説明

感湿捲縮性太細複合繊維

【課題】吸湿すると捲縮が発現し、見かけ糸長が収縮することによって織編地の目が閉じ、透け防止、防水機能を有する布帛用の原糸を提供する。
【解決手段】ポリアミド成分とポリエステル成分とがサイドバイサイドに接合された複合繊維であって、長手方向に太部と細部を有し且つ下記要件を満足する感湿捲縮複合繊維。A)ポリエステル成分が構成単位のうち少なくとも60モル%がエチレンテレフタレート単位で、0.5〜40モル%がエチレンイソフタレート単位である共重合ポリエステルであり、該ポリエステルが特定のポリエーテルエステルアミドをポリエステル全重量に対して5〜55重量%含むこと。B)捲縮率(DC)が4.0〜12.0%、捲縮率(HC)が5.0〜13.0%であり、下記式で表されるこれらの捲縮率の差△Cが0.3〜8.0%であること。ΔC(%)=HC(%)−DC(%)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿度変化に対して可逆的に捲縮率が変化する感湿性捲縮自己調節素材に関する。さらに詳しくは、吸湿すると捲縮が発現(増加)することで、糸の見掛け長さが収縮することにより、織編目が閉じる性質を有し、かつスパンライクな風合いを呈する布帛を得ることができる太細を有する複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
綿や羊毛などの天然繊維の織編物を用いた衣料は、湿度変化に対して可逆的に捲縮率が変化するため、周囲の湿度に応じて織編物の目が開いて通気性が向上し、体を衣料の間や、衣料間にできた空気層の湿度を下げるといった特性、いわゆる通気性自己調節機能と、繊維自らが汗等の水分を吸着し、放湿する吸放湿性能有している。そのため、このような天然繊維を用いた衣料を着用すると、周囲の湿度変化や汗による不快感を感じることは少ない。このような天然繊維にならって、合成繊維にも吸湿による捲縮性自己調節機能を付与する試みがなされている。例えば、特許文献1では、変性ポリエステルとポリアミドをサイドバイサイドに接合し湿度変化に対し可逆的な形態変化を付与する複合繊維が提案されている。
【0003】
その後、降雨等で濡れたときに、原糸の捲縮が増大することによって織編物の目が閉じて防透性及び透湿防水性を発現し、乾燥すると目が開くような自己調節機能を有する複合繊維を得ることを目的として、特許文献2および3が提案されている。これらは熱処理条件を改良することによって、吸湿時に捲縮率が増大する複合繊維を提案するものであるが、しかしながら、上記の従来技術は、染色や仕上げといった後工程を経ると、捲縮率の変化が小さくなるという問題や、仕上げ工程における温度や荷重が変化すると、捲縮性能の低下又は逆転現象が起こるといった問題があった。特に織編物などの布帛では、その染色および仕上げ工程において、布帛を構成する単糸に掛かる荷重にばらつきがあるために、布帛全体に均一に捲縮性能を発現させることが困難なため、実用的なレベルに到達していないのが実情である。
【0004】
【特許文献1】特開昭58−46119号公報
【特許文献2】特開昭58−46118号公報
【特許文献3】特開昭61−19816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来の技術を背景になされたもので、その目的は、吸湿すると捲縮が発現し、見かけ糸長が収縮することによって織編地の目が閉じ、透け防止、防水、保温機能を有し且つ布帛用の原糸を提供することにある。しかも、染色・仕上げ等の工程を経た後でも上記の優れた捲縮特性を安定に発現する複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、ポリアミド成分とポリエステル成分とがサイドバイサイドに接合された複合繊維であって、長手方向に太部と細部を有し且つ下記要件を満足することを特徴とする感湿捲縮複合繊維。
A)ポリエステル成分が構成単位のうち少なくとも60モル%がエチレンテレフタレート単位で、0.5〜40モル%がエチレンイソフタレート単位である共重合ポリエステルであり、該ポリエステルが下記ポリエーテルエステルアミドをポリエステル全重量に対して5〜55重量%含むこと。
ポリエーテルエステルアミド:両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5,000のポリアミド(a)と数平均分子量1,600〜3,000のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(b)から誘導され、相対粘度が1.5〜3.0(0.5重量%m−クレゾール溶液、25℃)のもの。
B)乾燥捲縮率(DC)が4.0〜12.0%、湿潤捲縮率(HC)が5.0〜13.0%であり、下記式で表されるこれらの捲縮率の差△Cが0.3〜8.0%であること。
ΔC(%)=HC(%)−DC(%)
【発明の効果】
【0007】
ポリアミドとポリエステルからなるサイドバイサイド型複合繊維において、ポリエステル成分をイソフタル酸共重合ポリエステルに特定のポリエーテルエステルアミドを5〜55重量%含む組成物とすることにより、湿潤時に水分によりポリアミドが伸びる一方ポリエステルは長さが変化しないことにより捲縮が発現し(見かけ糸長が収縮し)織編地の目が詰まる効果を呈し、且つ該効果を安定的に発現する感湿捲縮複合繊維とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明におけるサイドバイサイド型複合繊維の一成分であるポリアミド成分としては、主鎖中にアミド結合を有するものであり、例えば、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン12等が挙げられる。特にコスト面、汎用性、製糸性等の観点からナイロン6、ナイロン66が好ましい。なお、これらをベースに公知の成分を共重合せしめても良く、酸化チタンやカーボンブラック等の顔料、公知の抗酸化剤、帯電防止剤、耐光剤等を含有しても良い。
【0009】
一方、本発明のサイドバイサイド型複合繊維の一成分であるポリエステル成分は、ポリエステルの繰り返し単位のうち少なくとも60モル%以上がエチレンテレフタレートであり、0.5モルから40モル%がエチレンイソフタレートであるポリエステルである。エチレンテレフタレート単位が60モル%未満であると、得られる複合繊維の強伸度等の基本物性が十分に保持できないため好ましくない。一方、エチレンイソフタレートが0.5モル%未満であると、捲縮の発現が低下し好ましくない。エチレンイソフタレートが40モル%を越えると、複合繊維の強伸度等の基本物性が保持できず、また熱安定性にも劣り、製糸工程において分解性異物によりパック圧上昇が著しくなるので好ましくない。
【0010】
尚、このポリエステルは、ポリエステルを構成するエチレンテレフタレートおよびエチレンイソフタレート成分以外に、第三成分が共重合されていてもよく、第三成分は、ジカルボン酸成分又はグリコール成分のいずれでもよい。かかるジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェキシエタンジカルボン酸、β−オキシエトキシ安息香酸の如き二官能性芳香族カルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、シュウ酸の如き二官能性脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を挙げることができる。また上記グリコール成分の一部を他のグリコール成分で置き換えてもよく、かかるグリコール成分としては例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール,ビスフェノールA,ビスフェノールS、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−(2−ハイドロキシエトキシ)フェニル)プロパンの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオールが挙げられる。更に、上述のポリエステルに必要に応じて他のポリマーを少量ブレンド溶融したもの、ペンタエリスリオトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸等の鎖分岐剤を少割合使用したものであってもよい。このほか本発明のポリエステルは通常のポリエステルと同様に酸化チタン、カーボンブラック等の顔料他、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤が添加されていても勿論良い。
【0011】
本発明の複合繊維においては、任意の繊度、断面形状、複合形態をとることができるが、単糸繊度としては、1.5〜5.0dtex程度が適当である。さらに、本発明の複合繊維を中空複合繊維とすると湿度に対する感度も大きく、かつ嵩高性も大きくなる。また、ポリアミド成分とポリエステル成分との繊維横断面における面積比は、ポリアミド/ポリエステル=30/70〜70/30の範囲が好ましく、より好ましくは40/60〜60/40の範囲である。
【0012】
本発明の複合繊維の総繊度は特に限定されないが、通常の衣料用素材として用いられる40〜200dtexを用いることができる。なお、必要に応じて交絡処理が施されていてもよい。
【0013】
本発明で使用するポリエーテルエステルアミドのポリアミド成分としては、両末端にカルボキシル基を有するポリアミド(a1)を使用することが好ましく、各種アミド形成性モノマーの重合体を用いることができる。好ましいものとして(1)ラクタム開環重合体、(2)アミノカルボン酸の重縮合体もしくは(3)ジカルボン酸とジアミンの重縮合体が挙げることが出来る。(1)のラクタムとしては、カプロラクタム、エナントラクタム、ラウロラクタム、ウンデカノラクタム等が挙げられる。(2)のアミノカルボン酸としては、ω−アミノカプロン酸、ω−アミノエナント酸、ω−アミノペルゴン酸、ω−アミノカプリン酸,11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。(3)のジカルボン酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン酸、ドデカンジ酸,イソフタル酸等が挙げられ、またジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン,ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン等が挙げられる。上記アミド形成性モノマーとして例示したものは2種以上を併用してもよい。これらのうち好ましいものは、カプロラクタム,12−アミノドデカン酸およびアジピン酸−ヘキサメチレンジアミンであり、特に好ましいものは、カプロラクタムである。
【0014】
(a1)は、炭素数4〜20のジカルボン酸成分を分子量調整剤として使用し、これの存在下に上記アミド形成性モノマーを常法により開環重合あるいは重縮合させることによって得られる。炭素数4〜20のジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,スベリン酸,アゼライン酸,セバシン酸、ウンデカジ酸,ドデカンジ酸等の脂肪酸ジカルボン酸; テレフタル酸,イソフタル酸,フタル酸,ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシル−4,4−ジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;3−スルホイソフタル酸ナトリウム,3−スルホイソフタル酸カリウム等の3−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩などが挙げられる。これらのうち好ましいものは脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および3−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩である。上記(a1)の数平均分子量は、通常500〜5000、好ましくは500〜3000である。数平均分子量が500未満ではポリエーテルエステルアミド自体の耐熱性が低下し紡糸調子が低下する。5000を超えると反応性が低下するためポリエーテルエステルアミド製造時に多大な時間を要する。
【0015】
本発明で使用するポリエーテルエステルアミドのポリエーテル成分としては、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(a2)が好ましい。使用するビスフェノール類としては、ビスフェノールA(4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン)、ビスフェノールF(4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン)、 ビスフェノールS(4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン)および4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2ブタン等が挙げられ、これらのうちビスフェノールAが好ましい。(a2)はこれらのビスフェノール類にエチレンオキシドを常法により付加させることにより得られる。また、エチレンオキシドと共に他のアルキレンオキシド(プロピレンオキシド,1,2−ブチレンオキシド,1,4−ブチレンオキシド等)を併用することもできるが、他のアルキレンオキシドの量はエチレンオキシドの量に基づいて通常10重量以下である。
【0016】
上記(a2)の数平均分子量は、通常1600〜3000であり、特にエチレンオキシド付加モル数が32〜60のものを使用することが好ましい。数平均分子量が1600未満では、吸湿性が低下し快適性の点で好ましくない。逆に3000を超えると反応性が低下するためポリエーテルエステルアミド製造時に多大な時間を要する。
【0017】
(a2)は、前記(a1)と(a2)の合計重量に基づいて20〜80重量%の範囲で用いられる。(a2)の量が20重量%未満ではポリエーテルエステルアミド(A)の吸湿性が劣り、80重量%を超えると(A)の耐熱性が低下するために好ましくない。
【0018】
ポリエーテルエステルアミドの製法としては、下記製法1または製法2が例示されるが、特に限定されるものではない。
製法1:アミド形成性モノマーおよびジカルボン酸を反応させて(a1)を形成せしめ、これに(a2)を加えて、高温、減圧下で重合反応を行う方法。
製法2:アミド形成性モノマーおよびジカルボン酸と(a2)を同時に反応槽に仕込み、水の存在下または非存在下に、高温で加圧反応させることによって中間体として(a1)を生成させ、その後減圧下で(a1)と(a2)との重合反応を行う方法。
【0019】
また、上記の重合反応には、公知のエステル化触媒が通常使用される。該触媒としては、例えば三酸化アンチモンなどのアンチモン系触媒、モノブチルスズオキシドなどのスズ系触媒、テトラブチルチタネートなどのチタン系触媒、テトラブチルジルコネートなどのジルコニウム系触媒,酢酸亜鉛などの酢酸金属塩系触媒などが挙げられる。触媒の使用量は、(a1)と(a2)の合計重量に対して通常0.1〜5重量%である。
【0020】
ポリエーテルエステルアミドの相対粘度は、1.5〜3.5(0.5重量%m−クレゾール溶液、25℃)、好ましくは、2.0〜3.0である。相対粘度が1.5未満では、ベースポリマー成分との溶融粘度差が大きくなるため導管内や紡糸パック内で滞留しやすくなり、長時間に渡る紡糸を実施すると吐出異常が起こりやすい。また、相対粘度が3.5を超える範囲では、紡糸工程における断糸の原因となる。
【0021】
ポリエーテルエステルアミドのポリエステルへの添加量は5〜55重量%が好ましい。5重量%未満では、複合繊維が吸湿したときに、湿潤捲縮率(HC)が小さく織編地の目が塞がらず、布帛にした時十分な透け防止、透湿防水機能が発現しないために適当でない。また、55重量%を超えると、安定的に紡糸ができなくなるために適当でない。
【0022】
ポリエーテルエステルアミドをポリエステルに添加する効果としては、ポリエステルに添加したときポリエステルに吸湿性、吸水性を高めることとポリエステルのモジュラスを低下する効果があり、且つ高分子量であるためブリードアウトが少ないこと、複合繊維のもう一方のポリアミド成分との界面に介在した時ポリエステルとの親和性が向上し界面剥離を防止する効果も考えられる。
【0023】
該ポリエーテルエステルアミドはポリアミドへ添加しない。少量でも添加すると、ポリアミドの吸湿伸長性が低下するため吸湿時の捲縮発現が低下し、糸長が縮む(捲縮率が増加する)という機能が損なわれる。
【0024】
本発明においては、感湿捲縮特性の安定化させるために、例えば上記複合繊維を30分間沸水処理し捲縮を十分発現させ、好ましくは100℃で30分間乾熱処理し、これを更に120〜160℃で1分間乾熱処理することにより感湿捲縮性が固定化される。この一連の後処理工程における荷重としては、織編物構造中の単糸に掛かる荷重を想定して、0.055〜5.5mg/dtexの範囲が好ましい。0.0555mg/dtex未満であれば生産トラブルが生じ易く、5.55mg/dtexを超える場合は下記の捲縮性が低下し好ましくない。
【0025】
上記の処理後の複合繊維が、次に述べる、乾燥捲縮率DC、水浸漬後の湿潤捲縮率HC、およびこれらの捲縮率の差△Cに関する要件を同時に満足している場合、吸湿によって捲縮率が増加して布帛の目が詰まり、水に濡れても『透ける』という透け防止及び防水性保温性の向上でき、しかも染色や仕上げなどの工程を経た後でもその特性が低下しないことを見出した。
【0026】
すなわち、乾燥捲縮率DCが4.0〜12.0%、好ましくは4.5〜10.0%、より好ましくは5.0〜8.5%とする必要があり、乾燥捲縮率DCが4.0%未満の場合は、布帛とした際の風合いが悪くなる傾向にあり好ましくない。一方、上記乾燥捲縮率DCが12.0%を超える場合は、乾燥捲縮DCの値が水浸漬後の湿潤捲縮率HCより大きくなりやすく、目的とする水に濡れた時の透け防止が改善されて防水性・保温性に優れた布帛を得る事が出来ないので好ましくない。
【0027】
又水浸漬後の湿潤捲縮率HCは5.0〜13.0%好ましくは5.5〜11.0%、より好ましくは6.0〜10.5%である。HCが5.0%未満の場合は水浸漬後の捲縮率自体が低すぎて目的とする透け防止効果が不十分となるので好ましくない。一方、HCの値が13.0%を越える場合は、水を含んだとき布帛が大きく収縮するために実用的でなく風合いも低下するので好ましくない。
【0028】
又、ΔC(HC−DC)の値は0.3〜8.0%、好ましくは1.0〜5.5%、より好ましくは1.5〜4.5%である。ΔCの値が0.3%未満の場合は、水浸漬後の捲縮発現効果が少なく、目的とする水に濡れて透けが改善されて防水性・保温性に優れた布帛を得る事が出来ないので好ましくない。一方、ΔCの値が8.0%を超える場合は、水を含んだとき布帛が大きく収縮するため実用的でなく風合いも低下するので好ましくない。
【0029】
本発明の複合繊維は単なる機能性だけでなく、風合い面でも優れている。つまり、本発明の複合繊維は、長手方向に太部と細部を有しているため、これを布帛としてスパンライクな風合いを呈することを特徴としている。また、本発明においては複合繊維の太部の程度を示すU%が、2.5〜15.0%であることが好ましく、3.5〜14.5%がより好ましく。4.0〜13.5%であることがさらに好ましい。U%が2.5%未満の時は、布帛にしたときスパンライクな風合いとならないため好ましくない。また、吸湿した際の透けを防止する特性も低下する傾向にあり。一方、U%が15%を超える場合は、複合繊維の強度が低下し、その取扱いが難しくなるので好ましくない。
【0030】
本発明の複合繊維は湿潤時にポリエステル成分が捲縮の内側に、ポリアミド成分が捲縮の外側に配置した構造形態に変化する。(図1参照)ポリアミド成分が吸湿により伸長する一方、ポリエステルは伸長しないため、結果として捲縮が発現する(見かけ糸長は収縮する)為、織編地の目がふさがれる結果となる。その意味において、ポリエステル成分及びポリアミド成分共に余り結晶性を高めないほうが好ましい結果を与える。しかしながら、結晶性が低すぎると延伸性や後処理工程での耐久性が低下するので好ましくない。
【0031】
本発明の複合繊維においては、複合繊維を20℃65%RHの雰囲気下に4時間放置した後の吸湿率MR1、複合繊維を35℃95%RHの雰囲気下に4時間放置した後の吸湿率MR2としたとき、下記式で表される吸湿率差ΔMRが2.0%以上であることが、これを織編物として衣料に用いた際、快適性の観点から好ましい。
ΔMR=MR2−MR1
【0032】
以下、本発明の複合繊維を得るための製造方法について説明する。
本発明の複合繊維を製造するには例えば特開2000−144518号公報に記載されているような、高粘度成分側と低粘度成分側の吐出孔を分離し且つ、高粘度側の吐出線速度を小さくした(吐出面積を大きくした)紡糸口金を用い、高粘度側吐出孔に溶融ポリアミド成分を通過させ低粘度側吐出孔側に溶融ポリエステル成分(ポリエーテルエステルアミドと共重合ポリエステルとを公知の装置、方法で溶融混練したもの)を通過、接合させ、冷却固化させることによって得ることができる。引き取った紡出糸条の延伸は、一旦これを巻き取った後延伸、必要に応じて熱処理する別延のほか、一旦巻き取らないで延伸、必要に応じて熱処理を行う直延のどちらも採用することができる。紡糸速度としては、比較的低速の1000〜3500m/分が好ましく採用される。
【0033】
また例えば、2つのローラーを設置した延伸機で直延により延伸・熱セットを行う場合は、第1ローラー温度は60℃未満の温度で糸条を予熱する必要がある。この予熱温度が60℃を超える場合は目的とする太細が出来にくくなるので好ましくない。次いで第2ローラーを80〜170℃として熱セットする方法を採用することができる。また第1ローラーと第2ローラー間で実施する延伸の倍率は、前述の太細の程度を加味しながら設定すればよく、例えば、複合繊維の破断伸度を少なくとも55%以上になるように低延伸倍率の条件にすることにより本発明の太細複合繊維を容易に得ることができる。
【0034】
本発明の複合繊維に安定した感湿捲縮性を付与するためには、紡糸延伸した繊維を沸騰水で処理し、ポリアミド成分が捲縮の外側に、ポリエステル成分が内側に配置した捲縮を発現させ、次に低荷重のもとで高温乾熱処理して水分を除き、感湿(潜在)捲縮性を安定化させる(つまり固定化させる)ことが必要である。これらの熱処理は糸条の状態で行っても、製編織後に例えば染色工程等で行っても良い。
【0035】
本発明の複合繊維は、従来のポリアミドとポリエステルのサイドバイサイド複合繊維とは異なり、目的の感湿捲縮特性が発現する為の後工程条件範囲が非常に広いことが最大の特徴である。すなわち、100〜130℃で沸水処理して捲縮を発現させ、これを120℃〜200℃、好ましくは130〜160℃、1分間程度乾熱処理することによって、目的の感湿捲縮形態、性能を安定して有する複合繊維とすることができる。120℃未満では捲縮性が安定できず、200℃以上では熱劣化が大きくなるので好ましくない。
【0036】
さらに、上記後工程の際、単糸の掛かる荷重としては、0.055mg/dtex〜5.5mg/dtexの範囲が好適であり、従来の複合糸よりも非常に幅広い温度および荷重範囲で捲縮性能を安定的に発現することができる。
【0037】
本発明の複合繊維は単独で使用することができるのはもちろん、他繊維と混繊しての混繊糸としても使用できる。又、必要に応じて更に仮撚り加工を行い仮撚り加工糸としても使用することができる、又、伸度の異なる複合仮撚りとしても使用する事が出来る。
【0038】
本発明でいう少なくとも一部に本発明の複合繊維を用いた布帛とは、その形態は織編物、不織布、フェルトなど特に限定されない。また、該布帛は本発明の複合繊維とともに各種合成繊維と混合して作製することができる。勿論、本複合繊維と天然繊維との複合にてもより一層効果を発揮することができ、更に、ウレタンあるいはポリトリメチレンテレフタレートとの組み合わせにて更にストレッチ性を付与して用いても構わない。
【0039】
本発明の複合繊維は衣料用の各種の用途に使用することができ、例えば、水着や各種のスポーツウェア・インナー素材・ユニフォーム等快適性を要求される用途において、特に好ましく使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって、本発明を更に詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって、本発明の主旨に合致する実施例までも限定するものではない。なお、実施例中における各物性値は下記の方法で測定した。
【0041】
(1) 紡糸調子
良好:10時間連続紡糸を行い、糸切れが0〜1回
やや不良:10時間連続紡糸を行い、糸切れが2〜4回
不良:10時間連続紡糸を行い、糸切れが5回以上
【0042】
(2) ポリアミド成分とポリエステル成分との界面剥離
複合糸の任意の断面において、1070倍のカラー断面写真を撮り、フィラメント中のポリアミド成分とポリエステル成分との界面剥離の状況を調査した。
無:界面での剥離が0〜1個
やや有:界面での剥離が2〜10個
有:ほとんど全てのフィラメントの界面での剥離が観察された
【0043】
(3)U%(ウースターイブネス)
計測器工業株式会社Evness Testerを使用し、ハーフイナートの条件にて測定を行った。
【0044】
(4)乾燥捲縮率DC、水浸漬後の湿潤捲縮率HC、およびそれらの差ΔC
複合繊維にて2700dtexのカセを作り、6g(2.2mg/dtex)の軽荷重の下で沸騰水中にて30分間処理した。濾紙にて水分を軽くのぞき、次いで6g(2.2mg/dtex)の荷重下で100℃の乾熱にて30分間乾燥して水分を除去した。さらに、このカセを6g(2.2mg/dtex)の荷重下で160℃の乾熱にて1分間熱処理して測定試料とした。
【0045】
(a)乾燥捲縮率DC(%)
上記の処理を行なった測定資料(カセ)を6g(2.2mg/dtex)の荷重をかけて5分放置し、次いで、このかせを取り出し、さらに600g(合計606g:2.2mg/dtex+220mg/dtex)の荷重をかけ1分放置しそのカセの長さL0を求めた。次いで、600gの荷重を外し、6g(2.2mg/dtex)の荷重下にて1分放置しその長さL1を求めた。下記の計算式より、乾燥捲縮率DCを求めた。
DC(%)=(L0−L1)/L0×100
【0046】
(b)水浸漬後の湿潤捲縮率HC(%)
捲縮率DCを求めた後の同じカセを用い、6g(2.2mg/dtex)の荷重下で水中(室温)にて10時間処理した。このカセを濾紙にて水をふき取り、更に600g(合計606g:2.2mg/dtex+220mg/dtex)の荷重を更にかけ1分放置し、そのカセの長さL2を求めた。次いで、600gの荷重を外し、6g(2.2mg/dtex)の荷重下にて1分放置しその長さL3を求めた。下記の計算式より、水浸漬後の湿潤捲縮率HCを求めた。
HC(%)=(L2−L3)/L2×100
【0047】
(c)ΔC(%)
上記の乾燥捲縮率DCと水浸漬後の湿潤捲縮率HCとの差ΔCは次の式により求めた。
△C(%)=HC(%)−DC(%)
【0048】
(5)筒編の形態変化
複合繊維を筒編みし、30分間沸水処理し、水洗後160℃の乾熱中にて1分セットし、測定試料とした。この筒編に水を滴下し、筒編の側面写真(倍率200)にて水滴下部及びその周辺の状況を調査し、水滴下による編目の膨らみ或いは縮み状況、及び筒編の透け感を肉眼にて判定した。
【0049】
(a)編目変化
良好 :水滴にて編目が顕著に縮んでいる。
やや不良:水滴による編目変化は殆ど見られない。
不良 :水滴にて編目がむしろ伸びている。
【0050】
(b)透け感(不透明感)
良好 :水滴部の透け感が減少している(不透明感が増加している)
やや不良:水滴による透け感変化は見られない。(不透明感は変わらず)
不良 :水滴にて透け感が大きくなっている。(不透明感が減少している)
【0051】
(6)風合い
複合糸を筒編みし、30分間沸水処理を行い、160℃の感熱中にて1分セットし、その感触を評価した。
良好:風合いがソフトである。
不良:風合いが粗荒である。
【0052】
(7)吸湿率
本発明の複合繊維を20℃×65%RHあるいは35℃×95%RHとした恒温恒湿室中に4時間調湿し、絶乾試料の重量と調湿試料の重量から下記式により吸湿率を求めた。
吸湿率MR(%)=(調湿後の重量−絶乾時の重量)×100/絶乾時の重量
【0053】
(8)吸湿率の差(ΔMR)
吸湿率の差(ΔMR)は、20℃65%RHの雰囲気下に4時間放置した後の吸湿率MR1、複合繊維を35℃95%RHの雰囲気下に4時間放置した後の吸湿率MR2とを測定し、下記式を用いて算出した値である。
ΔMR=MR2−MR1
【0054】
[実施例1〜5]、[比較例1〜2]
固有粘度(IV)が1.1のナイロン6(Ny6)と、表1に記載のポリエーテルエステルアミドをブレンドしたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートチップ(IV=0.65)とを常法により、紡糸温度290℃、紡糸速度1800m/minで紡糸し、ついで巻き取ることなく延伸温度RT(室温)、延伸倍率1.69倍で延伸し、さらに130℃で熱セットして糸状を得た。ナイロン6とポリエーテルエステルアミドをブレンドした共重合ポリエステルとの重量比が50:50でサイドバイサイド型に接合された、110dtex/24filの捲縮複合繊維を得た。得られた複合繊維の物性を表1に示した。実施例1〜5は、イソフタル酸共重合比率、ポリエーテルエステルアミド(以下PEEA)のポリマー組成およびブレンド量が適正であることから、乾燥捲縮率、湿潤捲縮率および吸湿率を満足し、筒編み後の形態変化も良好で性能と品位に優れた複合繊維を得た。
【0055】
比較例1は、イソフタル酸を共重合していないため、サイドバイサイド繊維のPET側の柔軟性に乏しく、DCが不十分な性能であった。比較例2は、イソフタル酸の共重合比率が多い為に、PETポリマーの耐熱性が不足しており、熱分解物によるパック圧上昇が著しく、連続製糸が不可能であった。
【0056】
[実施例6〜8]、[比較例3〜4]
PET側へのPEEA添加量を変化させた以外は実施例1と同様にして複合繊維を得た。結果を表2に示す。実施例6〜8は適正な感湿捲縮性能を示したが、比較例3はPEEA添加していないため適正な感湿捲縮性能が発現していない。比較例4はPEEA量が多く紡糸性が低下した。
【0057】
[実施例9〜12]、[比較例5〜6]
種々のポリアミド部の分子量およびビスフェノールA含有エチレンオキサイドエステル部の分子量が異なり、また粘度も異なるPEEAを用いて実施例1と同様に実験を行った。
結果を表3に示す。実施例9〜12は本発明の範囲であるため適正な感湿捲縮性能が得られたが、比較例5はポリアミド成分の分子量が低く紡糸性が低下した。比較例6はPEEAの親水性成分の分子量が低いため、吸湿性が低下し乾燥時の快適性が不足するものであった。
【0058】
[実施例13〜17]
実施例1と同条件において製糸した複合糸を染色する際に、染色温度、熱セット温度および荷重を変化させた条件において同様に評価を行った。実施例13〜17に示すように、本発明の複合糸は、染色温度、熱セット温度および荷重が表4に示すように変化しても、安定して湿潤捲縮性能が発現し、筒編みの形態変化も良好であった。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明により、透け防止、保温性が要求される水着や各種のスポーツウェア・インナー素材・ユニフォーム衣料等の用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の捲縮発現機構を模式的に示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド成分とポリエステル成分とがサイドバイサイドに接合された複合繊維であって、長手方向に太部と細部を有し且つ下記A)〜B)の要件を満足することを特徴とする感湿捲縮複合繊維。
A)ポリエステル成分が構成単位のうち少なくとも60モル%がエチレンテレフタレート単位で、0.5〜40モル%がエチレンイソフタレート単位である共重合ポリエステルであり、該ポリエステルが下記ポリエーテルエステルアミドをポリエステル全重量に対して5〜55重量%含むこと。
ポリエーテルエステルアミド:両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5,000のポリアミド(a)と数平均分子量1,600〜3,000のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(b)から誘導され、相対粘度が1.5〜3.0(0.5重量%m−クレゾール溶液、25℃)のもの。
B)乾燥捲縮率(DC)が4.0〜12.0%、湿潤捲縮率(HC)が5.0〜13.0%であり、下記式で表されるこれらの捲縮率の差△Cが0.3〜8.0%であること。
ΔC(%)=HC(%)−DC(%)
【請求項2】
U%が2.5〜15.0%である請求項1記載の感湿捲縮複合繊維。
【請求項3】
下記式で表される吸湿率の差(ΔMR)が2.0%以上である請求項1〜2いずれか1項記載の感湿捲縮複合繊維。
ΔMR=MR2−MR1
ここで、MR1は複合繊維を20℃、65%RHの雰囲気下に4時間放置した後の吸湿率、MR2は複合繊維を35℃95%RHの雰囲気下に4時間放置した後の吸湿率を示す。
【請求項4】
捲縮形態が、捲縮の内側にポリエステル成分が外側にポリアミド成分が位置する構造形態である請求項1〜3いずれか1項記載の感湿捲縮複合繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の感湿捲縮複合繊維を少なくとも一部に含んでなる布帛。

【図1】
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【公開番号】特開2009−35841(P2009−35841A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202108(P2007−202108)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】