説明

感熱性平版印刷版前駆体

親水性支持体およびその上に設けられたコーティングを含んでなる感熱性平版印刷版前駆体が開示され、ここでコーティングは赤外吸収性染料を含んでなりそして高出力赤外レーザー光線に露出される場合に最少程度の融除を生ずるように最適化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ性処理を必要とする感熱性平版印刷版前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は典型的にはいわゆる印刷マスター、例えば回転印刷機の胴上に設置される印刷版の使用を含む。マスターは平版像をその表面上に担持しそしてインキを該像に適用しそして次にインキをマスターから典型的には紙である受容体材料の上に移す。従来の平版印刷では、インキ並びに湿し水溶液(aqueous fountain solution)(湿し水(dampening liquid)とも称する)が親油性(または疎水性、すなわちインキ−受容性、撥水性)領域並びに親水性(または疎油性、すなわち水−受容性、インキ−反撥性)領域よりなる平版像に供給される。いわゆるドリオグラフィー印刷では、平版像はインキ−受容性およびインキ−非付着性(インキ−反撥性)領域よりなり、そしてドリオグラフィー印刷中にインキだけがマスターに供給される。印刷マスターは一般的にはいわゆるコンピューター−ツー−フィルム(computer−to−film)方法により得られ、そこでは種々の印刷前段階、例えば活字書体選択、走査、色分離、スクリーニング、トラッピング、レイアウトおよび組み付けはデジタル式に行われそして各々の色選択がイメージセッターを用いて製版用フィルムに移される。処理後に、フィルムをマスターとして使用することができる。
【0003】
コンピューター−ツー−フィルム方法用の代表的な感光性印刷版前駆体は親水性支持体および感紫外線組成物を含む像記録層を含んでなる。典型的には紫外線コンタクトフレーム(UV contact frame)中でのフィルムマスクによる、ネガ作用性版の像通りの露出時に、露出された像領域は不溶性になりそして露出されなかった領域は水性アルカリ性現像剤中に可溶性のままである。版を次に現像剤で処理して露出されなかった領域中のジアゾニウム塩またはジアゾ樹脂を除去する。そこで、露出された領域が印刷マスターの像領域(印刷領域)を規定し、そしてそのような印刷版前駆体は従って「ネガ作用性(“negative working”)」と称される。露出された領域が非印刷領域を規定するポジ作用性材料、例えば露出された領域でのみ現像剤中に溶解するノボラック/ナフトキノン−ジアジドコーティングを有する版も既知である。
【0004】
上記の感光材料の他に、感熱性印刷版前駆体も非常に評判がよくなってきた。そのような熱材料はしばしば昼光安定性の利点を与え、そして版前駆体が直接、すなわちフィルムマスクを使用せずに露出されるいわゆるコンピューター−ツー−プレート(computer−to−plate)方法において特に使用される。一般的に、材料は熱または赤外線に像通りに露出されそして発生した熱が(物理)化学的工程、例えば、融除(ablation)、重合、重合体の架橋結合によるまたは熱可塑性重合体ラテックスの粒子凝固による不溶性化、および分子内相互作用の破壊によるまたは現像遮断層の浸透性を高めることによる可溶性化を誘発する。
【0005】
特許文献1は、900nm〜1100nmの発光波長を有するYAGレーザーに対する高い感度を示す新規なポリメチン化合物を含んでなる近赤外吸収材料、および該近赤外吸収材料を使用する印刷版を開示している。
特許文献2は、支持体並びに赤外吸収剤、オニウム塩、ラジカル重合化合物および結合剤を含有する感光層を含むネガ作用性印刷版前駆体を開示している。
【0006】
特許文献3は、親水性支持体上に、赤外吸収剤、重合開始剤および重合可能な不飽和基を有する化合物を溶媒中に含んでなる感光層を含んでなる熱方式の印刷版を開示しており
、そこでは感光層中の残存溶媒は感光層の重量に関して5重量%もしくはそれより少ない。
【0007】
処理を必要としない熱版も既知であり、そのような版は典型的にはいわゆる融除タイプのものであり、すなわち親水性および親油性領域間の差異がコーティングの1つもしくはそれ以上の層の熱で誘発される融除により生ずるため、露出された領域では露出されなかったコーティングの表面とは異なるインキまたは湿し水に対する親和性を有する表面が出現する。しかしながら、融除版(ablative plates)に関する主な問題は融除片の発生であり、それは露出装置の電子部品および光学部品を汚染させることもあり且つクリーニング溶媒を用いて拭うことにより版から除去する必要があるため、融除版はしばしば本当に無処理ではない。版の表面上に沈着する融除片は印刷工程中に妨害することもありうる。
【0008】
熱版(thermal plates)は一般的にプレート−セッター中で赤外線に露出され、それは内部ドラム(ITD)、外部ドラム(XTD)またはフラットベッドタイプでありうる。低価格高能力の赤外レーザーダイオードの入手しやすさがプレートセッターを製造可能にし、ここでは熱版材料をより高いドラム回転速度において露出することができ、より短い合計露出時間およびより高い版生産量を生ずる。高能力赤外レーザーダイオードは版表面において高い出力密度(kW/cm)を与えることが可能であり、より短い画素滞留時間内に必要量のエネルギー(J/cm)を生ずる。それにもかかわらず、いわゆる非融除熱版、すなわち融除により像を形成するように設計されていない版、の高能力露出はコーティングの部分的融除を生ずる。この現象は以上で論じられた融除片の発生に関連する問題を考慮すると回避すべきである。
【特許文献1】欧州特許第1188797号明細書
【特許文献2】欧州特許第1096315号明細書
【特許文献3】欧州特許第1129845号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の要旨
本発明の一面は、高出力赤外レーザー光線に露出された時に最少程度の融除を生ずるようにコーティングが最適化される熱平版印刷版前駆体を提供することである。この目的は、請求項1の材料により実現される。本発明の具体的な態様は従属請求項に定義されている。
【0010】
請求項12に定義されている本発明の方法によると、印刷版前駆体はλmax+/−20nmの範囲内の波長および233kw/cmより高い出力密度を有するレーザー光線に、融除片を発生せずに、露出することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の詳細な記述
本発明の感熱性平版印刷版前駆体は、親水性支持体並びにその上に設けられた赤外線吸収性染料および水性アルカリ性現像剤中に可溶性である疎水性結合剤を含んでなるコーティングを含有する。コーティングは1つもしくはそれ以上の層よりなりうる。疎水性結合剤を含んでなる1つもしくは複数の層または赤外染料を含んでなる1つもしくは複数の層の他の追加の層の例は以下で論じられる。
【0012】
本発明の印刷版前駆体による平版像の形成は現像剤中での処理中のコーティングの熱で誘発される溶解度の差異による。平版像の像(印刷、親油性)および非像(非印刷、親水性)領域の間の溶解度の差異は熱力学的影響よりむしろ動的影響により特徴づけられ、す
なわち非像領域は像領域より速い現像剤中への溶解により特徴づけられる。最も好ましい態様では、コーティングの非像領域は像領域が攻撃される前に現像剤中に完全に溶解するため、後者は鋭利な端部および高いインキ受容性により特徴づけられる。非像領域の溶解の完了と像領域の溶解の開始との間の時間差は好ましくは10秒間より長く、より好ましくは20秒間より長く、そして好ましくは60秒間より長く、それにより広い現像ラチチュード(development latitude)を与える。
【0013】
熱または赤外線による露出および現像後にコーティングの露出された領域が露出されなかった領域より高い水性アルカリ性現像剤中の溶解速度によって支持体から除去されそして親水性(非印刷)領域を規定するが露出されなかったコーティングは支持体から除去されそして親油性(印刷)領域を規定する場合には、印刷版前駆体はポジ作用性である。ネガ作用性印刷版前駆体に関しては、熱または赤外線による像通りの露出後に露出された像領域は可溶性のままである露出されなかった領域よりゆっくり水性アルカリ性現像剤中に溶解する。後者の版前駆体に関すると、露出された領域が像領域または印刷領域を規定する。本発明の印刷版前駆体はポジまたはネガ作用性であることができ、ポジ作用性態様が好ましい。
【0014】
平版印刷版前駆体の支持体は親水性表面を有するかまたは親水性層が付与される。支持体はシート状材料、例えば版であることができ、或いはそれは円筒状部品、例えば印刷機の印刷胴の周りを滑動しうるスリーブでありうる。支持体は金属支持体、例えばアルミニウムまたはステンレス鋼である。金属をプラスチック層、例えばポリエステルフィルムに積層することもできる。
【0015】
特に好ましい平版支持体は、電気化学的に研磨されそして陽極酸化されたアルミニウム支持体である。アルミニウムの研磨および陽極酸化は当該技術で既知である。陽極酸化されたアルミニウム支持体を処理してその表面の親水性質を改良することができる。例えば、アルミニウム支持体の表面を珪酸ナトリウム溶液で高められた温度、例えば95℃、において処理することによりアルミニウム支持体を珪酸処理することができる。或いは、無機弗化物をさらに含有しうる燐酸塩溶液で酸化アルミニウム表面を処理することを含んでなる燐酸塩処理を適用することもできる。さらにその他、酸化アルミニウム表面をクエン酸またはクエン酸塩溶液ですすぐこともできる。この処理は室温で行うこともでき、または約30〜50℃のわずかに高められた温度で行うこともできる。別の興味ある処理は、炭酸水素溶液を用いる酸化アルミニウム表面のすすぎを包含する。さらに、酸化アルミニウム表面をポリビニルホスホン酸、ポリビニルメチルホスホン酸、ポリビニルアルコールの燐酸エステル、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルベンゼンスルホン酸、ポリビニルアルコールの硫酸エステル、並びにスルホン化された脂肪族アルデヒドとの反応により製造されるポリビニルアルコールのアセタールで処理することができる。これらの処理の1つもしくはそれ以上を単独でまたは組み合わせて行うことができる。これらの処理のさらに詳細な記述は英国特許出願公開第1084070号明細書、独国特許出願公開第4423140号明細書、独国特許出願公開第4417907号明細書、欧州特許出願公開第659909号明細書、欧州特許出願公開第537633号明細書、独国特許出願公開第4001466号明細書、欧州特許出願公開第292801号明細書、欧州特許出願公開第291760号明細書および米国特許第4458005号明細書に示されている。
【0016】
疎水性結合剤はコーティングの1つもしくはそれ以上の層の中に存在しうる。それは好ましくは、層が水性アルカリ性現像剤中に確実に可溶性または少なくとも膨潤性であるようにするために13より低いpKaを有する酸性基を有する有機重合体である。有利には、結合剤は重合体または重縮合体、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンまたはポリウレアである。例えば、フェノール、レソルシノール、クレゾール、キシレノールまたはトリメチルフェノールをアルデヒド、特にホルムアルデヒド、またはケトンと反応
させることにより得られるような、遊離フェノール系ヒドロキシル基を有する重縮合体および重合体も特に適する。スルファモイル−またはカルバモイル−置換された芳香族およびアルデヒドまたはケトンの縮合体も適する。ビスメチロール−置換されたウレア、ビニルエーテル、ビニルアルコール、ビニルアセタールまたはビニルアミド、並びにフェニルアクリレートの重合体およびヒドロキシフェニルマレイミドの共重合体も同様に適する。さらに、ビニル芳香族、N−アリール(メタ)アクリルアミドまたはアリール(メタ)アクリルアミドの単位を有する重合体も挙げられ、これらの単位の各々が1つもしくはそれ以上のカルボキシル基、フェノール系ヒドロキシル基、スルファモイル基またはカルバモイル基を有することが可能である。具体例は、2−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、N−(4−ヒドロキシフェニル)(メタ)アクリルアミド、N−(4−スルファモイルフェニル)−(メタ)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルベンジル)−(メタ)アクリルアミド、または4−ヒドロキシスチレンもしくはヒドロキシフェニルマレイミドの単位を有する重合体を包含する。重合体は酸性単位を有さない他の単量体の単位をさらに含有できる。そのような単位はビニル芳香族、メチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メタクリルアミドまたはアクリロニトリルを包含する。
【0017】
いずれの量の結合剤でも使用することができる。結合剤の量は、各場合ともコーティングの非揮発性成分の合計重量を基準として、有利には40〜99.8重量%、好ましくは70〜99.4重量%、特に好ましくは80〜99重量%である。好ましい態様では、重縮合体はフェノール系樹脂、例えばノボラック、レゾールまたはポリビニルアルコールである。ノボラックは好ましくはクレゾール/ホルムアルデヒドまたはクレゾール/キシレノール/ホルムアルデヒドノボラックであり、ノボラックの量は各場合とも全結合剤の重量を基準として有利には少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%である。別の適する重合体状結合剤は、15/10/2002に出願された欧州特許出願第02102443号明細書、欧州特許出願第02102444号明細書、欧州特許出願第02102445号明細書、欧州特許出願第02102446号明細書、独国特許出願公開第4007428号明細書、独国特許出願公開第4027301号明細書および独国特許出願公開第4445820号明細書に記載されている。
【0018】
適するネガ作用性アルカリ性現像印刷版は、フェノール系樹脂、および加熱または紫外線照射時に酸を生成する潜在的ブロンステッド酸を含んでなる。これらの酸は露出後の加熱段階中にコーティングの架橋結合をそしてその結果として露出された領域の硬化に触媒作用を与える。従って、露出されなかった領域は現像剤により洗浄除去され、その下にある親水性基質を出現させることができる。そのようなネガ作用性印刷版前駆体のさらに詳細な記述に関しては、米国特許第6,255,042号明細書および米国特許第6,063,544号明細書並びにこれらの文献に引用された参考文献を参照のこと。
【0019】
好ましい態様では、本発明の平版印刷版前駆体はポジ作用性でありそして親水性支持体およびその上に付与された赤外線吸収性染料と水性アルカリ性現像剤中に可溶性である疎水性結合剤とを含んでなるコーティングを含有する。
【0020】
ポジ作用性態様では、現像剤中のコーティングの溶解性能は場合により存在する溶解度調節化合物により微細に調整することができる。より特に、現像促進剤および現像抑制剤を使用しうる。これらの成分は疎水性結合剤を含んでなる1つもしくはそれ以上の層におよび/またはコーティングの他の1つもしくはそれ以上の層に加えることができる。
【0021】
現像促進剤は、コーティングの溶解速度を増加しうるため溶解促進剤として作用する化合物である。例えば、無水環式酸、フェノールまたは有機酸を水性現像性を改良するために使用することができる。無水環式酸の例は、米国特許第4,115,128号明細書に
記載されているように、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水3,6−エンドキシ−4−テトラヒドロ−フタル酸、無水テトラクロロフタル酸、無水マレイン酸、無水クロロマレイン酸、無水アルファ−フェニルマレイン酸、無水琥珀酸、および無水ピロメリト酸を包含する。フェノールの例は、ビスフェノールA、p−ニトロフェノール、p−エトキシフェノール、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’,4’’−トリヒドロキシトリフェニルメタン、および4,4’,3’’,4’’−テトラヒドロキシ−3,5,3’,5’−テトラメチルトリフェニル−メタンなどを包含する。有機酸の例は、例えば特開昭60−88,942号公報および特開平2−96,755号公報に記載されているように、スルホン酸、スルフィン酸、アルキル硫酸、ホスホン酸、燐酸塩、および炭酸を包含する。これらの有機酸の具体例は、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチル硫酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、燐酸フェニル、燐酸ジフェニル、安息香酸、イソフタル酸、アジピン酸、p−トルイル酸、3,4−ジメトキシ安息香酸、3,4,5−トリメトキシ安息香酸、3,4,5−トリメトキシ珪皮酸、フタル酸、テレフタル酸、4−シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸、エルカ酸、ラウリン酸、n−ウンデカン酸、およびアスコルビン酸を包含する。コーティング中に含有される無水環式酸、フェノール、または有機酸の量は好ましくは0.05〜20重量%の範囲内である。
【0022】
好ましい態様では、コーティングは現像抑制剤とも称する現像剤耐性手段、すなわち処理中に露出されなかった領域の溶解を遅らせうる1種もしくはそれ以上の成分も含有する。溶解抑制効果は好ましくは加熱により逆転されるため、露出された領域の溶解は実質的に遅らせられずそして露出されたおよび露出されなかった領域の間の大きい溶解の差異がそれにより得られうる。そのような現像剤耐性手段は疎水性結合剤を含んでなる層または材料の別の層に加えることができる。
【0023】
例えば欧州特許出願公開第823327号明細書および国際公開第97/39894号パンフレットに記載された化合物は、例えば水素架橋生成による、コーティング中の1種もしくは複数のアルカリ−可溶性結合剤との例えば水素架橋生成による相互作用のために溶解抑制剤として作用する。このタイプの抑制剤は典型的には水素架橋生成基、例えば窒素原子、オニウム基、カルボニル(−CO−)、スルフィニル(−SO−)またはスルホニル(−SO−)基、および大きい疎水性部分、例えば1つもしくはそれ以上の芳香族基を含んでなる。
【0024】
他の適する抑制剤は、それらがコーティング中への水性アルカリ性現像剤の浸透を遅らせるため、現像剤耐性を改良する。そのような化合物は、例えば欧州特許出願公開第950518号明細書に記載されているように疎水性結合剤を含んでなる1つもしくはそれ以上の層の中に、および/または例えば欧州特許出願公開第864420号明細書、欧州特許出願公開第950517号明細書、国際公開第99/21725号パンフレットおよび国際公開第01/45958号パンフレットに記載されているように、該層の頂部のある現像遮断層の中に存在しうる。後者の態様では、現像剤中の遮断層の溶解度または現像剤による遮断層の透過性を熱または赤外線に対する露出により増加させることができる。
【0025】
コーティング中への水性アルカリ性現像剤の浸透を遅らせる抑制剤の好ましい例は下記のものを包含する。
(a)現像剤中に不溶性またはそれにより不透過性である重合体状物質、例えば疎水性(共)重合体、例えばアクリル系重合体、ポリスチレン、スチレン−アクリル系共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、ポリウレタン、ニトロセルロースおよびエポキシ樹脂、または撥水性重合体、例えばシロキサン(シリコーン)および/またはペルフルオロアルキル単位を含んでなる重合体。撥水性重合体は例えば0.5〜15mg/m
間の、好ましくは0.5〜10mg/mの間の、より好ましくは0.5〜5mg/mの間の、そして最も好ましくは0.5〜2mg/mの間の量で存在しうる。それより高いまたは低い量も、化合物の疎水性/疎油性特性によっては、適する。撥水性重合体がインキ−反撥性でもある場合には、15mg/mより多い量は露出されなかった領域の劣悪なインキ−受容性を生じうる。他方で、0.5mg/mより少ない量は不満足な現像ラチチュードをもたらすことがあり、露出された領域の現像は完了されない。
(b)二官能性化合物、例えば極性基および疎水性基、例えば長鎖炭化水素基、ポリ−もしくはオリゴシロキサンおよび/または過弗素化された炭化水素基を含んでなる界面活性剤。代表例は、ダイニッポン・インキ・アンド・ケミカルズ・インコーポレーテッド(Dainippon Ink & Chemicals,Inc)から入手可能な過弗素化された界面活性剤であるメガファック(Megafac)F−177である。そのような化合物の適量は10〜100mg/mの間、より好ましくは50〜90mg/mの間である。
(c)極性ブロック、例えばポリ−もしくはオリゴシロキサンおよび/または過弗素化された炭化水素基を含んでなる二官能性ブロック−共重合体。そのような化合物の適量は0.5〜25mg/mの間、より好ましくは0.5〜15mg/mの間、そして最も好ましくは0.5〜10mg/mの間である。適する共重合体は約15〜25個のシロキサン単位および50〜70個のアルキレンオキシド単位を含んでなる。好ましい例は、フェニルメチルシロキサンおよび/またはジメチルシロキサン並びにエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドを含んでなる共重合体、例えば全てドイツ、エッセンのテゴ・ヘミー(Tego Chemie)から市販されているテゴ・グライド(Tego Glide)410、テゴ・ウエット(Tego Wet)265、テゴ・プロテクト(Tego Protect)5001またはシリコフェン(Silikophen)P50/Xを包含する。具体的な化合物は下記のものである:
【0026】
【化1】

【0027】
【化2】

[式中、o、p、q、rおよびsは>1の整数である]。
【0028】
式Aにおいて、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシド単位よりなるポリ(アルキレンオキシド)ブロックはポリシロキサンブロックにグラフト化される。式Bにおいて、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシド単位よりなる長鎖アルコールはトリシロキサン基にグラフト化される。
【0029】
上記のポリ−またはオリゴシロキサン基は線状、環式もしくは複合性の架橋結合された重合体または共重合体でありうる。用語ポリシロキサンは、1つより多いシロキサン基−Si(R,R’)−O−を含有するいずれかの化合物を包含し、ここでRおよびR’は場合により置換されていてもよいアルキルまたはアリール基である。好ましいシロキサンはフェニルアルキルシロキサンおよびジアルキルシロキサンである。重合体またはオリゴマー中のシロキサン基の数は少なくとも2、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20である。それは100より少なくてもよく、好ましくは60より少なくてもよい。上記の過弗素化された炭化水素基は例えば−(CF)−単位を包含する。そのような単位の数は10より多く、好ましくは20より多い。ポリ−もしくはオリゴ(アルキレンオキシド)ブロックは好ましくは式−C2n−O−の単位を含み、ここでnは好ましくは2〜5の範囲内の整数である。部分−C2n−は直鎖もしくは分枝鎖を包含しうる。アルキレン部分は場合により置換基を含んでなることができる。そのような重合体の好ましい態様および明白な例は国際公開第99/21725号パンフレットに開示されている。
【0030】
コーティングおよび乾燥中に、タイプ(b)および(c)の上記の抑制剤はその二官能性構造のために、コーティングと空気との間の界面にそれ自体位置しそしてそれにより親水性結合剤を含んでなる層のコーティング溶液の成分として適用される場合でさえ別個の頂部層を形成する傾向がある。同時に、界面活性剤または二官能性ブロック共重合体はコーティング品質を改良する延展剤としても作用する。このようにして形成された別個の頂部層はコーティング中への現像剤の浸透を遅らせる上記の遮断層として作用しうる。
【0031】
或いは、タイプ(a)〜(c)の抑制剤を疎水性結合剤を含んでなる1つもしくは複数の層の頂部にコーティングされる別個の溶液の中に適用することもできる。この態様では、第一層内に存在する成分を溶解することができない第二コーティング溶液の中で溶媒を使用することが有利であり、上記の現像遮断層として作用しうる材料の頂部で高度に濃縮された撥水性または疎水性の相が得られる。
【0032】
本発明の印刷版前駆体では、赤外線吸収性染料は疎水性結合剤と同じ1つもしくは複数の層の中に、場合により存在する以上で論じた遮断層の中に、および/または場合により存在する別の層の中に存在しうる。非常に好ましい態様によると、染料は遮断層の中もしくはその近くに、例えば疎水性結合剤と遮断層との間の中間層の中に濃縮される。その態様によると、該中間層は赤外吸収性化合物を疎水性結合剤中または遮断層中の赤外吸収性化合物の量より多い量で含んでなる。好ましい赤外吸収性染料はシアニン染料、メロシアニン染料、インドアニリン染料、オキソノール染料、ピリリウム染料およびスクアリリウム染料である。適する赤外染料の例は例えば欧州特許出願公開第823327号明細書、欧州特許出願公開第978376号明細書、欧州特許出願公開第1029667号明細書、欧州特許出願公開第1053868号明細書、欧州特許出願公開第1093934号明細書、国際公開第97/39894号パンフレットおよび国際公開第00/29214号パンフレットに記載されている。好ましい化合物は下記のシアニン染料:
【0033】
【化3】

である。
【0034】
本発明のコーティングの正味反射濃度対波長の吸収スペクトル(図1)が測定されている。スペクトルの吸収極大λmax(3)は700nm〜1000nmの範囲内、より特に700nm〜890nmの範囲内、最も特に700nm〜850nmの範囲内に位置する。1000cm−1より少ないλmaxにおける正味反射濃度の80%で測定されたバンド幅(4)を有する本発明の組成物(図1、実線1)は赤外露出後に部分的な融除を示さないことが見出された。1000cm−1より広いバンド幅(4)を有する比較組成物(図1、点線2)は赤外露出後に融除副反応を示す。出願人はそれらの印刷版前駆体がどのように機能するかに関する理論的説明により限定しようとは望まないが、比較組成物では赤外線吸収性染料の塊が生成し、それがコーティング中にホットスポットを形成して望ましくない部分的融除をもたらすと信じられる。
【0035】
コーティングの表面を、特に機械的な損傷から、保護するために、保護層を場合により適用することもできる。保護層は一般的に少なくとも1種の水溶性重合体状結合剤、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニル、ゼラチン、炭水化物またはヒドロキシエチルセルロースを含んでなり、そして少量の、すなわち保護層用のコーティング溶媒の合計重量を基準として5重量%より少ない有機溶媒を必要に応じて含有できる水溶液または水性分散液からのようないずれかの既知の方法で製造することができる。保護層の厚さは適切には、有利には5.0μmまでの、好ましくは0.1〜3.0μmの、特に好ましくは0.15〜1.0μmのいずれかの量でありうる。
【0036】
場合により、コーティング、そしてより具体的には疎水性結合剤を含んでなる1つもしくはそれ以上の層は追加の成分をさらに含んでなることができる。好ましい成分は例えば、版の操作回数および化学耐性を改良するための追加の結合剤、特にスルホンアミドおよびフタルイミド基を含有する重合体である。そのような重合体の例は欧州特許出願公開第933682号明細書、欧州特許出願公開第894622号明細書および国際公開第99/63407号パンフレットに記載されているものである。
【0037】
着色剤、例えばコーティングに可視色を与えそしてコーティング中に露出されなかった領域に残存して露出および処理後に可視像を形成する染料または顔料を加えることもできる。そのようなコントラスト染料の代表例はアミノ−置換されたトリ−またはジアリールメタン染料、例えばクリスタルバイオレット、メチルバイオレット、ビクトリアピュアブルー、フレキソブラウ630、バソニルブラウ640、オーラミンおよびマラチャイトグリーンである。欧州特許出願公開第400706号明細書の詳細な記述で深く論じられている染料も本発明の印刷版前駆体中での使用のためのコントラスト染料として適する。
【0038】
界面活性剤、特にペルフルオロ界面活性剤、二酸化珪素またはチタン粒子、重合体粒子、例えば艶消し剤、およびスペーサーも、本発明の版前駆体中で使用できる平版コーティングの既知成分である。
【0039】
平版前駆体の製造に関しては、いずれの既知の方法でも使用することができる。例えば、上記成分をこれらの成分と不可逆的に反応せず且つ好ましくは意図するコーティング方法、層厚さ、層の組成および乾燥条件に関して注文製作される溶媒混合物の中に溶解させることができる。適する溶媒は、ケトン類、例えばメチルエチルケトン(ブタノン)、並びに塩素化された炭化水素類、例えばトリクロロエチレンまたは1,1,1−トリクロロメタン、アルコール類、例えばメタノール、エタノールまたはプロパノール、エーテル類、例えばテトラヒドロフラン、グリコール−モノアルキルエーテル類、例えばエチレングリコールモノアルキルエーテル、例えば2−メトキシ−1−プロパノール、またはプロピレングリコールモノアルキルエーテル、およびエステル類、例えば酢酸ブチルまたは酢酸プロピレングリコールモノアルキルエーテルを包含する。特殊目的のために、例えばアセトニトリル、ジオキサン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドまたは水の如き溶媒をさらに含有しうる混合物を使用することも可能である。
【0040】
1種もしくはそれ以上のコーティング溶液を支持体の親水性表面に適用するためにはいずれのコーティング方法でも使用することができる。各層を連続的にコーティング/乾燥することによりまたは数種のコーティング溶液の一回の同時コーティングにより、多層コーティングを適用することができる。乾燥段階では、揮発性溶媒はコーティングが自己支持性となり且つ触って乾く状態になるまでコーティングから除去される。しかしながら、乾燥段階中に全ての溶媒を除去することは必要なく(そして可能でないかもしれない)。実際に、残存溶媒含有量は組成物を最適化しうる手段により追加の組成変数とみなすことができる。乾燥は典型的には熱空気をコーティング上に、典型的には少なくとも70℃の、適切には80〜150℃のそして特に80〜140℃の温度において吹き付けることにより行われる。赤外灯を使用することもできる。乾燥時間は典型的には15〜600秒間でありうる。
【0041】
材料は直接的に熱を用いて、例えばサーマルヘッドにより、または間接的に赤外線、好ましくは近赤外線により像通りに露出することができる。赤外線は好ましくは以上で論じられた赤外線吸収化合物により熱に転化される。本発明の感熱性平版印刷版前駆体は好ましくは可視光線に感受性でなく、すなわち現像剤中のコーティングの溶解速度に関する実質的な影響が可視光線に対する露出により誘発されない。最も好ましくは、安全光環境に関する条件なしに材料を取り扱うために、コーティングは周囲昼光、すなわち可視光線(400〜750nm)および近紫外線(300〜400nm)、に対して通常の作業条件に相当する強度および露出時間において感受性でない。昼光に対して「感受性でない」は、現像剤中のコーティングの溶解速度の実質的な変化が周囲昼光に対する露出により誘発されないことを意味する。好ましい昼光安定性態様では、コーティングは日光またはオフィス照明中に存在する近紫外線および/または可視光線を吸収し、そしてそれにより露出された領域におけるコーティングの溶解度を変化させる感光性成分、例えば(キノン)ジアジドまたはジアゾ(ニウム)化合物、光酸、光開始剤、増感剤などを含んでない。
【0042】
本発明の印刷版前駆体は、例えばLEDまたはレーザーヘッドにより露光されうる。好ましくは、1つもしくはそれ以上のレーザーまたはレーザーダイオードが使用される。露出用に使用される光は、λmax+/−20nmの範囲内の、より特にλmax+/−10nmの範囲内の、最も特にλmax+/−5nmの範囲内の波長を有する赤外線である。好ましくは、例えば半導体レーザーダイオードの如きレーザーが使用される。必要なレーザー能力は、像記録層の感度、スポット直径(最大強度の1/eの最新式プレート−セッターの典型値:10〜25μm)により測定されるレーザー光線の画素滞留時間、露
出装置の走査速度および解像度(すなわち、しばしばインチ当たりのドットまたはdpiで表示される線状距離単位当たりのアドレス可能な画素数;典型値:1000〜4000dpi)に依存する。
【0043】
レーザー−露出装置の2つのタイプである内部ドラム(ITD)および外部ドラム(XTD)プレート−セッターが一般に使用される。熱版用のITDプレート−セッターは典型的には1500m/秒までの非常に高い走査速度により特徴づけられそして数ワットのレーザー能力を必要とすることもある。アグファ・ガリレオ(Agfa Galileo)T(アグファ・ゲベルト(Agfa Gevaert)N.V.の商標)がITD−技術を用いるプレート−セッターの代表例である。XTDプレート−セッターは典型的には0.1m/秒〜20m/秒の比較的低い走査速度で操作されそして20mWから500mWまでの光線当たりの典型的なレーザー出力を有する。クレオ・トレンドセッター(Creo Trendsetter)プレート−セッター群(クレオ(Creo)の商標)およびアグファ・エクスカリブル(Agfa Excalibur)プレート−セッター群(アグファ・ゲベルトの商標)の両者はXTD−技術を使用する。
【0044】
既知のプレート−セッターは印刷機外の露出装置として使用することができ、それは短縮された印刷機停止時間の利点を与える。XTD−プレート−セッター配置は印刷機上の露出用に使用することもでき、多色印刷機中の即時登録の利点を与える。印刷機上の露出装置のさらなる技術的詳細は例えば米国特許第5,174,205号明細書および米国特許第5,163,368号明細書に記載されている。
【0045】
現像段階において、例えば回転ブラシによるような機械的なこすりと組み合わせてもよい従来の水性アルカリ性現像剤中への浸漬により、コーティングの非像領域は除去される。現像中に、存在する水溶性保護層も除去される。基質のアルミナ層(存在する場合には)が確実に損傷されないようにするためには、少なくとも1の二酸化珪素対アルカリ金属酸化物の比を有する珪酸塩をベースにした現像剤が好ましい。好ましいアルカリ金属酸化物はNaOおよびKO、並びにそれらの混合物を包含する。アルカリ金属珪酸塩の他に、現像剤は場合により当該技術で既知である別の成分、例えば緩衝物質、錯化剤、発泡防止剤、少量の有機溶媒、腐食抑制剤、染料、界面活性剤および/またはヒドロトロピー剤を含有しうる。現像は好ましくは当該技術で普遍的であるように20〜40℃の温度において自動処理装置の中で行われる。再生用には、0.6〜2.0モル/lのアルカリ金属含有量を有するアルカリ金属珪酸塩溶液を適切に使用することができる。これらの溶液は現像剤と同じシリカ/アルカリ金属酸化物比を有することができ(しかしながら、一般的にはそれより低い)そして同様に場合により別の添加剤を含有しうる。再生された材料の必要量は使用される現像装置、1日の版生産量、像領域などに適合させなければならず、そして一般には1平方メートルの記録材料当たり1〜100mlである。添加は、例えば、欧州特許出願公開第0556690号明細書に記載されたようにして伝導率を測定することにより、調節することができる。
【0046】
本発明に従う版前駆体は、必要な場合には、次に当該技術で既知であるような適当な補正剤または防腐剤で後処理することができる。完成印刷版の耐性を増加させるためそしてその結果として印刷回数を延長させるためには、層を高められた温度に短時間加熱することができる(「ベーキング」)。その結果、洗剤、補正剤および紫外線硬化性印刷インキに対する印刷版の耐性も増加する。そのような熱後処理は、とりわけ、独国特許出願公開第1447963号明細書および英国特許出願公開第1154749号明細書に記載されている。
【0047】
上記の後処理の他に、版前駆体の処理はすすぎ段階、乾燥段階および/またはゴム引き段階を含むこともできる。
【0048】
このようにして得られた印刷版は、インキおよび湿し水が版に供給される従来のいわゆる湿潤オフセット印刷用に使用することができる。別の適する印刷方法は湿し水なしのいわゆる単一流体インキを使用する。本発明の方法における使用に適する単一流体インキは米国特許第4,045,232号明細書、米国特許第4,981,517号明細書および米国特許第6,140,392号明細書に記載されている。最も好ましい態様では、一流体インキは国際公開第00/32705号パンフレットに記載されているように疎水性または親油性相とも称するインキ相とポリオール相とを含んでなる。
【実施例】
【0049】
平版支持体の製造
0.30mm厚さのアルミニウム箔を5g/lの水酸化ナトリウムを含有する水溶液中に50℃において浸漬することにより箔を脱脂しそして脱塩水ですすいだ。箔を次に交流を用いて4g/lの塩酸、4g/lの臭化水素酸および5g/lのアルミニウムイオンを含有する水溶液中で35℃の温度および1200A/mの電流密度において電気化学的に研磨して0.5μmの平均中心線粗さRaを有する表面形態を形成した。脱塩水ですすいだ後に、アルミニウム箔を次に300g/lの硫酸を含有する水溶液を用いて60℃において180秒間にわたりエッチングしそして脱塩水で25℃において30秒間にわたりすすいだ。箔を引き続き200g/lの硫酸を含有する水溶液中で45℃の温度、10Vの電圧において150A/mの電流密度で30秒間にわたり陽極酸化にかけて3g/mのAlの陽極酸化フィルムを形成し、そして次に脱塩水で洗浄し、4g/lのポリビニルホスホン酸を含有する溶液および引き続き三塩化アルミニウム溶液で後処理した。最後に、箔を脱塩水で20℃においてすすぎそして乾燥した。
【0050】
表1に定義された溶液を上記の平版支持体上にコーティングすることにより、実施例1〜5(本発明)および実施例6〜7(比較例)の印刷版前駆体を製造した。コーティング溶液を10.8m/分の速度で操作されるコーティングライン上で26μmの湿潤コーティング厚さで適用しそして次に135℃において乾燥した。
【0051】
【表1】

評価および結果
上記の印刷版前駆体の各々のコーティングの赤外吸収スペクトルを混合反射方式でパーキン・エルマー・ラムダ(Perkin Elmer Lambda)900分光計を用いて測定した。コーティングの正味反射濃度は、対照としてのメチルエチルケトンを用いる支持体からコーティングを洗浄することにより得られたコーティングされていない試料を用いて得られた。吸収ピークの80%におけるバンド幅を以上で説明した通りにして図1を参照しながら測定した。値を以下の表2に示す(項目「BW80」)。
【0052】
上記の印刷版前駆体の各々を原型XTD赤外ダイオードレーザー(830nm)のイメージ−セッター上で下記の表2に示された種々の出力密度において露出した。露出された試料の得られたSEM−像を標準的SEM−像(図2〜6)と比較することにより、露出されたコーティングの融除の程度を評価した。標準的SEM−像(図2〜6)は、先行技
術の材料を本発明の実施例1〜7に関して使用されたものと同じイメージ−セッターを用いて露出することにより得られた。露出の出力密度は図2(低い値)から図6(高い値)へ増加する。得られた像の視覚的評価を下記の通りにして1〜5の目盛りで定量化した。「1」=コーティングに欠陥がなく且つ融除片がコーティングの表面上に沈着しない;図2参照。
「2」=コーティングに対する損傷が始まる(わずかな小さい孔が見られる)が融除片は観察されない;図3参照。
「3」=コーティング中の有意量の孔の発生があるが気泡や融除片はコーティングの表面上に検知できない;図4参照。
「4」=コーティングの表面上の融除片の沈着発生;コーティングは多くの欠陥(孔、気泡)を示す;図5参照。
「5」=有意量の融除片がコーティングの表面上に沈着し、それは露出により実質的に損傷を受ける;図6参照。
【0053】
SEM像に基づく定性化は像形成された版上の塵の視覚的認知と良く対応する。SEM像に基づき等級「4」または「5」の条件を満たす版は、人間の観察者にとって認知可能であり且つ布または紙組織を用いて拭うことができる塵の沈着を示す。等級「4」では、表面上で低い角度で光源(例えば窓)の反射で見るときにだけ塵は見えるが、「5」の適格は版の表面上でいずれの角度でも非常にはっきりと見える量の塵に相当する。「3」より下では、塵は視覚的に認知できず且つSEM像上で検知できない。
【0054】
【表2】

表2の結果は、1000cm−1より低い赤外吸収ピークの80%にバンド幅を有する実施例1−5は融除片の発生なしに高い出力密度で露出されうることを示している(等級1〜3)。比較例6および7は233kW/cmより高い赤外露出時に融除片を発生する(等級4または5)。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は比較材料(点線)および本発明に従う材料(実線)の赤外吸収スペクトルを示す。
【図2−6】図2〜6は種々の出力密度値において赤外レーザー光線に露出された先行技術材料のコーティングの走査電子顕微鏡(SEM)像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)親水性表面を有するかまたは親水性層が設けられた金属支持体を含んでなりそして(ii)その上に赤外線吸収性染料および水性アルカリ性現像剤中に可溶性である疎水性結合剤を含んでなるコーティングが設けられている感熱性平版印刷版前駆体であって、コーティングが700〜1000nmの間の範囲内の波長λmaxにおける吸収ピーク(3)を有する正味反射濃度対波長の光吸収スペクトル(1)により特徴づけられ、ここで該吸収ピークが1000cm−1より小さいλmaxにおける正味反射濃度の80%における波数間隔として定義されるバンド幅(4)を有する感熱性平版印刷版前駆体。
【請求項2】
コーティングの光吸収スペクトルのλmaxが700nm〜890nmの間の範囲にある請求項1に記載の印刷版前駆体。
【請求項3】
コーティングの光吸収スペクトルのλmaxが700nm〜850nmの間の範囲にある請求項1に記載の印刷版前駆体。
【請求項4】
コーティングが水性アルカリ性現像剤中に赤外線に露出されるコーティングの領域中では露出されない領域中より低い溶解速度で溶解可能である請求項1〜3のいずれかに記載の印刷版前駆体。
【請求項5】
コーティングが水性アルカリ性現像剤中に赤外線に露出されるコーティングの領域中では露出されない領域中より高い溶解速度で溶解可能である請求項1〜3のいずれかに記載の印刷版前駆体。
【請求項6】
疎水性結合剤がフェノール系樹脂であり、そしてコーティングが(a)芳香族基および水素結合部位を含んでなる有機化合物、(b)現像剤中に不溶性であるかまたは非浸透性である疎水性または撥水性重合体、(c)極性基および疎水性基を含んでなる界面活性剤または(d)ポリ−またはオリゴ(アルキレンオキシド)ブロックおよび疎水性ブロックを含んでなるブロック−共重合体よりなる群から選択される溶解抑制剤をさらに含んでなる請求項5に記載の印刷版前駆体。
【請求項7】
赤外染料がシアニン染料、メロシアニン染料、インドアニリン染料、オキソノール染料、ピリリウム染料およびスクアリリウム染料よりなる群から選択される前記請求項のいずれかに記載の印刷版前駆体。
【請求項8】
赤外染料が下記構造:
【化1】

を有する前記請求項のいずれかに記載の印刷版前駆体。
【請求項9】
コーティング中の撥水性重合体の量が0.5〜15mg/mの間である請求項6〜8に記載の印刷版前駆体。
【請求項10】
コーティング中の界面活性剤の量が10〜100mg/mの間である請求項6〜8に
記載の印刷版前駆体。
【請求項11】
コーティング中のブロック−共重合体の量が0.5〜25mg/mの間である請求項6〜8に記載の印刷版前駆体。
【請求項12】
コーティングがλmax+/−20nmの範囲内の波長および233kW/cmより高い出力密度を有するレーザー光線への露出時に融除を発生しない前記請求項のいずれかに記載の印刷版前駆体の露出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−517306(P2006−517306A)
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502002(P2006−502002)
【出願日】平成16年2月4日(2004.2.4)
【国際出願番号】PCT/EP2004/050080
【国際公開番号】WO2004/071767
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(504376795)アグフア−ゲヴエルト (24)
【Fターム(参考)】