを構成する単量体の原子団または官能基と成ることが出来る。
【0007】
請求項3に記載の感温塗料では、前記フッ素系ポリマーは、Poly(IBM-co-TFEM)から成ることとした。
上記感温塗料によれば、上記フッ素系ポリマーPoly(IBM-co-TFEM)はpoly(isobutyl methacrylate-co-2,2,2-trifluoroethyl methacrylate)の略で、上記感温色素と好適に共重合して感温色素をポリマー中に均一かつ安定に分散させるようにする。
【0008】
請求項4に記載の感温塗料では、前記有機溶媒は、トルエン,エチルベンゼン,キシレン,メチルイソブチルケトン,メチルエチルケトン,酢酸ブチル,酢酸エチル又はエチレングリコールモノブチルエーテルの何れかであることとした。
上記感温塗料によれば、上記有機溶媒は、フッ素系ポリマーに対する適合性が良好であり且つ揮発速度が遅いため、感温塗料は液状を保持したまま被測定対象物に塗布される。従って、感温塗料は、その塗装面に対して感温色素が均一に分散し且つ表面が滑らかな薄膜を形成するようになる。
【0009】
前記目的を達成するため、請求項5に記載の感温センサは、上記構成の感温塗料が被測定対象物の外表面に塗布され薄膜固化し且つ励起光が入射すると該物体表面の温度に対応して発光するように構成され、前記被測定対象物の表面温度場の計測を可能としたことを特徴とする。
上記感温センサによれば、上記構成の感温塗料を使用することにより、被測定対象物の塗装面に感温色素が均一に分散し且つ表面が滑らかな薄膜が形成される。従って、その薄膜に対し励起光が照射され且つその薄膜が温度に依存して発光するような構成を取ることにより、被測定対象物の表面温度場を好適に計測することが出来るようになる。また、感温色素が塗装面に対し均一に分散しているため、温度感度が場所に依らず一定となり、更に表面が滑らかな薄膜であるため、従来の感温塗料を用いた感温センサに対し計測精度が向上するようになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の感温塗料および感温センサによれば、下記の効果が期待される。
(1)感温色素がバインダであるポリマーに化学結合しているため、被測定対象物の外表面に塗布されて薄膜化した際にその薄膜中に感温色素が均一に分布するようになり、温度に対する感度が場所に依存することなく安定するようになる。
(2)感温色素をポリマーに化学結合させたことにより、被測定対象物の外表面に形成された薄膜の面粗さは、ポリマーの溶媒に対する適合性が支配的となり感温色素の溶媒に対する適合性は影響しなくなる。従って、ポリマーとの相性が良好な感温塗料の薄膜化に適した溶媒を選択することにより、計測精度に影響を与えることがない質の良い(表面が滑らかな膜)薄膜を被測定対象物の外表面に形成することが出来るようになる。
(3)感温色素が予めポリマーに化学結合しているため、感温塗料の作製時に感温色素とポリマーとの調合割合を考慮する必要がなくなり、調合ミス等のヒューマンエラーが起こらなくなる共に感温塗料の作製時間が大幅に短縮される。
(4)本発明の感温塗料を用いることにより、励起光および発光の波長域は共に可視光域となり、放射の波長が赤外域である赤外線カメラによる温度場計測に見られるような、設備に対する制約を受けずに温度場を計測することが出来るようになる。特に、赤外線カメラによる計測の場合、観測窓ガラス材質の制約や、背景温度の映りこみの影響を受けるが、本発明に係る感温センサのCCDカメラによる計測の場合、励起光または発光が透過する風洞観測窓として、汎用性のガラス材を採用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の感温塗料に係る一の感温色素である重合性官能基を有するローダミンB誘導体RhoB-MAの合成方法の一例を示す説明図である。
4−ニトロフタル酸無水物3[g]とN,N−ジエチル−3−アミノフェノール5.5[g]をフラスコに入れ180℃で2時間加熱する。次に、その粗生成物をジクロロメタンで抽出し、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することにより、第1のローダミンB誘導体RhoB-NO2100[mg]を得た。次に、この第1のローダミンB誘導体RhoB-NO2を、5wt%のPd/C(パラジウム・カーボン触媒)0.1[g]およびメタノール20[mL]をフラスコに入れ水素を添加することにより、第2のローダミンB誘導体RhoB-NH2を得た。更に、この第2のローダミンの誘導体RhoB-NH2を、乾燥トリエチルアミン0.6[mL]およびジクロロメタン2.2[mL]と共にフラスコに入れ氷浴にて冷却しながら、この溶液にメタクリル酸塩化物0.4[mL]を滴下し、室温下、18時間撹絆した。この反応溶液を水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させて溶媒を除去した。溶媒が除去された粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーさらに高速液体クロマトグラフ装置にて精製し、本発明の感温塗料に係る感温色素であるローダミンB誘導体RhoB-MAを得た。
【0013】
このローダミンB誘導体RhoB-MAは、発光に関与しないフェニル基へ重合性官能基を導入することによりローダミンBの発光性を維持したまま重合性を付与されたことが特徴である。さらに、ローダミンB誘導体RhoB-MAは、後述するようにフッ素系ポリマーの構成物質であるメタクリル酸イソブチル及びメタクリル酸2,2,2-トリフルオロエチルエステルに対し共重合し、これらと化学的に連結しフッ素系ポリマーを形成することにより、感温塗料のトルエン等の有機溶媒に対する溶解性が劇的に向上するようになる。
【0014】
また、感温色素としては、上記ローダミンB誘導体RhoB-MA以外に、ローダミンB(2-(3-Diethylimino-6-diethylamino-3H-xanthen-9-yl)benzoic Acid Chloride)を使用することが出来る。
【0015】
図2は、ローダミンB誘導体RhoB-MAをフッ素系ポリマーに化学結合させた本発明の感温塗料に係る発光性フッ素系ポリマー100の合成方法の一例を示す説明図である。
ローダミンB誘導体RhoB-MA 10.9[mg]とメタノール100[μL]をシュレンク管に入れ、ローダミンB誘導体RhoB-MAを予め溶かしておく。次に、これにメタクリル酸イソブチル468.7[mg]、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルエステル554.3[mg]、アゾビスイソブチロニトリル84.8[mg]、およびトルエン1.7[mL]を入れ、凍結法で脱気し、60℃のオイルバス中、暗所で24時間攪拌を行った。室温まで冷却後、メタノールを加えることにより、発光性フッ素系ポリマー100の粗生成物を得た。ポリマーの精製はクロロホルムーメタノールを用いた再沈殿およびゲル浸透クロマトグラフィーにより行ない、桃色固体の発光性フッ素系ポリマー100を得た。そして、この発光性フッ素系ポリマー100を有機溶媒、例えばトルエンに溶かすことにより本発明の感温塗料が得られる。また、有機溶媒は、トルエン以外に、トルエン,エチルベンゼン,キシレン,メチルイソブチルケトン,メチルエチルケトン,酢酸ブチル,酢酸エチル又はエチレングリコールモノブチルエーテルを使用することも可能である。
【0016】
後述するように、その感温塗料をスプレーガンにより被測定対象物(例えば、実機模型)に塗布すると、溶媒が揮発し被測定対象物の外表面に、ローダミンB誘導体RhoB-MAが均一に分散した発光性フッ素系ポリマー100の、表面が滑らかで光沢のある薄膜が形成される。そして、この滑らかな薄膜に所定の励起光を照射すると、ローダミンB誘導体RhoB-MAが励起状態から失活して基底状態に遷移する際に可視光域にピークスペクトル強度を持つ発光(蛍光)光を出射する。そして、発光の強度は薄膜の温度(≒実機模型の表面温度)と相関関係を有し、その発光の強度を求めることにより、その模型の表面温度場を計測することが出来るようになる。
【実施例】
【0017】
図3は、本発明の感温塗料を感温センサとして使用する場合の較正試験装置10を示す説明図である。
感温塗料のサンプル(スプレー塗装したサンプル)TSPの特性評価はJAXA(宇宙航空研究開発機構)所有の感温塗料較正試験装置10を用いて行った。内部の圧力とサンプル基板41の温度をコントロールできる真空チャンバー4の中にサンプルTSPを置き、感温塗料の発光強度の変化をCCDカメラ3で撮影してデータ(発光画像)を取得した。装置10は、圧力、温度をコントロールできる真空チャンバー4、励起光源2、およびCCDカメラ3から構成されている。なお、真空チャンバー4内の圧力とサンプル基板温度、CCDカメラ3、励起光源2はコンピュータ1で制御できるようになっている。励起光ヘッドの前面には励起フィルタ21、CCDカメラ3の前面には発光フィルタ31が各々取り付けられており、感温色素の発光のみ計測できるようになっている。試験結果に示す感圧,感温特性のデータは発光画像の平均値を用いている。なお、参考として、フィルタ等の仕様を以下に記す。
・励起フィルタ21:熱線吸収フィルタ(IRカットフィルタ)+380−530nmフィルタ
・発光フィルタ31:580±20nmフィルタ+IRカットフィルタ
・励起光源2:浜松ホトニクス社製Xeアークランプ(300W)
・CCDカメラ3:16bitCCDカメラ 浜松ホトニクス社製(C4880-50-26W)
【0018】
本発明の感温塗料の試験用サンプルTSPは、トルエン10[mL]に発光性フッ素系ポリマー100(感温色素:ローダミンB誘導体(RhoB-MA))0.25[g]を溶解させることにより作製した感温塗料を、スプレーガンを用いてアルミ板に白色ベースコートを塗装した基板41に塗布することにより試験用サンプルTSPを作製した。なお、基板41は、試験用サンプルTSPの発光強度を増大させるために導入した。
【0019】
また、感温塗料TSPの励起スペクトルおよび発光スペクトルは可視域において、ピークを有するため、真空チャンバ4の観測窓42のガラス材質としては、汎用品のBK7(SCHOTT GLAS社の商品名)等を使用することができる。
【0020】
図4は、本発明の感温塗料を感温センサとした使用した場合の感温特性を示すグラフである。なお、横軸は、基板41の温度を示し、縦軸は発光強度を示している。また、環境圧力を10[kPa]、60[kPa]、100[kPa]と変えて、発光強度のデータを取得した。
この図から、温度と発光強度は高い線形性を有していることが判る。また、0〜50℃に温度を増加させると、それに対応して発光強度は25%減少する。従って、この感温塗料の温度感度は0.5%/℃となる。また、これらの感温特性は、圧力にほとんど依存しておらず、風洞実験における被測定対象物の表面温度場の計測に適することがわかった。
【0021】
図5は、本発明の感温塗料を感温センサとした使用した場合の感圧特性を示すグラフである。なお、横軸は、真空チャンバ4の圧力Pを示し、縦軸は発光強度を示している。また、基板41の温度を10[℃]、30[℃]、50[℃]と変えて、発光強度のデータを取得した。
この図から、感温塗料は、圧力感度を有しておらず、更にこの感圧特性は、温度にほとんど依存しないことが判る。
【0022】
本発明の感温塗料は、従来の混合型の感温塗料(例えば、感温色素(ローダミンB)、フッ素系ポリマー(Poly-IBM-co-TFEM)および溶媒を単純に混合した系)と異なり、ローダミンB等の感温色素がフッ素系ポリマーの原子団又は官能基を成して、感温色素とバインダであるポリマーが化合物を成している。そのため、感温色素はそのポリマーに対し均一に分散した安定した形態を成すようになり、その結果、その感温塗料を被測定対象物に塗布した際に温度検知部の中核を成す感温色素が被測定対象物の表面形状に依らずに均一に分散するようになる。
さらに、従来の混合型の感温塗料では、感温色素がフッ素系ポリマーに混合した形態での溶媒に対する適合性が悪く、溶媒として揮発速度の速いジクロロメタンを用いていたため、塗装面の面粗さは粗く、その結果、計測精度が悪く、感温センサとしての実用レベルには達していなかった。対する本発明の感温塗料は、温度検知部の中核を成す感温色素が、フッ素系ポリマーの他の不飽和分子と共重合しフッ素系ポリマーの原子団又は官能基を構成した化合物となっているため、感温色素がフッ素系ポリマー中に均一に分散すると共に、溶媒に対する溶解度はフッ素系ポリマーの溶解度のみに依存するようになり、フッ素系ポリマーの溶媒に対する溶解度が劇的に向上するようになる。更に、溶媒として揮発速度の遅いトルエンを用いたことにより、感温塗料が液状を保持した状態で被測定対象物上に塗布され、溶媒が揮発すると表面が滑らかな光沢のある薄膜が形成されるようになる。
また、本発明の感温塗料を感温センサとして使用した場合、感温センサは十分な温度感度および高い線形性を有し、更に圧力にほとんど依存しないため、圧力が変動する環境、例えば風洞実験における被測定対象物の表面温度場を計測する場合であっても精度良く温度を計測することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の感温塗料および感温センサは、風洞実験における模型表面の温度場計測の他、マイクロ物体の表面温度場の計測に対しても適用可能である。なお、被測定対象物または供試体に対する感温塗料の塗装は、スプレーガン等の機械的塗装手段に限らず、筆塗り等の人的塗装手段によっても行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の感温塗料に係る一の感温色素である重合性官能基を有するローダミンB誘導体RhoB-MAの合成方法の一例を示す説明図である。
【図2】ローダミンB誘導体RhoB-MAをフッ素系ポリマーに化学結合させた本発明の感温塗料に係る発光性フッ素系ポリマーの合成方法の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の感温塗料を感温センサとして使用する場合の較正試験装置を示す説明図である。
【図4】本発明の感温塗料を感温センサとした使用した場合の感温特性を示すグラフである。
【図5】本発明の感温塗料を感温センサとした使用した場合の感圧特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1 パーソナルコンピュータ
2 キセノン光源
3 CCDカメラ
4 真空チャンバ
10 感温塗料の較正試験装置
100 発光性フッ素系ポリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度を検知する感温色素と該感温色素をバインドするポリマーとを有する感温塗料であって、前記感温色素が前記ポリマーの構成物質に共重合して該ポリマーの構成要素となることにより、前記ポリマー中に均一に分散し且つ前記ポリマーは揮発速度の遅い有機溶媒に均一に親溶していることを特徴とする感温塗料。
【請求項2】
前記感温色素は、ローダミンB又はローダミンB誘導体から成る請求項1に記載の感温塗料。
【請求項3】
前記ポリマーは、フッ素系ポリマーPoly(IBM-co-TFEM)から成る請求項1又は2に記載の感温塗料。
【請求項4】
前記有機溶媒は、トルエン,エチルベンゼン,キシレン,メチルイソブチルケトン,メチルエチルケトン,酢酸ブチル,酢酸エチル又はエチレングリコールモノブチルエーテルの何れかである請求項1から3の何れかに記載の感温塗料。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の感温塗料が被測定対象物の外表面に塗布され薄膜固化し且つ励起光が入射すると該物体表面の温度に対応して発光するように構成され、前記被測定対象物の表面温度場の計測を可能としたことを特徴とする感温センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−231212(P2007−231212A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57241(P2006−57241)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月20日 社団法人高分子学会主催の「第54回高分子討論会」において文書をもって発表
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】