慢性心不全の治療方法
本開示は、慢性心不全に苦しむヒト被験体の治療方法に関する。本明細書に記載の方法は、リラキシンの投与を用いたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国仮特許出願第61/201,240号(2008年12月8日出願)、同第61/190,545号(2008年8月28日出願)および同第61/127,889号(2008年5月16日出願)の35U.S.C.119(e)における利益を請求するものであり、これらの出願はいずれも、参照により全ての内容があらゆる目的で本明細書に含まれるものとする。
【0002】
分野
本開示は、慢性心不全に苦しむヒト被験体の治療方法に関する。本明細書に記載の方法は、リラキシンの投与を用いたものである。
【背景技術】
【0003】
背景
心不全は主要な健康問題であり、65歳以上の患者において入院の第一原因となっている(非特許文献1)。心不全の基本的な症状は、呼吸困難、疲労、体液貯留(fluid retention)であり、肺うっ血や末梢浮腫を引き起こす恐れがある。心不全は殆どの場合進行性の疾患であり、容易に悪化して急性非代償性心不全を引き起こす(非特許文献2)。米公的医療保険センター(Center for Medicare and Medicaid Administration)の最近の発表によれば、入院を診断するのに唯一最も費用がかかるのが急性心不全(AHF)である。事実、AHFは年間100万件を超える入院件数を占めており、6ヶ月以内の再入院率はほぼ50%である(非特許文献3)。
【0004】
慢性心不全(HF)の管理に関する領域では著しい進歩がある一方、依然として相当の罹患率および死亡率を伴っている。症候性患者の平均余命は5年未満であり、疾患が最も進行した患者では一年死亡率が90%にもなると報告されている(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。従って、心不全の臨床管理の目標は、代償(安定)期間を延長し、疾患の進行を出来るだけ長く抑えることである。現在、心不全患者の間で、心臓−腎臓間で生じる複雑な相互作用についての認識が増えている。このように、この患者集団の治療に用いられてきた従来の治療薬の多くは、腎機能に顕著な変化をもたらす可能性があり、治療の最適な選択肢とはもはや考えられていない。また、慢性心不全患者の管理に使用される現行の薬剤は、有効性に限界があったり、低血圧、頻拍、不整脈、腎不全の悪化などの深刻な副作用がある。従って、慢性HF患者を安定させることができ、かつ、有害な副作用の少ない新薬および治療レジメンの開発が望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Krumholz et al., Am. Heart J., 139: 72-7, 2000
【非特許文献2】Hunt et al., Circulation, 112: 154-235, 2005
【非特許文献3】Koelling et al., Am Heart J, 147: 74-8, 2004
【非特許文献4】Stewart et al., Eur J Heart Fail, 3: 315-322, 2001
【非特許文献5】Hershberger et al., J Card Fail, 9: 180-187, 2003
【非特許文献6】Rose et al., N Eng J Med, 345: 1435-1443, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
好ましい実施形態の要旨
本開示は、慢性心不全に苦しむヒト被験体の治療方法に関する。本明細書に記載の方法は、リラキシンの投与を用いたものである。本開示は、リラキシン投与によるうっ血性心不全(CHF)患者の治療方法を提供する。CHFの悪化による入院数は増加傾向にあり、このような患者のケアに伴う費用は驚異的な額に及んでいる。従って、治療への新たな取り組みが必要であり、本開示はこの要望に取り組むものである。本開示の利点の一つは、リラキシンの投与によって、バランスのとれた血管拡張(balanced vasodilation)をもたらし、代償性心不全から急性非代償性心不全への進行を防ぐことである。このように、入院が不要であり、かつ、通院回数や通院期間を明らかに減らせる定常状態レベルに被験体を維持することが可能である。本開示の別の利点は、リラキシンを患者に投与した際に、有害薬物反応(ADR)を殆ど示さないか、全く示さず、有効性が高いことである。本明細書において、ADRを引き起こさずに患者を安定させることで、リラキシンが急性代償不全の軽減に有益な効果を発揮することを示す。従って、本開示は、慢性HFに罹患した特定の患者集団においてバランスのとれた血管拡張をもたらす治療法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一つの側面では、慢性HFヒト被験体を選別する工程を含む、急性心代償不全事象を軽減する方法を提供し、当該被験体は、リラキシン受容体を有する血管系を有する。当該方法はさらに、医薬的に活性なリラキシンを有効量含む医薬製剤を被験体へ投与し、被験体の血管系に存在するリラキシン受容体へ結合させることで被験体の急性心代償不全事象の頻度を減らし、バランスのとれた血管拡張をもたらす工程を含む。心代償不全は、神経ホルモン平衡失調、体液過負荷、心不整脈、心虚血等(但し、これらに限定されない)のいずれか1つ以上の原因に起因する可能性がある。一実施態様では、ヒト被験体が急性血管不全に罹患している。
【0008】
本開示の医薬製剤に使用されるリラキシンは、例えば、合成もしくは組換えリラキシンまたは医薬的に有効なリラキシンアゴニストであってよい。本開示の一実施態様では、リラキシンはH1ヒトリラキシンである。別の実施態様では、リラキシンはH2ヒトリラキシンである。さらに別の実施態様では、リラキシンはH3ヒトリラキシンである。さらなる実施態様では、リラキシンは合成もしくは組換えヒトリラキシンまたは医薬的に有効なリラキシンアゴニストである。従って、合成もしくは組換えヒトリラキシンまたはリラキシンアゴニストの医薬製剤で被験体を処置することができる。本開示の一実施態様では、合成ヒトリラキシンで被験体を処置する。別の実施態様では、組換えヒトリラキシンで被験体を処置する。さらに別の実施態様では、医薬的に有効なリラキシンアゴニストで被験体を処置する。リラキシンは、複数の異なる経路、例えば、静脈内、皮下、筋肉内、舌下、吸入等(但し、これらに限定されない)を介して被験体へ投与することが可能である。具体的には、リラキシンまたはリラキシンアゴニストの医薬製剤は、被験体の体重1kg当たり約10〜1000μg/日の範囲の量で被験体へ投与することが可能である。このように、リラキシンの血清濃度を約1〜500ng/mlに維持するよう、リラキシンを被験体へ投与する。
【0009】
本開示の方法から恩恵を受けるヒト被験体は、リラキシンの投与に先立って約1年以上前から心不全と診断されている。リラキシン処置によって頻度の軽減が可能な急性心代償不全事象としては、呼吸困難、高血圧、不整脈、腎血流の低下および腎不全が挙げられるが、これらに限定されない。これらの事象は、病院への入院または再入院を伴うことが多い。本開示の一実施態様では、これらの急性心代償不全事象は病態生理学的性質を有する。最も一般的には、このような事象は急性非代償性心不全(AHF)を伴う。一実施態様では、ヒト被験体が血管不全に罹患している。別の実施態様では、急性心代償不全は断続的である。
【0010】
本開示の別の側面では、急性心代償不全事象の頻度を軽減する方法を提供する。一部の実施態様では、当該方法は、代償性CHFヒト被験体を選別する工程であって、ここで、当該被験体はリラキシン受容体を有する血管系を有し;医薬的に活性なリラキシンを有効量含む医薬製剤を被験体へ投与し、被験体の血管系に存在するリラキシン受容体へ結合させることで被験体が経験する急性心代償不全事象の頻度を減らす工程を含む。この方法では、リラキシン処置によって急性心代償不全事象の頻度が軽減し、この効果がリラキシン処置の開始から少なくとも約1〜14日間持続する。急性心代償不全事象としては、呼吸困難、体液貯留による体重増加、長期入院、再入院の可能性、ループ利尿薬の必要性、静脈内(IV)ニトログリセリンの必要性、心不全悪化の発生が挙げられるが、これらに限定されない。一実施態様では、患者をリラキシンで48時間処置する。別の実施態様では、患者をリラキシンで24時間処置する。さらに別の実施態様では、患者をリラキシンで12時間処置する。さらにまた別の実施態様では、患者をリラキシンで6時間処置する。リラキシンの効果はいずれの時点でも測定でき、例えば、リラキシン投与後1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、14日目またはそれ以降でも測定できる。
【0011】
好ましい一実施態様では、リラキシンを約30mcg/kg/日で投与する。好ましい一実施態様では、リラキシンを約30mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約35mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約40mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約45mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約50mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約55mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約60mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約65mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約70mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約75mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約80mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約85mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約100mcg/kg/日で投与する。リラキシンは90〜200mcg/kg/日の投与量で投与してもよい。医薬的に有効なリラキシンとしては、組換えもしくは合成のH1ヒトリラキシン、H2ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシン、あるいは、これらのアゴニストまたは変異体が挙げられる。好ましい一実施態様では、約10ng/mlの血清濃度を維持するよう、リラキシンを被験体へ投与する。リラキシンの医薬製剤は、静脈内、皮下、筋肉内、舌下または吸入を介して投与可能である。好ましい一実施態様では、リラキシンの医薬製剤を静脈内に投与する。リラキシン受容体はリラキシンの結合を介して活性化され、例えば、LRG7、LGR8、GPCR135およびGPCR142が挙げられるが、これらに限定されない。リラキシン受容体へのリラキシンの結合は一酸化窒素(NO)の産生を誘発し、その結果、バランスのとれた血管拡張がもたらされる。リラキシン受容体は、例えば、血管系の平滑筋組織上に存在している。
【0012】
さらに本開示は、医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与して、リラキシを用いない治療と比較して前記被験体の入院頻度または入院期間を減らす工程を含む、心不全の治療方法を提供する。ここで、前記被験体は、投与の開始時に、ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association)(NYHA)による心不全分類でクラスIIまたはクラスIIIの心不全を有する。一実施態様では、当該方法は、リラキシを用いない治療と比較して代償不全の頻度を減らす工程を含む。別の実施態様では、代償不全が、呼吸困難、浮腫および疲労からなる群より選択される計画外の医療(unscheduled medical care)を要する症状を含む。別の実施態様では、代償不全が、体液貯留の増加、低血圧、高血圧、不整脈、腎血流の低下、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の濃度上昇、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT−プロBNP)の濃度上昇、血中尿素窒素(BUN)の濃度上昇およびクレアチニンの濃度上昇のうちの1つ以上を含む。別の実施態様では、代償不全が静脈内利尿薬の投与を要する。別の実施態様では、代償不全は心不全による死亡リスクを減らすことを含み、ここで、前記被験体は、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を示していないステージBまたはステージCの構造的心疾患(structual heart disease)を投与の開始時に有する。別の実施態様では、当該被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を既に示すステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体が、約35%以下の左心室駆出率(LVEF)を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体が、約85mmHg以上の収縮期血圧を投与の開始時に有する。別の実施態様では、当該被験体が、約85〜125mmHgの間の収縮期血圧を投与の開始時に有する。一実施態様では、リラキシン(例えば、組換え、精製または合成リラキシン)は、H2ヒトリラキシン(または他の実施態様では、H1ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシン)である。別の実施態様では、リラキシンはリラキシンアゴニストである。一実施態様では、約10〜960mcg/kg/日の間の一定用量(例えば、約10、30、100、240、480または940mcg/kg/日)(事前の力価測定はしない)でリラキシンを投与する。別の実施態様では、静脈内、筋肉内および皮下(あるいは皮内、舌下、吸入または着用可能な注入ポンプ)からなる群より選択される送達経路を用いてリラキシンを投与する。さらに別の実施態様では、少なくとも約4、8、12、24および48時間からなる群より選択される期間にわたって注入によりリラキシンを投与する。別の実施態様では、当該投与にはリラキシンの連続投与が含まれる。さらに別の実施態様では、日に3回、日に2回、日に1回、週に3回、週に2回、週に1回、2週に1回および月に1回からなる群より選択される頻度で注射によりリラキシンを投与する。一実施態様では、当該投与にはリラキシンの間欠投与が含まれる。別の実施態様では、投与によって、低血圧、頻拍、不整脈および腎機能の悪化からなる群より選択される有害作用が起こらない。別の実施態様では、投与によって、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニンおよび循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドのうちの1つ以上をさらに低下させる。別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法(アンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬)のうちの1つ以上を受けている。さらに別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、入院を要する急性心不全を患っていない。
【0013】
本開示はまた、医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、前記被験体の機能的能力(functional capacity)を改善する工程を含む、心不全の治療方法を提供する。ここで、前記被験体は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による心不全分類でクラスIIIまたはクラスIVの心不全を有する。一実施態様では、機能的能力の改善が、Minnesota Living With Heart Failure(登録商標)質問票(Questionnaire)(あるいは、生活の質に関する類似の評価、社会、精神および/または感情機能に対する身体的な心不全症状の影響に関する類似の評価)でのより高いスコアに相当する。別の実施態様では、機能的能力の改善が、6分間歩行試験(あるいは、運動耐性に関する類似の測定)における歩行距離の増加に相当する。一実施態様では、機能的能力の改善が、最大酸素消費量(VO2max)の増加に相当する。別の実施態様では、機能的能力の改善が、NYHA心不全分類でより軽度のクラスの心不全への変化に相当する。別の実施態様では、当該被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を既に示すステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、最適な医薬療法にも拘わらず安静時の顕著な心不全症状を特徴とするステージDの難治性心不全を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体がステージDの心不全を有し、かつ、機械的な循環支援と心臓移植の一方または両方について適格である(eligible)。別の実施態様では、当該被験体がステージDの心不全を有し、かつ、終末期ケア(end-of-life care)について適格がある。さらに別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始に先立って少なくとも1年前に心不全との診断を受けている。一実施態様では、リラキシン(例えば、組換え、精製または合成リラキシン)は、H2ヒトリラキシン(または他の実施態様では、H1ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシン)である。別の実施態様では、リラキシンはリラキシンアゴニストである。一実施態様では、約10〜960mcg/kg/日の間の一定用量(例えば、約10、30、100、240、480または940mcg/kg/日)(事前の力価測定はしない)でリラキシンを投与する。別の実施態様では、約240〜960mcg/kg/日の間の一定用量(例えば、約240、480または940mcg/kg/日)(事前の力価測定はしない)でリラキシンを投与する。一実施態様では、静脈内、筋肉内および皮下(あるいは皮内、舌下、吸入または着用可能な注入ポンプ)からなる群より選択される送達経路を用いてリラキシンを投与する。別の実施態様では、少なくとも約4、8、12、24および48時間からなる群より選択される期間にわたって注入によりリラキシンを投与する。さらに別の実施態様では、当該投与にはリラキシンの連続投与が含まれる。さらに別の実施態様では、日に3回、日に2回、日に1回、週に3回、週に2回、週に1回、2週に1回および月に1回からなる群より選択される頻度で注射によりリラキシンを投与する。一実施態様では、当該投与にはリラキシンの間欠投与が含まれる。別の実施態様では、投与によって、低血圧、頻拍、不整脈および腎機能の悪化からなる群より選択される有害作用が起こらない。別の実施態様では、投与によって、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニンおよび循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドのうちの1つ以上をさらに低下させる。別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法(アンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬)のうちの1つ以上を受けている。さらに別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、入院を要する急性心不全を患っていない。
【0014】
本開示の別の側面では、医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、前記被験体によって摂取される併用される慢性心不全用医薬の使用を減らす工程を含む、心不全の治療方法を提供する。ここで、前記併用される慢性心不全用医薬は、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法(アンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬)のうちの1つ以上を含むものである。一実施態様では、当該被験体が、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による心不全分類でクラスIIまたはクラスIIIの心不全を投与の開始時に有する。別の実施態様では、当該被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を示していないステージBまたはステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を既に示すステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する。一実施態様では、当該被験体が、約35%以下の左心室駆出率(LVEF)を投与の開始時に有する。別の実施態様では、当該被験体が、約85mmHg以上の収縮期血圧を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体が、約85〜125mmHgの収縮期血圧を投与の開始時に有する。別の実施態様では、リラキシン(例えば、組換え、精製または合成リラキシン)は、H2ヒトリラキシン(または他の実施態様では、H1ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシン)である。さらに別の実施態様では、リラキシンはリラキシンアゴニストである。一実施態様では、約10〜960mcg/kg/日の間の一定用量(例えば、約10、30、100、240、480または940mcg/kg/日)(事前の力価測定はしない)でリラキシンを投与する。別の実施態様では、静脈内、筋肉内および皮下(あるいは皮内、舌下、吸入または着用可能な注入ポンプ)からなる群より選択される送達経路を用いてリラキシンを投与する。さらに別の実施態様では、少なくとも約4、8、12、24および48時間からなる群より選択される期間にわたって注入によりリラキシンを投与する。別の実施態様では、当該投与にはリラキシンの連続投与が含まれる。さらに別の実施態様では、日に3回、日に2回、日に1回、週に3回、週に2回、週に1回、2週に1回および月に1回からなる群より選択される頻度で注射によりリラキシンを投与する。一実施態様では、当該投与にはリラキシンの間欠投与が含まれる。別の実施態様では、投与によって、低血圧、頻拍、不整脈および腎機能の悪化からなる群より選択される有害作用が起こらない。別の実施態様では、投与によって、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニンおよび循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドのうちの1つ以上をさらに低下させる。別の実施態様では、当該使用の低減は、併用される慢性心不全用医薬の1種以上の用量を減らすことを含む。別の実施態様では、当該使用の低減は、併用される慢性心不全用医薬の1種以上を中断することを含む。さらに別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、入院を要する急性心不全を患っていない。
【0015】
本開示はさらに、医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、前記被験体の心係数を増加させる工程を含む、心不全の治療方法を提供する。ここで、前記被験体は心不全有し、かつ、投与の開始時における前記被験体の心係数が約2.5L/分/m2未満である。別の実施態様では、当該被験体が、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による心不全分類でクラスIIまたはクラスIIIの心不全を投与の開始時に有する。別の実施態様では、当該被験体の心係数が、投与の開始時に約1.8〜2.5L/分/m2の間である。さらに別の実施態様では、当該被験体が、約35%以下の左心室駆出率(LVEF)を投与の開始時に有する。別の実施態様では、当該被験体が、約85mmHg以上の収縮期血圧を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体が、約85〜125mmHgの間の収縮期血圧を投与の開始時に有する。一実施態様では、リラキシン(例えば、組換え、精製または合成リラキシン)は、H2ヒトリラキシン(または他の実施態様では、H1ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシン)である。別の実施態様では、リラキシンはリラキシンアゴニストである。一実施態様では、約10〜960mcg/kg/日の間の一定用量(例えば、約10、30、100、240、480または940mcg/kg/日)(事前の力価測定はしない)でリラキシンを投与する。別の実施態様では、約240〜960mcg/kg/日の間の一定用量(例えば、約240、480または940mcg/kg/日)(事前の力価測定はしない)でリラキシンを投与する。一実施態様では、静脈内、筋肉内および皮下(あるいは皮内、舌下、吸入または着用可能な注入ポンプ)からなる群より選択される送達経路を用いてリラキシンを投与する。別の実施態様では、少なくとも約4、8、12、24および48時間からなる群より選択される期間にわたって注入によりリラキシンを投与する。さらに別の実施態様では、当該投与にはリラキシンの連続投与が含まれる。さらに別の実施態様では、日に3回、日に2回、日に1回、週に3回、週に2回、週に1回、2週に1回および月に1回からなる群より選択される頻度で注射によりリラキシンを投与する。一実施態様では、当該投与にはリラキシンの間欠投与が含まれる。別の実施態様では、投与によって、低血圧、頻拍、不整脈および腎機能の悪化からなる群より選択される有害作用が起こらない。別の実施態様では、投与によって、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニンおよび循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドのうちの1つ以上をさらに低下させる。別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法(アンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬)のうちの1つ以上を受けている。さらに別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、入院を要する急性心不全を患っていない。
【0016】
本開示は、好ましい実施態様を例示した添付の図面と組み合わせて読むことで最も良く理解される。しかしながら、本開示が、図面に開示された特定の実施態様に限定されないことは理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1のAは、大きさと形状がインスリンに類似したペプチドホルモンのH2リラキシンを示す。図1のBは、ヒトリラキシン2(H2)のB鎖(配列番号1)およびA鎖(配列番号2;Xはグルタミン酸[E]またはグルタミン[Q]を表す)のアミノ酸配列を示す。
【図2】図2は、リラキシンの可能な作用機序を示したものである。リラキシン受容体LGR7およびLGR8はリラキシンに結合し、マトリックスメタロプロテイナーゼMMP−2およびMMP−9を活性化してエンドセリン−1を切断型エンドセリン−1(1−32)へと変換し、次いで切断型エンドセリン−1(1−32)がエンドセリンB受容体(ETB受容体)へ結合する。これにより一酸化窒素合成酵素(NOS)が誘発されて一酸化窒素(NO)が産生され、血管拡張が増加する。
【図3】図3は、血管の内腔を示したものである。矢印は平滑筋細胞(SM)と内皮(E)を示す。リラキシン受容体は、血管(全身および腎臓の血管系)の平滑筋細胞上に存在する。
【図4】図4は、心係数とリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースラインに対してP<0.05。
【図5】図5は、心拍数とリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。
【図6】図6は、全身血管抵抗とリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースラインに対してP<0.05。
【図7】図7は、肺毛細管楔入圧とリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースラインに対してP<0.05。
【図8】図8は、収縮期血圧とリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースラインに対してP<0.05。
【図9】図9は、血漿NT−プロBNPとリラキシンを示したものである。グラフは、注入時については24時間(黒塗りつぶし)、注入後については24時間と9日目(白抜き)の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦方向の点線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースライン(「0」点)に対してP<0.05。
【図10】図10は、血清クレアチニンとリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースラインに対してP<0.05。
【図11】図11は、右心房圧と肺血管抵抗とリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースラインに対してP<0.05。
【図12】図12は、全身性硬化症患者でのリラキシンの臨床試験において、高血圧および正常血圧の被験体の収縮期血圧(SBP)が安定して減少したことを示す。試験参加時に高血圧であった患者の血圧低下は、試験参加時に正常血圧であった患者の血圧低下よりも大きかった。6ヶ月の連続投薬の期間中、血圧低下は安定していた。患者はいずれも投薬期間中に低血圧を発症しなかった。
【図13】図13は、全身性硬化症患者へリラキシン(プラセボではなく)を6ヶ月間連続投薬した際に、推定クレアチニンクリアランス(CrCl)として測定した腎機能が安定して改善したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
概要
本開示は、心不全(HF)患者を代償状態に維持する方法に関する。リラキシンは、腎機能のマーカーを改善し(例えば、血中尿素窒素の減少およびクレアチニンクリアランスの増加)、心係数を増加させ、かつ、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗および循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドを低下させることにより、HF患者に対して有益な効果を発揮することが判っている。また、リラキシンは、治療の際の低血圧または頻拍のリスクを低下させるといった、現行の薬剤では見られないさらなる利点を有する。重要な点は、実施例1に記載の予備実験で、リラキシン投与からは用量範囲全般にわたって臨床上著しい有害作用が見られなかったことである(Dschietzig et al., J Cardiac Fail, 15: 182-90, 2009)。
【0019】
定義
用語「リラキシン」は、当該技術分野で周知のペプチドホルモンを意味する(図1を参照)。ここで云う用語「リラキシン」にはヒトリラキシンが包含され、完全長(intact full length)ヒトリラキシンまたは生物学的活性を保持したリラキシン分子の部分が含まれる。用語「リラキシン」には、ヒトH1プレプロリラキシン、プロリラキシンおよびリラキシン;H2プレプロリラキシン、プロリラキシンおよびリラキシン;H3プレプロリラキシン、プロリラキシンおよびリラキシンが包含される。用語「リラキシン」にはさらに、組換え、合成または天然源由来の生物学的に活性な(本明細書中「医薬的に活性な」とも云う)リラキシン、並びに、アミノ酸配列変異体といったリラキシン変異体が含まれる。このように、本用語は、合成ヒトリラキシンおよび組換えヒトリラキシン、例えば、合成H1、H2およびH3ヒトリラキシンならびに組換えH1、H2およびH3ヒトリラキシンを意図する。本用語にはさらに、リラキシン様の活性を有する活性物質、例えば、リラキシンアゴニストおよび/またはリラキシンアナログ並びに生物学的活性を保持したこれらの部分、例えば、リラキシン受容体(例えば、LGR7受容体、LGR8受容体、GPCR135、GPCR142等)に結合したリラキシンと競合的に置き換わる全ての物質が包含される。従って、医薬的に有効なリラキシンアゴニストは、リラキシン受容体に結合してリラキシン様の応答を惹起し得るリラキシン様の活性を有する任意の物質である。さらに、ここで云うヒトリラキシンの核酸配列は、ヒトリラキシン(例えば、H1、H2および/またはH3)の核酸配列と100%同一である必要はなく、ヒトリラキシンの核酸配列と少なくとも約40%、50%、60%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一であればよい。ここで云うリラキシンは、当業者に公知の任意の方法で作製可能である。このような方法の例としては、例えば、米国特許第5,759,807号並びにBullesbach et al. (1991) The Journal of Biological Chemistry 266(17):10754-10761に例示されている。リラキシン分子およびリラキシンアナログの例としては、例えば、米国特許第5,166,191号に例示されている。天然に存在する生物学的に活性なリラキシンは、ヒト、ネズミ(即ち、ラットもしくはマウス)、ブタまたは他の哺乳動物源由来であってよい。また、インビボでの半減期を増加すべく修飾されたリラキシン、例えば、PEG化リラキシン(即ち、ポリエチレングリコールと複合したリラキシン)、分解酵素による切断に供されるアミノ酸修飾されたリラキシンなども含まれる。本用語にはまた、N末端切断および/またはC末端切断を有するA鎖およびB鎖を含むリラキシンも包含される。一般に、H2リラキシンでは、A鎖はA(1−24)からA(10−24)へ、B鎖はB(1−33)からB(10−22)へ変化可能であり;H1リラキシンでは、A鎖はA(1−24)からA(10−24)へ、B鎖はB(1−32)からB(10−22)へ変化可能である。同じく用語「リラキシン」の範疇に含まれるのは、他の1つ以上のアミノ酸残基を挿入、置換または欠失したリラキシン、グルコシル化変異体、非グルコシル化リラキシン、有機塩および無機塩、共有結合的に修飾された誘導体のリラキシン、プレプロリラキシンおよびプロリラキシンである。同じく本用語に含まれるのは、野生型(例えば、天然に存在するもの)の配列とは異なるアミノ酸配列を有するリラキシンアナログであり、米国特許第5,811,395号に開示のリラキシンアナログが挙げられるが、これらに限定されない。リラキシンのアミノ酸残基に対する可能な修飾としては、遊離アミノ基(例えば、N末端)のアセチル化、ホルミル化もしくは類似の保護、C末端基のアミド化、または、ヒドロキシル基もしくはカルボン酸基のエステル形成、例えば、ホルミル基の付加によるB2トリプトファン(Trp)残基の修飾が挙げられる。ホルミル基は、容易に除去可能な保護基の典型例である。他の可能な修飾としては、B鎖および/またはA鎖の天然アミノ酸の1つ以上を異なるアミノ酸(天然アミノ酸のD体を含む)で置換することが挙げられ、例えば、B24のMet部分をノルロイシン(Nle)、バリン(Val)、アラニン(Ala)、グリシン(Gly)、セリン(Ser)またはホモセリン(HomoSer)で置換することが挙げられるが、これらに限定されない。他の可能な修飾としては、当該鎖からの天然アミノ酸の欠失、または、1つ以上の追加アミノ酸の鎖への付加が挙げられる。別の修飾としては、プロリラキシンのB/CおよびC/A接合部のアミノ酸置換(当該修飾により、プロリラキシンからのC鎖の切断が促進される)、並びに、非天然Cペプチドを含む変異リラキシン、例えば、米国特許第5,759,807号に記載のものが挙げられる。同じく用語「リラキシン」に含まれるのは、リラキシンと異種ポリペプチドとを含む融合ポリペプチドである。異種ポリペプチド(例えば、非リラキシンポリペプチド)である融合パートナーは、融合タンパク質のリラキシン部分のC末端側でもN末端側でもよい。異種ポリペプチドとしては、免疫学的に検出可能なポリペプチド(例えば、「エピトープタグ」);検出可能なシグナルを生成し得るポリペプチド(例えば、緑色蛍光タンパク質、アルカリホスファターゼ等の酵素、その他当該技術分野で公知のもの);治療用ポリペプチド(例えば、サイトカイン、ケモカイン、成長因子が挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられる。リラキシン分子の構造において変異体をもたらすこのような変異または変化は全て、リラキシンの機能(生物学的)活性が維持される限り、本開示の範囲に含まれる。好ましくは、リラキシンのアミノ酸配列または構造の修飾はいずれも、リラキシン変異体で処置した個体において、その免疫原性を増加させないものである。このような記載した機能活性を有するリラキシン変異体は、当該技術分野で公知のインビトロおよびインビボアッセイを用いることで容易に同定可能である。
【0020】
用語「心不全」は、心臓が本来のように効率よく働かないことを通常意味する。心不全(HF)は、身体が血流を必要としても、心臓の筋肉がそれに追随できない時に生じる。HFは症候群、即ち、複数の原因から生じる可能性のある所見の集まりである。HFは心臓の筋肉が弱まること(即ち、心筋症)で生じ、十分な血液を送り出すことができなくなる。HFはまた、体液が通常体内に蓄積して、この状態がうっ血と言われるため、うっ血性HFとも呼ばれる。心臓が弱まることで生じるHF以外にも、他の様々なHFが存在する。これらは、正常な心臓であっても高すぎで追随できないような身体の要求によって生じるHFであって、例えば、過剰な甲状腺ホルモンが産生される甲状腺疾患の一部の症例や、貧血患者または他の複数の病態で見られるHF、あるいは、神経ホルモンの平衡失調に起因するHFであって、最終的には呼吸困難の急性現象または他の急性事象、例えば、高血圧(hypertension)、血圧の上昇(high blood pressure)、不整脈、腎血流の低下、腎不全、そして重篤な場合には死に至るHFである。患者が既にHFとの診断を受けている場合には、前述の現象によって、患者は慢性HFから急性非代償性心不全(AHF)および/または急性血管不全へと移行する。通常、AHFには、患者を非代償状態から代償状態へ導くために入院や計画外の医療支援が必要である。
【0021】
用語「代償性慢性心不全」と「代償性慢性HF」は同義であって、正常な心拍出量を通常もたらす制御されたうっ血性心不全を表し、通常医療介入によって達成される。正常な心拍出量ではあるものの、代償メカニズムを用いることで、損傷した心臓で十分な心拍出量を維持している異常な状態である。その結果、代償性慢性HFは一般に進行性の疾患であり、医療介入の主な目標は、最小限の副作用で安定した代償性慢性HFの状態を最大にすることである。
【0022】
本明細書中、用語「AHF」、「急性心不全」および「急性非代償性心不全」は、スクリーニング時に以下の全てが存在することで定義される:安静時または最小限の労作で生じる呼吸困難、胸部X線での肺のうっ血、および、ナトリウム利尿ペプチドの濃度上昇[脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)≧350pg/mLまたはNT−プロBNP≧1400pg/mL]。
【0023】
用語「急性心代償不全」および「急性代償不全」は、本明細書中区別なく使用され、明細書および特許請求の範囲の目的では、体内の神経ホルモン平衡失調に起因する全身および腎臓の血管収縮を心臓の筋肉が代償できない状態を意味する。急性心代償不全は、心機能の変化と体液調節の変化を特徴とし、血液動態上の不安定性および生理学的変化(特に、うっ血および浮腫)、心不全症状(最も一般的には呼吸困難)の発症を招く。この種の機能代償不全は、通常低血圧を伴わないにも拘わらず、弁膜または心筋の欠陥(即ち、構造欠陥)が原因と誤診される恐れがあった。しかしながら、ここで云う「急性心代償不全」は、ある一定の代償不全事象(例えば、呼吸困難、高血圧、血圧の上昇、不整脈、腎血流の低下、腎不全および死亡が挙げられるが、これらに限定されない)のいずれか1つ以上を伴うことの多い機能代償不全である。ここで云う「急性心代償不全」を示す患者は、典型的にはうっ血性または慢性心不全と診断されるが、以前はそのように診断されない場合もあった。このような患者は、心疾患の病歴を持つ場合もあり、全く持たない場合もある。
【0024】
用語「血管系(vasculature)」は、臓器または身体の部分における血管のネットワーク、例えば、動脈や毛細血管を意味する。
【0025】
用語「バランスのとれた血管拡張(balanced vasodilation)」は、明細書および特許請求の範囲の目的では、リラキシンまたはリラキシンアゴニストが特定のリラキシン受容体へ結合した結果、全身の血管系(主に動脈)と腎臓の血管系で生じる二重の血管拡張を意味する(下記の詳細な説明を参照)。
【0026】
用語「神経ホルモン平衡失調(neurohormonal imbalance)」および「神経液性平衡失調(neurohumoral imbalance)」は、本明細書中区別なく使用され、心不全に至る可能性のある体内のホルモン障害を意味する。例えば、Gs共役型アドレナリン経路またはGq共役型アンジオテンシン経路を介した過剰のシグナル伝達は、神経ホルモン平衡失調を引き起こす恐れがある。いずれの場合も、過剰の神経ホルモンシグナル伝達によって、機能代償不全が引き起こされ、加速する恐れがある(Schrier et al., The New England Journal of Medicine 341(8):577-585, 1999を参照)。さらに、過剰の神経ホルモンシグナル伝達は、急性血管不全を引き起こし、加速する恐れがある。
【0027】
本明細書中、用語「体液過負荷(fluid overload)」は、血液が大量の水分を含有する場合に生じる状態を意味する。体液過負荷(血液量過多)は、レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系の活性化により、体液過負荷を引き起こし得る心不全で普通に見られる。この体液(主に塩分と水分)は身体の様々な部位に蓄積し、体重の増加、脚や腕の腫張(末梢浮腫)および/または腹部の腫張(腹水)を招く。最終的に、体液は肺の気腔に入り込み、血液中に入ることのできる酸素量を低下させ、息切れ(呼吸困難)を引き起こす。体液は、夜間横になった際にも肺に集まる場合があり、夜間の呼吸や睡眠を困難にする恐れがある(発作性夜間呼吸困難)。体液過負荷は、うっ血性HFの最も顕著な特徴の一つである。
【0028】
用語「心不整脈(cardiac arrhythmia)」は、心臓の筋収縮が不規則になる状態を意味する。異常に速いリズム(100拍/分超)は頻拍と呼ばれる。異常に遅いリズム(60拍/分未満)は徐脈と呼ばれる。
【0029】
「心虚血」は、冠状動脈が一部または完全に遮断することで心臓の筋肉(心筋層)への血流が閉塞されるときに生じる。突然の重篤な遮断は、心臓発作(心筋梗塞)を招くことがある。心虚血はまた、深刻な心リズム異常(不整脈)を引き起こすこともあり、その結果、気絶や重篤な場合には死に至る。
【0030】
用語「病態生理学的」は、疾患により惹起されるか、あるいは疾患または疾患と呼ばれるには適しない場合もある異常な症候群もしくは状態から生じるかのいずれかの、任意の正常な機械的、物理的、または生化学的機能の障害を指す。「病態生理学」は、底流になっている異常性および生理学的な障害と相関する、疾患の生物学的および物理学的発現の研究である。
【0031】
用語「一酸化窒素」および「NO」は本明細書中区別なく使用され、ヒトを含む哺乳動物の体内で多くの生理学的および病理学的な過程に関与する重要なシグナル伝達分子を意味する。NOは、血管の平滑筋を弛緩させて血管を拡張させる血管拡張剤として作用可能である。動脈の血管(主に細動脈)が拡張すると血圧が低下する。リラキシンは、NOを介して少なくとも何らかの血管拡張を惹起すると考えられる。このように、リラキシンは、血管系の平滑筋細胞上の特定のリラキシン受容体、例えば、LGR7およびLGR8受容体に結合し、次いで、エンドセリンカスケードを活性化して一酸化窒素合成酵素(NOS)を活性化し、NOを産生する(図2を参照)。
【0032】
用語「心係数」または略語「CI」は、左心室が1分間に全身循環へ拍出する血液量を、1分当たりのリットル数(L/分)として測定したものを表す。心係数は、心拍出量(CO)と体表面積(BSA)とを関連づける(従って、心臓の性能と個体の大きさとを関連づける)血管力学パラメータであり、1平方メートル当たりの1分間のリットル数(L/分/m2)を測定単位とした値である。
【0033】
本明細書中、用語「AHF」、「急性心不全」および「急性非代償性心不全」は、スクリーニング時に以下の全てが存在することで定義される:安静時または最小限の労作で生じる呼吸困難、胸部X線での肺のうっ血、および、ナトリウム利尿ペプチドの濃度上昇[脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)≧350pg/mLまたはNT−プロBNP≧1400pg/mL]。
【0034】
用語「呼吸困難」は、困難な呼吸または苦しい呼吸を意味する。呼吸困難は様々な障害の兆候であり、主に、換気不足または循環血液中の酸素量不足を表す。用語「起座呼吸」は、横になった際の困難な呼吸または苦しい呼吸を意味し、身体を起こしている時(寄りかからずに着座または起立している時)には楽になる。
【0035】
臨床研究および実施にあたっての指針では、典型的には、約140mmHgを超える収縮期血圧(SBP)を高血圧とし、個々の研究または指針に応じて約140mmHg、130mmHgまたは120mmHg未満のSBPを正常血圧とする。急性心不全または他の心疾患の場合には、低血圧は、約110mmHg、100mmHgまたは90mmHg未満のSBPと特徴付けられる。一部の好ましい実施態様では、語句「正常血圧または高血圧状態」とは、試験スクリーニングまたはリラキシン投与時のSBPが125mmHgを超えることを意味する。
【0036】
本明細書中、語句「腎機能障害(impaired renal function)」は、簡易化Modification of Diet in Renal Disease(simplified Modification of Diet in Renal Disease)(sMDRD)の式を用いて計算した推定糸球体濾過率(eGFR)が30〜75mL/分/1.73m2である場合と定義される。
【0037】
用語「プラセボ」は、臨床研究試験において生理学的に活性な処置と比較されることの多い、生理学的に不活性な処置を意味する。これらの試験は一般に二重盲検試験として行われ、処方する医師も患者も、活性薬物を摂取しているのか、明らかな医薬的効果を何ら持たない物質(プラセボ)を摂取しているのか知らされない。生理学的に不活性な処置を受けている患者が、生理学的に活性な処置を受けていると信じている場合には、自身の状態に改善を実感する場合があることが観察されている(プラセボ効果)。従って、試験にプラセボを含めることで、統計学的に有意な有益な効果が、生理学的に活性な処置と関連があり、単にプラセボ効果の結果ではないことが保証される。
【0038】
「再入院」の定義は、最初の治療が終了した後一定の期間内に再度入院することである。期間は通常、治療の種類や患者の状態に依存する。
【0039】
本明細書中、用語「心臓血管死」は、主に心臓血管に原因のある死を意味し、例えば、発作(stroke)、急性心筋梗塞、難治性うっ血性心不全に起因する死や、突然死などである。
【0040】
「ループ利尿薬」は、うっ血性心不全または腎不全の患者に使用して高血圧および浮腫の症状を軽減する薬物を意味する。ループ利尿薬は、腎臓でのナトリウムおよび塩化物の再吸収を減らし、尿の分泌を増加させる利尿薬のクラスに属する。
【0041】
用語「約」は、示された値との関連で使用されるとき、示された値の10%上または下までの範囲(例えば、示された値の90〜110%)を包含する。例えば、約30mcg/kg/日の静脈内(IV)注入速度は、27mcg/kg/日〜33mcg/kg/日のIV注入速度を包含する。
【0042】
「治療上有効」とは、患者のベースライン状態または未処置の被験体もしくはプラセボで処置した被験体(例えば、リラキシンで処置していない被験体)の状態と比較して、患者に対して測定可能な所望の医学的または臨床上の利益をもたらす、医薬的に活性なリラキシンの量を意味する。
【0043】
リラキシン
リラキシンは、大きさと形状がインスリンに類似したペプチドホルモンである(図1を参照)。具体的には、リラキシンは、インスリン遺伝子スーパーファミリーに属する内分泌および自己分泌/パラ分泌ホルモン(autocrine/paracrine hormone)である。コードされるタンパク質の活性型は、A鎖およびB鎖からなり、鎖間2箇所および鎖内1箇所のジスルフィド結合で一体に保持されている。従って、ジスルフィド結合の配置がインスリンに非常に良く似た構造である。ヒトでは、3種類の非対立リラキシン遺伝子、リラキシン1(RLN−1またはH1)、リラキシン2(RLN−2またはH2)およびリラキシン3(RLN−3またはH3)が知られている。H1およびH2は配列相同性が高い。この遺伝子については、異なるイソ型をコードする2つの選択的スプライシング転写産物変異体が記載されている。H1およびH2は生殖器官で特異的に発現し(米国特許第5,023,321号およびGaribay-Tupas et al. (2004) Molecular and Cellular Endocrinology 219:115-125を参照)、H3は主に脳で見られる。受容体におけるリラキシンペプチドファミリーの進化は、一般に当該技術分野で周知である(Wilkinson et al. (2005) BMC Evolutionary Biology 5(14):1-17;およびWilkinson and Bathgate (2007) Chapter 1, Relaxin and Related Peptides, Landes Bioscience and Springer Science + Business Mediaを参照)。
【0044】
リラキシンは、特定のリラキシン受容体、即ち、LGR7(RXFP1)およびLGR8(RXFP2)並びにGPCR135およびGPCR142を活性化する。LGR7およびLGR8はロイシン・リッチ・リピートを含有するGタンパク質共役受容体(LGR)であり、Gタンパク質共役受容体の固有のサブグループである。これらの受容体は、7重らせん構造の膜貫通型ドメインとグリコシル化された大きな細胞外ドメインを含有し、LH受容体またはFSH受容体といったグリコプロテオホルモン(glycoproteohormone)受容体とは遠縁にあたる。これらのリラキシン受容体は、心臓、平滑筋、結合組織、中枢神経系および自律神経系で見られる。効力のあるリラキシン、例えば、H1、H2、ブタおよびクジラのリラキシンは、ある一定の配列、即ち、Arg−Glu−Leu−Val−Arg−X−X−Ile配列または結合カセットを共通して持っている。これらのリラキシンはLGR7およびLGR8受容体を活性化する。配列相同性から外れたリラキシン、例えば、ラット、サメ、イヌおよびウマのリラキシンは、LGR7およびLGR8受容体を介した生物活性が低下している(Bathgate et al. (2005) Ann. N. Y. Acad. Sci. 1041:61-76; Receptors for Relaxin Family Peptidesを参照)。しかしながら、H2リラキシンと同様に、H3リラキシンはLGR7受容体を活性化する(Satoko et al. (2003) The Journal of Biological Chemistry 278(10):7855-7862を参照)。さらに、H3はGPCR135受容体(Van der Westhuizen (2005) Ann. N. Y. Acad. Sci. 1041:332-337を参照)およびGPCR142受容体を活性化することが判っている。GPCR135およびGPCR142は、2つの構造上関連したGタンパク質共役受容体である。マウスおよびラットGPCR135は、ヒトGPCR135に対して高い相同性(即ち、85%を超える)を示し、ヒトGPCR135と非常に良く似た薬理学的特性を有する。ヒト、マウスおよびラットリラキシン3は、マウス、ラットおよびヒトGPCR135と高い親和性で結合し、これらを活性化する。これに対しマウスGPCR142は、ヒトGPCR142との保存性があまり高くない(即ち、74%の相同性)。サル、ウシおよびブタ由来のGPCR142遺伝子は、クローニングされてヒトGPCR142と高度に相同(即ち、84%を超える)であることが判明した。異なる種に由来するGPCR142を薬理学的に特性決定したところ、リラキシン3が異なる種に由来するGPCR142と高い親和性で結合することが明らかとなった(Chen et al. (2005) The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 312(l):83-95を参照)。
【0045】
リラキシンは、女性・男性のいずれにも見られる(Tregear et al.; Relaxin 2000, Proceedings of the Third International Conference on Relaxin & Related Peptides (22-27 October 2000, Broome, Australiaを参照)。女性では、リラキシンは卵巣の黄体、乳房によって産生され、妊娠時には胎盤、絨毛膜および脱落膜からも産生される。男性では、リラキシンは精巣で産生される。黄体による産生の結果、リラキシン濃度は排卵後に上昇し、最初の3半期でピークに達し、妊娠の終わりまでは続かない。妊娠しなければ、その濃度は低下する。ヒトの場合、リラキシンは、妊娠、精子の運動性の向上、血圧調節、心拍数制御ならびにオキシトシンおよびバソプレシンの放出において役割を果たしている。動物では、リラキシンは恥骨を広げ、分娩を促進し、子宮頚管を軟化させ(子宮頚管熟化)、子宮筋系を弛緩させる。動物では、リラキシンはまた、コラーゲン代謝、コラーゲン合成の阻害、マトリックスメタロプロテイナーゼの増加によるコラーゲン分解の亢進にも作用する。また、血管新生も亢進し、腎血管拡張剤でもある。
【0046】
リラキシンは成長因子としての一般的な特性を持ち、結合組織の性質を変え、平滑筋収縮に影響を及ぼすことが可能である。H1およびH2は主に生殖組織で発現すると考えられており、H3は主に脳で発現することが知られている(前出)。しかしながら、本開示の開発時に明らかになったように、H2およびH3は心臓血管の機能および心腎機能において主要な役割を果たし、従って、関連疾患の治療に用いることができる。H1もH2と相同性があることから同様に用いることができる。さらに、リラキシン様の活性を有する医薬的に有効なリラキシンアゴニストは、リラキシン受容体を活性化してリラキシン様の応答を惹起できるものと考えられる。
【0047】
リラキシンアゴニスト
一部の実施態様では、本開示は、リラキシンアゴニストを投与する工程を含む、慢性心不全と診断された患者の治療方法を提供する。一部の方法では、リラキシンアゴニストは、RXFP1、RXFP2、RXFP3、RXFP4、FSHR(LGR1)、LHCGR(LGR2)、TSHR(LGR3)、LGR4、LGR5、LGR6、LGR7(RXFP1)およびLGR8(RXFP2)より選択されるがこれらに限定されない1種以上のリラキシン関連Gタンパク質共役受容体(GPCR)を活性化する。一部の実施態様では、リラキシンアゴニストは、WO2009/007848(Compugen)に記載の式Iのアミノ酸配列を含む(リラキシンアゴニスト配列に関する教示については、参照により本明細書に含まれるものとする)。
【0048】
式Iのペプチドは、好ましくは長さが7〜100アミノ酸であり、以下のアミノ酸配列(X1−X2−X3−X4−X5−X6−X7−X8−X9−Xl0−X11−X12−X13−X14−X15−X16−X17−X18−X19−X20−X21−X22−X23−X24−X25−X26−X27−X28−X29−X30−X31−X32−X33;ここで、X1は存在しないか、あるいは、Gまたは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X2は存在しないか、あるいは、Qまたは極性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X3は存在しないか、あるいは、Kまたは塩基性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X4は存在しないか、あるいは、Gまたは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X5は存在しないか、あるいは、QまたはS、極性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X6は存在しないか、あるいは、VまたはAまたはPまたはMまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X7は存在しないか、あるいは、Gまたは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X8は存在しないか、あるいは、PまたはLまたはA、天然もしくは非天然アミノ酸であり;X9は存在しないか、あるいは、PまたはQ、天然もしくは非天然アミノ酸であり;X10は存在しないか、あるいは、Gまたは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X11は存在しないか、あるいは、AまたはHまたはEまたはDまたは疎水性もしくは小型もしくは酸性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X12は存在しないか、あるいは、AまたはPまたはQまたはSまたはRまたはHまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X13は存在しないか、あるいは、CまたはVまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X14は存在しないか、あるいは、RまたはKまたはQまたはPまたは塩基性もしくは極性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X15は存在しないか、あるいは、RまたはQまたはSまたは塩基性もしくは極性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X16は存在しないか、あるいは、AまたはLまたはHまたはQまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X17は存在しないか、あるいは、Yまたは疎水性もしくは芳香族の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X18は存在しないか、あるいは、Aまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X19は存在しないか、あるいは、Aまたは疎水性の小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X20は存在しないか、あるいは、Fまたは疎水性もしくは芳香族の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X21は存在しないか、あるいは、SまたはTまたは極性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X22は存在しないか、あるいは、Vまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X23は存在しないか、あるいは、Gまたは疎水性もしくは小型の非天然アミノ酸であるか、あるいは、アミドで置換される;X24は存在しないか、あるいは、Rまたは塩基性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X25は存在しないか、あるいは、Rまたは塩基性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X26はAまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X27はYまたは疎水性もしくは芳香族の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X28はAまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X29はAまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X30はFまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X31はSまたはTまたは極性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X32はVまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X33は存在しないか、あるいは、Gまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であるか、あるいは、アミドで置換される);またはその医薬的に許容される塩を含む(配列番号4)。一部の好ましい実施態様では、リラキシンアゴニストは、ペプチドP59C13V(遊離酸)の配列GQKGQVGPPGAA VRRA Y AAFSV(配列番号5)を含む。好ましい別の実施態様では、リラキシンアゴニストは、ペプチドP74C13V(遊離酸)の配列GQKGQVGPPGAA VRRA Y AAFS VGRRA Y AAFS V(配列番号6)を含む。さらにヒト補体C1Q腫瘍壊死因子関連タンパク質8(CTRP8またはC1QT8)の誘導体、例えば、ペプチドP59−G(遊離酸Gly)GQKGQVGPPGAACRRA Y AAFSVG(配列番号7)も、本開示の方法での使用に適しているものと思われる。C1QT8のアミノ酸配列を配列番号8に記載する:
【化1】
【0049】
本開示はまた、これらのポリペプチドのホモログを包含する。このようなホモログは、代表的なリラキシンアゴニストのアミノ酸配列(例えば、配列番号5または配列番号6)と少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または、さらに云うと100%同一であってよく、これらの数値は米国立生物工学情報センター(National Center of Biotechnology Information)(NCBI)のBlastPソフトウェアを用いて決定することができ、その際、デフォルトパラメータを用いるが、必要に応じて好ましくは以下の設定を含める:フィルタリングは有効(このオプションにより、Seg(タンパク質)プログラムを用いて反復配列や複雑性の低い配列をクエリーから除外)、スコアリングマトリックスはタンパク質用のBLOSUM62、ワードサイズは3、E値は10、ギャップコストは11、1(開始および延長(initialization and (initialization and extension)))。必要に応じて好ましくは、核酸配列の同一性/相同性を米国立生物工学情報センター(NCBI)のBlastNソフトウェアで決定し、その際、デフォルトパラメータを用いるが、好ましくはDUSTフィルタープログラムを併用し、かつ、好ましくはE値を10に設定し、複雑性の低い配列を除外し、ワードサイズを11にする。最後に本開示はまた、上記ポリペプチドおよび変異(例えば、1つ以上のアミノ酸の欠失、挿入または置換;これらの変異は自然に生じたものでも人為的に誘導したものでもよく、無作為でも狙って導入したものでも良い)を有するポリペプチドのフラグメントを包含する。
【0050】
治療方法
A.心係数(CI)の増加
慢性代償性心不全を持ちながら生活しているニューヨーク心臓協会(NYHA)分類クラスIIおよびクラスIII患者は、最適な標準薬物療法にも拘わらず、日々の生活の質が制限されてしまっている。心係数(CI)と心拍出量(CO)は、殆どの慢性HF患者で低下している。これらの患者の心臓は最適には機能していないため、薬物を使って心臓の機能障害を償っている。しかしながら、現行の薬物には低血圧および腎毒性などの副作用がある。これに対し、リラキシンによる処置は、有害な副作用もなく慢性代償性HF患者のCIおよびCOを増加させる。特に、リラキシンの投与によって被験体の心拍数が増加することはなく、全身血管抵抗も低血圧または腎機能の悪化を伴うことなく減少する。心不全の最も一般的な原因は左心室収縮機能不全であり、心収縮性の低下をもたらし、低いCIと高い肺動脈圧を招く。重要なことに、リラキシンはCIを増加させるだけでなく、慢性心不全患者の肺毛細管楔入圧を低下させることも判っている。従って、リラキシンには、慢性HF患者(例えば、正常CI未満の患者)にとって非常に有益である可能性のある多くの特徴がある。さらに、治療上有効量のリラキシンは、事前の力価測定を必要とせずに一定の用量で投与可能である。このような用量は、通常、約10〜960mcg/kg/日である。しかしながら、リラキシンを960mcg/kg/日の一定用量で慢性代償性心不全患者へ投与することもできる。この用量は、CIを有意に増加させ、肺毛細管楔入圧を低下させることが判っている。リラキシンは静脈内へ8時間、24時間または最大で48時間、あるいは、必要であれば長期にわたって(例えば、7、14、21日間等)投与してもよい。しかしながら、別の送達経路や送達スケジュールも適切であり、これらの内のいくつかは、本明細書の「投与および投与レジメン(dosing regimen)」にさらに詳しく記載する。心臓の左心室リモデリングが既に生じている患者を治療する場合のこれらの恩恵以外に、明らかに最も重要なのは、このようなリモデリングを予防して心不全疾患の進行を遅らせることである。従って、標準的な予防処置には反応しない集団にとっては、構造的心疾患がさらに発症するのを回避するためにリラキシンが有益である可能性がある。
【0051】
B.機能的能力の改善
症候や疾患が進行した慢性HF患者、例えば、NYHA分類クラスIII、特にクラスIVの慢性HF患者は、通常、最適に満たない管理しかできない。治療を行っているにも拘わらず顕著で持続することの多い症状や、薬物耐性または副作用の発現のせいで、現行の治療での成果がさらに減少する場合もある。進行した心不全患者または安静時にも難治性のHF症状を示す患者の生活の質を向上させるには、リラキシンによる介入が有益である可能性がある。現行の静脈内に投与される強心薬や血管拡張剤、例えば、ドブタミン、ミルリノン、ニトログリセリン、ニトロプルシドまたはネシリチドは、重篤な症状(安静時の難治性症状を含む)を示すHF患者の治療に使用されているが、慢性代償性HF患者への使用には制限がある(例えば、有効性に限界、腎毒性、低血圧のリスクまたは力価測定の必要性、等)。しかしながら、治療上有効量のリラキシンは、事前の力価測定を必要とせずに一定の用量で投与することができる。さらにまた、リラキシンによる腎毒性は、患者で広範な用量範囲にわたって認められていない。また、リラキシンは、心拍数を増加させることなく慢性代償性HF患者のCIおよびCOを増加させ、同時に低血圧や腎機能の悪化を引き起こすことなく全身血管抵抗を低下させる。重要なことに、リラキシンはCIを増加させるだけでなく、慢性心不全患者の肺毛細管楔入圧を低下させることも判っている。従って、リラキシンには、慢性HF患者(疾患の進行した患者を含む)にとって非常に有益である可能性のある多くの特徴がある。投与用量は、通常、約10〜960mcg/kg/日である。しかしながら、リラキシンを960mcg/kg/日の一定用量で慢性代償性心不全患者へ投与することもできる。この用量は、CIを有意に増加させ、肺毛細管楔入圧を低下させることが判っている。リラキシンは静脈内へ8時間、24時間または最大で48時間、あるいは、必要であれば長期にわたって(例えば、7、14、21日間等)投与してもよい。しかしながら、別の送達経路や送達スケジュールも適切であり、これらの内のいくつかは、本明細書の「投与および投与レジメン」にさらに詳しく記載する。
【0052】
C.代償不全現象の頻度低下
安定した代償性慢性HF患者(例えば、確立された薬物治療レジメンによって代償がなされている患者)にリラキシンを投与すると、心係数の上昇ならびに全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドおよび腎機能不全マーカー(血中尿素窒素およびクレアチニン)の低下を伴う、より一層有益な結果が得られる。重要なことに、これらのリラキシンの恩恵と同時に、リラキシン処置の結果として低血圧、頻拍および/または不整脈の顕著なリスクは見られない。このように、リラキシンは、安定した代償性慢性HF集団に安定と健康によい効果をもたらすことができ、その結果、代償不全のリスクを低く抑え、入院を要する代償不全現象の頻度を軽減する。従って、これらのリラキシン独特の特徴は、NYHA分類でクラスIIまたはクラスIII心不全と診断された管理可能な慢性HFの外来患者に対してリラキシンを用いることが有益であることを示している。投与用量は、通常、約10〜960mcg/kg/日である。リラキシンは静脈内へ8時間、24時間または最大で48時間、あるいは、必要であれば長期にわたって(例えば、7、14、21日間等)投与してもよい。しかしながら、別の送達経路や送達スケジュールも適切であり、これらの内のいくつかは、本明細書の「投与および投与レジメン」にさらに詳しく記載する。
【0053】
D.併用される慢性心不全用医薬の使用低減
慢性HF患者を管理するのに現在使用されている認可薬物には様々なものがある。心不全のリスクのある患者には、高血圧や脂質障害といった潜在的な原因を制御するための処置を行う。糖尿病や血管障害のある特定の患者には、血管拡張剤、アドレナリン作動性遮断薬、中枢作用性α−アゴニスト、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、カルシウムチャネル遮断薬、陽性強心薬や多くの種類の利尿薬(例えば、ループ利尿薬、カリウム保持性利尿薬、チアジド利尿薬およびチアジド様利尿薬)といった医薬を投与する。一部の実施態様では、本開示は、補助療法(例えば、抗高血圧薬)と組み合わせてリラキシンを投与する工程を含む、心不全の治療方法を提供する。一部の方法では、抗高血圧薬は、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法より選択されるが、これらに限定されない。
【0054】
長年、高血圧の治療にはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤が使用されてきた。ACE阻害剤は、CHF患者の心臓や循環に悪影響を及ぼすホルモンであるアンジオテンシンIIの形成を妨害する。これらの薬物の副作用としては、乾咳、血圧の低下、腎機能の悪化、電解質平衡失調、そして場合によりアレルギー反応が挙げられる。ACE阻害剤の例としては、カプトプリル(CAPOTEN)、エナラプリル(VASOTEC)、リジノプリル(ZESTRIL、PRINIVIL)、ベナゼプリル(LOTENSIN)およびラミプリル(ALTACE)が挙げられる。ACE阻害剤を許容できない患者には、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)と呼ばれる代替薬物群を用いることができる。これらの薬物はACE阻害剤と同じホルモン経路に作用するが、受容体部位で直接アンジオテンシンIIの作用を妨害する。これらの薬物の副作用はACE阻害剤に伴う副作用と似ているが、乾咳はあまり見られない。この種の医薬の例としては、ロサルタン(COZAAR)、カンデサルタン(ATACAND)、テルミサルタン(MICARDIS)、バルサルタン(DIOVAN)およびイルベサルタン(AVAPRO)が挙げられる。
【0055】
β遮断薬は、特定の刺激ホルモン、例えば、エピネフリン(アドレナリン)、ノルエピネフリン、その他各種体組織のβ受容体に作用する類似のホルモンの作用を妨害する薬物である。心臓のβ受容体に及ぼすこれらのホルモンの本来の作用は、心臓の筋肉をより強力に収縮させることである。β遮断薬は、β受容体に及ぼすこれらの刺激ホルモンの作用を妨害する物質である。これらのホルモンの刺激作用は、最初は心機能の維持に有用であるものの、時間が経つにつれ心臓の筋肉に対して有害な作用を及ぼすと考えられる。通常、慢性HF患者にβ遮断薬を投与する場合、最初は非常に低い用量で投与し、次いで徐々に増やしていく。副作用としては、体液貯留、血圧の低下、脈拍の低下、全身疲労、めまいが挙げられる。β遮断薬はまた、気道に疾患(例えば、喘息、気腫)がある人や安静時の心拍数が非常に低い人には使用してはならない。カルベジロール(COREG)は、うっ血性心不全の場合で最も研究の進んだ薬物であり、依然として、うっ血性心不全の治療用にFDAの認可を受けた唯一のβ遮断薬である。しかしながら、うっ血性心不全の治療において、カルベジロールを直接他のβ遮断薬と比較する研究が進行中である。長時間作用性のメトプロロール(metopropol)(TOPROL XL)も、うっ血性心不全患者に有効である。ジゴキシン(LANOXIN)はもともとジギタリス属の顕花植物(Foxglove flowering plant)によって産生され、10年間慢性HF患者の治療に使用されてきた。ジゴキシンは心臓の筋肉を刺激して、より強力に収縮させる。副作用としては、悪心、嘔吐、心リズム障害、腎機能不全、電解質異常が挙げられる。著しい腎機能障害を持つ患者では、ジゴキシンの用量を慎重に調整して監視する必要がある。
【0056】
利尿薬は、体液貯留の症状を予防または緩和するために、慢性HF患者の治療に使用されることが多い。これらの薬物は、腎臓を通る体液の流れを促進することで肺や他の組織で体液が蓄積しないようにするのを助ける。当該薬物は息切れや脚の腫張といった症状の緩和に有効であるが、長期の生存(long term survival)に対してプラスに作用することは明らかにされていない。入院が必要な場合、経口利尿薬を吸収する能力が損なわれている可能性があるため、利尿薬を静脈内に投与することが多い。利尿薬の副作用としては、脱水、電解質異常(特に、カリウム濃度の低下)、聴力障害、血圧の低下が挙げられる。適宜患者にサプリメントを与えることで、カリウム濃度の低下を防ぐことが重要である。電解質平衡失調はいずれも、患者に深刻な心リズム障害を引き起こし易い。各種利尿薬の例としては、フロセミド(LASIX)、ヒドロクロロチアジド、ブメタニド(BUMEX)、トルセミド(DEMADEX)、メトラゾン(ZAROXOLYN)が挙げられる。スピロノラクトン(ALDACTONE)は長年にわたって比較的弱い利尿薬として各種疾患の治療に使用されてきた。この薬物は、ホルモンであるアルドステロンの作用を妨害する。アルドステロンには、うっ血性心不全の心臓や循環に対して理論上有害な作用がある。その放出はアンジオテンシンIIによってある程度刺激される(前出)。この薬物の副作用としては、カリウム濃度の上昇や、男性では乳房組織の増殖(女性化乳房)が挙げられる。別のアルドステロン阻害剤はエプレレノン(INSPRA)である。
【0057】
処置後の患者で見られるリラキシンの有益な特徴、例えば、心係数の上昇ならびに全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドおよび腎機能不全マーカー(血中尿素窒素およびクレアチニン)の低下といった特徴から、現在認可されている心不全薬の代わりに、または、これと併用してリラキシンを投与するのが望ましいことが明らかである。リラキシンには、処置時に低血圧や頻拍が起こる顕著なリスクがない、投与に先立って力価測定を行う必要がない、腎毒性がない等の現行の医薬では見られない多くの利点がある。安定した代償性HFの状態を達成・維持すべく標準的な薬物治療を受けているHF患者は、通常約10〜960mcg/kg/日の用量でリラキシン投与を受けることができる。リラキシンは静脈内へ8時間、24時間または最大で48時間、あるいは、必要であれば長期にわたって(例えば、7、14、21日間等)投与してもよい。しかしながら、別の送達経路や送達スケジュールも適切であり、これらの内のいくつかは、本明細書の「投与および投与レジメン」にさらに詳しく記載する。リラキシンの有益な効果は、最適な標準療法との併用でリラキシンを投与した慢性代償性HF患者でも見られる。結果から、リラキシンについて上述した恩恵が確認され、併用される1種以上のHF医薬の用量を減らしたり、中断したりできることが明らかである。
【0058】
E.その他の治療方法
リラキシン処置によってバランスのとれた血管拡張がもたらされる
リラキシンの有益な効果は、腎臓および全身の血管系において、血管系の平滑筋組織上に見られる特定のリラキシン受容体に結合することでリラキシンが受容体特異的血管拡張剤として作用する直接の結果と考えられる。これにより、処置患者に低血圧を引き起こすことなく、全身および腎臓双方の動脈が、穏やかではあるが有効に拡張するため、バランスのとれた血管拡張がもたらされる。血管収縮が深刻な有害作用を引き起こしている身体の特定の領域(例えば、心臓や腎臓に血液を供給する動脈)で血管拡張を増加させるのが望ましい状況では、受容体特異的であって、かつ、バランスの良い血管拡張剤としてのリラキシンのこの特性は特に有利である。とりわけ、治療の過程で有害な副作用を何ら引き起こすことなく、バランスのとれた血管拡張が生じる。非特異的な血管拡張剤の処置に共通する問題は、これらの薬物が処置を行った患者に深刻な副作用をもたらすことが多いことであり、これは主に、通常のアゴニストが過剰に強力かつ非特異的に作用するためである。これに比べ、リラキシンの穏やかな作用は、血管拡張を最も必要とする身体の領域で血管拡張を緩やかに増加させる。リラキシン処置では、血管収縮を過剰代償する多くの薬物を用いた場合のように、低血圧が生じない点が重要である。特に、非特異的な血管拡張剤は身体中の大小の動脈や静脈を過度に拡張させ、低血圧を招く。従って、局在している特定のリラキシン受容体(例えば、LRG7、LGR8、GPCR135、GPCR142受容体)を介して全身および腎臓の血管を標的とする、医薬的に活性なリラキシンまたは医薬的に有効なリラキシンアゴニストを含む医薬組成物を患者に投与した場合、低血圧を伴わないバランスのとれた血管拡張が生じる結果となる。
【0059】
さらにまた、本開示の開発時に明らかになったように、リラキシンによってもたらされた心不全患者におけるバランスのとれた血管拡張は、全身の血管系(主に動脈)と腎臓の血管系の二重の血管拡張の形態である。しかしながら、リラキシンは、実際の腎血管拡張を全身の血管拡張に追加し、その結果、全身血管系と腎血管系と間のバランスを達成することで、心不全患者の血管拡張をバランスのとれたものにしている。これまでの薬物は、全身の血管を拡張させて腎臓に何らかの間接的な改善をもたらすことが知られているが、このバランスを達成するには不十分である。事実、リラキシンの投与による血管拡張のバランスは、比較的短期間でAHF患者を急性状態から安定な状態へ移行させることが可能である。さらに、現行の確立した薬物治療によって安定している代償性慢性HFの患者にリラキシンを投与すると、腎機能不全マーカーの低下と血管拡張に見合った有利な血液動態作用とを伴う、より一層有益な結果が得られる。このように、リラキシンは、安定した代償性慢性HF集団に安定と健康によい効果をもたらすことができ、その結果、代償不全のリスクを低く抑えて当該疾患の進行を遅らせる可能性があり、代償性慢性心不全患者において入院を要する代償不全現象の頻度を軽減する。また、心拍数の上昇を伴わない心係数の上昇に加えて、他のパラメータ(例えば、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニン、循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチド)が低下することは、慢性HF患者全般と、より攻撃的な治療レジメンが必要な進行HF患者の双方に対してリラキシンを用いることが有益であることを示している。
【0060】
リラキシンのこれらの有益な作用は、リラキシンの受容体(例えば、LRG7、LGR8、GPCR135、GPCR142受容体)への結合を伴い、バランスのとれた血管拡張、即ち、全身血管系と腎血管系との両方における二重の血管拡張をもたらす。従って、安定した代償性心不全ヒト被験体を選別して当該被験体へ医薬的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を投与することで、リラキシンを用いて心代償不全事象のリスクを軽減したり、疾患の進行を制限したりすることが可能になる。特に、このような被験体には、医薬的に活性なヒトリラキシン(例えば、合成、組換え)または医薬的に有効なリラキシンアゴニストを被験体の体重1kg当たり約10〜960mcg/日の範囲の量で投与する。リラキシンは静脈内へ8時間、24時間または最大で48時間、あるいは、必要であれば長期にわたって(例えば、7、14、21日間等)投与してもよい。しかしながら、別の送達経路や送達スケジュールも適切であり、これらの内のいくつかは、本明細書の「投与および投与レジメン」にさらに詳しく記載する。リラキシンの投与は、リラキシンの血清濃度を約0.5〜約500ng/ml、より好ましくは約3〜約300ng/mlに維持するよう継続する。従って、本開示の方法には、このようなリラキシンの血清濃度をもたらす投与が含まれる。このようなリラキシン濃度によって、疾患の進行や代償不全事象(例えば、呼吸困難、高血圧、不整脈、腎血流の低下、腎不全)が生じるリスクを軽減または防止することが可能である。
【0061】
リラキシン処置は腎毒性を伴わない
腎機能不全は、慢性HFの一般的かつ進行性の合併症である。臨床経過は、典型的には、患者の臨床状態や治療に応じて変わる。心・腎重複機能不全(combined cardiac and renal dysfunction)(「心腎症候群」とも呼ばれる)の頻出に関する認識が高まりつつあるにも拘わらず、その根底にある病態生理学は十分には理解されていない。適切な管理についての合意は、未だ当該技術分野で得られていない。慢性心不全患者は長生きになってきており、心不整脈が原因で亡くなることが少ないため、心腎症候群はますます当たり前になり、適切な管理が必要となる(Gary Francis (2006) Cleveland Clinic Journal of Medicine 73(2):1-13)。リラキシンは、被験体へ投与すると、全身および腎臓の血管系に存在するリラキシン受容体へ結合することによって二重の作用を果たし、バランスのとれた血管拡張をもたらす。既に述べたように(前出)、このような被験体には、医薬的に活性なヒトリラキシン(例えば、合成、組換え)または医薬的に有効なリラキシンアゴニストを被験体の体重1kg当たり約10〜960mcg/日の範囲の量で投与する。このような投与量では、リラキシンの血清濃度はそれぞれ約75、150および300ng/mlとなる。リラキシンの投与は、リラキシンの血清濃度を約0.5〜約500ng/ml、より好ましくは約3〜約300ng/mlに維持するよう継続する。リラキシンは静脈内へ8時間、24時間または最大で48時間、あるいは、必要であれば長期にわたって(例えば、7、14、21日間等)投与してもよい。しかしながら、別の送達経路や送達スケジュールも適切であり、これらの内のいくつかは、本明細書の「投与および投与レジメン」にさらに詳しく記載する。
【0062】
心不全を伴う腎不全に罹患している被験体は、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の濃度も上昇していることが多い。BNPは心不全や左心室機能不全に応答して心室で合成され、心不全の診断マーカーとして用いられている。その作用としては、全身の血管拡張と腎臓でのアンバランスな血管拡張、即ち、輸出細動脈の収縮と輸入細動脈の拡張が挙げられる。リラキシンを安定した代償性慢性HF患者へ投与すると、BNP濃度がより一層低下する。これによりBNPは、代償不全の重篤度の低下に伴って低下するため、簡便なマーカーとなり、従って、リラキシンで処置した患者のBNP濃度を監視することは、代償性慢性HFが安定していることを保証する簡便な方法である。
【0063】
リラキシンは、安定した代償性慢性HF患者に投与しても、腎毒性が低いか、または、腎毒性を全くを起こさない。このことは、治療の結果、患者の腎機能が悪化ではなく改善することを意味する。約75ng/mlの高い血清濃度のリラキシンであっても、現在使用できる医薬(例えば、フロセミド等のループ利尿薬、カプトプリル等のアンジオテンシン変換酵素阻害剤、カンデサルタン等のアンジオテンシン受容体遮断薬、など)よりも遥かに毒性が低い。本開示の重要な特徴の一つは、治療時に腎毒性を殆ど起こさないか、または、全く起こさずに、リラキシンが腎機能を維持することである。既存の薬物は腎機能の一部を維持する場合があるものの、同時に患者の腎毒性も増加させる。この腎毒性は、次いで心臓の状態をさらに悪化させる。これに比べてリラキシン投与は、腎毒性が無いおかげもあって、大部分の患者の定常状態を維持できる。これにより、より安定な慢性HF集団を、心不全の悪化の恐れが明らかに少ない管理可能な状態にすることができる。
【0064】
リラキシン組成物およびリラキシン製剤
リラキシン、リラキシンアゴニストおよび/またはリラキシンアナログは、薬として製剤化して本開示の方法に用いる。生物学的または医薬的に活性なリラキシン(例えば、合成リラキシン、組換えリラキシン)またはリラキシンアゴニスト(例えば、リラキシンアナログまたはリラキシン様モジュレータ)のリラキシン受容体への結合に伴う生物学的応答を刺激し得る組成物または化合物はいずれも、本開示において薬として使用できる。製剤化方法および投与方法に関する詳細は、科学文献に詳しく記載されている(Remington’s Pharmaceutical Sciences, Maack Publishing Co, Easton Pa.を参照)。医薬的に活性なリラキシンを含有する医薬製剤は、当該技術分野で公知のいずれかの薬の製造方法に従って調製可能である。本開示の方法で使用する医薬的に活性なリラキシンまたはリラキシンアゴニストを含有する製剤は、従来より許容されている任意の方法での投与(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、舌下、局所、経口、吸入、着用可能な注入ポンプを介した投与が挙げられるが、これらに限定されない)に合わせて製剤化可能である。具体例を以下に記載する。好ましい一実施態様では、リラキシンを静脈内(IV)に投与する。
【0065】
当該薬物を静脈内注射によって送達する場合、医薬的に活性なリラキシンまたは医薬的に有効なリラキシンアゴニストを含有する製剤は、滅菌済注射剤、例えば、水性または油性の滅菌済注射用懸濁液の形態であってよい。この懸濁液は、上述したような適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用いて公知の技術で製剤化可能である。滅菌済注射剤はまた、毒性のない非経口的に許容可能な希釈剤または溶剤に溶解または懸濁させた滅菌済注射用溶液または懸濁液であってもよい。許容可能なビヒクルおよび溶媒としては、水やリンゲル液、等張塩化ナトリウムが挙げられる。さらに滅菌済不揮発性油も、溶媒または懸濁媒体として従来通り用いることができる。この目的には、任意の刺激の強くない固定油も使用可能であり、例えば、合成モノグリセリドまたはジグリセリドが挙げられる。さらに、オレイン酸等の脂肪酸も同様に注射剤の製造に使用できる。
【0066】
経口投与用の医薬製剤は、当該技術分野で周知の医薬的に許容される担体を用い、経口投与に適した投与量で製剤化できる。このような担体によって、医薬製剤を患者の摂取に適した単位剤形、例えば、錠剤、丸剤、散剤、カプセル剤、液剤、口内錠、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤等へ製剤化することができる。経口用医薬調製物は、リラキシン化合物を固体賦形剤と組み合わせ、場合によっては得られた混合物を粉砕し、適切な追加の化合物を必要に応じて添加した後、粒剤の混合物を加工して錠剤または丸剤とすることにより得られる。適切な固体賦形剤は、炭水化物またはタンパク質充填剤であり、これには、糖類(例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール);トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモまたは他の植物由来のデンプン;セルロース(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム);ガム類(例えば、アラビアガム、トラガカントガム);タンパク質(例えば、ゼラチン、コラーゲン)挙げられるが、これらに限定されない。必要に応じて、崩壊剤または可溶化剤を添加してもよく、例えば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはその塩(アルギン酸ナトリウム等)が挙げられる。経口使用可能な本開示の医薬調製物は、例えば、ゼラチン製のプッシュ・フィット型カプセル剤、並びに、ゼラチンとコーディング(例えば、グリセロールまたはソルビトール)からなる軟質封入カプセル剤である。プッシュ・フィット型カプセル剤には、リラキシンを充填剤または結合剤(例えば、ラクトースまたはデンプン類)、滑沢剤(例えば、タルクまたはステアリン酸マグネシウム)、そして場合によっては安定化剤と混合して含有させればよい。軟質カプセル剤では、リラキシン化合物を適切な液体、例えば、脂肪油、流動パラフィンまたは液状ポリエチレングリコールに、安定化剤と一緒にまたは安定剤は用いずに溶解または懸濁してもよい。
【0067】
本開示の水性懸濁剤は、リラキシンを水性懸濁剤の製造に適した賦形剤と混合して含有する。このような賦形剤としては、懸濁化剤、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガムおよびアラビアガム、並びに、分散剤または湿潤剤、例えば、天然に存在するホスファチド(例えば、レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合物(例えば、ポリオキシエチレンステアレート)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール由来の部分エステルとの縮合物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)またはエチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトール由来の部分エステルとの縮合物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。水性懸濁剤にはまた、1種以上の保存剤(例えば、エチルまたはn−プロピルp−ヒドロキシベンゾエート)、1種以上の着色剤、1種以上の着香料、1種以上の甘味剤(例えば、スクロース、アスパルテーム、サッカリン)が含まれていてもよい。製剤は浸透圧モル濃度を調整できる。
【0068】
油性懸濁剤は、リラキシンを植物油(例えば、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油、ヤシ油)または鉱油(例えば、流動パラフィン)に懸濁することにより製剤化可能である。油性懸濁剤には増粘剤、例えば、蜜蝋、固形パラフィンまたはセチルアルコールが含まれていてもよい。甘味剤を添加して嗜好性経口剤とすることもできる。これらの製剤は、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸)の添加により保存が可能である。
【0069】
水を添加して水性懸濁剤を調製するのに適した本開示の分散可能な散剤および粒剤は、リラキシンと分散剤、懸濁化剤および/または湿潤剤、そして1種以上の保存剤とを混合したものから製剤化可能である。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤としては、上述のものが挙げられる。追加の賦形剤、例えば、甘味剤、着香料、着色剤が含まれていてもよい。
【0070】
本開示の医薬製剤は、水中油型乳剤の形態であってもよい。油相は植物油(例えば、オリーブ油、ラッカセイ油)、鉱油(例えば、流動パラフィン)、または、これらの混合物であってよい。適切な乳化剤としては、天然に存在するガム類(例えば、アラビアガム、トラガカントガム)、天然に存在するホスファチド(例えば、大豆レシチン)、脂肪酸および無水ヘキシトール由来のエステルまたは部分エステル(例えば、ソルビタンモノオレエート)、これらの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。乳剤にはまた、甘味剤や着香料が含まれていてもよい。シロップ剤およびエリキシル剤は、甘味剤、例えば、グリセロール、ソルビトールまたはスクロースを用いて製剤化できる。このような製剤にはまた、粘滑薬、保存剤、着香料または着色剤が含まれていてもよい。
【0071】
投与および投与レジメン
本開示の方法で使用する医薬的に活性なリラキシンまたは医薬的に有効なリラキシンアゴニストを含有する製剤は、従来より許容されているいずれの方法(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、舌下、局所、経口、吸入、着用可能な注入ポンプを介した方法が挙げられるが、これらに限定されない)でも投与可能である。投与は、薬物の薬物動態や他の特性、そして患者の健康状態に応じて変える。一般的な指針を以下に示す。
【0072】
本開示の方法では、安定した代償性慢性HF被験体の腎機能を反映するパラメータが改善される等、血管拡張に見合った血液動態効果が得られる。この目的のために単独で、または、別の物質もしくは薬物と組み合わせて使用されるリラキシンの量は、治療上有効な用量と考えられる。この用途に有効な用量スケジュールと量、即ち、「投与レジメン(dosing regimen)」は様々な要因、例えば、疾患または病態のステージ、疾患または病態の重篤度、有害な副作用の重篤度、患者の全身の健康状態、患者の全身状態、年齢等に依存する。患者の用量レジメン(dosage regimen)を算定する際には、投与形態も考慮に入れる。用量レジメンには、薬物動態、即ち、吸収率、バイオアべイラビリティ、代謝、クリアランス等も考慮に入れなければならない。このような原則に基づき、心不全の症状を示すと診断されたヒト被験体の処置にリラキシンを使用し、安定した代償性慢性HFを維持することができる。
【0073】
本開示は、同時投与、併用投与、個別投与または連続投与するためのリラキシンと追加の薬物(例えば、抗血小板療法、β遮断薬、利尿薬、ニトレート、ヒドララジン、強心薬、ジギタリス、アンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬)を提供する。本開示はまた、安定した代償性慢性HFを管理するための医薬の製造における、抗血小板療法、β遮断薬、利尿薬、ニトレート、ヒドララジン、強心薬、ジギタリスおよびアンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬の使用を提供し、ここで前記医薬は、リラキシンと共に投与するために調製される。
【0074】
さらに、患者が既に(例えば、数時間前、1日以上前、1週間以上前、1ヶ月以上前、1年以上前等に)抗血小板療法、β遮断薬、利尿薬、ニトレート、ヒドララジン、強心薬、ジギタリスおよびアンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬で処置されている場合に、安定した代償性慢性HFを管理するための医薬の製造におけるリラキシンの使用も意図する。一実施態様では、抗血小板療法、β遮断薬、利尿薬、ニトレート、ヒドララジン、強心薬、ジギタリスおよびアンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬等の薬物の1種以上が、患者の体内(in vivo)で依然として活性である。本開示はまた、患者が既にリラキシンで処置されている場合に、安定した代償性慢性HFを管理するための医薬の製造における抗血小板療法、β遮断薬、利尿薬、ニトレート、ヒドララジン、強心薬、ジギタリスおよびアンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬の使用も提供する。
【0075】
最新の技術のおかげで臨床医が個々の患者に対してリラキシンの用量レジメンを決めることができる。一例として、以下に示すリラキシンの指針を手引きとして、本開示の方法を実施する際に投与する医薬的に活性なリラキシンを含有する製剤の用量レジメン、即ち、投与スケジュールと用量レベルを決めることができる。一般的な指針としては、医薬的に活性なH2ヒトリラキシン(例えば、合成、組換え、アナログ、アゴニスト等)の1日用量(daily dose)は、典型的には、被験体の体重1kg当たり約10〜960mcg/日の範囲の量と予想される。一実施態様では、リラキシンの用量は10、30および100mcg/kg/日である。別の実施態様では、これらの用量では、リラキシンの血清濃度はそれぞれ約3、10および30ng/mlとなる。別の実施態様では、リラキシンの用量は240、480および960mcg/kg/日である。別の実施態様では、これらの用量では、リラキシンの血清濃度はそれぞれ約75、150および300ng/mlとなる。別の実施態様では、リラキシンの投与は、リラキシンの血清濃度を約0.5〜約500ng/ml、より好ましくは約3〜約300ng/mlに維持するよう継続する。従って、本開示の方法には、このようなリラキシンの血清濃度をもたらす投与が含まれる。このようなリラキシン濃度によって、代償不全事象(例えば、呼吸困難、高血圧、血圧の上昇、不整脈、腎血流の低下、腎不全、死亡)を改善または軽減することが可能である。さらにまた、このようなリラキシン濃度によって、神経ホルモン平衡失調、体液過負荷、心不整脈、心虚血、死亡率リスク、心臓ストレス、血管抵抗等を改善または軽減することが可能である。被験体に応じて、特定の期間または被験体の安定を維持するのに必要な期間、リラキシンの投与を維持する。
【0076】
リラキシン処置の期間は、一部の被験体に対しては定めなくてもよく、好ましくは患者に応じて約4時間〜約96時間の範囲に保ち、必要であれば任意の処置を1回以上繰り返す。例えば、投与頻度については、リラキシンの投与を、約8時間〜48時間処置を続ける連続注入としてもよい。リラキシンは、連続的にまたは間欠的に静脈内投与または皮下投与(または皮内、舌下、吸入、着用可能な注入ポンプを介して投与)することができる。静脈内投与の場合、シリンジポンプまたはIVバッグを介してリラキシンを送達できる。IVバッグは、標準的な生理食塩水、通常の半分濃度の生理食塩水、5%デキストロース水溶液、乳酸加リンゲル液または類似の溶液を100、250、500または1000mlのIVバッグに入れたものでよい。皮下注入の場合、着用可能な注入ポンプに接続した皮下注入セットによってリラキシンを投与できる。被験体に応じて、特定の期間(例えば、4、8、12、24、48時間)または被験体の安定を維持するのに必要な期間(例えば、毎日、毎月、または7、14、21日間等)、リラキシン投与を維持する。
【0077】
一部の被験体には期間を定めずに処置を行うが、特定の期間処置を行う場合もある。また、被験体を必要に応じて時々リラキシンで処置することも可能である。従って、安定した代償性慢性HFを維持するのに十分な期間投与を継続して、急性心代償不全事象(例えば、呼吸困難、高血圧、血圧の上昇、不整脈、腎血流の低下、腎不全が挙げられるが、これらに限定されない)を改善または軽減することができる。製剤は、病態を効果的に改善し安定させるのに十分な量のリラキシンをもたらすものでなければならない。リラキシンを静脈内投与する場合の典型的な医薬製剤は、具体的な療法に依存する。例えば、リラキシンは、単独療法(即ち、他の療法を併用しない療法)を介して、または、別の療法(例えば、抗血小板療法、β遮断薬、利尿薬、ニトレート、ヒドララジン、強心薬、ジギタリスおよびアンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬、あるいは他の薬物)との併用療法で患者へ投与してもよい。一実施態様では、リラキシンを単独療法として毎日患者へ投与する。別の実施態様では、リラキシンを別の薬物との併用療法として毎日患者へ投与する。とりわけ、患者へ投与されるリラキシンの用量と頻度は、年齢、疾患の程度、薬物耐性、併用される療法や条件に応じて変わる場合がある。さらなる実施態様では、安定した代償性慢性心不全を最適に維持するために、他の療法を置換、縮小または省略してその副作用を減らし、かつ、リラキシンを用いる医療介入の治療上の恩恵を増加または維持することを最終目標にリラキシンを患者へ投与する。
【実施例】
【0078】
以下の具体的な実施例は、本開示を例示するためのものであり、特許請求の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0079】
略語:AUC(曲線下面積);BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド);BP(血圧);BUN(血中尿素窒素);CHF(うっ血性心不全);CI(心係数);CO(心拍出量);CrCl(クレアチンクリアランス);DBP(拡張期血圧);dL(デシリットル);eGFR(推定糸球体濾過率);HF(心不全);hr(時間);HR(心拍数);ICU(集中治療室);IV(静脈内);kg(キログラム);L(リットル);LVEDP(左心室拡張末期圧);LVEF(左心室駆出率);mcgまたはμg(マイクログラム);mEq(ミリ当量);MI(心筋梗塞);mIU(ミリ国際単位);mL(ミリリットル);NYHA(ニューヨーク心臓協会);PAH(パラアミノ馬尿酸(para-aminohippurate));PAP(肺動脈圧);PCWP(肺毛細管楔入圧);PD(薬力学);RAP(右動脈圧(right atrial pressure));RBBB(右脚ブロック(right bundle branch block));RBF(腎血流);rhRlxまたはrhRLX(組換えヒトリラキシン);RlxまたはRLX(リラキシン);RR(呼吸数);SBP(収縮期血圧);SI(一回拍出係数);sMDRD(Modification of Diet in Renal Disease 簡易式(simplified Modification of Diet in Renal Disease));SQ(皮下SQ);SVR(全身血管抵抗);T(温度);VAS(視覚的アナログスケール);VF(心室細動);VT(心室頻拍);WHF(心不全の悪化)。
【0080】
実施例1 慢性心不全患者へのリラキシンの投与
概要
本非盲検試験では、慢性の安定した代償性うっ血性HF患者16名を、組換え静脈内リラキシンの用量を順に増やした3群のコホートに登録し(10〜960mcg/kg/日)、24時間にわたって投与した。リラキシンによって、心係数と一回拍出量が増加し、肺楔入圧とNT−プロBNPが減少した。リラキシンは腎機能マーカーを改善し、注入後も最大用量であってもリバウンドはわずかであった。本試験からは、安定した代償性HF患者において、リラキシンが該当する有害作用を示すことなく、有益な血液動態効果、神経液性効果および腎効果を発揮することが明らかであり、このためリラキシンは、患者の安定した代償性慢性心不全を制御する主要な候補薬物である。最大耐容用量を求めた。
【0081】
試験の設計
この単一施設非盲検試験では、慢性の安定した代償性うっ血性HFの該当基準を満たし、除外基準を満たさない16名の患者を順番に、静脈内(IV)リラキシンを順に増やした3群のコホートに振り分けた。主な該当基準は以下の通りである:年齢>18歳;NYHAによるCHFクラスII〜III(病因は制限せず);登録6ヶ月以内の左心室駆出率<35%;試験期間中変更しない想定で、確立された経口HF療法を受けている。主な除外基準は以下の通りである:楔入圧<16mmHまたはCI>2.5L/分/m2;急性の冠状症候群(4週以内)または最近の心筋梗塞もしくは心臓外科手術(6ヶ月以内);ベースライン時に静脈内療法を要するAHF;収縮期血圧<85mmHg;未整復(uncorrected)の弁膜性心疾患(相対的僧帽弁および/または3尖弁不全を除く);閉塞性または拘束型心筋症;最近の心室頻拍または細動現象(4週以内);最近の発作(3ヶ月以内);スクリーニングに訪れた際のクレアチニン>2.0mg/dlまたは血清トランスアミナーゼおよび/または総ビリルビン>正常上限値の2.5倍;子宮内膜症の病歴。
【0082】
薬物の設計
リラキシン(組換え技術で製造)を被験薬物とした。組換えリラキシンは、天然のヒトホルモンH2リラキシンと同一である。用量を以下のように段階的に増加させた:A群は、10、30および100mcg/kg/日に相当する投与量でそれぞれ8時間ずつ続けて処置を行った。B群は、240、480および960mcg/kg/日に相当する投与量でそれぞれ8時間ずつ続けて処置を行った。C群には、960mcg/kg/日での処置を24時間行った。A群からB群への段階的な増加は、A群で使用した用量の安全性および忍容性を調査した後に行った。B群からC群への段階的な増加は、B群での最大用量(960mcg/kg/日)の安全性および忍容性を求めた後に行った。
【0083】
試験手順、終了点および統計的分析
注入時および注入後の期間(いずれも24時間)患者を集中治療室で監視した。CI、SVR、PCWP、SBP、RAPおよびPVRといった血液動態の測定を、スワン−ガンツカテーテルと動脈カテーテルを用いて順次行った。同様に、臨床実験的な監視を、注入時、注入後、並びに、注入の開始から9日目に順次行った。深刻な有害事象について、さらに30日間にわたる評価を電話で行った。終了点では、血液動態および神経液性(NT−プロBNP濃度)のベースラインからの変化を求め、この他に試験期間中にわたって生命徴候、心電図、血清化学、血液学的パラメータを監視した。統計的分析では、誤差の確率P<.05を有意とみなした。ベースライン値の比較は、Kruskal-Wallis ANOVA on ranksに続けてDunn検定を用いて行った。同一群内での経時的な差(血液動態、腎パラメータおよびペプチド濃度)を、Friedman Repeated Measures Analysis of Variance on Ranksに続けてDunn検定を行って分析し、ベースラインと比較した。
【0084】
人口統計および安全性
患者は全て標準的なHF薬を投薬中であり、冠状動脈疾患、高血圧、拡張型心筋症、または、整復済み弁膜性心疾患(1症例)に起因する左心室収縮能の著しい低下を示した。投薬を終了した全ての被験体は、リラキシンの全ての用量に対して十分に耐容であった。下記表1を参照のこと。注入に関連する臨床上の著しい有害事象は見られず、それゆえ、A群およびB群で試験した最大用量の960mcg/kg/日を、C群での24時間投与に選んだ。被験薬物を注入した3週間後に有害事象が一つ生じた(血管造影で評価した際、進行性冠状動脈疾患の徴候を伴わない中度の狭心症が見られた)が、リラキシンとの関連は無いと思われた。被験薬物とは関連の無い7つの有害事象が投薬時期間中9日目までに報告された。即ち、2名の患者が軽度の狭心症(SAEを含まない)を訴え、各々、脱力、不眠、頭痛、良性前立腺肥大および軽度の喀血を訴えた。喀血事象は、スワン−ガンツカテーテルを楔入部へ進めたことで誘発されたことが明らかであり、自然に回復した。
【0085】
【表1】
LVEF=左心室駆出率;ASA=アセチルサリチル酸;CLO=クロピドグレル;STA=スタチン;BB=β遮断薬;ACEI=アンジオテンシン変換酵素阻害剤;SAR=サルタン;CCB=カルシウムチャネル遮断薬;AA=アルドステロンアンタゴニスト;DIG=ジギタリス;NIT=ニトレート;D=利尿薬;AMD=アミオダロン。
*外科的整復後
【0086】
ベースラインの血液動態および腎機能
A群の患者では、ベースラインのパラメータが異常値を示す傾向があり、B群では異常値は最小限であった。B群の患者は、SVRがA群の患者よりも有意に低く、C群はPVR値がB群よりも有意に高かった。腎パラメータに関しては、C群の患者は、クレアチニン値およびBUN値がA群およびB群の患者よりも高い傾向にあるものの、有意とまでは認められなかった。同様に、B群で見られたNT−プロBNP値の低下傾向も有意ではなかった。下記表2を参照のこと。
【0087】
【表2】
CI=心係数;PCWP=肺毛細管楔入圧;SVR/PVR=全身/肺血管抵抗;SBP=収縮期血圧;MPAP=平均肺動脈圧;RAP=右動脈圧;HR=心拍数;BUN=血中尿素窒素。
P<0.05、* A 対B、# B 対C
【0088】
注入時および注入後
CI値(図4)は、A群ではリラキシン用量の増加に伴って上昇する傾向が見られた。B群では、CI値は最初の8時間(240mcg/kg/日)では上昇傾向にあり、次いで480mcg/kg/日では低下し、最終的に960mcg/kg/日では有意に増加した。C群では、後者の用量でCI値が有意かつ持続的に上昇し、増加量の絶対値は0.8L/分/m2にもなった。この顕著な効果は、注入後の最初の8時間のうちに徐々に弱まった。いずれの群においても心拍数が変化しなかったことから(図5)、このCI値の増加が一回拍出量の上昇にもっぱら起因したことは注目に値する。CI値の変化は、対応するSVRの対側性変化(reciprocal change)(図6;C群では統計学的に有意となった)と似ていた。PCWPに関しては(図7)、A群では30および100/kg/日で値が有意に降下した。B群では、PCWP値は最初の8時間で降下したように見えたものの、その後はリラキシン用量の増加にも拘わらず、ベースラインのレベルまで戻った。さらに、C群で960mcg/kg/日のリラキシンを24時間投与したところ、明白かつ有意な効果が見られ、PCWP値の減少量の絶対値はおよそ4mmHgであった。全体として、SBP(図8)に有意な変化は見られなかった。ベースラインでSBPが高い傾向を示したA群では(128±9mmHg、表2と比較)、SBPは明らかに低下傾向を示したが、B・C群では、該当する変化は見られなかった。NT−プロBNPの時間推移(図9)は、個々の群で見られる血液動態応答と良く対応し、A・C群では有意な減少が見られたものの、B群では変化が無く、この群では9日目になると値が一段と高くなる傾向があった。最後に、クレアチニン値は、リラキシン注入時には全ての群で減少し(図10)、その効果はA・C群で有意になった。投与量を増加したB・C群では、9日目に求めた値が一定のリバウンド効果を示しているように思われたが、患者はいずれも腎臓の有害事象を発症せず、医療介入も必要としなかった。BUN値の時間推移は、クレアチニンの場合と同様であった。試験中リラキシンは、生命徴候、ECG、血清化学、血液学的パラメータに関して何ら異常を引き起こさなかった。
【0089】
知見
この予備実験は、慢性うっ血性HF患者においてリラキシンの使用を調査した最初の実験である。予備実験の主な目的は、リラキシン製剤の安全性および忍容性、並びに、安定した慢性HF患者におけるその用量応答性を調査することであった。試験から以下のことが判明した。1)広範な用量範囲(10〜960mcg/kg/日)にわたって、リラキシンは該当する有害作用を示さず、十分に忍容性があった。2)リラキシンによって有益な血液動態効果がもたらされた(例えば、血管抵抗の減少、一回拍出量の上昇に起因する心係数の増加、楔入圧の低下、但し、低血圧を引き起こさない)。3)リラキシン投与と、クレアチニンおよびBUNの早期低下とは関連性があった。4)最大リラキシン用量(960mcg/kg/日)を投与されている患者では、用量限定的と考えられる増加が処置後のクレアチニン濃度に見られた。このことは、240〜480mcg/kg/日の用量が、この集団において、医師による監督の要らないIVリラキシンの最大耐容用量(MTD)である可能性を示唆している。全体として、A・C群では、リラキシンの注入に対して同等の応答を示したが、B群では示さなかった。このことは、ベースラインの差によって説明可能である。即ち、B群の患者は、その有意に低いSVRと、SBP値およびNT−プロBNP値が低い傾向にあることから明らかなように(表2)、既に最大限に血管拡張していた。このような患者では、おそらくリラキシンによるさらなる血管拡張(「過剰血管拡張」)によって、該当する逆調節応答が突如引き起こされ、特に中間の用量(480mcg/kg/日)において、最大限可能な薬物の血液動態効果が評価できなかった可能性がある。
【0090】
本試験の患者は安定していたが、進行した心不全の徴候を示した。これらの患者は、ADHERE登録の4分位値(SBP値が120mmHgより低く、そのため結果が最も悪い)に入る可能性が高い。入院中の低血圧や治療に関連する低血圧よってAHFの予後が悪化することが知られているか、疑われている事実から判断して、リラキシン療法に対するSBPの応答を評価することが重要である。本試験では、全身血管抵抗が著しく低下したにも拘わらず、症候性低血圧は見られなかった。A群ではSBPが低下傾向にあるように思われたが、これは、4人の患者のうち、持続しているものの未だ無症候であるSBPの降下(約120/65mmHgから約100/50mmHgへ)を経験した一人にしか当てはまらない。B群(重篤度の低い群)およびC群では、リラキシン用量を上げてもSBPの有意な変化は記録されなかった。にも拘わらず、顕著な低血圧が見られないことは、注目すべき重要な点である。また、本試験で記録された血圧よりも高い血圧を示す患者では、リラキシンの低血圧性効果がより明らかである。これらの知見は、他の研究者によって裏付けられている(Debrah et al. (2005) Hypertension 46:745-50を参照)。即ち、高血圧および正常血圧のラットでは、平均動脈圧に影響を及ぼすことなく、rhRlxによってCIの上昇とSVRの低下が惹起された。rhRlxが非特異的な血管拡張剤であった場合、一回拍出量の上昇によってSBPの降下が一部相殺されると予想される。
【0091】
処置群はいずれも、C群におけるPVRの顕著かつ有意な降下(〜30%)およびA・C群で見られたPCWPの有意な降下(図7)にも拘わらず、右動脈圧の有意な低下を示さなかった(図11)。このことから、リラキシンが静脈還流を促進して中心静脈充満圧を維持し得ることが明らかである。一部の研究者(Edouard et al. (1998) Am J. Physiol. 274:H1605-H1612)によって、下肢静脈の色調の向上が妊娠の最初の三半期に始まることが報告された。最初に妊娠ホルモンとして発見されたリラキシンは、妊娠に対する腎臓の適応にとって重要な介在物質である(Novak et al. (2001) J. Clin. Invest. 107: 1469-75を参照)。また、ここで観察される血液動態パターン、即ち、CIの上昇とSVRの低下(該当するSBPの降下は伴わない)は、妊娠時に見られるものと似ている(Slangen et al. (1996) Am J. Physiol. 270:H1779-H1784を参照)。
【0092】
リラキシンの注入によって、腎機能を反映するパラメータ(クレアチニン、BUN)が殆どの患者で改善し、A群およびC群で有意となった。リラキシンは、動物において糸球体濾過(GFR)と腎血流を増加させることが判っていることから(Novak(前出)およびJeyabalan et al. (2003) Circ. Res. 93:1249-57を参照)、類似のメカニズムがここでも活性であるかもしれない。たとえそうでも、本開示の実施態様を実施する上でメカニズムを理解することは必須ではない。リラキシンによるGFRの上昇はヒトでは測定されたことがないものの、小規模の非盲検試験から、リラキシンが健常ボランティアの腎血流を増加させることが判っている(Smith et al. (2006) J. Am. Soc. Nephrol. 17:3192-7)。強皮症患者における臨床試験では(Seibold et al. (2000) Ann. Intern. Med. 132:871-9)、リラキシンによって推定クレアチニンクリアランスが持続的に改善した。注入後の期間については、960mcg/kg/日に相当する用量でIVリラキシンを投与した後9日目にクレアチニンおよびBUNの上昇が記録されたが、この上昇は30日目には自然に解消した。クレアチニンの上昇はいずれも、ε0.5mg/dl(腎機能の悪化に関して最も広く用いられている定義)を超えるものではなく、腎臓における有害臨床事象も見られなかった。事実、960mcg/kg/日という用量は顕著なCIの上昇を伴っていた。この高用量によって逆調節系が刺激され、腎臓還流(kidney perfusion)の減少とBUNおよびクレアチニンの後からの上昇を伴うリバウンドの血液動態応答がもたらされた可能性がある。確かに、960mcg/kg/日の用量に続く32時間および48時間にわたる血液動態測定では、楔入圧と右動脈圧の双方ともベースライン時よりも高い傾向にあり、他の用量では見られない効果であった。これらの知見から、960mcg/kg/日の用量のIVリラキシンでは、血液動態および腎機能の双方に対して何らかの用量限定的な有害作用を有する可能性が示唆される。従って、医師による監督の要らない最大耐容用量(MTD)は、本試験によって240〜480mcg/kg/日の範囲であると決定できた。興味深いことに、10〜100mcg/kg/日の範囲にあるリラキシンの用量では、PCWP、SBPおよびNT−プロBNPに及ぼす効果が、この範囲よりも高い用量の場合よりも顕著であると考えられ、一方、240〜960mcg/kg/日の範囲のより高い用量では、COおよびCIに対する作用が大きい傾向にあった。低範囲の用量では、多くの場合、静脈血管拡張(該当するCO/CIの変化を伴わないPCWPの低下)をもたらし、一方、高い用量では動脈血管拡張(CO/CIの増加)をもたらす可能性がある。
【0093】
【表3】
CI、心係数;CO、心拍出量;PCWP、肺毛細管楔入圧;SVR/PVR、全身/肺血管抵抗;SBP、収縮期血圧;DBP、拡張期血圧;PAP、平均肺動脈圧;RAP、右動脈圧;HR、心拍数。
値は平均値±SD。
* ベースラインと比較してP<.05。
# A群 対B群 § B群対 C群
【0094】
結論
予備実験の目的は、慢性心不全患者へ投与した際のリラキシンの安全性および忍容性、並びに、慢性HFが確立した患者において静脈内リラキシンへの薬力学的用量応答を明らかにすることであった。この試験は、ヒト心不全においてリラキシンを治療目的で使用した最初の例となった。慢性HFの臨床試験からは多くの結論が得られた。全ての用量範囲にわたって、リラキシンは該当する有害作用を示さなかった。リラキシンによって、NT−プロBNPの変化と対応した有益な血液動態効果、即ち、一回拍出量の上昇に起因する心係数の増加や肺楔入圧および全身血管抵抗の低下(但し、低血圧を引き起こさない)がもたらされた。リラキシンは、腎機能マーカー(クレアチニン、BUN)を速やかに改善した。最大用量では、注入後の期間にわずかに腎マーカーの上昇を引き起こしたが、自然に元に戻った。従って、本試験においては、医師による監督の要らないリラキシンの最大耐容用量は240〜480mcg/kg/日である。
【0095】
以上のことより、慢性の安定した心不全患者へ投与されたIVリラキシンは血管拡張をもたらし、次いで楔入圧の低下や一回拍出量の上昇をもたらした。コホートの規模、登録患者の特徴および/またはリラキシンの他の特性に起因する顕著な血圧低下は観察されなかった。血液動態効果だけでなく、IVリラキシンは、AHF患者へ投与した際にプラスの特質となり得るクレアチニンおよびBUNの早期低下を誘導した。本試験では、被験薬物中断後にIVリラキシンの最大用量(960mcg/kg/日)で見られた、楔入圧と右動脈圧およびクレアチニンとBUNの後からの上昇に基づいてリラキシンのMTDを決定した。従って、今回、ヒトHF患者において静脈内リラキシンを初めて治療に使用した際に、リラキシンの安全性および効力プロファイルから、リラキシンが慢性の安定した代償性HFの治療に有効であることが明らかである。
【0096】
実施例2 全身性硬化症患者へのリラキシンの投与
概要
リラキシンを用いた臨床試験を同様に全身性硬化症患者にも行った。深刻な線維性疾患である全身性硬化症に罹患した257名のヒト被験体をリラキシンで連続皮下(SQ)注入により6ヶ月間処置した。得られた結果(広範かつ長期の安全性に関する情報を含む)から、これらの患者がリラキシンに起因する深刻な低血圧性事象を何ら経験しなかったことが判明し(図12)、後のCHFに関する知見が確認された。全身性硬化症での試験から、リラキシン投与は安定した血圧低下を伴うが、深刻な低血圧現象を伴わず、そして、推定クレアチニンクリアランスを統計学的に有意に増加させることが判明した(図13を参照)。これらの知見から、リラキシンの投与が全身および腎臓におけるバランスのとれた血管拡張を伴うという仮説が裏付けられる。
【0097】
さらに、570名のヒト被験体をリラキシンで処置し、19の試験を完了させた。これらの被験体には、線維筋痛症患者、卵子提供をした女性、臨月の妊娠女性、健常な女性および男性ボランティア、矯正治療を受けた健常な成人ならびに全身性硬化症患者が含まれた。
【0098】
知見および結論
リラキシンは、様々な潜在的な病態を有する被験体へも安全に投与することが可能である。これらの試験の幾つかでは、データから、リラキシンによって全身および腎臓においてバランスのとれた血管拡張が引き起こされることが示唆された。
【0099】
本開示の範囲および趣旨を逸脱することなく、本開示の様々な改変および変更が当業者には明らかである。特定の好ましい実施態様について本開示を記載してきたが、特許請求の範囲がこのような特定の実施態様に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、本開示を実施するために記載した態様の様々な改変が当業者によって理解され、これらは特許請求の範囲に含まれるものとする。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国仮特許出願第61/201,240号(2008年12月8日出願)、同第61/190,545号(2008年8月28日出願)および同第61/127,889号(2008年5月16日出願)の35U.S.C.119(e)における利益を請求するものであり、これらの出願はいずれも、参照により全ての内容があらゆる目的で本明細書に含まれるものとする。
【0002】
分野
本開示は、慢性心不全に苦しむヒト被験体の治療方法に関する。本明細書に記載の方法は、リラキシンの投与を用いたものである。
【背景技術】
【0003】
背景
心不全は主要な健康問題であり、65歳以上の患者において入院の第一原因となっている(非特許文献1)。心不全の基本的な症状は、呼吸困難、疲労、体液貯留(fluid retention)であり、肺うっ血や末梢浮腫を引き起こす恐れがある。心不全は殆どの場合進行性の疾患であり、容易に悪化して急性非代償性心不全を引き起こす(非特許文献2)。米公的医療保険センター(Center for Medicare and Medicaid Administration)の最近の発表によれば、入院を診断するのに唯一最も費用がかかるのが急性心不全(AHF)である。事実、AHFは年間100万件を超える入院件数を占めており、6ヶ月以内の再入院率はほぼ50%である(非特許文献3)。
【0004】
慢性心不全(HF)の管理に関する領域では著しい進歩がある一方、依然として相当の罹患率および死亡率を伴っている。症候性患者の平均余命は5年未満であり、疾患が最も進行した患者では一年死亡率が90%にもなると報告されている(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。従って、心不全の臨床管理の目標は、代償(安定)期間を延長し、疾患の進行を出来るだけ長く抑えることである。現在、心不全患者の間で、心臓−腎臓間で生じる複雑な相互作用についての認識が増えている。このように、この患者集団の治療に用いられてきた従来の治療薬の多くは、腎機能に顕著な変化をもたらす可能性があり、治療の最適な選択肢とはもはや考えられていない。また、慢性心不全患者の管理に使用される現行の薬剤は、有効性に限界があったり、低血圧、頻拍、不整脈、腎不全の悪化などの深刻な副作用がある。従って、慢性HF患者を安定させることができ、かつ、有害な副作用の少ない新薬および治療レジメンの開発が望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Krumholz et al., Am. Heart J., 139: 72-7, 2000
【非特許文献2】Hunt et al., Circulation, 112: 154-235, 2005
【非特許文献3】Koelling et al., Am Heart J, 147: 74-8, 2004
【非特許文献4】Stewart et al., Eur J Heart Fail, 3: 315-322, 2001
【非特許文献5】Hershberger et al., J Card Fail, 9: 180-187, 2003
【非特許文献6】Rose et al., N Eng J Med, 345: 1435-1443, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
好ましい実施形態の要旨
本開示は、慢性心不全に苦しむヒト被験体の治療方法に関する。本明細書に記載の方法は、リラキシンの投与を用いたものである。本開示は、リラキシン投与によるうっ血性心不全(CHF)患者の治療方法を提供する。CHFの悪化による入院数は増加傾向にあり、このような患者のケアに伴う費用は驚異的な額に及んでいる。従って、治療への新たな取り組みが必要であり、本開示はこの要望に取り組むものである。本開示の利点の一つは、リラキシンの投与によって、バランスのとれた血管拡張(balanced vasodilation)をもたらし、代償性心不全から急性非代償性心不全への進行を防ぐことである。このように、入院が不要であり、かつ、通院回数や通院期間を明らかに減らせる定常状態レベルに被験体を維持することが可能である。本開示の別の利点は、リラキシンを患者に投与した際に、有害薬物反応(ADR)を殆ど示さないか、全く示さず、有効性が高いことである。本明細書において、ADRを引き起こさずに患者を安定させることで、リラキシンが急性代償不全の軽減に有益な効果を発揮することを示す。従って、本開示は、慢性HFに罹患した特定の患者集団においてバランスのとれた血管拡張をもたらす治療法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一つの側面では、慢性HFヒト被験体を選別する工程を含む、急性心代償不全事象を軽減する方法を提供し、当該被験体は、リラキシン受容体を有する血管系を有する。当該方法はさらに、医薬的に活性なリラキシンを有効量含む医薬製剤を被験体へ投与し、被験体の血管系に存在するリラキシン受容体へ結合させることで被験体の急性心代償不全事象の頻度を減らし、バランスのとれた血管拡張をもたらす工程を含む。心代償不全は、神経ホルモン平衡失調、体液過負荷、心不整脈、心虚血等(但し、これらに限定されない)のいずれか1つ以上の原因に起因する可能性がある。一実施態様では、ヒト被験体が急性血管不全に罹患している。
【0008】
本開示の医薬製剤に使用されるリラキシンは、例えば、合成もしくは組換えリラキシンまたは医薬的に有効なリラキシンアゴニストであってよい。本開示の一実施態様では、リラキシンはH1ヒトリラキシンである。別の実施態様では、リラキシンはH2ヒトリラキシンである。さらに別の実施態様では、リラキシンはH3ヒトリラキシンである。さらなる実施態様では、リラキシンは合成もしくは組換えヒトリラキシンまたは医薬的に有効なリラキシンアゴニストである。従って、合成もしくは組換えヒトリラキシンまたはリラキシンアゴニストの医薬製剤で被験体を処置することができる。本開示の一実施態様では、合成ヒトリラキシンで被験体を処置する。別の実施態様では、組換えヒトリラキシンで被験体を処置する。さらに別の実施態様では、医薬的に有効なリラキシンアゴニストで被験体を処置する。リラキシンは、複数の異なる経路、例えば、静脈内、皮下、筋肉内、舌下、吸入等(但し、これらに限定されない)を介して被験体へ投与することが可能である。具体的には、リラキシンまたはリラキシンアゴニストの医薬製剤は、被験体の体重1kg当たり約10〜1000μg/日の範囲の量で被験体へ投与することが可能である。このように、リラキシンの血清濃度を約1〜500ng/mlに維持するよう、リラキシンを被験体へ投与する。
【0009】
本開示の方法から恩恵を受けるヒト被験体は、リラキシンの投与に先立って約1年以上前から心不全と診断されている。リラキシン処置によって頻度の軽減が可能な急性心代償不全事象としては、呼吸困難、高血圧、不整脈、腎血流の低下および腎不全が挙げられるが、これらに限定されない。これらの事象は、病院への入院または再入院を伴うことが多い。本開示の一実施態様では、これらの急性心代償不全事象は病態生理学的性質を有する。最も一般的には、このような事象は急性非代償性心不全(AHF)を伴う。一実施態様では、ヒト被験体が血管不全に罹患している。別の実施態様では、急性心代償不全は断続的である。
【0010】
本開示の別の側面では、急性心代償不全事象の頻度を軽減する方法を提供する。一部の実施態様では、当該方法は、代償性CHFヒト被験体を選別する工程であって、ここで、当該被験体はリラキシン受容体を有する血管系を有し;医薬的に活性なリラキシンを有効量含む医薬製剤を被験体へ投与し、被験体の血管系に存在するリラキシン受容体へ結合させることで被験体が経験する急性心代償不全事象の頻度を減らす工程を含む。この方法では、リラキシン処置によって急性心代償不全事象の頻度が軽減し、この効果がリラキシン処置の開始から少なくとも約1〜14日間持続する。急性心代償不全事象としては、呼吸困難、体液貯留による体重増加、長期入院、再入院の可能性、ループ利尿薬の必要性、静脈内(IV)ニトログリセリンの必要性、心不全悪化の発生が挙げられるが、これらに限定されない。一実施態様では、患者をリラキシンで48時間処置する。別の実施態様では、患者をリラキシンで24時間処置する。さらに別の実施態様では、患者をリラキシンで12時間処置する。さらにまた別の実施態様では、患者をリラキシンで6時間処置する。リラキシンの効果はいずれの時点でも測定でき、例えば、リラキシン投与後1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、14日目またはそれ以降でも測定できる。
【0011】
好ましい一実施態様では、リラキシンを約30mcg/kg/日で投与する。好ましい一実施態様では、リラキシンを約30mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約35mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約40mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約45mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約50mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約55mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約60mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約65mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約70mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約75mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約80mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約85mcg/kg/日で投与する。好ましい別の実施態様では、リラキシンを約100mcg/kg/日で投与する。リラキシンは90〜200mcg/kg/日の投与量で投与してもよい。医薬的に有効なリラキシンとしては、組換えもしくは合成のH1ヒトリラキシン、H2ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシン、あるいは、これらのアゴニストまたは変異体が挙げられる。好ましい一実施態様では、約10ng/mlの血清濃度を維持するよう、リラキシンを被験体へ投与する。リラキシンの医薬製剤は、静脈内、皮下、筋肉内、舌下または吸入を介して投与可能である。好ましい一実施態様では、リラキシンの医薬製剤を静脈内に投与する。リラキシン受容体はリラキシンの結合を介して活性化され、例えば、LRG7、LGR8、GPCR135およびGPCR142が挙げられるが、これらに限定されない。リラキシン受容体へのリラキシンの結合は一酸化窒素(NO)の産生を誘発し、その結果、バランスのとれた血管拡張がもたらされる。リラキシン受容体は、例えば、血管系の平滑筋組織上に存在している。
【0012】
さらに本開示は、医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与して、リラキシを用いない治療と比較して前記被験体の入院頻度または入院期間を減らす工程を含む、心不全の治療方法を提供する。ここで、前記被験体は、投与の開始時に、ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association)(NYHA)による心不全分類でクラスIIまたはクラスIIIの心不全を有する。一実施態様では、当該方法は、リラキシを用いない治療と比較して代償不全の頻度を減らす工程を含む。別の実施態様では、代償不全が、呼吸困難、浮腫および疲労からなる群より選択される計画外の医療(unscheduled medical care)を要する症状を含む。別の実施態様では、代償不全が、体液貯留の増加、低血圧、高血圧、不整脈、腎血流の低下、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の濃度上昇、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT−プロBNP)の濃度上昇、血中尿素窒素(BUN)の濃度上昇およびクレアチニンの濃度上昇のうちの1つ以上を含む。別の実施態様では、代償不全が静脈内利尿薬の投与を要する。別の実施態様では、代償不全は心不全による死亡リスクを減らすことを含み、ここで、前記被験体は、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を示していないステージBまたはステージCの構造的心疾患(structual heart disease)を投与の開始時に有する。別の実施態様では、当該被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を既に示すステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体が、約35%以下の左心室駆出率(LVEF)を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体が、約85mmHg以上の収縮期血圧を投与の開始時に有する。別の実施態様では、当該被験体が、約85〜125mmHgの間の収縮期血圧を投与の開始時に有する。一実施態様では、リラキシン(例えば、組換え、精製または合成リラキシン)は、H2ヒトリラキシン(または他の実施態様では、H1ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシン)である。別の実施態様では、リラキシンはリラキシンアゴニストである。一実施態様では、約10〜960mcg/kg/日の間の一定用量(例えば、約10、30、100、240、480または940mcg/kg/日)(事前の力価測定はしない)でリラキシンを投与する。別の実施態様では、静脈内、筋肉内および皮下(あるいは皮内、舌下、吸入または着用可能な注入ポンプ)からなる群より選択される送達経路を用いてリラキシンを投与する。さらに別の実施態様では、少なくとも約4、8、12、24および48時間からなる群より選択される期間にわたって注入によりリラキシンを投与する。別の実施態様では、当該投与にはリラキシンの連続投与が含まれる。さらに別の実施態様では、日に3回、日に2回、日に1回、週に3回、週に2回、週に1回、2週に1回および月に1回からなる群より選択される頻度で注射によりリラキシンを投与する。一実施態様では、当該投与にはリラキシンの間欠投与が含まれる。別の実施態様では、投与によって、低血圧、頻拍、不整脈および腎機能の悪化からなる群より選択される有害作用が起こらない。別の実施態様では、投与によって、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニンおよび循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドのうちの1つ以上をさらに低下させる。別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法(アンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬)のうちの1つ以上を受けている。さらに別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、入院を要する急性心不全を患っていない。
【0013】
本開示はまた、医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、前記被験体の機能的能力(functional capacity)を改善する工程を含む、心不全の治療方法を提供する。ここで、前記被験体は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による心不全分類でクラスIIIまたはクラスIVの心不全を有する。一実施態様では、機能的能力の改善が、Minnesota Living With Heart Failure(登録商標)質問票(Questionnaire)(あるいは、生活の質に関する類似の評価、社会、精神および/または感情機能に対する身体的な心不全症状の影響に関する類似の評価)でのより高いスコアに相当する。別の実施態様では、機能的能力の改善が、6分間歩行試験(あるいは、運動耐性に関する類似の測定)における歩行距離の増加に相当する。一実施態様では、機能的能力の改善が、最大酸素消費量(VO2max)の増加に相当する。別の実施態様では、機能的能力の改善が、NYHA心不全分類でより軽度のクラスの心不全への変化に相当する。別の実施態様では、当該被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を既に示すステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、最適な医薬療法にも拘わらず安静時の顕著な心不全症状を特徴とするステージDの難治性心不全を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体がステージDの心不全を有し、かつ、機械的な循環支援と心臓移植の一方または両方について適格である(eligible)。別の実施態様では、当該被験体がステージDの心不全を有し、かつ、終末期ケア(end-of-life care)について適格がある。さらに別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始に先立って少なくとも1年前に心不全との診断を受けている。一実施態様では、リラキシン(例えば、組換え、精製または合成リラキシン)は、H2ヒトリラキシン(または他の実施態様では、H1ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシン)である。別の実施態様では、リラキシンはリラキシンアゴニストである。一実施態様では、約10〜960mcg/kg/日の間の一定用量(例えば、約10、30、100、240、480または940mcg/kg/日)(事前の力価測定はしない)でリラキシンを投与する。別の実施態様では、約240〜960mcg/kg/日の間の一定用量(例えば、約240、480または940mcg/kg/日)(事前の力価測定はしない)でリラキシンを投与する。一実施態様では、静脈内、筋肉内および皮下(あるいは皮内、舌下、吸入または着用可能な注入ポンプ)からなる群より選択される送達経路を用いてリラキシンを投与する。別の実施態様では、少なくとも約4、8、12、24および48時間からなる群より選択される期間にわたって注入によりリラキシンを投与する。さらに別の実施態様では、当該投与にはリラキシンの連続投与が含まれる。さらに別の実施態様では、日に3回、日に2回、日に1回、週に3回、週に2回、週に1回、2週に1回および月に1回からなる群より選択される頻度で注射によりリラキシンを投与する。一実施態様では、当該投与にはリラキシンの間欠投与が含まれる。別の実施態様では、投与によって、低血圧、頻拍、不整脈および腎機能の悪化からなる群より選択される有害作用が起こらない。別の実施態様では、投与によって、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニンおよび循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドのうちの1つ以上をさらに低下させる。別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法(アンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬)のうちの1つ以上を受けている。さらに別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、入院を要する急性心不全を患っていない。
【0014】
本開示の別の側面では、医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、前記被験体によって摂取される併用される慢性心不全用医薬の使用を減らす工程を含む、心不全の治療方法を提供する。ここで、前記併用される慢性心不全用医薬は、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法(アンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬)のうちの1つ以上を含むものである。一実施態様では、当該被験体が、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による心不全分類でクラスIIまたはクラスIIIの心不全を投与の開始時に有する。別の実施態様では、当該被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を示していないステージBまたはステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を既に示すステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する。一実施態様では、当該被験体が、約35%以下の左心室駆出率(LVEF)を投与の開始時に有する。別の実施態様では、当該被験体が、約85mmHg以上の収縮期血圧を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体が、約85〜125mmHgの収縮期血圧を投与の開始時に有する。別の実施態様では、リラキシン(例えば、組換え、精製または合成リラキシン)は、H2ヒトリラキシン(または他の実施態様では、H1ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシン)である。さらに別の実施態様では、リラキシンはリラキシンアゴニストである。一実施態様では、約10〜960mcg/kg/日の間の一定用量(例えば、約10、30、100、240、480または940mcg/kg/日)(事前の力価測定はしない)でリラキシンを投与する。別の実施態様では、静脈内、筋肉内および皮下(あるいは皮内、舌下、吸入または着用可能な注入ポンプ)からなる群より選択される送達経路を用いてリラキシンを投与する。さらに別の実施態様では、少なくとも約4、8、12、24および48時間からなる群より選択される期間にわたって注入によりリラキシンを投与する。別の実施態様では、当該投与にはリラキシンの連続投与が含まれる。さらに別の実施態様では、日に3回、日に2回、日に1回、週に3回、週に2回、週に1回、2週に1回および月に1回からなる群より選択される頻度で注射によりリラキシンを投与する。一実施態様では、当該投与にはリラキシンの間欠投与が含まれる。別の実施態様では、投与によって、低血圧、頻拍、不整脈および腎機能の悪化からなる群より選択される有害作用が起こらない。別の実施態様では、投与によって、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニンおよび循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドのうちの1つ以上をさらに低下させる。別の実施態様では、当該使用の低減は、併用される慢性心不全用医薬の1種以上の用量を減らすことを含む。別の実施態様では、当該使用の低減は、併用される慢性心不全用医薬の1種以上を中断することを含む。さらに別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、入院を要する急性心不全を患っていない。
【0015】
本開示はさらに、医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、前記被験体の心係数を増加させる工程を含む、心不全の治療方法を提供する。ここで、前記被験体は心不全有し、かつ、投与の開始時における前記被験体の心係数が約2.5L/分/m2未満である。別の実施態様では、当該被験体が、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による心不全分類でクラスIIまたはクラスIIIの心不全を投与の開始時に有する。別の実施態様では、当該被験体の心係数が、投与の開始時に約1.8〜2.5L/分/m2の間である。さらに別の実施態様では、当該被験体が、約35%以下の左心室駆出率(LVEF)を投与の開始時に有する。別の実施態様では、当該被験体が、約85mmHg以上の収縮期血圧を投与の開始時に有する。さらに別の実施態様では、当該被験体が、約85〜125mmHgの間の収縮期血圧を投与の開始時に有する。一実施態様では、リラキシン(例えば、組換え、精製または合成リラキシン)は、H2ヒトリラキシン(または他の実施態様では、H1ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシン)である。別の実施態様では、リラキシンはリラキシンアゴニストである。一実施態様では、約10〜960mcg/kg/日の間の一定用量(例えば、約10、30、100、240、480または940mcg/kg/日)(事前の力価測定はしない)でリラキシンを投与する。別の実施態様では、約240〜960mcg/kg/日の間の一定用量(例えば、約240、480または940mcg/kg/日)(事前の力価測定はしない)でリラキシンを投与する。一実施態様では、静脈内、筋肉内および皮下(あるいは皮内、舌下、吸入または着用可能な注入ポンプ)からなる群より選択される送達経路を用いてリラキシンを投与する。別の実施態様では、少なくとも約4、8、12、24および48時間からなる群より選択される期間にわたって注入によりリラキシンを投与する。さらに別の実施態様では、当該投与にはリラキシンの連続投与が含まれる。さらに別の実施態様では、日に3回、日に2回、日に1回、週に3回、週に2回、週に1回、2週に1回および月に1回からなる群より選択される頻度で注射によりリラキシンを投与する。一実施態様では、当該投与にはリラキシンの間欠投与が含まれる。別の実施態様では、投与によって、低血圧、頻拍、不整脈および腎機能の悪化からなる群より選択される有害作用が起こらない。別の実施態様では、投与によって、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニンおよび循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドのうちの1つ以上をさらに低下させる。別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法(アンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬)のうちの1つ以上を受けている。さらに別の実施態様では、当該被験体が、投与の開始時に、入院を要する急性心不全を患っていない。
【0016】
本開示は、好ましい実施態様を例示した添付の図面と組み合わせて読むことで最も良く理解される。しかしながら、本開示が、図面に開示された特定の実施態様に限定されないことは理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1のAは、大きさと形状がインスリンに類似したペプチドホルモンのH2リラキシンを示す。図1のBは、ヒトリラキシン2(H2)のB鎖(配列番号1)およびA鎖(配列番号2;Xはグルタミン酸[E]またはグルタミン[Q]を表す)のアミノ酸配列を示す。
【図2】図2は、リラキシンの可能な作用機序を示したものである。リラキシン受容体LGR7およびLGR8はリラキシンに結合し、マトリックスメタロプロテイナーゼMMP−2およびMMP−9を活性化してエンドセリン−1を切断型エンドセリン−1(1−32)へと変換し、次いで切断型エンドセリン−1(1−32)がエンドセリンB受容体(ETB受容体)へ結合する。これにより一酸化窒素合成酵素(NOS)が誘発されて一酸化窒素(NO)が産生され、血管拡張が増加する。
【図3】図3は、血管の内腔を示したものである。矢印は平滑筋細胞(SM)と内皮(E)を示す。リラキシン受容体は、血管(全身および腎臓の血管系)の平滑筋細胞上に存在する。
【図4】図4は、心係数とリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースラインに対してP<0.05。
【図5】図5は、心拍数とリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。
【図6】図6は、全身血管抵抗とリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースラインに対してP<0.05。
【図7】図7は、肺毛細管楔入圧とリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースラインに対してP<0.05。
【図8】図8は、収縮期血圧とリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースラインに対してP<0.05。
【図9】図9は、血漿NT−プロBNPとリラキシンを示したものである。グラフは、注入時については24時間(黒塗りつぶし)、注入後については24時間と9日目(白抜き)の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦方向の点線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースライン(「0」点)に対してP<0.05。
【図10】図10は、血清クレアチニンとリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースラインに対してP<0.05。
【図11】図11は、右心房圧と肺血管抵抗とリラキシンを示したものである。グラフは、注入時(黒塗りつぶし)と注入後(白抜き)の双方について24時間の推移を表す。A群とB群では8時間ごとに投与量を増やし、それを縦線で表示した。C群には一定の投与量を与えた(全てmcg/kg/日)。*ベースラインに対してP<0.05。
【図12】図12は、全身性硬化症患者でのリラキシンの臨床試験において、高血圧および正常血圧の被験体の収縮期血圧(SBP)が安定して減少したことを示す。試験参加時に高血圧であった患者の血圧低下は、試験参加時に正常血圧であった患者の血圧低下よりも大きかった。6ヶ月の連続投薬の期間中、血圧低下は安定していた。患者はいずれも投薬期間中に低血圧を発症しなかった。
【図13】図13は、全身性硬化症患者へリラキシン(プラセボではなく)を6ヶ月間連続投薬した際に、推定クレアチニンクリアランス(CrCl)として測定した腎機能が安定して改善したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
概要
本開示は、心不全(HF)患者を代償状態に維持する方法に関する。リラキシンは、腎機能のマーカーを改善し(例えば、血中尿素窒素の減少およびクレアチニンクリアランスの増加)、心係数を増加させ、かつ、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗および循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドを低下させることにより、HF患者に対して有益な効果を発揮することが判っている。また、リラキシンは、治療の際の低血圧または頻拍のリスクを低下させるといった、現行の薬剤では見られないさらなる利点を有する。重要な点は、実施例1に記載の予備実験で、リラキシン投与からは用量範囲全般にわたって臨床上著しい有害作用が見られなかったことである(Dschietzig et al., J Cardiac Fail, 15: 182-90, 2009)。
【0019】
定義
用語「リラキシン」は、当該技術分野で周知のペプチドホルモンを意味する(図1を参照)。ここで云う用語「リラキシン」にはヒトリラキシンが包含され、完全長(intact full length)ヒトリラキシンまたは生物学的活性を保持したリラキシン分子の部分が含まれる。用語「リラキシン」には、ヒトH1プレプロリラキシン、プロリラキシンおよびリラキシン;H2プレプロリラキシン、プロリラキシンおよびリラキシン;H3プレプロリラキシン、プロリラキシンおよびリラキシンが包含される。用語「リラキシン」にはさらに、組換え、合成または天然源由来の生物学的に活性な(本明細書中「医薬的に活性な」とも云う)リラキシン、並びに、アミノ酸配列変異体といったリラキシン変異体が含まれる。このように、本用語は、合成ヒトリラキシンおよび組換えヒトリラキシン、例えば、合成H1、H2およびH3ヒトリラキシンならびに組換えH1、H2およびH3ヒトリラキシンを意図する。本用語にはさらに、リラキシン様の活性を有する活性物質、例えば、リラキシンアゴニストおよび/またはリラキシンアナログ並びに生物学的活性を保持したこれらの部分、例えば、リラキシン受容体(例えば、LGR7受容体、LGR8受容体、GPCR135、GPCR142等)に結合したリラキシンと競合的に置き換わる全ての物質が包含される。従って、医薬的に有効なリラキシンアゴニストは、リラキシン受容体に結合してリラキシン様の応答を惹起し得るリラキシン様の活性を有する任意の物質である。さらに、ここで云うヒトリラキシンの核酸配列は、ヒトリラキシン(例えば、H1、H2および/またはH3)の核酸配列と100%同一である必要はなく、ヒトリラキシンの核酸配列と少なくとも約40%、50%、60%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一であればよい。ここで云うリラキシンは、当業者に公知の任意の方法で作製可能である。このような方法の例としては、例えば、米国特許第5,759,807号並びにBullesbach et al. (1991) The Journal of Biological Chemistry 266(17):10754-10761に例示されている。リラキシン分子およびリラキシンアナログの例としては、例えば、米国特許第5,166,191号に例示されている。天然に存在する生物学的に活性なリラキシンは、ヒト、ネズミ(即ち、ラットもしくはマウス)、ブタまたは他の哺乳動物源由来であってよい。また、インビボでの半減期を増加すべく修飾されたリラキシン、例えば、PEG化リラキシン(即ち、ポリエチレングリコールと複合したリラキシン)、分解酵素による切断に供されるアミノ酸修飾されたリラキシンなども含まれる。本用語にはまた、N末端切断および/またはC末端切断を有するA鎖およびB鎖を含むリラキシンも包含される。一般に、H2リラキシンでは、A鎖はA(1−24)からA(10−24)へ、B鎖はB(1−33)からB(10−22)へ変化可能であり;H1リラキシンでは、A鎖はA(1−24)からA(10−24)へ、B鎖はB(1−32)からB(10−22)へ変化可能である。同じく用語「リラキシン」の範疇に含まれるのは、他の1つ以上のアミノ酸残基を挿入、置換または欠失したリラキシン、グルコシル化変異体、非グルコシル化リラキシン、有機塩および無機塩、共有結合的に修飾された誘導体のリラキシン、プレプロリラキシンおよびプロリラキシンである。同じく本用語に含まれるのは、野生型(例えば、天然に存在するもの)の配列とは異なるアミノ酸配列を有するリラキシンアナログであり、米国特許第5,811,395号に開示のリラキシンアナログが挙げられるが、これらに限定されない。リラキシンのアミノ酸残基に対する可能な修飾としては、遊離アミノ基(例えば、N末端)のアセチル化、ホルミル化もしくは類似の保護、C末端基のアミド化、または、ヒドロキシル基もしくはカルボン酸基のエステル形成、例えば、ホルミル基の付加によるB2トリプトファン(Trp)残基の修飾が挙げられる。ホルミル基は、容易に除去可能な保護基の典型例である。他の可能な修飾としては、B鎖および/またはA鎖の天然アミノ酸の1つ以上を異なるアミノ酸(天然アミノ酸のD体を含む)で置換することが挙げられ、例えば、B24のMet部分をノルロイシン(Nle)、バリン(Val)、アラニン(Ala)、グリシン(Gly)、セリン(Ser)またはホモセリン(HomoSer)で置換することが挙げられるが、これらに限定されない。他の可能な修飾としては、当該鎖からの天然アミノ酸の欠失、または、1つ以上の追加アミノ酸の鎖への付加が挙げられる。別の修飾としては、プロリラキシンのB/CおよびC/A接合部のアミノ酸置換(当該修飾により、プロリラキシンからのC鎖の切断が促進される)、並びに、非天然Cペプチドを含む変異リラキシン、例えば、米国特許第5,759,807号に記載のものが挙げられる。同じく用語「リラキシン」に含まれるのは、リラキシンと異種ポリペプチドとを含む融合ポリペプチドである。異種ポリペプチド(例えば、非リラキシンポリペプチド)である融合パートナーは、融合タンパク質のリラキシン部分のC末端側でもN末端側でもよい。異種ポリペプチドとしては、免疫学的に検出可能なポリペプチド(例えば、「エピトープタグ」);検出可能なシグナルを生成し得るポリペプチド(例えば、緑色蛍光タンパク質、アルカリホスファターゼ等の酵素、その他当該技術分野で公知のもの);治療用ポリペプチド(例えば、サイトカイン、ケモカイン、成長因子が挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられる。リラキシン分子の構造において変異体をもたらすこのような変異または変化は全て、リラキシンの機能(生物学的)活性が維持される限り、本開示の範囲に含まれる。好ましくは、リラキシンのアミノ酸配列または構造の修飾はいずれも、リラキシン変異体で処置した個体において、その免疫原性を増加させないものである。このような記載した機能活性を有するリラキシン変異体は、当該技術分野で公知のインビトロおよびインビボアッセイを用いることで容易に同定可能である。
【0020】
用語「心不全」は、心臓が本来のように効率よく働かないことを通常意味する。心不全(HF)は、身体が血流を必要としても、心臓の筋肉がそれに追随できない時に生じる。HFは症候群、即ち、複数の原因から生じる可能性のある所見の集まりである。HFは心臓の筋肉が弱まること(即ち、心筋症)で生じ、十分な血液を送り出すことができなくなる。HFはまた、体液が通常体内に蓄積して、この状態がうっ血と言われるため、うっ血性HFとも呼ばれる。心臓が弱まることで生じるHF以外にも、他の様々なHFが存在する。これらは、正常な心臓であっても高すぎで追随できないような身体の要求によって生じるHFであって、例えば、過剰な甲状腺ホルモンが産生される甲状腺疾患の一部の症例や、貧血患者または他の複数の病態で見られるHF、あるいは、神経ホルモンの平衡失調に起因するHFであって、最終的には呼吸困難の急性現象または他の急性事象、例えば、高血圧(hypertension)、血圧の上昇(high blood pressure)、不整脈、腎血流の低下、腎不全、そして重篤な場合には死に至るHFである。患者が既にHFとの診断を受けている場合には、前述の現象によって、患者は慢性HFから急性非代償性心不全(AHF)および/または急性血管不全へと移行する。通常、AHFには、患者を非代償状態から代償状態へ導くために入院や計画外の医療支援が必要である。
【0021】
用語「代償性慢性心不全」と「代償性慢性HF」は同義であって、正常な心拍出量を通常もたらす制御されたうっ血性心不全を表し、通常医療介入によって達成される。正常な心拍出量ではあるものの、代償メカニズムを用いることで、損傷した心臓で十分な心拍出量を維持している異常な状態である。その結果、代償性慢性HFは一般に進行性の疾患であり、医療介入の主な目標は、最小限の副作用で安定した代償性慢性HFの状態を最大にすることである。
【0022】
本明細書中、用語「AHF」、「急性心不全」および「急性非代償性心不全」は、スクリーニング時に以下の全てが存在することで定義される:安静時または最小限の労作で生じる呼吸困難、胸部X線での肺のうっ血、および、ナトリウム利尿ペプチドの濃度上昇[脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)≧350pg/mLまたはNT−プロBNP≧1400pg/mL]。
【0023】
用語「急性心代償不全」および「急性代償不全」は、本明細書中区別なく使用され、明細書および特許請求の範囲の目的では、体内の神経ホルモン平衡失調に起因する全身および腎臓の血管収縮を心臓の筋肉が代償できない状態を意味する。急性心代償不全は、心機能の変化と体液調節の変化を特徴とし、血液動態上の不安定性および生理学的変化(特に、うっ血および浮腫)、心不全症状(最も一般的には呼吸困難)の発症を招く。この種の機能代償不全は、通常低血圧を伴わないにも拘わらず、弁膜または心筋の欠陥(即ち、構造欠陥)が原因と誤診される恐れがあった。しかしながら、ここで云う「急性心代償不全」は、ある一定の代償不全事象(例えば、呼吸困難、高血圧、血圧の上昇、不整脈、腎血流の低下、腎不全および死亡が挙げられるが、これらに限定されない)のいずれか1つ以上を伴うことの多い機能代償不全である。ここで云う「急性心代償不全」を示す患者は、典型的にはうっ血性または慢性心不全と診断されるが、以前はそのように診断されない場合もあった。このような患者は、心疾患の病歴を持つ場合もあり、全く持たない場合もある。
【0024】
用語「血管系(vasculature)」は、臓器または身体の部分における血管のネットワーク、例えば、動脈や毛細血管を意味する。
【0025】
用語「バランスのとれた血管拡張(balanced vasodilation)」は、明細書および特許請求の範囲の目的では、リラキシンまたはリラキシンアゴニストが特定のリラキシン受容体へ結合した結果、全身の血管系(主に動脈)と腎臓の血管系で生じる二重の血管拡張を意味する(下記の詳細な説明を参照)。
【0026】
用語「神経ホルモン平衡失調(neurohormonal imbalance)」および「神経液性平衡失調(neurohumoral imbalance)」は、本明細書中区別なく使用され、心不全に至る可能性のある体内のホルモン障害を意味する。例えば、Gs共役型アドレナリン経路またはGq共役型アンジオテンシン経路を介した過剰のシグナル伝達は、神経ホルモン平衡失調を引き起こす恐れがある。いずれの場合も、過剰の神経ホルモンシグナル伝達によって、機能代償不全が引き起こされ、加速する恐れがある(Schrier et al., The New England Journal of Medicine 341(8):577-585, 1999を参照)。さらに、過剰の神経ホルモンシグナル伝達は、急性血管不全を引き起こし、加速する恐れがある。
【0027】
本明細書中、用語「体液過負荷(fluid overload)」は、血液が大量の水分を含有する場合に生じる状態を意味する。体液過負荷(血液量過多)は、レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系の活性化により、体液過負荷を引き起こし得る心不全で普通に見られる。この体液(主に塩分と水分)は身体の様々な部位に蓄積し、体重の増加、脚や腕の腫張(末梢浮腫)および/または腹部の腫張(腹水)を招く。最終的に、体液は肺の気腔に入り込み、血液中に入ることのできる酸素量を低下させ、息切れ(呼吸困難)を引き起こす。体液は、夜間横になった際にも肺に集まる場合があり、夜間の呼吸や睡眠を困難にする恐れがある(発作性夜間呼吸困難)。体液過負荷は、うっ血性HFの最も顕著な特徴の一つである。
【0028】
用語「心不整脈(cardiac arrhythmia)」は、心臓の筋収縮が不規則になる状態を意味する。異常に速いリズム(100拍/分超)は頻拍と呼ばれる。異常に遅いリズム(60拍/分未満)は徐脈と呼ばれる。
【0029】
「心虚血」は、冠状動脈が一部または完全に遮断することで心臓の筋肉(心筋層)への血流が閉塞されるときに生じる。突然の重篤な遮断は、心臓発作(心筋梗塞)を招くことがある。心虚血はまた、深刻な心リズム異常(不整脈)を引き起こすこともあり、その結果、気絶や重篤な場合には死に至る。
【0030】
用語「病態生理学的」は、疾患により惹起されるか、あるいは疾患または疾患と呼ばれるには適しない場合もある異常な症候群もしくは状態から生じるかのいずれかの、任意の正常な機械的、物理的、または生化学的機能の障害を指す。「病態生理学」は、底流になっている異常性および生理学的な障害と相関する、疾患の生物学的および物理学的発現の研究である。
【0031】
用語「一酸化窒素」および「NO」は本明細書中区別なく使用され、ヒトを含む哺乳動物の体内で多くの生理学的および病理学的な過程に関与する重要なシグナル伝達分子を意味する。NOは、血管の平滑筋を弛緩させて血管を拡張させる血管拡張剤として作用可能である。動脈の血管(主に細動脈)が拡張すると血圧が低下する。リラキシンは、NOを介して少なくとも何らかの血管拡張を惹起すると考えられる。このように、リラキシンは、血管系の平滑筋細胞上の特定のリラキシン受容体、例えば、LGR7およびLGR8受容体に結合し、次いで、エンドセリンカスケードを活性化して一酸化窒素合成酵素(NOS)を活性化し、NOを産生する(図2を参照)。
【0032】
用語「心係数」または略語「CI」は、左心室が1分間に全身循環へ拍出する血液量を、1分当たりのリットル数(L/分)として測定したものを表す。心係数は、心拍出量(CO)と体表面積(BSA)とを関連づける(従って、心臓の性能と個体の大きさとを関連づける)血管力学パラメータであり、1平方メートル当たりの1分間のリットル数(L/分/m2)を測定単位とした値である。
【0033】
本明細書中、用語「AHF」、「急性心不全」および「急性非代償性心不全」は、スクリーニング時に以下の全てが存在することで定義される:安静時または最小限の労作で生じる呼吸困難、胸部X線での肺のうっ血、および、ナトリウム利尿ペプチドの濃度上昇[脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)≧350pg/mLまたはNT−プロBNP≧1400pg/mL]。
【0034】
用語「呼吸困難」は、困難な呼吸または苦しい呼吸を意味する。呼吸困難は様々な障害の兆候であり、主に、換気不足または循環血液中の酸素量不足を表す。用語「起座呼吸」は、横になった際の困難な呼吸または苦しい呼吸を意味し、身体を起こしている時(寄りかからずに着座または起立している時)には楽になる。
【0035】
臨床研究および実施にあたっての指針では、典型的には、約140mmHgを超える収縮期血圧(SBP)を高血圧とし、個々の研究または指針に応じて約140mmHg、130mmHgまたは120mmHg未満のSBPを正常血圧とする。急性心不全または他の心疾患の場合には、低血圧は、約110mmHg、100mmHgまたは90mmHg未満のSBPと特徴付けられる。一部の好ましい実施態様では、語句「正常血圧または高血圧状態」とは、試験スクリーニングまたはリラキシン投与時のSBPが125mmHgを超えることを意味する。
【0036】
本明細書中、語句「腎機能障害(impaired renal function)」は、簡易化Modification of Diet in Renal Disease(simplified Modification of Diet in Renal Disease)(sMDRD)の式を用いて計算した推定糸球体濾過率(eGFR)が30〜75mL/分/1.73m2である場合と定義される。
【0037】
用語「プラセボ」は、臨床研究試験において生理学的に活性な処置と比較されることの多い、生理学的に不活性な処置を意味する。これらの試験は一般に二重盲検試験として行われ、処方する医師も患者も、活性薬物を摂取しているのか、明らかな医薬的効果を何ら持たない物質(プラセボ)を摂取しているのか知らされない。生理学的に不活性な処置を受けている患者が、生理学的に活性な処置を受けていると信じている場合には、自身の状態に改善を実感する場合があることが観察されている(プラセボ効果)。従って、試験にプラセボを含めることで、統計学的に有意な有益な効果が、生理学的に活性な処置と関連があり、単にプラセボ効果の結果ではないことが保証される。
【0038】
「再入院」の定義は、最初の治療が終了した後一定の期間内に再度入院することである。期間は通常、治療の種類や患者の状態に依存する。
【0039】
本明細書中、用語「心臓血管死」は、主に心臓血管に原因のある死を意味し、例えば、発作(stroke)、急性心筋梗塞、難治性うっ血性心不全に起因する死や、突然死などである。
【0040】
「ループ利尿薬」は、うっ血性心不全または腎不全の患者に使用して高血圧および浮腫の症状を軽減する薬物を意味する。ループ利尿薬は、腎臓でのナトリウムおよび塩化物の再吸収を減らし、尿の分泌を増加させる利尿薬のクラスに属する。
【0041】
用語「約」は、示された値との関連で使用されるとき、示された値の10%上または下までの範囲(例えば、示された値の90〜110%)を包含する。例えば、約30mcg/kg/日の静脈内(IV)注入速度は、27mcg/kg/日〜33mcg/kg/日のIV注入速度を包含する。
【0042】
「治療上有効」とは、患者のベースライン状態または未処置の被験体もしくはプラセボで処置した被験体(例えば、リラキシンで処置していない被験体)の状態と比較して、患者に対して測定可能な所望の医学的または臨床上の利益をもたらす、医薬的に活性なリラキシンの量を意味する。
【0043】
リラキシン
リラキシンは、大きさと形状がインスリンに類似したペプチドホルモンである(図1を参照)。具体的には、リラキシンは、インスリン遺伝子スーパーファミリーに属する内分泌および自己分泌/パラ分泌ホルモン(autocrine/paracrine hormone)である。コードされるタンパク質の活性型は、A鎖およびB鎖からなり、鎖間2箇所および鎖内1箇所のジスルフィド結合で一体に保持されている。従って、ジスルフィド結合の配置がインスリンに非常に良く似た構造である。ヒトでは、3種類の非対立リラキシン遺伝子、リラキシン1(RLN−1またはH1)、リラキシン2(RLN−2またはH2)およびリラキシン3(RLN−3またはH3)が知られている。H1およびH2は配列相同性が高い。この遺伝子については、異なるイソ型をコードする2つの選択的スプライシング転写産物変異体が記載されている。H1およびH2は生殖器官で特異的に発現し(米国特許第5,023,321号およびGaribay-Tupas et al. (2004) Molecular and Cellular Endocrinology 219:115-125を参照)、H3は主に脳で見られる。受容体におけるリラキシンペプチドファミリーの進化は、一般に当該技術分野で周知である(Wilkinson et al. (2005) BMC Evolutionary Biology 5(14):1-17;およびWilkinson and Bathgate (2007) Chapter 1, Relaxin and Related Peptides, Landes Bioscience and Springer Science + Business Mediaを参照)。
【0044】
リラキシンは、特定のリラキシン受容体、即ち、LGR7(RXFP1)およびLGR8(RXFP2)並びにGPCR135およびGPCR142を活性化する。LGR7およびLGR8はロイシン・リッチ・リピートを含有するGタンパク質共役受容体(LGR)であり、Gタンパク質共役受容体の固有のサブグループである。これらの受容体は、7重らせん構造の膜貫通型ドメインとグリコシル化された大きな細胞外ドメインを含有し、LH受容体またはFSH受容体といったグリコプロテオホルモン(glycoproteohormone)受容体とは遠縁にあたる。これらのリラキシン受容体は、心臓、平滑筋、結合組織、中枢神経系および自律神経系で見られる。効力のあるリラキシン、例えば、H1、H2、ブタおよびクジラのリラキシンは、ある一定の配列、即ち、Arg−Glu−Leu−Val−Arg−X−X−Ile配列または結合カセットを共通して持っている。これらのリラキシンはLGR7およびLGR8受容体を活性化する。配列相同性から外れたリラキシン、例えば、ラット、サメ、イヌおよびウマのリラキシンは、LGR7およびLGR8受容体を介した生物活性が低下している(Bathgate et al. (2005) Ann. N. Y. Acad. Sci. 1041:61-76; Receptors for Relaxin Family Peptidesを参照)。しかしながら、H2リラキシンと同様に、H3リラキシンはLGR7受容体を活性化する(Satoko et al. (2003) The Journal of Biological Chemistry 278(10):7855-7862を参照)。さらに、H3はGPCR135受容体(Van der Westhuizen (2005) Ann. N. Y. Acad. Sci. 1041:332-337を参照)およびGPCR142受容体を活性化することが判っている。GPCR135およびGPCR142は、2つの構造上関連したGタンパク質共役受容体である。マウスおよびラットGPCR135は、ヒトGPCR135に対して高い相同性(即ち、85%を超える)を示し、ヒトGPCR135と非常に良く似た薬理学的特性を有する。ヒト、マウスおよびラットリラキシン3は、マウス、ラットおよびヒトGPCR135と高い親和性で結合し、これらを活性化する。これに対しマウスGPCR142は、ヒトGPCR142との保存性があまり高くない(即ち、74%の相同性)。サル、ウシおよびブタ由来のGPCR142遺伝子は、クローニングされてヒトGPCR142と高度に相同(即ち、84%を超える)であることが判明した。異なる種に由来するGPCR142を薬理学的に特性決定したところ、リラキシン3が異なる種に由来するGPCR142と高い親和性で結合することが明らかとなった(Chen et al. (2005) The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 312(l):83-95を参照)。
【0045】
リラキシンは、女性・男性のいずれにも見られる(Tregear et al.; Relaxin 2000, Proceedings of the Third International Conference on Relaxin & Related Peptides (22-27 October 2000, Broome, Australiaを参照)。女性では、リラキシンは卵巣の黄体、乳房によって産生され、妊娠時には胎盤、絨毛膜および脱落膜からも産生される。男性では、リラキシンは精巣で産生される。黄体による産生の結果、リラキシン濃度は排卵後に上昇し、最初の3半期でピークに達し、妊娠の終わりまでは続かない。妊娠しなければ、その濃度は低下する。ヒトの場合、リラキシンは、妊娠、精子の運動性の向上、血圧調節、心拍数制御ならびにオキシトシンおよびバソプレシンの放出において役割を果たしている。動物では、リラキシンは恥骨を広げ、分娩を促進し、子宮頚管を軟化させ(子宮頚管熟化)、子宮筋系を弛緩させる。動物では、リラキシンはまた、コラーゲン代謝、コラーゲン合成の阻害、マトリックスメタロプロテイナーゼの増加によるコラーゲン分解の亢進にも作用する。また、血管新生も亢進し、腎血管拡張剤でもある。
【0046】
リラキシンは成長因子としての一般的な特性を持ち、結合組織の性質を変え、平滑筋収縮に影響を及ぼすことが可能である。H1およびH2は主に生殖組織で発現すると考えられており、H3は主に脳で発現することが知られている(前出)。しかしながら、本開示の開発時に明らかになったように、H2およびH3は心臓血管の機能および心腎機能において主要な役割を果たし、従って、関連疾患の治療に用いることができる。H1もH2と相同性があることから同様に用いることができる。さらに、リラキシン様の活性を有する医薬的に有効なリラキシンアゴニストは、リラキシン受容体を活性化してリラキシン様の応答を惹起できるものと考えられる。
【0047】
リラキシンアゴニスト
一部の実施態様では、本開示は、リラキシンアゴニストを投与する工程を含む、慢性心不全と診断された患者の治療方法を提供する。一部の方法では、リラキシンアゴニストは、RXFP1、RXFP2、RXFP3、RXFP4、FSHR(LGR1)、LHCGR(LGR2)、TSHR(LGR3)、LGR4、LGR5、LGR6、LGR7(RXFP1)およびLGR8(RXFP2)より選択されるがこれらに限定されない1種以上のリラキシン関連Gタンパク質共役受容体(GPCR)を活性化する。一部の実施態様では、リラキシンアゴニストは、WO2009/007848(Compugen)に記載の式Iのアミノ酸配列を含む(リラキシンアゴニスト配列に関する教示については、参照により本明細書に含まれるものとする)。
【0048】
式Iのペプチドは、好ましくは長さが7〜100アミノ酸であり、以下のアミノ酸配列(X1−X2−X3−X4−X5−X6−X7−X8−X9−Xl0−X11−X12−X13−X14−X15−X16−X17−X18−X19−X20−X21−X22−X23−X24−X25−X26−X27−X28−X29−X30−X31−X32−X33;ここで、X1は存在しないか、あるいは、Gまたは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X2は存在しないか、あるいは、Qまたは極性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X3は存在しないか、あるいは、Kまたは塩基性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X4は存在しないか、あるいは、Gまたは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X5は存在しないか、あるいは、QまたはS、極性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X6は存在しないか、あるいは、VまたはAまたはPまたはMまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X7は存在しないか、あるいは、Gまたは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X8は存在しないか、あるいは、PまたはLまたはA、天然もしくは非天然アミノ酸であり;X9は存在しないか、あるいは、PまたはQ、天然もしくは非天然アミノ酸であり;X10は存在しないか、あるいは、Gまたは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X11は存在しないか、あるいは、AまたはHまたはEまたはDまたは疎水性もしくは小型もしくは酸性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X12は存在しないか、あるいは、AまたはPまたはQまたはSまたはRまたはHまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X13は存在しないか、あるいは、CまたはVまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X14は存在しないか、あるいは、RまたはKまたはQまたはPまたは塩基性もしくは極性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X15は存在しないか、あるいは、RまたはQまたはSまたは塩基性もしくは極性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X16は存在しないか、あるいは、AまたはLまたはHまたはQまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X17は存在しないか、あるいは、Yまたは疎水性もしくは芳香族の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X18は存在しないか、あるいは、Aまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X19は存在しないか、あるいは、Aまたは疎水性の小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X20は存在しないか、あるいは、Fまたは疎水性もしくは芳香族の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X21は存在しないか、あるいは、SまたはTまたは極性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X22は存在しないか、あるいは、Vまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X23は存在しないか、あるいは、Gまたは疎水性もしくは小型の非天然アミノ酸であるか、あるいは、アミドで置換される;X24は存在しないか、あるいは、Rまたは塩基性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X25は存在しないか、あるいは、Rまたは塩基性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X26はAまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X27はYまたは疎水性もしくは芳香族の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X28はAまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X29はAまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X30はFまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X31はSまたはTまたは極性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X32はVまたは疎水性の天然もしくは非天然アミノ酸であり;X33は存在しないか、あるいは、Gまたは疎水性もしくは小型の天然もしくは非天然アミノ酸であるか、あるいは、アミドで置換される);またはその医薬的に許容される塩を含む(配列番号4)。一部の好ましい実施態様では、リラキシンアゴニストは、ペプチドP59C13V(遊離酸)の配列GQKGQVGPPGAA VRRA Y AAFSV(配列番号5)を含む。好ましい別の実施態様では、リラキシンアゴニストは、ペプチドP74C13V(遊離酸)の配列GQKGQVGPPGAA VRRA Y AAFS VGRRA Y AAFS V(配列番号6)を含む。さらにヒト補体C1Q腫瘍壊死因子関連タンパク質8(CTRP8またはC1QT8)の誘導体、例えば、ペプチドP59−G(遊離酸Gly)GQKGQVGPPGAACRRA Y AAFSVG(配列番号7)も、本開示の方法での使用に適しているものと思われる。C1QT8のアミノ酸配列を配列番号8に記載する:
【化1】
【0049】
本開示はまた、これらのポリペプチドのホモログを包含する。このようなホモログは、代表的なリラキシンアゴニストのアミノ酸配列(例えば、配列番号5または配列番号6)と少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または、さらに云うと100%同一であってよく、これらの数値は米国立生物工学情報センター(National Center of Biotechnology Information)(NCBI)のBlastPソフトウェアを用いて決定することができ、その際、デフォルトパラメータを用いるが、必要に応じて好ましくは以下の設定を含める:フィルタリングは有効(このオプションにより、Seg(タンパク質)プログラムを用いて反復配列や複雑性の低い配列をクエリーから除外)、スコアリングマトリックスはタンパク質用のBLOSUM62、ワードサイズは3、E値は10、ギャップコストは11、1(開始および延長(initialization and (initialization and extension)))。必要に応じて好ましくは、核酸配列の同一性/相同性を米国立生物工学情報センター(NCBI)のBlastNソフトウェアで決定し、その際、デフォルトパラメータを用いるが、好ましくはDUSTフィルタープログラムを併用し、かつ、好ましくはE値を10に設定し、複雑性の低い配列を除外し、ワードサイズを11にする。最後に本開示はまた、上記ポリペプチドおよび変異(例えば、1つ以上のアミノ酸の欠失、挿入または置換;これらの変異は自然に生じたものでも人為的に誘導したものでもよく、無作為でも狙って導入したものでも良い)を有するポリペプチドのフラグメントを包含する。
【0050】
治療方法
A.心係数(CI)の増加
慢性代償性心不全を持ちながら生活しているニューヨーク心臓協会(NYHA)分類クラスIIおよびクラスIII患者は、最適な標準薬物療法にも拘わらず、日々の生活の質が制限されてしまっている。心係数(CI)と心拍出量(CO)は、殆どの慢性HF患者で低下している。これらの患者の心臓は最適には機能していないため、薬物を使って心臓の機能障害を償っている。しかしながら、現行の薬物には低血圧および腎毒性などの副作用がある。これに対し、リラキシンによる処置は、有害な副作用もなく慢性代償性HF患者のCIおよびCOを増加させる。特に、リラキシンの投与によって被験体の心拍数が増加することはなく、全身血管抵抗も低血圧または腎機能の悪化を伴うことなく減少する。心不全の最も一般的な原因は左心室収縮機能不全であり、心収縮性の低下をもたらし、低いCIと高い肺動脈圧を招く。重要なことに、リラキシンはCIを増加させるだけでなく、慢性心不全患者の肺毛細管楔入圧を低下させることも判っている。従って、リラキシンには、慢性HF患者(例えば、正常CI未満の患者)にとって非常に有益である可能性のある多くの特徴がある。さらに、治療上有効量のリラキシンは、事前の力価測定を必要とせずに一定の用量で投与可能である。このような用量は、通常、約10〜960mcg/kg/日である。しかしながら、リラキシンを960mcg/kg/日の一定用量で慢性代償性心不全患者へ投与することもできる。この用量は、CIを有意に増加させ、肺毛細管楔入圧を低下させることが判っている。リラキシンは静脈内へ8時間、24時間または最大で48時間、あるいは、必要であれば長期にわたって(例えば、7、14、21日間等)投与してもよい。しかしながら、別の送達経路や送達スケジュールも適切であり、これらの内のいくつかは、本明細書の「投与および投与レジメン(dosing regimen)」にさらに詳しく記載する。心臓の左心室リモデリングが既に生じている患者を治療する場合のこれらの恩恵以外に、明らかに最も重要なのは、このようなリモデリングを予防して心不全疾患の進行を遅らせることである。従って、標準的な予防処置には反応しない集団にとっては、構造的心疾患がさらに発症するのを回避するためにリラキシンが有益である可能性がある。
【0051】
B.機能的能力の改善
症候や疾患が進行した慢性HF患者、例えば、NYHA分類クラスIII、特にクラスIVの慢性HF患者は、通常、最適に満たない管理しかできない。治療を行っているにも拘わらず顕著で持続することの多い症状や、薬物耐性または副作用の発現のせいで、現行の治療での成果がさらに減少する場合もある。進行した心不全患者または安静時にも難治性のHF症状を示す患者の生活の質を向上させるには、リラキシンによる介入が有益である可能性がある。現行の静脈内に投与される強心薬や血管拡張剤、例えば、ドブタミン、ミルリノン、ニトログリセリン、ニトロプルシドまたはネシリチドは、重篤な症状(安静時の難治性症状を含む)を示すHF患者の治療に使用されているが、慢性代償性HF患者への使用には制限がある(例えば、有効性に限界、腎毒性、低血圧のリスクまたは力価測定の必要性、等)。しかしながら、治療上有効量のリラキシンは、事前の力価測定を必要とせずに一定の用量で投与することができる。さらにまた、リラキシンによる腎毒性は、患者で広範な用量範囲にわたって認められていない。また、リラキシンは、心拍数を増加させることなく慢性代償性HF患者のCIおよびCOを増加させ、同時に低血圧や腎機能の悪化を引き起こすことなく全身血管抵抗を低下させる。重要なことに、リラキシンはCIを増加させるだけでなく、慢性心不全患者の肺毛細管楔入圧を低下させることも判っている。従って、リラキシンには、慢性HF患者(疾患の進行した患者を含む)にとって非常に有益である可能性のある多くの特徴がある。投与用量は、通常、約10〜960mcg/kg/日である。しかしながら、リラキシンを960mcg/kg/日の一定用量で慢性代償性心不全患者へ投与することもできる。この用量は、CIを有意に増加させ、肺毛細管楔入圧を低下させることが判っている。リラキシンは静脈内へ8時間、24時間または最大で48時間、あるいは、必要であれば長期にわたって(例えば、7、14、21日間等)投与してもよい。しかしながら、別の送達経路や送達スケジュールも適切であり、これらの内のいくつかは、本明細書の「投与および投与レジメン」にさらに詳しく記載する。
【0052】
C.代償不全現象の頻度低下
安定した代償性慢性HF患者(例えば、確立された薬物治療レジメンによって代償がなされている患者)にリラキシンを投与すると、心係数の上昇ならびに全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドおよび腎機能不全マーカー(血中尿素窒素およびクレアチニン)の低下を伴う、より一層有益な結果が得られる。重要なことに、これらのリラキシンの恩恵と同時に、リラキシン処置の結果として低血圧、頻拍および/または不整脈の顕著なリスクは見られない。このように、リラキシンは、安定した代償性慢性HF集団に安定と健康によい効果をもたらすことができ、その結果、代償不全のリスクを低く抑え、入院を要する代償不全現象の頻度を軽減する。従って、これらのリラキシン独特の特徴は、NYHA分類でクラスIIまたはクラスIII心不全と診断された管理可能な慢性HFの外来患者に対してリラキシンを用いることが有益であることを示している。投与用量は、通常、約10〜960mcg/kg/日である。リラキシンは静脈内へ8時間、24時間または最大で48時間、あるいは、必要であれば長期にわたって(例えば、7、14、21日間等)投与してもよい。しかしながら、別の送達経路や送達スケジュールも適切であり、これらの内のいくつかは、本明細書の「投与および投与レジメン」にさらに詳しく記載する。
【0053】
D.併用される慢性心不全用医薬の使用低減
慢性HF患者を管理するのに現在使用されている認可薬物には様々なものがある。心不全のリスクのある患者には、高血圧や脂質障害といった潜在的な原因を制御するための処置を行う。糖尿病や血管障害のある特定の患者には、血管拡張剤、アドレナリン作動性遮断薬、中枢作用性α−アゴニスト、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、カルシウムチャネル遮断薬、陽性強心薬や多くの種類の利尿薬(例えば、ループ利尿薬、カリウム保持性利尿薬、チアジド利尿薬およびチアジド様利尿薬)といった医薬を投与する。一部の実施態様では、本開示は、補助療法(例えば、抗高血圧薬)と組み合わせてリラキシンを投与する工程を含む、心不全の治療方法を提供する。一部の方法では、抗高血圧薬は、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法より選択されるが、これらに限定されない。
【0054】
長年、高血圧の治療にはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤が使用されてきた。ACE阻害剤は、CHF患者の心臓や循環に悪影響を及ぼすホルモンであるアンジオテンシンIIの形成を妨害する。これらの薬物の副作用としては、乾咳、血圧の低下、腎機能の悪化、電解質平衡失調、そして場合によりアレルギー反応が挙げられる。ACE阻害剤の例としては、カプトプリル(CAPOTEN)、エナラプリル(VASOTEC)、リジノプリル(ZESTRIL、PRINIVIL)、ベナゼプリル(LOTENSIN)およびラミプリル(ALTACE)が挙げられる。ACE阻害剤を許容できない患者には、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)と呼ばれる代替薬物群を用いることができる。これらの薬物はACE阻害剤と同じホルモン経路に作用するが、受容体部位で直接アンジオテンシンIIの作用を妨害する。これらの薬物の副作用はACE阻害剤に伴う副作用と似ているが、乾咳はあまり見られない。この種の医薬の例としては、ロサルタン(COZAAR)、カンデサルタン(ATACAND)、テルミサルタン(MICARDIS)、バルサルタン(DIOVAN)およびイルベサルタン(AVAPRO)が挙げられる。
【0055】
β遮断薬は、特定の刺激ホルモン、例えば、エピネフリン(アドレナリン)、ノルエピネフリン、その他各種体組織のβ受容体に作用する類似のホルモンの作用を妨害する薬物である。心臓のβ受容体に及ぼすこれらのホルモンの本来の作用は、心臓の筋肉をより強力に収縮させることである。β遮断薬は、β受容体に及ぼすこれらの刺激ホルモンの作用を妨害する物質である。これらのホルモンの刺激作用は、最初は心機能の維持に有用であるものの、時間が経つにつれ心臓の筋肉に対して有害な作用を及ぼすと考えられる。通常、慢性HF患者にβ遮断薬を投与する場合、最初は非常に低い用量で投与し、次いで徐々に増やしていく。副作用としては、体液貯留、血圧の低下、脈拍の低下、全身疲労、めまいが挙げられる。β遮断薬はまた、気道に疾患(例えば、喘息、気腫)がある人や安静時の心拍数が非常に低い人には使用してはならない。カルベジロール(COREG)は、うっ血性心不全の場合で最も研究の進んだ薬物であり、依然として、うっ血性心不全の治療用にFDAの認可を受けた唯一のβ遮断薬である。しかしながら、うっ血性心不全の治療において、カルベジロールを直接他のβ遮断薬と比較する研究が進行中である。長時間作用性のメトプロロール(metopropol)(TOPROL XL)も、うっ血性心不全患者に有効である。ジゴキシン(LANOXIN)はもともとジギタリス属の顕花植物(Foxglove flowering plant)によって産生され、10年間慢性HF患者の治療に使用されてきた。ジゴキシンは心臓の筋肉を刺激して、より強力に収縮させる。副作用としては、悪心、嘔吐、心リズム障害、腎機能不全、電解質異常が挙げられる。著しい腎機能障害を持つ患者では、ジゴキシンの用量を慎重に調整して監視する必要がある。
【0056】
利尿薬は、体液貯留の症状を予防または緩和するために、慢性HF患者の治療に使用されることが多い。これらの薬物は、腎臓を通る体液の流れを促進することで肺や他の組織で体液が蓄積しないようにするのを助ける。当該薬物は息切れや脚の腫張といった症状の緩和に有効であるが、長期の生存(long term survival)に対してプラスに作用することは明らかにされていない。入院が必要な場合、経口利尿薬を吸収する能力が損なわれている可能性があるため、利尿薬を静脈内に投与することが多い。利尿薬の副作用としては、脱水、電解質異常(特に、カリウム濃度の低下)、聴力障害、血圧の低下が挙げられる。適宜患者にサプリメントを与えることで、カリウム濃度の低下を防ぐことが重要である。電解質平衡失調はいずれも、患者に深刻な心リズム障害を引き起こし易い。各種利尿薬の例としては、フロセミド(LASIX)、ヒドロクロロチアジド、ブメタニド(BUMEX)、トルセミド(DEMADEX)、メトラゾン(ZAROXOLYN)が挙げられる。スピロノラクトン(ALDACTONE)は長年にわたって比較的弱い利尿薬として各種疾患の治療に使用されてきた。この薬物は、ホルモンであるアルドステロンの作用を妨害する。アルドステロンには、うっ血性心不全の心臓や循環に対して理論上有害な作用がある。その放出はアンジオテンシンIIによってある程度刺激される(前出)。この薬物の副作用としては、カリウム濃度の上昇や、男性では乳房組織の増殖(女性化乳房)が挙げられる。別のアルドステロン阻害剤はエプレレノン(INSPRA)である。
【0057】
処置後の患者で見られるリラキシンの有益な特徴、例えば、心係数の上昇ならびに全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドおよび腎機能不全マーカー(血中尿素窒素およびクレアチニン)の低下といった特徴から、現在認可されている心不全薬の代わりに、または、これと併用してリラキシンを投与するのが望ましいことが明らかである。リラキシンには、処置時に低血圧や頻拍が起こる顕著なリスクがない、投与に先立って力価測定を行う必要がない、腎毒性がない等の現行の医薬では見られない多くの利点がある。安定した代償性HFの状態を達成・維持すべく標準的な薬物治療を受けているHF患者は、通常約10〜960mcg/kg/日の用量でリラキシン投与を受けることができる。リラキシンは静脈内へ8時間、24時間または最大で48時間、あるいは、必要であれば長期にわたって(例えば、7、14、21日間等)投与してもよい。しかしながら、別の送達経路や送達スケジュールも適切であり、これらの内のいくつかは、本明細書の「投与および投与レジメン」にさらに詳しく記載する。リラキシンの有益な効果は、最適な標準療法との併用でリラキシンを投与した慢性代償性HF患者でも見られる。結果から、リラキシンについて上述した恩恵が確認され、併用される1種以上のHF医薬の用量を減らしたり、中断したりできることが明らかである。
【0058】
E.その他の治療方法
リラキシン処置によってバランスのとれた血管拡張がもたらされる
リラキシンの有益な効果は、腎臓および全身の血管系において、血管系の平滑筋組織上に見られる特定のリラキシン受容体に結合することでリラキシンが受容体特異的血管拡張剤として作用する直接の結果と考えられる。これにより、処置患者に低血圧を引き起こすことなく、全身および腎臓双方の動脈が、穏やかではあるが有効に拡張するため、バランスのとれた血管拡張がもたらされる。血管収縮が深刻な有害作用を引き起こしている身体の特定の領域(例えば、心臓や腎臓に血液を供給する動脈)で血管拡張を増加させるのが望ましい状況では、受容体特異的であって、かつ、バランスの良い血管拡張剤としてのリラキシンのこの特性は特に有利である。とりわけ、治療の過程で有害な副作用を何ら引き起こすことなく、バランスのとれた血管拡張が生じる。非特異的な血管拡張剤の処置に共通する問題は、これらの薬物が処置を行った患者に深刻な副作用をもたらすことが多いことであり、これは主に、通常のアゴニストが過剰に強力かつ非特異的に作用するためである。これに比べ、リラキシンの穏やかな作用は、血管拡張を最も必要とする身体の領域で血管拡張を緩やかに増加させる。リラキシン処置では、血管収縮を過剰代償する多くの薬物を用いた場合のように、低血圧が生じない点が重要である。特に、非特異的な血管拡張剤は身体中の大小の動脈や静脈を過度に拡張させ、低血圧を招く。従って、局在している特定のリラキシン受容体(例えば、LRG7、LGR8、GPCR135、GPCR142受容体)を介して全身および腎臓の血管を標的とする、医薬的に活性なリラキシンまたは医薬的に有効なリラキシンアゴニストを含む医薬組成物を患者に投与した場合、低血圧を伴わないバランスのとれた血管拡張が生じる結果となる。
【0059】
さらにまた、本開示の開発時に明らかになったように、リラキシンによってもたらされた心不全患者におけるバランスのとれた血管拡張は、全身の血管系(主に動脈)と腎臓の血管系の二重の血管拡張の形態である。しかしながら、リラキシンは、実際の腎血管拡張を全身の血管拡張に追加し、その結果、全身血管系と腎血管系と間のバランスを達成することで、心不全患者の血管拡張をバランスのとれたものにしている。これまでの薬物は、全身の血管を拡張させて腎臓に何らかの間接的な改善をもたらすことが知られているが、このバランスを達成するには不十分である。事実、リラキシンの投与による血管拡張のバランスは、比較的短期間でAHF患者を急性状態から安定な状態へ移行させることが可能である。さらに、現行の確立した薬物治療によって安定している代償性慢性HFの患者にリラキシンを投与すると、腎機能不全マーカーの低下と血管拡張に見合った有利な血液動態作用とを伴う、より一層有益な結果が得られる。このように、リラキシンは、安定した代償性慢性HF集団に安定と健康によい効果をもたらすことができ、その結果、代償不全のリスクを低く抑えて当該疾患の進行を遅らせる可能性があり、代償性慢性心不全患者において入院を要する代償不全現象の頻度を軽減する。また、心拍数の上昇を伴わない心係数の上昇に加えて、他のパラメータ(例えば、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニン、循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチド)が低下することは、慢性HF患者全般と、より攻撃的な治療レジメンが必要な進行HF患者の双方に対してリラキシンを用いることが有益であることを示している。
【0060】
リラキシンのこれらの有益な作用は、リラキシンの受容体(例えば、LRG7、LGR8、GPCR135、GPCR142受容体)への結合を伴い、バランスのとれた血管拡張、即ち、全身血管系と腎血管系との両方における二重の血管拡張をもたらす。従って、安定した代償性心不全ヒト被験体を選別して当該被験体へ医薬的に活性なリラキシンを含む医薬製剤を投与することで、リラキシンを用いて心代償不全事象のリスクを軽減したり、疾患の進行を制限したりすることが可能になる。特に、このような被験体には、医薬的に活性なヒトリラキシン(例えば、合成、組換え)または医薬的に有効なリラキシンアゴニストを被験体の体重1kg当たり約10〜960mcg/日の範囲の量で投与する。リラキシンは静脈内へ8時間、24時間または最大で48時間、あるいは、必要であれば長期にわたって(例えば、7、14、21日間等)投与してもよい。しかしながら、別の送達経路や送達スケジュールも適切であり、これらの内のいくつかは、本明細書の「投与および投与レジメン」にさらに詳しく記載する。リラキシンの投与は、リラキシンの血清濃度を約0.5〜約500ng/ml、より好ましくは約3〜約300ng/mlに維持するよう継続する。従って、本開示の方法には、このようなリラキシンの血清濃度をもたらす投与が含まれる。このようなリラキシン濃度によって、疾患の進行や代償不全事象(例えば、呼吸困難、高血圧、不整脈、腎血流の低下、腎不全)が生じるリスクを軽減または防止することが可能である。
【0061】
リラキシン処置は腎毒性を伴わない
腎機能不全は、慢性HFの一般的かつ進行性の合併症である。臨床経過は、典型的には、患者の臨床状態や治療に応じて変わる。心・腎重複機能不全(combined cardiac and renal dysfunction)(「心腎症候群」とも呼ばれる)の頻出に関する認識が高まりつつあるにも拘わらず、その根底にある病態生理学は十分には理解されていない。適切な管理についての合意は、未だ当該技術分野で得られていない。慢性心不全患者は長生きになってきており、心不整脈が原因で亡くなることが少ないため、心腎症候群はますます当たり前になり、適切な管理が必要となる(Gary Francis (2006) Cleveland Clinic Journal of Medicine 73(2):1-13)。リラキシンは、被験体へ投与すると、全身および腎臓の血管系に存在するリラキシン受容体へ結合することによって二重の作用を果たし、バランスのとれた血管拡張をもたらす。既に述べたように(前出)、このような被験体には、医薬的に活性なヒトリラキシン(例えば、合成、組換え)または医薬的に有効なリラキシンアゴニストを被験体の体重1kg当たり約10〜960mcg/日の範囲の量で投与する。このような投与量では、リラキシンの血清濃度はそれぞれ約75、150および300ng/mlとなる。リラキシンの投与は、リラキシンの血清濃度を約0.5〜約500ng/ml、より好ましくは約3〜約300ng/mlに維持するよう継続する。リラキシンは静脈内へ8時間、24時間または最大で48時間、あるいは、必要であれば長期にわたって(例えば、7、14、21日間等)投与してもよい。しかしながら、別の送達経路や送達スケジュールも適切であり、これらの内のいくつかは、本明細書の「投与および投与レジメン」にさらに詳しく記載する。
【0062】
心不全を伴う腎不全に罹患している被験体は、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の濃度も上昇していることが多い。BNPは心不全や左心室機能不全に応答して心室で合成され、心不全の診断マーカーとして用いられている。その作用としては、全身の血管拡張と腎臓でのアンバランスな血管拡張、即ち、輸出細動脈の収縮と輸入細動脈の拡張が挙げられる。リラキシンを安定した代償性慢性HF患者へ投与すると、BNP濃度がより一層低下する。これによりBNPは、代償不全の重篤度の低下に伴って低下するため、簡便なマーカーとなり、従って、リラキシンで処置した患者のBNP濃度を監視することは、代償性慢性HFが安定していることを保証する簡便な方法である。
【0063】
リラキシンは、安定した代償性慢性HF患者に投与しても、腎毒性が低いか、または、腎毒性を全くを起こさない。このことは、治療の結果、患者の腎機能が悪化ではなく改善することを意味する。約75ng/mlの高い血清濃度のリラキシンであっても、現在使用できる医薬(例えば、フロセミド等のループ利尿薬、カプトプリル等のアンジオテンシン変換酵素阻害剤、カンデサルタン等のアンジオテンシン受容体遮断薬、など)よりも遥かに毒性が低い。本開示の重要な特徴の一つは、治療時に腎毒性を殆ど起こさないか、または、全く起こさずに、リラキシンが腎機能を維持することである。既存の薬物は腎機能の一部を維持する場合があるものの、同時に患者の腎毒性も増加させる。この腎毒性は、次いで心臓の状態をさらに悪化させる。これに比べてリラキシン投与は、腎毒性が無いおかげもあって、大部分の患者の定常状態を維持できる。これにより、より安定な慢性HF集団を、心不全の悪化の恐れが明らかに少ない管理可能な状態にすることができる。
【0064】
リラキシン組成物およびリラキシン製剤
リラキシン、リラキシンアゴニストおよび/またはリラキシンアナログは、薬として製剤化して本開示の方法に用いる。生物学的または医薬的に活性なリラキシン(例えば、合成リラキシン、組換えリラキシン)またはリラキシンアゴニスト(例えば、リラキシンアナログまたはリラキシン様モジュレータ)のリラキシン受容体への結合に伴う生物学的応答を刺激し得る組成物または化合物はいずれも、本開示において薬として使用できる。製剤化方法および投与方法に関する詳細は、科学文献に詳しく記載されている(Remington’s Pharmaceutical Sciences, Maack Publishing Co, Easton Pa.を参照)。医薬的に活性なリラキシンを含有する医薬製剤は、当該技術分野で公知のいずれかの薬の製造方法に従って調製可能である。本開示の方法で使用する医薬的に活性なリラキシンまたはリラキシンアゴニストを含有する製剤は、従来より許容されている任意の方法での投与(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、舌下、局所、経口、吸入、着用可能な注入ポンプを介した投与が挙げられるが、これらに限定されない)に合わせて製剤化可能である。具体例を以下に記載する。好ましい一実施態様では、リラキシンを静脈内(IV)に投与する。
【0065】
当該薬物を静脈内注射によって送達する場合、医薬的に活性なリラキシンまたは医薬的に有効なリラキシンアゴニストを含有する製剤は、滅菌済注射剤、例えば、水性または油性の滅菌済注射用懸濁液の形態であってよい。この懸濁液は、上述したような適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用いて公知の技術で製剤化可能である。滅菌済注射剤はまた、毒性のない非経口的に許容可能な希釈剤または溶剤に溶解または懸濁させた滅菌済注射用溶液または懸濁液であってもよい。許容可能なビヒクルおよび溶媒としては、水やリンゲル液、等張塩化ナトリウムが挙げられる。さらに滅菌済不揮発性油も、溶媒または懸濁媒体として従来通り用いることができる。この目的には、任意の刺激の強くない固定油も使用可能であり、例えば、合成モノグリセリドまたはジグリセリドが挙げられる。さらに、オレイン酸等の脂肪酸も同様に注射剤の製造に使用できる。
【0066】
経口投与用の医薬製剤は、当該技術分野で周知の医薬的に許容される担体を用い、経口投与に適した投与量で製剤化できる。このような担体によって、医薬製剤を患者の摂取に適した単位剤形、例えば、錠剤、丸剤、散剤、カプセル剤、液剤、口内錠、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤等へ製剤化することができる。経口用医薬調製物は、リラキシン化合物を固体賦形剤と組み合わせ、場合によっては得られた混合物を粉砕し、適切な追加の化合物を必要に応じて添加した後、粒剤の混合物を加工して錠剤または丸剤とすることにより得られる。適切な固体賦形剤は、炭水化物またはタンパク質充填剤であり、これには、糖類(例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール);トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモまたは他の植物由来のデンプン;セルロース(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム);ガム類(例えば、アラビアガム、トラガカントガム);タンパク質(例えば、ゼラチン、コラーゲン)挙げられるが、これらに限定されない。必要に応じて、崩壊剤または可溶化剤を添加してもよく、例えば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはその塩(アルギン酸ナトリウム等)が挙げられる。経口使用可能な本開示の医薬調製物は、例えば、ゼラチン製のプッシュ・フィット型カプセル剤、並びに、ゼラチンとコーディング(例えば、グリセロールまたはソルビトール)からなる軟質封入カプセル剤である。プッシュ・フィット型カプセル剤には、リラキシンを充填剤または結合剤(例えば、ラクトースまたはデンプン類)、滑沢剤(例えば、タルクまたはステアリン酸マグネシウム)、そして場合によっては安定化剤と混合して含有させればよい。軟質カプセル剤では、リラキシン化合物を適切な液体、例えば、脂肪油、流動パラフィンまたは液状ポリエチレングリコールに、安定化剤と一緒にまたは安定剤は用いずに溶解または懸濁してもよい。
【0067】
本開示の水性懸濁剤は、リラキシンを水性懸濁剤の製造に適した賦形剤と混合して含有する。このような賦形剤としては、懸濁化剤、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガムおよびアラビアガム、並びに、分散剤または湿潤剤、例えば、天然に存在するホスファチド(例えば、レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合物(例えば、ポリオキシエチレンステアレート)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール由来の部分エステルとの縮合物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート)またはエチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトール由来の部分エステルとの縮合物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。水性懸濁剤にはまた、1種以上の保存剤(例えば、エチルまたはn−プロピルp−ヒドロキシベンゾエート)、1種以上の着色剤、1種以上の着香料、1種以上の甘味剤(例えば、スクロース、アスパルテーム、サッカリン)が含まれていてもよい。製剤は浸透圧モル濃度を調整できる。
【0068】
油性懸濁剤は、リラキシンを植物油(例えば、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油、ヤシ油)または鉱油(例えば、流動パラフィン)に懸濁することにより製剤化可能である。油性懸濁剤には増粘剤、例えば、蜜蝋、固形パラフィンまたはセチルアルコールが含まれていてもよい。甘味剤を添加して嗜好性経口剤とすることもできる。これらの製剤は、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸)の添加により保存が可能である。
【0069】
水を添加して水性懸濁剤を調製するのに適した本開示の分散可能な散剤および粒剤は、リラキシンと分散剤、懸濁化剤および/または湿潤剤、そして1種以上の保存剤とを混合したものから製剤化可能である。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤としては、上述のものが挙げられる。追加の賦形剤、例えば、甘味剤、着香料、着色剤が含まれていてもよい。
【0070】
本開示の医薬製剤は、水中油型乳剤の形態であってもよい。油相は植物油(例えば、オリーブ油、ラッカセイ油)、鉱油(例えば、流動パラフィン)、または、これらの混合物であってよい。適切な乳化剤としては、天然に存在するガム類(例えば、アラビアガム、トラガカントガム)、天然に存在するホスファチド(例えば、大豆レシチン)、脂肪酸および無水ヘキシトール由来のエステルまたは部分エステル(例えば、ソルビタンモノオレエート)、これらの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。乳剤にはまた、甘味剤や着香料が含まれていてもよい。シロップ剤およびエリキシル剤は、甘味剤、例えば、グリセロール、ソルビトールまたはスクロースを用いて製剤化できる。このような製剤にはまた、粘滑薬、保存剤、着香料または着色剤が含まれていてもよい。
【0071】
投与および投与レジメン
本開示の方法で使用する医薬的に活性なリラキシンまたは医薬的に有効なリラキシンアゴニストを含有する製剤は、従来より許容されているいずれの方法(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、舌下、局所、経口、吸入、着用可能な注入ポンプを介した方法が挙げられるが、これらに限定されない)でも投与可能である。投与は、薬物の薬物動態や他の特性、そして患者の健康状態に応じて変える。一般的な指針を以下に示す。
【0072】
本開示の方法では、安定した代償性慢性HF被験体の腎機能を反映するパラメータが改善される等、血管拡張に見合った血液動態効果が得られる。この目的のために単独で、または、別の物質もしくは薬物と組み合わせて使用されるリラキシンの量は、治療上有効な用量と考えられる。この用途に有効な用量スケジュールと量、即ち、「投与レジメン(dosing regimen)」は様々な要因、例えば、疾患または病態のステージ、疾患または病態の重篤度、有害な副作用の重篤度、患者の全身の健康状態、患者の全身状態、年齢等に依存する。患者の用量レジメン(dosage regimen)を算定する際には、投与形態も考慮に入れる。用量レジメンには、薬物動態、即ち、吸収率、バイオアべイラビリティ、代謝、クリアランス等も考慮に入れなければならない。このような原則に基づき、心不全の症状を示すと診断されたヒト被験体の処置にリラキシンを使用し、安定した代償性慢性HFを維持することができる。
【0073】
本開示は、同時投与、併用投与、個別投与または連続投与するためのリラキシンと追加の薬物(例えば、抗血小板療法、β遮断薬、利尿薬、ニトレート、ヒドララジン、強心薬、ジギタリス、アンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬)を提供する。本開示はまた、安定した代償性慢性HFを管理するための医薬の製造における、抗血小板療法、β遮断薬、利尿薬、ニトレート、ヒドララジン、強心薬、ジギタリスおよびアンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬の使用を提供し、ここで前記医薬は、リラキシンと共に投与するために調製される。
【0074】
さらに、患者が既に(例えば、数時間前、1日以上前、1週間以上前、1ヶ月以上前、1年以上前等に)抗血小板療法、β遮断薬、利尿薬、ニトレート、ヒドララジン、強心薬、ジギタリスおよびアンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬で処置されている場合に、安定した代償性慢性HFを管理するための医薬の製造におけるリラキシンの使用も意図する。一実施態様では、抗血小板療法、β遮断薬、利尿薬、ニトレート、ヒドララジン、強心薬、ジギタリスおよびアンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬等の薬物の1種以上が、患者の体内(in vivo)で依然として活性である。本開示はまた、患者が既にリラキシンで処置されている場合に、安定した代償性慢性HFを管理するための医薬の製造における抗血小板療法、β遮断薬、利尿薬、ニトレート、ヒドララジン、強心薬、ジギタリスおよびアンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬の使用も提供する。
【0075】
最新の技術のおかげで臨床医が個々の患者に対してリラキシンの用量レジメンを決めることができる。一例として、以下に示すリラキシンの指針を手引きとして、本開示の方法を実施する際に投与する医薬的に活性なリラキシンを含有する製剤の用量レジメン、即ち、投与スケジュールと用量レベルを決めることができる。一般的な指針としては、医薬的に活性なH2ヒトリラキシン(例えば、合成、組換え、アナログ、アゴニスト等)の1日用量(daily dose)は、典型的には、被験体の体重1kg当たり約10〜960mcg/日の範囲の量と予想される。一実施態様では、リラキシンの用量は10、30および100mcg/kg/日である。別の実施態様では、これらの用量では、リラキシンの血清濃度はそれぞれ約3、10および30ng/mlとなる。別の実施態様では、リラキシンの用量は240、480および960mcg/kg/日である。別の実施態様では、これらの用量では、リラキシンの血清濃度はそれぞれ約75、150および300ng/mlとなる。別の実施態様では、リラキシンの投与は、リラキシンの血清濃度を約0.5〜約500ng/ml、より好ましくは約3〜約300ng/mlに維持するよう継続する。従って、本開示の方法には、このようなリラキシンの血清濃度をもたらす投与が含まれる。このようなリラキシン濃度によって、代償不全事象(例えば、呼吸困難、高血圧、血圧の上昇、不整脈、腎血流の低下、腎不全、死亡)を改善または軽減することが可能である。さらにまた、このようなリラキシン濃度によって、神経ホルモン平衡失調、体液過負荷、心不整脈、心虚血、死亡率リスク、心臓ストレス、血管抵抗等を改善または軽減することが可能である。被験体に応じて、特定の期間または被験体の安定を維持するのに必要な期間、リラキシンの投与を維持する。
【0076】
リラキシン処置の期間は、一部の被験体に対しては定めなくてもよく、好ましくは患者に応じて約4時間〜約96時間の範囲に保ち、必要であれば任意の処置を1回以上繰り返す。例えば、投与頻度については、リラキシンの投与を、約8時間〜48時間処置を続ける連続注入としてもよい。リラキシンは、連続的にまたは間欠的に静脈内投与または皮下投与(または皮内、舌下、吸入、着用可能な注入ポンプを介して投与)することができる。静脈内投与の場合、シリンジポンプまたはIVバッグを介してリラキシンを送達できる。IVバッグは、標準的な生理食塩水、通常の半分濃度の生理食塩水、5%デキストロース水溶液、乳酸加リンゲル液または類似の溶液を100、250、500または1000mlのIVバッグに入れたものでよい。皮下注入の場合、着用可能な注入ポンプに接続した皮下注入セットによってリラキシンを投与できる。被験体に応じて、特定の期間(例えば、4、8、12、24、48時間)または被験体の安定を維持するのに必要な期間(例えば、毎日、毎月、または7、14、21日間等)、リラキシン投与を維持する。
【0077】
一部の被験体には期間を定めずに処置を行うが、特定の期間処置を行う場合もある。また、被験体を必要に応じて時々リラキシンで処置することも可能である。従って、安定した代償性慢性HFを維持するのに十分な期間投与を継続して、急性心代償不全事象(例えば、呼吸困難、高血圧、血圧の上昇、不整脈、腎血流の低下、腎不全が挙げられるが、これらに限定されない)を改善または軽減することができる。製剤は、病態を効果的に改善し安定させるのに十分な量のリラキシンをもたらすものでなければならない。リラキシンを静脈内投与する場合の典型的な医薬製剤は、具体的な療法に依存する。例えば、リラキシンは、単独療法(即ち、他の療法を併用しない療法)を介して、または、別の療法(例えば、抗血小板療法、β遮断薬、利尿薬、ニトレート、ヒドララジン、強心薬、ジギタリスおよびアンジオテンシン変換酵素阻害剤またはアンジオテンシン受容体遮断薬、あるいは他の薬物)との併用療法で患者へ投与してもよい。一実施態様では、リラキシンを単独療法として毎日患者へ投与する。別の実施態様では、リラキシンを別の薬物との併用療法として毎日患者へ投与する。とりわけ、患者へ投与されるリラキシンの用量と頻度は、年齢、疾患の程度、薬物耐性、併用される療法や条件に応じて変わる場合がある。さらなる実施態様では、安定した代償性慢性心不全を最適に維持するために、他の療法を置換、縮小または省略してその副作用を減らし、かつ、リラキシンを用いる医療介入の治療上の恩恵を増加または維持することを最終目標にリラキシンを患者へ投与する。
【実施例】
【0078】
以下の具体的な実施例は、本開示を例示するためのものであり、特許請求の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0079】
略語:AUC(曲線下面積);BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド);BP(血圧);BUN(血中尿素窒素);CHF(うっ血性心不全);CI(心係数);CO(心拍出量);CrCl(クレアチンクリアランス);DBP(拡張期血圧);dL(デシリットル);eGFR(推定糸球体濾過率);HF(心不全);hr(時間);HR(心拍数);ICU(集中治療室);IV(静脈内);kg(キログラム);L(リットル);LVEDP(左心室拡張末期圧);LVEF(左心室駆出率);mcgまたはμg(マイクログラム);mEq(ミリ当量);MI(心筋梗塞);mIU(ミリ国際単位);mL(ミリリットル);NYHA(ニューヨーク心臓協会);PAH(パラアミノ馬尿酸(para-aminohippurate));PAP(肺動脈圧);PCWP(肺毛細管楔入圧);PD(薬力学);RAP(右動脈圧(right atrial pressure));RBBB(右脚ブロック(right bundle branch block));RBF(腎血流);rhRlxまたはrhRLX(組換えヒトリラキシン);RlxまたはRLX(リラキシン);RR(呼吸数);SBP(収縮期血圧);SI(一回拍出係数);sMDRD(Modification of Diet in Renal Disease 簡易式(simplified Modification of Diet in Renal Disease));SQ(皮下SQ);SVR(全身血管抵抗);T(温度);VAS(視覚的アナログスケール);VF(心室細動);VT(心室頻拍);WHF(心不全の悪化)。
【0080】
実施例1 慢性心不全患者へのリラキシンの投与
概要
本非盲検試験では、慢性の安定した代償性うっ血性HF患者16名を、組換え静脈内リラキシンの用量を順に増やした3群のコホートに登録し(10〜960mcg/kg/日)、24時間にわたって投与した。リラキシンによって、心係数と一回拍出量が増加し、肺楔入圧とNT−プロBNPが減少した。リラキシンは腎機能マーカーを改善し、注入後も最大用量であってもリバウンドはわずかであった。本試験からは、安定した代償性HF患者において、リラキシンが該当する有害作用を示すことなく、有益な血液動態効果、神経液性効果および腎効果を発揮することが明らかであり、このためリラキシンは、患者の安定した代償性慢性心不全を制御する主要な候補薬物である。最大耐容用量を求めた。
【0081】
試験の設計
この単一施設非盲検試験では、慢性の安定した代償性うっ血性HFの該当基準を満たし、除外基準を満たさない16名の患者を順番に、静脈内(IV)リラキシンを順に増やした3群のコホートに振り分けた。主な該当基準は以下の通りである:年齢>18歳;NYHAによるCHFクラスII〜III(病因は制限せず);登録6ヶ月以内の左心室駆出率<35%;試験期間中変更しない想定で、確立された経口HF療法を受けている。主な除外基準は以下の通りである:楔入圧<16mmHまたはCI>2.5L/分/m2;急性の冠状症候群(4週以内)または最近の心筋梗塞もしくは心臓外科手術(6ヶ月以内);ベースライン時に静脈内療法を要するAHF;収縮期血圧<85mmHg;未整復(uncorrected)の弁膜性心疾患(相対的僧帽弁および/または3尖弁不全を除く);閉塞性または拘束型心筋症;最近の心室頻拍または細動現象(4週以内);最近の発作(3ヶ月以内);スクリーニングに訪れた際のクレアチニン>2.0mg/dlまたは血清トランスアミナーゼおよび/または総ビリルビン>正常上限値の2.5倍;子宮内膜症の病歴。
【0082】
薬物の設計
リラキシン(組換え技術で製造)を被験薬物とした。組換えリラキシンは、天然のヒトホルモンH2リラキシンと同一である。用量を以下のように段階的に増加させた:A群は、10、30および100mcg/kg/日に相当する投与量でそれぞれ8時間ずつ続けて処置を行った。B群は、240、480および960mcg/kg/日に相当する投与量でそれぞれ8時間ずつ続けて処置を行った。C群には、960mcg/kg/日での処置を24時間行った。A群からB群への段階的な増加は、A群で使用した用量の安全性および忍容性を調査した後に行った。B群からC群への段階的な増加は、B群での最大用量(960mcg/kg/日)の安全性および忍容性を求めた後に行った。
【0083】
試験手順、終了点および統計的分析
注入時および注入後の期間(いずれも24時間)患者を集中治療室で監視した。CI、SVR、PCWP、SBP、RAPおよびPVRといった血液動態の測定を、スワン−ガンツカテーテルと動脈カテーテルを用いて順次行った。同様に、臨床実験的な監視を、注入時、注入後、並びに、注入の開始から9日目に順次行った。深刻な有害事象について、さらに30日間にわたる評価を電話で行った。終了点では、血液動態および神経液性(NT−プロBNP濃度)のベースラインからの変化を求め、この他に試験期間中にわたって生命徴候、心電図、血清化学、血液学的パラメータを監視した。統計的分析では、誤差の確率P<.05を有意とみなした。ベースライン値の比較は、Kruskal-Wallis ANOVA on ranksに続けてDunn検定を用いて行った。同一群内での経時的な差(血液動態、腎パラメータおよびペプチド濃度)を、Friedman Repeated Measures Analysis of Variance on Ranksに続けてDunn検定を行って分析し、ベースラインと比較した。
【0084】
人口統計および安全性
患者は全て標準的なHF薬を投薬中であり、冠状動脈疾患、高血圧、拡張型心筋症、または、整復済み弁膜性心疾患(1症例)に起因する左心室収縮能の著しい低下を示した。投薬を終了した全ての被験体は、リラキシンの全ての用量に対して十分に耐容であった。下記表1を参照のこと。注入に関連する臨床上の著しい有害事象は見られず、それゆえ、A群およびB群で試験した最大用量の960mcg/kg/日を、C群での24時間投与に選んだ。被験薬物を注入した3週間後に有害事象が一つ生じた(血管造影で評価した際、進行性冠状動脈疾患の徴候を伴わない中度の狭心症が見られた)が、リラキシンとの関連は無いと思われた。被験薬物とは関連の無い7つの有害事象が投薬時期間中9日目までに報告された。即ち、2名の患者が軽度の狭心症(SAEを含まない)を訴え、各々、脱力、不眠、頭痛、良性前立腺肥大および軽度の喀血を訴えた。喀血事象は、スワン−ガンツカテーテルを楔入部へ進めたことで誘発されたことが明らかであり、自然に回復した。
【0085】
【表1】
LVEF=左心室駆出率;ASA=アセチルサリチル酸;CLO=クロピドグレル;STA=スタチン;BB=β遮断薬;ACEI=アンジオテンシン変換酵素阻害剤;SAR=サルタン;CCB=カルシウムチャネル遮断薬;AA=アルドステロンアンタゴニスト;DIG=ジギタリス;NIT=ニトレート;D=利尿薬;AMD=アミオダロン。
*外科的整復後
【0086】
ベースラインの血液動態および腎機能
A群の患者では、ベースラインのパラメータが異常値を示す傾向があり、B群では異常値は最小限であった。B群の患者は、SVRがA群の患者よりも有意に低く、C群はPVR値がB群よりも有意に高かった。腎パラメータに関しては、C群の患者は、クレアチニン値およびBUN値がA群およびB群の患者よりも高い傾向にあるものの、有意とまでは認められなかった。同様に、B群で見られたNT−プロBNP値の低下傾向も有意ではなかった。下記表2を参照のこと。
【0087】
【表2】
CI=心係数;PCWP=肺毛細管楔入圧;SVR/PVR=全身/肺血管抵抗;SBP=収縮期血圧;MPAP=平均肺動脈圧;RAP=右動脈圧;HR=心拍数;BUN=血中尿素窒素。
P<0.05、* A 対B、# B 対C
【0088】
注入時および注入後
CI値(図4)は、A群ではリラキシン用量の増加に伴って上昇する傾向が見られた。B群では、CI値は最初の8時間(240mcg/kg/日)では上昇傾向にあり、次いで480mcg/kg/日では低下し、最終的に960mcg/kg/日では有意に増加した。C群では、後者の用量でCI値が有意かつ持続的に上昇し、増加量の絶対値は0.8L/分/m2にもなった。この顕著な効果は、注入後の最初の8時間のうちに徐々に弱まった。いずれの群においても心拍数が変化しなかったことから(図5)、このCI値の増加が一回拍出量の上昇にもっぱら起因したことは注目に値する。CI値の変化は、対応するSVRの対側性変化(reciprocal change)(図6;C群では統計学的に有意となった)と似ていた。PCWPに関しては(図7)、A群では30および100/kg/日で値が有意に降下した。B群では、PCWP値は最初の8時間で降下したように見えたものの、その後はリラキシン用量の増加にも拘わらず、ベースラインのレベルまで戻った。さらに、C群で960mcg/kg/日のリラキシンを24時間投与したところ、明白かつ有意な効果が見られ、PCWP値の減少量の絶対値はおよそ4mmHgであった。全体として、SBP(図8)に有意な変化は見られなかった。ベースラインでSBPが高い傾向を示したA群では(128±9mmHg、表2と比較)、SBPは明らかに低下傾向を示したが、B・C群では、該当する変化は見られなかった。NT−プロBNPの時間推移(図9)は、個々の群で見られる血液動態応答と良く対応し、A・C群では有意な減少が見られたものの、B群では変化が無く、この群では9日目になると値が一段と高くなる傾向があった。最後に、クレアチニン値は、リラキシン注入時には全ての群で減少し(図10)、その効果はA・C群で有意になった。投与量を増加したB・C群では、9日目に求めた値が一定のリバウンド効果を示しているように思われたが、患者はいずれも腎臓の有害事象を発症せず、医療介入も必要としなかった。BUN値の時間推移は、クレアチニンの場合と同様であった。試験中リラキシンは、生命徴候、ECG、血清化学、血液学的パラメータに関して何ら異常を引き起こさなかった。
【0089】
知見
この予備実験は、慢性うっ血性HF患者においてリラキシンの使用を調査した最初の実験である。予備実験の主な目的は、リラキシン製剤の安全性および忍容性、並びに、安定した慢性HF患者におけるその用量応答性を調査することであった。試験から以下のことが判明した。1)広範な用量範囲(10〜960mcg/kg/日)にわたって、リラキシンは該当する有害作用を示さず、十分に忍容性があった。2)リラキシンによって有益な血液動態効果がもたらされた(例えば、血管抵抗の減少、一回拍出量の上昇に起因する心係数の増加、楔入圧の低下、但し、低血圧を引き起こさない)。3)リラキシン投与と、クレアチニンおよびBUNの早期低下とは関連性があった。4)最大リラキシン用量(960mcg/kg/日)を投与されている患者では、用量限定的と考えられる増加が処置後のクレアチニン濃度に見られた。このことは、240〜480mcg/kg/日の用量が、この集団において、医師による監督の要らないIVリラキシンの最大耐容用量(MTD)である可能性を示唆している。全体として、A・C群では、リラキシンの注入に対して同等の応答を示したが、B群では示さなかった。このことは、ベースラインの差によって説明可能である。即ち、B群の患者は、その有意に低いSVRと、SBP値およびNT−プロBNP値が低い傾向にあることから明らかなように(表2)、既に最大限に血管拡張していた。このような患者では、おそらくリラキシンによるさらなる血管拡張(「過剰血管拡張」)によって、該当する逆調節応答が突如引き起こされ、特に中間の用量(480mcg/kg/日)において、最大限可能な薬物の血液動態効果が評価できなかった可能性がある。
【0090】
本試験の患者は安定していたが、進行した心不全の徴候を示した。これらの患者は、ADHERE登録の4分位値(SBP値が120mmHgより低く、そのため結果が最も悪い)に入る可能性が高い。入院中の低血圧や治療に関連する低血圧よってAHFの予後が悪化することが知られているか、疑われている事実から判断して、リラキシン療法に対するSBPの応答を評価することが重要である。本試験では、全身血管抵抗が著しく低下したにも拘わらず、症候性低血圧は見られなかった。A群ではSBPが低下傾向にあるように思われたが、これは、4人の患者のうち、持続しているものの未だ無症候であるSBPの降下(約120/65mmHgから約100/50mmHgへ)を経験した一人にしか当てはまらない。B群(重篤度の低い群)およびC群では、リラキシン用量を上げてもSBPの有意な変化は記録されなかった。にも拘わらず、顕著な低血圧が見られないことは、注目すべき重要な点である。また、本試験で記録された血圧よりも高い血圧を示す患者では、リラキシンの低血圧性効果がより明らかである。これらの知見は、他の研究者によって裏付けられている(Debrah et al. (2005) Hypertension 46:745-50を参照)。即ち、高血圧および正常血圧のラットでは、平均動脈圧に影響を及ぼすことなく、rhRlxによってCIの上昇とSVRの低下が惹起された。rhRlxが非特異的な血管拡張剤であった場合、一回拍出量の上昇によってSBPの降下が一部相殺されると予想される。
【0091】
処置群はいずれも、C群におけるPVRの顕著かつ有意な降下(〜30%)およびA・C群で見られたPCWPの有意な降下(図7)にも拘わらず、右動脈圧の有意な低下を示さなかった(図11)。このことから、リラキシンが静脈還流を促進して中心静脈充満圧を維持し得ることが明らかである。一部の研究者(Edouard et al. (1998) Am J. Physiol. 274:H1605-H1612)によって、下肢静脈の色調の向上が妊娠の最初の三半期に始まることが報告された。最初に妊娠ホルモンとして発見されたリラキシンは、妊娠に対する腎臓の適応にとって重要な介在物質である(Novak et al. (2001) J. Clin. Invest. 107: 1469-75を参照)。また、ここで観察される血液動態パターン、即ち、CIの上昇とSVRの低下(該当するSBPの降下は伴わない)は、妊娠時に見られるものと似ている(Slangen et al. (1996) Am J. Physiol. 270:H1779-H1784を参照)。
【0092】
リラキシンの注入によって、腎機能を反映するパラメータ(クレアチニン、BUN)が殆どの患者で改善し、A群およびC群で有意となった。リラキシンは、動物において糸球体濾過(GFR)と腎血流を増加させることが判っていることから(Novak(前出)およびJeyabalan et al. (2003) Circ. Res. 93:1249-57を参照)、類似のメカニズムがここでも活性であるかもしれない。たとえそうでも、本開示の実施態様を実施する上でメカニズムを理解することは必須ではない。リラキシンによるGFRの上昇はヒトでは測定されたことがないものの、小規模の非盲検試験から、リラキシンが健常ボランティアの腎血流を増加させることが判っている(Smith et al. (2006) J. Am. Soc. Nephrol. 17:3192-7)。強皮症患者における臨床試験では(Seibold et al. (2000) Ann. Intern. Med. 132:871-9)、リラキシンによって推定クレアチニンクリアランスが持続的に改善した。注入後の期間については、960mcg/kg/日に相当する用量でIVリラキシンを投与した後9日目にクレアチニンおよびBUNの上昇が記録されたが、この上昇は30日目には自然に解消した。クレアチニンの上昇はいずれも、ε0.5mg/dl(腎機能の悪化に関して最も広く用いられている定義)を超えるものではなく、腎臓における有害臨床事象も見られなかった。事実、960mcg/kg/日という用量は顕著なCIの上昇を伴っていた。この高用量によって逆調節系が刺激され、腎臓還流(kidney perfusion)の減少とBUNおよびクレアチニンの後からの上昇を伴うリバウンドの血液動態応答がもたらされた可能性がある。確かに、960mcg/kg/日の用量に続く32時間および48時間にわたる血液動態測定では、楔入圧と右動脈圧の双方ともベースライン時よりも高い傾向にあり、他の用量では見られない効果であった。これらの知見から、960mcg/kg/日の用量のIVリラキシンでは、血液動態および腎機能の双方に対して何らかの用量限定的な有害作用を有する可能性が示唆される。従って、医師による監督の要らない最大耐容用量(MTD)は、本試験によって240〜480mcg/kg/日の範囲であると決定できた。興味深いことに、10〜100mcg/kg/日の範囲にあるリラキシンの用量では、PCWP、SBPおよびNT−プロBNPに及ぼす効果が、この範囲よりも高い用量の場合よりも顕著であると考えられ、一方、240〜960mcg/kg/日の範囲のより高い用量では、COおよびCIに対する作用が大きい傾向にあった。低範囲の用量では、多くの場合、静脈血管拡張(該当するCO/CIの変化を伴わないPCWPの低下)をもたらし、一方、高い用量では動脈血管拡張(CO/CIの増加)をもたらす可能性がある。
【0093】
【表3】
CI、心係数;CO、心拍出量;PCWP、肺毛細管楔入圧;SVR/PVR、全身/肺血管抵抗;SBP、収縮期血圧;DBP、拡張期血圧;PAP、平均肺動脈圧;RAP、右動脈圧;HR、心拍数。
値は平均値±SD。
* ベースラインと比較してP<.05。
# A群 対B群 § B群対 C群
【0094】
結論
予備実験の目的は、慢性心不全患者へ投与した際のリラキシンの安全性および忍容性、並びに、慢性HFが確立した患者において静脈内リラキシンへの薬力学的用量応答を明らかにすることであった。この試験は、ヒト心不全においてリラキシンを治療目的で使用した最初の例となった。慢性HFの臨床試験からは多くの結論が得られた。全ての用量範囲にわたって、リラキシンは該当する有害作用を示さなかった。リラキシンによって、NT−プロBNPの変化と対応した有益な血液動態効果、即ち、一回拍出量の上昇に起因する心係数の増加や肺楔入圧および全身血管抵抗の低下(但し、低血圧を引き起こさない)がもたらされた。リラキシンは、腎機能マーカー(クレアチニン、BUN)を速やかに改善した。最大用量では、注入後の期間にわずかに腎マーカーの上昇を引き起こしたが、自然に元に戻った。従って、本試験においては、医師による監督の要らないリラキシンの最大耐容用量は240〜480mcg/kg/日である。
【0095】
以上のことより、慢性の安定した心不全患者へ投与されたIVリラキシンは血管拡張をもたらし、次いで楔入圧の低下や一回拍出量の上昇をもたらした。コホートの規模、登録患者の特徴および/またはリラキシンの他の特性に起因する顕著な血圧低下は観察されなかった。血液動態効果だけでなく、IVリラキシンは、AHF患者へ投与した際にプラスの特質となり得るクレアチニンおよびBUNの早期低下を誘導した。本試験では、被験薬物中断後にIVリラキシンの最大用量(960mcg/kg/日)で見られた、楔入圧と右動脈圧およびクレアチニンとBUNの後からの上昇に基づいてリラキシンのMTDを決定した。従って、今回、ヒトHF患者において静脈内リラキシンを初めて治療に使用した際に、リラキシンの安全性および効力プロファイルから、リラキシンが慢性の安定した代償性HFの治療に有効であることが明らかである。
【0096】
実施例2 全身性硬化症患者へのリラキシンの投与
概要
リラキシンを用いた臨床試験を同様に全身性硬化症患者にも行った。深刻な線維性疾患である全身性硬化症に罹患した257名のヒト被験体をリラキシンで連続皮下(SQ)注入により6ヶ月間処置した。得られた結果(広範かつ長期の安全性に関する情報を含む)から、これらの患者がリラキシンに起因する深刻な低血圧性事象を何ら経験しなかったことが判明し(図12)、後のCHFに関する知見が確認された。全身性硬化症での試験から、リラキシン投与は安定した血圧低下を伴うが、深刻な低血圧現象を伴わず、そして、推定クレアチニンクリアランスを統計学的に有意に増加させることが判明した(図13を参照)。これらの知見から、リラキシンの投与が全身および腎臓におけるバランスのとれた血管拡張を伴うという仮説が裏付けられる。
【0097】
さらに、570名のヒト被験体をリラキシンで処置し、19の試験を完了させた。これらの被験体には、線維筋痛症患者、卵子提供をした女性、臨月の妊娠女性、健常な女性および男性ボランティア、矯正治療を受けた健常な成人ならびに全身性硬化症患者が含まれた。
【0098】
知見および結論
リラキシンは、様々な潜在的な病態を有する被験体へも安全に投与することが可能である。これらの試験の幾つかでは、データから、リラキシンによって全身および腎臓においてバランスのとれた血管拡張が引き起こされることが示唆された。
【0099】
本開示の範囲および趣旨を逸脱することなく、本開示の様々な改変および変更が当業者には明らかである。特定の好ましい実施態様について本開示を記載してきたが、特許請求の範囲がこのような特定の実施態様に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、本開示を実施するために記載した態様の様々な改変が当業者によって理解され、これらは特許請求の範囲に含まれるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心不全の治療方法であって、
医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、リラキシを用いない治療と比較して前記被験体の入院頻度または入院期間を減らす工程を含み、
ここで、前記被験体は、投与の開始時に、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による心不全分類でクラスIIまたはクラスIIIの心不全を有する、前記方法。
【請求項2】
リラキシを用いない治療と比較して代償不全の頻度を減らす工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記代償不全が、呼吸困難、浮腫および疲労からなる群より選択される計画外の医療を要する症状を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記代償不全が、体液貯留の増加、低血圧、高血圧、不整脈、腎血流の低下、循環脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNPまたはN末端プロBNP)の濃度上昇、血中尿素窒素(BUN)の濃度上昇およびクレアチニンの濃度上昇のうちの1つ以上を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
上記代償不全が、静脈内利尿薬の投与を要する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
心不全による死亡リスクを減らす工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記被験体が、投与の開始時に約85mmHg以上の収縮期血圧を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
上記リラキシンが、H1ヒトリラキシン、H2ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記リラキシンがリラキシンアゴニストである請求項1に記載の方法。
【請求項10】
上記投与によって、低血圧、頻拍、不整脈および腎機能の悪化からなる群より選択される有害作用が起こらない、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記投与によって、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニンおよび循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドのうちの1つ以上をさらに低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
上記被験体が、投与の開始時に、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法のうちの1つ以上を受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
上記被験体が、投与の開始時に、入院を要する急性心不全を患っていない、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
心不全の治療方法であって、
医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、前記被験体の機能的能力を改善する工程を含み、
ここで、前記被験体は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による心不全分類でクラスIIIまたはクラスIVの心不全を有する、前記方法。
【請求項15】
上記機能的能力の改善が、Minnesota Living With Heart Failure(登録商標)質問票でのより高いスコアに相当する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
上記機能的能力の改善が、6分間歩行試験における歩行距離の増加に相当する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
上記機能的能力の改善が、最大酸素消費量(VO2max)の増加に相当する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
上記機能的能力の改善が、上記NYHA心不全分類でより軽度のクラスの心不全への変化に相当する、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
上記被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を既に示すステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
上記被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、最適な医学治療にも拘わらず安静時の顕著な心不全症状を特徴とするステージDの難治性心不全を投与の開始時に有する、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
上記被験体が、ステージDの心不全を有し、かつ、機械的な循環支援および心臓移植の一方または両方について適格である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
上記被験体が、ステージDの心不全を有し、かつ、終末期ケアについて適格である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
上記被験体が、投与の開始に先立って少なくとも1年前に慢性心不全との診断を受けている、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
上記リラキシンがH1ヒトリラキシン、H2ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシンである、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
上記リラキシンがリラキシンアゴニストである、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
心不全の治療方法であって、
医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、前記被験体によって摂取される併用される慢性心不全薬の使用を減らす工程を含み、
ここで、前記併用される慢性心不全薬は、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法のうちの1つ以上を含むものである、前記方法。
【請求項27】
上記被験体が、投与の開始時に、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による心不全分類でクラスIIまたはクラスIIIの心不全を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
上記被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を示していないステージBまたはステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
上記被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を既に示すステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
上記リラキシンが、H1ヒトリラキシン、H2ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシンである、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
上記リラキシンがリラキシンアゴニストである、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
上記投与によって、低血圧、頻拍、不整脈および腎機能の悪化からなる群より選択される有害作用が起こらない、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
上記投与によって、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニンおよび循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドのうちの1つ以上をさらに低下させる、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
上記使用の低減が、併用される上記慢性心不全薬の1種以上の用量を減らすことを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
上記使用の低減が、併用される上記慢性心不全薬の1種以上を中断することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
心不全の治療方法であって、
医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、前記被験体の心係数を増加させる工程を含み、
ここで、前記被験体は心不全を有し、かつ、投与の開始時における前記被験体の心係数が約2.5L/分/m2未満である、前記方法。
【請求項37】
上記被験体の心係数が、投与の開始時に約1.8〜2.5L/分/m2の間である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
上記リラキシンが、H1ヒトリラキシン、H2ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシンである、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
上記リラキシンがリラキシンアゴニストである、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記被験体が、投与の開始時に、入院を要する急性心不全を患っていない、請求項36に記載の方法。
【請求項1】
心不全の治療方法であって、
医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、リラキシを用いない治療と比較して前記被験体の入院頻度または入院期間を減らす工程を含み、
ここで、前記被験体は、投与の開始時に、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による心不全分類でクラスIIまたはクラスIIIの心不全を有する、前記方法。
【請求項2】
リラキシを用いない治療と比較して代償不全の頻度を減らす工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記代償不全が、呼吸困難、浮腫および疲労からなる群より選択される計画外の医療を要する症状を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記代償不全が、体液貯留の増加、低血圧、高血圧、不整脈、腎血流の低下、循環脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNPまたはN末端プロBNP)の濃度上昇、血中尿素窒素(BUN)の濃度上昇およびクレアチニンの濃度上昇のうちの1つ以上を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
上記代償不全が、静脈内利尿薬の投与を要する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
心不全による死亡リスクを減らす工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記被験体が、投与の開始時に約85mmHg以上の収縮期血圧を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
上記リラキシンが、H1ヒトリラキシン、H2ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記リラキシンがリラキシンアゴニストである請求項1に記載の方法。
【請求項10】
上記投与によって、低血圧、頻拍、不整脈および腎機能の悪化からなる群より選択される有害作用が起こらない、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記投与によって、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニンおよび循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドのうちの1つ以上をさらに低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
上記被験体が、投与の開始時に、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法のうちの1つ以上を受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
上記被験体が、投与の開始時に、入院を要する急性心不全を患っていない、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
心不全の治療方法であって、
医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、前記被験体の機能的能力を改善する工程を含み、
ここで、前記被験体は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による心不全分類でクラスIIIまたはクラスIVの心不全を有する、前記方法。
【請求項15】
上記機能的能力の改善が、Minnesota Living With Heart Failure(登録商標)質問票でのより高いスコアに相当する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
上記機能的能力の改善が、6分間歩行試験における歩行距離の増加に相当する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
上記機能的能力の改善が、最大酸素消費量(VO2max)の増加に相当する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
上記機能的能力の改善が、上記NYHA心不全分類でより軽度のクラスの心不全への変化に相当する、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
上記被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を既に示すステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
上記被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、最適な医学治療にも拘わらず安静時の顕著な心不全症状を特徴とするステージDの難治性心不全を投与の開始時に有する、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
上記被験体が、ステージDの心不全を有し、かつ、機械的な循環支援および心臓移植の一方または両方について適格である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
上記被験体が、ステージDの心不全を有し、かつ、終末期ケアについて適格である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
上記被験体が、投与の開始に先立って少なくとも1年前に慢性心不全との診断を受けている、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
上記リラキシンがH1ヒトリラキシン、H2ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシンである、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
上記リラキシンがリラキシンアゴニストである、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
心不全の治療方法であって、
医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、前記被験体によって摂取される併用される慢性心不全薬の使用を減らす工程を含み、
ここで、前記併用される慢性心不全薬は、抗血小板薬、β遮断薬、利尿薬および抗アンジオテンシン療法のうちの1つ以上を含むものである、前記方法。
【請求項27】
上記被験体が、投与の開始時に、ニューヨーク心臓協会(NYHA)による心不全分類でクラスIIまたはクラスIIIの心不全を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
上記被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を示していないステージBまたはステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
上記被験体が、アメリカ心臓協会のガイドラインによれば、心不全の症状を既に示すステージCの構造的心疾患を投与の開始時に有する、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
上記リラキシンが、H1ヒトリラキシン、H2ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシンである、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
上記リラキシンがリラキシンアゴニストである、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
上記投与によって、低血圧、頻拍、不整脈および腎機能の悪化からなる群より選択される有害作用が起こらない、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
上記投与によって、全身血管抵抗、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血中尿素窒素、クレアチニンおよび循環N末端プロホルモン脳性ナトリウム利尿ペプチドのうちの1つ以上をさらに低下させる、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
上記使用の低減が、併用される上記慢性心不全薬の1種以上の用量を減らすことを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
上記使用の低減が、併用される上記慢性心不全薬の1種以上を中断することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
心不全の治療方法であって、
医薬的に活性なリラキシンを治療上有効な量でヒト被験体へ投与し、前記被験体の心係数を増加させる工程を含み、
ここで、前記被験体は心不全を有し、かつ、投与の開始時における前記被験体の心係数が約2.5L/分/m2未満である、前記方法。
【請求項37】
上記被験体の心係数が、投与の開始時に約1.8〜2.5L/分/m2の間である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
上記リラキシンが、H1ヒトリラキシン、H2ヒトリラキシンまたはH3ヒトリラキシンである、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
上記リラキシンがリラキシンアゴニストである、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記被験体が、投与の開始時に、入院を要する急性心不全を患っていない、請求項36に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2011−520917(P2011−520917A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509781(P2011−509781)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/044247
【国際公開番号】WO2009/140657
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(510301987)コーセラ,インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/044247
【国際公開番号】WO2009/140657
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(510301987)コーセラ,インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】
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